判例検索β > 平成14年(う)第142号
殺人、死体遺棄被告事件
裁判日:西暦2003-03-25
情報公開日2017-10-13 01:44:38
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平成15年3月25日判決宣告
仙台高等裁判所平成14年(う)第142号 殺人死体遺棄被告事件(原審 福島地方裁判所平成14年(わ)第3号,平成14年7月19日判決宣告)主 文
原判決中被告人に関する部分を破棄する
被告人を懲役6年に処する
原審における未決勾留日数中130日をその刑に算入する。

理 由
第1 本件控訴の趣意は,弁護人角山正が提出した控訴趣意書に記載のとおりであるから,これをる。
論旨は,量刑不当の主張であるが,要するに,①被告人が長男の殺害を依頼するに至った経原判決のいうように自己保身のためとはいえないこと,②共犯者のAに金を払って長男の殺害した経緯も,長男に散々悩まされていた被告人が,共犯者のAから持ちかけられて,溺れる者もつかむ心境からその話に乗ったもので,必ずしも確定的に長男を殺したいという意思を有しものではないこと,③格別共犯者を督促して実行に及ばせたということはないこと,④長男の確認した際も,犯行の発覚を恐れて徹底してその処分を求めたということはなく,むしろ半信まま死体を見たに過ぎず,そのため憐憫の情も湧く余裕もなかったことなどを理由に,原判決理由の認定には疑問があり,被告人を懲役9年に処した原判決の量刑は重すぎる,というので第2 記録を調査し,当審における事実取調べの結果も併せて検討する。 1 本件は,当時83歳の母親が,放とうと暴力を繰り返す長男に長年にわたり悩まされ続けた額の報酬と引き替えに長男を殺害してやるとの話に乗り,1000万円近い報酬を支払って,の長男を殺害しその死体を見つからずに処分してくれるよう頼み,依頼を受けた共犯者においを殺害し,その死体を山中に埋めて遺棄した,という衝撃的で悲惨な事案である。 被告人が長男殺害等を依頼するに至る原因と経緯については後に判示するが,長年にわたる心と暴力に耐えきれずに思い余った末とはいえ,人の殺害を図るということが社会的に許され大な犯罪であることはいうまでもなく,憎しみと恐怖の対象でしかなかった長男ではあるが,は,共犯者から多額の報酬の支払いを条件に長男殺害の話を持ちかけられると,さしてちゅうることなくその話に応じ,報酬の支払いと引き替えに長男の殺害を依頼したものであり,その長男の死亡を願って共犯者に報酬金を支払いつつ殺害の実行を促し,被告人の考えを知った次からは馬鹿なことをしないように言われたにもかかわらず,もはや殺害しかないと思い詰めて行を待ったものであり,さらに,長男の死を確かめるために死体の確認までも要求しているのから,被告人の行いは,その原因と経緯には酌量すべきものがあるが,狂気の沙汰としかいいない。共犯者は,長男を飲みに連れ出して,無警戒の長男の背後からいきなり襲いかかり,金トで頭部を殴打し,長男が倒れ込んだところをなおも金属バットで頭部を殴りつけて殺害したあり,犯行態様は残忍である。結果はもとより重大であり,自身に大いに責められるべき点がはいえ,長男は無惨な形で殺害され,その遺体を山中に埋められたものであり,誠に哀れであ告人は,長男の死体を目の当たりにしながら,自己の犯罪を悔いることもなく,ただ自己の犯覚を恐れるのみであったものであり,公判になっても,犯罪に引き込まれたとして共犯者を非責任を転嫁し,我が子の死を悼み自己の責任を省みる様子はなく,人の生命を奪ったことに対省の情が余りうかがわれないのである。したがって,被告人の刑事責任は重いといわざるを得 2 しかしながら,被告人が,長男の死を望み,ついには本件に至った原因,経緯には酌むべき少なからずあるといえるのであり,その原因,経緯は,原判決も(犯行に至る経緯)において判示するところであるが,以下のとおりである。
被告人は,昭和19年1月に農家のBと後妻として結婚し,夫及びその両親の義父母とともを営みつつ,二男二女をもうけ,いわゆる農家の嫁として苦労を重ねたが,昭和34年12月突然交通事故で死亡してからは,なおその苦労が大きくなり,ただ自分の責任でB家の先祖代地を守らなければとの思いでひたすら働き,家業の農業に従事しあるいは行商も行うなどして一つで夫と前妻との子も含め子供5人を育て上げた。しかし,長男(昭和22年2月8日生)家の跡取りということで祖父母に甘やかされて育ったせいもあって,中学校を卒業したもののの農業に従事するでもなく,まともに仕事をせずに,ただ金を無心しては酒やかけ事等にふけうの日々を送り,その上,素行が悪く暴力団と関係を持ち,長期間家を出て所在も分からなくり,刑事事件を起こして刑務所に服役するといったことを,しばしば繰り返していた。被告人うした長男を前に,B家の土地を跡取りとして長男が相続することになれば,たちまち処分さ家の土地はなくなってしまうものと考え,それを防ぐため,土地の大半を次男に相続させるこ昭和49年ころに長男が刑務所に服役中に,B家の土地の大部分を次男名義にした。刑務所か
した長男は,それを知って怒り,事ある毎に自分が跡取りとして財産を取得すべきであると言荒れ,以前にも増して被告人に多額の金を無心するようになり,被告人は蓄えの中からある程まった金を渡すなどしていた。しかし,長男は,数年前に,覚せい剤取締法違反の罪で服役ししてからは,酒浸りで酒乱気味となり,頻繁に金を無心しては,拒まれると暴力を振るうよう被告人に対し頭や顔を殴ったり,足で腹,背中を蹴りつけるなどの暴行をはたらき,あるいは具や窓ガラス,家財道具を壊すなど,暴れることを繰り返し,金の無心と暴力が酷くなる一方た。そのため,被告人は,何度も警察を呼んだり,暴力に耐えかねて度々家を飛び出し,娘達所に身を寄せたり,家の中におられずに物置小屋で夜を明かしたりしていたが,平成12年9鍬の柄で頭部を殴られて負傷し,救急車で病院に運ばれたことがあった。被告人は,長男のそな金の無心と,

金よこさないと殺しちまうぞ。

などとば倒して酷くなる一方の暴力の繰りB家の土地がなくなるのではとの心配で心休まず,また,繰り返される暴力への恐怖心で生きもせず,ただおろおろするばかりでみじめな日々を送っていた。
そうしたところ,長男が,平成12年暮れころ,

金をもらえば,家を出てやる。

と言い財産分けとして多額の金員を要求してきたことから,ただ長男が家から出ていくことを願って告人は,長男のその言い出しに飛びつくようにして,3000万円の大金をやりくりして作り出るという誓約の下に長男に渡した。しかし,案に相違して,安心する暇もなく,長男は,翌半ばころには金員を使い果たしたとして家に戻ってきて,まだ貰うべき財産があるなどと更に要求し,従前と同様に金を無心し,暴れることを繰り返した。
被告人は,長男が家を出てようやく平穏な生活ができるものと思い込んでいた矢先,長男は反して直ぐに戻ってきて,挙げ句の果てに3000万円を使ってしまったとして,またもや以様に金を無心し,それを拒むと暴力を振るうことを繰り返したため,がく然とし,従前以上にんで絶望し,暗たんたる思いに陥った。そのため,被告人は,長男に対して憎しみを募らせてが交通事故や病気で死ねばいいなどと考え,一方で,結婚して所帯を持つ娘達に迷惑をかけるもいかず,長男の暴力から被告人を守るためということで仕事を辞めた次男は,毎日のようにャンに興ずるなど外で遊び歩き,全く頼りにならない有様であり,長男は精神病でないかと保相談してもらちがあかず,不安と恐怖心から精神的に疲弊し,

このままでは長男に先祖伝来を食いつぶされる。長男さえいなくなれば自分はこの生き地獄から救われる。

と,ますますめていった。そうしたところ,次男の遊び仲間として被告人宅を訪れていたAは,被告人から対する恐怖や憎しみの話を聞いていたところ,自ら多額の借金を抱えるなど金銭に困っていた多額の金員を長男に渡している被告人ならまとまった金銭を出すのではないかと考え,被告人の報酬と引き替えに長男を殺害することを持ちかけた。被告人は,その話に最初は驚き拒否しの,Aから同情を装いつつ巧みに2度3度と計画を話され,絶対に犯行が発覚することはない説得されたことから,

B家の財産を守るため,自分の身を守るためには,長男を殺してもらない。

と考え,Aに長男殺害を依頼することを決意するに至った。そして,その後は,被告長男が死んでくれればとの強い思いから,被告人より話を聞かされた次男や姪が馬鹿なことをようにと諭しても,殺害依頼の決意を変えることがなかった。
このように,夫の死後一人で家を守ってきた気丈な被告人ではあるが,長男に散々苦しめら囲に頼る者もおらずに一人で何とか解決をしようとするうちに,共犯者の誘いに乗ってしまっであり,先祖代々の家の土地を守らなければとの一念と,自己の身を守れる安心できる場所さなったとの気持ちから,高齢による思考の固さも手伝って,長男さえ死ねば問題が解決するとめてしまったことを,一面的に身勝手と責めることはできない。
この点,原判決は,確かに,長男を亡き者にしたいとの思いを抱くに至った経緯には長男に問題がなかったとはいえないことに照らし同情すべきものがあることを否定できないものの者に対し1000万円もの高額な報酬の支払いを約束して長男の殺害を依頼した点についてはきものはない。・・・長男殺害を共犯者に依頼するに至った経緯も自己保身的なものであってきものはなく,もとより被告人の本件犯行を正当化することはできない。とするが,その酌ものがないあるいは自己保身的なものとする趣旨がいささか不明であって,犯行の経緯で認定ころと齟齬があり,共犯者に殺害を依頼せざるを得なかった原因と経緯は,上記のとおりであ年にわたって長男の理不尽な要求や暴力に苦しみ,肉体的にも精神的にも疲弊して追い詰めら況にあった被告人が,家の財産がなくなることと暴力の恐怖から免れるために,とうに我が子ことなくもはや憎しみしかなかった長男に対して,その死を求めることについては,酌むべきが少なからずあり,頼るすべもないとの心境下で,心の透き間に入り込むような共犯者の話に乗ってしまった事情に,しん酌すべき理由があるというべきである。そうすると,原判決は,至る原因と経緯等についてしん酌するところが足りないといわざるを得ない。 その上,被告人は,農家の主婦及び一家の支柱として,文字通り勤勉にひたすら働くまじめを送ってきており,子供らを育て上げ,年齢80歳を超えるまで刑事事件とは縁がなく,現在に85歳という高齢に達しているのであって,これら被告人のために酌むべき事情も併せて考と,被告人を懲役9年に処した原判決の量刑は,重すぎると考えられる。論旨は理由がある。
第3 よって,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条ただし書によ告事件について更に次のとおり判決する。
原判決が認定した各事実に原判決と同一の法令を適用し(刑種の選択,併合罪の処理を含む処断刑期の範囲内で,上記の理由により被告人を懲役6年に処し,刑法21条を適用して原審る未決勾留日数中130日をその刑に算入することとし,原審及び当審における訴訟費用を被負担させないことにつき刑訴法181条1項ただし書を適用して,主文のとおり判決する。仙台高等裁判所第1刑事部
裁判長裁判官 松 浦 繁
裁判官 根 本 渉
裁判官春名郁子は異動のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 松 浦 繁

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