判例検索β > 昭和41年(オ)第436号
建物明渡等請求
事件番号昭和41(オ)436
事件名建物明渡等請求
裁判年月日昭和45年10月21日
法廷名最高裁判所大法廷
裁判種別判決
結果破棄自判
判例集等巻・号・頁民集 第24巻11号1560頁
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号昭和38(ネ)1454
原審裁判年月日昭和40年12月24日
判示事項一、不法の原因により未登記建物を贈与した贈与した場合その引渡は民法七〇八条にいう給付にあたるか
二、所有権に基づく返還請求と民法七〇八条
三、建物の所有者のした贈与に基づく履行行為が不法原因給付にあたる場合における右建物の所有権の帰すう
四、建物の贈与が不法原因給付であつてその所有権が受贈者に帰属した場合における受贈者に対する登記手続請求の許否
裁判要旨一、不法の原因により未登記建物を贈与した場合、その引渡は、民法七〇八条にいう給付にあたる。
二、建物の贈与に基づく引渡が不法原因給付にあたる場合に、贈与者は、目的物の所有権が自己にあることを理由として、右建物の返還を請求することはできない。
三、建物の所有者のした贈与に基づく履行行為が不法原因給付にあたる場合には、贈与者において給付した物の返還を請求できないことの反射的効果として、右建物の所有権は、受贈者に帰属するに至ると解するのが相当である。
四、未登記建物の贈与が不法原因給付であつてその所有権が受贈者に帰属した場合において、贈与者が右建物につき所有権保存登記を経由したときは、受贈者が贈与者に対し建物の所有権に基づいて右所有権保存登記の抹消登記手続を請求することは、不動産物権に関する法制の建前からいつて許されるものと解すべきである。
参照法条民法708条,民法206条,民法177条
裁判日:西暦1970-10-21
情報公開日2017-10-18 07:01:01
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主 文
原判決中、上告人の控訴を棄却した部分を破棄し、第一審判決中、上告人の反訴請求を棄却した部分を取り消す。
被上告人は、上告人に対し、別紙目録記載の建物につき所有権移転登記手続をせよ。
訴訟費用は、第一、二、三審を通じ、被上告人の負担とする。 理 由
上告代理人堀川多門の上告理由について。
原判決によれば、原審は、被上告人は、別紙目録記載の建物(以下、本件建物という。)を新築してその所有権を取得した後、昭和二九年八月これを上告人に贈与し、当時未登記であつた右建物を同人に引き渡したが、右贈与は、被上告人がその妾である上告人との間に原判決判示のような不倫の関係を継続する目的で上告人に住居を与えその希望する理髪業を営ませるために行なつたもので、上告人も被上告人のかような意図を察知しながらその贈与を受けたものであるとの事実を認定し、右贈与は公の秩序または善良の風俗に反するものとして無効であり、また、被上告人が、右贈与の履行行為として、本件建物を上告人に引き渡したことは、いわゆる不法原因給付に当たると判断しているのである。原審の右事実認定は、原判決の挙示する証拠関係に照らし、首肯できないものではなく、原審の認定した右事実関係のもとにおいては、右贈与は公序良俗に反し無効であり、また、右建物の引渡しは不法の原因に基づくものというのを相当とするのみならず、本件贈与の目的である建物は未登記のものであつて、その引渡しにより贈与者の債務は履行を完了したものと解されるから、右引渡しが民法七〇八条本文にいわゆる給付に当たる旨の原審の前示判断も、正当として是認することができる。
そして、右のように、本件建物を目的としてなされた被上告人上告人間の右贈与が公序良俗に反し無効である場合には、本件建物の所有権は、右贈与によつては上告人に移転しないものと解すべきである。いわゆる物権行為の相対的無因性を前提とする所論は、独自の見解であつて、採用することができない。
しかしながら、前述のように右贈与が無効であり、したがつて、右贈与による所有権の移転は認められない場合であつても、被上告人がした該贈与に基づく履行行為が民法七〇八条本文にいわゆる不法原因給付に当たるときは、本件建物の所有権は上告人に帰属するにいたつたものと解するのが相当である。けだし、同条は、みずから反社会的な行為をした者に対しては、その行為の結果の復旧を訴求することを許さない趣旨を規定したものと認められるから、給付者は、不当利得に基づく返還請求をすることが許されないばかりでなく、目的物の所有権が自己にあることを理由として、給付した物の返還を請求することも許されない筋合であるというべきである。かように、贈与者において給付した物の返還を請求できなくなつたときは、その反射的効果として、目的物の所有権は贈与者の手を離れて受贈者に帰属するにいたつたものと解するのが、最も事柄の実質に適合し、かつ、法律関係を明確ならしめる所以と考えられるからである。
ところで、原判決によれば、被上告人は、本件建物について昭和三一年一一月一〇日附で同人名義の所有権保存登記を経由したのであるが、右登記は、被上告人が本件建物の所有権を有しないにもかかわらず、上告人らに対する右建物の明渡請求訴訟を自己に有利に導くため経由したもので、もともと実体関係に符合しない無効な登記といわなければならず、本件においては他にこれを有効と解すべき事情はない。そして、前述のように、不法原因給付の効果として本件未登記建物の所有権が上告人に帰属したことが認められる以上、上告人が被上告人に対しその所有権に基づいて右所有権保存登記の抹消登記手続を求めることは、不動産物権に関する法制の建前からいつて許されるものと解すべきであつてこれを拒否すべき理由は何ら存しない。そうとすれば、本件不動産の権利関係を実体に符合させるため、上告人が右保存登記の抹消を得たうえ、改めて自己の名で保存登記手続をすることに代え、被上告人に対し所有権移転登記手続を求める本件反訴請求は、正当として認容すべきものである。原判決が、本件贈与は公序良俗に反するものとして無効であるから、右贈与が有効であることを前提とする上告人の反訴請求は失当である旨判示したのみで、右請求を棄却したのは違法であり、論旨は、理由があるに帰する。 よつて、原判決中、上告人の控訴を棄却した部分を破棄し、第一審判決中、上告人の反訴請求を棄却した部分を取り消し、上告人の右請求を認容すべきものとし、民訴法四〇八条一号、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
裁判官松田二郎は、退官につき評議に関与しない。
最高裁判所大法廷
裁判長裁判官 石 田 和 外 裁判官 入 江 俊 郎 裁判官 草 鹿 浅 之 介 裁判官 長 部 謹 吾 裁判官 城 戸 芳 彦 裁判官 田 中 二 郎 裁判官 岩 田 誠 裁判官 下 村 三 郎 裁判官 色 川 幸 太 郎 裁判官 大 隅 健 一 郎 裁判官 松 本 正 雄 裁判官 飯 村 義 美 裁判官 村 上 朝 一 裁判官 関 根 小 郷
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