判例検索β > 平成13年(わ)第403号
殺人、死体損壊、死体遺棄被告
事件番号平成13(わ)403
事件名殺人,死体損壊,死体遺棄被告
裁判年月日平成13年12月7日
裁判所名・部横浜地方裁判所  小田原支部
裁判日:西暦2001-12-07
情報公開日2017-10-13 01:48:52
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被告人を懲役13年に処する
未決勾留日数のうち90日を刑に算入する。



(犯行に至る経緯)
被告人は,平成11年8月ころまで飲食店の従業員等の職を転々として稼働し,単身生活していたが,平成12年3月ころからいわゆるホームレスとして生活するようになり,平成12年6月ころからは,神奈川県小田原市a町先の通称b海岸でホームレス仲間と共にテント小屋を建てるなどして生活していた。Aは,平成12年ころから小田原市内の暴力団組事務所に出入りし,b海岸で,いわゆる海の家の経営の手伝いをしていたが,平成12年の夏ころ,海の家で置き引きの被害があったことについて,Aが被告人らを犯人ではないかと疑って言い争いになった際,被告人に向かって石を投げ付けたことなどがあった。そのため,被告人は,Aに対して快くない感情を持っていた。Aは,平成13年6月ころからは,時々,被告人らが生活するテント小屋付近に来て酒等を差し入れした上,一緒に飲酒するなどしていた。 平成13年8月1日,被告人は,昼ころから他のホームレス達と海岸のテント小屋付近にテーブルを置いて飲酒していたところ,午後3時ころ,Aがその席に加わった。被告人は,もともとAを快く思っていなかったことに加え,その際,Aが被告人の言葉遣いを注意することがあったことなどから,何とかAが帰ってくれないかと考えた。そこで被告人は,Aが飼い犬を連れて来たときには常に早く帰っていたことから,当日海の家に繋いで置いてきていた飼い犬をその場に連れて来れば,Aが早く帰るのではないかと思い付き,自ら海の家へ行って犬を連れて来た。しかしAは,被告人に対し,

なんで犬を連れてくるんだ。余計な事をするな。返してこい。

と怒鳴ると共に,被告人の頬を平手打ちした。被告人は,びっくりすると共に,犬を連れて来たくらいで,被告人が殴られなければならない理由はないと思って,Aに対して,急に腹を立てたが,Aに何か言い返したりすれば余計に殴ってきたりするだろうし,けんかになったら,相手はヤクザだし,かなわないと思って,言い返してやりたいのをこらえた。そこで,被告人は,Aに対して,

すいません。

などと謝って,Aに言われたとおり犬を海の家まで戻しに行った。しかし,被告人は,その途中,犬を連れて来たことくらいで殴られたことと,日ごろから快く思っていなかったことが相まって,Aに対し,一層腹立たしい思いを強めた。そして,被告人は,犬を海の家に戻してテント小屋付近に帰ってきたが,Aがテーブルから少し離れて被告人に背を向けて立っている後ろ姿を見ると,これまで溜めていた怒りが爆発したようになり,とっさに,ホームレス仲間の小屋の横に立てかけて置いてあった鉞のことが頭に浮かんだ。そして,被告人は,鉞を手に取り,これでAの頭でもぶん殴ってやろうなどと思ったが,あとで仕返しをされてはまずいと考え,この際,いっそのことAを殺してしまおうと考えるに至った。(犯罪事実)
第1 被告人は,平成13年8月1日午後5時ころ,神奈川県小田原市a町c丁目d番先海岸(通称b海岸)において,鉞を右手に持って背中の方に隠しながら,立っていたA(当時53歳)の背後から気付かれないように近づいた上,Aに対して,殺意をもって,鉞(横浜地方検察庁小田原支部で保管中,平成13年領第512号符号2。刃体の長さ約12センチメートル)の柄の端を左手で,柄の真ん中付近を右手で持って一旦振りかぶった後,刃体の背の部分で,Aの頭部を目がけて一気に振り下ろして殴打し,即時,その場で,Aを頭部陥没骨折による脳挫傷により死亡させて殺害した。
第2 被告人は,Aを殺害した後,このままでは犯行が発覚してしまうし,特に,Aが出入りしていた暴力団組織の関係者に発覚した場合に,その暴力団組織の関係者から報復を受けるのではないかと考え,付近に穴を掘ってAの死体を隠そうと考えた。
1 そこで,被告人は,それまで一緒に飲酒していたホームレス仲間の1人であるBと共謀の上,平成13年8月1日午後7時ころ,第1記載のb海岸のAが倒れた場所の付近において,Bと交代しながら,スコップを用いて深さ約30センチメートルの穴を堀り,その穴の中にAの死体をうつぶせに入れて砂で埋めてAの死体を遺棄した。
2 その後,数日経ったころ,被告人は,Aの死体を埋めた付近から腐臭が漂い始めているのに気付き,このままではAの死体が誰かに見付かってしまうと考えた。そこで,被告人は,平成13年8月6日午前2時ころ,第1記載のb海岸の被告
人のテント小屋脇の辺りに,スコップを用いて新たに深さ約60センチメートルの穴を掘った。そして,持っていた出刃包丁(横浜地方検察庁小田原支部で保管中,平成13年領第512号符号1)を使用し,Aの死体の両膝部を切断した上,切り離した死体の両下腿部をビニール袋に入れて被告人のテント小屋の付近に放置するとともに,死体の胴体を新たに掘った穴に入れて砂で埋めてAの死体を損壊して遺棄した。
(証拠)
(法令の適用)
罰条
第1 刑法199条
第2(包括して) 刑法60条,190条
刑種の選択
第1 有期懲役刑選択
併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条,47条ただし書 (重い第1の罪の刑に加重)
未決勾留日数の算入
刑法21条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
本件は,被害者の頭部を鉞で1回殴打して即死させて殺害した上,犯行の発覚を恐れて被害者の死体を埋めた後,さらに掘り返して死体の両下腿部を切断し,胴体を埋め直すなどした殺人死体遺棄及び死体損壊の事案である。
被告人は,いわゆるホームレスとして犯行現場の海岸で生活していたが,その付近で稼働し,たまにホームレス達に差し入れをして共に飲酒するなどしていた顔見知りの被害者に対し,日頃の被告人に対する態度が腹立たしかったことや,犯行当日,平手打ちされたことなどから激しく腹を立て,躊躇することなく被害者を殺害したもので,犯行の動機は極めて短絡的で身勝手な犯行である。被害者の言動は,被告人から見れば,尊大で,不用意な面があったとは認められるものの,被告人に殺害された上,死体を遺棄・損壊されるほどの落ち度があったとは到底認められない。そうすると,犯行の動機について,被告人に酌むべき事情は認めがたい。犯行態様も,殺人の点については,鉞という殺傷能力の極めて高い凶器を使用し,被害者の背後から近づいて強打し,一撃で被害者を即死させ,被害者に防御や抵抗の機会も与えなかったものであり,卑劣で残虐なものである。また,死体遺棄・損壊の点について,被告人は,2度にわたって死体を砂の中に埋め,2回目については死体の両下腿部をさしたるためらいもなく切断するなどしている上,被害者の死体は砂の中で7日余り放置された結果,発見された時には非常に無惨な状態になっていたもので,誠に残忍な犯行である。本件犯行場所が真夏の海水浴場であったことなどに照らせば,付近住民や海水浴客などの観光客など社会一般に与えた恐怖感や不安感等の社会的な影響も相当大きかったと認められる。その上,被告人は,本件犯行当時,平成13年3月に窃盗罪による執行猶予付きの懲役刑の判決宣告を受け,その判決確定後4か月程度しか経過していない執行猶予期間中であったにもかかわらず本件犯行に及んでいることも併せ考えれば,被告人の刑事責任は極めて重大である。
他方,被告人は,捜査段階から犯行を大筋で認めており,自らの行為を悔いて反省悔悟の情を示していること,被害者を殺害した点については,計画性や執拗さまでは認められず,死体遺棄・損壊の点についても自らの犯行の発覚を防ぐためのものであること,被告人は,現在59歳で,今後,前刑の執行猶予が取り消され,本刑と併せて相当長期間にわたって服役することが見込まれることなど,全体としては,被告人について酌むことのできる事情もある。
以上のような諸事情を総合考慮して,被告人の刑を定めた。
(検察官 前田敦史 国選弁護人 鈴木滋 各出席)
(求刑 懲役17年)
平成13年12月18日
横浜地方裁判所小田原支部刑事部


裁判長裁判官

山 崎 健 二

裁判官

荒 川 英 明

裁判官


加 本 牧 子

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