判例検索β > 平成15年(わ)第736号
強盗殺人、死体遺棄被告事件
事件番号平成15(わ)736
事件名強盗殺人,死体遺棄被告事件
裁判年月日平成15年9月26日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第7刑事部
裁判日:西暦2003-09-26
情報公開日2017-10-13 01:43:42
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主 文
被告人両名をそれぞれ無期懲役に処する
被告人両名に対し,未決勾留日数のうち各150日を,それぞれその刑に算入する。
理 由

【認定した事実】
第1 犯行に至る経緯等
1 関係者の経歴・相互の関係等
被告人Aは,昭和47年に出生し,大阪市内の高校を卒業後,父の営むA酒店の跡を継ぐため,2年間ほど吹田市内の酒店で小売りの修業をした後,平成5年に大阪府守口市内にある実家の酒店に戻り,その仕事に従事するようになった。平成6年には事業拡大を試み,同被告人の進言により,同年12月父が同市内にコンビニエンスストアC店を開業したが,同被告人のアイデアもあって同店の経営は軌道に乗ったことから,平成11年8月には更にもう1店舗コンビニエンスストアを経営することになり,父の出資の下,今度は同被告人が自らその経営者となって同市内にD店を開店した。同店は立地条件もよく売上げも上々で,同被告人は,月々経費を差し引いても150万円~180万円位の収益を手にすることとなり,本件当時も,実家のA酒店の仕事に従事する一方,上記D店の店長として手広くその商売を営んでいた。
他方,被告人Bは,昭和22年に出生し,大阪府内の中学校を卒業後,専門学校を経て,印刷工として約30年以上も稼働していたが,平成9年6月ころに印刷会社を退職した後は,平成10年10月ころから本件犯行当時まで,警備会社数社を転々としながら警備員として稼働していた。被告人Aとは,平成9年ころ前記A酒店で立ち飲みをするようになって顔を合わせるようになり,平成12年ころからは被告人Aが酒類の配達をするのに同行するようになるなど特に親しく付き合うようになった。当時,被告人Bは,警備会社を転々としていた時期で収入が乏しかった上に,後記のとおり多額の借金も有していたことから,20歳以上も年下で裕福そうに見える被告人Aから食事を奢ってもらったり一緒に博打に連れて行ってもらったりするなど同被告人にその生活の多くを依存するようになって,本件当時は,被告人Bが仕事に出かけるとき以外は,ほとんど二人で行動を共にしているという状態にあった。
一方,本件被害者は,昭和15年に出生し,昭和37年に現在の夫と結婚して二人の子をもうけたが,昭和52~3年ころには夫と別居して守口市内にある自宅の1階で本件スナックを開店し,本件被害当日までこれを経営していた。その傍ら,被害者は,店に来る客等に対し,月6分や1割の高金利で現金を貸し付けるいわゆる闇金融を営むようになり,返済が滞る客に対しては,時に知人の暴力団幹部に頼んでその取り立てを図ることもあった。被告人Bは,昭和57~8年ころから本件スナックに客として出入りするようになったが,後記のとおり,被害者から繰り返し多額の金を借りる一方,被告人Aにおいても,後記のような多額の債務を負うようになったことから,平成12年10月ころには被告人Bの紹介で被害者から金を借りるようになった。本件犯行当日に至るまでの被告人両名の被害者に対する各借財状況は,以下に述べるとおりである。
2被告人Aの借財状況等
まず,被告人Aは,父親譲りのギャンブル好きであり,前記のとおり実家の酒店で稼働するようになった平成5年ころから小遣い銭稼ぎのために競馬等のギャンブルに手を出すようになり,前記C店を開店して間がない平成7年1月ころには,競馬のノミ行為に客として加わるようにもなったが,やがて自ら胴元となるなどノミ行為に深く関与するようになって,そこで出した損害を埋めるため,やがてサラ金から借金をするようになった。
しかし他方では,平成11年8月には前記のとおりコンビニエンスストアD店を開店し,多額の収入が得られるようになったことから,同被告人は,これに
気を良くして西成区の飛田新地で開張される賽本引き賭博にも手を出すようになっていたが,それを見計らったかのように,平成12年5月ころには暴力団組員の知人から大口のノミ行為の話が持ち込まれ,種々の経緯から自らその胴元を引き受けることを余儀なくされた。しかし,その結果は散々であり,同被告人は,わずか2か月弱の間のうちに約1000万円の損失を出してしまい,それまで蓄えていたD店の利益の全てをその穴埋めに充てざるを得なくなってしまった。 ところで,同被告人は,幼少時より博打に負けては家族に暴力を振るう父親を畏怖していたところ,そのような父親からようやくにして信用を得,D店の経営を任されるようになっていたのに,上記のとおり同店の利益を吐き出さざるを得なくなった事実が父親に露見すれば,怒った父親からD店の経営権を取り上げられてしまいかねないと危惧するようになり,同年秋ころには,何とか上記損失を挽回しようと,しばらく止めていたノミ行為に再び手を出すようになる一方,知人の元暴力団組員からの誘いを受けて,同人と共に自ら賽本引き賭博賭博場を開張し利を図ろうと企てた。しかし,いずれも結果は大失敗であって,前記損失の穴埋めどころか,逆にますます損を増やすことになってしまったため,同被告人は,月々の小遣いからでは到底返済できず,サラ金からも借入れを行ったものの,これだけでは到底追いつかないことから,同年秋ころには新たな借入先を探すことを余儀なくされるに至った。
そのような折り,同被告人は,当時交際を深めていた被告人Bから,本件スナックの経営者である被害者を紹介された。地元では名の通った酒店の息子である被告人Aに対しては,被害者も快く貸し付けに応じてくれ,同被告人は,利息月6分・返済は1か月後元利一括の約束で,初めて300万円を借り入れた。その際,同被告人は,被害者から,もし返済が遅れれば暴力団組員による厳しい取立てを受ける旨仄めかされた。同被告人は,被害者に自分の素性を知らせていたので,仮に返済が遅れれば,暴力団が父親の下に取り立てに行き,その逆鱗に触れる結果となって,これまで築いてきたものを全て失ってしまう等と考え,決して返済を遅らせることはできないと決意し,最初の借入れについては期日を守り元利耳を揃えて返済した。
しかし,その後も,同被告人は,相変わらずギャンブルを止めようとはせず,前の負けを挽回するためにまた競馬のノミ行為や賽本引き賭博,更には野球賭博などをも繰り返し,その負けなどを支払うために被害者から同様の条件で百万円単位の金を次々に借り入れるという悪循環に陥っていた。他方,被害者は,同被告人が最初の借入れの際に期日どおりきれいに返済したことや同被告人が裕福な酒屋の跡継ぎであることもあって,同被告人を信用し,貸金の使い途が博打やその負けの支払いであることを知りつつも,その後も貸し付けを重ねて行き,同被告人に対する貸付(元本)総額は本件当時約3310万円にも上っていた。
3 被告人Bの借財状況等
他方,被告人Bは,前記のとおり当初は本件スナックに客として出入りしていたが,そのうち同店に設置されていたテレビゲーム機に熱中して多額の金をつぎ込むようになり,また,その他の遊興費やギャンブル代等に金を浪費するようにもなってサラ金に多額の借金を作るようになり,その返済にも行き詰まったことから,やがて被害者から利息月1割の約束で数十万円単位の借入れを繰り返すようになった。これに加え,同被告人は,被害者が胴元となって行った競馬のノミ行為においても負けがかさんだことから,これらの債務が累積していった(それに伴って,100万円単位で次々に借用証書を作成していった。)結果,本件当時,同被告人は,借入れ総額が700万円に上る旨被害者から言われており,同被告人もその旨信じていた。
しかし他方で,同被告人は,平成9年6月ころには印刷会社を退職してしまい,大口の返済は当面不可能となったことから自己破産の申立ても検討したが,債務の返済が一切受けられなくなることを危惧した被害者から,同被告人において将来給付を受ける厚生年金で返済すればよい旨の申し出がなされたため,同被告人は,被害者との従前の関係を慮って破産申立てを行わないこととし,被害者に対しては,上記のような返済の猶予を得る代わりに,将来の支払いの担保として自己の厚生年金手帳を預けた。
しかし,同被告人は,平成12年10月ころ勤務先の警備会社からリストラにあって生活費にすら窮する状態に立ち至ったため,上記大口のギャンブル関連
の借入れとは別に,当座の生活資金として被害者から新たに50万円を借り受けた。この借金については,月5万円ずつ分割返済する約束であったが,再就職してもまた給料額を超えて遊興したためその返済ができず,平成14年8月初めころには,被害者からさらに12万円を借り増して生活費に充てた。その際,同被告人と被害者は,同被告人が上記50万円の借金の返済として,月々元金5万円と利息2万円の合計7万円ずつを支払っていくこと,上記12万円については8月末の給料日に一括して返済すること,被害者は,8月末に生活費として新たに10万円を被告人Bに貸し渡し,9月以降も,同被告人は上記50万円の分割払金7万円と前月借り入れた10万円とを支払い,これに対し,被害者が翌月分の生活費10万円を貸し渡し,これを繰り返していくこと,以上のような事柄を取り決めた。同被告人は,この取り決めに従い,同年8月末と9月末に,給料のほぼ全額に当たる上記分割金を被害者に支払い,その度に新たに10万円を借り入れた。
そこで,以上によれば,同被告人は,本件犯行当時,被害者に対し,① 前記700万円と,② 上記取り決めに従い平成14年10月末日に支払うべき上記50万円の分割金7万円と前月に生活費として借り入れた10万円の合計17万円の債務を負っていたことになるが,①に関しては,被害者死亡当時,100万円の借用証書1枚が残されていたに過ぎないため,被害者が同被告人に対し現実的に支払いを求めうる債権額は117万円であった。
4 本件共謀形成の過程等
以上見たとおり,被告人Aは,本件犯行当時,被害者に対し,元本だけでも約3310万円の債務を負っており,うち約2810万円の履行期は既に到来し,残り約500万円の履行期は平成14年10月20日に迫っていたところ,当時はその利息金や分割払金だけでも月々約200万円の返済を強いられていたことから,元利一括返済などはとてもできず,やむなく被害者の了承を得て分割金や利息金の返済のみを続ける状態にあり,その結果,同被告人は他の借入先への返済も含めて毎月220~230万円の返済を行っていた。前記のとおり,D店の純益は月150~180万円近くあり,本来は十分な収入が得られているはずであったのに,そのうち妻に生活費として毎月25万円交付していると,この収入ではとても上記借金の返済に追いつかず,本件当時は,借金,ことに被害者に対する借金の支払いが重荷になって,資金繰りに大変難渋している状態にあった。これに加え,被害者の債権の取り立てはかなり厳格であり,上記のとおり,元本の返済を一時猶予してくれる場面はあったとはいえ,基本的に,支払日にはたとえ夜遅くになっても返済に赴かないと被害者自身から催促の電話が入っていたばかりか,もし当該期日に返済を行わないと,被害者や同人から依頼を受けた暴力団組員から催促がなされたこともあって,同被告人は,父親に借金のことが露見するのを恐れる一方,暴力団からの取り立てにも畏怖を覚え,本件当時は,自転車操業ながらも何とか資金を調達し支払日には相応の返済をしていたものの,次第にこのような生活に限界を感じるようになっていた。他方,被告人Bにおいても,借金の額こそ被告人Aの比ではなかったとはいえ,本件当時は,前記被害者との取り決めによって,10万円から利息分を天引きされた後の9万円で1か月間生活しなければならない状態にあったことから,酒代やパチンコ代にも事欠くようになり,前記A酒店に行っては売れ残りのコンビニ弁当をもらったり,自分の戸籍を被告人Aの知人の暴力団関係者に売って金を得ようとしたり,また,被告人Aに食事を奢ってもらったりと,結局は,当時常時行動を共にしていた被告人Aに依存し世話になって生活することを余儀なくされる状態であった。被告人Bは,このような生活状態にとても情けない思いを抱いていたところ,被害者からも,本件スナックで顔を合わすたびに,

もう金なんか貸さへんで。あんたは借金いっぱいあるんやから,10万で生活しいや。あんたが顔出すときは金のことばっかりや。この貧乏神が。

等と容赦なく嫌みを言われ,他の客のいる前で自分を蔑む被害者に恨みを覚えたこともあったが,借金している弱みから反論もできず,日々鬱憤を募らせていた。
このようなことから,被告人両名,ことに被告人Aは,上記のとおり借金の返済に追われて行き詰まっていたため,最大の債権者である被害者がいなくなればどれほどよいかと常日頃から心の中で考え,被告人Bとともに,

被害者が死んでくれればいいのに。

等と互いに愚痴をこぼし合っていたところ,平成14年10月13日の日曜日,被告人Aは,被告人B方でノミ行為の電話受付けを行って
いたが,またも損を出してしまったことから,今後の借金の返済など絶対に無理だなどと絶望的な気持ちで思い悩むうち,借金苦から逃れるためには最大の債権者である被害者を殺害し,借用証書等を奪うしかないなどという考えを持つに至った。そして,同日午後7時ころ,被告人Bが警備員の仕事を終えて帰宅し,深刻な顔で黙り込んでいる被告人Aに声を掛けてきたことから,被告人Aは,ついに,

もうしんどいし,あかんわ。借金返されへんし,被害者殺すしかないわ。

殺すの手伝ってくれ。このままでも借金に追われるばかりや。被害者殺して借用書破ったら借金払わんでええようになる。Bも払わんでええようになる。

などと,上記被害者に対する強盗殺人の計画とこれに対する被告人Bの助力の要請を一気に口にするに至った。これを聞いた被告人Bは,初めこそ驚いて声も出なかったとはいえ,日頃同被告人自身も被害者からの借金生活が続くことに情けない思いを抱き,将来の厚生年金まで被害者に奪われることに悲観的な気持ちを持っていたことから,この際被害者がいなくなれば借金から逃げられて楽になる,今後は被告人Aがもっと生活の面倒を見てくれるはずだなどと考えるに至り,更に被害者に対する前記恨みの念もあって,被害者殺害等に加担することを決意した。そこで,被告人Bは,被告人Aに対し,

そこまでせっぱ詰まってるんやったら,やったるわ。あんなに借りとったら,Aちゃんもしんどいわな。自分も被害者がおらんようになったら楽になるわ。

等と静かに語りかけ,ここに本件犯行に関する被告人両名の基本的な共謀が成立した。
そして,被告人両名は,同日引き続き被害者の殺害方法等について話し合う一方,翌14日や翌々日の15日にも酒類を配達する車の中で更に話合いを続けた結果,両名の間においては,被告人Bにおいて食事を口実に被害者を本件スナックから誘い出し他所で被害者を殺害すること,殺害方法は絞殺によること,殺害の実行行為は被告人Bが担当し,その代わり同被告人のその後の生活の面倒を被告人Aが見ること,被害者殺害後,同女が所持している本件スナックの鍵を奪い,これで同店内に侵入の上,各人の借用証書等を奪うこと,被害者が失踪したかのように装うべく被害者の死体はいずれかに遺棄すること(但し,遺棄の場所や具体的方法まで煮詰めるには至らなかった。)などの諸点について更に具体的な共謀が成立した。
そして,被告人両名は,被害者殺害を実行に移すため,同月16日,被害者を本件スナックから誘き出して被告人A運転の自動車に乗車させ,食事をした後,殺害に適した場所を探したりもしたが,準備不足のため適当な場所が見つからず,同日は殺害をあきらめて被害者を本件スナックまで送り届けた。翌17日は本件スナックの定休日であったため犯行を断念したが,その翌日の18日には,被告人両名は,改めて犯行を実行に移すことにし,同日午後10時ころ被告人Bにおいて本件スナックから被害者を食事に誘い出す一方,被告人Aにおいて知人から借りたワゴン車に被告人B共々被害者を乗車させ,東大阪市内の焼肉店で3人で食事をした後,翌19日午前零時20分ころ,飲食代の会計をして被害者がトイレに立った際,被告人両名は,立ち話をして,生駒山中の人気のない駐車場に赴き同所で被害者を殺害することに決し,被告人Aにおいて,被害者に

博打の神様が祭ってあるところにドライブに行こう。

などと誘い,同女を前記ワゴン車に乗車させた上,その車を運転して3名して生駒山中に向かった。第2 有罪と認定した事実
かくして,被告人両名は,共謀の上,被害者を殺害して同女に対する各々の債務を免れるとともに,さらに本件スナック内にある各自の借用証書等を取り戻すために本件スナックの鍵を強奪することを企てる一方,被害者殺害後はその死体を遺棄しようと企て,
1 平成14年10月19日午前1時30分ころ,奈良県生駒市〈中略〉番地所在のE寺第2駐車場に前記ワゴン車を駐車させ,一旦は被告人Aが被害者と共にE寺にお参りに出かけたものの,その後再び同ワゴン車に戻り,被害者(当時62歳)が助手席に座ったことから,被告人Aにおいて,とっさに持ち合わせていたタオルで同女を絞殺することを思い立ち,自ら被告人Bのいる後部座席に乗り込むと,助手席に座りヘッドレストに頭をもたれ掛からせている同女の背後から,いきなりタオルを回してその首にあてがい,その両端を持って後方に思い切り引っ張って同女の首を絞め上げ,さらに,被告人Bも途中からこれに加わってタオルの右端を両手で後方に力任せに引っ張り,二人して更に一層同女の首を絞め上げ,よって,その場で同女を窒息死させて殺害するに至った。そして,これによ
り,被告人両名は,被害者に対する前記各債務につき,被害者自身による取立てを絶対的に免れるとともに,同女の相続人らにおいてその権利行使への着手が可能となるまでの相当期間同じくその取立てを免れ,よって被害者自身から債務の支払猶予を得たのと同様の財産上不法の利益を得た。さらにその直後,被告人両名は,被害者の死体を遺棄するとともに本件スナックから借用証書を取り戻すべく,その死体を乗せたまま前記ワゴン車で大阪方面に向かったが,同日午前3時45分ころ,大阪府門真市〈省略〉番地所在のa駐車場に一旦同車を停車させた上,同車内において,同女が携帯していたショルダーバッグ内から本件スナックの鍵7本が付いた鍵束1束(時価合計約3500円相当)を見付けてこれを奪い,もって殺害後間がない被害者から上記物品を強奪した。 2 1の犯行後,被告人両名は被害者の死体を乗せたまま前記ワゴン車を大阪府守口市〈省略〉番地所在のb駐車場に駐車させていたが,死体の処置に窮したことから,同日午後9時ころ,同ワゴン車で同所から大阪府寝屋川市〈省略〉番地所在のcガレージ内に同女の死体を運び込み,同所に同死体を放置してこれを隠匿し,さらに,同月25日午後9時ころ,同ガレージ内において,同死体をドラム缶に入れ,これにセメント等を流し込んだ上で放置し,もって死体を遺棄した。
【当事者の主張に対する判断】
1 被告人Aの弁護人の主張について
被告人Aの弁護人は,① 被告人Aは,被害者から月6分あるいは5分という利息制限法の定める法定利息をはるかに超える金利で金銭を借り入れ,その利息の返済を行っているが,判例によると,制限超過部分についての返済は,元本に充当され,元本が消滅した後の弁済は,不当利得として返還を請求できるから,本件当時,被告人Aの債務総額は多くとも1724万5175円まで減少しており,それを超える部分の強盗罪の成立は否定されるし,また,② 被告人Bの関係でも,被害者に対する117万円の借金うち100万円の借金は,被害者が胴元となって行った競馬のノミ行為で負けた金であるから,被害者に対する正当な債務とは言えず,この関係でも強盗罪の成立を否定すべきである旨主張する。
よって検討するに,同弁護人の上記各主張の本旨は,要するに,民事上保護されない債権については刑事上も保護の対象とすべきではないというものであると理解される。しかしながら,そもそも刑法の財産罪の趣旨は,個々の被害者の具体的財産被害の填補にあるのではなく,財産法秩序が不法手段により乱されることを予防することを通じて,私人の財産上の正当な権利・利益を保護することにあるものと解されるのであるから,たとえ当該被害者に具体的には民事法上法的保護に値する利益がない場合であっても,財産権侵害の外形を備え,正当な財産権を侵害する一般的危険性を備えた行為については,財産罪の処罰対象とするのが相当であると解される(なお,事案は異なるが,最決昭和61年11月18日刑集40巻7号523頁,最判昭和35年8月30日刑集14巻10号1418頁及びこれらの判例に関する最高裁判所判例解説参照)。
本件においては,前記①②いずれについても,被害者は被告人両名に対して,それぞれ同額の借用証書等を有し,しかも,被告人両名とも同額の債務が残存していると認識していたのであるから,各債権について民事法上権利行使できる額がいくらになるかはともかくとして,これらの債務の支払いを免れるため被害者を殺害する行為は,被害者が被告人両名に対し有する各債権を侵害する外形を備えており,正当な財産権を侵害する一般的危険性を備えた行為と認めることができる。したがって,①②のいずれについても,債権全額を被侵害利益とする強盗殺人罪の成立が認められる。
2 被告人Bの主張について
被告人Bは,当公判廷において,自分は借金の返済に苦労していなかったので,自分の借金の返済を免れようとして被害者を殺害したわけではない旨供述している。
しかしながら,同被告人は,自ら警察に出頭し逮捕された初日(平成15年1月27日)の警察官調書〔乙22〕において,上記の点に関し,早くも次のとおり供述しているのである(以下,これを初日の供述という。)。
私が被害者をAと一緒に殺した理由は,私が年金を担保にして,700万円の借金があり,その上,平成14年8・9・10月にかけて被害者に17万円の借金をしており,私は,ガードマンをして稼いだ給料を被害者にそのまま預けて,金利を差し引いて,15万円位を借り受けるという雪だるま式の借金に追われ,この借金がなければ楽になると思い,また,Aも私以上に借金をしており,Aも借金の返済に追われ,毎日悩んでいました。…私も年金を担保に700万円の借金があり,老後の年金をもらえる様になっても借金の返済に追われ,ガードマンをして収入を得ても借金の返済,マンションの家賃の支払い,酒好きであることから飲み屋のツケの支払い等に追われ,乞食同然の生活をしており,Aに被害者殺害の話を持ちかけられたとき,私も,被害者の借金の返済から逃れるために,被害者を誘い出して殺そうと決心したのです。それで,Aが話を持ちかけたとき,私は,『Aが手を汚すんやったら,俺は失うものがないから俺がやってやる。被害者を殺さんと俺の借金がなくならん。首を絞めて俺が殺したる。』等と言い,Aと2人で借金の返済から逃れるために,被害者を殺すことに決めたのです。 以上の供述内容は,表現がいささか稚拙で未整理ながらも,具体的でかつ迫真的で説得力があり,捜査段階の各供述調書においては,ほぼ一貫してこの供述内容が維持されているのである。前掲の関係証拠によれば,被告人Bは,本件各犯行後,被告人Aとともに各地を転々とする逃亡生活を送っていたが,同被告人が平成15年1月25日夜に逃亡資金等を得るため大阪に帰ってきたものの,妻や知人から警察に出頭するよう説得されてこれを受け入れた後,同月27日の朝,同被告人から

俺は警察に出るから,Bも出てくれ。本当の話をしてくれたらいいから。

という電話を受けたことから,これに応じて,同日被告人Bも自ら福岡県太宰府の交番に出頭し,更に同日中に大阪府守口警察署に護送されて逮捕され,その当日の取調べにおいて,上記の初日の供述を行うに至ったものであって,このような経緯に照らすと,この取調べにおいて捜査官が虚偽供述を押しつけたとは考えられず(この点は,被告人Bも,当公判廷で自認している。),その供述に至る経過からして初日の供述には高度の信用性が認められる。加えて,上記初日の供述の内容は,概ね争いがないと思われる以下の各事情,すなわち,① 被告人Bの当時の被害者に対する借財状況(殊に,同被告人が,平成14年8月以前から被害者に対する借金の返済を滞らせていた上,本件犯行の2か月前からは,借金返済のため,警備員として得た給料のほぼ全額を被害者に渡し,生活費として新たに10万円を借りて,そのわずかな現金で1か月を過ごさなければならず,好きな酒やパチンコ代にも事欠くという不自由な生活が始まり,このような生活が当分続く見込みになっていたこと。),② 前記認定のような被告人Bの被告人Aへの生活上の依存状況,③ 借用証書上はともかくとしても,被告人Bは,本件犯行当時,被害者から700万円以上の借金があるものと信じていたこと,④ 被告人両名は,被害者からの借金がなくなれば楽になれるという思いから,日頃から被害者が死んでくれたらいいと愚痴をこぼしていたこと,⑤ 被害者殺害後,被告人Aにおいて,本件スナックに借用証書等を取りに入ったものの,結局断念して帰ってきた際,それを聞いた被告人Bは,

俺の借金のノートを破ってくれたらよかったのに。

と言って不満を漏らしていたこと,などの周辺諸事情と整合的であり,この点からもその信用性は十分であると認めることができる。
これに対比すると,被告人Bの当公判廷での弁解は,上記各周辺事情に照らすと不自然極まりなく,上記高度の信用性を認め得る捜査段階の供述を覆したことの合理的な説明もなく,到底信用することができない。
よって,以上により,有罪と認定した事実のとおり,被告人Bは,自ら財産上不法の利益を得る目的を有し,本件被害者殺害に及んだものと認定した。【法令適用の過程】
(1)有罪と認定した事実に記載の被告人両名の各行為は,それぞれ次の各刑罰法令に該当する(〔 〕内は法定刑)。
第2の1の行為…刑法60条,240条後段〔死刑又は無期懲役〕第2の2の行為…
包括して刑法60条,190条〔3年以下の懲役〕
そこで,当裁判所は,後記量刑の理由により,第2の1の罪につき,その法定刑の中から,被告人両名のいずれについても無期懲役刑を選択し,なお,第2の各罪は刑法45条前段の併合罪であるが,上記のとおり第2の1の罪について無期懲役刑を選択したので,刑法46条2項本文により他の刑は科さず,被告人両名をそれぞれ主文の刑に処することとした。
(2)被告人両名にはそれぞれ未決勾留の期間があるので,刑法21条を適用し
て,その日数中主文の日数をそれぞれその刑に算入する。
(3) 被告人両名の関係でそれぞれ訴訟費用(国選弁護費用)が生じているが,刑事訴訟法181条1項但書を適用して,被告人両名にはこれを負担させない。【量刑の理由】
本件は,闇金融を営んでいたスナックの女性経営者から多額の借金をし,その返済に窮した被告人Aと,同じく同女への借金の返済に苦しんでいた被告人Bとが,共謀の上,同女を殺害して各々の債務の支払いを相当期間免れるとともに,さらに本件スナック内にある借用証書等を取り戻す手段として本件スナックの鍵を同女のバッグ内から強奪し,更に,被害者の遺体をドラム缶にコンクリート詰めにするなどして遺棄したという事案である。
被告人Aは,その経営するコンビニエンスストアから多額の収益を上げていながら,それを上回る金をギャンブルに注ぎ込んで多額の借金を作り,その穴埋めをするため被害者から再々金の融通を受けたものの,その挽回を図るためますます各種のギャンブルにのめり込んでいったため,ついには膨大な借金を抱えて首の回らない状態に自らを追い込んでしまったものである。その過程で,同被告人が,多少なりとも自己の浪費を省みて借金やギャンブルを踏み止まり,あるいはまた,激しい非難を受けることを覚悟してでも家族に全てを打ち明けて相談するなどしておれば,ここまで事態が悪化することはなかったはずであるのに,同被告人は,このような採り得る方途を何ら尽くすことのないまま,コンビニエンスストアの経営に固執する余り,あるいは幼少よりの父親への畏怖の念もあって,借金の存在自体を無きものにすべく被害者を殺害するなどという最悪の道を選択してしまったものである。確かに,被害者は暴力団を背景として高利の闇金融を営んでいたものであり,その点で責められる余地が全くなかったとは言えない。しかし,被告人Aは,被害者の貸金業がそのような性質のものであることを熟知していながら,更には暴力団組員から特段過酷な取立てをされたこともなかったにもかかわらず,次々に借金を重ねてゆき,前述のような抜本的な打開策を講ずることのないまま,極めて安直に本件凶行に至ったのであって,被害者側の上記のような事情は,被告人Aの関係で特段有利に考慮し得る事情とまでは評価することができない。総じて,被告人Aの今回の犯行は,極めて短絡的な発想に基づく,誠に身勝手かつ自己中心的なものというほかなく,その経緯・動機には何ら酌量すべき点を見出すことができない。
次に,被告人Bにおいても,自己の収入を顧みずにギャンブルや酒食等に興じ,その補填や資金捻出のため被害者から高利と知りつつ借金を重ねていったものである。この間,一度は自己破産という方法で積年の借金を清算しようと努力した点は評価できるが,結局は,被害者との人間関係などが妨げとなってこれを断念するに至り,自己の享楽的な生活態度を全く改めようとしないまま,その後も相変わらず借金を続けていったため,最後は,被害者に厚生年金手帳を担保にとられる一方で,実質的に被害者に毎月の給料全額を管理されるというような,いわばがんじがらめの状態になってしまったことから,ついには延々と続く返済を重荷に感じて,被告人Aの殺害提案に安易に乗ってしまい,本件凶行に走るに至ったものである。これまた,極めて得手勝手な犯行動機というほかなく,総じてその経緯・動機に酌量の余地を見出すことができない。 そして,本件各犯行の態様は,計画的で,すこぶる執拗かつ冷酷なものである。被告人両名は,犯行の5日前に基本的な共謀を遂げた上で,その後も犯行の具体的方法について種々謀議を巡らし,本件犯行の2日前にも一度犯行を試みたが適当な殺害場所が見当たらず失敗に終わったことから,本件犯行当日は,食事やドライブなどを口実に被害者を誘き出して,今度は完璧に夜間人気のない生駒山中の駐車場まで車で連れて行った上,同所において,被告人両名に対する気安さから全く無警戒の被害者に対し,前記認定のとおり,その背後からいきなりタオルを回して同女の首にあてがった上,ヘッドレスト越しにその両端を持って後方に思い切り引っ張り,同女の脈を確認しながら,更によく絞まるよう途中絞め方を変えるなどして執拗に同女の首を絞め上げ,ついには殺害するに至ったものである。被害者の虚を突いた冷酷非情な所業と言うほかない。さらに,殺害後も,被告人両名は,第三者からシャッターつきガレージを借り,そこに被害者の遺体を数日間放置して遺棄したが,次第に死臭が強くなったので,犯跡を隠蔽するため,被害者の遺体をドラム缶にコンクリート詰めするに至ったものであって,その結果,被害者の遺体は1か月近くもガレージの奥で発見されることなく朽ち果て,見るも無惨な姿になって発見されるに至ったものである。被
告人両名は,高利をとられていたとはいえ,その窮地に再々被害者から金を融通してもらって世話になっていたものであり,そのような被害者に対する仕打ちとしてもあまりに無惨で非道なものというほかない。
言うまでもなく,本件犯行の結果は,極めて重大なものである。被害者は,子や孫に恵まれ,スナック経営等を通じて多数の人に親しまれていたのに,信用して数千万円もの金を融通していた被告人Aや,20年来の付き合いであった被告人Bから,突如として,かくも残酷な仕打ちを受け,かくも酷たらしい最期を迎えたものであって,その無念さはいかばかりかと察せられる。被害者の遺族らにおいても,1か月以上もその安否を確認できず,焦慮の日々を送った上,果ては,ドラム缶にコンクリート詰めにされ,変わり果てた姿になった被害者と対面するに至ったものであり,その驚き,悲しみ,憤りの大きさは計り知れない。被害者の長男は,当公判廷において,その悲しみを切々と語り,被告人両名に対する憤りの念を露わにしているが,当然のことであろう。被害者の遺族らが一様に被告人両名に対し峻烈な被害感情を抱いているのも,誠に無理からぬものがあると言わねばならない。
他方,本件の財産的被害を見ても,被告人両名が被害者を殺害したことによって得た財産上の利益は合計約3427万円と極めて多額である上,また,被告人両名は,犯行後,犯行使用車両を借りた知人等に口裏合わせを依頼する等の罪証隠滅工作を行い,その後数か月間に渡り各地を転々として逃亡する等しており,犯行後の情状も甚だ芳しくない。
そこで,以上を踏まえて,被告人両名の刑事責任を検討すると,まず,被告人Aにおいては,借金の返済に窮して犯行を発案し,被告人Bを誘って犯行に引き込んだこと,最初に被害者の首にタオルをあてがって後方に強く引っ張ったり,死体遺棄に必要なドラム缶,コンクリート等の段取りをしたりする等,各犯行において,終始中心的な役割を果たしたこと,犯行によって約3310万円もの莫大な財産的利益等を得ていて利欲犯的側面が極めて強いことなどに照らすと,その刑事責任は極めて重い。また,被告人Bにおいても,被告人Aからの被害者殺害の誘いに軽々に応じ,犯行に積極的な賛意を表し,自ら実行行為を担当する旨発言して,被告人Aの犯意を固めさせたばかりか,犯行方法等を提案するなど,本件各犯行の共謀に積極的に関与していること,本件犯行によって約117万円の多額の財産的利益等を得ていること,本件各犯行に際しても,被害者を誘き出した上,自らも絞殺の実行を分担しているだけでなく,途中被害者の脈をとって同女がまだ死んでいないことを確認すると,更によく首が絞まる方法を提案したり,ドラム缶に遺体をコンクリート詰めする作業を手伝ったりする等,終始積極的で重要な役割を果たしていること,遺族に対しこれといった慰謝の措置を講じていないこと等に照らすと,その刑事責任もまた極めて重いものがある。 そうすると,他面において,被告人Aの関係では,家族の尽力により,被害者の遺族に損害賠償の内金として200万円が支払われていること,被告人Aは,逃亡中,元妻らの説得を受けて警察に出頭しようと考え,被告人Bにも出頭するよう促すなどして反省の態度を表し,当公判廷でも,事実を率直に認め,本件犯行についても真摯に反省していること,被告人Aには前科がなく,元妻や子らが帰りを待っていること,他方,被告人Bの関係では,被告人Aからの示唆を受けて自ら警察に出頭し,公判に至っても自らが殺害行為をしたことは認め,被告人Bなりに反省の態度を示していること,同被告人には前科がないこと等,被告人両名のためにそれぞれ酌むべき事情も認められるが,これまで述べたような本件犯行に至る経緯・動機,犯行態様の悪質さ,結果の重大性等に照らすと,被告人両名に対しては,それぞれ無期懲役に処するほかないものと判断した次第である(検察官求刑―被告人両名に対しそれぞれ無期懲役)。
平成15年9月26日
大阪地方裁判所第7刑事部
裁判長裁判官 杉 田 宗 久

裁判官 飯 島 健太郎

裁判官 髙 橋 孝 治

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