判例検索β > 昭和40年(行ツ)第107号
法人税課税処分取消請求
事件番号昭和40(行ツ)107
事件名法人税課税処分取消請求
裁判年月日昭和43年10月17日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果棄却
判例集等巻・号・頁集民 第92号607頁
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号昭和40(行コ)16
原審裁判年月日昭和40年10月13日
判示事項横領行為により被つた法人の損害の法人所得計算上の処理
裁判要旨法人が横領行為によつて損害を被つた場合には、その損害額を損金に計上するとともに、これによる損害賠償請求権を益金に計上したうえ、右請求権が債務者の無資力その他の事由によつて実現不能が明白となつたときに至つて、これをその年度の損金とするのが、法人所得の計算上相当である。
参照法条旧法人税法(昭和22年法律第28号)9条
裁判日:西暦1968-10-17
情報公開日2017-10-18 07:13:04
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主 文
本件上告を棄却する
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人権逸、同田中耕輔の上告理由一について。
横領行為によつて法人の被つた損害が、その法人の資産を減少せしめたものとして、右損害を生じた事業年度における損金を構成することは明らかであり、他面、横領者に対して法人がその被つた損害に相当する金額の損害賠償請求権を取得するものである以上、それが法人の資産を増加させたものとして、同じ事業年度における益金を構成するものであることも疑ない。論旨は、旧法人税法(昭和二二年法律第二八号、以下同じ。)における益金は商行為に基づく債権を基礎とし、横領に基づく損害賠償請求権のごときを予定していないものと主張するが、そのように限定すべき根拠は見出しがたく、もし所論のごとくであれば、法人税法上の損失もまた横領による損害のような偶発的な損失を含まないといわなければならないはずであつて、到底肯認しえない。
論旨は、原判決が、犯罪行為のために被つた損害の賠償請求権を、それが実現の見込がないと認められるときは損金に算入しうる旨を判示しながら、本件横領によつて被つた損害を損金と認めなかつたのを、失当と非難する。犯罪行為のために被つた損害の賠償請求権でもその法人の有する通常の金銭債権と特に異なる取扱いをなすべき理由はないから、横領行為のために被つた損害額を損金に計上するとともに右損害賠償請求権を益金に計上したうえ、それが債務者の無資力その他の事由によつてその実現不能が明白となつたときにおいて損金となすべき旨の原判示は、犯罪行為のために被つた損害を損害賠償請求権の実現不能による損害に置き換えることになるものであるが、犯罪行為に基づき法人に損害賠償請求権の取得が認められる以上、その経理上の処理方法として十分首肯しうるものといわなければならない。論旨は、そのような請求権の実現性の薄弱なことをあげてその益金計上を不当とするが、そのようなことは一概にいえるものではなく、もし損害賠償請求権がその取得当初から明白に実現不能の状態にあつたとすれば、上記の経理方法によつても、直ちにその事業年度の損金とするを妨げないわけであるから、所論の非難はあたらない。また、それでは企業体が現実に犯罪による損害と課税による損害との二重の損失を被むるとする所論も、上記の経理方法を正解しないことに基づくものといわざるをえない。
本件についてみるに、上告会社の会計担当役員であり代表取締役でもあつた訴外D(現姓E)Dが、係争の三事業年度にわたり業務上の保管金円をしばしば着服しながら、これを経費に仮装して計上していたというのであるから、上告会社は、右Dの横領額相当の損害を被むるとともに、それと同額にのぼる損害賠償請求権を取得していたことは明らかである。そして、右Dが示談を拒否し懲役の実刑を受けたなど原審における上告会社の主張事実だけでは、いまだその係争事業年度の間において同人に対する損害賠償請求権の全部または一部の実現不能が明らかになつたと認めるに足りるものではない。してみれば、原判決がその横領行為により被つた損害を損金に、これに対応する損害賠償請求権を益金に計上したのと結果を同じくする被上告人の更正処分(前記横領額を仮装した上告会社の経費を否認するとともに、これと同額を右Dに対する仮払金として処理したもの)を支持したのに、所論の違法は認められない。もつとも、原判決が、犯罪行為によつて被つた損害を損金としながらこれに対応する損害賠償請求権を益金に計上しないならば、犯罪行為に原因して国の税収入が減ずるばかりでなく、被害が課税に際し実質的に緩和されて企業経営者の犯罪防止に対する努力が鈍り、犯罪行為が助長されることなどをあげて理由としたのは、妥当ではない。しかし、右説示のために、原判決の前記判断の結果が左右されるものではない。論旨は結局理由がない。 同二について。
論旨は、要するに、前記Dの横領の事実は、係争各事業年度の法人所得の申告の当時上告会社には全く判明しなかつたところであるから、適正な申告ができなかつたとしてもやむをえないのであつて、これに対し、被上告人が過少申告加算税を課したのを相当とした原判決は、憲法三〇条に違反するというのである。 過少申告加算税は、旧法人税法四三条により、法人の確定決算に基づく申告等に誤りがあつたことにつき正当な事由がないと認められる場合に課せられたものであるから、右論旨は、結局本件係争の各事業年度の申告には同税を課せられない正当な事由の存したことを主張してその課税を論難するもの、すなわち違憲に名を藉りて同条の解釈適用を争うものにすぎない。そして、原判決の認定によれば、前記Dは上告会社の経理担当役員でかつ代表取締役の地位にあつたというのであるから、それら申告について上告会社の責任者と認めうる者であり、しかも申告が適正を欠いたのは、同人の計上した仮装経費が損金に算入されたのによるのである。従つて、これを上告会社には右Dの不正が判らなかつたところとして同税を課しえないとする所論の到底肯認しがたいことは、原判示のとおりといわなければならない。論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 長 部 謹 吾 裁判官 入 江 俊 郎 裁判官 松 田 二 郎 裁判官 岩 田 誠 裁判官 大 隅 健 一 郎
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