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建物収去土地明渡
事件番号平成2(オ)1444
事件名建物収去土地明渡
裁判年月日平成5年2月18日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果破棄自判
判例集等巻・号・頁集民 第167号129頁
原審裁判所名大阪高等裁判所
原審事件番号昭和63(ネ)1765
原審裁判年月日平成2年7月20日
判示事項借地人の供託した賃料額が借地法一二条二項の相当賃料と認められた事例
裁判要旨賃借人の供託した賃料額が、後日裁判で確認された額の約五・三分の一ないし約三・六分の一であり、同人において隣地の賃料に比べはるかに低額であることを知っていた場合であっても、右額が従前賃料額を下回らず、かつ、同人が主観的に相当と認める額であるときは、右供託賃料額は、賃借人が賃借土地に係る公租公課の額を下回ることを知っていたなどの事情のない限り、借地法一二条二項の相当賃料と認められる。
参照法条借地法12条2項
裁判日:西暦1993-02-18
情報公開日2017-10-18 06:44:12
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主 文
原判決中上告人敗訴部分を破棄し、第一審判決中右部分を取り消す。 前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理 由
上告代理人永原憲章、同藤原正廣の上告理由について
一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 上告人は、昭和四五年五月二三日、被上告人から、第一審判決別紙物件目録一記載の土地(以下本件土地という。)を、建物所有を目的として、賃料月額六七六〇円で賃借し、右土地上に同目録二記載の建物(以下本件建物という。)を所有している。
2 被上告人は、上告人に対し、本件土地の賃料を、昭和五七年九月一三日ころ到達の書面で同年一〇月一日から月額三万六〇五二円に、昭和六一年一二月三〇日到達の書面で昭和六二年一月一日から月額四万八八二一円に、それぞれ増額する旨の意思表示をした後、本件土地の賃料が右各増額の意思表示の時点で増額されたことの確認を求める訴訟を神戸地方裁判所に提起した(同庁昭和六二年(ワ)第三六号、以下賃料訴訟という。)。
3 被上告人は、上告人に対し、賃料訴訟の係属中の昭和六二年七月八日到達の書面で、昭和五七年一〇月一日から同六一年一二月三一日まで月額三万六〇五二円、昭和六二年一月一日から同年六月三〇日まで月額四万六〇〇〇円による本件土地の賃料合計二一一万四六五二円を同年七月一三日までに支払うよう催告するとともに、右期間内に支払のないときは改めて通知することなく本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
4 上告人は、被上告人に対し、従前の月額六七六〇円の賃料を提供したが、受領を拒絶されたため、昭和五九年五月一二日に同年六月分まで月額六七六〇円、昭和六二年一月二八日に同五九年七月分から同六二年六月分まで月額一万一四〇円、昭和六二年七月一〇日に同年七月分から同年一二月分まで月額二万三〇〇〇円を、いずれも上告人において相当と考える賃料として供託した。
5 昭和六二年一二月一五日、賃科訴訟において、本件土地の賃料が昭和五七年一〇月一日から同六一年一二月三一日までは月額三万六〇五二円、昭和六二年一月一日以降は月額四万六〇〇〇円であることを確認する旨の判決がされ、控訴なく確定した。昭和六三年三月一日、上告人と被上告人との間で、賃料訴訟で確認された同六二年六月三〇日までの本件土地の賃料と上告人の供託賃料との差額及びこれに対する法定の年一割の割合による利息を支払って清算する旨の合意が成立し、上告人は右合意に従って清算金を支払った。
6 被上告人は、上告人に対し、前記の賃料増額の意思表示のほかにも、昭和四七年一月から月額二万二五三三円に、同五三年一月から月額二万六二八八円に、同五五年七月から月額三万一五四六円に各増額する旨の意思表示をその都度したが、上告人はこれに応ぜず、前記のとおり昭和五九年六月分まで当初の月額六七六〇円の賃料を供託し続けた。また、上告人は、本件土地の隣地で被上告人が他の者に賃貸している土地について、昭和四五年以降数度にわたって合意の上で賃料が増額されたことの大要を知っていた。
二 原審は、被上告人の本件建物収去本件土地明渡等請求を認容した第一審判決は、賃料相当損害金請求に関する一部を除いて、正当であるとした。その理由は、次のとおりである。
1 借地法一二条二項にいう相当ト認ムル賃料とは、客観的に適正である賃料をいうものではなく、賃借人が自ら相当と認める賃料をいうものと解されるが、それは賃借人の恣意を許す趣旨ではなく、賃借人の供託した賃料額が適正な賃料額と余りにもかけ離れている場合には、特段の事情のない限り、債務の本旨に従った履行とはいえず、さらに、そのような供託が長期にわたって漫然と続けられている場合には、もはや賃貸人と賃借人の間の信頼関係は破壊されたとみるべきである。 2 一記載の事実関係の下において、上告人が相当と考えて昭和五七年一〇月一日から同六二年六月三〇日までの間に供託していた賃料は、賃料訴訟で確認された賃料の約五・三分の一ないし約三・六分の一と著しく低く、上告人は、右供託賃料が本件土地の隣地の賃料に比してもはるかに低額であることを知っていたし、他に特段の事情もないから、上告人の右賃料の供託は債務の本旨に従った履行と認めることはできず、上告人が、被上告人の数回にわたる賃料増額請求にもかかわらず、約一二年余の間にわたり当初と同一の月額六七六〇円の賃料を漫然と供託してきた事実を併せ考えると、当事者間の信頼関係が破壊されたと認めるのが相当であり、本件賃貸借契約は昭和六二年七月一三日の経過をもって賃料不払を理由とする解除により終了した。
三 しかしながら、被上告人の請求は理由があるとした原審の右判断部分は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
借地法一二条二項は、賃貸人から賃料の増額請求があった場合において、当事者間に協議が調わないときには、賃借人は、増額を相当とする裁判が確定するまでは、従前賃料額を下回らず、主観的に相当と認める額の賃料を支払っていれば足りるものとして、適正賃料額の争いが公権的に確定される以前に、賃借人が賃料債務の不履行を理由に契約を解除される危険を免れさせるとともに、増額を確認する裁判が確定したときには不足額に年一割の利息を付して支払うべきものとして、当事者間の利益の均衡を図った規定である。
そして、本件において、上告人は、被上告人から支払の催告を受ける以前に、昭和五七年一〇月一日から同六二年六月三〇日までの賃料を供託しているが、その供託額は、上告人として被上告人の主張する適正賃料額を争いながらも、従前賃料額に固執することなく、昭和五九年七月一日からは月額一万一四〇円に増額しており、いずれも従前賃料額を下回るものではなく、かつ上告人が主観的に相当と認める額であったことは、原審の確定するところである。そうしてみれば、上告人には被上告人が本件賃貸借契約解除の理由とする賃料債務の不履行はなく、被上告人のした解除の意思表示は、その効力がないといわなければならない。
もっとも、賃借人が固定資産税その他当該賃借土地に係る公租公課の額を知りながら、これを下回る額を支払い又は供託しているような場合には、その額は著しく不相当であって、これをもって債務の本旨に従った履行ということはできないともいえようが、本件において、上告人の供託賃料額が後日賃料訴訟で確認された賃料額の約五・三分の一ないし約三・六分の一であるとしても、その額が本件土地の公租公課の額を下回るとの事実は原審の認定していないところであって、いまだ著しく不相当なものということはできない。また、上告人においてその供託賃料額が本件土地の隣地の賃料に比べはるかに低額であることを知っていたとしても、それが上告人において主観的に相当と認めた賃料額であったことは原審の確定するところであるから、これをもって被上告人のした解除の意思表示を有効であるとする余地もない。
四 そうすると、原判決には借地法一二条二項の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由がある。そして、以上によれば、被上告人の請求は理由がないことに帰するから、原判決中上告人敗訴部分を破棄し、第一審判決中右部分を取り消した上、右部分に係る被上告人の本訴請求を棄却すべきである。
よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 最高裁判所第一小法廷 裁判長裁判官 三 好 達 裁判官 大 堀 誠 一 裁判官 橋 元 四 郎 平 裁判官 味 村 治 裁判官 小 野 幹 雄
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