判例検索β > 平成13年(わ)第344号
職務強要、脅迫被告事件
事件番号平成13(わ)344
事件名職務強要,脅迫被告事件
裁判年月日平成15年3月12日
裁判所名・部神戸地方裁判所  姫路支部
裁判日:西暦2003-03-12
情報公開日2017-10-13 01:44:46
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主文
被告人を懲役1年6月に処する
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,X及びYと共謀の上,兵庫県赤穂市が実施予定の新図書館建設工事の入札に関し,同市助役Aをして,入札方法を一般競争入札から指名競争入札に変更して,P建設株式会社を入札から排除する処分をさせる目的のもとに,平成12年10月13日午前8時15分ころ,XとYが同市加里屋81番地所在の赤穂市役所助役室に赴き,そのころから同日午前8時45分ころまでの間,同助役及び同市教育委員会教育次長Bに対し,Xが,

なめとんかい。

やる言うとったやろ。

一般じゃPが入ってきよるがな。努力せい。

などと怒鳴りつけ,Yが,街宣活動用の戦闘服を着用して同助役及び同教育次長に見せつけるなどし,次いで,同日午後3時ころXと被告人が同所に赴き,そのころから同日午後3時30分ころまでの間,同助役及び同
教育次長に対し,Xが,

考え直さへんいうたら,直さんでええわい。明日からさしてもらう。あんたらがやっとうこと俺は全部だしてまうぞ。ネタは全部あるさかいにの。小さいことでも大きいしてもうたるわい。警察かて出向かれへんのやぞ。

おー。ぶちまいてもたらー。潰すさかいのー。

助役も皆とばしてもたらええねん。

ひっくり返してもたるんや。赤穂を。

などと怒鳴りつけ,これに呼応して,被告人が,

一般競争入札にするんやったら,前からせんかいやい。せんかい,全部。

お前ら走ったら行ってしまうよ,それだけな。

そうなるよ。

俺はそれをいいよるんの。なー。

T君がおったらドーンときよるわ。それで,やられとるわ。

などと強い口調を交えて言い,さらに,同日午後3時30分ころから午後4時
20分ころまでの間,同所において,同助役及び同教育次長に対し,Xが,

悪いこと全部めくり返したるわ。社会的制裁を受けたらええんや。

ノイローゼになるくらいいってもうたるがい。あのOのおっさんでも最後になったら小便ちびって中風になってもたがやのう。ものも言われへんようになってもた。あれだけ丈夫なおっさんでもあないになってしまうんや。俺はしてまうぞ。などと怒鳴りつけ,これら一連の言動により,右翼の街宣活動を展開させて同助役及び同教育次長らをことさら誹謗,中傷する旨を予告し,もって,同助役に対し,上記処分をさせるため,同人の身体及び名誉等に危害を加える旨を告知して脅迫するとともに,同教育次長に対しても同様の告知をして脅迫したものである。
(証拠の標目)
省略
(補足説明)
被告人は,平成12年10月13日午後3時ころから午後3時30分ころまでの間,助役室にXと同席して判示のような発言をしたことは間違いがないが,XやYと共謀したことはないし,また,被告人が同席していない間のことについては知らない旨供述し,弁護人も,X及びYとの共謀の事実を否認するとともに,被告人の行動は脅迫ではなく,談合疑惑を正すための陳情行為であるとして無罪を主張する。そこで以下検討する。
1 陳情行為であるとの主張について
(1)関係各証拠によれば以下の事実が認められ,被告人も特に争っていない。すなわち,県議会議員であった被告人は,平成12年2月ころ,経営していた飲食店の常連客の息子であったXから,赤穂市による赤穂城修復工事に備えて大量の赤穂石の在庫を抱えた会社のために,赤穂市に在庫の石を買い取らせる交渉を行うについての協力を求められ,Xの依頼に応じ,赤穂市の助役であったAと面談するなどした。しかし,赤穂市が上記在庫を買い取ろうとはしなかったため,Xは,赤穂市が実施予定の石垣修復工事や新図書館建設工事を請け負わせるよう取り計らうことを見返りに,ゼネコン業者に上記在庫を買い取らせることなどを企図するようになり,被告人は,Xの頼みに応じて,同年3月から6月までの間,Q建設の担当者とAらが3回にわたって
面談するに際し,その場に同席するなどし,また,同年9月ころには,R建設の担当者とAが面談するに際し,その場に同席するなどした上,R建設担当者からの依頼を受けて,新図書館工事に関する正式な図面を赤穂市職員から入手しようとした
りもした。
(2)さらに,その供述内容が具体的かつ迫真性に富んでいて全体として信用できるA証言その他同人作成にかかるメモ書き及び本件犯行当日のやり取りを録音したカセットテープ等によれば,以下の事実を認めることができ,被告人も,一連の行為の評価はともかく,外形面については公判段階でも大筋において争うところではない。
ア Xは,Q建設がP建設と喧嘩することができないなどといった理由でXの申出を断ってきたことから,新図書館工事の入札業者からP建設を外す必要があると考え,同年10月始めころからAらに対し,P建設に談合の噂があることを口実に,新図書館工事の入札方法を一般競争入札から指名競争入札に変更した上でP建設を入札業者から外すように,時には,右翼を使って街宣活動をすることを示唆しながら威圧的な態度で言い寄るなどした。一方,被告人も,同年9月6日に赤穂市役所(以下市役所という。)の助役室を訪れ,Aに対し,新図書館工事について談合の噂のあるP建設を工事業者から外すように求めたのを始めとして,同年10月6日,同月12日にも同様の要求をした。Aは,噂だけでは外せないなどと一貫してこれを断った
が,被告人の言い方は次第にきついものになり,

彼らは言うたら言うたとおりにやる。なめたらあかんぞ。

という趣旨のことを告げたり,元首相の竹下登に対する右翼の街宣活動の例を挙げて,

彼らの街宣活動は警察でもとめられない。

旨告げたりして,Xらが本当に街宣活動をやる趣旨の発言をし,また,新図書館工事の入札からP建設を外すことができれば,Xらの街宣活動をやめさせることができるかのような発言もした。
イ Xは,同月13日午前8時30分ころ,右翼の名前が入った戦闘服を着たYとともに助役室に行き,A及びその場に同席していたBに対し,判示のような発言のほか,

今からでも指名にせい。

などと怒鳴りつけて,脅迫した。Aはその場をしのぐために赤穂市の方針としては一般競争入札で決まったが,最終的な決定はまだであると述べたところ,Xは昼からもう一度被告人と来るからそのときまでよく考えておけと捨てぜりふを残して帰っていった。
ウ 同日午後,被告人とXがAのもとを訪れ,一般競争入札で新図書館工事を行うことを決めたとするAやその場に同席していたBに対し,Xが判示のような発言を怒鳴りつけるようにし,被告人がこれを後押しするように判示の発言をした上,Xが被告人の立場に気を遣って

先生(被告人)はこれは関係のないことやからな。

と言ったのに対して,被告人は

別にかまへんがい。

としてこれを退け,本件とは関係のない赤穂市民病院の件を持ち出したり,以前に市役所職員に2度にわたり暴力を振るったことのあるTの名前を出してさらに判示のような発言をするなどして,Xとともに,Aを責めた。
(3)以上認定のとおりの背景事情と本件犯行当日におけるX及び被告人のAらに対する発言を考えてみると,まずXのそれが,内容,表現及び口調からして右翼の街宣活動という害悪告知を中心とする脅迫行為であることは明らかである。そして被告人についても,Xからの依頼に基づき,Aらに対して様々な働きかけを行った挙げ句,Xらが右翼の街宣活動を脅しの材料としていることを十分知りながら,強烈な言葉と巻き舌でAらを厳しく脅迫するXのそばにおり,制止しないばかりか,かえってこれに同調するような態度を取った上,自らも強い口調でAらに言い寄り,さらには,Tの名前を出して,同人が聞いたらただでは済まないかのような発言までしているのであって,これらのことからすると,被告人の態度は正当な陳情行為の域をはるかに越え
ており,街宣活動の害悪を告知して脅迫するXらの態度を利用しつつ,自らも脅迫の実行行為を行ったものとみるほかはないものである。
2 共謀の点について
(1)Xは,捜査段階において,検察官に対して以下のとおり供述している。すなわち,平成12年10月5日ころ,Xが被告人に,Aらの返事次第では街宣活動をするなどの強硬手段に出るつもりであることを伝えると,被告人は自分も市役所へ行って厳しく働きかける旨答えた。同月11日,Xが被告人に,一般競争入札になると全てが水の泡になるから,右翼を使ったり,街宣活動をするなどして,何としてでも指名競争入札に変えさせるつもりであることを伝えると,被告人は,自分も市役所に行って,P建設を外して指名競争入札にするよう念押しし,被告人及びXの意向に沿うようにしてみせる旨答えた。同月12日,被告人から一般競争入札になりそうであることを聞いたXが被告人に,

やっぱり先生,実力行使しかないですね。明日午前中にカマシ入れに行ってきます。その後で先生も役所来て下さい。2人でカマしましょう。頼みますわ。

などと言うと,被告人も「分かった。」と答えた。同月13日,午前中の脅迫行為を終えたXが被告人に電話を入れ,

まだ決まっていないようです。先生,役所に一緒に来て下さい。

と頼むと,被告人もこれを了解し,その後,市役所において,Xが被告人に

午前中に右翼連れて来ましたんや。今日が勝負ですので,わしも気合い入れていきますわ。先生も頼みます。

と言うと,被告人も

分かった。行ってみようやないの。

と答えた。(2)以上の供述は,ア具体的詳細であって,迫真性が感得されるものであり,本件犯行に至る前記認定の経過と符合しているのみならず,本件犯行当日のXや被告人らの発言態度とも整合する。イこれに対し,Xは,当公判廷で,

検察官に対する供述内容は,オーバーな内容になっており,大分ニュアンスが違うところがある。

旨供述するが,Xは,自身の刑事公判ではこのような主張はしておらず事実関係を全て認めていたのであって,当公判廷においても,N検察官に対しては正直に供述したと述べる一方で,自分の証言で被告人が刑に服しなければならないのは嫌であるとした上で,肝心な部分について記憶がないなどと曖昧な供述をしたり,主尋問で記憶がないと供述していたところについて再主尋問で今考えてみたら違うと思うなどと供述を変遷させたりしており,その公判供述は,被告人をかばおうとする余り,曖昧な供述に終始している感が濃厚であって,到底,信用し難いものである。ウ被告人も捜査段階においてはXの前記供述に符合する供述をしているところ,その供述は,全体として自然かつ具体的であって,特段に強圧的な取調べがあったとは窺えず,Xが暴力団組員であることは知らなかったなどと被告人に有利な事情も述べており,これが捜査官の誘導のみによって作成されたものとは考え難い。これに対し,被告人は,当公判廷では,逮捕されたショックで捜査官の言いなりに調書を作成したなどと供述するけれども,Xとの間の具体的なやり取りや被告人の行動の趣旨等について曖昧で自己弁護的な供述に終始している感があり,到底,信用することはできない。もっとも,そ
の公判供述においてさえ,Aらへの要求行為が大詰めとなった10月12日と13日について,Xと事前に連絡を取り合って行動したこと自体は自認しており,また,同人が街宣活動を企図していることを聞かされていたことも否定していないのである。
(3)上記諸点に加え,前記認定にかかる本件犯行に至る経緯等に照らすと,Xの前記捜査段階の供述はその基本部分においてこれを信用するに十分である。これによると,本件犯行の前日には,被告人とXとの間で,Xが本件犯行当日の午前中に新図書館工事の入札方法を指名競争入札に変更させるため脅迫行為に及び,更に同日午後には被告人も加わって脅迫行為をすることについての共謀が成立したことを認めることができる。そうすると,被告人は,本件においてXらのした一連の脅迫行為についても共同正犯の責任を免れないというべきである。
(法令の適用)
1 罰条
・Aに対する職務強要は包括して刑法60条,95条2項
・Bに対する脅迫は包括して刑法60条,222条1項
2 科刑上一罪
刑法54条1項前段,10条(重い職務強要罪の刑で処断)
3 刑種の選択
懲役刑
4 執行猶予
刑法25条1項
5 訴訟費用の負担
刑事訴訟法181条1項本文
(量刑の理由)
本件は,暴力団員であるXが,P建設を入札から排除した上で,これにより落札できるであろうゼネコン業者からの利益を期待して,精力的に行動していたところ,被告人が,そのXからの協力依頼を受け,同人と一緒になって,一般競争入札から指名競争入札に変更してP建設を入札から排除する目的のもと,助役や教育次長に対して脅迫行為を行ったという職務強要脅迫の事案である。 被告人は,県議会議員でありながら,その立場も弁えず,むしろその地位を濫用
しつつ,しかも,その言動からして暴力団や右翼とのつながりを容易に推測できたはずのXと行動をともにして,市政に対して不当な圧力をかけたもので,市の公正な職務の執行を害する危険を招来させたことはもとより,県議会議員に対する社会的信頼も失墜させた点で,その態度は強く非難されるべきである。特定業者について談合の噂のあったことは否めないが,これを正すにしても,的確な証拠を収集した上で,議会等の適切な場で取り上げるべきであって,自他の個人的利害の絡む交渉の場にこれを持ち出し,しかも右翼によるこれを利用した街宣活動を駆け引き材料にするなどということは公職の地位にあるものとして到底許されるべきことではない。その行為態様
も,Xが,街宣活動により市政や市の幹部を誹謗,中傷することを暗示して,厳しい口調でたたみかけるように脅迫する中で,被告人もこれに同調し,時折強い口調で助役らを問いつめたり,市役所職員にとって粗暴的なことで知れ渡っている者の名前を出して,同人が聞いたらただでは済まない趣旨の発言までするなどしているのであって,悪質というほかなく,直接脅迫を受けた助役らが感じた恐怖心の大きさも容易に推察できる。
しかしながら,本件の主犯格はXであって,被告人は,同人の要請を受け,当初はその陳情活動を支援しつつ行動していたが,そのうちに深みに入った側面もないとはいえないこと,被告人は,これまで市議会議員や県議会議員として,市民,県民のために種々の取組みをし,一定の功績を上げており,これを評価する支援者もいること,前科がないこと,本件が県議会議員による脅迫事件としてマスコミにも取り上げられ,社会的制裁をそれなりに受けていることなど,被告人のために酌むべき事情も認められるので,今回に限り刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
(検察官萩原良典,私選弁護人中村勉(主任),同奥見半次,同奥見はじめ各出席)
(求刑懲役1年6月)
平成15年3月12日
神戸地方裁判所姫路支部刑事部
裁判長裁判官 伊 東 武 是

裁判官

小 倉 哲 浩

裁判官

平 城 文 啓

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