判例検索β > 平成16年(ワ)第27670号
損害賠償等請求事件(通称 鉄道建設・運輸施設整備支援機構職員再就職差別損害賠償)
事件番号平成16(ワ)27670
事件名損害賠償等請求事件(通称 鉄道建設・運輸施設整備支援機構職員再就職差別損害賠償)
裁判年月日平成20年1月23日
裁判所名東京地方裁判所
分野労働
裁判日:西暦2008-01-23
情報公開日2017-10-19 19:06:18
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主1文
被告は,原告らに対し,それぞれ550万円及びこれに対する昭和62年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は,これを10分し,その1を被告の負担とし,その余は原告らの負担とする。

4
この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1

請求
被告は,原告らに対し,それぞれ5500万円及びこれに対する昭和62年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要
原告らただし,

原告P1,
同P2及び亡P3訴訟承継人原告P4を除く。,

亡P5,亡P6及び訴訟被承継人亡P3(以下,併せて原告等という。は,)
日本国有鉄道(以下国鉄という。に勤務し,かつ,全国鉄動力車労働組合)

(現日本建設交運一般労働組合全国鉄道本部。以下全動労という。に所属)
していた者である。
また,
原告P1,
同P2及び亡P3訴訟承継人原告P4は,
上記亡P5,亡P6及び訴訟被承継人亡P3(以下亡P3という。の相続)
人である。
原告等は,昭和62年4月のいわゆる国鉄の分割・民営化の際,国鉄の事業の一部を引き継いだ北海道旅客鉄道株式会社(以下JR北海道という。ない)
し日本貨物鉄道株式会社(以下JR貨物という。また,JR北海道と併せてJR北海道等という。への採用を希望したが,

原告等は日本国有鉄道改革法(以
下改革法という。23条2項所定の職員となるべき者の名簿に記載されな)
かったため(以下本件不選定という。,JR北海道等に採用されなかった。)
本件は,原告らが国鉄の権利義務を承継した被告に対して,国鉄による本件
不選定が憲法28条,労働組合法(以下労組法という。7条1号,3号に)
反する違法行為であるとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき損害賠償等の支払を求める事案である。
1
前提となる事実(後掲の証拠によるもののほかは,当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により認められる。

(1)

当事者等
被告
(ア)

国鉄は,昭和24年に,国が経営していた鉄道事業及びその附帯事
業の経営等の引き継ぎを目的として設立された公共企業体であるが(日本国有鉄道法2条,3条)国鉄の分割・民営化に伴い,昭和62年4月,
1日,改革法15条及び日本国有鉄道清算事業団法(以下事業団法という。15条,附則2条により,国鉄清算事業団(以下事業団と)
いう。
)に移行した。
(イ)

事業団は,昭和62年4月1日,改革法に定める国鉄改革の実施に
伴い,旅客鉄道会社及び貨物鉄道会社の7の株式会社及び新幹線鉄道保有機構等の4の法人これら11法人等を合わせて承継法人」

という。)による国鉄からの事業等の引継ぎ並びにその権利及び業務の承継等の後において,国鉄の長期債務その他の債務の償還,国鉄の土地その他の処分等を行うほか,臨時に事業団職員のうち再就職を必要とする者についての再就職の促進を図るための業務を目的として,事業団法に基づいて設立された法人である。そして,事業団は,平成10年10月22日解散し,事業団法47条,日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律2条1項により,政府が承継する債務以外の事業団の一切の権利義務は,日本国有鉄道建設公団(以下「鉄建公団という。に承継され)
た(同法附則2条1項)

(ウ)

平成15年10月1日,鉄建公団は,独立行政法人鉄道建設・運輸
施設整備支援機構法附則2条1項により解散し,
その一切の権利義務は,
国が承継する資産を除き,被告に承継された。

原告
(ア)

原告等は,昭和62年3月31日まで国鉄の職員であったが,国鉄
の分割・民営化に伴い,昭和62年4月1日,事業団の職員となった。また,原告等は,事業団において,日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法(以下再就職促進法という。14条1項,事業団法1条2項所定の再就職を)必要とする者清算事業団職員)に指定されたが,平成2年3月31日(
までに再就職先が決定しなかったため,事業団は,同年4月1日付けで原告等を解雇した。
(イ)

亡P5,亡P6及び亡P3は下記の日に死亡し,下記の相続人が本
件に係る地位を相続した。甲6の1,2,3の1∼4,甲7の1,2,(
3の1∼4)

死亡日

相続人

亡P5

原告P1

亡P6

平成▲年▲月▲日

原告P2

亡P3

平成▲年▲月▲日

平成▲年▲月▲日

訴訟承継人原告P4

JR北海道等
JR北海道等は,国鉄の分割・民営化に伴って設立された株式会社である
(改革法6条2項)すなわち,JR北海道は,主として北海道地区における。
旅客鉄道事業及びこれに附帯する事業を目的とする株式会社であり(改革法6条2項,旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律1条1項)また,

JR貨物は貨物鉄道事業及びこれに附帯する事業を経営する
ことを目的とする株式会社であって(改革法8条,旅客鉄道株式会社及び
日本貨物鉄道株式会社に関する法律1条2項)いずれも,国鉄が経営して,
いた北海道地区にかかる旅客鉄道事業ないし貨物鉄道事業を引き継いだものである。

国鉄における労働組合
(ア)

全動労は,昭和49年3月に,国鉄職員のうち,機関車,電車,気
動車その他動力車に関係のある職務に従事する者により結成された労働組合であり,同62年4月1日以降は承継法人の社員,事業団の職員等で組織されている労働組合である。
(甲11,原告P7)
そして,原告等は国鉄勤務当時から全動労に所属していた。
(イ)

国鉄当時,
その職員等で組織する労働組合としては,
全動労のほか,

昭和24年に結成された国鉄労働組合(以下国労という。,同26)
年に結成された国鉄動力車労働組合(以下動労という。,同43年)
10月に結成された鉄道労働組合(以下鉄労という。,同46年4)
月に結成された全国鉄施設労働組合(以下全施労という。等の労働)
組合が存在した。
そして,国鉄分割・民営化の前年である昭和61年から国鉄における各労働組合の結成,連合が活発となり,昭和61年4月には真国鉄労働組合(以下真国労という。が結成され,また,同年7月16日には,)
動労,鉄労,全施労及び真国労が,国鉄改革労働組合協議会(以下改革労協という。を結成した。さらに,同年12月には全施労,真国労)
等が統合して日本鉄道労働組合(以下日鉄労という。が結成され,)
国鉄の分割・民営化直前の昭和62年2月には,動労,鉄労及び日鉄労等が統合して,
全日本鉄道労働組合総連合会以下鉄道労連」

という。)が結成された。加えて,国労を脱退した組合員らは,昭和62年1月以降,各地区等を単位として鉄道産業労働組合(北海道地区では北海道鉄道産業労働組合である。を結成し,これらの鉄道産業労働組合は,同年2月28日,)全国組織として日本鉄道産業労働組合総連合(以下「鉄産労という。)
を結成した。

(2)

国鉄改革の経緯等


臨時行政調査会と答申
国鉄は,
昭和39年度に欠損を生じて以来,
経営は悪化の一途をたどり,
同55年度までの間,数度にわたり経営再建計画を実施したものの経営状態は改善されず,昭和55年ころから,国鉄の膨大な赤字が大きな政治問題となった。
このような中,昭和56年3月16日に発足した第2次臨時行政調査会
(以下臨調という。は,昭和57年7月30日,内閣に対し,①5年)
以内の国鉄の分割・民営化,②国鉄再建に取り組むための推進機関の設置等の提言を含む行政改革に関する第3次答申-基本答申-乙1)を答(
申し,政府は,上記答申を受けて,これを最大限に尊重して,所要の措置を講ずることとした。
(乙1,8,5の3)


日本国有鉄道再建監理委員会の発足と国鉄改革に関する審議
(ア)

昭和58年5月,日本国有鉄道の経営する事業の再建の推進に関す
る臨時措置法以下臨時措置法」

という。が成立し,)同年6月10日,上記ア,②の推進機関として,日本国有鉄道再建監理委員会(以下「監理委員会

という。)が設置された。
(乙8)
(イ)

監理委員会は,以後,国鉄の経営する事業に関する効率的な経営形
態の確立等の事項につき審議を重ねたが,昭和58年8月2日及び昭和59年8月10日,同委員会は国鉄事業の具体的な再建案の基本的な方向性についての認識と改革の円滑な実施を図るため現段階から措置すべき事項についての意見等をまとめ,日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために緊急に講ずべき措置の基本的実施方針について乙6。(

以下第1次意見という。及び日本国有鉄道の経営する事業の運営)の改善のために緊急に講ずべき措置の基本的実施方針(第2次)について(乙7。以下第2次意見という。
)を公にした。そして,これら
文書には,当面緊急に措置すべき事項」として,大幅な所定要員の縮減等のほか,職員の意識,職場規律につき,要旨下記のとおり記されている。記〔第1次意見〕①国鉄は今や厳しい競争下に置かれた一個の企業体であり,本来,全役職員は,常に周囲の環境に注意をはらいつつ経営改善のため最大限の努力をすべきであり,特に,現在の経営状態からみれば,自己の職責の範囲内で少しでも赤字を減らそうとする意識を持って業務の遂行に当たることが国鉄事業再建の基本である。②一般職員においては,国鉄は本質的にサービスを主体とする事業であって,日々の利用者なしには自らの生活を維持することもできないということを深く認識するとともに,社会的に重要な仕事に携わっている職業人としての自覚と誇りを持つべきであり,国鉄当局としては,このような観点からの教育をさらに充実する必要がある。③職場規律は,およそ組織体が円滑に運営されていくための基盤であり,ここに乱れがあるという状態では,国鉄事業の再建は到底おぼつかない。よって,職場規律の確立については,現在行われている措置を着実に推進するとともに,幹部職員が積極的に現場と接触するほか定期的な総点検を行うこと等により早急に組織全体への浸透を図るべきである。〔第2次意見〕①職場規律の確立は,企業存立の基盤であるということを改めて認識し,今後とも不断の改善努力を続けることによって組織全体への浸透を図っていく必要があるが,特に最近の総点検の結果を見ると,改善の遅れている問題職場が特定化されつつあるので,これらに対しては重点的な指導を行い,その改善の促進を図るべきである。②国鉄当局は,一般職員に対する職業人としての自覚の保持とコスト意識の喚起を目指した教育を充実すること等により,企業への帰属意識と職場改善意欲の高揚を図るとともに,現場における技術上の知識が円滑に承継される素地を形成する必要がある。(ウ)昭和60年7月26日,監理委員会は内閣総理大臣に対し,最終答申「国鉄改革に関する意見-鉄道の未来を拓くために-を提出した。(

その最終答申のうち,本件に関連する部分を摘示すると,要旨下記のとおりである。
(乙8)



国鉄経営の破綻原因は公社という制度の下で巨大組織による全国一元的な運営を行ってきたことにあり,現行制度における再建はもはや不可能である。国鉄事業を再生させるためには昭和62年4月1日を期して分割・民営化を断行するしか道はない。



国鉄改革の具体的方法は次のとおりである。
i
国鉄の旅客鉄道部門を北海道,東日本,東海,西日本,四国,九州の6旅客鉄道会社に分割等する。

ii

昭和62年度における旅客鉄道事業を遂行するための適正要員規
模を15万8000名とみて,これにバス事業,貨物部門,研究所等で必要な2万5000名を加えて,全体の適正要員規模を18万3000名と推計し,これに6旅客鉄道会社の適正要員の2割程度の約3万2000名を上乗せした21万5000名を新事業体発足時の要員規模とする。

iii

同年4月時点で見込まれる約9万3000名の余剰人員のうち,

上記iiの適正要員に上乗せした約3万2000名を除いた約6万1000名については,新事業体移行前に約2万名の希望退職を募集し,残りの約4万1000名を再就職のための対策を必要とする職員として国鉄の清算法人的組織に所属させ,3年間で転職させる。③

余剰人員については,その全員を新事業体に移籍することも考えられるが,その場合には,新事業体の健全経営の基盤が崩れることになりかねないので,このような方法はとることができず,また,移行時までに余剰人員を解雇することにより移行後に余剰人員を持ち越さないこととすることも考えられるが,現在の社会的な雇用慣行,特に公的部門の慣行や余剰人員の規模が大きく,これによる場合は社会的に深刻な問題を引き起こしかねないことから,このような方法もとることができない。したがって,余剰人員の問題を一括して一つの方法で解決するのではなく,移行前に希望退職募集等によりできるだけその数を減らし,移行時には旅客鉄道会社に経営の過重な負担とならない限度において余剰人員の一部を移籍し,その他は旧国鉄の所属とした上,一定の期間内に集中的に対策を講じて全員が再就職できるよう万全を期することが適切である。


国鉄改革関連法案の提出及び成立
昭和60年10月11日,
上記イ,
(ウ)の監理委員会最終答申を受けて,
政府は国鉄改革のための基本的方針を公表して,国鉄の分割・民営化の基本方針を明らかにした上で,昭和61年2月12日に日本国有鉄道経営改善緊急特別措置法の法案を,また,同年3月3日に改革法,旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律,
新幹線鉄道保有機構法,
事業団法,再就職促進法の各法案を,さらに,同月18日に鉄道事業法,改革法等施行法,地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に
関する法律の一部を改正する法律(以下,以上8の法律を併せて国鉄改革関連8法という。の各法案を,

それぞれ第104回国会に提出したが,
衆議院解散によりいったんこれらの法案は廃案となった。乙14,15の(
1,2,19)
そして,政府は,昭和61年9月11日,第107回国会に上記国鉄改革関連8法の法案を再提出し,同法案は,いずれも同年11月28日に成立し,同年12月4日に公布された。
(乙17∼19)
なお,昭和61年11月28日,国鉄改革関連8法の法案を採決した参議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会は,同法案を可決するとともに各旅客鉄道株式会社等における職員の採用基準及び選定方法については,客観的かつ公正なものとするよう配慮するとともに,本人の希望を尊重し,所属労働組合等による差別等が行われることのないよう特段の留意をすることとの項目を含めた13の事項につき附帯決議した。(甲67の8)

改革法等の内容(要旨)
以上の経緯を経て,国鉄改革関連8法は成立したが,本件に関連する限度で,その内容を概説すると次のとおりである。
(ア)

改革法は,国鉄による鉄道事業等の経営が破綻し,公共企業体によ
る全国一元的経営体制の下においてはその事業の適切かつ健全な運営を確保することが困難になっている事態に対処するため,国鉄改革に関する基本的な枠組みを定める法律であるところ,同法が定める国鉄改革の枠組みの骨子は,①国鉄の旅客鉄道事業を分割してJR北海道ほか5社を設立して,これらに引き継がせる(6条)②国鉄の貨物鉄道事業を旅客,
鉄道事業から分離し,JR貨物を設立してこれに引き継がせる(8条)③,
運輸大臣は,国鉄の事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画を定め,国鉄は,基本計画に従って承継法人ごとにその事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継に関する実施計画を作成し,運輸
大臣の認可を受ける(19条)④認可を受けた実施計画の定めに従い,,
承継法人の成立の時において,承継法人に事業等が引き継がれ,権利及び義務が承継される(21条,22条)⑤国は,国鉄が承継法人に事業,
等を引き継いだときは,国鉄を事業団に移行させ,承継法人に承継されない資産,債務等を処理するための事業等を事業団に行わせる,というものである。
(イ)

承継法人の職員につき,改革法23条は下記の趣旨を定めており,
国鉄の職員を直ちに承継するのではなく,承継法人において,国鉄職員の中から職員を新規採用するものとしている。

(1項)

承継法人の設立委員は,国鉄を通じ,その職員に対し,それ
ぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示
して,職員の募集を行う。

(2項)

国鉄は,前項によりその職員に対し労働条件及び採用の基準
が提示されたときは,承継法人の職員となることに関する国鉄
の職員の意思を確認し,承継法人別に,その職員となる意思を
表示した者の中から当該承継法人に係る前項の採用の基準に従
い,その職員となるべき者を選定し,その名簿(以下採用候補者名簿という。)を作成して設立委員に提出する。

(3項)

採用候補者名簿に記載された国鉄の職員のうち,設立委員か
ら採用する旨の通知を受けた者であって,昭和62年4月1日
に国鉄の職員であるものは,承継法人の成立時(同日)におい
て,当該承継法人の職員として採用される。

(5項)

承継法人の職員の採用について,当該承継法人の設立委員が
した行為及び当該承継法人の設立委員に対してなされた行為
は,それぞれ,当該承継法人がした行為及び当該承継法人に対

してなされた行為とする。
(ウ)

また,旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律附
則2条は,運輸大臣は,JR北海道ほかの旅客鉄道株式会社及びJR貨物ごとに設立委員を命じ,当該会社の設立に関しては発起人の職務を行わせる旨を1項)設立委員は,


同項及び改革法23条に定めるもののほか,
当該会社が設立の時において事業を円滑に開始するために必要な業務を行うことができる旨を(2項)
,それぞれ定めている。
(3)

本件選定に至る経緯
設立委員の任命と基本計画の策定
運輸大臣は,昭和61年12月4日,旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律附則2条1項(前記(2),エ(ウ))により,JR北海道等の設立委員として,承継法人に共通する設立委員16名とJR北海道及びJR貨物それぞれの固有の設立委員として2名を任命した。また,運輸大臣は,同月16日,改革法19条1項所定の手続を経て,日本国有鉄道の事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画以下本(件基本計画という。を定め,国鉄職員のうち承継法人の職員となる者の)
総数を21万5000名とし,うちJR北海道の職員数を1万3000名,JR貨物の職員数を1万2500名と定めた(甲52参照)



採用候補者の選定及び名簿の作成並びに採用者の決定
(ア)

承継法人の設立委員により組織された合同の第1回設立委員会が,
昭和61年12月11日開催され,同会では国鉄改革の下記のスケジュールが確認された上,承継法人の職員の労働条件についての基本的な考え方や,承継法人共通の採用基準が決定された。
(乙19)

(昭和61年12月)
設立委員が承継法人の労働条件及び採用基準を決定して国鉄に通知す
る。
(昭和61年12月から同62年1月まで)
国鉄は職員の配属希望調査を行い,これを集計・分析・調整する。(昭和62年2月)
国鉄は採用候補者名簿を作成して設立委員に提出し,設立委員は,職員を選考して採用者を決定する。
(昭和62年3月)
設立委員は承継法人での配属を決定して国鉄に内示し,国鉄はこれによって配転計画を策定して異動の発令を行う。
(イ)

そして,昭和61年12月19日に開催された合同の第2回設立委
員会において承継法人の労働条件の細部が決定され,この労働条件と併せて承継法人共通の採用基準が国鉄に提示されたことから,
同月24日,
JR北海道等の採用基準が国鉄職員に通知された。その内容は要旨下記のとおりである(なお,JR北海道等の採用基準には各社に固有の採用基準も存するが,本件の判断には影響を及ぼさないので省略する。。
)(乙1
9,42,43)




昭和61年度末において年齢満55歳未満であること。
(医師を除
く。




職務遂行に支障のない健康状態であること。



国鉄在職中の勤務の状況からみて,JR各社の業務にふさわしい者であること。なお,勤務の状況については,職務に関する知識技能及び適性,日常の勤務に関する実績等を国鉄における既存の資料に基づき,総合的かつ公正に判断すること。



退職前提の休職
(日本国有鉄道就業規則62条(3)ア)が発令さ
れていないこと。



退職を希望する職員である旨の認定を受けていないこと。



国鉄において再就職の斡旋を受け,再就職先から昭和65年度(平成2年度)当初までの間に採用を予定する旨の通知を受けていないこと。

(ウ)

上記採用基準を職員に通知した昭和61年12月24日,国鉄は,
同基準に該当しないことが明白な者を除く職員約23万0400名に対し,承継法人の労働条件,採用基準を記載した書面及び承継法人の職員となる意思を表明する意思確認書の用紙を配布し,同62年1月7日正午までに提出するよう指示したところ,期限までに,国鉄職員のうち22万7600名が意思確認書を提出した。その結果は,21万9340名が承継法人への就職を希望し,第2希望以下の複数の承継法人名を記載している者を含めた就職申込総数は延べ52万5720名であり,このうち,JR北海道への就職申込総数は延べ2万3710名,JR貨物への就職申込総数は延べ9万4400名であった。
(乙40,44)
原告等は,いずれも,意思確認書にJR北海道ないしJR貨物での就職を希望する旨記載して提出した。
(エ)

昭和62年2月7日,国鉄は,承継法人の設立委員に対し,改革法
23条2項所定の採用候補者名簿を提出した。同名簿に記載された職員数は,全体数としては,本件基本計画所定の職員数を9414名下回る20万5586名であり,このうち,JR北海道に係る採用候補者名簿に記載された職員数は基本計画と同数の1万3000名,また,JR貨物に係るそれは基本計画を211名下回る1万2289名であった(以下,JR北海道等に係る採用候補者名簿を本件名簿という。。そして,合)
同の第3回設立委員会が,昭和62年2月12日に開催され,同委員会は,国鉄から選定作業結果等の説明を受けた上,採用候補者名簿に記載された職員全員を当該承継法人に採用することを決定した。しかし,原
告等は,そもそも,本件名簿に採用候補者として記載されていなかったため,JR北海道等に採用されなかった(以下本件不採用という。。)
なお,北海道地区では,承継法人への就職を希望したものの,同会社に採用されなかった国鉄職員の数は4700名に達した。乙49,50)(
(4)

本件不採用後の経緯
以上の経緯を経て,昭和62年4月1日,JR北海道は国鉄から北海道地区における旅客鉄道事業を,また,JR貨物は国鉄から貨物鉄道事業をそれぞれ引き継いで発足し,他方,国鉄は事業団へと移行した。そして,承継法人に採用されなかった原告等を含む国鉄職員は,同日をもって,事業団職員となり,再就職促進法に基づき再就職促進対策が図られることとなったが,原告等は,平成2年3月になっても再就職が未定のままであったため,事業団は,平成2年3月20日,原告等を含む再就職未定者1406名(北海道693名,本州・四国56名,九州657名)に対し,解雇予告を通知した上で,同年4月1日,原告等を含む1047名を解雇した。

また,昭和62年,全動労及び全動労北海道地方本部は,北海道地方労働委員会(現北海道労働委員会。以下道労委という。に対し,①JR北)
海道等の採用候補者選定及び本件名簿作成の過程で,国鉄は労組法7条1号,3号に該当する差別的取扱いを行った,②国鉄とJR北海道等は実質的に同一であり,国鉄のした不当労働行為につき責任を負うなどとして,JR北海道等を被申立人として,労組法所定の救済を申し立てた(昭和62年道委不第28号。以下本件救済申立てという。。そして,平成元年3)
月20日,道労委は,全動労の上記主張を概ね認めて,JR北海道等に対して,全動労の組合員(原告等も含む。を社員として採用したものとして取)
り扱わなければならないとの命令及びバックペイ命令等を発した。そして,
JR北海道等は,同命令を不服として,中央労働委員会(以下中労委という。に再審査を申し立てたところ,中労委は,道労委が命じた救済の方)

法を改めて,採用選考手続のやり直し等を命じたものの,不当労働行為の成立につき道労委の判断を是認した。
(甲1,2)
しかし,上記中労委命令は,JR北海道等が当庁に提起した取消訴訟において取り消され,同判決は,中労委の上告受理申立てに係る最高裁平成15年12月22日第一小法廷判決が言い渡されたことにより確定した。甲(
3∼5)
ウ2
そして,
平成16年12月27日,
原告らは当庁に本件訴えを提起した。

争点
(1)

本件不選定が不法行為に該当するか否か。

(2)

損害額

(3)

原告らが被告に対して有する損害賠償請求権は,
民法724条前段により

時効消滅したか否か。より具体的には,本件において,損害及び加害者を知った時はいつの時点となるか。
(4)

被告が消滅時効を援用することは,信義誠実の原則(民法1条2項)に反
するものとして,ないしは,権利を濫用するもの(民法1条3項)として許されないか否か。
3
争点に対する当事者の主張
(1)

争点(1)及び争点(2)・本件不選定の不法行為該当性及び損害額について
(原告らの主張)

国鉄による本件不選定が,原告等が全動労の組合員であったことを理由とするものであったことは,次の各事情より明らかである。
(ア)

国鉄は,国鉄改革に協力的であった動労などの労働組合と極めて友
好的な関係を築いていたのに対し,これに反対していた全動労などの労働組合とは対決姿勢を強めていた。そして,このような国鉄の態度は,国鉄の分割・民営化前における国鉄職員の処遇にも明らかに影響を及ぼしていた。例えば,①国鉄は昭和61年7月から人材活用センター(以
下人活センターという。を設置し,同センターへ配置した職員に,)
車両清掃や草むしり,文鎮造りなど,国鉄職員が通常,担当する業務に比すると極めて異質な作業に従事させたところ,同センターへ配置された職員の多くは,国鉄改革に反対していた全動労や国労などの組合員であった。また,②国鉄は国鉄の分割・民営化に向けた職員配置を進めていたところ,昭和61年には,国鉄の分割・民営化により,規模の縮小が見込まれた職場に配置されていた動労組合員多数を突如,旅客・貨物輸送の要衝基地であった苗穂機関区に異動させるなどして,動労組合員につき,承継法人への採用を容易にする措置を講ずるなどし,結局,これらの動労組合員は,全員が承継法人に採用された。このように,国鉄の分割・民営化の前から,国鉄は国鉄改革に協力的な労働組合を優遇していたのに対し,これに反対する労働組合を冷遇していた。
(イ)

また,国鉄による採用候補者の選定結果である,承継法人の職員の
採用結果をみると,
動労などの国鉄改革に協力的な労働組合については,
就職希望者のほとんどが希望した承継法人(JR北海道等)に採用され,その採用率(採用希望者数に占める採用者の割合)はほぼ100%に達している。他方で,全動労の多くは,就職を希望してもJR北海道等には採用されず,その採用率は約28%にとどまっている。加えて,昭和61年ころから,少なからぬ数の組合員が全動労を脱退したが,これらの脱退者の多くは動労などに加入して,ほぼ全員がJR北海道等を含めた承継法人に採用されている。
そして,承継法人への就職を果たした動労組合員には,明らかに,勤務の状況に問題がある者,素行不良者が多数含まれていたのに対し,原告等は平均的な国鉄職員の勤務能力・態度と比べても何ら劣るところはないにもかかわらず,承継法人に採用されなかった。
(ウ)

以上によれば,JR北海道等の採用候補者の選定及び本件名簿の作成
過程において,労働組合への所属関係が,その選定判断に影響を及ぼしていたことは明らかである。

以上のとおり,国鉄は,JR北海道等に係る採用候補者の選定において,国鉄職員の労働組合への所属関係に着目して,その所属いかんにより差別的に取り扱っていたのであるから,本件不選定もまた,このような差別的意思の下でされたことは明らかである。したがって,本件不選定は労組法7条1号,3号で禁じられた不当労働行為として違法であり,民法上の不法行為を構成する。


そして,本件不選定が存しなければ,原告等が本件名簿に記載され,JR北海道等に採用されたことは確実であった。そのため,原告等は本来得られたであろうはずの賃金(JR北海道等で定年まで勤務することにより得られたであろう賃金や一時金)退職金及び各種年金を得ることができなくな,
ったところ,この原告等ごとの得べかりし利益を合理的に計算し,かつ,これから,原告等が事業団在職中に得た賃金や退職金,現況の各種年金の支給額を控除した結果は,別表1損害額一覧表の賃金差額退職,金差額年金差額欄記載のとおりである。,
また,本件不選定により原告等は多大な精神的損害を被ったが,その金額は2000万円を下らない。
そして,
以上の原告等ないし原告らごとの各損害額の総計は別表1の合
計欄記載のとおりとなる。


よって,原告らは被告に対し,それぞれ,上記の合計金額の内金5000万円及び弁護士費用として500万円(損害合計5500万円)の支払を求める。

(被告の主張)
否認ないし争う。

各労働組合ごとの採用率の相違から組合差別の存在を根拠付けるという
手法は大量観察方式によるものといえるが,そもそも,大量観察方式を用いる場合には,比較対象集団の比較が可能となるべき前提条件,すなわち,比較対象集団の等質性・均一性が立証されなければならない。ところが,本件では,この比較対象集団の等質性・均一性は何ら立証されていないのであるから,本件において,原告ら主張の手法を用いて組合差別の有無を判断するのは適切でない。
イ(ア)

国鉄の分割・民営化が国策として推し進められる中,国鉄はこれに
向けた各種施策を講じてきたが,全動労は,国鉄が置かれた厳しい状況を理解しようとしないまま,国鉄改革そのもの,また,これに向けた諸施策にことごとく反対していたばかりか,違法な争議行為や労働組合活動を展開して,これを妨害しようとした。そして,原告等も全動労の上記方針に追随して,国鉄の経営施策等に対して反対・非協力的態度をとり,勤務時間中のワッペン闘争などの就業規則違反行為などを行った。他方,動労等は,国鉄の分割・民営化を受け入れてこれに協力し,国鉄改革を進める原動力の一つとなった。
(イ)

このように,全動労などの国鉄改革に反対する労働組合と動労など
の国鉄改革に理解を示し協力的な対応をした労働組合とでは,当時の国鉄の置かれていた厳しい状況を良く理解して,国鉄における勤務に精励していたか否かという点において,対応が分かれていたところ,かかる労働組合ごとの対応の差異は各所属組合員の現実的な行動として現れていたから,これを各職員の勤務評定において反映させるのは合理的であって,何ら,当該職員の思想を理由とする差別ではない。すなわち,国鉄が実施した諸施策に協力的な行動をとる職員は,民営化後の承継法人の職員としてよりふさわしいとの評価を受け,そうでない職員が上記のような職員と比べて劣位に評価されることもやむを得ないというほかない。

このように,全動労組合員の採用率が相対的に低くなったのは,以上のような動労などの組合員と全動労組合員との勤務態度が反映された結果によるものであって,組合所属を理由とするものではない。したがって,本件不選定は所属労働組合のいかんを理由とする差別取扱いではないから,これが民法上の不法行為となることはない。

原告等が就職を希望したJR北海道等は,採用希望者数が採用定員を大きく上回っていたため,国鉄の分割・民営化に協力的な労働組合所属の職員であっても,希望どおりにJR北海道等に採用され得る状況にはなかった。よって,仮に,本件不選定がなかったとしても,原告等全員がJR北海道等に採用されるということはあり得なかった。
なお,本件と同様,採用候補者名簿作成過程での労働組合の所属関係を理由とする差別的取扱いの有無が問題となった東京地方裁判所平成17年9月15日判決は,名簿を作成するに際し,国鉄から違法に不利益取扱いを受けたことで,正当な評価を受けるという期待権の侵害が認められると判断しているが,このような理論構成は,これまで判例・裁判例等で展開されてきた期待権又は期待可能利益の侵害の理論から大きく逸脱するものであり,法的根拠を欠くというほかない。


(2)

原告等に損害が生じたとの主張は争う。
争点(3)・消滅時効について

(被告の主張)
ア(ア)

昭和61年2月16日にされた承継法人による採用通知の発出直後
から,全動労は,その所属組合員が差別されたとの見解の下,国鉄の責任をJR北海道等が負担すると主張して,道労委に本件救済申立てをしていたことは前提となる事実(4),イのとおりである。また,原告等は昭和61年2月16日にJR北海道等からの採用通知を受けず,同年3月18日以降に再就職を必要とする職員に指定」
された旨の事前通知を受け,次いで,同年4月1日には,事業団職員となったのであるから,遅くとも,昭和62年4月2日の時点では,本件名簿に記載されなかったため,本件不採用になったことは認識していたといえる。(イ)このように,遅くとも昭和62年4月の時点で,原告等は,本件不選定が組合差別によるものであること,また,これが国鉄によるものであることを認識していたのであるから,原告等が国鉄ないしは事業団)(に対して本件不選定を理由とする損害賠償を請求することに何ら支障はなかった。また,全動労がJR北海道等に対して不当労働行為責任を追及していたからといって,原告等の国鉄(ないし事業団)に対する損害賠償請求は何ら影響を受けないのである。(ウ)以上によれば,原告らの本件損害賠償請求権の消滅時効の起算点は遅くとも,昭和62年4月2日であったといえる。イ原告らは,本件損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,全動労がJR北海道等に対する不当労働行為責任を追及していたことを理由として,労働委員会命令についての取消訴訟が確定した平成15年12月22日(前提となる事実(4),イの最高裁判決の言渡し日)であると主張するが,JR北海道等の不当労働行為責任の追及と,国鉄(ないし事業団)に対する責任追及は全く別個のものであるから,この点は,本件損害賠償請求権の消滅時効の起算点の判断を何ら左右しない。ウ上記のとおり,本件訴えは,原告等が加害者及び損害を知った時から既に3年以上を経過して提起されたものであることは明らかである。そこで,被告は,平成17年5月18日の口頭弁論期日において,被告は本件損害賠償請求権につき時効を援用するとの意思表示をした。よって,本件損害賠償請求権は時効により消滅した。(原告ら)原告らが,本件において不法行為と措定するのは,国鉄による本件不選定であるところ,原告等はこれをJR北海道等に対して不当労働行為責任を問うことによりこれを追求し,道労委及び中労委はこれを認めて救済命令を発していた。しかし,JR北海道等はこのような公定力ある救済命令を無視して,自らは労組法上の「使用者に該当しないとして,その取消しを求める訴えを提起し,これに従わなかった。そして,このような状況の下で,原告等が国鉄(ないし事業団)に対する責任追及を行うことは,実質的にみて,JR北海道等への原職復帰と矛盾するものとなり,自己の主張を撤回するに等しいものとなるため,上記救済命令の取消訴訟が確定した平成15年12月22日までの間に,原告等が国鉄(ないし事業団)に対する損害賠償を請求することは期待できない状況にあった。したがって,原告等が本件損害賠償請求権につき損害及び加害者を知ったといえるのは,本件不選定に係る不当労働行為責任がJR北海道等にはないことが確定した平成15年12月22日にほかならない。
そして,本件訴えは,前提となる事実(4),ウのとおり,上記起算点から3年以内にされた。
(3)

争点(4)・被告による消滅時効の援用の可否について

(原告らの主張)
改革法23条の定め(前提となる事実(2),エ(イ))では,国鉄による不当労働行為の責任を承継法人と国鉄(ないしは事業団)のいずれが負うかが極めて不明瞭な形で示されており,また,国鉄改革関連8法の審議において,当時の運輸大臣も,採用候補者名簿の作成などについては,国鉄が設立委員の補助者として行う行為であるから,国鉄当局が国鉄の組合と団体交渉する立場にはない旨答弁した。そのため,原告等を含めた全動労組合員は,本件不選定につき,JR北海道等に対する不当労働行為責任を追及したのである。このように,改革法の仕組みやこれを前提とする政府関係者の発言などにより,原告等ないし原告らの権利行使は著しく妨害されたのであるから,仮
に,本件損害賠償請求権の時効消滅期間が経過していたとしても,被告が,消滅時効を援用することは信義則違反,権利の濫用に当たり,許されない。(被告の主張)
争う。
第3
1
当裁判所の判断
認定した事実
前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件につき次の事実が認められる。
(1)

臨調発足後から昭和60年までの国鉄における労使関係事情
臨調の第3次答申を契機として,その答申内容に沿った国鉄改革関連8法が成立し,同62年4月に国鉄は分割・民営化されるに至ったが(前提となる事実(2),(3))全動労は,かかる国鉄改革につき,当初から,①不,
採算線区の廃止につながるなど,公共の交通機関の役割を果たせなくなるとともに安全性・サービスの低下をもたらすおそれがあること,②労働条件が低下するだけでなく,多数の国鉄職員が職場を失うことになるなどを理由として反対の立場を表明していた。甲11,33,83,乙96,1(
30,135,139,弁論の全趣旨)

イ(ア)

ところで,臨調が発足した昭和56年から昭和57年3月ころまで
の間に,①寝台列車の検査係職員が,実際に乗務していないにもかかわらず,乗務手当の支給を受けていたなど,労働実態を伴わない手当の支給(いわゆるヤミ手当である。が恒常的に行われていた問題,②国)
鉄職員が勤務の当日になって突然,休暇をとり(突発休」ないしポカ「休と呼称される。,しかも,それが年次有給休暇として処理されてい)
た問題,③勤務時間中の入浴などといった国鉄職員の問題のある勤務態度等や,国鉄の職場の荒廃状況が次々と明らかになった。また,この過程で,国鉄が各労働組合との協定により実施していた現場協議制(国鉄
は,国労等の労働組合と現場協議に関する協約(以下現場協議協約という。を締結して,職場における諸問題を現場労使間で協議すること)
としていた(乙79参照))を軸とした労使関係が上記のような職員の。
勤務態度や職場荒廃の一因となっていると指摘されたこともあり,国鉄の労使関係に社会的な批判が集中するようになった。乙73,76,7(
7,弁論の全趣旨)
(イ)

昭和57年3月4日,
運輸大臣は国鉄に対し,再建のためには労使
関係を健全化し,職場規律の確立を図ることが必須の条件であるとして,上記のような悪慣行などにつき,実態調査を行うこと等総点検を実施し,調査結果に基づき厳正な措置を講じるよう指示した。そして,これを受けて,国鉄総裁は,同月5日,全国の各機関の長に対し,いわゆるヤミ協定,勤務時間中の組合活動,リボン・ワッペンの着用,呼名点呼,安全帽の着用,突発休,現場協議制度の運用実態等約60項目にわたる職場規律の総点検を同月末日までに実施するよう指示した。乙5(
5∼57)
(ウ)

国鉄は,上記総点検の結果をまとめ,現場協議の乱れは広範かつ多岐にわたっており,これは制度の中にその要因が内包されているものと認めざるを得ず,抜本的に是正する必要があるとして,昭和57年7月19日,国労,全動労,動労,鉄労及び全施労などに対し,開催時間が長時間にわたるなど多くの問題点がある現場協議制につき,協議対象の明確化,開催回数,時間等の制限を内容とする現場協議協約の改定案を提示し,併せて,同年11月30日までの間に交渉がまとまらなければ同協約を破棄すると通告した。
(乙58,78の1,2,79)
これに対し,動労,鉄労及び全施労は,昭和57年11月30日,上記改定案を受け入れて国鉄との間で新しい現場協議協約を締結したが,全動労は,国鉄が提示した改定案に反対し,その後も妥結に至らなかっ
たため,同年11月30日の経過をもって,国鉄・全動労間の現場協議協約は失効した。
(乙80の1∼3)
(エ)

なお,職場規律の総点検は上記(ア),(イ)の経緯から実施されるに
至ったが,国鉄は,これ以後も昭和60年9月までの間に,毎年2回,合計8回にわたり,職場規律の総点検を実施し,その結果,ヤミ手当等の問題のある慣行は徐々に改善されていったが,ワッペン,リボン,腕章の着用などの勤務時間中の労働組合活動については,後記のとおり,国労及び全動労が,国鉄の分割・民営化に反対する運動を展開する中で上記のような闘争活動を行っていたため,十分な改善効果を得るに至らなかった。
(乙60∼66の各1∼4,67,68)
ウ(ア)

国鉄は,昭和55年以降,再建に向けて人員の合理化に取り組んで
きたが,昭和59年2月のダイヤ改正に伴う貨物輸送部門の合理化等により,さらなる人員余剰が生じたとして,昭和59年6月5日,①勧奨退職を促進する観点から,56歳以上の退職者の特別昇給や,55歳以上の職員の定期昇給等を廃止するとともに,職員の申出による休職制度を,退職前提の休職制度と復職前提の休職制度とに整備する,②職員の流動化を促進するという観点から,広く国鉄職員を対象とする国鉄関連企業への派遣制度を拡充する,
といった内容の余剰人員調整策を発表し,
同年7月10日,これを各組合に提示した。しかし,全動労は,この余剰人員調整策は,国鉄の分割・民営化の前提条件づくりを目的としたものであり,職員の雇用不安をもたらすなどとして反対した。乙81,8(
4∼87)
そこで,国鉄は全動労に対し,同年10月9日までの間に上記余剰人員調整策について妥結しなければ,
雇用の安定等に関する協約機械化,

近代化及び合理化等の実施に当たっては,①雇用の安定を確保するとともに,労働条件の維持改善を図ること,②本人の意に反する免職及び降
職は行わないこと,③必要な転換教育等を行うこと,以上3点を内容とする協定である。以下雇用安定協約という。を破棄する旨通告した)
が,妥結に至らなかったため,同59年10月11日,国鉄は全動労に対し,同60年1月11日をもって同協約を破棄する旨通告した。そして,結局,同日までの間にも余剰人員調整策の妥結には至らなかった。(乙86∼88,弁論の全趣旨)
(イ)

昭和60年7月9日,全動労は,国鉄との間で,休職及び出向につ
いては本人の申出により行うこと,申出を強制・強要しないこと,申出や応諾をしないことを理由に当該職員を不利益に取り扱わないことを条件として,余剰人員整理策に関する協定を妥結し,その結果,雇用安定協約は同年11月30日までの期間の定めのあるものとして取り扱われることとなった。しかし,その後,国鉄は全動労に対し,雇用安定協約を再締結するためには,①全動労本部が余剰人員調整策を積極的に推進する旨の意思表明をし,地方組織の指導を徹底することなどのほか,②現場における余剰人員調整策の実施に対する妨害行為が一切行われないことが,国鉄当局として確認できる状態になることが必要であるとしたため,全動労はこれを拒否するとともに,昭和60年11月28日,これに抗議するストライキを行った。以上のことから,全動労・国鉄間において,雇用安定協約は再締結されなかった。なお,国鉄は,動労,鉄労,全施労との間では,昭和60年12月1日以降も雇用安定協約を継続締結した。
(乙92,97,弁論の全趣旨)

昭和60年12月11日,国鉄は,国鉄改革の方向性が現実化してきたことを踏まえて,昭和61年度の転職希望者を把握するため,全職員を対象に国の機関及び地方自治体等への転職希望に関する進路希望アンケート調査(甲77)を実施した。これに対し,全動労は,上記アンケートの調査項目に新事業体に対する進路希望が含まれていたことなどから,同月1
3日,国鉄に対し,国鉄の分割・民営化を既定の事実として行われるものであるとして,その中止を求めるなどした。甲78,79,乙27の1∼(
2,29,30)

全動労は,上記アないしエの経緯の中で,国鉄に対する対決姿勢を明らかにし,ストライキを含めた抗議活動を展開した。そして,北海道においては,昭和59年4月20日に健康保険法及び年金改悪反対等を目的とするストライキ(以下4.20ストという。を,昭和60年3月5日に)
国鉄分割・民営化反対等を目的とするストライキ(以下3.5ストという。を,同年8月5日に監理委員会の答申に対する抗議等を目的とする)
ストライキ(以下8.5ストという。を,また,同年11月28日に)
雇用安定協約締結及び国家機密法阻止等を目的とするストライキ以下1(
1.28ストという。をそれぞれ行ったが,原告等のうち,これに参加)
した者は2名(氏名は不明である。であり,その余の原告等は上記各スト)
ライキに参加していない。また,全動労はワッペンを着用しての組合活動を展開し,北海道では,昭和60年3月1日から同年4月26日まで及び同年7月15日から同年8月5日までの間,国鉄の分割・民営化への反対等を訴えるワッペンを勤務中に着用するワッペン闘争を展開し,原告等も同闘争に参加した。乙118,原告P7,同P8,同P9,同P10,同(
P11,同P12,同P13,同P14,同P15,同P16)
以上に対し,国鉄は,4.20ストにつき北海道の全動労組合員43名を,3.5スト及び8.5ストにつき86名を,そして,11.28ストにつき8名をそれぞれ処分した。また,ワッペン闘争につき181名を処分した。
(乙118,119)

(2)

昭和61年から同62年4月までの間の労使関係事情

ア(ア)

昭和61年1月13日,国鉄は各労働組合に対し,①労使は安全輸
送のため諸法規を遵守すること,②リボン・ワッペンの不着用,氏名札
の着用等定められた服装を整えること,③必要な合理化は労使が一致協力して積極的に推進し,新しい事業運営の体制を確立すること,④余剰人員対策について,出向制度,退職勧奨等を積極的に推進することなどを内容とする労使共同宣言(第1次)の締結を提案し,動労,鉄労及び全施労は,同日これに同意して同宣言に調印した。甲73,乙141,(
142,弁論の全趣旨)
(イ)

また,昭和61年7月に結成された改革労協(前提となる事実(1),
エ(イ))は,同月30日,国鉄と,国鉄改革労使協議会を設置するとともに,昭和61年8月27日,今後の鉄道事業のあり方について,①鉄道事業のあるべき方向として,民営・分割による国鉄改革を基本とするほかないこと,②改革労協は鉄道事業の健全な経営が定着するまでは争議権の行使を自粛すること,③企業人としての自覚を有し,向上心と意欲にあふれる望ましい職員像へ向けて労使が指導を徹底することなどを内容とする今後の鉄道事業のあり方についての合意事項(第2次労使共同宣言)に調印した。(甲46の1,2,乙143,144)
そして,以上の経緯を受けて,国鉄は,いわゆるスト権スト(昭和50年秋,国労,動労等が公共企業体等労働関係法において禁止されていたストライキ権の付与を求めて行ったストライキである。に関し,国労)
及び動労に対し提起していた,総額約202億円の支払を求める損害賠償請求訴訟のうち,動労に対する訴えを取り下げた。
(甲102)
(ウ)

これに対し,全動労は,上記の各労使共同宣言の調印に応じなかっ
た。
(甲76,乙140∼142)

昭和61年3月,国鉄は各労働組合に対し,今後の国鉄改革により生ずる余剰人員の雇用の場が地域的に偏在するため,雇用の場に見合った職員配置を行う必要があるとして,北海道地区及び九州地区等から東京,名古屋,大阪地区等への広域異動を提示したところ,同月14日,動労,鉄労
及び全施労が,これを了解したため,国鉄は,同月20日から広域異動の募集を開始し,同年7月30日までの間に,職員2582名について広域異動を行った。さらに,国鉄は,昭和61年8月11日,各労働組合に対し,北海道及び九州地区の職員を対象とする2回目の広域異動を提示し,動労,鉄労及び全施労の了解の下,これを実施した。乙102,106,(
108,弁論の全趣旨)
しかし,全動労は,上記広域異動に反対していたため,全動労組合員でこれに応募した者はほとんどいなかった。
(乙103∼105,107の
1,弁論の全趣旨)

昭和61年4月,国鉄は職員に企業人としての自覚と行動力を身につけさせることを目的として,7万名の職員を対象に,同月から約5か月間にわたり,1回あたり3,4日の日程で順次,志願制による企業人教育を行ったが,全動労は,企業人教育は国鉄の分割・民営化を前提とし,本来の目的を逸脱したイデオロギー教育を実施するものであるなどとして,これに反対したため,全動労組合員が,積極的にこれに参加することはなかった。
(乙115,116,158,弁論の全趣旨)

エ(ア)

昭和61年6月24日,国鉄は,今後増加が予想される余剰人員対
策として,余剰人員を集中的に配置し,これによる有効活用を図るために全国に人活センターを設置する旨を発表し,同年7月1日,全国1010か所に同センターを設置し,8月1日時点で1万2730名の職員が,また,11月1日時点でその設置箇所は全国1547か所,一般職員1万8882名,管理職員2188名の合計2万1070名の職員が配置された。そして,この人活センターは昭和62年3月まで設置された。
(甲87,88,弁論の全趣旨)
(イ)

北海道では,札幌駅や苗穂機関区ほか53か所に人活センターが設
置され,
8月1日現在で1970名が同センターに配置された。
そして,

10月1日時点では人活センターの設置箇所は206か所,配置職員数は2885名に増加したが,
その所属組合別の内訳は,
全動労285名,
国労2449名,動労59名,鉄労28名,全施労22名,真国労5名,その他16名,無所属21名と全動労及び国労所属の組合員の占める割合が高かった。そして,
人活センターに配置された職員は,
ペンキ塗り,
構内のごみ拾い,ポイント掃除,ガラス磨き,草刈り等が命じられた。他方,上記のとおり,人活センターに配置された職員の中には動労や鉄労の組合員も存在したが,その多くは他車種の運転資格(電車運転士の資格や気動車の検修資格など)を取得するための教育(転換教育)を受けるための発令であり,教育課程が修了すると,本来業務へ異動となった。
(甲88,89,91,92の1∼3,93,94,97)
(ウ)

国鉄は,人活センターへの職員配置につき,日常の勤務成績等を総
合的に判断し,所属長がその権限と責任において適材適所の考え方で行うものとしていたが,北海道総局の運転車両部長はマスメディアの取材に対し,仕事に対する意識や協調性など広い意味での勤務成績を考慮し

た。この中には過去一年間の処分歴も含まれており,職員管理台帳も参考にした

と述べていた。(甲91,乙109)
(エ)

なお,昭和61年10月16日,国鉄の全国ブロック別総務部長会
議が開催されたが,同会議では,今後の人活センターへの職員配置につき下記のような指示がされた。
(甲67の5・34頁,96)



人活センターに集めて,集中的に管理し,効率的,効果的に活用していくという方針は不変とする。解散をさせたり,縮小をしたりすることはない。



……(略)……



その際,配置スペースに限界があるため,現行配置要員の中で勤務
成績等が優れ,
本務要員として活用する必要がある者更正者も含む)

については,人間の差し替えを積極的に行うものとする。


……(略)……

国鉄における各労働組合の昭和61年5月から同62年3月までの組織人員数の推移は,全国でみた場合のそれは別表2の,北海道でみた場合のそれは別表3のとおりであり,国労の組合員数の減少が顕著であった。また,全動労も全国,北海道とも組合員数が減少傾向にあった。甲2,弁論(
の全趣旨)

(3)

本件不選定に至る経緯

ア(ア)

国鉄は,従前より,各鉄道管理局毎に職員の勤務実態等の評価につ
き勤務管理台帳を作成していたが,評価項目や評価方法が統一されたものではなかった。そこで,国鉄は,昭和61年3月,各総局及び各鉄道管理局に対し,前記(1),イ(ウ)及び(エ)の職場規律総点検の集大成として,職員の意識・意欲の現状把握を行い,あわせて職員の意識・意欲にかかわる問題について職員の個々の実態把握を統一的に行うものとして,一般職員の評価に関する全国一律様式の職員管理調書を作成するよう総裁名の通達を発した。この職員管理調書は,大きく分けて,基本事項特記事項及び評定事項から成り,各事項の評価項目の

詳細は別紙2のとおりである。また,上記の評定項目の最終評価は①きわめて良い,②良い,③普通である,④悪い,⑤きわめて悪いの5段階評価で表示された。
(甲85,86,乙32)
なお,職員管理調書の作成については調査用紙記入にあたっての注意事項乙32)職員管理調書の作成等について甲82)といっ(


た文書が内部的に発行されており,これによると,①昭和61年4月2日に在職する職員を対象とし,昭和58年4月1日から同61年3月31日までの期間を調査対象とする,②処分(一般処分,労働処分)は,
発令日ベースではなく,通告日ベースで記入し,このうち,労働処分については,昭和58年7月2日に処分通知をした昭和58年3月に行われた合理化反対闘争から記入する等とされていた。
(イ)

以上より,国鉄の各現場長は所属職員の勤務実態等を評価し,その
結果に基づき作成した職員管理調書を,同年4月7日までに各鉄道管理局等へ提出した。なお,この職員管理調書は,その後,昭和61年10月と,翌62年1月にそれぞれ再評価が加えられた。甲82,弁論の全(
趣旨)
イ(ア)

昭和61年9月,国鉄改革関連8法案が第107回国会に再提出さ
れたが(前提となる事実(2),ウ)
,同年10月13日の衆議院の日本国
有鉄道改革に関する特別委員会において,村山富市委員と政府関係者等との間で下記のような質疑・応答がされた。
(甲67の1)

村山委員

……新しい会社に採用されるかされぬかは設立委員が労働条件やらいろいろな採用の基準を示して,そしてそれを受けて国鉄が職員に提示するわけですね。……その場合に,労働条件やら採用の基準というのは公開して募集されますか。……
P17政府委員労働条件とかあるいは採用基準というものはこれは設立委員会が決めまして国鉄に通知をする,国鉄においてそれを例えば現場に掲示するとかあるいは職員に配布するとかいう方法でいわゆる公開をしまして職員の募集を行うわけであります。村山委員

そうすると,……選定される基準は何ですか。

P17政府委員

採用条件というのはこれは設立委員会が決めることでありまして,現段階では具体的にはまだ決めかねるわけでございますけれども,一応考えられることとしては,年齢でございますとか,あるいは適性でございますとか,あるいは健康状態とか,そういうふうな要素が入ってこようかと思います。橋本国務大臣

これは設立委員が決めましたルール,それぞれの会社の最もふさわしい人という視点からの基準になります。ですから,今審議官が述べましたように,例えば,適性,健康,年齢,さまざまなものが想定をされますが,そのルールに従って決められるということであります。
村山委員

……国鉄が職員管理台帳というものをつくっていますけれども,この職員管理台帳はそういう選定をする場合に使われますか,使われませんか。……


P18説明員

職員管理台帳は,職員の個々の勤務成績を詳細に記載しております。採用基準の中に勤務成績,これは当然に入るだろうと思いますが,そうした場合におきましては,管理調書は当然に参考にいたします。


(イ)

また,昭和61年11月25日の参議院日本国有鉄道改革に関する
特別委員会では,安恒良一理事と政府関係者等との間で下記のような質疑・応答がされた。
(甲67の6)

安恒理事

……改革法23条の1項で設立委員が採用基準を提示することになっていますね。この採用基準というのは,私は客観的でかつ公正なものでなければならないと思いますが,どうでしょうか。……


橋本国務大臣

新会社などの職員の採用基準は新会社の設立委員などがお決めになることでしょうから,どのような内容になるか確定したことは申し上げられません。しかし,私が考えるとすれば,例えば年齢,適性,健康状態などというものが当然入ってくるであろうと思います。
安恒理事

……新規事業体は,これは民間企業ですから,このことを考慮いたしますと,国有鉄道法に基づく過去の労働処分の有無を基準とすること,こういうことは事実上所属労働組合との関係も明らかになってくるんですが,こういうものを私は基準としてはいけないというふうに考えますが,この点運輸大臣いかがでしょうか。
橋本国務大臣

……私はその内容について,所属する労働組合によって差別が行われるようなものであってはならないと思います。ただ,……その採用基準の中に例えば勤務成績というものを取り上げられることも,それは私はあり得ると思います。そして,その中における処分歴等も判断要素の一つになることも,それはあり得るかもしれません。しかし,仮にそうした場合でありましても,その職員の採用過程におきまして,いわゆる労働処分というものを具体的に明示するような形で勤務成績をお示しするようなことはあり得ないと思いますし,あってはならないと思います。
安恒理事……国鉄が名簿をいよいよつくることになりますが,調整する必要が生じてきますね。……調整の基準はどのようなものが考えられるのか。私はこれも採用の基準と同様に客観的かつ公正なものでなければならないし,労働組合への加入の有無,所属労働組合あるいは国鉄法に基づく過去の労働処分等,事実上所属労働組合が問題となるようなことは含まれてはならないというふうに思いますが,運輸大臣の御見解をお聞かせください。橋本国務大臣

所属労働組合についての意見は先ほど申し上げたところでありますが,いずれにいたしましても,設立委員の補助者の立場で設立委員の定める採用基準に従って選定を行うわけでありますから,その採用基準の範囲を超えるような選定基準があってはならないということは私も当然のことであろうと思います。

昭和61年12月24日以降,国鉄は職員の意思確認の手続を進め(前提となる事実(3),イ(ウ))
,意思確認書の集計を昭和62年1月20日こ
ろに整理し終えたが,これによると,本州の3社(東日本,西日本及び東海の各旅客鉄道株式会社)及び四国(四国旅客鉄道株式会社)は定員割れになる可能性が生じてきた。そこで,改革労協は,昭和62年1月23日ころ,国鉄に対し,新事業体への雇用確定などを巡る緊急申し入れについてという文書等で次のような申入れをした。乙20,44,49,弁論(
の全趣旨)



現在,希望退職に応じた職員が3万人を超えるほどに増大しており,21万5000人の要員体制を確保するためには,一部では,国鉄改革
に敵対している者までも新事業体に移行させざるを得ない状況が生み出されている。これは,第2次労使共同宣言にもとることであり,同時に新事業体の経営基盤を根本から揺り動かしかねない事態である。


このような事態に対して,改革労協としては,21万5000人の要員枠そのものの是非を含めて,
正直者が馬鹿を見ない対処方を要求して,
緊急に中央・地方で国鉄当局に申し入れることにする。


国鉄は,昭和62年2月7日,承継法人の設立委員に対し,本件名簿を含む採用候補者名簿を提出したが前提となる事実(3),

イ(ウ))その際,

国鉄は設立委員に対して,
新会社の職員となるべき者の選定結果について乙49)と題する書面を添付した。同書面は,承継法人別就職申込数(
及び採用候補者名簿記載数等に加えて,新会社の職員となるべき者の選定にあたっての考え方として,①在職中の勤務の状況からみて,明らかに新会社の業務にふさわしくないと判断される者については,名簿記載数が基本計画に示された数を下回る場合においても同名簿に記載しなかったこと,②派遣経験者,直営売店経験者,復職前提休職者など多方面の分野を経験した者については,最大限,同名簿に記載したこと,③東日本旅客鉄道株式会社,東海旅客鉄道株式会社,西日本旅客鉄道株式会社,四国旅客鉄道株式会社及びJR貨物については,希望退職及び公的部門の一括選抜の進展もあり,名簿記載者数が本件基本計画で示された数を下回る結果となったが,いずれの会社でも業務の円滑な運営を行っていくために必要な要員は確保されていることなどが記載されていた。
そして,
合同の第3回設立委員会が,
昭和62年2月12日に開催され,
国鉄から新会社の職員となるべき者の選定にあたっての考え方及び選定作業結果の説明を受けた上,採用候補者名簿に記載された者全員を当該承継法人に採用することを決定した。
(前提となる事実(3),イ(エ))

オ(ア)

北海道地区における国鉄職員のJR北海道等への採用希望者数,採用
者数と採用率及び承継法人全体の採用者数と採用率を所属労働組合ごとに整理すると別表4のとおりとなる。これによれば,北海道地区の所属組合別の職員の採用率は,承継法人全体でみれば,国鉄の分割・民営化に賛成していた鉄道労連が99.4%,北海道鉄産労が79.1%であったのに対し,これに反対していた国労は48.0%,同じく全動労は28.1%であった。また,JR北海道に限ってみれば,鉄道労連の採用率が89.4%,北海道鉄産労が72.1%であったのに対し,国労は37.5%,全動労は20.8%であった。
(甲2,弁論の全趣旨)
(イ)

昭和62年2月当時,原告等はいずれも国鉄北海道総局ないし青函
局の所属職員として,北海道地区における国鉄の鉄道運輸業務に従事していたところ,原告等が所属していた各機関区における従前の状況及び職員の承継法人への採用状況は次のとおりである。

原告P19,同P20,同P21,同P22,同P23,同P24,同P25,同P26,同P27,同P28,同P29,同P10,同P30,亡P5(計14名)は,小樽築港機関区に所属する機関士,運転士等であった。
小樽築港機関区の職員のうち,全動労に属する者は,昭和61年4月1日時点で268名であったが,以後,翌62年2月までの間に計56名が全動労を脱退したため,同62年2月16日時点での小樽築港機関区における全動労の組合員数は212名に減少した。また,上記脱退者は,それぞれ,動労(54名)
,鉄労(2名)に加入した。
そして,小樽築港機関区所属職員の承継法人への採用状況は別表5-1のとおりであり,同機関区の所属職員で承継法人に採用されなかったのは全動労組合員のみであり,動労及び鉄労に属する職員(上記脱退者を含む。
)はいずれも承継法人に採用された。
(甲2,17,原
告P10)


原告P31,同P32,同P8,同P33,同P34,同P35,同P36,同P37,同P38,同P39,同P40,同P41及び同P42(計13名)は苗穂機関区に所属する機関士,運転士等であった。
昭和61年3月末当時の苗穂機関区の職員数は471名であり,そのうち346名が全動労に属していた。しかし,同年4月1日,同機関区に滝川機関区及び追分機関区から,いずれも動労に所属する職員計97名が配転となり,
苗穂機関区の職員数は大幅に増加した。
また,
昭和61年4月以降,全動労からの脱退者が発生し始め,同62年2月までの間に計70名が全動労を脱退し,これら脱退者は,動労(67名)
,鉄労(2名)
,鉄産労(1名)にそれぞれ加入した。
そして,苗穂機関区所属職員の承継法人への採用状況は別表5-2のとおりであり,動労及び鉄労に属する職員は希望者すべてが承継法人に採用されたものの,全動労に属する職員で承継法人に採用された者は81名にとどまり,その余の202名はいずれも本件名簿に記載されなかったため,不採用となった。他方,上記70名の脱退者は,動労,鉄労に加入したもののほか,鉄産労へ加入した者も含めて全員が承継法人に採用された。
(甲2,12,原告P8)


原告P11,同P43,同P44,同P45及び亡P3(計4名)は岩見沢機関区に所属する機関士,運転士等であった。
国鉄当時,岩見沢機関区には,第1機関区と第2機関区が存したところ,このうち,第1機関区では,昭和61年7月から同年12月にかけて全動労組合員30名が脱退し,これら脱退者のうち28名が動労(25名)
,鉄労(2名)
,鉄産労(1名)に加入し,2名がいずれ
の労働組合にも加入しなかった。また,第2機関区においても,同時期に全動労組合員6名が脱退したが,このうち3名は動労,鉄労に加
入し,その余3名はいずれの労働組合にも加入しなかった。
そして,岩見沢運転区所属職員の承継法人への採用状況は別表5-3のとおりであり,ここでも動労,鉄労に属する職員は希望者すべてが承継法人に採用されたものの,全動労に属する職員で承継法人に採用された者は第1機関区では31名にとどまり,その余の129名はいずれも本件名簿に記載されなかったため不採用となった。また,第2機関区でも全動労に属する職員で承継法人に採用された者は4名にとどまり,その余の23名は上記と同様,不採用となった。他方,上記30名の脱退者は,そのすべてが承継法人への採用を希望したわけではなかったため,小樽築港機関区や苗穂機関区と事情を異にする面はあるものの,承継法人への就職を希望した者のうち,第1機関区では,鉄産労に加入した1名及び労働組合未加入者1名が採用とならなかったのみで,
その余の希望者は承継法人に採用された。甲2,

18,
原告P11)

原告P7,同P46,同P47,同P48,同P49,同P50,同P51,同P12,同P52,同P53,同P54,亡P6(計12名)は滝川機関区に所属する職員であった。
同機関区は従前,動労所属の職員が多い職場であったが,前記bのとおり,昭和61年4月に滝川機関区から58名の職員が苗穂機関区や札幌機関区へ異動となり,これら職員は異動先において全員承継法人に採用された。また,昭和61年5月から12月にかけて,全動労組合員11名が脱退し,動労(9名)
,鉄労(2名)に加入した。
そして,滝川機関区所属職員の承継法人への採用状況は別表5-4のとおりであり,ここでも動労,鉄労に属する職員は希望者すべてが承継法人に採用されたが,全動労に属する職員で承継法人に採用された者は12名にとどまり,その余の68名はいずれも本件名簿に記載
されなかったため,不採用となった。他方,上記11名の脱退者はすべて承継法人に採用された。
また,この間,滝川機関区の検修助役は原告P12に対し,全動労

を辞めたらどうだ。全動労にいたら残れないよ。,確かに私は仕事が

できることは認める。ただ,全動労に所属していると新会社JRに関しては採用は無理かもしれないよ。そのためには動労とか鉄労の組合員に移れば100%採用になると思うよ。

と述べた。(甲2,19,
原告P12)

原告P9は苫小牧機関区に所属する運転係員であったが,苫小牧運転区所属職員の承継法人への採用状況は別表5-5のとおりである。ここでも動労,鉄労に属する職員は希望者すべてが承継法人に採用されたが,全動労に属する職員で承継法人に採用されたのは5名にとどまり,その余94名はいずれも本件名簿に記載されなかったため,不採用となった。他方,昭和61年ころから同62年2月までの間,19名の全動労組合員が全動労を脱退して,動労などの鉄道労連系統の労働組合に加入したが,
いずれも承継法人へ採用された。甲2,

16,
原告P9)


原告P14,同P55は鷲別機関区に所属していた。昭和61年当初の時点で,同機関区には63名の職員が全動労に属していたが,以後,同62年2月までの間に20名が全動労を脱退した。そして,承継法人に採用された鷲別機関区所属職員の総数は210名であったが,このうち,全動労に属する職員(総数43名)で承継法人に採用されたのは7名にとどまり,その余の36名はいずれも本件名簿に記載されなかったため,不採用となった(採用率は約16.3%である。。他方,動労に属する職員で承継法人に採用されたのは168名)
であり,動労に次いで採用者数が多かった鉄産労のそれ(採用者数は
35名)と比べても,極めて多かった。甲25,原告P14,弁論の(
全趣旨)
(4)

国鉄当局の意識・態度に関する事情等
国鉄職員局次長P56(以下P56職員局次長という。は,昭和6)
1年5月21日,動労東京地方本部の会議に招かれた際のあいさつで,国鉄改革に触れて,……私はこれから,
P57注・国労のP57元委員長)(の腹をブンなぐってやろうと思っています。みんなを不幸にし,道連れにされないようにやっていかなければならないと思うんでありますが,不当労働行為をやれば法律で禁止されていますので,私は不当労働行為をやらないということで,つまり,やらないということは,うまくやるということでありまして……などと述べた。(甲68,69)
また,
昭和61年11月30日付けの公企労レポート」甲48)
(には,国鉄改革関連8法が成立したのを受け,今後は承継法人にふさわしい人選をすることが最大の任務となるとした上で,国鉄改革に協力してきた労働「組合の組合員は,出向,広域異動,教育等の改革のための諸施策に協力し,努力と犠牲を払っており,このことは個人個人の成績として蓄積されているため,承継法人に移る人は,そういう人の中から多く生まれる可能性があり,かなり得をしたといえるが,国鉄の再建を妨害した労働組合に所属している者は,一日も早く,自らの意識改革を行い,先に行っている人に追いついてほしい旨のP56職員局次長の発言が掲載された。

国鉄本社車両局機械課長P58(以下P58課長という。は,昭和)
61年5月,各機関区所長にあてて,当局側の考え方を理解して行動し,新事業体と運命共同体的意識を持つことができ,まじめに働く意志のある職員を日常の生産活動を通じて作ることが必要であり,このような職員のみが新事業体に明るい未来を約束すること,イデオロギーの強い職員や話をしても最初から理解しようとしない職員,意識転換に望みを託し得ない
職員等は,あきらめて結構であり,良い職員をますます良くすること,中間帯で迷っている職員をこちら側に引きずり込むこと,良い子,悪い子に職場を二分化することが大切であるなどと記載された書簡を送った。甲7(
1,72)

昭和61年8月,新旭川駅所属の職員(国労組合員)が,人活センターに配置されたところ,その後,同職員が所属していた国労を脱退したことなどの事情を受けて,新旭川駅長は国鉄旭川管理局運輸部総務課長にあてて,同職員の人活センター配属を解除するよう求める選別上申書なる文書を発した。また,同年10月には,同じく新旭川駅長は旭川管理局人事課長宛に,同駅営業係兼構内指導係の職員が国労を脱退したことなどの事情を指摘して,同職員を推薦する旨の文書を発した。そして,上記各職員はいずれも,希望する官公庁や,JR北海道での就職を果たした。甲54(
の1,2,105)

2
争点(1)・本件不選定の不法行為該当性
(1)

争点の確定及び判断の枠組み
原告等は,本件名簿に記載されなかったため(本件不選定)JR北海道等,
に採用されず(本件不採用)に事業団職員となり,また,最終的にその職をも失ったものであるが(前提となる事実(3),(4))本件は,この一連の,
過程のうち,JR北海道等に係る採用候補者の選定及び本件名簿の作成の過程(以下本件選定過程という。における労働組合の所属関係を理由と)
する差別的取扱いの有無が問題となるものである。
そこで,以下,この点につき判断していくこととするが,その前に,本件における証拠の構造等を踏まえた全体的な判断の枠組みを明らかにしておくこととする。


まず,本件基本計画において,JR北海道の職員数は1万3000名,JR貨物のそれは1万2500名と定められたのに対し(前提となる事実(3),
ア)JR北海道に対する就職申込総数は延べ2万3710名,

JR貨物に対す
るそれは延べ9万4400名であった(前提となる事実(3),イ(ウ))。ま
た,上記の就職申込総数は,第2希望以下の複数の承継法人名を記載した希望を含んでいるため,実質的な競争倍率は上記の各数値を単純計算したものよりも低くなるとみられるが,それでも,前提となる事実(3),イ(エ)のとおり,北海道地区では,国鉄職員の4700名が承継法人への採用を果たせなかったというのであるから,本件選定過程が厳しい選抜を不可避とするものであったことは否定し難い。
ところで,上記選抜は,JR北海道等の設立委員が示した採用基準(前提となる事実(3),イ(イ))に従ってされるべきものであるところ,この基準にはその内容が客観的に明確なもののほか,国鉄在職中の勤務の状況からみて,JR各社の業務にふさわしい者であること
(前提となる事実(3),
イ(イ)③)といった職員の勤務評定に係る基準が含まれているため,本件選定過程でも,かかる職員の勤務評定を基礎とする選別判断がされたであろうことは推認するに難くないものの,本件では,この選別判断の過程を明らかにする直接的な証拠は一切提出されていないばかりか,そもそも,原告等の勤務の状況の評価にかかる資料(端的にいえば,前記1,(3),アの職員管理調書である。さえも提出されていない。そのため,本件選定過)
程を把握するものとしては,本件不選定についての被告の主張や本件選定過程に関する国鉄関係者(上層部)の供述資料(乙20∼25)が存在するのみである(なお,その内容に照らすと,これらの主張・証拠は,本件選定過程を断片的・間接的に示すにとどまるものというほかない。。)

以上の次第で,本件選定過程に労働組合の所属を理由とする差別的取扱いが存したか否かは,本件で現れた間接的な事情を総合して判断するほかないが,そもそも,職員管理調書を含めた本件選定過程に関する資料は,原告らにおいてこれを保有せず,そのすべては国鉄側の手の内にあったは
ずのものであるから,上記判断においては,このような立証活動における実質的な公平についての配慮も欠くことはできないというべきである。よって,このような訴訟手続上の要素(いわゆる証拠の偏在状況を勘案した立証の公平な分担)もまた,本件選定過程に関する判断に影響を及ぼし得る要素とみるのが相当である。
そこで,以下の検討・判断においては,差別的取扱いの認定に積極に作用するとみられる事情(主として原告らの主張に係るもの)と消極に作用するとみられる事情(主として被告の主張に係るもの)とを分類し,これらにつき,被告の立証活動の状況をも勘案して,個別的な検討・分析を加えた上で後記(2),

(3)がこれに相当する。,
)上記を総合的に評価する後

記(4)がこれに相当する。
)こととする。
(2)

差別的取扱いの有無について
まず,北海道地区における国鉄職員のJR北海道等への採用状況を労働組合ごとに整理した結果は別表4のとおりであるところ(前記1,(3),オ(ア))これによると,

動労などから成る鉄道労連所属の組合員でJR北海道
へ採用された者は7167名で,その採用率は89.4%,また,JR貨物へ採用された者は654名で,その採用率は8.2%である。そして,動労などの鉄道労連に属する労働組合は,前記1,(2)のとおり,昭和61年以降,国鉄分割・民営化へ賛成し,国鉄が実施する国鉄改革に向けた各施策に協力的な対応をしていたところである。また,国鉄の分割・民営化に反対の姿勢を崩さなかった国労からの脱退者により組織された鉄産労所属組合員(前提となる事実(1),エ(ウ)参照)もまた,別表4によると,1980名(採用率72.1%)がJR北海道への就職を果たしている。他方,国鉄の分割・民営化に反対する姿勢を崩さなかった全動労所属組合員でJR北海道に採用された者は211名で,その採用率は20.8%であり,また,JR貨物に採用された者は17名で,その採用率は1.7%に
にとどまる。なお,全動労と同様に国鉄の分割・民営化に反対していた国労所属組合員もまた,JR北海道に採用されたのは2193名(採用率は37.5%)JR貨物に採用されたのは171名(採用率2.9%)にとどま,
っている。
このように,国鉄の分割・民営化に対する対応の差異に応じて労働組合ごとの採用率に相違が生じているとみられるところ,事柄の性質上,労働組合ごとの採用率にばらつきが生じることが不可避であろうことは推認するに難くない。したがって,上記のような採用率の相違をもって直ちに本件選定過程における差別取扱いの有無を断じることは相当ではないが,上記のように,国鉄の分割・民営化に協力的であった鉄道労連系の労働組合に属する国鉄職員の採用率は,JR北海道へ採用候補者の選抜が厳しいものであったにもかかわらず9割近くに達し,また,JR貨物の北海道地区における採用候補者の選抜も同様に厳しいものであった(乙24)にもかかわらず,やはり,鉄道労連系の労働組合に属する国鉄職員の採用者数は,各労働組合の中で群を抜くものであるといえる。他方で,全動労組合員のJR北海道への採用率は約20%と,むしろ不採用となった者の比率が8割に達し,また,JR貨物への採用率も1.7%と各労働組合の採用率に照らしても極めて低い率となっている。そして,動労が極めて優秀な国鉄職員のみで組織された労働組合であったと認めるに足りる証拠はないばかりか,逆に,証拠(甲11,12,16∼19,24∼27,原告P7,同P8,同P9,同P10,同P11,同P12,同P13,同P14,同P15,同P16)によれば,承継法人への就職を果たした動労組合員の中には,勤務態度の不良性が顕著な者や,犯罪的行為に及んだ者も含まれていたことが認められる一方で,原告等が属する全動労が勤務成績において劣位にある職員のみで組織された労働組合であったと認めるに足りる証拠は存在しない(被告も,原告等の日常の職務活動に問題があったとは述べていな
い。。

このように本件で現れた諸点を勘案すると,上記のような採用率の相違は,競争率の高い選抜過程において通常生じ得るであろう差異を著しく超えるものというべきであり,本件選定過程において,職員の労働組合の所属関係が反映していた可能性の徴表となるものとみるのが相当である。これに対し,被告は,①動労などの鉄道労連系の労働組合の組合員と全動労組合員とでは,国鉄改革に対する対応に相違があり,これらは各人の勤務成績に影響を及ぼし,
上記採用率もこれを反映したものである,
また,
そもそも,②労働組合ごとの採用率の相違に着目する手法は,いわゆる大量観察方式によるものというべきであるが,全動労などといった国鉄改革反対グループと動労などの国鉄改革協調グループとの等質性・均一性が立証されていない以上,これを本件における差別的取扱いの有無の判断資料とするのは適切でないと主張する。しかし,上記①については,後記(3),アで判示するとおり,
採用することができない。
また,
上記②については,
確かに,労働組合ごとの採用率に着目する判断手法は,大量観察方式に通じるものであり,
また,
いわゆる差別型紛争で用いられる大量観察方式は,
一種の統計的な手法を用いて差別的格差の有無を判断する手法であるから,その合理性を担保するために,比較対象集団の等質性・均一性が必要となる場合もあることは否定し難い。しかし,それは,飽くまでも,統計的な手法による事実推定の合理性を担保するために要求されるものであるから,問題となる取扱いの内容・性質や,その推定の手法(立証命題の立て方)などに応じて,要求される比較対象集団間の等質性・均一性の内容・レベルも異なり得るというべきであって,大量観察方式を用いるすべての場合において,一律に厳密な形での等質性・均一性の立証が要求されるとはいえない。そして,本件で問題となる労働組合ごとの採用率の比較手法は,差別型紛争で通常問題となる処遇・賃金の格差を立証する場合と異
なり,比較対象集団の平均値を算出して,その平均値を比較することにより格差の存否及び程度を明らかにするといった幾重もの推定作業を含むものではないこと,また,そうであれば,前提となる事実(1),エのとおり,全動労は昭和49年に結成された歴史のある労働組合であり,また,別表2,同3のとおり,全動労は全国で2000名超,北海道地区でも1000名を超える組合員を擁する労働組合であるから,比較対象集団として明確に分離することができ,かつ,集団的な比較が可能な程度の人員規模を具備しているといえることに加えて,前述したように,全動労が勤務成績が劣位にある職員により組織された集団とみるべき事情も見当たらないことをも勘案すると,全動労は多様な勤務能力や資質を有する職員から組織された集団であるとみることができる。すなわち,本件では,大量観察方式の合理性を担保し得る程度の比較対象集団の等質性・均一性は立証されているということができるから,上記採用率の相違を差別的取扱いの有無の判断資料として用いることの合理性は十分に認められるというべきである。
よって,被告の主張②も採用することができない。イ
また,前記1,(2),オ並びに(3),オ(ア)及び(イ)によれば,昭和61年ころから,少なからぬ数の全動労組合員が全動労を脱退して動労などに加入しているところ,これら脱退者は,原告等と同様,全動労の国鉄改革反対の運動方針に賛同し,また,ワッペン闘争に参加していたにもかかわらず(弁論の全趣旨より認められる。,そのほとんどが承継法人に採用さ)
れているところ,別表4で示された各労働組合ごとの採用比率を勘案すると,その多くはJR北海道に採用されたものと推定される。そして,昭和62年2月時点まで全動労に属していた原告等を含む全動労組合員と上記脱退者とを比較した場合に,両者間に知識,技能,能力などの職務活動に相違があることを窺わせる証拠も見当たらないのであるから,両者がその後
承継法人に採用されたか否かを分ける要因は,全動労を脱退したか否かとの点であったとみるのが自然である。

さらに,前記1,(1)ないし(4)で認定した事実に証拠(甲44,45,46の1∼3,47,50,51)を総合すると,昭和61年から同62年にかけての国鉄と国鉄内の各労働組合との関係は,①国鉄分割・民営化が具体化・現実化していく中で,国鉄と改革労協とは2度にわたって労使共同宣言を締結し,これに属する動労などと極めて友好的な関係を樹立していったが,他方において,②国鉄は,国鉄改革に協力的な姿勢・態度を示すことなく,これに全く理解を示そうとしなかった全動労等の労働組合に対して,雇用安定協約などを一方的に破棄するなど対決姿勢を鮮明にしており(前記1,(1),ウ)
,加えて,③鉄道労連系の労働組合は,国鉄が
実施する各種の改革施策,取り分け,多大な困難を伴う広域配転を含め,これに積極的に協力したにもかかわらず,国労や全動労等は,全く協力姿勢を示さなかったため,これに対する対立・嫌悪の態度を深くし,昭和62年1月,改革労協の議長は,予想外に退職希望者が多く,本州の3社と四国で定員割れの可能性が生じるや,承継法人の要員確保のために,改革に敵対している者まで新事業体に移行させざるを得ない状況であるが,これは第2次労使協働宣言にもとることであり,同時に新事業体の経営基盤を根本から揺り動かしかねない事態である,正直者が馬鹿を見ないよう,本件基本計画で示された承継法人の要員枠そのものの見直しを含めた対応をするよう要求して,改革に非協力の労働組合から採用しないよう働きかけるなどしたこと(前記1,(3),ウ)を認めることができる。これらの事実によれば,国鉄と労働組合との関係は,国鉄の分割・民営化が進展していく過程で,
国鉄と全動労とは対立関係を深めていく一方で,
国鉄と動労などは友好的な関係を形成していったこと,また,各労働組合の相互関係も,全動労や国労などの国鉄の分割・民営化反対派と動労や鉄
労などの国鉄の分割・民営化協調派の対立が深まっていったこと,以上の諸点を指摘することができる。

加えて,上記ウのような国鉄や各労働組合の相互関係をめぐる関係を前提に,前記1,(2),エの国鉄分割民営化の前年に実施された人活センターの設置とそこでの職員配置の状況や,前記1,(3),オ(イ)b,dの昭和61年4月に行われた滝川機関区等から苗穂機関区への動労組合員の少なからぬ数が配置転換されたことも考慮するならば,国鉄によるこれらの各措置に,国鉄と各労働組合の相互関係が反映しているとみる余地は十分に存し,本件で,このような可能性を排斥するに足りる事情も見当たらない。

最後に,
前記1,,
(3)オ(イ)dの原告P12に対する検修助役の発言は,
明らかに,全動労に所属する限り,承継会社への採用は困難となることを表明するものにほかならず,この事実は前記1,(4),ウの国労脱退者に対する優遇措置と同様,全動労の脱退が承継法人への採用候補者選定の重要な要素であったことを示すものといえる。


以上によれば,国鉄職員の所属組合のいかんが,本件選定過程に影響を及ぼしていた可能性は極めて高いということができる。

(3)

差別的取扱いの有無に関する被告の主張について
被告は,本件不選定につき,原告等は,国鉄の分割・民営化に反対する全動労の姿勢・立場に従って,当時の国鉄が置かれた現状を的確に認識しようとせず,そのため,国鉄当局から求められていた各種改革施策への協力を拒み,また,ストライキやワッペン闘争などの問題行動を繰り返していた原告等の行動が,
その勤務評価に相対的に不利に作用したと主張する。
確かに,前記1,(3),ア,イ(イ)の事実や,証拠(甲53,乙20∼25)によると,本件選定過程において,国鉄は職員管理調書を職員の勤務評定の有力な基礎資料の一つとしていたこと,また,国鉄は,職員の国鉄改革に対する態度(協力姿勢の有無)や,ストライキやワッペン闘争など
の労働組合関係の行為の有無を,同調書の評定事項(別紙2)のうちの12項(服装の乱れ)
,19項(増収活動)
,20項(現状認識)などの評定
項目に反映させていたことが認められる。
しかし,
これに対応する原告等の個々の行為の有無をみていくと,
まず,
全動労は昭和59年から同60年にかけて計4回のストライキを行ったものの,原告等のうちの2名が昭和60年に滝川機関区で行われたストライキに参加し,その余の原告等はいずれもこれらのストライキに参加していないことは前記1,(1),オのとおりであり,また,被告は上記ストライキに参加した原告等の氏名や参加時期,態様を何ら明らかにできていないのであって,そもそも,原告等の勤務評定において,同人らが実際にストライキへ参加したか否かを確認していたかも疑わしい。また,国鉄は,国鉄の分割・民営化が現実化し始めた昭和60年12月以降,これに向けて,進路希望アンケート,広域異動や企業人教育を実施したが(前記1,(1),エ及び(2),イ,ウ)
,原告等が所属職場の上長等から広域配転や企業人教
育の受講に協力するよう求められていたことを認めるに足りる証拠はなく,また,進路希望アンケートについても全動労はこれに反対を表明していたものの(前記1,(1),エ)
,証拠(原告P10・13頁)をも勘案す
ると,原告等がそれぞれ,上記アンケートに応じていなかったかは不明というほかない。してみると,本件において,被告が原告等の問題行動として主張するもののうち,具体的・現実的な行動として確認できるのは,原告等が昭和60年に全動労の組合活動として行ったワッペン着用闘争のみということとなる。
そこで,これにつき検討を進めると,勤務時間中に労働組合の主張内容を記したワッペンを着用することは,企業秩序を乱すおそれのない特段の事情ある場合等を除き,国鉄職員が負う専念義務に違反する行為といわざるを得ないから,この点が原告等の勤務評価を低下させる要因であること
は否定できない。しかしながら,全動労による上記ワッペン闘争については,国鉄による処分が行われているところ(前記1,(1),オ),原告等は
いずれもかかる処分の対象者となっていないことは当事者間に争いがなく,そうだとすると,原告等の上記行為が,その態様等において特に企業秩序を乱す程度が高いものであったとは評し難い。また,前記(1),イで触れたように,全動労からの脱退者もまた,上記ワッペン闘争に参加していたとみられるところ,これら脱退者のほとんどがJR北海道に採用されたと推定されること(前記(2),イ)を勘案すると,この点が本件選定過程において,採用候補者決定の決め手となっていたとは考え難い。しかも,前記(2),アで判示したように,承継法人への就職を果たした動労組合員の中には,
勤務態度の不良性が顕著な者や,
犯罪的行為に及んだ者もいたところ,
このような者との対比で考えるならば,
ワッペン着用闘争を行ったことが,
通常レベルの勤務成績を下回ることはなかったとみられる原告等の勤務評価を,上記のような職員のそれよりも劣位にならしめるようなほど(逆にいえば,ワッペン着用闘争を行わなかったことが,その勤務成績の劣悪性を補うに余りあるほど)の評価要素となるものとまでは評し難い。加えて,被告は,鉄道労連系の組合員が国鉄が推し進めていた企業人教育や増収活動に協力的であったと主張するが,鉄道労連系の個々の組合員がどの程度,これらの国鉄が実施した施策に協力していたのかも本件証拠上全く不明である。
以上によれば,原告等に対する勤務評価において,被告が主張するような原告等の個別・具体的な行動が判定基礎となっていたことについては,疑問を差し挟む余地が十分に存するといわざるを得ず,むしろ,以上の検討によれば,原告等に対する勤務評価においては,その個別・具体的な行動よりも,その労働組合の所属いかんが判断の基礎となっていた可能性は否定できないのである。


なお,採用比率の点は別にしても,284名もの全動労組合員がJR北海道等の承継法人に採用されていることは別表4のとおりである。また,別表4によれば,全動労と同様に国鉄改革に反対し,ストライキやワッペン闘争を展開していた国労組合員も鉄産労を上回る2807名が承継法人に採用され,他方,国労を脱退した組合員により結成された鉄産労もその採用率は79.1%であり,その組合員が希望すれば,承継法人に採用されるという関係にあったということもできないのである。してみると,本件選定過程において,全動労ないし国労といった国鉄の分割・民営化に反対する労働組合に所属していることが採用候補者の選定の判断軸となっていると直ちにいえるものではなく,その意味では,本件選定過程において,各職員の日常の職務活動に対する評価が全く考慮の外に置かれていたとはいえない。しかしながら,かといって,このような点をもってしても,前述したような採用比率の相違を合理的に説明することも困難である。
(4)

総合評価
そこで,本件選定過程の差別的取扱いの有無を判断すると,本件選定過程において,原告等を含めた全動労組合員が,日常の職務活動の評価が全く考慮されずに,単に,全動労に所属していることの一事をもって採用候補者に選定されなかったとまではいえないものの,このような個々の国鉄職員の勤務評価とは別に(ないしは併せて)職員の所属する労働組合と国,
鉄との関係が本件選定過程に影響を及ぼしている可能性があることは否定し難い。すなわち,国鉄の分割・民営化に協調的な動労などの労働組合の組合員については,そのことが有利に,他方で,国鉄の分割・民営化に反対する全動労などの労働組合の組合員については,そのことが不利益に作用しているとみるのが相当であり,P56職員局次長の国鉄改革に協力してきた労働組合の組合員は,出向,広域異動,教育等の改革のための諸施策に協力し,努力と犠牲を払っており,このことは個人個人の成績として蓄積されていくため,承継法人に移る人は,そういう人の中から多く生まれる可能性があり,かなり得をしたといえる旨の発言(前記1,(4),ア)はこのことを如実に示すものと評される。

ところで,公共企業体である国鉄も不当労働行為をなすことが禁止され(労組法7条,公共企業体等労働関係法25条の3第1項,25条の5第1項)それゆえ,国鉄も国鉄内部で併存する各労働組合をそれぞれ独自の,
交渉相手として尊重し,団体交渉やその他の労使関係の局面において,各組合をその性格や運動方針の違いにより合理的理由なく差別したり,特定の労働組合の弱体化を図ってはならないのであるから(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号730号参照)このような労,
働組合の所属関係を採用候補者の選定判断に反映させることは,国鉄が負う上記のような中立保持義務に反するものといわざるを得ない。
被告は,民営化後の承継法人の職員としては,いわゆる親方日の丸的思考を脱却し,積極的に増収活動に取り組むほか,企業人教育に参加するなどした国鉄職員が,承継法人の施策によく協力し,積極的に業務に取り組むことが期待できる者として優位的な評価を受けることは,合理的かつ妥当な取扱いであって,組合差別などというものとは次元を異にするものであると主張する。確かに,国策として進められた国鉄の分割・民営化の過程で,国鉄職員の勤務態度が社会的な批判の対象となったこと(前記1,(1),イ)に照らすと,国鉄の分割・民営化に協力的な姿勢を示していた職員が,その民営化後の承継法人にとってふさわしいと評価されることも一概に理由がないものとはいえない。また,国鉄としては,国鉄改革の諸種の施策に協力姿勢を示した鉄道労連系の労働組合の立場を慮るならば,鉄道労連系の労働組合と全動労とを同列に扱うことは,他面で国鉄と鉄道労連との信義を損ない,そのような事態は,向後の国鉄改革の実施にとって重大な支障となりかねなかったであろうことも推察するに難くな
い。しかしながら,そもそも,国鉄が動労などの鉄道労連系の労働組合と全動労などの国鉄改革に対する反対姿勢を貫く労働組合とで,その運動方針の相違を理由として別異に取り扱うことを許容することは,労働組合の運動方針を理由とする弱体化行為を許容することにほかならないが,国鉄改革関連8法は,何ら,国鉄が各労働組合に対して負う中立保持義務を軽減,免除するものではなく,このことは,国鉄改革関連8法の立法審議の過程でも,承継法人への採用に当たり,組合差別の懸念が呈されたのに対し,政府関係者はそのようなことがあってはならないと答弁し(前記1,(3),イ)また,参議院特別委員会が国鉄改革関連8法を決議した際,各,
旅客鉄道株式会社等における職員の採用基準及び選定方法については……,所属労働組合等による差別等が行われることのないよう特段の留意をするよう求めた附帯決議(前提となる事実(2),ウ)をしたことからも明らかである。
してみれば,被告主張のような諸点を理由として,個々の職員の勤務成績を論ずることなく,労働組合の所属関係から,直ちに前述したような国鉄の措置を正当化するのは困難といわざるを得ない。

以上によれば,本件選定過程では,上記アのような意味で,労働組合の所属関係いかんにより差別的な取扱いがされたと推認するのが相当である。また,そうであれば,本件不選定もまた,上記のような本件選定過程を経てされたものである以上,かかる差別的な取扱いの一環としてされたものと推断するほかない。

(5)

本件不選定の不法行為該当性
そこで,さらに,本件不選定が不法行為にあたるか否かにつき,判断を進
めることとする。

まず,本件不選定が,原告等のいかなる権利又は法律上保護される利益の侵害となるかにつきみると,改革法23条は,国鉄職員を新たに,
承継法人において採用するとの方式を採用し(前提となる事実(2),エ(イ))国鉄職員が直ちに承継法人の社員に移行する方式を採っていない。,
また,国鉄の分割・民営化計画は,そもそもが,多数の国鉄職員に転職を迫ることを想定した枠組みのものであったこと(前記1,(2),イ(ウ)③)を勘案すると,国鉄職員は承継法人,すなわち,JR北海道等によって採用されることそれ自体につき,何らかの権利や直接の法的利益を有していたということはできない。
これに対し,原告らは,原告等は本件不選定がなければ,JR北海道等に確実に採用されたのであるから,同人らはJR北海道等による採用とその後の勤務関係に関連する地位(権利)ないし法的利益をも有すると主張するようであるが,上述した国鉄の分割・民営化の枠組みや改革法23条の構造,そして,実際問題としても,北海道地区における国鉄職員で承継法人に採用されなかった者が4700名も存在したこと(この数は,全動労組合員及び国労組合員に係る不採用者の合計数を超えるものであることは別表4から明らかである。をも勘案すると,本件不選定がなければ,原告等)
がJR北海道等に確実に採用されていたという関係を認めるには足りず,他にこのことを認めるに足りる証拠はない。
よって,原告らの上記主張は採用することができない。

しかしながら,他方で,改革法23条の構造によれば,国鉄が作成する採用候補者名簿は,承継法人が職員として採用し得る対象者を当該名簿記載者に限定するという特別な機能を有しており,しかも,採用候補者名簿は国鉄職員のみを対象として作成されるべきものとされている。また,採用候補者名簿に記載された場合には,国鉄との間で形成されていた雇用関係と同様の地位が形成され得ることとなるのに対し,同名簿に記載されない場合には,当該国鉄職員は当然に事業団へ移行して,3年の間に転職活動を完遂すべき負担を負い,これを果たせない場合には事業団との地位を
も解消されるに至るという不安定な地位に置かれることとなるのである。してみれば,国鉄職員にとって採用候補者名簿に自らが記載されるか否かは,自らの職務経験を活かし,かつ,これと連続性を保ち得る雇用機会を確保する上で極めて重要であることはいうまでもなく,それゆえ,国鉄職員は,国鉄による採用候補者の選定につき,重大な利害関係を有するといえる。そして,前記(4),イで触れた国鉄が労組法上負うべき中立保持義務や,労働条件の差別的取扱いを禁ずる労働基準法3条の趣旨に加えて,改革法23条は,本来的には採用を決定する承継法人においてすべき採用候補者の選定に関し,国鉄職員の使用者である国鉄に,調整を含めた選定を行う権限を付与するものであって,その限りで,国鉄による採用候補者の選定もまた,国鉄職員との関係で労働条件に準ずるものと解されること,以上の諸点をも併せて考察するならば,原告等は,国鉄との雇用関係の展開における一つの局面である採用候補者の選定の場面において,合理的な理由もなく,他の労働者と異なった劣位的取扱いを受けるべき理由はないのであるから,本件選定過程において公平な取扱いを受けるべき法的利益を有するというべきである。
以上につき,被告は,前記アのように,原告等は承継法人による採用につき何らの権利ないし法的利益をも有しない以上,本件選定過程に差別的な取扱いが存したとしても,そこには,何らの法的利益の侵害も存しないかのように主張する。しかしながら,雇用関係の展開局面において,労働者の処遇が区別を設定する合理的な理由がない限り,平等に扱われるべきことは当然であり,加えて,本件では,採用名簿に記載されなかったときには,承継法人に採用される余地はなくなり,事業団による再就職の斡旋によっても全く異なる職種への転換を余儀なくされるなどの不利益な地位に置かれることになるのであるから,このような利益は,雇用関係上労働者が有する利益として法的保護に値するものというべきである。よって,
被告の上記主張は採用できない。

そして,本件選定過程において,動労組合員など特殊な関係にある職員をそれが故に優遇的に扱い,他面,そうでない全動労組合員を劣位的に扱う本件不選定は,上記のとおり,原告等が有する公平な取扱いを受けるべき法的利益を違法に侵害するものというべきである。

(6)

小括
以上の次第で,本件不選定は,原告等が有する法益を違法に侵害するもの
として,民法上の不法行為に当たる。
3
争点(3)及び(4)・本件損害賠償請求権の時効消滅の成否及び被告による消滅時効の援用の可否について
上記2によれば,原告らは被告に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有する(直接ないしは相続により取得したこととなる。ところ,被告は,同請求)
権が時効消滅したと主張するので,争点(2)につき判断する前に,争点(3)及びこれに関連する同(4)につき判断することとする。
(1)

前提となる事実(3),イ(エ)及び証拠(甲10の6,同の11,同の12,
同の16,同の24,同の29,同の38,同の42,同の47,同の55,同の56,21,22,乙50∼54)並びに弁論の全趣旨によれば,①昭和62年2月12日に開催された合同の設立委員会で,本件名簿に記載された職員全員をJR北海道等において採用することが決定されたこと,②昭和61年2月16日以降,JR北海道等の設立委員は,採用を決定した国鉄職員に対し,国鉄を通じて採用通知書を交付する一方で,不採用となった国鉄の職場長等を通じての口頭ないしは文書により本件不採用を原告等に通知し,そのころ原告等も本件不採用の事実を認識したこと,③昭和62年2月16日ころには,国鉄から設立委員に提示された本件名簿に記載された国鉄職員が全員採用となったこと,また,同年3月に入ると,JR北海道等の職員採用の結果(採用者比率)が労働組合ごとに著しく異なっていたことが,それぞれ
新聞等により報じられていたこと,以上の事実が認められる。また,以上の結果,昭和62年中には,全動労及び同北海道地方本部が道労委に,国鉄が本件名簿に同組合員(原告等を含む。を記載しなかったことが不当労働行為)
であるなどとして,JR北海道等を相手方とする救済の申立てをしていたことは前記第2,1,(4),イのとおりである。
(2)

民法724条前段にいう損害及び加害者を知った時とは,加害者に対
する賠償請求が事実上可能な状況のもとに,その可能な程度にこれを知ったときというのが相当である(最高裁昭和48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁)ところ,上記アによれば,道労委に本件救済申立てをした時点では,全動労は,その組合員の多くがJR北海道等に採用されなかったことの根本的原因が,
国鉄による本件選定過程にあったことす

なわち,全動労組合員の多くが本件名簿の採用候補者に記載されなかったこと)を認識していたと推認することができ,そうであれば,全動労所属組合員として前記救済申立てに関与していた原告等(甲1・78∼93頁)も上記の時点で,本件選定過程で国鉄による差別的取扱いがあったことを認識していたと認められることは,被告の主張するとおりである。
(3)ア

ところで,本件において,原告等は,前記2,(5)のとおり,国鉄によ
る採用候補者の名簿の記載につき公平な取扱いを受けるべき利益を有していたのに,これを違法に害されたものであるが,その損害は,原告等が採用者名簿に適正に記載される可能性を奪われ,その結果としての名簿不記載という一定の法的地位に置かれたことにより受けた精神的打撃に対する慰謝料であると解される。そして,その金額は,単に違法に採用候補者名簿に記載されなかったとの事実のみからその金額を算定すべきものではなく,名簿に記載されなかったことにより原告等がその就労に関し被ることとなった不利益な状況,すなわち,既に承継法人に採用されないこととなったことを前提として,これに関連する他の諸事情をも斟酌して定めるべ
きものと解される。してみると,原告等が消滅時効の起算点である損害を知ったことの対象も,
原告等の上記のような精神的打撃の前提として,
原告等の置かれることとなった一定の法的地位についても認識することが当然含まれることとなるから,消滅時効が進行するには,原告等が自らの置かれた法的地位の少なくとも主要な部分を認識することを要するものと解すべきである。

そこで,これを本件につきみると,上記のとおり,原告等は,昭和62年当時,自らの採用を求めてJR北海道等を相手方として不当労働行為救済の申立てをしていたことからすると,本件不選定の結果JR北海道等に採用されなかったものの,不当労働行為救済命令申立てなどの手段によって採用される可能性があると考えていたことが明らかである。そして,このような原告等の当時自らが置かれていた状況の認識は,その後最高裁判所の判決で判示されたとおり,JR北海道等を使用者とする救済命令によって採用される可能性が否定され,もはや採用の可能性がないという,原告等が現実に置かれた客観的な法的地位とは全く異なるものである。加えて,原告等がこのような認識に陥っていたのは,国鉄改革法23条の規定の解釈が一義的に明確なものではなく,JR北海道等が国鉄の採用候補者名簿の記載について使用者として責任を負い,不当労働行為救済命令による救済が可能であるとの解釈を容れる余地があったことによるものであり,また,原告等がそのような解釈に基づいてJR北海道等を相手方として不当労働行為救済の申立てを行ったことについては,現に,道労委や中労委がJR北海道等の不当労働行為を認定して救済命令を発したこと,上記解釈は,取消訴訟の結果最高裁判所においても否定されることとなったものの,最高裁判決においてもこれを支持する旨の少数意見が付されていたこと(甲5)などからすると,結果として最高裁判所の採るところとならなかったとはいえ,相応の根拠が存したものということができる。

このように,上記の昭和62年当時において原告等が本件不選定による損害として認識していたところは,現実の損害と解すべき事情とは,本件不選定の結果,原告等がJR北海道等に採用されるための途が全く閉ざされるのか,労働委員会等による救済の途があるのかという点で大きく異なるのであり,
この点はJR北海道等への採用を強く望んでいた原告等としては,本件不選定の結果自らが置かれた法的状況に関し,結果的には誤った判断をしたといわざるを得ないものの,そのような解釈を採ったことについては,相応の理由もあり,やむを得ないことであったというべきである。してみると,原告等は,昭和62年当時,慰謝料の前提となる原告等の法的地位について,客観的な状態とは全く異なった認識しか有していなかった以上,権利の行使についての適切な意思決定は期待できなかったといえるから,原告等がこの段階で損害を知ったということはできないものというべきである。そして,原告等がこの点につきJR北海道等への採用されることが困難であることを前提とした自らの状況を認識するに至ったのは,救済命令の取消訴訟が最高裁判決により確定した平成15年12月22日の時点であると解されるから,この時点で初めて損害を知ったものというべきである。
(4)

よって,被告の時効の主張は,その主張する起算点において原告等が損害
を知ったとは認め難いので,採用することができない。
4
争点(2)・損害額について
証拠(甲8の1∼58,10の1∼58,11,12,16∼19,原告P7,同P8,同P9,同P10,同P11,同P12,同P13,同P14,同P15及び同P16)及び弁論の全趣旨によれば,原告等は,国鉄が本件名簿を作成するに際し,
前記のように公平な取扱いを得られなかったことにより,
公平な選考により承継会社への就職を果たす機会を奪われたものであって,これにより多大の精神的打撃を被ったものと推察され,その他本件で認められる
諸般の事情を斟酌してこれらの損害を金銭に見積もると,原告等につき,それぞれ500万円を下るものではないと認められる。
また,原告らは,訴訟代理人弁護士に委任して本訴の提起,追行に当たっているところ,
その費用につき本件不法行為と相当因果関係に立つ損害としては,原告らにつきそれぞれ上記慰謝料額の1割に相当する50万円をもって相当と認める。
もっとも,原告らが本件不選定による損害として主張する賃金,退職金,各種年金の差額については,前示によると,これらを本件不選定による損害とみることはできない。
第5

結論
以上によれば,原告らの本訴請求は,各原告につき550万円及びこれに対する不法行為の後の日である昭和62年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので,上記の限度で認容することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第11部

裁判長裁判官

佐村浩之
裁判官

村越啓悦
裁判官

篠原淳一
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