判例検索β > 平成13年(わ)第380号
殺人等被告
事件番号平成13(わ)380
事件名殺人等被告
裁判年月日平成14年10月4日
裁判所名・部奈良地方裁判所
裁判日:西暦2002-10-04
情報公開日2017-10-13 01:46:09
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
平成14年10月4日宣告 奈良地方裁判所
平成13年(わ)第380号,第402号,第434号
判 決
被告人Aに対する暴行逮捕監禁殺人死体遺棄及び火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反,被告人Bに対する逮捕監禁殺人及び死体遺棄各被告事件について,当裁判所は,検察官上野暁,弁護人和田一彦(被告人Aにつき,私選),同多田実(被告人Bにつき,私選)出席のうえ審理し,次のとおり判決する。 主 文
被告人Aを判示第1の1ないし4の罪について懲役16年に,判示第2の罪について懲役8月に処する
被告人Bを懲役13年に処する。
被告人Aに対し,未決勾留日数中240日を判示第1の1ないし4の罪の刑に,被告人Bに対し,未決勾留日数中240日をその刑にそれぞれ算入する。 理 由
(認定事実)
第1 暴行逮捕監禁殺人及び死体遺棄事件
(被告人らの身上,経歴及び犯行に至る経緯等)
被告人CことAは,昭和61年ころ,中学校を卒業し,その後,塗装工として稼働していたところ,平成元年ころ暴力団員と知り合い,組員として活動するようになり,その後一時期組を辞めたりしたものの,平成8年ころ,指定暴力団D組E組F会(その後の同D組O会F会)の正式組員となり,平成12年12月には若頭補佐に昇格したが,これに先立つ同年10月ころから奈良市a町(以下省略)のF会の事務所に寝泊まりしていた。
一方,被告人Bは,平成5年4月に高校に入学したものの,翌6年9月に退学し,その後,ガソリンスタンドの店員,長距離運転手等として稼働し,平成12年ころからはスナックに勤めていたものの,同年夏ころ同店も辞め,材木店や重機の給油販売の仕事に従事していたが,その間,スナックで働いていた際に客として来店していたF会のGの人柄に惹かれ,同人の舎弟になって同会の上記事務所に出入りするようになり,平成13年3月からは同事務所に寝泊まりするようになった。 ところで,被告人Bは,平成13年8月18日夜,G方で同人らと一緒に夕食を食べていたところ,被告人Aから電話があり,その後,一緒に食事をしようと誘われたため,当時,自動車の修理店から借りていた代車(日産スカイライン,以下,単にスカイラインという。)に乗って,待ち合わせ場所の奈良市a町にある飲食店に赴き,同日午後11時ころから翌19日午前1時30分ころまで,被告人Aと一緒に飲酒するなどした。その後,被告人両名は,同店を出て,当時F会が借り受けていたマンション一室に向かって歩いていたところ,同所付近のT字型交差点に差し掛かかった際,その交差点を車が走行していったのに対し,近くのラウンジで飲酒した後同交差点を歩いていたHから,「危ないぞ。」などと声を掛けられ
た。これに対して,被告人Aは,Hが酒に酔っている様子ではあったものの,気安く声を掛けられたと思って立腹し,

なんでお前にそんなこと言われなあかんね。お前誰や。

などと怒鳴り,Hもまた

お前誰やね。

などと言い返してきたため両者間で口論となった。その後,被告人Aは,a町は深夜でも人通りが多かったので,

他で話をしようや。

と持ちかけると,Hも

おう分かった。

と答えたことから,被告人両名はスカイラインを置いていた上記飲食店の駐車場に向かって歩き出し,Hも被告人両名に付いて行った。そして,同店の駐車場でスカイラインの運転席に被告人Bが,次いで,助手席にHが,最後に後部座席に被告人Aがそれぞれ乗り込み,被告人Bが同車を発進させたが,車中で,被告人Aが,なおもHに上記交差点での同人の態度に文句を付けたため,同人も

事務所に言わなしゃあないな。

と言うに至った。これを聞いた被告人Aは,

事務所てなんや。

と怒鳴り出し,被告人Bに上記のF会組事務所に戻るよう指示した上,Hに対し,

お前,組の事務所の名前出したけど,どこの組やね。親分の名前言えや。

と問い詰めた。Hは,

組はI組,組長はI・Jで幼なじみや。俺より一つか二つ年上で,家が近所やったから小さい時よう遊んだんや。俺の名前はHと言うね。

などと言ったため,被告人Aは,I・Jの所属するI総業がF会と対立する組であり,奈良市内でI総業ともめ事を起こしてはまずいと思い,上記のF会組事務所に電話をして他の組員にHがI総業と関係あるか否か確認するよう頼んだ。同日午前2時30分ころ,同車は同事務所近くに着き,被告人両名が降車し,被告人AがI総業の組員と電話でHのことを話したものの,はっきりしなかったことから,同組員がHを見に来ることになった。その間,被告人両名は,その場に駆け付けてきた同じ組の組員Kらと一緒にHの様子を見ていたが,同人が小便をしたいと言って同車を降り,どこかへ行ってしまおうとしたため,それを見ていたKがHを同車近くまで連れ戻した。しばらくして,同日午前3時過ぎころ,I総業の組員が来て,Hと話をしていたところ,いきなり同人を殴打し,被告人Aに,

こんな奴,知りませんで。

と言ったが,それでも,Hは,同組員に対し,

I組の組長知ってますね。幼なじみや。

などと言っていたものの,同組員はそのまま車に乗って帰ってしまった。
(罪となるべき事実)
1 被告人Aは,平成13年8月19日午前3時30分ころ,奈良市a町(以下省略)先路上において,上記のとおり,HがI総業とは関係がなかったにもかかわらず,あくまでI総業の組長と知り合いであるなどと言い張ったことに激高し,Hに対し,その顔面を右手拳で1回殴打する暴行を加えた。
2 被告人両名は,Kと共謀の上,上記日時ころ,上記場所において,被告人Bがスカイラインの運転席側レバーを操作して後部トランクの蓋を開け,KがHの身体を抱え上げ,被告人BがHの身体を支えるなどして,同人を後部トランク内に押し込み,蓋を閉めてその脱出を不能にするとともに,直ちに同車を発進させ,一旦は京都方面に向かって走行したものの,途中で再び奈良市内に戻った後,同市内から
出発し,被告人Bが仕事の関係で行ったことのある同市bに向かい,同日午前5時30分ころまでの間,同車を同市b町(以下省略)所在のbカントリークラブクラブハウス南西約150メートル先路上まで走行させ,その間約2時間にわたりHを同トランク内に閉じこめて脱出することを不能ならしめ,もって,同人を不法に逮捕監禁した。
3 被告人両名は,同日午前5時30分ころ,上記のbカントリークラブクラブハウス南西約150メートル先路上において,スカイラインの後部トランクを開けた上,被告人AがHに

起きろ。出てこい。

などと怒鳴ると,同人もこれに反論してきたことから,被告人Bが手拳でHの顔面を殴打しようとしたものの,同人に当たらず,かえって,同人がトランク内から出てきて金属製棒を振り回し被告人Aに向かってきたため,被告人Aは,現役のやくざが素人に舐められるわけにはいかないと憤激してH殺害を決意し,同人に組み付くなどして金属製棒を取り上げ,被告人Bに対して

殺してまえ。

と怒鳴り,被告人Bも,直ちにこれに呼応してH殺害を決意した。ここに被告人両名は,共謀の上,上記日時ころ,同所において,Hに対し,被告人Aが金属製棒で,その頭部,腕部,胸部等を多数回殴打したところ,Hが同車の後部トランク内に座りこむような格好になったため,被告人Bが自分の着ていた上着のスエットスーツのフードの布製紐を抜き取り,その紐でHの首を絞め上げた。すると,Hの上半身の力が抜け,トランク内に仰向けの状態で入ってしまったことから,被告人両名はHが死亡したものと思い込んで,同車の運転席に被告人Bが,助手席に被告人Aが乗り込んで同車を発進させ,車内でHの死体の処分方法を相談し,一旦前記のF会組事務所に帰って他の組員から死体を処分するためのガムテープやビニール製紐を受け取って出発し,当初は奈良市内を回った末,結局,奈良県c郡の山奥に捨てに行くことに決め,国道d号線を走行するなどして山奥に入って行き,同日午後5時30分ころ,奈良県c郡(以下省略)先路上に着いた。ところが,同所において,同車後部トランク内から何か音がしていたことから,同トランクを開けたところ,Hが生きていたため,被告人Aがその胸部等を金属バットで数回殴打し,被告人Bがその首をビニール製紐で緊縛し,もって,そのころ,同所において,Hを窒息死させて殺害した。4 被告人両名は,共謀の上,同日午後7時ころから午後8時30分ころにかけて,Hの死体を,奈良県c郡(以下省略)所在の関電柱e北北西約30メートル先山林内の土中に埋没し,もって,死体を遺棄した。
第2 火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反事件
(罪となるべき事実)
被告人Aは,K及びF会組員若頭補佐であるMらと共謀の上,有限会社L工業事務所に火炎びんを投てきして,人の財産に危険を生じさせようと企て,平成13年4月9日午前2時ころ,奈良市f町(以下省略)所在の有限会社L工業事務所前路上において,ビール瓶にガソリン及び灯油を注入しその口に布製おしぼりを巻き付けて点火装置とした火炎びん1本のおしぼり部分に所携のライターで点火した上,
同火炎びんを同事務所に向かって投げつけ,発火炎上させようとしたが,まもなく火が消えたため,その目的を遂げなかった。
(事実認定の補足説明)
1 被告人Bの弁護人は,判示第1の4の死体遺棄の事実に関し,被告人両名がHを土中に埋める際同人が既に死亡していたことについて,合理的な疑いを入れる余地のない程度にまで証明できていないので,被告人Bは無罪である旨主張するので,以下,検討する。
2 まず,関係各証拠によれば,被告人両名がHを土中に埋没する前後の事実経過等について,以下の事実が認められる。
被告人両名は,判示第1の3のとおり,平成13年8月19日午前5時30分ころ,前記のbカントリークラブクラブハウス南西約150メートルの路上で布製紐でHの首を絞め上げるなどしたところ,同人が動かなくなったため,同人が死亡したと考え,同人をトランクに入れたまま同車を運転して同人の捨て場所を探して山奥に向かい,同日午後5時30分ころ,前記の奈良県c郡東c村大字kl番先路上に着いたが,トランク内から何か音がしていたため,同人が蘇生したのではないかと考え,被告人Aが金属バットを,被告人Bがビニール製紐を手に持ってその近くに行き,トランクを開けてみた。すると,Hが苦しげな声を出しながら上半身を起こしてきたため,被告人Aが,Hを殺害すべく,金属バットでその胸辺りを数回強打すると,同人はぐったりとなり仰向けの状態でトランクの脇に頭を乗せるようにして倒れた。そこで,被告人Bは,Hの脈を測るなどしてその死亡を確認したものの,よく分からなかったので,同人を完全に殺害しようと,ビニール製紐を同人の首にかけ,力強く引っ張りながら7重に巻きつけ,紐が解けないように喉仏辺りで1重に結び,更にもう一度,両端の紐を引っ張りながら1重に結んだ。続いて,被告人Aが,Hが息を吹き返さないようにその口と鼻付近にガムテープを貼り付け,さらに,被告人Bが,Hの頭部から肩付近までビニール袋を被せた。この間,Hは,抵抗しなかったことは勿論,全く動かなかった。
その後,被告人両名は,Hをトランク内に入れたまま,同人を埋める場所を探して自動車で約1時間30分走行し,判示第1の4の犯行現場に到着した。同所において,被告人両名が,約30分から1時間かけて穴を掘った。穴を掘り終え,Hを埋めるためトランクを開けたところ,同人はトランク内に身動き一つせず横たわっていたが,頭部に被せたビニール袋の同人の口元付近は水蒸気様のもので白くなっていた。
その後,被告人両名は,トランク内からHを運び出し,同人を穴の中に入れて土を被せ終えたが,その間約30分かかった。
そして,平成13年10月20日,被告人Aの案内により,本件遺棄現場からHの死体が発見された。
3 次に,医師N作成の鑑定書及び同人の当審証言によれば,Hの死因等について,次の事実が認められる。

(1)Hの死体の特徴は,屍ろう化を呈していることである。屍ろう化とは,一般に死体は腐敗していくものであるが,水分が多く空気の流通の悪い場所に死体が置かれた場合には,腐敗が妨げられ脂肪が分解して脂肪酸となり,蛋白質の一部も細菌の作用等で脂肪酸に変化し,これら脂肪酸は水中や土中のカルシウムイオン等と結合して鹸化する。未完成の屍ろうは柔らかくチーズ様で,完成したものは硬くて石膏様である。Hの死体は全身の皮膚が屍ろう化し,筋肉も一部屍ろう化している。
そして,その死体の屍ろう化及び臓器の腐敗が高度のため,死体解剖上,Hの死因は不詳である。
(2)また,Hの死体の頸部には,7回巻かれて前頸部左側で結束された紐様の索状物があり,これを除去すると,全周にわたり,約1から1.2センチメートル幅,最大0.8センチメートルの深さの陥凹がある。索状物が巻かれた時点で,皮膚が強く絞頸されたことが推測されるが,このような頸部への圧迫が維持されたまま放置された場合,通常10分から15分後には死亡し,1時間後であれば完全に死亡するに至る。
なお,一般的に,索状物で絞殺された場合,舌骨,甲状軟骨,輪状軟骨の骨折が見られることがあるが,これらは絞殺の全てに見られるものではなく,骨折がない場合であっても,気道が閉塞され,窒息死する場合が少なくない。4 上記2及び3の事実を総合して考察すると,Hの解剖結果からは,死体の屍ろう化等のため,同人が遺棄された時点で死亡していたのか否かは不明であるものの,被告人BがHの首にビニール製紐を7重にも巻き付けて絞め上げた結果,そのビニール製紐は同人の頸部に最大約0.8センチメートル食い込んだ状態になっており,通常,このような状態のままであれば,10分ないし15分で死亡し,1時間後には完全に死亡するというのであるから,Hは遺棄されるまで1時間30分以上もの間,上記の状態でトランク内に放置等されていたことからすると,被告人両名の本件遺棄当時,Hは既に死亡していたものと優に認定することができる。 これに対し,弁護人は,被告人両名がHを遺棄する際,同人の頭に被せていたビニール袋の口元付近に水蒸気がついていた点を指摘して,同人が当時未だ生存していた可能性が残る旨主張する。しかしながら,Nの当審証言によると,人間が呼吸しているときにビニール様のものが当てられると,呼気中には水分が含まれているため,ビニール様のものに水蒸気状のものが付着することはあるが,一方,既に死亡している場合であっても,人体には水分が多く含まれているため,死後も皮膚から水分が蒸発し,同様にビニール様のものに水蒸気状のものが付着することもあることが認められる上,ビニール袋を被せた時点においてHが生存しており,その際付着したとも考えることもできるのであるから,いずれにしても,弁護人指摘の上記の点は,上記の認定に何ら影響を及ぼさないというべきである。したがって,弁護人の上記主張は採用しない。
(確定裁判)

被告人Aは,平成13年6月26日,奈良地方裁判所で傷害罪により懲役10月(3年間執行猶予)に処せられ,その裁判は同年7月11日確定したものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。
(法令の適用)
(被告人Aについて)
被告人の判示第1の1の所為は,刑法208条に,判示第1の2の所為は,包括して同法60条,220条に,判示第1の3の所為は,包括して同法60条,199条に,判示第1の4の所為は,同法60条,190条に,判示第2の所為は,同法60条,火炎びんの使用等の処罰に関する法律2条2項,1項にそれぞれ該当するところ,判示第1の1の罪については所定刑中懲役刑を,判示第1の3の罪については所定刑中有期懲役刑をそれぞれ選択し,判示第1の1ないし4の各罪は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第1の3の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をし,判示第2の罪は前記確定裁判があった傷害罪とは同法45条後段の併合罪であるから,同法50条によりまだ確定裁判を経ていない判示第2の罪について更に処断することとし,それぞれその刑期又は所定刑期の範囲内で,被告人を判示第1の1ないし4の罪について懲役16年に,判示第2の罪について懲役8月に処し,同法21条を適用して,未決勾留日数中240日を判示第1の1ないし4の罪の刑に算入することとし,訴訟費用については,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(被告人Bについて)
被告人の判示第1の2の所為は,包括して刑法60条,220条に,判示第1の3の所為は,包括して同法60条,199条に,判示第1の4の所為は,同法60条,190条にそれぞれ該当するところ,判示第1の3の罪について所定刑中有期懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第1の3の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をし,その刑期の範囲内で被告人を懲役13年に処し,同法21条を適用して,未決勾留日数中240日をその刑に算入することとし,訴訟費用については,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。(量刑の理由)
1 本件は,暴力団幹部であった被告人Aが,路上を通行中の男性と口論の末,同人に暴行を加えた上(判示第1の1),同被告人及び同じ暴力団組員であった被告人Bが,他の組員と共謀して,上記男性を普通乗用自動車のトランク内に押し込んで山中まで連行し(判示第1の2),その後,被告人両名で2度にわたり上記男性の首を絞めるなどの暴行を加えて殺害し(判示第1の3),その死体を土中に埋めて遺棄した(判示第1の4)という,被告人Aに対する暴行逮捕監禁殺人及び死体遺棄,被告人Bに対する逮捕監禁殺人及び死体遺棄,並びに,被告人Aに対する,会社事務所に対して火炎びん1本を投げ込んだが,火が消えたため未遂に終
わったという共謀による火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反(判示第2)からなる事案である。
2 殺人及び死体遺棄等の事案(判示第1の1ないし4)についてみるに,深夜,被告人両名が飲酒した後,歩いて近くのマンションに帰る途中,酒に酔った被害者から声をかけられて口論になり,同人が対立する暴力団組長と知り合いであるなどと言ったことから,それが本当であるか否か同組の組員を呼んで確かめさせたところ,同組とは関係がない旨言われたのに,被害者があくまで同組と関係があると言い張ったため,これに立腹した被告人Aが被害者を手拳で殴打したばかりか,同人を車の後部トランク内に詰め込んで蓋を閉め,そのまま約2時間も同人を閉じこめたまま同車を走行させており,まるで同人を物のように扱っているものであって,非人間的な所業である。しかも,その後,山中において,確定的殺意を持って,金属製棒で同人の身体を多数回殴打した上,布製の紐でその頸部を力任せに絞め付けたところ,同人が気絶したため,同人が死亡したと考え,同人を約半日間もトランク内に入れたまま車を走行させ,湖に沈めるか,山に埋めるかなどと相談しながら捨てる場所を探し回り,同人が生きていることに気付くや,何ら躊躇することなく,全く無抵抗の同人の上半身を金属製バットで数回強打した上,トランク内に倒れてしまった同人の首にビニール製紐を7重にも巻き付けて力一杯絞め上げるなどして殺害し,更に,息を吹き返さないように同人の鼻と口付近にガムテープを貼り付けるなどし,その死体を山奥の土中に埋没してもいるのであって,冷酷かつ残虐で,被害者の生命の尊厳を一顧だにしない非道な所業には慄然とせざるを得ない。そして,被告人両名は,犯行後,自らの犯行が発覚するのを防ぐため,当時着用していた自分たちの衣服や靴等を燃やしたり,犯行に使用したスカイラインの後部トランク内を水洗いしたり,車内を拭いたりするなど,証拠の隠滅を図っているのであって,犯行後の態様も悪質である。そもそも,口論の発端は被害者が被告人らに声をかけたことにあり,もし,被害者が被告人らと対立関係にある暴力団の名前を出したり,関係があると言い張ることもなければ,今回の事件も起こらずにすんだ可能性は否定できないとしても,被害者は単に酔って組の名前を出しているだけで,攻撃的な態度を全く示していなかったばかりか,途中でその場から離れようとしてKらによって連れ戻されてもいるのであるから,このような被害者が暴行を受けたり殺害されねばならない道理は微塵もないのである。また,被告人両名が確定的殺意を抱いたのも,被害者がトランク内から出てきて金属製棒を持って振り回してきたことがきっかけになってはいるが,同人としては,突然自動車のトランク内に押し込まれ,その後2時間にもわたり狭いトランク内に閉じこめられていたのであるから,このままでは何をされるかもしれないとの不安感,恐怖心から必死になって自己の身を防衛しようとしたものと見られ,この点においても,何ら責められるべきものはないのである。
一方,被害者は,高校時代から軟式テニスに打ち込み,インターハイで優勝したりしたスポーツマンで,大学卒業後は,テニスショップに就職し,両親,妻,そし
て不妊治療の後にやっと授かった待望の長男らと共に,子供の成長を楽しみに,良き父,良き夫として平和に暮らす日々を送っていた。事件当夜は,飲酒後,繁華街を通行中,たまたま被告人両名に声をかけたことから,不幸にも本件犯行に遭ったもので,長時間にわたり自動車のトランク内に閉じこめられて身体活動の自由を奪われ,挙げ句の果てに,上記のような冷酷かつ残虐な方法でその命を絶たれているのである。本件によって被害者の受けた精神的,肉体的苦痛には想像を絶するものがあり,上記の家族を残したまま無惨な殺され方をした被害者の無念さは察するに余りある。そして,本件殺害後約2か月を経てようやく発見された際には,既に正視に耐えない姿に変わり果てていたもので,誠に哀れというほかない。 また,毎回法廷傍聴に被害者の遺影を持って訪れるその遺族らの心中にも痛恨極まりないものがあると思われる。被害者が行方不明になった後,2か月もの間,その生存に一縷の望みをつなぎつつ不安な日々を過ごした末,被害者死亡という最悪の結末を知らされた遺族らの悲しみは,深く,甚大でもある。被害者の妻は,一家の大黒柱である最愛の夫を奪われたばかりか,突然父親を奪われた幼い長男の心の傷を憂い,児童相談所に通所し,改姓した上,長男が被害者の遺族であるのに,いじめに遭うのではないかとの不安から住み慣れた居所を離れざるを得なくなるなど,苦悩の日々を送っている。被害者の妻は,

主人にこのようなことをした犯人には,主人と同じような目にあってもらいたいと思います。

と述べるなど,遺族らの処罰感情は峻烈である。しかしながら,現段階において,被告人両名は,金銭的な慰謝の措置を何ら講じていない。
そして,本件は,一般市民が繁華街で忽然と行方不明になり,その後,暴力団組員に拉致された上殺害されていたことが明らかになったことなどから,新聞等でも大きく報道され,その惨状の故に周辺住民はもとより一般社会に大きな衝撃を与えた事件であって,その社会的影響も無視できない。
3 被告人Aは,本件殺人及び死体遺棄等の事案において,被害者の態度に立腹して,まず最初に同人に暴行を加えた上,同人をトランク内に押し込むよう他の組員に命令し,山中においても,被害者から金属製棒を振り回されるや,すぐに確定的殺意を抱き,被告人Bにも殺害するよう命じている上,自らも金属製棒や金属バットで被害者を強打するなどし,死体を遺棄する際にも,被告人Bと共に被害者を埋める穴を掘り,被害者を運んで土中に埋めるなど実行行為を分担しているのであって,動機は短絡的かつ自己中心的である上,終始主導的かつ中心的な役割を果たしたものといえ,追随的に関与した被告人Bに比べるとその責任には重いものがある。加えて,平成13年6月には,傷害罪により,懲役10月,執行猶予3年の判決を受けているのであるから,厳に身を慎むべき立場にありながら,そのことを全く意に介することなく,わずか2か月足らずで本件犯行に及んでいるもので,その粗暴さ,規範意識の希薄さは顕著である。また,火炎びんの事案については,対立暴力団の企業舎弟と考えていた有限会社の実質的経営者が生意気であるとして敢行された犯行で,気に入らない者は暴力によって屈服させるという暴力団
特有の論理に基づくものであり,動機に酌量の余地はなく,予め下見し投てき場所や時間を決めた後,ビール瓶数本を準備して火炎びん数本を製造するなどした上,深夜,犯行に及んでいるのであって,用意周到かつ計画的なもので,危険な犯行でもある。被告人Aは,所属暴力団組員である共犯者から本件犯行を持ちかけられて安易にその依頼を引き受け,成り行きの面もあったとはいえ,実際に火炎びんに火を付けて投げつけるという実行行為を担当しており,犯情悪質といわざるを得ない。
このような事情を総合すると,殺人及び死体遺棄等の事案について,その刑責は重大といわざるを得ず,また,火炎びんの事案についてのそれも,軽視することはできない。
そうすると,他方で,殺人及び死体遺棄等の事案について,当初犯行を否認していたものの,捜査段階の途中からは素直に自らの罪を認めるに至り,公判廷においても,被害者に対して申し訳ないことをしてしまい,日々その冥福を祈っており,今後は遺族に対しできる限り民事上の責任を果たしていきたい旨述べるなど,反省の情を示していること,また,計画性が乏しく,偶発的な側面が大きいこと,そして,本件では,被害者の死体が発見されなければ事案の解明は困難であったか,少なくともかなり遅れた可能性があったと思われるところ,被告人Aは,捜査段階において,犯行当時興奮していたことなどから,走行経路について記憶がかなり混乱していたものの,それでも被害者の死体を発見すべく,できる限り当時のことを思い出して,遺棄したと思われる場所にまで捜査官を案内し,その結果,死体が発見されたもので,このような同被告人の行動が早期の真相の解明に大きく寄与したといえること,同事案をきっかけに,自らの意思で組を脱退したこと,更に,火炎びんの事案については,前記確定裁判の余罪に当たる上,犯行自体未遂に止まっているし,従属的立場にもあったことなど,被告人Aのために酌むべき事情を十分考慮しても,上記各事案について,それぞれ主文の刑に処するのが相当であると考えた。
4 被告人Bは,逮捕監禁殺人及び死体遺棄の事案に関与しているのであるが,いずれも,要するに,暴力団組織においては,上位者の言うことは絶対でありその意を酌んで率先して行動しなければならないとの暴力団員特有の信念の下,被告人Aの指示に従って,なんら躊躇することなく犯行に及んだものであり,その理不尽な動機は厳しく非難されるべきものである。そして,被告人Aから命じられるままにスカイラインの後部トランクを開けるとともに,自身も被害者をトランク内に押し込むのを手伝い,そのまま同車を運転して犯行現場まで走行しており,最初の殺害現場では,被告人Aから指示されたわけでもないのに,着ていた上着のスエットスーツのフードから紐を引き抜いて,被害者の首に巻いて強く絞め続け,さらに,第2の殺害現場でも,自らの判断で,倒れ込んで動かない被害者に対し,最後のとどめを刺すべく,ビニール製紐をその頸部に7重にも強く巻き付けて絞め上げ,紐がはずれないように2回結ぶなどして,確実に被害者を殺害するよう率先して行動
している。また,死体遺棄の際にも,被告人Aと共に穴を掘り,被害者を運び,土中に埋めているばかりか,さらに,同被告人に対して,被害者の身元が判明しないようにその着衣の中の持ち物を確認するよう進言するなどしている。このように,被告人Bは,いずれの犯行についても,重要な役割を果たしている上,その態様は実に冷酷かつ残忍である。したがって,被告人Bの刑事責任もまた重いといわねばならない。
そうすると,他方で,捜査段階において犯行状況等について具体的で詳細な供述をしており,公判廷においても,罪を認め,被害者に対し取り返しのつかないことをしてしまって申し訳ないと思っており,今後は,刑務所での賞与金を含め,被害者の遺族に金銭的支払いをしていきたい旨述べるなど,反省の情を示していること,本件は,暴力団幹部の被告人Aの指示の下に敢行したものであり,たまたま同被告人と行動を共にしていたため,同被告人に追随してしまったという側面が存することも否定できず,従属的な立場にあったといえること,被告人Bには前科がなく,暴力団組員として活動するかたわら,定職にも就いていたこと,現在は,自らの意思で組を脱退していること,そして,被告人Bの両親が毎週同被告人と面会するなど,その更生を強く願うとともに,被害者宅に謝罪に赴くなど,それなりの誠意を示していることなど,被告人Bのために酌むべき事情を十分考慮しても,主文の刑に処するのが相当であると考えた。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑・被告人Aに関し判示第1の1ないし4の罪について懲役18年,判示第2の罪について懲役1年,被告人Bに関し懲役15年)
平成14年10月4日
奈良地方裁判所刑事部






裁判長裁判官





裁判官

東 尾 龍 一
品 川 し の ぶ

裁判官 鵜 飼 万 貴 子・

トップに戻る

saiban.in