判例検索β > 平成21年(う)第14号
強盗殺人
事件番号平成21(う)14
事件名強盗殺人
裁判年月日平成21年5月26日
裁判所名・部札幌高等裁判所  刑事部
結果棄却
原審裁判所名札幌地方裁判所
原審事件番号平成20(わ)866
原審結果その他
判示事項の要旨被告人が,友人と共謀して釣具店から釣り具を万引きし,逃走しようと普通乗用自動車に乗り込んだところ,被害店舗店員の被害者が同車のボンネットにしがみついたため,逮捕を免れる目的で,そのまま同車を発進させて蛇行走行した後,ブレーキをかけて停車した同車から被害者が路上に転落して転倒するや,再び同車を発進させ,被害者が死に至るかもしれないことを認識しながら,車底部で被害者を引きずったまま走行させて殺害したという公訴事実に対し,被害者を車底部に挟み込んだ認識のなかった被告人には殺意が認められないとの被告人側の主張を第1審同様に認めず,量刑についても無期懲役を維持し,被告人の控訴を棄却した事例
裁判日:西暦2009-05-26
情報公開日2017-10-13 01:36:39
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主文
本件控訴を棄却する
当審における未決勾留日数中100日
を原判決の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は,主任弁護人組村眞平,弁護人磯田丈弘連
名作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は,検察官生形修作
成の答弁書に,それぞれ記載されているとおりであるから,こ
れらを引用する。
1
事実誤認の論旨について
論旨は,被告人には殺意がなかったから,これを認めて強盗

殺人の事実を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが
明らかな事実の誤認があるというのである。
所論にかんがみ,記録を調査して検討するに,原判決挙示の
関係証拠を総合すると,被告人が,逮捕を免れる目的で,原判
示の窃盗の被害店舗の店員であるA(以下被害者という。

を,原判示の普通乗用自動車(以下本件車両という。の

車底面と路面との間に挟み込み,被害者が死に至るかもしれな
いことを認識しながら,被害者を本件車両の車底部で引きずっ
たまま同車を走行させて同人を殺害した事実を認定することが
できるから,原判決に事実の誤認があるとはいえない。以下若
干補足する。
所論は,被害者の死因を惹起した前胸部圧迫は,被害者を車
底部と路面との間に挟み込んだ本件車両の前輪が被害者を轢過
した時点で発生したものであり,この時点において,被害者を
車底部と路面との間に挟み込んだ認識のない被告人には,被害
者を本件車両の前輪で轢過する事実の認識がないから,被告人
に殺意を認めることはできないというのである。確かに,被害
者の死因の特定及び死体の状況等をとりまとめた検察官作成の
捜査報告書(原審甲15号証)中には,『左肩部・左上腕・前
胸部の皮内出血,鎖骨・肋骨の骨折,肺挫傷,心臓破裂』の損傷は,前胸部が左側から広い面によって強く圧迫されて発生したものと考えられる。これが死因を惹起している。交通事故によるならば,この損傷はタイヤにより強圧された可能性がある。との記載があるが,この記載は被害者の損傷のみによってその可能性をいうにすぎないものであって,被害者の衣類や
身体の表面にはタイヤによって印象された痕(いわゆるタイヤ
痕)が見当たらず,本件車両の左前輪タイヤハウスに付着した
血痕が人血痕とは認められないことのほか,本件現場の状況,
本件車両の形状や状況,被害者の遺体や着衣の状況に加え,こ
れらの状況から認められる被害者が本件車両の車底部と路面と
の間に挟まれながら少なくとも約60メートルにわたって引き
ずられたとの本件態様を総合すると,本件死因を惹起した上記
損傷は,本件車両の前輪タイヤで轢過されて生じたものではな
く,本件車両の車底部と路面との間に挟み込まれたまま引きず
られて生じたものと認めるのが自然かつ合理的であるから,所
論はその前提を誤っており,採用することができない。
また,所論は,被告人は,被害者を本件車両の車底部と路面
との間に挟み込んでいた時点においても,被害者の存在を認識
した事実はないから,被告人に殺意を認めることはできないと
いうのである。しかしながら,被告人は,被害者が本件車両の
ボンネット上にしがみついていることに気づきながら,本件車
両を発進させ,被害者を振り落とそうとして蛇行走行した後,
一旦逃走を断念してブレーキをかけて停車させたところ,被害
者の姿が見えなくなったので,被害者がボンネット上から付近
路上に落下したものと考えたが,被害者の落下位置を確認する
ことなく本件車両を発進させ,その直後にガンという物音
が聞こえ,さらに本件車両の走行を続けると,アクセルが急に
重くなり,何かが本件車両に引っかかっているように感じたが,
アクセルを踏み続けて同車を走行させ,その後アクセルが急に
軽くなったように感じ,そのまま同車を走行させたというので
あり,上記本件態様にこのような被告人の認識内容を照らし併
せると,被告人が逃走中でいわゆるパニック状態にあり,上記
一連の出来事が短い時間で生じていることなど所論指摘の事情
を考慮しても,被告人は,遅くとも上記のアクセルが重くなっ
たように感じた時点においては,本件車両が被害者を引きずっ
ていることを認識していたと優に認められ,所論は採用するこ
とができない。
その他所論がるる主張する点を検討しても,原判決には所論
の主張するような事実の誤認があるとはいえない。
論旨は理由がない。
2
法令適用の誤りの論旨について
論旨は,本件は,強盗殺人罪は成立せず,強盗致死罪が成立

するのみであるから,強盗殺人罪を適用した原判決には,判決
に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというの
である。
しかしながら,上記1で検討したとおり,強盗殺人罪が成立
するから,原判決には法令適用の誤りはない。
論旨は理由がない。
3
量刑不当の論旨について
論旨は,被告人を無期懲役に処した原判決の量刑は重すぎて

不当であるというのである。
所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの
結果をも併せ検討する。
本件は,釣具店で万引きした被告人が,追跡してきた店員を
殺害した強盗殺人の事案である。
被告人は,深夜,釣り具を見ていた原判示の店舗に店員が2
人しかいなかったことから,友人と共謀して釣り具を万引きし,
逃走しようと本件車両に乗り込んだところ,本件車両のボンネ
ット上に被害者がしがみついたため,逮捕を免れる目的で,そ
のまま本件車両を発進させて蛇行走行した後,ブレーキをかけ
て停車した本件車両から被害者が路上に落下して転倒するや,
再び本件車両を発進させ,被害者が死に至るかもしれないこと
を認識しながら,あえて被害者を本件車両の車底部で引きずっ
たまま走行させて強盗殺人の犯行に及んだものであり,発端と
なった万引きを含めその身勝手な動機に酌むべき事情はない上,
本件車両の車底部で被害者を引きずったまま,アクセルを踏み
続けて60メートル近くも本件車両を走行させており,態様が
残虐で悪質というほかなく,被害者の死亡という結果はまこと
に重大であって,被害者の遺体の損傷の程度も著しく,その被
った肉体的苦痛や恐怖等の精神的苦痛は量り知れず,被害者の
遺族の衝撃や悲しみは相当に深い。
以上によれば,被告人の刑事責任は極めて重い。
そうすると,窃盗の被害は回復されていること,本件犯行が
偶発的な面を有しており,殺意の程度も比較的弱いものである
こと,被告人は,逃走したものの,犯行翌日には警察に出頭し
ていること,殺意以外の事実関係をおおむね認め,被害者の遺
族にあてた謝罪文を作成するなど反省の態度を示していること,
被告人は21歳と若年であり,前科がないこと,原判決後,被
告人の家族が被害者遺族宅へ弔問に出向いていることなど,被
告人のために酌むことのできる諸事情を十分に考慮しても,無
期懲役に処した原判決の量刑はまことにやむを得ないものであ
って,これが重すぎて不当であるとはいえない。
なお,所論は,検察官が無期懲役を求刑したが有期懲役とな
った事例を調査し,本件と比較すると,被告人に無期懲役を科
すことは重きに失するというのであるが,所論が掲げる事例の
多くは殺人あるいは強盗致死の事例であるほか,強盗殺人の事
例も本件とは事案を異にするものであって,所論は採り得ない。
論旨は理由がない。
4
よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することと

し,当審における未決勾留日数の算入につき刑法21条を適用
して,主文のとおり判決する。
平成21年5月26日
札幌高等裁判所刑事部

裁判長裁判官

小川
裁判官

井口育央実
裁判官

二宮信吾
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