判例検索β > 平成14年(わ)第432号
強盗殺人、死体遺棄・損壊、強盗殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反、建造物侵入、窃盗、犯人隠避
事件番号平成14(わ)432
事件名強盗殺人、死体遺棄・損壊、強盗殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反、建造物侵入、窃盗、犯人隠避
裁判年月日平成16年3月22日
裁判所名・部和歌山地方裁判所
裁判日:西暦2004-03-22
情報公開日2017-10-13 01:42:46
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主 文
被告人両名を判示第1の罪について,それぞれ懲役10月に,被告人Aを判示第2,第3の1ないし3,第4,第5の1及び2並びに第6の各罪について無期懲役に,被告人CことBを判示第2,第3の1ないし3,第4,第5の1及び2並びに第7の各罪について無期懲役にそれぞれ処する。
未決勾留日数中,被告人Aに対しては480日を,被告人CことBに対しては470日を,それぞれその無期懲役刑に算入する。
被告人Aから,押収してあるブースターケーブル1組(平成15年押第3号の1),サバイバルナイフ1本(同押号の2)及びライフハンマー1本(同押号の3)を没収する。
理 由
(被告人Aの身上経歴)
被告人Aは,昭和45年2月,父D,母Eの長男として和歌山市で出生し,3歳のころ,両親が離婚したためその実母に引き取られたが,実母が同被告人を養育するため,働きに出なければならなかったことから,同被告人は,小学校に入るころまで同市内の実母の親戚の家に預けられて育った。被告人Aが6歳のころ,実母がFと再婚し,昭和52年4月には同人と養子縁組をし,実母及び養父と3人で生活していたが,同被告人が10歳のころ,実母が病死し,同被告人は,そのまま養父のもとで養育されることとなり,以来,養父と2人だけで生活をしてきた。被告人Aは,地元の中学,県立高校を卒業した後,S高等技術専門学校の自動車工学科に進学し,在学中に自動車整備士2級の資格を取得して,平成2年4月から和歌山市内にある自動車会社に就職し,以来,営業所等で自動車整備工として真面目に働いていたが,平成7年終わりころから,高額の指輪や時計をローンで相次いで購入して女性にプレゼントしたり,平成10年ころには,飲みに行ったスナックでホステスのアルバイトをしていた女子大生に一方的に好意を寄せて,同女の依頼でその生活費の援助をしたり同女の起こした交通事故の弁償金を負担するなどし,そのための金銭を工面するために他のアルバイトもこなし,借金までしたが,結局,ほとんど相手にされずに別れ,同被告人には借金やローンだけが残った。また,被告人Aは,そのころ,アルバイト先のスナックの経営者の依頼で,400万円の借入の連帯保証人になり,その借金を全て背負う事態となったり,消費者金融から借入をしたことなどが重なって,ついには総額900万円以上の負債を抱え込み,平成12年11月ころ,自己破産宣告を受けた。平成13年3月,被告人Aは,別のスナックの女性と知り合ってすぐに結婚し,同女の借金も肩代わりをして支払いをしていたが,結婚直後から同女の夜遊び等に悩まされ続け,別居状態となったことから,同年8月,協議離婚した。こうした経緯から被告人Aは,自分の悩みを相談することができ傷心をいやしてくれ,心から信頼し合える女性を求めて携帯電話の出会い系サイトを利用するようになった。(被告人Bの身上経歴)
被告人CことB(以下,被告人Bという。)は,昭和53年10月,父G,母Hの長女として大阪市で出生したが,難産の末に生まれた一人娘であったことから,両親に大切に養育された。被告人Bが2歳ころ,大阪府堺市内に一家で引っ越し,更に小学6年生時一家で和歌山県に移り住み,同県内の小学校,中学校を卒業した後,県立高校の保育科へ進学した。被告人Bは,幼いころから明るく人当たりは良かったが,親から何かと口うるさく言われることが疎ましいと感じたことから,次第に自分の素直な気持ちを表出できない性格となり,自己に都合の悪いことを隠したり,見栄を張るためによく嘘をつく習慣が身につき,そのため親友ができにくく,勉強嫌いも手伝って,高校を2年で中退した後は,通信制の高校に転入するとともに,実父が経営する土産物卸売業の手伝いをしていた。その後,被告人Bは,従業員として家に出入りしていた当時21歳の男性と交際するようになり,平成8年12月,同被告人が高校在籍中の18歳のときに上記男性と結婚して,前記高校も中退し,平成9年に長男,平成10年に長女の2子を設けた。しかし,被告人Bと夫の仲は次第に冷めていったことから,同被告人は,携帯電話のチャットサービスを利用した男性との交遊にのめり込み,携帯電話の利用料金が一か月30万円に上るときもあったが,その支払いのため消費者金融から借入をしては,その返済のためにまた借入を繰り返すようになり,平成11年12月ころには,夫や子供を置いて携帯電話で知り合った高校生と家出をし,消費者金融から更に借入を重ね,親から出されていた捜索願いで警察に保護されて連れ戻されるといったこともあり,平成12年3月,夫と協議離婚をした。それ以降,被告人Bは,2人の子供の親権者となり,実父の仕事の手伝いをしながら実家で両親及び子供らと生活していたが,多額の借金の返済に追われたことから,携帯電話の出会い系サイトで知り合った男性2名に対し,男性の声色を使い山口組関係者を名乗るなどして電話をかけて脅迫し,脅迫を止めさせるためには上
部団体に金を払わなければならないなどと嘘をついてだまし,その1名から多額の金銭を入手し,他の1名には借入がないのに借用書等を書かせてこれを取得するなどしていたが,その一方で,親から子供を置いたまま男性と遊びに行くことを咎められたり,借金返済のために小遣いがほとんど手元に残らないことに日ごろから不満を抱いていた。(被告人両名の交際状況等)
被告人両名は,平成13年8月ころ,携帯電話の出会い系サイトを通じて知り合い,メール交換をしているうちに意気投合したことから,同年9月末ころから直接会って交際し出し,間もなく親密な関係になったが,しばらくして被告人Bが,被告人Aの独占欲の強いところが嫌になり,同被告人に別れ話を持ち出したが,被告人Aは,被告人Bに強い恋愛感情を抱いていたことから,これに応じようとはしなかった。被告人Bは,被告人Aを別れる気にさせるため,同年10月ころ以降,同被告人に対し,その元妻になりすまし,

今いてる女と付き合ってたら,その女の命はないぞ。

といった脅迫メールを送ったり,自らは

元妻からおなかを蹴られたりして被告人Aの子供を流産してしまった。

とか

私は腎臓が悪くて半年しか生きられない。

等と嘘をついたところ,被告人Aは,それらを信じ込み,同年11月初めころ,元妻から逃げるつもりで,会社を無断欠勤して被告人Bと京都に旅行したことなどから同月7日付けで退職に追い込まれる事態となった。しかし,被告人Aは,被告人Bと別れる気になるどころか,ますます被告人Bを守ってやる必要を感じ,同被告人に対する思いを強くした。一方,被告人Bは,被告人Aに対する恋愛感情はすでに冷めていたが,前記のとおり,日ごろから借金の返済資金や小遣い銭に窮していたことから,被告人Aに別れる気がないのであれば,同被告人に嘘をついて金銭を貢がせようと考え,同被告人に対し,

実は,私は,山口組五代目組長Iの妾の娘である。

被告人Aの元妻は,ヤクザを使って嫌がらせをしている。系列が下の組のヤクザの嫌がらせをやめさせるためには,系列が上の組に被告人Aを登録しなければならない。登録料は10万だから用意して。

などと嘘をつき,実父の組への組員としての登録料という口実で金銭をだまし取り,以後,護衛料や組からの脱退料が必要だと次々に嘘をついては金銭を催促したところ,結婚まで約束していた被告人Bの話をすっかり信用した被告人Aは,被告人Bを守るためにどうしても組に金銭を支払わなければならないと思い込み,同被告人に言われるまま,借入をしたり退職金もつぎ込むなどしてこれを払い続けているうちに,手持ち金が底をついたが,同被告人に愛想を尽かされたくなかったことから,窃盗をしてでも同被告人のために金銭を入手しようと考えるに至った。(罪となるべき事実)
第1 被告人両名は,共謀の上,平成13年12月6日午前1時ころ,金品窃取の目的で,和歌山市ab番地所在のT自動車株式会社U店店長Jが看守する同店内に侵入し,そのころ,同所において,同人管理のデスクトップパソコン1台ほか2点(時価合計約45万円相当)を窃取した。
(その後の犯行に至る経緯1)
被告人両名は,ひったくりをする準備として車のナンバープレートを盗んだ容疑で平成13年12月16日に逮捕され,平成14年3月1日,被告人Aは,3件のナンバープレートの窃盗罪(うち2件は被告人Bとの共謀によるもの)により懲役1年6月,執行猶予3年の,被告人Bは,被告人Aとの共謀による2件のナンバープレートの窃盗罪により懲役1年,執行猶予3年の各判決の宣告を受けて同日釈放された。被告人両名は,その勾留中の手紙のやり取りの中で,被告人Bからの申し入れにより,同被告人の親が被告人らの交際に反対していることなどを理由に1年間は会わないという約束をしていたが,被告人Bとの交際継続を強く望んでいた被告人Aが,釈放の数日後,被告人Bを呼び出した上,電話やメールだけでもいいから付き合いたいと頼み込んだところ,被告人Bは,相変わらず借金の返済に追われており,小遣い銭にも窮していたことから,被告人Aが自分と交際を続け結婚したがっていることを利用して,自己の実父が被告人両名の結婚を認める条件として金銭を要求していると嘘を言って同被告人を信じ込ませ,金銭を貢がせようと考え,同年3月から4月にかけて,同被告人に対し,被告人らが捕まっている間,自分の仕事がストップして組が被害を受けたので,実父が罰金として,被告人Aの就職が決まるまでは毎日6000円,就職が決まったら,毎月20万円を払えと言っている。8か月間罰金を払い終えたら被告人らが結婚してもいいと言っている。などと嘘をついたところ,被告人Aは,被告人Bの実父が要求しているという金銭の支払いを終えれば,被告人Bと晴れて結婚できるものと信じ込み,その金を作るために寝る間を惜しんでアルバイトをこなし,アルバイト先の店長や消費者金融から借金をするなどして金銭の工面に明け暮れ,被告人Bの求めに応じて,金銭を手渡していたところ,同年5月,被告人Aの養父が,急死したため,他に親しい身寄りもない同被告人としては,いよいよ被告人Bが唯一の心の拠り所となり,同被告人と結婚するためには何としてでもその求
める金を作らなければならないと思いつめるに至った。
一方,被告人Bは,同年5月ころ,携帯電話のチャットを通じて知り合った大阪府茨木市在住のKと知り合い,同年6月初めころから,Cと称して交際を始め,直ぐに親密な関係となり,Kと結婚したいと強く願うようになっていたが,子供らを置いて男性と遊びに行っていることが親に知れると咎められるため,毎週末にKと会うときには,元夫に1回約3万円から5万円を子守代等として支払って子供らを預けていたほか,Kの歓心を買うために,同人には,自分のことを元国際モデルで貯金が2000万くらいあると嘘をつき,同人とのデート代をほとんど自分で負担していたことから,ホテル代,レンタカー代,ガソリン代,元夫への子守代など,週末ごとに約8万5000円が必要になった。そこで,被告人Bは,Kとのデート費用も被告人Aに貢がせようと考え,同被告人に対し,酔って人に怪我をさせたからその治療代が必要だ,交通事故を起こしたから車の修理代が必要だなどと次々に嘘をついて金銭の催促をしたところ,被告人Aは,被告人Bのために何としてでも金銭を工面してやろうと考え,闇金融業者から手当たり次第に借金をするなどして金銭をかき集め同被告人に渡した結果,アルバイト先にまで厳しい取り立ての電話が入るようになり,居づらくなり同年6月25日付けでアルバイトを辞めるとともに,取り立てから逃れるため,和歌山市内の自宅アパートを出て車上生活を余儀なくされた。 同月29日ころ,被告人Bは,金銭欲しさから,被告人Aの嫉妬心を利用しようと考え,実父に金を払わなければ,実父によって被告人らは別れさせられ,自分はKと付き合わなければならなくなると仄めかした上,同人と会う予定場所を知らせたところ,被告人Aは,被告人BとKが車中で会っているところにやって来て,二人が話している様子を目の当たりにして衝撃を受け,Kを被告人Bの実父が決めた婚約者だと思い込んで焦り,同被告人を取り戻したいという思いから,同年7月初めころ,手元にあった金品を被告人Bに渡すことにより6月分の支払いを辛うじて済ませた。しかし,その矢先,被告人Aは,被告人Bから

実父の組の組員が死んだので,香典代5万円を用意しなければならない。私が立て替えておくから1日1割の利息を付けて支払って。

と新たに金銭を催促され,もう手元には金がなかったため,再び窃盗をして金を手に入れることにした。(罪となるべき事実)
第2被告人両名は,共謀の上,平成14年7月6日午前2時20分ころ,金品窃取の目的で,和歌山県那賀郡a町bc番地のd所在のL方に侵入し,そのころ,同所において,同人所有の袷3着ほか1点(時価合計約4万円相当)を窃取した。(その後の犯行に至る経緯2)
被告人Bは,同年6月29日,Kとデートをした際,以前から電話で話したことがあったKの実姉Mに初めて会い,K及びMと3人でカラオケに行ったが,その際,同女とKの姉弟仲がとても良いことに嫉妬し,Kとの折角のデートを同女に邪魔されたように感じるとともに,同女の言動から,将来,自分がKと結婚した際にも同女の存在が二人の生活の邪魔になると思い込み,同女の存在が非常に疎ましくなるとともに,翌30日に同女と2人でスーパーに買い物に行った際に同女の買い物振りを見たり,心臓病を患う同女が身体障害者として手当てを支給されているはずと推測し,同女が多額の金銭を持ち歩いていると考えたことから,同女を殺害してその所持金品を奪い取ろうと決意した。ところで,被告人Bは,以前からKやMと電話で話をする際,自分の本音を伝える方法として,男の声色を使用し,自分と仲の良い兄弟という触れ込みで,Nという架空の人物になりすまし,一人二役を演じていたところ,Mが,電話上の会話でNに好意を寄せているのを知っていたことから,Nとの初めてのデートに誘えば同女がまとまった金を持参するに違いないと考え,同女をNとのデートの名目で誘い出し,Nになりすました被告人Aに同女を殺害させてその所持金品を強取することを計画した。そこで,被告人Bは,Nになりすまして,Mに電話をかけ,その翌週の同女の誕生日に同女とデートをする約束を取り付ける一方で,同年7月6日ころ,被告人Aと会い,同人に対し,

友人がKに強姦されて子供が産めなくなり,自殺したから,その友人の仇をとりたい。自分はKを殺して金を奪うので,被告人AにはKの姉のMを殺して金を奪ってほしい。

旨の嘘をついて犯行を持ちかけたところ,被告人Aは,驚いて更に経緯を尋ねたが,被告人Bは,一人でもやるなどと息巻いて見せるなどしたことから,結局この話を信用し,好きな被告人Bのたっての依頼であることや,当時,被告人Bの実父に請求されていると思い込んでいた組員の香典代の残金が未だ支払えず,被告人Bと別れさせられることを極度に恐れていたことから,その依頼に応じる決意をし,被告人Bとの間でその後も実行方法や死体の処分方法に関する謀議を重ねた末,Mを殺害してその所持金品を強取した上,Mの死体を被告人Bの指示するダムに捨てることを決意した。
(罪となるべき事実)
第3 被告人両名は,共謀の上,

1 Mに対する強盗殺人等の犯行に使用する普通乗用自動車(軽四)の前後に取り付けるナンバープレートを窃取しようと企て,同月6日午後11時ころ,和歌山県那賀郡b町cd番地のe所在の駐車場において,同所に駐車中のO所有の普通乗用自動車(軽四)の前後に取り付けられていたナンバープレート(登録番号和歌山abねcdef号)を窃取した。
2 被告人Aにおいて,被告人Bとのかねてからの打ち合わせどおり,Nになりすまし,同月7日午前2時30分ころ,Nとデートさせるという名目で被告人Bが連れてきたMを同郡c町所在のV寺の駐車場から自己の運転する普通乗用自動車(軽四)に同乗させて出発し,ドライブを装って,同県海南市や和歌山市内を走行し,同女を殺害する機会をうかがったが,この間,その殺害を躊躇して,被告人Bと携帯電話で話をした際,同被告人からは,

こっちはもうKちゃんを殺したで。そっちはまだやってないんか。

もうこっち殺しちゃあんのに,はよせなこっちもやばい。

など告げられ,同被告人が予定どおり既にKを殺害して金を奪ったとして,Mに対する強盗殺人の実行を促されたことから,いよいよその実行を決意し,同日午前4時30分ころから同日午前5時ころまでの間,和歌山市bc番地のd先路上及び同市cd番地のe所在のスーパーW和歌山店北側駐車場に各駐車中の普通乗用自動車(軽四)内において,M(当時27歳)に対し,殺意をもって,被告人Aにおいて,同女の頸部を両手で強く絞め付け,さらにタオル及びブースターケーブル(平成15年押第3号の1)を同女の頸部に巻きつけて強く絞め付け,そのころ,同所において,同女を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した上,同女が所持していた現金約3万5000円在中の財布等(時価合計約1万3000円相当)を強取した。 3 同日午前5時ころ,前記自動車に同女の死体を積んだまま前記W和歌山店北側駐車場を発進し,同所から大阪府泉南市ab番地の山中までその死体を運搬して,同日午前7時ころ,同所にこれを投棄し,被告人Aにおいて,その経過を被告人Bに電話で報告したところ,同被告人から見付かりにくい他の場所に捨てるよう指示されたことから,さらに,同月8日午前1時30分ころ,前記自動車に同女の死体を再び積み込んで同所から運び出し,同日午後1時ころ,和歌山県伊都郡a町bc番dの山中にその死体を搬入し,そのころから同月9日午前零時ころまでの間,同所において,その死体に灯油をかけるなどして焼却した上,同日午前1時30分ころ,和歌山市de番地のf先のX川河口大橋上において,燃え残った同女の骨をX川に投棄し,もって,死体を遺棄・損壊した。
第4 被告人両名は,共謀の上,被告人Aにおいて,被告人Bからその実父から請求されていると聞かされていた香典代分として,Mから奪った現金のうち3万円などを被告人Bに渡したが,さらにその不足分を工面するため,別表記載のとおり,同月10日午前6時10分ころから同月11日午前1時ころまでの間,前後4回にわたり,和歌山県那賀郡c町de番地のf所在の駐車場ほか3か所において,同所等に駐車中の被害車両内からPほか3名所有にかかる現金約3万3000円及び手提げ鞄1個ほか約52点(時価合計約5万0500円相当)を窃取した。
第5 被告人Bにおいて,同月11日ころ,同月13日にする予定のKとのデート資金に窮したことから,被告人Aにその金銭を貢がせようと考え,同被告人に対し,山口組の本家の若頭が死んだので,香典代として10万円を渡さなあかん。今度は,ナンバー2の若頭で待ってもらえないから,明日の夜までに何とかせなあかん。お金ができなければ,組長が私をKちゃんと結婚させると言っている。などと嘘をついて金を催促したところ,これを信用した被告人Aは,取り敢えずひったくりをして金銭を手に入れようと考え,同月12日の夕方ころまで車で走り回ったが,結局これができずに終わった。その間,被告人Bは,被告人Aに対し,何度も電話で金の催促をした末,

今日中やで。どうすんの。うちのおとんがぽん刀研ぎ出してる。うちの命,おとんに預けたで。Aちゃんがお金作れんかったらねえ,あたしの命おとんに取られんのよ。私らの結婚がかかっている。

などと嘘をつき,被告人Aが金を用意できなければ,自分が実父に殺されるか,Kと結婚させられるものと信じ込ませて同被告人に金銭を催促したことから,切羽詰まった被告人Aは,かつてのアルバイト先である自動車用品販売店店長Qをナイフで突き刺して殺害し,同人から同店の売上金等を強取することを決意し,その旨を被告人Bに電話で持ちかけたところ,被告人Bもこれに賛成して,その旨の謀議を遂げ,ここに被告人両名は共謀の上, 1 同月13日午後9時15分ころ,被告人Aにおいて,和歌山市ef番地のg所在のBB自動車用品販売店CC店駐車場において,殺意をもって,同店店長Q(当時46歳)の背後から,あらかじめ準備していたサバイバルナイフ(刃体の長さ約22センチメートル,平成15年押第3号の2)で,同人の左背部を突き刺したが,同人が大声で
助けを求めるなどしたため,その場から逃走して,同人に対し,全治約1か月間を要する左背部刺創,脾損傷,出血性ショックの傷害を負わせたにとどまり,その目的を遂げなかった。
2 業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時,場所において,前記刃体の長さが約22センチメートルのサバイバルナイフ1本を携帯した。第6 被告人Aは,同日午後10時ころ,同市fg番地所在の駐車場において,同所に駐車中のR所有の普通乗用自動車(軽四)の前後に取り付けられていたナンバープレート(登録番号和歌山bcまdefg号)を窃取した。
第7 被告人Bは,Kと共謀の上,Aが強盗殺人未遂罪を犯した者であることを知りながら,その逮捕を免れさせる目的で,同日午後9時50分ころから同日午後10時30分ころまでの間,数回にわたり,和歌山県那賀郡c町df番地のg付近路上から同郡c町ef番地付近路上に至るまでを走行中の自動車内において,Aに電話をかけ,同人に対し,

県道Y線でパトカーが検問しているので,こちらに来るな。

大阪に逃げるな。奈良方面に逃げろ。

国道24号線のZ方面で検問しているので,24号線を走るな。

などと告げ,検問場所を回避しての和歌山県外への逃避を勧めて同人の逃走に便宜を与え,もって,犯人を隠避させた。
(被告人Bの弁護人の主張に対する判断)
1 Qに対する殺意の有無について
(1) 被告人Bの弁護人は,判示第5の1の事実について,被告人Bは,被告人Aと強盗の共謀をしたにとどまり,Qに対して殺意はなかったから,強盗殺人未遂は成立せず,強盗致傷の限度で責任を負うと主張し,被告人Bも当公判においてこれに沿う供述をするので,以下検討する。
(2) 被告人両名の当公判各供述及び各検察官調書などの関係証拠によれば,判示第5の1の犯行に至る経緯及びその共謀状況等について次の事実が認められる。 被告人Bは,実父が経営する土産物卸売業の手伝いをしながら実家で両親及び2人の子供と暮らしていたが,消費者金融数社に借金があり,自己の収入の大半は借金の返済に消えてしまうため,かねてから小遣い銭に窮していたことに加えて,平成14年6月初めころから交際し始めたKとのデート代等に週末ごとに約8万5000円を費やすようになったことで,ますます金銭が必要になった。そのため被告人Bは,被告人Aと共謀の上,同年7月7日未明,Kの実姉Mを殺害して現金約3万5000円等を強取し,同月8日,そのうち3万円を自ら取得した上,同月9日,被告人Aに次の金策手段を相談し,Mの実母を殺害して金銭を奪う計画まで持ちかけるなどしたが,被告人Aが渋ったことから別の犯行方法で金銭を調達する話になったものの,同被告人によるひったくりがうまくいかずにいたところ,被告人Aから,その元アルバイト先の店長Qが閉店後に持ち出す売上金4,50万円を奪う計画を持ちかけられたことから,その話に乗り気となった。被告人両名は,共謀の上,同月10日早朝から同月11日深夜にかけて,4件の車上狙いを敢行するなどし,被告人Bは,合計約3万5000円を取得したが,これを借金の返済等に費消してしまい,同月13日のKとのデートに必要な約8万5000円の金策に窮したことから,同月11日,被告人Aに対し,実父の組の若頭が死んだので香典代10万円を払わなければならないと嘘をついて翌12日までに10万円を用意するよう催促した。しかし,同月12日夕方になっても被告人Aが金銭を調達できなかったため,被告人Bは,今日中に10万円を用意できなければ,実父にKと結婚させられるか,自分が実父に殺されるかもしれないと嘘をついて被告人Aを急き立て,以前から話に出ていたQから店の売上金を奪う計画を実行するよう催促したところ,被告人Aが,当夜,Qを刺してでも売上金を奪ってくると申し出たことから,同被告人に対し,

刺すんやったら,左っかわの方狙いなあよ。

とQの心臓を狙って刺すよう忠告した。その際,被告人両名は,Qの死体の処分方法についても話し合ったが,被告人Aが死体を焼くことだけは勘弁して欲しい旨言うので,被告人Bは,目撃者がおらず指紋を残さないという条件でこれを了承し,被告人Aが警察に疑われた場合に備え,被告人Bがアリバイ証人になることなどについても話し合った。ところが,当夜,被告人Aは,実行を躊躇しているうちに犯行の機会を逸してしまい,夜中にひったくりなどをするために走り回ったが,失敗ばかりしたため,被告人Bは,翌13日まで支払いを待ってやることにし,同日夜に被告人Aが,Qから店の売上金を奪ってくる話になった。被告人Bは,同日夕方にも,被告人Aに対し,電話で自己及びその実父が,被告人AがQから金を奪ってくることに期待をかけている旨を告げ,

狙うんやったら,心臓狙いよ。

と再度念を押した。同日夜,被告人Bは,被告人Aに電話をかけて奪った金の催促をしたところ,被告人Aから,後ろからQの横腹辺りを刺したが金を奪うこ
とに失敗し,同人に顔をはっきりと見られ,警察に通報されたようだなどと報告を受けた際,

何で,刺した後,ナイフを90度から180度ひねらんかったんや。そうすれば,その痛みで動けやんかったのに。

と非難するように言った。 (3) 上記認定事実によれば,被告人Bは,同年7月初めころ,月々の借金返済資金や小遣い銭を入手するために,その交際相手Kの実姉Mの殺害を計画し,これを実行しながら,更にその実母までを殺害することを企てるほど金銭に窮していた上,とりわけ,本件犯行直前は,その週末に迫ったKとのデート費用を捻出することに躍起となっており,被告人Aを焚きつけて数件の車上狙いを敢行させても,これによる入手金がQの店の売上金4,50万円には遠く及ばなかったことからすれば,被告人Bには,Qを殺害してでもその所持する売上金を入手しようと考えるだけの十分な動機があったと認められる。また,被告人Bは,被告人Aに対し,Qの心臓を狙って刺すようにと明確に殺害の指示を出しており,犯行直前にも改めてその点を念押ししている上,事前の謀議は,死体の処理方法にまで及んでおり,被告人Aのアリバイ工作まで打ち合わせるなど,かなり時間をかけて行われていることに照らすと,それらが単なる戯言などであるとは到底考えられず,被告人Bには,Qに対する確定的殺意があったことは明らかである。
これに対し,被告人Bは,当公判において,被告人Aが本当にQを刺して金を奪おうとするとは思っていなかった旨供述するが,被告人Aは,被告人Bの非常識極まりない依頼を聞き入れて,本件のわずか1週間前にMに対する強盗殺人を敢行していることや,被告人Bは,被告人Aから実際にQを刺して金を奪おうとしたが失敗したと聞かされたときも,驚くどころか,むしろ,同被告人の詰めの甘さを非難する大胆な発言をしていることに照らして,同被告人の上記弁解供述は到底信用することができない。
なお,被告人Bは,Mに対する強盗殺人のときと異なり,本件では相手が成人男性である上,密室ではないから実現不可能だと思っていたとも弁解するが,被告人Bは,事前に被告人Aとの間で殺害方法や死体の処理方法などについて時間をかけて打合せをしており,犯行直前にもQを刺して売上金を奪ってくるよう電話で催促しており,計画に反対したり,その内容を変更したりしていない上,心臓を狙って刺すようにとだめ押しをしていることに照らすと,これらの言動と明らかに矛盾する被告人Bの上記弁解供述も信用できない。
2 銃刀法違反の成否について
被告人Bの弁護人は,判示第5の2の事実について,被告人Bは,当日,被告人Aが,サバイバルナイフを持っていることを知らなかったから,銃刀法違反について共謀は存在せず,被告人Bは無罪であると主張し,被告人Bも当公判においてこれに沿う供述をするので,以下検討する。
本件における明白な前提事実は,被告人Aが,Qに対する強盗殺人未遂の犯行に際し,刃体の長さが約22センチメートルのサバイバルナイフ1本を携帯したというものであるところ,前記1で認定説示したところから明らかなように,Qに対する強盗殺人未遂の犯行は,被告人両名が,Qを殺害する方法等について,かなり具体的な事前の共謀を遂げて実行されたもので,とりわけ,被告人Bは,被告人Aをして,Qの心臓を狙って刃物で突き刺さしめ,同人を短時間のうちに確実に殺害して売上金を強取させることを強く意図していたことが認められるのみならず,犯行直前にもその旨を被告人Aにも十分念押しをしていたのであるから,被告人Aが,その犯行の際,少なくとも成人男性の心臓に達する刃体の長さのある殺傷能力の高い鋭利な刃物を携帯することについても当然認識認容していたことが認められる。加えて,被告人Bは,平成13年12月以前に被告人Aが本件サバイバルナイフを持っているのを実際に見たことがあったこと,当時,同被告人の経済的窮状から,同被告人が,その犯行に際して,新たな刃物を購入する可能性が低いことについては,被告人Bにおいて,容易に推察できる状況にあったことも認められ,同被告人が,その検察官調書[乙121]中において,被告人Aの持っているサバイバルナイフかそれ位の刃物を使うと思ったと供述するところもこれらに沿うもので十分信用することができ,結局,被告人Bにおいて,被告人Aが本件サバイバルナイフを犯行に使用することについて少なくとも未必的認識とその認容があったことが認められる。
以上に照らすと,本件強盗殺人未遂の犯行の際における本件サバイバルナイフの携帯についても被告人両名間で事前共謀があったと認めるのが相当であり,被告人Bは,その共同正犯としての責任を免れない。
3 犯人隠避罪の成否について
被告人Bの弁護人は,被告人Bは,判示第5の1の事実につき,強盗殺人未遂の共
同正犯として起訴されている以上,それが有罪であれば,共犯者であるAを隠避しても犯人隠避罪の主体とはなり得ないから,同罪は成立しないと主張するので,以下検討する。
上記1(2)認定事実に加え,関係証拠によれば,被告人Bは,平成14年7月13日午後9時過ぎころ,Kが運転する自動車に同乗して,和歌山県那賀郡c町内にあるV寺の近くまで来ていたが,犯行状況を聞くためAに電話をかけたところ,Aから,Qの横腹を刺したが金を奪うことに失敗し,同人は生きていて,はっきりと顔を見られて警察に通報されたようだと聞かされたことから,共犯者のAが警察に捕まれば,自分も捕まるものと考え,直ちにKに対しAが人を刺したことを伝えるとともに,Kとの間で,Aを警察に捕まらないよう逃走させることを相談し,警察の動きを警戒して走行中の自動車内からAに数度にわたり電話をかけ,同人に対し,

県道Y線でパトカーが検問しているので,こちらに来るな。

大阪に逃げるな。奈良方面に逃げろ。

国道24号線のZ方面で検問しているので,24号線を走るな。

などと警察車両を見付けるたびにその動きなどを逐一伝え,検問場所を回避して和歌山県外へ逃走するための情報を提供し,その便宜を与えた事実が認められる。
上記認定事実によれば,なるほど被告人Bは,Qに対する強盗殺人未遂事件につきAと共同正犯関係にあり,もっぱらAの逃走の便宜を図るためだけでなく,Aが,同事件で警察に検挙されることにより,その供述などによって,自分自身も逮捕され同罪に問われることを恐れ,単にAの利益を図るためだけでなく,自分自身の利益をも図る目的で,Aの逃走を手助けしたものと認められるから,本件犯人隠避は,被告人B自身の刑事被告事件に関する証拠隠滅としての側面も併有していたことが認められる。この点,刑法104条が,隠滅等の対象を他人の刑事事件に関する証拠に限定し,自己の刑事被告事件に関する証拠隠滅等については,一般的に期待可能性がないとみなして,これを不可罰としている立法趣旨との関係が問題となる。しかし,証拠隠滅罪は他人の刑事被告事件に関する証拠の完全な利用を妨げる罪であるのに対し,犯人隠避罪は,犯人を庇護して当該犯人に対する刑事事件の捜査,審判及び刑の執行を直接阻害する罪であって,法益侵害の態様を異にしており,後者の方がより直接的に国家の刑事司法作用を阻害する罪であること,実質的に考察しても,共犯事件における客観的物証や参考人,証人などの目撃供述は,共犯者間で利害を共通にすることが一般的類型的に予想されるのに対し,共犯者同士の供述は,必ずしも常に利害が共通する訳ではなく,これが大きく対立する場合もままみられ,共犯者間で果たした役割,犯行への関与の態様,責任の軽重などにおいても,多様な場合が考えられる上,共犯者同士の供述の証拠能力,その評価の場面においても,自白法則等との関係で,供述者本人とその共犯者のいずれに対してこれを用いるかで必ずしも同等に取り扱うことのできない場面が想定される上,共犯者間において,捜査,公判の進展状況が大きく異なる場合もかなりみられ,共犯者の一人が他の共犯者の蔵匿,隠避を図ることが,一般的類型的に他の適法行為に出る期待可能性がないとみなすことはできないと考えられるのであって,刑法103条と104条における法文の規定の仕方の差異も,以上のような観点から説明することが可能である。したがって,共犯者に対する犯人の蔵匿,隠避が,同時に被告人自身の刑事被告事件に関する証拠隠滅としての側面を併用しているからといって,それだけで一般的類型的に期待可能性がないと解することには無理があり,これを直ちに不可罰とすることはできず,その責任の有無程度については,個別具体的な事案毎に適法行為の期待可能性の有無,程度を検討すれば足りると解すべきである。
そして,これを本件についてみると,なるほど被告人Bは,Qに対する強盗殺人未遂事件の共同正犯ではあったものの,その実行行為には直接関与していない共謀者であって,本件犯行当時,官憲によって未だ捜査の対象として全く把握されておらず,Aとは終始別行動をとっており,自らはもっぱら安全圏にいて,何ら自己に捜査の手が及ぶ具体的な危険が生じていない状況下で,捜査の中心地域である和歌山県周辺を自由に車でKとともに走り回りながら積極的に捜査情報を収集し,これを強盗殺人未遂事件の共犯者であるAに逐次電話で教示していたことや,一緒にいたKの前でも自己がAの犯した事件に関与している素振りなど全く見せずに行動していたことなどに照らすと,被告人Bにおいて,他の適法行為に出る期待可能性がなかったといえるような特別の事情は存在しなかったと認められるから,本件における被告人Bの所為について犯人隠避罪が成立すると解すべきである。
(確定裁判)
(1) 被告人Aは,平成14年3月1日和歌山簡易裁判所で窃盗罪により懲役1年6月(執行猶予3年)に処せられ,その裁判は同月16日に確定したものであって,この事実は
検察事務官作成の同被告人の前科調書によって認める。
(2) 被告人Bは,平成14年3月1日和歌山簡易裁判所で窃盗罪により懲役1年(執行猶予3年)に処せられ,その裁判は同月16日に確定したものであって,この事実は検察事務官作成の同被告人の前科調書によって認める。
(法令の適用)
被告人両名の判示第1の所為のうち,建造物侵入の点はいずれも刑法60条,130条前段に,窃盗の点はいずれも同法60条,235条に,判示第2の所為のうち,住居侵入の点はいずれも同法60条,130条前段に,窃盗の点はいずれも同法60条,235条に,判示第3の1の所為はいずれも同法60条,235条に,判示第3の2の所為はいずれも同法60条,240条後段に,判示第3の3の所為はいずれも包括して同法60条,190条に,判示第4の各所為は別表番号毎にいずれも同法60条,235条に,判示第5の1の所為はいずれも同法60条,243条,240条後段に,判示第5の2の所為はいずれも同法60条,銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条に,被告人Aの判示第6の所為は刑法235条に,被告人Bの判示第7の所為は同法60条,103条にそれぞれ該当するところ,判示第1の建造物侵入と窃盗との間及び判示第2の住居侵入と窃盗との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により,それぞれ1罪としていずれも重い窃盗罪の刑で処断することとし,被告人両名について,判示第3の2及び第5の1の各罪については,各所定刑中いずれも無期懲役刑を,判示第5の2の罪については,所定刑中懲役刑をそれぞれ選択し,被告人Bの判示第7の罪について,所定刑中懲役刑を選択し,被告人両名について,判示第1の罪は,それぞれ前記確定裁判があった窃盗罪と同法45条後段の併合罪であるから,同法50条によりまだ確定裁判を経ていない判示第1の罪について更に処断することとし,その所定刑期の範囲内で被告人両名をそれぞれ懲役10月に処し,被告人Aについて判示第2,第3の1ないし3,第4,第5の1及び2,第6の各罪,被告人Bについて判示第2,第3の1ないし3,第4,第5の1及び2,第7の各罪は,それぞれ同法45条前段の併合罪であるが,被告人両名に対し,同法10条により判示第5の1の無期懲役よりも犯情の重い判示第3の2の無期懲役に処すべき場合であるから同法46条2項本文により他の刑を科さないこととして,被告人両名をそれぞれ無期懲役に処し,被告人両名に対し,同法21条を適用して未決勾留日数中,被告人Aに対しては480日を,被告人Bに対しては470日を,それぞれその無期懲役刑に算入し,押収してあるブースターケーブル1組(平成15年押第3号の1)は,判示第3の2の強盗殺人の用に供した物であり,同サバイバルナイフ1本(同押号の2)は,判示第5の1の強盗殺人未遂の用に供した物であり,同ライフハンマー1本(同押号の3)は,判示第2の住居侵入,第3の3の死体遺棄・損壊及び第4の各窃盗の用に供した物であり,いずれも被告人A以外の者の所有に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用して,これらを同被告人から没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人両名に負担させないこととする。(量刑の理由)
1 本件は,判示のとおり,被告人両名に対する建造物侵入・窃盗(判示第1),住居侵入・窃盗(判示第2),窃盗(判示第3の1),強盗殺人(判示第3の2),死体遺棄・損壊(判示第3の3),窃盗4件(判示第4),強盗殺人未遂(判示第5の1),銃刀法違反(判示第5の2),被告人Aに対する窃盗(判示第6),被告人Bに対する犯人隠避(判示第7)の各事案である。
2(1) 被告人両名の本件各犯行に至る経緯等は,前記認定のとおりであるところ,被告人Aは,自己が惚れ込んだ被告人Bと何としてでも結婚したかったことから,同被告人の歓心を買おうとするとともに,同被告人の実父から二人の結婚の許しを得るためには実父に対する金銭の支払いが必要だと被告人Bから嘘を言われこれを信じたことから,金銭を入手するため次々に各種犯行を重ねていったものであり,自己の結婚願望を実現するためなら,単なる窃盗にとどまらず,無関係な人間を殺害して金品を奪うことさえも何ら意に介さないという極度に身勝手でまことに短絡的かつ危険な発想に基づく犯行であり,その動機において,全く酌量の余地は認められない。
一方,被告人Bは,自己の借金返済資金や異性との自由な遊興のための小遣い銭を入手するため,自分と結婚したがっている被告人Aの心情を利用して窃盗等を敢行させ,さらに同被告人の知らないところで週末ごとに他の男性とデートを重ねていたところ,たった1度だけ二人のデート中にやってきた同男性の実姉が姉弟同士で仲良くしたことなどにひどく不満を抱いたことや,同女が日ごろから多額の金銭を持ち歩いていると思い込み,金銭にも窮していたことから,その翌週末に,被告人Aを利用して同女に対する強盗殺人等を敢行し,更にその翌週末にも前記男性
とデートをする約束をしていたが,その費用に窮したことからこれを入手するため,やはり被告人Aを利用して強盗殺人未遂等を敢行したものであり,甚だしく自己中心的かつ短絡的で強い金銭欲に基づいた犯行動機には寸毫も酌量の余地は認められない。
(2) Mに対する強盗殺人及び死体遺棄・損壊の犯行は,被告人両名が,共謀の上,被告人Bの当時の交際相手の実姉を殺害して,同女が所持していた現金在中の財布等を強取した上,同女の死体を山中にいったん投棄し,その後別の場所で焼却した上,燃え残った骨を川の中に投棄したという事案である。
本件は,被告人Bにおいて,被害者が電話で同被告人の巧みに演じるNという架空の男性に好意を寄せていることを利用して,好きな男性との初めてのデートであれば,被害者が普段より多めに金銭を持ってくるに違いないと予測した上,Nとデートさせるように見せかけて被害者を誘い出し,打ち合わせどおりNに扮した被告人Aと引き合わせ,同被告人において,被害者と二人きりになったところで,心臓の悪い被害者にスタンガンで心臓発作を起こさせて殺害し,その金品を奪った上,死体をダムに埋めて処分するという筋書きが描かれていた計画的犯行である。 その犯行態様は,当初の計画どおり,Nになりすました被告人Aが被害者を車で連れ出し,助手席に座っていた被害者の頸部にスタンガンを押し当てて電流を流したものの,同女を一時的に気絶させたにとどまり,ほどなくして気がついた同女が携帯電話で実弟に連絡をとったり,車外に逃げ出そうとしたことから,直ちにその手をつかんで車を疾走させ,道路脇に停めた車内において,助手席のドアから外に逃げようと必死の抵抗を続けていた被害者の頸部を2度にわたり同女の体が動かなくなるまで両手で思い切り絞め付け,その後も,同女がまだかすかに息をしているように見えたことから再度完全に絞め直すことにし,人目に付かないスーパー駐車場に移動した後,車内にあったタオルで2度にわたって同女の頸部を渾身の力を込めて絞め付け,最後にはとどめを刺すべくさらに車に積載していたブースターケーブルを取り出し,同女の頸部に巻きつけて数分間にわたって思い切り絞め付け,遅くともそのころまでに同女を頸部圧迫により窒息死させた後,現金等の入った同女の財布等を奪ったというもので,強固な確定的殺意に基づく極めて執拗で冷酷非情なものである。
その後,被告人Aは,被害者の死体を捨てる場所を求めて,車に死体を積んだまま山中に向かったが,ガソリンが不足してきたことから,偶々付近で見付けた雑木林に死体を捨てることにし,急斜面の崖の上から無造作に死体を放り投げて車で立ち去り,その後,同所では直ぐに死体が発見されるおそれがあったことから,人に見付からない場所に死体を移すため,再度引き返して死体にロープをかけて車で崖下から引きずり上げ,人が立ち入ることのないような寂しい山中に車で死体を運んだ上,周辺で拾い集めてきた木材等で台を作り,その上に泥まみれになった被害者の死体を乗せ,新聞紙や枯れ草とともに燃やし始め,その途中で購入してきた灯油を死体に振りかけながら半日近くをかけて,時には棒を使って死体に差し込んでこれを引き裂いたり,ひっくり返すなどしてほとんど骨と灰になるまでこれを燃やし続けた後,燃え残った大きな骨を木の棒で叩いて砕き,砕けない骨はビニール袋に詰め込んだ上,車で運び,橋の上から川の中に投棄したというもので,死体の処分方法としても極めて手の込んだ悪質な犯行であって,Mを殺害した悔恨や死者に対する畏敬の念など微塵も感じさせない非人間的な所業である。
また,被告人Aにおいては,捜査の手から逃れるため,犯行車両に取り付けていた偽のナンバープレートを直ちに元のものに付け替え,被害者の所持品である携帯電話等や犯行に使用した証拠品等を早期のうちにほとんど処分したり,被告人Bにおいては,安否を気遣う遺族に被害者の捜索願いを取り下げさせるため,被害者が男性と自らの意思で駆け落ちしたかのように見せかけるなど,証拠隠滅や偽装工作まで周到に行っている。
本件においては,何の罪もない被害者が,被告人らと知り合ったというだけで,一方的にその尊い生命を一気に奪われ,金品まで奪い去られた上,遺体を徹底的に焼き尽くされ,砕かれた末,捨て去られ,その存在の痕跡すらほとんど消し去られたという犯行の結果はまことに重大である。被害者は,昭和50年にS夫妻の長女として出生したが,生まれつき心臓が悪いため,幼少時から思い切り体を動かして遊ぶことも制限されていたが,子供のころから明るく優しい性格の持ち主であって,家計を支えるために働いていた母親を思いやり,家事の手伝いをしたり,弟の面倒をみるなどし,2度の心臓手術にも耐えて順調に進学して高校を卒業し,靴店店員,空港でのアルバイト,会社事務員などをした後,生活保護を受けて暮らしてい
たが,本件当時は,日常生活に何ら支障がない程度にまで心臓の機能も回復し,仲の良い友人と絵や小説を書くサークル活動を楽しみながら,実母実弟とともに平穏な生活を送っていたものである。しかるに,被害者は,Nが被告人Bの演じる架空の人物であるとはつゆ知らず,熱い想いを寄せるようになり,被告人らが仕組んだ危険な罠であるとは夢想だにせず,27歳の誕生日にNと初めて会えることを心から待ちわび,本件当日も,実弟の交際相手である被告人Bが引き合わせてくれた被告人AをN本人であると信用し,同被告人とのドライブに応じ,その最中にも優しい心遣いまで示していたのに,突如として同被告人に襲われ,異変に気付いて車外に逃れようとしたものの,同被告人に手首をつかまれて制止され,その後何度にもわたって首を絞められ続け,この間手足をばたつかせてあらん限りの力を振り絞って必死に抵抗を試みたものの,最後には力負けし,次第に抵抗力を失いもがき苦しむ中で,理由も全く分からず,耐え難い恐怖と苦痛の中で,27歳の正に誕生日に,未だ春秋に富む若さでありながら,家族に見守られることもなく,絶命するに至ったもので,その無念さは察するに余りあり,あまつさえ,その後は人里離れた寂しい山中で人知れずに焼かれた上,燃え残った骨すらも打ち砕かれて最後には川中に投げ捨てられたのであり,被害者の実母や実弟にとっても,かけがえのない娘や姉が突然失踪し,その安否を気遣う毎日を送っていたところ,被告人らの凶行の犠牲になったことを知らされ,その亡骸とまともに対面することすら叶わなかったのであり,遺族らの驚愕,悲嘆と憤怒の念は余りにも大きく,当公判において,そろって被告人らに対する峻厳な被害感情をあらわにし,極刑を強く望んでいる心情は,当裁判所としても十二分に理解することができる。
また,極めて冷酷非情な本件犯行が,世間を震撼させ,近隣住民にも与えた衝撃や不安感は非常に大きいものがあると考えられ,社会に及ぼした影響も看過することはできない。
(3) Qに対する強盗殺人未遂,銃刀法違反の犯行は,被告人両名が,共謀の上,被告人Aのかつてのアルバイト先の自動車用品販売店店長のQを殺害して同店の売上金等を強取しようと企て,被告人Aが携帯していたサバイバルナイフでQの左背部を突き刺したが,同人を殺害するに至らず,その際,同ナイフを不法に携帯したという事案である。
本件は,被告人Aが,元のアルバイト先店舗の内情に通じていたことから,被害者が午後9時過ぎになると店を閉めて店の売上金4,50万円を持ち出すことにねらいを付け,事前に同店に電話をかけて被害者が在店していることを確認した上,抜き身のサバイバルナイフを隠し持ち,被害者が店を閉めて外に出てくるのを待ち伏せし,同人と一緒に出てきた店員が被害者を残して立ち去り,同人と二人きりになるのを待って敢行したもので,周到な計画に基づく犯行である上,被告人らは,顔見知りの被害者を生かしておけば,同人に犯人が被告人Aであることを警察に通報され捕まる危険が高いことを見越して,刺すときは被害者の心臓を狙って突き刺すことまで打ち合わせていたもので,確定的殺意に基づく犯行である。 その犯行態様は,被告人Aにおいて,店を閉めて出てきた被害者といったん立ち話をした後,別れた被害者が,駐車場に停めていた自分の車に乗り込もうとして無防備状態になった機会を見計らって,その背後から,刃体の長さが約22センチメートルもある鋭利なサバイバルナイフを両手に握りしめて,計画したとおり,同人の背中の左側中央を狙って,ダッシュをかけて体ごとぶつかっていき,深々と突き刺したというもので,極めて残忍で凶悪なものである。
思いもかけず突然背中をサバイバルナイフで突き刺され,長さ約11センチメートル,幅約3センチメートルで脾臓にまで達する深手を負わされた被害者は,その直後から激痛に襲われるとともに多量の出血にみまわれながら,店の売上金を奪われまいと努めつつ,自力で懸命に警察に通報した結果,直ちに救急車で病院に搬送されたことから,大量輸血をした上で損傷した脾臓の摘出を含む約3時間にも及ぶ緊急手術によって,ようやく一命は取り留めたものの,腹腔内には2000cc余りの出血があり,今少し搬送が遅れていたならば出血死していた可能性が十分にあり,刺された箇所がわずかでも上下にずれていたならば,肺あるいは腎臓を損傷して,いずれにしても致命傷になっていた可能性が高かったと認められ,まさに死の一歩手前という極めて危険な状態にさらされたものである。被害者は,手術後入院生活を余儀なくされ,退院した後も相当期間自宅療養や通院治療を必要とする状態であった。
被害者は,もともと客として来店していた被告人Aと話すうちに親しくなり,同被告人をアルバイト店員として雇い入れ,同被告人が金銭に困っていたときには,2度に
わたって決して少なくない金を快く貸してあげた上,本件当日も,予告もなく店舗駐車場に現れた被告人Aのいかにもやつれた顔を見て,借金の取り立てから逃げ回って寝ていないのだろうと心底同情し,食事をしてホテルにでも泊まってゆっくり休むようにと告げて1万円を渡して励ましてやるなど,同被告人のためにいつも親身になって接し続けていたのであり,被告人Aから感謝されることはあっても恨みや憎しみを買う理由など全く認められない。それにもかかわらず,被害者は,理不尽にも被告人Aに裏切られ,被告人両名の強盗殺人計画の標的とされ,予想だにしない状況下で,肉体的精神的に甚大な打撃を受け,とりわけ大量出血を目の当たりにしたことから,差し迫った死の恐怖に直面させられただけでなく,事件後も傷口下部に腫れ物ができ,常時鈍痛にさいなまれてゆっくりと眠ることすらできず,ときには腹部にけいれんが発生して身動きがとれなくなるなど,日常生活や仕事の上でも多大な支障と困難に遭遇しているのであり,本件が,被害者の今後の人生やこれを気遣う家族の生活に及ぼした影響には甚大なものがある。このような状況から,被害者の被告人両名に対する処罰感情は峻烈であり,現時点においてもなお被告人らに対して極刑を求める心境にあるというのも十分首肯できるところである。 (4) その他の事件についてみるに,判示第1及び第2の各犯行は,いずれも金品目当てによる深夜の侵入窃盗であり,計画的でその手口も悪質であり,被害額も決して少なくない。判示第3の1の犯行は,Mに対する強盗殺人等の犯行の準備として,犯行車両に取り付けるためのナンバープレートを窃取したもので,計画的で犯情悪質である。また,判示第4の犯行は,金品目当ての車上狙いであり,連続的に4件も敢行しており,被害点数は多数にのぼり,いまだ被害弁償もなされていない。判示第6の犯行は,被告人Aが,Qに対する強盗殺人未遂等の犯行後,警察の捜査から逃れるため,犯行車両に取り付ける目的で駐車車両からナンバープレートを窃取したというもの,判示第7は,被告人Bが,上記強盗殺人未遂罪を犯した犯人である被告人Aに逃走の便宜を与えたという事案であり,いずれも身勝手な動機に基づく犯行であり,後者は,被告人Aをして和歌山県外への逃走に成功させることに貢献している。
(5) ところで,被告人両名は,平成14年3月1日,窃盗罪により,いずれも執行猶予付き判決を受けてからわずか4か月程度しか経過していないのに,判示第2以下で認定したとおり,わずか1週間のうちに,多種多数の犯行を重ねている。とりわけ,被告人両名は,Mに対する強盗殺人を企て,これを完遂し,その死体の処分を完了したわずか数日後に,今度はQに対する強盗殺人を企て,わずかのうちにこれを敢行し,結果的には,殺人及び金品奪取ともに未遂に終わってはいるものの,欲得のために人命を著しくないがしろにした凶悪犯行を繰り返している点は,特筆に値する。
(6) 以下,本件各犯行中,特に重大事犯であるMに対する強盗殺人及び死体遺棄・損壊事件及びQに対する強盗殺人未遂事件について,被告人両名の各刑責について更に検討を進める。
前述したとおり,被告人Aは,Mに対する強盗殺人及び死体遺棄・損壊事件においては,実行行為全般をほとんど単独で行っており,Qに対する強盗殺人未遂事件においては,自ら犯行計画を被告人Bに持ちかけ,そのとおり自ら全て単独で実行している。各犯行とも共犯者である被告人Bには,捕まる危険のある実行行為には積極的に参加協力する意思が当初から窺えないことからして,唯一の実行犯役として被告人Aは,各犯行遂行に必要不可欠な存在であり,同被告人の果たした役割は決定的なものがある。また,その各犯行態様は,Mに対する事件においては,スタンガンで殺害することに失敗した後は,血痕等による証跡が残りにくい絞殺という方法で計画を続行することを自ら決断し,過剰ともいえるほど執拗かつ徹底的な方法で繰り返しその頸部を絞め付け,確実に殺害の目的を遂げた上,その後長時間を要する死体の焼却作業を最後まで躊躇なく行い,燃え残った骨の処理までほぼ完璧に行うという念の入ったものであり,Qに対する事件においては,あらゆるためらいや気の迷いを振り切り,恩義のある自己の知人に対し,鋭利な刃物でその背後から身体の枢要部分を一突きにするという極めて卑劣かつ残忍な犯行に踏み切っており,各犯行とも被告人Bの単なる手足としてではなく,その場の状況に応じて自らの頭でも考えつつ積極的かつ主体的に行動していることが認められる。 他方において,被告人Bは,実行行為についてみる限り,Mに対する事件においては,死体の焼却作業に一部手を貸したにとどまり,Qに対する事件においては,全くこれに関与していない。しかしながら,被告人Bと結婚するためなら何でもしかねない被告人Aの心理につけ込み,同被告人に対する自己の圧倒的に優位な立場
を巧みに利用して,その思い通りに実行行為を行わせていたのはむしろ被告人Bの方であり,各犯行の実質的な首謀者は被告人Bとみるべきである。とりわけ被告人Bは,Mに対する事件においては,Kとの遊興費等欲しさなどという自己の真の犯行動機を被告人Aにひた隠しにしたまま,同被告人をして首尾よく同女の殺害と金品奪取等を行わせるにはどうすればよいかという観点から,複雑でかなり特異な犯行計画を当初から一人で練り上げ,これに沿って被告人Aをまんまと欺いて重大犯行に引き込み,他方で,自己あるいは自己の演じる男性に信頼を寄せている被害者をも言葉巧みに欺いてデートに誘い出し,両者を引き合わせて犯行の段取りを整えた上,実行段階で弱気になり殺害を躊躇していた被告人Aに対し,電話で自分の方はすでに被害者の実弟を殺害したなどと嘘をつき,同被告人を心理的に追いつめて殺害行為に踏み切らせ,その後も,被告人Aから,死体投棄の報告を受けるや,犯行の発覚を防ぐため,被告人Aに対し,被害者の死体を人目に付く場所から直ちに引き上げてこれを焼却することや証拠品を速やかに処分することを指示するとともに,自らも機転を利かせた演技で被害者の行方を探していた遺族や警察に被害者が恋人と駆け落ちをしたかのように思わせるなどして,事件の発覚を遅らせ,犯行全般にわたって終始主導的かつ積極的な役割を果たしており,奪った現金についても,被告人Bがその大半を取得している。また,被告人Bは,Qに対する事件においても,自分との結婚を餌に期限を切った厳しい金銭の催促を繰り返して被告人Aを重大犯行へと駆り立て,Qの心臓を狙って刺すようになどと具体的な実行方法にまで指示を出しており,やはり主導的かつ積極的な役割を果たしている。 これらの事情に照らすと,被告人らの刑責はいずれも極めて重大であり,その責任に特に軽重の差は見出しがたいというべきである。
3(1) ところで,検察官は,被告人両名に対して死刑を求刑しているところ,もとより死刑は人間の生命を永久に奪い去る究極の刑罰であることから,その適用については極めて慎重な姿勢で臨むべきであるので,さらに検討するに,Qに対する強盗殺人未遂事件は,前記のとおり鋭利な刃物を凶器として使用した残忍な犯行であり,被害者が被った肉体的,精神的苦痛の大きさにかんがみれば,その結果は極めて重大であるとはいえ,幸いにも死亡という最悪の結果を免れているほか,強盗の点も未遂に終わっており,本件一連の犯行における死亡被害者は,結局,M1名にとどまっている。また,判示第1の犯行は,被告人両名について確定裁判のあった窃盗罪とは余罪の関係にあり,被害品が一部回復されていること,判示第2,第3の1及び被告人Aの判示第6の各犯行についてもその被害品は回復されていること,判示第4の車上狙いは,被害合計額としては比較的少額であること,被告人Bの判示第7の犯人隠避は,自己の刑事事件に関する証拠隠滅という側面も併有しているため,責任非難という面においては酌量すべきものが認められることなど,被告人両名のためにそれぞれ酌むべき事情が認められる。
(2) 上記犯情に加え,被告人各自のために酌むべき事情として次のような事情も認められる。
すなわち,なるほど被告人Aは,積極的かつ主体的に各実行行為を行っているが,主導的であったとまでは認めがたい。前述のとおり,本件中の共犯事件における実質的首謀者は被告人Bであり,被告人Aは,その結婚願望につけ込まれ,被告人Bに都合の良い金蔓として巧みに利用されていた側面が強く,全犯行を通じて被告人Bの明示黙示の強い影響下にあったといえる。特に,Mに対する事件においては,被告人Bの立案した計画と段取りに基づいて被害者を車で連れ出したものの,同女の優しい人柄に触れて迷いが生じ,長いこと実行を躊躇していたが,最終的には,被害者の実弟を先に殺害したという被告人Bの虚言に心理的に追いつめられる形でついに殺害の実行に及び,その直後に実は被害者の実弟が生きていることを被告人Bから知らされて愕然としたが,時既に遅く,被告人BとKとの関係に疑問を抱いたものの,被害者の死体を車に積んだまま逃走しているような状況下では被告人Bに真相を追及する余裕もなく,死体の処理や証拠品の処分等に追われるうちに,結局真実を知る機会を逸し,その後も被告人Bの虚言を信じて夜を徹して金策に奔走し,やっと香典代分の支払いを終えたかと思うと,息をつく間もなく新たな金銭の催促が始まり,次のQに対する事件へと突き進んでいる。Qに対する事件においては,世話になった恩人を殺害することをさすがに躊躇し,これを避けるべく,昼夜を問わず車で走り回り,ひったくりなど思い付く限りの方法を試みようとし,被告人Aなりに重大犯罪を回避しようとした事情が窺えるが,結局,被告人Bの猛烈な金銭催促に後押しされる形で遂に実行に及んでいる。確かに,被告人Bとの結婚願望を実現するためなら凶悪犯罪すら辞さないという被告人Aの身勝手な犯
行動機自体には一片の酌量の余地も認められないし,被告人Bの実父に金銭を払えば,同被告人と結婚できるなどという非常識ともいえる嘘を信じ込んでいたこと自体にも重大な落ち度があるといわざるを得ないが,上記のような経過にかんがみると,それでもなお被告人Aの心情には一抹の同情を覚えざるを得ない上,重大な犯行を逡巡し,これを回避しようとした同被告人の行動の中に罪障感,良心の呵責といった人間性の一端も見い出すことが可能である。また,被告人Aは,捜査機関に対し,途中までは,被告人Bが関与していることを隠すため,単独犯行であったかのような虚偽の供述をしていたが,捜査官から被告人Bの実父が暴力団組長というのは全くのでたらめで,被告人Bにだまされていたことを教えられ,これに気が付いた後は,一転して死刑になる可能性があることも覚悟した上,自己らが犯した全ての罪について正直に供述をし始め,事案の全容解明に積極的に寄与したといえる上,当公判においても本件各事実を素直に認めて真摯な反省の態度を示しており,公判でも被害者らに謝罪の気持ちを表しているほか,遺族らに対しても極めて不十分ではあるが謝罪の手紙を書き送り慰藉の努力をしていることが認められる。被告人Aは,被告人Bと知り合うまでは,交際中の女性や元妻らのために借財を重ねるなどして自己破産をした経験があり,経済面ではだらしないところがみられるものの,ほぼ一貫して正業に就いて概ね真面目に社会生活を送っていたものであり,同被告人には,被告人Bとの共犯事件を含む窃盗罪の前科が1犯あるのみで,いまだ服役の経験もなく,現在34歳と比較的年若い。確かに,判示第2の犯行以降,急速に凶悪化の一途を辿っていたといえるが,他方で被告人Aの当時の生活状態をみると,被告人Bにだまされたことで生じた借金の取り立てから逃げ回るため車上生活者に転落して以降は,まともに睡眠や食事すらもとることができず,容赦なく繰り返される被告人Bからの金銭の催促に追いつめられ,頭の中は四六時中,いかにして被告人Bの求めるだけの金額を調達するかということだけで一杯になっていたことが窺われ,その窮状自体は,被告人A自らが招いた結果であるから致し方ない面があるとしても,精神的にも肉体的にも限界に近い状態であったことは有利に斟酌する余地が認められる。加えて,被告人Aの生い立ちをみると,幼少期に両親が離婚し,親戚に預けられるなどしたため家族の深い愛情には恵まれず,10歳で実母を亡くしたことから,母の愛情に飢えながら思春期を送ったことが窺われ,平成14年5月には,長年実父のように慕ってきた養父まで亡くし,ついに天涯孤独の身となり,被告人Bに一層の心理的依存と傾倒を深める事態となったため,平然と人をだませる被告人Bの本性を最後まで見破ることができない中で各犯行に至っており,そうした生育歴,家庭環境及び特異な共犯者の存在が本件犯行の背景事情として影響していないとはいえない。
被告人Bは,自分が直接手を下さないからとはいえ,終始,躊躇らしきものも示さず,極めて安易に重大な犯行を重ねており,とりわけMに対する事件においては,被告人Aに被害者を殺害させる計画が進行している最中に同女の実弟とのデートを楽しんだり,被害者が殺害された後,その行方探しをしている実弟や警察官の前であたかも同女が無事でいるように見せかける芝居をするなどして終始大胆かつ狡猾に立ち回り,実際に被害者が無惨に焼かれてる現場を目の当たりにしても,罪障感や憐憫の情を抱くどころか,遺体に対する冒とく的な言葉を平気で言い放ち,死体を燃やしている傍らで被告人Aに対し,奪った金を催促し,これを受け取るや,後の処理を被告人A1人に押し付けて早々と引き上げてしまった上,被害者の身に付けていた指輪は奪ったか,カード類は残っているかなどと被告人Aに問い質すなど,金品に対する執着だけは一向に止まるところがなく,被告人Aが,被害者の死体の処理を終えて戻ってくるや,次なる強盗殺人の計画を持ちかけているのであり,各犯行当時の言動をみる限り,被告人Bには一片の良心の呵責や罪の意識を看取することはできず,そのあまりの冷酷非情さには戦慄すら感じさせるものがある。しかしながら,被告人Bのその後の行動状況等をみると,同被告人は,犯人隠避罪で逮捕される以前から,両親に対しては,被告人Aが山で死体を焼いているところを見たと告げたり,3歳くらい年上の若い女性の霊に取り憑かれているなどと言って,徐霊してもらいに行くなど,Mに対する事件の存在を示唆する発言等をしていた上,その後,警察に対しても,被告人Aが人を殺して焼いているのを見たと自分から申告して,実際に死体が焼かれた場所に案内するなどしたものであり,当初こそは被告人Aが犯行に関与していることしか匂わせていないものの,被告人Aが捕まれば,自己が関与していることも発覚する危険があったのに,あえて警察にまで事件発覚に関わる重要情報を打ち明けていることからすれば,被告人BなりにMを殺害するなどした罪の重圧を次第に実感し始めていた証左であるとみられ,この点
において,同被告人にも人間性の一端をかいま見ることができる。そして,被告人Bが上記のことを警察に打ち明けたことが端緒となってMに対する事件が発覚したのであり,結果として事件の早期解決にかなり寄与したことは否定できない。なるほど被告人Bは,Qに対する事件については,被告人Aがまだ自分を信用して庇っていることに乗じて,自己が犯行に関与したことを秘匿したり,犯行方法について虚偽の供述をするなどして自己の刑責を免れあるいは軽減させようとしていたことが認められ,当公判においても,被告人AがQを本当に刺すとまでは思っていなかった,金さえ取ってきてくれればよかったなどと述べて,被告人Aに責任を押しつけるかのような態度もみられるが,その余の事実ついては概ね認めて反省の態度を示しており,公判で被害者や遺族らに謝罪の気持ちを表していることが認められ,公判の進展とともに反省悔悟の情が次第に大きく芽生えつつあることが窺われる。また,被告人Bは,その各犯行において主導的な役割を果たしているが,死体損壊行為の一部及び犯人隠避を除けば,自ら直接的な実行行為を行っておらず,この点をあまりに自己の都合良く考えていた点は強い非難は免れないとはいえ,禁止規範に直面していなかった点は,それなりに斟酌の余地がある。また,被告人Bは,被告人Aと同様,窃盗の前科が1犯あるのみで,いまだ服役の経験もない。両親によれば,被告人Bは,家庭においては実父の仕事をよく手伝い,両親を思いやる心優しい一面を有していることが窺われ,同被告人には,現在5歳と6歳になる2人の子供がおり,同被告人自身も,未だ25歳と若年である。
(3) 以上の諸事情を総合して考察すると,被告人両名の各犯罪傾向についてみる限り,これが人格に深く根ざしているためにいかに矯正教育を施しても矯正が不可能であると断定できるような状況にまで立ち至っているとは認めることはできず,今後の長期矯正教育によって改善更生の余地がないとみることはできない。4 結論
以上に検討したとおり,本件各犯行のうち,とりわけMに対する強盗殺人及び死体遺棄・損壊事件並びにQに対する強盗殺人未遂事件は,いずれも動機に酌量の余地がなく,計画的犯行である上,その態様も極めて悪質であり,各犯行の結果もまことに重大で,被害者あるいは遺族らの被害感情も峻烈であり,本件の社会的影響も看過できないことから,被告人両名の犯情はまことに悪質であり,その罪責は重大極まりないといわなければならないが,他方において,被告人両名について,それぞれ前記3で述べたような酌むべき事情が存在し,矯正教育による改善更生の余地がないとはいえないこと,検察官が論告で引用する判決(最高裁第2小法廷・昭和59年(あ)第512号昭和63年4月15日宣告)の事案と本件事案とではかなりの差異が認められる上,罪刑の均衡の見地,一般予防の見地あるいは同種事案に対する量刑の実情のいずれの見地からみても,本件において死刑を選択しなければ社会的正義に大きく反するとまではいいがたいことなどを総合して勘案すると,本件については,極刑をもって臨むことが真にやむを得ないと認めるべき場合には当たらないと認められるから,被告人両名について,判示第1の罪については,それぞれ懲役10月に,被告人Aの判示第2,第3の1ないし3,第4,第5の1及び2並びに第6,被告人Bの判示第2,第3の1ないし3,第4,第5の1及び2並びに第7の各罪については,それぞれ無期懲役に処することとし,被告人両名をして将来にわたり贖罪の日々を送らせるのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
平成16年3月22日
和歌山地方裁判所刑事部
裁判長裁判官

樋口裕晃

裁判官

丸山 徹

裁判官

藤本

ちあき

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