判例検索β > 平成13年(わ)第367号
強盗致傷、強制わいせつ(ただし、認定罪名は恐喝、傷害、強制わいせつ)
事件番号平成13(わ)367
事件名強盗致傷,強制わいせつ(ただし,認定罪名は恐喝,傷害,強制わいせつ)
裁判年月日平成13年11月30日
裁判所名・部神戸地方裁判所
裁判日:西暦2001-11-30
情報公開日2017-10-13 01:48:56
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判決 平成13年11月30日 神戸地方裁判所 平成13年(わ)第367号 強盗致傷,強制わいせつ(ただし,認定罪名恐喝傷害強制わいせつ)被告事件
主 文
被告人を懲役3年に処する
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し,その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。
理 由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1 徒歩で帰宅途中の女性から金品を脅し取ろうと企て,平成13年3月30日午後11時ころ,神戸市A区Ba丁目b番c号先歩道上において,同所方面に向けて徒歩で帰宅途中のV(当時24歳)を発見するや,先回りして同所付近に停車させた普通乗用自動車内で同女を待ち伏せ,同女が同車の左方を通過した際,同車から降車して大声を出しながら同女に近づき,同女に対し,その右腕を掴んだ上,これを振り払って逃げようとして転倒した同女の背後からその両腕を掴んで立ち上がらせると,右手で同女の口を塞ぎ左手を同女の体の前に廻して,同女に対し,静かにしろ,車に乗れと何度も怒鳴り付け,抵抗すれば五体満足では帰さない旨申し向けながら,同女を同車に連れ込もうとその体を引っ張る等の暴行脅迫を加え,同女をして,そ
の所有に係るブラウス2枚等4点在中の手提げ紙袋1袋(時価合計約1万4600円相当)を被告人の足下に放置したまま逃げ出させる等して,もし前記手提げ紙袋1袋を取りに戻れば,その身体等にいかなる危害が加えられるかもしれない旨畏怖させ,よって,即時同所において,同女にその取り戻しを断念させてこれらを喝取し,その際,前記の暴行により,同女に全治約5日間を要する顔面擦過傷,左膝打撲・擦過傷等の傷害を負わせた
第2 前記日時場所において,同女に対し,前記のとおり喝取行為に及ぶうち,被告人が同女と揉み合いの末同女ともども転倒した際,にわかに劣情を催し,同女の意に反して,同女のスカート内に右手を差し入れてその臀部を撫で回し,もって,強いてわいせつな行為をした
ものである。
(証拠の標目)―括弧内の数字は証拠等関係カードの検察官請求証拠番号― 省略
(争点に対する判断)
第1 検察官は,判示第1につき,訴因として,ほぼ同一の事実を掲げながら,暴行脅迫が被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものであるとして,強盗致傷の事実を主張し,他方,弁護人は,被告人が,恐喝の故意で被害者にその反抗を抑圧しない程度の暴行脅迫を加えたところ,被害者が逃げ出したため,現場に残された金品を領得し,その際の暴行により傷害を負わせたにすぎないとして,恐喝未遂,窃盗傷害の各罪が成立するにとどまる,仮に強盗罪が成立するとしても傷害の程度が軽微にとどまるので強盗致傷の罪は成立しない旨主張し,さらに,判示第2については,強制わいせつの故意もなく,被告人が被害者の臀部を撫で回したこともないので無罪である旨主張する。
当裁判所は,公訴事実第1については,恐喝既遂と傷害の各罪が成立するにとどまると判断し,公訴事実第2については,関係各証拠によれば優にこれを認めることができると認定したものであるが,所論に鑑み,その理由について補足して説明を加える。
第2 判示第1の事実について
1 前掲関係各証拠によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告人は,自らが起こした交通事故により破損したトラックの修理代7万4000円を家計から支出したところ,領収書を受け取れなかったことなどで妻に執拗に責められる等したことから,同額の現金を入手して妻に返さなければならないと思い詰め,帰宅途中の1人歩きの女性から金品を奪取しようと企て,判示普通乗用自動車(以下本件ワゴン車という。)で神戸市C区内や三田市内を走り回った挙げ句,人通りや車の交通量も少なく,さほど明るくない本件現場付近に至り,同所において,左腕に紙袋と革製の手提げバックを提げて徒歩で帰宅途中の被害者V(以下被害者という。)を発見して,同女から金品を奪い取ろうと決意し,先回りして本件ワゴン車を歩道に横付けして,予め用意していたマスクを着用
して,同女を待ち伏せ
た。
(2) 被告人は,平成13年3月30日午後11時ころ,被害者が本件ワゴン車の横を通りかかるや,突然同車から降車してこらーなどと大声を出しながら同女に近づき,同女の右腕を掴んだところ,被害者は,これに驚いて悲鳴を上げ,被告人の手を振り払って逃げようとしてつまずいて前のめりに転倒し,歩道上に四つんばいの状態になった。被告人は,背後から同女の両腕を掴んで立ち上がらせると,右手で同女の口を塞ぎ左手をその体の前に廻して,同女に対し,静かにしろ,車に乗れと怒鳴り付け,抵抗すれば五体満足では帰さない旨申し向けながら,同女を本件ワゴン車内に連れ込もうとその体を同車の方に引っ張ったが,同女が抵抗し続けたため,その場で揉み合いとなり,同女ともども前記歩道と車道(市道)との間にある植え
込みに向かって倒れ込んだ。
その後,被害者は,被告人に体を密着させられて肩を押さえつけられる等したが抵抗を続け,前記市道を二,三台の自動車が通り過ぎた際には,大声で助けを求めるなどしたところ,突如,被告人が力を抜いたため,すぐさま立ち上がって現場から走って逃げ出した。そして,被害者は,五,六メートル走った地点で現場に放置した手提げ紙袋や茶色革製手提げカバン等が気になり,これらを取り戻そうと振り返って現場付近を眺めると,茶色革製手提げカバンは見当たらなかったものの,手提げ紙袋が被告人の足下に落ちていることに気付いたが,もし取りに戻れば被告人に捕まり車に連れ込まれて乱暴されるかもしれないと考えて,手提げ紙袋等を取り戻すことを断念し,そのまま被害者宅に向けて逃げ去った。 他方,被告人は,被害者が現場に放置した判示手提げ紙袋1袋を発見するや,これを拾い上げて領得し,現場から逃走した。被害者は,被告人の前記一連の暴行により,判示の傷害を負った(なお,被告人は,当公判廷において,被害者の右腕を掴んだことはなく,同女に

五体満足で帰りたいやろ。

等と言ったこともない旨弁解するが,信用性の十分な前掲Vの検察官及び司法警察員に対する各供述調書や被告人の捜査段階における各供述調書と対比して検討すると,その信用性は極めて乏しいから,採用しない。)。
(3) 被告人は,比較的小柄な体格であり,本件犯行当時,オレンジ色のトレーナーにうす青色のズボンを着て,黒の野球帽子をかぶり,口の辺りに白マスクを付けていた。他方,被害者は,女性としては比較的長身であり,本件犯行当時,白色スプリングコートに灰色膝丈のタイトスカートを着てハイヒールの靴を履いており,左腕に前記紙袋と茶色革製手提げカバンを掛けて,右手で傘を差していた。 2 以上の事実を前提として,前認定の被告人の暴行脅迫が,社会通念上被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものであったか否かを検討するに,①本件各犯行は,被告人が降車してから被害者が逃げ出すまでの間の事件であるが,全体として極めて短時間で終了しているだけでなく,殴る蹴る等の手荒な暴行は一切加えられておらず,また,凶器等も用いられていないこと,②被害者は,被告人の前記暴行脅迫にもかかわらず,体をくねらしたり,大声で助けを求める等して終始実効的な抵抗を続けており,前記の経過で被告人の力が抜け同女の体から離れるや,すぐさま本件現場から逃げ出せたこと,③被害者の被った前記傷害の程度は軽微なものにとどまり,その抵抗能力・意欲に大きな影響を与えるものではなかったこと,④本件現場は,駅周辺
地域と住宅街を結ぶ市道沿いの歩道上で,駅から徒歩10分ほどの地点にあって,本件犯行当時においても,自動車二,三台が本件現場前を通り過ぎる等しており,交通量や人通りが完全に途絶えていたわけではないこと,⑤被害者は,本件犯行当時,本件ワゴン車に連れ込まれて乱暴されることを恐れていたものの,前記②の点に照らすと,現実にその反抗を抑圧された心理状態にあったとも言い難いこと,⑥被告人は,当初,徒歩で帰宅途中の女性を狙い,騒がれてもよいように本件ワゴン車に連れ込み,脅しつけて金品を奪い取るつもりであったが,車内で手荒な暴行を加えるつもりもなく,もとより凶器等も準備していないことに照らすと,当初から強盗の故意を有していたとも言い難いこと等に徴すると,被告人の前認定の暴行脅迫をもって,社会通
念上被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものであったと断ずるには,なお合理的な疑いを容れる余地が残るといわざるを得ない。
そうすると,被告人は,被害者の反抗を抑圧するに足りない程度の暴行脅迫を加え,被害者を畏怖させ,同女をして被告人の足下に放置した手提げ紙袋等の
取り戻しを断念させてこれらを喝取し,その際,被害者に前記傷害を負わせたのであるから,恐喝既遂罪と傷害罪が成立するにとどまるというべきである。第2 判示第2の事実について
1 被害者は,前掲検察官及び司法警察員に対する各供述調書において,被告人と揉み合いになって膝から倒れ込み,植え込みに両手をついて四つんばいになるや,被告人が,同女の背後から体を密着させ,同女の左肩付近を左手で押さえ付け,右手を同女のスカートの中に入れてストッキングの上からお尻を触ってきた旨供述しているところ,その供述内容は具体的かつ詳細で迫真性に富んでおり,被告人の捜査段階における供述も概ねこれに沿うものであるなど,同女の供述には高い信用性が認められる。
2 これに対し,被告人は,当公判廷において,意図的に被害者の臀部を撫で回したことはない旨供述するが,前認定のとおり,被害者は,本件犯行当時,幅の狭い裾が膝上辺りにまで達するタイトスカートをはき,しかも裾がスカート丈と同じくらいのスプリングコートをその上に着用していたのであるから,同女が四つんばいに転倒したとしても,なお揉み合ううちに被告人の手が意識しないでスカートの中に入りその臀部に触れることは通常あり得ないというべきこと,被告人は,強姦の意図については,逮捕当初これを認める旨の供述をしながら,弁護人の選任後一貫してこれを否認したのに対し,強制わいせつの意図については,捜査段階においてこれを一貫して認める供述をしており,その供述内容も具体的かつ詳細で迫真性に富むことに照らす
と,高い信用性の認められる被害者の各供述調書やこれに沿う被告人の捜査段階における各供述調書と対比すると,前記被告人の公判供述は,その信用性が極めて乏しいといわざるを得ない。
3 したがって,被害者の前記各供述調書その他関係各証拠によれば,被告人が,強制わいせつの故意に基づき被害者の臀部を撫で回したことを優に認定することができるから,弁護人の主張は理由がない。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為のうち,恐喝の点は刑法249条1項に,傷害の点は同法204条に,判示第2の所為は同法176条前段にそれぞれ該当するところ,判示第1は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により1罪として犯情の重い恐喝罪の刑で処断することとし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に法定の加重をし(ただし,短期は判示第2の罪の刑のそれによる。),その刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し,なお同法25条の2第1項前段を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付することとする。(量刑の理由)
本件は,被告人が,徒歩で帰宅途中の被害者に対し,暴行脅迫を加えてその所持品を喝取し,その際,同女に判示の傷害を負わせたという恐喝傷害の事案(判示第1)と前記喝取行為に及ぶうち,にわかに劣情を催し,同女の臀部を撫で回したという強制わいせつの事案(判示第2)である。
恐喝傷害の点については,被告人は,トラックの修理代をなんとしてでも捻出し,妻に渡すため,会社から給料を前借りする等他の手段があったにもかかわらず,第1の犯行に及んだものであり,浅薄・短慮かつ自己中心的な動機に酌量の余地はない。また,被告人は,深夜11時ころ,人気のない本件現場付近において,徒歩で帰宅途中の被害者を発見するや,先回りして本件ワゴン車内で待ち伏せし,マスクを着用して顔を隠し,不意を襲って判示の暴行脅迫を加えて,同女を相当に畏怖させて携行品を喝取し,その際,同女に全治約5日間を要する傷害を負わせたもので,犯行態様は大胆であり,被害額も軽微とはいえないこと,何らの落ち度もない被害者が第1の犯行により被った肉体的苦痛や精神的衝撃は相当大きかったことなどを考慮すると
,その犯情は悪質である。また,強制わいせつの点については,被告人は被害者の畏怖に乗じて第2の犯行を敢行したもので,その邪で身勝手な動機に酌量の余地はなく,悪質である。第2の犯行により恐怖感や屈辱感を味わった被害者の精神的苦痛は甚大であり,被害感情もなお厳しい。
以上の諸事情に照らすと,犯情は悪く,被告人の刑事責任は相当に重いといわざるを得ない。
しかしながら,本件各犯行は,稚拙かつ粗雑なもので,切羽詰まった心情に陥り
突発的衝動的に行った犯行と見られること,第2の犯行の態様は執拗ではなく,ごく短時間にとどまること,被害品は被害者に還付されたこと,幸い被害者の被った傷害の程度は比較的軽微にとどまったこと,被害者に被害弁償金として50万円を支払ったこと,身柄を拘束されてから保釈されるまで未決勾留が約3か月間に及び,その間反省悔悟の情を深めたものと認められること,これまで真面目に稼働し,一家の支柱として家族を養ってきたこと,妻が,当公判廷において,今後は夫婦でよく話し合い支え合っていきたいと述べ,借金の返済が完了したら被告人に無理な稼働を強いることはない旨誓約していること,前科前歴がないこと等被告人のために酌むべき事情も認
められる。
そこで,以上の諸事情を総合考慮し,被告人には,主文掲記の刑を量定し,保護観察に付した上,今回に限りその刑の執行を猶予することとした。よって,主文のとおり判決する。
平成13年11月30日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官 杉森研二
裁判官 溝國禎久
裁判官 林 史高


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