判例検索β > 平成20年(わ)第363号
強盗殺人未遂等被告事件
事件番号平成20(わ)363
事件名強盗殺人未遂等被告事件
裁判年月日平成21年5月13日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第12刑事部
判示事項の要旨自転車に乗って走行中の女性に対し,殺意をもって自動車を衝突させ,財物を奪おうとしたという強盗殺人未遂のほか,強盗傷人,強姦致傷等合わせて21件の罪に問われた被告人に対し,強盗殺人未遂の公訴事実については殺意を認定せず,強盗傷人が成立するとした上,凶悪な犯罪行為をわずか4か月足らずの間に多数敢行し,重大な結果が生じているなどとして,求刑どおり被告人に無期懲役刑を言い渡した事例
裁判日:西暦2009-05-13
情報公開日2017-10-13 01:36:41
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主文
被告人を無期懲役に処する
未決勾留日数中280日をその刑に算入する。
押収してあるバタフライナイフ1本を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1(平成20年6月12日付け起訴状記載の公訴事実第1)
平成19年8月4日午後9時20分ころ,大阪市平野区所在の貸しガレージ18番内において,A(当時31歳)が自転車前かごに入れて所持していたバッグを自転車ごと窃取しようと企て,同自転車のハンドルを持って引っ張るなどしたが,同人に抵抗されたため,その目的を遂げなかった
第2(平成20年6月12日付け起訴状記載の公訴事実第2)
第1記載の日時,場所において,上記Aに対し,その身体を手で押して転倒させるなどの暴行を加えた
第3(平成19年12月19日付け起訴状記載の公訴事実第1)
平成19年8月10日,大阪府東大阪市内の会社駐車場において,同所に駐車中のB所有又は管理に係る現金約15万円及び自動車運転免許証1通ほか6点積載の普通乗用自動車1台(時価合計171万2100円相当)を窃取した第4(平成20年2月28日付け起訴状記載の公訴事実第1)
平成19年9月20日午前4時30分ころ,大阪市平野区内のC株式会社南側路上において,同社代表取締役D管理に係る軽四輪貨物自動車1台(時価約40万円相当)を窃取した
第5(平成20年2月28日付け起訴状記載の公訴事実第2)
公安委員会の運転免許を受けないで,平成19年9月21日午前3時50分ころ,大阪府東大阪市渋川町4丁目4番37号付近道路において,軽四輪貨物自動車を運転した
第6(平成20年2月28日付け起訴状記載の公訴事実第3)
第5記載の日時,場所付近において,同記載の軽四輪貨物自動車を運転中,自車前方の道路左端を自転車に乗車して通行していたE(当時55歳)を認め,同人に自車を衝突させて同人から金品を強取しようと企て,ハンドルを左に切り,自車を道路左端に寄せたまま進行させ,自車左側面部を同人が乗車した自転車のハンドル右側に衝突させ,その衝撃で同人を同自転車もろとも路上に転倒させる暴行を加え,その反抗を抑圧した上,同自転車前かごから路上に散乱した同人所有又は管理に係る現金約7000円及び財布等10点在中の手提げかばん1個(時価合計約2000円相当)を強取し,その際,上記暴行により,同人に加療78日間を要する急性硬膜下血腫,右頬骨弓骨折等の傷害を負わせた
第7(平成20年2月28日付け起訴状記載の公訴事実第4)
第5記載の日時,場所において,第6記載のとおり,第5記載の軽四輪貨物自動車を運転し,上記Eに対して傷害を負わせる交通事故を起こし,もって,自己の運転に起因して人に傷害を負わせたのに,直ちに車両の運転を停止して,同人を救護する等必要な措置を講じず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった第8(平成19年12月19日付け起訴状記載の公訴事実第2)
金品窃取の目的で,平成19年9月22日,大阪府東大阪市内のF方に,1階西側腰高窓から侵入し,そのころ,同所において同人所有に係るウエストポーチ1個ほか9点(時価合計約30万円相当)を窃取した
第9(平成20年4月30日付け起訴状記載の公訴事実第1)
平成19年10月8日,軽四乗用自動車を運転して走行中のG(当時31歳)を強いて姦淫しようと企て,同日午後10時ころ,大阪府南河内郡河南町内の路上において,自己が運転する普通乗用自動車の前部を上記軽四乗用自動車の後部に衝突させて停車させ,同人を同車から降車させた上,同人に対し,同人の背後から左腕でその頚部を締め付け,右手に持ったバタフライナイフの刃を同人の首筋付近に突き付け,

大声出したら殺すぞ。

などと語気鋭く申し向け,同人を道路端の斜面に押し倒し,その身体に馬乗りになってタオルで首を締め付け,樹脂製の結束バンドで両手首を後ろ手に緊縛し,自車後部の荷室部分に同人を押し込むなどの暴行,脅迫を加えてその反抗を抑圧した上,同車を運転して同府東大阪市内の駐車場に無理やり連行し,同日午後11時ころ,同所に停車中の同車内において,強いて同人を姦淫し,その際,上記暴行により,同人に全治約2週間を要する頚部,両手首及び右腰擦過傷等の傷害を負わせた
第10(平成20年4月30日付け起訴状記載の公訴事実第2)
平成19年10月8日午後10時ころ,第9記載のとおり,上記Gを第9記載の普通乗用自動車内に無理やり押し込み,手足を緊縛するなどした上,同人を乗せた同車を発進疾走させ,そのころから同月9日午前2時20分ころに同人を解放するまでの間,上記東大阪市内の駐車場及び同駐車場を経て上記河南町内の路上に至るまでの路上において,同人を同車内から脱出することを不能にし,もって同人を不法に監禁した
第11(平成20年2月28日付け起訴状記載の公訴事実第5)
平成19年10月25日午後8時40分ころ,大阪市平野区内の路上において,H所有に係る普通乗用自動車1台(時価約50万円相当)を窃取した第12(平成20年4月7日付け起訴状記載の公訴事実)
金品窃取の目的で,平成19年10月28日午後6時35分ころ,大阪市平野区内のI方に,2階ベランダの無施錠のガラス引き戸から侵入し,そのころ,同所3階南側の6畳洋間において,同人(当時26歳)所有の現金約2500円を窃取し,引き続き金品を物色中,同人に発見されて,同所1階玄関まで連れて行かれ,携帯電話で警察等への通報をされそうになるや,逮捕を免れるため,同人に対し,マイナスドライバーを持った手でその顔面を数回殴打し,さらに,同所にあった木製バットで同人の頭部,背部等を数回殴打する暴行を加え,よって,同人に対し,加療約10日間を要する頭部打撲皮下血腫,背部打撲,左顔面打撲挫傷,左眼結膜下出血等の傷害を負わせた
第13(平成20年1月9日付け起訴状記載の公訴事実第1)
金品窃取の目的で,平成19年11月3日ころ,第8記載のF方に,2階南側窓から侵入し,そのころ,同人方1階車庫並びに2階及び3階の居室において,同人ほか2名所有又は管理に係るCD約28枚ほか5点積載の普通貨物自動車1台(時価合計約200万5100円相当)並びに現金約4万円及びショルダーバッグ1個ほか約44点(時価合計約49万5000円相当)を窃取した
第14(平成20年1月9日付け起訴状記載の公訴事実第2)
金品窃取の目的で,平成19年11月18日,第8記載のF方に,3階片開き戸から侵入し,そのころ,同所において,同人ほか1名所有に係るネックレス2本ほか8点(時価合計約52万円相当)を窃取した
第15(平成20年6月9日付け起訴状記載の公訴事実第1)
公安委員会の運転免許を受けないで,平成19年11月20日午前3時50分ころ,大阪市平野区加美東4丁目16番8号付近路上において,普通乗用自動車を運転した
第16(平成20年6月9日付け起訴状記載の公訴事実第2)
第15記載の日時ころ,同記載の普通乗用自動車を運転し,同記載の場所先の信号機により交通整理の行われている交差点を東方から西方に向けて直進するにあたり,同交差点の停止線手前約85メートルの地点で対面信号機が赤色信号を表示しているのを認め,直ちに急制動措置を講じれば同停止線の手前で停止することができたにもかかわらず,これをことさらに無視し,重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約60キロメートルの速度で自車を運転して同交差点内に進入したことにより,折から左方道路から青色信号に従って同交差点内に進入してきたJ(当時38歳)の運転する普通乗用自動車右側部に自車前部を衝突させ,よって,同人に加療約72日間を要する右側胸部打撲等の傷害を,同人運転車両の同乗者K(当時40歳)に加療約79日間を要する左側胸部肋骨骨折等の傷害を負わせた
第17(平成20年6月9日付け起訴状記載の公訴事実第3)
第15記載の日時ころ,同記載の場所において,第16記載のとおり,第15記載の車両を運転し,上記Jほか1名に対して傷害を負わせる交通事故を起こし,もって,自己の運転に起因して人に傷害を負わせたのに,同人らを救護する等必要な措置を講じず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった
第18(平成20年1月30日付け起訴状記載の公訴事実第1)
公安委員会の運転免許を受けないで,平成19年11月22日午前5時20分ころ,大阪府東大阪市衣摺6丁目6番1号付近道路において,普通貨物自動車を運転した
第19(平成20年1月30日付け起訴状記載の公訴事実第2)
第18記載の日時,場所において,同記載の普通貨物自動車を運転中,自車前方を自転車に乗車して通行していたL(当時39歳)を認め,同人が乗車する自転車に自車を衝突させて同人から金員を強取しようと企て,自車左前部を同人が乗車する自転車後部に追突させ,その衝撃で同人を同自転車もろとも,道路西側に駐車中の普通貨物自動車に衝突させるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧して金員を強取しようとしたが,同人の所持品内に現金が見当たらなかったため,その目的を遂げず,その際,上記暴行により,同人に加療期間不明の脳挫傷等の傷害を負わせた
第20(平成20年1月30日付け起訴状記載の公訴事実第3)
第18記載の日時,場所において,第19記載のとおり,第18記載の車両を運転し,上記Lに対して傷害を負わせる交通事故を起こし,もって,自己の運転に起因して人に傷害を負わせたのに,直ちに車両の運転を停止して,同人を救護する等必要な措置を講じず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった第21(平成20年6月12日付け起訴状記載の公訴事実第3)
業務その他正当な理由による場合でないのに,平成19年11月30日,大阪市浪速区恵美須西3丁目16番15号所在の大阪府警察本部なにわ別館内において,刃体の長さ約8センチメートルのバタフライナイフを携帯したものである。
(証拠の標目)

〈省略〉

(補足説明)
第1

判示第6(以下強盗傷人被告事件という。
)及び判示第19(以下強盗殺人未遂被告事件という。
)について

1
争点の概要
強盗傷人被告事件及び強盗殺人未遂被告事件の各事案は,いずれも,検察官において,被告人が,金品強取目的で,各被害者の乗車する自転車に被告人の運転する車を衝突させたと主張し,強盗殺人未遂被告事件については,さらに被告人が未必の殺意も有していたと主張する事案である。
これに対し,弁護人は,いずれの事案においても,被告人には金品強取の目的や車を衝突させる意図はなく,各被害者の自転車の脇を通り抜けようとした際に思いがけず衝突したものに過ぎないと主張し,被告人も公判廷においてほぼ同旨の供述をしている。
また,弁護人は,各事案における被告人の捜査段階での自白調書は,任意性を欠き,信用性もないと主張している。

2
関係証拠により認定できる事実
(1)

強盗傷人被告事件

衝突現場の状況及び衝突状況等
本件現場となった道路は,片側1車線の道路で,道幅は片側3.3ないし3.6メートルあり,歩道と外側線との間には幅0.9メートルの路側帯がある。
被害者Eが,上記道路の南向き車線の路側帯部分を北から南に向けて自転車で走行していたところ,同人の後方から進行してきた被告人の運転するミニキャブの左フェンダーパネル上部が被害者Eの自転車のハンドル右部分と,ミニキャブの左ドアミラーが被害者Eの右上腕部及び右肩部と,それぞれ衝突し,そのまま同人はその場に転倒した。


衝突後の被告人の行動
被告人は,衝突後,ミニキャブを後退させて衝突現場付近まで戻った。そして,被害者Eに対し,

大丈夫ですか。

などと声をかけた後,同所付近に落ちていた同人の手提げかばんを持ち去った。

(2)

強盗殺人未遂被告事件
衝突現場の状況及び衝突状況等
本件現場となった道路は,中央線の設けられていない南北の直線道路であり,本件衝突現場付近における道幅は4.9メートルである(なお,本件衝突現場から南方に数メートルの地点以南では,道幅は5.8メートルであり,本件衝突現場付近は,道路西側に運送会社の駐車用スペースが道路にせり出すようにして設けられているため,道幅が狭くなっている。)
被害者Lが,上記道路の西側付近を南から北に向けて自転車で走行中,同人の後方から進行してきた被告人の運転するレジアスエースの左前部付近が,同自転車の後部スタンド付近と衝突した。
その直後,被害者Lの背部付近がレジアスエースのアンダーミラー付近に接触した。
上記自転車は,追突の衝撃により,レジアスエースとほぼ同速度で進行方向左側に向かって押し出され,同自転車の前部付近が現場に駐車中の軽四輪自動車(アトレー)の左後方付近と衝突した。
さらに,上記自転車は,アトレーに接触しながら跳ね返され,そのままアトレーの北側に駐車中の普通貨物自動車(キャンター)の左フロント付近に,同自転車のサドル付近が衝突した。その際,被害者の左腹部から腰部分がキャンターの左前部付近に衝突した。
上記自転車は,キャンターと衝突した衝撃により,進行方向右に弾かれ,進行中のレジアスエースの左前輪後方フェンダー及びスライドドアパネル付近に同自転車の後輪及び後部荷台補助椅子が連続的に接触した。その際,被害者Lの頭部が,レジアスエースの左側面スライドドア付近に衝突した。イ
衝突後の被告人の行動
被告人は,衝突後,レジアスエースを後退させて衝突現場付近まで戻った。そして,被害者Lが白目をむいてけいれんしていたことから(なお,被告人の供述によれば,被害者Lは,その際,駐車してあったトラックにもたれ掛かるようにして立っていた。,同人をレジアスエース荷物室に)
乗せ,また,付近にあった同人のかばんも同車に載せ,松井記念病院まで搬送した。そして,同病院に到着すると,被告人は,同病院のインターホンを押し,被害者Lを乗せたレジアスエースを同病院の駐車場付近に放置したまま,その場から逃走した。

3
被告人の供述
(1)

捜査段階における供述
強盗傷人被告事件について(乙19)
事件当日,私がミニキャブを走らせていたところ,前方に,自転車に乗った被害者Eを発見した。そこで,私は,ミニキャブを被害者Eの自転車にわざとぶつけて,同人を自転車と一緒に転倒させ,その間に金を奪ってやろうと思った。
私は,自車を自転車に軽くぶつければ,相手が道路に転倒し,怪我をすることは分かっていたし,そうすることで抵抗されることもないだろうと思っていた。
私は,ミニキャブを道路の左側に幅寄せした。そして,被害者Eの自転車が私の運転するミニキャブの左前付近に来たとき,自転車を押し倒そうとしてハンドルを左に切ったのだが,その瞬間,ミニキャブの左側で,パタンという音がして,ミニキャブが被害者Eの自転車に当たった。私が,音がしたミニキャブ左側を見ると,ミニキャブの左サイドミラーが倒れていることに気付き,サイドミラーが被害者Eにぶつかったことがわかった。そして,ミニキャブのルームミラーで後方を見たが,自転車に乗った女性や,女性が立っている姿を見ることはできなかった。そのため,私は,うまく被害者Eを転倒させることができたかも知れないと思い,ブレーキをかけてミニキャブを停車させた。そして,私は,身体を進行方向の後方に向けて後ろをみたところ,歩道と車道の境目辺りに黒っぽい物が見えた。私は,それが被害者Eであると思い,軽くぶつけただけなのに,上手く同人を倒すことができたと思う一方で,軽くぶつけただけなのに,大げさに倒れたままで立ち上がらない同人に対して,少し腹が立った。私は,ミニキャブをバックさせ,倒れている被害者Eの付近で停車させた。すると,被害者Eの近くの歩道上には,自転車が倒れており,その前かごからはかばんが出ていた。また,被害者Eは,目をつぶったまま,「何でやの。」などと言って,今にも立ち上がったり,大声を出して周りの人に助けを求めそうな様子であったので,私は,早くかばんを取って逃げようと思い,同人に対し,

大丈夫ですか。誰か救急車呼んでくれるから。

とだけ声を掛け,上記かばんを取ってミニキャブに乗り込み,その場から逃走した。

強盗殺人未遂被告事件について(乙13,15,36ないし39,41)私が事件当日,加美北5丁目の交差点で自転車に乗って信号待ちをしている被害者Lを見かけたとき,同人が乗っている自転車に自分が乗っていたレジアスエースを思いきりぶつけて転倒させ,お金を奪ってやろうと思った。
私は,被害者Lが,ふだん私が線路沿いの道と呼んでいる道路(本件衝突現場のある南北道路)に向かうと思ったので,私も,車を線路沿いの道に向かわせるために,同人を最初に発見した交差点から1つ南の信号機のある交差点を左折し,レジアスエースの速度を時速15キロメートルくらいに落として,同人の乗った自転車が現れるタイミングを見計らい,線路沿いの道に向かって左折した。
私が,線路沿いの道に出ると,被害者Lの姿が線路沿いの道に見当たらなかったので,同人がどこが違う道に行ったのかと思い,がっかりしたが,そのあと,同人は,私が想像していたよりも1つ北側の交差点を左折して線路沿いの道に現れた。そこで,私はレジアスエースの速度を時速30キロメートルくらいまで上げ,被害者Lとの距離を詰めた。そして,さらに被害者Lとの距離が縮まると,私はアクセルを踏み込んで加速した。そして,レジアスエースのハンドルを少し左に切り,そのままアクセルを踏み込んで加速を続けて,レジアスエースを被害者Lの自転車に突っ込ませた。その際の速度は時速60キロメートルくらいは出ていたと思う。また,私は,そのとき,このまま思い切りレジアスエースを被害者Lにぶつければ,同人が死んでしまうかも知れないという気持があったが,どうしても警察には捕まりたくなかったことと,同人から金を奪い取りたい気持があったので,心の中で

死んだらごめん。

とつぶやいていた。そして,私は,狙いどおり,レジアスエースの左前部を被害者Lの自転車にぶつけることができた。その際,
グシャという音が聞こえ,その
後,ガタガタという衝撃がハンドルから伝わってきた。
私は,すぐにブレーキをかけて車を止め,ガラス越しに被害者Lを探したが,道路上に同人の姿はなかった。私は,被害者Lからかばんを奪うつもりであったので,レジアスエースを後退させた。すると,被害者Lは,壁か車のような物を背にして,これにもたれかかるようにして両足で立っていた。私は,被害者Lが何で立っているのかと思い,びっくりしたが,同人は,白目をむき,体全体をけいれんさせていたので,私は,急に怖くなるとともに,かわいそうになり,このままだと同人が死んでしまうと思い,同人を病院に運ぼうと考えた。
(2)

公判廷における供述
私は,14歳くらいのころから,歩行者や自転車などの脇すれすれを車で走り,相手の反応を見るのが楽しく,昼夜問わずそのような運転をしていた。そのように歩行者などの脇すれすれを通過する際,私は,人に車が当たらないことを前提にしているが,本件で起訴された事件以外にも,人に車をぶつけてしまったことは,覚えているだけでも3回くらいはある。人に当たったら当たったでしょうがないくらいの気持ちもあり,当たった場合には人がけがをするだろうということは分かっていた。被害者L及び被害者Eに対して幅寄せをしたときも,そのような気持ちであった。

強盗傷人被告事件について
私は,ミニキャブを運転していて被害者Eを見付けたときも,同じように同人の脇ぎりぎりを通り抜けようと思った。通り抜けたときのスピードは,供述調書では時速30キロメートルくらいとなっているが,私は日ごろから車を運転するときにメーターなど見ていないので,何キロということはできない。ただ,時速30キロメートル以上の速度は出ていたと思う。私が被害者Eの乗った自転車の脇を通り抜ける際,パタッという,ミニキャブのミラーが当たったような軽い音が聞こえた。私は,ミラーが被害者Eの腕にでも当たったのかと思い,ブレーキを踏んでミニキャブを停車させてから,後ろを振り向いたところ,暗くて何も見えなかった。そして,被害者Eの様子が気になるのでミニキャブをバックさせて戻った。すると,被害者Eが,倒れていて,

何でやの,何でやの。

と言っていた。私は,ミラーが当たっただけだと思っていたので,大げさにしやがってと,少し頭に血が上り,

だれか救急車呼んでくれるわ。

という言葉を吐き捨て,かばんが目に入ったので,それを持って行ってやろうという気持ちになり,かばんを取って逃げた。

強盗殺人未遂被告事件について
私は,被害者Lの乗った自転車を見付け,そのぎりぎりを通り抜けて脅かしてやろうと思い,運転していたレジアスエースを左に寄せた。そうしていると,被害者Lが右にふわっと寄ってきた。そして,すぐにハンドルがふるえるような衝撃を感じるとともに,
ガシャッという大きな音が
した。私は,その衝撃で身体が硬直した感じになり,ブレーキかアクセルのどちらかを踏み込んだ。その後,私がレジアスエースを停車させ,後ろを振り返ったところ,道路上に,車か自転車の破片のようなものがきらきらと光っていたが,それ以外の物は見えなかったので,バックさせて衝突地点まで戻った。すると,被害者Lが,駐車中のトラックの側面に寄り掛かかって立ったまま,白目をむいてけいれんしていた。私は,このままでは被害者Lが死んでしまうと思い,レジアスエースを降りてそのスライドドアを開けた。そして,被害者Lをレジアスエースに乗せ,病院に運んだ。
4
被告人の供述調書等の任意性について
上記のように,本件では,被告人の公判供述と捜査供述が著しく異なっており,その信用性判断が事実認定上重要な意味を持つものであるところ,弁護人は被告人の捜査段階における供述調書や自供書(上記捜査段階における供述欄において示した各乙号証及び乙12,17,20,22,23)等について,いずれも任意性が認められないと主張し,証拠排除を求めているため,この点について検討を加える。なお,弁護人は,強盗傷人や強盗殺人未遂被告事件のみならず,被告人が一連の事件の取調べの過程で意に添わない供述を押し付けられ,心理的な強制下で供述したものであるとして,判示第3(イプサムの窃盗事案)や判示第14(被害者F方に対する窃盗事案)に係る被告人供述調書の一部(乙2)
,判示第12(以下住居侵入強盗致傷被告事件という)に
係る被告人供述調書(乙28)及び判示第9,第10(以下強姦致傷,監禁被告事件という。)に係る被告人供述調書(乙32,33)等についても任
意性を欠くと主張するので,これらについても併せて判断を示すこととする。(1)

弁護人の主張(被告人も公判廷において,おおむねこれに沿う供述をし
ている。


被告人の精神状態
被告人は,前刑出所後,仕事をしようとしてもできない状態が続いており,生きることに絶望して何度も自殺を試みた。逮捕後も,自暴自棄となり,死刑判決を受けたいという心理状態にあったため,取調官に迎合して供述していた。


取調べ状況(以下は概ね取調べの時系列順である。

(ア)

M警察官(判示第3及び判示第14に関する被告人供述調書(乙

2)を録取した取調官である)による取調べ
被告人は,イプサムの窃盗事件(判示第3)の取調べの際,窃取したイプサムの最終使用日について,警察官調書に録取された内容と異なる事実を検察官に対する取調べにおいて供述したところ,後日,M警察官から,

チンコロしやがって。

などとしつこく言われたため,精神的な負担を感じるようになった。そのため,その後の検察官による取調べの際には,警察官調書の内容をそのまま供述するように心がけるようになった。
また,M警察官は,被害者Fに対する住居侵入窃盗事件(判示第14)の取調べの際,実際には被告人が窃取していないと記憶している物品についても,被害者Fの供述内容を押し付けたため,これを窃取したことを認める内容の被告人の供述調書が作成された。
(イ)

N警察官(強盗殺人未遂被告事件に関する被告人供述調書(乙12,
13,37)を録取し,自供書(乙36)の作成に関与した取調官である)による取調べ
被害者Lに対する強盗殺人未遂被告事件(なお逮捕勾留の被疑事実は自動車運転過失致傷等であった。
)の取調べの際,N警察官は,被告人
に対し,

被害者の娘の話を聞かせる。

などと言った。被告人は,被害者Lの娘の話を聞くのは辛かったので,どのように供述したら取調官が納得するのか考えた結果,自殺に使うけん銃を警察官から奪うための練習であったという虚偽の動機を供述した。さらに,その後の取調べでは,N警察官が,被告人が話してもいない強盗目的や,被害者Lに対する殺意を作出し,そのような内容の供述調書が作成された。また,被告人が作成した自供書は,被告人が,いったん,警察官からけん銃を奪うための練習目的であったという動機を記載したのに,N警察官が当該部分をはさみで切って,切り取った部分を削除するなどして書き直すように指示し,作成されたものである。
(ウ)

P警察官(住居侵入強盗致傷被告事件の捜査を担当した者である)
による取調べ
被告人は,自暴自棄となり,できるだけ重大な犯罪が成立して死刑判決を受けたいと考える精神状態であった。そのような精神状態に加え,上記のようなM警察官及びN警察官による取調べを経て,被告人は,取調官の言うとおりの調書の作成に同意しなければならないという心理的強制を受けていた。P警察官による取調べは,上記のような被告人の精神状態や心理的強制状態を利用して行われた違法不当なものである。(エ)

Q警察官(強姦致傷,監禁被告事件の被告人供述調書(乙32,3
3)を録取した取調官である)による取調べ
Q警察官による取調べの際にも,被告人は上記のような精神状態や心理的強制状態にあった。しかし,Q警察官は,これを解消することなく,その状態を利用して取調べを行ったのであるから,違法不当な取調べである。
(オ)

R検察官(強盗殺人未遂被告事件(乙15,39)や,強盗致傷被
告事件(乙28)の被告人供述調書を録取した者である)による取調べR検察官による取調べにおいても,被告人は,警察官調書と同じ内容の供述をしなければならないという心理的強制状態にあり,R検察官は,そのような心理的強制状態を遮断することなく取調べを行った。
(2)

取調べ状況等の検討
まず,弁護人が,具体的に問題点を指摘しているM警察官及びN警察官による取調状況について検討を加える。
(ア)

M警察官による取調状況について
M警察官証言の概要
平成19年12月ころ,私が,被告人に対する住居侵入窃盗事件の捜査で,被告人の取調べを行った際,窃盗の被害品であるイプサムを被告人が使用していた期間について,私が作成した供述調書に誤記があり,その点について検察官から指摘されたことがあった。具体的には,真実のイプサムの最終使用日は同年11月20日であったのに,供述調書には同年9月20日と記載してしまったことがあった。被告人は取調べにおいて,イプサムの最終使用日を特定して供述しなかったが,同月にFに対する窃盗事件があり,その際にイプサムを捨てたものだと混同してしまったため,そのような誤記をしてしまったのだと思う。この点について,検察官からの指摘があった後に,被告人に尋ねたところ,被告人は訂正をしてもらったということであった。そこで私は,これからは気を付けるということを言い,被告人も,よく読んで確認しますということを言った。この件について,私が被告人に対し,

チンコロしやがって。

などと言ったことはないし,非難めいた言い方や威圧的な言い方をしたこともない。
被害者Fに対する窃盗事件では,被害品のうち,ジャンパー1着について,被告人は盗んだ覚えがないと供述していたが,被害者Fに電話で確認したところ,間違いなく盗まれているということであり,再度被告人に対し,被害者Fが供述する当該ジャンパーの特徴などを伝えて取調べを行ったところ,やっぱり当該ジャンパーは見た覚えがあり,やっぱり自分が盗んだのだと思うという供述をしたので,私はその旨を供述調書に録取した。

まず,M警察官が,被告人によるイプサムの最終使用日を誤って記載した調書を作成した件についてみるに,M警察官は,被告人が具体的に日付を特定し,あるいは特定しうる事情を十分供述していなかったのに,自らの思い違いや思い込みから,その日付を特定して記載したものと認められる。他方,被害者Fに対する住居侵入窃盗事件で,弁護人が,被害者Fの供述を押し付けられたと主張している点については,M警察官の証言に照らすと,被告人に記憶のない点について供述を押しつけたというような違法な取調べが行われたり,その内容の供述調書が作成されたとまではいえない。
そして,イプサムの最終使用日のような些細な点について検察官からM警察官が問いただされたからといって,被告人に対し

チンコロしやがって。

などと非難したとする被告人の公判供述は不自然でにわかに信用できない。しかも,M警察官による取調べが行われた時期よりも後に録取された被告人の検察官調書及び警察官調書の内容を見ると,例えば被害者Iに対する住居侵入強盗致傷被告事件や被害者Gに対する強姦致傷被告事件に関して,被告人が各被害者の供述内容と異なる供述をしている部分も少なくないのであり,M警察官による取調べの結果,被告人が,被害者の供述どおりに供述しなければならないとか,取調官の言うがままの供述をしなければいけないという心理的強制を受けたとは到底考えられない。そうすると,M警察官による取調べに上記のような問題点があったとしても,それによって直ちに被告人の供述調書等の任意性を疑わせる事情があるとは認められない。(イ)

N警察官による取調べについて
N警察官証言の概要
被告人を被害者Lに対する自動車運転過失致傷罪で再逮捕した翌日である平成20年1月10日の時点では,被告人は,不注意で被害者Lに自車を衝突させたと供述していた。しかし,私は,過失の内容について,被告人が,

覚えてません。

と述べるだけで,明確に答えられなかったので,過失犯であるという被告人の供述に疑問を抱いていた。そこで,私は,同日の時点で被告人に対し,わざとぶつけたのではないかということを尋ねたが,このときは被告人は過失であるとの供述を維持した。私は,被告人に対し,

被害者のけがも大きいので,家族がどれだけ苦労しているか,考えたら分かるだろう。正直に話すように。

と言った。翌11日は,もともと被告人の取調べをする予定ではなかったが,被告人を護送していた者から,被告人が話があると言っていることを聞き,急きょ取調べを行うことになった。その際,私は,被告人に対し,被害者には小学生の子どもが2人いるということを教えた上,その子どもたちがどんなさみしい思いをしているのか考えたら分かるだろうといった。すると,被告人は,初め,自殺するためにけん銃が欲しかったので,警察官から奪う練習のためにわざと被害者Lに自動車を衝突させ,その際には,抵抗されないため,死んだらごめんと思いながら,強くぶつけたと供述した。被告人は,このように故意に自動車をぶつけたことを認めるに至った理由について,被害者の家族がどんな苦しい状況なのかを聞きたくないからと供述していた。私は,けん銃を奪う練習のためという被告人の供述について,なお不審に思ったので,被告人に対し,練習のためだったらなぜ女性を狙ったのかという点について追及していったところ,多少のやりとりがあった後,被告人は,

常々金のことは考えてましたから。被害者から金を取る目的もありました。

と答えた。b
まず,N警察官が,当初,過失による事故であるという被告人の供述に疑問を抱いたことについて,N警察官の証言は十分合理的で信用できるものであるところ,そのような供述を受けて,被害者の家族のことを考えて本当のことを話すようにと諭したことについては,取調べ方法として何ら問題のあるものではなく,被告人の公判供述によっても,N警察官が,被害者Lの娘の話を聞かせないことと引き換えに自白を迫ったような状況は認められない。
また,被告人が,被害者Lに対する強盗目的を認めるに至った変遷理由を録取した供述調書(乙37)には,

被害者の家族の生活状況を刑事さんから聞かされるのがイヤで正直に話そうと思い,わざと車で自転車にぶつけたという本当の話をしたのです。

という記載があるが,この点については,被告人自身,公判廷で,そのような供述をしたことを認めている(なお,この変遷理由については,平成20年1月29日に録画された取調べDVDでも被告人が述べている。。)
仮に,N警察官が,被告人が供述してもいない強盗目的を作り上げて供述調書を作成したというのであれば,変遷理由についてだけ,被告人が供述したとおりの内容が録取されるということは考えがたい。N警察官は,被告人の過失犯という供述や,その後の警察官からけん銃を奪うための練習目的という供述について疑問を抱き,疑問点を被告人に指摘した上で,被告人の供述が変わっていったこと,平成20年1月12日に被告人が強盗目的を初めて自供したのち,その旨の自供書が同月14日に作成されるまでの捜査の過程などの一連の流れについて,非常に具体的かつ合理的に供述しており,不自然な点は見受けられない。他方,被告人は,同月12日にN警察官から強盗目的を押し付けられたとする時点から,同月14日に自供書を作成するまでの経緯やどのような取調べが行われたのかという点について何ら具体的な供述ができていないのであり,被告人の公判供述は信用できない。
以上によれば,N警察官による取調べにおいて,被告人の供述調書等の任意性を疑わせる事情は認められない。

また,弁護人は,N警察官以降の取調担当警察官が,被告人の精神状態や心理的強制状態を遮断することなく,これを利用して取調べを行ったと主張するけれども,そもそも上記のとおり,M警察官及びN警察官の取調べによって被告人に対して不当な心理的強制が加えられたという状況はうかがえない。また,被告人の公判供述によっても,被告人が,前任の取調官による取調べの不満等を後任の取調官に訴えたような事実はなく,取調官が被告人の精神状態等を利用して取調べを行ったなどという主張は到底採用できない。


以上検討したところによれば,上記各取調べ担当警察官による取調べには何ら違法はないから,検察官による取調べに違法が承継される余地もない。さらには,被告人自身,公判廷において,R検察官の取調べについては,

僕の言った言葉どおりにまともな調書は作ります,あの人は。

と述べるなど,同検察官による取調べ固有の問題として,任意性を疑わせる事情は全く供述していない。

検察官の取調状況の録画DVD(弁1)について
弁護人は,平成20年4月28日に録画されたDVDには,被告人が,

警察は検察官調書も見ているので検察でも警察官調書と同じ内容を話さないといけないと思っている。

とか,

調書なんかどうでもいいと思っている。

などと述べている様子が録取されている点を指摘する。しかし,公判廷で再生した同DVDを見る限り,被告人が取調べに関する不満を具体的に述べるのは,被害者Fに対する住居侵入窃盗事件に関するM警察官の取調べだけであって,それ以外の事件について,具体的に不満があるとか,自分が言ってもいないことが供述調書に録取されたと述べている点はない。検察と警察との関係についても,

警察と違うことを話して文句を言われたのは初めの盗犯だけ。

とも述べているところである。また,

調書なんてどうでもいいと思っている。

という点についても,上記検討した点に照らせば,供述調書の信用性を検討する上では意味を有するといえども,任意性を疑わせる事実とはいえない。したがって,上記DVDをもってしても,被告人の供述調書等の任意性に疑いを生じさせるものではない。

(3)

任意性についての結論
以上のとおり,上記供述調書等について,任意性を疑わせる事情はないか
らから,これらを刑事訴訟法322条1項により採用したものである。5
被害者E及び被害者Lに対する各強盗目的について
そこでまず,被告人の捜査供述及び公判供述の信用性について検討を加えた上で,各被害者に対する強盗目的の有無について判断する。
(1)

被告人供述の信用性判断
捜査供述の信用性を高め,公判供述の信用性を低める事情
(ア)

強盗傷人被告事件につき,被告人が,被害者Eと接触後,現場に戻
り,財布の入った同人の手提げかばんを持ち去っていること
被告人が意図的に,被害者Eの乗った自転車にミニキャブを幅寄せさせたことは,証拠に照らして優に認められるところ,被告人は,同自転車とミニキャブが接触した直後に,接触現場に戻り,同自転車の前かご付近に落ちていた被害者Eの手提げかばんを入手すると,これを持って直ちに立ち去っているのであり,このような態様及び一連の経過に照らすと,被告人が当初から強盗目的でミニキャブを被害者Eの自転車に接触させたものであることが強く推認される。
被告人は,公判廷において,手提げかばんを持ち去ろうとする意思を生じた経過について,ミラーに被害者Eの腕付近が当たったと思い,気になったので現場に戻ったところ,路上に倒れ込んだ被害者Eの付近に同人の物と思しきかばんが落ちているのを見つけたので,このときに財物奪取の意思が生じたと供述している。しかし,被害者Eの様子を気にかけて衝突現場付近に戻りつつも,その直後に被害者Eのかばんを発見するや,それまでの関心事を忘れて突然財物奪取の意思を生じたというのは,窃盗の犯意の形成過程としてあまりにも唐突である。また,被告人の公判供述によれば,被告人は,以前にも通行する自転車に接触した経験がありながら,歩行者や自転車の脇すれすれを通り抜けるという極めて危険な行為を楽しんでいたというのであるから,自車のサイドミラーが被害者Eの腕付近に触れた程度の軽い接触を感じたからといって,被害者Eに顔を見られたり,自車のナンバーを覚えられたりする危険を冒してまで,わざわざ被害者Eの様子を見に行くような状況にあったとはいい難く,被害者Eの様子を見るために衝突現場まで戻る行動に出たというのは不自然かつ不合理である。
(イ)

捜査供述の内容が非常に具体的かつ詳細であること
被告人は,捜査段階において,自動車を自転車に衝突させて財物を奪取するという方法による強盗を思いついた経緯につき,概要,
私は,(前刑で服役する前である)10年前には,自動車を使って,自転車の前かごにかばん等を入れた女性からかばん等をひったくっていたが,そのような方法は失敗することが多かったり,出所後は,自転車の前かごにネットのようなものが付けられ,簡単にひったくりができなくなった。そこで,自動車をわざと自転車にぶつけて自転車ごと女性を転倒させ,その間にかばん等を奪うことを思いついた。などと供述しているが,このような周囲の状況の変化などを具体的に踏まえた上で強盗の方法を考えたという経緯は,被告人自身が自発的に供述しなければ録取されない内容と考えられる。
また,被害者Lに対する事件につき,捜査供述では,被告人が,いったんガソリンスタンドのある交差点で被害者Lを見付けてから,同人を追跡し,衝突させるまでの経緯が極めて詳細に述べられている。とりわけ,被害者Lが,当初被告人が想定していたよりも1つ北の交差点から現れたとする点などは,およそ取調官の創作した内容とは考えられない。被告人自身,公判廷において,なぜこのような内容の供述が録取されたのかという点については,N警察官に供述を押し付けられたという趣旨の供述をするのみで,何ら合理的な説明ができていない。
(ウ)

公判供述の不合理性
故意に歩行者などの脇すれすれを擦り抜けるということは,それ自体
何らの利益も得られない行為であるところ,被告人は,公判廷において,かかる行為を14歳のころから繰り返してきたと供述しているものの,なぜこのような行為を繰り返すのかという点については,楽しいからとか,自分が犯罪者だからなどと述べるのみであり,合理的に説明できていない。そして,上述したように,仮に,被告人がこのような行為を単に楽しんでいたというだけであるならば,被害者Eの事件の際,ミラーが軽く当たっただけだというのに,被害者に顔を見られたりする危険を冒してまで,被害者Eの様子が気になるから現場に戻るということは,被告人の行動として極めて不自然,不合理というほかない。

公判供述の信用性を高め,捜査供述の信用性を低める事情
(ア)

客観状況が被告人の公判供述と矛盾しないこと
被告人の公判供述によれば,被告人は,意図的に各被害者の乗った
自転車に幅寄せをしてその脇を擦り抜けようとしたところ,各被害者に衝突してしまったというのであるが,このような供述を前提としても,客観的に認められる各被害者との衝突状況と必ずしも矛盾するものではない(もっとも,客観状況については捜査供述とも矛盾するものではないので,この点については捜査供述の信用性を低める事情とはいえない。。

(イ)

強盗方法としての不合理性
弁護人は,自転車に自動車を接触させるという方法は,強盗の手段と
して極めて不合理であるという点を指摘する。
なるほど,一般的にみて,深夜ないし早朝という時間帯において,自転車に乗った女性が財物を持っているかどうかという点は不確実である(実際に被害者Lは財布などを持っていなかった。。したがって,そ)
のような状況下において,上記のような方法で強盗を行うということは,財物奪取の方法として合理性が乏しい。
(ウ)

平成20年4月28日に録画されたDVD(弁1)の中で,被告人
が,

調書の内容なんてどうでもいいと思っている。

などと述べていること
被告人は,上記DVDの中で,

調書の内容は確認せずに署名指印している。調書の内容なんてどうでもいいと思っている。

などと述べているところ,被告人が捜査段階からこのように述べていることは,供述調書等の信用性を一応疑わせる余地のある事実ということができる。ウ
供述の信用性及び強盗目的の存否について
(ア)

まず,上記アの(ア)で述べたとおり,被告人が意図的にミニキャブ
を被害者Eの乗った自転車に幅寄せし,同自転車にミニキャブを接触させた直後に同人のかばんを奪っていることから,被害者Eに対する強盗目的があったことが強く推認されるところ,被告人がこれよりも後の時期において,同様の手口で,被害者Lにレジアスエースを衝突させたのち,衝突現場に戻っていることに照らせば,被害者Lに対しても,強盗目的があったものと考えるのが極めて合理的である。他方で,被害者らの脇すれすれを通り抜けて楽しんでいたという被告人の公判供述は,上記のとおり不合理であって,到底上記推認を覆すものとはいえない。(イ)

次に,公判供述が,客観的な衝突状況と矛盾しないという点につい
てみると,これについては,上記のとおり,強盗目的で各被害者に意図的に自車を衝突させたという捜査供述もまた,両事件の客観的な衝突状況と整合的なのであって,公判供述の信用性を裏付けるものとは到底言えない。
(ウ)

被告人の公判供述については,上記のとおり不合理な点が多数ある
が,捜査供述について特段不合理な点は見当たらない。
なお,上記イの(イ)で述べた強盗方法としての合理性が乏しいとする点についてみるに,被告人は,起訴され,被告人自身が事実を認めているものだけでも,住居侵入による窃盗又は強盗,車上荒らし,催涙スプレーを使用したひったくりなど,複数の手口による財物奪取行為を行っているのであり,また,実際に被害者Eからは財物奪取に成功していることに照らしても,上記のような方法をとったことが,上記強盗目的の推認を覆すほどに不合理なものとまではいえない。
(エ)

上記DVDについても,被告人は,

調書の内容なんてどうでもいいと思っている。

と述べる一方で,具体的に強盗殺人未遂被告事件や強盗傷人被告事件に関する取調状況についての不満や,これらの事件で録取された供述調書の内容が事実と違うということを述べてはいないのであり,上記推認を覆すには到底足りない。

小括
以上のとおりであるから,強盗殺人未遂被告事件及び強盗傷人被告事件のいずれにおいても,強盗目的があったとする被告人の捜査供述は信用性が認められ,これに反する被告人の公判供述は信用できないものであって,これに関係証拠から認められる上記事実等によれば,被告人には上記各事件において,いずれも強盗目的があったという点について,合理的な疑いを容れる余地はないものと判断した。

6
強盗殺人未遂被告事件における殺意の有無について
(1)

被告人の供述の信用性
捜査供述の信用性を高める事情
(ア)

被告人車両との衝突によって被害者Lに対して加えられた衝撃が相
当に大きいこと
被害者Eと被害者Lがそれぞれ乗っていた自転車の損壊状況の違い(被害者Eの自転車は,ハンドルが10センチメートルゆがんだほか,ハンドル右側のグリップエンド等に擦過痕等が生じた程度であるのに対し〔甲157〕
,被害者Lの自転車は,後輪が激しく曲損したり,幼児
用補助椅子が大きくゆがむなどの著しい損壊が見られること〔甲84〕
)や,被害者E及び被害者Lのそれぞれの負傷状況等に照らすと,被害者Lに対して加えられた衝撃は被害者Eに対して加えられた衝撃よりも相当に大きかったと認められる。このような衝撃の程度は,被告人が被害者Lに対し未必の殺意をもってレジアスエースを衝突させたという捜査供述と整合的といえる。
(イ)

レジアスエースが相当程度の速度で自転車に追突すれば,自転車の
運転者が死亡する可能性が十分にあること
関係証拠によれば,レジアスエースは,車両重量が1870キログラムと,普通自動車の中でもかなり重量のある部類に属するのであり,これが相当程度の速度で自転車に追突した場合,その衝撃は大きく,自転車に乗車した者を死に至らしめる危険は十分にあると認められる(なお,本件で被告人運転のレジアスエースが被害者Lの乗った自転車に追突した際のレジアスエースの速度については,後述のとおり,証拠上具体的に特定することはできない。。そして,日常レジアスエースを運転し)
ていた被告人にとっても,このことは容易に認識し得た事情ということができる。
(ウ)

捜査供述が,殺意の形成過程について詳細に述べられていること
被告人は,捜査段階において,被害者Lに対する殺意を抱くに至った
経緯につき,概要,

被害者Eにミニキャブをぶつけた際,同人が「何でやの。

などと声を出していたことから,次は自車を思い切り自転車にぶつけて相手の意識を失わせようと思った。しかし,その次に,ディアマンテを同じようにして女性に衝突させて強盗をしようとした際,私は,ちゅうちょしてしまい,女性に同車をぶつけることができず,強盗に失敗してしまった。そこで,被害者Lを見付けた際には,前回のような失敗をせず,速度を上げて,確実に自車をぶつけてやろうと思った。私は,そのようにして思い切り自車を衝突させれば,相手が死んでしまうかも知れないということは分かっていたが,相手が死んだとしても,それはそれで構わないと思った。
」などと,自己の体験を踏まえた上で
具体的に供述している。

捜査供述の信用性を低める事情
(ア)

被害者Lの乗った自転車は,レジアスエースと衝突後,道路脇に駐
車してあったキャンターなどに複数回衝突しているのであり,このことが,同自転車を激しく損壊させたり,被害者Lの負った傷害を重いものにした要因であることは優に推認されるところである。したがって,被害者E及び被害者Lの各自転車の損壊状況を単純に比較しただけでは,衝突時における被告人運転車両の速度を合理的に推認することは難しい。被告人は,公判廷において,各被害者への衝突時における自車の速度は,いずれも明確に記憶していないと供述しており(被害者Lと被害者Eにそれぞれ自車を幅寄せさせた際の速度は同じくらいだったと思うとも供述している。,ほかに衝突時の速度を示す客観的証拠はなく,捜)
査供述における被害者Lに対する衝突時のレジアスエースの速度(時速約60キロメートル)という事実を補強する証拠はない。
そうすると,証拠上,各事件の衝突時における被告人運転車両の速度を具体的に特定することはできない。
また,衝突現場付近の状況(衝突現場手前で道路の西側が約0.9メートル狭くなっていること)に照らし,当該道路の西側付近を走行していた被害者Lが衝突現場直前で自転車の進路をやや右に変えた可能性は否定できない。そうすると,被告人が意図的に被害者Lの自転車の後方からレジアスエースを追突させたのではなく,被害者Eに対する犯行態様と同様に,レジアスエースを被害者Lの乗った自転車側部に軽く接触させようとしたところ,予期せず同人が右に進路を変えたため,同自転車の後部にレジアスエースを追突させてしまったという可能性も残る。検察官は,自転車の損壊程度の大きさや被害者Lの傷害結果の重篤さなどから,被告人が,被害者Eに対してミニキャブを接触させたときよりも,より確実に,より強く自車を被害者Lの自転車に衝突させようとしていたことが推認されると主張するが,上記検討した各点に照らせば,自転車の損壊程度等だけでは必ずしもそのような被告人の意図を推認することはできないというべきである。
(イ)

被告人は,被害者Lに対する事件よりも前に行った被害者Eに対す
る事件においても,被害者Eから抵抗されたり,自分の顔を見られたりすることなく財物を奪取することに成功しており,被害者Lに対する事件を行う際,あえて殺意を抱くまでの動機を見出しがたい。
また,検察官が被告人に殺意があったと主張する根拠の1つとしている,ディアマンテを女性にぶつけようとした事件については,確かに東大阪市内の工業所前に積まれたパレットが被告人の運転するディアマンテと衝突して散乱した事実は証拠上認められるものの,女性に同車を故意に衝突させようとしたという点につき,被告人は公判廷でこれを否定しており,この点を裏付ける証拠はない。そうすると,検察官が主張するディアマンテの件については,証拠上,被告人がディアマンテを運転していたところ,同車とパレットを衝突させたという物損事故の限度で認定できるにどとまる。
(ウ)

犯行後の行動
被告人が,被害者Lをレジアスエースに乗せて病院に搬送しており,
被告人なりに,同人を救護しようとする行動に出ている。このことは,被害者Lの様子(白目をむいて体をけいれんさせていたこと)が被告人の予想していないほどであったことを一応推認させる。

供述の信用性及び殺意の有無について
確かに,被害者Lに対して加えられた衝撃が強いことからすれば,被告人が被害者Lに対し,未必的な殺意を有していたとしても矛盾はないといえる。また,犯行後の行動については,動揺して救護活動をすることも十分あり得るところであり,被告人の捜査供述の信用性を弾劾する程度は低いというべきである。
しかし,上記のとおり,被告人が,客観的に生じた被害者Lとの衝突状況を意図していたものと見るには合理的な疑いが残ること,動機の形成過程が詳細に述べられているとはいえども,その柱となるディアマンテによる強盗未遂事件を証拠上物損事故の限度でしか認定できないことなどに照らせば,この点に関する捜査供述を信用することはできないというほかなく,その他の客観証拠に照らしても,被告人に被害者Lに対する殺意があったと認定するには,合理的な疑いが残るものといわざるを得ない。(3)

なお,被告人は上記のとおり,各被害者に自車を衝突させて転倒させ,
財物を奪おうとしたというのであるから,このような犯行態様に照らせば,被告人に,各被害者に対する傷害の故意があったことは優に認められる。7
結論
以上のとおりであるから,被害者L及び被害者Eのいずれに対しても,強盗傷人罪が成立するものと判断した。

第2
1
判示第12(住居侵入強盗致傷被告事件)について
弁護人は,被告人が,マイナスドライバーを持った手で被害者Iを殴り,その先端が同人の顔面に当たったことは争わないものの,被告人において,マイナスドライバーの先端が被害者Iの顔面に当たることについての認識はなかったと主張する。

2
関係証拠によれば,以下の各事実を優に認定することができる。
被告人が,マイナスドライバーを持った手で,被害者Iの顔面を殴った際,被告人と被害者Iは正対し,同人の頭頂部付近が被告人の胸付近に当たる状態であり,被害者Iは少し腰をかがめ,被告人は片手で被害者Iの服を掴んでいた。その状態で,被告人は,マイナスドライバーを持った方の手を被害者Iの肩口付近に目がけて数回突き上げた。被害者Iは,顔面の左目のまぶたの上に2箇所,及び顔面に近接した右頚部に1箇所の挫創を負ったが,これは被告人が手に持っていたマイナスドライバーの先端が当たったことによる傷であると推察される。
3
上記の被告人及び被害者Iの体勢並びに犯行態様に照らすと,被告人がマイナスドライバーを持った手を突き上げれば,被害者Iの顔面やその近接部位にマイナスドライバーが当たることは明らかであり,被告人は手に持ったマイナスドライバーの先端付近が被害者Iの顔面に当たることを認識していたとみるのが合理的といえる。被告人自身,公判廷において,マイナスドライバーが被害者Iの顔面に当たらないように配慮したことはないとも述べているところであり,そうでありながらも,マイナスドライバーの先端が同人の顔面に当たるとは思わなかったなどという被告人の公判供述は到底信用できない。したがって,弁護人の主張も採用できず,被告人は,マイナスドライバーの先端部分が被害者Iの顔面に当たることを認識しつつ,これを持った手で同人の顔面付近を殴打したものと認定した。

第3

判示第9(強姦致傷被告事件)について

1
検察官は,被告人は,被害者Gの運転する自動車に自分が運転する自動車
(イプサム)を衝突させた後,その場において,同人の背後から左腕でその頚部を締め付け,バタフライナイフをその首筋付近に突き付けるとともに,

大声出したら,殺すぞ。

などと脅迫した旨主張するところ,弁護人は,強姦致傷罪の成立自体は争わないものの,被告人が被害者Gの頚部を腕で締め付けてナイフを突き付けたことはないし,
殺すぞ。」等の脅迫文言を発したことは
ないと主張する。
2
被害者Gの供述の概要(被告人の車に衝突されたあとの状況について)私は,被告人から,

警察に通報するから,免許証ありますか。

と言われたので,私の車の運転席ドアから車内に上体を入れ,助手席にあったバッグから財布と携帯電話を取り出した。そして,そのまま上体を起こしたところ,背後から,いきなり被告人が腕を私の首に巻き付け,後ろに引っ張るようにして絞められた。そのとき,私の首筋に何かが当たっている感触があり,視線を下げて見るとナイフの刃先が見えた。そして,被告人は,大声出したら殺「す。」と言ってきた。
3
被告人の供述
被告人は,公判廷において,概要,
被害者Gの乗った車と衝突したのち,同人が自車の運転席から助手席の方に体を入れていたので,私が,ナイフを持った右手で同車の運転席ドアを全開にしたところ,被害者Gが振り返って,いきなりナイフを持った私の手をつかみ掛かってきた。そして,私は,左手で被害者Gの腹部を抱えるようにして,自分の車と被害者Gの車の間付近に同人を連れていったが,その過程で道路脇の斜面を転がり落ちてしまった。と供述している。
なお,被告人は,捜査段階では,上記被害者供述とおおむね同様の供述をしている。

4
信用性判断
被害者Gの供述は,その内容が具体的かつ詳細であり,特段不自然な点はない。仮に,上記の点に関する犯行状況が被告人の供述するとおりであったとしても,犯情において特段被告人に有利になるようなことはなく,被害者Gが,あえて上記の点についてのみ,被害を誇張して供述するような利益,動機は何らない。
他方,被告人の公判供述によれば,被害者Gは,振り返って被告人がナイフを持っているのを見て,すぐにナイフを持った手をつかんできたというのであるが,この点は被害者Gの行動としてかなり唐突であって信用できない。被告人は,公判廷において,捜査段階で被害者Gの供述と同様の供述をしていた理由につき,取調官の言うままに供述調書が作成された旨の供述をするが,被害者Gに行わせた口淫行為の回数など,犯行態様については同人の供述と被告人の捜査供述が異なっている点が多々あるのであり,取調官の言うままに調書が作成されたという状況はうかがえない。
したがって,この点に関する被害者G及び被告人の捜査供述は信用でき,被告人の公判供述は信用できない。
5
小括
以上のとおりであるから,被害者Gの供述するとおりの事実を認定した。
第4
1
判示第14の事案(Fに対する窃盗事件)について
弁護人は,被害品とされるもののうち,ジャンパー1着(ディーゼル製。赤色で腕部分が革製のもの。
)について,被告人はこれを窃取していないと主張
するので,検討する。

2
被害者Fの被害申告について
被害者Fにおいて,被害品を1点だけあえて増やすという虚偽の供述をする動機,利益は見出せない。また,被害者Fは,本件の取調べを担当していたM警察官から,被告人がジャンパー1着の窃取を否認する供述をしていたことから,電話で再度被害品の確認を求められたため,改めて確認したところ,やはり盗まれていると述べていたものであり,被害申告の信用性は高いというべきである。

3
被告人の供述について
これに対し,被告人は,公判廷において,本件各窃盗で自分が盗んだものは全て覚えており,上記ジャンパー1着については盗んでいないと供述する。確かに,被告人は,捜査段階から,この点については窃取を否認する供述をしていたことがうかがえる。しかし,多数の物品を窃取している被告人が,それらをいちいち記憶しているということ自体がにわかに信用しがたく,被告人の上記供述については信用性が低いといわざるを得ない。

4
結論
以上によれば,被告人は,上記ジャンパー1着も窃取したと認められる。
(累犯前科)
被告人は,(1)平成7年10月27日葛城簡易裁判所で窃盗罪により懲役2年(3年間執行猶予〔付保護観察〕
,平成10年3月31日その猶予取消し)に処せ
られ,平成19年6月15日その刑の執行を受け終わり,(2)平成9年12月25日大阪地方裁判所で建造物侵入,窃盗,住居侵入,強盗強姦未遂,強盗致傷罪により懲役8年に処せられ,平成17年8月14日その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は検察事務官作成の前科調書(乙8)及び判決書謄本(乙9,10)によって認める。
(法令の適用)

〈省略〉

(量刑の理由)
1
本件は,①被告人が女性からかばんをひったくろうとしたが未遂に終わったという窃盗未遂及びその際同人を転倒させるなどしたという暴行(判示第1,第2)
,②自動車窃盗3件(判示第3,第4,第11)
,③無免許で自動車を運転
したという道路交通法違反3件(判示第5,第15,第18)
,④自転車に乗っ
ていた被害者Eに対して自分の運転する自動車を衝突させて財物を奪い取ったという強盗傷人及びその際同人に対する救護措置等を講じなかったという道路交通法違反(判示第6,第7)
,⑤同一の被害者宅に対する住居侵入窃盗3件(判示第8,第13,第14)
,⑥被害者Gに暴行脅迫を加えて同人を姦淫し,その際傷害を負わせるとともに,同人を監禁したという強姦致傷及び監禁(判示第9,第10)
,⑦被害者I宅に侵入し,同人に暴行を加えて財物を強取し,同人に傷害を負わせたという住居侵入強盗致傷(判示第12)
,⑧赤信号をことさら無視
して,被害者2名に対し傷害を負わせたという危険運転致傷及びその際に被害者両名に対する救護措置等を講じなかったという道路交通法違反(判示第16,第17)
,⑨被害者Eに対するものと同様の手口による被害者Lに対する強盗傷人及びその際に同人に対する救護措置等を講じなかったという道路交通法違反(判示第19,第20)並びに⑩正当な理由なくバタフライナイフを所持したという銃砲刀剣類所持等取締法違反(判示第21)の各事案である。

2
本件各犯行に至る経緯
被告人は,前刑の出所後,正業に従事することもなく,出所時に持っていた60万円ほどの現金に頼って無為徒食の生活を送っていたところ,数か月ほどで所持金が底をつき始めるや,生活費等を得るために再び犯罪に手を染め,その後4か月足らずの短い期間で本件各犯行を行ったものであり,その経緯について酌量すべき事情は全くない。
3
被害者Lに対する強盗傷人等の各点について(上記⑨)被告人は,財物を強取して生活費などを得ようとする目的で,自転車に乗った被害者Lに自車を衝突させたものであるが,金欲しさに,他人の生命身体に対する危険を一切顧みず,極めて危険な犯行に及んだというあまりにも自己中心的な動機,経緯に酌量の余地は微塵もない。犯行態様は,判示のとおりであるが,早朝,人通りの少ない路上で,被害者Lの乗った自転車の後方から自動車で接近し,重量のある車両を衝突させるというものであり,非常に危険かつ凶悪である。このような重大な犯罪行為を犯しておきながら,被告人は,被害者Lに対する十分な救護措置等をすることなく自己の保身を優先させて逃走したものであり,この点も犯情は非常に悪い。そして,被害者Lは,被告人車両と路上に駐車中のトラック等に順次衝突するなどし,加療期間不明の脳挫傷等の非常に重篤な傷害を負い,事件から1年以上が経っても,なお意識レベルは低く,今後の完治の見込みは乏しいなど,本件の結果は取り返しがつかない重大なものである。被害者Lは,日常の家事や認知症の義母の介護などをする傍ら,家計を助けるために早朝のパートに従事していたところ,その出勤途中に本件凶行に見舞われた結果,一瞬にして,それまでの平穏な生活を奪われ,今なお寝たきりの状態のまま,家族と会話することも,娘たちの成長を見守ることもできずに入院生活を余儀なくされているのである。このように,本件犯行が被害者Lに与えた肉体的,精神的苦痛は甚大であり,また,その家族に与えた衝撃,怒り,悲しみも計り知れないほどに大きい。被害者Lの夫は,公判廷において,被告人について,

この社会にもう二度と出てきてほしくない。

と述べるなど,その処罰感情はしゅん烈である。被害者Lの2人の幼い娘たちは,現状を十分に理解することもできないまま,かけがえのない存在であった母親と離ればなれの生活を1年半近くの長きにわたって強いられ,また今後も相当期間,母親のいない生活を送らなければならないことが見込まれているのであり,その心情を察するに,れんびんの情を禁じえない。4
被害者Eに対する強盗傷人等の各点について(上記④)被告人は,被害者Lに対する事件と同様,生活費等欲しさに犯行に及んだものであり,このような動機には,やはり酌量の余地は微塵もない。犯行態様を見ても,自転車に乗った被害者Eに自車を接触させて転倒させるという非常に危険な方法でその犯行を抑圧した上,かばんを強取するというものであり,やはり非常に悪質というほかない。しかも,被告人は,このような危険な犯罪行為を犯しておきながら,何らの救護措置等を講じることなく,被害者Eを現場に放置して逃走したというのであり,この点も犯情は悪い。被害者Eは,本件により,1か月の入院加療を含む加療78日間を要する急性硬膜下血腫,右頬骨弓骨折などの重い傷害を負い,事件後しばらくの間は精神的なショックや頭痛などに悩まされ,また,その後も仕事を休業することを余儀なくされたり,復職後も通勤時に恐怖感を感じるなど,精神的な苦痛も相当に大きかったと認められる。また,本件による財産的被害は決して軽微ではなく,本件で生じた結果はいずれも重大である。被害者Eは,被告人について,

できることなら死刑になってほしいとさえ思います。

と述べており,その処罰感情は厳しい。
5
強姦致傷,監禁の各点について(上記⑥)
被告人は,もっぱら自己の性欲を満たす目的で強姦致傷等の犯行に及んだものであるが,このような動機は極めて身勝手で酌量の余地はない。強姦致傷の犯行態様を見ても,過失による交通事故を装い,被害者Gの運転する自動車に自車を故意に衝突させ,降りてきた同人に対し,
殺すぞ。」などと申し向けた上で,
ナイフを突き付け,タオルで頚部を強く締め付けたり,結束バンドで手を緊縛するなどの極めて強度の暴行脅迫を加えてその犯行を抑圧し,同人を姦淫するというものであり,同人の女性としての尊厳,性的自由などを一切顧みない極めて卑劣で凶悪なものである。しかも,被告人は,犯行の途中で被害者Gの姿態を携帯電話のカメラ機能で撮影しようとするなど,犯情は非常に悪い。また,被害者Gを強姦し,解放するまでの約4時間以上の長時間にわたって同人を監禁している点も非常に悪質な犯行というべきである。被告人は,被害者の腕を縛るための結束バンドを事前に購入し,交通量の少ない道路を狙って犯行に及ぶなど,本件は周到に計画された犯行というべきである。上記のような本件犯行態様等によれば,被害者Gが受けた肉体的,精神的苦痛は非常に大きいと認められるところ,同人は,

犯人については,二度と社会に戻れないように,刑務所に入れておいてもらいたいと思います。

と述べており,被告人に対する厳重処罰を希望している。6
被害者Iに対する住居侵入強盗致傷の点について(上記⑦)被告人は,生活費等を得る目的で犯行に及んだものであるが,そのような動機にはやはり酌量の余地はない。犯行態様をみても,被害者Iに対し,マイナスドライバーを持った手で顔面を殴ったり,木製のバットで同人の頭部付近を数回殴打するなど,非常に危険で悪質な暴行を加えている。本件による財産的被害はさほど高額ではないものの,被害者Iは,被告人の暴行により,加療約7日間ないし10日間を要する頭部打撲皮下血腫,背部打撲,左眼眼球打撲など多数の傷害を負ったものであり,特に,左目のまぶた付近に負った切創については,一歩間違えれば同人を失明させる危険もあったというのであるから,結果は重大であり,同人は被告人に対する厳しい処罰を求めている。

7
危険運転致傷等の点について(上記⑧)
被告人は,交差点の信号が赤色を表示しているのに,これをことさらに無視し,時速60キロメートル程度の高速度で交差点に進入し,被害者らが乗った自動車に自車を衝突させたものであって,非常に危険かつ悪質な態様の犯行である。本件により,被害者Kは加療約79日を要する左側胸部肋骨骨折等の傷害を,被害者Jは加療約72日を要する右側胸部打撲等の,それぞれ重い傷害を負ったものであり,結果は重大というべきである。このような重大な事故を起こしたにもかかわらず,被告人は,何らの救護措置等を講じることなく,自己の保身を優先し,被害者両名を現場に放置して逃走したというのであり,この点も犯情は悪く,被害者のうち1名は被告人に対する厳しい処罰を,他の1名は適正な処罰を求めている。
8
被害者Fに対する住居侵入窃盗3件について(上記⑤)被告人は,生活費等を得る目的で上記各住居侵入窃盗行為に及んだものであるが,このような動機にもまた,酌量の余地はない。しかも,被告人は,1度被害者F宅に侵入してその内部の様子を知ったことから,その後も容易に同人宅へ侵入して窃盗行為を行うことができるものと考え,さらに2度にわたり同人宅に対する住居侵入窃盗行為に及んだものであるところ,このような点に照らせば,2回目以降の住居侵入窃盗行為については計画的犯行であることが明らかといえる。3件の窃盗による被害は,物品が時価合計332万円余り,現金が約4万円と極めて高額に及んでおり,結果は重大である。また,最も被害金額が高額であるレジアスエースに至っては,被害者Lに対する強盗傷人事件で大破させられている。被害者F及びその家族は,被告人によって,立て続けに3回も窃盗に入られ,財産的被害にとどまらず住居の平穏をも著しく害された結果,自宅で生活することに不安を感じるようになり,別の住居での生活を強いられるなど,本件が被害者Fらに与えた不安感は顕著といえる。被害者Fの処罰感情は非常に厳しいが,上記の点に照らせば十分理解できるところである。

9
自動車窃盗3件について(上記②)
被告人は,窃取した自動車を寝床にしたり,自動車内に積んである金品を換金して生活費を得るなどの目的で,各自動車窃盗行為に及んだものであるが,このような利欲的で身勝手な動機に酌量の余地はない。犯行態様は,いずれもエンジンキーがついた状態であった各被害自動車を白昼堂々盗むというもので,大胆かつ悪質である。被告人が窃取したイプサムは,車内積載物も含めると被害額が時価約171万2100円,ミニキャブは時価約40万円,ディアマンテは時価約50万円と,被害結果はいずれも重大であり,しかも,イプサムは,上記危険運転致傷事件で,ディアマンテについては被告人がこれを工場先に積んであったパレットに衝突させた事件でいずれも大破している。
10

窃盗未遂,暴行の各点について(上記①)
被告人は,生活費等を得る目的で窃盗未遂行為に及び,被害者Aから抵抗され
るや,直ちに同人に対する暴行行為に及んだものであって,このような各犯行の経緯,動機に酌量の余地はない。しかも被告人は,催涙スプレーを準備した上で,夜間,1人で歩いていた被害者Aのあとを追跡し,窃盗の機会をうかがった上で,上記各犯行に及んだものであり,本件は周到に計画された犯行というべきである。犯行態様をみても,力の弱い女性に催涙スプレーを吹き付け,被害者Aをその場に押し倒すなどの暴行を加え,同人の自転車の前かごからかばんを奪おうとするものであり,危険かつ悪質である。本件では財産的被害は生じていないが,上記のような犯行態様に照らせば,被害者に与えた恐怖や不安は到底軽視できない。被害者Aは被告人に対する厳重処罰を希望している。
11

無免許運転3件について(上記③)
被告人は,いずれも窃取した自動車を無免許で運転していたものであるところ,
いずれの犯行の際にも,運転の必要性,緊急性は全くなかった。被告人は,これまで一度も運転免許を取得したことがないが,前刑出所後,自動車窃盗を繰り返し,窃取した自動車を日常的に運転してきたのであるから,無免許運転の常習性は顕著である。しかも,被告人は,そのような無免許運転を常習的に行っていた結果,実際に重大な結果を生じさせる事件や事故を多数引き起こしているのであり,被告人による無免許運転の危険性が現実化していることは明らかである。12

銃刀法違反の点について(上記⑩)
被告人は,護身用としてバタフライナイフを所持するに至ったものであるが,
このような動機に酌量の余地はない。被告人は,日常的にナイフを所持していたものであり,犯情は悪いが,加えて,護身用という目的だけではなく,被害者Gに対する強姦を行った際にもこれを使用しているのであり,ナイフ所持行為の危険が現実化していると認められ,この点も到底軽視できない。
13

以上の諸点に加え,本件各被害者にはいずれも何らの落ち度もないものであ
るところ,これまで被告人による被害弁償が一切なされておらず,今後これがなされる見込みも極めて低いという点も指摘しなければならない。
14

一般情状等について
被告人には,平成7年に窃盗罪で懲役2年,執行猶予3年保護観察付き(後記
平成9年の実刑判決により,執行猶予取消し)
,平成9年には強盗致傷,強盗強
姦未遂罪等により懲役8年に処せられた前科があり,これらの罪で合計約10年間にわたって服役していたにもかかわらず,その出所後,正業に就き,まっとうな生活を送るための努力をすることもなく,所持金が少なくなるや,安易かつ短絡的に犯罪行為に走り,数か月間の短い期間に上記の非常に凶悪かつ多数の犯罪行為を繰り返してきたものであり,このような点に照らせば,被告人の規範意識は著しく欠如しており,根深い犯罪傾向が見受けられる。また,被告人は,公判廷において,本件各犯行を止めることはできなかったのかという弁護人からの問に対し,

僕としては,もう死なな直らない,そういうふうにしか思ってないですね。

と供述するなど,自らの問題点と真しに向き合い,それを改善していこうとする態度が見受けられず,更生に向けた意欲をうかがうことはできない。15

以上によれば,被告人の刑事責任は極めて重い。

16

次に,被告人にとって有利に考慮すべき事情について検討を加える。
(1)

まず,判示第1について,財物奪取が未遂に終わっていること,判示第1
2の住居侵入強盗致傷の点について,被告人は当初から強盗を企図していたわけではないこと,判示第3,第8,第13及び第14の各窃盗の被害品の一部は被害者に還付されていること,被告人なりに本件の各被害者に対して謝罪の弁を述べていることについては,被告人にとって有利に考慮すべき事情であると認められる。
(2)

次に,弁護人は,被害者Lに対する事件で被告人が被害者Lを病院に搬送
している点は,被告人に有利な事情として考慮されるべきであると主張する。確かに,被告人の上記行為からは,被害者Lを救護しようとする被告人なりの意思がうかがえるから,この点は一応被告人のために酌むべき事情ということができる。しかし,そもそも被告人の行った行為は,人身事故を起こした者のとるべき救護措置として不十分であり,救護義務違反の犯罪行為が成立する上に,被告人の上記行為が被害者Lの救命などの結果の軽減に寄与したとも認められない。しかも,被告人は,結局は捕まりたくないという気持ちから,救急車を呼ぶなどの適切な措置をすることもなくその場から逃走したのであって,このような点に照らせば,上記の点を被告人に過度に有利に考慮することは相当ではない。
(3)

また,弁護人は,被告人の不遇な生い立ちやそれに基づく対人的不信感に
ついても量刑においてしん酌されるべきであると主張するが,本件各犯行はいずれも上記のとおり身勝手で自己中心的な動機,経緯で敢行されたものであって,被告人の生い立ち等との関連性は何ら見出せず,この点を被告人のために有利にしん酌することはできない。
(4)

さらに,弁護人は,我が国において,社会的弱者に対するサポートが不十
分であるという点も量刑上考慮すべきと主張する。しかし,被告人自身,前刑の出所後,生活保護などの社会的支援を受けようとすることすらしていなかったのである。弁護人の主張する我が国における社会的弱者に対する社会的サポートが極めて不十分であるかどうかは別としても,被告人はそもそも社会的サポートに頼ろうとすることすらしていなかったのであるから,弁護人の主張は到底採用できない。
17

そこで,被告人に対する刑について検討するに,被告人は,強盗傷人2件,
強盗致傷,強姦致傷などを初めとする非常に凶悪な犯罪行為をわずか4か月足らずの間に多数敢行しているものであり,かつ,本件各犯行の結果も重大である。とりわけ被害者Lに対する犯行については,殺意が認められないことを前提としても,犯行の悪質性や傷害結果が極めて重篤であることは,量刑判断において強く指摘しなければならない。加えて,被告人から更生に向けた意欲がうかがえないこと,被告人の前科などによれば,被告人の刑事責任は極めて重大である一方で,被告人のために酌むべき事情は上記のとおり乏しい。これらの事情を総合考慮すると,被告人を,無期懲役刑に処し,生涯をかけて施設内においてしょく罪に努めさせるべきものと判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑

無期懲役及びバタフライナイフ1本の没収)

平成21年5月13日
大阪地方裁判所第12刑事部

裁判長裁判官

並木正男
裁判官

本村曉宏
裁判官

安原和

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