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各公害防止事業費負担決定取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成13年(行ウ)第375号、同15年(行ウ)第555号)
事件番号平成18(行コ)78
事件名各公害防止事業費負担決定取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成13年(行ウ)第375号,同15年(行ウ)第555号)
裁判年月日平成20年8月20日
法廷名東京高等裁判所
判示事項化学品製造工場の跡地に係る土壌汚染除去事業について,同工場を操業していた会社の親会社を合併して発足した会社に対してされた,公害防止事業費事業者負担法9条に基づく公害防止事業費の事業者負担の決定が,適法とされた事例
裁判要旨化学品製造工場の跡地に係る土壌汚染除去事業について,同工場を操業していた会社の親会社を合併して発足した会社に対してされた,公害防止事業費事業者負担法9条に基づく公害防止事業費の事業者負担の決定につき,前記親会社が,子会社の株式の100パーセントを保有しており,解体工事の対象となった前記工場の敷地の所有権等を所有していたこと,同子会社は倒産状態で私的整理から清算に入る過程にあり,親会社の課長がその代表取締役に就いていたこと等の事情によれば,前記親会社が,前記工場の撤去方針を決定し,ダイオキシン類の一種であるPBC(ポリ塩化ビニール)を工場の跡地に投棄した主体であると評価することができ,かつ,それは子会社の清算のために親会社が行った事業活動の一環であったということができるから,前記親会社が,同法3条所定の「当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動」を行った事業者に当たるとした上,前記事業費の4分の3相当額全部を前記親会社を承継した前記会社に負担させたことに裁量権を逸脱,濫用した違法があるとはいえないとして,前記決定を適法とした事例
裁判日:西暦2008-08-20
情報公開日2017-10-19 18:55:44
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主文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は,控訴人の負担とする。

第1

実及び理由
控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人が控訴人に対してした,平成13年10月18日付け××環改有第×××号

公害防止事業に係る事業者負担金の額(管理費を除く。)について(通知)

と題する通知及び同日付け同号公害防止事業に係る管理費の事業者負担金の額(平成13年度分)について(通知)と題する通知に係る公害防止事業費事業者負担の各決定を取り消す。

3
被控訴人が控訴人に対してした,平成15年8月22日付け××環改有第×××号

公害防止事業(第二次)に係る事業者負担金の額(管理費を除く。)について(通知)

と題する通知及び同日付け同号公害防止事業(第二次)に係る管理費の事業者負担金の額(平成15年度分)について(通知)と題する通知に係る公害防止事業費事業者負担の各決定を取り消す。

4
第2
1
訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
事案の概要
本件は,被控訴人において,平成12年に大田区α付近一帯の地中から発見されたダイオキシン類による土壌の汚染に関し,控訴人が公害防止事業費事業者負担法3条に規定する当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動を行った事業者に当たると認定して,平成13年と平成15年の2回にわ
たり,同法9条に基づき,控訴人に上記汚染に係る公害防止事業の費用を負担させる決定をしたのに対し,控訴人が,上記各処分の違法性を主張して,その取消しを求める事案である。
原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却したので,控訴人が控訴をした。2
関係法令の定め等,前提事実及び争点は,下記3に当審における当事者の主張を付加するほか,原判決の事実及び理由欄の第2事案の概要の1
項ないし3項(原判決3頁16行目から同24頁5行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
3
当審における当事者の主張
(1)

本件対策地域において検出されたPCBの種類,汚染の態様等について控訴人
(ア)

本件対策地域におけるPCB汚染は,以下のように,P1株式会社
(以下P1という。)や控訴人以外の第三者の行為に基づいて地表面から生じたPCB汚染が,油分等を伝って地中に広がっていったものである。
すなわち,本件対策地域で検出されたPCBのほとんどは,P1による更地化の際に形成されたと思われるガラ混じりの層から検出されたというわけではないのである。むしろ,原判決添付別紙1-1の図面のNo.2(なお,以下ではNo.1,No.2等の表示をもって原判決別紙1-1記載のNo1,No.2等の地点を示すものとする。)の位置のコンクリート・砕石直下で採取された試料(試料名称No.2(0.35))からは,560000mg/kgという最高濃度のPCBが検出
されている。この試料が採取された地層は,瓦礫等を含まない埋土ローム層であるから,P1による更地化以後の汚染であることが明らかである。さらに,No.2(0.35)の地点以外にも,No.3の地表面付近でPCB臭が確認されており,高濃度のPCB汚染が疑われるのである。
なお,No.2(0.35)から採取された試料について,被控訴人は,砕石とロームの間に溜まっていた油であると主張するが,油だけが土壌であるロームの上に遊離して存在しているはずはない。P2報告書では,油分8%,含水率27.8%と記載されており(乙8,
14頁),また,同試料につき土壌中の油分に含有されるPCB濃度という記載がされているのである(乙10,8頁)。当該試料は,P2

1回目調査において採取され,P2

2回目調査で保存試料とし

て追加分析された土壌試料であり,油ではない。そして,No.2(0.35)の地点では,ガラ等の混入は認められず(甲62),土壌のかく乱もみられないから,ガス管工事等により汚染土壌がかく乱したという事実はないのである。
また,No.6(0.4)の地点は,周辺の調査地点に広く存在する埋土ローム層が存在せず,焼却土,石炭ガラで構成されている。これは,埋土ローム層が形成された後,穴を掘る等の人為的行為によりロームが撤去され,石炭ガラ等で埋め戻されたと考えるのが自然である。この焼却土や石炭ガラで構成された地点が汚染されており(1200mg/kg),P1が化学品製造工場(以下本件工場という。)を昭和39
年から昭和40年にかけて閉鎖した跡地(以下本件工場跡地とい
う。)が更地化され,埋土ロームが持ち込まれた後に汚染が生じたことを強く示唆するものである。
そして,PCBが地中に存在する場合,土壌中に落ち葉等の有機物質や大量の油分が存在すると,それらとの親和性により地中方向に容易に移動することを併せ考えると,本件対策地域におけるPCB汚染は,第三者の行為により地表面から生じたPCB汚染が,油分などを伝って地中に広がったものと推認するのが相当である。
(イ)

P1が使用していたPCBは,○○400(P3株式会社製造のP
CB製品名。)の1種類だけであったところ,被控訴人は,本件土壌浄化事業により回収したPCBについて,同族体組成及び塩素化度の比較から,○○400であると断定する。
しかし,○○300や○○500が1割でも含まれた混合物の同族体組成比率も,本件において回収したPCBの同族体組成比率と似通ったものになる(甲119)ので,本件土壌浄化事業により回収したPCBの同族体組成比率からいえることは,○○400を主成分としたPCBの可能性があるという程度に過ぎないものである。塩素化度から回収されたPCBが○○400であると断定することも不可能である。
むしろ,P2が分析したNo.2表層やNo.6表層の六塩素化物以上の同族体比率からすると,P1が使用していなかった○○500や○○600などが相当量含まれていないと説明がつかないのである(甲119)。また,P2報告書によっても,○○300,500,600など
が検出されているのである。
したがって,本件において回収したPCBは,○○400が主たる構成成分であると推定されるものの,○○500や○○600などが相当量含まれるものと考えるのが自然である。
これに対し,被控訴人は,諸々の理由から○○400が変成した可能性を指摘するが,それらはいずれも単なる可能性に過ぎず,P1が使用していた○○400と汚染PCBとの同一性を合理的に説明できるものではない。
(ウ)

P1が使用していた○○400の回収,処分は,同社が倒産した昭
和39年4月末までに完了したものである。すなわち,一般に,粘度が高くなって取扱いが困難となる原料,熱媒などは,装置内温度が低下する前に装置系外に取り出すのが常識である。また,P1は,昭和39年2月末に倒産し,従業員の大部分は同年4月末までに退職した。したがって,P1が使用していた○○400は,同月ころまでに回収されたものである。

被控訴人
(ア)

平成12年10月から12月にかけて被控訴人がP4に委託して実
施した周辺環境調査において,地表付近に高濃度汚染は認められなかったし,平成15年にP4に委託した追加調査でも地表面からは高濃度のPCBは検出されなかったことからして,汚染が地表面から生じたとする主張には根拠がない。
No.2(0.35メートル)で560000mg/kgのPCBが
検出されたのは,土壌でなく油に区分される試料である。PCBは親油性の物質であることに加え,P4の追加調査によると,No.2(0.35メートル)から検出されたPCB濃度は1700mg/kgにとどまっていたことに照らすと,直ちに同所付近の地表面の土壌が高濃度のPCBによって汚染されていたとはいえない。
No.2地点においては,昭和60年6月にはコンクリート舗装されていなかったが,その後のコンクリート舗装の際,水道メーターの設置工事等が行われたために,周辺で土壌がかく乱されたことが推認される。βビルへのガス管(深度45センチメートル)は,昭和58年以降に敷設換えが行われており,平成13年12月24日撮影した写真(乙112の1・2)からも,No.2地点周辺で土壌がかく乱されたことがうかがえる。元々ロームの下にはコールタール臭のする土壌が存在しており,同地点で行われたガス管工事等により上部へのかく乱が生じたため,このような高濃度PCBを含む油分が砕石の下から検出されたと考えられるのである。なお,表層試料については,クロススコップを用いて直径約20センチメートルの範囲を手掘りで採取しているのであり,ボーリングマシンにより採取されたものではないから,柱状図上においてNo.2の地点でコアの乱れがみられないとしても,周辺工事による土壌のかく乱による汚染の可能性を否定できないのである。
また,No.6地点においては,地表面から深度1.4メートルまでは石炭ガラを含む埋土・焼却土になっており,周辺に見られるロームが存在しない。しかし,第三者がこのような深さまで外部から持ち込んだ
焼却灰を埋設することは考えられないため,本件工場跡地の更地化が行われた際に,ロームのみではなく,石炭ガラや焼却灰等,不要物を焼却した残し等も埋め戻しに使われたものと推認されるのであり,No.6地点における状況が,本件のPCB汚染が工場跡地の更地化後になされたことを裏付けるものとはいえない。
(イ)

○○400の同族体組成比は,四塩化ビフェニルが51パーセント,
五塩化ビフェニルが28パーセント,三塩化ビフェニルが17パーセント程度であるところ,本件土壌浄化事業において得られた抽出PCB液中のPCB同族体組成比は,50検体すべてについて傾向に大差はなく,四塩化PCBを最も多く含み,その割合の平均は53パーセント,五塩化PCBが22パーセント,三塩化PCBが19パーセントであるから,回収されたPCBは○○400であるといえる。また,PCB製品に含まれるポリ塩化ビフェニルの平均塩素数,すなわち塩素化度は,○○300は3.2,○○400は4.1,○○500は5.2,○○600は6.3程度とされているところ,本件土壌浄化事業において得られた50検体の抽出PCB液の塩素化度の平均値は4.1であり,○○400の上記値と一致しているのである。
(ウ)

熱媒体であった○○400には,常温でも装置系外に取り出すのに
必要な流動性があり,装置の温度が下がっても粘度が高くなって取扱いが困難になるとは認められない。
(2)

本件対策地域から検出されたSKオイルについて
控訴人

本件工場跡地からP1が使用していたSKオイルが検出されたとはいえない。すなわち,被控訴人は,財団法人P5(以下P5という。)の分析の結果,汚染土壌からSKオイルに含まれる2-メチルナフタレン,ジメチルナフタレン,ビフェニル,アセナフテンの4成分が検出されたことをもって,本件工場跡地からSKオイルが検出されたと主張する。しかし,P1が昭和38年当時使用していた潤滑油は,○○という製品であり,これと本件工場跡地土壌から検出された土壌抽出成分6試料について,それぞれ組成分析を行ったところ,メチルナフタレン,ジメチルナフタレン及びビフェニルの組成比が異なっていたものである(甲115)。しかも,被控訴人の主張する上記4成分を主要成分として構成される潤滑油は他にも存在するのである(控訴人の調査によれば○○がある(甲116)が,P1はこれを本件工場で使用していなかった。)から,本件対策地域の土壌からP1が使用していた○○が検出されたと認定することはできないものである。

被控訴人
被控訴人がP5に委託した土壌試料の追加分析においてSKオイルの主要構成成分が検出された12試料を比較すると,それぞれ相関関係があり,汚染源が同一である可能性が高いことが判明したこと,控訴人が実施した抽出PCB液6試料中に含まれるSKオイルの主要成分の分析結果によると,どの試料についても成分濃度の間に相関関係が認められ,6試料が同様の成分組成比を持つことが示されたことなどに照らすと,本件工場跡地の更地化後の第三者による汚染は考えられない。

なお,○○は,昭和30年に製造が中止されたが,P1の使用方法によれば,○○をP1が昭和38年当時も使用していた蓋然性は低くないから,P1がその当時使用していた潤滑油が,昭和30年以降に製造された○○のみであるとはいえない。(3)

控訴人がPCBを排出した主体と評価できるか。
控訴人
負担法上の事業者負担金の基本的性格は,原因者負担金であるから,控訴人が負担法3条の事業者に当たるというためには,控訴人自身の行為において独自に,本件対策地域における汚染という結果に対する原因が存在しなければならないものである。本件のごとく,親会社・子会社の関係があり,子会社の行為が介在する場合には,被支配会社に対する法律上又は事実上の支配を活用して,指揮,監督,命令,指示等の形で原因行為を実施させ,かつ,当該指揮命令が子会社の反抗を許さず意思決定の自由が残されない程度であったときに親会社に対する帰責可能性が肯定されるというべきである。
これを本件についてみると,親会社である控訴人が子会社であるP1に対して反抗を許さない程度に本件対策地域上にPCBを排出するよう指揮命令した具体的事実が認定されて初めて控訴人が負担法3条の事業者ということができるのである。しかし,本件では,控訴人がP1の株式を100パーセント保有していたことのみが取り上げられており,上記指揮命令等の具体的事実は認定されていない。控訴人が抽象的な意味でP1に指揮監督を及ぼすことが可能であったとしても,自然科学的な意味で原因行為
を作り出したのはP1であって,控訴人ではないのであり,負担法や民法,商法の法体系を前提として考えると,仮にP1にPCB排出の原因があったとしても,控訴人が原因をなす事業活動をしたと評価することはできない。また,汚染原因者から事業を承継した第三者あるいは汚染原因者から資産を購入した第三者が,後日,当該事業・資産に発見された汚染原因に対する責任や汚染原因に対する負担金を負担しなければならないとすると,それは第三者の自由な経済的活動を萎縮させてしまうことになり,許されないことは明らかである。
そもそも,控訴人が,P1の株式を取得したのも,本件工場を購入したのも,債権者になったのも,P1の再建のためないし清算手続を遂行するためであり,純粋な経済活動ではなかったものである。したがって,P1から引き継ぐべき事業は存続しておらず,控訴人は,抽象的にも対価を得ていないばかりか,実質的にもP1に替わって損失を被っており,その意味でも,控訴人が負担法3条の事業者に当たるとするのは不当である。イ
被控訴人
原判決も認定したような控訴人とP1との関係は,控訴人が,P1の全株式を所有し,取締役の選任をその意思に基づいて行ったことにより,P1を現実に支配し,P1という別法人の保有する施設で,その法人の所有する有害物質であるPCBを回収し,処分したもの,言い換えれば○○400を排出したものであることを基礎付けるものである。
原判決は,控訴人とP1を同一視したのではなく,控訴人自体が,負担法3条所定の公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動を行った
事業者に当たると認定したものである。
(4)

事業者負担金の負担割合と負担金額の算定について
控訴人
(ア)

負担法は,事業者全体に負担させる負担総額を決定するが(4条1
項。なお,負担法施行令2条),諸般の事情(当該防止事業に係る公害の程度や当該公害防止事業に係る公害の原因となる物質が蓄積された期間等の事情等)を勘案して妥当と認められる額を減じた額をもって負担総額とすると規定している(負担法4条2項)。しかし,その減額が算定困難であるときは,緑地その他の事業については4分の1以上2分の1以下の割合(同法7条1号)を乗じた額を基準として負担総額とすることを可とする(同条柱書)。なお,客土事業については2分の1以上4分の3以下の割合(同条3号)とされている。また,費用負担事業者が複数存在するときは,各事業者について,寄与度に応じて決定した負担総額を配分し,これをもって個々の事業者の負担金とする(同法5条)。
本件については,以下の点が指摘できる。第1に,当該防止事業に係る公害の程度については,本件対策地域近辺は住宅密集地域ではなく,被控訴人が控訴人(P1)がPCBを排出したと主張する昭和39年ないし40年から,PCBが検出されたという平成12年までのおよそ35年間,本件対策地域及びその近隣で,汚染被害や環境被害が報告されたという事実は見当たらないから,公害の程度はそれほど著しくないと評価することができる。したがって,その防止事業費用のすべてを
事業者に課するのは酷に失する。第2に,当該公害防止事業に係る公害の原因となる物質が蓄積された期間等の事情については,その排出時期とされるころは未だPCBの有害性が知られておらず,何らの法規制もされていなかったのであるから,今になって控訴人に負担を求めるのは酷である。第3に,期間等にいう等に関しては,PCBを
直接排出したとされるP1が既に倒産している以上,今更事業者に対して負担を求めることは酷である。第4に,負担法による他の適用事例における事業者の平均負担割合は約47.0パーセント,本件と同じ客土事業については約44.5パーセントであるのと比較すると,本件の75パーセントは高額である。
したがって,本件においては,事業者全体の負担総額を,費用総額の25パーセントとすべきであり,仮にそうでないとしても50パーセントとすべきである。
そして,被控訴人はこのような諸事情を適正に勘案する作業をしていないのであり,その意味でも本件各処分は違法である。なお,本件では,負担法7条3号を適用したり,準用したりすることは許されないものである。
(イ)

負担法に基づき事業者全体に負担させる負担総額が決定された後,
事業者が複数存在する場合には,各事業者の具体的な事情,すなわち寄与度に応じて,各事業者に対して賦課される具体的な負担金額が決定される(負担法5条)。
ところで,本件対策地域におけるPCB汚染については,それが第三
者の行為に起因する可能性が高いものである。すなわち,第1に,株式会社P6(以下P6という。)所有地と隣接するP7株式会社(以下P7という。)所有地との間に,昭和43年ころ塀が築造されたとしても,地下数十センチメートルしか埋まっておらず,しかも,原判決の見解によれば,塀の外に第三者が排出したPCBが雨水などの影響で塀の内側に浸透する可能性も充分にあり得ることになる。第2に,原判決は,P6の代表者が本件対策地域内の建物に子供らを含む家族とともに使用していたことから,PCBを排出する可能性は低いとするが,昭和43年から昭和47年ころまでの間に子供はまだいなかったと思われ,P6が排出した可能性が皆無であったとはいえない。第3に,かつてP1が使用したPCB類は○○400のみであるが,原判決の認定によっても,調査資料の1割程度は○○300,○○500及び○○600など,他のPCB類であったのである。したがって,本件において,事業者全体の負担総額(費用総額の25パーセント。そうでないとしても50パーセント。)のうちに占める控訴人グループ(控訴人とP1)の割合は,考えられる最低限のものとみるべきで,25パーセントと考えられ,仮に25パーセントでないとしても50パーセントとすべきである。
次に,控訴人グループの負担割合は,内部における控訴人の寄与度についてみるに,被控訴人主張によっても自然的物理的観点から本件対策地域にPCBを排出したのはP1とされていること,同地域にPCBを排出することを控訴人が認識認容した事実はないこと,PCB排出につ
いて控訴人がP1に対し何らかの指示,指揮,命令をした事実はなく,両者が意思を連絡した事実もないことに照らすと,控訴人は従犯的地位にとどまるというべきである。そうすると,控訴人の責任の程度は,P1の責任の程度の10分の1を超えることはない。
したがって,本件において,控訴人に賦課される具体的負担金額は,924万4318円となる(16億2700万円×0.25×0.25×1/11)。なお,仮に,事業者全体の負担割合及び控訴人グループの負担割合をそれぞれ50パーセントとすると,控訴人に付加される負担金額は,3697万7272円となるべきである。

被控訴人
(ア)

ダイオキシン類汚染土壌除去事業に係る減額の概定割合の定めはな
いが,本件土壌汚染は法規制以前の行為によるもので,カドミウム等の農用地土壌汚染対策の場合と同様の事情が認められることから,負担法7条3号に規定する農用地客土事業等で用いられる概定割合(2分の1以上4分の3)を準用し,4分の3としたものである。
(イ)

本件対策地域において第三者によるPCB投棄は認められないから,
第三者の事業者との責任割合を論ずる余地はない。また,PCB排出行為は控訴人の事業活動であるから,P1との間の責任割合を論ずる余地もない。
(5)

本件各処分の手続的違法等
控訴人
(ア)

負担法は,6条1項において,公害防止事業を行うときは審議会の
意見をきかなければならないとしているが,本件各処分のように事業者に負担を課する際に正式な聴聞手続を開催することを要求していない。このように,負担法が聴聞手続の開催を要求していないことの反面として,審議会への諮問は,欠くことのできない行政手続として重要な意味をもつのである。審議会では各層の意見が十二分に反映されることが期待され,それが処分の手続的適正を担保する役割を担っているのである。ところが,本件においては,被控訴人は,審議会に諮問した平成13年6月20日に先立つ同年4月20日付け書面(乙113)において,汚染原因者がP1(控訴人)である旨特定し,当該書面をマスコミに配布していた(乙117)。被控訴人は,審議会への諮問の前に控訴人に対する負担金の賦課の方針を決めており,審議会全体会及び部会の内容からすると,審議会はこの方針を追認,翼賛する存在でしかなかった(甲70ないし73)。したがって,本件においては審議会は形骸化しており,本件各処分の手続は負担法6条1項に違反するというべきである。(イ)

負担法6条3項は,同条2項2号の費用を負担させる事業者を定める基準は,事業者の範囲が明確で,かつ,妥当なものとなるよう定めるものとするとしている。しかし,本件においては,この基準の定め方は,狭小,かつ,恣意的,独断的であり,初めからP1(控訴人)を狙い打ちしたものであった。このような定め方は,同条3項に違反するというべきである。

被控訴人
聴聞手続は,不利益処分を受ける被処分者に対する手続的保障のための
事前手続であるのに対し,審議会手続は,判断事項の専門性などのために,処分庁が行政処分決定前に合議制の第三者に意見を聴く手続である。本件においては,各処分の事前手続としての審議会手続に違法はない。また,本件で,費用を負担させる事業者を定める基準の定め方が違法であるともいえない。
(6)

負担法3条の定めと憲法
控訴人
仮に本件各処分における負担法の解釈適用が誤ったものでないとするならば,負担法3条は,以下のように,法定手続保障,財産権保障及び租税法律主義に違反する違憲立法である。
(ア)

法定手続保障違反
憲法上の幸福追求権(憲法13条),罪刑法定主義(同法31条)に
基づく法定手続保障は,行政手続にも及び,その内容は,手続と実体要件の双方が法定され,かつ,いずれも内容が適正でなければならないというものである。この実体要件の内容の適正に関して,不明確故に無効の法理,すなわち,規制法はその内容において曖昧不明確であってはならないという法理が妥当する。ところで,本件の争点としては,負担法3条が遡及適用を許すのか,子会社の株式の100パーセントを保有する親会社に対して事業者性を直接認めることができるか否かといった点等が挙げられるのであるが,負担法3条は,これらの点についてこれをいずれと解し得るかの指標を示しておらず,判別機能を有していないのであり,曖昧,不明確で,過度に広範といわざるを得ない。

したがって,負担法3条は,憲法13条,31条に違反している。(イ)

財産権保障違反
負担法3条が,事業者該当性の認定を厳格にせず,事業活動が汚染の
原因となっている可能性があるという程度で負担を課すことを可とするものであり,施行者に有利な方向で原因者負担主義を緩和しているとすると,同条は負担法の立法目的と明らかに整合性を欠くことになって,憲法29条に違反する。
(ウ)

租税法律主義違反
事業者負担金は,強制徴収が可能であり(負担法12条),公租公課
の一種であるから,憲法84条の租税法律主義に服するものであり,賦課要件を定立して法的安定性と予測可能性を確保することができなければ,係る賦課は租税法律主義に違反することになる。
しかるに,負担法の規定をみると,事業者の範囲,負担総額,各事業者の負担金額についての文言は,漠然として抽象的であり,通常一般人の理解力を有する事業者は,最終的に自らに賦課される負担金額を予測することができないのである。したがって,負担法3条は,憲法84条に違反している。

被控訴人
(ア)

負担法3条は,公害防止事業の費用を負担させることができる事業
者を当該公害防止事業に係る地域において当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動を行い,又は行うことが確実と認められる事業と明記しており,曖昧不明確,過度に広範とはいえない。
(イ)

控訴人の,負担法3条は憲法29条の財産権保障に反するとの主張
は,控訴人主張の負担法3条の解釈と異なる解釈は許されないということをいうものにすぎず,同条の違憲性とは何ら関係がない。
(ウ)

負担法に基づく事業者負担金は,当該公害防止事業に係る地域において当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動を行い,又は行うことが確実と認められる事業者に対し課せられる人的公的負担としての金銭給付であり,課税権に基づくものではないから,公租公課の一種ではない。
なお,憲法84条にいう租税に該当しない場合であっても,租税法律主義の趣旨が及ぶ場合もあり得るが,公害防止事業の内容は,防止しようとする公害の内容により多種多様とならざるを得ないため,抽象的な規定にとどまったとしてもやむを得ないものである上,費用負担計画を定める際には,施行者は審議会意見を聴くこととされて,その判断の合理性が担保され,また,その要旨を公表することとされて透明性も確保され(負担法6条),施行者の恣意が抑制されるシステムになっているから,租税法律主義の趣旨に反することはない。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所は,控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は,下記2以下に付加補足するほか,原判決の事実及び理由欄の第3争点に対する判断の1項ないし4項(原判決24頁7行目から同74頁23行目まで。ただし,原判決24頁9行目の50の2の1を50の2の1ないし8に訂正し,同頁12行目の50の2の2ないし50の2の8を削り,原判決
26頁2行目の30万株を20万株に訂正し,同行目の取得しの
次に合計30万株を得てを加え,原判決30頁10行目の81番6の土地との間の次にには塀が存在し,を加え,同行目の及び両土地を81番9及び81番11の土地に訂正し,原判決48頁3行目の(乙8の次に,,81の1を加え,同61頁4行目の120を121に,同頁7行目の121を120に,同66頁23行目の11年を12年に,同72頁4行目の指揮監督を及ぼすことが可能であったことを指揮監督を及ぼしていたことにそれぞれ訂正する。また,同42頁17行目の末尾に改行してcPCB汚染土壌浄化事業実施の際の調査(乙129,130及び131の各1・2)被控訴人は,本件対策地域から掘削し,一時保管していたPCB汚染土壌について,PCB汚染土壌を溶剤に浸し,土壌を浄化する事業を実施した(乙129)。その過程において抽出されたPCB液は200リットルドラム缶で50缶分であった。この1缶ごとにサンプルを採取し,この50検体について,株式会社P8に委託してPCB濃度分析を行った。その結果,以下の事実が判明した。①本件浄化事業により回収されたPCB量は1004㎏であった。②抽出PCB液中のPCB同族体組成比は50検体すべてについてその傾向に大差はなく,四塩化ビフェニルを最も多く含み,その割合の平均は53パーセント,五塩化ビフェニルが22パーセント,三塩化ビフェニルが19パーセントであり,○○400に最も近い。③抽出PCB液の塩素化度は4.0から4.2と50検体においてばらつきが少なく,塩素化度の平均値は4.1で,○○400の文献値4.1(乙105)と一致する。を挿入する。)に記載のとおりであるから,これを引用す
る。
2(1)

P1が無水フタル酸を製造する際に熱媒体として用いた○○400が本
件工場を閉鎖して更地化した際に本件対策地域に他のコンクリート塊などとともに廃棄されたという事実は,以下の諸点からみて,強く推認されるということができる(なお,以下,当審で付加した事実については,括弧内の証拠によりこれを認定するものである。)。
ア(ア)

まず,本件対策地域から検出されたPCBの大部分が○○400で
あることは,以下の諸調査の結果により優に認められる。
①P2による詳細調査結果
ECDーガスクロマトグラフ上のピークパターンによると,9割超の調査地点で検出されたPCBの種類は○○400である。
②P5による調査結果
ECDーガスクロマトグラフからピークパターンを目視比較したところ,すべての試料が○○400由来のPCBであることが確認された。底質調査法及び外因性内分泌攪乱化学物質調査暫定マニュアルに基づくGC-MSによるPCBの種類の分析によると,すべての試料は四塩化ビフェニルの割合が多い○○400に最も類似した同族体組成パターンであった。
統計的手法である主成分分析及びクラスター分析によると,すべての試料が○○400に類似するものであった。
なお,控訴人は,P5が分析に使用した試料は,汚染土壌撤去工事の際に撹拌され,ドラム缶に詰め込まれた土壌から採取されたものである
から,すべての分析結果が似たようなものになっても不思議ではないなどと主張するが,掘削除去工事に当たっては,掘削区画を分けて段階的に進め,掘削した土壌はドラム缶に掘削時期及び区画毎の番号表示をして保管されていたのであって,土壌が全域にわたり撹拌され,成分が均一化されたものとは認め難いから(乙85,103,弁論の全趣旨),控訴人の主張は採用できない。
③P4による調査結果
底質調査法に基づく測定,PCB同族体分布及びガスクロマトグラフの分析によると,各試料に含まれるPCBは,○○400相当の製品であることが推測される。
④土壌浄化事業において抽出されたPCBの分析(乙130の1・2)土壌浄化事業の過程において抽出された50検体のPCBの分析によると,抽出PCB液中のPCB同族体構成比は,50検体すべてについてその傾向に大差はなく,四塩化ビフェニルを最も多く含み,その割合の平均は53パーセント,五塩化ビフェニルが22パーセント,三塩化ビフェニルが19パーセントであり,○○400に最も近いものであった。また,抽出PCB液の塩素化度は4.0から4.2と50検体においてばらつきが少なく,塩素化度の平均値は4.1で,○○400の文献値4.1(乙105)と一致するものであった。
なお,P9も,No.1表層,No.2(0.35メートル),No.3(0.9メートル)については,標準品の○○400の組成にほぼ一致する,また,No.2(1.0メートル)及びNo.4(2.0メート
ル),No.4(3.0メートル)については,低塩素化物が主体で,地中の主たる分解要因である嫌気性微生物による変化と一致したことから,○○300又は○○400と同様の組成をもつPCBが嫌気性微生物により分解された可能性があると判断しているところである(甲74)。
ただし,P10の鑑定書(甲90)には,被控訴人がP5に委託
して実施した主成分分析の結果においては,○○400に近いものがかなりある一方で,○○400と○○300の中間や○○300に近いものも存在することから,分析試料の大部分が○○400由来のものとまではいえない旨の記載があるが,①ないし④の調査結果と対比して,採用できない。
また,控訴人は,No.2表層やNo.6表層の試料の六塩化物以上の同族体比率からすると,○○500や○○600が相当含まれていたと主張するが,六塩化物以上は元々○○400に含有される割合が極めて少ない成分である(乙131の2)から,そのわずかな相違によって,四塩化物や五塩化物と比較すると,成分の比率の相違が相対的に大きくなるのであり,その比率を重視するのは相当でない。
(イ)

汚染土壌の掘削除去をしたところ,広範囲の地中からコンクリート
塊,煉瓦構造物の破片等の異物,ナフタレンの詰まったパイプ等が出土した(乙81及び82の各1・2,82の3ないし5,85)。また,汚染土壌中から広範囲にナフタレンが検出された(乙85)。また,多くの試料からSKオイルの主要構成成分(2-メチルナフタレン,ビフ
ェニル,ジメチルナフタレン,アセナフテン)が検出され,かつ,それらには相関関係がみられ,その汚染源が同一である可能性が高いと判断された(乙85)。また,本件PCB汚染土壌の浄化作業によって得られた抽出PCB液からランダムに選択された6試料に含まれるSKオイルの主要構成成分(2-メチルナフタレン,ビフェニル,ジメチルナフタレン,アセナフテン)の組成比の傾向を確認したところ,6試料が同様の成分組成比を持つことが確認された(乙135)。
このように,本件対策地域から広くコンクリート塊,煉瓦構造物の破片等の異物,ナフタレンとともに,SKオイルの成分が検出され,しかも,それらは同一の汚染源によるものとみられることからして,汚染土壌中から検出されたSKオイル成分はP1が使用していたSKオイルに由来するものであると推認されるというべきである。
なお,控訴人は,検出された成分の組成比がP1が使用していた○○のそれと異なるから,P1が使用していたSKオイルが汚染土壌中に含まれていたとは断定できないなどと主張するが,SKオイル等の熱媒油は,一般的に加熱使用等により,熱媒の構成成分が分解及び重合反応すること等により,低分子物質や高分子物質が生成することで,組成や性状が変わることがあり得る(乙132)。また,土中に排出された場合,土壌中には,SKオイル成分等を分解する微生物が広く分布していることが知られている(乙133の1・2,134)。したがって,土壌に排出されてから30年以上も経ているという場合,SKオイル成分の組成比が微生物による分解等により異なってくる可能性が高いから,
組成比が異なることから土壌中で検出されたSKオイル成分がP1が使用していたSKオイル成分であるとの上記推認を覆すに至らないというべきである。
(ウ)

高濃度のPCBが,本件工場跡地の更地化後形成されたローム層の
下の,上記の工場廃材と思われるものが埋まっている地層付近で検出された(No.1(0.4メートル),No.2(1.25メートル),No.8(1.5メートル))。なお,No.6(1.4メートル)の地点でも高濃度のPCBが検出されている。
(エ)

P1では,原料としてナフタレンを用いて無水フタル酸を製造し,
熱媒体として○○400及びSKオイルを使用していた。そして,昭和39年から昭和40年ころに,P1の工場設備は撤去され,本件工場跡地が更地化された。そして,その際,本件対策地域の地盤面がかさ上げされた。
(オ)

(ア)ないし(エ)の事実に照らすと,P1の工場設備撤去に際し発生
した不要物を土中に投棄し,覆土したこと,その一貫としてP1が使用していた○○400も投棄されたことが強く疑われるのである。

そして,以下のように,工場設備を撤去し,更地化する過程以外に,本件対策地域にPCBが排出された可能性は非常に乏しいと認められる。(ア)

まず,本件工場設備撤去以前の工場稼働中にP1がPCB(○○4
00)を本件対策地域に投棄することは考え難い(付近に工場建物があり,現に稼働しているのに地表面に投棄することは考え難いし,土地を掘削した上投棄することも,付近に建物等があり,工場として稼働中な
のに,本件対策地域を広く掘削することは考え難い。)。
(イ)

また,以下の点に照らすと,本件工場跡地の更地化後に本件対策地
域にPCBが投棄された可能性は非常に低いといわなければならない。①本件対策地域ないしその周辺土地を更地化後に所有したり,使用した者で,PCBを投棄する可能性のある者は見あたらない。P6は,確かに産業廃棄物処理業も目的とする会社であるが,本件対策地域に購入した土地に建物を建築し,そこを自宅としても使用してきたこと等に照らし,本件対策地域にPCBを投棄したりするとは考え難い。他の所有者等でPCBを投棄する必要性があり,投棄の可能性がある者も見あたらない。
②また,本件対策地域の所有者,使用者でない全くの第三者が更地化後に本件対策地域にわざわざ侵入して,PCBを投棄した可能性も(なお,この場合は,こっそり投棄することになるから,地面を広範囲に掘り返してまでして投棄することは考えにくく,地表面にそのまま投棄する可能性を考えていくことになろう。),以下のように非常に乏しいといわなければならない。すなわち,ケーブルドラム置き場として本件対策地域の一部が使用されるまでは,本件対策地域の西側及び北側には塀があったのである。確かに,甲50の2の2によると,本件工場跡地の東側及び西側の塀には間断があって,そこから本件対策地域に侵入することも可能であったが,その間断のある箇所から本件対策地域は隔たっており,もっと手近に容易に投棄できる場所(更地)があったと認められるから,外部の第三者がこっそり投棄するという場合,わざわざ奥の
本件対策地域にまで侵入してPCBを投棄するとは考えにくいというべきである。また,甲50の2の3によると,ケーブルドラム置き場として本件対策地域の一部が使用されるようになってからは,北側に車庫出入り口が設けられ,そこから本件対策地域に直に侵入することが可能になったものの,ケーブル置き場の東隣には広い更地が存在したことも認められるから,わざわざケーブル置き場の車庫出入り口等として使用されている本件対策地域に投棄するようなことは考え難い(嫌がらせの目的でもないと,そのようなことは考えにくい。)。また,そのような場所に投棄されれば,使用していたP11株式会社も気がつき,問題にしたはずであるが,そのようなことがあったことをうかがわせる証拠はない。そして,甲50の2の4・5によると,昭和43年ころからは,本件対策地域を分断する形で塀が築造されたことが認められるところ,外部の第三者がわざわざ塀をまたいで,その両側にPCBを投棄するようなことをすることは非常に考えにくいものである(なお,塀のどちらか一方の側に投棄したPCBが塀をまたいで浸透したということも,本件対策地域の広がり具合(面積約360平方メートル)などからみて考え難い。)。また,そのようなことがあれば,土地を使用していた者が気がつき問題にするはずであるが,そのような事実があったことをうかがわせる証拠はないのである。

このように,①P1の工場設備撤去に際し発生した不要物を土中に投棄して覆土したが,その際P1が使用していた○○400も投棄されたことが強く疑われること,②このP1の工場設備を撤去し,本件工場跡地を更
地化した時点以外に,本件対策地域にPCBが排出された可能性は非常に乏しいことを考え併せると,本件対策地域にPCBが投棄されたのは,P1の工場設備撤去時であり,かつ,投棄されたPCBはP1が使用していた○○400であるということが強く推認されるといわなければならない。(2)

そして,以下のように,本件では,上記推認を揺るがす事実が存在する
ともいえないのである。

No.2(0.35メートル)の地点において試料中最高濃度(560
000mg/kg)のPCBが検出されているところ,控訴人は,この地点は,コンクリート舗装直下の約30センチメートルの厚さのローム層の最上部で,ガラが混入している地層でもなく,P1の敷地の更地化後に盛り土がされた部分であるから,このことは,本件のPCB汚染がP1の敷地の更地化後ロームで盛り土がされた後に地表面からされたものであることを推認させると主張する。また,No.6(0.4メートル)でも,1200mg/kgのPCBが検出されているところ,この地点では他の地点でみられるロームがなく,最表層が石灰ガラを含む焼却灰で構成されているが,このことは,更地化後にロームが持ち込まれた後再度掘削されてロームが撤去され,焼却灰が埋められたことを示すものであり,このような地層でPCBが検出されたことも,更地化後にPCBが排出されたことを示すものであると主張する。
しかしながら,そもそも,上記のように,P1の工場設備を撤去し,更地化した時点以外に,本件対策地域にPCBが排出された可能性は非常に乏しいのである。また,試料中最高濃度(560000mg/kg)のP
CBが検出されたのは砕石とロームの間に貯まっていた油からであり(P2の調査においては,土壌に含有されるPCB濃度と土壌中の油分に含有されるPCB濃度とで明確に区分されている(乙10)。),元々PCBは油と親和性の高いものであるところ,原審説示のように,この地点において行われたガス管工事等により,上部に汚染がかく乱した可能性が否定できないことからすると,No.2(0.35メートル)の地点において試料中最高濃度のPCBが検出されていることは,本件PCB汚染がP1の敷地の更地化後地表面からされたものであるという事実を直ちに裏付けるものとはいえない。むしろ,P4の調査によると,No2(0.35メートル)の土壌試料から検出されたPCBの濃度は1700mg/kgにとどまるし,No.3(0.35メートル)からは82mg/kg,No.6(0.4メートル)からは1200mg/kg,No.8及びNo.16-1からは微量のPCBしか検出されなかったのである。これらの数値は,本件のPCB汚染が地表面に排出されたPCBによるものであったとの控訴人の主張と必ずしも適合しないものである。
また,No.6(0.4メートル)の地点についても,そもそもP1の敷地の更地化後第三者がこの付近を1メートルもの深さまで掘削し,ロームを除去し,石灰ガラを埋めると共にPCBを投棄したということは,上記のように,非常に考えにくいものである(むしろ,この地点付近では,更地化に際して石炭ガラや焼却灰等が埋戻しに使われ,ロームによる覆土は行われなかったと見るのが自然である。)。なお,仮に本件対策地域のうちNo.6の地点についても更地化後ロームで覆土されたという前提に
立つと,この地点付近だけは第三者がローム層を除去してPCBとともに石灰ガラ等を埋めたものの,それ以外の地点では地表面にPCBを投棄したというようなことを想定しなければならないが(なお,本件対策地域の広がりからみて,No.6地点付近に投棄されたPCBのみで本件対策地域全体の汚染が生じたと推認することは困難である。),そのようなことは考え難い(あるいは,No.6の地点以外は更地化の過程でPCBの投棄がされたが,No.6地点付近だけは,更地化後に別途第三者が投棄したというような事態も,非常に想定し難いといわなければならない。)。以上によると,No.2(0.35メートル)において最高濃度(560000mg/kg)のPCBが検出されこと,No.6(0.4メートル)のPCB汚染がみられた地層の特質から,前記推認を揺るがすことはできないといわなければならない。

控訴人は,P1では○○400しか使用しなかったにもかかわらず,本件工場跡地からは○○300,500,600なども検出されていることからみて,本件のPCB汚染はP1が使用していた○○によるものでないか,少なくとも一部は第三者が投棄したものによるものであるという趣旨の主張をする。確かに,本件工場跡地の土壌試料からは,○○400以外の,○○300,500,600に組成が近いものもあったという調査結果がある(P2の詳細調査,P12の分析結果(乙118))。また,P9も,No.18(1.0メートル)については○○500,No.28(1.0メートル)については○○600に相当するPCBであるとの判断を示している(甲74)。

しかしながら,上記のように,P5やP4による調査結果,土壌浄化事業において抽出されたPCBの分析結果からは,本件対策地域から取られた試料中のPCBはすべて○○400であるとの判断が示されているところである。
また,一定の組成をもって製造されたPCB製品であっても,長年自然環境に放置されている状態においては,組成変化を起こすことがあり得るところとされており,この組成変化の要因としては,塩素化度の低いPCBが大気中に揮散することにより,土壌中に残った揮散しにくい高塩素化PCBの構成比率が高まり,元が○○400であっても○○500又は○○600の成分比率に近づくことがあり得ること(乙93),土壌中の嫌気性微生物の作用により塩素数の高いPCBが脱塩素化し,塩素数の低いPCBに変化するため低塩化PCBの組成比が高まること(乙94,95の各1・2),降雨等による水分の移動に伴い,水溶解度が高く,土壌への吸着率の弱い低塩素化PCBが土壌中を移動すること(乙118,119及び120,121,124,125の各1・2)などが考えられるとされているのであるから,仮に検出されたPCBの一部に○○400と組成が異なるものが含まれていたとしても,それは組成変化が起きたためであるとの説明が可能である(なお,P9が試料の分析に用いたケミカルバランス法では,土壌中においてこのような組成変化が生じたか否かまでは判定できないものであり(甲74),同人も組成変化があり得ることを否定していない。)。そのことに,上記のように,P1の工場設備を撤去し,更地化した時点以外に,本件対策地域にPCBが排出された可能性は非常
に乏しいことを考え併せると,たとえ検出されたPCBの一部に○○400と組成が異なるものが含まれていたとしても,それは,上記推認を揺るがすものとはいえない。

また,控訴人は,P1が使用していた○○は昭和39年4月ころまでにすべて回収し,全量P13工場に搬出したものであると主張するが,原審説示のように,それを裏付けるに足りる的確な証拠はない(そもそもP1がどれだけの量の○○400を使用していたかも明確でないし,P13工場にどれだけの量の○○400が搬出されたかも明確でないのである。控訴人は,○○400は高価品であったから投棄されることはあり得ないというが,卓球台まで処分対象として記載した書類(甲8)があるのに,○○400については,これを幾らと評価して,どのように処分するかを記載した書類は残っていないのである。なお,○○400は常温においても装置系外に取り出すことができる程度の流動性を持っているのであるから(乙148),無水フタル酸の製造が終了した昭和39年4月までにP1が取り出していたはずであるということもできないものである。)。
3(1)

そこで,次に,P1の工場設備撤去時にP1が使用していた○○400
を本件対策地域に投棄した主体がP14株式会社(以下P14という。)であるといえるかについて検討する。
この点については,以下の点を指摘できる。
①P1の工場設備撤去時点ころには,P14は,P1の株式の100パーセントを保有しており,また,本件工場の敷地の所有権と工場等の建物の約半分の所有権を有していた。そして,P1の債権者からP1に対する全債権
を買い取っていたため,P1の唯一の私債権者であった。
②P1は,そのころ倒産状態で,私的整理から清算に入る過程であり,代表取締役はP14のP15管理課長がP14の課長兼任で就いていた。当時のP1の従業員は,同社の整理の事務を担当する経理課長と女性従業員等数名にすぎなかった。
③工場の除却までの間工場の管理をし,解体工事の監督等を務めたのは,P1の元業務課長で当時は既にP14の従業員であった者である(甲45)。また,P1のプラント解体撤去工事に際しては,P14に雇用され,P13工場に赴任していたP1の元製造課長がP14の指示で,出張し,解体,撤去の安全確保を図り,機器類のうち売却,移設,利用ができるものの選別,P13工場に移設できるものの選別等を行った(甲45)。
④P14の常務会において,P1の資産を幾らで,どこに売却するか,P13工場その他関係会社に幾らと見積もって転用・移設するか等について,単価数千円の実験台や卓球台に至るまで細かく報告がされて,その了解が取られた。P1の工場設備の解体作業についても,どの業者に幾らで頼むか,代金をどのようにして支払うか,作業のスケジュールがどうなるか等について細かく報告がされ,その了解が取られた(甲6,8)。
以上の事実関係によると,P1の工場設備撤去当時,P1は,その人的構成からしても,もはや自分で方針を決めることができない状態にあって(①,②),P14が細部に至るまですべて方針を決定していたものであり(③,④),工場設備のうち売却すべきもの及びP14ないし関係会社に転用・移設するものとそうでない不要物とを具体的に選別したのも,P14であり
(③,④),その意思決定を受けて,工場設備の解体作業等を指揮,監督したのもP14の従業員であったのである(③,④。なお,上記のように,原判決72頁4行目の指揮監督を及ぼすことが可能であったことは指揮監督を及ぼしていたことに改める。)。当時,P1は,すべてをP14の判断にゆだねていたということができる。それは,100パーセント株式を保有する親会社がその支配力を利用して子会社の方針決定に影響を及ぼすという域を超えるものであったといえる。
このような状況からすると,P14の所有地であった本件対策地域に工場設備中の不要物を投棄することを決めたのも,工場設備の解体作業等を指揮,監督していたP14の従業員であったものと推認されるのであり,その不要物の中にP1が使用していた○○400が含まれていたものと推認されるといわなければならない。
(2)

このように専らP14が本件対策地域への○○400の投棄を決定し,
それを実行させたのであるから,仮に解体事業等の請負契約の契約者名義がP1になっていて法形式的にはP1が解体事業等をしたものということになるとしても,P14が○○400を投棄した主体と評価することができ(仮に故意過失,違法性といった要件を備えているとすると,民法709条の不法行為責任も問い得るものといえる。),かつ,それは,P14の子会社の清算のために親会社であるP14が行った事業活動の一環であったということができるのである。そうすると,P14が当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動を行った事業者に当たることは明らかといわなければならない(なお,負担法3条の文理や立法の経緯等に照らすと,同条の事
業者には同法施行前に公害の原因となる事業活動を行った者も含まれると解される。)。
4
次に,以上を前提にして,本件各処分が違法かどうか検討する。
(1)

まず,負担法の負担金額の決定に関する定めを概観すると,以下のとお
りである。
負担法3条は,公害の原因となる事業活動を行い,又は行うことが確実と認められる事業者に対して費用負担をさせることができる旨定めているから,公害の原因となる事業活動を行うという要件に該当した事業者に対して費用負担をさせるか否かについては,いわゆる効果裁量を認めていると解される。例えば費用の徴収が困難な事情にある事業者等に対しては,負担を命じないことも許されるのである。
次に,事業者負担金の額の決定の仕組みとしては,まず当該公害防止事業について事業者全体に負担させる費用の総額である負担総額を定め,それを費用負担させる各事業者に配分して各事業者負担金の額を定めるという方法によることとしている(4条,5条)。そして,事業者全体の負担総額については,法定の公害防止事業費のうち,費用を負担させるすべての事業者の事業活動が当該公害防止事業に係る公害について,その原因となると認められる程度に応じた額とする旨定める(4条1項)。すなわち,公害の原因がすべて事業者の事業活動にある場合には,事業費用の総額が負担総額となるし,他に複合原因があり,これが事業活動と相まって公害を発生させている場合には,事業活動全体が原因となっている割合に応じて負担総額が定められるのである。

もっとも,一定の減額要素がある場合,その負担総額を減額することができるとされる(4条2項,3項)。特定公共下水道設置事業(2条2項4号)以外の場合(同条2項)についてみると,その公害防止の機能以外の機能,例えば公害防止事業が公害防止機能以外の環境整備的な機能を持っているようなときは,妥当と認められる額を減じることとされている。また,公害の程度によって公害防止事業の必要性,緊急性の度合いに差が生ずることが考えられるが,その度合いが低い場合には妥当と認められる額に減ずることができるとされる。さらに,公害の原因物質が蓄積された期間も減額についての斟酌要素とされている。すなわち,長期間にわたって原因物質が蓄積されることによって生ずる蓄積公害については,科学知識や防止技術の進歩の度合い,公害規制の体制の整備との関係からして,事業者の責任を減じる方が衡平の原則に合致することがあり得るから,減額をすることができるとされているのである。なお,減額すべき額は,それぞれ具体的な事情に即して決することになるのであるが(法は妥当と認められる額を減じると規定していることからして,いわゆる要件裁量が認められると解される。),減ずべき額の算定が困難な場合には,公害防止事業の種類に応じて,基準となるべき一定範囲の割合(概定割合)が定められている(7条)。緑地等設置事業については4分の1以上2分の1以下の割合(同条1号),農用地の客土事業については2分の1以上4分の3以下の割合などとされている(同条3号)。
このようにして定められた負担総額を,各事業者の事業活動が当該公害防止事業に係る公害について,その原因となると認められる程度に応じて,各
事業者に配分することになる(5条)。
(2)

以上の負担法の定めを前提として本件各処分の違法性の有無を検討する。まず,3の認定判断によれば,本件の公害の原因はすべて事業者(P1
4)の事業活動にあり,他に複合原因がある場合には当たらないから,4条1項の関係では,事業費用の総額を負担総額とすべきことになる。次に,本件は,負担法2条2項3号の事業であるから,4条2項の減額要素について検討すると,まず,本件の公害防止事業が公害防止機能以外の環境整備事業としての機能を有するなどとは認め難いから,この点を斟酌して減額しなかったことに何ら違法はない。次に,本件の公害の程度をみると,かなり高濃度のダイオキシン汚染であったのであるから(一般環境(一般住民の立ち入れる土地)としては,既存データの中では全国第2位の汚染事例であった(乙107)。),汚染被害等が具体的に報告されてなかったにしても,今後の汚染被害等の発生を防止するため事業を行う必要性の度合いは相当に高かったといえるのであり(なお,上記のように,本件公害防止事業は一般の環境整備事業としての性格を持つものであるとはいえない。),公害の程度を減額要素として斟酌しなかったことにも違法はない。他方,本件は蓄積型の公害には当たらないものの,本件でPCBが排出された昭和39年から昭和40年当時は,カネミ油症事件発生以前で当該物質の毒性に対する科学的知見が十分でなかったこと等の事情を考慮し,衡平の観点から,農用地客土事業等に用いられる概定割合の4分の3の基準を斟酌して,負担総額を4分の3に減額したことに,裁量権を逸脱濫用した違法があるとはいえないというべきである(本件がかなり高濃度のダイオキシン汚染であった
こと等の事情を考慮すると,本件各処分において負担総額を4分の3とし,それ以上の減額までしなかったことが,社会通念に照らして,著しく妥当性を欠くということはできない。)。なお,負担法7条1号が緑地等設置事業について概定割合を4分の1以上2分の1以下と,同条3号より減額の度合いを大きくしているのは,緑地等設置事業が公害防止機能以外の環境整備的な機能を持っていることに根拠を有するものと解されるところ,本件の公害防止事業にはそのような環境整備的な機能はないから,本件各処分において,同条1号の概定割合を斟酌しなかったことには合理性がある。
そして,本件汚染の原因となる事業活動を行った事業者としては,控訴人のほか,P1もこれに当たると解する余地があるが,上記のように,P1については,当時自分では方針を決めることができない状況にあって,控訴人の判断にすべて任せていたこと,また,既に清算結了により解散し,資力を有しない存在になっていることを考慮すると,被控訴人が,3条に基づき,P1には費用を負担させず,控訴人に対してだけ費用を負担させることを企図して,本件各費用負担計画において,費用を負担させる事業者を定める基準を…の土地を所有し,当該土地に所在するPCBを使用していた工場の建物及び設備を昭和39年から昭和40年にかけて除却し,当該土地を更地にした際に,PCBを排出して土壌の汚染を引き起こした事業者と規定した上,5条のその原因と認められる程度を控訴人100パーセントとし,減額した4分の3相当額全部を控訴人に負担させる本件各処分をしたことには合理性があり,そこに裁量権を逸脱濫用した違法があるとはいえない。5
本件処分の手続的違法について

控訴人は,費用負担計画を定める審議会は形骸化しているから,本件処分には手続的瑕疵があるなどと主張するが,原審説示のとおり,理由がない。行政庁が審議会に意見を聴く前に,行政庁として一定の方針を立て,それを審議会に諮って,意見を聴くということは何ら問題がない。そして,審議会が,行政庁の方針に沿った意見にまとまったとしても,それ故審議会が形骸化しているなどということはできないことも明らかである。
6
負担法の定めと憲法について
(1)

控訴人は,負担法3条は曖昧不明確,過度に広範であり,憲法

13条,31条,29条に違反するという主張をするが,負担法3条の事業者,公害の原因となる,事業活動という文言の意味は明確であり(このような用語は他の法令においても広く使われている。),同条が曖昧で,過度に広範に事業者に負担を負わせるものであるなどということができないことは明らかである。そして,公害の原因となる事業活動を行った事業者に公害防止事業の費用を一定範囲で負担させることには,たとえその事業活動が負担法制定前になされたものであったとしても,十分に合理性があり,憲法29条等に違反するものではないことも明らかである(控訴人の主張は,負担法3条から子会社の株式を100パーセント保有する親会社はそのことだけで本条の事業者に該当するという解釈が出てくるとか,事業活動が公害の原因となるか否かの認定を厳格にせず,その可能性が認められる程度でもよいとする解釈が出てくるとすると,負担法3条は曖昧不明確,過度に広範なものであり,憲法29条等に違反すると主張するもののようであるが,そのような解釈が負担法3条の文理から導き出されるとはいえ
ないことが明らかである。)。
(2)

控訴人は,事業者負担金は,強制徴収を可能とし(負担法12条),公
租公課の一種であるから,憲法84条の租税法律主義に服するところ,負担法の事業者の範囲,負担総額,各事業者の負担金額についての規定文言は,漠然とし抽象的であるから,負担法3条は,憲法84条に違反すると主張する。
しかしながら,負担法の事業者負担金は,特定の事業(公害防止事業)の経費に充てるため,その事業に特別の関係のある者(公害の原因となる事業活動をする者)から,その関係に応じて徴収されるものであるから,国民に,その能力に応じて広く一般的に課されるところの租税には該当しないものであり,憲法84条の規定が直接適用されるものではないというべきである。もっとも,租税以外の公課であっても,賦課徴収の強制の度合い等の点において租税と類似する性質を有するものについては,憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである。ただし,その場合であっても,租税外の公課は,租税とその性質が共通する点や異なる点があり,また賦課徴収の目的に応じて多種多様であるから,賦課要件が法律にどの程度明確に定められるべきかなどその規律のあり方については,当該公課の目的,特質等を総合考慮して判断すべきものである(以上,最高裁平成12年(行ツ)第62号,同年(行ヒ)第66号同18年3月1日大法廷判決・民集60巻2号587頁参照)ところ,負担法は,施行者が,費用負担計画に基づき,費用を負担させる事業者及び事業者負担金の額を一方的に定めることとしており(9条),かつ,定められた事業者負担金を納付しない事業者があるときは,国税滞納処分の
例によりこれを強制的に徴収することとしている(12条)から,租税と類似する性質を有するものとして,憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである。ところで,負担法の定めをみると,上記のように,当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動を行ない又は行なうことが確実と認められる事業者に対して費用負担をさせることができる旨規定して,いわゆる効果裁量を認め,また,負担総額の定め方についても,公害についてその原因となると認められる程度に応じた額(4条1項)と規定し,また,その減額要素として,公害防止の機能以外の機能,当該公害防止事業に係る公害の程度,当該公害防止事業に係る公害の原因となる物質が蓄積された期間等の事情を挙げ,これらを斟酌して1項の額を負担総額とすることが妥当でないと認められるときは,妥当と認められる額を減じた額をもって負担総額とする旨規定し,さらに,各事業者に負担させる負担金の額の定め方についても,各事業者の事業活動が当該公害防止事業に係る公害についてその原因となると認められる程度に応じて配分した額とする旨(5条)規定しているのであり,その原因となると認められる程度に応じた額,妥当でないときは,妥当と認められる額など,抽象的な表現ないし不確定概念が用いられているところである。
もっとも,負担法がこのような定め方をしているのは,公害防止事業の対象となる公害の内容,規模等は多種多様であり,それに応じて公害防止事業の内容も多種多様なものが想定されること,公害の原因となる事業活動についても,関係する事業者の数,公害発生への関与の態様,程度等には様々なものが想定されることから,このような定め方をしたものと解されるのであ
り,このような定め方は,その特質に応じたもので,必要性,合理性があるといわなければならない(なお,租税法においても,相当の理由(所得税法145条2号等),必要があるとき(同法234条1項),不相当に高額(法人税法34条2項,36条)等,不確定概念を用いて課税要件その他の法律要件を定めている場合がみられるが,それが租税法律主義に反するとは解されていない。)。しかも,公害防止事業の費用の額自体は客観的に確定し得るものと考えられるところ(負担法4条1項参照),4条1項,2項はその総枠の中での減額について定めるものであるし,また,5条は,その枠の中で原因となる事業活動を行った各事業者への割振りを定めるものである。また,事業者負担金の額を定める手続として,まず学識経験者等からなる審議会の意見を聴いて,費用を負担させる事業者を定める基準,公害防止事業費の額,負担総額及びその算定基礎等を定めた費用負担計画を定め(6条1項,2項),かつ,その要旨を公表したうえ(同条5項),この費用負担計画に基づいて費用を負担させる各事業者及び事業者負担金の額を定めることとして(9条1項),行政庁の恣意を抑制し,判断の合理性が担保されるような手続が採られているのである。これらの点を考え併せると,負担法が上記のような不確定概念等を用いて法律要件等を定めたことが,租税法律主義の趣旨に反するもので,違憲ということはできない。
7
結論
以上のとおりであるから,本件各処分に違法があるとはいえないというべきである。よって,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第9民事部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官

新坪田丘川基堀亮一
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