判例検索β > 平成12年(わ)第1023号
殺人、死体遺棄被告
事件番号平成12(わ)1023
事件名殺人、死体遺棄被告
裁判年月日平成14年1月25日
裁判所名・部東京地方裁判所  八王子支部
裁判日:西暦2002-01-25
情報公開日2017-10-13 01:48:25
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平成12年(わ)第1023号 殺人死体遺棄被告事件
主文
被告人を懲役15年に処する
未決勾留日数中450日をその刑に算入する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,A(昭和39年12月26日生,本件犯行当時30歳)に資金を提供するなどして,千葉県松戸市内においていわゆる土地の地上げ工作を行っていたが,同人の仲介の失敗により,予定していた報酬を得られなくなったほか,同人に仲介を任せていた広報媒体放映権の取引に関しても,同人が秘密裏に多額の裏手数料を得ていたことが発覚したため,同人に対する不審の念を募らせた末,第1 上記Aを殺害しようと企て,事実上後見人役を果たしていた暴力団組長のB及びその配下のCと共謀の上,平成7年4月3
0日午前5時20分ころ,東京都港区内のaマンションb号室において,睡眠薬の服用により昏睡状態にあった上記Aの顔面鼻口部に布製粘着テープを貼り付けた上,その頸部に紐を巻き付けてその両端を引っ張るなどし,よって,そのころ,同所において,同人を鼻口部閉塞及び前頸部圧迫により窒息死させて殺害し,第2 上記B及びCと共謀の上,同日午前5時25分ころ,同所において,上記Aの死体をロッカータンス内に押し込めて,扉を閉め,上記ロッカータンスに布製粘着テープを貼り,ロープ等で縛るなどした上,同年5月1日午後8時ころ,これを同所から搬出して上記aマンション裏側出入口付近に駐車中の普通貨物自動車の荷台に積載し,翌2日未明,上記Aの死体を入れたロッカータンスを東京都西多摩郡c村d番e先の山林内まで搬送して,これを同所付近に投棄し,もって,死体を遺棄したものである。
(量刑の事情)
本件は,被告人が,暴力団組長らとともに,被害者を殺害した上,その死体を山林内に遺棄したという,殺人死体遺棄の事案である。
そこで,本件犯行の経緯等を検討すると,被告人は,かつては暴力団組織に加入していたことがあるが,その後は暴力団関係者から資金提供を受けて,不動産ブローカーとして活動し,同じく不動産ブローカーの被害者に命じて行わせた,千葉県松戸市内の土地の地上げに関して,約束通りの利益金の分配がなく,また,被害者に担当させていた広報媒体放映権の売買仲介についても,被害者が秘密裏に多額の裏手数料を得ていたことが発覚し,自身は折から資金提供者から,厳しい取立に遭っていたこともあり,被害者に対して強い憤りを抱き,平成7年4月26日,被害者を東京都中央区内の息子が使用していた事務所に連行して,裏手数料等に関して執拗に追及する一方で,事実上その後見人役を務めていたこともあり,自己の影響力を行使できる上記暴力団組長のB及びその配下のCを呼び寄せ,被害者に制裁を加えて多額の現金を用意させようとしたが,その見込みに乏しかったため,被害者を殺害して,その死体を産業廃棄物処理場で焼却処分するなどと仄めかして,Bらに協力を取り付けた後,翌27日,被害者を被告人運転の自動車に乗車させ,東京都八王子市方面や千葉県方面を走行しながら,Bから受け取ったけん銃を発砲して射殺しようとした。ところが,けん銃の不具合のため発砲できずに失敗したことから,同日午後,被害者を東京都中央区f所在のマンションの一室に連行してB及びCに見張りを命じ,同月28日には,被害者を上記aマンションb号室に移動させ,その手足に手錠をかけるなどして被害者の監禁を継続する一方,被害者に金策を命じたものの,一向にらちがあかず,同月29日夜に至り,被害者の殺害を決意し,Bに対して被害者に睡眠薬を服用させるように電話で指示し,これを受けたBが,同月30日午前1時過ぎころ,被害者に睡眠導入剤ハルシオンを飲ませて昏睡状態に陥らせ,同日午前5時20分ころ,上記aマンションb号室に赴いた被告人は,布製粘着テープを貼り合わせてお面様にしたものを被害者の顔面に貼り付けて鼻口部を押さえつけ,事前に被害者の両手足を布製粘着テープや紐で縛るなどしていたB及びCが被害者の手足を押さえてその抵抗力を奪い,更に,被告人及びBが被害者の頸部に紐を巻き付けてその両端を強く引っ張るなどして,被害者を窒息死させて殺害し,直ちに,被告人ら3名は,被害者の死体を同室内にあったロッカータンス内に押し込め,布製粘着テープや紐等で梱包した上,同年5月1日,上記aマンションb号室から搬出し,その後,被告人及びBは,同月2日未明,被害者の死体をロッカータンスごと焼却すべく,東京都八王子市内の産業廃棄物処理場
に赴いたが,出入口に施錠されていたため,同日早朝,東京都西多摩郡c村内の山林にこれを投棄したなどの諸事実を認定することができる。
上記認定諸事実のうち,被告人が被害者の殺害を決意したのは,犯行直前にBから催促されたときであり,その以前に被害者をけん銃で射殺しようとしたことも,Bに対して被害者への睡眠導入剤の服用を指示したこともない旨弁護人は主張するとともに,被告人も公判廷では同旨の弁解をするが,B,Cら関係者の供述等と対比すると,真実味に欠けること甚だしく,到底信用することができない。 そうすると,本件犯行は,自己の信頼を裏切った被害者に対する報復として敢行されたものであり,暴力団組織に所属する者特有の思考に基づく犯行というべきであって,人命を軽視すること甚だしく,余りにも短絡的で身勝手極まりない犯行であり,犯行の動機に酌むべき余地に乏しい。
また,その犯行態様は,暴力団組長のB及びその配下のCを呼び寄せ,しかも,Bに対しては,けん銃を持参するように指示している上,呼び寄せた際,被害者を殺害して,死体を産業廃棄物処理場で焼却処分する旨被害者の殺害計画を打ち明けており,自動車に乗車した被害者を連れ回して,けん銃で射殺しようとしただけではなく,被害者から金員の回収ができないと覚知すると,睡眠導入剤を準備させており,周到な計画的犯行ということができ,さらに,睡眠導入剤を服用,昏睡させ,手足を布製粘着テープで緊縛して,無防備,無抵抗の状態に陥った被害者に対し,布製粘着テープで作成したお面様のものを顔面鼻口部に貼り付けた上,頸部に巻き付けた紐を左右に引っ張って頸部を絞めつけるなどして,ついに窒息死させたというのであって,まことに執拗かつ残忍な犯行であり,人間の尊厳を無視した非道で冷酷極まりない犯行というべきである。
その結果,被害者は,その将来を一方的に奪われて,僅か30歳で非業の死を遂げざるを得なかったのであり,さらに,その遺体は人里離れた山林内に投棄されて,放置された挙げ句,ロッカータンス内からは無惨に変わり果てた姿で発見されており,その無念さは筆舌に尽くし難く,その結果も甚だ重大極まりないというほかはない。
そして,突然被害者を失った被害者の両親ら遺族は,理不尽な凶行に及んだ被告人らに対する怒りを強めているのに,被告人らからは遺族に対する慰謝の措置はさして講じられてはおらず,遺族が被告人の厳重処罰を求めるのは十分に理解することができる。
しかも,被告人は,本件各犯行の首謀者の地位にあったのであり,犯行計画の立案,指示等のすべての面で積極的かつ主導的役割を果たしており,共犯者のBやCを本件犯行に引き入れてもおり,本件で最も重い責任があることは,動かし難い事実と思われる。すなわち,被告人は,昭和46年から昭和57年までの間,賭博開帳等図利,恐喝窃盗,覚せい剤取締法違反等により4回懲役刑に処せられた前科等を有しており,長年にわたって暴力団組員として活動していた経歴を有するほか,破門された後も,暴力団関係者と親密な交際を重ねていたもので,その遵法精神の欠如は顕著というべきであり,さらに,本件犯行後,他人名義の旅券を入手して,フィリピン共和国へ逃亡しており,共犯者らが身柄拘束を受けた後も,5年間にわたって,逮捕を免れ続けていたのであり,逮捕後も虚偽の供述や曖昧な供述を繰り返しているのである。
そうすると,被害者にも被告人に対する背信行為があったことは事実と思われ,被害者にも責められるべき点があることは否定できないこと,被告人も本件犯行自体は認めており,それなりの反省の態度がうかがわれること,弁護人を通じて,被害者の遺族に謝罪していたことなど,被告人に有利な諸事情を考慮してみても,被告人を懲役15年に処するのが相当である。
平成14年1月25日
東京地方裁判所八王子支部刑事第2部
裁判長裁判官
裁判官

大 渕 敏 和
片 山 隆 夫

裁判官 山 田 裕 文

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