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公害防止事業費負担決定取消請求事件
事件番号平成13(行ウ)375等
事件名公害防止事業費負担決定取消請求事件
裁判年月日平成18年2月9日
法廷名東京地方裁判所
判示事項化学薬品製造工場の跡地に係る土壌汚染除去事業について,同工場を操業していた会社の親会社を合併して発足した会社に対してされた,公害防止事業費事業者負担法9条に基づく公害防止事業費の事業者負担の決定が,適法とされた事例
裁判要旨化学薬品製造工場の跡地に係る土壌汚染除去事業について,同工場を操業していた会社の親会社を合併して発足した会社に対してされた,公害防止事業費事業者負担法9条に基づく公害防止事業費の事業者負担の決定につき,同法は,公害が環境に及ぼす有害な結果の重大性にかんがみ,公害防止事業に要する費用を,広く公害の原因を作出した者に負担させることを企図しているものと解されるところ,同法3条所定の「当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動」を行った事業者については,自ら公害の原因となる事業を継続して行う者に限定して解する理由はなく,また,その事業活動を継続的なものに限定する理由もないとした上,前記土壌汚染は前記工場を操業していた会社が私的整理から清算に移る過程でのことであるところ,前記親会社が,前記会社の全株式を保有し,経営を支配していたこと,前記工場設備の撤去作業に対して指揮監督を及ぼすことが可能であったこと等の事実関係の下では,前記親会社を合併して発足した会社は,同法3条所定の「当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動」を行った者に当たるとみるのが相当であるとして,前記決定を適法とした事例
裁判日:西暦2006-02-09
情報公開日2017-10-19 19:51:16
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主文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

第1
1実及び理由
請求
平成13年(行ウ)第375号事件
被告が原告に対し,平成13年10月18日付け××環改有第×××号

公害防止事業に係る事業者負担金の額(管理費を除く。)について(通知)

と題する通知及び同日付け同号公害防止事業に係る管理費の事業者負担金の額(平成13年度分)について(通知)と題する通知に係る公害防止事業費事業者負担の各決定を取り消す。

2
平成15年(行ウ)第555号事件
被告が原告に対し,平成15年8月22日付け××環改有第×××号

公害防止事業(第二次)に係る事業者負担金の額(管理費を除く。)について(通知)

と題する通知及び同日付け同号公害防止事業(第二次)に係る管理費の事業者負担金の額(平成15年度分)について(通知)と題する通知に係る公害防止事業費事業者負担の各決定を取り消す。

第2

事案の概要
本件は,平成12年に大田区α付近一帯の地中から発見されたダイオキシン類による土壌の汚染の除去に関する公害防止事業について,被告において,原告が,公害防止事業費事業者負担法3条の規定する当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動を行った事業者に当たると認定し,原告に対し,平成13年と平成15年の2回にわたり,同法9条に基づき当該公害防止事業費を負担させる決定をしたのに対し,原告が,上記各処分の違法性を主張して,その取消しを求めている事案である。
なお,被告は,上記各処分をした理由について次のとおり主張する。すなわち,発見された上記ダイオキシン類は,かつて同所で化学品製造工場(以下本件工場という。)を操業し,ナフタレンを原料として,無水フタル酸(プラスチックの可塑剤の原料)を製造し,熱媒体としてダイオキシン類の一種であるPCB(ポリ塩化ビフェニル)を含有する○○400(P1株式会社製造のPCB製品名。以下○○400ともいう。)を使用していたP2株式会社(以下P2という。)が,昭和39年から昭和40年にかけて本件工場を閉鎖して跡地(以下本件工場跡地という。)を更地化した際に地中に排出したものであり,その当時,同社の全株式を保有する最大の債権者で,同社の従業員を再雇用するなどしていたP3株式会社(以下P3という。)がP4株式会社と合併して原告が発足したことから,原告は前記事業者に当たると主張する。
1
関係法令の定め等
(1)

公害防止事業

公害防止事業費事業者負担法(昭和45年法律第133号。以下負担法という。)は,公害防止事業に要する費用の事業者負担に関し,公害防止事業の範囲,事業者の負担の対象となる費用の範囲,各事業者に負担させる額の算定その他必要な事項を定めることを目的とし(1条),同法2条1項において,同法にいう公害の定義を環境基本法2条3項に規定する公害(環境の保全上の支障のうち,事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染,騒音,振動,地盤の沈下及び悪臭によって,人の健康又は生活環境に係る被害が生ずること)と規定した上,負担法2条2項において,公害防止事業として1号から5号までの事業を列挙し,その3号に,ダイオキシン類により土壌が汚染されている土地について実施されるものであって,客土事業,施設改築事業その他政令で定める事業を掲げている。これを受けて,同法施行令1条3項3号は,その他政令で定める事業として,ダイオキシン類による土壌の汚染の状況がダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号。以下ダイオキシン法という。)7条の基準のうち土壌の汚染に関する基準を満たさない地域であって,当該地域内の土壌のダイオキシン類による汚染の除去等をする必要があるものとして,政令で定める要件(人が立ち入ることができる地域(工場又は事業場の敷地の区域のうち,当該工場又は事業場に係る事業に従事する者以外の者が立ち入ることができないものを除く。))に該当する地域(同法29条1項,同法施行令5条)として,都道府県知事により指定されたダイオキシン類土壌汚染対策地域(以下対策地域という。)内にある土地について行う,同法31条2項1号イ及びロ並びに2号に規定する事業,すなわち,ダイオキシン類による土壌の汚染の除去に関する事業及びその他ダイオキシン類により汚染されている土壌に係る土地の利用等により人の健康に係る被害が生ずることを防止するため必要な事業並びにダイオキシン類により土壌の汚染を防止するための事業(事業者によるダイオキシン類の排出とダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合において実施されるものに限る。)を挙げている。
(2)

ダイオキシン類の意義

ダイオキシン法2条は,同法におけるダイオキシン類の範囲を,①ポリ塩化ジベンゾフラン,②ポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン,③コプラナーポリ塩化ビフェニルの3つと規定している。
(3)

ダイオキシン類に関する環境基準

ダイオキシン法7条は,政府は,ダイオキシン類による大気の汚染,水質の汚濁(水底の底質の汚染を含む。)及び土壌の汚染に係る環境上の条件について,それぞれ,人の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとすると規定している。これを受けて,ダイオキシン類による大気の汚染,水質の汚濁及び土壌の汚染に係る環境基準について(平成11年環境庁告示第68号)は,上記基準(以下環境基準という。)に関し,同告示の別表の媒体の項に掲げる媒体ごとに,同表の基準値の項に掲げるとおりとし,環境基準の達成状況を調査するため測定を行う場合には,別表の媒体の項に掲げる媒体ごとに,ダイオキシン類による汚染又は汚濁の状況を的確に把握することができる地点において,同表の測定方法の項に掲げる方法により行うものとし,同告示の別表において,媒体土壌,汚染の基準値1000pg-TEQ/g以下の場合の測定方法を,土壌中に含まれるダイオキシン類をソックスレー抽出し,高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計により測定する方法と規定している。
(4)

公害防止事業に要する費用を負担させることができる事業者

負担法3条は,公害防止事業に要する費用を負担させることができる事業者を,当該公害防止事業に係る地域において当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動を行ない又は行なうことが確実と認められる事業者と規定している。
(5)

公害防止事業につき事業者に負担させる費用の総額

負担法4条1項は,公害防止事業につき事業者に負担させる費用の総額(以下負担総額という。)について,公害防止事業に要する費用で政令で定めるもの(以下公害防止事業費という。)の額のうち,費用を負担させるすべての事業者の事業活動が当該公害防止事業に係る公害についてその原因となると認められる程度に応じた額とすると規定し,同条2項は,公害防止事業が2条2項1号から3号まで又は5号に係る公害防止事業である場合において,その公害防止の機能以外の機能,当該公害防止事業に係る公害の程度,当該公害防止事業に係る公害の原因となる物質が蓄積された期間等の事情により前項の額を負担総額とすることが妥当でないと認められるときは,同項の規定にかかわらず,同項の額からこれらの事情を勘案して妥当と認められる額を減じた額をもって負担総額とする旨規定している。(6)

公害防止事業につき各事業者に負担させる負担金

負担法5条は,公害防止事業につき各事業者に負担させる負担金(以下事業者負担金という。)の額は,各事業者について,公害防止事業の種類に応じて事業活動の規模,公害の原因となる施設の種類及び規模,事業活動に伴い排出される公害の原因となる物質の量及び質その他の事項を基準とし,各事業者の事業活動が当該公害防止事業に係る公害についてその原因となると認められる程度に応じて,負担総額を配分した額とする旨規定している。
(7)

費用負担計画

負担法6条は,施行者(地方公共団体が公害防止事業を実施する場合にあっては当該地方公共団体の長-同法2条3項)が,公害防止事業を実施するときは,審議会の意見を聴いて,当該公害防止事業に係る費用負担計画を定めなければならないとする(6条1項)。費用負担計画には,①公害防止事業の種類,②費用を負担させる事業者を定める基準,③公害防止事業費の額,④負担総額及びその算定基礎並びに⑤前各号に掲げるもののほか,公害防止事業の実施に必要な事項を定めなければならず,上記公害防止事業費の額及び負担総額を定める場合においては,これらの額のうちに当該公害防止事業に係る施設の管理に要する毎年度の費用(以下管理費という。)が含まれているときは,当該施設の設置に要する費用(以下設置費という。)と管理費とに区分するものとし(同条4項),施行者は,第1項の規定により費用負担計画を定めたときは,遅滞なく,その要旨を公表しなければならない旨(同条5項)規定している。
(8)

事業者負担金の額の決定及び通知

施行者は,負担法6条1項の規定により費用負担計画を定めたときは,同法9条2項に規定する者を除き,当該費用負担計画に基づき費用を負担させる各事業者及び事業者負担金の額(負担総額が設置費と管理費とに区分されているときは,設置費に係る事業者負担金の額)を定めて,当該各事業者に対し,その者が納付すべき事業者負担金の額及び納付すべき期限その他必要な事項を通知しなければならない(負担法9条1項)。また,施行者は,6条2項2号の費用を負担させる事業者を定める基準に該当する事業者で,同条1項の規定により費用負担計画を定める際現に当該公害防止事業に係る区域に工場又は事業場が設置されていないものについては,当該工場又は事業場の設置後遅滞なく,同項の費用負担計画に基づき事業者負担金の額を定めて,当該事業者に対し,その者が納付すべき事業者負担金の額及び納付すべき期限その他必要な事項を通知しなければならない(負担法9条2項)。(9)

ダイオキシン法に基づくダイオキシン類土壌汚染対策地域の指定

ダイオキシン法29条は,都道府県知事は,当該都道府県の区域内においてダイオキシン類による土壌の汚染の状況が7条の基準のうち土壌の汚染に関する基準を満たさない地域であって,当該地域内の土壌のダイオキシン類による汚染の除去等をする必要があるものとして政令で定める要件に該当するものを対策地域として指定することができると規定するとともに(1項),対策地域を指定しようとするときは,環境基本法43条の規定により置かれる審議会その他の合議制の機関及び関係市町村長の意見を聴かなければならないと規定し(3項),都道府県知事は,対策地域を指定したときは,遅滞なく,環境省令で定めるところにより,その旨を公告するとともに,環境大臣に報告し,かつ,関係市町村長に通知しなければならないと規定している(4項)。
(10)

ダイオキシン法に基づくダイオキシン類土壌汚染対策計画の策定

ダイオキシン法は,都道府県知事は,対策計画を定めようとするときは,関係市町村長の意見を聴くとともに,公聴会を開き,対策地域の住民の意見を聴かなければならず(31条3項),また,環境大臣に協議し,その同意を得なければならない(同条4項)とし,その決定後,遅滞なく,その概要を公告するとともに,関係市町村長に通知しなければならない(同条6項)としている。
なお,同法31条1項は,都道府県知事は,対策地域を指定したときは,遅滞なく,ダイオキシン類土壌汚染対策計画(以下対策計画という。)を定めなければならないとし,同条2項において,対策計画においては,次に掲げる事項のうち必要なものを定めるものとしている。
1号

対策地域の区域内にある土地の利用の状況に応じて,政令で定めるところにより,次に掲げる事項のうち必要なものに関する事項

ダイオキシン類による土壌の汚染の除去に関する事業の実施に関する事項


その他ダイオキシン類により汚染されている土壌に係る土地の利用等により人の健康に係る被害が生ずることを防止するため必要な事業の実施その他必要な措置に関する事項

2号

ダイオキシン類による土壌の汚染を防止するための事業の実施に関する事項

(11)

ダイオキシン法所定の対策計画に基づく事業と負担法の関係

ダイオキシン法31条7項は,対策計画に基づく事業については,負担法の規定は,事業者によるダイオキシン類の排出とダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合に,適用するものとする旨規定している。
2
前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)

本件工場跡地付近区道下におけるダイオキシン類の発見

東京都下水道局が,平成12年2月ころ,P2の工場跡地である東京都大田区α×番地(地番表記)に接する大田区道(×号線)において行った工事の掘削土からPCBが検出されたため,大田区において,上記区道敷につきボーリング調査を行い,3地点についてダイオキシン類を測定するとともに,7地点(3つの深度)についてPCB濃度を測定したところ,高濃度のPCB及び土壌環境基準(1000pg-TEQ/g)の16倍に当たる16000pg-TEQ/gのダイオキシン類が検出された。これを受けて,東京都環境局は,同年9月13日付けで大田区道におけるダイオキシン汚染の概要について公報した。(乙5,107の資料1,2)
(2)

被告による調査
被告は,平成12年9月22日,大田区のボーリング調査結果を踏まえ,
諮問機関である市街地土壌汚染対策検討委員会(委員長P5P6大学地球環境科学部教授,委員P7東京農工大学工学部教授を含む計7名)において,ダイオキシン汚染の概況について説明するとともに,周辺の環境への影響の有無についての調査(以下周辺環境調査という。)の実施方法,詳細調査の考え方等について,同委員会の意見を聴いた(乙107,117)。

被告は,平成12年11月20日,市街地土壌汚染対策検討委員会において,周辺環境調査の実施状況及び地歴調査の結果を報告するとともに,詳細調査計画の実施について同委員会の意見を聴いた(乙6,108)。

被告は,平成12年10月から同年12月にかけて,大田区道下のダイオキシン類が周辺地域の環境に及ぼす影響の有無を把握するため,大田区道に係るダイオキシン類環境調査(周辺環境調査)を株式会社P8(以下P8という。)に委託して実施し,その結果を基に,東京都環境局において,平成13年1月9日,大田区道下におけるダイオキシン類による汚染は,周辺環境に影響はない旨の報道発表を行った(乙109の1及び2)。


被告は,平成13年1月から3月にかけて,株式会社P9(調査機関の所在地神奈川県横浜市鶴見区β×-1,分析機関の所在地群馬県太田市γ×-7,計量証明事業登録番号群馬県濃度環第×号(以下,同社をP9という。))に委託してダイオキシン類の汚染に関する詳細調査(以下詳細調査という。)を行った。P9は,別紙1-1の図面中のNo.1ないしNo.31の各地点から土壌や油分等の試料を採取し,ダイオキシン類及びPCBの有無や濃度等を分析した。(乙8)

被告は,上記詳細調査の結果,区道に接する区域を中心に土壌環境基準を超える高濃度(最大570000pg-TEQ/g)の汚染地域を確認したとして,平成13年4月20日,市街地土壌汚染対策検討委員会に詳細調査の結果を報告した(甲69,乙7,9)。
被告は,さらに,平成13年5月から6月にかけて,上記調査を補充し,ダイオキシン法に基づく対策地域の指定を行うため,P9に委託して,ダイオキシン類の調査,分析等(以下策定調査という。)を行った(乙10)。P9は,策定調査において,新たに抽出した3地点(後記(3)エで指定された対策地域の外延より外の部分であるA,B,Cの3地点)においてボーリング調査を実施し,ダイオキシン類について,同地点から採取された土壌試料とともに,詳細調査時にNo.6,No.7,No.8,No.16-2,No.19,No.21の各地点の一定の深度から採取された保存試料について測定,分析を行った(A,B,C等の地点と対策地域との関係につき,別紙1-2の図面参照)。


他方,東京都職員は,平成12年11月ころから12月ころにかけて,原告従業員らから事情を聴取し,資料の提出を受けるなどして調査をした(乙16,22,33,37,38)。


上記調査の過程で,原告は,自らの調査の結果等を基に,平成12年11月8日,同月10日,同月16日,同月17日,同月22日に,それぞれ,被告に対して関係資料を提出し,同年12月27日に,これまでの調査結果を整理した上,原告はP2に資本参加し子会社としていたが,経営に関与したことも,土地を利用したことも,廃棄物を埋めた事実もない旨記載した書面を提出した(甲85,86,乙38,108)。
ただし,上記場所においては,かつて,P2が本件工場を操業し,ナフタレンを原料として,無水フタル酸(プラスチックの可塑剤の原料)を製造し,熱媒体としてダイオキシン類の一種であるPCB(ポリ塩化ビフェニル)を含有する○○400を使用していたが,昭和39年から昭和40年にかけて本件工場を閉鎖して本件工場跡地を更地化したという経緯はあった。

被告は,平成13年4月20日,詳細調査の結果と汚染に係る範囲,汚染原因の検討,環境影響の評価,今後の対応について等を議題とし,市街地土壌汚染対策検討委員会の意見を聴いた上,詳細結果の概要と汚染原因者に費用の負担を求めていく旨今後の対応について公報した(乙9,113)。


以上の経緯を経て,被告は,平成13年4月23日,原告に対し,本件工場跡地周辺で発見されたダイオキシン類による土壌汚染について,詳細調査の結果等から,原告が承継したP3が汚染原因者に当たるとして,原告において汚染土壌を処理するよう求め,同年5月14日までに実施する旨の意思表示がない場合には,負担法に基づき,被告が施行者となり,原告を事業者として公害防止事業を実施し,これに要する費用の負担を求める旨通知をしたが,原告は,被告の判断は承服できないとして,上記要請を拒否する旨の回答をした。

(3)

対策計画及び費用負担計画の策定までに至る経緯
被告は,平成13年5月24日,東京都環境基本条例25条2項2号の
規定に基づく東京都環境審議会(会長P10国立公衆衛生院顧問)に対し,ダイオキシン法29条の規定による対策地域の指定について諮問し,同月25日,同審議会会長から水質土壌部会(部会長P11P12大学教授)に付議された(乙40,41)。

東京都環境審議会は,平成13年6月8日,東京都環境審議会水質土壌部会の審議を経て,同月12日,対策地域の指定について審議し(第16回東京都環境審議会),被告に対し,その範囲を別図(別紙2-1の図面中の斜線を施した部分と一致する。)のとおりとすることは適当であると認める旨答申した(乙42,43,50,71)。


被告は,平成13年6月8日,大田区長に対しダイオキシン類土壌汚染対策地域の指定についての意見を照会し,同月13日,被告提案の指定地域の範囲(上記イに同じ)で異存ない旨の回答を得た(乙44,45)。

被告は,平成13年6月14日,上記答申及び回答に基づいて,東京都大田区α×番(住居表示の表記)並びに大田区道×号線及び×号線の土地の各一部の区域(別紙2-1の図面中の斜線を施した範囲)を,ダイオキシン法29条1項の規定に基づき対策地域として指定し(以下本件対策地域という。),同月20日,その旨を,東京都告示第×××号をもって公告し,併せて,環境大臣に報告するとともに,大田区長に通知した(乙46,47の1及び2)。


なお,被告は,平成14年3月29日,東京都告示第×××号をもって,本件対策地域の地番の表記(大田区α×番(地番の表記)4並びに同番9,同番11及び同番12の各一部並びに大田区道×号線及び×号線の各一部),別図(別紙2-2の図面中の斜線を施した部分)を改めて公告するとともに,原告に対して同公告について通知した(乙48,49,59の1及び2)。


被告は,平成13年6月20日,東京都環境審議会に対し,負担法6条1項に基づく費用負担計画について諮問し,同案件は,同月25日,同審議会会長から水質土壌部会に付議された(乙60,61)。


東京都環境審議会水質土壌部会は,平成13年7月30日に対策地域を視察し,同年8月6日に原告と被告の双方から意見を聴取し,同月24日に大田区αにおける本件対策地域の公害防止事業に係る費用負担計画(第一次)について審議した(甲71の2,72の1)。
なお,同部会においては,原告から提出された同年7月16日付けの見解書が提出され,原告にこれを説明する機会が与えられた(甲85)。ク
一方,被告は,平成13年8月10日,ダイオキシン法31条3項に基づき,対策計画の策定に当たって大田区長に意見を照会し,同月30日,同区長から,対策計画の策定に当たっては,住民への安全性や健康への影響に十分留意するとともに,環境に及ぼす影響が生じた場合には,迅速かつ適切に対処するよう要望する旨の回答を得た(乙52,53)。

被告は,平成13年8月25日,ダイオキシン法31条3項に基づき,住民の意見を聴くために公聴会を開催した(乙54)。


東京都環境審議会(第18回)は,平成13年9月14日,上記カの費用負担計画について審議し,被告に対し,東京都大田区αにおける本件対策地域の公害防止事業に係る費用負担計画(第一次)は適当である旨答申した(甲73の1,乙62)。


被告は,平成13年9月18日,ダイオキシン法31条4項の規定に基づき,対策計画について環境大臣に協議し,同年10月2日に環境大臣の同意を得た(乙55,56)。

(4)

対策計画(第一次)の策定(乙23,46)

被告は,平成13年10月10日,ダイオキシン法31条1項の規定に基づき,以下のとおり,ダイオキシン類土壌汚染対策計画(第一次)を定め(以下第一次対策計画という。),同月17日,同条6項の規定に基づき,東京都告示×××号をもって,その概要を公告するとともに,大田区長に対して第一次対策計画につき通知した(乙57,58)。

対策計画の名称
東京都大田区α地域ダイオキシン類土壌汚染対策計画(第一次)

事業の実施地域
平成13年東京都告示第×××号(平成13年6月20日付け)により告示した本件対策地域の全域


事業の内容
実施地域の汚染土壌を掘削により除去し,良質土で埋め戻す。掘削した汚染土壌を搬出し,一時保管施設において保管する。


事業費の額
(ア)

汚染土壌除去工事

4億5600万円
(イ)


一時保管施設の設置及び管理
設置費
7300万円



管理費(年間)
3500万円


事業を実施する者
東京都


その他
一時保管施設において保管する汚染土壌の無害化のための処理に係る対策計画については,大田区α地域対策計画(第二次)において定める。
(5)

費用負担計画(第一次)の策定

被告は,平成13年10月10日,前記(3)コの答申を受けて,負担法6条1項に基づき,公害防止事業に係る費用負担計画(以下第一次費用負担計画という。)を定め,同条5項に基づき,東京都告示第×××号をもって,以下のとおり,その要旨を公表した(乙57,63,65)。ア費用負担計画の名称
東京都大田区α地域ダイオキシン類土壌汚染対策事業に係る費用負担計画(第一次)

公害防止事業の種類
ダイオキシン類による土壌の汚染の除去に関する事業


費用を負担させる事業者を定める基準
ダイオキシン法29条1項の規定に基づき本件対策地域に指定された大田区αの区域を含む土地を所有し,当該土地に所在するPCBを使用していた工場の建物及び設備を昭和39年から昭和40年にかけて除却し,当該土地を更地にした際に,PCBを排出して土壌の汚染を引き起こした事業者


公害防止事業費の額
(ア)

汚染土壌除去工事

4億5600万円
(イ)


一時保管施設の設置及び管理
設置費
7300万円



管理費(年間)
3500万円


負担総額及びその算定基礎
(ア)

汚染土壌除去工事
負担総額
3億4200万円


算定基礎
負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当と認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=4億5600万円×(1-1/4)=3億4200万円
(イ)


一時保管施設の設置及び管理
設置費


負担総額
5475万円


算定基礎
負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当
と認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=7300万円×(1-1/4)=5475万円



管理費(年間)

負担総額
2625万円


算定基礎
負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当
と認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=3500万円×(1-1/4)=2625万円


公害防止事業の実施に必要な事項
物価の変動その他やむを得ない事由により,公害防止事業費の額に変更を生じたときは,変更後の公害防止事業費の額を基礎として算定した額を負担総額とする。


その他
一時保管施設において保管する汚染土壌の無害化のための処理に係る費用負担計画については,大田区α地域ダイオキシン類土壌汚染対策事業に係る費用負担計画(第二次)において定める。

(6)

事業者負担金の額の決定(第一次)
被告は,平成13年10月18日,原告に対し,第一次費用負担計画に
基づき,負担法9条1項により,原告を同法3条の費用負担する事業者として定め,納付すべき事業者負担金の額(管理費を除く。)を3億9675万円,納付すべき期限を各年度ごとに別途通知すると決定し,同日付け××環改有第×××号

公害防止事業に係る事業者負担金の額(管理費を除く。)について(通知)

と題する通知書をもって,これを通知した。イ
また,被告は,第一次費用負担計画に基づき,負担法10条1項の規定により,原告を同法3条の費用負担する事業者として定め,納付すべき事業者負担金の額(平成13年度分)を600万円,納付すべき期限を別途通知すると決定し,平成13年10月18日付け××環改有第×××号公害防止事業に係る管理費の事業者負担金の額(平成13年度分)について(通知)と題する通知書をもってこれを通知した(以下上記ア,イの各決定を併せて本件第一次決定という。)(甲1,2,乙65ないし68)。


被告は,平成14年3月29日,原告に対し,本件第一次決定の通知に基づき,平成13年度分の管理費について,納付すべき期限(平成14年4月30日)を通知するとともに事業者負担金の額を302万9908円に変更した旨を通知した(乙69)。

(7)

第一期及び第二期工事

本件第一次決定後,第一次対策計画に基づき,本件対策地域における汚染土壌の掘削除去工事,本件対策地域における汚染土壌除去工事が,平成13年11月ないし平成14年3月(第一期)及び平成14年6月ないし平成15年3月(第二期)にかけて実施された(以下,それぞれ第一期工事,第二期工事という。)(乙23,81の1及び2,82の1ないし5)。(8)

費用負担計画(第二次)の策定

東京都環境審議会水質土壌部会は,平成15年7月7日及び同月28日に大田区αにおける本件対策地域の公害防止事業に係る費用負担計画(第二次)について審議し,同月30日,東京都環境審議会は,被告に対し,東京都大田区αにおける本件対策地域の公害防止事業に係る費用負担計画(第二次)について答申した。なお,同負担計画は,汚染土壌の無害化処理に関する第二次対策計画(以下,第一次対策計画と併せ,本件各対策計画という。)に伴うものである(甲87)。
被告は,この答申を受けて,平成15年8月22日,負担法6条1項の規定に基づき,費用負担計画(以下第二次費用負担計画といい,第一次費用負担計画と併せて本件各費用負担計画という。)を定め,同条5項の規定に基づき,東京都告示第×××号をもって,以下のとおりその要旨を公表した。

費用負担計画の名称
東京都大田区α地域ダイオキシン類土壌汚染対策事業に係る費用負担計画(第二次)


公害防止事業の種類
ダイオキシン類による土壌の汚染の除去に関する事業


費用を負担させる事業者を定める基準
ダイオキシン法29条1項の規定に基づき本件対策地域に指定された大田区αの区域を含む土地を所有し,当該土地に所在するPCBを使用していた工場の建物及び設備を昭和39年から昭和40年にかけて除却し,当該土地を更地にした際に,PCBを排出して土壌の汚染を引き起こした事業者


公害防止事業費の額
(ア)


汚染土壌からPCBを分離する処理に係る額
処理費
9億0700万円



管理費(年間)
6200万円
(イ)

分離したPCB液を無害化する処理に係る額



処理費
8900万円



管理費(年間)
500万円


負担総額及びその算定基礎
(ア)

汚染土壌からPCBを分離する処理に係る額



処理費
a
負担総額
6億8025万円

b
算定基礎
負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当
と認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=9億0700万円×(1-1/4)=6億8025万円



管理費(年間)
a
負担総額
4650万円

b
算定基礎
負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当
と認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=6200万円×(1-1/4)=4650万円

(イ)

分離したPCB液を無害化する処理に係る額



処理費

負担総額
6675万円


算定基礎
負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当
と認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=8900万円×(1-1/4)=6675万円


管理費(年間)

負担総額
375万円


算定基礎
負担総額=公害防止事業費の額-負担法4条2項に規定する妥当
と認められる額(公害防止事業費の額×1/4)=500万円×
(1-1/4)=375万円


公害防止事業の実施に必要な事項
物価の変動その他やむを得ない事由により,公害防止事業費の額に変更を生じたときは,変更後の公害防止事業費の額を基礎として算定した額を負担総額とする。

(9)

事業者負担金の額の決定(第二次)
被告は,平成15年8月22日,原告に対し,第二次費用負担計画に基づき,負担法9条1項により,原告を同法3条の費用負担する事業者として定め,納付すべき事業者負担金の額(管理費を除く。)を7億4700万円,納付すべき期限を各年度ごとに別途通知すると決定し,同日付け××環改有第×××号

公害防止事業(第二次)に係る事業者負担金の額(管理費を除く。)について(通知)

と題する通知をもってこれを通知した(甲92)。


また,被告は,同日,第二次費用負担計画に基づき,負担法10条1項により,原告を同法3条の費用負担する事業者として定め,納付すべき事業者負担金の額(平成15年度分)を825万円,納付すべき期限を別途通知すると決定し,同日付け××環改有第×××号公害防止事業(第二次)に係る管理費の事業者負担金の額(平成15年度分)について(通知)と題する通知をもってこれを通知した(以下上記ア,イの各決定を併せて本件第二次決定といい,本件第一次決定と併せて本件各処分という。)(甲93)。(10)

PCB,ダイオキシンの意義,特性と○○等(乙1,87,90,93,
105,127,128)

PCBの意義,化学構造
PCBは,2つのベンゼン環がつながったビフェニル(C6H5-C6H5)を基本骨格とし,この基本骨格上の1ないし10個の水素原子が塩素原子に置換された分子(塩化ビフェニル)の総称で,天然には存在しない合成化学物質である。
PCBには,置換した塩素原子の数及び位置によって,10種類の同族体と209種類の異性体が存在する。同族体とは塩素数が同じPCBを,異性体とは更に詳細に塩素の置換する位置の違いによってPCBの種類を分類したものを指す。


コプラナーPCBとダイオキシン
ダイオキシン法は,200種類を超えるPCB異性体のうち,基本骨格と塩素数の関係から,構造的に扁平的な構造をとることができ,その扁平な構造が,ポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン(PCDD),ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)と類似し,これらと同様の毒性を示す12種類のPCB異性体を,コプラナーPCBとして,PCDD,PCDFとともにダイオキシン類として規定している。
なお,ダイオキシン法及び環境基準では,最も強い毒性をもった2,3,7,8TCDD(4塩化ジベンゾーパラージオキシン)を基準に,他の異性体の毒性の強さを表すことになっており,これを,毒性等価量(TEQ)という。我が国における環境基準値(汚染対策の発動基準)は,大気につき0.6pg-TEQ/立方メートル以下,水質につき1pg-TEQ/リットル以下,土壌につき1000pg-TEQ/g以下(250pg-TEQ/g以上の場合は調査実施)とされている(pg=ピコグラム=1兆分の1グラム)。

PCBの性質
PCBは,常温では無色透明の液体で,熱に強く,沸点の高い化学物質である(沸点は210ないし420℃といわれている。)。
また,PCBは,親油性が強く,水にはほとんど溶解せず(溶解度は0.55ないし2400μg/ℓ),土壌中の有機炭素に吸着しやすい。

我が国におけるPCB製品の種類,製造,利用の状況等と○○
(ア)

PCBは,昭和4年(1929年)に米国で初めて工業化され,日
本国内においては,昭和25年ころから使用され始め,昭和29年にP1株式会社が○○の商品名でPCBの国内生産を開始した。○○には同族体組成(塩素数の異なるPCBの割合)が異なる数種類の製品があり,○○200,○○300,○○400,○○500,○○600の順に塩素含有量が増え,例えば,○○300は三塩化ビフェニル,○○400は四塩化ビフェニル,○○500は五塩化ビフェニル,○○600は六塩化ビフェニルが,それぞれ最も多く含まれる。
(イ)

P13株式会社も,昭和44年から,○○の名称でPCB製品を市
販するようになった。その商品名に付された番号の下2桁の数字は塩素含有量にほぼ対応しており,○○300,400,500,600の組成は,それぞれAr1242,1248,1254,1260の組成に相当する。
(ウ)

PCBは,上記ウの性質等から,工業材料として優れた特徴を持つ
ため,熱媒体,トランス又はコンデンサ用の絶縁油,ノンカーボン紙のほか,潤滑油,塗料,シーラント剤等に広く使用されるようになった。○○製品についてみると,○○300や○○400は絶縁油や熱媒体として,○○500は絶縁油や接着剤の可塑剤として,使用されていた。(エ)

ところが,昭和43年6月ころから,福岡県を中心に西日本一帯の
23府県に特異な皮膚症状(油症)を主訴とする患者が続発し,その後の調査の結果,P14株式会社が製造する米糠油(○○)の製造工程のひとつである脱臭工程において,熱媒体として使用していた○○400が○○に混入したため,患者らが○○とともに○○400を経口摂取することにより引き起こされた中毒症状であることが判明した(いわゆる○事件)。同事件を契機としてPCBは生態・環境への影響があることが明らかになり,昭和47年までに製造が中止され,昭和49年度までに製造・輸入,新規使用等が禁じられた。
(オ)

PCBは,上記製造中止となるまでの間に,5万8787トンが生
産されたが,このうち○○が5万6326トンと生産量の約96パーセントを占めていた(乙90)。
3
争点(争点に関する当事者の具体的主張は,後記第3争点に対する判断において必要な限度で摘示するとおりである。)
(1)

本件各費用負担計画に係るPCBは,P2が昭和39年から40年にかけ
て本件工場跡地を更地化した際に地中に排出したものか否か。
(2)

原告が,負担法3条の規定する事業者に該当するか否か。

(3)

本件各処分に至る審議会の過程において,手続に処分の取消事由となる違
法があるか否か。
第3
1
争点に対する判断
前記前提事実並びに証拠(甲4ないし31,32の1及び2,33の1及び2,34,35ないし37,38の1及び2,44,45ないし48(甲45ないし48については,後記認定に反する部分を除く。),49,50の2の1,81,83ないし86,95,乙4,8ないし12,13の2,14,15ないし23,25,26,28,29,30(ただし,後記認定に反する部分を除く。),31ないし37,48,50の2の2ないし50の2の8,51の1及び2,64,73,76,77,85,88,99,100,103,104,108,109の1及び2,証人P15,同P16(後記認定に反する部分を除く。),同P17(後記認定に反する部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。なお,認定経過が理解しやすいように証拠を示しておくべき箇所については,必要な限度で適宜証拠を掲記する。(1)

本件工場におけるPCBの使用並びにこれにかかわるP2及び原告の事業
の沿革,経緯等

P2は,昭和25年8月,化学工業品の販売を目的として設立され(本店東京都中央区δ×ε),昭和28年,東京都大田区ζ×番所在の本件工場において,プラスチックの可塑剤の原料である無水フタル酸の製造(月産約30トン),販売を開始した。


原告は,昭和46年に,P4株式会社とP3(昭和26年に,天然ガス化学工業品の製造・販売等を目的として設立された。)が対等合併し,P18株式会社として発足したものである。


本件工場においては,当初,爆発事故が複数回起きたことから,P2は,昭和35年ころ以降,無水フタル酸の製造工程において,原料であるナフタレンを容器内で加熱して液状にするための熱媒体として,燃えにくいPCBである○○400を使用するに至った(甲86,乙15,16)。なお,P2では,同じく熱媒体として,アルキルナフタレンを主成分とするSKオイル(P19株式会社が製造,販売する熱媒体油。現在の製品名○○)も使用していた(乙99,104)。


P3は,無水フタル酸の安定供給を確保することを目的として,昭和35年10月,P2の株式10万株を取得し,P2の負担する原料代金1000万円余を立替払するなどして金融支援を行うとともに,昭和36年10月,P20株式会社を吸収合併し,岡山県倉敷市所在の同社P21工場(昭和35年に無水フタル酸を原料とする可塑剤及びキシレン樹脂の製造設備が完成していた。以下,同工場をP21工場という。)を自社の一部門とした。P21工場では,○○を,可塑性製造設備の可塑剤蒸発釜及びキシレン樹脂製造設備の反応釜の加熱用の媒体として使用していた。オ
P3が昭和35年10月にP2の株式10万株を取得した後,本件工場は,月産約300トンの設備に増強された。昭和37年当時,P2の敷地には,5つのプラントが設置されており,無水フタル酸の製造プラントは3系列あって,そのうちの1系列において熱媒体として○○400が使用されていた(乙16)。なお,昭和36年ころ,本件工場においては,無水フタル酸の原料であるナフタレンが品薄で入手困難なときに,ナフタレンを含有するコールタール中の中質油留分を購入し,蒸留することによりナフタレンを得ていた。


P3は,昭和37年4月から同年10月にかけて,P2の株式30万株を取得し(甲20),同社を100パーセント子会社化し,同月,P3の専務取締役であるP22がP2の代表取締役に就任した。


本件工場の敷地である東京都大田区ζ×番(昭和39年9月,ζは町名変更によりαとなる。)の土地(967坪7合2勺)及び同所×番の土地(1381坪2合8勺)は,昭和25年4月からP23(P2設立後,その代表取締役となる。)が所有し,P2設立後同社に賃貸していたものであるところ,P3は,昭和37年7月3日,P23から,上記各土地及び同土地上のP2所有の工場等の建物の約半分(建坪275坪6合)を買い受け,P2に賃貸した(甲81,乙11,12,16,33,34,35)。


P2は,銀行から派遣された常務取締役が一部の取引先に対して融通手形を濫発するなどして,昭和38年秋ころから業績が悪化し,P3から度々金融支援を受けるようになった。
(2)

P2の整理と本件工場跡地の更地化の状況
P2は,昭和39年2月末,支払手形の不渡りによって事実上倒産し,工場を閉鎖して私的整理を進めることとなり,旧代表取締役に代わり,P3の管理課長P24がP2の代表取締役に就任するに至った(乙29,証人P17)。


昭和39年3月28日,P2の債権者の申立てにより同社財産の一部につき仮差押決定がされ,同年4月ころ開催されたP2の債権者会議において,債権者からP3の責任追及を求める意見が出されたことなどから,P3は,同月23日,常務会において,P2の債権者に対してその債権の約6割相当額(1億2376万円)を負担(補填)することを承認した(甲5)。


このような経緯の下で,昭和39年4月ころ,本件工場の操業が停止され,同年5月1日付けで,P2の従業員の多数(製造課長P16,業務課長を含む。)が,P3やその関連会社に採用されるに至った。その結果,P2には,同社の整理の事務を担当する経理課長と女性従業員1名,工場装置の除却を行うまでの工場の管理に当たる業務課長と運転手等が残留することとなった。なお,P2の元業務課長は,P3の従業員に採用された後も現地にとどまり,工場装置の除却を行うまでの工場の管理に当たるとともに,P2の残務整理及び解体工事の監督を務めた。(乙30)

P3は,昭和39年5月ころ,P2の債権者会議においてP2の各債権者から債権額の60パーセントの価格で全債権を買い取り,整理を進める方針を提案し,この方針に沿って各債権者と交渉を進め,同年8ないし9月ころ,各債権者から全債権を買い取った。
こうして,P3は,P2の従業員に対する給与支払等の整理費用の貸付けや,P2の金融機関に対する借入金の代位弁済,一般の債権者からの債権の買取り等の結果,P2に対する唯一の私債権者となった。(乙29)オ
債権者問題が解決したのに伴い,本件工場の機械装置等の処分が進められるに至った(甲49)。


一方,P3は,昭和39年夏ころ,P21工場において,キシレン樹脂製造設備を増設するとともに,反応釜○○を1基増設し,運転することになった。このように,P3は,P21工場で無水フタル酸の精製増加を計画していたことから,P2からの精製装置の一部を買い取ることとした(甲42の8,48,83,乙36)。


P3の昭和39年9月28日開催の常務会において,P2の資産処分に関する件が議題とされ,P2の代表取締役として同社倒産後に派遣されたP24が,原告の総合企画室管理課長として提案説明を行った。同常務会では,SKオイル約8トンや○○タンクを含め,30を超える品目について,査定価格が示された。(甲6)


昭和39年9月から10月ころ,P3は,P2のプラント解体撤去工事に際して,解体・撤去に当たり事故を予防し安全を確認する等の理由から,P2製造課長としてP21工場への機器類の移転を担当していたP16を現場に出張させ,P21工場へ移す機器の選定や輸送の手配を行わせた(甲45)。


P3は,昭和39年12月,P2の所有物件の処分について常務会に提案した上,P2において,同月から昭和40年3月にかけて,P18の斡旋・選定に係る外部業者に委託して,本件工場の建物等の解体作業を行った。なお,上記常務会に提出された提案書には,卓球台,実験台を含む計277の物件が記載されていたが,○○400の記載はなかった(甲8)。

以上の経緯を経て,P2の工場設備は撤去され,本件工場跡地は更地化された。なお,上記撤去工事当時,本件工場跡地上には,東側に,粗製無水フタル酸精製工場3棟,オルソキシレンタンク,事務所が,西側に,粗製ナフタレンの蒸留設備,無水フタル酸の精製装置,倉庫が,それぞれ北から南に向けて配置されていた(乙17ないし22)。

上記更地化後の昭和40年2月6日,P2の工場建物12棟について滅失登記(昭和39年12月20日取壊しを原因)がされ,昭和41年9月には,P3において本件工場の敷地の借地権を坪約10万円(2億1141万円)で買い取り,その代金債務をP2に対する貸付金残金債権(2億9900万円)の一部に相殺充当した上,P2の清算結了による解散登記がされた(甲9ないし11)。

(3)

本件工場跡地(特に本件対策地域及び周辺)の所有,使用状況(甲12な
いし14,乙11,13の2,28,48,88)

本件工場跡地のうち,本件対策地域の対象地は,大田区α×番4,同番9,同番11及び同番12の各土地(以下,同所所在の土地については,所在は略して称する。)の一部並びに大田区道×号線及び×号線の各一部であり,×番4,9,11及び12の土地は,いずれも,P3の所有する×番の土地の一部であったところ,昭和41年12月,東京都大田区α×番の土地のうち,現在の×番9の土地を含む西側約760平方メートルの部分については,P3からP25株式会社に対し,ケーブルドラム置き場として賃貸された。


その後,P3の所有する×番の土地は,昭和42年11月に同番1と同番2の土地に分筆され,昭和43年3月に同番1の土地から同番4,5及び6の土地が分筆された後,×番4の土地については,同年8月に大田区に売却され,×番6の土地については,P26株式会社(以下P26という。)に売却された。×番5の土地は,昭和43年7月30日,有限会社P27に売却され,×番1の土地は,昭和42年12月30日,×番の土地と共にP26に売却された。
また,×番9の土地については,×番5の土地から分筆された上,昭和42年10月に株式会社P28(以下P28という。)に売却され,×番11及び12の土地については,昭和44年12月に×番6の土地から分筆された上,×番11の土地がP29株式会社(以下P29という。)に,×番12の土地が株式会社P30(以下P30という。)にそれぞれ売却された。

×番4の土地は,大田区道×号線と×号線の交差点の隅切り部分として使用されて現在に至っている。


分筆後の×番11及び12の土地を含む×番6番の土地は,昭和43年7月以降,高圧ガスの製造(充填)所,販売事業所,貯蔵所として使用され,現在,×番11の土地は,高圧ガスを配送するP31株式会社の駐車場として使用され,×番12の土地には,P32株式会社の事務所が建てられている。なお,高圧ガスの製造(充填),貯蔵,販売の過程には,PCBを使用する工程等はない(乙14)。


×番9の土地上には,昭和46年に,P28所有の3階建てビルが竣工し,当初1階事務所・車庫,2,3階社宅として使用されていたが,現在,1階倉庫,2,3階住宅として使用されている。


昭和43年ころ,P28の所有する×番9の土地と,P29の所有する×番11及びP26が所有する×番6の土地との間及び両土地と北側区道との境には,P2存続時から塀が存在した(乙21,88-昭和46年4月25日撮影の写真)。

(4)

PCBの発見から本件各処分に至る経緯
土壌汚染の発見と調査
(ア)

大田区が,本件工場跡地である東京都大田区α×番地に接する大田
区道(×号線)において行ったボーリング調査の結果,高濃度のPCB及び土壌環境基準(1000pg-TEQ/g)の16倍に当たる16000pg-TEQ/gのダイオキシン類が検出されたのを受けて,被告は,以下のとおり,土壌汚染の範囲,程度その他汚染の状況,汚染された土地の履歴及び関係者からの事情聴取等の調査を進めた(乙6,7)。
(イ)

周辺環境調査
被告は,平成12年10月から同年12月にかけて,大田区道下のダ
イオキシン類が周辺地域の環境に及ぼす影響の有無を把握するため,周辺環境調査をP8に委託して実施した。
上記周辺環境調査の結果報告書によれば,土壌(表土が露出している土壌)6か所,大気1か所,地下水3か所,水底の水質底質3か所について,ダイオキシン類及びPCB等の濃度を測定した結果,すべての地点で環境基準を下回り,本件工場の敷地内の調査地点(北西側の地表付近2地点)における土壌のダイオキシン類濃度については,63pg-TEQ/g及び38pg-TEQ/g,同PCB濃度については,0.22mg/kg,0.072mg/kgと,環境基準を大幅に下回る数値が測定された。
上記結果を基に,被告は,周辺環境調査の結果,大田区道下のダイオキシン類が周辺環境に影響を及ぼしていないことが判明したとして,平成13年1月9日に上記周辺調査結果の要旨を公表した。なお,土壌試料の採取については,5地点混合方式といわれる方法(調査地点1地点につき,中心及び周辺の4方位の5メートルから10メートルまでの間からそれぞれ1か所ずつ,合計5地点で試料で採取し,これを等量混合する方式)が使用されている。(乙109の1及び2)
(ウ)

土地の履歴の調査(乙11ないし21)
東京都職員は,本件対策地域(大田区α×番4,同番9,同番11及び同番12の土地の各一部)及びこれに隣接する大田区道(×号線)その他の土地の履歴について,大田区役所や歴代地権者の協力を得ながら調査した。

上記の土地の履歴調査によって,大田区道に隣接する大田区α×番の土地には,P28所有の3階建てビル(昭和46年竣工)があり,当該運送会社が1階を事務所と車庫,2階と3階を社宅として使用していたが,現在は1階が貸倉庫,2階と3階が住宅となっていること,同ビル東側の土地には,P26より借地したP33株式会社が昭和43年7月1日から高圧ガスの製造(充填)を開始し,そこで製造した高圧ガスの販売事業所,貯蔵所として,P29,P30等が所在しているとの結果が得られた。


また,昭和46年撮影の写真から,大田区α×番の土地は,P28が所有する部分と東側のP26等の所有地の境界には塀が存在し,P26等の敷地には建物が建設されていたとの調査結果を得た。


東京都職員は,更に土地の履歴を登記簿等で調査したところ,現在,大田区,運送会社,高圧ガス関係の会社の所有となっている土地には,昭和40年ころまで,P2が存在し,プラスチックの可塑剤の原料である無水フタル酸の製造をしていたとの調査結果を得た(乙15)。

そこで,東京都職員は,P2の創業者に聞き取り調査を行うとともに,その後の土地所有者であり,P2の親会社である原告に,当時の状況等の説明を求め,土地の履歴に係る資料等の提供を受けた。


その結果,大田区α×番の土地では,ナフタレンを原料として無水フタル酸の製造が行われ,その際,熱媒体としてPCB(○○400)を使用していたとの調査結果を得た(乙16)。


東京都職員は,上記調査結果を確認するため,大田区α×番の土地を含む大田区η付近を撮影した国土地理院の航空写真(撮影年月日は,昭和38年2月3日(乙17),同年6月26日(乙18),昭和40年11月1日(乙19),昭和41年7月28日(乙20)及び昭和46年4月25日(乙21))を入手し,当時の状況を確認した。その結果,昭和38年撮影の写真では,上記土地に工場が存在したことが確認できた。しかし,昭和40年や昭和41年撮影の写真では,昭和38年撮影の写真で確認することができた工場の大半が無く,更地化されていることを確認した。
(エ)

土壌汚染の調査・分析(本件第一次決定の前提となる調査・分析)

P9による詳細調査(甲67の1及び2,69,70,100,乙8,24の1ないし3,51の2,72,証人P15)
(a)

被告は,平成12年11月20日,市街地土壌汚染対策検討委

員会に大田区道等におけるダイオキシン汚染土壌に係る汚染範囲の確定等を目的とする詳細調査計画の実施について提案し,了承を得た上,平成13年1月から3月にかけて,P9に,大田区道に係るダイオキシン類の詳細調査を委託した。
(b)

これを受けて,P9は,ボーリング調査を実施し,31の地点

(別紙1-1の図面中のNo.1ないし31の各地点)の地中から採取した土壌試料についてダイオキシン類及びPCBの含有量等の分析を行った。その際,地表面の標高には高低の違いがあることから,各調査地点における試料採取位置を合わせるため,調査地点No.4の道路地表面から約0.4メートルを概ね表層(以下表層という。)と称し,基準となる土壌深度とし,表層及び表層から垂直方向に概ね1メートル毎の深度から試料を採取した(なお,No.16の調査地点については,地表から0.6メートル以上の深度にはコンクリートその他の瓦礫やガラ類が存在したため,地表面深度0.1メートル及び表層の試料採取後,調査地点を北東へ約2メートルずらし,地表面深度1.0メートルの土壌試料を採取し,前者を16-1,後者を16-2としている。)。土壌試料は,当該深度を中心とするコアから採取し,試料採取に当たり必要と判断される深度については,仕様書とは別に保存試料として採取した。なお,被告は,本件工場跡地の地表面付近にガラやスレート瓦,
煉瓦,コンクリート等,工場撤去時の残しと見られる物が相当埋まっていたことや周辺環境調査の結果等から,P9に対し,基本的に表層及びその下層部分について試料の採取と分析を求めた。
(c)

P9は,ダイオキシン類の分析については,ダイオキシン類に係る土壌調査測定マニュアル(平成12年1月環境庁水質保全局土壌農薬課)(乙51の2。以下土壌調査マニュアルという。)に基づき,No.1ないし3の3地点から採取した試料について,ガスクロマトグラフによる分析をした。
PCBの分析については,特に法令や通達その他公に定められた
分析方法が存しないことから,土壌と類似した水底の底質に関する底質調査方法(昭和63年環水管127号。平成13年3月改正。甲51の2)に準拠し,キャピラリーカラムという細長く,成分分析の精度の高い分離カラム(極細の管)と,ECD-GC(電子捕獲型検出器)という高感度の分析器を使用したガスクロマトグラフ(GC)による測定をした。その際,PCBの種類の判定については,ECD-GC分析から得られたガスクロマトグラム(ガスクロマトグラフを用いた検出結果として,縦軸=検出強度,横軸=保持時間のグラフの形で示された測定データ)上のピークのパターンから汚染原因物質となるPCB製品を特定する方法(以下ピークパターン法という。)を使用した。(d)

ガスクロマトグラフ(GC)分析とは,様々な成分から成る混

合物の試料をGCの試料導入口で気化し,それと接続している分離カラム(極細の管)内に導入して移動させ,その使用カラムの充填剤や分離剤と各試料の成分との親和性(吸着性,溶解性,化学結合性)の差異によって,成分ごとに通過時間の遅延(リテンションタイム)が生じる原理を利用して,測定対象となる物質を成分ごとに分離し,その通過時間(保持時間)を検出器で検出することにより分析する方法である。カラムには,数ミリメートル径の細長いガラス管に充填剤を詰めたもの(充填カラム)あるいは約0.3ミ
リメートル径のガラス管の内壁に液相(分離剤)を塗布したもの
(キャピラリーカラム)があり,検出器には,質量分析検出器
(MSD),電子捕獲型検出器(ECD),高分解能質量分析検出器(HRMSD)がある。なお,ガスクロマトグラフによる分析は,混合物の成分分離に優れるが,成分の構造に関する情報はほとんど得られないため,質量分析計を組み合わせて,ガスクロマトグラフで分離した各成分を質量分析計(MS)で分析する。質量分析とは,試料分子を高真空の下で加熱等により気化させた後,イオン化し,これを電磁的に分離して検出する方法をいい,これを用いた検出結果を質量スペクトル(縦軸=イオンの強度,横軸=イオンの質量のグラフ)という。ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)とは,ガスクロマトグラフと質量分析計を接続したものである。
また,ピークパターン法とは,PCB製品が製品ごとに同族体組
成が異なるため,PCB測定から得られるガスクロマトグラムに一定のパターンが見られることから,各PCB製品に含まれている特徴的なピーク(高強度ピーク)数本の相対的な強度比等を目視判定することによりPCB製品を判定する手法である。
(e)


P9の詳細調査の結果は,以下のとおりである。
ダイオキシン類については,No.1の表層(地表面からの深
度(以下,メートルで表示された深度は,断りのない限り地表面
からの深度を示す。)0.4メートル)について9万7000p
g-TEQ/g,No.2の表層(1.25メートル)について
57万pg-TEQ/g,同(2.25メートル)について56
00pg-TEQ/g,No.3(1.8メートル)について2
400pg-TEQ/gと,ダイオキシン類についての土壌環境
基準(1000pg-TEQ/g)を超える高濃度のダイオキシ
ン類が検出された。


PCBについては,No.1からNo.31の各地点の地中から
検出された。ダイオキシン類の濃度が検出された地点でみると,
No.1の表層(0.4メートル)について1万2000mg/
kg,No.2の表層(1.25メートル)について1万900
0mg/kg,No.6の表層(1.4メートル)について1万
9000mg/kg,No.8の表層(1.5メートル)につい
て2300mg/kgであった。



他方,上記ダイオキシン類の検出された地点の更に深い位置で
はNo.1(1.4メートル)についてダイオキシン類が360
pg-TEQ/g,No.2(2.25メートル)についてダイ
オキシン類が5600pg-TEQ/g,No.6(2.4メー
トル)についてPCBが260mg/kg,No.8(2.5メ
ートル)についてPCBが15mg/kgとなっており,いずれ
の地点でもダイオキシン類やPCBの濃度は大きく低下している
(乙23)。



PCBの種類については,各試料から得られたECDーガスク
ロマトグラムのピークパターンと標準品のそれの比較により,ほ
とんど(9割超)の調査地点で検出されたPCBの種類は,○○
400と考えられる(乙72,106)。
なお,本件対策地域内についてみると,No.1,2,3,4,
5,6,8,16-1,16-2,21地点で○○400が検出
されているが,No.2(2.25メートル。表層から1.0メートル)及びNo.4(2.5メートル。表層から2.0メートル)において○○300+○○400,No.4(3.5メートル。
表層から3.0メートル)において○○300,No.21(3.0メートル。表層から2.0メートル)において○○400+○
○500がそれぞれ検出されたと判定されており,上記○○40
0以外のPCBが検出されたとするNo.2の上層及び下層,No.4の上層,No.21の上層及び下層の深度から検出されたPCBについては,いずれも○○400と判定されている(乙8表3)。⑤

○○400の用途は主に電気絶縁油(コンデンサー油-一般に
純度の高いPCB単体が使用される。トランス油-PCBと鉱物
との混合物も使用される。)であるが,熱媒油としても使用可能
であり,PCBの由来は明確に判定できない。



また,No.13調査地点から○○600相当のものが検出さ
れた。○○600は,熱媒油用途と考えられ,周辺よりこの調査
地点だけ高い濃度で検出されていることから,熱媒油が浸透した
ものと考えられる。



PCB濃度とダイオキシン類の濃度との関係については,相関
係数が0.964と良好な結果を示し,ダイオキシン類の濃度へ
の寄与は,ほとんどコプラナーPCBによるものであり,PCB
の異性体分布は,○○400にほぼ近く一定している。コプラナ
ーPCBの量はPCBのおよそ2.4パーセントになることが概
ね予想される。



No.1からNo.8及びNo.21付近において高濃度のPCB,ダイオキシン類及び油分を検出した。油分については,ボーリン
グ調査時には広範囲にわたり点在していることが確認されたが,
特にこの付近では強い臭気の油分及びナフタレン等が認められた。⑨

各調査地点から鉱油と白色結晶が検出されており,赤外分光分
析の結果,熱媒油の成分である高純度のアルキル炭化水素と潤滑
油や機械油の成分である芳香族系を含む炭化水素(一種の鉱油)
とナフタレンが検出された。


No.2表層からは,大量のオイルが検出された。芳香族系を
含む炭化水素で,臭気は劣化したギア油のようであり,劣化した
潤滑油の可能性が高い。


No.1の表層と,No.3の0.9メートル地点から,大量
のナフタレンが鉱油(成分分析でアルキル炭化水素を示し,熱媒
油とみられる)と共に検出された。


土壌汚染は全体で,面積約360平方メートル,体積約100
0立方メートルにわたっている。


P9による策定調査
(a)

被告は,平成13年5月から6月にかけて,厚生省(当時)の

意向を受けて,ダイオキシン法に基づく対策地域の指定を行うため,ダイオキシン類による汚染の調査を補充すべく,P9に対し,策定調査を委託した(甲101,乙10)。
(b)

P9は,策定調査において,対策地域の範囲を確定するための

参考として新たに抽出した3地点(本件対策地域の外延より外の部分であるA,B,Cの3地点)においてボーリング調査を実施し,ダイオキシン類について,同地点から採取された土壌試料とともに,詳細調査時にNo.6の表層(1.4メートル),No.7の表層(1.15メートル),No.8の表層(1.5メートル),16-2表層から1.0メートル(1.6メートル),No.19表層から1.0メートル(1.6メートル),No.21の表層(1.0メートル)の各地点から採取された保存試料(合計9検体)について,詳細調査と同一の方法(GC-MSによる分析及びガスクロマトグラフによる分析及び質量分析)による分析を行った。
(c)

PCB(含有量)の分析については,上記新たにボーリングに

よりA(表層(0.7メートル),1.7メートル,2.7メートル,3.7メートル),B(表層(1.2メートル),2.2メートル,3.2メートル,4.2メートル),C(表層(0.4メートル),1.3メートル,2.9メートル,3.4メートル)の各地点からそれぞれ採取した試料(土壌)及び詳細調査によりNo.1の表層(0.4メートル),No.2(0.35メートル),No.3(0.9メートル)の各地点から採取した保存試料(土壌中の油分)の合計15検体について,底質調査方法(昭和63年9月8日付け環水管第127号)による分析を実施し,次のとおりの結果を報告した。


ダイオキシン類については,No.6(30万pg-TEQ/
g),8(22万pg-TEQ/g),21(5500pg-TEQ/g)の各地点において,環境基準の濃度(1000pg-T
EQ/g)を超える高濃度のダイオキシン類が検出された。



PCBについては,No.2(0.35メートル)から採取し
た保存試料の分析から,同地点の土壌中の油分に含有されるPC
B濃度が,56万mg/kgと非常に高い数値を示した。なお,
No.1表層の油分については,4万1000mg/kgであった(同地点の土壌についてのそれは,1万2000mg/kg)。



ダイオキン類の濃度とPCB含有量との間には,詳細調査の場
合と同様,相関関係がみられ,ダイオキシン類の濃度への寄与が
ほとんどコプラナーPCBによるものである傾向を示している。


A,B,C地点においては,ダイオキシン類は,さほど確認さ
れなかったが,ボーリング調査時に強い臭気の油及びナフタレン
が認められた。また,煉瓦,木片,コンクリート塊,砕石が混入
していた。



ダイオキシン類汚染対策地域の土量については,その平面及び
断面からみて,面積約324平方メートル,体積約835立方メ
ートルとなる。

(オ)

本件対策地域の確定
被告は,詳細調査及び策定調査の結果に基づき,環境基準を超える汚
染の範囲について,土壌調査マニュアルに従い,環境基準超過地点と近接する環境基準を満たす地点とを直線で結び,その中間点より垂線を引き,各垂線の交点で結ばれた多角形を汚染範囲とする方法によって確定し(ただし,汚染土壌が存在しない場所である,下水道工事による掘削場所及び雨水放流渠や建物の地下構造のある場所については,その部分をもって対策地域の境界とした。),第一次対策計画を策定するに当たり,対策地域の範囲を,別紙2-1,2-2の図面中の斜線を施した部分と確定した(乙23,50)。
(カ)

土壌汚染の調査・分析(本件各処分後のもの)


財団法人P34によるPCBの分析(乙85)
(a)

被告は,平成15年2月から3月にかけて,財団法人P34

(以下P34という。)に委託して,本件対策地域の掘削土壌
中のPCBの分析を実施した(乙103)。
(b)

P34は,汚染土壌除去工事により掘削した土壌から採取され,

大田区θ汚染土壌一時保管施設に保管されていた土壌から採取した18試料(No.1,2,3,6,7,8,16,19,21について,表層あるいは表層の1メートル下の各地点の土壌から採取されたもの)及び掘削土壌中から発見された1つのパイプ内の結晶物を対象としてPCB等の分析調査(以下本件PCB等分析委託調査という。)を実施し,以下とおりの結果を被告に報告し,これらの分析結果は,学識経験者で構成される東京都環境審議会における審議においても前提とされている。


汚染土壌中のPCBをECD-GCで分析し得られたガスクロ
マトグラムからピークパターンを目視比較したところ,すべての
試料が○○400由来のPCBであることが確認された。



底質調査法及び外因性内分泌撹乱化学物質調査暫定マニュアル
(平成10年10月環境庁)に基づくGC-MSによるPCBの
種類の分析(PCBを異性体ごとに分離・検出して,塩素数が1
から10までのPCB同族体組成を比較すること)を行った結果,19試料すべてについて,四塩化ビフェニルの割合が多い○○4
00に最も類似した同族体組成パターンが得られた。



統計的手法である主成分分析(対象ごとに多項目のデータがあ
る場合,その分布等のデータから総合的特性を抽出するための手
法)及びクラスター分析(複数データ間から相関係数等の類似度
を定義し,その類似度の近いものから順に塊(クラスター)としてまとめる手法)を実施した結果,19試料すべてが○○400に
類似し,○○300,○○500,○○600とは同族体組成が
異なっていた(甲55の2)。



ナフタレンが,1試料を除く18試料から検出された。また,
掘削土壌中から発見されたパイプ内の結晶物についてGC-MS
分析と赤外線吸収スペクトル分析(炭素と酸素,炭素と塩素など
原子同士の結合部分が原子の組合せにより,赤外線の吸収スペク
トルが異なることを利用した分析方法)をしたところ,ナフタレ
ンであることが確認された。


汚染土壌中のSKオイルの構成成分について調べるためにGC
-MS分析をしたところ,ほとんどの試料からSKオイルと同様
の成分が検出された。そのうち12試料については,SKオイル
の主要構成成分である2-メチルナフタレン,ビフェニル,ジメ
チルナフタレン,アセナフテンの4成分すべてが検出された。こ
の12試料について,SKオイル構成成分間の濃度を比較したと
ころ,それぞれ相関関係が見られ,少なくとも12試料について
は,同一の汚染源による可能性が高いことが示唆された。


P8の地表付近の土壌に関する調査(乙100)
被告は,平成15年8月から9月にかけて,P8に地表付近の土壌(P9が冷凍保存していたボーリング試料から採取したもの)についてPCB含有量の分析を委託し,これを受けて,P8は,底質調査法に基づく測定,PCB同族体分布及びガスクロマトグラムの分析(ピークパターン法による)をした結果,No.2(0.35メートル)につき1700mg/kg,No.3(0.35メートル)につき82mg/kg及びNo.6(0.4メートル)につき1200mg/kgであり,No.8(0.4メートル)及びNo.16-1(0.1メートル)については微量とするとともに,各試料に含まれるPCBは○○400相当の製品であることが推測されるとの調査結果を同月19日付けで報告した。


地盤面のかさ上げについて
(ア)

更地化後の本件工場跡地を上空から撮影した航空写真によれば,建
物存続部分以外が全体的に平坦に敷きならされていることが見て取れる。(イ)

本件工場跡地の北側の地盤高は,P2操業当時の東京湾平均中等潮
位(以下T.P.という。)+1.0メートル前後であったのに対し,現状地盤高はT.P.+1.5ないし1.7メートル前後まで広範囲にかさ上げされている(乙25,26)。
(ウ)

本件工場跡地の更地化前後でみると,被告がP35株式会社に委託
して行った航空写真等の解析の結果によれば,本件工場跡地の標高は,更地化前(昭和38年)には,北西側の大部分が概ね約1.4ないし1.6メートル(南東側の一角は約0.9ないし1.1メートル)であったのが,更地化後(昭和42年)には,北西側の大部分が約2メートル(南東側の一角は約1.4メートル程度)となっており,当該土地が,写真の解析に当たり測定上の誤差を生じにくい平坦な土地であることに照らし,誤差約0.1メートル程度とみても,更地化前後で広範囲に,最小約0.1ないし最大約0.5メートルの格差を生じているとされた(乙73,74の1ないし3,76の1及び2,77の1及び2,78,79の1ないし3)。
(エ)

他方,原告の提出した航空写真のうち本件工場跡地更地化後の昭和
41年から昭和49年にかけて撮影された航空写真(甲50の2の2ないし50の2の8)によれば,本件工場跡地の北の角地付近(本件対策地域外)において本件工場跡地の中央部の建物建設工事に関係すると思われる土砂の堆積が確認できるものの(昭和43年撮影航空写真。甲50の2の4),本件対策地域内の地盤について,かさ上げ等による顕著な地盤面の上昇は見て取れない。
2
争点(1)(本件工場跡地の更地化時におけるP2によるPCB排出の有無)について
(1)

上記1において認定した事実を基に判断するに,本件工場跡地から検出さ
れたダイオキシン類に関する事実として,次のような事実が認められる。ア
被告がP9に委託して実施した詳細調査及び策定調査において,本件工場跡地及びその周辺の合計34地点にわたってボーリング調査が行われ,その結果,31の地点(別紙1-1の図面中のNo.1ないしNo.31)の土壌試料からPCBが検出され,そのうち本件対策地域内の合計10地点(No.1,2,3,4,5,6,8,16-1,16-2,21)の土壌試料からPCBとともに,これに由来するとみられるダイオキシン類(コプラナーPCB)による汚染が発見された。


PCBが検出された土壌の存在範囲は,深度でみると,地表面から浅い所で0.4メートル,深い所で5.0メートル,面積でみると約360平方メートルの範囲(そのうち環境基準の1000pg-TEQ/gを超える高濃度のダイオキシン類が検出された本件対策地域内の地点の深度は,0.4メートルから1.5メートルの範囲)に及ぶなど,PCB及びこれに起因するダイオキシン類による汚染の範囲は広汎かつ相当の深度にわたり,本件工場跡地の更地化後に所有者が異なるに至った土地にも及び,特に本件対策地域は,P28の所有地とP26の所有地にまたがる形となるにもかかわらず,両土地の間には昭和43年ころから塀が設置されていた。

詳細調査及び策定調査並びに本件第一次決定後に行われた第一期工事及び第二期工事の際に,本件工場跡地の地中から採取された土壌試料からは,多数のレンガ片やコンクリート塊その他の瓦礫類とともに,SKオイル等の潤滑油が検出され,本件対策地域内の地中からはナフタレンも検出された(さらに,証拠(乙81の1及び2,82の1ないし4,112の1及び2)によれば,本件対策地域において,本件第一次決定に基づき汚染除去のために行われた第一期工事及び第二期工事の際にも,地中から油や多数のコンクリート塊やレンガその他の瓦礫類が発見されたことが認められる。)。


他方,P2は,昭和35年ころから,本件工場の敷地において,ナフタレンを原料として無水フタル酸を製造するに当たり,熱媒体としてダイオキシン類であるコプラナーPCBを含む○○400を使用し,これと併行して,SKオイル等の潤滑油を多量に使用していた。

P2が昭和39年2月末に事実上倒産した後,本件工場の建物設備は,同年12月ころから昭和40年にかけて,解体,撤去され,本件工場跡地は更地化されて,その地表面は全体的にほぼ平坦にならされ,上記更地化の前後で,地盤面が最小約0.1メートルから最大約0.5メートル程度かさ上げされている。


本件工場跡地の更地化後の土地の利用の状況や経過から一見したところでは,P2以外の第三者によるPCB(○○400)の使用あるいは地中への排出を疑わせる具体的事実がうかがえない(なお,原告は,本件工場跡地上の一部に地盤面の高さに変化がみられると指摘し,その証拠として甲65を提出するが,その内容をしんしゃくしても,上記認定を妨げるものではない。)。


本件工場跡地から検出されたPCB(上記ダイオキシン類を含む)の種類については,P9の詳細調査及び策定調査の結果,各地点から検出された試料の9割超が○○400と判定され,P34及びP8による調査の結果もこれにそうものとなっている。
以上アないしキの事実を総合すると,本件工場跡地において,本件工場の
建物設備の撤去及び跡地の更地化の過程で,広範かつ大がかりな土地の掘削と埋め戻しが行われ,その際,本件工場において熱媒体として使用されていた○○400が,本件工場において潤滑油として使用されていた油分及び解体,撤去時に生じたレンガ片,コンクリート塊,ガラ,瓦礫類等とともに,埋め戻しの土に混入され,地中に埋められた蓋然性は高いとみることができ,これを覆すに足りる事情が立証されない限り,本件工場跡地から検出されたPCBは,本件工場跡地が更地化された際に地中に排出されたものと推定されるというべきである。
そこで,以下,このような見地から,原告の主張する事情が,上記推定を覆すに足りるものであるか否かにつき,更に検討する。
(2)

本件工場の操業停止に伴い,P2の使用していた○○400の全部がP2
1工場に搬送された可能性について

原告は,昭和39年4月ころ本件工場の操業停止に伴い,P2の装置から回収されたPCBは,全量ドラム缶に抜き取り,P21工場に搬送したもので,P2の工場跡地の更地化時に地中に排出されたということはない旨主張し,これにそう証拠として,甲42の2ないし8(P21工場における○○の受け入れ数量に関する記録)や甲6,8(昭和39年9月及び同年12月に作成されたP2の資産・物件処分目録)を提出しており,証人P16(元P2製造課長)の証言及び陳述書(甲45,46)にも,上記主張と符合し,○○400をP21工場に全量搬送した旨述べた部分がある。


しかし,P2の操業当時のPCBの使用量については,原告自身も明らかにできていない上,証人P16の証言によっても,P16は,P21工場向けに搬送したという○○400の数量については伝票上で確認しただけであって,現場で確認したわけではないというのであるから,同人の全量搬送した旨の供述から,直ちに本件工場跡地の地中に○○400が排出されなかったと認定することはできない。


原告は,昭和39年4月にP2から○○400を750キログラム受け入れたとの主張を裏付ける証拠として,甲42の2ないし8を援用し,甲48にも,上記主張にそう部分があるが,これらの書証の記載は,P21工場側で受け入れた数量に関するものであって,P2の工場から全量搬出されたことを裏付けるものということはできない。
P21工場における○○400の受入時期及び数量についてみても,原告が援用する甲42の2ないし8は,昭和47年にPCBの製造が中止されたことに伴い,通産省(当時)からPCBの使用についての調査を受けた当時作成された関係書類とみられるが,原告が熱媒体として購入したPCB(○○400)の数量(単位キログラム)について,P2からの○○400の受入量として記載された数量が,750キログラム(甲42の5ないし7)であったり,500キログラム(甲42の2及び4)であったり,時期についても通産省に対して昭和38年4月と報告しているとみられるなど(甲42の2),重要な点で相違がみられ,その作成時期や内容からみて,上記各書証から,P3がP2から○○400を受け入れた年月及び数量を本件において意味を有する程度に正確には認定できない。エ
原告は,甲6,8(昭和39年9月及び同年12月に作成されたP2の資産・物件処分目録)にも,○○400が計上されていないことから,すべてP21工場に搬出されていたと主張するが,これらの目録は,その内容からみて,売却予定の対象物件の目録とみられるので,同目録に記載がないことから,本件工場跡地に排出されることとなる○○400が存在しないということはできない。


また,原告は,原料のナフタレン,製品の無水フタル酸,反応熱除去熱媒であるナイター等は常温で固化し,○○400も常温では粘度が高く設備から取り出しにくくなるために,装置を停止する場合は,停止後直ちに装置系外に抜き出しておくことは装置管理上の常識であったから,生産業務に従事していたP2の従業員が退職する前の昭和39年3月から4月にかけて抜き出し作業を行い,同月,後記のとおり○○400全量をP21工場に輸送したものである旨主張し,証人P16の証言及び陳述書(甲45,46)にはこれにそう部分がある。
しかし,本件工場の操業停止から本件工場跡地の更地化に至る過程で,P3は,元P2製造課長を派遣するなどして,本件工場の解体,撤去を指揮,監督することができたのである(前記1(2)ク)から,仮に工場の操業停止時に○○400の抜取作業が完了していたとしても,抜き取り後の○○400をドラム缶などに詰めて一時保管の上,本件工場跡地の更地化時に地中に埋め戻し土とともに投棄するということも十分可能である。加えて,本件対策地域に属する本件工場跡地の土壌中から,ナフタレンが詰まっているパイプが発見されており(乙8),この事実も,本件工場の施設から内容物がすべて回収されたとは限らないことを裏付けるものといえる。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
なお,原告は,PCBによる汚染土壌が発見された本件対策地域が,本件工場の北西角の場所で,○○400を熱媒体として使用していた設備から約90メートルも離れていることから,そのような場所までわざわざ運んで投棄するはずがない旨主張するが,上記本件工場の北西角付近は,本件工場敷地から北側区道への出入口付近に当たり,本件工場跡地の更地化当時,フォークリフト(乙98)等の運搬用の機器類によって,上記のような場所まで運んでから地中に投棄することが特に不自然,不合理ということはできないから,原告のこのような主張も理由がない。

さらに,原告は,本件工場跡地が更地化された当時,○○400は高価品で,再使用できたから,P2において投棄するはずがないと主張し,証人P16の証言にはこれにそう部分がある。
しかし,そもそも上記証言は抽象的にとどまること,乙115及び116(東京都環境局職員の作成に係る聴き取りメモ)によれば,○○400は1キログラム当たり700円程度であったとされていること,甲6,8及び証人P17の供述(同人の証言及び陳述書(甲83))に従えば,原告においては,単価数千円の実験台や卓球台まで換金して弁済資金をつくり,そのような物品を含むP2の会社財産の処分案を記載した常務会議事録が証拠として提出されているにもかかわらず,○○400の処分とこれによる弁済原資に関する証拠は提出されていないということになり,○○400が高価品としてP3に対して全量売却されたのであるとすれば,いかにも不自然な証拠の提出の在り方といわざるを得ないことを指摘することができる。
これらの事情に照らせば,昭和39年当時,○○400がP3にとって特に高価であったとみるのは困難であり,他に,P2から使用後年数が経過した○○400をすべて購入しなければならないほど貴重なものであったことを裏付ける事実・証拠はないから,原告の上記主張は採用できない。キ
以上によれば,P2が,工場の操業停止に当たり,本件工場で使用していた○○400を全量P21工場に運んだと認めることはできない。そして,P2の操業当時のPCBの使用量について,証拠(乙27)によれば,元P2製造課長のP16が,平成13年4月13日に東京都(環境局)職員から聴き取り調査を受けた際,○○400をドラム缶(200リットル)に5ないし6本回収した旨陳述しており,被告は,この陳述を基に,PCBの比重(1.4)を考慮し,上記回収量は,約1400ないし約1680キログラムとなり,原告のP21工場での受入量が仮に750キログラムであるとすると,残りの650ないし930キログラムが排出されたと推定し,被告が土壌調査から推計したPCB排出量が約800キログラムで,両者はほぼ一致することを,本件各処分を行うに当たり1つの根拠と考えていたこと(甲72の1及び2(平成13年8月24日水質土壌部会における配布資料))が認められる。
これに対し,原告は,上記ドラム缶5,6本という供述について,○○400の回収量を概数として,約1トンと表現したにとどまり,ドラム缶満杯に内容物を詰め込むものでないことから,正確性を欠き,本件各処分は,このような不正確な推定に基づき,事実を誤認して行われたものである旨主張し,証人P16は,平成13年4月13日東京都で事情聴取された際,抜き取ったドラム缶の数量を5,6本と言ったかどうかについて,

正確に記憶がないものをそのように明快に言うはずがない。

などと述べて,否定している(甲45,46,証人P16)。
しかしながら,上記P16の供述は,これと反する証人P15の証言及び乙27,114ないし116の各記載部分に加え,P16が昭和39年4月当時,P2の製造課長の立場にあり,同人にとって,操業停止に伴う○○400の全量抜き取りの作業は,平常の操業時にはない極めて特異な体験であり,現場での体験に基づく視覚的な印象として記憶に残り易いものと考えられること,本件工場から回収したPCBの数量がドラム缶5,6本であったことについては,東京都環境審議会の水質土壌部会(部会長P11P12大学教授)の場における原告の説明の中でも否定された形跡がないことに照らすと,P16がドラム缶5,6本という表現を用いたこと自体については不明確な点はなく,その表現が,抜き取った○○400のおおよその数量を示すものとして正確性を欠くものとみることはできない。
P16が上記事情聴取の際に○○400の数量を約1トンと表現したことも認められるが(乙27,証人P15の証言),P16がドラム缶を見た以外に計量したわけではない以上,約1トン程度という表現は,これと整合する範囲での概算的な数量を感覚的に述べたものにとどまるとみるのが相当である。
もっとも,P16の上記○○400の数量についての記憶は,35年以上前の事実に関する記憶であることに加え,前記ウのとおり,P21工場における受入数量に関する資料も,厳密に正確なものとみるのは相当でないことからすると,P16の上記事情聴取時のドラム缶の数量に関する供述とP21工場における○○400の受入数量の記録から,○○400の排出数量を厳格に認定しようとすることも,適切なこととはいい難い。前記(1)でみた見地から,本件各処分の適法性の有無を判断する上で必要なのは,本件対策地域の範囲から検出された○○400が,P2によって排出されたものであるかどうかについて,本件工場からの持ち出し及びP21工場の受入れとの関係で,当該排出の事実を否定するに足りる事情が認められるかどうかである。この点に関し,被告は,詳細調査により得られた各調査地点における深度ごとのPCB濃度を基に,地中における汚染分布の概況を把握した上で,汚染土壌中のPCB量を約800キログラム弱と推計しているが,既に検討したとおり,その内容につき,上記P2による本件工場跡地の更地化時のおける○○400排出量と矛盾するものでないという限度において,不合理なものということはできない。
なお,P16は,不燃物は工事の業者に引き取らせて,鉄くずはスクラップ業者に売却して,原料や木くず類は焼却し,廃油は,すべて購入業者に引き取ってもらったこと,燃えガラもすべて外部処理し,操業中,倒産後を含め,廃棄物等を地中に投棄したことはない旨述べているところ(甲45,85,証人P16),前記(1)のSKオイルやナフタレンの地中からの検出の状況に照らしても,上記P16の供述は,不合理で,信用できず,その供述には,原告に不利益な事実を殊更に否定しようとする態度が現れているということができ,このような供述態度に照らすと,前記○○400のP21工場への全量搬出に関する供述は,信用し難いものといわざるを得ない。
結局,○○400が全量P21工場に搬出された可能性を理由に,前記(1)の推定を覆すことはできないというべきである。
(3)

P2の通常の操業時の投棄の可能性について
原告は,PCBによる汚染土壌が発見された本件対策地域が,本件工場の
北西角の場所で,○○400を熱媒体として使用していた設備から約90メートルも離れていることから,P2が通常の操業時に本件対策地域内の地中に○○400を投棄していた可能性もあるかのように主張する。
しかし,前記(1)のとおりの○○400による土壌汚染の範囲の広さ,深さからみて,大規模な掘削及び埋め戻しの際に投棄されたものとみるのが合理的であり,熱媒体に使用される○○400が,加熱により劣化しにくく,原告の主張によれば再利用が可能であることにもかんがみると,P2が通常の操業継続中の時期に,大量にこれを投棄する理由が存したとは考え難く,また,大量に地中に漏出したことをうかがわせる証拠もないから,P2が通常の操業時に排出した可能性を理由に前記推定を覆すことはできないというべきである。
(4)

第三者による投棄の可能性について
原告は,本件工場周辺が工場地帯であることや,P28が,本件工場跡地
の更地化後,本件対策地域内の土地を購入して建物を建築しており,産業廃棄物処理業も会社の目的としていることから,P28を含む,P2以外の第三者が本件工場跡地の更地化後にPCBを持ち込み,地中に埋め込んだ可能性がある旨主張し,証人P16の証言及び陳述書(甲45,46)の記載にはこれにそう部分がある。
しかし,P3は,本件工場跡地の更地化後,西の部分の土地約760平方メートルを,昭和40年12月2日付けでP25株式会社に賃貸し,資材(ケーブルドラム)置場として使用させており,その後,昭和42年から昭和43年にかけて,本件工場跡地をP26,大田区,P28に売却するまでの間,PCBやナフタレンが取り扱われた形跡はなく,P26は,昭和42年に土地を購入した翌年には当該土地で高圧ガス取扱事業を開始しており,その後現在に至るまで,本件工場跡地の建物設備について,PCB(○○400)を使用する工程等が存したことをうかがわせる具体的証拠はない。しかも,本件対策地域内において,P28の所有地と隣接するP26の所有地との間には,昭和43年には塀が築造されており,両土地と北側区道との間にもP2の存立当時から塀が存在していたことから(前記1(3)カ),昭和43年以降に,塀をまたいでその両側約360平方メートルにわたって,コンクリート塊やレンガ片その他の瓦礫類やガラ等とともに広範にPCBを排出することは容易には考え難い。加えて,昭和43年10月に○事件が発生するまで,PCBについては,有害性が問題とならず,有用な熱媒体等として使用されていたから,特段の理由もなく,他人の土地にPCBを投棄することは想定し難い。また,P28の代表者が,本件対策地域内に購入した土地に建築した建物を子供らを含む家族とともに自宅としても使用してきたこと(乙110,証人P15)からすると,P28が,産業廃棄物処理業をも会社の目的に掲げているからといって,当然にPCBを本件対策地域内に投棄することは困難といわざるを得ず,これらの事情に前記(1)において認定した土壌汚染の広がりや深度からすると,P2以外の第三者による投棄の可能性を疑うべき具体的事実関係が存するとは認められず,前記P16の供述は採用できない。
原告は,甲50の2の2ないし8(本件工場跡地における塀の位置を示す図面及び航空写真)からみて,本件工場跡地内の異なる所有者に属する土地について,第三者がこれを超えて侵入することが可能な箇所があったと主張するが,そもそも,その主張に係る事実だけでは,具体的に第三者が本件工場跡地内

にPCBを埋めたことをうかがわせる事情があるとはいえない。

原告は,本件工場跡地周辺が町工場の並ぶ工業地域で,いわば産業廃棄物のゴミ捨て場とされ,昭和49年以降,PCBを使用したトランス,コンデンサその他の電機機器類が大量に所在不明となっており,大多数の事業所や解体業者がPCBの有害性等を認識した処理をしてこなかった実情があるなどと指摘し,その証拠として甲43の1ないし6(新聞記事)を提出しているが,その内容は,いまだ一般論の域を超えるものではなく,前記(1)の推定を左右するということはできない。
そうすると,前記(1)の推定を覆すに足りる第三者による投棄の可能性についての事情も認め難いというべきである。
(5)

因果関係に関する科学的知見に基づく明確性との関係について
原告は,ダイオキシン法31条7項が,

対策計画に基づく事業については,負担法の規定は,事業者によるダイオキシン類の排出とダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合に,適用するものとする。

と規定していることから,P2による本件工場跡地への○○400の排出の事実について,上記規定に基づく科学的な証明が必要であるところ,被告においてそのような立証ができていない旨主張する。
しかしながら,ダイオキシン法31条7項は,国民の健康保護と事業者の負担の調和を図る見地から,事業者によるダイオキシン類の排出とダイオキシン類による土壌汚染との因果関係について,科学的知見に基づき明確な場合に負担法を適用するものと解されるが,同規定の文言上,直接科学的知見に基づくことが要請されているのは,事業者による排出と汚染との因果関係についてである。そして,裁判上の事実認定に当たっては,当該事実の有無が科学的知見にかかわる場合であっても,同事実を認定するために,一点の疑義も許されない自然科学的証明が求められるものではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,高度の蓋然性を証明すれば足りるものと解され(最高裁判所昭和50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁),他に科学的な可能性が存在する場合であっても,他の間接事実と総合し,経験則に照らして当該事実を認定することは妨げられないというべきである。したがって,本件のように,P2によるPCBの地中への排出の事実が認められるならば,その排出の事実と当該PCBに由来するダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係については経験則上高度の蓋然性をもって推認され,その因果関係の存在は科学的知見によっても明らかであるということになる。
とはいえ,以上の見解の下でも,科学的知見に照らし,前記(1)の推定を覆すに足りる事情が認められるか否かは,原告の主張を踏まえて,更に別途検討することが相当であるから,以下,このような見地に照らし,原告が,上記科学的知見に基づく立証ができていない根拠として掲げる主張の当否につき検討する。

被告がP9及びP34に委託して実施した調査・分析について
(ア)

PCBの種類の判定とピークパターン法等について
原告は,証人P36の証言及び鑑定書(甲74)を基に,P9に

よる詳細調査及び策定調査は,PCBの種類の判定を,ガスクロマトグラムのパターンの類似性を単純に目視で比較する方法(ピークパターン法)で行っており,特に判定基準もなく,客観性に欠け,PCBの精密な同族体組成や異性体組成の解析,○○とは異なるPCBの可能性との関係も含めた解析をしていないのは,科学的にPCBの種類を判定するものとはいえない旨主張する。
しかし,土壌中に含まれるPCBの含有量や種類の分析方法及び判定基準には,特に法令,通達,ガイドラインその他の公に定められた方法及び基準はなく,詳細調査及び策定調査においてP9が行った土壌中のPCBの調査,分析は,土壌と類似した水底の底質を対象とする底質調査方法(昭和63年環水管127号。平成13年3月改正)に準拠し,使用された分離カラムも,キャピラリーカラムという細長く,成分分析の精度の高いカラム(極細の管)であり,分析器もECD-GC(電子捕獲型検出器)という高感度のものが使用されている(前記1(4)ア(エ)b(c))。
また,ピークパターン法によるPCBの分析は,ECD-GC分析により得られたガスクロマトグラムに示されたPCBの全体的な成分の特徴(主要異性体の組成が反映されている。)を,○○標準品のチャートと比較して,どの種類の○○のパターンと最も類似しているか目視により判定するというものであるところ,○○300,○○400,○○500,○○600の各標準品のガスクロマトグラムのパターンには明確な相違があり(乙105),カラムの通過により得られたガスクロマトグラムの形状には判定者の恣意が介在する余地がなく,その特徴的なピーク数本の相対的な強度比やリテンションタイム(分離カラムの通過時間)を目視により確認することにより,どのPCB製品に由来する汚染であるかを判定することは,PCB分析に従事した者にとって容易とされていることから,PCBの分析方法として一般的に使用されており(乙86,118,証人P37),本件においても,P34及びP8も,この方法を使用してPCBの分析をしている(前記1(4)ア(カ)a(b),同ア(カ)b)。
これらのことからすれば,P9が,詳細調査及び策定調査において,PCBの種別を○○400と判定するについて,目視によるピークパターン法という方法を使用したこと自体は,その分析結果を,専らそれのみでP2の排出した○○400と本件工場跡地から検出されたPCBとの同一性を認定するのではなく,前記推定を補強するものとして使用する限りにおいては,合理性を欠くとは認められないというべきである。そして,P34による本件PCB等分析委託調査の結果をみても,汚染土壌中のPCBをECD-GCで分析し得られたガスクロマトグラムからピークパターンを目視比較した結果,すべての試料が○○400由来のPCBであることが確認されたほか,GC-MSによるPCBの種類の分析の結果によっても,試料のすべてにおいて,○○400と類似した同族体組成パターンが得られたこと(前記1(4)ア(カ)a(b))も,P9の詳細調査及び策定調査の結果とともに,前記(1)の推定を補強するものということができる。
(イ)

PCBとダイオキシン類(コプラナーPCB)の相関関係等につい

原告は,P9が詳細調査に当たり本件対策地域内の土壌中から採取した各試料から検出されたとする○○400について,コプラナーPCBの含有量(4.64パーセント)とP9の分析結果(2.4パーセント)に乖離がみられ,各試料中の異性体の組成比率の較差も大きく,その判定基準(甲54の2参照)に照らしても,上記検出されたPCBがすべてP2の使用していた○○400に由来するものとはいえない旨主張する。
しかし,コプラナーPCBは,PCB製品の製造過程で非意図的に生成され,同製品に微量に含まれる特殊な不純物であり,PCB中のコプラナーPCBの比率に一定の比率があるわけではなく(乙86),原告が援用するコプラナーPCBの含有率や判定基準を絶対視して,P9が詳細調査や策定調査において採用した分析方法の通有性を否定するのは相当でないから,原告の上記主張は採用できない。
(ウ)

PCBの主成分分析について
原告は,被告がP34に委託して実施した主成分分析は,PCBの種
類を判定する手法としては誤っている旨主張し,証人P36の証言には,データの質と精度が高くなければ,結果の信用性も低い旨の部分があり,P38の鑑定書(甲90)には,被告がP34に委託して実施した主成分分析の結果においては,○○400に近いものがかなりある一方で,○○400と○○300の中間や○○300に近いものも存在することから,分析試料の大部分が○○400に類似しているとまではいえない旨の記載がある。
しかし,前記1(4)ア(カ)a(b)③のとおり,主成分分析は,統計的な方法(対象ごとに多項目のデータがある場合,そのデータから総合的特性を抽出するための手法)であり,被告において,あくまで補足的に行ったものとみることができるから,その精度によって,前記推定が左右されるものということはできない。
(エ)

ダイオキシン類の分析と精度管理等について
原告は,P9の行った詳細調査及び策定調査の結果報告書に,土壌調査マニュアルの要求する精度管理の報告の記載がなく,また,証人P36が,その鑑定書(甲74)及び証言中で,P9の実施に係
るガスクロマトグラフによるダイオキシン類の分析結果について,ピークの強度が低かったり,ピークに分離がみられるなど,データが不完全である(具体的には,①すべての試料について#123のピーク強度が低いこと,②一部の試料について#114,#118のピーク強度が低いこと,③一部の試料についてピーク分離が不十分なものや保持時間のずれがみられること,④全試料について#170と#180のピークが不検出であること)と述べていることからも,その分析結果を信用することはできない旨主張するので,以下検討する。


前記1(4)ア(エ)のとおり,本件において被告がP9に委託して実施した,詳細調査及び策定調査におけるダイオキシン類の測定,分析は,一般に土壌中のダイオキシン類濃度を把握する場合に使用される土壌調査マニュアルの定める作業工程及び方法に依拠したものであるが,P9が行った詳細調査の結果報告書(乙8)及び策定調査の結果報告書(乙10)には,内標準物質のクリーンアップ回収率をはじめ,土壌調査マニュアルの要求する精度管理の報告の記載が見当たらない。しかし,その記載の不存在の一事から直ちに,土壌調査マニュアルの要求する精度管理が履践されていなかったとまではいい切れないし,上記分析結果のすべてが誤りであるとまでも認定はできず,その分析結果の当否は,更に分析結果の内容や他の証拠に照らして検討することが必要である。
そして,土壌試料から○○400の標準品に類似しているものが検出されたとの上記分析結果は,前記1(4)ア(カ)a(b)①のとおり,P34による本件PCB等分析委託調査の結果とも整合し,これに証拠(乙118,証人P37)を総合すれば,高濃度のダイオキシン類のピークの一部の分離等がみられたとしても,土壌環境基準の超過ダイオキシン類汚染の範囲を把握し,ダイオキシン法に基づく対策地域の指定を行うのに必要とされる,土壌環境基準1000pg-TEQ/gの超過の有無を確認するのに必要な精度に欠けるものではないと認められる。
(オ)

土壌試料中における,ガスクロマトグラムが○○400の組成と類
似しない試料の存在について
a(a)

原告は,証人P36の供述(同人の証言及び鑑定書(甲7

4))を基に,本件工場跡地の土壌試料からは○○300,500,600も検出されているところ,調査地点によって塩素化度が高くなったり脱塩素が生じたりするようなことはあり得ず,○○400が塩素化度の高い異性体に変化したり,見かけの組成が○○300に見えるように変化することもあり得ないとして,同人の供述と独自の分析結果(○○400の主要異性体の同定の結果等(甲56,甲57)及びP39株式会社に委託して行った航空写真の分析(甲64))等から,本件工場跡地のダイオキシン類による汚染は,P2の使用に係る○○400以外のPCBを含む複合的な原因による汚染である旨主張する。
(b)

確かに,PCBの種類の判定について,P9の分析結果には,
一部,○○300や○○500とも類似すると判定された試料もあり(前記1(4)ア(エ)a(e)④),P37の分析結果(乙118)によっても,詳細調査により得られたECD-GCのガスクロマトグラムのうち,ダイオキシン法に基づく対策地域内であり,かつ,PCB含有量が10mg/kg以上の17試料について,ピークパターン法(PCB種別目視判定法)によりPCBの種類判定を実施した結果17試料中14試料が○○400に類似しているものの,残りの試料(No.5の表層下1.0メートル(地表面下1.4メートル),No.8の表層下1.0メートル(地表面下2.5メートル),No.2の表層下1.0メートル(地表面下2.25メートル)から採取された土壌試料)については,○○400のガスクロマトグラムに比べ,3塩素化PCBが多くみられ,○○300にも近いピークパターンとされている。
b(a)

しかし,上記○○400と異なる組成を示す物質として検出さ

れているPCBは,本件工場跡地で検出されたPCBの1パーセント程度にとどまる上(乙8),証人P37の証言及び意見書(乙86)においては,上記3塩素化PCBが多くみられる土壌試料ついて,上部のPCBの種類,濃度との関係からみて,雨水の浸透等の影響により,上部の高濃度の○○400から,土壌への吸着力が,4塩素化PCB,5塩素化PCBに比べ,弱い(証人P37は,水への溶解度という観点からみた場合の差異は些少であるが,相互間の土壌の吸着力の違いは,数倍から数十倍程度に及ぶものとみられる旨証言する。)3塩素化PCBの下層への移動に伴う組成変化によるものとみることもできるとしている。
(b)

PCB製品は,銘柄ごとに同族体組成(塩素数の異なるPCB

ごとの含有比)に一定の傾向があり,○○400の同族体組成は,三塩化ビフェニルが2割,四塩化ビフェニルが5割,五塩化ビフェニルが3割とされているところ(乙87),PCBの移動傾向は,水溶解度と土壌への吸着力の点から,オクタノール/水分配係数の値の大小によって決まり,三塩化ビフェニルの水溶解度は,四塩化ビフェニルの約8倍,五塩化ビフェニルの約30倍と高く(乙12
0),三塩化ビフェニルのオクタノール/水分配係数は,四塩化ビフェニルの約5分の1,五塩化ビフェニルの約20分の1と低いこと(乙121)から,雨水の影響を受けた場合でも,PCB同族体のすべてが均一に移動するのではなく,PCBの塩素数によって移動の可能性及び程度は大きく異なる。水溶解度が高く,オクタノール/水分配係数が小さいPCB,すなわち,四塩化ビフェニルや五塩化ビフェニルよりも,三塩化ビフェニルに偏った割合で移動し,その結果,塩素数の少ないPCB成分ほど,土壌への吸着力が弱く,降雨等の外部影響を受けて移動しやすい傾向があるとされ,このような現象にそう実験結果も報告されている(乙119,124,125)。
さらに,土壌中の嫌気性微生物の影響について,底質中における
PCBに対する嫌気性微生物の影響について塩素数の多いPCBが脱塩素化し,塩素数の少ないPCBに変化することが報告されており(乙94及び95),塩素数の高いPCBが脱塩素化し,塩素数の低いPCBに変化するために低塩化PCBの組成比が高まり,同族体の組成が変化する可能性もあり,微生物は,土壌中に均一に存在するわけではないため,局所的にPCBの脱塩素化が進み影響を均一に受けないことも考えられる。
(c)

仮に,昭和39年から昭和40年にかけて本件工場跡地が更地

化された時に○○400が地中に排出されたとすると,その後平成12年に土壌汚染が発見されるまで約30年にわたり,土壌中の○○400は,地中で雨水(乙123)や微生物の影響を受け得る環境に置かれていたことになる(ただし,本件対策地域については,昭和62年6月以降にコンクリート舗装が行われたとみられること(乙110,117の14頁(5))から,地中の土壌が雨水の影響を受けたのは,少なくとも約23年程度ということになる。)。
c(a)

上記b(a)ないし(c)によれば,本件工場跡地において,地中
の下層部が○○400により汚染された場合に,地下に浸透する雨水の影響により高濃度の上層部から移動してきた低塩素化PCBが加わり,更に地中の空隙の状況(埋め戻しの態様による)や微生物の影響が相まって,土壌によっては,○○400標準品よりも,低塩素化PCBの割合が高いガスクロマトグラムが得られるということも,十分あり得るといえる。
(b)ⅰ

これに対し,証人P36は,PCBの水に対する溶解度は,

10のマイナス9乗であり,三塩化物,四塩化物,五塩化物の差
を論ずるのは,富士山の山頂にある1ミリ以下の高さを地上から
眺めて,高いか低いかを議論するに等しいほど,その差はわずか
しかないから,検討するに値しないと証言し,PCBの種別の判
定について,P9の分析した試料のうち,ベースラインが安定し
た試料に限定し,PCB由来と考えられる87本のGCピーク群
を選別した上,○○300,400,500,600を汚染源と
仮定して,その寄与率について,ケミカル・マス・バランス法に
よる解析をした結果,汚染状態の類似したパターンを以下の①ないし⑥に区分した上,①No.1表層,No.2(0.35メートル),No.3(0.9メートル)については,標準品の○○400の組成にほぼ一致し,②No.2(1.0メートル)及び③No.4(2.0メートル),No.4(3.0メートル)については,低塩素化物が主体で,地中の主たる分解要因である嫌気性微生物
による変化と一致したことから,○○300又は○○400と同
様の組成をもつPCBが嫌気性微生物により分解された可能性が
あり,④No.2(表層),No.6(表層),No.8(表層),No.21(表層)については,○○400に相当するPCBから三,四塩素化物の一部が消失した組成を示しており,地中に投棄
された時点で熱の影響により組成が変化していた○○400の可
能性があり,⑤No.18(1.0メートル)については○○500,⑥No.28(1.0メートル)については○○600に相当するPCBであり,本件対策地域外ではあるが,汚染原因を解明
する上では無視できない結果であるとしている(甲74)。

しかし,上記④ないし⑥の土壌試料は,その採取の深度からみて,いずれも表層部分の試料であり,前記b(a)の組成変化の可能性を肯定する見解を前提とすれば,本件工場跡地において,地
中の表層部のPCBから低塩素化物が下層部へ移動し,下層部が
○○300の組成に近く変化することもあり得ると考えられると
ころ,PCBが極めて水溶性の乏しい物質であることは,証人P
36の述べるとおりであるとしても,いわば土壌を深度に従い横
からみて,その構成する粒子を単位としてみれば,有意的な差が
生じ得るものであって,下層への移動により組成を異にすること
があり得ることは否定できないから,証人P36の上記供述によ
って,上記のような組成変化があり得ないと判断することはでき
ない。
また,P9の詳細調査は,本件対策地域外ではあるが,本件工
場跡地内のNo.13,14,18,20,28の各地点から○○500,○○600又はその混合物が検出されたとし,P36も,No.18,28から検出されたPCBについて,○○500,○○600と判定できるとしている(甲74)。しかし,本件工場
跡地から検出されたPCBの大半が,○○400と判定されてい
ることに変わりはなく,更地化後の土地の利用関係からみて,P
CB使用の工程がみられないことからすると,上記各地点で○○
500,○○600が検出されたことのみから(しかもP2が使
用してきた○○製品が,例外なく熱媒体としての○○400のみ
であったのかについても,証人P16の証言のほか他に客観的証
拠があるわけではない。),本件対策地域内の土壌から検出され
た○○400がP2が本件工場跡地の更地化時に排出したもので
あるとの推定を覆すには足りない。
P36も,P2の使用した○○400と断定するためには,地歴調査による投棄時期の特定,当事者あるいは目撃者の証言,その他の事実を裏付ける証拠が必要であると述べているとおり(甲74),P2の排出した○○400である可能性を全く否定
したわけではなく,その見解は,現実に生起した現象と分析化学
の適用について科学的により純粋で厳格な立場に立つとともに,
組成変化について異なる知見に立ったものと評することができる
ものであって,P36の上記①の供述も,前記(1)の推定を否定するに足りるものとまではいえない。

○○以外のPCB製品の可能性について
原告は,被告の実施した調査・分析の方法について,○○以外のPCB製品の可能性を判断するために,被告が,高度精密分析による同族体組成や異性体組成の解析を行っていない点でも不合理である旨主張する。しかし,先にみたとおり,被告が委託,実施したPCBの分析方法も,前記(1)の推定を補強するものとしての合理性が認められる上,通産省が昭和48年9月12日当時明らかにした資料によれば,PCBの国内総生産量5万8787トンのうち,○○は5万6326トン,○○は2461トンであり,○○が約96パーセントを占め(乙90),当時国内に存在するPCBの大半が○○であったことに加え,本件工場跡地の更地化時に○○はいまだ製造,販売されておらず,更地化の後に,地番,所有者の違いを超える土地に及ぶ広範で大がかりな土地の掘削,改変が行われた形跡のないことからすると,原告が主張するような高度精密分析による同族体組成や異性体組成の解析をしなかったため,○○製品である可能性があったことまでの解析をしなかったことを理由に前記(1)の推定を覆すには足りないというべきである。

本件工場跡地の更地化後の地表面の土壌からの土壌汚染の可能性について
(ア)

原告は,被告がP9に委託して行った詳細調査及び策定調査におい
て,地表面付近の土壌試料の採取,分析をせず,表層以深の土壌試料のみについて調査,分析を行ったのは,地質学の基本に反する独断によるもので,策定調査の結果,地表面に近いNo.2(0.35メートル)の地点から最高濃度のPCBが検出され,埋め戻し用に外部から持ち込まれたローム層の上で上記最高濃度のPCBが発見されたため,本件工場跡地の更地化後に,地表面から汚染を生じた可能性があるから,検出されたPCBを,P2の排出したPCB(○○400)と判定することはできない旨主張する。
そして,証人P40も,その証言及び陳述書(甲66,96)において,上記主張にそう供述として,①土壌試料は表層から深度方向に向かって採取することが地質学的な原則であるのに,都が独断で省略したとすれば問題であること,②周辺環境調査において5地点混合方式で採取された対策地域付近の表土に汚染がなかったとしても,同方式は焼却炉から排出され,地表に降り積もったダイオキシン類を念頭に置いたものであるから,本件には適切でないこと,③地表面に近いNo.2(0.35メートル)の地点の土壌から最高濃度のダイオキシン類及びPCBが検出され,詳細調査の結果に基づく柱状図(乙8末尾添付のボーリング柱状図,乙102は,No.1,No.2,No.6,No.8について,同柱状図をまとめたもの。)によると地表面下0.35メートルから0.65メートルにかけての土壌をみると,ガラ混じりではなくロームのみが分布し,コア(中核部分)に乱れがみられないことからすると,本件工場跡地の更地化の際,ガラ混じりの土壌が形成された後にロームが運び込まれ,その後水道管やガス管工事によるかく乱等による土地の改変が行われることなく現在に至ったものとみられることなどを述べている。
(イ)

もとより,一般論として,土壌汚染の分析の精度を高める上で,地
表面からも土壌試料を採取することが望ましく,特に,地表面からの汚染の有無の判定自体を目的とするのであれば,より多くの地表面から土壌試料を採取しかつ分析することが適切であるということができる。しかし,本件で問題となるのは,本件工場跡地から検出されたPCBに由来するダイオキシン類が,P2が本件工場跡地の更地化時に排出したものであるとの前記(1)の推定が覆されるか否かである。このような点を念頭に検討するに,まず,被告がP9に委託して行った詳細調査及び策定調査において地表面の土壌試料を分析の対象としなかったのは,平成11年10月から12月にかけて,被告がP8に委託して実施した周辺環境調査において,地表付近に高濃度汚染は認められないとの結果が得られたこと(前記1(4)ア(イ))に加え,地表付近に多数の煉瓦やガラ類が埋まっていた状況から採取しなかったことによるもので(証人P15),被告がP8に委託して実施した追加調査の結果においても,地表面(No.3舗装直下部分及びNo.8地点)から高濃度のダイオキシン類は検出されておらず,高濃度のPCBが検出されたNo.2,No.6,No.8については,地表部分の濃度は表層部分の1割にも満たない値であったこと(乙100,101)に照らすと,本件における地表面の土壌試料の分析の実施の程度が,前記(1)の推定の合理性に疑念を抱かせるほどのものとはいい難い。
(ウ)

また,P8が周辺環境調査及び追加調査において土壌試料の採取方
法として採用した5地点混合方式(調査地点1地点につき,中心及び周辺の4方位の5メートルから10メートルまでの間からそれぞれ1か所ずつ,合計5地点で試料を採取し,これを等量混合する方式)についてみても,土壌調査マニュアルに,ダイオキシン類の分析のための土壌試料の採取の方法として記載され,その中で特に大気汚染等による場合に使用され本件工場跡地における地表面の土壌汚染の調査分析に使用してはならないとの限定は見当たらないことから(乙51の2),その方法を採用したこと自体を不合理ということはできない。
(エ)

かえって,前記(ア)の柱状図の調査地点No.6部分についてみる
と,地表面から深度1.4メートルまでは石炭ガラを含む埋土・焼却土であり,近隣の他地点(No.4,No.5,No.7)と比較すると地質が異なっており,周辺に見られるロームが存在しないことからすると,本件工場跡地の更地化が行われた際に,ロームのみでなく,石炭ガラや焼却灰等,不要物を焼却した残し等も埋め戻しに使われたものと推認することができる。
(オ)

P9による策定調査においてNo.2(0.35メートル)の試料
から,一連の調査試料の中では最も高い濃度のダイオキシン類が検出された点についてみても,策定調査の結果報告書(乙10)によれば,同調査において分析の対象とされた試料は,土壌に含有されるPCB濃度(本ボーリング調査試料=策定調査に当たり新たに採取した試料の意)と土壌中の油分に含有されるPCB濃度(保存試料=
詳細調査の際に既に採取していた試料の意)に区分され,No.2(0.35メートル)の分析試料は,土壌ではなく,油に区分されていたことが認められる。PCBが親油性の物質であることに加え,P8による追加調査の結果によれば,No.2(0.35メートル)の土壌試料(P9による詳細調査の際,ボーリング調査により採取されたもの)から検出されたPCBの濃度は,1700mg/kgにとどまったこと(前記1(4)ア(カ)b)に照らすと,上記No.2(0.35メートル)から最高濃度のPCBが検出されたことから,直ちに同所付近の地表面一帯の土壌が高濃度のPCBによって汚染されているとみることはできないというべきである。
(カ)

なお,原告は,上記P8の分析結果について,同一地点から採取さ
れた試料から異なる分析結果が生じることは不合理であり,P9が分析した試料とP8が分析を委託された試料との同一性に疑義がある旨主張し,証人P40はこれにそう証言をする。
しかし,P9の詳細調査結果報告書(乙8)中a試料採取方法の
項によれば,PCB・ダイオキシン類分析用の試料はステンレス缶に,油分分析用の油分試料についてはガラス瓶に別々に採取されたもので,他方,P9が分析したNo.2(0.35メートル)の試料は,二種類採取した試料のうち,油分分析用の油分試料であり,P8に分析を依頼した試料は,PCB・ダイオキシン類分析用の土壌試料であるとみられる(前記1(4)ア(カ)b)。その結果,同一深度から採取された試料であっても,各試料におけるPCB含有量の分析値が同一でないということはあり得るから,原告の上記主張は採用できない。
(キ)

さらに,上記No.2地点付近の地中には,水道管とガス管が埋設
されており(乙84),同所付近は昭和60年6月の時点ではコンクリート舗装されていなかったのが(乙110),その後コンクリート舗装され,平成14年1月12日撮影の写真に,水道メーターボックスが設置されている様子が写っており(乙111),P28所有のビルに供給されていた都市ガス用のガス管(深度45センチメートル)について,昭和58年以降に敷設換えが行われ,平成13年12月24日,第一期工事を行う際に事前に埋設物の状況を把握するための試掘をしたときに撮影した写真(乙112の1及び2)に,ガス管周辺の土壌が湿って黒ずんでいる様子が写っていることなどからすると,上記コンクリート舗装の際に,水道メーターの設置工事等が行われ,同工事の施工のためにNo.2地点周辺の土壌のかく乱が行われたものと推認され,高濃度のPCBを含む油分は,このようなかく乱の結果,No.2(0.35メートル)の地点から検出されたとみることが十分可能である。
(ク)

これに対し,証人P40は,No.2(0.35メートル)の汚染
について,詳細調査におけるボーリング調査の結果に基づき作成された,本件対策地域の柱状図(乙8巻末資料-ボーリング柱状図)中のNo.2の地点の地層には,工事に伴って土壌がかく乱されたという形跡(コアの乱れ)は認められないから,本件工場跡地の更地化後にP2以外の第三者によって,地表面から汚染が生じたと考えるのが妥当である旨述べる(甲66,96,証人P40)。
しかし,詳細調査の結果の報告書(乙8の5頁⑷a試料採取方法の項)によれば,P9が実施したボーリング調査において,表層試料(表層位置の基準となる地点までの試料)については,クロススコップ(2本のスコップを剪定バサミのように交差して組み合わせたもので,土を挟み込んで掘り出す器具)を用いて,直径約20センチメートルの範囲を手掘りで採取しており,No.2(0.35メートル)における試料は,この方法により広く採取したものであると認められるのに対し,表層位置より下の深度の試料は,手掘りした後に直径約7センチメートルのボーリングマシンにより掘削して採取したものであることが認められる。
そうすると,主にボーリング調査によりコアから採取された試料の分析結果を基に作成された柱状図上において,No.2(0.35メートル)地点のコアに乱れが見られないとしても,クロススコップによる手掘り部分において,周辺工事による土壌のかく乱が生じていた可能性は否定できないというべきであり,証人P40の上記供述は,ボーリング柱状図のみから見た限りでの判断を述べたものとみることができ,これによって前記(1)の推定を覆すことはできないというべきである。(ケ)

このようにみてくると,被告が委託して実施した本件工場跡地にお
ける土壌試料の採取,分析の程度や,その結果としての柱状図の内容から,P2以外の第三者によるPCB土壌汚染を疑わせ,前記(1)の推定を覆すに足りる具体的事実は認められないといわざるを得ない。
したがって,原告の前記主張は採用できない。

クロスチェックの必要性について
原告は,ダイオキシン類の排出と汚染の因果関係は科学的に難しい問題であるから,調査に当たっては一社に委託するにとどまらず,当該受託者の調査の正確性を確認する作業(クロスチェック)をする必要があるところ,本件において被告が委託して行った調査については,クロスチェックを経ていない点でも不備がある旨主張する。
しかし,上記のようなクロスチェックを行うことが土壌汚染の分析の精度を高める上では望ましいとはいえても,前記(1)の推定を基礎付ける事実に加え,被告が,P34に対しても一部土壌試料の分析を委託し,上記推定にそう結果を得ていることを考え併せると,クロスチェックを経ていないことが,直ちに本件工場跡地の更地化時にP2が本件工場跡地の地中に○○400を排出したという推定を覆すに足りるものとはいい難いから,原告の主張は採用できない。
3
争点2(負担法3条所定の事業者該当性)について
原告は,P2がPCBを本件工場跡地の地中に排出したしても,P2と別人格であり,本件工場において自らPCBを使用する事業を継続して行っていたわけではないP3を合併した原告は,当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動を行った事業者に当たるとはいえない旨主張する。しかしながら,負担法は,公害が環境に及ぼす有害な結果の重大性にかんがみ,公害防止事業に要する費用を,広く当該公害の原因を作出した者に負担させることを企図しているものと解され,このような法の趣旨にかんがみると,負担法3条所定の当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動を行った事業者について,自ら当該PCBを使用する事業を継続して行う者に限定して解する理由はなく,また,その事業活動を継続的なものに限定する理由もないというべきである。
そして,前記1で認定した事実によれば,本件工場跡地の地中に○○400に由来するダイオキシン類が排出されたのは,昭和39年から昭和40年にかけてのP2の私的整理から清算に至る過程でのことであるところ,P3は,当時,P2の全株式を保有し,役員を派遣するなどして経営を支配しており,取引先に対する金融支援のレベルにとどまらず,PCBを使用していた工場の敷地及び建物の約半分につき所有権を取得してP2に賃貸し,P2が事実上倒産した後,残存原材料をP3のP21工場で利用する目的を有し,P2の従業員の多数を雇用するなど,実質的にP2の営業の一部又は重要な財産の一部を承継する一方,P2の他の債権者からその債権を買い取り,自己の債権回収を進める中で,工場撤去や資産の売却方針の決定等に主導的役割を果たしていたもので,P3がP2から雇用した従業員を現地に派遣するなどして,工場設備の撤去の作業に対して指揮監督を及ぼすことが可能であったことが認められる。このような事実関係の下では,P3とP4株式会社が対等合併して発足した原告は,負担法3条所定の当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動を行った者に当たるとみるのが相当である(以上の次第であるから,被告は,原告に負担法3条に基づく負担を課す根拠として,いわゆる法人格否認の法理も主張しているが,その主張については判断の限りではない。)。原告は,本件工場跡地の更地化に当たりP2が委託した運搬等の業者が地中にPCBを投棄した可能性があるとも主張しているが,そのような行為の可能性を疑わせる具体的な証拠は存しない上,本件において,そのような投棄が行われたのはP3所有の工場跡地であって,前記1の事実によれば,その更地化の過程を通じて,P3が同土地に対して管理,支配を及ぼし得る地位にあったのであるから,このような敷地内にダイオキシン類が排出されたことについて,P2が運搬等の業者が行ったことを理由に負担法3条に基づく負担を免れることはできないと解するのが相当であるから,いずれにしても原告の上記主張は採用できない。
4
争点3(手続上の違法の有無)について
負担法6条1項は,施行者が,公害防止事業を実施するときは,審議会の意見を聴いて,当該公害防止事業に係る費用負担計画を定めなければならないと規定しているところ,原告は,本件各処分に至る審議の手続には,法が審議会の意見を聴くことを要求した趣旨を没却するほどの重大な瑕疵があったと主張し,その具体的な根拠として,被告が,東京都環境審議会において,①実際にはガラ層の上部のガラ等を含まないロームからも高濃度PCBが検出されている試料があるにもかかわらず,あたかもすべての地点で高濃度PCBがガラ等と一緒に存在したかのような説明をしたこと,②被告が独断で設定した地中の表層と称する深度以下しか調査しなかったことについて,最高濃度のPCBが検出された試料No.2(0.35メートル)を例に,コンクリート・アスファルト等の舗装や埋土あるいは瓦礫等があって元々の土壌等がない状況などと誤った説明をしたこと,③同審議会の委員に対して明らかに別の写真を提示し,あたかも高濃度の汚染とガラ等を含む層が密接な関係があるかのような印象を与えるなど,虚偽あるいは不十分な説明しかせず,本件各処分に先立つ東京都環境審議会の審議の前に,独断で原告に費用負担を求める旨マスコミ向けに発表するなどし,PCBの分析方法や結果等につき被告の意見に異を唱える原告の主張をまともに取り上げようとせず,現地で採取した土壌試料の一部を提出して欲しいとの原告の要請も拒み続けた上,原告に反論の機会を十分与えなかったことなどから,審議の過程に不公正があった旨主張し,これにそう証拠として,甲71の4の1ないし4(東京都環境審議会水質土壌部会において配布された資料及び提示された写真類)を提出する。
しかしながら,負担法6条1項の趣旨は,同法に係る公害防止事業の遂行及びこれに関する費用の負担が,対象となる事業者のみならず,公衆の重大な利害にかかわるとともに,公害の原因について科学的,専門的な判断を伴うことから,公害防止事業の施行者において同法に基づく費用負担計画を決定するに当たり,第三者的な諮問機関からの意見を得て,公害防止事業に係る費用負担を適正に行うことを可能にすることにあるものと解される。そして,前記前提事実(3)及び原告提出の上記証拠(甲71の2,71の4の1)によれば,本件第一次決定(平成13年10月18日付け)に先立ち,平成13年6月30日,被告は,東京都環境審議会に対し,本件第一次決定に係る費用負担計画案について諮問し,同審議会水質土壌部会においては,同年7月30日に本件対策地域を視察し,同年8月6日に原告と被告の双方から意見を聴取して同年8月24日に審議し,同年9月14日,同審議会の全体会で審議した上で,上記計画案につき被告に答申をしたものであり,上記審議に際しては,原告側から同年7月16日付けで被告の見解に対する異論を記載した見解書が資料として提出されていたこと(甲71の4の1,85),平成15年8月15日付けで本件第二次決定を行うに先立っても,同審議会水質土壌部会において同年7月7日及び同月28日に本件第二次決定に係る計画案について審議した上で,同月30日,同審議会全体で審議した上で,上記計画案につき被告に答申を行うに至ったものであることが認められる。さらに,証拠(甲73の1,証人P15)及び弁論の全趣旨によれば,東京都環境審議会は学識経験者で構成され,同審議会水質土壌部会の委員には,汚染土壌に関する専門家が含まれており(弁論の全趣旨),本件第一次決定に係る費用負担計画案についての同審議会の最終的な審議においては,同審議会水質土壌部会における検討結果が報告されたほか,東京都の担当職員から,費用負担計画案の説明に加え,同案に対して原告から異論があり,原告とは調整がついていないことに関しても言及がされていたことが認められる。
このように,本件各処分に至る手続は,審議会の意見の聴取という点で,形式的に適法であるというだけでなく,実質的にみても,第三者的な専門家により構成された審議会によって審議がされ,その意見具申に至る過程では,原告側も相応に意見や資料を提出する機会を与えられていたものと認められる。したがって,負担法が審議会の意見を聞くことを要求した趣旨を没却するほどの重大な瑕疵があるということはできず,また,原告が主張するような被告の原告に対する土壌試料の貸与に関する姿勢やマスコミに対する公表の在り方等の問題は,上記判断を左右するものということはできない。
したがって,争点3に関する原告の主張は採用できない。
第4

結論
以上によれば,本件各処分は,負担法の定める要件に欠けるところはないから,適法と認められる。
よって,原告の請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却することとする。
東京地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官

大門
裁判官

関口
裁判官

菊池匡剛弘章
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