判例検索β > 昭和22年(れ)第28号
窃盗、鉄道営業法違反
事件番号昭和22(れ)28
事件名窃盗、鉄道営業法違反
裁判年月日昭和23年3月6日
法廷名最高裁判所第二小法廷
裁判種別判決
結果その他
判例集等巻・号・頁集刑 第1号413頁
原審裁判所名広島高等裁判所
原審裁判年月日昭和22年5月12日
判示事項一 必要的辯護の事件につき、辯護人の出頭なくして公判を開廷した違法
二 共同被告人に關する公判手續の違法と上告理由
三 判決における窃盗罪の事實摘示の程度
四 鐵道営業法第三六條第二項の「信號機毀棄」と同條第一項の適用範圍
裁判要旨一 列車往來妨害、窃盗罪の被告事件の公判期日に、被告人等の選任した辯護人が出頭しなかつたにかかわらず、別に職權を以て被告人等のために辯護人を附けることをしないで公判を開廷し、事實の審理をなし辯論を終結したことは違法である。
二 自己の相被告人に關する公判手續の違法が被告人自身に關する公判手續の違法とならず又同被告人に對する判決に何等影響するところがない場合には、その違法をとらえて自己の上告の理由とすることはできない。
三 判決に窃盗罪の事實を摘示するには、犯人の窃取にかかる物件が他人の所有に屬する財物たることを認められる程度に物件を説示すれば足るのであつて、その物件の品目、種類等を一々説明する必要はなく、その所有者もしくは窃取後の買受人などを判決にかかげる必要はない
四 「信號機に通ずる電線を切断して信號機に點じている燈火を滅し、その信號機の用を失はしめた」行爲は、鐵道営業法第三六條第二項にいう「信號機の毀棄」にあたる。同條第一項は信號機以外の鐵道地内の標識掲示に關するものである。
参照法条刑訴法334條1項,刑訴法334條2項,刑訴法410條10號,刑訴法411條,刑訴法451條,刑訴法360條1項,刑法235條,鐵道営業法36條1項,鐵道営業法36條2項
裁判日:西暦1948-03-06
情報公開日2017-10-17 15:17:39
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主 文
原判決中被告人A、Bに関する部分を破毀し広島高等裁判所に差戻す。 その他の各被告人の上告を棄却する
理 由
被告人Aの弁護人丸茂忍の上告趣意書第四点は原判決は法律に違反した審理に基いて下されたもので破毀せられるものと信ずる。(1) 本件予審終結決定に依れば被告人は列車往来妨害及窃盗の罪があるとして公判に付せられたのであつて本件は刑事訴訟法第三百三十四条に所謂死刑又は無期若は短期一年以上の懲役に該る罪に外ならないのである、されば弁護人なくして公判を開廷することは出来ないのである。(2) であるのに原審は昭和二十二年五月五日の公判続行期日に被告人の選任した弁護人小河虎彦及同丸茂忍が出頭しないのに弁護人を附けないで開廷し審理の上弁論を終結したのは記録上明かな通りであつて原審のこの審理は刑事訴訟法第四百十条第十号に該当するからその審理に基く原判決は破毀を免れないものと信ずるといひ、 被告人Bの弁護人丸茂忍の上告趣意書第四点は原判決は法律に違反せる審理に基いて下されたもので破毀せられるべきものと信ずる。(1) 本件予審終結決定に依れば、被告人は列車往来妨害及び窃盗の罪ありとして公判に附せられたのであつて本件は刑事訴訟法第三百三十四条に所謂死刑又は無期若は短期一年以上の懲役に該る罪に外ならないのである。されば弁護人なくして公判を開廷することは出来ないのである。(2) 然るに原審は昭和二十二年五月五日の公判続行期日に被告人の選任した弁護人小河虎彦及同丸茂忍が出頭しないのに弁護人を附けないで開廷し審理の上弁論を終結したのは記録上明な通りであつて原審の右審理は刑事訴訟法第四百十条第十号に該当するからその審理に基く原判決は破毀を免れないものと信ずるといふのであるが 本件は被告人A同Bに列車往来妨害及び窃盗の罪の嫌疑ありとして予審終結決定がなされ又第一審裁判所も同様の罪名の下に被告人等に対し有罪の判決をしたことは記録の上で明白である。ゆえに原審では刑事訴訟法第三百三十四条の規定により判決の宣告をする場合の外は弁護人をつけないでは公判を開廷することのできない事件である。しかるに原審が昭和二十一年五月五日の公判期日に被告人等の選任した弁護人小河虎彦、小河正義及び丸茂忍が出頭しなかつたにかゝわらず別に職権を以て被告人等のために弁護人を附けることをしないで公判を開廷し審理をすゝめ被告人等をして最終の供述をなさしめた上弁論を終結したことは本件記録の上でまことに明白であつてかゝる審理は前に挙けた刑事訴訟法の規定に違反し同法第四百十条第十号にあたるものであるからその審理にもとづく原判決は到底破毀を免れないところである。
被告人Cの弁護人竹内虎治郎の上告趣意書は第一点刑事訴訟法第三百三十四条には(死刑又は無期若ハ短期一年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ該ル事件ニ付テハ弁護人ナクシテ開廷スルコトヲ得ズ)と規定してある。そして本件被告人Cに対しては他の被告人D、E、F、A、B、G等と共謀して列車往来妨害窃盗事件を作為し共犯として山口地方裁判所岩国支部の予審に付せられ更に原審広島高等裁判所の公判に付せられたものでありますから判決の宣告をなす場合は格別然らざる場合に於てはいはゆる重罪事件であるから弁護人なくしては公判を開廷することは許されぬのであります、もし弁護人なくして公判を開廷した場合は該公判手続は無効であることは前記法条に照し疑のない所と思ひます今原審公判記録を調査するに被告人C共犯Dは弁護人として弁護士今西貞夫同竹内虎治郎を選定し又Eは弁護士安岡静四郎Fは弁護士水田謙一ABは弁護士丸茂忍及小河正儀、又Gは弁護士高橋武夫を各それぞれ選定しいづれも其届出をしたものであります然るに原審裁判所昭和二十二年五月五日開廷の第三回公判調書を閲するに相被告人B、Aの弁護人たる前示弁護士丸茂忍同小河正儀は公判に出頭したる形跡なく即ち同被告人の弁護人はいづれも出廷せなかつたものなることが明かであるから同被告人等のためには、公判を開廷することは能はなかつたものであります、それにも拘らず原審裁判所では被告人ABの弁護人全部不出廷のまま別に共犯関係の同被告等のため公判の分離をすることなく更に職権を以つて同被告人等のため弁護人を附することなくして公判を開廷し審理を続行し同被告人等をして最終の供述をなさしめ審理を終了したのは明かに刑事訴訟法規に違反し公判手続上重大な違法があると思ふ、果してそうだとすれば原審判決は斯る違法の公判手続に基き下されたものであるから刑事訴訟四百十条第一項第十号に依り到底破毀を免れないものと信ずる次第である。といふのであるが この論旨はもつぱら原審で共同被告人であつたA、Bに関する原審の公判手続に違法の点があるといふにつきる。右両被告人に関する原審の公判手続に違法の点のあつたことは前論点で説明したとほりであるがこの違法は被告人Cに関する公判手続の違法とはならず同被告人に対する判決には何等影響するところはないのである。自己に影響のない訴訟手続の違法をとらへて自己の上告の理由とすることのできないのはいふまでもない。論旨は理由がない。
被告人Eの弁護人高橋義次、保坂治喜の上告趣意書第一点は原判決は審理不尽、理由不備ノ違法ガアリマス、(一)原判決ハ其理由第一ニ於テ被告人Eニ対シ相被告人DFト共謀シテa駅保管ニ係ル所有者不明ノ柳行李二個ヲ窃取シタル事実ヲ認メ其ノ証拠トシテ右各被告人等ノ控訴審公廷デノ右関係部分同旨ノ供述ヲ援用スル旨述ベテ居マス、然シ右公判調書ニ於ケル右三被告人ノ供述ヲ見マスト右三名ニテ柳行李二個ヲ窃取シタコト及其ノ中ニ在中シテ居タモノハ「モーニング一揃、白木綿一反其ノ他衣類ガ沢山アツタ事並ニ之ヲ三個ノ風呂敷包トシテ広島ニ持参シ未知ノ人ニ金五千円也デ売却シタ旨ヲ述べテ居ルニ過ギマセン。従ツテ右供述ニ依ツテ柳行李二個ヲ窃取シタ事実ヲ認定スルハ未ダ審理ヲ尽サザルモノアリト言フベク須ラク右二個ノ行李ノ一個一個ニ付各別ニ在中セシ品物ニ至ルマデ詳細ニ審理スベキモノデアリマス而モ裁判長ガ右三名ノ被告人ニ示シタ公訴事実第一ハ検事ノ陳述シタ原審判決掲示ノ右該当部分デアリ何等此点ヲ明白ニシテ居リマセン本件ニ於テハ所有者明白ナルニモ非ズ買受人亦明白デナイノデスカラ斯ル点マデ明白ニシテ置クコトハ罪証認定上是非共必要ナコトト信ジマス此点審理不尽ト言フ外アリマセン、(二) 次ニ原判決ハ其ノ理由第二ニ於テ被告人右E、D、F及C秀夫、A、Bノ六名ガ……窃盗ノ目的ヲ以テ言々……信号機附近ニ来タ際被告人Cガ右信号機ニ通スル電線ヲ切断シ信号機ヲ無燈トシ進行中ノ貨物列車ヲ停車サセ輸送中ノ貨物ヲ窃取シヤウト言ヒ出シタノデ一同之ニ同意シ右六名共謀ノ上云々……ト判示シ右被告人等ヲ鉄道営業法第三十六条第二項違反及窃盗ノ各共犯ナリト認定シ証拠トシテ(一)被告人C、D、Fノ控訴審公廷ニ於ケル各供述(二)第一審第一回公判調書中被告人E及Aガ予審終結決定書記載ノ第二ノ事実ハ其ノ通間違ナキ旨ノ供述記載及右決定書第二事実中ノ記載ヲ援用シテ居マス然シ右控訴審公廷ニ於ケル被告人Cノ供述中私ガ信号燈ニ通ズル電線ヲ切ルト貨物列車ガ停マルカラ貨物ヲ盗ミ出サウデハナイカト言ヒマスト外ノ者ハソレ位ノコトテ列車ガ停マルカト言ヒマスノデ云々トアリ、又同右中被告人Eノ供述トシテCガ信号燈ヲ消シテ列車内カラ貨物ヲ取ラウト言フ話カアツタトキ果シテ列車ガ停マルカドウカ判ラナイノト恐シイノテ帰ラウカト思ツテヰル所へ列車ガ来タノデコンナ事ニナツテシマツタノデストアリ又同人ハCカラソノ話(列車ヲ停車サセテ取ル話)ガアツタ時私ハ唯今申シマシタ通リ未ダ決心ガ附キカネテ居タ所へ列車ガヤツテ来タノテ追一緒ニヤツタノデス」トアリ又同右中被告人Aノ供述トシテCノ話ガ決ラヌ内ニ列車ガ来タノデコノ様ニナツタノデストアリ、同右中Bノ供述トシテ然シ結局盗ムコトヲヤメテHパルプノ横ヲ通ツテ帰リカケタノデス所ガ信号機ノ近クニ来タトキCガコノ事(信号燈ヲ消シテ列車ヲ停メルコト)ヲ言ヒ出シマシタガ私達ハソレニ反対テアツタガ其ノ内ニbノ方カラゴ―ツト言フ響ヲ立テテ列車ガ来ル様子デシタ、スルトCガソレデハ信号燈ヲ消スカラ行ケト言ツテ信号燈ノ方へ行ツタ旨ノ各記載アリ又第一審第一回公判調書中ニモ弁護人弘中武一ノ補充訊問ニ対スル被告人Bノ答弁トシテCが俺ニ任セヨト言ツタ時ニ積極的ニ賛成シタ者ハナカツタ旨ノ答弁アリ以上ヲ綜合シテ勘案スル時ハ被告人Eハ原判決理由第二ニ判示スル鉄道営業法第三十六条第二項ノ罪ニ付テハ犯人Cノ発議ニ同意シタルコトナク況ンヤ謀議シタルコトナク此ノ点ニ付テハ犯意ナキヲ以テ共犯ノ責任ハナイモノト信ジマス唯右控訴審公判調書ニヨルト被告人Eハ列車ガ停ツタノハCガ電線ヲ切ツタカラダト言フコトハ判ツテヰマシタ旨ノ陳述ガアリマスガ是ハ唯C一人ガ犯シタ列車妨害ノ結果ヲ利用シテ被告人等ガ窃盗ヲ共同ニテ犯シタト言フニ過ギズ此ノ一事ヲ以テ鉄道営業法違反ノ罪ニ付共犯ナリト認定シタノハ其理由甚ダ不備デアルト信ジマス」といふのであるが
(一) 判決に窃盗罪の事実を摘示するには犯人の窃取にかゝる物件が他人の所有に属する財物たることを認められる程度に物件を説示すれば足るのであつてその物件の品目種類等を一々説明する必要はない。もとよりその所有者もしくは窃取後の買受人の氏名などを判決にかゝげる必要はないのであつて原判決の説示するところで十分である。(二) 同被告人が原判示のやうな信号機毀棄の事実に共謀した事実は原判決が引用して居る証拠を綜合すれば十分に認められるところであるから、論旨はいづれも理由がない。
同第二点は相被告人ノ上告趣意ハ之ヲ利益ニ援用シ刑ノ量定甚ダシク不当ナリト思料スベキ顕著ナル事由アルモノナル事モ上申致シマス(本被告人ニ付テハ昭和二十六年四月二十四日弁論終結シタ)以上ノ通審理不尽、理由不備並ニ刑ノ量定甚ダシク不当ナリト思料スベキ顕著ナル事由アリトノ違法又ハ準違法アルニ因リ原判決ハ到底破毀ヲ免レナイモノト信ジマス右上告趣意書デアリマスといふのであるが 論旨は結局同被告人に対する原審の科刑の不当に重いことを攻撃するのであるが、かゝる事由は日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十三条第二項に照して上告の理由としては不適法である。(弁護人は原審に於ける弁論終結の日を昭和二十二年四月二十三日と主張するけれどもそれは同年五月五日の誤であることは記録上明白である)被告人Fの弁護人水田謙一の上告趣意書第一点は原判決ハ法令違反ヲ疑ウニ足ル事由アリト信ズ(一) 原判決ノ判示第二事実中信号機毀棄ノ点ニ関シ判示被告人等カ窃盗ノ目的ヲ以テ判示ノ日時場所ニ於テ判示犯行ヲ共謀シ判示ノ日時頃判示被告人カ所携ノナイフヲ以テ右信号機ニ通スル電線ヲ切断シ以テ無燈タラシメタル事実ニ対シ原審ハ「右信号機ニ通スル電線ヲ切断シ以テ信号機ヲ毀棄シテ之ヲ無燈タラシメ云々ト判示認定シ鉄道営業法第三十六条第二項ヲ適用処断サレタリ
(二) 吾人ノ常識的、経験ニ依レハ信号機ニ通スル電線ヲ切断スルコトカ場合ニヨリ信号機ノ毀棄トナルヘキコトアルハ之ヲ想起スルニ難カラス然レトモ信号機ニ通スル電線ノ切断ヲ以テ其ノ信号機ノ毀棄ヲ論断スルニハ唯単ニ右切断ノ電線カ当該信号機ニ通シ居ルトノ一事ヲ以テハ未タ足レリトセス須ラク当該切断ノ電線ハ其ノ信号機ノ装備ノ部位程度等ニ於テ信号機ヲ構成スル組織的一体ノモノナリシヤ否ヤヲ明カナラシメタル後ニ非サレハ容易ニ断シ難キトコロニシテ設例屋内装備ノ電燈器ニ通スル電線ヲ屋外ニ於テ切断シタル場合之ヲ以テ直チニ電燈器ノ毀棄ナリト論シ得ヘキ歟疑ナキヲ得ス
(三) 然リ而シテ被告人等ノ判示犯行ハ信号機ニ通スル電線ヲ切断シ信号機ヲ無燈ナラシメタル事実ナルヲ以テ其ノ犯行ハ寧ロ刑法第二百六十一条ノ毀棄及鉄道営業法第三十六条第一項所定ノ場所ニ於テ燈火ヲ滅シ又ハ其ノ用(信号機ノ効用)ヲ失ハシメタルモノニ該当シ懲役又ハ罰金科料等撰択ノ余地アル犯罪トシテ処断サルヘキヲ妥当ト信ス(四) 然ルニ原判決ハ是等ノ諸点ヲ明カニセス唯単ニ判示ノ信号機ニ通スル電線タル一事ヲ以テ其ノ切断ハ即チ信号機ノ毀棄ナリト飛躍的判定ヲ為シ判示ノ鉄道営業法第三十六条第二項ノ信号機ノ改竄毀棄撤去中其ノ毀棄ニ該当スルモノト為シ撰択ノ余地ナキ重キ懲役刑ノ法条ヲ適用処断シタルハ法令ヲ不法ニ適用シタル失当ノ謾ヲ免レサルモノト信ス」といふのであるが
弁護人も自ら認めてゐるやうに原判決の確定したところは本件被告人等は共謀の上信号機に通する電線を切断して信号機に点じてゐる燈火を滅しその信号機の用を失はしめたといふのである。これがすなわち鉄道営業法第三十六条第二項にいふ信号機ノ毀棄にあたることは勿論である。同条第一項は信号機以外の鉄道地内の標識掲示に関するものであつて本件には無関係である。論旨は理由がない。同第二点は原判決ハ公平裁判タラサルコトヲ疑フニ足ル事由アリト信ズ(一)吾人ノ基本的人権ハ憲法ノ保障スル処ニシテ現在ハ勿論将来ト雖モ永久ニ侵サレサル権利ニシテ刑事々件ニ於テハ被告人ハ公平ナル裁判ヲ受クル権利ヲ享有スルコトモ亦同法ノ明示スル処ナリトス被告人等ノ本件判示第一、二ノ各犯行ハ孰レモ数名共謀ノ上多衆ノ集合往来ト物資ノ集散頻繁ナル駅構内又ハ判示ノ手段方法ヲ施用シ停車ノ列車内ヨリ各貨物ヲ窃取スルカ如キハ寔ニ寒心ニ堪ヘサル不逞ノ観ナキニ非ス(二)然レトモ被告人Fカ右判示犯行ニ加担スルニ至レル原因動機ヲ視ルニ同被告ハ国民学校高等科卒業後陸軍燃料廠ニ勤務中昭和十九年六月志願シテ海軍航空隊ニ入リ終戦ニ因リ昭和二十年九月中復員帰還ニ先チ同年八月十五日被告家ニ於テハ曾テ経験シタルコトナキ酷烈凄惨ナル空襲戦災ノ為一家ハ挙ケテ一抹ノ灰儘ニ帰シ父弟ハ幸ニ工員トシテ勤務不在ノ為災厄ヲ免ル、処アリシモ母ハ爆死シ一家ノ悲痛浮沈ノ際被告人ハ帰還シタルモノニシテ精神上ノ点ニ於テ将タ又物質上ノ点ニ於テ一段ノモノアリタルコトハ之ヲ想像スルニ難カラス(三)而モ当時ノ世相ハ之ヲ回顧スルタニ戦漂ヲ催スモノアリ実ニ敗戦トイウ事実ハ国民ニ至大ナル影響ヲ与へ将来ノ帰趨ニ付判断ヲ困難ナラシムル事相ハ随所ニ発生シ為ニ国民ノ思想ニ重大ナル悪果ヲ与ヘタルコトハ否ム可カラサル事実ニシテ其ノ好ムト好マサルトニ不拘自己保存ノ為ニスル利益ノ獲得ニ就テハ理性ヲ忘レ正邪ヲ不顧恬焉トシテ自他ノ限界ヲ混乱スル折柄不用意ナル軍当局ノ先鞭的垂範ヲ偽ス軍需物資ノ配給処分ハ倍々国民ヲシテ悪化ヲ辿ラシメ衆目ハ期セスシテ物資ノ集積豊富ナル箇所ニ鐘リ茲ニ隻団ヲ為シ獲得ニ狂奔シ遂ニハ相率イテ略取ヲ為ス不逞ノ徒ヲ簇出スルニ至レルハ自然ノ数トハ謂へ寔ニ寒心ニ堪ヘサル世相ヲ現出スルトコロアリタリ而モ斯カル世相ハ其ノ後ニ於ル経済事情ト相侯ツテ今尚余燼ヲ保チツツアルヲ覚ユ(四)然リ而シテ被告人Fハ前記ノ境遇ト世相トノ間ニ於テ本件判示犯行ヲ為シタルモノニシテ即チ(イ)判示第一ノ犯行ニ付テハ判示ノ日時広島市ニ於ケル原子爆撃ノ奇跡ヲ見物シテa駅ニ帰着改札口ニ切符ヲ渡シ数間出テ、同行ノD、Eノ両名ヲ待チ居ル際出テ来リダル両名中Eハ小遺銭モ無ク困ルニ付駅所在ノ荷物ヲ窃取センコトヲ云ヒ出シタルモ平常ヨリ気ノ弱キ被告人Fハ一旦之ヲ拒絶シタルモDモ亦一緒ニ決行センコトヲ勧メ遂ニ同意シDノ先導ニテ駅構内ニ入リ同人ヨリ大丈夫トノ合図ヨリ判示物件ヲ搬出シA散髪屋ニ運搬シ翌日之ヲ三個ノ荷物ニ改装シ右三人ニテ広島市c駅ニ下車シDニ於テ売口ヲ探シ駅前闇市商人ニ金五千円ニテ売却シ内五百円ハ三人ニテ飲食費ニ消費シ残金四千五百円ノ分配ヲ受ケタル千五百円ハ当時小遺等ニ費消シタル旨(ロ)又判示第二ノ犯行ニ付テハ判示ノ日時A散髪屋ニ於テD、E等ト一緒ニナリ玉突「Iニ行ク途上Cト出会シ四人同玉突屋ニ至リ約二時間位居リ同所ヲ出テ映画見物ニ行ク途中B、A、G等ニ出遭ヒ其ノ時Eハ列車内ノ荷物ヲ降スカラ一緒ニ来イト言ヒB、A等ハ賛成シ都合七人a駅切符売場ノ前ヲ通過シHパルプ会社ニ行ク踏切辺迄往キタル際Cハ停車シ居ル貨車ノ荷物ヲ降スノハ駅員ニ発見サレル虞アルニ付進行中ノ列車ヲ止メ車内ノ荷物ヲ盗マウト云ヒ出シ之ニハ一緒ニ来タ者殆ント反対シ殊ニ被告人Fハ最モ強ク反対シタルモC、E、D等カ強ヒテ勧ムル為同被告人モ賛成シ信号機ノ在ル附近ニ行キ三十分位スルトd方面ヨリ汽笛カ聞へ列車カ進行シ来リCハ信号機ノ下ニ走リ寄リ夫レニ通スル電線ヲ切断シ今迄点イテ居タ信号燈ハ消へ真闇ト為リCノ指図テJ稲荷様ノ方面ニ走リタルニ其ノ附近ヲ最後尾トシテ停車セル貨車内ニ入リ積ミ在リタル菰包ヲ落シ一同ハ其ノ附近ノ山ニ隠レ様子ヲ見テ居ル中信号燈モ点キ列車モ動キ出シ何事モ無イノテ落シ置キタル菰包ヲ附近ノ空小屋ニ運ヒタル処C、E、D等ハ明朝広島市ニ持チ往キ売却スルト申シ居リタルモ其ノ後果シテ同人等カ広島ニ持チ往キ売却シタルヤ否ヤ被告人Fニ於テハ関知セサルノミナラス其ノ分配ニモ与リタルコトナク唯一度一緒ニ盗ンタ五、六人トCノ友人三、四名都合八、九人Cカラb町Kト云フ飲食店テ酒ノ馳走ニナリタル事アル旨ノ各供述記載ニ依レハ
(五)被告人Fハ判示第一ノ窃盗ニ付テハ其ノ主謀者Eヨリ勧誘ヲ受ケ一度拒絶シタルモ更ニDノ慫慂ト先導ニヨリ判示犯行ヲ加担実行スルニ至リタルモノニシテ其ノ動機原因ハ寧ロ愍諒スヘキ犯情軽微ノモノタル可ク又判示第二ノ毀棄並窃盗ニ付テモ進行中ノ列車ヲ停車セシメ車内ノ貨物ヲ窃取スルカ如キ事態ハ被告人Fニ於テハ絶対ニ反対シタルモノナルニ不拘C、E、D等ニ於テ強ヒテ勧誘ノ結果判示犯行ヲ為スニ至リタルモノニシテ啻ニ其ノ犯情ニ於テ軽微ノモノアル外贓物ノ処分ニヨル利益ノ獲得ニ付テモ被告人Fハ前示ノ如クCヨリ同人ノ友人其ノ他共犯者八、九名ト酒席ニ招セサレタルニ過キスシテ他ニ利益収得ノ事実ナク況ンヤ信号機毀棄ノ点関シテハ前点ニ於ケルカ如ク原判決ハ法令ニ違反シ不法ニ重キ法条ヲ適用処断シ被告人Fヲ懲役三年ニ処シタルモノナルニ於テヤ其ノ科刑ハ重キニ失シ罪刑当ヲ得サル裁判ナリト思料スルニ付更ニ相当軽キ公平ノ御裁判ヲ求ム
(六)元来被告人Fノ性行ハ別紙添付ノ通知票記載ノ如ク小学校時代ヨリ格恪精励ニシテ其ノ操行ハ優或ハ良又性質ハ同被告人ニ対スル素行調書ニ明記ノ如ク温和ニシテ素行普通世評ハ素行善良ニシテ悪評ヲ聞カスト以テ其ノ人ト成ヲ知ルニ足リ本件犯行後深ク前非ヲ悔悟シ現ニ判示犯行ノ被害弁償ノ目的ヲ以テ別紙添付ノ如クa駅長ニ対シ被害者ノ氏名住所等照会スルトコロアリタルモ不明ノ為メ目下同書面ニ基キ広島鉄道局賠償課並岩国警察署ニ照会中ノモノニシテ之カ判明次第弁償ノ用意ヲ為シ居ル等改俊ノ情顕著ニシテ再犯ノ虞等毫モ無之ヲ信ス然ラハ既ニ相当期間実刑ニシキ拘禁ヲ受ケ居ル被告人ニ対シ判示ノ如キ相当重キ科刑ヲ為スハ帝ニ罪刑当ヲ失スルモノナルノミナラス結局実益ナキモノト思料セラル、ヲ以テ原判決ヲ取消シ更ニ相当御寛大ナル御裁判ニ依リ未タ春秋ニ富ム将来性アル青年被告人Fヲシテ茲ニ旧悪ヲ棄テ新善ヲ開カシメ更正ヲ期シ度古人モ過チ再度セサレハ聖域ニ近ルト蓋シ治世ノ要道豈異浙アランや唯仁慈ヲ失フコトナキ而巳ト爰ニ右被告人ノ為メ上告趣意ヲ開陳仕候」といふのであるが
論旨は結局同被告人に対する原審の科刑の不当に重いことを攻撃するのであつてかゝる事由は上告適法の理由とならぬと既に前に述べた通りである。被告人Gの弁護人高橋武夫の上告趣意書は原判決は「第三、被告人Gは右第二の被告人等と共に前記信号機の所迄行つたが少し遅れて付いて行つた為信号機を無燈にすることは知らなかつたが右貨物列車が停車したとき他の者と共に右列車に駆寄り同人等と共謀して前記菰包五個を窃取しと事実を認定し其の証拠として被告人Gの当公廷での判示第二と同旨の供述を援用して居る仍て被告人Gの原審公廷に於ける供述閲するに裁判長は被告人Gに対し、問列車を停めて手拭を盗つた経緯に付てCが述べてゐることは違ふのか、答大分違つて居ります。私が玉突屋Iに居る時皆の者が来て誘ふでなく誘はれるでなし皆がa駅の方へ行くので大した親しい仲ではありませんが帰り道なので皆の後を随いて行つたのであります、問Cから途中又は駅に行つてから何も話はなかつたか、答何も聞いて居りません問夫れなら何故帰らずに外の者とブラブラしてゐたのか、答別に訳もなくと云つて宛もなく只外の者に随いて歩いてゐたのであります問Cの言ふ処に依るとCは信号機の近くに来た際外の者に対して信号燈に通ずる電線を切ると其の信号燈が消へ進行中の列車が停るから其の列車内より貨物を盗み出そうと云ふと外の者は其の位のことで列車が停るかと聞いてみたが反対する者はなかつたと述べてゐるが怎うか、答私は聞いて居りません当時私は腹具合が悪かつたのと寒かつたのでオーバ―を頭から冠つて而も皆と深い知合でもないので少し離れて居たので聞いて居りません問列車が停つた時怎うしたか答皆が其の方へ走つて行つたので私も随いて走つて行きました問何事と思つたか答何事とも思はず帰り道ではあるし皆が走るので私も随いて走つて行つたのです問列車の処へ行つてから貨物を取出す手伝をしたか答致しました私は列車内から卸して在つた菰包を一個運びました問それなら何をするか判つてゐた様に思はれるが怎うか答皆がするので私も随いてやつた丈です問其の菰包五個は立石の近くの空小屋に運び込んだのだね、答左様です問夫れで其の菰包の中には手拭が入つて居り其の手拭の処分はE、D、Cに一任したと云ふことは怎うか答手拭が入つてゐたことは間違ひありませんが処分のことは憶へて居りません問C等から御馳走になつたことはないか答ありません問Cから金三百円を貰つてゐる様だね答ハイ貰つて居ります夫れは此の手拭を処分した分前だと云ふことはよく判つて居りました無論Cから他に金を貰ふ訳はありませんとあつて之に依ると同被告人が判示第二の被告人等と共謀して判示貨物列車から判示菰包五個を窃取した事実は認められない被告人Gは判示貨物列車から卸してあつた菰包を唯一個運んだだけであつて他の被告人等と通謀して五個の菰包を同被告人が窃取した事実はない即ち原判決は証拠に依らずして該事実を認定した違法があつて破毀を免れないと信ずるといふのであるが 原審は被告人Gの犯罪(原判示第三の事実)を認定するについてもたゞ同被告人の原審に於ける供述だけを証拠としたのではなく、これを原判決の引用した他の証拠と綜合して認定してみるのである。
右に挙げた各証拠を綜合すれは同被告人か他の被告人等と共謀の上菰包五個の窃取に共同加担した事実か認められる以上同被告人の所為は菰包一個を窃取したに過きないとしてもその全部について共犯の責任を負ふことは勿論である。論旨は理由がない。
以上の理由により原判決中被告人A、Bに関する部分は刑事訴訟法第四百四十七条第四百四十八条ノ二の規定によりこれを破毀して広島高等裁判所に差戻し(被告人A、Bの弁護人丸茂忍の各上告趣意書各一点乃至第三点及び被告人Bの弁護人橋本三郎の上告趣意書に対する判断は省略する)その他の被告人の上告は同法第四百四十六条によりいづれもこれを棄却する次第である。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
検察官宮本増蔵関与
昭和三十三年三月六日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 塚 崎 直 義 裁判官 霜 山 精 一 裁判官 栗 山 茂 裁判官 小 谷 勝 重 裁判官 藤 田 八 郎
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