判例検索β > 平成19年(行ウ)第93号
遺族年金不支給決定処分取消等請求事件
事件番号平成19(行ウ)93
事件名遺族年金不支給決定処分取消等請求事件
裁判年月日平成20年10月31日
法廷名東京地方裁判所
判示事項旧医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法(昭和54年法律第55号,平成14年法律192号により廃止。)28条1項4号,5号,同施行令8条1項(現行独立行政法人医療品医療機器総合機構法(平成14年法律第192号。以下「機構法」という。)16条1項4号,5号及び同法施行令10条1項に相当)に基づく遺族年金及び葬祭料の給付請求に対する不支給決定が,適法とされた事例
裁判要旨旧医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法(昭和54年法律第55号,平成14年法律192号により廃止。)28条1項4号,5号,同施行令8条1項(現行独立行政法人医療品医療機器総合機構法(平成14年法律第192号。以下「機構法」という。)16条1項4号,5号及び同法施行令10条1項に相当)に基づく遺族年金及び葬祭料の給付請求に対する不支給決定につき,遺族年金及び葬祭料は,医療品の適正使用による副作用により健康被害を受けた場合に限って支給されるところ,発生した健康被害が医療品の副作用であると認められるためには,?当該医薬品の投与が適正使用に該当すると認められ,かつ,当該健康被害がその適正使用によって生じたと認められる場合,又は,?当該医薬品の投与が適正使用に該当しない場合であっても,当該健康被害がその投与のうち適正使用に係る部分によって生じたものと認められる場合でなければならず,いずれの要件についても,副作用救済給付を求める者がその立証責任を負うとし,医薬品の投与が適正使用といえるかの判断に当たっては,添付文書記載の用量・用法の遵守の有無のほか,投薬当時の医学水準及び医療の実情,患者の年齢・身体状況及び疾病の性質・状態などの諸般の事情を考慮した上で個々の事案ごとに個別具体的に判断すべきであるとした上,?医療品の投与が適正使用に該当しないと認められるが,健康被害がその投与のうち適正使用に係る部分によって生じたものと認めることはできないとして,前記不支給決定を適法とした事例
裁判日:西暦2008-10-31
情報公開日2017-10-19 18:51:46
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主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は,原告の負担とする。

第1

実及び理由
請求
被告が平成17年3月7日付けで原告に対してした遺族年金及び葬祭料の不支給決定処分(薬機発○○号)を取り消す。

第2

事案の概要
本件は,脳出血による入院中に独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(平成14年法律第192号。以下機構法という。
)所定の許可医薬品である
抗精神病薬ハロペリドール(商品名▲▲注射液
。以下▲▲注という。

の投与後に死亡した亡P1の妻である原告が,機構法に基づく副作用救済給付としての遺族年金及び葬祭料の支給請求をしたところ,被告が,▲▲注の使用が適正であったとは認められないので副作用救済給付の対象とすることができないとの理由で,いずれも不支給とする旨の決定(以下本件不支給処分という。をしたことから,原告が,亡P1に対する▲▲注の使用は適正であり,)
同人は▲▲注の投与の副作用により死亡したものであって,本件不支給処分は違法であるとして,その取消しを求めている事案である。

1
関係法令
(1)

医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法(昭和54年法律第55号。
平成14年法律第192号による廃止前のもの。以下「旧機構法」という。)ア
医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(以下「旧機構」という。)は,
医薬品の副作用による疾病,障害又は死亡に関して,医療費,障害年金,遺族年金等の給付を行うこと等により,医薬品の副作用により医薬品の副作用による健康被害の迅速な救済を図ることを目的として(旧機構法1条1項)
,同法に基づき設立された法人である(同法3条,4条)


旧機構は,上記アの目的を達成するため,医薬品の副作用による疾病,障害又は死亡につき,医療費,医療手当,障害年金,障害児童養育年金,遺族年金,遺族一時金及び葬祭料の給付を行うこととされ(旧機構法27条1項1号)
,具体的な遺族年金又は葬祭料の支給は,医薬品の副作用に
より死亡した者の遺族(配偶者,子,父亡,孫,祖父母又は兄弟姉妹であって,
当該死亡した者の死亡の当時その者によって生計を維持していた者)又は葬祭を行う者の請求に対し,旧機構が支給決定をすることによって行う(同法28条1項4号,5号,同法施行令8条1項)


(2)

機構法
被告は,医薬品の副作用等による健康被害の迅速な救済を図ること等の業務を行い,もって国民保健の向上に資することを目的として(機構法3条)
,同法に基づき設立された独立行政法人である(同法2条)



被告は,上記アの目的を達成するため,医薬品の副作用による疾病,障害又は死亡につき,医療費,医療手当,障害年金,障害児養育年金,遺族年金,遺族一時金及び葬祭料の給付(以下「副作用救済給付」という。)を行うこととされ(機構法15条11項1号イ)
,具体的な遺族年金又は葬祭
料の支給は,医薬品の副作用により死亡した者の遺族(配偶者,子,父亡,孫,祖父母又は兄弟姉妹であって,当該死亡した者の死亡の当時その者によって生計を維持していた者)又は葬祭を行う者(以下,併せて遺族等という。
)の請求に対し,機構が支給決定をすることによって行う(機構
法16条1項4号,5号,同法施行令10条1項)



被告の成立の時(平成16年4月1日)において,旧機構は解散し,旧機構の一切の権利義務は被告に承継され(機構法附則13条1項),機構
法の施行日前に旧機構法又は同法施行令の規定によりした処分,手続その他の行為は,機構法若しくは同法施行令又は独立行政法人通則法中の相当する規定によりした処分,手続その他の行為とみなされている(機構法附則22条,機構法施行令附則15条)


機構法において医薬品の副作用とは,許可医薬品が適正な使用目的に従い適正に使用された場合においてもその許可医薬品により人に発現する有害な反応をいう(機構法4条6項。以下,同項に規定する適正に使用されたことを適正使用ともいう。。)


医薬品の副作用による疾病,障害又は死亡がその者の救命のためにやむを得ず通常の使用量を超えて当該医薬品を使用したことによるものであり,かつ,当該健康被害の発生があらかじめ認識されていた場合その他これに準ずると認められる場合(機構法施行規則3条)には,副作用救済
給付を行わない(機構法16条2項3号。以下,同法施行規則3条に規定する上記の事由を「不支給事由」ともいう。)


2
前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)

当事者


原告は,平成▲年(以下,特に注記しない限り,平成▲年中の事情であ
る。)▲月▲日に死亡した亡P1の妻である。

被告は,機構法及び独立行政法人通則法の規定により設立された独立行政法人である。

(2)

亡P1の診療等の経緯及び症状
診療等の経緯
亡P1は,1月31日午後10時ころ,高血圧性脳出血を発症し,医療法人社団P2の経営するP3病院(以下本件病院という。
)に救急搬
送され,本件病院において,別紙1診療経過一覧記載のとおり,治療を受け,その治療において,本件病院のP4医師により,別紙2亡P1に対する▲▲注の投与量記載のとおり,せん妄(後記イ)に対する処置として▲▲注の投与を受けたところ,
遅くとも2月9日には悪性症候群後

記ウ)を発症し,▲月▲日午後2時に死亡した(以下「本件被害」という。)。(甲3,4)

せん妄
せん妄は,認知障害や興奮,幻覚などの精神症状を伴った意識障害の特殊型である。せん妄の特徴的な症候は,意識障害であり,認知機能の全般的な障害に際して見られ,気分,認知,行動の異常といった精神症状,振戦,羽ばたき振戦,運動失調,尿失禁といった神経学的症状がよく見られるが,意識混濁は軽度で,JapanComaScale(別紙3診断基準記載1の意識レベルの診断基準。以下,この診断基準をJCSといい,同基準による意識レベルを「Ⅰ10」,
Ⅱ100等と表記する。)ではⅠの
レベルにあることが多い。また,せん妄の症状は,突然に発症し,短期に変動する経過を経て,原因となる要素が除去されると急速に改善するという経過をたどることが典型である。
(甲17,18,乙30)
せん妄は,症候群であり,疾患ではなく,その原因は様々であり,その根本的原因を確認して治療する必要があるが,併せて,せん妄に関連する合併症の発生を避けるための治療を行う必要がある。集中治療室や一般の病棟で特に問題となるせん妄に関連する合併症には,意識障害又は協調作用の障害による正規の治療の中断や,不必要な拘束具の使用等による傷害があり,
せん妄の症状に対しては薬物療法による治療が必要とされる。甲

18,29)
薬物療法がされた場合の鎮静深度を評価する基準としては,別紙3診断基準記載2のRamsay鎮静スケール(以下「鎮静スケール」という。)が,せん妄による不穏状態を評価する基準としては,別紙3診断基準記載3及び4のSedation-AgitationScale(以下「SAS」という。)及びRichmondAgitation-SeddationScale(以下「RASS」という。)が,それぞれ有用である。
(甲25)

悪性症候群
悪性症候群は,抗精神病薬の投与中に出現する最も重篤な副作用の一つであり,
高熱や意識障害に加え,
振戦,筋強剛などの錐体外路症状や発汗,
頻脈などの自律神経症状を呈しながら,時には致死性の転帰をとる一連の症候群である。
(乙14)
悪性症候群の発症については,抗精神病薬の大量投与若しくは投与量の増量又は筋肉注射による頻回の投与により悪性症候群が発症することが多いとする研究報告があり,特に▲▲注の関与が非常に強く,典型的な発症様式と考えられるとする研究報告もある。
(甲21(海外の報告例の引用
部分)
,乙13ないし15,22,23,27,33)

(3)

原告の損害賠償請求訴訟の経緯
原告は,亡P1の子らとともに,平成13年12月26日,医療法人社団
P2に対し,亡P1はP4医師が医薬品添付文書記載の用量を大幅に超過する大量の▲▲注を投与して悪性症候群を発症させた過失により死亡したとして,診療契約の債務不履行及び不法行為に基づき,損害賠償(合計2億1252万5872円)及び遅延損害金の支払を求めて訴えを提起した(当庁平成▲年(ワ)第▲号損害賠償請求事件。以下別件訴訟という。。

原告は,亡P1の子らとともに,平成15年8月28日,医療法人社団P2との間で,次の内容の訴訟上の和解をした(以下別件和解という。。)
(乙4,5)

医療法人社団P2は,原告及び亡P1の子らに対し,和解金として,合計5000万円の支払義務(原告及び亡P1の子らの連帯債権)のあることを認め,これを平成15年9月30日限り支払う。


原告及び亡P1の子らは,当該事件に関し,医療法人社団P2の医療従事者に対する損害賠償請求権を放棄し,同医療法人及びその医療従事者に対し,名目のいかんにかかわらず,民事上,刑事上,行政上等の一切の責任追及を行わない。

医療法人社団P2は,原告及び亡P1の子らが亡P1の死亡に関して行う医療品副作用被害救済基金の申請手続について可能な協力を行う。

原告及び亡P1の子らは,その余の請求を放棄する。


原告及び亡P1の子らと医療法人社団P2は,当該事件に関し,上記アないしエの和解条項に定めるもののほか,何らの債権債務のないことを相互に確認する。


(4)

別件訴訟の訴訟費用は,各自の負担とする。
本件訴訟に至る経緯
原告は,旧機構に対し,亡P1が▲▲注の副作用として悪性症候群を発症し,これに続発する急性腎不全により死亡したとして,平成15年10月31日付けで遺族年金を,同年11月18日付けで葬祭料を,それぞれ請求した(以下本件請求という。。
)(乙6,7)


平成16年4月1日に旧機構の一切の権利義務を承継した被告は,同年7月1日,機構法17条1項に基づき,厚生労働大臣に対し,本件請求に係る亡P1の死亡の原因が医薬品の副作用によるものであるかどうかその他医学的薬学的判定を要する事項に関し,判定の申出を行い,厚生労働大臣は,平成17年1月20日に薬事・食品衛生審議会から答申を得て,同年2月17日,被告に判定の結果を通知した。


被告は,平成17年3月7日付けで,原告の本件請求に係る遺族年金及び葬祭料をいずれも不支給とする旨の決定をし(本件不支給処分),同月
8日,原告にこれを通知した。その通知書には,決定の理由として,亡P1は悪性症候群に続発した急性腎不全により死亡し,その原因と考えられ又は推定される医薬品には▲▲注が含まれるが,亡P1に対しては,3日間にわたり大量の▲▲注が投与されているところ,▲▲注の使用については,悪性症候群等の発症に留意し,投与量を可能な限り抑制するための試み(例えば,睡眠薬の併用,身体拘束等)がされるべきであるのに,本件ではこのような対応が十分にされたとは考え難く,▲▲注の使用について適正であったとは認められないとの理由が記載されていた。
(甲5)

原告は,同年4月28日,厚生労働大臣に対し,本件不支給処分を不服として,機構法35条1項に基づく審査の申立てをしたが,厚生労働大臣は,平成18年8月28日付けで,その審査の申立てを棄却する裁決をした。その裁決書には,裁決の理由として,本事例については,短期間に大量の▲▲注が投与されており,当該医薬品の使用について適正であったと認めることは困難であるとの理由が記載されていた。
(甲6)


原告は,平成19年2月15日,被告に対し本件不支給処分の取消しを求めるとともに,国を被告として上記エの裁決の取消しを求めて,本件訴訟を提起したが,平成20年2月13日,国を被告とする訴えの全部を取り下げ,同月28日,被告は同取下げに同意した。
(顕著な事実)

3
争点
本件の争点は,以下のとおりであり,これに対する当事者の主張の要旨は,後記4の争点に関する当事者の主張の要旨記載のとおりである。
(1)

本件被害が▲▲注の副作用によるものであるか否か。


適正使用の要件等の判断方法


本件の▲▲注の投与が適正使用に当たるか否か。


本件被害が適正使用に係る投与に起因して発生したものか否か。

(2)

本件被害が副作用救済給付の不支給事由(機構法施行規則3条)に当た
るか否か。
4
争点に関する当事者の主張の要旨
(1)

争点(1)(本件被害が▲▲注の副作用によるものであるか否か)について
(原告の主張の要旨)

適正使用の要件等の判断方法
(ア)

▲▲注の投与が適正使用に該当するか否かについては,▲▲注の医
薬品添付文書に記載された用法・用量の記述のみにとらわれるのではなく,投薬時点における患者の病状や医学文献によって示される当時の医学的知見を考慮に入れて,検討を行わなければならない。
損害賠償請求訴訟では,医薬品の不適正な使用に係る過失・因果関係の立証には相当の困難を伴うことからすれば,適正使用の要件が厳格に解されると,医学知識に乏しい被害者は,当該被害が医療過誤によるものなのか,医薬品の適正使用によるものなのかを事前に判断することは事実上不可能であることもあり,損害賠償請求訴訟ないし医薬品副作用被害救済制度のいずれによっても被害の救済を受けられない場合が生じ得ることとなるが,これは医薬品副作用被害救済制度の趣旨に反する。このような事態を回避するためには,適正使用の要件を満たさないものとして副作用被害救済の対象外とされるのは,①医薬品の投与が一見明白に不適切であり,かつ,②不適切な投与により被害が発生したことが明らかであって,③被害者が民事訴訟において投薬を行った医療機関の責任を容易に立証できる場合に限られるというべきである。
したがって,被害の原因となった医薬品の使用法が添付文書の記載に合致しない場合であっても,
医療の実態との関連で,
個別の事例に応じ,
医学,薬理学,薬学の診療当時の学問水準に照らし,総合的な見地から判断して,上記①ないし③の要件に該当する場合を除いては,適正使用の要件に該当すると認められ,副作用救済給付の対象となるというべきである。
(イ)

医薬品の不適切な使用による医療過誤と適正使用による副作用被害
は必ずしも明確に区別されるわけではなく,前者は,臨床医学の実践における医療水準が判断基準となり,後者は,被告の主張によれば,医療の実態,平均的な医療水準,学問水準が判断基準となる。そして,医師が医療慣行(医療の実態)に従った医療行為を行ったからといって医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできないとされている最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・民集50巻1号1頁)(
ので,
平均的な医師の水準
(医療慣行)を満たすものとして副作用
救済給付との関係で適正使用と評価される投薬行為の中にも,臨床医学の実践における医療水準には達しておらず,医療過誤と評価されるべきものが存在することになる。

本件の▲▲注の投与が適正使用に当たること
P4医師が亡P1に対し医薬品添付文書に記載された用量を超えて▲▲注を投与したことについては,
以下のとおり,
十分な医学的根拠が存する。
したがって,本件の▲▲注の投与量及び投与法は,被告の主張に係る医療の実態,平均的な医療水準,学問水準に照らしても,適正使用の要件を満たすといえる。
(ア)

適正な用量であったこと
医薬品添付文書の記載は,一定の規範性を有するものであるが,医療の実態という観点で見るならば,一般に,添付文書の用量を超える投与がされる自体は珍しいことではない。せん妄の治療においては,鎮静のために必要な量を使わざるを得ないというのが臨床現場に
おける感覚であり,医学文献(甲29)でも,臨床現場では必要に応じて▲▲注の高用量投与が行われていることが指摘されている。


臨床現場で広く参照されている医学文献(甲15)では,精神運動興奮状態に対する急速神経遮断療法として,▲▲注(15mgないし60mg)の大量・定期的な静注又は筋注が,患者の沈静化や幻覚・妄想を消失させるために極めて有効性が高いことが指摘されている。平成12年に刊行された他の医学文献(甲33)でも,1回投与量50mg,1日の総投与量500mgまでの▲▲注の静注投与がされた例の報告や,▲▲注を10mg静注し,引き続いて毎時5ないし10mgの持続点滴をする方法の提案など,▲▲注の大量投与を支持する指摘がされている。
このように,平成12年当時,せん妄患者に対する▲▲注の高用量投与(60mg程度まで)が,臨床現場では広く一般的に行われていた。
(イ)

適正な用法であったこと
亡P1は,2月2日午前10時ころから体動が激しくなり,酸素マスクを外したり,起き上がってベッドから降りようとしたり,点滴チューブを抜針しようとしたりした。同日午後4時には,点滴チューブを実際に抜針し,午後4時20分には意味不明の言動があり,午後4時30分になっても興奮状態が続いていた。このように,亡P1は,午後4時30分の時点で急激な精神運動興奮などで緊急を要する場合にあったことが明らかであり,▲▲注の投与が決定されたことには何の問題もない。


また,同日午後4時55分の時点で鎮静剤の効果により亡P1が傾眠傾向にあるとの評価がされても,鎮静状態が一定時間継続しなければ緊急状態を脱したとの評価を下すことはできない。亡P1は,同日午後5時30分に再び暴れ出し,抑制帯を使用していたにもかかわらず起き上がろうとしたのである。せん妄の患者については,鎮静剤により一定の鎮静が得られた後でも,持続的な鎮静効果を得るために▲▲注の持続点滴静注を継続することが必要であり,臨床現場でもそのような投与法が広く実践され,医学文献(甲11,26)でも推奨されている。


なお,せん妄の治療に関する医学文献でも,抑制帯の使用等を鎮静剤の持続投与に優先させて行うべきとするものは見当たらず,いずれを選択するかは,患者の病状等に基づき,担当医が裁量で判断すべき事項である。

本件の▲▲注の投与量と本件被害との因果関係の実証の欠如
患者に生じた医薬品の有害作用が,当該医薬品が適正に使用された場合であっても同様に発現するものであれば,たとえ実際の投与が不適正と評価される場合であっても,医薬品の副作用といえる。換言すれば,医薬品が不適正に使用されたことを理由として副作用救済給付を拒絶するためには,医薬品の不適正な使用と患者に生じた有害作用との間に因果関係が存在することが必要である。
医学文献でも,悪性症候群が用量依存性の副作用ではないことが指摘されており,現時点においても,▲▲注の投与量と悪性症候群の発症との間の関連性の存在は医学的に実証されていない。
そうすると,
本件において,
仮に▲▲注の投与量が添付文書に記載された用量の範囲内であったとしても,悪性症候群が発症した可能性が十分に存在することになるから,亡P1の悪性症候群の発症は,機構法4条6項にいう医薬品の副作用にほかならないことになる。

(被告の主張の要旨)

適正使用の要件等の判断方法
機構法4条6項における適正使用とは,原則的には,医薬品が厚生労働大臣の承認を受けた用法・用量の範囲内で使用され,かつ,その医薬品の容器や添付文書に記載されている使用上の注意が守られていることをいい,厚生労働大臣の承認を受けた用法・用量の範囲を超える場合であっても例外的に適正使用とされるのは,医療の実態,平均的な医療水準・学問水準との関係で,当該使用の時点における我が国の医療の平均的な水準において適正と評価され得る場合に限られるというべきである。
そして,機構法16条1項の規定振りからすれば,適正使用の要件を含め,当該被害が医薬品の副作用により生じたことの立証責任については,副作用救済給付の請求をする者がその立証責任を負うというべきである。イ
本件の▲▲注の投与は適正使用に当たらないこと
(ア)

用法違反
P4医師による亡P1に対する▲▲注の投与が適正使用であると認められるためには,亡P1が急激な精神運動興奮などで緊急を要する状態にあったことが必要である。また,せん妄に対する処置のために▲▲注を用いる場合,添付文書に記載された用法・用量の範囲内で投与し,それでも症状の改善が認められないときは,無理な治療を行うことなく,患者を抑制し,十分な観察を行いながら,症状がおさまるのを待つことが求められるというべきである。
P4医師による2月2日午後4時43分,4時45分に行われた▲▲注の各5mgの投与は,静脈注射によるものであるが,当時の亡P1の状態が急激な精神運動興奮などで緊急を要する状態であったならば,かかる暴れる患者に対しては筋肉注射が選択されたはずであり,それにもかかわらず,静脈注射が実施されたことからすれば,その時点の亡P1の状態が急激な精神運動興奮などで緊急を要するほどのものであったか疑問がある。
そうすると,
▲▲注の投与を行うにしても,
投与後一定の間症状を観察し,抑制帯をかけるなど,物理的な対処をすることで十分な対応が行えたものというべきであるから,この意味においても,短時間(2分間)に2度にわたって1アンプルずつ▲▲注の静脈注射を行い,亡P1の状態が落ち着いたにもかかわらず,さらに,同日午後4時55分ころ,1日当たりの投与量が約57.1mgにもなる点滴速度で持続点滴投与を開始し,同日午後5時30分からはその倍の点滴速度でこれを継続したことは,▲▲注の添付文書記載の用法に従っていないものというべきである。b

さらに,P4医師は,同日午後10時に▲▲注の点滴速度を毎時10ccに変更した後,同月4日午前9時に投与を終了するまでの間,▲▲注の点滴投与をいったん中止して亡P1の状態・様子を観察したり,点滴速度を更に遅くして観察をするなどといった措置を全く試みず,1日当たり約57.1mgの速度による持続点滴投与を継続したのであり,▲▲注の用法に従った使用をしていない。


原告は,せん妄症状の発症初期に▲▲注を大量に投与する方法による治療を提唱する医学文献(甲11)を根拠として,P4医師による▲▲注の投与にも医学的根拠があると主張する。しかしながら,上記医学文献が提唱する投与方法は,大量の▲▲注を許容する一方で,投与には30分以上の間隔をあけるなど,一定の時間をかけて経過観察をしながら慎重に投与することを求めているのであって,本件のように5mgの静脈注射のわずか2分後に再度5mgを投与し,その後も1日当たり約77.2mgもの投与を行った症例まで許容する趣旨とは解されない。なお,同医学文献の著者は,その後に発表した医学文献(乙29)においては,投与量の上限を1日当たり30mg程度と相当低く記述している。

(イ)

用量違反
▲▲注の添付文書(甲10)には,通常成人1回5mg(1mL)

を1日に1∼2回筋肉内または静脈内注射する。なお,年齢,症状により適宜増減する。,

高齢者では,少量から投与を開始するなど患者の状態を観察しながら慎重に投与すること。〔錐体外路症状等の副作用があらわれやすい。

と記載されている。〕
P4医師による亡P1に対する▲▲注投与が適正な使用であると認められるためには,亡P1の年齢,症状等に照らして同剤の用法・用量が適正であると認められることが必要である。b

亡P1が▲▲注の投与を受け,悪性症候群を発症した当時,多くの医学文献(乙13,14ないし19,33)においては,▲▲注の投与につき,①▲▲注の大量投与,投与量の急激な増加,頻回の投与及び非経口投与が,悪性症候群の発症の危険性を増大させること,②脳の器質的障害や身体的疲へい,脱水,栄養障害が,悪性症候群の発症に影響を与えること,③せん妄に対して▲▲注を投与する際は,悪性症候群を念頭に置いて臨床症状を慎重に観察すること,④高齢者への投与については特に注意することが指摘されていた。
亡P1は,高齢者であり,高血圧性脳出血を原因として脳室ドレナージ術を受けたばかりで身体的に疲労し,脳が脆弱性を有していた状態であり,悪性症候群を発症する危険性が高い状態であったといえるから,経過観察を含め,一定の時間をかけた慎重な投与を行う必要があったというべきである。しかしながら,P4医師は,
亡P1に対し,
添付文書に記載された用量を大きく超える1日当たり最大約77.2mgもの▲▲注を投与した上,その投与間隔も午後4時43分及び45分に各5mgの静脈注射をし,午後4時55分からは1日当たり57.1mgの速度で,午後5時30分からはその倍の速度で点滴静注による投与を継続したのであるから,本件におけるP4医師による亡P1に対する▲▲注の投与は,同剤の用法・用量を著しく逸した不適正なものといわざるを得ない。


不適正な使用と被害との間の因果関係は要求されないこと
機構法は,
医薬品の副作用による死亡等について救済給付を行うと
し(15条1項1号)医薬品の副作用につき,許可医薬品が適正な,
使用目的に従い適正に使用された場合においてもその許可医薬品により人に発現する有害な反応をいう(4条6項)と定めているのであるから,不適正な使用のためにそもそも医薬品の副作用に該当しないものについては,因果関係の存否にかかわらず,当然,救済給付を予定しないものというべきである。
(2)

争点(2)(本件被害が副作用救済給付の不支給事由に当たるか否か)につ
いて
(被告の主張の要旨)

副作用救済給付は対象医薬品の適正な使用による場合であっても,すべての健康被害を対象として行われるものではなく,機構法施行規則3条に定める不支給事由に該当する場合には給付が行われない。
個別の事例が副作用救済給付の不支給事由に該当する否かの判断は,同法施行規則3条所定の典型的な例に照らし,受忍を求めることについて,社会通念上これと同程度の妥当性を有するか否かを基準として行われる。この場合,必ずしも同条所定の典型例の構成要素である5つの要件(①医薬品が救急救命の状況で使用されること,
②代替する治療方法がないこと,
③医薬品が通常の使用量を超えて使用されること,④医薬品の副作用による健康被害の発生の可能性があらかじめ認識されていたこと,⑤あらかじめ認識されていた医薬品の副作用による健康被害が発生したこと)のすべてを満たしていなくても,他の状況,要因等を踏まえて,総合的な見地からその典型例に準ずると認められるか否かを判断することになる。そうすると,本件において,本件におけるP4医師の▲▲注投与が適正使用と認められない点を措くとしても,当該投与は機構法施行規則3条の要件を満たし,副作用救済給付が行われない事例に該当するというべきである。


そして,医学文献によれば,▲▲注の大量投与及び投与量の急激な増加によって,悪性症候群の発症の危険性を増大させることは明らかである。また,仮に原告が主張するように▲▲注の投与による副作用の発現に用量依存性が認められないとしても,本件において亡P1が▲▲注の大量投与により悪性症候群を発症したことは否定し難いから,機構法施行規則3条の要件である通常の使用量を超えて当該医薬品を使用したことによるものに該当するというべきである。(原告の主張の要旨)
本件の▲▲注の投与量は,臨床現場における一般的な投与量の範囲内といえるから,
通常の使用量を超えて当該医薬品を使用した場合には該当し
ない。
また,機構法施行規則3条は,医薬品の使用量を健康被害との間の因果関係が必要であることを明文をもって要求しているところ,▲▲注の投与量と悪性症候群発症の危険性との間にはいわゆる用量依存性が存在するとの医学上の根拠はなく,悪性症候群の発生には体質など個人の要因が影響していることが指摘されている。したがって,
通常の使用量を超えて当該医薬品を使用したことにより健康被害が発生した場合に該当しない。第3
1
争点に対する判断
争点(1)(本件被害が▲▲注の副作用によるものであるか否か)について(1)

適正使用の要件等の判断方法について
機構法の医薬品副作用被害救済制度は,医薬品の副作用による健康被害については,医薬品の特殊性のため,民事法の手続による医薬品の製造販売業者等の損害賠償責任の追及によって救済を受けることが困難であり,他方,医薬品の製造販売業者等は,有効かつ安全な医薬品を適切に社会に供給すべき社会的責任を負うとともに,危険を内在する医薬品を社会に供給することにより企業活動を営んでいる以上,医薬品の副作用による健康被害の救済を第一次的に行う社会的責任をも負担すべきものといえることから,医薬品の製造販売業者等の拠出金によって,医薬品の副作用による健康被害に対する救済給付を行うことにより,その迅速な救済を図ることを目的として設けられた制度であると解される(乙2参照)
。したがって,機構法の医薬品副作用被害救済制度は,医療従事者による医薬品の不適正な使用に起因する健康被害についてまで,医療過誤訴訟による損害賠償責任の追及の難度等を考慮して救済の対象としたものではなく,そのような医薬品の不適正な使用に起因する健康被害は,同制度による救済の対象に含まれていないものと解するのが相当である。

機構法4条6項は,医薬品副作用被害救済制度の対象となる医薬品の副作用について,当該医薬品により人に発現する有害な反応であると定め,医薬品自体が有する反応の有害性に重点を置く一方,
適正な使用目的に従い適正に使用された場合という要件を規定しているところ,不適正な用法・用量の投与に起因して生じた健康被害は,当該医薬品自体が有する反応の有害性に基づいて発生したものとはいえないことから,上記適正使用の要件は,上記アの制度の趣旨を踏まえ,かかる不適正な用法・用量の投与に起因して生じた健康被害を,医薬品副作用被害救済制度の対象となる医薬品の副作用から除外する趣旨で規定されたものと解するのが相当である。
そして,機構法16条1項各号は,副作用救済給付の支給につき,医薬品の副作用による健康被害により疾病,障害又は死亡の被害を受けた者又はその遺族等がその請求権を有し,これらの者の請求に基づき支給決定をするものと規定しており,副作用救済給付の支給決定の授益的処分としての性質及びその根拠法規の上記文言・構造等に照らすと,当該被害が機構法4条6項に規定する医薬品の副作用によるものであること(当該健康被害が許可医薬品が適正に使用された場合においてもその許可医薬品により人に発現する有害な反応により生じたものであること)についての立証責任は,
副作用救済給付の請求権の権利発生事由に係るものとして,
副作用救済給付を請求する者がこれを負うものと解するのが相当である。

他方,機構法16条2項及び同法施行規則3条は,同法4条6項の要件に該当する場合であっても,医薬品の副作用による健康被害が,その者の救命のためにやむを得ず通常の使用量を超えて当該医薬品を使用したことによるものであり,かつ,当該健康被害の発生があらかじめ認識されていた場合その他これに準ずると認められる場合,すなわち,不支給事由の存在が認められる場合には,副作用救済給付を行わないと定めている。そして,これらの機構法の規定の構造等に照らすと,上記の不支給事由は,
医薬品の副作用による健康被害に係る副作用救済給付の請求権の
権利障害事由に該当するものといえるので,この不支給事由の存在については,被告が立証責任を負うものと解される。

このような医薬品副作用被害救済制度及び適正使用の要件の趣旨,機構法の規定の文言・構造等によれば,(ア)医薬品の投与がされた場合に生じた健康被害が,機構法4条6項の医薬品の副作用によるものと認められるためには,①当該医薬品の投与が適正使用に該当すると認められ,かつ,当該健康被害がその適正使用によって生じたと認められる場合,あるいは,②当該医薬品の投与が適正使用に該当するとは認められないが,当該健康被害が,その投与のうち,不適正な使用に係る部分によるのではなく,適正使用に係る部分によって生じたものと認められる場合のいずれかに該当することを要するものであり,(イ)上記イの立証責任の帰属を併せ考えると,上記①(医薬品の投与が適正使用に該当する場合)又は上記②
(医薬品の投与が適正使用に該当しない場合)
のいずれの要件についても,
副作用救済給付を請求する者がその立証責任を負うものと解するのが相当である。
そして,医薬品の投与が適正使用といえるか否かの判断に当たっては,厚生労働大臣の承認を受けた添付文書記載の用量・用法の遵守の有無のみならず,投薬当時の我が国の医学(薬理学・薬学を含む。以下同じ。)の
水準及び医療の実情,当該患者の年齢・身体状況及び疾病の性質・状態等の諸般の事情を考慮した上での総合的な見地から,個々の事案ごとに個別具体的に判断する必要があるというべきである。なお,投薬の用量について,適正使用の要件に該当するのは,厚生労働大臣の承認を受けた添付文書記載の使用量の範囲内で投薬がされている場合が原則であるが,これを超過した用量の投薬がされた場合でも,上記の諸般の事情を総合考慮した上で,
医薬品の副作用による被害と認められる場合があり得ると解さ
れ,このことは,上記ウの機構法及び同法施行規則の規定上も前提とされているといえる。

これに対し,
原告は,①医薬品の投与が一見明白に不適切であり,かつ,
②不適切な投与により被害が発生したことが明らかであって,③被害者が民事訴訟において投薬を行った医療機関の責任を容易に立証できる場合でない限り,適正使用の要件を充足する旨主張する。
しかしながら,原告の所論は,医薬品の不適正な使用に起因する健康被害についても,その立証の困難のために医療過誤訴訟による損害賠償責任の追及が困難な場合には,副作用救済給付制度において補完的に救済の対象とすべきことを前提として,適正使用の要件に関する立証責任を被告に転換しようとするものというべきところ,上記ア及びイに述べた副作用救済給付制度の趣旨,適正使用の要件の趣旨・立証責任等に照らし,所論はその前提を欠くものであり,機構法の規定の文言・構造等とも整合せず,採用することができない。

(2)

本件の▲▲注の投与等に係る事実経過及び医学的知見等
そこで,上記(1)の判断の枠組みを前提として,まず,本件における亡P
1に対する▲▲注の投与が適正使用に当たるか否かについて検討するに,その基礎となる事実として,前記前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

亡P1に対する▲▲注の投与及びその前後の状況(ア)

亡P1に対する▲▲注の投与の開始前の状況
亡P1(身長172cm,体重90kg)は,1月31日午後8時こ
ろ帰宅した後に頭痛があり,同日午後10時20分ころ,嘔吐及び意識障害が見られたことから,救急車を呼び,同日午後11時10分ころ,本件病院の救急外来に搬送された。亡P1には,本件病院への搬入時,右片麻痺が見られたほか,半昏睡から昏睡状態(Ⅲ200ないしⅢ300)の意識状態になっており,本件病院におけるCT検査の結果,左脳室穿破を伴う左視床出血が発見されたことから,脳外科に転科され,P4医師がその治療を担当することとなった。P4医師は,左脳室穿破を伴う左視床出血が発見され,亡P1が急性水頭症を呈しており,胸部X線検査により心肥大が見られたことから,亡P1が高血圧性の脳出血を発症したと診断し,また,右片麻痺が見られたことから,上記脳室穿を伴う脳内出血によって脳室内に髄液が充満し,内包後脚の部位が圧迫・損傷されている可能性があると考え,同月1日午前2時ころ,脳室ドレナージ術(脳室内に誘導管(ドレーン)を置き,脳室内の滲出液,血液を外方に向かって持続的に誘導する治療)を施行し,髄液の廃液を持続的に実施するとともに,除圧剤を投与して血圧の制御をする治療をすることとし,亡P1に対し,上記各治療を継続するため,頭部左側から脳室内に約6cmの深さにドレーンを挿入した上で留置し,さらに,輸液・投薬のための点滴静脈注射(DIV)用の点滴チューブ,排尿管理のための排尿カテーテルを留置したほか,酸素マスク及び血圧・脈拍等を測定する24時間モニターを装着した。
(甲1ないし3,乙32)
(イ)

亡P1に対する▲▲注の投与の開始時の状況
P4医師は,亡P1に対し,脳室ドレナージ術の排液量の増減,一時
中止を経て,上記(ア)の治療を継続し,その結果,亡P1は,意識レベルが上昇するなど改善傾向が見られ,2月1日午後5時ころには,麻痺もなくなり,血圧も120台に低下・安定し,意識レベルも更に改善して氏名・年齢を正確に返答できる状態に回復したが,同日午後7時ころになると,血圧が160台にまで上昇し,体動が激しくなり,点滴チューブを抜去したり,頭部のガーゼをはがすなどの行動が発現するなど不穏状態に陥った。その後,亡P1は,同日午後8時ころ及び午後10時ころ,体動が激しくなり,同月2日午前10時ころ,再度体動が激しくなり,酸素マスクを外し,同日午後0時ころ及び午後1時ころ,体動が激しくなり,ベッドから起き上がろうとしたり,点滴チューブを抜去しようとしたりし,同日午後4時ころには,

治療に疑問がある。殺される。

と言って暴れ,点滴チューブを抜去するなどの行動に及ぶといった不穏状態に陥り,
その結果,
亡P1により24時間モニターが外され,
血圧等を継続して測定することができなくなった。P4医師は,同日午後4時20分ころ,せん妄に関連する合併症により脳内出血に対する治療の継続ができなくなったり,脳室内に留置されたドレーンの移動・抜去による事故を回避するため,亡P1の鎮静を図るべく,○○(向精神薬。ベンゾジアゼピン系安定薬で,主成分はジアゼパム)1アンプルを静脈注射した上で説得を試みたが,亡P1の興奮はおさまらず,同日午後4時30分には,▲▲注5アンプル(1アンプル内に▲▲注5mgが入っている。
)を100mlの生理食塩水に混ぜた点滴液の毎時10c
cの点滴速度での持続点滴投与を開始するよう指示をしたが,同日午後4時43分ころ,亡P1が再度留置された点滴チューブを自己抜去したため,点滴による投与を断念し,▲▲注1アンプルを静脈注射により投与した。P4医師は,同日午後4時45分ころ,亡P1がやや落ち着いていたものの意味不明の言動があったことから,▲▲注1アンプルを静脈注射により投与し,さらに,同日午後4時50分,亡P1の身体は落ち着いてたものの多弁であったことから,更に強い鎮静作用が必要であると考え,○○1アンプルを静脈注射した。P4医師は,同日午後4時55分ころ,亡P1がやや傾眠傾向になっていたことを確認の上,再び不穏状態に陥らないようにするため,▲▲注1アンプルを100mlの生理食塩水に溶かした点滴液の持続点滴投与を開始した。同日午後5時2分ころ,
血圧等を測定するため24時間モニターが亡P1に装着され,
以後,亡P1に対してはSpO2(動脈血酸素飽和度)
,意識レベル,
血圧,体温,瞳孔,麻痺等の身体症状及び排尿量が連続的(又は1時間ごとのバイタルサインのチェック時)に測定・記録された。
(甲3,乙
32)
(ウ)

亡P1に対する2月2日午後5時30分以降の▲▲注の投与
P4医師は,2月2日午後5時30分ころには,亡P1が再び暴れ出
したため,▲▲注の点滴液の点滴速度を毎時20ccに増やしたが,同日午後5時45分ころには,亡P1が体幹及び四肢に抑制がされた状態で起き上がろうとしたことから,○○1アンプルを静脈注射し,さらに○○5アンプルを100mlの生理食塩水に溶かした点滴液の毎時10ccの速度による持続点滴投与を始めた。亡P1は,同日午後6時ころは

ちきしょう,ちきしょう。

と怒り,同日午後8時ころには体動が活発となるという不穏行動が見られたが,同日午後9時ころには,意味不明なことを言うものの,不穏行動は見られなくなった。
(甲3,乙3
2)
(エ)

亡P1に対する2月2日午後10時以降の▲▲注の投与
P4医師は,2月2日午後10時ころ,亡P1の脳室ドレナージによ
る髄液の排液量が多くなったことから,看護師に呼ばれ,亡P1を診察し,その際,▲▲注の点滴液の点滴速度を毎時10ccに減らした。亡P1は,同日午後11時ころ,意識レベルはⅠ1ないしⅠ2であったものの,
かなりぼーっとしている状態になり,2月3日午前1時ころには,上下肢運動が見られ,また,同日午前6時ころには体動が激しくなったものの,
同日午前7時ころ,
入眠しているのか不明な状態になり,
同日午前9時には意識レベルがⅡ10ないしⅡ20に,同日午前10時には意識レベルがⅡ20ないしⅡ30になったほか,瞳孔縮瞳が見られた。P4医師は,亡P1が半昏睡状態にあり瞳孔縮瞳が見られたことから,亡P1の鎮静につき,▲▲注の投与をそのままの点滴速度で持続して○○の投与を中止する方向に治療方針を変更し,○○の点滴液の点滴速度を毎時5ccに減らした。亡P1の意識レベルは,同日午前11時ころから午後4時ころまでは,Ⅱ10ないしⅡ20の状態であった。P4医師は,同日午後3時ころ,更に○○の点滴液の点滴速度を毎時3ccに減らしたが,亡P1の意識レベルは,同日午後6時ころにⅡ20ないしⅡ30の状態(傾眠傾向)に低下し,同日午後8時ころにはⅢ100の状態にまで低下した。P4医師は,そのころ,○○の持続点滴投与を中止した。亡P1の意識レベルは,同日午後9時ころ,Ⅱ10の状態にまで回復したが,同日午後11時ころ,再びⅢ100ないしⅢ200の状態(鎮静の効果が強く見られ開眼しない状態)に低下し,2月4日午前0時ころも,Ⅲ100の状態(刺激をしても,払いのける動作はするが,覚醒しない状態)のまま変化なく,同日午前1時ころも,Ⅲ100の状態のままであった。亡P1の意識レベルは,同日午前2時ころ,Ⅱ20に回復し,
看護師の呼びかけに大丈夫と返答する状態になり,
身体症状も著名な発汗がある程度であった。P4医師は,そのころ,脳室ドレナージの排液量が増加したことからコールされたが,亡P1について何らの指示・処置をしていない。
亡P1は,同日午前5時ころ,意識レベルがⅡ30ないしⅢ100の状態に低下し,呼びかけに対しあーという反応を,吸引処置に対し顔をしかめる反応を示すにとどまるようになり,同日午前6時ころ及び午前7時ころの吸引処置に対しても同様の反応しか示さず,意識レベルもⅢ100の状態が続き,同日午前8時ころには意識レベルがⅢ100ないしⅢ200の状態に低下した。
(甲3,乙32)
(オ)

亡P1に対する▲▲注の投与の中止
P4医師は,2月4日午前9時ころ,亡P1に対する▲▲注の持続点
滴投与を中止した。当時の亡P1の意識レベルは,Ⅱ20ないしⅡ30の状態で,瞳孔縮瞳やいびき様呼吸が見られたものの,離握手反応が確認され,看護師の呼びかけにもハイ大丈夫と返答していた。亡P1の意識レベルは,同日午前10時ころ,Ⅲ100に低下し,いびき様呼吸が見られ,同日午前11時ころから午後0時ころまでの間に,Ⅱ20ないし30になり,同日午後1時ころにはⅠ3ないしⅡ10,同日午後2時ころ及び午後3時ころにはⅡ10ないし20であったが,同日午後4時ころにはⅢ100ないしⅢ200に低下し,同日午後5時以降はⅡ10ないしⅡ30の範囲内で推移していた。
P4医師は,同月4日午前9時ころ,▲▲の持続点滴投与を中止した後の経過及びその後の亡P1のCT検査の結果から,翌5日には脳室内のドレーンを抜去できると考え,同月4日午後9時ころドレーンに髄液を排液しない処置を施した上で,経過観察を行い,同月5日午後0時,留置されたドレーンを抜去した。
(甲3,乙32)
(カ)

亡P1に対する▲▲注の投与の中止後の経過
亡P1の意識レベルは,▲▲注の投与が中止された後,同月9日に悪
性症候群の発症が確認されるまでの間,同月5日午前8時ころ,同日午前9時ころ,同日午後3時ころ,同日午後4時ころ及び同月8日午後2時ころには,Ⅰ2ないしⅠ3まで回復していたが,それ以外は,おおむねⅠ3ないしⅡ30まで低下した状態が継続しており,同月6日午後7時ころ及び午後8時ころにはⅢ100にまで低下していた。
(甲3,乙32)

▲▲注の添付文書の用法・用量及び副作用に係る記載
▲▲注の添付文書(甲10)には,①急激な精神運動興奮などで緊急の場合に用いる際の用量・用法について,
1回5mgを1日に1ないし2回,
筋肉注射又は静脈内注射することと記載され,
②その重大な副作用として,
悪性症候群があり,その症状として,無動緘然,強度の筋強剛,嚥下困難,頻脈,血圧の変動,発汗等が発現し,それに引き続き発熱がみられる場合には,投与を中止し,体冷却,水分補給等の全身管理とともに適切な処置が必要であると記載されている。


▲▲注の投与及びせん妄の治療に係る医学的知見(なお,一部の医学文献につき,別紙4医学文献(抄)1)ないし(18)の各要旨参照)(せん妄の治療に係る▲▲注の投与について,掲記の証拠によれば,我が国の医学文献においては,次の医学的知見がそれぞれ記載されている。(ア)

せん妄による興奮状態の鎮静等のための抗精神薬として▲▲注の有
効性を指摘するものが多い一方で,多数の医学文献において,①▲▲注の大量投与及び投与量の急激な増加が,悪性症候群の発症の危険性を増大させること(乙13ないし15,23,26,27,33)
,②脳に
器質性障害を有する患者や身体が極度に疲労するなど全身状態の悪い患者は,悪性症候群の発症頻度が高いこと(乙19,23,24,27),
③せん妄に対して▲▲注を投与する際は,悪性症候群の発症の危険に注意して,臨床症状を慎重に観察すべきこと(乙20(別紙4(15)),)
④▲▲注の投与は,
一般に少量から投与するなどの慎重な使用が必要で,
高齢者への投与は悪性症候群の発症の危険が高く,特に慎重に行う必要があること(乙18,21(別紙4(16)),23)等の指摘がされている(原告は,用量依存性を否定する根拠として,
甲25の文献を挙げるが,
人工呼吸患者への▲▲注の持続静注の毎時の投与量等に関する同文献の記述中に,せん妄患者への同薬剤の投与に係る用量依存性を否定する根拠となり得るものは含まれていない。。

(イ)

欧米の報告例等に依拠して▲▲注の大量投与を推奨する文献(甲1
1(別紙4(1))
)もある一方で,その著者自らが,別の文献では,我
が国では欧米のような大量投与の報告はほとんどみられず,自らの勤務する病院では点滴静注で1日30mg位までは安全に使用でき効果を挙げてきたとし(乙28,29(別紙4(17),(18)),他の著者の文献で)
も,欧米ではかなり大量の投与を提案する意見があるが,国内では1日50mg程度までは使用してみてもよいとする(甲17(別紙4(4)))
など,欧米の報告に比べて国内では日本人患者への投与量について慎重な意見が支配的である(なお,アジア人に対しては欧米人より抗精神薬の用量が少ない方がよいとの医学的知見が存在することは,P4医師も別件訴訟の証言の中で認めているところである(乙32))
。。
(ウ)

我が国の臨床における日本人の術後せん妄患者の薬物治療(本件と
は異質の精神病患者及び人工呼吸患者の薬物治療を含まない。
)におけ
る適切な投与量については,①1日当たりの投与量の上限に言及するものとして,点滴静注30mg位までは安全に使用でき効果を挙げてきたとするもの(前述の乙28,29(別紙4(17),(18)),35mgまで)
の静脈注射では重度の不整脈と関連することが稀との報告を指摘するもの(甲24(別紙4(7)),上限を40mg(5∼40mg)とするも)
の(甲15(別紙4(2)),上限を50mg(20∼50mg,50m)
g程度まで,5∼50mg)とするもの(甲11,17,18(別紙4(1),(4),(5))
)等があり,②特に鎮静を維持するための用法及び用量について言及するものとして,5ないし10mgを持続点滴から投与し,又は50mlの生理食塩水に希釈して側管から投与するとするもの)
(甲26(別紙4(9))
,甲31(別紙4(12)),なお数日のせん妄が見込まれる場合の鎮静として,5ないし20mgとするもの乙20別


紙4(15)),1時間当たり0.63ないし1.25mgを点滴投与し,)
必要に応じて更に高用量を使うこともまれではないとするもの(甲29(別紙4(11)),5ないし10mgを6時間かけて,又は6時間ごと)
に投与するとするもの(甲16(別紙4(3)。なお,同文献における投与量の上限に係る記載の趣旨については,後記(3)エ(ウ)参照))等が
ある。
(エ)

せん妄患者の薬物治療における投与方法についても,
一定の間隔例


えば30分∼1時間等)をおいて鎮静効果や身体状態等を見ながら必要に応じて一定の量(例えば5mg等)の投与又は追加投与を行うべきとするものが多く(甲11,16,18,26,28,31,乙21(別)
紙4(1),(3),(5),(9),(10),(12),(16)),また,上記の医学文献においては,せん妄の患者に対する鎮静のための▲▲注の投与は,患者の鎮静効果や身体状態等に応じて必要最小限度にとどめるべきものとされ,そのことを旨として用量・用法や経過観察等についての記述がされている(なお,原告の指摘に係る個別の文献につき,後記(3)エ参照)。
(3)

本件の▲▲注の投与が適正使用に当たるか否かの検討
以上の諸事情を前提として,本件における添付文書記載の用量を超えた亡
P1に対する▲▲注の投与が,
当該医薬品の適正使用に当たるか否かに関し,
以下検討する。

亡P1は,2月2日ないし4日の投薬当時,高齢(61歳)で,心血管に由来すると考えられる高血圧性脳出血を原因として脳室ドレナージ術を受けた直後で,身体的にかなり疲へいしており,脳出血の部位・程度も,脳室内穿破を伴う左視床からの出血であって,脳の器質自体に傷害を与えるためその脆弱性が配慮されるべき状態であったといえ,上記(2)ウの医学的知見に照らし,▲▲注を含む抗ドーパミン力価が高い薬剤の投与に当たっては悪性症候群の発症の危険に注意を要する状態にあったといえるので,
悪性症候群の発症・対応に備え,
頻繁な経過観察を実施するとともに,
これらの薬剤の投与量を必要最小限に抑えるべく慎重な投与を行う必要があったものというべきである。

まず,2月4日午前9時にP4医師による▲▲注の投与が中止される前の約1日間の投与,特に同月3日午前10時以降の▲▲注の投与についてみるに,前記(2)ア(エ)のとおり,亡P1は,同日午前6時ころに体動があったものの,同日午前7時ころには,鎮静スケールにおける鎮静状態が維持されていたといえ,同日午前9時ころ,意識レベルが低下し,同日午前10時ころ,更に意識レベルが低下し,P4医師も,十分な鎮静が図られていると判断し,同月2日午後5時45分以降続けられていた○○の持続点滴を徐々に減量して中止すべくその点滴速度を減らした経緯があることからすれば,亡P1は,同月3日午前10時ころには既に十分な鎮静が図られ,その維持がされていたと評価できる状態であったと認められ,また,P4医師も,同様の認識に至っていたものと認められる。ところで,前記(2)ウ(エ)のとおり,せん妄の患者に対する鎮静のための▲▲注の投与は必要最小限度にとどめるべきであり,上記アのとおり亡P1についてはその年齢・身体状態に照らして慎重な投与が必要とされる状態にあったことからすれば,P4医師は,亡P1に対する▲▲注の投与の目的が鎮静状態を維持するための投与とされるべき状況になった同月3日午前10時以降の時点においては,それまでの投与のように緊急事態において許容される高用量による使用を継続するのではなく,鎮静の維持を図るために必要最小限度の投与量を改めて検討し,適度の減量等を行うなど,必要最小限度の範囲に限定して投与を行う必要があったというべきである。しかるに,P4医師は,同月2日午後10時以降に12時間にわたり継続していた毎時2.38mg(1日当たりの投与量57.1mg)の持続点滴投与を,既に十分な鎮静が図られていた同月3日午前10時以降も,同月4日午前9時までの23時間にわたり,投与量の減量や一時中断を試みることなく,合計54.7mg(25mg/105ml×10cc×23h=54.7mg)に達するまで継続したものであり,その投与量は,前記(2)イの▲▲注の添付文書(甲10)に記載された用量(緊急の場合に1回5mgを1日に1ないし2回)及び前記(2)ウ(ウ)の医学文献において,我が国の臨床における日本人の術後せん妄患者の薬物治療における適切な投与量とされる1日当たりの上限量(30ないし50mg)を超えるものであり,また,特に鎮静を維持するための薬物療法として投与される▲▲注の用量(5ない)
し10mg(甲26(別紙4(9))
,甲31(別紙4(12)),5ないし2
0mg(乙20(別紙4(15)),原則として1時間当たり0.63ない)
し1.25mgの点滴投与(甲29(別紙4(11)),5ないし10mg)
を6時間かけて又は6時間ごとに投与(甲16(別紙4(3))
。前記(2)ウ
(ウ)参照)のいずれをも超えるものであった。そして,亡P1は,同月3日午前6時以降には,不穏行動に及んでおらず,SASの3(鎮静状態),
RASSの-2(浅い鎮静状態)ないし-3(中等度鎮静状態)の鎮静状態が維持されていたといえることに加え,同日午前10時以降には,鎮静スケールの4(眠っているが刺激に対して強く反応する)ないし5(眠っており刺激に対して反応が鈍い)鎮静状態にあったといえ,同日午後8時ころには,鎮静効果の過剰のため意識レベルの低下が見られ,同日午後11時以降は,鎮静スケールの5(眠っており刺激に対して反応が鈍い)ないし6(無反応)の状態に陥っていたといえ,医学文献(甲29)における鎮静の目安(不穏状態のため5で管理せざるを得ない場合もあるが,一般には3ないし4を目標とするもの)を超える過剰な鎮静がされた状態が相当の時間継続していたといえることからすれば,上記のような高用量の▲▲注の投与を継続して行う必要があったということはできない。このように,P4医師による▲▲注の投与量・経過,亡P1の年齢,身体状態,せん妄の症状及び鎮静状態の推移,せん妄の患者に対する▲▲注の投与に係る医学的知見等を総合的に考慮すれば,P4医師が,亡P1に同月3日午前10時以降,十分な鎮静が図られていたにもかかわらず,▲▲注を毎時2.48mgの点滴速度のまま,これを減量することなく,同月4日午前9時までの23時間にわたり持続点滴によって合計54.7mgに達するまで継続して行った投与については,その症状に応じて適切な用量・用法を遵守してされたものということはできず(原告の主張に係る医師の裁量を考慮しても,合理的な裁量の範囲内の措置と認めることはできない。,上記▲▲注の投与が適正な使用であったということはできな)
い。

さらに,2月2日午後4時43分にP4医師による▲▲注の投与が開始された後の投与についてみるに,前記(2)ア(イ)によれば,P4医師は,点滴チューブを抜去するなどせん妄による興奮状態にあった亡P1の鎮静を図るため,午後4時43分及び45分の2回にわたり▲▲注を静脈注射により5mgずつ投与し,その鎮静効果によってやや傾眠傾向にあった亡P1に対し,さらに,同日午後4時55分以降,▲▲注の持続点滴投与を毎時2.38mg(1日当たり57.1mg)の投与量で継続し,同日午後10時までに亡P1の状態に応じて点滴速度の増減の調節を行ったものの,翌3日午前10時以降に十分な鎮静が図られた後も従前の点滴速度のまま持続点滴投与を継続し,結局,投与開始から同月3日午前10時までの約17時間強で,合計約61.1mgの▲▲注の投与を行ったものである投与開始後の24時間では,

合計約77.
2mg37.4mg+25mg/105ml


×10cc×(16h+43/60min)=39.8mg)=77.2mg)。)
既に十分な鎮静が図られた同月3日午前10時から投与中止までの23時間にわたる▲▲注の投与が適正使用と認められないことは,上記ア及びイのとおりであるところ,①投与開始から同月3日午前10時までの約17時間強にわたる▲▲注の投与も,その投与の総量(約61.1mg)が,上記のとおり,前記(2)イの▲▲注の添付文書(甲10)に記載された用量(緊急の場合に1回5mgを1日に1ないし2回)及び同(2)ウ(ウ)①の医学文献においてせん妄患者に投与される1日量の上限とされる用量(文献により15mg,30mg,35mg,40mg等と分かれ,最大でも50mg)のいずれをも超えるものであり,しかも,②上記アのとおり,亡P1の年齢,身体状態及び病状等に照らし,悪性症候群が発症する危険因子を備え,その発症に相当程度の注意を要する状況の下での投与である以上,頻繁な経過観察と並行して投与量を必要最小限に抑える慎重な投与を行う必要があったにもかかわらず,同月3日午前10時の時点において,既に約17時間強で合計約61.1mgという▲▲注の高用量の投与を行っていたのに加え,当該時点以降も,▲▲注の投与量を減量することなく,高用量のままその投与を継続し,その後の23時間で合計54.7mgの投与に至っており,これが適正な使用とはいえないことは前記イのとおりであり,これらの諸般の事情を総合的に考慮すれば,P4医師による亡P1に対する▲▲注の投与は,その開始から中止までの一連の経過の全体においてみても,その症状に応じて適切な用量・用法を遵守してされたものということはできず原告の主張に係る医師の裁量を考慮しても,(
合理的な裁量の範囲内の措置と認めることはできない。,適正使用に当)
たるものとは認められないといわざるを得ない。

この点に関し,原告が▲▲注の大量投与を正当化する根拠として指摘する医学文献等について,以下検討する。
(ア)

まず,甲11(別紙4(1))の文献は,別紙4(1)のとおり,①同文
献は,(a)せん妄症状の発症当初に,ある程度症状が治まるまで,▲▲注5mgを30分ないし1時間の間隔で投与することとし,その後に1日当たりの投与量の上限を50mgとした持続点滴投与をする方法を紹介するものであり,(b)前記(2)ウ(イ)のとおり,その著者自らが,別の文献の中で,我が国では欧米のような大量投与の報告はほとんどみられず,安全かつ有効な点滴静注の上限を1日30mg位としていることからすれば,②本件のように,(a)5mgの静脈注射の5分後に再度5mgを投与し,その後に持続点滴投与を行い,投与の開始から約17時間で合計約61.1mgの投与を行い,(b)さらに十分な鎮静が図られた同月3日午前10時から23時間で合計約54.7mgを投与することまで許容する根拠となり得るものとは解されない(なお,甲12及び13の文献は,甲11を引用するものにとどまる。。

(イ)

甲14及び甲19の各文献は,精神分裂病の治療について▲▲注の
大量投与を推奨する記述を含むが,精神分裂病等の精神疾患の急性期の対応の問題と,せん妄状態の治療等の救急医療における精神医学的問題とは一般に区別して論じられ(甲15(別紙4(2))参照)
,相対的に
後者に対する治療に用いる場合の用量を低く設定していること,甲19は精神分裂病患者に対する経口又は筋肉注射による投与について述べた文献であって,いずれも,本件のような術後せん妄の治療における持続点滴投与による▲▲注の大量投与を正当化し得るものとは解されない。甲15(別紙4(2))の文献も,精神科救急の幻覚妄想の治療については▲▲注の大量投与を推奨する記述を含むが,本件のような術後せん妄の治療については,1日当たりの投与量を5ないし40mgとするにとどまる。
なお,
精神科医の文献では大量投与を推奨する傾向がある一方,
外科医の文献では比較的低用量の投与を推奨する傾向があることは,前述のアジア人と欧米人との用量の差異と同様,P4医師も別件訴訟の証言の中で認めているところである(乙32)

(ウ)

甲16(別紙4(3))の文献には,

鎮静の維持には,5∼10(最大20)mgを6時間かけて,または6時間おきに投与する。

との記載があるが,同記載は,その前後の文脈を考慮すれば,6時間ごとに投与できる最大量が20mgであることを示すとともに,5ないし10mgの投与を6時間おきとすることを示しており,1日当たりの投与量の上限を40mg程度として,効果が不良の場合の投与量の上限(最大でも50mg程度)と比較して低用量の投与を相当とする趣旨で記載されているものと解するのが相当である。また,効果が不良の場合の投与についても,30分の投与間隔をおくとしており,本件の上記投与例を許容する根拠となり得るものとは解されない。
また,甲17(別紙4(4))の文献は,我が国の臨床での1日当たりの最大投与量は50mgとしており(これを超える投与量の許容は海外の意見として紹介するにとどまる。,甲18(別紙4(5))の文献も,)
同様に1日当たりの最大投与量は50mgとしており,本件の上記投与例まで許容する根拠となり得るものとは解されない。
(エ)

甲20,33(別紙4(6),(13))の各文献は,米国の医学論文及
び米国のガイドラインの翻訳であり,我が国の臨床における日本人患者に対する投与について論じたものではなく,他の文献でも海外ではかなり大量の投与を提案する意見もあるが国内では1日50mg程度までは使用してみてもよいとされている(甲17(別紙4(4))参照)ように,我が国の医療水準において日本人患者への同様の量の投与が許容されることの根拠となり得るものではない(なお,前者の論文でも,用量は年齢,身長,体重等のいくつかの要因に依存し,筋肉注射又は静脈注射の方法が用いられる場合には,血中濃度が急激に上昇するので,経口投与の場合より用量を少なくする必要があるとの指摘がされている。。)
(オ)

甲24(別紙4(7))の文献は,35mgまでの静脈注射では重度
の不整脈と関連することが稀との報告等を指摘するにとどまり,本件の上記投与例まで許容する根拠となり得るものとは解されない。(カ)

甲25(別紙4(8))の文献は,人工呼吸患者に対する▲▲注の持
続静注の毎時の投与量及び間歇的静注の投与の量・間隔等に言及したものにとどまり,その記述をもって,本件のような術後せん妄患者の治療における鎮静効果の有無・程度に応じた1日当たりの投与量の上限を導き得るものとは解されない。
(キ)

甲26,28及び31(別紙4(9),(10)及び(12))の各文献は,
▲▲注の投与について,一定の間隔をおいて鎮静効果等を見ながら必要に応じて一定の量の投与又は追加投与を行うべきである等とし,甲29(別紙4(11))の文献は,著者の勤務する病院では,攻撃性が持続すると予測される▲▲注の追加投与として毎時0.63ないし1.25mg程度の点滴投与の例が多いとし,甲34(別紙(14))の文献は,▲▲注の静脈注射又は点滴投与は1日量が35mgを超える場合には心電図の確認が必要とするが,いずれも,その記載内容に照らし,本件の上記投与例が許容されることの根拠となるものとは解されない。
(ク)

その余の甲号各証の医学文献(甲21ないし23)も,その記載内
容に照らし,本件の上記投与例が許容されることの根拠となるものとは解されない。
(ケ)

なお,P3病院脳神経外科医師P5の意見書(甲8)には,▲▲の
添付文書に記載された投与量を超える用量の投与がされることは臨床上珍しいことではなく,①P4医師の▲▲注の投与量は,最大で1日約56mgであるところ,②海外の論文である甲19(別紙4(9))の医学文献には,精神分裂病の患者の臨床的管理において1日当たり100mgの▲▲注を投与することがある旨の記載があり,③国内にも,甲11(別紙4(1))の医学文献のように,術後の不穏状態となった患者に対する▲▲注の点滴投与を推奨する文献があることから,上記①の投与量は,上記②の医学文献の示す限界量(100mg)の範囲内にあるので,
P4医師の▲▲注の投与法・投与量は医療水準に適った適正なものであるとの意見が記載されている。
しかしながら,
(a)別紙2亡P1に対する▲▲注の投与量について」
のとおり,投与が開始された2月2日午後4時43分以降の24時間にP4医師が亡P1に対し投与した▲▲注の総量は77.2mg(前記ウ参照)であるところ,(b)上記意見書が根拠とする上記①の医学文献甲(19)は,精神分裂病の治療における▲▲注の投与量について述べた欧米の文献であり,本件のような国内の術後せん妄の治療について同様の大量投与を正当化し得るものではないことは,上記(イ)に説示したとおりであり,(b)上記意見書が根拠とする上記②の医学文献(甲11(別紙4(1)))も,その著者自らが,他の文献の中で,我が国では欧米のような大量投与の報告は見当たらず,安全かつ有効な点滴静注の上限を30mgとするなど,当該文献中の投与の間隔及び投与量の上限に関する記述に照らしても,本件の上記投与例まで許容する根拠となり得るものとは解されないことは、上記(ア)に説示したとおりである。オ小括以上によれば,前記ウのとおり,P4医師の亡P1に対する▲▲注の投与は,その開始から中止までの一連の経過の全体において,適正使用に当たるということはできない。(4)本件被害が適正使用に係る投与に起因して発生したものか否かの検討ア上記(1)エのとおり,通常の使用量を超えた医薬品の投与が適正使用に該当すると認められない場合に,なお,当該健康被害が当該医薬品の副作用によるものと認められるためには,当該健康被害が,当該投与のうち,不適正な使用に係る部分によるのではなく,適正使用に係る部分によって発生したものと認められることを要するものと解される。そこで,本件被害が,本件の▲▲注の投与の一部である適正使用の範囲内の投与(投与開始後の一定時間内の投与)に起因して発生したものと認められるか否かについて,以下,検討する。イ訴訟上の因果関係の立証は,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,一点の疑義も許されない自然科学的証明であることを要するものではないが,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを要するものと解される(最高裁昭和48年(オ)第517号同50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁参照)。ウ上記(3)イの認定によれば,少なくとも2月3日午前10時の時点以降の▲▲注の投与について適正使用に係る部分が含まれる余地はないというべきところ,上記時点では,従前の投与の効果によって既に十分な鎮静が図られた状態にあったにもかかわらず,投与量が減量されることなく毎時2.48mgの点滴速度のまま,翌日午前9時までの23時間に,前記(2)イの▲▲注の添付文書に記載された用量(1日5ないし10mg)及び同(2)ウ(ウ)②の医学文献においてせん妄患者の鎮静を維持するための投与量とされる用量(上記(3)イ参照)のいずれをも超える大量(54.7mg)の持続点滴投与が継続されたこと,上記時点以降の投与の投与時間2(3時間)及び投与量(54.7mg)は,上記時点の前後を通じた総投与時間(40時間強)及び総投与量(115.9mg)と比較して,時間的・数量的にも枢要な部分を占めていること,悪性症候群の発症は投与の中止の約5日後であること等を併せ考えると,本件において,▲▲注の投与による効果を上記時点の先後で截然と区別し,そのいずれの薬効の反応によって本件被害が発生したのかを判断することは証拠上不可能であるといわざるを得ない。また,悪性症候群の危険因子について述べた医学文献の中には,▲▲注の投与における悪性症候群の発症要因として,急激な増量を挙げるもの乙(22,23,27,33)のほか,抗精神病薬の大量投与自体を悪性症候群の発症要因とするものも多く(乙13ないし15,27),海外における研究報告においても,大量投与自体と悪性症候群の発症との間の有意性を肯定するものが複数あるとされており(甲21の996頁「3の1ないし3行目)
,これらの医学的知見を総合的に考慮しても,2月3日午前
10時以降の投与の悪性症候群の発症への影響の有意性を否定することはできない。

このように,亡P1に生じた本件被害については,同日午前10時の時点以前の▲▲注の投与によって発生した蓋然性と,同時点以降の▲▲注の投与によって発生した蓋然性との比較において,後者の可能性が相当程度の蓋然性をもって認められる以上,前者につき通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るほど高度の蓋然性を認めることはできず,したがって,本件被害が,同日午前10時以前の▲▲注の投与の一部である適正使用の範囲内の投与(投与開始後の一定時間内の投与)に起因して発生したものと認めることはできないといわざるを得ない。


なお,原告は,亡P1に生じた本件被害が,亡P1に投与された胃腸薬○○(薬品名メトクロプラミド)に起因して発症した可能性も否定できないと主張し,同胃腸薬の副作用の中には悪性症候群が含まれていることが認められる(甲32)が,上記エのとおり,本件被害が▲▲注の不適正な使用によって発生した可能性が相当程度の蓋然性をもって認められる以上,上記主張を基礎付けるに足りる証拠はないものといわざるを得ない。
(5)

小括
以上によれば,本件の▲▲注の投与については,①適正使用に該当すると
認めることができず,また,②本件被害が,当該投与のうち適正使用に係る部分によって発生したものと認めることもできない以上,本件被害は,機構法4条6項の医薬品の副作用に該当すると認めることができないものというべきである。
2
争点(2)(亡P1の死亡が副作用救済給付の不支給事由に当たるか否か)について
(1)

上記1のとおり,本件において,本件被害は▲▲注の副作用によって発
生したものと認めることができないのであるが,なお念のため,仮に,本件被害が,2月2日午前10時以前の▲▲注の投与の一部である適正使用の範囲内の投与(投与開始後の一定時間内の投与)により発生したものであると仮定した場合に,本件の▲▲注の投与が副作用救済給付の不支給事由に該当するか否かについて,以下,検討することとする。
(2)

機構法16条2項3号及び同法施行規則3条は,副作用救済給付の不支
給事由につき,(A)①通常の使用量を超えて当該医薬品を使用したことにより健康被害が発生した場合において,②その使用が救命のためにやむを得ず行われたものであり,かつ,③当該健康被害の発生があらかじめ認識されていた場合であること,(B)その他上記(A)に準ずると認められる場合であることを要件としている。

本件の▲▲注の投与は,前記1(2)ア(ア)ないし(エ)のとおり,2月2
日午後4時43分の投与開始から同月3日午前10時までの17時間強の間に合計約61.1mgが投与されたものであり,同イの▲▲注の添付文書に記載された用量及び同ウ(ウ)①の医学文献においてせん妄患者の鎮静を図るための投与量とされる用量に照らし,その投与量が通常の投与量を超えるものであって,上記(A)①の要件を満たすことは明らかである。イ
そして,前記1(2)ア(ア)ないし(エ)のとおり,P4医師は,高度な不
穏状態に陥った亡P1がせん妄に関連する合併症状により現に試みていた,脳室ドレナージ術のために留置したドレーンの自己抜去という死亡の結果に直結する危険行動を防止するため,高用量の▲▲注を投与して亡P1の鎮静を図り,更に鎮静の維持を図る目的でその持続投与を継続したのであって,結果的には投与の継続の過程で患者の状態に応じた投与量が過大となり,一定の時点以降は適正使用の範囲内の用量を超える過大な投与に至ったものであるが,少なくとも投与開始の当初は,亡P1の生命の危険の除去のためにやむを得ず▲▲注を使用し,その後の使用の継続も,担当医の意図としては同様の目的で行われたものである以上,本件の▲▲注の使用は,2月2日午前10時に十分な鎮静が得られるまでの間,救命のためにやむを得ず行われたものであるか,少なくとも当初は救命のためにやむを得ず,その後もこれに準ずる事情の下で行われたものと認めるのが相当であり,上記(A)②の要件を満たすか,少なくともこれに準ずるものとして上記(B)の要件を満たすものということができる。

また,高用量の▲▲注の投与に起因して悪性症候群が発症する蓋然性については,本件の投薬の当時,添付文書の記載及び多数の医学文献を通じて既に一般的な医学的知見となっていたと推認されること,P4医師も,▲▲注の投与に際して悪性症候群を発症する蓋然性を認識していた旨の証言をしていること(乙32)からすれば,本件のような大量の▲▲注の投与に起因して悪性症候群が発生する蓋然性については,担当医においてあらかじめ認識されていたか,少なくともあらかじめ認識し得る状況にあったものと認めるのが相当であり,上記(A)③の要件を満たすか,少なくともこれに準ずるものとして上記(B)の要件を満たすものということができる。

(3)

以上によれば,仮に,本件被害が,2月3日午前10時以前の投与の一
部である適正使用に係る投与(投与開始後の一定時間内の投与)によって発生したものと認められ,機構法4条6項の医薬品の副作用に該当すると認められる余地があるとしても,本件は,機構法16条2項3号及び同法施行規則3条所定の不支給事由に該当するものということができるので,いずれにしても,
副作用救済給付の対象となるものではないといわざるを得ない。
3
なお,適正使用の要件,因果関係及び不支給事由に関する前示の判断は,いずれも,上記1(1)イないしエの立証責任の帰属及び考慮すべき事情を前提として,本件の個別の事実関係に即して,多数の医学文献等の証拠から推認される医学的知見等を勘案した上で,機構法及び同法施行規則の規定に則した法的な評価として行われるものであり,これについて更に鑑定を要するものとは解されない。

4
したがって,本件被害は,機構法4条6項の医薬品の副作用により生じたものに該当すると認めることはできず,仮にこれに該当すると認められる余地があるとしても,機構法16条2項3号及び同法施行規則3条所定の不支給事由に該当すると認められるので,本件請求に係る副作用救済給付について,これを不支給とした本件不支給処分は,適法である。

第4

結論
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官

岩井伸晃
裁判官

三輪方大
裁判官

小島清

(別


3)

診断基準

1
(乙30)
JapanComaScale(JCS)
スケール

状態

覚醒している状態
Ⅰ1
Ⅰ2

見当識(時・場所・人の認識)の障害がある。

Ⅰ3

だいたい意識清明だが,今ひとつはっきりしない。

自分の名前や生年月日が言えない。

刺激すると覚醒する状態
Ⅱ10
Ⅱ20

大きな声で呼び,
又は体を揺さぶることにより,
眼を開ける。

Ⅱ30

普通の呼びかけで,容易に眼を開ける。

痛み刺激で,かろうじて眼を開ける。

刺激をしても覚醒しない状態
Ⅲ100

痛み刺激に対し,払いのける動作をする。

Ⅲ200

痛み刺激に対し,手足を少し動かしたり,顔をしかめたりす
る。

Ⅲ300
2
痛み刺激に対し,全く動かない。

Ramsay鎮静スケール(鎮静スケール)(甲25)
スケール

状態

1
不安・不穏状態

2
落ち着いており,協力的

3
命令にのみ反応

4
眠っているが刺激に対して強く反応する。

5
眠っており刺激に対して反応が鈍い。

6
無反応3

Sedation-AgitationScale(SAS)
(甲25)
スコア
7
状態

具体例

緊急不穏状態

気管チューブやカテーテルを引っ張る。ベッド柵
を越える。医療スタッフに暴力をふるう。ベッドの
端から端へ移動する。

6
高度不穏状態

度重なる注意にもかかわらず不穏がある。身体の
抑制が必要。気管チューブを噛む。

5
不穏状態

不安あるいは軽度不穏。座ろうとするが注意すれ
ば鎮静化する。

4
平静で協力的

3
平静。容易に覚醒し,命令に従う。

鎮静状態

覚醒困難。
声をかけるか軽くゆすると覚醒するが,
再び眠る。簡単な命令に従う。

2
鎮静過剰

身体刺激で覚醒。意思は通じない。命令に従わな
い。自発運動はある。

1
覚醒不能

強い刺激によってわずかに反応する。あるいは反
応しない。意思は通じない。命令に従わない。

4
(甲25)
RichmondAgitation-SeddationScale(RASS)スコア
+4

状態

具体例

危険な興奮状態

好戦的,暴力的で,スタッフが危険にさら
される。

+3

高度不穏状態

チューブ類を引っ張る。
あるいは引き抜く。
スタッフに対して攻撃的にふるまう。

+2

不穏状態

頻回に目的のない動きをする。人工呼吸器
と不同調。

+1

落ち着きのない状態

不安・恐怖はあるが,動きは攻撃的ではな
い。0
-1

覚醒しており平静
うとうと状態

十分には覚醒していない。呼びかけに10
秒以上反応。

-2

浅い鎮静状態

呼びかけに対して開眼し,こちらを見るが
10秒未満の持続。

-3

中等度鎮静状態

呼びかけに対して何らかの動きをする。

-4

深い鎮静状態

呼びかけには反応しないが,身体刺激で体
動あり。

-5

覚醒不能

身体刺激に反応しない。
(別


4)

医学文献(抄)

(1)

守屋裕文ほかCCUで発症したせん妄状態とその治療
(昭和59年刊行。

甲11)
標記の医学文献は,せん妄状態を中心とする意識障害の治療として,せん妄状態発症初期から,精神症状及び身体症状の重症度を考慮しつつ,▲▲注を大量投与する方法を提言し,具体的な方法としては,▲▲注を,精神症状発症と同時にまず5mg静脈注射し,ある程度症状がおさまるまで30分ないし1時間ごとに5mg,総量で15ないし20mgまで投与し,以後は持続点滴投与で1日当たり20ないし50mgを投与し,その上でなお興奮が強い場合に,一時的にジアゼパム10ないし20mgを静脈注射する方法を紹介し,精神症状が激しく,身体的治療に重大な支障があると思われるときは,クロルプロマジン20ないし50mgを1ないし6時間かけて一時的に持続点滴投与することも仕方がないとする。なお,上記▲▲注の大量投与による治療は,清水彰手術後精神病・ICU精神病(昭和60年刊行。甲12)にも,せん妄に幻覚妄想状態や興奮を伴っている場合に試みる方法(守屋らの方法」

)として,紹介されている。(2)堤邦彦「精神科救急(今日の診療vol.11)(平成13年刊行。甲15)

標記の医学文献は,せん妄状態の運動過剰型(患者自ら点滴を抜去したり,挿
管チューブやドレーンを抜管したり,安静を保てず落ち着かない行動異常や,怒鳴り声や奇声を発するなどの言動異常,身体感覚違和感,錯覚や幻覚,妄想などの病的体験がみられる場合)に対する治療として,①基礎疾患の状況に応じて行うが,精神運動興奮の強い場合には,ベンゾジアゼピン系薬物のフルニトラゼパム(4ないし6時間ごとに1ないし2mg)又はミダゾラム(毎時0.1ないし0.4mg/kgの持続静脈注射)で鎮静を図るが,呼吸抑制の可能性が強い場合には,▲▲注(1日当たり5ないし40mg)やチミペロン(1日当たり2ないし20mg)の筋肉注射や静脈注射が中心となり,②睡眠を十分とらせ,夜間の症状増悪を予防することが大切であるとしている。
(3)

金子高太郎まずハロペリドール,それで不十分なら,ミダゾラムやプロポフォールを考慮(平成14年刊行。甲16)
標記の医学文献は,せん妄の鎮静を図る方法について,(ア)ベンゾジアゼピン系薬物はせん妄に伴う焦燥感,幻覚妄想には無効であり,特に高齢の患者では,過剰鎮静になったり,逆に混乱,興奮を来すことがあるとして,ブチロフェノン系薬物(▲▲注が含まれる。
)を第一選択とし,(イ)特に▲▲注は,幻覚妄想,
精神運動興奮,焦燥に効果的であり,心循環系に著名な影響を与えることも少ないとし,通常は,5ないし10mgを血管内に投与し,効果が不良なら30分ごとに鎮静するまで投与を繰り返し(最大50mg程度)
,鎮静の維持には,

5∼10(最大20)mgを6時間かけて,または6時間おきに投与する。

とする。
(4)

和田健せん妄
(平成15年刊行。甲17)
標記の医学文献は,せん妄に対する薬物療法として,夜間の不穏行動が強い事
例には,▲▲注の点滴静脈注射が第一選択であるとし,①生理食塩水ないし5%ブドウ糖液に▲▲注1アンプルを入れ,点滴速度を全開から毎分3ml程度で滴下し,入眠したらいったん投与を止めておき,再度覚醒が見られる場合には鎮静が得られる用量で持続点滴を翌朝まで行うこともあるとし,②▲▲注1アンプルで無効の場合は増量して追加投与するか,フルニトラゼパム又はミダゾラムの併用投与を行い,▲▲注は,静脈投与の場合には海外では1日当たり1600mgまでという意見もあるが,1日当たり50mg程度までは使用してみてもよいとする。
(5)

ハロルド・I・カプラン

臨床精神医学テキスト(DSM-Ⅳ診断基準の臨床への展開)(平成8年刊行。甲18)

標記の医学文献は,せん妄の精神病症状の治療のための薬物の選択としては,▲▲注の投与があり,患者の年齢,体重と身体状態により,2ないし10mgの筋肉注射を行い,患者の興奮がおさまらない場合には,1時間後に投与を繰り返し,患者が落ち着けば1日2回の経口投与を行うこととし(経口の薬用量は,非経口の薬用量の1.5倍ほど高めにする。,せん妄患者の大多数に対する効果)
的な毎日の薬用量の合計は5ないし50mgの範囲であろうとする。(6)

C・トンプソンほか(松浦雅人ほか訳)
高用量の抗精神病薬投与について

(平成8年の報告の翻訳論文。甲20)
標記の医学文献は,必要な抗精神病薬の用量は,年齢,身長,体重等のいくつかの要因に依存し,ある患者では通常推奨される用量を超えて抗精神薬を投与する必要があるが(▲▲注の1日の最大投与量は100mg(ときに200mg)とする。,これは専門家の指導のもとに注意して行われるべきであり,筋肉注)
射又は静脈注射の方法が用いられる場合には,血中濃度が急激に上昇することから,経口投与の場合よりも用量を低くする必要があるとする。
(7)

薬物療法検討小委員会(委員長・八田耕太郎)
せん妄の治療方針-日本総合病院精神医学会治療指針1
(平成17年刊行。甲24)
標記の医学文献は,急性精神病状態の精神科救急患者を対象にした最近の研究において,①▲▲注の静脈注射は,用量に依存して重篤な不整脈を生じさせるものではなく,1日量35mgまでの静脈内投与では,多形性心室頻拍(重傷の不整脈)が生じることは稀であるという報告があるとし,②症例報告から,心疾患を合併する患者には,心電図を含む全モニター下では▲▲注の静脈注射の安全性は高く,初めて連日投与する場合,低用量であっても持続的又は定期的な心電図の観察をすることが好ましいとする。
(8)

行岡秀和・ICUにおけるよりよい鎮静・鎮痛を求めて―ICUでの鎮静・鎮痛のオーバービュ:鎮静・鎮痛の評価法
(平成18年刊行。甲25)
標記の医学文献は,人工呼吸中の患者に使用する鎮静薬として,せん妄に対しては▲▲注が使用されるとし,その投与法・投与量に関し,持続的な静脈注射については,毎時0.04ないし0.15mg/kgと,間歇的な静脈注射については,30分ないし6時間ごとに0.03ないし0.15mg/kgとしている。(9)

中村満ほかせん妄の薬物療法のバリエーション
(平成17年刊行。甲2

6)
標記の医学文献は,せん妄の患者は,病態把握をする前に薬物による鎮静を行う必要に迫られることが多いため,鎮静が得られて初めて,詳細な診察と検査を行い治療を開始することができるとし,(ア)著しい興奮が見られる場合には,①ベンゾジアゼピン系薬物の静脈注射又は点滴投与,②▲▲注(2.5ないし10mg)の静脈注射をし,(イ)必要な鎮静が得られないときは,上記①,②をもう一度繰り返し,(ウ)それでも鎮静の効果が得られないときは,入眠までチオペンタールの必要量を静脈注射するとしている。
(10)

山本弘之ほか不穏・せん妄に対する薬物治療平成17年刊行。甲28)(
標記の医学文献は,(ア)▲▲注は,せん妄治療の基本となる薬剤であり,①初
回の5ないし10mgの投与量を30秒ないし1分以上かけて静脈注射し,鎮静効果が不十分であれば,30分程度の間隔を空けて20mgまで追加投与し,②せん妄症状がコントロールできるようになれば,必要に応じて4ないし6時間の間隔で5ないし10mgの投与を繰り返し,数日間維持した後,漸減を図るようにするとし,③一定の血中濃度を維持するため,持続静注(毎時3ないし25mg)が行われることもあるとする。また,(イ)興奮が激しく,早急に鎮静を要する場合には,自発呼吸下の患者では,まず,▲▲注の静脈注射で反応をみた上で,興奮を抑えきれなければ,呼吸状態に注意しながら,ミダゾラムなどのベンゾジアゼピン系薬剤を使用して鎮静を図るとしている。
(11)

八田耕太郎ほか攻撃的行動に対する鎮静と身体管理
(平成10年刊行。

甲29)
標記の医学文献は,精神科救急医療において,攻撃性が持続すると予測される患者に対する▲▲注の追加投与として,墨東病院では,毎時0.63ないし1.25mg程度の点滴投与を行うことが多いが,必要に応じて更に高用量を用いることもまれではないとしている。
(12)

中村満ほかせん妄
(平成17年刊行。甲31)
標記の医学文献は,せん妄における薬物による鎮静として,①著しい興奮が見
られる初期的な治療には,
ベンゾジアゼピン系薬物の静脈注射又は点滴投与をし,
必要な鎮静が得られない場合には,▲▲注2.5ないし10mgを静脈注射し,それでも必要な鎮静が得られなければ,更に1度上記投与を繰り返すとし,②中期的なせん妄治療には,▲▲注5ないし10mgを50mlの生理食塩水に希釈して持続点滴で投与するとし,③脳血管障害など脳損傷がある疾病の患者に対する注意事項として,脳血管障害では,重度の意識障害やせん妄を呈するが,これらに対してまず抗精神病薬を用いるとする。
(13)

日本精神神経学会監訳米国精神医学会治療ガイドライン-せん妄
(本訳

書が平成12年刊行。甲33)
標記の医学文献は,抗精神病薬は,せん妄の治療においてよく用いられる薬物であり,緊急的状況や経口投与が困難な場合,静脈注射による投与が最も効果的であるとし,せん妄の治療における抗精神病薬の最適投与量を決定するための研究は少ないが,(ア)投与開始時に▲▲注1ないし2mgを必要に応じて2ないし4時間ごとに投与する方法が提案され,高齢患者に対しては,▲▲注0.25ないし0.5mgを必要に応じて4時間ごとに投与する低用量投与が提案されており,(イ)他方で,重度の焦燥性興奮患者に対しては,より高用量の投薬調整が必要とされるとし,1回投与量が50mg以上,1日の総投与量が500mgまでの▲▲注の静脈注射投与は,心拍数,呼吸数,血圧,肺動脈圧への作用及び錐体外路性の副作用の危険が最小限であったとの報告もあるとする。また,(ウ)抗精神病薬の頻回の静脈注射投与が必要とされる焦燥性興奮を伴う身体疾患の患者に対して,▲▲注の持続点滴静注が,静脈注射の反復に随伴する合併症を回避することに役立つ可能性があるとする研究があり,24時間以内に10mgの静脈注射を8回以上又は毎時10mgの静脈注射を連続5時間以上必要とする患者については,持続点滴静注を推奨する研究者もいるとし,その場合には▲▲注10mgを静脈注射し,その後に5ないし10mgの持続点滴静注をすることを提案しているとする。
(14)

八田耕太郎精神科疾患患者への救急診療
(平成16年刊行。甲34)
標記の医学文献は,(ア)救急外来におけるせん妄等の興奮等の精神症状に対す
る鎮静法として,鎮静の維持を図るため,①▲▲注の静脈注射又は点滴投与(1日量が35mgを超える場合には心電図の確認が必要)及び②ベンゾジアゼピン系薬物の静脈注射又は点滴投与をするとし,(イ)▲▲注を使用する際は錐体外路症状が出現し得るため,その際にはビペリデンの筋肉注射を行う必要があるとしている。
(15)

堤邦彦ほか精神科ケースライブラリーⅦ高齢者の精神障害
(平成10

年刊行。乙20)
標記の医学文献は,せん妄の抗精神病薬による薬物療法につき,(ア)①興奮が著しく鎮静の速効性を期待する場合は,▲▲注2.5ないし5mgの静脈注射を行い,なお数日のせん妄が見込まれる場合の鎮静には,▲▲注5ないし20mgの投与又はクロルプロマジン25ないし50mgの投与を行うとするが,(イ)副作用の問題として,抗精神病薬を使用する場合には悪性症候群に注意し,臨床症状,観察及び血清CPKの検査を適時行い,連用する場合には潜在的な肝腎機能低下による蓄積効果にも留意するとする。
(16)

松下正明編精神科薬物療法(臨床精神医学講座第14巻)〔佐藤啓二〕平(

成11年刊行。乙21)
標記の医学文献は,(ア)精神分裂病治療の抗精神病薬の投与について,我が国では,①緊急時では,▲▲注で十分な鎮静が得られなかったときには,鎮静作用の強い低力価の薬剤に変更され又は追加投薬されることが多く,②急性期の治療では,▲▲注2.25ないし12mgが第一選択薬剤として用いられ,精神病症状が改善するまで細かく用量及び用法を調整し,副作用の出現に注意しながら徐々に増量し,血圧の管理や,高齢者では体重の管理が必要となる(高齢者についてはその薬物動態を考慮して使用量を慎重に吟味する必要がある)とし,③急激な増量法を支持する臨床報告については,そのような用法の有効性が確立しておらず,
重篤な副作用を招く危険性が高くなるため避けるべきであるとする。また,
(イ)せん妄については,その原因となる疾患の精査・治療が優先されるとした上で,速効的な処置が必要な場合には,▲▲注2.5ないし5mgの筋肉注射又は0.75ないし2.25mgの1ないし3回に分けた内服投与が用いられるとしている。
(17)

溝木睦男ほか急性せん妄の薬物療法
(平成6年刊行。乙28)
標記の医学文献は,
(ア)▲▲注は,
覚醒レベルをあまり落とさずに鎮静が図れ,

筋肉注射,静脈注射又は内服のいずれの方法による投与も可能であることから,他の主要な抗精神病薬に比べて有用であるとし,①欧米において,▲▲注を1日当たり600mg静脈注射した例の報告,2000名以上の癌患者に▲▲注を毎時最高10mg静脈注射した例の報告,▲▲を1日当たり最高130mgまで使用して目立った副作用がなく有用だった例の報告が存在するとした上で,②我が国では大量投与の報告がほとんど見られないとし,P6病院神経科における治療例として,せん妄患者に対する▲▲注が,1日当たり30mg位の点滴静脈注射までは安全に使用でき効果が上げられたとし,静脈内投与について,鎮静効果に優れ,効果の発現が早く,心循環器系への影響が少ない上,意識レベルの低下及び呼吸抑制も起こりにくく,
他の投与方法に比べて錐体外路症状が出現しにくく,
心筋梗塞の重要な指標であるCK値に影響を与えず,代謝経路が単純であり,排泄も比較的速やかにされる利点があるが,▲▲注だけでは鎮静が得られない症例も少なくないとする。
(18)

長谷川恒夫編・救急医学」
(平成6年刊行。乙29)

標記の医学文献は,急性非特異性せん妄の治療として,鎮静系薬剤による治療が重要になるとし,安易な鎮静は厳に慎むべきとしながらも,適切な方法で用いれば効果は高いとし,ハロペリドール(▲▲注)の点滴静脈注射について,覚醒レベルを落とさずに鎮静が図れること,効果発現が早いこと,心循環系への影響が少ないことなどの理由から頻用されるとするが,用量を1日当たり30mg程度までとする。
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