判例検索β > 平成21年(わ)第106号
事件番号平成21(わ)106
裁判年月日平成21年6月15日
裁判所名・部神戸地方裁判所  第2刑事部
裁判日:西暦2009-06-15
情報公開日2017-10-13 01:36:36
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平成21年(わ)第106号

主文
被告人を懲役20年に処する
未決勾留日数中110日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

妻子を有していたが,かねて不倫関係にあったAが妊娠し,その出産予定日が迫っていたところ,妻や子らにはこのことを隠して同人らとの生活を続けたいと考える一方,Aには同女との関係を続けるため,既に妻とは離婚してAとの婚姻届を提出した,同女と住む新居を用意したなどと嘘をついており,これらの嘘が露見すると同女との関係を続けることができなくなるが,被告人と別れた同女が今後他の男性と交際するのには耐えられないなどと考え,平成20年11月初旬には,家族との生活を維持しながら同女を自分だけのものにしておくためには,同女を出産前に殺すしかないと考え始め,出産が間近に迫った同月16日,同女が被告人が入居できるようになったと嘘をついていた新居に行きたいと言ったのを契機に,これ以上同女に嘘をつき通すことはできないと考え,嘘が露見する前に同女を殺害しようと決意し,同女を居住させていた神戸市a区bc丁目d番e号所在のfにおいて,同女(当時24歳)に対し,その頸部を両手で締め付け,更にその頸部にタオルを巻いて同様に締め付け,よって,そのころ,同所において,同女を頸部圧迫により窒息死させて殺害し
第2

前記犯行の発覚を防ぐため,同年12月24日,プラスチックケースに入れた同女の死体を前記fから運び出し,普通貨物自動車で同区gh丁目i番地j所在の当時の勤務先であったk株式会社l支店に運搬し,同支店2階倉庫に運び込んで隠匿し,もって死体を遺棄し

たものである。
(証拠の標目)
(省略)
(法令の適用)
罰条
判示第1の所為につき,刑法199条
判示第2の所為につき,刑法190条
刑種の選択
判示第1の罪につき,有期懲役刑
併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重)
未決勾留日数の算入
刑法21条
訴訟費用の不負担
刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1
犯行に至る経緯
被告人は,平成18年6月,当時勤務していた会社でアルバイト従業員として
勤務していた被害者と知り合い,被告人には当時既に妻と子らがいたが,やがて被害者と性的関係を伴う交際を始め,平成19年4月,被害者は被告人の子を流産した。その後同年12月ころ,被害者は被告人が自宅とは別に社宅として借り受けたマンションの居室で被告人と半ば同棲するようになり,再び妊娠した被告人の子をまた流産した後,平成20年3月ころ再度被告人の子を妊娠した。被告人は,妻と離婚する意思はなく,家族には被害者の存在を隠していたにもかかわらず,被害者に対しては,妻と離婚して被害者と結婚する旨述べ,被告人を信じた被害者が結婚するよう求めると,同年2月には虚偽の離婚届を被害者に示して妻と離婚した旨の,同年11月には被害者が準備した婚姻届を市役所に提出した旨の嘘をつき,更に出産後被害者や新生児と暮らすための新居としてマンションの居室を借りる契約をしたなどと嘘を重ねていた。被害者の3度目の妊娠は順調で,出産予定日は同月27日に迫っていたが,同月11日の検診の結果もはや流産の可能性がないことが分かり,被告人は被害者の殺害を真剣に考え始め,同月16日,被害者が被告人が入居できるようになったと嘘をついていた新居に行こうと言ったのを契機に,被告人はこれ以上被害者に嘘をつき通すことはできないと考え,被害者を殺害しようと決意した。
殺害を決意した理由について,検察官は,被害者が被告人の子を出産すれば,自己の破廉恥な行動が家族や職場にも知られ,家庭が破綻し会社を解雇されることになるのではないかと恐れ,被害者の存在が邪魔になって殺害を決意した旨主張し,弁護人は,被告人の供述に基づき,被害者が邪魔になったのではなく,これまで被害者についてきた嘘が被害者に発覚すれば被害者との破綻は避けられないが,愛する被害者を自分だけのものにしておくためには自らの手で殺害するしかないと思い,殺害を決意した旨主張している。
家庭の破綻を恐れたという検察官の主張について,被告人は,妻と離婚すれば被害者との関係を続けられたにもかかわらず離婚するつもりは全くなく,犯行後もその日から社宅ではなく家族の住む家で生活するようになったのであるから,本件当時,被告人が家族との生活を守りたいという思いを持っていたことは優に認められ,被害者の殺害にあたり,この点を考えていなかったという被告人の供述は信用できず,弁護人の主張も採用できない。他方,会社を解雇されることを恐れたという検察官の主張については,当時の同僚複数名が被告人と被害者の関係を知っており,不倫が上司の知るところとなっても直ちに解雇されるとはいえないことからすれば,この点は動機ではなかったという被告人の供述は信用でき,検察官の同主張は採用できない。
他方,被告人は愛する被害者を自分だけのものにしておきたいという強い思いから犯行に及んだという弁護人の主張については,検察官は,このような動機から犯行に及んだ旨の被告人の供述は合理的でなく信用できない旨主張しているが,被告人は前記のとおり様々な嘘をついてまで被害者との関係を続けようとしており,被害者に相当執着していたことが認められ,犯行後も被害者の遺体を身近な場所に置いていたことからすれば,家庭を守るという目的があったことは前記のとおり認められるが,それとともに被害者を自分だけのものにしておきたかったという被告人の供述を一概に排斥することはできない。
以上のとおり,被告人は,家族との生活を守りたいと考える一方で,被害者を自分だけのものにしておきたいとも考え,そのためには被害者を出産前に殺すしかないとして犯行を決意したものと認められる。
2
主に考慮した事情
被告人は,自らの行為の結果,被害者,家族双方と従前の関係を維持すること
ができない事態を招いた上,そのような事態を打開するため被害者を殺害する以外の手段を何ら検討せずに安易に犯行に至ったものであり,思慮浅薄で極めて身勝手であるといわざるを得ない。
その態様も,当初両手で被害者の頸部を締め付け,被害者が絞り出すような声で「苦しい。」と言うなどして抵抗を示しても翻意することなく10分程度頸部を締め続け,被害者が目を見開き,口が半開きの状態になると,更にその頸部にタオルを巻き付けて10分程度力一杯絞め付けており,強固な確定的殺意に基づく執拗なものである。
被害者は,24歳の若さで,しかも出産予定日をわずか11日後に控えた状態で,突然その命を奪われたものであり,生じた結果は余りにも重大である。被害者は,既に被告人と婚姻したものと信じており,妊娠中の胎児の父親でもあった本来頼るべき相手である被告人に,突然頸部を締め付けられたのであって,その恐怖や衝撃は計り知れず,出産間近の胎児を世に送り出すことなく命を奪われた無念さは察するに余りある。被害者の父母ら遺族は,愛する被害者と共に間もなく産まれるはずであった胎児の命を突然奪われてその遺体を遺棄され,遺体が発見されるまで被害者の身を案じ続けていたのであって,遺族らの受けた精神的衝撃や苦痛が甚大で,その処罰感情が峻烈であるのは当然である。それにもかかわらず,被告人は,遺族に対し,これまで何ら被害弁償等の見るべき措置を講じておらず,今後もその見込みは乏しい。
加えて,被告人は,被害者を殺害した後,被害者の父親らから被告人の犯行を疑われるや,犯行を隠蔽するため,遺体をプラスチックケースに入れて職場の倉庫に運び,遺棄している。また,被害者が生きているように装うため被害者が電子メールを送信した旨偽装したり,警察官による取調べを受けた後逃走するなどしており,犯行後の情状も芳しくない。
3
まとめ
以上の諸点に照らすと,被告人の刑事責任は誠に重く,被告人が逮捕後は犯行
を認め,反省の態度を示していること,前科前歴がなく,これまで社会人として真面目に働いてきたこと,本件後離婚した妻との間に扶養すべき4人の子がいること,被告人の母親と弟が,今後被告人と同居するなどしてその生活を支える旨述べていることなど,被告人のために酌むべき諸事情を十分考慮しても,主文の刑に処するのが相当である。
(求刑

懲役23年)

(国選弁護人

柿沼太一〔主任〕,山口真司)

平成21年6月15日
神戸地方裁判所第2刑事部

裁判長裁判官


裁判官


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中野十哲生嵐浩介田ひろみ
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