判例検索β > 平成21年(わ)第272号
強盗殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
事件番号平成21(わ)272
事件名強盗殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
裁判年月日平成21年5月29日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第8刑事部
判示事項の要旨被告人がタクシー強盗を企て,乗客を装ってタクシーに乗車し,同車内において背後から運転手の首に果物ナイフを突き付けたところ,同人から抵抗されたため,未必の殺意をもって同ナイフを同人の首に強く突き付け,その首を切るなどして現金を奪い取ろうとしたが,現金を奪うことができず,通院加療約1か月間の傷害を負わせるにとどまった強盗殺人未遂等の事案について,懲役13年の判決が言い渡された事例
裁判日:西暦2009-05-29
情報公開日2017-10-13 01:36:38
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主文
被告人を懲役13年に処する
未決勾留日数中40日をその刑に算入する。
押収してある果物ナイフ1本(平成21年押第91号の1)を没収する。理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

タクシー運転手から金員を強取しようと企て,平成21年1月6日午前2時51分ころ,大阪府茨木市(以下略)付近路上において,被害者(当時33歳)が運転するタクシーの後部座席に乗客を装って乗車し,同人をして,前記タクシーを同府高槻市(以下略)付近路上まで運転走行させ,同日午前3時14分ころ,同所に停車中の前記タクシー内において,同人に対し,背後から左手で同人の口を塞ぎ,所携の果物ナイフ(刃体の長さ約9.4センチメートル。平成21年押第91号の1は,鑑定のため刃の一部を切り取ったもの。)を右
手に持ってその頸部に突き付けたところ,同人に右手をつかまれるなどして抵抗されたため,右手に力を入れて前記ナイフを突き付けるうち,同人が死亡するに至るかもしれないことを認識しながら,あえて,前記ナイフの切っ先を同人の頸部に強く突き付け,同人の頸部を切るなどして金員を強取しようとしたが,同人が抵抗を続け,間もなく,通りかかった車両の運転者が異変に気付いて降車してきたため,その場から逃走して金員強取の目的を遂げず,被害者に通院加療約1か月間を要する右頸部切創,左手切創,右下部肋軟骨挫傷等の傷害を負わせたにとどまり,同人を殺害するに至らなかった。

第2

業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午前2時51分ころから同日午前3時14分ころまでの間,前記第1記載の場所所在の前記タクシー内において,前記ナイフ1本を携帯した。

(量刑の理由)

1
本件は,被告人が,①いわゆるタクシー強盗を企て,深夜,乗客を装って被害者運転のタクシーに乗車して同車を走行させた上,住宅地の路上に停車した同車内において,背後から左手で同人の口を塞ぎ,右手に持った果物ナイフ(以下本件ナイフという。
)を同人の首に突き付けたところ,同人が被告人の右手
首をつかむなどして本件ナイフを首から遠ざけようと抵抗したため,そうさせないように本件ナイフを突き付けるうち,被害者が死ぬかもしれないが,そうなっても仕方がないと考え,本件ナイフの切っ先を同人の首に強く突き付け,その首を切るなどして現金を奪い取ろうとしたが,現金を奪うことができず,同人の首などに通院加療約1か月間を要する切創などの傷害を負わせたにとどまったという強盗殺人未遂の事案(判示第1)と,②前記タクシー内において,本件ナイフを携帯した事案(判示第2)であるが,前者は,法定刑に照らしても,それ自体重大な犯行である(以下,強盗殺人未遂の犯行を指して本件という。。)

2
本件犯罪行為について
行為責任の観点から,まず考慮すべき行為態様をみると,前記のとおり,被告人は被害者の首に本件ナイフを突き付け,同人がこれを遠ざけようとしたのに対し,そうさせないように本件ナイフを持った右手に力を入れて突き付けていたばかりか,同人が死ぬことになっても仕方がないと考え,その切っ先を同人の首に強く突き付け,その首を切るなどしている。被害者の首の切創は深さが約1センチメートルであるが,もう少し深ければ,頸動脈等の大きな血管を損傷して,多量の出血により同人が死亡していた可能性があったことにも照らすと,本件は極めて危険な犯行である。
弁護人は,被害者の傷害は被告人と被害者がもみ合う中で生じたものであり,これらは偶発的に生じたという側面が強いとして,行為態様が極めて危険であるとする検察官の主張を争う趣旨の主張をするが,被告人は被害者の首に本件ナイフが触れるような状態でこれを突き付け,同人がこれを遠ざけようとしたのに対し,そうさせないように力を入れていたのであって,客観的には,ちょっとした
両者の力関係によって,本件ナイフが被害者の首に突き刺さることが十分考えられる状況にあったといえる上,そのような中で被告人は,被害者が死ぬことになっても仕方がないと考え,本件ナイフの切っ先を強く突き付け,同人の首を切っているのであるから,検察官の前記主張は正当である。
次に,本件の結果をみると,被害者は首や手に本件ナイフによる切創を負っているほか,難を逃れようと,シートベルトを付けた状態で体を無理に動かしたことから,右胸を痛めているのであって,被害者が相当の出血をしていることや前記の加療期間からしても,傷害の結果は軽いものではない。また,被害者は,深夜,タクシーの車内で,本件ナイフを首に突き付けられるなどして襲われたのであり,前記のとおり,ちょっとした力の加減で本件ナイフが首に突き刺さることが考えられる状況にあったことにも照らすと,被害者の恐怖感も大きかったと認められる。
さらに,被告人は,金遣いに問題があって消費者金融から借金を重ね,一人暮らしをしているアパートの家賃の支払いに窮し,手っ取り早く現金を得ようとタクシー強盗を企て,本件に及んだものであって,犯行動機に酌量すべき事情はない。被告人は,タクシー強盗を決意すると,脅迫に用いるため,アパートの自室から本件ナイフを持ち出し,客を装って被害者運転のタクシーに乗り込むなどしており,本件にはある程度の計画性が認められる。弁護人は,犯行動機の形成過程には被告人の生育歴の影響があり,この点を被告人のために斟酌すべきであるという趣旨の主張をするが,本件において,被告人の生育歴が量刑に影響するとはいえない。
加えて,タクシー強盗が連続的に発生していた状況下で本件が敢行されたことによる社会的影響や,タクシー強盗が模倣されやすい犯罪であることからすると,刑罰によって同じような行為を防止するという要請も看過することはできない。他方,幸いにして被害者の死亡という最悪の結果は生じていない。また,前記のとおり,被害者に本件ナイフを突き付けた時点で,被告人に殺意はなく,犯行
の途中で生じた殺意も未必的なものである。
3
その他考慮した事情
被害者には何の落ち度もない。被害者は,捜査段階から一貫して被告人の厳重処罰を求めているところ,前記のような行為の危険性及び結果からすると,被害者の処罰感情が厳しいのも当然であり,この点は相応に考慮すべき事情である。なお,犯行後,被告人が,着用していた軍手やジャンパーを川に投棄したり,現場付近に落とした自己名義のキャッシュカード等について,交番に虚偽の遺失届を出すといった罪証隠滅工作をしていることも,付随的な事情として指摘できる。他方,被告人が本件公訴事実を認め,反省の態度を示していること,被告人は若く,前科前歴がないこと,被告人の実母が出廷して,被告人の社会復帰後は同居して監督し,その更生に助力する旨誓約していることは,被告人の更生可能性に関する事情として,被告人のために考慮すべきであるが,量刑の基礎となる本件犯罪行為の重大性に照らすと,その程度には自ずと限度があるというべきである。

4
以上のような量刑事情とそれらが量刑判断において持つ意味合いを踏まえ,未遂減軽をした上で,被告人を懲役13年に処するのが相当であると判断した。
(求刑

懲役16年,主文同旨の没収)

平成21年5月29日
大阪地方裁判所第8刑事部

裁判長裁判官

中里智美
裁判官

末弘陽一
裁判官

中畑洋輔
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