判例検索β > 平成18年(行ウ)第1号
認定取消処分取消請求事件
事件番号平成18(行ウ)1
事件名認定取消処分取消請求事件
裁判年月日平成20年8月29日
法廷名秋田地方裁判所
判示事項1 村長がした農業経営基盤強化促進法(昭和55年法律第65号)12条の2第2項に基づく農業経営改善計画の認定を取り消す処分について,行政手続法14条1項,3項所定の理由の提示義務に違反する違法があるとはいえないとされた事例
2 村長がした農業経営基盤強化促進法(昭和55年法律第65号)12条の2第2項に基づく農業経営改善計画の認定を取り消す処分について,同項所定の取消事由が存在しないとしてされた同処分の取消請求が,棄却された事例
裁判要旨1 村長がした農業経営基盤強化促進法(昭和55年法律第65号)12条の2第2項に基づく農業経営改善計画の認定を取り消す処分について,行政手続法14条1項,3項が,不利益処分について行政庁に書面による理由の提示を義務付けた趣旨は,行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してそのし意を抑制するとともに,不利益処分の理由をその名あて人に知らせることによって,不服申立ての便宜を与えるという点にあると解すべきであるから,不利益処分を行う際に提示をしなければならない理由の記載の程度は,処分の名あて人が,いかなる事実関係に基づいていかなる法規が適用されて当該処分が行われたのかということをその書面の記載自体から了知し得るものでなければならないというべきであるとした上,前記処分の理由を提示する書面には認定の取消しに該当する事由として,?認定農業者として自ら作成した農業経営改善計画に従って農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないこと,?経営改善資金計画に沿った営農が行われていないこと及び?畑作経営を前提として取得した農地において計画に沿った営農が行われていないことが記載されているところ,前記?の記載と?の記載とを併せて読めば,村長が,当該農地において畑作が行われていないことに関し,前記計画に反するものと判断し,処分の名あて人が同計画に従って農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないと評価したと容易に解することができるのであるから,同人においてもその旨了知し得る程度の記載がされていると認めることができ,同人が,前記書面の記載自体から,前記農地において畑作が行われていないことに関して農業経営基盤強化促進法12条の2第2項が適用されて前記処分が行われたということを了知し得るとして,前記処分に行政手続法14条1項,3項所定の理由の提示義務に違反する違法があるとはいえないとした事例
2 村長がした農業経営基盤強化促進法(昭和55年法律第65号)12条の2第2項に基づく農業経営改善計画の認定を取り消す処分について,同項所定の取消事由が存在しないとしてされた同処分の取消請求につき,同項所定の取消事由である「認定計画に従ってその農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないと認めるとき」に当たるか否かは,当該認定を受けた農業者の具体的な営農方法等について,農業経営改善計画とのかい離が,市町村が定める効率的かつ安定的な農業経営を実現するための目標及び同農業者自らが定めた農業経営改善計画に照らして,認定農業者制度の趣旨に反する程度に至っているか否かにより判断すべきと解するのが相当であるとした上,前記処分を受けた農業者が,畑作経営を前提として取得した農地において,連続した2年間,畑作を行わずに米の作付けを行ったことは,前記取消事由に該当するということができるから,前記処分を受けた農業者について,前記認定の取消事由があると認められるとして,前記請求を棄却した事例
裁判日:西暦2008-08-29
情報公開日2017-10-19 18:54:53
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1

請求
大潟村長が別紙2認定一覧の対象者欄に各記載の原告らそれぞれに対し平成18年6月15日付けでした別紙2認定一覧の認定欄記載の各認定をそれぞれ取り消した各処分をいずれも取り消す。

第2

事案の概要
本件は,農業経営基盤強化促進法(昭和55年法律第65号。以下法という。12条1項によりそれぞれ農業経営改善計画の認定を受けた原告らが,)
法12条の2第2項により上記各認定を取り消す処分をした大潟村長に対し,上記各処分について,これらの違法を主張して,取消しを求めた事案である。
1
前提事実(当事者間に争いのない事実)
(1)

原告ら
原告らは,秋田県南秋田郡αに居住し,同村において農業を営む者らであ
るところ,農業経営改善計画を作成して被告に申請し,大潟村長により,別紙2認定一覧の認定欄に各記載のとおり,平成14年10月30日付けで,法12条1項に基づく当該農業経営改善計画以下本件農業経営改善計画」(

という。)が適当である旨の認定(同計画の変更の認定を含む。)を受けた認定農業者であった。原告らは,平成15年2月,A農業協同組合連合会以下A連


という。)が所有していたαβ×番1ないし3,同×番1ないし3,同×番,同×番,同×番1及び2,同×番1各所在の土地(以下「本件農地

という。)を,
10アール当たり85万円の割合による価格で,それぞれ購入し,農地として耕作している。

(2)

農業経営改善計画の認定取消処分
大潟村長は,法12条の2第2項に基づき,別紙2認定一覧の対象者欄記
載の各原告らに対し,平成18年6月15日付けで,別紙2認定一覧の認定欄記載の農業経営改善計画の各認定をそれぞれ取り消すとの処分(以下

本件処分という。)をした。

同処分は,原告ら各自に対し,書面(甲1∼8)によりそれぞれ通知されたところ,いずれの文書にも,
認定の取消しに該当する事由として,以
下のアからウまでの事項が記載されていた。

認定農業者として自ら作成した農業経営改善計画に従って農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないこと。


経営改善資金計画に沿った営農が行われていないこと。


畑作経営を前提として取得したβ地区(旧A連用地)の農地において,計画に沿った営農が行われていないこと。

2
争点
本件においては,本件処分の違法性が争われており,具体的には,本件処分の理由提示の欠如(争点(1))
,事実誤認(法12条の2第2項が定める農業
経営改善計画の認定の取消事由の有無。争点(2))の各違法に加え,裁量権の逸脱・濫用の有無に関するものとして,行政上の信義則違反・法の目的違反の有無(争点(3))
,公平原則違反の有無(争点(4))が,争点となっている。
(1)

本件処分の理由提示の欠如(争点(1))
(原告らの主張)
行政庁が不利益処分をする場合には,
その名あて人に対し,
処分と同時に,

当該処分の理由を示さなければならず(行政手続法14条1項)
,不利益処
分を書面でする場合には,
その理由は,
書面により示さなければならない同

条3項)
。行政手続法が,行政庁に対し,このような理由提示義務を課す趣旨は,不利益処分に関する行政庁の恣意的判断を抑制するとともに,同処分
の理由を名あて人に明らかにすることにより,行政上の意思決定の内容と過程の透明性の向上を図り,併せて名あて人の不服申立てに便宜を与える点にある。そうすると,不利益処分が書面でされる場合に,その書面に示される理由は,名あて人がその書面によらなくても当該処分の理由を推知することができるか否かにかかわらず,いかなる根拠に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたかということを名あて人が書面の記載自体から了知し得るものでなければならない。
これを本件につきみるに,本件処分が記載された書面(甲1∼8)に示されている処分の理由(前提事実(2)アないしウ)には,原告らのいかなる行為が,本件農業経営改善計画のどの部分に違反しているのかが示されていない。また,上記事由は,法12条の2第2項の条文をそのまま記載しているのみで,結論だけが抽象的に示されているに過ぎない。
したがって,上記書面に示された本件処分の理由では,法12条の2第2項が適用される基礎となった根拠,事実関係を知ることができないから,本件処分は,行政手続法14条1項及び3項が求める,理由の提示を欠くものとして,違法である。
(被告の主張)
大潟村長が,
本件処分を記載した書面甲1∼8)

に示した処分の理由前

提事実(2)アないしウ)には,適用した法規,原告らのどのような行為が農業経営改善計画のどの部分に反しているかが具体的に示されている。また,本件農地における水稲作付けに対する被告及び秋田県等による対応や指導などといった本件処分に至る経緯等にかんがみれば,本件処分を記載した書面に示した処分の理由で,原告らは,農業経営改善計画違反の内容を具体的に認識することができた。
したがって,大潟村長が本件処分を記載した書面に示した処分の理由は,行政手続法が処分理由の提示を求める趣旨に反するものではないから,本件
処分には,理由提示の欠如の違法はない。
(2)

事実誤認(争点(2))
(原告らの主張)


本件農業経営改善計画の内容は,○○資金を利用して新たに本件農地を取得し規模拡大をするとともに,本件農地において大豆等の栽培といった畑作を行うというものであった。
原告らは,平成17年度に,本件農地において,加工用米の栽培をしたが,これは,本件農地における大豆等の畑作を諦めたわけではなく,平成18年12月からの本件農地購入資金の借入れの返済をするために,一時的に加工用米の栽培を行ったに過ぎない。原告らは,その後,被告や秋田県等に対し,上記借入れの返済をすることができるような畑作を実現するための指導を求めたが,被告らはこれに回答をしなかったために,平成18年度においても,やむを得ず,加工用米を作付けしたものである。法は,農業経営改善計画の変更の認定(法12条の2第1項)を定めているから,農業経営改善計画に従った営農を行ったがうまくいかない場合にまで,その計画どおりの農業経営を強制するものではない。また,原告らは,未だ本件農地で農業経営改善計画どおりの畑作を行う意思を放棄しているわけではない。
したがって,原告らの上記の加工用米の作付けが,本件農業経営改善計画に反することはない。


原告らは,本件農地において畑作を行い,これがうまくいかず,上記借入れの返済に窮するような場合には,本件農地において,米を栽培することもあり得ることを留保した上で,本件農業経営改善計画認定の申請を行ったのであり,大潟村長も,そのような内容の農業経営改善計画を認定した。
したがって,原告らが,平成17年度及び同18年度に,本件農地にお
いて,米の栽培を行ったことは,本件農業経営改善計画の範囲内のものである。

以上によれば,大潟村長は,本件農地における原告らの営農について,本件農業経営改善計画違反に該当する事実がないのに,同計画違反を理由に本件処分を行ったのであるから,本件処分には,この点に関する事実誤認がある。
(被告の主張)


原告らの本件農業経営改善計画の内容は,
いずれも,
本件農地において,
大豆等の栽培といった畑作を行うというものであった。
原告らは,平成17年度及び同18年度に,被告などによる度重なる是正・指導を無視して,本件農地に米を作付けしたのであるから,このことが,本件農業経営改善計画に違反し,法12条の2第2項所定の認定取消事由に当たることは明らかである。
また,原告らは,主食用の米の需給バランスに影響を与えない加工用米の作付けは本件農業経営改善計画に違反しないと主張するが,原告らは,国による加工用米の認定を受けていないばかりか,本件農地で収穫した米の販売先,販売量,販売価格等の情報を明らかにしないから,原告らが作付けした米が加工用米に当たるとはいえない。


原告らは,本件農業経営改善計画が,本件農地における米の作付けがあり得るという,米の作付けを留保したものであると主張するところ,そのような計画は,被告の基本構想(法6条,12条4項1号)である農業経営基盤の強化の促進に関する基本構想とは相容れないものである。したがって,本件農業経営改善計画が,米の作付けを留保するものであれば,同計画は,法が定める認定要件である基本構想に照らし適切なものであること(法12条4項1号)に反することとなり,大潟村長は,
同計画が認定要件を満たさないのに適当であるとの認定をしたこととなる
から,同計画が米の作付けを留保していることが判明すれば,法12条の2第2項所定の取消事由があることとなり,認定を取り消すのは当然のことである。

以上のとおり,
本件農地における原告らによる米の作付けなどの行為は,
本件農業経営改善計画に違反し,法12条の2第2項所定の認定取消事由があることが明らかである。したがって,本件処分に関し,事実誤認はない。

(3)

行政上の信義則違反・法の目的違反の有無(争点(3))
(原告らの主張)


A連が主催した本件農地の売却説明会において,A連担当者は,本件農地で米を栽培してはならないとの説明はせず,かえって,芥子などの禁制品以外は何でも生産することができるとの説明をし,同席していた被告職員はこれに何の異議も述べなかった。そして,被告は,原告らが平成17年5月に本件農地において米の作付けをするまでの間,原告らに対し,本件農地において米を作付けしてはならないとの意思表明をしたこともなかった。
また,原告らは,被告から,本件農地において米の作付けを行った場合に,本件農業経営改善計画の認定取消処分を行う可能性があるとの説明を受けたことはなかった。


奨励金が付かない同農地における大豆等の畑作により,10アール当たり85万円の割合による購入資金の借入れの返済をすることができないことは客観的に明らかであり,大潟村長もこのことを認識していた。それにもかかわらず,大潟村長は,A連の不良債権整理としての本件農地の売却に協力するとともに,本件農地が不適切な者に取得されるのを防ぐなどの目的で,○○資金の借入れにより購入した本件農地において畑作を行い上記借入れを返済することを内容とする本件農業経営改善計画が適当である
旨の認定をして,原告らに本件農地を取得させた。
そして,被告は,自らが関与して原告らの農業経営改善計画の基本的部分を策定し,大潟村長がこれを認定したのであり,法2条が,効率的かつ安定的な農業経営の育成を実現するために市町村に農業生産の基盤の整備及び開発,農業経営の近代化のための施設の導入,農業に関する研究開発及び技術の普及等を推進する責務を課していることに照らせば,上記計画の将来の見通しに誤りがあり,原告らが計画を実行することが困難であることが明らかになった場合には,単に認定した農業経営改善計画を守ることを求めるのではなく,同計画の変更を求めるとか,実現性のある代替案を示して原告らとの協議をするなどの行政指導をすべきであった。それにもかかわらず,原告らが,被告に対し,本件農業経営改善計画を実現する営農の指導を求めても,本件農業経営改善計画に従った畑作を行うことを原告らに求めるのみで,原告らの指導要請に対する具体的な営農指導等を何らしなかった。

以上のとおり,大潟村長は,当初から実現が困難であった本件農業経営改善計画を適当である旨の認定をしておきながら,原告らがその計画に従った営農をすることができず米の作付けをするや,上記計画の実現のための営農指導や同計画の変更の指導等を何ら行わずに,本件農地で米の作付けをすることができないこと及び米の作付けをした場合に同計画の認定が取り消される可能性を認識していない原告らに対し,同計画の認定を取り消したのであるから,この点につき,大潟村長による本件処分は,行政上の信義則に反するものというべきである。
また,原告らの経営破たんを招くことが明白である本件農業経営改善計画に従った営農を強要することは,法が掲げる効率的かつ安定的な農業経営の育成,農業の健全な発展という目的に反するものである。
(被告の主張)


A連が主催した本件農地の売却説明会において,A連担当者が,本件農地において米を栽培することができないとの説明をせず,芥子などの禁制品以外は何でも生産することができるとの説明をし,同席していた被告職員はこれに異議を述べなかったことはおおむね認める。
しかしながら,原告ら自らが作成した本件農業経営改善計画には,本件農地において,大豆等の栽培といった畑作を行うと記載されているから,本件農業経営改善計画を前提とすれば,本件農地において米の作付けをすることができないことは,当然,原告らも認識していたのであり,被告があえて説明するまでもないことである。
また,被告は,原告らが平成17年5月に本件農地において米の作付けをするまでの間,原告らに対し,本件農地において米を作付けしてはならないとの意思表明をしている。


原告らが,本件農地における大豆等の畑作により,10アール当たり85万円の割合による購入資金の借入れの返済をするにつき困難が生ずることは予想されたが,本件農業経営改善計画は,原告らの特段の営業努力でその計画を実現しようとするものであり,その計画自体は,法12条4項所定の認定要件を満たしていたから,大潟村長は,それを適当として認定したものである。
そして,認定農業者が目標達成のために自助努力すべきであるが,行政に営農の指導等を求めるのであれば,まず,自己の経営の現状と課題を明らかにすべきであるのに,原告らが被告に提出した経営状況に関する資料は,行政が指導できる内容のものではなく,真剣に経営を検討しているものとは到底いえるものではなかった。また,本件農業経営改善計画の実現が難しい状況になったのであれば,原告らが法の規定に基づき,同計画の変更を申し出るべきであり,原告らもそのことを認識していたのに,変更の申請をすることなく,本件農地に米を作付けした。


以上のとおり,本件処分が,行政上の信義則に反するとの原告らの主張は,失当である。

(4)

公平原則違反の有無(争点(4))
(原告らの主張)
大潟村長により農業経営改善計画が適当であるとの認定を受けた認定農業
者の数は,平成16年及び同17年においては215名,平成18年においては228名であるところ,このうち,平成16年においては9名(原告らを除く。,平成17年及び同18年においては各11名(原告らを除く。)

が,生産調整に参加していない。
農業経営改善計画が適当であるとの認定は,申請者が生産調整に参加することを当然の前提とするものであるから,生産調整に参加しないことは,農業経営改善計画違反に当たる。それにもかかわらず,大潟村長は,原告ら以外の生産調整に参加していない認定農業者につき,その農業経営改善計画の取消しはおろか,是正指導すら行っていない。
このことに照らせば,大潟村長が原告らの農業経営改善計画の認定のみを取り消した本件処分は,公平原則に反するというべきである。
(被告の主張)
大潟村の認定農業者の中に,大潟村長により認定された農業経営改善計画に反する営農を行っている者が存在することは認める。
しかしながら,被告は,上記のような認定農業者に対し,各種説明会において,生産調整に参加することを求めるなどの説明等の措置を講じている。また,原告らは,本件農地において畑作をすることを前提として,本件農業経営改善計画の認定を受けて,○○資金による融資を受けて,本件農地を購入しておきながら,本件農地において,米の作付けをし,被告を含む関係各機関からの是正指導にも従わず,これを継続しているのであるから,原告らの農業経営改善計画違反の程度は著しい。

したがって,原告らに対する本件処分が,公平原則に反することはない。第3
1
争点に対する判断
認定事実
当事者間に争いがない事実,又は後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,後記2で補足するほかは,この認定を覆すに足りる証拠はない。
(1)

本件農地購入に至る経緯
本件農地は,A連が所有し,採草牧草地及び一部畜舎用地として使用していたが,A連は,平成10年7月ころから,その経営破綻にともない,本件農地を売却して負債を処理しようとしていた。
平成12年10月ころ,適切な使用を期待できない団体が本件農地の取得を試みているとの情報が被告にもたらされたことがきっかけとなり,大潟村長及びB農業協同組合(以下B農協という。
)代表者が,同月2
5日付けで,秋田県知事に対し,本件農地を畜産振興に資する利用をするよう求める陳情をするに至った。
(甲9,58,原告有限会社C代表者D
本人)
Dは,平成11年ころから,A連の債権者である株式会社E銀行(以下E銀行という。
)などから,本件農地の購入を打診されていたが,そ
の取得には至らなかった。
(甲56,58,証人F,D本人)
なお,A連による本件農地の売却が検討されていた当時,秋田県は,A連の負債処理のために本件農地を適正に処分したいとの意向に加え,本件農地を秋田県の模範となるような大規模畑作営農のモデル地区にしたいとの意向を有しており,被告もまた同様の意向を有していた。他方,Dは,大潟村の将来のために本件農地が不適切な団体等に取得されることを防がなければならず,そのために本件農地の売却に協力することへ使命感を抱いており,これは秋田県や被告の上記意向と合致するものであった。(甲

58,証人G,D本人)

A連は,
本件農地の売却先を公募することにし,
平成14年2月27日,
α内の農業者を対象として,本件農地の売却に関する説明会を開催した。同説明会の開催を知らせる書面には,譲渡条件として,土地価格を10アール当たり85万円とすること,購入する際に,農地保有合理化事業及びH公庫(以下公庫という。
)による○○資金が活用可能と考えられ
る旨記載され,同日の説明会に使用された書面にも,譲渡条件として上記のとおりの価格によることが記載されていた。
(甲9)
A連担当者は,上記説明会において,本件農地の売却価格につき,上記各書面に記載されているとおりの価格による旨説明し,参加者からの本件農地において米を作ってはいけないのかとの質問に対し,大麻と芥子は作ることができないが,あとは何を作ってもいいとの回答をした。(甲56,58,証人F,D本人)


Dは,上記説明会の後,大潟村助役G及びB農協組合長Iとともに,本件農地を10アール当たり85万円の割合による価格で購入し,その代金の借入れを返済しながら,本件農地において畑作の営農を行う方法を検討し,J公社による農地保有合理化事業を利用する計画を立案した。その計画内容は,J公社が本件農地を購入し,その後の5年間につき低料金で畑作希望者に対し本件農地を細分化して貸し出し畑作を行い,本件農地における営農の基盤を確立し,5年を経過した後に,営農者が本件農地を購入するというものであった。この計画を実現すべく,平成14年3月8日,Dが代表者となり,主にαの農業後継者など(法人である原告の代表者及び個人である原告らを含む。を構成員として,Kが設立されるに至った。)
(甲9,56,58,60,証人F,証人G,証人I,D本人)
そして,
Dらによる大潟村などの関係機関への働きかけにより,
A連は,
Kを,本件農地の売却交渉先にすることとし,平成14年3月28日,K
及びその主だった構成員との間で,本件農地の売却に関する覚書を交わした。同覚書には,K以外とは本件農地の売却交渉を行わないこと,本件農地の売却を平成15年2月末日までに行うこと,本件農地本体の価格を12億8150万4200円とすること,双方が,その責めに帰すべき事由により,相手方に損害を与えたときは,その損害を賠償する義務を負うことなどが定められていた。
(甲9)

しかし,上記計画の実現に向けた検討の過程で,J公社は,事業規模が大き過ぎること,
5年間にわたり同公社が本件農地を保有することにより,
国や県をあわせて1億7000万円の予算措置が必要であることなどの問題点を指摘した上,本件農地の価格の下落による差損が生ずる可能性があり,これによるリスクを回避するために,関係農家と売買予約契約を締結し,
その売買予約金額による売買代金の支払を担保する必要があるとして,K構成員に対し,担保の提供を求めた。これに対し,構成員らが担保の提供などに難色を示したことから,農業公社による農地保有合理化事業を利用して本件農地を取得する上記計画は,とんざすることとなった。甲9,(
58,証人G,D本人)


Dは,その後,新たな構成員を募り,原告らとともに,再び,本件農地を取得する計画を検討し,本件農地において,付加価値の高い有機大豆を栽培し,収穫した大豆により大豆粉を作るという計画を立案し,これを実施することにした。
(甲58,D本人)

(2)

本件農業経営改善計画の認定等
原告らは,本件農地を取得するに当たり,大潟村長による農業経営改善計画の認定を受けて認定農業者となり,
公庫からの○○資金による融資で,
本件農地の購入資金を調達することとして,
平成14年10月,
それぞれ,
被告に対し,農業経営改善計画の認定申請をし,大潟村長は,原告らに対し,同月30日,法12条1項に基づき,各農業経営改善計画が適当であ
るとの認定をそれぞれ行った。
(乙2〔枝番号を含む。)


大潟村長により適当であるとの認定がされた本件農業経営改善計画は,原告らそれぞれにつき多少の相違はあるものの,おおむね,①
○○資金

を利用して本件農地を取得して農業経営規模の拡大を図ること,②農地において,大豆等の畑作を行うこと,③

本件

本件農地で大豆等の畑作を

行うことにより,
米の生産調整に参加することを内容とするものであった。
(乙2〔枝番号を含む。)


また,
原告らは,
公庫等に対し,
経営改善資金計画書をそれぞれ提出し,
公庫から,本件農地の購入資金として,○○資金による借入れを行い,平成15年2月,本件農地をそれぞれ取得した。上記借入れの返済については,平成17年までは据え置かれ,平成18年12月から開始されるとの約定が付されていた。


原告ら及び被告は,本件農業経営改善計画に従って本件農地で大豆等の栽培による畑作を行うことによっても,○○資金による借入れを返済していくことがなんとか可能であるとの認識を有していた。
(甲56,58,
証人F,証人G,D本人)

(3)

本件農地における米の作付けに至る経緯
原告らは,各自の事情により,多少異なるものの,平成15年及び同16年において,本件農地で,大豆等の栽培を行う畑作を行った。


しかし,平成15年度においては,長雨が続いたために,播種した大豆が発芽不良となり,収穫された大豆の品質が悪く,当初の計画による加工の対象とすることもできなかったため,原告らは,本件農地における営農から利益をあげることができず,かえって,多額の経費分の赤字が生ずることとなった。
(甲56,58,証人F,D本人)
そのため,原告らの農業経営の悪化を懸念した公庫L支店長が,Dに対し,加工用米の作付けを提案したことから,原告らは,秋田農政事務所及
び秋田県に対し,平成16年3月,本件農地において加工用米の作付けを行いたい旨の申入れをした。しかし,秋田県は,原告らに対し,平成16年度の加工用米の作付けを断念するよう要請したため,原告らは,これを諦めることにした。
(甲58,D本人)
なお,加工用米とは,地域における米の需給調整に関する方針と整合することを前提に,主食用米の需給バランスに影響を与えることなく,確実に加工用途に使用されると認められる場合,すなわち,生産年の前年の11月末日までに取組計画を作成し,
当該計画につき,
所管行政庁において,
加工用米の生産予定数量が適切に設定されていること及び需要先との流通契約に基づき加工用途に確実に使用されると認められること等の認定基準に照らし適当と判断された場合に認定が行われ,その作付けによる米の生産調整への参加が許されるものである。
(甲16,乙23)

原告らは,平成16年も,本件農地において大豆等の栽培による畑作を行った。しかし,同年8月の台風による塩害が原因となり,大豆が壊滅的な被害を受け,原告らは,平成15年に続き,本件農地における大豆等の栽培から利益をあげることができず,多額の損失が生ずるに至った。(甲
56,58,証人F,D本人)


そのため,原告らは,平成17年度に,本件農地において,加工用米との名目で,米の作付けを行った。

(4)

本件処分に至る経緯
原告らが本件農地において米の作付けを行ったことに対し,大潟村議会は,平成17年5月20日,これを非難する決議をするとともに,原告らが本件農地取得につき被告から利子補給を受けていることを問題視したことから,原告らは,同月24日,平成15年度,同16年度に供給された利子全額を返還した。原告らは,それと同時に,大潟村長,秋田県及び秋田農政事務所に,加工用米の作付けを申し入れるとともに,その認定手続
の教示を求めたところ,秋田農政事務所長は,これに対し,加工用米の認定を受けるには,前年の11月末日までに加工用米取組計画を作成して提出する必要があり,また,加工用米の作付けに当たりLにおける十分な協議を経る必要があるとして,原告らの本件農地における米の作付けについては,前記いずれの手続きも踏んでいないことを理由に平成17年度における加工用米の認定をすることができないとの回答をした。そこで,原告らは,
Lに対し,
本件農地における加工用米の作付けへの合意を求めたが,
Lはこれに合意しなかった。
(甲14∼16,58,D本人)
原告らは,本件農地で栽培した米を収穫して販売したが,その販売先を公表することはなかった。

原告らは,平成18年度も,本件農地において米の作付けを行うことにし,秋田農政事務所長に対し,平成17年11月17日,加工用米取組計画を提出し,その認定を求めたが,同所長は,原告らに対し,加工用米の作付けに関しLから合意を得ることを指導した。そのため,原告らは,本件農地における加工用米の作付けに関し,
再びLに合意を求めたが,
Lは,
同月22日,これを認めない方針を決定した。これを受けて,原告らは,同月24日,29日の二度にわたり,秋田農政事務所長に対し,加工用米取組計画を提出したが,
いずれも,
Lの合意が得られていないとの理由で,
受理されなかった。
(甲19∼25,58,D本人)


大潟村長は,原告らに対し,平成17年12月20日及び平成18年1月6日,本件農地において,本件農業経営改善計画に沿った営農を行うことを求めるとともに,平成18年度の原告らの営農計画の提出を求め,原告らは,これに対し,本件農業経営改善計画について,本件農地において奨励金の付かない大豆等の畑作を行うことにより,同農地の購入資金の借入れの返済をすることは不可能で,上記計画は客観的に不可能なものであり,被告が上記計画に沿った営農を求めるのであれば,上記借入れを返済
し得る利益を実現する営農を指導すべきであるとの回答をした。また,原告らは,秋田県知事に対しても,同様に,本件農地において本件農業経営改善計画に従った営農の指導を求めた。
(甲26∼32,58,D本人,
証人M)

Dは,秋田農政事務所長に対し,平成18年2月3日,αのその他の営農者を募り,本件農地を除くαの農地において,2700tの加工用米を作付けすることを内容とする加工用米取組計画を申請したが,同所長は,申請期限を徒過しているとして,これを受理しなかった。また,Lも,上記計画に合意しなかった。
(甲36,40,42,58,D本人)
原告らは,大潟村長に対し,同年2月20日,3月31日,本件農地において大豆等の栽培を行うことを前提とした経営収支の試算を提出し,それによれば,本件農地における大豆作によっては,同地購入資金の借入れの返済が難しいことを重ねて訴え,本件農地における営農に関する指導を重ねて求めた。
(甲35,43,58,D本人)
そして,原告らは,公庫L支店長に対し,同年4月18日,本件農地における本件農業経営改善計画に沿った営農を行うにつき被告から営農指導を受けられないとして,本件農地における作付品目を,大豆等の畑作から稲作に変更することを申し入れた上,同年度も,本件農地において,米の作付けを行った。
(甲43,44,58,D本人)

(5)

本件処分
大潟村長は,本件農業経営改善計画の内容が本件農地を取得して同農地において大豆等を栽培する畑作経営を行うというものであるのに,原告らは,本件農地において,平成17年及び同18年に,大豆の作付けを行わず,米の作付けを行ったことについて,①

原告らが本件農業経営改善計

画に沿った農業経営を行わなかったとして,また,②
公庫等に提出した

経営改善資金計画に沿った営農が行われておらず,③
A連から本件農地

を取得する際の農地利用集積計画の所有権移転の内容に反するものであるとして,本件農業経営改善計画の認定取消処分を行うこととした。(甲1
∼8,証人M)

聴聞手続
大潟村長は,認定取消処分に先立ち,行政手続法13条1項1号イに基づき,聴聞手続を実施することとし,平成18年6月7日,同手続は,原告らそれぞれを対象として,同法20条の規定に従った手続で行われ,聴聞調書及びその報告書は,同月12日付けで大潟村長に提出された。(乙
3,証人M)


本件処分
大潟村長は,法12条の2第2項に基づき,別紙2認定一覧の対象者欄記載の各原告らに対し,平成18年6月15日付けで,別紙2認定一覧の認定欄記載の本件農業経営改善計画の各認定をそれぞれ取り消すとの処分(本件処分)をした。
本件処分は書面(甲1∼8)により行われ,この書面に記載されていた本件処分の理由は,前記前提事実(2)アないしウのとおりであった。
2
事実認定の補足説明
前記1(2)エの認定に対し,原告らは,奨励金の付かない大豆栽培によって利益を上げることは不可能であって,本件農業経営改善計画がそもそも実現不可能であり,このことを被告が認識していたと主張し,これに沿う証拠(甲12の1)もある。
この点,確かに,八郎潟中央干拓地入植農家経営調査報告書(甲12の1∼3)によれば,αにおいては,奨励金が付されない大豆栽培では利益が生じないとされている。しかしながら,証拠(証人G)によれば,上記報告書は,あくまでもαにおける大豆作の平均値を示したものにすぎず,原告らの中には10アール当たり420キロを収穫した実績がある者もおり,必ずしも奨励金が
付されない大豆栽培により利益が出ないものではないこと,被告もそのように認識していたことが認められる。また,原告らは,前記認定事実のとおり,本件農地で有機大豆等を栽培し,収穫した大豆を加工して付加価値をつけた上でこれを販売することを計画していたのであるから,原告らの収益は,単なる大豆栽培に比較して,より多くの利益が見込まれるものであったことが認められる。これらの事情によれば,原告らのみならず,被告においても,本件農業経営改善計画を前提とした営農であっても,原告らが,本件農地の購入資金の借入れを返済していくことが何とか可能であると認識していたと認められ,この認定を覆すに足りる適確な証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
3
争点(1)(本件処分の理由提示の欠如)について
(1)

本件処分は,前記認定事実のとおり,書面でされた不利益処分であるか
ら,処分行政庁である大潟村長は,その名あて人に対し,同時に,その不利益処分の理由を書面により示さなければならない(行政手続法14条1項,3項)

一般に,法律が行政庁に対して行政処分に理由を提示することを義務付ける場合に,どの程度の記載をすべきかは,処分の性質と理由の提示を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らして判断すべきである(最高裁昭和36年(オ)第84号同38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁)
。そして,本件処分は不利益処分であるところ,行政手続法がこのような不利益処分について,
行政庁に書面による理由の提示を義務付けた趣旨は,
行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに,不利益処分の理由を名あて人に知らせることによって,その不服申立ての便宜を与えるという点にあると解すべきであるから,不利益処分を行う際に提示をしなければならない理由の記載の程度は,いかなる事実関係に基づいていかなる法規を適用して当該処分を行ったのかということを,処分の名あて人
が,その書面の記載自体から了知し得るものでなければならないというべきである。
(2)

これを本件につきみるに,本件処分の理由を提示する書面(甲1∼8)
に記載されている本件処分の理由は,前記前提事実(2)のとおり,①
認定

農業者として自ら作成した農業経営改善計画に従って農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないこと,②
が行われていないこと,③

経営改善資金計画に沿った営農

畑作経営を前提として取得したβ地区(旧A連

用地)の農地において,計画に沿った営農が行われていないことが法12条の2第2項の規定による本件農業経営改善計画の認定取消事由に当たるというものであった。
この点,①の記載は,農業経営改善計画の認定取消処分の根拠規定である法12条の2第2項の条文の文言を記載したものにすぎないものの,これを③の記載と併せて読めば,大潟村長が,本件農地において畑作が行われていないことに関し,本件農業経営改善計画に反するものと判断し,原告らが同計画に従って農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないと評価したと容易に解することができるのであるから,原告らにおいても,その旨了知し得る程度の記載がされていると認めることができる。そうすると,本件処分に提示された理由は,本件農地において畑作が行われていないことに関し,法12条の2第2項を適用して本件処分を行ったということを,処分の名あて人である原告らが,その書面(甲1∼8)の記載自体から了知し得るということができる。
したがって,本件処分の理由の提示について,行政手続法14条1項及び3項が行政庁に義務付ける理由提示義務に違反する違法があるとはいえない。
4
争点(2)(事実誤認〔法12条の2第2項が定める農業経営改善計画の認定
の取消事由の有無〕
)について

(1)

前記認定事実によれば,本件農業経営改善計画は,原告らそれぞれにつ
き多少の相違はあるものの,おおむね,目標を達成するためにとるべき措置として,



○○資金を利用して本件農地を取得して規模の拡大を図ること,

本件農地において,大豆等の畑作を行うこと,③

本件農地で大豆等の

畑作を行うことにより,米の生産調整に参加することを内容とするものであったところ,原告らは,平成17年及び同18年に,本件農地において,大豆等の栽培といった畑作をせず,米の作付けを行った。そのため,大潟村長は,原告らが本件農地において大豆の作付けを行わず,米の作付けを行ったことにつき,上記計画に反し,法12条の2第2項が取消事由とする認定計画に従ってその農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないと認めるときに該当するとして,同条項に基づき,本件農業経営改善計画の認定を取り消す本件処分を行った。
これに対し,
原告らは,
本件農地に作付けした米は加工用米であり,
また,
畑作を行う意思を放棄しておらず,一時的な作付けにすぎないとして,本件農地において米を作付けしたことが本件農業経営改善計画の認定取消事由に当たらないと主張するから,以下,どのような場合が,法12条の2第2項が定める経営改善計画認定の取消事由である認定計画に従ってその農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないと認めるときに該当するのかにつき検討する。
法は,効率的かつ安定的な農業経営を育成し,そのような農業経営が農業生産の相当部分を担うような農業構造を確立することが重要であるとの認識の下,農業の健全な発展に寄与することを目的として,育成すべき効率的かつ安定的な農業経営の目標を明確にし,その目標に向けて農業経営の改善を計画的に進めようとする農業者に対する農用地の利用の集積,このような農業者の経営管理の合理化その他の農業経営基盤の強化を促進するための措置を総合的に講ずるものとし(法1条)
,そのような措置は,農業者が地域の

農業の振興を図るためにする自主的な努力を助長することを旨として実施することとしている(法3条)
。それと同時に,法は,市町村が農業経営基盤
強化促進に関する基本構想を定めることができるものとし(法6条),市町
村は,農業経営改善計画の認定申請につき,当該計画が上記基本構想に照らし適切なものであり,農用地の効率的かつ総合的な利用を図るために適切なものであるなどの要件に該当する場合には,適当である旨の認定をすることとされている(法12条1項,4項)
。認定農業者は,農地法や課税の特例
を受けることができ,公庫から資金貸付けについて配慮がされるなどの優遇措置が設けられている(法13条の3,15条等。ただし,課税の特例については,本件処分時においては法14条が定められていたが,その後,平成19年法律第3号により同条が削除されるとともに,租税特別措置法〔昭和32年法律第26号〕24条の2以下が定められるに至った。。他方で,)
法は,認定農業者に,農業経営改善計画の変更の際に,市町村の認定を受けることを義務付け(法12条の2第1項)
,市町村は,認定された農業経営
改善計画が法12条4項各号が定める認定要件に該当しないものと認められるに至ったとき,又は認定計画に従ってその農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないと認めるときに,農業経営改善計画の認定を取り消すことができるとしている(法12条の2第2項)

以上の諸規定に照らせば,法は,効率的かつ安定的な農業経営が農業生産の相当部分を担う農業構造を確立するため,この法の目的に沿い,かつ,地域における実情を反映した,効率的かつ安定的な農業経営を実現するための明確かつ具体的な目標(基本構想)を各市町村が設定し,この目標を計画的に進めようと自主的な努力をする農業者に農用地の利用の集積をするとともに経営の合理化等の農業経営基盤を強化する措置を講ずることとして,その方策として,様々な優遇措置を受けられる認定農業者制度を創出したということができるから,法12条の2第2項が,市町村が農業経営改善計画の認
定を取り消すことができるとした趣旨は,認定農業者自らが設定した効率的かつ安定的な農業経営を実現する計画の履践を担保するとともに,優遇措置を効率的かつ安定的な農業経営を目指して努力する者に集中させ,もって,各市町村が定めた効率的かつ安定的な農業経営を実現する目標を達成することを通じて,法が定める目標を実現する点にあると解することができる。そうすると,法12条の2第2項が定める認定取消事由である認定計画に従ってその農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないと認めるときに該当するか否かは,当該認定農業者の具体的な営農方法等につき,農業経営改善計画との乖離が,市町村が定める効率的かつ安定的な農業経営を実現するための目標及び認定農業者自らが定めた農業経営改善計画に照らし,上記認定農業者制度の趣旨に反する程度に至っているか否かにより判断すべきと解するのが相当である。
これを本件につきみるに,証拠(乙1,20)によれば,平成12年度及び平成16年度に策定された大潟村における農業経営基盤強化の促進に関する基本構想では,農業経営基盤強化促進に関する目標として,水稲単作の農業経営を行い,生産調整を実施しない農家が半数を占めるとの現状を示し,米だけに依存した生産構造から足腰の強い複合的な生産への再編を図る必要性から,田畑複合経営の確立に努めることを最重要課題に掲げ,圃場の規模拡大や生産技術の向上により高効率生産,コスト削減を図るとともに,稲作とより収益性の高い作物を組み合わせて複合経営を推進するなどの営農方向を定め,法12条の農業経営改善計画の認定については,生産調整を考慮している経営改善計画を認定するものとしていることが認められる。そうすると,大潟村は,法が定める効率的かつ安定的な農業経営を実現する具体的目標の達成手段として,生産調整を考慮することを前提に,水稲単作から田畑複合経営に移行するとともに,収益性の高い作物の栽培や大規模かつ効率的な経営を行うことを定めているということできる。前記のとおり,原告らの
本件農業経営改善計画において,
目標を達成するためにとるべき措置として,
本件農地を取得して農地の大規模化を図るとともに,本件農地において有機大豆等の畑作を行い,生産調整に参加するというものであるから,上記の大潟村の基本構想に照らし適切なものであるということができる。ところが,原告らは,本件農地において,平成17年及び同18年に,大豆等の栽培による畑作を行わないで,米の作付けを行ったのであるから,原告ら自らが作成した本件農業経営改善計画の目標を達成するためにとるべき措置として記載されていた大豆等の栽培による畑作が行われていないばかりか,生産調整に関する考慮もされておらず,また,水稲単作から田畑複合経営に移行することを最重要課題とし生産調整を考慮する者につき法12条の認定を行うとの上記基本構想に反するということができる。これらのことに照らせば,原告らが本件農地において大豆等の畑作を行わず米を作付けしたことにより生じた現実の営農と本件農業経営改善計画との乖離は,法が定める効率的かつ安定的な農業経営を実現するために市町村が基本構想を設定し,この目標を計画的に進めようと自主的な努力をする農業者に農用地の利用の集積をするとともに経営の合理化等の農業経営基盤を強化する措置を講ずるとの認定農業者制度の趣旨に反する程度に至っているものといわざるを得ない。そうすると,原告らが本件農地において,平成17年及び同18年に,大豆等の栽培による畑作を行わず米の作付けを行ったことは,法12条の2第2項が定める認定計画に従ってその農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないと認めるときに該当するということができ,原告らについて,本件農業経営改善計画の取消事由があると認められる。
(2)

これに対し,原告らは,上記のとおり,本件農地において作付けされた
米は加工用米であるから,本件農地における米の作付けは,法12条の2第2項が定める取消事由に当たらないと主張する。
しかしながら,前記認定事実のとおり,原告らが本件農地において作付け
した米は,秋田農政事務所長からの加工用米認定を受けずに生産されたもので,所管行政庁の認定を受けた加工用米に当たらないことは明らかである。また,上記の作付けにあたりLの合意も受けていないことに照らせば,原告らが加工用途と主張する本件農地における米の作付けが,大潟村における米の需給調整に関する方針と整合しているとも認められない。さらに,原告らは,本件農地で収穫された米の販売先も明らかにしていないのであるから,原告らが作付けした米が実質的にも加工用米として所管行政庁の認定を受け得るものであると認めることもできない。
なお,付言するに,原告らの上記主張は,所管行政庁の認定を受けていなくとも,作付けした米が実質的な加工用米であれば,本件農業経営改善計画における目標を達成するためにとるべき措置を講じていないことにはならないことを前提とするものと解されるところ,原告らが作付けした米が実質的に加工用米であると認められないことは上記のとおりであるし,原告らの農業経営改善計画は,有機大豆等を栽培し,その栽培技術を確立するとともにその流通を確保するなどして経営基盤を強化して効率的かつ安定的な農業経営を実現することをその内容としているのであり,単に生産調整に参加することを目的としているわけではない。すなわち,仮に,原告らが作付けした米が実質的に主食用米の需給バランスに影響を与えないものであっても,原告らは,上記のとおり,農業経営改善計画の中で大豆等の畑作による経営基盤の強化を行うとしているのであって,加工用米の作付けを行うとはしておらず,したがって,加工用米の作付けが大潟村の基本構想に照らして適切であるかに関する被告の審査・認定も受けていないのであるから,大豆等の栽培による畑作を行わずに加工用米の作付けを行うことについて,本件農業経営改善計画に従ってその農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないと評価すべきことには変わりがない。
したがって,原告らの上記主張は,そもそもその前提を欠くものといわざ
るを得ない。
また,
原告らは,
未だ本件農地において畑作を行う意思を放棄しておらず,
本件農地における米の作付けは,一時的なものにすぎないから,法12条の2第2項が定める取消事由に当たらないとも主張する。
この点,確かに,原告らの主張するとおり,本件農業経営改善計画と一時的に異なる営農がされているにすぎない場合には,法12条の2第2項が定める取消事由には当たらないと解する余地がないわけではない。
しかしながら,前記認定事実のとおり,原告らは,本件農地において2年間にわたり米の作付けをしており,被告をはじめとする関係機関により再三にわたり米の作付けを行わないよう勧告されているにもかかわらず,米の作付けを強行しているのであり,
この事情によれば,
本件処分の時点において,
原告らは本件農地において将来的にも継続的に米を作付けする相当強固な意思を有していたものと推認される。
また,
前記認定事実のとおり,
原告らは,
米の作付けをした当時には,本件農地において大豆等の栽培による畑作を行って土地購入代金の借入れの返済をしていくことは困難・不可能であると認識に変化が生じているのであるから,この借入れの返済をするには加工用米の作付けが必須であると考えていたと推認できる。これらの事情を考慮すれば,仮に,原告らが本件農地において,畑作を行う意思を放棄していないとしても,本件農業経営改善計画における目標を達成するためにとるべき措置の範囲内の畑作に回帰するには,なお相当の期間が必要となるものと認められる。
そうすると,本件処分時において,すでに2年間にわたり,本件農業経営改善計画における目標を達成するためにとるべき措置が講じられていない状況が継続し,かつ,それ以降も相当の期間にわたり,その状況が継続することが予測される以上,本件農地における米の作付けが一時的なものとは認め難い。

したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
(3)

ところで,原告らは,本件農業経営改善計画は,本件農地の購入代金の
借入れの返済に窮するような場合には,本件農地において米の作付けをすることを留保するものであったから,本件農地における米の作付けは,本件農業経営改善計画の範囲内のものであり,法12条の2第2項の取消事由には当たらないとも主張する。
なるほど,証拠(甲56,乙2の5,証人F)によれば,原告Nの農業経営改善計画認定申請書(乙2の5)の生産方式の合理化の目標のうち作目・部門別合理化の方向欄に,目標として借入金の返済ができる限り政策に準じた営農を目指すと記載されており,この記載は,原告Nの父で,N家の実質的農業経営者であるFがしたものであり,Fは,本件農地で大豆等の栽培による畑作を行うことによる同農地の購入代金の借入れの返済に不安を感じていたことから,大豆等の栽培による畑作によって借入れの返済ができない場合には,本件農地において米を作付けすることを留保すべく,上記記載をしたものと認められる。
しかしながら,原告Nの農業経営改善計画認定申請書(乙2の5)のその他の記載をみるに,上記計画は,○○資金による借入れにより本件農地を購入し,本件農地において有機大豆等の栽培による畑作を行い,効率的かつ安定的な農業経営を実現することを内容としている。また,上記申請書の上記内容を前提とすれば,借入れの返済ができる限り政策に準じた営農を目指すとの記載がされていたとしても,これが生産方式の合理化の目標欄に記載されていることや上記記載が一義的に米の作付けを留保するものと解することができる表現がされているということができないことに照らせば,上記のような記載をしたFの内心の意図はどうであれ,上記計画の認定をする際に,大潟村長が,原告Nの本件農業経営改善計画が条件付きで米の作付けを留保するものと認識することができるとは認め難い。

また,農業経営改善計画が市町村の基本構想に適することが同計画の認定要件とされるところ,被告の基本構想は,水稲単作の生産構造を脱し,田畑複合経営の確立をすることを最重要課題に掲げ,法12条の農業経営改善計画の認定については生産調整を考慮している計画を認定するものとしていることに照らせば,大潟村長は,原告Nの農業経営改善計画が本件農地における米の作付けを条件付きで留保するものであると認識していれば,上記基本構想に適合せず認定要件を欠くものとして,
認定を行わないはずであるから,
原告Nの申請に係る農業経営改善計画につき,Fが本件農地における米の作付けを留保することを意図していたとしても,大潟村長が,本件農地における米の作付けを条件付きで留保して原告Nの農業経営改善計画を認定したものと認めることはできない。また,その余の原告らについては,そもそも認定申請書に,本件農地における米の作付けを条件付きで留保する旨の記載はされていない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
(4)

なお,原告らは,
認定農業者制度の運用改善のためのガイドラインについてと題する農林水産省経営局長通知(乙26。以下ガイドラインという。
)は,法12条の2第2項の定める取消事由として,そもそも認定された農業経営改善計画を実施しなかったり,認定された同計画に明らかに逆行する行動をとった場合を例示しており,ガイドラインは不測の事態が発生して同計画が実行できなくなった場合に認定の取消しをすることを想定しておらず,原告らは2年間にわたり本件農地で本件農業経営改善計画に従って大豆等の栽培による畑作を行ったが不測の事態により同計画を実行することができなくなったのであるから,このような原告らにつき同計画の認定を取り消すことは,ガイドラインに違反するものであると主張する。この点,ガイドラインは,法12条の2第2項による認定の取消しを想定する例として,①

農業経営改善計画の認定後,相当期間,農産物の販売実

績がない場合,②

経営改善のためにとるべき措置として規模拡大を農業経

営改善計画に記載している場合で,代替地の取得等の見込みがないにもかかわらず,経営規模を縮小している場合,③

経営改善のためにとるべき措置

として土地利用型から施設型等営農類型の転換を農業経営改善計画に記載している場合で,農業経営改善計画の認定後相当期間が経過したにもかかわらず,営農類型の転換に向けた具体的な取組がされていない場合を掲げているところ,原告らのように,農業経営改善計画において,経営改善のためにとるべき措置として,
本件農地を取得し,
同農地において大豆等の畑作を行い,
生産調整に参加することを記載している場合で,2年間にわたり同計画に従った営農を行ったものの,その後米の作付けをしたような場合については明示的に言及されていない。
しかしながら,ガイドラインは,法12条の2第2項による認定の取消しを想定する場合,すなわち,前記の認定農業者制度の趣旨に反する場合を例示したものにすぎず,ガイドラインに例示されていない場合における認定の取消しを何ら制限するものではない。
そして,原告らが本件農地において平成17年及び同18年に大豆等の栽培による畑作を行わず米の作付けを行ったことは,認定農業者制度の趣旨に反し,法12条の2第2項が定める認定取消事由に当たると判断すべきことは,前記のとおりである。
そうすると,本件処分にガイドライン違反があるとはいえず,原告らの上記主張は,失当であるといわざるを得ない。
(5)

以上のとおり,原告らが本件農地において,大豆等の栽培による畑作を
行わず,米の作付けをしたことは,法12条の2第2項が定める認定計画に従ってその農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないと認めるときに当たるのであるから,本件処分について,原告らの主張する事実誤認の違法はない。

5
争点(3)(行政上の信義則違反・法の目的違反の有無)について(1)

原告らの主張は,要するに,被告が,自ら基本部分の策定に関与した本
件農業経営改善計画の実現可能性に関する判断を誤って同計画を認定したか,又は同計画に沿った営農により借入金の返済が困難であることを認識しながら同計画を認定しておきながら,同計画に沿った営農をすることが経営上不可能であることが明らかになっても,同計画に沿った営農を行うことを求めるのみで,法が義務付ける営農指導や代替計画の提示を行わずに,本件農業経営改善計画の認定を取り消した本件処分は,A連による本件農地の売却につき被告の意向を汲んで原告らが本件農地を取得した経緯を被告が認識していたことや被告が本件農地で米を作付けしてはならないことを原告らに説明しなかったことなどの事情を考慮すれば,信義則又は法の目的に反するとの主張と解される。
(2)

本件農業経営改善計画認定の際の事情
まず,本件農業経営改善計画の認定の際に,被告が,同計画に沿った営農
により借入金の返済が不可能であることを認識しながら同計画を認定したとの事実は認められないことは前記判断のとおりであり,これと同旨の事実を前提とする原告らの主張部分は,その前提を欠くといわざるを得ない。すなわち,前記認定事実のとおり,原告らのみならず,被告においても,本件農業経営改善計画の認定の際,本件農地で大豆等の栽培を行い本件農地の購入資金の借入れを返済していくという農業経営が一応可能であるとの認識を有していたものの,原告らは,平成15年,同16年における天候不良や台風による塩害といった自然災害による不作を契機に,本件農地において奨励金の付かない大豆等の栽培による畑作を行うことにより同農地の購入資金の借入れを返済していくことは困難であると認識を変えるに至ったものである。
結局,被告が,本件農業経営改善計画の実現可能性の判断を誤ったことを
認めるに足りる適確な証拠はないといわざるを得ない。
(3)

本件農地の取得経緯
原告らは,本件農地の取得経緯を信義則適用の根拠として主張するから,
この点につき検討する。

本件農地の取得経緯は,前記認定のとおりであるところ,これを要約すると以下のとおりとなる。
A連による本件農地の売却が検討されていた当時,秋田県は,A連の負債処理のために本件農地を適正に処分したいとの意向に加え,本件農地を秋田県の模範となるような大規模畑作営農のモデル地区にしたいとの意向を有しており,被告もまた同様の意向を有していた。他方,Dは,大潟村の将来のために本件農地が不適切な団体等に取得されることを防がなければならず,そのために本件農地の売却に協力することへ使命感を抱いており,これは秋田県や被告の上記意向と合致するものであった。A連は本件農地を公募により売却することにしたが,Dらが関係機関へ働きかけたことにより,DらとA連との間で,原告らを独占的な交渉相手とする覚書が交わされた。この覚書には,Dらが本件農地を取得するに至らなかった場合の損害賠償条項が設けられていた。Dらは,農地保有合理化事業を利用して本件農地を取得する計画を立案し,
その後,
これがとんざしたものの,
損害賠償を求められることを防ぎたいという思惑もあり,農業経営改善計画の認定を受けて○○資金により本件農地を取得し,同農地で有機大豆等を栽培し,これを加工して販売するという計画を立案して,本件農地を取得した。なお,本件農地の価格は,A連の負債処理を目的として設定されたもので,
大潟村の一般的な畑地の価格と比較すると割高なものであった。


上記のとおり,原告らが多額の債務を負担して本件農地を取得し同農地において大豆等の栽培による畑作を行うこととしたことは被告の意向に合致していたものではあるが,原告らは,積極的に関係機関に働きかけて,
自らの意思で上記の計画を実行することを決定したのであって,被告が本件農地の取得を原告らに要請したというものではない。
そして,被告が本件農業経営改善計画の枠組みの中で原告らが本件農地において米を作付けすることを許容し,原告らもそのように認識していたとの事情も認められないことに照らし,原告らと被告との間で,本件農業経営改善計画の枠組みの中で,本件農地において大豆等の栽培による畑作を行わず米の作付けをすることを許容するとの信頼関係が存したと認めることもできない。
(なお,付言するに,前記認定・判断のとおり,本件農
地において大豆等の畑作を行わず米の作付けをすることは,大潟村が定める基本構想に抵触する上,認定農業者制度の趣旨にも反するものとして法12条の2第2項が定める認定取消事由に当たることに照らすと,上記のような信頼関係に従って行政を運営するのは,法の目的に反する便宜供与にほかならないのであるから,原告らが本件農地の取得のために多額の債務を負担したことをも考慮しても,上記のような信頼関係なるものを法的に保護することはできない。

そうすると,本件農地の購入経緯に関する事情は,信義則の適用の基礎を欠くといわざるを得ない。したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
(4)

計画策定への関与と営農指導等の義務
原告らは,被告には本件農業経営改善計画の策定に深く関与しこれが実現
可能として認定を行った責任がある上,法が市町村に営農計画が実現できるように指導・助言するなどの協力をすることを義務付けていることからすれば,見通しに誤りがあって本件農業経営改善計画を実行することが困難となった場合には,大潟村長は代替案を提示したり原告らと協議する法的義務があるのに,大潟村長がこれをせずに本件処分をした点が信義則に反するとも主張する。

この点,
法は,
国及び地方公共団体の責務として,
国及び地方公共団体は,
効率的かつ安定的な農業経営の育成に資するよう農業経営基盤の強化を促進するため,農業生産の基盤の整備及び開発,農業経営の近代化のための施設の導入,農業に関する研究開発及び技術の普及その他の関連施策を総合的に推進するように努めなければならないとし(法2条)
,さらに,国,地方公
共団体及び農業に関する団体は,認定計画の作成及びその達成のために必要な経営管理の合理化,農業従事の態様の改善等のための研修の実施,経営の指導を担当する者の養成その他の措置を講ずるように努めるものとするとしている(法16条)
。すなわち,法は,市町村の努力義務として,認定農業
者がその農業経営の改善を実現するための環境整備をし,認定計画の作成及びその達成のために必要な経営管理の合理化等に関する研修や指導を行うべきことを定めている。他方で,法は,市町村の定める効率的かつ安定的な農業経営を実現するための目標に向けて農業経営の改善をしようと自主的な努力をする農業者に経営基盤を強化する措置を講ずることとし,その方策として認定農業者制度を創出したことに照らせば,個々の農業経営改善計画の内容の作成に関し,市町村が,その基本構想に適合するように行政指導することを超えて,主体的に関与することまでは求めてはおらず,あくまでも,農業経営改善計画の内容は,認定農業者となろうとする者が自主的に作成するものであって,市町村が同計画の作成に関し指導を行って同計画を認定したとしても,その認定は同計画の実現を確約するものではない。そうである以上,認定された農業経営改善計画に従った営農を実現することが困難・不可能であると認識するに至った場合は,
当該認定農業者が代替計画を作成の上,
変更申請をすることが求められるのであって(法12条の2第1項),市町
村は,この変更申請に係る農業経営改善計画に関し,基本構想に適合するよう指導することが求められているにすぎず,変更申請前の農業経営改善計画を認定したからといって,上記の指導を超えて,実現可能な代替案を提示す
べき義務を負うことはないし,また,上記の変更申請なしに,市町村の側から実現可能な代替案を提示すべき義務もまた負うことはないというべきである。
これを本件につきみるに,原告らは本件農業経営改善計画の策定につき,被告や秋田県が深く関与したと主張するものの,同計画の策定に関する被告らの関与方法につき具体的な主張・立証はされておらず,そうすると,同計画の策定に被告らが関与したとしても,その関与は,同計画が被告の基本構想に適合するよう指導したことを超えたものとは認められない。そして,被告は,原告らの本件農業経営改善計画を認定したものの,その認定をもって同計画の実現を確約したということもできないのであるから,原告らが本件農業経営改善計画に従った営農では農業経営が成り立たないと認識するに至った場合であっても,被告は,実現可能な代替計画を提示する義務も負わない。
また,原告らは,本件農業経営改善計画を実現する営農の指導を求めたものの,被告がそのような指導をせず,同計画の変更申請の促しをしなかったこともまた信義則違反に当たると主張する。
この点,確かに,前記認定事実のとおり,被告は,原告らに対し,本件農業経営改善計画を実現する営農の指導を行わなかった。しかしながら,他方で,原告らは平成15年度において大豆等の栽培が不作に終わった際に,本件農業経営改善計画の実現に不安を感じ,本件農地における米の作付けを検討し始めたのであるが,その際,原告らが,被告に対し,営農指導等を求めるなどの相談をしたという事情はなく,また,平成17年度に本件農地で畑作を行わず米の作付けを始める際にも,同様に,営農指導等を求めるなどの相談をしたとの事情もない。すなわち,原告らが,被告に対し,明確に営農指導を求めるに至ったのは,平成17年度の本件農地における米の作付けが問題視された後のことであって,しかも,原告らは,本件農業経営改善計画
に反する米の作付けをしていたのにもかかわらず,作付けに係る米は加工用米であって本件農業経営改善計画には反しないと繰り返し主張しつつ,営農指導を求めていた。
原告らのこのような経緯・態様による営農指導の要請は,
具体的な代替案を作成,提示してそれに関する被告の指導を求めるという法の枠組みに沿ったものではなく,
その枠組みを超えて,
被告に代替案の作成,
提示を求めるものというべきである。そうすると,このような原告らの要請に対し,被告が営農指導を行うとか変更申請を促すべき法的義務を負うとは解し難いといわざるを得ない。
(また,原告らが被告に営農指導を求めるに
至ったこのような経緯やその態様に照らせば,営農指導の要請は,被告において,原告らが本件農業経営改善計画に従った営農をする意思を有するかにつき疑問を抱かせるものであったものと推認され,原告らにおいて,被告からの営農指導や変更申請の促しを受けることを信頼する前提を欠くというべきである。

したがって,被告が原告らに対し,営農指導や本件農業経営改善計画の変更認定の申請を促さなかったことにつき,
被告に法的な義務違反があるとか,
これが信義則に反するということもできないから,原告らの上記主張は採用することができない。
(5)

本件処分の予測可能性
原告らは,本件農地において米の作付けをしてはいけないこと及び米の作
付けをした場合に本件農業経営改善計画を取り消される可能性があることを認識していなかったにもかかわらず,大潟村長が同計画を取り消す本件処分をした点が信義則に反すると主張する。
しかしながら,本件農業経営改善計画は,目標を達成するためにとるべき措置として,①
こと,②

○○資金を利用して本件農地を取得して規模の拡大を図る

本件農地において,大豆等の畑作を行うこと,③

本件農地で大

豆等の畑作を行うことにより,米の生産調整に参加することを内容とするも
のであったのであり,本件農地において米の作付けを行うことはその内容とされていないのであるから,米の作付けをすることが同計画の内容に反することは明らかである。また,証拠(証人F)によれば,Fは,認定農業者となり,○○資金などの制度資金を利用する場合には,本件農地において,畑作をすることが前提となり米の作付けをすることができないと認識していたと認められ,原告らにおいても同様の認識を有していたものと推認される。そうすると,上記主張はその前提を欠いているというべきである。なお,
原告らは,
平成14年2月のA連による本件農地売却説明会の際に,
A連担当者が本件農地において芥子などの法禁物以外は作付けすることができると説明したことをもって,原告らが本件農地における米の作付けが禁止されないものと認識していたと主張する。しかしながら,上記説明は,本件農地自体の制限として米の作付けが禁止されることはないという趣旨の一般的な説明にすぎないことは明らかであって,また,前記内容の農業経営改善計画の認定を受け,
○○資金による借入れにより本件農地を取得した場合は,
本件農地において畑作をせずに米の作付けをすることが同計画の内容に反するのであるから,上記事情をもって,原告らが本件農地において米の作付けをすることが同計画の内容に反しないという意味で米の作付けをすることができると認識していたと認めることはできない。
(6)

法の目的違反
原告らは,被告は原告らに対し本件農業経営改善計画に沿った営農をする
ことを求めるが,これは,客観的に実現不可能な同計画の実施を原告らに強要するものであり,法が掲げる効率的かつ安定的な農業経営の育成,農業の健全な発展という目的に反すると主張する。
法は,認定農業者に対し,認定を受けた農業経営改善計画の変更をする場合にも市町村の認定を受けることを義務付けており法12条の2第1項)(

市町村が,変更に係る農業経営改善計画についても法12条4項の要件に該
当することを審査することが予定されている。したがって,認定農業者が農業経営改善計画に従った営農が困難・不可能となった場合には,新たな農業経営改善計画を作成して変更認定の申請を行い,同計画についても市町村による法12条4項の要件該当性の審査を受けて,改めて同計画の認定を受けることとなる。
本件において,原告らは,本件農業経営改善計画の内容どおりの大豆等の栽培による畑作を行わず米の作付けをしていたのに対し,同計画の変更認定の申請を行わなかったのであるから,原告らの本件農地における米の作付けに関し,被告による法12条4項の要件に該当することが審査・認定されていないにもかかわらず,原告らは,上記計画自体は維持し,認定農業者としての種々の優遇措置を受ける地位にあったということができる。
そうすると,
被告としては,原告らに対し,上記計画に従った営農を求める行政指導をするのは当然のことである。
もっとも,本件農業経営改善計画に従った営農を行い,本件農地の購入資金の借入れを返済しながら農業経営をすることが客観的に不可能であったことを認めるに足りる証拠がないことは措くとしても,
少なくとも,
原告らは,
平成15年及び同16年の2年にわたる大豆等の不作により本件農地において大豆等の栽培を行って上記借入れを返済することが困難であると認識するに至ったというのであるから,被告がそのような原告らに対し上記計画に従った営農を求めることは,原告らからみれば,不可能な計画を実施することを強いられていると感ずるのも無理からぬところではある。
しかしながら,認定農業者制度の趣旨は,効率的かつ安定的な農業経営が農業生産の相当部分を担う農業構造を確立するとの法の目的に沿い,かつ,地域における実情を反映した,効率的かつ安定的な農業経営を実現するための明確かつ具体的な目標(基本構想)を各市町村が設定し,この目標を計画的に進めようと自主的な努力をする農業者に農用地の利用の集積をするとと
もに経営の合理化等の農業経営基盤を強化するという点にあり,
そうすると,
市町村の基本構想に適合するなどの要件に該当するとの審査・認定がされていない営農を行う農業者に,認定農業者としての種々の優遇措置を受けることを許容するとすれば,認定農業者制度により,市町村が設定した具体的目標(基本構想)を達成することができなくなり,ひいては,効率的かつ安定的な農業経営を実現するとの法の目的をも実現することができなくなるというほかない。結局,原告らの主張する問題点は,法の枠組みの中では計画の変更の認定を受けることで対処するほかない。
したがって,本件において,被告が,原告らに対し,本件農業経営改善計画に従った営農をすることを求めたことが法の目的に反するとはいえない。よって,原告らの上記主張は,採用することができない。
(7)

以上のとおり,原告らの信義則違反・法の目的違反の違法に関する主張
は,いずれも理由がない。
6
争点(4)(公平原則違反の有無)について
原告らは,法12条1項の認定を受けた農業経営改善計画は生産調整に参加することを当然の前提としており,αにおける認定農業者のうち生産調整に参加していない者がおり,大潟村長はこれを認識しているにもかかわらず,これらの者に関する認定を取り消すどころか,
是正指導を行ったことすらないのに,
原告らに対してのみ農業経営改善計画の認定を取り消す本件処分を行ったことは,行政手続の公平性に反すると主張する。
しかしながら,
生産調整に参加しない認定農業者の農業経営改善計画の内容,
認定後から現在に至るまでの具体的営農状況や経緯等が明らかにされていないのであるから,そもそも上記認定農業者につき法12条の2第2項の認定取消事由の有無を判断することができないのであって,原告らとこの者らとの公平性を論ずる前提を欠くといわざるを得ない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。

第4

結論
以上のとおりであって,本件処分に違法があると認めることはできない。よって,本件処分の取消しを求める原告らの本訴各請求は,いずれも理由がな
いから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
秋田地方裁判所民事第一部

裁判長裁判官

鈴木
裁判官

和田
裁判官

能登谷

陽一健宣仁
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