判例検索β > 昭和28年(あ)第5469号
失業保険法違反
事件番号昭和28(あ)5469
事件名失業保険法違反
裁判年月日昭和33年7月10日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果棄却
判例集等巻・号・頁刑集 第12巻11号2471頁
原審裁判所名東京高等裁判所
原審裁判年月日昭和28年10月29日
判示事項失業保険法(昭和二四年法律第八七号による改正前のもの)第五三条第二号、第五五条により法人または人の代理人らを処罰する場合の要件。
裁判要旨失業保険法(昭和二四年法律第八七号による改正前のもの)第五三条第二号第五五条により法人または人の代理人らを処罰するには、法人または人の代理人、使用人その他の従業者が、事業主から保険料の納付期日までに被保険者に支払うべき賃金を受けとり、その中から保険料を控除したか、または、すくなくとも事業主が保険料の納付期日までに、右代理人らに納付すべき保険料を交付するなど、事業主において右代理人らが保険料を現実に納付しうる状態においたにかかわらず、これをその納付期日に納付しなかつたことを要する。
参照法条失業保険法(昭和24年法律87号による改正前のもの)32条,失業保険法(昭和24年法律87号による改正前のもの)33条,失業保険法(昭和24年法律87号による改正前のもの)34条,失業保険法(昭和24年法律87号による改正前のもの)53条2号,失業保険法(昭和24年法律87号による改正前のもの)55条
裁判日:西暦1958-07-10
情報公開日2017-10-17 14:24:00
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主 文
本件上告を棄却する
理 由
東京高等検察庁検事長の上告趣意は、原判決が被告人Aにつき、第一審判決認定の如き、失業保険法違反の保険料不納付の事実が証拠上明らかであるとしても、納付義務者の義務の履行につき期待可能性を欠くことを理由として、これを故意によるものとするに由なく、保険料不納付の公訴事実たるや、結局犯罪の証明なきに帰する旨論断している点において、従来の大審院、最高裁判所、高等裁判所の各判例に反する判断をしたというに帰する。しかし、引用の諸判例は、いずれも、その挙示の証拠により、犯罪事実を認定するに当り、情状の斟酌、法令の解釈その他に関し必要な説示、判断を示したに止まり、判文中期待可能性の文字を使用したとしても、いまだ期待可能性の理論を肯定又は否定する判断を示したものとは認められない。されば、所論判例違反の主張はその前提を欠くものであつて、採るを得ない。
(なお、念のため、本件に関する失業保険法の適用に関する当裁判所の意見を附加する。失業保険法(昭和二四年法律八七号による改正前のもの)三二条は

事業主は、その雇用する被保険者の負担する保険料を納付しなければならない

と規定し、同条の規定に違反した者に対する罰則規定として、同法五三条は、事業主が同条二号の第三十二条の規定に違反して被保険者の賃金から控除した保険料をその納付期日に納付しなかつた場合に該当するときは、六箇月以下の懲役又は一万円以下の罰金に処することを定め、同法五五条は、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の事業に関し、前記の違反行為をしたときは、行為者を罰するの外、その法人又は人に対し、前記本条の罰金刑を科する旨を定めている。そして、右五三条が、右五五条により本件のごとき法人又は人の代理人、使用人その他の従業者に適用せられる場合の法意を考えてみるに、五三条二号に被保険者の賃金から控除した保険料をその納付期日に納付しなかつた場合というのは、法人又は人の代理人、使用人その他の従業者が、事業主から保険料の納付期日までに被保険者に支払うべき賃金を受けとり、その中から保険料を控除したか、又はすくなくとも事業主が保険料の納付期日までに、右代理人等に、納付すべき保険料を交付する等、事業主において、右代理人等が納付期日に保険料を現実に納付しうる状態に置いたに拘わらず、これをその納付期日に納付しなかつた場合をいうものと解するを相当とし、そのような事実の認められない以上は、事業主本人、事業主が法人であるときはその代表者が、五三条二号、五五条により三二条違反の刑責を負う場合のあるのは格別、その代理人、使用人その他の従業者については、前記五三条に規定する犯罪の構成要件を欠くものというべきである。しかるに、原審が引用し、そしてそれを是認した第一審判決の認定事実によれば、被告人Aが、被告人会社の代理人として、判示の如く納付期日に右保険料を納付しなかつたのは、本件発生当時の被告人会社の経理状況が終戦後のインフレーシヨンと統制経済による原料価格と、製品価格との不均衡、過剰従業員による人件費の増大等に基く事業採算の困難、一般生活費の高騰に基因する従業員の賃上要求による長期間のストライキから生じた生産低下等により、唯さえ経理の困難さが存在したのに、之が延いては金融機関よりの融資の円滑を妨げる材料となり、益々経理状況に悪化を加えられていた事情もあつて、被告人会社の本店からの送金が遅れていた反面、前記工場長たる被告人Aの自由裁量を許される手許資金もなく、又独自の権限で融資を受ける方法等もなかつた状態の下に起つたことが認められるというのであつて、右のような事実関係の下においては、被告人会社は、その代理人たる被告人Aに、本件保険料を、その納付期日までに交付したことも認められず、その他被告人会社において被告人Aが、右保険料を納付期日に現実に納付しうる状態に置いたことも認められない。しからば、被告人Aが本件保険料をその納付期日までに納付しなかつたとしても、それが失業保険法三二条違反として、同法五三条二号、五五条に該当するものと認められないことは、既に説示した同条項の法意に照らし明らかであつて、被告人Aは、犯罪構成要件を欠き無罪たるべきものであり、行為者たる同被告人が無罪である以上、被告人会社も同法五五条の適用を受くべき限りでなく、これまた無罪たるべきものである。原判決は、その理由において当裁判所の判断と異なるところがあるが、その結論は結局正当たるに帰する。なお、当裁判所は、第一次の控訴審が第一審判決の法令解釈に誤があるとしてこれを破棄、差し戻し、第二次の第一審および控訴審が右判断に従つた場合においても、上告審たる最高裁判所は右第一次の控訴審の法律判断に拘束されるものではないとの見解に立つものである。昭和二九年(あ)第四九九号、同三二年一〇月九日大法廷判決、刑集一一巻一〇号二五二〇頁参照)
よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。 昭和三三年七月一〇日
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 入 江 俊 郎 裁判官 斎 藤 悠 輔 裁判官 下 飯 坂 潤 夫
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