判例検索β > 平成14年(受)第852号
建物賃料改定等請求本訴、収入保証額確認等請求反訴事件
事件番号平成14(受)852
事件名建物賃料改定等請求本訴,収入保証額確認等請求反訴事件
裁判年月日平成15年10月23日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果その他
判例集等巻・号・頁集民 第211号253頁
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号平成13(ネ)4033
原審裁判年月日平成14年3月5日
判示事項1 いわゆるサブリース契約と借地借家法32条1項の適用の有無
2 いわゆるサブリース契約の当事者が借地借家法32条1項に基づく賃料減額請求をした場合にその請求の当否及び相当賃料額を判断するために考慮すべき事情
裁判要旨1 不動産賃貸業等を営む甲が,乙が建築した建物で転貸事業を行うため,乙との間であらかじめ一定期間の賃料保証等についての合意をし,これに基づき,乙からその建物を一括して賃料保証特約等の約定の下に賃借することを内容とする契約(いわゆるサブリース契約)についても,借地借家法32条1項の規定が適用される。
2 不動産賃貸業等を営む甲が,乙が建築した建物で転貸事業を行うため,乙との間であらかじめ一定期間の賃料保証等についての合意をし,これに基づき,乙からその建物を一括して賃料保証特約等の約定の下に賃借することを内容とする契約(いわゆるサブリース契約)を締結した後,借地借家法32条1項に基づいて賃料減額の請求をした場合において,その請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては,当事者が賃料額決定の要素とした事情を総合考慮すべきであり,特に上記特約の存在や保証賃料額が決定された事情をも考慮すべきである。
参照法条借地借家法32条1項
裁判日:西暦2003-10-23
情報公開日2017-10-18 06:38:50
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主 文

1 原判決中上告人の賃料額確認請求(ただし,原審で追加された請求を除く。)及び過払賃料返還請求並びに被上告人の未払賃料支払請求に関する部分を破棄し,同部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。 2 原判決中被上告人の賃料保証確認請求に関する部分を破棄し,第1審判決中同請求に関する部分を取り消し,被上告人の同請求に係る訴えを却下する。
3 上告人のその余の上告を却下する。
4 第2項の部分に関する訴訟の総費用は,被上告人の負担とし,第3項の部分に関する上告費用は,上告人の負担とする。
理 由
第1 上告代理人伊藤茂昭,同井手慶祐,同岡内真哉,同竹林俊二,同大槻篤洋の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について 1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 上告人は,不動産賃貸業等を営む会社であり,被上告人は,東京都目黒区ab丁目c番d外の土地を所有する者である。
(2) 上告人と被上告人は,昭和62年,被上告人の所有する上記土地を含む土地上に共同でビルを建築してそれぞれの区分所有とし,同ビルの被上告人の区分所有部分を上告人が賃借して転貸事業を営むことを計画した。
(3) 上告人と被上告人は,その後,上記計画の実現に向けた準備を行うとともに,賃料についての交渉を進め,平成4年9月,上告人が被上告人に対し10年間にわたり1㎡当たり月8047円の賃料を保証する旨の合意をし,平成5年3月19日,この賃料保証特約等を内容とする確認書を取り交わした。なお,上記保証賃料額は,被上告人が借入れを予定していたビル建築費用についての銀行融資の返済等を考慮して決定されたため,当時の賃料相場より高額なものとなった。 (4) 被上告人は,建築資金として11億円の銀行融資を受けることとした上,平成7年3月22日,上告人の関連会社外と共同で第1審判決別紙物件目録記載の1棟の建物を建築し,同目録1,2,3記載の専有部分(以下本件建物という。)の区分所有権を取得した。
(5) 被上告人は,平成7年3月22日,上告人との間で,本件建物について,賃貸期間を平成17年3月21日までの10年間とし,賃料を月1064万0840円(1㎡当たり8047円。ただし,平成7年6月30日までの賃料は免除する。)とする旨の合意(以下本件契約という。)をし,上告人に対し,本件建物を引き渡した。
上告人と被上告人は,本件契約が期間満了,解約その他の事由により終了する場合には,転貸借契約における転貸人の地位を被上告人が承継することを合意した(以下転貸借承継合意という。)。
(6) 上告人は,その後,被上告人と賃料額について協議したが,協議が調わなかったため,平成7年10月24日,被上告人に対し,同年11月分からの賃料を月509万7735円に減額すべき旨の意思表示をした。
上告人は,平成7年11月分及び同年12月分の賃料として,月1064万0840円を支払い,平成8年1月分から平成14年2月分までの賃料として,月940万円を支払った。
2 上告人の本訴請求は,①本件契約の平成7年11月分以降の賃料額が月509万7735円であることの確認,②平成7年11月分から平成10年1月分までの過払賃料1億2306万2581円の返還とこれに対する年1割の割合による法定利息の支払,③平成17年3月22日以降の賃料額が転貸料の85%相当額であることの確認をそれぞれ求めるものである(なお,本訴請求③は,原審で追加されたものである。)。 被上告人の反訴請求は,①本件契約の賃料保証特約につき,賃料保証期間が平成7年7月1日から平成17年3月21日までであり,この間の保証賃料額が月1064万0840円であることの確認,②平成8年1月分から平成14年2月分までの未払賃料9604万1013円とこれに対する年6%の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めるものである(なお,被上告人は,1審では,平成7年6月22日から平成17年3月21日までの賃料保証の確認請求(以下反訴請求①'という。)をしていたところ,1審は,反訴請求①の限度で認容し,その余を棄却した。被上告人は,敗訴部分につき不服申立てをせず,同部分は,原審の審理判断の対象とされなかった。)。
3 原審は,次のとおり説示して,上告人の本訴請求①②を棄却し,同③を却下し,被上告人の反訴請求①②を認容すべきものと判断した。 (1) 本件契約における合意の内容は,被上告人が上告人に本件建物を賃貸し,上告人が被上告人にその対価として賃料を支払うという建物賃貸借契約そのものであるから,本件契約に借地借家法の適用があることは明らかである。 (2) 建物賃借人の賃料減額請求権を認めた借地借家法32条と建物賃貸人の解約に正当事由を要求する同法28条は,相互に補完し合って借家関係を規律するものであり,仮に賃貸人による解約に制限がない場合には,賃借人が賃料減額の判決を得ても,賃貸人が賃貸借契約を解約することによって,賃料減額の判決の効力が事実上否定されることとなるから,この場合,裁判所が賃料額について審理判断するのは無益であり,賃借人に賃料減額請求権を認める必要もない。 そして,本件契約のように転貸目的の賃貸借契約であって,賃貸借契約が終了しても賃貸人が転貸借契約を承継して転借人が建物の使用を継続できるものについては,賃貸人が賃貸借契約の解約を申し入れるについて,特別の事情のない限り,解約の正当事由が肯定され,賃貸人による解約に制限はないものと解するのが相当であるから,本件契約では,本来,被上告人による解約に制限がなく,上告人に借地借家法32条の賃料減額請求権は認められないものというべきである。 なお,賃貸借契約の当事者がその本来有する解約の自由を一定期間放棄し,その間の賃料額を固定する合意をしているときには,そこに私的自治が行われているのであるから,裁判所は,これを尊重してその内容に介入してはならず,その結果,当事者は,借地借家法32条の賃料増減額請求権を行使することができないと解するのが相当である。
したがって,上告人には借地借家法32条の賃料減額請求権は認められないから,上告人の本訴請求①②は理由がなく,被上告人の反訴請求②は理由がある。また,賃料保証の内容に変更がないから,被上告人の反訴請求①も理由がある。 (3) 上告人の本訴請求③は,将来契約期間が経過したときの法律関係の確認請求であり,現在確定することができないものであるから,同請求に係る訴えは,訴えの利益がなく,不適法である。
4 しかしながら,原審の上記(1)の判断は是認することができるが,(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
【要旨1】本件契約が建物賃貸借契約に当たり,これに借地借家法の適用があるという以上,特段の事情のない限り,賃料増減額請求に関する同法32条も本件契約に適用があるというべきである。
本件契約には賃料保証特約が存し,上告人の前記賃料減額請求は,同特約による保証賃料額からの減額を求めるものである。借地借家法32条1項は,強行法規であって,賃料保証特約によってその適用を排除することができないものであるから(最高裁昭和28年(オ)
第861号同31年5月15日第三小法廷判決・民集10巻5号496頁,最高裁昭和54年(オ)第593号同56年4月20日第二小法廷判決・民集35巻3号656頁参照),上告人は,本件契約に賃料保証特約が存することをもって直ちに保証賃料額からの減額請求を否定されることはない。
ところで,本件契約は,不動産賃貸業等を営む会社である上告人が,土地所有者である被上告人の建築したビルにおいて転貸事業を行うことを目的とし,被上告人に対し一定期間の賃料保証を約し,被上告人において,この賃料保証等を前提とする収支予測の下に多額の銀行融資を受けてビルを建築した上で締結されたものであり,いわゆるサブリース契約と称されるものの一つである。そして,本件契約は,上告人の転貸事業の一部を構成するものであり,それ自体が経済取引であるとみることができるものであり,また,本件契約における賃料保証は,被上告人が上告人の転貸事業のために多額の資本投下をする前提となったものであって,本件契約の基礎となったものということができる。しかし,このような事情は,本件契約に借地借家法32条が適用されないとする特段の事情ということはできない。また,本件契約に転貸借承継合意が存することによって,被上告人が解約の自由を有するということはできないし,仮に賃貸人が解約の自由を有するとしても,賃借人の賃料減額請求権の行使が排斥されるということもできない。ただし,【要旨2】賃料減額請求の当否や相当賃料額を判断するに当たっては,賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情を総合考慮すべきであり,特に本件契約においては,上記の賃料保証特約の存在や保証賃料額が決定された事情をも考慮すべきである。 以上によれば,本件契約の当事者が借地借家法32条に基づく賃料増減額請求権を行使することができないとの判断に立って,上告人の本訴請求①②を棄却し,被上告人の反訴請求②を認容すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中本訴請求①②及び反訴請求②に関する部分は破棄を免れない。そして,上告人の賃料減額請求の当否等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。なお,上告人は,本訴請求③に関する上告については上告受理申立て理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下することとする。 第2 職権による検討
被上告人の反訴請求①'
は,本件契約の賃料保証特約につき,賃料保証の期間が平成7年6月22日から平成17年3月21日までであり,この間の保証賃料額が月1064万0840円であることの確認を求めるものであるところ,これは合意の内容の確認を求めるものであって権利又は法律関係の存否の確認を求めるものではない。そして,上記のとおり,賃料保証特約は借地借家法32条の賃料減額請求を排除するものではないから,賃料保証の期間及び額を確認しても,同期間中の賃料の具体的な額が確定するわけではなく,賃料についての被上告人の不安や危険が除去されることにも,当事者間の紛争を抜本的に解決することにもならない。したがって,被上告人の反訴請求①'
に係る訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法というほかなく,被上告人の反訴請求①を認容すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決中反訴請求①に関する部分は破棄を免れない。そして,第1審判決中反訴請求①'
に関する部分を取り消して,同請求に係る被上告人の訴えを却下することとする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 横尾和子 裁判官 泉 徳治 裁判官 島田仁郎)
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