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建物収去土地明渡等請求事件
事件番号平成17(オ)48
事件名建物収去土地明渡等請求事件
裁判年月日平成18年1月19日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果破棄差戻
判例集等巻・号・頁集民 第219号49頁
原審裁判所名高松高等裁判所
原審事件番号平成16(ネ)267
原審裁判年月日平成16年10月12日
判示事項登記に表示された所在地番及び床面積が実際と異なる建物が借地借家法10条1項にいう「登記されている建物」に当たるとされた事例
裁判要旨借地上の建物の登記に表示された所在地番及び床面積が実際と異なる場合において,所在地番の相違が職権による表示の変更の登記に際し登記官の過誤により生じたものであること,床面積の相違は建物の同一性を否定するようなものではないことなど判示の事情の下では,上記建物は,借地借家法10条1項にいう「登記されている建物」に当たる。
参照法条借地借家法10条1項,不動産登記法44条
裁判日:西暦2006-01-19
情報公開日2017-10-18 06:37:19
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主 文

原判決のうち上告人に関する部分を破棄する
上記部分につき本件を高松高等裁判所に差し戻す。

理 由

第1 事案の概要
1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

(1) 第1審判決別紙物件目録1記載の土地(以下本件土地という。)のうちの東側部分(同目録3記載の土地,以下東側土地部分という。)には,住宅営団が昭和22年ころに新築した建物(以下本件建物という。)が存在したところ,昭和24年,本件建物につき床面積を8坪(後に26.44㎡と書替え)とする表示の登記及び住宅営団を所有者とする所有権保存登記がされた。 (2) 住宅営団は,本件建物をDに売却し,昭和24年,Dはその旨の所有権移転登記を了した。Dは,その後本件建物を約13.32㎡分増築した上,昭和34年4月,これを上告人の夫の母であるEに売却し,Eは本件建物につきその旨の所有権移転登記を了した。
(3) Eは,昭和43年ころ本件建物を約16.18㎡分増築するとともに,昭和44年ころ,本件建物に隣接して床面積約4.06㎡の物置を新築したが,登記上の床面積の表示の変更及び附属建物の新築の登記はされなかった(以下,本件建物と上記物置とを併せて本件建物等という。)。
(4) Eは,平成2年6月に死亡し,その孫であり上告人の子であるF及びG(以下,両名を併せてFらという。)が代襲相続によって本件建物等の所有権を取得した。Fらは,平成15年ころ,本件建物を8.45㎡分増築したが,登記上の床面積の表示の変更はされなかった。 (5) 被上告人は,平成15年10月28日,競売により本件土地の所有権を取得し,同月29日,その旨の所有権移転登記を了した。
(6) 本件建物の敷地の所在及び地番は,昭和39年の所在及び地番の変更並びに昭和61年の分筆を経て,松山市a町b丁目c番d(本件土地)となっていたが,本件建物の登記においては,その後も建物の所在地番が松山市a町b丁目e番地と誤って表示されており,本来の所在地番とは相違していた上に,床面積の表示も26.44㎡のままであった(以下,この登記を本件登記という。)。そのため,上記競売手続における執行官の現況調査報告書には,本件建物等は未登記である旨記載されており,物件明細書には,東側土地部分に係る賃借権は対抗力を有しない旨が記載されていた。
(7) 本件建物については,平成16年5月,平成2年6月相続を原因とするFらに対する所有権移転登記がされた。また,平成16年6月,Fらの申請により,本件登記につき,所在地番を松山市a町b丁目c番地d,主たる建物の床面積を64.39㎡とする表示変更及び表示更正登記がされるとともに,附属建物について床面積を4.06㎡とする新築の登記がされた。
2 本件は,被上告人が,本件建物に居住して東側土地部分を占有する上告人に対し,本件土地の所有権に基づき,本件建物等を収去して東側土地部分を明け渡すことを求める事案である。これに対し,上告人は,(1) 本件建物等の所有者は上告人ではなく,Fらである,(2) Eは,東側土地部分につき建物所有を目的とする賃借権を有しており,同人が本件登記のされている本件建物を所有することによって上記賃借権は対抗力を有していたところ,Fらが相続によって本件建物及び上記賃借権を取得した,と主張してこれを争っている。
第2 上告代理人西嶋吉光,同山口直樹の上告理由について
上告人に対し本件建物等の収去を命じるためには,その所有者が上告人であることを要するところ,原審は,前記事実関係のとおり,Fらが相続により本件建物等の所有権を取得した事実を認定しながら,他方で,上告人が東側土地部分に本件建物等を所有している旨の第1審判決の説示を引用の上,上告人に対し本件建物等の収去を求める被上告人の請求を認容すべきものとしている。そうすると,本件建物等の所有者に関する原判決の理由の記載は矛盾しており,原判決には,上告人に対し本件建物等の収去を命じる部分につき理由に食違いがあるというべきである。論旨は理由がある。
第3 上告代理人西嶋吉光,同山口直樹の上告受理申立て理由について 1 原審は,前記事実関係の下で,次のとおり判断し,本件登記は東側土地部分の借地権の対抗要件としての効力を有しないとして,被上告人の上告人に対する請求を認容すべきものとした。
(1) 賃借権の設定された土地の上の建物についてされた登記が,錯誤又は遺漏により,建物の所在地番の表示において実際と相違していても,建物の種類,構造,床面積等の記載とあいまち,その登記の表示全体において,当該建物の同一性を認識できる程度の軽微な相違である場合には,当該建物は,建物保護に関する法律1条にいう登記した建物に当たると解すべきである。
(2) 本件建物等の本来の所在地番は松山市a町b丁目c番地dであるのに対し,本件登記上の所在地番は松山市a町b丁目e番地であって,その間に大きな相違がある上に,本件登記上に表示された建物の床面積も昭和22年に新築された当時の26.44㎡のままであり,本件建物等のうちの大部分は本件登記に反映されていない。また,執行官の現況調査報告書にも本件建物等は未登記である旨記載されており,このような場合にまで賃借人を保護するときには,その土地を買い受けようとする第三者を不当に害することになりかねない。したがって,上記の所在地番や床面積の相違は,建物の同一性を認識するのに支障がない程度に軽微であるとは認められず,本件建物等を建物保護に関する法律1条にいう登記した建物ということはできない。そして,被上告人が本件土地を取得した後に本件登記につき現況と合致するように更正登記等がされたとしても,かかる登記の効力は遡及しないと解すべきであるから,上記結論に影響しない。
2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 記録によれば,①Eが本件建物を取得した昭和34年当時の同建物の敷地の所在及び地番は松山市f町b丁目e番であり,同人が本件建物につき所有権移転登記を了した時点では,本件建物の登記上の所在地番は松山市f町b丁目e番地と正しく表示されていたこと,②本件建物の敷地の所在及び地番は,昭和39年に松山市a町b丁目c番に変更になり,土地登記簿については職権でその旨の変更登記がされたこと,③上記敷地の所在及び地番の変更に伴い,昭和39年に職権で本件建物の登記の所在欄のうち地番以外の部分が松山市f町b丁目から松山市a町b丁目に変更されたが,地番はe番地のまま変更されなかったこと,④昭和61年に松山市a町b丁目c番の土地から本件土地が分筆されたが,本件建物の登記における所在地番の表示は変更されなかったこと,⑤本件土地の競売による売却によって消滅した担保権のうち最も古いものの設定登記は昭和62年にされていること,以上の事実がうかがわれる。

以上によれば,本件建物の登記における所在地番の表示は,Eが本件建物を取得した昭和34年当時は正しく登記されていたが,その後登記官が職権で表示の変更の登記をするに際し地番の表示を誤ったため,競売の基礎となった担保権の設定時までに実際の地番と異なるものとなった可能性が高いというべきである。 (2) ところで,建物保護に関する法律1条は,借地権者が借地上に登記した建物を有するときに当該借地権の対抗力を認めていたが,借地借家法(平成3年法律第90号)10条1項に建物保護に関する法律1条と同内容の規定が設けられ,同法は借地借家法附則2条により廃止された。そして,同附則4条本文によれば,本件にも同法10条1項が適用されるところ,同項は,建物の所有を目的とする土地の借地権者が,その土地の上に登記した建物を有するときは,当該借地権の登記がなくともその借地権を第三者に対抗することができるものとすることによって,借地権者を保護しようとする規定である。この趣旨に照らせば,借地上の建物について,当初は所在地番が正しく登記されていたにもかかわらず,登記官が職権で表示の変更の登記をするに際し地番の表示を誤った結果,所在地番の表示が実際の地番と相違することとなった場合には,そのことゆえに借地人を不利益に取り扱うことは相当ではないというべきである。また,当初から誤った所在地番で登記がされた場合とは異なり,登記官が職権で所在地番を変更するに際し誤った表示をしたにすぎない場合には,上記変更の前後における建物の同一性は登記簿上明らかであって,上記の誤りは更正登記によって容易に是正し得るものと考えられる。そうすると,このような建物登記については,建物の構造,床面積等他の記載とあいまって建物の同一性を認めることが困難であるような事情がない限り,更正がされる前であっても借地借家法10条1項の対抗力を否定すべき理由はないと考えられる。 (3) これを本件についてみると,前記のとおり,【要旨】①Eが本件建物を取得した当時の本件建物登記の所在地番は正しく表示されていたこと,②本件登記における所在地番の相違は,その後の職権による表示の変更の登記に際し登記官の過誤により生じた可能性が高いことがうかがわれるのであり,また,本件登記における建物の床面積の表示は,新築当時の26.44㎡のままであって,実際と相違していたが,前記事実関係に照らせば,この相違は本件登記に表示された建物と本件建物等との間の同一性を否定するようなものではないというべきである。そして,現に,本件登記については,その表示を現況に合致させるための表示変更及び表示更正登記がされたというのである。
そうすると,Eが,本件土地の競売の基礎となった担保権の設定時である昭和62年までに東側土地部分につき借地権を取得していたとすれば,本件建物等は,借地借家法10条1項にいう登記されている建物に該当する余地が十分にあるというべきである。
(4) 以上の点に照らせば,本件登記における建物の所在地番の表示が実際と相違するに至った経緯等について十分に審理することなく,本件登記における建物の表示が実際と大きく異なるとして直ちに上告人の主張する借地権の対抗力を否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反があるというべきである。論旨は理由がある。
第4 結論
以上によれば,原判決のうち上告人に関する部分は破棄を免れない。そして,本件については,本件建物等の所有者,本件登記の所在地番の表示が実際と相違するに至った経緯,東側土地部分についての借地権の有無等について更に審理を尽くさせる必要があるから,上記部分を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官泉徳治の補足意見がある。
裁判官泉徳治の補足意見は,次のとおりである。

原判決は,当裁判所の判断として,

次のとおり補正するほかは,原判決の『事実及び理由』中,『当裁判所の判断』記載のとおりであるから,これを引用する。

と記載し,第1審判決書の理由のうち上告人が東側土地部分上に本件建物等を所有して東側土地部分を占有しているとの部分を引用箇所として残したまま,独自に上告人らの子であるFらが代襲相続によって本件建物等の所有権を取得したとの判断を付加し,相矛盾する事実の認定をすることになった。
原判決は,控訴審の判決書における事実及び理由の記載は第1審の判決書を引用してすることができるとの民訴規則184条の規定に基づき,第1審判決書の当事者の主張の記載を引用すると表示しつつ,これに追加の主張を1箇所付加し,また,第1審判決書の当裁判所の判断の記載を引用すると表示しつつ,そのうちの3箇所の部分を原審独自の判断と差し替えている。

民訴規則184条の規定に基づく第1審判決書の引用は,第1審判決書の記載そのままを引用することを要するものではなく,これに付加し又は訂正し,あるいは削除して引用することも妨げるものではない(最高裁昭和36年(オ)第1351号同37年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事59号89頁参照)。しかしながら,原判決の上記のような継ぎはぎ的引用には,往々にして,矛盾した認定,論理的構成の中の一部要件の欠落,時系列的流れの中の一部期間の空白などを招くおそれが伴う。原判決は,そのおそれが顕在化した1事例である。この点において,継ぎはぎ的な引用はできるだけ避けるのが賢明である。
また,第1審判決書の記載を大きなまとまりをもって引用する場合はともかく,継ぎはぎ的に引用する場合は,控訴審判決書だけを読んでもその趣旨を理解することができず,訴訟関係者に対し,控訴審判決書に第1審判決書の記載の引用部分を書き込んだ上で読むことを強いるものである。継ぎはぎ的引用の判決書は,国民にわかりやすい裁判の実現という観点からして,決して望ましいものではない。 さらに,民訴規則184条は,第1審判決書の引用を認めて,迅速な判決の言渡しができるようにするための規定であるが,当該事件が上告された場合には,上告審の訴訟関係者や裁判官等は,控訴審判決書に第1審判決書の記載の引用部分を書き込むという機械的作業のために少なからざる時間を奪われることになり,全体的に見れば,第1審判決書の引用は,決して裁判の迅速化に資するものではない。 判決書の作成にコンピュータの利用が導入された現在では,第1審判決書の引用部分をコンピュータで取り込んで,完結した形の控訴審の判決書を作成することが極めて容易になった。現に,以下,原判決『事実及び理由』中の『事案の概要』及び『当裁判所の判断』の部分を引用した上で,当審において,内容的に付加訂正を加えた主要な箇所をゴシック体太字で記載し,それ以外の字句の訂正,部分的削除については,特に指摘しない。,あるいは

以下,控訴人を『原告』,被控訴人を『被告』という。なお,原判決と異なる部分(ただし,細かな表現についての訂正等を除く。)については,ゴシック体で表記する。

等の断り書きを付して,控訴審判決書の中に引用部分をとけ込ませ,自己完結的な控訴審判決書を作成している裁判体もある。このような自己完結型の控訴審判決書が,国民にわかりやすい裁判の実現,裁判の迅速化という観点において,継ぎはぎ的な引用判決よりもはるかに優れていることは,多言を要しないところである。本件の原審がこのような自己完結型の判決書を作成しておれば,前記のような誤りを容易に防ぐことができたものと考えられる。
(裁判長裁判官 泉 徳治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)
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