判例検索β > 昭和30年(あ)第522号
業務上堕胎
事件番号昭和30(あ)522
事件名業務上堕胎
裁判年月日昭和33年7月11日
法廷名最高裁判所第二小法廷
裁判種別決定
結果棄却
判例集等巻・号・頁集刑 第126号809頁
原審裁判所名仙台高等裁判所  秋田支部
原審裁判年月日昭和29年12月14日
判示事項一 優生保護法第一四条第一項第四号による人工妊娠中絶と堕胎罪の成否。
二 最高裁判所、大審院または高等裁判所の判例がない場合、地方裁判所の判例を援用して判例の違反を主張することができるか。
裁判要旨一 優生保護法(昭和二七年法律第一四一号により改正されたもの)にいう指定医師が同法第一四条第一項四号に該当する者に対し、同条第一項本文の規定に従つて人工妊娠中絶を行つた場合には、刑法第二一四条、第二一二条の堕胎罪は成立しない。
二 最高裁判所、大審院または高等裁判所の判例がない場合、地方裁判所の判例を援用して判例の違反を主張することは、刑訴法第四〇五条の認めないところである。
参照法条優生保護法(昭和27年法律14号により改正されたもの)14条1項4号,刑法214条,刑法212条,刑法35条,刑訴法405条2項,刑訴法405条3項
裁判日:西暦1958-07-11
情報公開日2017-10-17 14:23:58
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主 文
本件各上告を棄却する
理 由
被告人Aの弁護人小泉英一の上告趣意第一点について。
所論は、姙婦Bに対する堕胎の事実につき結局事実の誤認及びこれを前提とする法令の違反を主張するものであつて、適法な上告理由にあたらない(なお、所論中に原審が右事実認定の証拠に採用した所論被告人及び証人の供述が警察官の威嚇によるものであるという点があるけれども、記録を調べてみても、これを肯認することができない。また、本件手術当時Bは優生保護法の規定する姙娠中絶の適応症状になかつたことが記録上認められるから、右Bに施行した医師の手術が正当行為であるとの主張も採用できない。)。
同第二点について。
所論は結局姙婦Cに対する堕胎の事実につき事実の誤認、証拠の取捨判断に対する非難に帰し、適法な上告理由にあたらない(なお所論中には被告人の供述が任意になされたものでないという点があるけれども、記録を調べてみても、これを肯認することができない。また、原審鑑定人Dの鑑定書には、所論の如く緊急避難行為である旨の記載があるけれども、右鑑定書中のこの部分の鑑定が確固たる資料によつてなされたものでなく、却つて、措信し難き資料によつてなされたものであることは、原審のその後の審理の結果に徴し明瞭であり、その他、本件記録に徴し、被告人の所為が緊急避難行為たることを認めることができないから原審が右鑑定書中右部分を措信して、緊急避難行為であることを肯認しなかつたことは正当である。)。 同第三点について。
所論は姙婦Eに対する堕胎の事実につき、事実誤認、証拠の取捨判断に対する非難乃至法令違反を主張するものであつて、適法な上告理由にあたらない。なお、優生保護法(昭和二三年法律第一五六号)は、昭和二七年五月一七日法律第一四一号により改正された結果、同法一四条一項は、同法にいう指定医師は

左の各号の一に該当する者に対し、本人及び配偶者の同意を得て、人工姙娠中絶を行うことができる

と規定し、その第四号は姙娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるものと規定していること、及び所論の如く優生保護法が右の如く昭和二七年法律第一四一号によつて改正された後においては、指定医師が同法一四条一項四号に該当する者に対し、同条一項本文の規定に従い人工姙娠中絶を行つた場合には、刑法二一四条、二一二条の堕胎罪は成立しないものと解すべきではあるが、姙婦Eに対する本件堕胎の所為が、仮りに優生保護法が前示の如く改正された後になされたものと仮定してみても、右Eは同法一四条一項四号に該当する者ではなく、また、堕胎の手術をした被告人も、Eが同条一項四号に該当する者と認定して人工姙娠中絶を行つたものでないことは、本件記録に徴し肯認できるところであるから、この点についての原判示は相当であり、所論は理由がないといわなければならない。
同第四点について。
所論は単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。(なお、原判決は、所論の犯罪成立阻却事由の主張に対しては、その控訴趣意に対する判断の中で、その主張の理由がない旨の判断を明示している。また、最高裁判所、大審院又は高等裁判所の判例がない場合に、地方裁判所の判例を援用して、判例の違反を主張することは、刑訴四〇五条の認めないところである。)
同第五点について。
所論は姙婦Fに対する堕胎の事実につき、事実誤認、証拠の取捨判断に対する非難、及び採証の法則違反を主張するものであつて、適法な上告理由に当らない。 同第六点について。 所論は憲法違反をいうけれども、本件記録に徴してみても、原審が所論の如く

国民の基本権を念頭に於かず、国家意思を理解せず、罰せんが為めに罰せんとするの認定をなした

事実は認められず、また、被告人等が所論の如く母体を保護せんとして手術したもの、乃至婦女の病患を除き生命を救つたものであるとは、原判決も第一審判決もこれを認めなかつたところであるから、所論はいずれも根拠のない独自の見解に立脚して違憲を主張するものであつて、適法な上告理由に当らない。
同第七点について。
所論は違憲をいうけれども、その実質は単なる訴訟法違反の主張であつて、適法な上告理由に当らない。
被告人Gの弁護人小田原親弘の上告趣意第一点について。
所論は違憲をいうけれども、本件記録に徴すれば、所論の各姙婦において本件行為後に改正された優生保護法一四条一項四号に該当する事実の存したこと及び被告人が同条同項同号に該当する事実の存在を確認したことは、これを認めることができないから、所論違憲の主張はその前提を欠き、適法な上告理由に当らない。 同第二点について。
所論は刑訴四一一条所定の事由を主張するものであつて、適法な上告理由に当らない。
また本件事案につき検討するも刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。 よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
昭和三三年七月一一日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 小 谷 勝 重 裁判官 藤 田 八 郎 裁判官 河 村 大 助 裁判官 奥 野 健 一
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