判例検索β > 平成13年(わ)第1701号
強盗殺人、死体遺棄、建造物侵入、窃盗、有印私文書偽造、同行使、詐欺被告事件
事件番号平成13(わ)1701
事件名強盗殺人,死体遺棄,建造物侵入,窃盗,有印私文書偽造,同行使,詐欺被告事件
裁判年月日平成15年4月22日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  刑事第5部
裁判日:西暦2003-04-22
情報公開日2017-10-13 01:44:26
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
主文
被告人両名をそれぞれ無期懲役に処する
被告人両名に対し,それぞれ未決勾留日数中450日を上記の各刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
第1 被告人両名は,共謀の上,金品窃取の目的で,平成11年3月9日ころ,愛知県愛知郡a町b丁目c番地d所在の株式会社D(同店店長L看守)に,南側ガラス壁を破って侵入した上,同所において,同人管理に係るゲームソフト372本(販売価格合計158万5020円)を窃取した。
第2 被告人両名は,共謀の上,知人のCを殺害して預金通帳等の金品を強取した上,これを用いて同人の預金口座に入金されている退職金等を詐取しようと企て, 1 平成11年5月20日午後9時30分ころ,名古屋市緑区a町b番地のc所在のE駅付近路上に駐車中の自動車内において,上記C(当時36歳)に睡眠導入剤を混入した清涼飲料水を飲ませて昏睡させた上,翌21日午前零時30分ころ,同区a町b番付近路上に駐車中の同車内において,殺意をもって,同人に対し,その頸部に所携のビニール紐(平成14年押第40号の1)を巻き付けて絞め付け,引き続き,同車で愛知県大府市a町b番c付近路上まで移動し,さらに,同所に駐車中の同車内において,上記ビニール紐で同人の頸部を絞め付け,よって,遅くとも,そのころ,同所において,同人を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した上,同人所有の現金約8500円,総合口座通帳1冊及び印鑑1個を強取し, 2 上記1の犯行の発覚を防ぐため,平成11年5月21日ころ,上記大府市a町b番c付近路上から愛知県額田郡a町b番c所在の山林まで上記自動車で上記Cの死体を運搬した上,同山林内において,同死体を谷側斜面に投棄し,その上にタイヤ等をかぶせて隠匿し,もって死体を遺棄し,
3 上記1の犯行で強取したC名義の総合口座通帳及び印鑑を使用して預金の払戻し名下に金員を詐取するため,平成11年5月21日午前9時20分ころ,名古屋市瑞穂区a丁目b番地所在の当時の株式会社F銀行において,行使の目的をもって,ほしいままに,被告人Aにおいて,ボールペンで同支店備え付けの預金払戻請求書用紙の金額欄に2000000,おなまえ欄にCなどと各冒書し,お届け印欄にCと刻した上記印鑑を冒捺し,もってC作成名義の預金払戻請求書1通を偽造した上,同支店従業員G(当時30歳)に対し,被告人Aが上記C本人であり,かつ,上記偽造にかかる預金払戻請求書1通を真正に作成したもののように装い,上記通帳とともに提出行使して,現金200万円の払戻しを請求し,上記Gをして,正当な権
利者による預金払戻し請求である旨誤信させ,よって,そのころ,同所において,同人から預金払戻し名下に現金200万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた。
(証拠の標目)(省略)
(判示第2事実認定についての補足説明)
被告人Aは,第1回公判期日の事実認否において,本件各公訴事実はいずれも間違いないと述べたが,第4回公判期日以降,被害者C(以下被害者という。)を殺害したのは,預金通帳等を強取するためではなく同人に対する恨みからであり,殺害後に被害者が話していた退職金の話が事実かどうか確認するため預金通帳等を取ろうと思いついた旨供述して強盗殺人の公訴事実を否認するに至り,これを受けて被告人Aの弁護人は,同被告人に強盗殺人罪は成立せず,殺人罪と窃盗罪に問われるべきである,と主張する。
また,被告人Bも,第1回公判期日の事実認否では本件各公訴事実はいずれも間違いないと述べたが,第7回公判期日以降,被告人Aに死体を捨てるのを手伝ってくれと頼まれて承諾しただけで,被害者の首に巻かれた紐を引っ張ったときには同人は既に死亡していたし,被害者の預金の払戻しについて被告人Aと共謀したこともなく,同被告人が払い戻した200万円のうち70万円を受け取ったにすぎない旨供述して,強盗殺人及び有印私文書偽造・同行使,詐欺の各公訴事実を否認するに至り,これを受けて,被告人Bの弁護人は,死体遺棄を除いて被告人Aと共謀した事実はなく,かつ,被告人Bが被害者の頸部を絞めたときには既に同人は死亡していたのであるから,同被告人については強盗殺人罪はもちろん単純殺人罪も成立せず,せいぜい殺人
幇助罪に当たるにすぎず,有印私文書偽造・同行使,詐欺罪も成立せず,払い戻し
た預金の一部を受け取った所為が盗品無償譲受罪を構成するにとどまる,旨主張する。
そこで,当裁判所が,上記のとおり被告人両名につき共謀による強盗殺人,有印私文書偽造・同行使,詐欺の事実を認定した理由について補足して説明する。第1 以下の事実は,被告人両名もおおむね争わず関係証拠によってもこれを認定することができる。
1 被害者及び二つ年上の兄Hは,被告人Bと同じ児童養護施設に入所していたことがあり,Hは1学年上の被告人Bと面識があったが,被害者は在籍時期が重ならず,当時は被告人Bのことを知らなかった。Hは,中学を卒業して住み込みで就職した後,出入りしていたオートバイ販売店で被告人Aと知り合い,被告人Bとも再会して,二人とつき合うようになった。そして,被告人BとHは,昭和55年ころから,後には被告人Aも加わって,事務所荒しや車上狙いなどの盗みを繰り返すようになり,昭和56年7月に窃盗罪等で執行猶予付き懲役刑の判決を受けた。被告人Bは,その後も被告人Aらと強盗致傷等の犯罪を重ねて懲役6年の判決を受けた上,先の執行猶予も取り消されて併せて服役した。被告人AもHらが先に裁判を受けた窃盗事件を含
め懲役8年の判決を受けて服役した。他方,Hはその後更生し,昭和63年からI株式会社でトラック運転手として働き,被害者も平成元年から同じ会社に勤めていた。
2 被告人Aは,平成3年2月に満期出所した後,何度かの転職を経て平成7年9月から有限会社Jに勤め,陶磁器メーカーに派遣されて専属運転手をしていた。被告人Aは,出所後間もなくHの紹介で被害者と知り合い,二人と一緒に競馬やパチンコに行くなどのつき合いをしていたが,次第に,既に家庭を持っていたHよりも独身の被害者と遊ぶことが多くなっていった。被害者は,平成3年に普通乗用自動車(トヨタスプリンター。以下スプリンターという。)を購入して使用していたが,平成6年に同車を被告人Aに売却してからは,しばしば被告人Aを呼び出して被害者が居住する名古屋市緑区a町ないしその近辺の銭湯やパチンコ店等に乗せていってもらうなどしていた。当時名古屋市東区内に居住していた被告人Aは,大した用事でもない
のに車で数十分かかる被害者方付近まで呼び出されることについて,足代わりに利用されていると不満を抱きつつも,消費者金融からの借金の弁済や遊興費のため経済的に苦しい状況にあったことから,食事をおごったりガソリン代を出してくれたりする被害者の頼みを断ることができず,言いなりに車で送り迎えをしていた。 3 被告人Bは,昭和62年12月に仮出獄した後,職を転々としたあげく,平成10年3月ころからは職にも就かず車に荷物を積み込んで寝泊まりするような生活をしていたが,同年5月ころ,偶然立ち寄ったコンビニエンスストアで被告人Aと再会し,このとき被告人Aと一緒にいた被害者とも知り合った。被告人Bは,被告人Aに出玉のよいパチンコ店を教えてもらい,パチンコで金を稼いで二,三か月後には名古屋市緑区a町内のアパートを借りて住居を定めた。しかし,被告人Bは,相変わらず職に就かず自室でテレビゲームをして過ごすような怠惰な生活を続けたためすぐに金に困り,被告人Aを誘ってゲームソフトを盗み出し換金して生活費に充てるようになっていった。被告人Bは,被害者と二人だけで会うことはなかったが,被告人Aに同
行した被害者も交えた3人で一緒に銭湯やパチンコ店に行くなどのつき合いは続いていた。
4 被告人Aは,上記のとおり被害者に足代わりにされていたこと,平気で同被告人との約束を破るなどその態度が傲慢だと感じていたこと,自分の顔にコンプレックスを抱いていると窺われる言動をすることがあった被害者を励ますつもりで顔のことを気にしないようにと言った際に突然怒り出すなど気分の変動が激しかったこと等から,次第に被害者に対して不満を募らせるようになり,腹立ち紛れに,被告人BやHに,

あいつ馬鹿野郎。殺したらなあかんわ。

などと口にすることもあった。これに対して,被告人Bは,被害者が顔にコンプレックスを持っていることについて,変わっているとは思っていたが特に悪感情は抱いておらず,被害者におごってもらうなどしていたことから,遊び仲間という感覚でいた。 5 被害者は,平成11年3月,勤務先の運送部門が廃止されるに伴って同社を退職することになったが,約200万円の退職金の支給を受けられた上,別の会社への就職も決まり従前と同じ仕事を続けられることになった。被害者は,同年4月ころ,K温泉という行きつけの銭湯に行った際,番台の女性に

退職金がもらえることになった。200万円もらえる。

などと大声で話したことがあったが,このとき,被告人両名も被害者のすぐ後ろでこの話を聞いていた。一方,被告人Aは,平成11年4月,派遣先の陶磁器メーカーからの受注が減少した結果,同様に退職を余儀なくされたが,退職金の支給はなく再就職先もすぐには見つからなかった上,離職票の交付が同年5月中旬となったことから失業給付金の支給が同年6月からとなって収入が途絶
えた。そのため,当時預金等の蓄えもなく,消費者金融会社からの借金合計約172万円の返済に少なくとも月額約7万円,さらに,家賃と駐車場使用料として毎月合計4万2000円がそれぞれ必要であった被告人Aは,たちどころに生計が立ちゆかないこととなった。
6 被害者の退職金は,平成11年4月30日に株式会社F銀行の同人名義の預金口座に振り込まれ,同口座の同年5月21日現在の預金残高は201万2496円であった。ただし,同口座は平成7年6月12日を最後に通帳による取引がなされておらず,通帳に記載された残高は同日現在の2万2076円のままであった。被害者は,居室から現金が無くなったことが数回あったことから,外出時には貴重品を部屋に置かないようにしており,平成10年ころ被告人Aからゲームの景品の黒色手提げ鞄をもらってからは,これに預金通帳や印鑑等を入れて常に持ち歩いていた。
7 被告人Aは,平成11年ころ,不眠を訴えていた被告人Bのために,2度にわたり知人から睡眠導入剤であるハルシオン0.25ミリグラム錠を3錠くらいずつ分けてもらった。そして,最初にもらった分は被告人Bに渡したが,2回目にもらった分はスプリンターのコンソールボックスに入れたままにしていた。第2 また,判示第2事実関係の証拠,殊に,被告人Aの捜査段階における供述によれば,被害者殺害に至る経緯,被告人Bとの共謀状況及び犯行状況は,おおむね以下のとおりであったと認められる。
1 失職した被告人Aはいよいよ生活費等に困り,これを切り抜けるため被告人Bとゲームソフト店での強盗を計画するまでに追い込まれたが,そうした折りに,上記のように被害者が約200万円もの退職金が手に入る上,就職先も決まったことを知って,自分の境遇との余りの違いにショックを受け,被害者を襲って退職金を奪ってやりたいと考え,被告人Bに対して,その旨口にしたこともあった。そして,本件犯行の三,四日前に,被害者が被告人Bについて,

あんな乞食みたいのを誘わんでいい。

あんな貧乏人に何でエサ買ってやらなきゃならんのだ。

などと見下した発言をするのを耳にしたことから,被告人Aは,被害者に対する悪感情が更に高じて,この際,被害者を殺害して退職金を奪ってやろうと決意するに至った。
2 この犯行を実行するためには協力者が必要だと考えた被告人Aは,平成11年5月18日,被告人B方に行き,被害者の上記発言は伏せて,

もうどうしようもない。Cやるで。退職金も200万もらっとるんだから,あいつの方が金持っとるで,やったろうか。

などと,ゲームソフト店での強窃盗に比して多額の現金が手に入ることを強調して被告人Bを誘った。しかし,被告人Bが,

そこまでして金欲しくない。

などと消極的な態度を示したので,

お前がおらな,自分一人じゃ何もできんから。手伝ってくれ。現金は山分けでどや。

などと持ちかけたところ,被告人Bが,

どうやってやるの。

などと話に乗ってきたので,その後,二人で被害者の殺害方法について話し合い,睡眠薬を飲ませて眠らせた上,首を絞める方法がよいという
ことになった。そして,被告人Aが,

俺が後ろから絞めるで。お前は,死体運ぶのと運転(を)手伝って。

何かあったら手伝ってくれ。考えといてくれ。

と頼むと,被告人Bは,「わかった。」と答えたので,被告人Aは,被告人Bが本件犯行に参加してくれることはまず間違いないものと考えて同人方を後にした。 3 被告人Aは,被害者から平成11年5月21日開催のプロ野球の観戦チケットをもらうことになっていたことから,チケットを受け取る機会に本件犯行を実行しようと考えていた。同月19日,被害者から翌日チケットを渡すとの連絡が入り,さらに,翌20日午後7時ころ被害者と電話で打ち合わせた結果,約1時間後に被害者から電話連絡があったら,被告人AがE駅まで車で迎えに行くことになったことから,この機会に上記計画を実行しようと決意した。そこで,被告人Aは,同日午後8時ころ被告人B方に行き,

今日やるでな。

と言うと,被告人Bも,「わかった。」と応じた。そこで,被告人両名は被害者に睡眠薬を飲ませる方法について相談し,ファーストフード店のテイクアウトの清涼飲料水に混ぜて,被告人
Bからのおごりと言っ
て勧めることにした。そして,被告人Aが,スプリンターのコンソールボックスに入れていた上記ハルシオン3錠をつぶして粉にした上,湯で溶かし携帯用の調味料容器に入れて準備を整えた。
4 被告人Aは,同日午後9時ころ被害者からの電話を受け,被告人Bを同乗させてスプリンターでE駅に向かう途中ファーストフード店に立ち寄って3人分の清涼飲料水等を購入した。被告人Aは,同駅ロータリーに駐車させた同車内で清涼飲料水の一つにハルシオンの水溶液を混入した。被害者は,同日午後9時30分ころ同駅に到着し同車の助手席に乗車した。被告人Aは,被害者にハルシオン入りの清涼飲料水等を手渡して飲食させた後,3人でいつもどおり,銭湯やゲームセンター,カレー店等を回り,翌21日午前零時過ぎころ,コンビニエンスストアの駐車場にスプリンターを停めた。被告人Aは,助手席で眠り始めた被害者の様子をしばらく窺った後,人気のないところを求めて移動し,名古屋市緑区a町b番地先路上(以下第1現場と
いう。)に同車を駐車させた。被告人Aは,同日午前零時30分ころ,被害者が助手席で眠り込んでいることを確認して被告人Bに声をかけ,同被告人と共に一旦降車したが,同被告人は,

見たくない。

などと言って同車の後方に行ってしまった。そのため,被告人Aはやむを得ず一人で助手席後部座席に乗り込むと,かねて用意していたビニール紐を適当な長さに切って折り返して二重にし,被害者の頸部に回して頭の後ろで交差させた上,左右に思い切り引っ張った。ところが,被害者が大声を上げフロントガラス等を蹴りつけるなどして激しく抵抗し,被害者の足がハザードランプのスイッチに当たり点滅した。これを見た被告人Bがスプリンターの運転席に身を乗り入れてきたので,被告人Aは,被告人Bに対しハザードランプを切るよう頼み,次
いで,

手伝ってくれ。

と言って,右手に持っていた紐の一方の端を手渡した。そして,被告人両名で紐を左右に引いて約1分間絞め続けると,被害者の抵抗は弱まり痙攣を起こし始めた。このとき,スプリンターの横をタクシーが通過したことから,被告人Aが道順を指示し,被告人Bが運転して,愛知県大府市a町b番c付近路上(以下第2現場という。)まで移動した。被告人Aは,第1現場を去る前に,被害者の脈を確認しようとしたが,はっきりせず,首筋が温かかったことから,移動中も被害者の頸部に巻き付けたビニール紐をゆるめず,第2現場でも,被告人Bが,

死んどるか。生き返らへんか。息吹き返すかもしれんで。

などと言ったことから,被告人両名は,とどめを刺すべく,さらに約二,三分間ビニール紐を左右に引っ張った。そ
の結果,被害者は,遅くともこの時点までに頸部圧迫による窒息により死亡した。 5 被告人Aは,事前に死体を遺棄する場所を決めていなかったが,被告人Bと運転を替わって適当にスプリンターを走らせ,愛知県額田郡a町b番c地内の林道に至ると同車をとめた。そして,被告人Aが,被害者のズボンのポケットをさぐって,財布,小銭入れ及び被害者方の鍵を取り出して被告人Bに手渡し,助手席の足元にあった被害者の手提げ鞄も渡した後,二人で,被害者の死体を助手席から引き下ろし,林道下の谷底に引きずり下ろした上,マットや古タイヤをかぶせて遺棄した。
6 その後,被告人Aの運転で被告人B方に向かう途中,被告人Bが被害者の財布と小銭入れから現金を抜き取り,紙幣の半分の4000円と約500円分の硬貨を被告人Aに渡した。さらに,被告人Bは,被害者の手提げ鞄の中を探し通帳を見つけたが,残高の記載は約2万円にすぎず印鑑も見つからなかった。被告人両名は,被告人B方で着替えをした際,被害者の預金を下ろす方法について話し合い,キャッシュカードを使うことも考えたが,暗証番号がわからなかったため断念した。そして,被告人Aが,2度にわたり被害者方に立ち入り,印鑑を探したが見つけられなかった。結局,上記印鑑は,被告人Bが被害者の手提げ鞄を再度点検して見つけ出した。
7 被告人両名は,同日午前6時30分ころから,名古屋市北区内のコイン洗車場でスプリンターを洗車して車内の清掃もし,さらに,同市内の数か所で被害者の所持品を焼却するなどして処分した後,午前9時近くになったことから,被害者の預金を払い戻すため,最寄りの当時のF銀行に行くことにした。そして,被告人Aが同支店に入り,直ちに預金払戻請求書に必要事項を記載して届出印を押した上,通帳とともに係員に提出し,同日午前9時20分ころ,預金払戻しの名目の下に金200万円の交付を受けた。被告人Aはスプリンターに戻り,車内で待っていた被
告人Bと200万円を分配し,被告人Aが130万円,被告人Bが70万円を取得した。
第3 被告人両名の捜査段階における各自白の信用性について
1 被告人Aは,捜査段階において強盗の故意があったことを自白する供述をした理由について,元々警察官が嫌いであったところ,今回は人を殺してしまっていることから,どうせ死刑になるのだからどうでもいいという自棄的な気持ちになって,警察官に言われるままに迎合的な供述をし調書作成に応じた,旨供述し,これを受けて被告人Aの弁護人は,同被告人の供述調書は捜査官の思い込みや先入観から被告人の供述内容が変容して録取されたものであるとして,その信用性を争う。 しかしながら,被告人Aの供述調書の記載内容を検討すると,犯行発覚までに約2年の歳月が経過していることから,当初こそあいまいな部分が見られるものの,犯行に至る経緯,共謀成立状況及び犯行状況等について詳細かつ具体的である上,一連の経過として不自然な点はなく,しかも,犯行当時の心理状況も織り交ぜ,体験した者でなければ語り得ない事項も随所に述べられていること等に照らして,捜査官に言われるままに自己の体験しない事実を述べて作成されたものとは認め難い。また,被告人Aが被告人Bを本件一連の犯行に引き込んだことや,被害者の預金通帳等を強取するために同人を殺害したこと等の供述の根幹部分については,被告人Bの供述調書の記載内容とも符合していて裏付けられている。これらの事実に照らすと被告人A
の捜査段階における自白には信用性が認められる。
2 一方,被告人Bは,本件の強盗殺人及び有印私文書偽造・同行使,詐欺の各事実を自白する内容の同人の供述書や供述調書が作成された経緯について,朝から午後9時ころまで連日取調べを受けた疲れがあったことや,取調担当の警察官から被告人Aが話しているという内容を教えられ,同人がそのように話しているのであればそれでもいいかと考えたこと等から,これに合わせた内容の供述書を作成したり,同様の供述をしてこれを記載した調書にも署名指印したなどと述べ,これを受けて被告人Bの弁護人は,同被告人の自白は警察官による違法な誘導等に影響されてなされた疑いがありその信用性には疑問がある,と主張する。
しかしながら,その記載内容を見ると,被害者の殺害状況等について一貫して被告人Aと異なる供述をしている部分もあること等に照らして,上記の被告人の自白を内容とする供述書や供述調書についての公判廷における供述は信用できず,これを前提とする弁護人の主張も理由がない。そして,被告人Bは自ら本件の犯行事実を警察官に対して申告したものであることや,被告人Aの場合と同様に,犯行発覚までに約2年の歳月が経過していて記憶があいまいになっている部分が見られるものの,核心的部分である犯行に至る経緯,共謀成立状況及び犯行状況等についての供述記載は詳細かつ具体的である上,一連の経過として不自然な点はないこと等に鑑みると,その供述は被告人Bが自己の記憶に基づいて任意に供述して供述調書等が作成されたも
のと認められる。
3 加えて,被告人両名が,第1回公判で本件各公訴事実をいずれも認める旨陳述し,第2回公判における更新手続においても異なる陳述をせず,各供述調書についても何らの留保も付さずに同意され取り調べられている事実も,被告人両名の自白調書等の信用性を裏付けるものである。
なお,被告人Bの供述調書中には,上記のとおり,被告人Aの供述調書における供述と相違する部分(一例を挙げると,スプリンターの揺れが止まるのを見て運転席に乗り込むと,被告人Aに被害者の生死を確認するよう求められ,胸に手を当てたがわからなかったので被告人Aにその旨言うと,紐を引っ張るのを手伝ってくれと頼まれた旨の供述記載)がある。しかし,被告人Aの供述調書からは,ことさら被告人Bに責任を転嫁するような供述態度は見受けられず,他方,被告人Bの供述調書を見ると,当初被害者の殺害行為自体には関与するつもりがなかったのに,被害者が激しく抵抗したことから,結局殺人の実行行為自体も分担することになったという経緯や時の経過によって,認識や記憶に混乱が生じたりあいまいになっている部分があるこ
とが窺われ,このような食い違いの存在をもって被告人Aの供述調書の信用性が左右されるものではない。
第4 被告人両名の各弁解の信用性について
1 被告人Aについて
(1) 被告人Aは,第4回公判以降,強盗殺人についてこれを否認し,殺意は
被害者に対して抱いていた悪感情が同人の直前の言動によって爆発して形成 されたものであると弁解した。そして,同被告人の弁護人は,殺害行為が計 画的犯行ではなく一時の激情から突発的に敢行された面が強いこと,被告人 Aは犯行当時金銭に窮しておらず,被害者の殺害を決意してから殺害及び死 体遺棄の所為に及ぶまでに,被告人Bとの間で預金通帳等の金品奪取を意識 した言動がなかったこと等を指摘して,被告人Aらが強盗の目的で被害者の 殺害に及んだと認定するには合理的な疑いが残る旨主張する。
(2) 被告人Aが捜査段階から一貫して犯行動機の一つとして被害者に対する恨 みや反感があった旨を供述しており,同被告人が被害者の言動に対して不満 を抱いて周囲にこれを漏らしていた事実は上記認定のとおりである。また, 上記のとおり,被害者殺害後に死体を遺棄する場所を事前には決めていなか ったこと等からすると,本件一連の犯行が綿密に計画されたものとまではい うことができない。しかし,被告人Aの弁解を前提としても,同人が被害者 の殺害を決意したのは犯行実行の三,四日前であったものの,一連の犯行に 被告人Bを誘ったときにはいつ被害者と会うかが不確実であり,犯行当日に なって被害者と会う具体的な約束ができ急遽準備を始めた経緯等からすると, 綿密な準備ができていないことはむしろ自然な経過
である上,その後,被告 人両名は被害者の殺害方法を話し合い,それに基づいてハルシオンの水溶液 を作るなどの準備をしているのであるから,綿密とはいえないまでも計画性 は十分に認められ,一連の犯行が突発的なものとはいい難い。 (3) また,被害者殺害の動機の点を検討しても,被告人Aは,平成11年5月 7日に消費者金融会社から30万円を借り入れており,同月17日には4社 に元利合計10万円余を返済する一方で,3社から更に合計1万9000円 を借り入れていること,Jからの給与は,手取りで同年3月が約23万50 00円,同社を退社した同年4月は8万円であったこと,その後は無職で雇 用保険の受給が6月からであったこと等を勘案すると,被告人Aが当時金に 困っていたことは明らかというべきである。
(4) そして,被告人Aが被害者に悪感情を抱く理由として述べる事情は,その 内容や当時金銭面で助けてもらい,つき合いを従前と同様に続けていたこと からすれば,その言動に対して不満を持つという程度のもので,殺意を抱く 理由となるほどの強い恨みの原因となる事情とは認め難いこと,被害者の発 言に触発されて一時的に悪感情が高まったにしても,発言の内容は被告人A 自身ではなく被告人Bに関するものであった上,発言から本件犯行までには 三,四日が経過していること等からすると,被害者に対する恨みの感情が爆 発して犯行に及んだというのはおよそ不自然で到底信じ難い。被害者に対す る感情的な反発が一つの契機となっていたとしても,これと同人から金品を 奪う目的とは両立しうるものであることに,当時の被
告人Aの経済状態を併 せれば,被害者に対する悪感情も手伝って,被害者を殺害して預金通帳等を 奪おうと決意したという捜査段階における供述の方が,自然かつ合理的であ る。
(5) 加えて,預金通帳等を奪った理由に関する弁解についても,被害者を殺害 し死体を遺棄した直後の冷静ではない心理状態下において,被害者が退職金 をもらっていたことを思い出して,その話が事実かどうか確認しようと思い ついたという内容自体,はなはだ唐突である上,通帳への記帳等により簡単 に預金残高を確認する方法があるのに,被告人Aが二度にわたり被害者方に 入って印鑑を探すなど,預金の払戻しに執着していることに照らしても,到 底信用し難い。 2 被告人Bについて
被告人Bも,第7回公判以降,強盗殺人及び有印私文書偽造・同行使,詐欺の共謀を否認しているところ,確かに,同被告人は,当初被告人Aから車の運転と死体遺棄を手伝うように言われて犯行に誘われたものと認められるが,結局第1現場において,被告人Aとともに抵抗する被害者の頸部をビニール紐で絞めて殺害の実行行為を行っていること,被告人Aが被害者の退職金が入金されている預金通帳等を強取して預金を払い戻そうとしていることを十分認識した上で一連の犯行に加担していること,被害者の死体を遺棄した直後に,自ら被害者の預金払戻しに必要な預金通帳と印鑑を探し,いずれも被告人Bが発見するなど預金の払戻しに不可欠な行為を行っていること,被告人Aが200万円を払い戻した直後に,その3分の1以上に当たる70
万円を受け取っていること等からすると,被告人両名が共謀の上,本件強盗殺人
び有印私文書偽造・同行使,詐欺の実行行為を分担したことは明らかというべきである。
第5 前記認定事実によれば,被告人Aには,元々被害者に対する悪感情があったが,平成11年4月に失職して収入がなくなり,消費者金融等への返済もあって金に困っていたところ,被害者が被告人Bを見下す発言をしたことを契機として,被害者に対する悪感情が更に強まり,この際,被害者を殺害して退職金が入金されている預金通帳等を強取しようと決意したものと認められる。 他方,被告人Bには,被害者に対する悪感情はなく,被告人Aから被害者の殺害を持ちかけられた際,被害者の上記発言も聞かされておらず退職金200万円が得られることが強調されていたものであって,被告人Bが本件一連の犯行に加担した動機が退職金が入金されている預金通帳等の強取にあったことは明らかである。
そして,被告人両名が被害者の殺害方法を相談したこと,犯行の数時間前に被告人Aが被告人B方で犯行準備をし,その後,被害者の預金200万円の払戻しを受けて分配するまで,被告人両名は行動を共にしていること,第1現場の途中から,被告人Bも加わって,被害者の頸部をビニール紐で絞めており,確定的殺意に基づく被害者の殺害行為を共同して実行していること,その直後,被告人両名は,被害者の死体を遺棄して,預金通帳と印鑑を探すなど犯行の重要部分を分担していることから,被告人両名が,共謀の上,本件強盗殺人及び有印私文書偽造・同行使,詐欺の犯行を行ったこともまた明らかというべきである。
第6 以上によれば,判示第2の各事実を優に認定することができる。(量刑の理由)
本件は,いずれも被告人両名共謀の上,遊び仲間であった被害者が受け取っていた退職金を奪う目的で,これを殺害して退職金が入金されている預金通帳等を強取しようと企て,同人を絞殺して預金通帳等を強取した上,遺体を山中に投棄し,次いで,強取した預金通帳等を用いて預金払戻しの名目の下に金200万円を詐取した強盗殺人死体遺棄,有印私文書偽造・同行使,詐欺の事案と深夜店舗に侵入してゲームソフト多数を盗み出した建造物侵入窃盗の事案である。 判示第2の一連の犯行のうち,強盗殺人の点は,あらかじめ睡眠導入剤の水溶液を作り,清涼飲料水に入れて被害者に飲ませた上,その影響で眠り込んだ被害者の頸部に密かにビニール紐を回し,確定的殺意に基づき,まず,被告人Aが一人で紐を引いて絞めたものの被害者が目を覚まして激しく抵抗したことから,被告人Bも加わって紐の両端をそれぞれが持ち左右に思い切り引っ張り更に強く絞め付けて殺害したもので,犯行に計画性が認められるとともに,その態様は冷酷かつ残忍である。動機は,被告人Aについては,かねて被害者の言動に不満を募らせていたという背景事情があったにしても,もっぱら被害者が得た退職金200万円を奪うことにあり,利欲的な犯行動機に酌量の余地は全くない。しかも,被害者殺害後,直ちに数千円の所持金や
預金通帳等を奪い,遺体を遺棄した上,当初の目的どおり預金を払い戻して200万円を手に入れていて被害額も多く,一連の犯行の犯情は極めて悪質である。被害者の言動に若干配慮に欠けた不適切な点があったにしても,被告人両名に殺害されるほどの落ち度があったとは認められず,36歳という人生の半ばで遊び仲間として気を許していた被告人両名に突然生命を奪われ,しかも,山中に投棄され白骨化し無惨な姿をさらすことになった被害者の無念さ,遺族の精神的打撃は察するに余りある。これに対して,慰謝の措置としては,被告人Aが遺族に謝罪の手紙を出しただけで被害弁償は全くなされておらず,遺族の処罰感情が非常に厳しいのは当然である。また,建造物侵入窃盗についても,ガラス壁をハンマーで叩き割って侵入するなど犯行態様
は大胆で,被害額も多いのに被害弁償はなされておらず,犯情はよくない。 次に,本件強盗殺人等の一連の犯行について,被告人それぞれの関与の程度を検討するに,まず,被告人Aは,一連の犯行の発案者であり,被告人Bを誘って犯行に引き込んでいること,睡眠導入剤や紐を準備し,自ら被害者の頸部に紐を巻き付け最初は一人で絞めるなど,より多くの実行行為を担当していること,最終的に得た利益も被告人Bより多いことに照らして,主導的な役割を果たしたといえる。他方,被告人Bも,当初こそ被告人Aからの誘いに対して消極的であったものの最終的には利欲目的で応じていること,しかも,被告人Bが誘いに応じなければ被告人Aも一連の犯行に踏み切らなかったと認められること,死体遺棄の実行行為を分担しただけでなく,最終的には被告人Aとともに被害者の頸部に巻き付けられた紐を引き殺害の実行行為

にも加わっていること,詐欺等についても,預金の払戻しに不可欠な印鑑を発見したのは被告人Bであることを考慮すれば,本件犯行に果たした役割は被告人Aとほとんど変わらないというべきである。
しかるに,被告人両名はいずれも,本件強盗殺人等の一連の犯行について公判途中から不自然不合理な弁解をしており真摯な反省の態度が見られない。加えて,被告人両名とも,若年のころから窃盗等の犯罪を繰り返し,強盗致傷等の重罪を犯して長期間服役したのに,再び本件各犯行に及んでおり,その犯罪傾向は強固で根深いものがあるといわざるを得ない。
以上によれば,被告人両名の刑事責任はいずれも誠に重大であり,その間に差を設けるべき理由は見あたらない。
そうすると,被告人Aについては,本件強盗殺人等の一連の犯行を決意するに至った契機として,被害者の配慮に欠けた言動があったと窺われること,被害者を殺害したこと自体については反省の態度を示し遺族に謝罪の手紙も書いていること,建造物侵入窃盗の事実は認めて反省していること,前刑終了後,転職はあるものの定職に就いて真面目に働いていたこと,生育歴に同情すべき点があること等の酌むべき事情を最大限に考慮しても,無期懲役刑に処するのが相当である。 また,被告人Bについては,判示各事実について自首しており,この自首によって本件強盗殺人等一連の犯行が発覚し被害者の亡きがらも発見されるに至ったこと,被告人Aの誘いがなければ上記犯行に加担することはなかったこと,最終的に得た利益も被告人Aより少ないこと,被害者を死亡させた結果の重大さは認識していること,建造物侵入窃盗の事実は認めて反省していること,生育歴に同情すべき点があること等の酌むべき事情も認められるが,公判における供述態度等に照らすと,自首の点が強盗殺人罪の刑を減軽するまでの事情に当たるものとはいえず,やはり無期懲役刑に処するのが相当と認めて主文のとおり量刑した。(求刑-被告人両名につき無期懲役)
平成15年4月22日
名古屋地方裁判所刑事第5部
裁判長裁判官 伊藤新一郎

裁判官 後藤眞知子

裁判官 高橋信幸

トップに戻る

saiban.in