判例検索β > 平成20年(わ)第1028号
強盗殺人、強盗殺人未遂被告事件
事件番号平成20(わ)1028
事件名強盗殺人,強盗殺人未遂被告事件
裁判年月日平成21年2月27日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第4刑事部
判示事項の要旨路上強盗後に,被告人を逮捕しようとした男性を殺害しようとして負傷させた上,被害品を取り戻そうと追いかけてきた女子留学生を殺害し,その約7年半後,商業施設の共同トイレで入ってきた男性を強盗目的で殺害した事案につき,各犯行とも殺意がなく,自首が成立するという主張をいずれも排斥して死刑を言い渡した事例
裁判日:西暦2009-02-27
情報公開日2017-10-13 01:36:53
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主文
被告人を死刑に処する
押収してある骨そぎナイフ1本(平成20年押第224号の1)を没収する。理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1

氏名不詳者と共謀のうえ,通行人から金品を強奪しようと企て,帰宅途中のA(当時24歳)を見かけるや,Aを追跡し,平成12年7月29日午前1時ころ,大阪市(以下略)付近路上において,氏名不詳者が,手に持ったナイフ様の物をAに突き付け,被告人が,げん骨でAの顔面を殴り,その反抗を抑圧したうえ,被告人が,Aの所有又は管理する現金約6000円及び財布等79点の入った布製バッグ1個を強奪し,その場から自転車に乗って逃走しようとしたところ,

1
上記場所付近で自動車に乗車していたB(当時34歳)が,上記のとおり自転車に乗って逃走しようとしている被告人をAが追い掛けている様子を目撃し,被告人を捕まえるため自車を発進させて被告人を追跡し,同市(以下略)付近路上において,被告人の自転車を右側から追い抜いた直後に,ハンドルを左に切って,被告人の進路前方に回り込み,自車を被告人の自転車に衝突させて,自転車もろとも被告人を路上に転倒させ,直ちに車を降りて被告人と相対し,右手のげん骨で被告人に対し殴りかかってきたため,被告人は,そのころ,同所において,これを上体をかがめてかわすとともに,上記バッグを取り返されることを防ぎ,かつ,逮捕を免れるため,とっさに,殺意をもって,右手に持った骨そぎナイフ(刃体の長さ約15.1センチメートル)を下方からBの腹部に向けて1回突き上げたが,Bが左足を踏み出していたため,Bに加療約10日間を要する左大腿部切創の傷害を負わせたにとどまり,Bを殺害するに至らなかった。

2
さらに,被告人は,上記1の犯行の直後に,上記付近路上まで被告人を追い掛けて来たAに対し,そのころ,同所において,上記バッグを取り返されることを防ぎ,かつ,逮捕を免れるため,殺意をもって,右手に持った上記骨そぎナイフ(当庁平成20年押第224号の1)でAの左胸部及び右側腹部等を突き刺し,同日午前1時20分ころ,同所において,Aを右側腹部刺創に基づく右総腸骨動脈切断による失血により死亡させて殺害した。

第2

商業施設の共同トイレの利用者から金品を強奪しようと企て,平成20年2月1日午後10時16分ころ,大阪市(以下略)のDビル2階男子共同トイレにおいて,同トイレに入って来たC(当時30歳)に対し,右手に持ったペティナイフ様の刃物を突き付けながら,

金出せ。早く出せ。

などと言って,その反抗を抑圧して金品を強奪しようとしたところ,Cがこれに応じなかったため,とっさに,殺意をもって,Cの胸部等を上記刃物で数回突き刺すなどしたものの,Cが同トイレから逃げ出したため金品を強奪することができなかったが,そのころ,上記Dビル2階のショットバーEにおいて,Cを胸部刺創による失血により死亡させて殺害した。

(証拠の標目)
(略)
(争点に対する判断)
第1

争点
本件の争点は,
①判示第1のB(以下被害男性という。及びA(以下被)害女性という。)並びに判示第2のC(以下被害者という。
)に対し,被
告人が殺意をもって判示の各攻撃を加えたか否か,言い換えれば,各攻撃を加えた際,被告人が,通常であれば人が死ぬであろう行為を,そのような行為であると分かって行ったと認められるか否かと,②判示第2の犯行について,被告人に自首が認められるか否かである。以下,関係証拠を総合して,各争点について順次検討する。

第2

B(被害男性)に対する殺意の有無について

1
凶器の種類・形状
被害男性に対する攻撃の際に被告人が使用した凶器は,
刃体の長さが約15.
1センチメートル,刃の根元の幅が約2.6センチメートル,刃幅が平均約2センチメートルで,先端が尖っており,波刃で切れ味の良い骨そぎナイフ(以下本件骨そぎナイフという。であり,高い殺傷能力を有するものである。)
そして,被告人は,本件骨そぎナイフを自ら購入して持ち歩いていたのであるから,被害男性に対する攻撃に及んだ際には,その殺傷能力について認識していたと考えられる。
なお,弁護人らは,被告人が本件骨そぎナイフを購入したときには,氏名不詳の共犯者が同ナイフを選んだのであって,被告人はその殺傷能力を意識して同ナイフを購入したのではないと主張するが,上記主張は,被害男性に対する攻撃当時の被告人の殺意の認定を左右するものではない。

2
傷害の部位・程度及び犯行態様
(1)関係証拠によれば,被告人の攻撃によって,上を向いた本件骨そぎナイフの刃先が,被害男性が当時着用していたズボンの左前ポケットの下方から,ズボン5箇所及びパンツ2箇所を貫きつつ,
その刃体の長さを超える約19.
5センチメートル上方のウエスト部分付近までを一度に貫通し(ズボン等の損傷箇所は,甲63のとおり)被害男性の左大腿部の上部(パンツの損傷箇,
所付近)に通院加療約10日間を要する長さ約2センチメートルの切り傷を負わせた。
以上によれば,被告人の被害男性に対する攻撃の態様は,判示第1の1で認定したとおり,本件骨そぎナイフの刃先を,上に向けた状態で,被害男性の左大腿部付近から腹部の方に向けて1回突き上げるという,相手の生命を脅かす危険性をはらむものであり,その程度は,相当に勢いのある強度のものであったと認められる。
(2)また,
関係証拠によれば,
上記(1)の攻撃当時に被告人がとった行動につい

ても,判示第1の1で認定したとおりであると認められる。すなわち,被害男性は,公判で,被告人が金品を強奪して自転車で逃走を始めた直後に,被告人を自動車で追跡し,被告人の前方に回り込んでその行く手を塞ぎ,自車を被告人の自転車に衝突させて,自転車もろとも被告人を路上に転倒させた(この際,被告人は,受身も取れずに左半身を路面に強く打ち付けたものであり,被告人自身,左手を擦りむいて出血するなどの強い衝撃を受けたと供述している。うえ,起き上がった被告人に対し,さらに左足を踏み出して右)
手のげん骨で殴りかかったところ,これを被告人に上体をかがめてかわされた際に,左足に殴られたような衝撃を受けた旨供述している。この供述は,具体的で迫真性があるうえ,
上記(1)の被告人の攻撃態様・程度及び被害男性
傷害の部位等と整合性があるから,信用することができ,被告人の行動状況は,被害男性の上記公判供述のとおりであったと認められる。
このような被告人の行動状況に,
上記(1)の攻撃態様等をあわせ考えると,
被告人は,突然目の前に現れて,被告人の逃走を阻んだうえ,攻撃を加えてきた被害男性に対し,ためらうことなく,その生命の安全に対する配慮のない危険な攻撃を加えたことが認められるし,このような行為を被告人が意識的に行ったことも明らかである。
そして,
被害男性の傷害の内容・程度が,
結果的には上記(1)のとおりの比
較的軽微なものにとどまったのは,被告人が判示の攻撃を加えた時に,たまたま被害男性が左足を一歩前に踏み出していたため,本件骨そぎナイフが被害男性の左大腿部に当たったことによるものと認められる。
(3)これに対し,被告人は,公判で,被害男性を威嚇し隙を見て逃げるつもりで本件骨そぎナイフを振り回したり,同人が殴りかかってきたときに手が前に動いたりしたかもしれないが,同ナイフを意識的に動かして刺そうとしたことはない旨供述し,
弁護人らは,
周囲が暗かったと思われることなどから,
被害男性が被告人の上記の威嚇行動に気付かないまま被告人に殴りかかった
可能性がある旨主張する。
しかし,被告人の上記公判供述は,信用できる被害男性の公判供述と大きく異なるうえ,被告人は,捜査段階では,検察官に対し,被害男性に殴りかかられる前に同人を威嚇するような行動に出たとは述べていない。被告人は,
公判で,この供述の変遷理由について,取調べ時に,警察官から,死刑にな

るに決まっている。などと言われ,

あきらめの心理状態に陥っていたなどと
述べるのみであり,被告人の記憶の程度や弁解内容に留意して録取されたことがうかがわれる検察官調書の信用性を疑わせるに足る合理的な説明をしていない。したがって,被告人の上記公判供述は信用できない。
3
動機
上記2の認定のとおり,被告人は,被害男性から突然予期していない攻撃を加えられるなどして,逃走を妨げられたうえ,逮捕されそうになったのであるから,被告人が,被害男性に対する攻撃の際,その死亡を意に介さなかったとしても特に不自然ではない。

4
結論
以上の諸事情を総合すると,被告人は,被害男性に対し,通常であれば人が死ぬであろう行為をそのような行為と分かって行ったと認められる。また,被告人は,捜査段階では,本件犯行当時,被害男性が死んでも構わないという気持ちで,同人をナイフで刺したと供述していたものであり,この供述は,以上の認定と整合するものである。
よって,被告人は,判示のとおり,被害男性に対し,殺意をもって犯行に及んだと認定することができる。

第3
1
A(被害女性)に対する殺意の有無について
凶器の種類・形状
被害女性に対する攻撃の際に被告人が使用した凶器は,本件骨そぎナイフであり,これは,第2の1で述べたとおり,十分な殺傷能力を有するものである
うえ,被告人にはその殺傷能力についての認識があったと認められる。2
傷害の部位・程度及び犯行態様
(1)本件犯行により,被害女性は,①左腕の手首上方から侵入して内肘手前に抜け,その長さが約6.7センチメートルないし約9.0センチメートルに及び,さらに左胸部に入ってその皮下脂肪組織内まで到達する刺し傷と,②右側腹部に,小腸間膜を切断するなどして腹腔内まで至り,長さが約17センチメートルに及ぶ刺し傷等を負い,②の刺し傷によって右総腸骨動脈を切断され,失血死した。
①の刺し傷が,本件骨そぎナイフの刃体の長さの半分以上が左前腕等に刺し入れられてできたものであること,②の刺し傷が,本件骨そぎナイフの刃体の長さを超える深いものであることなどからすれば,被告人が,少なくとも2回にわたり,強い力を込めて,人の生命を維持するために不可欠な臓器等が集まる,人体の枢要部である胴体付近に向け,本件骨そぎナイフの尖った刃先を突き出したと考えられる。
(2)そして,被告人は,捜査段階で,被害男性に対する攻撃を加えた直後に,その後方から被告人に近づいてきて,体を反転させた被告人の正面に相対した被害女性に対し,その左胸付近に向けて本件骨そぎナイフを突き出した,すると,同女が体を左によじり,同女の右脇腹が目の前にある状態になったため,さらに同女の右脇腹に向けて同ナイフを突き出した旨述べている。この被告人の捜査段階供述は,被害女性の傷害の部位・程度,傷の形状等や信用できる被害男性の公判供述と整合性のある,自然で合理的なものであるから,その信用性を肯定できる。よって,この捜査段階供述のとおり,被告人は,
被害女性を死亡させる危険性の高い行動を意識的に行ったと認められる。(3)これに対し,被告人は,公判で,被害男性と被害女性に前後を挟まれた状態から逃れるために,目の前にいる被害女性の方に向けて,右手に持った本件骨そぎナイフを無我夢中で前方に突き出しただけであり,被害女性の左胸
付近や右脇腹を狙ったわけではない旨供述している。
しかしながら,被告人が,その場に立った状態で,目の前に立って相対している被害女性に対し,本件骨そぎナイフを前方に突き出せば,その刃先が少なくとも同女の胴体付近のどこかに刺さるであろうことは,十分認識することができたと考えられるから,被告人が特に左胸付近や右脇腹を狙ったのではないとしても,上記認定を左右するものではない。
3
動機
被告人は,被害男性に対し,前記のとおりの犯行に及んだ直後に,被告人を追跡していた被害女性に追いつかれ,被害男性と被害女性に挟まれて前進も後退も阻まれ,逃走が困難な状況に陥ったのであるから,当時,被告人が被害女性の死亡をも意に介さずに行動したとしても,特に不自然ではない。
4
結論
以上の諸事情を総合考慮すると,被告人は,被害女性に対し,通常であれば人が死ぬであろう行為をそのような行為と分かって行ったと認められる。また,
被告人は,捜査段階では,本件犯行当時,被害女性が死んでも構わないという気持ちで,同女をナイフで刺したと供述していたところ,この供述は,以上の認定と整合するものである。
よって,被告人が,判示のとおり,被害女性に対し,殺意をもって犯行に及んだと認定することができる。

第4
1
C(被害者)に対する殺意の有無について
凶器の種類・形状
被害者に対する攻撃の際に被告人が使用した凶器は,刃体の長さが約12.1センチメートルで,先端が尖った,ペティナイフ様のもの(以下本件刃物という。
)であり,十分な殺傷能力を有するものである。
そして,被告人は,本件以前から本件刃物を自宅で使用していたというのであるから,被害者に対する攻撃に及んだ際,被告人には,その殺傷能力につい
ての認識があったと考えられる。
なお,弁護人らは,被告人が殺傷能力を意識して本件刃物を準備したものではないと主張するが,この主張は,被害者に対し攻撃に及んだ当時の被告人の殺意の認定を左右するものではない。
2
傷害の部位・程度及び犯行態様
(1)本件犯行により,被害者は,①左前胸部に,胸部右側から侵入し,胸部左側へ向かう,
深さが約7センチメートルの刺し傷,
②左前腕の後面肘付近)

に,深さが約4センチメートルの,骨に達する刺し傷,③右手の親指に,長さが約6.5センチメートルの弁状の切り傷,④左鎖骨上窩に,右上方から身体の中心部に向かって侵入し,左鎖骨下静脈を切断するなどして肺内まで達する,深さが約9センチメートルから13センチメートルに及ぶ刺し傷等を負い,失血死するに至った。
そして,①の刺し傷が,本件刃物の刃体の長さの半分以上が左前胸部に刺し入れられてできたものであること,④の刺し傷が,本件刃物の刃体の長さとほぼ同じくらいの深いものであることなどからすれば,被告人が,少なくとも2回にわたり,強い力を込めて,人体の枢要部である被害者の首付近や胴体付近に向け,本件刃物の尖った刃先を突き出したと考えられる。また,④の刺し傷が,本件刃物の刃先が,被害者の右上方から身体の中心部へ向け,斜め下方向に刺し入れられて生じたものであることからすれば,被告人が,少なくとも一度は,しゃがみこむなどして低い姿勢でいる被害者に対し,その上方から本件刃物を刺し入れたと推認される。
(2)そして,被告人は,捜査段階では,被害者と至近距離で相対した状態で,本件刃物を持った手を前に突き出したほか,壁際でしゃがみこむ姿勢になった被害者の近くに立った状態で,その胸をめがけて本件刃物を上から下へ突き出した旨述べている。この被告人の捜査段階供述は,被害者の傷害の部位・程度,傷の形状やこれらから推認される被告人と被害者の位置関係等と整
合性のある,自然で合理的なものであるから,その信用性を肯定できる。よって,この供述のとおり,被告人は,被害者を死亡させる危険性の高い行動を意識的に行ったと認められる。
(3)これに対し,被告人は,公判で,被害者からの抵抗を受けて,もみ合っている最中に,被害者から本件刃物を取り上げられそうになったので,頭に血が上って,被害者を無我夢中で刺したもので,特定の場所を狙ったものではなく,特に強い力をかけたものでもない旨供述している。
しかしながら,被告人が公判で供述するような状況で,上記①や④の刺し傷が生じるとは考えにくいから,被告人の公判供述は,信用しがたい。3
動機
被告人の供述を含む関係証拠によれば,本件犯行に至る経緯等は以下のとおりである。すなわち,被告人は,平成19年11月に仕事を辞めた後は,定職に就いておらず,金銭に窮し,平成20年1月ころには,家賃等の支払もできなくなったため,同月末ころ,しばらく連絡を取り合っていなかった実母や元交際相手の女性に金を無心する電話をかけたが,いずれも断られ,引ったくりや押し込み強盗をしてでも金を手に入れたいと考えるようになり,本件当日,窃盗強盗をする機会をうかがいながら,判示ビルの周辺をさまよい歩いたものの,実行に至らず,判示の共同トイレに入り,手を洗っていたところ,そこに入ってきた被害者ががっしりした体格でなかったことから抵抗も少ないだろうと思い,
同人を相手に強盗をしようと決意し,
本件刃物を同人に示して脅し,
金を出すよう要求したが,予想に反して,同人が金品を差し出そうとしなかったため,同人の身体に向けて,本件刃物を突き出すなどした。
このような経緯に照らすと,被告人の,被害者から金品を手に入れたいという思いは相当に強かったとうかがわれるから,当時,被告人が,金品を差し出そうとしない被害者に対し,とっさに,被害者の死亡を意に介すことなく判示のような刃物での刺突行為に及んだとしても,不自然とはいえない。
4
結論
以上の諸事情を総合考慮すると,被告人は,被害者が金品を差し出そうとしなかった時点で,被害者に対し,通常であれば人が死ぬであろう行為を,そのような行為と分かって行ったと認められる。また,被告人は,捜査段階で,本件犯行当時,本件刃物で被害者を刺した際,同人が死んでも構わないという気持ちがあったと供述していたが,この供述は上記認定と整合するものである。よって,被告人は,被害者に対し,殺意をもって犯行に及んだと認定することができる。

第5

自首の成否について
弁護人らは,判示第2の罪について,被告人は,犯人であることが捜査機関に発覚する前である平成20年2月8日に大阪府F警察署に出頭し,被害者を殺害したという殺人の犯罪事実を申告して,捜査機関に対し犯人の特定という重要な情報を提供し,捜査を容易にしたのであるから,刑法42条1項にいう自首が成立する旨主張している。
そこで,関係証拠に照らし検討すると,確かに,被告人は,捜査機関において未だ犯人を特定していない時期,すなわち犯人が発覚する前に,捜査機関に出頭したといえる。
しかし,被告人は,出頭後,捜査機関に対し,被告人が被害者を殺害したことについては正直に申告したものの,自己の罪責軽減を図るために,強盗の点をあえて隠し,判示の共同トイレ内で,盗みをするための点検等をしていたとき,ドライバーを床に落としてしまい,これを見た被害者から

どろぼうでもするんか。等と問い詰められ,

被告人のバッグの中を見られそうになったため,
バッグを持って逃げようとしたが,被害者が被告人のバッグをつかんで離そうとしなかったので,警察に突き出されるのを免れようとして,とっさに,護身用に持っていた本件刃物で被害者を刺して逃げようと決意し,その左胸付近を1,2回突き刺した旨の,事実と大きく異なる虚偽の申告をした。
ところで,刑法42条1項にいう自首とは,犯人が,捜査機関に発覚する前に自己の犯罪事実を捜査機関に申告することである(最高裁平成13年2月9日第三小法廷決定)ところ,被告人は,自己の犯罪事実を認識しながら,その事実について科される重い刑を免れようとして,自己の犯罪事実のうち重い刑を科される根拠となる重要な強盗の部分を殊更隠したうえ,この点について虚偽の事実を述べるまでしたのであるから,自己の犯罪事実を捜査機関に申告したと評価することはできない。
したがって,
被告人が判示第2の罪について,
刑法42条1項にいう自首」
をしたとは認められない。(法令の適用)被告人の判示第1の1の所為は,刑法60条,243条,平成16年法律第156号附則3条1項により同法による改正前の刑法240条後段に,判示第1の2の所為は,刑法60条,上記改正前の刑法240条後段に,判示第2の所為は刑法240条後段にそれぞれ該当するところ,各所定刑中,判示第1の1の罪については無期懲役刑を,判示第1の2及び第2の各罪についてはいずれも死刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるが,同法46条1項本文,10条により,刑及び犯情の最も重い判示第2の罪で被告人を死刑に処し,他の刑を科さず,押収してある骨そぎナイフ1本(平成20年押第224号の1)は,判示第1の2の強盗殺人の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法46条1項ただし書により,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。(量刑の理由)1本件の概要本件は,無為徒食の生活を送り,金銭に窮した被告人が,氏名不詳者とともに,通行人から金品を強奪しようと企て,深夜の住宅街の路上で,中国人の女子留学生である被害女性から金品在中のバッグを奪い取り,これを携えて自転車で逃走中,その行く手を車で阻み被告人を取り押さえようとした通行人の被害男性に対し,殺意をもって,骨そぎナイフを1回突き出し,その左大腿部に傷害を負わせたが殺害するに至らず,その直後に,被告人を追い掛けてきた被害女性に対し,その胸部等を2回突き刺して殺害したという,強盗殺人未遂及び強盗殺人(判示第1の1及び2。以下「第1事件という。と,その約7年半後,再び無為徒食)
の生活を送り,
また金銭に窮した被告人が,
夜間に,
商業施設内の共同トイレで,
たまたま同トイレに入ってきた被害者から金品を奪い取ろうとして,被害者に対し,ペティナイフ様の刃物を突き付けたところ,被害者が金品を差し出そうとしなかったため,殺意をもって,被害者の胸部等を数回突き刺すなどしたものの,金品を奪い取ることはできなかったが,被害者を失血死させたという,強盗殺人(判示第2。以下第2事件という。
)から成る事案である。
2
第1事件について
(1)犯行に至る経緯及び動機
被告人は,第1事件に及ぶ約1年前に石川県内の会社を辞め,東京都,神戸市,大阪市等において,定職に就かず,元交際相手の女性や実母に無心して得た金を生活費や遊興費(パチンコ,競馬,競艇等)に費やすなどの無為徒食の生活を送っていたが,平成12年7月ころ,実母らから無心できる金が少なくなったのに,暑さのために肉体労働を行う気が起きないなどの理由で,働かずにいたため,いよいよ生活費に窮するようになった。そのような時に,氏名不詳の男(第1事件の共犯者)から,強盗等をして金を手に入れようと誘われ,これに応じることとし,共犯者とともに骨そぎナイフ等を購入したうえ,大阪市内をともに自転車で徘徊し,金品を奪えそうな相手を探すなどしたが,なかなか実行に移せなかった。しかし,その後,前かごにバッグを入れて自転車で走行中の被害女性の姿を認め,共犯者が被害女性を追跡し始めたため,被告人も共犯者に続いて被害女性を追跡し,被害女性の自宅近くの路上で,判示第1の1及び2の各犯行に及んだ。

このように,被告人は,自らの怠惰な生活態度により,金銭に窮した末,金欲しさから,まことに安易に無関係の通行人を狙って強盗を実行しようと決意したのであるから,その犯行に至る経緯や動機は甚だ身勝手というほかなく,酌量の余地は全くない。
(2)犯行の態様
被告人は,あらかじめ共犯者とともに骨そぎナイフ等の凶器を準備し,共犯者が凶器を使って被害女性を脅し,被告人が同女の持っていたバッグを奪い取るという,計画的で大胆かつ危険な手段による強盗行為に及んだうえ,突如現れて被告人を取り押さえようとした被害男性や,被告人に追いついてきた被害女性に対し,躊躇なく,骨そぎナイフを,同人らの体の枢要部に向けて強く突き出すという,極めて危険で容赦のない行為に及んだものであるから,その犯行態様は,他人の生命を脅かすことを意に介さない苛烈で残忍なものというべきである。
(3)犯行の結果
被告人は,被害女性のバッグを強奪して現金約6000円等の金品を得るとともに,被害男性に加療約10日間の傷害を負わせ,当時24歳の被害女性を死亡させるという取り返しのつかない重大な結果を生じさせた。もちろん,被害男性に対する強盗殺人未遂行為も重大であり,被害男性の処罰感情が厳しいことなどを考慮すると,
同行為を軽視することが許されないのは当然であるが,
被告人の量刑を決定するうえでは,被害女性の死亡の結果がより重要であるので,以下,この点について詳述する。
被害女性は,中華人民共和国内の大学の国際貿易英語科を卒業し,将来は日中間の貿易に関わる仕事に従事したいと考え,平成11年10月に日本に留学し,平成12年7月の本件当時は,喫茶店でアルバイトをしながら,日本の大学院に進学するために日本語学校に通って日本語の習得に努めるなど,充実した生活を送っていた。

本件当日,被害女性は,喫茶店でのアルバイトを深夜に終え,中国にいる婚約者と携帯電話で会話をしながら自転車で帰宅途中,自宅近くまで帰ってきたところで,突然バッグを奪い取られるという強盗の被害にあったばかりか,バッグを取り返そうとして,逃走する被告人を追い掛けるなどしたため,追い詰められた被告人から予想だにしない攻撃を加えられ,その場で失血により死亡させられるに至った。このような被告人の凶行によって,充実した生活や将来の夢を奪い取られ,異国の地で一人,24歳という余りにも短い生涯を終えなければならなかった被害女性の無念さは,察するに余りある。
また,突然被害女性の死を知らされたその父母の衝撃は極めて大きく,8年以上が経過した本件公判の時点においても,その悲嘆の感情が癒えることはなく,
来日して本件公判に出廷することは叶わなかったものの,わずか24歳の

女子学生を残忍に殺害したにもかかわらず,またしても殺人を犯した凶悪犯人は全く人間性のない殺人鬼です。私達はこの凶悪犯が死刑に判決されるよう強く望みます。との手紙を検察官に送付し,

峻烈な処罰感情を表している。
また,
前記のとおり,本件当時,被害女性には中国に住む婚約者がいたところ,同人は被害女性が本件の被害にあったまさにその時に,
同女と電話で話をしており,
電話越しに突然男性の声を聞くと同時に,被害女性の悲鳴を聞き,それ以降は同女に何度呼びかけても応答がなく,犯罪に巻き込まれたのではないかと心配していたところへ,同女の死を知らされ,同女の両親と共に来日し,捜査官に対し,

私がAさんの代わりに殺されたかった。

などと悲痛な心情を吐露している。
しかるに,被告人は,被害女性の遺族に対し,何ら慰謝等の措置を講じていない。
(4)社会的影響
本件は,深夜の住宅街で路上強盗が行われ,中国人の女子留学生の生命が無残にも奪われるなどしたうえ,その犯人が逃走してその後約8年間未解決であ
った凶悪事件であり,日本と中国の両国で広く報道され,両国民に大きな衝撃や,
恐怖心,
不安感を与えたものであって,
社会一般に及ぼした影響は大きい。
(5)小括
以上の諸事情に照らせば,第1事件に関する被告人の刑事責任は,これのみに限っても極めて重大である。
3
第2事件について
(1)犯行に至る経緯
被告人は,第1事件を起こした後,しばらく大阪を離れていたが,再び大阪に戻って来て,定職に就き,住居を定めて生活していたところ,平成19年11月に勤務先を辞め,その後すぐに再就職せずに所持金で競馬に興じるなどしていたため,同年12月には生活費に窮するようになり,平成20年1月末ころにしばらく疎遠になっていた実母や元交際相手の女性を頼り,金を無心したものの,いずれも断られたことから,同月末日が期限の家賃の支払ができないほどひっ迫し,再び刃物を使い強盗等を行って金を手に入れようと決意し,本件当日の同年2月1日,繁華街を徘徊しながら,犯行の機会をうかがったが,実行に移すことができず,人目に付きにくく酔客の多い,商業施設の共同トイレで,その利用者を相手に強盗しようと考えるに至り,第2の犯行に及んだ。以上によれば,被告人が金銭に窮するに至った経緯は,第1事件と同様であり,金欲しさによるその犯行動機は,第1事件と同じくまことに身勝手であって,酌むべき点は全くない。約7年半前に第1事件を敢行していながら,これに懲りることなく安易にも再び同種の行為に及ぶことを決意したのであるから,その思考方法は余りに短絡的に過ぎ,その行動傾向は極めて危険といわざるを得ない。
(2)犯行の態様
被告人は,強盗等に使う道具を準備し,万一に備えてペティナイフ様の刃物までも携えて,強盗行為に着手しており,犯行の態様は計画的である。
しかも,被告人は,被害者がすぐに金品を差し出さないのが分かると,同人に対し,十分な殺傷能力のあるペティナイフ様の刃物の刃体が,同人の体内にほぼ没入するほど深く突き刺すという,第1事件と同様の極めて危険で全く容赦のない行為に及んだのであるから,第1事件と同じく他人の生命を脅かすことを意に介さない苛烈で残忍な犯行といわなければならない。
(3)犯行の結果
被害者は,刃物で刺されるなどの強度の攻撃を加えられてもなお,残った力を振り絞ってトイレ内から自力で逃げ出したため,金品を強奪されることは免れたものの,当時30歳という若さで,その生命を奪われるに至った。この結果が,取り返しのつかない極めて重大なものであることはいうまでもない。この点について詳述すると,被害者は,大学を卒業後,不動産販売会社に就職して,平成19年11月ころには,初めて同業他社に勤める実父とともに仕事をし,同年12月ころには,医師から膀胱がんの疑いがあると宣告されて死の恐怖に直面したものの,後に良性腫瘍であることが判明したことにより,人生観が変わって,より一層熱心に仕事に取り組むようになるなど,充実した毎日を送っていた。
本件当日,被害者は,飲み会に参加して,仲間とともに楽しい時間を過ごしていた際,共同トイレで見知らぬ被告人から突然理不尽な攻撃を加えられ,必死の思いでこれに抵抗して,その場から自力で逃げ出し,刺された胸を押さえながら仲間のいるショットバーへ走って戻った後すぐに,30歳という短い生涯を終えなければならなかったのであり,その無念さは察するに余りある。また,被害者の死亡を知らされ,その変わり果てた姿を確認した父母や妹の喪失感,悲しみは極めて大きい。母親は,捜査官に対し,Cを殺した犯人に対

して,憎くて憎くてしかたがありませんし,恨んでも恨みきれるものではありません。と述べたうえ,約10か月が経過した本件公判の時点においても,毎

日のように般若心経を読み,被害者の部屋を自分の寝室にしたうえ,被害者の
Tシャツを着て眠るなどしており,父親も,本件の第1回公判から傍聴を続けたうえ,
公判での証人尋問の際にも涙ながらに,あんなむごい殺し方をしてる

んですから,司法に任せますが,極刑,死刑にしてほしいと私は思っております。などと述べ,さらに,被害者と仲が良く結婚して別居した後も連絡を取り

合っていた妹も,
捜査官に対し,お兄ちゃんを殺した犯人がこの世に存在する

ことが許せない。

などと述べ,いずれも峻烈な処罰感情を表している。しかるに,被告人は,被害者の遺族に対し,何ら慰謝等の措置を講じていない。
(4)社会的影響
本件は,
大阪有数の繁華街の中に建つ商業施設の共同トイレで発生しており,ごく普通の会社員が,週末の夜に仲間と飲食するなどしてくつろいでいた際,何の落ち度もないのに惨殺された事件として,多くの利用客らの一般市民を恐怖や不安に陥れたものであって,その社会的影響は大きい。
(5)小括
以上の諸事情に照らせば,第2事件に関する被告人の刑事責任もまた,これのみに限っても極めて重大であるし,第1事件の約7年半後にさらに敢行されたという点で,特に厳しく非難されるべきである。
4
一般情状事実について
被告人は,昭和45年に,当時20歳であったが,連続して,果物ナイフを突き付けるという態様による強盗2件及び強盗未遂1件,モデルガンを使った態様による強盗に失敗して逃走中に,被告人を逮捕しようと追い掛けてきた相手の左胸部をあいくちで1回突き刺し,加療約1か月間を要する傷害を負わせた強盗致傷1件等を敢行し,懲役6年の刑に服したにもかかわらず,その仮釈放後25年以上が経過した後とはいえ,第1事件において,被害男性を骨そぎナイフで負傷させる強盗殺人未遂行為の後,被害女性に対し,その胸部等を同ナイフで2回突き刺して殺害するという,強盗殺人行為に及んだうえ,さらに,その約7年半後
に,第2事件において,被害者に対し,ペティナイフ様の刃物で胸部等を数回突き刺して殺害するという,強盗殺人行為に及んだ。被告人の刃物による強盗行為に関する規範意識の欠如の程度は甚だしいうえ,被告人が,公判で各犯行の一部を否認して不合理な弁解をしていることをもあわせ考えると,被告人に対し,自らの行った本件各犯行を真しに反省して再犯の防止に努めることを期待することは困難であると評価せざるを得ない。
5
酌むべき事情について
まず,被告人は,第2事件の後,捜査機関に犯人と特定される前に,自らがその被害者を殺害した犯人であると名乗り出たものであり,その際に強盗目的を秘していたとはいえ,被告人の早期の出頭が第2事件の捜査の進展に寄与したことは否定し難いし,結果的に,約8年もの間未解決であった第1事件の解決に結び付いたことも明らかである。
また,財産的被害の点についても,第1事件では現金の被害は6000円程度にとどまっており,第2事件では財物奪取の点は未遂に終わっている。さらに,第1事件における強盗殺人未遂の被害男性の傷害の結果は,加療約10日間という,比較的軽微なものにとどまっている。
加えて,被告人は,前刑の仮釈放後,第1事件に至るまでの25年以上は,特に犯罪行為に及ぶことなく平穏に過ごしていたとうかがわれること,被告人が,被害者らやその遺族に対し謝罪の言葉を一応口にしているなどの,被告人のために酌むべき事情も認められる。

6
結論
以上を踏まえて,被告人に対する量刑について検討する。
本件は,強盗殺人2件及び強盗殺人未遂1件の事案であり,強盗殺人罪の法定刑は死刑又は無期懲役と定められているところ,死刑は,人の生命そのものを国家の手によって永遠に奪い去る究極の刑罰であるから,これを被告人に科すためには,本件の事案に照らしてまことにやむを得ない場合でなければならないこと
はいうまでもないが,
犯行の罪質,
動機,
態様ことに殺害の手段方法の執よう性,
残虐性,結果の重大性,特に殺害された被害者の数,遺族の処罰感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等諸般の情状を併せ考察し,その罪責が重大で,罪刑の均衡の見地からも,一般予防の見地からも,極刑がやむを得ないと認められる場合には,死刑を選択するのが相当であると解される。ところで,本件は,前記のとおり,被告人が同様の経緯・動機により,類似の手段による同種の犯行を重ねた事案であり,被告人は,強盗等の目的で,無関係で全く落ち度のない2人の若者の尊い命を無残にも奪い去ったうえ,1人の男性を殺害しようとして負傷させたのであって,その行為の残虐性,結果の重大性,同種行為の反復累行性は明らかであって,特に酌量すべき事情がない限り,死刑の選択をするほかない事案であるといえる。
そこで前記5の酌むべき事情について今一度検討すると,被告人が第2事件の1週間後に捜査機関に出頭したことは十分に考慮すべき事情ではあるが,本件の現場に被告人の遺留品が多く残されていたうえ,本件の現場に設置された防犯カメラには被告人の姿が撮影されていたから,被告人が犯人と特定されるのは時間の問題であったと考えられるうえ,第2事件で財物奪取に失敗した被告人が生活費に窮していたこともあって,警察に出頭したという面もあったと評価できること,被告人は,強盗目的があったことを供述すると罪が重くなるということを知りながら,あえてこれを隠して事実を申告していること,また,第1事件はDNA鑑定によって被告人の犯行と発覚したものであって,被告人が自主的に事実を申告したものではないこと,被告人が公判で不合理な弁解に終始していることから,被告人が真に悔悟しているとは認められないことなどからすると,死刑回避を相当とするような特に酌量すべき事情は見当たらないというべきである。そうすると,
本件については,
罪刑均衡の見地からも,
一般予防の見地からも,
被告人に対しては極刑をもって臨むほかない。
よって,主文のとおり判決する。

(求刑

死刑,骨そぎナイフの没収)

平成21年4月1日
大阪地方裁判所第4刑事部

裁判長裁判官

細井正弘
裁判官

秋田志保
裁判官

池上弘
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