判例検索β > 平成12年(う)第182号
逮捕監禁、殺人、死体遺棄、死体損壊、覚せい剤取締法違反被告
事件番号平成12(う)182
事件名逮捕監禁,殺人,死体遺棄,死体損壊,覚せい剤取締法違反被告
裁判年月日平成14年10月31日
裁判所名・部広島高等裁判所
裁判日:西暦2002-10-31
情報公開日2017-10-13 01:45:52
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主 文
本件控訴を棄却する
当審における未決勾留日数中580日を原判決の刑に算入する。 理 由
本件控訴の趣意は,弁護人立岩弘作成の控訴趣意書,同我妻正規作成の控訴趣意補充書,被告人作成の控訴趣意書並びに平成13年3月23日付け,同年4月11日付け,同年5月7日付け,同年10月15日付け,同月16日付け,平成14年6月10日付け及び同月16日付け各控訴趣意書補充書と題する書面に,これらに対する答弁は,検察官見越正秋作成の答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する(被告人作成の控訴趣意書のうち,訴訟手続の法令違反及び審理不尽とされている主張は,いずれも,その内容は事実誤認の主張であると解される。)。なお,被告人作成の平成13年4月11日付け,同年5月7日付け,同年10月15日付け,同月16日付け,平成14年6月10日付け及び同月16日付け各控訴趣意書補充書と題する書面は,いずれも控訴趣意書差出期間経過後に提出されたものであり,これらに記載された事実誤認の主張を除く主張は,後記のとおり,職権調査を求めるものである。
第1 事実誤認の論旨について
1 所論は,要するに,原判決は,罪となるべき事実の第一の二において,被告人が,平成9年11月26日午後10時ころ,岡山県井原市内の道路脇草むら窪地において,A及びBと共謀の上,殺意をもって,こもごもスコップ2本でCの頭部,胸腹部等を多数回殴打し,さらに,Aにおいて,被告人が使用していたジャンパーの紐でCの頸部を絞めるなどし,そのころ,同所において,死亡させて殺害したという事実を認定したが,被告人には殺意はなかったし,また,A及びBと殺害を共謀したこともないから,上記事実を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
そこで,原審記録を調査して検討すると,原判決の罪となるべき事実の認定及び事実認定の補足説明における説示は,被告人と行動を共にしていたA及びBの各供述の信用性,被告人の弁解の真偽についての判断を含めて,当裁判所も概ね正当なものとして是認することができ,当審における事実取調べの結果を併せて検討しても,その認定及び判断を左右するものはない。
以下,所論にかんがみ,付言する。
2 被告人がCに対する殺人等の犯行にかかわることになった経緯については,関係証拠によれば,概ね,次の事実が認められる。
(1) 被告人は,暴力団組員として活動していたが,昭和63年ころ,他の暴力団の幹部であったBとE刑務所で服役中に知り合い,平成9年夏ころからは,覚せい剤の購入者をBから紹介してもらうなどの付き合いも生じており,他方,Aとは,本件逮捕監禁殺人の犯行当日である同年11月26日が初対面であった。また,BとAは,平成5年ころ知り合い,その後,一緒にすりをしたり,債権の取立て等をしていた。
(2) Aは,20年以上前に福山市在住で資産家のDの貸家に住んで鉄筋業を営んだことがあったが,平成9年2月17日,Dの娘と結婚して福山市に住んでいたCを訪ね,初対面のCに対し,死亡したDに埋立工事代金等の債権があると言ってその支払を要求したが,契約書等がないことなどから断られた。
(3) Aは,歌手をしていた内妻が芸名を変えて再デビューするための資金760万円余りを知人から借りていたところ,同年10月31日,その知人に対し,同年11月から翌10年1月までの各末日に3回に分割して返済することを約束したが,期日が迫っても金員を用意できなかったので,再度,福山市に行き,Cから前記債権の取立てに藉口して,金を出させようと企てた。
(4) Aは,平成9年11月23日ころ,東京都内で,Bに対し,埋立工事代金等の債権が約3000万円あるとの話を持ち掛けて福山市に行くことを誘ったところ,Bは,これを承諾するとともに,車を用意できる被告人を誘おうと考えた。被告人は,同月25日,Bから誘われてこれに同意した。
(5) 被告人は,同月26日早朝,B及びAとJR新宿駅前で待ち合わせて,車で福山市に向かった。
3 所論は,被告人に殺意があったことを認定している原判決には,次のとおり,事実の誤認がある。すなわち,①被告人は,Bから3000万円の債権取立ての仕事があると誘われ,これを信用してわざわざ東京から福山市に来たのであって,Cを殺害すれば債権取立ては不可能となり,福山市に来たことが無駄になる,
②被告人は,本件殺害現場で,Cをスコップで殴っているが,その部位は左肩ないし左上腕部付近であり,殺意がないからこそ,そのような部位を殴っているのであるし,また,A及びBは,スコップでCを殴打した後,紐などで首を絞めているが,被告人は,それらの行為には全く関与しておらず,その場を離れて車の傍にいたのであるから,被告人に殺意を認めるべきではない,③原判決は,殺害の動機について,Cに激しく抵抗され前後の見境なく激高したことであると認定しているが,被告人は,Cの抵抗を押さえ込んで金にしたいと考えていたのであり,被告人自身は,本件殺害現場で,直接抵抗を受けたことはなく,したがって,そのために被告人が激高したこともない,④被告人は,C殺害後,東京に帰る列車の中で,Bらに対し,なぜ殺害したのかと詰問しており,このことからも,被告人に殺害の意思がなかったことは明らかである,というのである。
そこで,検討すると,①確かに,被告人らが平成9年11月26日に東京から福山市に来た当初の目的が埋立工事代金等をCから取り立てることであったことは,所論指摘のとおりである。しかしながら,被告人らは,同日午後8時40分ころCを車内に監禁し,当初は金員の要求をしていたものの,Cが100万円なら出すと言い,被告人及びBにおいて,更に高額の金員を要求したところ,

あんたらが納得のいくお金を出す。時間をくれ

と言ったのに対して,Aが

この野郎に時間なんかやれるか。すぐ警察に通報される。こいつの言うことが信じられるか

と怒鳴り,遂には

殺せ。殺してしまえ

とわめいてからは,被告人らは,金員を要求する言葉を発しておらず,その後は,金額等についてのやりとりは一切しないまま,約1時間20分ほど夜道をあてもなく走行していたのである。そうすると,取立てに当たり,多少荒っぽいことをするのは承知の上で,玩具のけん銃を準備するなどしていた被告人にとっても,Aが

殺せ。殺してしまえ

とわめいた後においては,思いがけない事態となってしまったのであって,Cから工事代金等の名目で金員を取り立てるという当初のもくろみは,変更せざるを得ない状況になったと認めるのが相当である。そして,その後,本件殺害現場において,Cが車外に出て逃走を図り,これを阻止しようとしたところ,激しい抵抗に遭い,被告人らは,激高するとともに,このままCを解放したのでは拉致の事実で逮捕を免れないことから,被告人としても,後記のとおり,もはやCが死亡するもやむを得ないとの思いを抱くに至り,その後の犯行に及んだのである。したがって,東京から福山市に来た当初の目的が債権取立てであったからといって,本件殺害現場において殺意がなかったということにはならない。
②被告人らが犯行に使用した2本のスコップは,いずれも,全長約96.5センチメートル,重量約2キログラム,金属部分の幅約23センチメートル,その長さ約29センチメートルのものであり,用法次第では十分な殺傷力がある。そして,被告人は,初めにAと共に,本件殺害現場において,二,三分間にわたり,それぞれ手にした2本のスコップでCを殴打し,その後,Bがスコップで殴打したと認められるところ,本件殺害現場の窪地及び道路上から採取されたCの頭髪は,ほとんどが切断されたものであり,その一部は刃物等,一部は鈍体によるものと思われる断端であったこと,Cの胸腹部等の鑑定結果によれば,右胸鎖関節部に筋肉出血が認められ,生存中に鈍体が皮膚に作用して生じたものと推定され,左鎖骨上面には有刃器等によるものと考えられる損傷が認められること,被告人らは,Cが身動きできなくなるまで,スコップで殴打していたこと,被告人自身,殴打する際には手加減しなかったと供述していることからすると,被告人らのスコップによる暴行は,Cの頭部や胸腹部といった身体の枢要部に対する激烈で執拗なものであったというべきである。したがって,被告人らのしたスコップによる殴打行為によって死亡する蓋然性は極めて高いと認定することができる。
被告人は,スコップでは左肩ないし左上腕部を殴打しただけであると供述しているが,激高して,Aと共に,こもごもCの身体めがけて,いわばめった打ちするように激しく殴打したのであるから,Cの左肩ないし左上腕部だけを殴打するなどといったことは事実上困難であるばかりか,仮に,結果的に被告人のスコップが当たった部位が上記部分であったとしても,Cが死亡しないように意識して,上記のような金属部分の大きさのスコップでその部分だけをねらって殴打したものとは考えられない。また,被告人は,AやBのすぐ隣か若しくはせいぜい10メートル程度しか離れていない車の傍らにいて,AやBがスコップで殴打することも,Aが紐でCの首を絞めることも十分認識しながら,これを制止することなく,Aらと行動を共にしているのであるから,被告人がAやBがした行為に全く関与していないとは到底いえない。

③被告人は,車の走行中には俺も男だ,信用してくれなどと言っていたCが,本件殺害現場で車から逃げ出そうとしたのを見て,自分の言葉を守らない汚い野郎だと思い,また,拉致現場では,右手の小指を噛みつかれて相当の傷を負わされたこともあって,Cの行動に激高するとともに,もはやCから金を出させることはできないものと思い至り,Aらと共にスコップで殴打するなどの暴行を加えたものであると認められる。被告人に,殺害の動機がないなどとはいえない。 ④A及びBは,本件殺害現場において,スコップでCの頭部,胸腹部等を殴打するのみならず,紐で首を絞めるなど死の結果を招来することが当然予想される行為をしているところ,被告人は,AやBのそれらの行為を制止するような言動を全くしていないばかりでなく,被告人自身,スコップでCを殴打するなどし,A及びBと一体となって犯行に及んでいる。そうすると,被告人は,AやBのC殺害行為を容認し,自ら積極的にこれに加担していたというべきである。したがって,列車内での被告人の発言の趣旨は,当初は思いがけない成り行きにとまどっていた被告人が,Aらの殺害行為に加担したものの,冷静になった時に,経済的利益を得られなかったばかりか,重い罪を犯してしまった後悔の気持ちもあって,Bらに非難めいた発言をしたとみるべきであるから,被告人が前記のような発言をしたことをもって,本件殺害現場における被告人の殺意が否定されるものではない。 4 所論は,原判決は,被告人に殺意があったことを認定するに当たり,被告人の平成10年2月9日付け(原審検219号)及び同月11日付け(原審検222号)各検察官調書中の未必の殺意を認めるかのような供述部分をも根拠にしているが,この部分は,被告人の真意を表現したものではなく,任意性及び信用性に欠けるものである,すなわち,被告人は,警察官による取調べの際には,殺意を否定しており,検察官による取調べにおいても同様に否定していたが,未必の故意という用語を知らなかったから,死んでしまってもいいと思った(原審検219号)とか死んでも構わないという気持ち(原審検222号)という表現が殺意を認めた言葉であるとは考えなかった上,死んでもいいと思ったとの表現に訂正を求め,検察官が書き直した死んでも構わないという表現に対しても重ねて訂正を求めたが,結局,調書に対して何度も異議を述べることには遠慮もあり,検察官から言葉巧みに,調書に署名指印させられたものである,というのである。 検219号の供述調書にはこのスコップで殴りつけてCさんが死んでしまってもいいという気持ちにまでなっていました,もうここまできたら金のことはあきらめざるを得ない,Cさんが死んでしまってもいいと思って手加減することなく,Cさんを殴りつけたのですという記載が,検222号の供述調書にはCさんが死んでも構わないという気持ちで,・・・Cさんを殴りつけたのですという記載があるところ,これらの各供述調書は,検察官が第2回公判期日に取調べ請求をしたこと,弁護人は,検219号の供述調書については,同期日に,一部同意・一部不同意の意見を述べたが,第4回公判期日に,一部不同意の意見を撤回して同意し,撤回した部分につき信用性を争うと述べ,検222号の供述調書については,同期日に,同意するが,信用性を争うとの意見を述べ,いずれも同期日に取調べがなされたことが認められる。そうすると,これらの供述調書は,任意性がないなどという意見は述べられておらず,同意書面として取り調べられたことが明らかであり,また,記録を検討してみても,任意性に疑いを差し挟むような事情は認められないから,これを殺意認定の証拠に供した原判決には,何ら問題はない。 なお,被告人は,検察官に異議を述べたとき,検察官から

君の場合は,我々も話を信じている。殺人というのは,死刑から3年以上まであるが,君の場合は,一番低いところでみている

と言われたので,3年を基準にして判断してくれるのであれば,この程度のことは細かく言わなくともいいだろうと考えて,供述調書に署名指印した旨供述しているが,被告人の犯した本件各犯行の態様及び被告人の前科等を考慮すると,検察官がこのような話をするなどということはおよそ考えられないのであって,被告人のこの供述は信用できない。そして,上記の各供述調書のうち,上記記載部分を含む被告人の当時の心境を述べている部分は,具体的で十分了解可能であり,関係証拠及び被告人自身の一連の行動とも矛盾しているとかそごを来しているような点もないから,十分に信用できるというべきである。 所論は採用できない。
5 所論は,原判決は,当初,A及び被告人がスコップで殴打していたとき,両名間で殺人の共謀が暗黙に成立し,これを見ていたBが窪地に下りてスコップを受け取ったとき,B,A及び被告人間で殺人の共謀が暗黙に成立し,順次共謀が成立したと認定しているが,①被告人とAが一緒にスコップで殴打した事実はなく,ま
た,②Bがスコップを受け取った時点では,被告人は,窪地を離れて道路に上がっていたから,新たな共謀が成立する余地はないにもかかわらず,上記のような共謀の成立を認定した原判決は不当である,というのである。
しかしながら,被告人は,Aと一緒にスコップで殴打しており,AやBがCに対して暴行を加えていたときにも,本件殺害現場にいて,これを認識していたと認められることは前記のとおりであり,そのことを前提にして,原判決が,被告人ら3名の間に順次共謀が成立したと認定,判断したことに誤りはない。 所論は採用できない。
6 所論は,原判決は,次のとおり,信用できないBの供述を信用できるものと判断した上で,これを基に重要な事実を誤って認定している,というのである。 すなわち,①Bは,Aから3000万円の債権があると言って誘われた旨供述しているところ,Aは,当時,金に困って,Bと共に窃盗をしたりしていたことからも,3000万円もの債権を持っていなかったことは明らかであり,また,Bもそのことを十分知っていたはずである。②Bは,窪地において,既に抵抗できない状態になっていたCの後ろから首付近を抱え込んで引きずったり,Cが付けていたネクタイを引っ張るなどしていない,Cの身体に触れたこともないと供述しているのに対し,原判決は,Bの供述に反してこれらの事実を認定しておりながら,Bの他の部分の供述は信用できるとしているのであって,不可解である。また,原判決は,BがスコップでCの頭部等を複数回殴打したことを認定しているところ,この事実に関し,Bは,仰向けに倒れているCの左後頭部を殴打したなどという不合理,不可解な供述をしている。③Bは,本件殺害現場で犯行状況を説明した際,Bと被告人が一緒にスコップでCを殴打したと説明しているのに,後にこれを勘違いであったとの理由で取り消しており,不自然に供述が変遷している。また,Bは,捜査段階では,Aが先に,続いて被告人が,Cさんの身体にその付近の土を削り崩してかけ始めたのを見た旨供述していたが,公判廷において,これが虚偽であることを認め,被告人がスコップでCに土をかけたことはないと供述するに至ったところ,供述を変えた理由として,不可解な説明をしている。④原判決は,Aがジャンパーの紐でCの頸部を絞めた事実を認定しているところ,Bは,当初,この事実を認めようとせず,第12回公判期日になって初めて認めるに至ったが,Bが供述を変えた理由として述べるところは理解できない内容のものである。⑤Bは,被告人とAが一緒になって代わる代わるスコップでCを殴るのを見たと供述しているが,Bのいた位置及びその時の姿勢,現場の明るさからすると,窪地にいた被告人及びAを,さらに,スコップの動きを見ることができたのか疑問である。また,Bは,現場の明るさに関して,捜査段階では,車のルームライト等の明かりがあったと供述していたのに,公判廷では,明かりについては不明であると供述を変えている。⑥Aは,窪地において,BがスコップでCの首の辺りを突き上げたのを見た,B自身が3回程とどめを刺したと語った,と供述し,被告人も,Bが,俺がスコップで喉の辺りを突いた時ギグッと骨に当たる感じがしたと言っていたのを聞いた,と供述しているから,このような事実があったのではないかと強く疑われるのに,Bはこれを認めていない,というのである。
しかしながら,①Bは,Aが実際に3000万円の債権を有していると理解していたのではなく,取立ての口実となる金額としてこれを受け止めていたものと捉えるべきである。仮に,Aから持ち掛けられたのが200万円の取立て話であったとしたら,通常満額を取り立てるのは難しいことからしても,Bが,東京から福山市までわざわざ出向き,ましてや,被告人を誘ってまで来ることは,いかにも不合理であり,考えられない。そして,このことは,車中に監禁されたCが,100万円なら出すと言ったときに,Bが,何い,100万円とかいう額じゃないだろうとか1億などと言って,100万円などという金額は全くの論外であるという態度を示したことからも明らかである。そもそも,Aは,760万円余りの借金につき,分割による返済期日が迫っても金員を用意できなかったため,本件の取立てを企てたのであるから,200万円程度の取立て話をBに持ち掛けるのは不自然であり,この点に関するAの供述は,到底信用できない。②被告人ら3名は,それぞれ自己の責任の軽減を図るべく,自己の行為についてそれぞれ弁解している部分があり,三者三様の供述をしているところ,原判決は,Bの供述を総合的,全体的に考察し,他の者の供述や客観的な状況とも照らし合わせて,Bの当該弁解については採用しなかったが,他の供述部分は十分信用できると判断しているのであって,何ら不可解なところはない。③共犯者の供述の信用性を検討するに当たり,いわゆる引込みの危険性の観点から慎重に判断すべきであることはいうまで
もないところ,Bは,当初,3人で責任を取ろうと考えていたのであり,Bの捜査段階の供述には,共犯者のうち1人だけが行った行為を秘匿し,あるいは,2人の者が行ったかのように供述していたのではないかと思われる部分もある。しかし,Bは,そのような点については,その後の取調べの際や公判廷で,いずれも率直に訂正しているのであって,その変更が不自然であるとはいえない。そうすると,Bの供述内容が所論指摘のように変遷しているからといって,他の供述部分の信用性が損なわれるものではない。④AがCの頸部を紐で絞めたことに関して,Bが原審の途中で供述を変えた理由として,Bは,A自身が行った行為であるから,Aにも良心があって,自ら供述するであろうと考えたし,Aをかばう気もあって,先に供述することになるのを控えたが,全部Bが1人でやったようなことを言っているので,あえて話したと供述している。そして,上記紐でCの頸部を絞める行為は,Aのみが行った,しかもとどめを刺す行為であったこと,本件殺害現場から紐に付属した金具が,殺害後,被告人らが通行した道路脇の溝から紐が,それぞれ発見されていたこと,紐は,被告人が着用していたジャンパーからAが引き抜いたものであることからして,いずれAの行為であったと判明するものであること,AとBの人的関係などにかんがみると,供述を変更させた理由に関するBの上記供述は,原判決も指摘するとおり,納得のできるものである。⑤Bは,被告人らの姿は見えなかったが,スコップが交互に上下するのは見えたという点については,一貫して供述しているところ,Aは,用意してあったスコップ2本を車から取り出し,窪地に逃げ込んだCのもとへ近づいて行ったのであるから,激しく抵抗していたCを2人の者がスコップで代わる代わる殴打したというのは誠に自然である。そして,Aが本件殺害現場で車を止めたのは,Bの小用のための一時的なものであったから,そのような場合,前照灯をはじめ,車のすべての明かりを消すとは考え難い。もし仮に全く明かりがない暗闇であったとすれば,道路脇の窪地に逃げ込んだCを捜したり,車の照明を点灯するなどの行動がなされるはずであると思われるところ,そのような行動をとった者はなく,被告人らはいずれもCのもとへ苦もなく近づいて暴行を加えているのであるから,車の明かりがあったことは合理的に推認することができる。この点につき,被告人自身も,原審公判廷において,誰が何をやっているかはっきりは見えないが,シルエットというか,影みたいな形では見えますと供述し,当審公判廷でも,Cが自分のほうに向かってきたとき,手が光っていたので,手のひらに血が付いてぬれていると分かった旨供述しているところである。また,Bは,原審公判廷において,ルームライトがついていたかはっきり分からない(第9回公判)と供述する一方,ついていた(第17回公判)とも供述しているが,その内容は,殺害現場の明るさに関する捜査段階の供述を変更させたものではない。したがって,2本のスコップが交互に上下していることにより,被告人とAが共にスコップでCを殴打しているのが分かったというBの供述には,不自然なところはなく,十分信用できる。⑥被告人は,殺害の翌日の昼ころ,本件殺害現場に戻った際,Cの首辺りを見たが,スコップで突いたような傷はなかったと供述していること,被告人及びAと共に原判示第二の死体損壊・遺棄の犯行を犯した共犯者は,平成9年12月6日午前3時ころ,千葉県の山中で,Cの死体の首を斧で切り落とした際,暗かったので,Aが懐中電灯で照らしてくれていたが,Cの首に,小さな傷までは分からないけれども,少なくとも目に付くような傷はなかったと供述していることからすると,Bが本件殺害現場においてCの首の辺りをスコップで突く等の行為をしたことはないと認められるから,所論はその前提を欠くものである。 以上によれば,Bの供述が基本的に信用できるとした原判決の判断は正当であり,この供述などに基づいてなされた原判決の事実認定に誤りはない。 7 その他,弁護人及び被告人がるる主張するところを全て検討してみても,被告人に対し,原判示の殺人の事実を認定した原判決に,事実の誤認はない。 論旨は理由がない。
第2 訴訟手続の法令違反(審理不尽)の論旨について
所論は,要するに,原判決は,本件殺害現場における被告人とAの殴打行為に関するBの供述が信用できるとしており,また,Cの表情についての記載がある被告人の平成10年2月11日付け検察官調書を殺意認定の証拠としているところ,上記供述の信用性を吟味し,暗闇の現場において,上記殴打行為やCの表情が視認できるか否かを検証するには,夜間の現場検証が不可欠であったのに,原審にはこれを実施しなかった審理不尽の違法があり,破棄を免れない,というのである。 しかしながら,前記第1の6の⑤で説示したとおり,本件殺害現場において,2本のスコップが交互に上下しているのを視認するのは可能であり,被告人とAが
共にスコップでCを殴打しているのが分かったというBの供述は信用できる。また,上記検察官調書の記載は,訴えかけるような目で私のことを見ているように感じたのですというものであって,実際にCの視線や表情を見たことを前提としているものではなく,あくまでも被告人の主観的な感じを述べたものにすぎない。そうすると,夜間検証を行わなかった原審には,審理不尽の廉はない。 論旨は理由がない。
第3 被告人は,訴訟手続の法令違反などの主張をして,当裁判所に対して職権による調査を求めているが,関係証拠を検討しても,原審にそのような違法はない。以下,その主な点につき,念のため付言する。
1 被告人は,①裁判長は,被告人保護のための権利を説明しなければならないと定められている(刑訴規則197条2項,刑訴法291条2項)のに,被告人に対し,弁論の分離請求権があることを説明しなかった,②裁判所は,被告人の権利を保護するため必要があるときは,弁論を分離しなければならないと定められている(刑訴法313条2項)ところ,本件においては,被告人とB及びAとは防御が互に相反していたから,原審は,被告人の弁論を分離すべきであったのに,これをしなかった,③原審における被告人の弁護人は,第23回公判期日における弁論再開後の弁論において,防御が相反するBの弁護人の弁論を援用したが,原審が,被告人とBとは防御が相反していることを知っていたにもかかわらず,これを容認した,④原審は,判決宣告の際には,Bには事件当時切迫した事情はなかった,Bが被告人に200万円の話を3000万円あると言うのは考えられないと告知したのに,判決書では,その部分を削除しているところ,判決宣告の際に告知した内容を誤りであるとして判決書に記載しないというのでは,誤った判決に対して被告人に認められている上訴の権利が侵害される,などというのである。 2 そこで,検討する。
①被告人には,弁護人が付いていたこと,原審の第1回ないし第3回各公判期日において,被告人及びその弁護人は,逮捕監禁の公訴事実については,事前共謀を否認したが,現場共謀の限度で事実上認め,その余の点も認め,殺人の公訴事実については,共謀及び殺意を否認したが,その余の点は認め,その余の公訴事実については,全て認める旨の陳述をし,Bは,逮捕監禁の公訴事実については全て認め,殺人の公訴事実については,殺意及び共謀の存在を争ったほかは認め,Aは,逮捕監禁の公訴事実については全て認め,殺人の公訴事実については,殺意及び共謀の各存在並びに暴行の態様等を否認し,無罪を主張して全面的に争ったことが認められ,こうした被告人らの公訴事実に対する陳述の内容及びその後の審理経過等からすると,原審裁判長が被告人に対し弁論の分離請求権があることを説明しなかったことをもって,不当であるとはいえない。
②被告人,B及びAの事件に対する各陳述の内容は,前記のとおりであったこと,各弁護人から,弁論の分離請求はなされていないこと,被告人は,自己の言い分を十二分に述べており,併合して審理されたがために,その発言を抑制されたとか,その他訴訟上の権利の行使を妨げられたような事情はうかがわれないことなどからすると,被告人らの公訴事実に対する各陳述の内容が,前記した程度で異なっていたからといって,被告人の権利を保護するためには,弁論を分離しなければならなかったという状況にはなかったと認められる。したがって,被告人に対する弁論を分離しなかった原審の措置に誤りはない。
③一件記録によれば,第22回公判期日(平成12年6月1日)において,証拠調べがなされた後,検察官及び各弁護人が,それぞれ書面に基づいて論告,弁論をし,各被告人が最終意見陳述をして結審し,判決宣告期日が同年9月20日と指定されたこと,被告人の弁護人は,同月18日,証拠申請書を提出し,被告人が本件殺害行為に加わっていないことを立証趣旨として,証人Fを申請し,検察官は,同月20日,訴因変更請求書(本件殺人の公訴事実につき,暴行の態様として,Aにおいて,被告人が使用していたジャンパーの紐でCの頚部を絞めたことを追加するもの)を提出したこと,同日の第23回公判期日において,検察官及び被告人の弁護人が弁論の再開を申請したところ,裁判所は,弁論を再開して訴因変更を許可し,各被告人及び各弁護人が訴因変更後の殺人の公訴事実につき陳述したが,被告人の弁護人からの証人申請を却下したので,検察官は改めて論告(従前のとおりであるというもの)を行い,各弁護人も改めて弁論をしたこと,Aの弁護人は,従前のとおりと述べ,Bの弁護人は,訴因変更請求に対する意見書に記載してある弁論要旨の補足のとおりであると述べ,被告人の弁護人は,これを援用したことが認められる。

しかしながら,Bの弁護人が補足した弁論要旨の内容は,Aにおいて,被告人が使用していたジャンパーの紐でCの頸部を絞めたことについては,共謀もしていないし,全く関与していないというものであり,この点に関しては,被告人も同様であるというものであって,被告人にとって何ら不利になるものではないから,被告人の弁護人がこれを援用したことが不当であるとはいえない。したがって,原審が,被告人の弁護人がBの弁護人の弁論を援用すると述べたことについて,格別の措置をとらなかったことをもって誤りであるとはいえない。
④原審が判決宣告期日に口頭で告知した判決理由の中に,被告人主張の文言が含まれていたか否かは,明らかではない。しかしながら,法廷で告知するのは理由の要旨であるから,判決書と全く同一でなくても差し支えないことに加え,被告人が法廷では告知されたのに判決書には欠落していると主張している前記文言の内容及び判決書の内容を検討すると,仮に,被告人主張のとおり,判決書には記載のない前記文言が法廷で告知された理由の要旨の中に含まれていたとしても,そのことによって,被告人の上訴権が侵害されたり,原判決に理由不備を来すといったものではない。
3 そして,その他被告人がるる主張するところを全て検討してみても,原審の措置あるいは原判決には,訴訟手続の法令違反,理由不備の違法,憲法違反等は存しない。
第4 量刑不当の論旨について
所論は,要するに,被告人を懲役12年に処した原判決の量刑は不当に重い,というのである。
そこで,検討すると,本件は,被告人が,平成9年11月26日,B及びAと共に犯した逮捕監禁及び殺人(原判示第一の一及び二),同月30日,B及びAと共に犯した死体遺棄(同第一の三),同年12月6日,A外1名と共に犯した死体損壊・遺棄(同第二),同月19日ころから平成10年1月22日までの間に犯した覚せい剤取締法違反(覚せい剤の所持2件,自己使用1件。同第三の一ないし三)の事案である。
逮捕監禁殺人死体遺棄及び死体損壊の事案は,埋立工事代金等名下に金員を要求し,不当な要求に屈しなかった被害者を車内に連れ込んで岡山県井原市内の山中まで拉致し,隙を見て逃げようとした被害者に対し,3名で頭部,胸腹部等をスコップで殴打するなどした上,最後は紐で首を絞めて殺害し,その後,犯行の発覚をおそれて死体を千葉県の山中に埋め,さらに,死体を掘り出してばらばらに解体し,一部を神奈川県の山中に埋め,一部を荒川に投棄した,というもので,極めて凄惨な事件である。犯行の動機,態様に酌むべき事情はなく,結果が重大であるところ,被害弁償はなされておらず,慰謝の措置も講じられていない。被害者は,当時45歳の真面目な会社員であり,家庭では良き夫,良き父であった。何の落ち度もないのに,激しい暴行を受けて殺害された上,死体を損壊・遺棄された被害者の無念さやその親族の心情は察するに余りある。また,被告人は,覚せい剤取締法違反の前科が3犯あるのに,またしても同法違反の罪を犯したものである。したがって,本件の犯情は悪く,被告人の刑事責任はかなり重い。
そうすると,被告人は,殺人以外の各犯行については,捜査段階から事実を認めていること,逮捕監禁については,Bに誘われて加わったものであること,殺人についても,当初から計画していたものではなく,被害者を殺害するについては,被告人にとって思いがけない展開であったこと,死体損壊・遺棄については,Aに引きずられた面があること,本件各犯行について,被告人なりに反省の言葉を述べていること,前妻との間に知的障害の子供がいることのほか,原審記録及び当審における事実取調べの結果により認められる諸事情を被告人のために十分考慮してみても,原判決の量刑が不当に重いとはいえない。
なお,弁護人は,たとえ被告人に覚せい剤取締法違反等の事犯があるにせよ,Bと同じ刑では,その均衡を失し,極めて不当であると主張する。しかしながら,被告人がBと共に犯した逮捕監禁殺人及び死体遺棄の事案において,各犯行に関与するに至った経緯,動機及び態様などを総合的に考慮すると,両者の間にそれほどの差異があるものと認めることはできない上,被告人は,死体損壊・遺棄及び覚せい剤取締法違反の各犯行を犯していること,それらの犯行を犯すに至った経緯,動機及び態様,さらには,両者の各前科の内容等の個別的な諸情状などをも併せて考慮すると,被告人の刑責がBのそれより軽いとは到底いえないから,弁護人の上記主張は理由がない。
論旨は理由がない。

よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中580日を原判決の刑に算入し,当審における訴訟費用については刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととして,主文のとおり判決する。
平成14年10月31日
広島高等裁判所第一部
裁判長裁判官 久 保 眞 人 裁判官 菊 地 健 治 裁判官 島 田 一
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