判例検索β > 平成13年(わ)第35号
出入国管理及び難民認定法違反、住居侵入、殺人、死体遺棄被告
事件番号平成13(わ)35
事件名出入国管理及び難民認定法違反,住居侵入,殺人,死体遺棄被告
裁判年月日平成13年12月6日
裁判所名・部宇都宮地方裁判所
裁判日:西暦2001-12-06
情報公開日2017-10-13 01:48:52
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主 文
被告人を懲役17年に処する
未決勾留日数中220日をその刑に算入する。


(犯罪事実)
被告人は,
第1 タイ王国国籍を有する外国人で,平成3年12月19日,千葉県成田市所在の新東京国際空港に上陸して本邦に入ったものであるが,在留期間は平成4年3月18日までであったのに,同日までに在留期間の更新または変更を受けないで,平成13年1月13日まで,宇都宮市a町b番地所在の借家等に居住し,もって在留期間を経過して本邦に不法に残留し,
第2 かつて同棲していた同国人のAが別に男(B)をつくって被告人との同棲を解消した原因は,C(当時38歳)がAをそそのかしたことにあると思い込み,Cに対して恨みを抱いていたところ,平成13年1月4日,Aから別れ話をするのでB方に来てもらいたい旨電話で告げられるや,Cに対する恨みを倍加させて激高し,CはAと一緒にいるに違いないからB方においてCを殺害しようと企て,同月5日午前零時30分ころ,宇都宮市c町d番地コーポDe室B方に赴き,中の様子をうかがった後,B方の東側掃出し窓からB宅に侵入し,同所に来合わせていたCに対し,

ペン,おまえが一番悪い。

などと怒号しながら,所携の包丁でCの頸部及び背部等を数回突き刺し,その頸部を切断するなどし,よって,そのころ,その場でCを肺刺創による失血のため死亡させて殺害し,
第3 平成13年1月5日午前零時40分ころ,上記B方から,上記Cの死体の一部である切断した頭部を持ち去り,これを同日午前1時ころ,宇都宮市f町gh番地北西約300メートルの鬼怒川上に架けられたE橋から,同川中に投棄し,もって死体を遺棄したものである。
(法令の適用)
被告人の判示第1の行為は出入国管理及び難民認定法70条1項5号に,判示第2の行為のうち住居侵入の点は刑法130条前段に,殺人の点は同法199条に,判示第3の行為は同法190条にそれぞれ該当するところ,判示第2の住居侵入殺人との間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い殺人罪の刑で処断することとし,各所定刑中判示第1の罪については懲役刑を,判示第2の罪については有期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第2の罪の刑に同法47条ただし書及び同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役17年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中220日をその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。(量刑の理由)
本件は,不法残留中であるタイ国籍を有する被告人が,本国に妻子がいるにもかかわらず,同国人女性(A)との愛欲におぼれ,約2年間にわたり同棲したが,同人が新たな日本人の恋人をつくり家を出て行ってしまったため,Aが逃げたのは,同人と仲のよかった被害者(C)にそそのかされた結果であると邪推して憎悪を募らせ,Aの恋人方にCが居ることを知るやその家に侵入してCを殺害し,頸部を切断して頭部を持ち去り,鬼怒川に投げ捨てたという事案である。
判示第1の犯行(不法残留)の犯情はよくない。被告人は,就労目的で本邦に入国し,平成8年ころには,当時の雇用主からタイに帰るように帰国資金の提供まで受けたにもかかわらず,なお本邦にとどまり,8年以上の長期にわたり我が国の出入国管理行政を損なわせた。
判示第2及び第3の犯行(住居侵入殺人死体遺棄)は残虐非道な犯行であり,動機は理不尽,短絡的で,酌量の余地はない。
被告人は,家を出てしまったAに執ように付きまとい,強姦まがいの行為までして執着した。Cに責任はないというAの言葉に耳を傾けず,破局を迎えた全責任をCに求めた。Aとの関係が完全に破綻したことを覚(さと)るや,Cをできるだけ苦しめ,痛めつけなければ恨みがはれないと考え,以前,Cを包丁で切り刻み生首を川に捨ててやろうと思ったことを実行に移そうと決意し,あらかじめ自宅から首を切るための包丁を持ち出し,B方にいるかもしれない他の者に邪魔された場合に備えて丸太棒を作った。B方に着いてCが来ていることを確認すると,まず,Cが1人で出てくる機会をとらえてCを殺そうと考えた。被告人は,強固で冷酷な殺意の下,周到に準備して犯行に臨んだ。 A,Cらと飲食中であったBが外の物音を不審に思い,サッシ窓を開けるや,被告人
は,外で実行する計画を変更して,土足でB方に押し入り,Cのそばに駆け寄って,用意していた包丁をCの頸部,腹部に突き出した。Aらが驚き慌てて逃げ出すのを認めると,犯行の発覚を恐れる気持ちなど吹き飛んで,Aらに被告人がCを殺すところを見せつけ,被告人がいかにCを憎んでいたか思い知らせようとして,Aらを追いかけた。Aらを捕まえることができずに戻ると,やらないで,やらないでと必死に命乞いをして身体を守ろうとしたCの頸部や腹部を目がけ,執ように包丁を突き出した。Cが力尽きて仰向けに倒れると,その頭髪を片手でつかみ,もう一方の手に持った包丁で,力を込めて頸部を切断してとどめをさした。被告人は,Cを殺害後,切り取った生首を鬼怒川にごみのように投げ捨てた。
頭部がなく,首のまわりは血にまみれ,腹部の刺創からは大網(たいもう,腹壁のひだ)が長々と飛び出した被害者の遺体は,異様で見るも無惨である。被害者の頭部はいまだ発見されていない。タイ国籍を有する被害者は,不法残留中ではあったものの,在日タイ人の間では良き相談相手として皆に慕われる存在であった。被害者は,Aと同じ飲食店で働いていたことから,被告人との関係を聞かされたり,Aに頼まれ被告人方からAを誘い出したりしたことはあったが,Aと被告人との仲を引き裂こうとそそのかした事実はなかった。被告人は,公判に至ってもなおCに責任があると供述している。Aを美化し,Aの心変わりの原因が被告人の粗暴癖などにあることを直視できずにいる。いわれない理由から惨殺され,頭部を捨てられた被害者の恐怖,苦痛,無念の思いは計り知れない。
被害者死亡の事実を知らされたタイに残る遺族は,経済的に一家を支えていた最愛の娘があまりにもむごたらしい死を迎えたことを深く悲しみ,極刑を望んでいる。 生首を切り取って持ち去るというあまりに異常な事件は,社会に対し大きな衝撃を与えた。
被告人の刑事責任は極めて重大である。
してみれば,被告人は,不法滞在中とはいえ,Aに出会うまではほぼ堅実に過ごしてきたこと,日本での前科前歴はなく,本件殺人死体遺棄の結果について,公開で処刑されて当然と述べ,深い反省の気持ちを表していることなど,被告人に有利な事情を最大限しん酌しても,被告人に対しては主文の刑が相当である(求刑 懲役18年)。平成13年12月6日
宇都宮地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 肥留間 健 一

裁判官 伊 藤 正 高

裁判官

小 林 謙 介

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