判例検索β > 昭和36年(オ)第1161号
借地権確認請求並びに建物収去、土地明渡等反訴請求
事件番号昭和36(オ)1161
事件名借地権確認請求並びに建物収去、土地明渡等反訴請求
裁判年月日昭和39年1月23日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果破棄差戻
判例集等巻・号・頁集民 第71号237頁
原審裁判所名名古屋高等裁判所
原審裁判年月日昭和36年7月31日
判示事項土地賃貸借契約成立の認定が経験法則に違背するとされた事例。
裁判要旨永年盛大に旗屋を営業していたものが、店舗兼住宅の戦災による焼跡を終戦後間もなく他人に「おでんや」営業用の建物の敷地として使用することを許し、その後右当事者間において右土地使用関係につき期間五箇年の使用貸借契約を内容とする契約書を取り交したなど判示の事情(当審判決参照)がある場合貸主が借主より毎月若干の金員を受領していた事情(当審判決参照)があつても、右土地使用につき当初より普通建物の所有を目的とする賃貸借契約が成立したものであると認定することは、経験法則に違背する。
参照法条民訴法185条,民訴法394条
裁判日:西暦1964-01-23
情報公開日2017-10-18 07:23:04
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主 文
原判決を破棄する
本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人弁護士島田新平の上告理由第一点について。
原審は本件宅地について被上告人(借地人)と上告人(地主)との間に昭和二元年一〇月一日、存続期間同日より三〇年間、賃料一ヶ月金九二〇〇円とし、右宅地に対する公租公課を被上告人において負担する旨の賃貸借契約が成立し、爾来被上告人は上告人に対し右内容の借地権を有する旨の確認判決をしているのであつて、その理由として説示しているところは原判決並びにその引用する第一審判決によれば次のとおりである。すなわち、上告人らの一家はもと本件土地において、かなり盛大に旗屋を営んでいたものであるが昭和二〇年五月戦災に罹り、右地上の店舗兼住宅を焼失し、右営業も一時的に廃滅するに至つた。終戦後偶々他に適当の売家があつたので、一家はこれを買取つて居住することとなり、右宅地は焼跡のまま放置されていた。終戦直後のこととて、繊維事情は極端にわるく、繊維を主材料とする旗屋営業も復興再開の見込は容易に立たなかつた。然るに、他方名古屋市a区にあるF附近においてDなる屋号で、小料理店営業をしていた被上告人は、その敷地が都市計画による道路敷地となつたため、立退きを余儀なくされ、移転先を物色中、偶々昭和二一年夏頃かねて客として右Dに出入していた上告人Aから、その母Eがその所有する本件宅地を焼跡のまま放置していることを聞き、これを借入れんものと思い、おでんやをやりたいから本件土地を貸して貰いたい旨申入れ、右EもAも比較的簡単にこれを承諾し、賃料は月金八〇〇円本件土地に対する公租公課は借主である被上告人が負担することの取り決めが出来た。賃貸借の期間や建物の制限等については、格別の話は出た模様はなく、契約書も作成されず、賃料の通帳の類も発行されず、全くの口頭契約であつた。かくて、右契約成立後、間もなく、被上告人は当時焼跡のままであつた本件土地を整地の上おでんや営業用店舗の建築にかかり、昭和二一年一二月初旬これを完成し、再びDの屋号で開店、営業を開始し、右店舗は二棟より成り、建坪は合計約二六坪、木造平屋建のもので、土台はコンクリートで固め、当時としては相当良い材料を使用したいわゆる本建築物であり、バラツク式建物ではない。以上によつてみれば本件当事者間にはおそくも昭和二一年一〇月一日を始期とする普通建物所有の為めにする賃貸借関係が設定されたものと認めるのを相当とするというのである。
上来説示したところに即して考えるに、原判決並びにその引用する第一審判決の認定した本件当事者間の賃貸借関係は、上告人家が永年旗屋を営んでいた店舗兼住宅の戦災による焼跡を、当時の荒廃した状況で旧営業の復興再開も覚束ないままに放置していたところ、かねて小料理屋営業を経営していた被上告人のおでんやを営業するという所望を容れて貸与したが、賃貸借の期限や建物の構造についての制限等については格別の話はなく契約書も作成されず、賃料の通帳も発行されず全くの口頭契約であるというのである。しかしながら、原判決(その引用する第一審判決)は他方、本件借地契約の成立を証する書面として当事者間に作成交換された契約書の表題は土地使用貸借契約書となつており、右契約書中には(一)本使用貸借の目的は、該地上に臨時的バラツク式建築をなし、飲食店営業用に供せんとするにあり、永久的固着を意図するものではないから、右目的に反し、またはこれを越える建築施設等をしないこと、(二)期間は契約書調印の日より向う五ケ年とし、期間満了前でも貸主において本建築をなし、その他止むを得ない必要を生じたとき、または、行政上立退引渡等公共上の事由が生じたときは、貸主の指定期間内に借主は地上物件を収去し明渡を完了すること、期間満了後期間を更新しようとする場合は、借主は満了六ケ月前に貸主にその旨申出で、貸主の書面による同意を得ること、右同意を得ないときは当然更新しないものとすること、(三)本件土地に関する公祖公課その他の公私の負担は借主において支払うこと、(四)借主は貸主の書面による同意なくして土地を転貸し、または、地上家屋を第三者に貸与し若しくはこれに居住させないこと、(五)借主は、土地の形状を変更し、土砂を除去しコンクリート工事を施す等すべて現状を変更するが如き施設をしないこと、(六)借主が前各項の一に違反した場合は予め催告を要しないで契約を解除されても異議ないこと等の諸条項が存すると認定し、次いで、同じく本件借地に関する契約書と認められる甲第二号証の一、二によると、Eの相続人である上告人らと被上告人との間では、土地使用貸借更新契約書と題する書面が昭和二七年八月八日附を以て作成されていること、右書面には(一)前記契約書所定の期間を一回限り更新し、昭和三元年一〇月九日を以て期間満了とすること、(二)経済情勢の激変による事情変更のため、借主は貸主の事情を了承して昭和二七年四月以降月額三〇〇〇円の礼金の支払を承認する。(三)貸主が本件土地を売却する場合は借主に先買権を認める、(四)その他の事項は変更なし等の条項の存することが認められるとしている。思うに契約について契約書が作成されてある場合はその文面上の文言が契約条項の有力な意思解釈の材料となるものであることは多言をまたないところであり、まして当該契約条項が想定される各種の場合を慮つて記載されている前示のような場合においてはなお更のことである。従つて本件借地契約において、前示のような契約書のある以上原判決認定のように本件借地契約が口頭の契約であるとか謝礼名義の対価が賃料であるとか或は賃貸期間や建物の構造の制限等について何らの定めがなかつたものであるなどとはわれわれを納得させる特段な事情の説明がない限りは、到底首肯し得らる筋合のものではない。尤も原判決(その引用する第一審判決)はこの点にいて、前示契約書二通は上告人が島田新平弁護士に依頼して作成して貰つたもので、上告人Aが右二通の契約書を持参して被上告人方を訪れ被上告人から右契約書の説明を求められるや、右契約書は単なる形式的のものに過ぎない。賃料はいわゆる闇賃料となるので、無償という形にしたものである。賃貸期間も世間では五年間位でよく区切るから、一応そのようにしたものであるなどと言い、署名捺印しても心配するようなことはない旨明言したので、被上告人もこれを諒解して調印したものであると認定している。しかし、本件宅地において永らく旗屋営業を経営していた上告人一家を代表して出向いた上告人Aが、しかも自家の店舗が一朝にして烏有に帰したとはいえ、やがて開店再興の希望をもつていたであろう上告人Aが法律家たる弁護士に依頼して作成して貰つた前示のような行き届いた契約書を持参して出向きながら、契約書の文面に反するようなことを、しかく簡単に明言するであろうか、この点も特段な事情の説明がない限り容易に納得し難いところである。なお、被上告人は、上告人Aは地主である母Eの代理人として毎月被上告人方に賃料を取立てに来ており、本件土地に対する徴税令書等を被上告人方に届け被上告人はこれを支払つていた、また、前示契約書によれば賃貸借期間満了後であるべき筈の昭和三一年一〇月一〇日以降においても上告人らは昭和三三年三月分まで約一年間の長期に亘り月額三〇〇〇円宛の賃料を受取つていた、これらの事実こそは本件借地契約が成立していることの証左であるとの趣旨を主張し、原判決(その引用にかかる第一審判決)は右事実を肯認しているが、右にいわゆる賃料が普通建物の所有を目的とする賃貸借契約上の賃料でないことは上叙縷説したところで明らかであり、右金員を受領したからといつて、その一事を以て本件土地の使用関係が遡つて普通建物の所有の為めにする賃貸借であると断定できるわけのものではない。
以上の次第で、原判決並びにその引用する第一審判決には経験法則違背、審理不尽、理由不備の欠陥あるものというの外なく、本上告理由は結局理由あるに帰し、原判決は上叙の点において到底破棄を免れないと認める。
同第二点第三点について。 本論旨は、被上告人の主張にかかる本件借地関係が普通建物の所有を目的とする賃貸借であることを是認される場合あることを予想しこの場合に処すべく、提起された上告人の反訴請求に関するものであるから、被上告人の本訴請求がその請求原因の重要な部分において破棄された以上、本論旨はいずれも自ら審究無用の部分となる筋合となると同時に、原判決主文中控訴人らの反訴請求に関する部分も自ら失当に帰し破棄を免れないものと認める。
よつて民訴四〇七条一項に従い裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。 最高裁判所第一小法廷
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