判例検索β > 平成9刑年(わ)第270号
詐欺
事件番号平成9刑(わ)270
事件名詐欺
裁判年月日平成14年2月25日
裁判所名・部東京地方裁判所
裁判日:西暦2002-02-25
情報公開日2017-10-13 01:48:05
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平成9年刑(わ)270号等詐欺事件


被告人を懲役八年に処する
未決勾留日数中一〇〇〇日を右刑に算入する。
訴訟費用は別紙訴訟費用負担表のとおり被告人の負担とする。


(罪となるべき事実)
被告人は、年金会オレンジ共済(平成七年一〇月ころからは年金会オレンジ共済組合と名称変更。以下、年金会オレンジ共済とも総称する。)の名称で客から預り金を受け入れるなどの事業を主宰していた父親の分離前相被告人A、同人と共同して右事業を営んでいた母親の分離前相被告人Bのほか、分離前相被告人C及び分離前相被告人Dと共謀の上、オレンジスーパー定期ないしはオレンジスーパーファンドの元本名下に、客から金銭を詐取しようと企て、別表記載のとおり、別表番号一の平成六年五月一八日ころから別表番号一一の平成八年九月二四日ころまでの間、前後五八回にわたり、別表番号一の東京都大田区ab丁目c番d号所在のE方など三二か所において、分離前相被告人Aが自ら若しくは分離前相被告人Dが自ら、あるいは年金会オレンジ共済茨城中央支部長Fら一九名を介して、右Eら三五名に対し、客から受け入れた預り金を確実な運用先で有利に運用する意思も運用している事実もなく、受入れ後は預り金を直ちに分離前相被告人Aらの負債の返済やその遊興費及び年金会オレンジ共済事業のための経費等に充てる意図であるのにこれを秘し、かつ、約定の利息を付した上確実に期日に返還する意思も能力もないのにこれあるかのように装い、利息は一年定期で六・七四パーセント、三年定期で七・〇二パーセントであり、銀行や郵便局より有利だ。元本は確実に保証する。預かった資金は確実な運用先で高利で運用しているので、期日に間違いなく高い利息を付けて返還できる。旨の嘘を言い、右Eら三五名をしてその旨誤信させ、よって、別表番号一及び五の詐取分においては右E方において現金合計五五〇〇万円を直接交付させたほか、別表番号五三の平成八年一一月五日の詐取分においては東京都中央区ef丁目g番h号iビル所在の年金会オレンジ共済組合事務所において現金三〇〇万円を五嶋正信を介して直接交付させるとともに、その余の詐取分においては東京都中央区jk丁目l番m号株式会社三菱銀行人形町支店(平成八年四月一日以降同区no丁目p番q号株式会社東京三菱銀行人形町支店)オレンジ共済会長B名義の普通預金口座又は同都台東区uv丁目w番x号東京貯金事務センターオレンジ共済代表者B名義の郵便振替口座に送金させて交付させ、現金合計六億六五五四万九五二〇円を騙し取り又は欺いて交付させたものである。(事実認定の補足説明)
一 弁護人は、年金会オレンジ共済における預り金事業の実態が詐欺罪に該当することは争い得ないとするものの、①被告人はその実態を知らず、分離前相被告人A、同Bらに預り金の元本及び利息の支払能力及び意思がないことを認識していなかったし、また、②被告人は、共犯者とされる分離前相被告人Cや同Dらが代理店を介して預り金の運用等について虚偽の事実を申し向けていることの認識がなく、詐欺を共謀したこともなかったので、本件詐欺の犯意及び共謀の事実は認められないから、結局、被告人は無罪である旨主張し、被告人も弁護人の右主張に沿う供述をするので、補足して説明する。
二 A及びBの各検察官調書、証人G、同D、同Cの各証言などの関係各証拠によれば、次の事実が認められる。
1 生命共済事業のオレンジ共済について
Aは、会社を設立して貸金業等を営んでいたが、昭和五一年ころ倒産し、多額の負債を抱えるに至り、資産を処分したものの債務の完済には至らず、債権者から厳しい取立てを受けるなどして生活が困窮し、消費者金融等から借入れをするようになった。
Aは、右倒産後は定職に就くことなく、Bのパート収入や消費者金融からの借金等によって生活費を得ていたところ、昭和五四年ころ政治活動に興味を抱き、昭和五八年一一月、自らを代表とする政治団体年金党を組織し、選挙費用等を借金で賄い、昭和五八年一二月施行の衆議院議員総選挙に立侯補したが落選し、更に、昭和六一年五月、年金党の後援組織として政治団体年金会を結成し、Bをその代表に就任させ、選挙費用等を借金で賄い、昭和六一年七月施行の参議院(比例代表選出)議員選挙にも立侯補したが落選し、更に負債が増加した。 そこで、Aは、負債返済資金等を得る手段として、年金会で生命共済事業を
行うことを計画したが、年金党の他の役員は、掛金がAの選挙費用等に流用されるおそれのあることや、給付のための支払準備金がないことなどを理由として、同事業の実施に強く反対した。Aは、これら役員を一方的に解任するなどし、昭和六三年一一月ころから、当時居住していた東京都中央区rs所在のハイツrst号を事務所(以下、rst号の事務所という。)とし、事業主体を年金会オレンジ共済と称し、商品名をオレンジ共済とする生命共済事業を始め、Bも同事業に従事することとなった。Aは、生命共済の掛金のほとんどを、自己の負債の返済資金、生活費、政治活動資金に流用して費消しており、Bもそのことを知っていた。 2 預り金事業のオレンジ年金と同事業への被告人の関与について Aは、平成元年七月施行の参議院(比例代表選出)議員選挙に立候補をし、その際、Hなる人物から金を借り入れたり、生命共済事業の掛金を流用したりするなどして選挙費用を調達し、選挙に臨んだものの、自らを含む年金党候補者全員が落選し、供託金が没収されて負債が一層増大した。右選挙後、Aは、Hから借金の返済を迫られ、同人に対し、金額白地のものを含む年金会代表B名義の手形・小切手多数を交付したが、後に、これらが取立てに回されてその決済に窮し、高利貸し等から新たな借入れをして手形等をジャンプすることを繰り返したため、負債が更に増加することとなった。
Aは、右負債返済資金や小切手等の決済資金、生活費、更には、来る平成四年七月の参議院議員選挙の費用等を捻出するとともに、生命共済事業の補償金を準備しておくためにも、まとまった金を集める必要性を感じ、平成三年三月ころから、別途貯蓄型のオレンジ年金という預り金事業を開始することとした。オレンジ年金の内容は、元本保証で、利息を年一二・〇四パーセントと設定し、一〇万円を単位として据置期間を一年間とし、利息を年に四回に分けて支払うというものであったが、利率については、当時の銀行預金の平均年利である約六パーセントの二倍程度の高金利であれば客を集めやすく、また、利率の少数点以下に端数を付けた方がもっともらしく見えるとの考えから、適当に設定したものであった。Aから事業の説明を聞いたBは、高い利子を払えるのか、返せないのにお金を預かるわけにはいかない、などと反対したが、結局は、Aに従い、オレンジ年金事業に従事した。受け入れた預り金は、負債の返済、事業経費、生活費等に費消され、客に対する元利金の支払には、新たに受け入れた別の客からの預り金及び生命共済の掛金が充てられ、預り金の運用は全く行われなかった。
被告人は、平成三年一月ころから、A及びBの下で、年金会オレンジ共済の生命共済事業に従事して給与を得るようになり、同年二月ころには、Aから、rst号の事務所において、預り金事業のオレンジ年金事業の内容等の説明を受け、これを手伝うように依頼されて承諾し、Aらの下で同事業の開始当初から従事し、Aの指示を受けて同人が起案した文書等の作成、顧客勧誘、商品説明等の業務を担当した。
3 オレンジ年金の代理店制度の導入について
平成四年三月ころ、Hが行方不明となり、平成四年四月一日、年金会代表B名義の小切手が一回目の不渡りとなった。当時貸金業を営んでいたCは、同月二日ころ、rst号の事務所を訪れ、A、B及び被告人と会い、Hから持ち込まれ割り引くなどした年金会の小切手・手形債権総額約五○○○万円の支払を求めたが、Aは、収入がなく、生命共済の掛金やオレンジ年金の預り金も使い切っており、Cに支払う金のないことを説明し、掛金や預り金が入金されて返済資金ができるまで債務の支払を猶予してほしい旨を頼んだ。Cは、右債権を回収する方策として、年金会オレンジ共済の事業に代理店制度を導入してAに債務の返済資金を得させるとともに、自らも代理店加入者が年金会オレンジ共済に支払う契約金の一部を報酬として取得しようと考え、Aらに、代理店制度の導入を提案した。Aは、当時、代理店制度の導入により借金返済資金や、平成四年七月の参議院議員選挙に立候補するための選挙資金が得られると考え、Cの提案に賛成し、被告人も、当初、

代理店開拓といっても、全く金がない。一〇〇万円も権利金を出して、代理店になってくれる人がいるのか。

と懐疑的な意見を述べたものの、Cが経費は自分の方で負担するので年金会オレンジ共済側に損はない旨説明をすると、結局納得し、Bも反対することもなく、代理店制度の導入が決まった。
その後、被告人、A、B及びCは、平成四年五月ころまでの間、数回にわたり、代理店制度の内容等について協議を重ね、代理店の契約期間を三年とし、代理店契約時に代理店から一〇〇万円を徴収し、その半額は地域権利金として年金会オレンジ共済が預かり、代理店契約満了時に代理店に返還し、残り半額は返還せ
ず、加盟金としてCに対し報酬として支給すること、代理店が生命共済及びオレンジ年金の客を獲得した場合には、代理店手数料として、生命共済に関しては掛金月二○○○円の五〇パーセント相当額、オレンジ年金に関しては元金の一〇パーセント相当額とすることなどの骨格を固めた。これら協議には被告人が加わり、協議の中では、生命共済の掛金に対する代理店の手数料率について、Aが六〇パーセント、Cが五〇パーセントを主張したのに対し、被告人がCの案に賛成して五〇パーセントで決着し、また、預り金の利息については、Aが他の金融機関は六パーセント台の利息を支払うところがあるのでその上を行かなくては駄目だと述べて、一パーセント上乗せし七・〇二パーセントとすることなどが決まった。そして、被告人、A及びBは、平成四年六月一日、Cとの間で、Cに年金会オレンジ共済の代理店の勧誘を委託する旨の総代理店及び取次店契約委託書を取り交わし、これに被告人も署名し、Cは、同年七月以降、代理店募集業務を行い、以後、代理店の数は増加していった。平成四年一〇月ころには、東京都中央区rのsビルに年金会オレンジ共済の事務所を移し、Bはパート勤務を辞めて年金会オレンジ共済の業務に専従するようになった。
4 年金会の負債の返済状況等について
前記小切手の不渡り時点で年金会の負債は巨額に上っており、年金会振出名義の小切手等は、当座預金の残高が不足のため、取立てに回される都度、Aが事故届を記載したり、依頼返却を所持人に求めるなどしており、二回目の不渡りがいつ出てもおかしくなく、その状態は平成五年三月末ころまで続いた。その間にも、Aは、B及び被告人の反対にもかかわらず、借入れやオレンジ年金の預り金の流用などにより選挙費用を賄い、平成四年七月の参議院議員選挙に年金党から他の九名の候補者とともに立候補したが、全員が落選し、供託金四○○○万円も没収され、Aの負債額は更に増大するところとなった。負債については、CがAと一緒に債権者を回って交渉をし、被告人もその交渉に同行したこともあり、また、平成四年五月ころには、借金の返済資金を捻出するために被告人の車を売却したこともあった。更に、代理店制度を導入した後も、預り金は選挙等で生じた借金の返済に回され、オレンジ年金の加入者に支払われる利息、解約返戻金等も、生命共済の掛金や新たなオレンジ年金の預り金等で賄われていた。その後、預り金の受入れが増加したため、AはCに対する前記債務を平成五年五月ころに完済した。
5 セールストークの決定等について
平成四年五月ころ、A、被告人及びCらは、オレンジ年金の預り金で高利を支払える理由を客や代理店から聞かれたときのために資金運用についてのセールストークを決めることとした。Aは、マニラの国債で運用していると説明することを提案したが、Cが国債なのに都市名ではおかしい旨指摘したところ、被告人も

ザキさんの言うのが正しいんじゃないの。

とCの意見を支持したことから、Aも納得し、フィリピンの国債での資金運用を言うことが決まった。しかし、平成四年九月ころ、Cが、日本経済新聞に掲載されていたシティバンクでの外債の運用実績を見ると、利率の高い国として、スペイン、オーストラリア、韓国、イタリアが載っていたが、フィリピンは載っていなかったことから、A及び被告人らに対し、同新聞の切り抜き記事を見せながら、

フィリピンは日経新聞にも載っていないので、利率が高い国として韓国、オーストラリア、スペインが新聞に載っているから、これらの国を言ったらどうだ。

などと提案し、被告人が

ザキさんの言うとおりだ。

と述べ、Aもこれに同意し、セールストークでは、新聞に載っている国を言うことになった。その後、平成五年前半ころには、Cが、A及び被告人に対し、

外債での資金運用だけでは為替変動によってぶれが出るから、国内での運用も入れた方がいい。国内の消費者金融でも資金運用をしているとの話を説明に加えよう。

などと提案し、A及び被告人もこれを了承した。 こうしたセールストークは、本部で直接対応する客に対しては被告人が説明し、平成四年一〇月ころからは、研修会と称して代理店希望者を集めた会合で被告人やCが説明していた。被告人は、同月に開催された佐賀での研修会において、「貯蓄型オレンジ年金はおかげさまで六〇億集まってもう終わりました。今後はオレンジスーパー定期として別に発足するのでよろしく。六〇億は外債で運用しています。」旨説明し、その後、Cが被告人に「六〇億はオーバーすぎるんじゃないか。」と言うと、被告人は、「このくらいオーバーな話がちょうどいい。」と答えた。また、被告人は、平成五年一月二二日、新年会に先立って行われた代理店との会合では、事前にCから外債運用の話を一〇億くらいにしておくように注意されていたが、大きい方が格好がいいとして、

三〇億を外債で運用している。

などと述べ、併せ
て、会員数についても、実数は千数百人であるのに、

四万人くらいいる。

などと説明した。
6 オレンジ年金から貯蓄型オレンジスーパー定期への名称変更等について 平成四年九月に、九州の代理店から、オレンジ年金という名称では保険のようで勧誘しづらいとの申入れがあり、Aは、被告人らと相談してオレンジ年金からオレンジスーパー定期(なお、平成七年一〇月にはオレンジスーパーファンドと更に名称が変更されたが、以下、総称してオレンジスーパー定期ともいう。)という預金のような名称に変更し、また、それから間もなくして、据置期間を一年とする従来型に加えて、据置期間を三年とする新型の顧客募集を決定し、その勧誘を開始した。さらに、A、B、被告人、Cらは、平成五年一月六日ころの会合で右従来型の利率を引き下げることとし、その決定に当たっては、当初、Aが語呂のよいところで年利を六・七八パーセントとする旨の意見を出したが、被告人が

六、七、八と数字が並んでいるのはあまりにいい加減に思われるから、最後の数字の八は半分の四にしよう。

と提案し、その結果、年利六・七四パーセントと決まった。
7 代理店指導用のマニュアルについて
平成四年七月の参議院議員選挙にAと一緒に年金党から出馬し落選したDは、被告人の誘いを受けて同年一一月から年金会オレンジ共済で働くこととなり、当時主任と呼ばれていた被告人から命じられて書類の整理等の仕事を行っていた。 Dは、平成五年三月ころ、一人で鹿児島に出張し、オレンジスーパー定期の説明を行った際、客に対し、

年金会オレンジ共済においては、客から受け入れたオレンジスーパー定期の預り金を金利の高い韓国等で運用している。

などと説明したが、その後、代理店から韓国の金利はオレンジスーパー定期の利息の支払を賄えるほど高くはない旨のクレームがつき、それを被告人及びCに相談すると、二人は、

韓国なんかで運用してない。これからはもう韓国で運用しているという話はやめよう。

と述べ、その後は、セールストークにおける資金運用先から韓国を除外することとなった。Dは、右経過の中で、事務所内で資金を運用している形跡もなかったことと相俟って、年金会オレンジ共済ではオレンジスーパー定期の預り金を何ら運用しておらず、これを外国債で運用している旨のセールストークは虚偽であることに気づいた。
平成五年四月ころ、Aの指示により、被告人が年金会オレンジ共済の総括本部長に、Dが総務課長に就任した。被告人は、引き続いて年金会の事務部門を総括するととともに、従業員に対する仕事の割当てや、代理店やCとの打合せ等を行い、Dは、被告人から命じられた事項の事務的な整備、書類の管理や各支部との連絡のほか、Cと共同して研修会に出席し、オレンジスーパー定期の内容説明やセールストークの教示を担当していた。また、被告人は、Dに対し、預り金の運用先についてしつこく尋ねてくる客への対応方法として、「他の金融機関でも運用先は言わない。そういうことは一つの企業秘密だし、運用している相手先に対しても迷惑がかかったりするから公表していないんだと言え。」と指示した。
平成五年六月ころ、Dが、被告人に代理店指導用のマニュアル(以下セールスマニュアルという。)の作成を進言したところ、被告人は、Dに対し、その作成方を指示するとともに、Cにもこれに協力するように求めた。その際、被告人が、Cに対し、

外債や消費者金融のほかに、何かいい運用話はないか。

と尋ねたところ、Cは、

国内の優良貸しビル業者に対する貸付を行っているとの資金運用話を付け加えたらどうか。

と提案し、その旨の新たな虚偽の資金運用話も右セールスマニュアルに盛り込まれることとなった。完成したセールスマニュアルの原稿は、被告人の指示で印刷されることはなかったが、代理店研修会の際に使用されており、セールスマニュアル中には、オレンジスーパー定期のセールスポイントとして、「海外の金利は国によって異なり、スペイン一五パーセント、オーストラリア一三・五パーセント位と日本の公定歩合と関係なく高い国もあります。年金会では国内のノンバンク業界の貸出し金不足による優良貸しビル等に有利な小口融資にて、高い利回りを保ちながら六か月ごとに預金者に金利を支払います。」などと記載されていた。
8 代理店に対する研修制度等について
平成五年八月ころ、被告人らは、前記sビルの八階も事務所として賃借し、全国各地の代理店への指導を徹底し、その営業を促進するため、同階に設置した会議室に代理店関係者を集めて研修会を実施するようになった。平成六年二月ころからは同会議室で開かれる研修会の受講が代理店としての営業開始の条件とされ、毎
月第三水曜日に定例研修会が開かれるようになり、研修会では、CとDが、代理店となる者に対し、年金会オレンジ共済の組織や業務内容、オレンジ共済の内容、加入の仕方、オレンジスーパー定期の内容、各種書類の書き方、代理店の役割と各種手数料額等の説明のほか、オレンジスーパー定期について、

元本は、間違いなく保証する。受け入れた金は確実に運用している。

などと資金運用についての虚偽の説明を行った上、前記のセールストークを教示し、これを強調して客に話すように指導していた。なお、平成六年の終わりころからは、外債による運用は、円高が進みデメリットが大きくなったことなどから、セールストークの内容も国内での優良貸しビル業者や、ノンバンクへの貸付による運用へと変わっていった。 そして、Aが平成七年七月の参議院議員選挙に当選した後は、被告人及びAは、年金会オレンジ共済は参議院議員が創立した団体で信頼できる旨宣伝するように指示し、Dらは、代理店研修会等において、

年金会オレンジ共済は、参議院議員のAが作った団体で同人がやっているから信頼できる。

などと述べ、オレンジスーパー定期の事業が国会議員の後ろ盾のある確実なものである旨強調して客を勧誘獲得するよう指導した。
なお、平成五年暮れころからは、A、B、被告人、C、Dが参加して役員会と称する会議が随時開かれ、組織及び事業運営上の事項が話し合われ、被告人も、生命共済の代理店手数料の見直し等について提案するなどした。
9 被告人による資金管理等について
年金会オレンジ共済では、当初、Aが資金管理を行い、後には、Bが、オレンジスーパー定期の預り金等を受け入れる銀行預金口座及び郵便貯金口座(以下預り金等受入口座という。)の通帳及び届出印を保管し、自ら又は被告人、Dらに手伝わせるなどして、生命共済やオレンジスーパー定期の入金確認、Cへの報酬額・代理店手数料額の集計計算及び支払、オレンジスーパー定期の利息額・元本返戻額等の集計計算及び支払並びに生命共済の補償金の支払等のほか、入出金帳簿等への記帳等を行って資金管理を担当したが、平成六年六月ころにBの足の具合が悪くなった際には、同人に代わって被告人が預り金等受入口座の管理をすることがあり、やがて、銀行口座の支払はBが行い、郵便局口座の支払は被告人が行うようになった。そして、平成六年秋ころには、Bが受入口座のある三菱銀行人形町支店の担当者に「これからは私の代わりに部長が来ますのでよろしくお願いします。」と被告人を紹介して挨拶し、その後は小切手が取立てに回ってきたときの同支店からの連絡は被告人に対してなされ、被告人の指示で普通預金口座から当座預金口座への振替なども行われた。平成七年四月ころからは、特に大口の支払などは銀行も郵便局も被告人が担当し、通帳や届出印の管理も被告人に移り、このころ導入したコンピューターで打ち出した支払内容についての資料も被告人に渡され、Bは「振込みのことは百男に聞かなければわからない。」、「勝手に出し入れすると部長にしかられる。」などと述べるようになった。もっとも、Bは、右入出金帳簿等の記帳業務については、引き続き担当しており、被告人及びBは、年金会オレンジ共済の入金状況等をAに報告していた。
10 資金の費消状況等について
Aは、平成六年九月ころ、被告人、Dらと相談の上、平成七年の参議院議員選挙に新進党から比例代表で立候補する方針を決めた。そして、平成六年一二月ころ、選挙費用調達のため、強化月間の名称でオレンジスーパー定期について顧客勧誘の強化が図られることとなった。被告人は、同選挙の前後を通じ実施された計三回の強化月間の都度、Dに対し、選挙等の資金に必要だからと説明し、強化月間のアウトラインを記載したメモを交付し、Dは、これを文章化した上、事務員にワープロで清書させ、被告人の点検を受けた後に各支部等に送付していた。なお、強化月間中、据置期間三年のオレンジスーパー定期の代理店手数料が一一パーセントに引き上げられたことについて、二回目の強化月間(平成七年六、七月)の実施の際、Dが手数料が高すぎるので運用利益の関係から怪しまれないかとの趣旨の意見を述べたが、被告人は、

それはそうだけれども、こういうことで決めてあるから、今回もまたこれで行こうや。

と述べ、右手数料率は維持された。しかし、その後、三回目の強化月間(平成七年九、一〇月)の際に被告人がDに渡したメモの中では、Dの意見が反映されて手数料率は一〇パーセントに抑えられていた。また、Aの立候補の方針が決まったころから、Aや被告人が、選挙関係で金が必要となったと言っては、Bからその管理に係る年金会の資金を頻繁に一〇〇〇万円単位で引き出し、Bは、Aや被告人が選挙などのために要求してきた金を代表貸付として出納帳に記載していたが、平成六年一一月ころから五〇〇〇万
円というような大金が代表貸付として載るようになり、平成七年四月ころからは連日のように数千万単位の金が被告人らに交付されるようになった。BがAに、被告人が選挙の関係で大金を使っているという苦情を言っても、Aは

選挙のことは百男に任せている。選挙には金が掛かるものだ。

などと言って被告人を弁護していた。
その一方、被告人は、平成七年初めころから、年金会の資金を使い、自己の個人的趣味で高額の熱帯魚(アジアアロワナ)、高級外車等を購入したり、個人的遊興費として海外旅行や飲食をするなどして巨額の金員を費消した。 11 年金会の資金繰り及びマスコミ報道への対策等について
平成七年一二月以降、前記三菱銀行人形町支店に開設した口座の残高が不足し、資金繰りが悪化するに至ったが、年金会振出の小切手の依頼返却の対応等は被告人において行っていた。また、平成七年の前記選挙後、代理店等に、オレンジスーパー定期は政界の方に使われており、運用なんかしていないからやめた方がいい、という匿名の電話がかかるようになったが、Aと被告人は、

代理店には、運用をきちんとしているし、利息をしっかり払っているのだから心配するなということで押し通せ。

とDに指示した。 平成八年九月一三日ころ、年金会が出資法違反、政治資金規正法違反を犯しているとの報道がなされて取付け騒ぎが起き、A、B、被告人、Dらが参加して対策会議が数回持たれたが、当初、預り金の総額が判明せず、その後の会議において、被告人が、オレンジネットの入力によればだいたい五〇億円くらいであること、オレンジスーパー定期の預り金は政界の工作資金や財団設立のための諸経費、ゴルフ場の土地開発の問題などに使ってしまっており、すぐに用意できる金は五億円くらいであることなどを報告した。年金会オレンジ共済の資産として確認された平成八年一一月の預金残は五一二二万一九六九円であるところ、同月のオレンジ年金、オレンジスーパー定期、オレンジスーパーファンドの客への返済未了分は五九億九〇三五万三二四八円であり、現在に至ってもその返済のめどは立っていない。三 前記認定事実によれば、①本件は、多額の負債を抱えていたAが、昭和六三年一一月ころ、生命共済事業を開始し、その後の国政選挙での落選により、更に負債が増加し返済資金等に窮したことから、オレンジ年金の名称で預り金事業を思いつき、平成四年には、Cの提案した代理店制度を導入して、資金運用を行うことなく、他に収益もない状況の下で、損益計算におよそ基づかない高金利を設定し、代理店を介した虚偽のセールストーク等により預り金名下に多数の客から現金を騙し取り、その預り金等を借金返済や、選挙資金等に費消するほか、代理店手数料の支払、その他の年金会オレンジ共済の事業経費一切を賄い、更に詐欺商法の発覚を免れるためにこれを既存の客への元利金の支払に充てるなどし、事業を拡大、継続し、最終的に前示の巨額の返済未了金を生じさせるに至ったものであり、②その過程において、被告人は、オレンジ年金事業の開始当初から業務に従事し、当初は主任として、その後は総括本部長として、事務部門を統括する一方、平成六年ころからは、Bから引き継いで資金管理の一部を任され、平成七年七月ころ以降は資金管理全般を担当し、その間、前示のとおり、年金会の負債の整理、代理店制度の導入、セールストークの決定及び変更、オレンジスーパー定期の利率、セールスマニュアルの作成、代理店に対する研修会制度、Aの選挙資金集め等を目的とした強化月間の実施等の事業運営ないし組織上の重要な事項の決定等に関与し、自らも、平成四年から五年にかけて代理店関係者を集めた研修会等で外債による資金運用等の虚偽のセールストークを行うなどし、その一方、預り金等の中から返済のめどもないのに、Aの選挙費用、あるいは、自己の遊興費等として巨額の資金を引き出して費消したものであることが認められる。
これらの事情にかんがみれば、被告人は、オレンジスーパー定期の事業の実態が預り金を全く運用せず、年金会の資産が預り金の受入れ残高を大幅に下回っていて、いずれ事業の破綻が必至であり、最終的に客に対する元利金の支払など到底不可能な状況にあり、そもそも預り金はAらにおいて負債返済資金や生活費等に充てて費消するものであって、その支払意思も能力もないことを十分に認識した上で、A、B、D、Cと意思を相通じ、同事業の中枢にいて主体的かつ能動的に関与し、情を知らない代理店を介し、虚偽のセールストークにより預り金名下に客から金員を騙し取ったものというべきであり、判示のとおり、詐欺罪の成立を認めることができる。
もっとも、被告人は、犯意、共謀に関し、オレンジ年金の仕組みを理解できず、生命共済の告知義務違反の有無を調査するなどの業務に従事していただけであ
り、資金運用の有無や、代理店研修でのCらの教示内容、客に対するセールストークの内容も知らなかったなどと種々弁解し、また、Aも、当公判廷において、被告人の弁解に沿う供述をするが、被告人の弁解をみると、例えば、資金運用の有無についての認識については、年金会オレンジ共済では資金運用に携わる部署等がなく、運用を窺わせる実態もなかった状況を自認しながら、当時事業は順調に運営されており、オレンジスーパー定期の元利金の支払をなし得ると考えていた旨供述するが、そのように考えた根拠を問われると、自らの無学、無知を強調した上、Aらから資金運用について知らされておらず、自らも知ろうとは思わなかったなどと述べるなど、納得の行く説明はない上、被告人の年金会オレンジ共済における中枢の地位、預り金事業への開始当初からの長期間の関わり、預り金の巨額の費消等に照らし、また、G、C、Dの各証言、A、Bの各検察官調書における供述、総代理店及び取次店契約委託書、役員会議事録、C作成の日記帳の記載内容、セールスマニュアル等の資料などの関係各証拠と対比検討すれば、被告人の右弁解及び右弁解に沿うAの公判供述はいずれも不自然、不合理であって信用できないというべきである。
(法令の適用)
被告人の判示所為のうち、別表番号六及び一二はいずれも平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条、二四六条一項に、別表番号一ないし五、七ないし一一及び一三ないし五八はいずれも刑法六〇条、二四六条一項に、それぞれ該当するが、別表番号三六及び三九はいずれも一個の行為が二個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条により別表番号三六については、一罪として犯情の重いIに対する詐欺罪の刑で処断し、別表番号三九については、一罪として犯情の重いJに対する詐欺罪の刑で処断し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い別表番号五〇の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役八年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一〇〇〇日を右刑に算入し、訴訟費用は刑訴法一八一条一項本文により別紙訴訟費用負担表記載のとおり被告人に負担させることとする。
(量刑の事情)
本件は、被告人が、両親のA及びB、C、Dと共謀の上、年金会オレンジ共済の名称の下、代理店を利用するなどして、元本保証、高金利を約束し、預り金名下に、多数の者から、長期間にわたり、莫大な現金を騙し取ったという大規模な詐欺事犯である。
被告人ら共犯者は、年金会オレンジ共済を事業主体とし、Aが年金会オレンジ共済の事業主宰者、Bが年金会オレンジ共済の代表者、被告人が総括本部長として預り金の管理、利息の支払等の経理をA一家で行い、Dが総務課長として経理以外の事務を担当するなどして、年金会オレンジ共済の中枢を構成し、一方、Cがオレンジ年金企画の代表として年金会オレンジ共済の代理店の募集を担当し、そして、代理店を介して客に虚偽の説明をするなどしてオレンジスーパー定期を勧誘し、預り金をオレンジ共済代表者B名義の口座に振り込ませるという方法などにより本件詐欺を敢行したものである。その態様を具体的にみると、雑誌などに広告を載せ、高額の手数料を約束して、広く代理店を募集し、代理店研修会では虚偽のセールストークを教示するなどして代理店を騙し、更に代理店を介して客を騙し、元本保証、高金利をうたい文句にオレンジスーパー定期を勧誘し、高金利に疑問を抱く者に対しては、外債で運用したり、国内では消費者金融会社等に融資しているなどと資金運用について巧みな欺罔を行い、低金利時代に少しでも高利率の利殖先を求める人々の弱みにつけ込んで多数の者から預り金名下に多額の現金を騙し取り、Aが参議院議員選挙に当選してから後は、国会議員に対する社会的信用をオレンジスーパー定期勧誘の宣伝に積極的に悪用して、益々、被害を増大させていったのであり、まことに卑劣で悪質な犯行というべきである。そして、被告人らは、客から受け入れた預り金の資金運用を行うことはなく、これをAの債務の返済、選挙資金、生活費、被告人の遊興費等に費消したほか、既存のオレンジスーパー定期の元利金の支払、人件費等の事業経費に充てており、いずれは破綻することなどを知悉しながらも、いわゆる自転車操業の発覚を遅らせるために、代理店の拡大を図るなどして更に客の勧誘に力を入れる一方、代理店や客の信用を得るためにrの貸しビルのワンフロア全部を借りて見栄えの良い事務所を構えるなどして外形を取り繕い、客の勧誘の仕方を記載したセールスマニュアルを作成し、多くの従業員を雇用して複数の関連会社を設立し、客ごとに帳簿を作成し、利息の支払日を把握するためにコンピューターを導入するなど事務処理体制を整え、大規模かつ組織的に、そ
して長期間にわたり客から金を騙し取ってきたのであって、年金会オレンジ共済はまさに詐欺を行うことを目的とした詐欺組織そのものであると言っても過言ではない。
犯行の被害についてみると、本件における被害者総数は三五名、被害総額で六億六五五四万円余りと巨額である上、被害者一人当たりの被害額でも単純平均で約一九〇〇万円余りと多額であり、被害者の中には、本人と両親の有り金全部、工場の営業資金、事業資金、実父、養母、兄、娘、娘婿の貯金、震災で被害を受けた家の修復のための資金、子供の教育資金や老後の生活のために一所懸命に蓄えた貯金、マイホーム購入資金などを騙し取られており、将来の生活設計が狂ってしまった者や将来を思うと途方にくれる者もいて、その被害は甚大かつ深刻である。しかるに、被害弁償はほとんどなされておらず、具体的な被害弁償計画すら立っていない状況にあり、当然のことながら、被害者らの怒りは大きく、処罰感情には極めて厳しいものがある。
そして、被告人は、本件の首謀者であるAの要請を受けて、当初からオレンジ年金事業に従事し、代理店制度の導入、虚偽セールストークの内容の決定、客への支払利率や代理店手数料等の重要事項の決定に関与する一方、年金会オレンジ共済の事務部門の総括責任者として従業員を指揮監督し、後には、資金管理を全面的に任せられ、Aの選挙費用や自分の個人的遊興費等のために巨額の預り金を引き出すなどしていたものであり、犯行遂行上、Aに次いで重要な役割を果たし、かつ不法な利益を享受しているのであって、犯情は悪質であり、その刑事責任はAに次いで重いというべきである。
ことに、被告人は、預り金を引き出し、頻繁に銀座のクラブ等に通って派手な豪遊を繰り返し、自己の趣味で高級熱帯魚を購入し、その飼育のためだけにマンションの居室を借り上げて世話係を雇い、自己の趣味でレーシングカーを購入し、複数回にわたりヘリコプターをチャーターしてカーレースの観戦に出かけるなど、常軌を逸した浪費により、年金会オレンジ共済に入金されてきた莫大な預り金のうち、少なくとも約六億七〇〇〇万円を個人的に費消して、客に返還すべき預り金を著しく減少させており、自己の快楽のために湯水のごとく浪費し続けたことは身勝手極まりないものであり、厳しく非難されなければならない。しかも、被告人は、当公判廷において謝罪の言葉を一応述べるものの、捜査段階から犯意等を否認し、当公判廷においても、種々の弁解に終始し、また、引き出された預り金の費消状況の全容が明らかになっておらず、真摯に反省しているとは言い難いといわなければならない。
したがって、被告人は、本件犯行の首謀者ではないこと、これまで罰金前科のほかに前科がないことなど被告人のために酌むべき諸事情を考慮しても、主文掲記の刑に処するのを相当とする。
よって、主文のとおり判決する。
平成一四年二月二五日
東京地方裁判所刑事第一二部
裁判長裁判官

小倉正三

裁判官

多和田隆史

裁判官

野澤晃一

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