判例検索β > 平成15年(わ)第117号
逮捕監禁・営利略取・殺人・死体遺棄被告事件
事件番号平成15(わ)117
事件名逮捕監禁・営利略取・殺人・死体遺棄被告事件
裁判年月日平成16年2月12日
裁判所名・部宇都宮地方裁判所  刑事部
裁判日:西暦2004-02-12
情報公開日2017-10-13 01:43:00
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判 決
主 文
被告人を懲役14年に処する
未決勾留日数中280日をその刑に算入する。



(犯行に至る経緯)
被告人は,成人したころから長年にわたって右翼活動をするなどしていたが,昭和55年ころに第一線を退いた後は,昭和63年ころから,q県a市内に有限会社甲を設立し,建築物の解体及び廃棄物の処理業等に従事する一方,昭和58年ころに知り合った暴力団組織の構成員であるAのいわゆる舎弟分として,Aの運転手をしたり,Aの債権回収を手伝ったりするようになり,Aを通じて,元暴力団組織の構成員のBとも顔見知りになっていた。Aは,平成10年ころに揉め事の仲裁を依頼されたのを機に,q県b市内で廃棄物の収集運搬等を業とする会社を経営するCと付き合うようになり,以後,Cの知人の揉め事を解決して謝礼を貰ったり,Cに手形を割り引いて貰うなどしていた。Cは,c県d市内で廃棄物の処理業を営むDから会社経営に関する助言を受けるなどして,平成4年ころからDと親密に付き合うようになり,Dに依頼されて廃棄物の収集運搬をするなどしていた。
Dは,昭和62年に廃棄物の処理等を業とする有限会社乙を,平成2年に廃棄物の収集運搬等を業とする有限会社丙を順次設立し,廃棄物の処理業を展開していたところ,同年,d市の焼却施設の老朽化に伴い,新規焼却施設の設置計画が策定されると,同施設稼働までの暫定措置として乙会社に一般廃棄物の処理が委ねられることとなり,取り敢えず一般廃棄物の処理業許可という形がとられたが,c県からd市への許可期間短縮の示唆も蔑ろにされるなど,同許可は不自然な形でなされた。その後も,乙会社は,c県から行政処分を受けたにも拘わらず,前記許可が更新されたり,区域外自治体の廃棄物の処分に関する許可の追加を受けるなどし,さらに,平成6年10月,市全域で収集される一般廃棄物を処理するのに十分な能力を有するd市丁センターが完成し,稼働を開始した後においてすら,許可を受け続けるなど,特別の便宜供与を殊更与えられ続けたとしか考えられない経緯を辿った。また,Dは,前記許可等を与えた当時の所管部長や元清掃事務所長の近親者を丙会社の役員に迎え入れるなどしつつ,市長派に属する職員らに取り入る一方,平成7年に大手プラントメーカーの資本参入を受けて乙会社を株式会社に鞍替えした上,平成8年には,c県から産業廃棄物及び一般廃棄物の処理施設設置許可を得て焼却処理施設を建設するなど,着々と事業の拡大を図って行った。
そして,Dは,平成9年,乙会社の焼却処理施設が完成して稼働を開始したことを受け,積極的な営業活動を展開した結果,他自治体からd市に対し一般廃棄物の持込み方の打診が相次ぐようになり,市も,同年4月にd市丁センター所長に就任した被害者を中心として,他市町村からの一般廃棄物の受入れに関する要綱の作成を検討することとなった。被害者は,上司とともに,平成10年前半までには,他自治体や業者の責任を明確にする厳格な事前協議要綱案を作成し,一旦は上層部の最高責任者の積極的指示を取り付けたが,その後の意見調整の場等においては,案に相違し,廃棄物関連の所管管理職等を歴任した最高幹部が,業者寄りの意見を強く主張し,あるいは,前記最高責任者が明確に業者の便宜を図るように求めるに至り,別の最高幹部からも,こうした態度豹変等の裏にはDとの間で話合いが済んでいる旨告げられて,前記最高責任者の意向に添うよう示唆されたため,やむなく骨抜きの事前協議要綱案を策定せざるを得ない羽目に陥った。しかし,被害者は,挫折することなく,従前は馴れ合いで認められていた事前協議の場への業者の同席を許さない措置を取ったり,同年秋には,r県e市からの一般廃棄物の持込みにつき,乙会社が収集運搬を行うとの事前の取決めに反し,一般廃棄物収集運搬の許可を受けていない丙会社に下請させている問題点を鋭く指摘するなど,あくまでも厳正な廃棄物行政を執行し続けていた。
こうしたなか,平成11年4月,被害者が突如見せしめ的降格人事により廃棄物行政から離れるのを余儀なくされるに至ったところ,Dは,ここぞとばかりに,d市丁センターに頻繁に顔を出し,前記最高幹部の息の掛かった後任者との間で,密接な関係を築き上げ,前記のとおりの被害者指摘に係る丙会社の無許可収集運搬行為の黙認,審査らしい審査をしたとは考え難い不備な内容の申請どおりの丙会社に対する一般廃棄物処分業等の許可,事前協議における一般廃棄物の収集運搬の丙会社へのほぼ独占的委託及び事前協議の形骸化等,様々な便宜供与を受けるようになった。そして,Dは,少なく
とも,平成12年4月からは,f市からの委託により収集運搬した一般廃棄物に関して,d市内で収集した廃棄物である旨偽って,処理費用の低額なd市丁センターで処理する一方,f市に対しては,乙会社で処理したように装い,高額な処理代金を請求するとの詐欺的行為により莫大な利益を得ていた。これを察知した部下職員からは,複数の管理職に対し,時日を異にして,不正行為の指摘がなされたが,前記被害者の後任者は,以前,上司の反対で果たせなかったものの,事前協議において他自治体からの一般廃棄物の収集運搬を丙会社に限定する旨の改正方を指示したことがあるほど,Dに肩入れしており,当然のことながら,前記部下職員の指摘を黙殺し,前記後任者とは派閥を別にするその上司においても,最高幹部の1人に報告を上げたが,特段の措置を講ずる必要がない旨述べるだけであった上,前記後任者が別の前記最高幹部等の後ろ盾を得ていることへの配慮から,追及是正措置を講ずることなく,放置した。
しかし,同年6月に実施されたd市長選の結果,新たな市長が誕生したことにより,市の体制が刷新され,同年10月には,廃棄物行政に精通する被害者が環境保全担当参事に返り咲いた。これを受けて,被害者は,他自治体による乙会社への廃棄物の持込み案件に対する事前協議等につき,書類や内容面の不備を敢然と指摘し,拒否すべきものは拒否するなど,適正な協議に努めるとともに,以前と同様に事前協議の場から業者を締め出すなど,馴れ合い体質等を改めて,厳正な廃棄物行政を執行し始めた。また,被害者は,着任して間もなく,丙会社が同年4月から6月にかけてd市丁センターに搬入した廃棄物の量が異常に多いことから,内通による情報漏洩に留意しつつ,不正の疑いを抱いて独自に調査を進め,丙会社に対し,期限を定めて詳細な実績報告書の提出方を指示するなどして,不正の解明及びその是正措置を講じようとした。ところが,被害者の指示に係る実績報告書の提出期限が迫った同年11月中旬,丙会社の従業員からは実績報告書の提出が困難であるとの電話連絡が入れられ,翌日には,Dが,d市丁センターに怒鳴り込み,f市からの委託により収集運搬した一般廃棄物をd市丁センターに搬入した旨被害者の指摘が図星であることを暗に自認しつつも,d市としてD及び乙会社の事業運営への支援協力を確約する旨記載された作成経緯等不詳の平成4年2月10日付けd市長名義の念書なるものを提示し,市には貸しがあるので便宜を図るのは当然として,応対した被害者らを恫喝するなどした。しかし,被害者は,やはり,動じることなく,毅然として廃棄物行政を進め続けた。
かくするうち,Dは,平成13年3月には,乙会社の役員留任を画策したが,果たせずに退任を余儀なくされたため,以後,収入源は丙会社からの利益に限定されることとなったところ,同年4月,被害者から,d市丁センターに搬入することが許されない破砕ゴミを丙会社が持ち込んだことを指摘され,搬入を停止されるなどしたため,Dは,またもや,d市丁センターに怒鳴り込み,被害者に悪態を付き,便宜を図るよう迫るなどした。しかし,被害者は,同年5月には,丙会社の作業現場の確認を実施し,d市丁センターに搬入すべき一般廃棄物がないことを認めさせ,一般廃棄物の搬入ができないことを意味する収集運搬車両の計量カードの返還方の通告を行い,その後も,従前と変わることなく,他自治体からの乙会社への廃棄物の持込み案件に関する事前協議等につき,ダイオキシンの発生を理由に拒否の姿勢を示したり,あるいは,予め取り決めた搬入廃棄物の量と実際の量が違背することを理由に内容の変更を求めるなど,いずれも丙会社の実績に響くものではあったが,所管管理職として極めて筋の通った対応を続けていた。にも拘わらず,Dは,前任者等が不当な便宜供与をしていたことをいわば逆手に取り,被害者が返り咲いてからというもの,何かと思いのままに進まないとして,丙会社の事業が立ち行かなくなるのではないかと懸念の度を強め,被害者への不満を露わにしていた。さらには,同年9月に翌月末日許可期限が満了する丙会社の一般廃棄物処分業の許可の更新申請をしていたが,前回の申請が不備であったことが祟り,被害者としては最終的には許可の腹を固めていたものの,追加資料の提出等を要求せざるを得なかったことから,期限が切迫しても一向に許可が下りない事態を招いていたこととも相俟って,Dは,益々丙会社の存亡への危機感を募らせて行き,前後して,被害者を殺害しても飽き足らないなどと,周囲の者に公言して憚らないようにまでなった。 そのような折,同年10月中旬ころ,Dは,開発中のq県g市内の温泉施設にCを呼び出した上,丙会社が倒産すればCの会社も連鎖的に潰れるなどとして,業務の障害となっている被害者を殺害等するしかないと打ち明け,報酬と引き替えに殺害等を引き受けてくれる口の堅い人物の心当たりの有無を問い質し,Cが取り敢えず候補に挙げたAとの交渉方を求めた。Cは,経営する会社の仕事の大半が丙会社の下請としての廃棄物の収集運搬であり,これが失われた場合には経営が成り立たない状況にあったことから,当初こそDに翻意を促したが,逆に強く同調を迫られて説得されるに至った。そこで,Cは,以前何度か揉め事を解決して貰ったことがあり,困ったことがあったら相談するよう
言われていたAに連絡を付け,具体的な報酬額を提示するなどしながら,概括的説明をした上で,市役所の人間を始末することができるかなどと,被害者を拉致するなどして殺害することを打診すると,Aはさすがに即答しなかったものの,結局は,存外容易に了承してくれたので,拉致等を含めた具体的な手段方法は,暴力団組織の構成員であるAに委ねることとした。Cの話を請け合ったAは,早速,舎弟分である被告人及びAと旧知の間柄の元暴力団組織の構成員であるBに対し,人を拉致等するだけで多額の報酬が得られる仕事がある旨それぞれ持ち掛けた。被告人は,当時,入退院を繰り返すなどして甲会社の経営が思わしくなく,入院費すら支払うことができない状態にあったことから,多額の分け前を得られれば,甲会社を立ち直らせることもできると考え,Aの申入れを承諾した。かくして,A及び被告人は,同様にAの誘いに応じたBとともに,Cを通じて得たDの手配に係る住宅地図のコピー等をも頼りに,d市丁センターや被害者方付近に赴いて下見を重ね,被害者の動向を探りながら,まずは拉致監禁する機会を窺った。(罪となるべき事実)
第1 被告人は,A,B,C及びDと共謀の上,営利の目的で,被害者(当時57歳)を拉致監禁しようと企て,平成13年10月31日午後5時45分ころ,c県d市h町ij番地所在の水田北側路上において,被告人が運転し,A及びBが同乗する普通乗用自動車で,自転車に乗って帰宅途中の被害者を一旦追い越し,降車したBにおいて,道案内を求めるかのように装って被害者を呼び止め,自転車を降りて近付いてきた被害者に対し,その頸部付近に腕を回して被害者の身体を押さえ込んで,前記自動車の後部座席まで引きずり,Aにおいて,反対側から被害者の身体を車内に引っ張るとともに,被告人において,Bと一緒に,被害者を車内に押し込んで,A及びBにおいて,両側から被害者の身体を押さえ付けるなどして,被告人らの支配下に置き,もって,被害者を不法に逮捕するとともに,営利の目的で,被害者を略取した上,被告人において,同車を発進走行させ,同日午後9時ころ,到着したq県a市大字kL番地のm所在の甲会社敷地において,さらに,被害者に対し,Bにおいて,粘着テープで被害者の目及び口を塞ぐとともに両手足を縛るなどし,A及びBにおいて,被害者を別の普通乗用自動車に乗せ替え,被告人において,同車を発進走行させ,同年11月1日午前3時ころ,s県n市若しくはその周辺の山中又は同県o郡p町若しくはその周辺の山中に至るまでの間,被害者を同車内等から脱出することを不可能にし,もって,被害者をその間約9時間にわたり不法に監禁した。第2 被告人は,第1のとおり,被害者を略取及び逮捕監禁し,甲会社で前記別の普通乗用自動車に乗せ替えた後,Aの指示に従って同車を走行させていたが,しばらくしても,被害者の身柄の引渡しが行われないため,道中,Aに段取りを問い質したところ,Aから被害者殺害の意図を告げられ,一旦は話が違うと抗議したものの,被告人の顔を見られたばかりか,経営する甲会社の所在地まで知られた以上は,このまま,被害者を解放する訳にはいかず,被害者を殺害するほかないと決意し,その後,Bも同様の決意をしたところより,A,B,C及びDと共謀の上,同日午前3時ころ,第1記載の同県n市若しくはその周辺の山中又は同県o郡p町若しくはその周辺の山中において,被害者に対し,確定的殺意をもって,A及びBにおいて,所携のロープでその頸部を絞め付け,Aにおいて,けん銃で弾丸1発を発射して被害者の身体に命中させ,よって,そのころ,同所において,被害者を死亡させて殺害した。
第3 被告人は,A及びBと共謀の上,第2記載日時ころ,第2記載場所において,被告人及びBにおいて,被害者の死体を道路脇の断崖から崖下に投棄し,もって,死体を遺棄した。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為のうち,逮捕監禁の点は刑法60条,220条に,営利略取の点は同法60条,225条に,判示第2の所為は同法60条,199条に,判示第3の所為は同法60条,190条にそれぞれ該当するが,判示第1は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により1罪として重い営利略取罪の刑で処断することとし,判示第2の罪について所定刑中有期懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第2の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役14年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中280日をその刑に算入することとする。(量刑の理由)
本件は,首謀者である黒幕の廃棄物処理等を業とするDにおいて,長年にわたりd市の最高幹部や直接の窓口となる所管管理職に取り入るなどして様々な権益を享受していたが,市長の交代に伴い,廃棄物行政担当参事に返り咲き,再び厳正な職務執行に
邁進する被害者が,恫喝等を繰り返しても,意のままにならず,このままでは死活問題と理不尽にも逆恨みした挙げ句,邪魔者は消せとばかりに,力尽くで排除しようと企て,仕事面で運命共同体的立場にあった下請業者のCに対し,被害者の抹殺等案を打ち明けて同調を求め,犯行発覚を免れるための口の堅そうな恰好の殺し屋役の選定及びその交渉方を迫り,これを受けたCが,日頃揉め事の解決等の依頼歴があった暴力団組織の構成員であるAに白羽の矢を立てて,多額の報酬と引き替えによる実行役話を持ち掛け,さしたる抵抗なく了承したAにおいて,知人の元暴力団組織の構成員であるB及びAの舎弟分の被告人を誘い入れて動員し,A,B及び被告人の3名で,帰宅途中の被害者を車両内に無理矢理押し込み,最終的にはs県の山中まで強制連行した末,ロープで被害者の頸部を締め付けるとともに,けん銃で止めを刺して殺害した上,死体を断崖から投棄したという凶悪な逮捕監禁・営利略取殺人死体遺棄の事案である。 D及びCは,Dの事業面における不当な権益ひいてはその恩恵を与る立場のCの経済的利益を死守するため,あろうことか,公務員として筋の通った職務執行に努めていた所管管理職の抹殺等を企図し,暴力団組織の構成員等を使って実行したものであり,目的のためには他人の尊い生命さえ奪うことを厭わない言語道断の悪行暴挙というしかなく,被害者とは特段の利害関係がないにも拘わらず,多額の報酬や犯行発覚回避目当て若しくは極めて安易な状況追随思考の下に,実行役を担ったA,B及び被告人を含め,その卑劣で身勝手極まりない人命軽視の態度は厳しく糾弾されなければならず,もとより,動機に酌量の余地は皆無である。なお,本件犯行の背景事情に照らす限り,特定の業者に過ぎないDと密接な関係を取り結んでいた市の最高幹部や所管管理職等の中堅以上の幹部において,事もあろうに,Dに種々の不当な便宜を図り,あるいは,不正を黙認放置するなどという,自己の重責を忘れた特定の業者との馴れ合いや癒着体質さらには自己保身による事なかれ主義といった夙に指摘される公務員の悪弊による対応の累積が,Dをして本件の如くの悪辣な大逸れた犯行を発案敢行するまでに増長させた温床となった面があることは到底否定し難く,犯人達の刑事責任を些かも減じるものではないことは当然ながら,事ここに至るまでDを増長させるのに大なり小なり一役買った関係者においても一定の道義的非難を免れないといわざるを得ない。 犯行の具体的遣り口を見ると,まず,逮捕監禁及び営利略取の点は,実行役のA,B及び被告人は,数度にわたって下見を重ね,Cを通じて入手したDからの地図をも頼りに,被害者の勤務先や自宅を捜し,被害者の動向を確認するなどの準備を行った後,本件当日夕方,普通乗用自動車に分乗し,帰宅を待ち伏せし,自転車で帰途に付いた被害者を追尾し,人気のない田舎道に入るや,好機到来と考えて,一旦追い越した上で,Bにおいて,道を尋ねるように装って停止させ,被害者が親切心から応じようとしたものの直ぐさま危険を察したと踏むや,いきなり被害者の首に腕を回すなどして身体を押さえ込んで,前記車両の後部座席まで引きずり,大声で助けを求めて激しく抵抗するのも意に介さず,Aにおいて,反対側から被害者を車内に引っ張り,被告人も,Bと一緒に,被害者を車内に押し込み,A及びBにおいて,被害者を両脇から押さえ付けて,被告人が,同車両を発進走行させ,A及びBにおいて,強烈な脅し文句を告げるなどし,途中の段階では,さらに,Bにおいて,粘着テープで被害者の目及び口を塞ぐとともに両手足を縛るなど徹底的な拘束状態に置き,尾行を危惧し,別の普通乗用自動車に乗せ替えて,山中に至るまで合計約9時間もの長時間にわたって被害者の自由を奪い,苦痛と恐怖を植え付けたものであって,これら態様は,計画的で大胆かつ粗暴極まりない。そして,A,B及び被告人は,未明の山中において,確定的殺意の下に,Aの差配に従い,A及びBにおいて,既に緊縛等により抵抗の術を奪われていた被害者の頸部にロープを二重に巻き付け,両端を2人掛かりで引いて絞め続けた上,なおも,Aにおいて,用意していたけん銃で身体の枢要部である被害者の上半身目掛け,至近距離から発砲して止めを刺しているのであって,殺害態様も,一方的で残忍かつ冷酷非情というほかはない。あまつさえ,被害者殺害を遂げるや,Aの指示を受け,B及び被告人において,死体を道路脇の断崖から崖下に無造作に投棄する仕打ちさえ行っているのであり,被害者に対する哀れみの情や死者に対する畏敬の念を見て取ることができない。 被害者は,市の廃棄物行政を担当する所管管理職として,市民の健康や環境保全に意を尽くし,従前Dと馴れ合いや癒着の関係等を継続してきた担当部局の体質を打破し,適正かつ健全な行政を全うすべく,一部上司同僚の職責に背を向けた対応やDの執拗な恫喝等にも屈せず,身の危険を感じつつも,毅然とした姿勢で法規等に則った行政の執行に当たり,まさにあるべき公務員としての使命や姿を体現していたものにほかならず,検察官も強調するとおり,公務員の鏡として高く称賛されこそすれ,本件凶行を甘受しなければならないような落ち度は何一つとしてなく,市長も殉職同然として深い哀悼の意を表明しているところである。そして,被害者は,手堅い行政手腕を高く評価されて
いたことはもとより,明るく誠実かつ親切な性格で,家族を思いやり,小学生に熱心にバレーボールを指導するなど,公私にわたり充実した生活を送っていたにも拘わらず,勤務先からの帰途突如襲われ,苦痛と恐怖を与えられた挙げ句,50代後半で非業の死を遂げたばかりか,山中の崖下に遺棄されて今なお遺体が発見されず仕舞いの仕打ちを受けており,犯人達による凶行が到底許し難いことは勿論のことながら,一部上司同僚の恣意的でかつ無責任な職務執行がその一背景にあることにも思いを致すと,被害者の無念さは察するに余りあり,結果は誠に重大である。被害者の家族は,所在不明直後から無事の帰還を祈り,心当たりを探すなどして,1年数か月にわたって,心労の日々を送ってきたが,結局は,被害者殺害等との悲惨な結果に直面するを余儀なくされただけでなく,遺体との対面や引き取りすら叶えられておらず,とりわけ,結婚以来,愛情に包まれながら長年連れ添い,被害者退職後の生活を種々思い描いていた妻は,気持ちの整理も付けられない状態を強いられており,残された家族にとっても,惨過ぎる事態を招来し続けているのであって,遺族の悲憤及び処罰感情が甚だ峻烈なことも当然であるが,被告人は格別慰謝の措置を講じていない。
本件犯行の結果,被害者が所在不明となった直後の段階で既に,市の一部関係職員がDの仕業と感付き,明日は我が身と動揺萎縮をするなどの悪影響を引き起こしていた上,時を経て全貌が明らかとなり,事の真相が,行政対応への不満を理由とする担当職員を標的とした暴力脅迫沙汰ないしは監禁沙汰に止まらず,その極限的事態というべき類例を見ない殺人等事案であったことが疑う余地がなくなったところより,前記のような背景事情とも相俟ち,心ある市職員を震撼させ,市民に衝撃や不安を与えたことも推測に難くないところである。ちなみに,本件犯行の発覚を機に,市や市議会において,背景となった一般廃棄物処理許認可事務等に対する調査検討作業が実施され,被害者の尊い犠牲を無駄にせず,二度と本件のような悲劇が繰り返されないためとして,幾つかの具体的方策とともに,市の四役の倫理の確立や職員の資質の向上が提言されるに至っている。
進んで,被告人の個別事情を検討すると,多額の報酬を目当てに,自身には何ら特別の利害関係のない被害者の略取等に安易に加担したもので,利欲的な動機に酌量の余地はないばかりでなく,略取等後の監禁中にAから被害者殺害等の意図を告げられるや,一旦は話が違うと抗議したにせよ,結局は,逮捕監禁及び営利略取の犯行の発覚を恐れ,被害者殺害等案に同調しているのであり,その動機も余りにも短絡的かつ身勝手というほかない。被告人は,本件逮捕監禁及び営利略取の犯行には不可欠ともいえる車両の運転や乗せ替え車両の提供をしたに止まらず,当初の段階で被害者を車両内に押し込めるのに手を貸し,殺人等の犯行に当たっては,殺害等に適する地域を提案して,採用するに至らしめ,実際の殺害場面でも,被害者の首に二重に巻かれたロープの隙間をなくしてA及びBがロープを引く力を集中させようと試み,さらには,死体遺棄行為をも分担しているのであって,果たした役割には相応のものがあり,犯行後には報酬も受け取っていて,事後の情状も芳しくない。
以上によれば,被告人の刑事責任は重大といわなければならない。 もっとも,他方,被告人は,首謀者らの不埒な陰謀の詳細は知らされておらず,当初は,被害者の逮捕監禁及び営利略取への加功意思に止まっていて,途中の段階で,被害者の殺人及び死体遺棄事案に関与するに至ったのも行き掛かり上との側面があり,Aの策に乗せられたといえなくもないこと,被告人は,基本的には暴力団組織の構成員として兄貴分であるAの指示に基づき行動しており,関与の仕方はどちらかといえば従属的であって,受け取った報酬も他の者ほどには高額ではないこと,本件は,いわゆる遺体なき殺人等事案であるが,被告人は,捜査段階途中からは,記憶に基づいて率直に供述して事案解明に一定の寄与をし,当公判廷においても,事実関係を認め,被告人質問のなかで,傍聴席の遺族に振り向くや否や,いきなり土下座して謝罪するなど,真摯な反省の情を示していること,被告人は,古い粗暴前科等は有するものの,ここ十数年は前科のない生活を送っていること,そのほか,従前から健康状態が思わしくないことなど,酌むべき事情も指摘できる。
そこで,これらの諸事情をも総合勘案の上,被告人に対しては,主文の刑(求刑懲役18年)をもって臨むのが相当であると判断した次第である。
平成16年2月12日
宇都宮地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 飯 渕 進

裁判官 有 賀 貞 博
裁判官 渡 辺 一 昭

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