判例検索β > 平成17年(行ウ)第14号等
各違反公金支出金返還請求事件
事件番号平成17(行ウ)14等
事件名各違反公金支出金返還請求事件
裁判年月日平成20年2月29日
法廷名長野地方裁判所
判示事項県が,知的発達障害者が参加して県内で開催される国際的な競技会であるスペシャルオリンピックス世界大会の企画,組織化,運営実行に関する事業を行うこと等を目的として設立された特定非営利活動法人に,県の職員を研修のためとして派遣したことは,地方公務員法35条に違反し,同職員に対し給料を支給したことが,地方自治法204条の2に違反するなどとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき市長個人に損害賠償の請求をすること及び前記特定非営利活動法人に不当利得の返還の請求をすることを市長に対し求める請求が,棄却された事例
裁判要旨県が,知的発達障害者が参加して県内で開催される国際的な競技会であるスペシャルオリンピックス世界大会の企画,組織化,運営実行に関する事業を行うこと等を目的として設立された特定非営利活動法人に,県の職員を研修のためとして派遣したことは,地方公務員法35条に違反し,同職員に対し給料を支給したことが,地方自治法204条の2に違反するなどとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき市長個人に損害賠償の請求をすること及び前記特定非営利活動法人に不当利得の返還の請求をすることを市長に対し求める請求につき,地方公務員に対する研修は,勤務能率の発揮及び増進に寄与するものであることを要するところ,前記職員は,前記世界大会を運営するための組織の構築,多方面への配慮が必要になる種々の運営計画の策定及び実行,さらに人事管理作業等多種多様の作業を行い,広い視野や柔軟な試行等が求められたと推認できることから,前記業務は,地方分権が推進される中で要求される政策形成能力,創造的能力,法務能力,柔軟性等の向上に寄与するものであったといえるし,他の職場や他の地方公共団体及び一般の地域住民等様々な人々と交流して相互に啓発しあう機会を持ち,県の組織とは異なる風土や業務を経験することにより,幅広い視野や柔軟な思考力を養成する機会になったものと認められ,前記派遣は,前記職員の勤務能率の発揮及び増進に寄与するものであり,地方公務員法39条の研修にあたるから,前記職員に対する給与の支給が地方自治法204条に反するものではないなどとして,前記請求を棄却した事例
裁判日:西暦2008-02-29
情報公開日2017-10-19 19:03:44
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
主1文
甲事件の訴えのうち,平成15年12月ないし平成16
年7月にされた給与の支出に係る部分の訴え(被告に,P
1に対して損害賠償請求をするように求める訴えのうち8
268万7434円の損害賠償請求をするように求める訴
え,P2に対して不当利得返還請求をするように求める訴
え)を却下する。

2
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由

第1

請求

(甲事件)
1
被告は,P1に対し,3億0160万6649円及びこれに対する平成17年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
2
被告は,P2に対し,8268万7434円及びこれに対する平成16年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
3
被告は,特定非営利活動法人P3に対し,2億1891万9215円及びこれに対する平成17年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。

(乙事件)
1
被告は,P1に対し,1億2054万9758円及びこれに対する平成17年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
2
被告は,特定非営利活動法人P3に対し,1億2054万9758円及びこれに対する平成17年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。

第2

事案の概要
○○世界大会は,知的発達障害者が参加する国際的な競技会であり,平成17年2月26日から同年3月5日まで長野県でその冬季世界大会が開催された(以下,同期間に長野県で開催された○○冬季世界大会を本件世界大会という。)。
本件当時長野県知事であったP1(以下補助参加人P1という。)は,地方公務員である県の職員を研修命令により,P2及び特定非営利活動法人P3(以下P3という。)に派遣した(以下,この研修命令による派遣を本件長中期派遣といい,本件長中期派遣により派遣された職員を本件長中期派遣職員という。)。また,補助参加人P1は,県職員を研修目的の旅行命令票による職務命令(以下研修旅行命令という。)により,P3に派遣した(以下,この研修旅行命令による派遣を本件短期派遣,本件短期派遣により派遣された職員を本件短期派遣職員,本件長中期派遣と本件短期派遣を併せて本件各派遣,本件長中期派遣職員と本件短期派遣職員を併せて本件各派遣職員という。)。
このように,本件各派遣は職員の研修のための派遣として行われているところ,原告らは,本件各派遣(甲事件においては本件長中期派遣,乙事件においては本件短期派遣)はP2やP3に対する人的支援を目的として専らP2やP3の業務に従事させるためにされた派遣であり,研修の目的及び実態がないから,本件各派遣職員への本件各派遣期間中の給与の支払は違法であると主張して,地方自治法242条の2第1項4号本文に基づき,被告に対し,補助参加人P1に対して上記給与相当額の損害賠償の請求をすることを,P2及びP3に対してそれぞれ派遣された職員に係る給与相当額の不当利得返還の請求をすることを求めた。
本件における主要な争点は,本件各派遣に研修の目的及び実態があったか否かである。
1
前提となる事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。)
(1)

当事者等
原告らは長野県の住民であり,被告は長野県の執行機関である。
補助参加人P1は,本件当時,長野県知事の職にあった者である。P2は,本件世界大会の企画,組織化,資金調達,運営実行に関する事業
を行うこと等を目的として,平成13年11月26日に設立された特定非営利活動法人である(甲事件甲4)。
補助参加人P3は,本件世界大会に関する企画,組織化,地域における実施態勢整備,資金調達,運営の実行に関する事業を行うこと等を目的として,平成16年7月7日に設立された特定非営利活動法人である(甲事件甲5)。
(2)

○○について
昭和43年,P4財団(昭和21年に設立された,知的発達障害者に対する社会対応の向上等のために活動する財団である。)の支援等により,知的発達障害者が一同に集まる競技会として○○と呼ばれる国際大会が開催された。同国際大会はアメリカ合衆国イリノイ州シカゴの競技場で行われ,アメリカ合衆国26州とカナダから約1000人が参加した。その後,同財団の支援により,昭和43年に○○が非営利団体として組織化された。○○の組織は,本部組織であるP5(P5は,○○の活動を行う各国組織の認定や世界大会の主催等をしている。)を中心に世界165か国以上に広がり,知的発達障害者らに対して,様々なスポーツトレーニングとその成果の発表の場である競技会を年間を通じて提供しており,競技会として,地区大会,全国大会,世界大会などを開催している。日本においては,特定非営利活動法人P6(以下P6という。平成13年5月に特定非営利活動法人として認可された。)が,○○の活動を推進する正式な組織としてP5から認証を受け,○○の活動の普及促進,○○全日本大会の開催,○○世界大会への選手の派遣等を行っている。

○○の活動をする世界各地の組織は,昭和43年にシカゴで開催された上記国際大会以後,○○世界大会を開催し,昭和52年に第1回冬季世界大会を開催してからは,2年に1度,夏季大会と冬季大会を交互に開催してきた。本件世界大会までに,夏季大会が11回(アメリカ合衆国で10回,アイルランドで1回),冬季大会が7回(アメリカ合衆国で5回,オーストリアで1回,カナダで1回)開催されており,本件世界大会は,8回目の冬季世界大会であった。本件世界大会には,84の国と地域から2575人の知的発達障害者がアスリートとして参加した。

(甲事件乙16,21の2)
(3)

本件世界大会について


P5は,本件世界大会招致のための応札要領を平成12年4月に発表
し,特定非営利活動法人化する前のP6に対し,日本開催の可能性を打診した。P6は,知的発達障害者や○○の活動への社会における理解の向上を期待できるとして,本件世界大会を招致する方針を決定し,平成12年11月,P6の関係者を中心とするP7を発足させた。
P7は,第18回オリンピック冬季競技大会及び1998年パラリンピック冬季競技大会が開催された長野県を候補地とする招致企画書を提出した。P5の候補地選定委員による会場地視察等を経て,平成13年3月,P5の理事会において,長野県が本件世界大会開催の最優先候補地に選出された。
これを受けて,P6理事長及びP7委員長であったP8を委員長とするP9準備委員会が発足した。同準備委員会は,本件世界大会運営の基本条件についてP5と交渉を進め,平成13年6月にはP5が本件世界大会の長野県開催決定を発表した。また,上記準備委員会は,P10に対しP2理事長に就任するよう依頼した。P10がP2理事長就任を受託し,P2は任意団体として活動を開始し(平成13年11月に特定非営利活動法人として認定された。),P5との大会協定に関する交渉その他の大会準備を始めた。そして,平成15年6月28日,P2は,P5との間で,本件世界大会の大会協定を締結した。

P6及びP2は,本件世界大会のプレ大会として平成16年2月に○○を開催し,本件世界大会運営における課題を検討するなどし,開催地である長野県が主体となった運営体制の確立に臨んだ。
このような中,同年5月,本件世界大会運営を支援するために,坂口力厚生労働大臣(当時)を名誉会長,社団法人P11会長P12(当時)を会長とするP13が発足し,さらに,大会運営を責任をもって行う組織として,平成16年7月7日,上記P12を理事長とするP3が設立された。そして,同月14日,P2は,P3との間で本件世界大会運営に関する業務委託契約を締結し,本件世界大会の運営業務のうち資金調達業務を除く業務をP3に委託した。


本件世界大会は,平成17年2月26日から同年3月5日まで8日間にわたり開催され,アルペンスキー,クロスカントリースキー,スノーボード,スノーシューイング,スピードスケート,フィギュアスケート,フロアホッケーの7競技62種目が,長野県α,β,旧γ,δ,長野市の各会場で行われた。参加人員は,選手団2575人を始め,競技役員,ボランティア,メディア等合計約1万5700人,競技観戦者約9万1000人,トーチラン(聖火リレー)参加者約11万人,トーチラン観客数約5万6000人であった。


P5の会長兼最高経営責任者は,本件世界大会について,知的発達障害者に対する個人的,社会的思いやりを高める決意の場となり,日本が世界を真にリードできることを示した大会であった,過去の○○冬季世界大会に比して最も優れた大会であったなどと評した。また,本件世界大会の競技運営のレベルの高さについて,アスリート,コーチなどから高い評価を得た。
(甲事件乙16)
(4)

本件各派遣について
平成15年11月28日,長野県は,P2との間で,長野県職員研修委託契約(甲事件甲1)を締結し,同年12月1日から順次,研修命令により県の職員をP2に派遣した(本件長中期派遣)。上記研修委託契約では,次のことが合意された。
(ア)

1条

長野県は,職員研修をP2に委託し,P2はこれを受託す

る。
(イ)

2条

職員研修の内容は,長野県とP2で協議の上別途定める。

(ウ)

5条

研修生は,研修期間中においては,P2の定める者の指揮監

督により研修を受講するものとする。
(エ)

7条1項

研修生の給料及び諸手当等の人件費は,すべて長野県の

負担とし,長野県はP2に請求しないものとする。
2項

研修生が研修期間中,P2の命令により出張する場合,こ
れに要した費用は,P2が負担する。


平成16年7月7日にP3が設立されて本件世界大会運営業務をP3が担うことになったのを契機に,補助参加人P1は,P2に対する本件長中期派遣を同月31日までとするとともに,同年8月1日,本件長中期派遣職員に対し,派遣終期を平成17年3月31日までとして平成16年9月1日からP3での派遣研修を命じた。
本件長中期派遣職員の氏名や派遣期間等は,別紙2長中期派遣一覧表のとおりである。なお,P14,P15,P16及びP17は平成17年5月31日まで,P18及びP19には同年6月30日まで,P20,P21,P22,P23及びP24は同年9月30日まで,P25は同年11月30日まで,P26は平成18年3月31日まで,それぞれその派遣研修期間の延長の命令を受けたものであり,また,P23は,平成19年9月30日をもって長野県の職員を退職した(甲事件乙14,弁論の全趣旨)。

平成16年8月26日,長野県は,P3との間で,長野県職員研修委託契約(甲事件甲2)を締結し(以下,この研修委託契約と上記アの研修委託契約を併せて本件各研修委託契約という。),同年9月1日,長野県職員をP3に派遣した。上記研修委託契約では,次のことが合意された。
(ア)

1条

長野県は,職員研修をP3に委託し,P3はこれを受託す

る。
(イ)

2条

職員研修の内容は,長野県とP3で協議の上別途定める。

(ウ)

5条

研修生は,研修期間中においては,P3の定める者の指揮監

督により研修を受講するものとする。
(エ)

7条1項

研修生の給料及び諸手当等の人件費は,すべて長野県の

負担とし,長野県はP3に請求しないものとする。
2項

研修生が研修期間中,P3の命令により出張する場合,こ
れに要した費用は,P3が負担する。


補助参加人P1は,別紙3短期派遣一覧表の派遣者欄記載の職員に対し,研修旅行命令を発し,平成17年1月17日から順次,研修旅行命令により県の職員をP3に派遣した(本件短期派遣)。
本件短期派遣職員の氏名や派遣期間等は,別紙3短期派遣一覧表のとおりである(乙事件甲3)。

(5)

研修に関する長野県の規程等
地方公務員法39条1項は

職員には,その勤務能率の発揮及び増進のために,研修を受ける機会が与えられなければならない。

と規定しており,長野県では,同条3項を受けて,職員の研修に関する規程(甲事件乙1。以下長野県研修規程という。)により必要な事項を定めている。長野県研修規程では,職場研修,自己啓発,職場外研修の3つの研修区分を設け,職場外研修の一つとして派遣研修が挙げられている。派遣研修における研修内容は国,他の地方公共団体,民間企業等へ職員を派遣し,知識及び技能を修得するための研修とされている。また,民間企業派遣研修の実施について,民間企業派遣研修実施要綱(甲事件乙3)を定めている。
(6)

住民監査請求
甲事件についての住民監査請求
甲事件原告らは,平成17年7月29日,長野県監査委員に対し,甲事件に関して住民監査請求をした。監査委員は,平成16年7月28日以前に支給された給与に関する請求は監査請求期間を経過しており監査の対象とならないと判断したが,その余の請求については,242条8項の合議が整わず,監査の結果について決定をすることができなかった。そして,同年9月22日,甲事件原告らに対してその旨の監査結果が通知された。(甲事件甲6)


乙事件についての住民監査請求
乙事件原告らは,平成18年2月17日,長野県監査委員に対し,乙事件に関して住民監査請求をした。監査委員は,同年4月13日付けで乙事件原告らの主張には理由がないと判断し,翌14日,その旨乙事件原告らに通知した。(乙事件甲8)

2
本案前の当事者の主張
甲事件についての監査請求の監査請求期間の経過の有無について
(原告らの主張)
本件各派遣は,本件各研修委託契約に基づいて順次職員を派遣してされたものであり,本件各派遣職員の業務はいずれも本件世界大会の準備及び運営であったのであるから,一連のものとして継続して行われたものである。そして,P3への派遣は平成18年3月31日まで継続されていたのであるから,監査請求期間の起算日は同日とすべきであり,甲事件についての住民監査請求は監査請求期間内にされたものである。
(被告の主張)
原告らは平成17年7月29日に甲事件に関して監査請求をしたのであり,平成16年7月29日よりも前に支出負担行為,支出命令,支出行為がされた部分についての請求は,監査請求期間を経過している。
長野県職員に対する毎月の給与の支給は毎月16日に支出行為がされることにより完了するから,平成16年7月以前の給与の支払についての監査請求は監査請求期間を経過した後にされたものである。そして,平成16年7月以前に支給された給与の合計は8268万7434円である(乙13)。よって,本件訴えのうち8268万7434円の支払を求める部分の訴えは,監査請求の前置を欠くものであり不適法である。
3
本案の当事者の主張
(原告らの主張)
(1)

本件各派遣及び本件各派遣職員に対する給与支出の違法性について本件各派遣が本件世界大会の準備・運営のための人的支援としてされたものであり,研修の目的も実態もなかったことは,以下の(ア)ないし(カ)から明らかであって,他の公益法人等に対する派遣とその実態は何ら異ならないものである。
(ア)

本件各派遣職員
本件各派遣職員は,福祉と関係のある部署に勤務したことがない者,
係長などの役職にあり経験豊富な者,既に国際スポーツ大会等の運営を経験したことがある者などであり,いずれも研修の必要がない者であった。また,本件短期派遣においては,仕事に余裕のある職員を派遣した。
(イ)

本件長中期派遣職員は総勢32名でありP3事務局組織(130

名)の約4分の1を占めている。しかも,P3の事務総長,事務局長,各部の部長といった事務局の意思決定に関わる役職に就き,本件世界大会の準備,運営のための活動をしていた。
P3の事務局を総括する立場にある事務総長であったP23も本件長中期派遣職員であるが,研修先機関の事務総長が研修生ということ自体あり得ない。
また,P23については,事務総長に就くことが内定した後に県職員となって研修派遣される決定がされた上,長野県職員としての身分があったのはP3の事務総長の地位にあった期間だけであるし,P23は,業務,残務整理を理由として,研修期間の延長を申し出た。
よって,研修が名目的なものに過ぎないことは明らかである。
(ウ)

派遣された職員に対しては,研修目的であることについて明確な説
明がなく,研修受講決定書の交付もなかった。また,本件短期派遣職員の旅行命令票の用務の内容欄には,旅行命令が研修のためであれば研修と記載されるはずであるのに,P3行啓用務,P3事務局報道用務など具体的に従事するP3の業務内容が記載されていたり,○○ボランティア,○○冬季世界大会支援用務,○○行政支援などと明らかにP3の業務を支援する目的が記載されており,職員に研修という認識はなかった。
(エ)

そもそも派遣先であるP2及びP3は設立間もない公益法人であり
研修先として通常考えられない。
(オ)

本件各研修委託契約においては,職員研修の内容について長野県とP2ないしP3との協議の上定めるものとされていたが,このような協議はされなかった。また,同契約においては,P2ないしP3の定める者の指揮監督により研修を受講するものと定められていたが,本件各派遣職員を指揮監督する者は定められなかった。さらに,研修計画やプログラムなども用意されず,講義,見学,実地研修などの研修は全く実施されなかった。本件各派遣職員から研修に関しての報告がされることはなかったし,研修の評価もされなかった。また,研修終了時期についても派遣された職員自身が判断しており,研修終了後も民間企業派遣研修実施要項において提出が義務づけられている研修結果報告書の提出もなく,研修修了証書の交付もなかった。
(カ)

本件各派遣は,P2やP3からの職員派遣の要請に応じてされたも
のであり,補助参加人P1や本件各派遣の担当者も,県議会における答弁において,本件各派遣が人的支援である旨述べており,研修目的については全く述べられていない。

上記のとおり本件各派遣の実態は研修ではなく,地方公務員法39条,長野県研修規程及び民間企業派遣研修実施要綱による研修に当たらないものであって,本件各派遣職員は,派遣期間中,長野県の職務ではないP2やP3の業務に専ら従事することになったから,本件各派遣は職務専念義務(地方公務員法35条)に違反するものである。そして,本件各派遣は,本件各派遣職員に対する給与の支出と直接結びつくものであり,密接・不可分一体の関係にあるから,本件各派遣が違法である以上,本件各派遣職員に対する給与の支出も違法である。
また,長野県の職務ではないP2やP3の業務に専ら従事した本件各派遣職員に対する給与の支給については条例上何の定めもなく,本件各派遣職員に対し給与を支給することは,地方自治法204条の2及び地方公務員法25条1項に違反する。
さらに,本件各派遣の実態は人的援助のための公益法人への派遣であるから,公益法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律(以下公益法人等派遣法という。)によって派遣されなければならないものであり(同法1条参照),派遣された職員の給与は派遣先で負担せねばならないものである(同法6条1項)から,派遣期間中の給与支出は同条に違反する。
(2)

補助参加人P1の故意又は過失について
補助参加人P1は,研修目的がないのに,研修命令や研修旅行命令による
違法な本件各派遣をし,本件各派遣職員に職務専念義務違反行為をさせた上,本件各派遣職員に給与を支出したのであり,故意又は過失がある。(3)

本件各研修委託契約が私法上無効であることについて
本件各研修委託契約は,公益法人等派遣法を脱法するために締結されたも
のであり,公序良俗に反して無効である。
(4)

損害額について
本件長中期派遣に係る給与等人件費の額について
長野県は,本件長中期派遣職員に対し,P2への派遣期間中8268万7434円を,P3への派遣期間中2億1891万9215円を支出した。


本件短期派遣に係る給与等人件費の額について
(ア)

長野県職員(一般行政職)の平均給与月額は41万5261円であ
るから,1か月20日として算出した日額平均給与額は2万0763円である。
また,平成16年度の一人当たりの期末勤勉手当が186万8000円であることから,期末勤勉手当の日額平均額は7783円(上記期末勤勉手当額を240日(1か月20日×12か月)で除したもの)である。
本件短期派遣における派遣日数は4223日であるから,本件各短期派遣に係る人件費の額は,日額平均給与額と期末勤勉手当の日額平均額の合計額2万8546円に本件短期派遣における派遣日数4223日を乗じて算出した1億2054万9758円となる。
(イ)

被告は,旅行命令によってP3に派遣された213名の当時の給料
月額(諸手当は含まないもの)を1日を単位とする金額に除し,これに長野県職員各自の計画段階での研修日数を乗じた金額の合計額が4783万4866円であると主張するが,諸手当を含まない点で不適切であるし,計画段階での研修日数4172日の根拠も不明である。
被告は,派遣された職員の出勤状況を把握しているはずであるから職員ごとの派遣日数を特定することは可能であるし,超過勤務についても旅行命令簿において旅行命令中の超過勤務時間の特定が可能であるにもかかわらず,本件短期派遣における人件費の額を明らかにしないのであり,上記原告らの主張する額がより実態に近い額であるというべきである。
(被告の主張)
(1)

本件各派遣及び本件各派遣職員に対する給与支出の違法性について本件各派遣は,職員の資質向上や能力開発を目的としてされたものであって,公益法人等派遣法が予定する行政主体が施策の推進を図るための派遣ではない。長野県は,○○という二度と得難い機会において,以下の(ア)ないし(ウ)の眼目のもと,職員を派遣して研修をさせることにしたのであり,本件各派遣には研修の目的も実態もあったから,本件各派遣は違法ではないし,本件各派遣職員に対する給与の支出も違法ではない。(ア)

本件世界大会の運営等に県職員が参加し,経験を積むことは,県職
員の意識の高揚を図るとともに,県行政の効率的な執行に資すると判断された。すなわち,本件世界大会は,知的障害者への理解を深め人権感覚を醸成させること,本件世界大会の運営を通じて政策立案能力及び管理能力を育成させること,行政,NPO及びボランティアとの協働に必要な感覚を醸成させること,大会開催市町村との連絡調整能力を育成させることができるものであった。
(イ)

本件世界大会の開催については民間主導による準備・運営が予定さ
れていたことから,県職員がその準備・運営に参加することで,民間企業における実務のうち長野県の実務に寄与するものを体験,会得することができ,職員の資質の向上,能力開発等を図ることができ,今後の公務遂行に有益であると判断された。
(ウ)

本件世界大会は,オリンピック,パラリンピック,○○の3つのオ
リンピックが同一地域で開催されるという世界的に意義のある大会であり,P3は,本件世界大会の運営について,長野オリンピック及び長野パラリンピックの財産を最大限活用し,アスリートを主役とする,簡素でもホスピタリティあふれる運営を目指し,大会終了後には,本件世界大会で得られた財産を継承,発展させることを予定していたことから,本件世界大会の運営に県職員を参加させることは,直接参加した県職員だけでなく,他の職員に対しても,本件各派遣職員を通じて研修の効果を波及させることができると判断された。

そして,本件各派遣職員は,研修先での業務を通じて通常の業務では得難い経験をし,資質の向上,能力開発ができたのである。
原告らが主張の前提とする研修は座学での研修を主とするものであり,研修先の業務を通じての研修を否定するものであって,現代における研修の実情に沿わないものである。


なお,本件の研修は研修所で行われる研修ではないから,研修プログラムや研修受講決定書などがなかったことは当然である。また,研修結果報告書については,民間企業派遣研修においても報告書の提出は求めない取扱をしていたのであり,本件についても従前のこの取扱に従って,報告書の提出は求めなかった。
さらに,P23についても,事務総長の役職で業務をしたとはいえ,暗中模索の中,部長らとの議論を経て意思決定をするなどしたり,本件世界大会の運営のために地元との連携等種々苦心することがあったのであり,研修の実態を持つものであった。また,同人は,本件長中期派遣が終了した後には,県職員として県の労働関係の重要な施策推進に関する仕事をするはずであったのであるが,やむを得ない事情により退職することになったのであり,このことが研修の実態を左右することにはならない。(2)

本件短期派遣に係る給与等人件費の額について
本件短期派遣は派遣研修期間の全てを研修に充てるものではなく,1日のうち派遣先から職場に戻り通常業務を行うこともあった。計画段階では本件短期派遣研修の時間を定めていたが,実際に本件短期派遣研修に充てた時間については管理しておらず不明である。よって,本件短期派遣における人件費を按分計算により算出することはできない。
また,住居手当,通勤手当,扶養手当,勤勉手当等の手当は,勤務時間をその算定根拠にしていないため按分になじまず,本件短期派遣研修に相当する部分の金額を算定しえない性格のものである。超過勤務手当,夜勤手当等の勤務時間を算定根拠とする手当もあるが,上記のとおり本件短期派遣研修に充てられた時間が不明である以上,本件短期派遣研修に相当する部分の金額を算定することはできない。


なお,実際に派遣された職員(派遣された職員213名)の当時の給料月額(諸手当は含まない。)を1日を単位とする金額に除した上,計画段階における派遣職員ごとの研修時間(なお,この研修時間を合計すると4172日に相当する。)を乗じる方法で人件費を算出してみると,総額は4783万4866円となる。
(補助参加人P3の主張)
(1)

本件各派遣及び本件各派遣職員に対する給与支出の違法性について本件世界大会における研修の意義は,被告の主張のとおりである。本件世
界大会は,職員の研修にとっても好適な機会であったのであり,県が,職員を研修のために派遣し,これに給与を支給することは適法である。(2)

本件各研修委託契約が私法上無効にならないことについて
仮に本件派遣命令が違法であったとしても,直ちに本件各研修委託契約が
無効となるものではない。また,本件各研修委託契約が地方公務員法24条1項,30条,35条の趣旨に反するものであったとしても,同法24条1項は給与の基準を定めた一般的規定にすぎないし,同法30条及び35条は職員の服務義務を定めた規定にすぎないから,これらの規定が,地方公共団体と私人間の契約の効力に直ちに影響を及ぼすものではない。
また,本件各研修委託契約締結時におけるP3への地方公務員派遣に関する県民世論や県議会における議論の状況からすると,本件各派遣が公序良俗に反する反社会性の強い違法行為であるとの社会的認識が形成されていたとはいえないし,本件各派遣が恒常的な営利目的の民間企業への派遣ではなく本件世界大会の準備や開催期間の短期間の派遣であること,P3が本件世界大会予算に従った運営と財務処理を完了していることなどからすると,本件各研修委託契約を無効としなくとも上記各規定の趣旨を没却する結果を招くことにはならない。
さらに,本件各派遣が研修のためのものであると認められなくとも,県民の世論や県議会の議論の状況からすると,職員派遣によりP3を支援し,本件世界大会の成功のために行政が尽力することは,県民から一定の評価を得られている。
以上のことからすると,本件各研修委託契約が私法上無効であるということはできず,同契約に基づきP3が派遣された職員の給与負担を免れたことについて不当利得返還義務を負うことはない。
第3

当裁判所の本案前の判断(甲事件についての監査請求の監査請求期間の経過の有無について)
長野県職員に対する毎月の給与の支出は毎月16日にされる(弁論の全趣旨)から,甲事件についての監査請求は,平成16年7月分までの給与の支出がされてから1年を経過した後に行われたことになる。なお,本件各派遣に係る給与のうち平成16年7月分までに支出された給与は合計8268万7434円であった(甲事件乙13)。
この点,原告らは,本件各派遣が一連のものとして継続的に行われたから,本件における監査請求の起算日はP3への派遣の最終日とすべきであると主張するが,県の職員に対する給与の支払は,毎月支出命令がされて支出されるのであり,各別の財務会計行為であるから,監査請求期間も各別に進行するというべきである。
そうすると,甲事件についての監査請求は,平成16年7月分以前の給与の支出については,財務会計行為がされた日から1年を経過した後にされたものである。そして,監査請求期間を徒過したことに正当な理由があるとは認められない。
したがって,甲事件についての監査請求のうち,平成16年7月分以前の給与の支出に係る部分は,監査請求期間を経過した後にされた不適法なものである。そして,平成16年7月分までの給与は,P2派遣期間に係る給与に相当し,その額は8268万7434円である(前記第2の1(4),甲事件乙13)から,甲事件の訴えのうち,被告に,P1に対して8268万7434円の損害賠償請求をするように求める部分の訴え,P2に対して不当利得返還請求をするように求める訴えは,適法な監査請求を経ない不適法な訴えである。
第4
1
当裁判所の本案についての判断
地方公務員に対する研修について
地方公務員に対する研修は,その職員の勤務能率の発揮及び増進のために行われるものである(地方公務員法35条1項)から,勤務能率の発揮及び増進に寄与するものであることを要する。
そして,平成9年11月14日に自治省(当時)が策定した地方自治・新時代に対応した地方公共団体の行政改革推進のための指針(甲事件乙4),長野県総務部人事課が平成12年4月に策定した人材育成に関する基本的考え方-長野県人材育成基本指針-(甲事件乙5),地方公務員制度調査研究会報告(甲事件乙10)によれば,これらの指針等において,地方分権の推進が検討される中で,地方公共団体の職員には,政策形成能力,創造的能力,法務能力等が必要とされ,従来の発想にとらわれることなく,知恵を出し合い,新たな発想のもとで,臨機応変に対応できる柔軟性をもち,持てる力を職務のなかで最大限に発揮することが求められており,これを達成するために,他の職場や他の地方公共団体及び一般の地域住民等様々な人々と交流して相互に啓発しあう機会を持つことや,県の組織とは異なる風土や業務を経験することにより,幅広い視野や柔軟な思考力を養成することが重要であると指摘,報告されていることが認められる。
よって,地方公務員に対する研修についても,上記能力等の維持増進に寄与する内容の研修が求められているといえる。
2
本件各派遣職員の本件各派遣による業務内容等
証拠(甲事件乙14ないし20,証人P23,同P26,同P27,同P28,同P29,同P30)及び弁論の全趣旨によれば,本件各派遣職員の業務内容等について以下のとおり認められる。
(1)

P3に派遣された本件長中期派遣職員は,P3において別紙2長中期派
遣一覧表P3での役職名欄記載の部において次のアないしクの内容の業務に従事し,P2に派遣された本件長中期派遣職員も,P3が設立するまでの間でP2が行っていた下記各業務に従事した。

競技・会場運営業務
競技・会場運営部に派遣された職員は,国際競技連盟規則に適合した最高水準のスポーツ競技を提供すること,アスリートに最高水準のスポーツ成果を上げる機会を提供すること,競技会場の全ての施設が公式○○冬季競技規則で定める仕様に合致することに留意して競技・会場運営準備を行った。
派遣された職員は,各競技について専門的知識等をもつ者との協議をもち,また視察や指導助言を受けながら,競技運営準備,競技会場施設整備,競技用備品等の調達配備を行った。○○以外に国際競技大会がないフロアホッケーやスノーシューイングについては,円滑な競技運営のために,審判員講習会,競技シュミレーションを企画準備し実施した。また,各競技の円滑な運営のために,コーチハンドブックやチームインフォメーションマニュアルの作成,スポーツインフォメーションデスクの設置など選手団等が必要な情報を入手できるような企画実行し,ヘッドコーチミーティングや協議役員ミーティングなどにより協議運営上の問題点等を協議する機会も企画準備し実施した。
さらに,大会期間中の,地域の人々などとアスリートの交流,知的発達障害者への冬季スポーツの体験機会,○○の普及等を目的とするデモンストレーションイベントの企画準備をし実行した。
平成17年2月1日からは,大会時体制となり,各会場において会場準備が進められた。部長,係長,班長が各会場運営業務の統括役とされた。

輸送・宿泊業務
輸送・宿泊部に派遣された職員は,安全で正確な輸送と快適な宿泊の提供が本件世界大会の運営にとって最も基本的かつ重要な事項であるとして,計画の策定及び実施にあたった。
派遣された職員は,輸送車両の運行計画の策定及び車両の確保,駐車場の確保,輸送業務全般の統括と指示を行う輸送センターの設置,各会場に輸送部,輸送係の設置,シャトルバス等の運行及びその管理,駐車証の発行,駐車場の管理,交通整理及び誘導,大会運営本部や各会場等との連絡調整の企画準備をし実行した。
また,宿泊と食事について,同一レベルのサービスが提供できるようP5が定める宿泊施設のガイドラインに基づき基本計画を策定し,関係機関の協力を得るなどして選手団の他大会運営関係者の宿泊施設の確保,配宿,食事の手配をした。さらに,宿泊本部の設置,各宿泊施設と本部との連絡調整,宿泊者に対する案内や食事のサポート態勢の企画準備をし実行した。

広報報道業務
広報報道部に派遣された職員は,報道機関への情報提供,カウントダウンイベントの実施,各種広報素材・印刷物(ポスター,パンフレット,大会ガイドブック,のぼり旗等)の作成,各種会合での広報・協力依頼,インターネットを通じた情報提供の企画準備をし実施した。


式典業務
式典部に派遣された職員は,開会式,閉会式,表彰式等の式典の内容,会場準備,出演者やゲストの接遇,会場内の人員配置等を企画準備し実施した。


ノンスポーツプログラムについての業務
ノンスポーツ部に派遣された職員は,以下のノンスポーツプログラムの企画準備をし実施した。ホストタウン部に派遣された職員は,ホストプログラムの企画準備をし実施した。
(ア)

トーチラン
500万人トーチランとして本件世界大会の広報等のために平成

16年9月12日から平成17年2月13日まで北海道から沖縄まで全国47都道府県420箇所で実施された。P3は長野県内のトーチランの企画運営をした。トーチランを実施する市町村,所轄の警察署,道路管理者など関係機関と調整しながらトーチランコースを計画し,出発式,到着式等の式典,市町村での交流会等の企画準備をし実施した。(イ)

ホストタウンプログラム
ホストタウンプログラムは,参加者の旅の疲れを取り時差を解消する
こと,気候・食事・文化になじむこと,地域との交流を通じて開催地の人々を理解すること,トレーニングを行い体調管理をすることなどを目的として,各国の選手団受入れ地域ごとに催しをする企画であり,2003年のスペシャルオリンピック夏季世界大会から実施されるようになり,冬季大会において正式に実施したのは長野が初めてであった。P3の設立にともないホストタウン部を設置し,各市町村に申入れをし,近隣県にも協力を依頼した。受入れ主体となる各地域を個別に訪問し,○○及びホストタウンプログラムの趣旨,意義等を説明して各地域の主体的な取組みを促し,また,どの国の選手団をどの地域に受入れさせるかの調整をした。
(ウ)

学校教育への取組み
若年世代に知的発達障害を正しく理解させることを主な目的として,
○○においては学校教育分野での積極的な取組みが行われており,本件世界大会においてもその開催をきっかけとして長野県内の各学校において障害のない児童・生徒が知的発達障害と○○活動を理解する授業が実施された。P3は,各校共通の教育プログラムとして効果的に実施していくために○○に関する知識と経験を有する者に委嘱したり,各校に学校教育プログラム担当者を配置した。
また,児童生徒が本件世界大会に参加することで知的発達障害者に対する理解を深めるきっかけになって欲しいとの意図で一校一参加運動と称して,学校,クラス,クラブ活動単位での競技観戦,トーチラン,ノンスポーツプログラムへの参加を呼びかけたり,競技会場地から離れて位置する学校の児童生徒向けにアスリートを学校に招いて交流する等のプログラムを設けた。
(エ)

その他,アスリートに健康教育を実施するなどしたヘルシーアスリ
ートプログラム,アスリートやアスリート以外の知的発達障害者,地元住民が交流する場としてεの設置など,様々な催しの企画準備をし実施した。

危機管理業務
危機管理部に派遣された職員は,警察,消防,医療機関,宿泊施設などの協力を得ながら,警備の重点化,アスリートの医療情報の一元化の体制をとり,24時間体制で危機事案に迅速に対応できる体制の構築に努めた。派遣された職員は,警備の危機管理マニュアルの作成,自主警備を含めた警備体制の構築,警察や消防への協力依頼,医療救護体制の構築,医療情報管理,保険への加入を企画準備し実施した。


要員・ボランティアについての業務
要員・ボランティア部に派遣された職員は,運営要員の必要人数の試算,募集,ボランティアに対する研修,ボランティアの配置や処遇について企画準備をし実施した。


その他,総務部に派遣された職員は,P3における人事,給与,経理等事務や運営全般を担当し,渉外部に派遣された職員はP3の渉外関係を担当し,財務部に派遣された職員はP3の財務関係を担当した。
また,事務局長や事務総長の役職に派遣された職員は,P3における事務全般を統括し,各業務全般を管理調整した。

(2)

本件短期派遣職員は,別紙3短期派遣一覧表派遣先(勤務地)等欄
記載の会場等において,次の内容の業務を行ったり,また,ボランティア等を統括する立場である係長,班長として人員の管理などを行った。ア
各競技会場
各競技会場における運営本部やメディアセンターの設置等の会場準備,本件世界大会終了後の解体,資材撤去,会場における報道や警備に関する対応,駐車場の人員配置,車や観客の誘導,車両管理等を各競技会場の運営を準備して実施した。


メインメディアセンター
大会中の報道関係者の証明書,取材区域及び中継車の配置等の検討,報道機関に対するイベントの紹介,式典における報道関係者の誘導整理といった報道に関する本件世界大会開催に向けての準備や大会期間中の対応等を行った。


成田空港
選手団の受入れ業務等を行った。


トーチラン
トーチランの走行経路,交流会,到着式等の準備等を行った。


その他,来賓等の接遇,大会運営本部において大会運営全般に関わる業務,輸送センターにおいて車両や駐車場等輸送交通の管理業務,開閉会式場において受付や案内,ラウンジの運営等の業務,εにおいて情報案内業務等をした。

(3)

本件世界大会の運営準備には,民間会社の社員,ボランティア,他の地
方公共団体職員等が参加し(ボランティアは個人と団体併せて1万人強が参加した。),上記各業務は,これらの者とともに行われた。
3
前記1及び2の認定事実によれば,本件長中期派遣職員は,本件世界大会を運営するための組織の構築,多方面への配慮が必要になる種々の運営計画を策定し実行に移すための業務を行ったこと,また,本件長中期派遣職員のうちP3へ派遣された職員については,これを管理職の立場で行ったことが明らかであり,その業務を果たすためには,企画立案作業,人事管理作業等多種の作業が必要になり,広い視野や柔軟な思考等が求められたと推認できる。また,本件各派遣職員は,民間会社の社員,ボランティア,他の地方公共団体職員等とともに運営に当たり,他の職場や他の地方公共団体の職員,一般の地域住民等様々な人々とともに業務を遂行したり交流したりし,相互に啓発しあう機会となったり,県の組織とは異なる風土や業務を経験することになり,さらに,知的発達障害者がアスリートとして参加する大会の運営方法の企画や運営の実践の経験は,知的発達障害者に対する意識改革や福祉的視野の育成の契機となったといえる。
そうすると,本件各派遣における業務は,地方分権が推進される中で要求される政策形成能力,創造的能力,法務能力,柔軟性等の向上に寄与するものであったといえるし,他の職場や他の地方公共団体及び一般の地域住民等様々な人々と交流して相互に啓発しあう機会を持ち,県の組織とは異なる風土や業務を経験することにより幅広い視野や柔軟な思考力を養成する機会になったものと認められる。
よって,本件各派遣は,前記1に掲げた指針等で求められている資質を備えた地方公務員の育成に有益なものであったといえる。
4
もっとも,本件各派遣の目的をみたときに,なるほど,証拠(甲事件甲9,10,12ないし14,乙7,乙事件甲1,2)によれば,P2やP3は,本件世界大会の運営に必要な資金を十分に調達できず,長野県知事に対して県の職員を県の負担で派遣することを依頼していた中で,長野県としてはP2やP3への人的支援をすることを検討せざるを得ない状況にあったといえ,実際,補助参加人P1も,国会議員や○○冬季長野大会の事務局の者から人的支援の協力依頼があったのに対して協力をする旨伝えたと発言(甲事件甲14)するなどしており,本件各派遣にP2やP3に対する人的支援の意味合いがないとはいえないのは確かである。
しかしながら,長野県はP2及びP3と本件各研修委託契約を締結して研修を委託しており,本件各派遣職員は,本件長中期派遣においては研修派遣の辞令を受けてP3での業務を通じて研修の場にしようと意識したり,本件短期派遣においては研修派遣として募集がされるなどして,これを受けて本件短期派遣者も単なる支援要員ではなく認識の程度に差はあるものの研修や勉強の機会として捉えていたことが認められる(甲事件乙15,証人P23,同P26,同P27,同P28,同P29,同P30)。これらのこと及び前記3で説示した本件各派遣の実態に照らせば,本件各研修委託契約締結や研修派遣としての募集が名目的にされたに過ぎないとはいえず,本件各派遣に人的支援の要素があるからといって研修の目的がなかったとはいえない。
なお,研修計画が定められていないこと,本件各派遣職員を指導する研修担当者が定められなかったこと,研修結果の報告がされなかったことなどについても,本件各派遣における研修の実態などからして,詳細な研修計画が定められたり,特定の指揮監督者が定められるものではない性質のものであったといえ,これらのことから直ちに研修の目的や実態を否定すべきではない。また,旅行命令票の用務の内容欄についての記載に研修と記載されていないことは,研修の目的や実態を左右するものではない。
5
原告らは,P23について,P3の事務総長に就任させるために県職員に採用したのであり,その後の任期付県職員への就任や研修派遣は県職員としての実態を伴うものではないから,研修を実施したことにならないと主張する。しかしながら,研修派遣の期間が平成17年3月31日までであるのに対して任期付き職員としての任期は平成20年3月31日までであり,研修派遣終了後3年間県の労務管理事務を行うことが予定されていたことが認められる(甲事件乙14,証人P23)。実際には,派遣期間が平成17年9月30日まで延長され,同日に退職しているものの,これは本件世界大会の報告書の作成が終了しなかったことや本件訴訟に関する動きがあったために組織を解散することができず,また,P23自身がこれらの対応についての責任者として残らなければならないと判断して県職員の辞職を申し出たために退職することになったものであり(甲事件乙14,証人P23),当初から予定されていたものではない。よって,P23の派遣について研修目的がなかったとか研修の実態がなかったことにはならない。
6
そうすると,本件各派遣は,本件各派遣職員の勤務能率の発揮及び増進に寄与するものであり,地方公務員法39条の研修にあたるといえるから,地方公務員法39条,研修規程,民間企業派遣研修要綱に反するものではない。そして,この研修は職務命令によりされ職務として行われたのであるから,本件各派遣職員に対する給与の支払が地方自治法204条及び地方公務員法24条1項に反するものではない。
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がない。

第5

結論
以上の次第であるから,甲事件の訴えのうち,平成15年12月ないし平成1
6年7月にされた給与の支出に係る部分の訴え(被告に,P1に対して損害賠償請求をするように求める訴えのうち8268万7434円の損害賠償請求をするように求める訴え,P2に対して不当利得返還請求をするように求める訴え)については不適法であるからこれを却下し,原告らのその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
なお,原告は損害立証のために,本件短期派遣職員について各派遣期間に係る給与台帳及び超過勤務命令書の文書提出命令を申し立てるが(平成19年(行ク)第2号文書提出命令申立事件),前記のとおり本件各派遣が違法であるとは認められないから,本件文書提出命令の申立てはその必要性を欠くので却下することとする。
長野地方裁判所民事部
裁判長裁判官

近藤
ルミ子

裁判官

宮永忠明
裁判官

望月千

トップに戻る

saiban.in