判例検索β > 平成6年(オ)第1437号
人身保護
事件番号平成6(オ)1437
事件名人身保護
裁判年月日平成6年11月8日
法廷名最高裁判所第三小法廷
裁判種別判決
結果破棄差戻
判例集等巻・号・頁民集 第48巻7号1337頁
原審裁判所名大阪地方裁判所  堺支部
原審事件番号平成6(人)2
原審裁判年月日平成6年6月10日
判示事項子の監護権を有する者が監護権を有しない者に対し人身保護法に基づき幼児の引渡しを請求する場合における拘束の顕著な違法性
裁判要旨子の監護権を有する者が監護権を有しない者に対し、人身保護法に基づき幼児の引渡しを請求する場合には、幼児を請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り、拘束の違法性が顕著であるというべきである。
参照法条人身保護法2条1項,人身保護規則4条
裁判日:西暦1994-11-08
情報公開日2017-10-18 06:43:19
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主 文
原判決を破棄する
本件を大阪地方裁判所堺支部に差し戻す。
理 由
上告代理人加藤安宏の上告理由について
一 原審の認定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 上告人(昭和三四年生)はスナックのホステスとして勤務していたところ、客として訪れた被上告人B1(昭和二〇年生)と知り合って大阪府堺市内において同棲するようになり、平成二年八月二三日両者の間に被拘束者が出生した。しかし、同被上告人はいまだに被拘束者を認知していない。
被上告人B1は、堺市内において特殊自動車の回送を行う事業を営み、妻である被上告人B2(昭和二四年生)との間に、長男D(昭和五一年生)及び長女E(昭和五三年生)がいる。
2 上告人と被上告人B1は平成五年一〇月下旬ころ同棲関係を解消したが、その際、被上告人B1は上告人に対し、上告人が就職し住居を確保して生活基盤を整えるまでの間被拘束者を預かる旨の申出をし、上告人はこれを了承した。 3 被上告人B1は、上告人から被拘束者を引き渡された後、被拘束者を知人に預けて大阪府高石市内の保育園に通わせるなどしていたが、その後、上告人からの被拘束者の引渡しの要求を拒み、被上告人B2に事情を打ち明けた上で、平成六年二月一七日被拘束者を自宅(被上告人ら肩書住所地)に引き取り、以後、被上告人B2と共に被拘束者を監護養育している。
4 上告人は、被上告人B1との同棲関係を解消した後、クリーニング会社に就職し、平成五年一二月中旬ころには高石市内のアパートに移るなど、被拘束者を引き取って生活をするための基盤を整えようとしていたところ、被上告人B1が被拘束者を上告人に引き渡すことを拒んでその居所を明らかにしなかったため、被拘束者の探索や人身保護請求の準備のため勤務に支障を来して右会社を退職し、現在は大阪府泉大津市内の繊維関係の会社に事務員として勤務するかたわら、夜間、スナックでアルバイトをしている。
上告人は、平成六年三月一日から高石市内にある妹のF方(上告人肩書住所地)に居住しているが、上告人の両親は、上告人が被拘束者を引き取った場合に備え、自宅の二階に上告人と被拘束者が居住できるように二階を改造するなどし、上告人母子との同居及び上告人による被拘束者の養育への協力を約束している。 5 被上告人B1は、自己所有地(約二五一平方メートル)の上に木造三階建て(床面積合計約一三四平方メートル)の前記自宅を有し、平成二年度から同五年度までの間の年収は約八〇〇万円から一八〇〇万円であった。被拘束者の日常の世話は主に被上告人B2がしている。
なお、被上告人らは平成六年三月三一日、和歌山家庭裁判所に被拘束者との特別養子縁組の申立てをした。
二 原審は、被上告人らによる被拘束者の拘束の違法性が顕著であるというためには、被上告人らが被拘束者を監護することが被拘束者の幸福に反することが明白であることを要するものとする前提に立った上で、前記事実関係の下において、(一) 被上告人らには、経済面、居住環境及び親族間の融和の面で不安は少なく、被拘束者は被上告人らの下で心身とも一応安定した生活を送っているといえるのに対し、上告人には右のいずれの面でも不安が残り、被拘束者を養育する環境整備のためにはある程度の時間を要すると考えられること、(二) 被上告人B2及びその二人の子と被拘束者との間で被拘束者の精神的安定が長期的に保障されるかどうか疑問がないではないが、被上告人らが被拘束者との特別養子縁組の申立てをしていることなどを考慮すると、被上告人らが被拘束者を監護することがその幸福に反することが明白であるということはできないとし、被上告人らによる被拘束者の拘束に顕著な違法性があるとは認められないと判断して、上告人の本件人身保護請求を棄却した。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
人身保護法に基づく幼児の引渡請求において、拘束が権限なしにされていることが顕著である場合(人身保護規則四条)に該当するかどうかの判断について、当裁判所の判例(最高裁平成五年(オ)第六〇九号同年一〇月一九日第三小法廷判決・民集四七巻八号五〇九九頁、最高裁平成六年(オ)第六五号同年四月二六日第三小法廷判決・民集四八巻三号九九二頁)は、請求者と拘束者とが共に幼児に対して親権を行う者である場合、拘束者による幼児に対する監護・拘束が権限なしにされていることが顕著であるということができるためには、右監護が請求者による監護に比べて子の幸福に反することが明白であることを要する旨を判示している。しかし、拘束が権限なしにされていることが顕著であるかどうかについての右の判断基準は、右判例の明示するように、夫婦の一方が他方に対し、人身保護法に基づき、共同親権に服する幼児の引渡しを請求する事案につき適用されるものであって、法律上監護権を有する者が監護権を有しない者に対し、人身保護法に基づいて幼児の引渡しを請求する場合は、これと全く事案を異にする。
法律上監護権を有しない者が幼児をその監護の下において拘束している場合に、監護権を有する者が人身保護法に基づいて幼児の引渡しを請求するときは、請求者による監護が親権等に基づくものとして特段の事情のない限り適法であるのに対して、拘束者による監護は権限なしにされているものであるから、被拘束者を監護権者である請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り、非監護権者による拘束は権限なしにされていることが顕著である場合(人身保護規則四条)に該当し、監護権者の請求を認容すべきものとするのが相当である(最高裁昭和四七年(オ)第四六〇号同年七月二五日第三小法廷判決・裁判集民事一〇六号六一七頁、最高裁昭和四七年(オ)第六九八号同年九月二六日第三小法廷判決・裁判集民事一〇六号七三五頁、最高裁昭和六一年(オ)第六四四号同年七月一八日第二小法廷判決・民集四〇巻五号九九一、九九六頁参照)。
本件においては、請求者である上告人は被拘束者の親権者であり、その監護をする権利を有する者であるのに対し、被上告人B1は拘束者の父であるとはいえ、いまだにその認知をするに至っていないというのであり、また、被上告人B2は被拘束者とは血縁関係を有せず、被上告人B1の依頼に基づいてその監護を行っているものである。したがって、被拘束者を上告人の監護の下に置くことが被上告人らの監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り、被上告人らによる拘束は権限なしにされていることが顕著である場合に該当し、上告人の請求を認容すべきところ、前記事実関係に照らすと、被拘束者の監護について、上告人は被上告人らに比べて経済的な面において劣る点があるものの、被拘束者に対する愛情及び監護意欲の点においては優るとも劣らないと考えられるのであって、本件において、親権者である上告人が被拘束者を監護することが著しく不当なものであるとは到底いうことができない。
四 そうすると、原審の判断は人身保護法二条、人身保護規則四条の解釈適用を誤ったものであり、この違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、前記認定事実を前提とする限り、上告人の本件請求はこれを認容すべきところ、本件については、幼児である被拘束者の法廷への出頭を確保する必要があり、この点をも考慮すると、前記説示するところに従い、原審において改めて審理判断させるのを相当と認め、これを原審に差し戻すこととする。 よって、人身保護規則四六条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 園 部 逸 夫 裁判官 可 部 恒 雄 裁判官 大 野 正 男 裁判官 千 種 秀 夫 裁判官 尾 崎 行 信
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