判例検索β > 平成21年(わ)第169号
強盗殺人、道路交通法違反被告事件
事件番号平成21(わ)169
事件名強盗殺人,道路交通法違反被告事件
裁判年月日平成21年4月21日
裁判所名・部函館地方裁判所  刑事部
裁判日:西暦2009-04-21
情報公開日2017-10-13 01:36:45
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主文
被告人を無期懲役に処する
未決勾留日数中180日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

公安委員会の運転免許を受けないで,平成20年7月4日午前8時14分ころ,北海道北斗市ab番地付近道路において,普通乗用自動車を運転し,
第2

前記日時ころ,前記場所付近道路において,法定の最高速度(60キロメートル毎時)を64キロメートル超える124キロメートル毎時の速度で前記車両を運転して進行し,

第3

Aと共謀の上,B(当時46歳)から金品を強取しようと企て,平成20年7月22日午前零時30分ころから同日午前2時ころまでの間,北海道北斗市cd丁目e番付近路上,同市cd丁目f番g号h付近路上,函館市i町j番k町l号所在のmn,同市k町o番p号所在の上記B方玄関前付近及びその間に至る函館市内,北斗市内及びその周辺の道路を走行中ないし停車中の普通乗用自動車内において,上記Bに対し,こもごも

金出せ。「海に沈められるのと金

出すの,どっちがいいのよ。
」などと語気鋭く申し向けて脅迫し,さらに,こ
もごも,その顔面や腹部等を多数回にわたり手拳で殴打し,足蹴にするなどの暴行を加えて,その反抗を抑圧した上,同日午前2時ころ,上記mnにおいて,同人管理に係る普通乗用自動車の鍵等3点(時価合計2800円相当)を強取し,そのころ,上記犯行の発覚を免れる目的で同人を殺害しようと企て,同所において,被告人及び上記Aの両名が,上記Bの体を掴んで海中に投げ込んだ上,被告人が水面に浮かんだ上記Bの顔面に鉄製ストックアンカーを命中させるなどし,よって,そのころ,同所において,同人を溺死させて殺害し
たものである。

(争点に対する判断)
1
弁護人は,判示第3の強盗殺人の事実につき,①被告人とAとの強盗及び殺人の各共謀の有無,②被告人による強盗の実行行為の有無,③被告人による殺人の実行行為の有無,④被告人の強盗の故意の有無を争う。そこで検討するに,本件当日,被告人がAやC,被害者と行動をともにしていたこと,被害者の所持品が強取されたこと,被害者が殺害されたことは,関係各証拠から明らかに認められる。本件では,こうした犯行についての被告人の関与が問題となるところ,これを立証する証拠は,被告人がAとの間で強盗及び殺人の共謀を遂げ,これを実行したとするA及びCの各公判供述であるので,以下,その信用性について検討する。

2
まず,A供述の信用性について検討する。
(1)

検察官は,Aが被告人を罪に陥れるような虚偽供述をするおそれはないとするのに対し,弁護人は,Aには虚偽供述の動機が認められる旨主張する。
この点,Aが被告人に責任を転嫁させて自己の刑責を軽減させようとする抽象的な可能性はあると認められ,Aが虚偽供述をする動機がないとはいえない。そして,Aは,殺人の共謀の際に,Aと被告人のどちらが被害者の殺害を持ちかけたかという点に関して,捜査段階の供述を公判では自己に有利に変遷させており,この点についての公判供述は信用できない。しかしながら,A供述のその余の部分は捜査段階から概ね一貫しており,また,Aは,自分から犯罪を持ちかけた点や自己の暴行等,自分に不利益な事実も供述しており,その供述内容及び供述態度に照らすと,一方的に被告人に責任を押しつけているとはいえない。

(2)

また,Aは,共謀や犯行状況について具体的な供述をしており,その供述内容は客観的証拠とも整合している。弁護人は,A供述は抽象的であると指摘するが,弁護人が指摘する点は,Aの記憶が薄れている部分や,A
自身が明確に視認していない部分であり,むしろ,Aは,自己が覚えている部分や見た部分とそうでない部分を区別しつつ,検察官に迎合しないで供述していると認められる。弁護人は,A供述は不自然であるとも指摘しているところ,弁護人が指摘する点には,確かに合理的な行動とはいえない部分もあるが,被告人やAが後先のことを考えずに場当たり的に行動していたことに照らすと,不自然とまではいえない。
(3)

さらに,A供述は,後述するように,高い信用性が認められるC供述と一致している。

(4)
3
以上によれば,Aの供述は信用できる。

次に,C供述の信用性について検討する。

(1)Cについても,弁護人は,虚偽供述の動機が認められると主張するが,C自身の判決は既に確定しており,また,Cは本件について従属的な関与をしたに過ぎず,被告人に責任を転嫁することによって,自己の刑責が軽減されるわけではないから,あえて虚偽の供述をして被告人を陥れる動機は全くない。
(2)

そして,Cは,犯行状況等について具体的な供述をしており,供述内容自体自然なもので客観的証拠とも整合している。

(3)弁護人は,捜査段階で捜査官による追及的な取調べが行われたことや,C自身の追従的な性格から,Cの記憶に変容が生じたおそれがある旨主張する。この点,確かに,Cが捜査段階において,捜査官に迎合していた事実は認められるものの,Cは,公判において,捜査段階で捜査官に迎合して記憶にない供述をした部分とそうでない部分を明確に区別して供述しており,その供述の信用性に疑いを差し挟む余地はない。
(4)
4
以上によれば,C供述には高い信用性が認められる。

他方,被告人の供述は,A及びCの各供述に反するもので,信用できない。弁護人は,被告人の関与を否定する事情を指摘するが,これらの事情を考慮して
も,上記認定は左右されない。
5
以上のとおり,信用性の認められるA及びCの各供述によれば,判示の強盗殺人の事実は優に認定できる。

(累犯前科)
被告人は,平成16年5月13日函館地方裁判所で窃盗,道路交通法違反の罪により懲役1年に処せられ,平成17年4月22日その刑の執行を受け終わったものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。(法令の適用)
罰条
判示第1の所為

道路交通法117条の4第2号,64条

判示第2の所為

同法118条1項1号,22条1項,同
法施行令11条

判示第3の所為
刑種の選択
刑法60条,240条後段

判示第1及び第2の各罪につきいずれも懲役刑を,判示第
3の罪につき無期懲役刑をそれぞれ選択

累犯加重
同法56条1項,57条(判示第1及び第2の各罪につき
それぞれ再犯の加重)

併合罪の処理

同法45条前段,46条2項本文(判示第3の罪について
無期懲役刑に処すので他の刑を科さない。


未決勾留日数の算入

同法21条

訴訟費用の不負担

刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の事情)
1
本件は,被告人が共犯者と共謀の上,被害者に暴行を加えて財物を強取し,犯行の発覚を免れるために被害者を海に投げ込み,ストックアンカーを投げつけて溺死させた強盗殺人の事案(判示第3)及び被告人が無免許で自動車を運転して速度違反をした事案(判示第1,第2)である。

2
関係各証拠によれば,判示第3の強盗殺人に至る経緯及び犯行の態様は以下の
とおりである。
(1)

被告人は,函館市内でリサイクルショップを経営していたところ,平成20年(以下,年の記載を省略する。
)6月ころから,Cの母と同棲生活
を始め,Cは,漁から戻った7月19日ころから被告人と同居するようになった。
Aは,6月ころから,上記リサイクルショップで住み込みで働くようになったが,仕事が嫌になったことなどから,同月中旬ころ,被告人に黙って,函館市内のアパートに引っ越した。
被害者は,Aの知人であり,脳出血の後遺症により右手が不自由で,生活保護を受給していたところ,7月上旬ころ,被告人の経営する上記リサイクルショップで1日くらいだけ稼働したことがあった。

(2)

同月12日ころ,Aが上記アパートに在宅していたところ,玄関の呼び鈴が鳴ったが,出てみると誰もいなかったという出来事があり,同日,Aは,同アパートを訪れた被告人から暴力を振るわれた。Aは,同人宅でいわゆるピンポンダッシュをしたり,同人宅の住所を被告人に知らせたのは被害者に違いないと考え,被害者を恨むようになった。また,このころ,Aは,生活保護として受給した現金を使い果たして生活費にも事欠いていた。こうしたことから,Aは,被害者に因縁をつけ,迷惑料名目で金品を奪おうと考えるようになった。

(3)

同月21日午後11時ころ,被告人,A及びCは,函館市内のスナックで飲酒した。その帰り道,被告人の運転する自動車内で,Aは,被告人に対し,被害者から金を奪う話を持ちかけ,被告人とともに,被害者を自動車内に連れ込み,暴行を加えて金品を奪い取る計画を立てた。
被告人らは,同月22日午前零時30分ころ,被害者宅を訪れ,被害者を引っ張って自動車の後部座席に連れ込み,走行中の自動車内において,被害者に対し,Aが,

迷惑料払え。

などと因縁をつけて,ペットボトル
で頭部を約10回殴打する暴行を加えた。その後,自動車が停止した機会に,被害者が逃走を試みるも,Aや被告人が被害者を捕まえ,順次,路上において,その頭部や腹部を殴打するなどの暴行を加えた。
被告人及びAは,被害者を再び自動車に乗せ,自動車内で被告人が被害者に馬乗りになり,
金出せ。」などと言いながらその顔面を手拳で殴打するなどした。さらに,逃走しようとした被害者を被告人及びCが制止し,被告人に運転を交替してもらったAが,被害者の頭部を手や靴底で殴打した。また,q付近のmにおいて,被告人が,被害者に対し,判示のとおり,

海に沈められるのと金出すの,どっちがいいのよ。

脅迫した。
その後,被告人らは,被害者宅に到着したが,同所において,被害者が助けを求めて逃げようとするや,被告人及びAが,被害者を引き倒して被害者の顔面や腹部を殴打したり足蹴にしたりするなどの暴行を加えた。(4)

被害者がぐったりとして動かなくなったので,被告人及びAは,犯行の発覚を免れるために被害者を海に沈めて殺害する旨を話し合い,殺人の共謀を遂げた。

(5)

被告人及びAは,被害者を自動車に乗車させて,m付近に向かった。同日午前2時ころ,被告人らは,mnに到着し,被告人及びAが,ぐったりした状態の被害者を地面に横たえ,Aが被害者の着衣を物色して,被害者の自動車の鍵等を強取した。その後,被告人及びAは,被害者の体を持ち上げ,被害者の体を海に投げ落とした。
被害者は,海に落下した後も,海上に浮かびながらうめき声を上げるなどしていたため,被告人は,被害者を海中に沈めて殺害するためにストックアンカーを探し始めた。Cは,自動車から降りてその様子を見ていたところ,被告人の意図を察知して,同所付近に係留されていた船から鉄製のストックアンカーを持ち出し,ロープを結びつけて被告人らに渡した。
そして,Aが,被害者目がけてストックアンカーを投げつけたが,被害者には当たらなかった。そこで,被告人,A及びCが協力してストックアンカーを引き揚げ,
被告人が再度ストックアンカーを投げつけたところ,
被害者の左前額部に命中し,被害者の体は海中に沈んだ。被害者は,そのころ,同所において,溺死した。
3
以上を前提に,被告人の量刑について検討する。
(1)

上記のとおり,被告人は,本件当日,Aから被害者の金品を奪う話を持ちかけられるや,これに賛同して強盗を実行することにし,Aとともに被害者に暴行を加えて,被害者がぐったりと動かなくなるや,犯行の発覚を恐れて,自己保身のために易々と殺害の共謀を遂げたもので,犯行の動機は,利己的で身勝手極まりなく,酌量の余地は皆無である。

(2)

また,犯行態様は,上記のとおり,身体が不自由で無抵抗な被害者に対し,執拗に頭部や腹部を殴打するなどの暴行を加えるというもので,それ自体悪質である上,殺害の態様は,瀕死の重傷を負った被害者を海に投げ込み,重さ約13キログラムの鉄製ストックアンカーを投げつけ,溺死させるというもので,極めて残忍かつ冷酷で,強固な殺意が見てとれる。被告人は,犯行後,Aに指示して被害者の自動車を奪い,犯行時に着ていた着衣等を焼却するなど証拠隠滅行為に及んだ上,A一人に罪をかぶせようともしており,犯行後の情状も悪質である。

(3)

被告人の果たした役割についてみると,被告人による暴行の態様は,上記のとおり,執拗かつ強度のものである上,被告人は,Aとともに被害者を海に投げ込み,自らストックアンカーを被害者に投げつけて前額部に命中させているのであり,被告人は,強盗及び殺人の両面において,実行行為の重要部分を担ったといえる。また,被告人は,共犯者の中で最年長であること,従前からAに暴力を振るうなど支配的に振る舞っていたこと,一連の犯行の中でもAに自動車の運転を交替するように言ったり,海に
落とした被害者を見張っているように申し向けるなどしていること,犯行後にA一人に罪をかぶせようとしたことなどの事情に照らすと,被告人がAに誘われたことを契機に本件に関与したこと,被害者の殺害を先に持ちかけたのもAであったことを考慮しても,被告人の果たした役割は大きいというべきである。
(4)

本件により,被害者の生命が奪われており,被害結果は取り返しのつかない極めて重大なものである。被害者に特段落ち度はなく,被告人らから金品を要求されるいわれもないのに,理不尽にも被告人らの激しく執拗な暴行を受けて瀕死の重傷を負い,さらに,海中に投げ込まれた挙げ句,ストックアンカーを前額部にぶつけられて溺死したものであり,
その肉体的,
精神的苦痛は筆舌に尽くし難いものがある。大切な一人息子を突如として奪われた被害者の実父の喪失感は大きく,何としても犯人を許さないなどと峻烈な処罰感情を吐露しているのも当然である。しかるに,現在まで,遺族に対する慰謝の措置は何ら講じられていない。

(5)

その他の事情について検討すると,被告人は,累犯前科を含む前科が10犯あり,服役した経験もありながら,判示各罪の実行に及んだもので,その規範意識は鈍麻しているというほかない。また,被告人は,強盗殺人の事実について,事件のことは覚えていないなどと不合理な弁解に終始しており,反省の態度はみられない。

(6)

以上によれば,本件強盗殺人の犯情は極めて悪質であり,強盗及び殺人のいずれについてもAの方から持ちかけてきたものであることを考慮しても,被告人の責任は誠に重大であるというほかない。そして,強盗殺人罪の量刑傾向に照らしても,酌量減軽は特に被告人に酌むべき事情がある場合に限って許されると解すべきところ,本件が酌量減軽するのが相当な事案とは到底認め難く,被告人に対して無期懲役刑を選択することは誠にやむを得ないものと判断した。

(求刑

無期懲役)

平成21年4月21日
函館地方裁判所刑事部

裁判長裁判官

柴山智
裁判官

大畠崇史
裁判官

板橋愛子
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