判例検索β > 平成11年(オ)第133号
人身保護請求事件
事件番号平成11(オ)133
事件名人身保護請求事件
裁判年月日平成11年4月26日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果破棄差戻
判例集等巻・号・頁集民 第193号259頁
原審裁判所名広島地方裁判所
原審事件番号平成10(人)3
原審裁判年月日平成11年1月7日
判示事項離婚等の調停の進行過程における夫婦間の合意に基づく幼児との面接の機会に夫婦の一方が右幼児を連れ去ってした拘束に顕著な違法性があるとして夫婦の他方からした人身保護法に基づく幼児の引渡請求が認められた事例
裁判要旨離婚等の調停の期日において調停委員の関与の下に形成された夫婦間の合意によってその共同親権に服する幼児との面接が実現した機会をとらえて,夫婦の一方が実力を行使して右幼児を面接場所から自宅へ連れ去って拘束したなど判示の事情の下においては,右幼児が現に良好な養育環境の下にあるとしても,右拘束には,人身保護法二条一項,人身保護規則四条に規定する顕著な違法性があるというべきである。
参照法条人身保護法2条1項,人身保護規則4条
裁判日:西暦1999-04-26
情報公開日2017-10-18 06:40:49
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主 文
原判決を破棄する
本件を広島地方裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人小濱意三、同小濱樹子の上告受理申立て理由について 一 原審の認定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 上告人(請求者)と被上告人(拘束者)とは、平成六年九月七日に婚姻し、同人らの間には、同八年一月一日被拘束者が、同九年一二月二七日Fがそれぞれ出生した。上告人と被上告人とは、婚姻後、被上告人宅で生活していたが、上告人と被上告人の両親及び姉との折り合いが良くなかったことから、次第に夫婦の仲も悪化し、上告人は、同一〇年七月二四日、二人の子を連れて被上告人宅を出て、広島県a市所在の婦人保護施設であるb寮に二人の子と共に入寮した。 2 平成一〇年九月に、上告人は被上告人を相手方として広島家庭裁判所に離婚調停を申し立て、被上告人は上告人を相手方として同裁判所呉支部に夫婦関係円満調整の調停を申し立てたところ、離婚調停は、同支部に回付された。さらに、同年一〇月、被上告人が同支部に被拘束者及びFとの面接交渉を求める調停を申し立てたので、以上の調停事件は全部併せて行われることとなった(以下、各調停事件を併せて本件調停という。)。
3 被上告人は、平成一〇年一一月一二日の本件調停の期日において、被拘束者及びFと面接することを要望した。上告人は、調停委員から被上告人の心を和らげるために右の面接をさせたらどうかと勧められ、また、上告人としても本件調停を円滑に進めるためには、被上告人の要求に応じることが必要であると考えたことから、同月二六日の本件調停の期日において、これを了承した。そして、右期日において、調停委員を介した協議の結果、上告人と被上告人の間で、同年一二月一〇日に広島市所在の児童相談所において被上告人と二人の子が面接することの合意が成立し、本件調停の次の期日は、同月二四日と指定された。
4 右に予定された面接は、Fが発熱したために中止され、上告人と被上告人とは、改めて協議し、平成一〇年一二月一九日午後三時から上告人の代理人である弁護士の事務所で面接することを合意した。そして、同日午後三時から右事務所の打合せ室において被上告人と二人の子との面接が行われた。右打合せ室は、外部に通じる扉を机で封鎖してあったが、被上告人は、同日午後三時三〇分ころ、ひそかに右机を除去して右扉を開け、二人の子のうち被拘束者を強引に連れ去った。 5 被上告人は、平成一〇年一二月二四日の本件調停の期日に出頭せず、同日、本件調停のうち上告人の申立てに係る離婚調停は不成立により終了した。 6 被上告人は、医師であり、被上告人及びその親族の共有する四階建てビルの一階において眼科を開業している。被上告人の住居は、右ビルの四階にあり、右ビルの二階に被上告人の両親、同三階に被上告人の姉夫婦がそれぞれ居住し、被上告人並びにその両親及び姉が被拘束者の監護養育に当たっており、監護養育状況は良好である。
7 上告人は、現在、無職であって、Fと共に両親宅に戻り、両親のもとで生活しているが、将来は経理関係の職に就くことを希望している。上告人は、被拘束者の引渡しを受けた場合、当面、B寮において監護養育することを予定しているが、将来、両親宅に隣接する上告人の父所有の建物に居住する予定である。 二 原審は、右事実関係の下において、被上告人が被拘束者を連れ去った行為の態様は悪質であるが、被上告人並びにその両親及び姉による被拘束者の監護養育状況は良好であり、上告人が被拘束者の引渡しを受けた場合に同人を監護養育することを予定しているB寮は同人の監護養育にとって必ずしも良好な環境であるとはいえないことからすると、被上告人による被拘束者の監護が同人の幸福に反することが明白であるということはできず、被上告人による被拘束者の拘束が権限なしにされていることが顕著であるとは認められないと判断して、上告人の本件人身保護請求を棄却した。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
前記事実関係によれば、上告人と被上告人は、本件調停の期日において、調停委員の関与の下に、現に上告人が監護している二人の子を日時場所を限って被上告人と面接させることについて合意するに至ったものであり、被上告人は、右の合意によって二人の子との面接が実現したものであるにもかかわらず、その機会をとらえて、実力を行使して被拘束者を面接場所から被上告人宅へ連れ去ったのである。被上告人の右行為は、調停手続の進行過程で当事者の協議により形成された合意を実力をもって一方的に破棄するものであって、調停手続を無視し、これに対する上告人の信頼を踏みにじったものであるといわざるを得ない。一方、本件において、上告人が被拘束者を監護することが著しく不当であることをうかがわせる事情は認められない。【要旨】右の事情にかんがみると、本件においては、被上告人による被拘束者に対する拘束には法律上正当な手続によらない顕著な違法性があるというべきである。被拘束者が、現在、良好な養育環境の下にあることは、右の判断を左右しない。
四 そうすると、原審の判断には人身保護法二条、人身保護規則四条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、前記認定事実を前提とする限り、上告人の本件請求はこれを認容すべきところ、本件については、幼児である被拘束者の法廷への出頭を確保する必要があり、この点をも考慮すると、前記説示するところに従い、原審において改めて審理判断させるのを相当と認め、これを原審に差し戻すこととする。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 大出峻郎)
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