判例検索β > 平成16年(わ)第458号
各強要、売春防止法違反被告事件
事件番号平成16(わ)458
事件名各強要,売春防止法違反被告事件
裁判年月日平成16年12月22日
裁判所名・部神戸地方裁判所  第1刑事部
裁判日:西暦2004-12-22
情報公開日2017-10-13 01:41:37
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主文
被告人Aを懲役3年4か月及び罰金50万円に,被告人Bを懲役3年及び罰金50万円に,被告人CことDを懲役3年及び罰金30万円に処する。未決勾留日数中,被告人Aに対しては90日を,被告人Bに対しては80日を,被告人CことDに対しては100日を,それぞれその懲役刑に算入する。被告人3名において,それぞれその罰金を完納することができないときは,いずれも金5000円を1日に換算した期間,その被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から,被告人Bに対し5年間,被告人CことDに対し4年間,それぞれその懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人3名の連帯負担とする。
理由
(犯罪事実)
第1 被告人A及び被告人Bは,売春業を共同で営むものであるが,共謀の上1 平成15年3月17日ころ,神戸市a区b町c丁目d番e号所在のE店において,Fを売春婦として雇い入れるに当たり,同女との間で,同女をして不特定の遊客を相手に対償を受けて性交させ,その対償を同女と分配取得する旨を約し,もって,人に売春させることを内容とする契約をした。
2 同年11月10日ころ,同市f区g町h番i号所在のG店において,Hを売春婦として雇い入れるに当たり,同女との間で,同女をして不特定の遊客を相手に対償を受けて性交させ,その対償を同女と分配取得する旨を約し,もって,人に売春させることを内容とする契約をした。
第2 被告人3名は,自己らの経営する風俗店で売春婦として雇っていたIが遊客の男性と交際していることを聞き知るや,同女を脅迫して金銭消費貸借契約証書を作成させ,同女に前記男性との交際を止めさせ,同女を引き続き売春婦として稼働させようと考え,共謀の上,平成16年2月29日午後10時ころから同年3月1日午前0時ころまでの間,神戸市a区j町k丁目l番m号所在のJn号室において,前記Iに対し,こもごも,

命はないと思ってね。

俺はやくざや。

人を殺すのも蚊を殺すのも一緒だ。

Kを殺すぞ。

お前も死にたくはないわなあ。

とりあえず書けや。

などと語気鋭く告げて脅迫するとともに,金銭消費貸借契約証書に署名するよう要求し,同女をして,これに応じなければ,同女及びその娘のKらの生命,身体等にいかなる危害を加えられるかもしれない旨畏怖させ,よって,そのころ,同所において,前記Iに500万円の金銭消費貸借契約証書1通を作成させ,もって,同女をして義務なきことを行わせた。第3 被告人3名は,共謀の上,平成16年3月1日ころから同年4月20日までの間,前記Iを自己らの管理する神戸市a区o町p丁目q番r号所在のLs号室に居住させ,同女を前記Jn号室に待機させた上,携帯電話の出会い系サイトにアクセスする不特定の男客を相手に前記J付近のホテルで対償を得て性交させ,その対償の一部を取得し,もって,人を自己の管理する場所に居住させ,これに売春をさせることを業とした。
(証拠)
省略
(補足説明)
1 被告人3名は,判示第2の強要罪につき,Iを脅迫していない旨を供述し,各弁護人はかかる供述を前提に強要罪は成立しない旨を主張するが,当裁判所は判示のとおり被告人らに対して強要罪の成立を認めたので,以下補足して説明をする(以下年月日の記載は平成16年をいう。)。
2 Iの証言内容等
(1)まず,Iは当公判廷において以下のとおり証言している。
被告人Aらが経営する店でヘルス嬢として働き,売春の仕事をしていたが,顧客であった男性と交際するようになったことから,本件当日,事務所の部屋でチーフである被告人Bに対してその旨を告げた。すると被告人Bから,顧客と交際するのであれば仕事を辞めて福岡に帰ってもらう旨を告げられたのでそれを承諾したが,被告人Bは話を変え,携帯電話を取り上げられてメールの内容を確認されたり,罰金として給料から月10万円差し引くことなどを告げられたり,

あとはオーナーの世界のことになるから,命はないと思ってね。

と言われたりした。被告人Bが部屋を出た後,被告人Dに呼ばれて別の部屋に行くと,そこには被告人Aと被告人Bがいた。その場で被告人Aから,

俺はやくざや。

ここでMを殴って殺しても片づけとけの一言で終わる。

人を殺すのも蚊を殺すのも一緒だ。

Kを殺すぞ。

お前も死にたくはないわなあ。

などと言われて脅された上で,借用証を出されて,

とりあえず書けや。

と言われた。その際に被告人Bからも,

500万円といっても,この仕事をしてればすぐだから。

ということを言われ,被告人Dの指示に従い署名するなどした。そして,その後は被告人Dが同居し監視されつつ生活することとなり,携帯電話の番号を変えさせられて友人の電話番号やメール等も消去され,給料も受け取った後に被告人Aに渡して管理されていた。怖くて逃げることができなかったが,4月20日に嘘をついて福岡に帰ろうとし,それがうまくいかず被告人Dから脅されたので,結局逃げ出すこととし,警察に保護してもらった。
(2)更に,被告人B及び被告人Dについては以下の供述内容が検察官調書に録取されている。
ア 被告人B
Iに対してペナルティの話をした後に,

私の仕事はここで終わり。あとはオーナーの世界だから

などと言ってIを脅した。Iが,

命はないと思ってね。

と聞いたというのであればその言葉を言ったことに間違いないと思う。被告人Aが,Iに対して

お前も死にたくないわな。

俺はやくざや。人を殺すのも蚊を殺すのと一緒で,何の感情もない。

などと言って脅していたのをはっきり覚えている。Iは完全に怯えきった様子だった。被告人AがIに

Kを殺すぞ。

と言ったことの記憶はないが,私が覚えていないだけでそのような言葉を言ったかもしれない。
イ 被告人D
被告人Aは,怯えた様子のIに対して

お前も死にたくはないわな。

俺はやくざや。俺がMを殺しても,片づけとけの一言で終わる。人を殺すのも蚊を殺すのと一緒で,何の感情もない。

などといった意味のことを話していた。はっきりは覚えてないがIの娘のことも言っていたように思う。Iはすっかり怯えきっていて何も言えないような状態だった。
3 被告人らの公判廷における供述内容
これに対して,各被告人は公判廷において以下のとおり供述している。 (1)被告人A
本件当日に被告人BからIが客と交際していることで会って話をする旨を聞き,首にして九州に帰ってもらうしかない旨を告げたが,辞めない場合の話が出たときに借用証のことを口にした。Iに会った被告人Bから,Iが辞めたくないと言っていると聞き,借用証を書いてもらって誠意を示してもらい,ペナルティを科す旨を話した。Iを呼んできて家賃の滞納のことなどを言ってから借用証を出すと,怖がった様子はなく署名した。その間,脅迫文言は言っていない。借用証を書かせたのは,決意を推し量るためのものだった。Iは付き合っている男と同居しているが別れると言うので,Iを助けようと思い,それなら被告人Dが一緒に帰って泊まってもよいかと聞くと,Iが構わないと述べるのでそうさせた。被告人Dを泊まらせるのに監視させる
つもりはなかった。その後,Iの給料を預かり,支出を管理していたが,私から給料を持ってこいとは言っていない。Iが逃げても捜そうとしたことはない。 (2)被告人B
本件当日にIから話をしたいとのメールがあり,客と付き合っていることの相談であると思ったので,被告人Aと話をし,辞めさせないのであれば,他の女の子に示しを付けるために精神的なプレッシャーという意味で借用証を作成させることとした。そして,Iと会って客と個人的に付き合っているという話を聞き,それは禁止事項であるので首になる旨を告げた。するとIは困ると言うので,辞めるか,それとも,借用書の作成,月に10万円の罰金及び謹慎という三つのペナルティを受け入れるかのどちらかを選ぶように告げると,ペナルティを受け入れた。それから,別の部屋にIを呼ぶと,被告人DがすぐにIの前に借用証を置き,Iが署名した。この間,被告人らはIに対して何ら脅し文句は言っていない。 (3)被告人D
本件当日,被告人BがIと話をした後,Iを呼んできたが怯えた様子はなかった。Iの前に借用証を出し,名前や住所の欄を指示して署名させたが,その間,被告人Aや被告人Bが脅迫文言を述べることはなかった。その後,Iと同居するようになったのは,男と別れさせて付き合わせないようにするためであった。Iを監視するつもりはなかった。Iが逃げ出した際にも脅すようなことはしていない。
4 検討
そこで検討するに,Iの前記証言は,ビデオリンク方式により,被告人ら及び傍聴人との間を遮へいして行われたものではあるものの,Iは,被告人Aが暴力団組員であると聞いて知っており,また,同人による従業員らへの粗暴な行為をも見聞きしていたのであるにもかかわらず,被告人Aらが罪に問われる内容の証言をしてその処罰を求めているのであって,通常は,虚偽の事実を述べてまでかかる供述をするとは考えにくいものといえる。そして,Iは,記憶の不鮮明な部分はその旨述べるとともに,強く印象に残っている点は具体的かつ明確に述べるなどしており,Iが証言する被告人Aらの述べたとする脅迫文言が記憶の混乱に基づくものとも考えにくい。
何より,Iは,被告人らから金員を借り入れた事実はないのに,本格的な書式である500万円もの金銭消費貸借契約証書に署名させられているのであり,特段の脅迫も受けず,畏怖もしてないのに,かかる行為に及ぶとは考えにくい。 しかも,かかる500万円の金銭消費貸借契約証書に署名させられた後には,男性である被告人DがIと一緒に寝泊まりし,携帯電話の番号も変えさせられるなどし,給料も被告人Aが管理する中で売春を続けていたのであり,Iが特段畏怖もしていないのにこのような生活を受け入れたものとは到底解し難く,脅されていたからこそかかる生活を受け入れざるを得なかったと考えるのが相当である。 さらに,Iの日記帳の記載からは,3月1日以降の生活が意に添わぬものであった様子もうかがわれ,被告人らの供述を前提にするならばかかる記載は説明し難い。そして,Iが,3月1日以降も積極的に売春を行い,被告人らが特にこれを強制しておらず,Iが望むのであればいつでも辞めることができたというのであれば,何故にIが嘘をついて被告人らのもとを逃げだそうとし,結局警察に保護を求めるに至ったのか容易に説明することはできず,弁護人らが述べるような交際相手に会うための休暇を取るための嘘がばれそうになり立場がなくなってしまうからという理由では納得し難い。
なお,弁護人らは,Iは種々の虚偽の供述をしている旨を主張しているところ,売春というものの性質上,実際は自ら積極的に売春を行ったとしても,供述においてはこれを否定することがあっても不思議ではなく,そのような意味においては,Iの証言について慎重な検討が必要であるといえるが,前記の諸事情に照らすならば,Iが売春を行うに至る経緯や当初どの程度に積極的に売春を行っていたかという点等に関する供述に虚偽の事実が含まれていたとしても,脅迫されて金銭消費貸借契約証書に署名されたとの証言内容自体についてその信用性を左右するものではない。また,その他,被害状況等の事情に関し,Iの供述に不明確な点や事実に合致しない点等があっても,被害から証言までの時間的経過やその証言内容等に照らすと,記憶が不鮮明になったためと理解しても不自然ではなく,証言の核心部分についての信用性を否定するに至るような事情までは見受けられない。 また,被告人Dは,検察官調書において被告人AがIを脅迫していたことを認める旨の記載がある理由として,検察官にののしられて腹が立ち,早く終わらせたいと思い調書を読み聞かされるときに内容に気付かずに署名指印をし,あとで言ってもいないことが記載されていることを知ったと述べるが,それまで弁護人と接見をしてアドバイスを受けていたことや調書の記載内容等に照らしてもその供述自体不自然であるというほかなく,被告人Dのかかる弁解は到底信用することができず,暴力団の上位者に当たる被告人Aの不利になるような事実を述べた検察官調書の記載内容は信用することができる。
そして,Iの証言や被告人Dの検察官調書に概ね合致し,夫である被告人Aにとって不利益な内容である前記のBの検察官調書の記載内容についても,これを信用することができる。
以上のとおり,Iが被告人Aらから判示の脅迫文言を加えられて金銭消費貸借契約証書に署名させられたとするIの証言は十分信用することができ,これを裏付ける被告人Bや被告人Dの検察官調書もまた信用できる一方,これに反する被告人らの公判供述を信用することはできないのであり,判示第2のとおり認定した次第である。
(適用法令)
1 被告人A
罰条
第1の各行為いずれも刑法60条,売春防止法10条1項
第2の行為
刑法60条,223条1項,2項

第3の行為
刑種の選択
び罰金刑
併合罪の処理
の刑に加重)

刑法60条,売春防止法12条
第1の1及び2につきいずれも売春防止法15条により懲役刑及
刑法45条前段
懲役刑につき刑法47条本文,10条(最も重い第3の罪

罰金刑につき刑法48条2項
未決勾留日数算入
刑法21条(懲役刑に算入)
労役場留置
刑法18条
訴訟費用の処理
刑事訴訟法181条1項本文,182条
2 被告人B
罰条
第1の各行為いずれも刑法60条,売春防止法10条1項
第2の行為
刑法60条,223条1項,2項
第3の行為
刑法60条,売春防止法12条
刑種の選択
第1の1及び2につきいずれも売春防止法15条により懲役刑及
び罰金刑
併合罪の処理
刑法45条前段
懲役刑につき刑法47条本文,10条(最も重い第3の罪
の刑に加重)
罰金刑につき刑法48条2項
未決勾留日数算入
刑法21条(懲役刑に算入)
労役場留置
刑法18条
執行猶予
刑法25条1項(懲役刑)
訴訟費用の処理
刑事訴訟法181条1項本文,182条
3 被告人CことD
罰条
第2の行為
刑法60条,223条1項,2項
第3の行為
刑法60条,売春防止法12条
併合罪の処理(懲役刑)
刑法45条前段,懲役刑につき刑法47条本文,10条,
47条ただし書(重い第3の罪の刑に加重)
未決勾留日数算入
刑法21条(懲役刑に算入)
労役場留置
刑法18条
執行猶予
刑法25条1項(懲役刑)
訴訟費用の処理
刑事訴訟法181条1項本文,182条
(量刑事情)
本件は被告人ら3名による売春婦として雇っていた女性を脅迫して500万円の金銭消費貸借契約証書を作成させた強要事件及びその後自己の管理する場所に同女を居住させ売春させることを業とした管理売春事件並びにA及び被告人Bによる2名の女性に売春させる契約をした売春契約事件である。
被告人Aは,知人が経営していた風俗業を引き継ぎ,売春業を営むようになり,被告人Bはその妻として経営に携わるようになり,また,被告人Dは,売春婦の送迎のための運転手として雇用されて後,実質的な業務も取り仕切るようになり,いずれも売春業に深く関与する中でそれぞれの各事件に及んだものであって,女性の人格を軽視する中での各犯行であったといえる上,いずれの犯行も売春業を営むことによる金銭的利益の確保のためものであり,利欲的で身勝手な動機に基づくものである。
特に強要及び管理売春については,売春婦として雇っていたIに対し,暴力団の威勢を背景にしつつ,同女のみならずその幼い娘にも危害を加える旨を告げて脅迫し畏怖させ,500万円もの額の金銭消費貸借契約証書を作成させた上,その後,被告人DがI方に同居して,事務所でも監視をするなどし,また,その収支も管理するなどしつつ同女に売春を続けさせたものであって,同女の受けた恐怖や苦しみには大きいものがあり,その処罰感情には未だ強いものがある。
そして,特に被告人Aは,オーナーとしての立場で売春業を営み,自ら中心となってIに脅迫を加え,自らの指示等によりIを管理して売春させていたのであって,各犯行において最も中心的な立場にあったといえるが,それにもかかわらず,余りに白々しく不自然な弁解を述べて殊更に自らの罪責を免れようとの態度が顕著
であり,その責任は重い。
また,被告人Bや被告人Dにおいても,それぞれの犯行において果たした役割は軽視し得ないものである上,Iが畏怖せずに自由な意思で金銭消費貸借契約証書を作成し,売春を続けていたかのような主張をしており,自らの罪責を免れ,あるいは被告人Aの罪責を免れさせようとの態度が見受けられ,その責任を軽視することはできない。
そこで,被告人らがIに200万円を支払い示談が成立していること,被告人らがIに対する謝罪の言葉を述べていること,被告人A及び被告人Dが所属する組に対して脱退届を提出してその若頭の了承の印を受けていること,被告人A及び被告人Dには交通関係の罰金前科以外には前科がなく,被告人Bには前科がないこと,各被告人の情状証人のそれぞれの証言内容等,各被告人らのために酌むべき事情もそれぞれ考慮して量刑することとするが,被告人Aについては主文掲記の実刑を免れないものと判断し,主文のとおり各量刑した。
平成16年12月22日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判官 小倉哲浩

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