判例検索β > 平成15年(わ)第231号
人質による強要行為等の処罰に関する法律違反等
事件番号平成15(わ)231
事件名人質による強要行為等の処罰に関する法律違反等
裁判年月日平成16年2月18日
裁判所名・部長野地方裁判所
裁判日:西暦2004-02-18
情報公開日2017-10-13 01:42:59
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主 文
被告人を懲役4年に処する
未決勾留日数中140日をその刑に算入する。
押収してある包丁1丁(平成15年押第35号の1)及び果物ナイフ1本(同号の2)を没収する。理 由
(罪となるべき事実)
被告人は
第1 平成15年7月28日午後6時40分ころ,長野県埴科郡・・・付近の関越自動車道上越線下り線を走行中のAバス株式会社新宿発特急長野行き一般乗合高速バス6011便車内において,同高速バス運転手B(当時54年)に対し,所携の刃体の長さ約22センチメートルの包丁(平成15年押第35号の1)を突き付け,

俺の指定するパーキングへ行け。警察に電話をして,警察官とパトカーをできるだけたくさん集めろ。

などと語気鋭く申し向けて命令し,同運転手をして,そのころ,長野市・・・所在の上記上越線松代パーキングエリア下り線に同高速バスを途中停車させてその後も同所から出発させず,同日午後6時58分ころ,C(当時25年)ほか32名の乗客を,その後の同日午後7時33分ころ,上記Bを,いずれも同パーキングエリアで解放するまでの間,同人らが同高速バス車内から脱出することを不能にして不法に監禁し人質にした上,その間の同日午後6時47分ころから午後6時57分ころまでの間,前後2回にわたり,同高速バス車内において,畏怖する上記Bをして同人の携帯電話で,上記命令に従って110番通報させて,長野県警察本部生活安全部地域課司法警察員警部補Dらに対し,警察官及び警ら用無線自動車が上記松代パーキングエリアに大量出動するよう要求し,もって人を監禁し,これを人質にして,第三者に対し,義務のない行為をすることを要求した第2 業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午後7時35分ころ,前記松代パーキングエリアにおいて,前記包丁1本及び刃体の長さ約10センチメートルの果物ナイフ1本(前同押号の2)を携帯した
ものである。
(法令の適用)
罰 条 判示第1の所為につき人質による強要行為等の処罰に関する法律1条1項判示第2の所為につき包括して銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条刑種の選択 判示第2につき懲役刑
併合罪加重 刑法45条前段,47条本文,10条,47条ただし書(重い判示第1の罪の刑に法定の加重)未決算入 刑法21条
没 収 刑法19条1項2号,2項本文(判示第1の犯行の用に包丁を供し,果物ナイフを供しようとした。)
訴訟費用 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
本件は,被告人が,関越自動車道上越線下り線を走行中の新宿発特急長野行きの高速バス内において,パン切り兼冷凍用包丁を用いて運転手を脅し,同人及び乗客ら合計34名を人質とするいわゆるバスジャックをし,その際,同包丁及び果物ナイフを携帯した事案である。その犯行動機を見ると,被告人は,高額の電気製品購入の勧誘に乗って作ってしまった80万円の借金の返済に悩んでいたのに,職場の人間関係がうまくいかず,けんかをして失職し,職探しも思うようにならない状況下で,本件当日,母親が被告人の独立を求め,母親も家を出る旨の言動をしたことから,母親から見捨てられたと思い込んで絶望感に襲われ,自殺をしたい気持ちとなるとともに,その絶望感から,自暴自棄となって,社会を大きく騒がし,自己に注目を集めたいとの願望を抱き,過去に大きく報道されたバスジャックをすることを思い付き,本件犯行を敢行したものであって,短絡的かつ極めて自己中心的であり,その動機に酌量の余地はない。
その犯行態様を見ると,被告人は,高速バスの乗っ取りを企て,その対象として新宿から長野バスターミナル行きの高速バスを選択し,新宿のデパートで,果物ナイフと,乗客にも良く見える凶器として判示の刃体の長さ約22センチメートルのパン切り兼冷凍用包丁を購入し,これをリュックサックに入れて携帯し,新宿で判示高速バスに乗り込み,横川サービスエリアに停車中にバスの乗客の状況を偵察し,同バスが,関越道上越線下り線を走行し,坂城バス停を通過して片山トンネルに入る時点で,判示包丁を右手に持って,運転席に近寄り,運転手の肩付近や脇腹に近付けて判示包丁を突き付け,

おれの指定のパーキングに入れろ。

などと言って脅迫し,携帯電話をかけさせ,警察官を大勢集めるように要求し,約10分後に判示松代パーキングエリアに停車させ,人質とした乗客33名については,同所到着後約8分後に解放したが,運転手については,その後約35分後に解放するまで人質とし,長野県警察の警察官らに対し,判示松代パーキングエリアに警察官及びパトカーの大量出動を要求したというものである。被告人が購入した凶器は,その購入店舗に置かれた他の鋭利な刃物と比較すれば殺傷力が劣るものと見られるのであって,被告人がバスの運転手や乗客らに危害を加えるつもりはなかったと述べているところは,うなずけないではないが,被告人は,判示包丁を乗客からも良く見える状態で使用しており,その刃物を見た者らの恐怖感は大きく,被告人に乗客らに危害を加える意図がないことが,被害者らの恐怖感を減少させるものではない。
本件においては,バス運転手の冷静な対応により,幸いにも負傷者がなかったが,被告人が運転手に判示包丁を突き付けたのは,片側1車線の対面通行のトンネル内であって,ハンドル操作を誤れば高速走行中の対向車との衝突や,トンネル壁面との衝突の危険もあり,そのような緊張を強いられる場所を走行中の運転手に携帯電話で警察と交信することを要求していることは,極めて危険な状態を生じさせているとともに,運転手に極度の緊張感と恐怖感を与えたものである。さらに,判示松代パーキングエリアにおいては,バス運転手の適切な判断により乗客らが早期に降車することとなったが,その後もバス運転手は被告人との応対を要したものであり,1人で被告人と応対する際の恐怖感も甚大といえる。また,本件バスの乗客らも冷静に行動していたが,恐怖心等から過剰な反応を起こし,車外に飛び降りるような行動をとって負傷することもありえたのであって,本件行為の危険性を軽く見ることはできない。乗客らの中には,本来下車する予定の停留所を通過した者もあり,多くの乗客は,その予定地の手前で下
ろされるなど,強制的に予定を変更されるなどの迷惑を蒙っているが,なによりも,解放されるまでの間,被告人の所持していた判示包丁によりどのような危害を加えられるかもしれないという不安を抱かされていたものであり,その恐怖感には筆舌に尽くし難いものがある。被告人が人質とした乗客が33名と多数であるところ,警察官に犯行状況を説明した乗客らは,いずれも被告人の厳罰を望んでいる。また,被告人の要求もあって,出動した警察官数は148名に達し,待機警察官数も100名を超えるなど,本件犯行の影響は極めて大きい。
本件のような公共交通機関において運転手や乗客を人質とする行為は,極めて社会的影響が大きく,交通機関を利用する多くの人々や,その家族らに不安をもたらすものである上,被告人が本件犯行を思いついた契機が他のバスジャック報道であったように,本件のような犯行は模倣性が高く,再発防止の観点からも,厳重な処罰が要請されるのである。
被告人は,その知的能力の面で,一般の人よりも劣っていることが認められるが,本件のような犯行が悪質かつ重大なものであることは,容易に分かることである。被告人が,自らの意思で,乗客や,バス運転手を解放し,素直に逮捕に応じていることを考慮しても上記事情からすれば,被告人の刑事責任は重いというべきである。
そうすると,被告人が若年で前科がないこと,本件犯行を反省し,その旨記載した書面を提出していること,被告人の言語の概念についての理解力がかなり劣ること,本件バスの運転手が,被告人の更生を祈り,刑が軽くなるように応援する旨の書面を提出していること,被告人の家族が被告人の更生を願っていること等の事情を十分考慮しても,主文の刑に処するのはやむを得ないところと思料する。よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役5年,没収)
平成16年2月18日
長野地方裁判所刑事部
裁判官 青木正良

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