判例検索β > 平成21年(わ)第14号
住居侵入、強盗殺人、死体遺棄、邸宅侵入、窃盗被告事件
事件番号平成21(わ)14
事件名住居侵入,強盗殺人,死体遺棄,邸宅侵入,窃盗被告事件
裁判年月日平成21年6月17日
裁判所名・部福島地方裁判所  いわき支部
裁判日:西暦2009-06-17
情報公開日2017-10-13 01:36:36
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主文
被告人を無期懲役に処する
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人は,高校卒業後,東京で就職したものの,約3年半後に勤務していた会社を退職すると,その後は職を転々とし,その間,パチンコなどが原因で借金を重ねた。
平成15年ころ,被告人は,仕事を辞めていったん実家に戻るとともに,両親に頼んで自身の借金約100万円を返済してもらい,その後は,実家に居住して,実父と同じ会社で稼働するなどした。
しかし,両親に隠れて再び借金を重ねるようになった被告人は,職場での人間関係に嫌気がさしていたこともあって,平成16年9月ころ,両親に何も告げずに実家を飛び出すと,その後は,愛知県方面へと向かい,自動車製造工場等において派遣社員等として稼働しながら,借金を返済することもなく,貯金をするわけでもなく,月々の収入をすべて使い切る生活を続けた。
平成20年10月下旬ころ,被告人は,東京方面でより高収入な仕事を探そうと考え,愛知県内での派遣社員の仕事を辞め,2か月分の給与約39万円を所持して東京方面へと向かったが,新しい派遣先でうまく仕事をこなしていけるだろうか,職場の人間関係でうまくやっていけるだろうかなどと不安に思い,就職の面接を受けることなく,東京近郊のウィークリーマンションに居住して無為徒食の生活を送るうち,同年11月10日ころには所持金をほぼ使い果たし,進退窮まり,実家に戻って実母の顔を見たい,実母から援助を受けられるかもしれないなどと考えるようになった。
被告人は,徒歩及び自転車を利用して,野宿をしながら,同月13日ころ福島県いわき市の実家近くへとたどり着いたが,実家が建替工事中であることを知ると,新築の家には自分の部屋など用意されていないと思い,それ以上家族を捜して援助を求めようとする気も起きなくなり,それまでの疲れもあって野宿を嫌い,寝る場所,食料及び金品を得るため,実家近くの空き家に侵入しようと決意した。(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

金品窃取の目的で,平成20年11月13日午後7時ころ,Aが看守する福島県いわき市a町b番地所在の空き家に,南東側サッシ戸の施錠を外して同所内に侵入し,そのころから同年12月16日午後11時ころまでの間,同所内において,
同人管理の玄米約16.
618キログラム時価約4431円相当)

を窃取し,

第2

前記空き家に人が入ってきたことから,同日午後11時ころ,同空き家から逃げ出し,金品窃取の目的で,同日午後11時40分ころ,同市c町d番地所在のB方に,無施錠の東側玄関戸を開けて居宅内に侵入し,そのころから同月23日午後10時30分ころまでの間,
同居宅内において,
同人当時79歳)

所有の鶏の空揚げ2個など22点(時価合計約1212円相当)を窃取し,引き続き,同人のすきを狙って現金等を窃取する目的で,同居宅内に居続け,同月23日午後11時ころ,同居宅2階の布団部屋に入り込んで潜んでいたところを同人に発見されるや,その逮捕を免れるとともに,かねて同人と面識があったことから犯罪が発覚するのをおそれてその罪跡を隠滅するのみならず,同人を殺害して現金等を強取しようと決意し,そのころ,同居宅2階6畳間東側廊下において,殺意を持って,同人に対し,その頚部を腕で強く絞めつけて圧迫し,よって,そのころ,同所において,同人を窒息死させて殺害した上,同居宅内にあった同人所有の現金約1000円及び現金約6080円在中の財布1個など15点(時価合計約1万3282円相当)並びに同居宅敷地内にあった同人所有の現金約1万7805円など在中の自動車1台(時価合計約5万円相当)を強取し,
第3

前記第2の犯行の発覚を防ぐため,同月23日午後11時30分ころ,前記B方2階6畳間において,同人の死体を同所東側廊下から同所南側廊下に引きずり運んだ上,布団等をかぶせて覆うなどし,もって死体を遺棄したものである。

(法令の適用)
被告人の判示第1の所為のうち,邸宅侵入の点は刑法130条前段に,窃盗の点は同法235条に,判示第2の所為のうち,住居侵入の点は同法130条前段に,強盗殺人の点は同法240条後段,236条1項,238条に,判示第3の所為は同法190条にそれぞれ該当するが,判示第1の邸宅侵入と窃盗との間及び判示第2の住居侵入強盗殺人との間には,いずれも手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条によりいずれも1罪として,判示第1については重い窃盗罪の刑で,判示第2については重い強盗殺人罪の刑でそれぞれ処断することとし,判示第1及び第2の各所定刑中判示第1の罪については懲役刑を,判示第2の罪については無期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるが,判示第2の罪について無期懲役に処すべき場合なので,同法46条2項によって他の刑を科さないこととして被告人を無期懲役に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中90日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1
本件は,金銭に窮した被告人が,寝る場所,食料及び金品を求めて空き家に侵入し,同空き家内にあった食料を食べるなどして1か月間以上潜伏し(判示第1の事実)
,同空き家に人が入ってきたことから逃げ出し,次に,直ぐ近くの顔見知りが現に居住している民家に侵入し,同民家内にあった食料を食べるなどして同民家2階布団部屋に潜伏し,
同民家の住人に発見されてつかまりそうになるや,
同人を殺害して逮捕を免れ,証拠を隠滅するとともに,同民家内からさらに金品を盗もうと決意し,両腕で同人の頚部を絞め付けて殺害し,遺体に布団等をかぶせて遺棄した上,食料,財布,自動車等を盗んで逃走した(判示第2及び第3の各事実)住居侵入強盗殺人死体遺棄,邸宅侵入,窃盗の各事案である。2
被告人は,借金を返済することもなく,貯金をするわけでもなく,月々の収入をすべて使い切る生活を続けたり,安易に仕事を辞めた後も新しい派遣先でうまく仕事をこなしていけるだろうかなどと考え就職の面接すら受けようとしないなど,計画性のない生活を続けて金銭に窮し,実家が建て替え中であると知るや家族の居場所を探して援助を求めようとすることもなく,安易に,実家の直ぐ近くの他人が看守する空き家や,顔見知りが住んでいる民家に侵入,潜伏して食料や金品を盗もうとし,さらに,民家に潜伏することの当然の帰結として住人に発見されてつかまりそうになるや,同人を殺害して逮捕を免れ,証拠を隠滅するとともに,さらに金品を強取しようなどと短絡的な考えを抱き,逃げようとした同人の頚部を背後から両腕で執拗に絞め付けて殺害し,犯行の発覚を遅らせるために遺体に布団等をかぶせて隠そうとしたものであり,このような本件各犯行は,被告人の余りに場当たり的,自己中心的かつ短絡的な動機により,被害者の立場を全く無視して敢行されたというほかなく,本件各犯行に至る経緯やその動機に酌量の余地は全くない。

3
本件各犯行のうち邸宅侵入及び窃盗についてみるに,被告人は,空き家のサッシ戸のガラスを破って施錠を外し,同空き家内に侵入して,1か月間以上の長期にわたり潜伏した上,その間,同空き家内の電気炊飯器を使用し,保管されていた玄米を約16キログラムも調理して食べるなど,あたかも,自らの居宅のように振る舞っており,住居侵入についても,現に人が居住している民家の2階に,眠っていた住人の目を盗んで侵入して潜伏し,住人が寝ているすきに1階へ下りて食料を盗み,2階布団部屋へ持ち帰って食べるなどして生活していたものであって,これらは,いずれも,被告人による大胆かつ悪質な手口で行われたといえる。
強盗殺人及び死体遺棄についてみるに,被告人は,逮捕を免れるとともに犯罪の発覚をおそれて,確定的で強固な殺意の下,逃げようとした被害者に追いすがり,背後から抱きついて馬乗りになり,両腕を同人の頚部に巻き付けて同人が動かなくなるまで執拗に絞め続けて殺害し,被害者が完全に死亡したことを確認した上,遺体の両足を持って遺体を廊下の端まで引きずり,布団等をかぶせて遺棄し,その後,殺人を犯した直後であったにもかかわらず同民家内において食料を食べ,財布,時計,印鑑等を盗み,さらに,同民家の外に駐車してあった自動車を運転して逃走したものであり,これらの被告人の一連の行動には,人間性のかけらも感じられず,これらは,冷徹かつ悪質な方法及び態様により行われたというべきである。
本件各犯行後も,被告人は,強取した金員を使用してインターネットカフェ,健康センター,ゲームセンター等で遊ぶなどしており,被告人の本件各犯行後の行動にも,本件各犯行への後悔はみじんも感じられないといわざるを得ない。また,上記空き家及び民家から窃取及び強取された金品も決して少額とはいえず,この点についても軽視することはできない。
4
強盗殺人の被害者は,高齢ながら体も健康であり,親族の実家を守りながら特段の不自由なく余生を過ごしており,自宅2階に潜伏していた被告人を発見した際にも,自身は79歳と高齢であったにもかかわらず,果敢に被告人に立ち向かったものであるが,逆に,柔道の有段者である被告人により,背後から両腕で頚部を絞め付けられ,逃げようとするもかなわず,なすすべもなく殺害された上,遺体を自宅2階の廊下の隅に4日間も放置されたものであって,被害者の死亡という結果の重大性はいうまでもなく,このような仕打ちを受けた被害者の無念さは図り知れない。
さらに,被告人は,現時点においても,本件各犯行の被害者又は遺族に対し,被害弁償及び慰謝の措置を何ら講じておらず,今後,そのような措置が講じられる見込みも乏しい本件では,特に強盗殺人の被害者の遺族の被害感情が苛烈であるのは,当然といえる。
5
本件各犯行後,事件発生が報道され,その事件の内容から平穏な社会生活を営む地元住民を震撼させ,地域社会に大きな影響を与えた点も看過できない。
6
このように,被告人が敢行した本件各犯行の刑事責任は極めて重大である。したがって,本件各犯行に計画性が認められないこと,被告人に前科前歴がなく,当公判廷において反省の弁を述べていること,被告人の実父が今後の監督を誓っていることなど被告人のために酌むべき事情を最大限に考慮しても,被告人を,主文のとおり無期懲役に処し,長く贖罪の生活を送らせ,自らの刑事責任を全うさせることが相当であると判断した。

(求刑

無期懲役)

平成21年6月17日
福島地方裁判所いわき支部

裁判長裁判官

高原
裁判官

鈴木清志
裁判官

高倉文彦章
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