判例検索β > 平成19年(モ)第697号
文書提出命令申立事件
事件番号平成19(モ)697
事件名文書提出命令申立事件
裁判年月日平成20年11月17日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  民事第8部
裁判日:西暦2008-11-17
情報公開日2017-10-17 20:39:23
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平成19年(モ)第697号文書提出命令申立事件
決主1定文
相手方は,本決定が確定した日から7日以内に別紙文書目録記載の各文書を当裁判所に提出せよ。

2
申立人らのその余の申立てを却下する。

第1

申立ての趣旨及び理由等


[以下別紙の添付省略]

申立人らの本件申立ての趣旨及び理由は,別紙文書提出命令申立書,文書提出命令に関する意見書及び文書提出命令に関する意見書(2)(いずれも写し)のとおりであり,本件申立てに対する相手方の意見は,別紙平成19年(ワ)第1690号損害賠償請求事件に関する審尋に対する回答,平成19年(ワ)第1690号損害賠償請求事件に関する審尋に対する回答の補足,平成20年9月25日受付けの意見書(いずれも写し)のとおりであり,相手方の監督官庁であるF県警察本部長(以下県警本部長という。)の意見は,別紙平成20年4月9日付けの意見書(写し)のとおりである。
第2
1
事案の概要
基本事件は,平成元年9月8日,X(以下Xという。)が賃借していた居室(本件事故現場)において,X及びY(以下Yという。)が,一酸化炭素中毒によって死亡した(本件事故)のは,基本事件被告G株式会社(以下被告Gという。)が自社ブランドとして販売し,本件事故現場に設置した基本事件被告H株式会社(以下被告Hという。)製のガス湯沸器(以下本件湯沸器という。)が原因であり,被告らは欠陥のない製品を提供する義務などを怠ったと主張し,さらに,本件事故現場にガスの供給を行っていたガス事業者である訴外I株式会社(以下Iという。)(後
に被告Gが吸収合併した。)はガス事業者として必要な安全確保義務を怠ったと主張して,X又はYの相続人である申立人らが被告H及び被告Gに対して,民法709条に基づき,それぞれ損害賠償金及びこれに対する不法行為日である平成元年9月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2
申立人らは,別紙文書提出命令申立書(写し)第1記載の各文書(以下本件各申立文書という。)は,民事訴訟法(以下法という。)220条4号の除外事由のいずれにも該当しない,あるいは同条3号前段の利益文書に該当するので,相手方には文書提出義務があると主張して,文書提出命令の申立てをした。
これに対し,相手方は,本件各申立文書のうち別紙文書目録記載の各文書(以下本件各文書という。)を所持しており,その余の文書は所持していないとした上で,本件各文書は法220条4号ロ・ホに掲げる除外事由に該当し,また,法220条3号前段にも該当しないので,文書提出義務はないと主張する。
相手方の監督官庁である県警本部長は,法223条3項の意見聴取手続において,本件各申立文書の提出により,法223条4項1号の国の安全を害するおそれ及び同2号の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあることを理由として,法220条4号ロの提出により公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生じるおそれがある文書に該当する旨の意見を述べている。

3
前提事実(一件記録により認められる事実)
(1)本件事故の発生
平成元年9月10日午前8時30分ころ,a市bc番地d

eビルf階

g号(以下本件事故現場という。)において,X及びYが台所東側隣室の4畳半寝室で死亡しているのが発見された(甲6)。

本件事故現場に出動したJ消防署の救急隊は,本件事故現場到着時にX及びYに死後硬直がみられたため,警察官,検視医の出動を要請し,L警察署警察官に両名の遺体を引き渡した。K医師は,同日午前9時10分ころ,本件事故現場に立ち会い,死体の検案を行い,両名の死因について一酸化炭素中毒死であり,両名の死亡推定日時を,同月8日午後10時ころと診断した。(甲7)
L警察署は,本件事故当時の本件事故現場の状況を明らかにし,証拠を保全するため,本件事故現場の状況などの写真撮影を行った。
なお,本件事故について,後記(2)アのK医師による死体検案書のほかに,L警察署において検視調書が作成されたか否かは明らかでなく,また,L警察署において犯罪の捜査をしたとして書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致したことはうかがわれない。
(2)本件各文書の作成等
以下のとおり本件各文書は作成されるなどしたことが認められ,相手方が本件各文書を所持していることに争いがないが,本件各申立文書のうちその余の文書については,相手方が所持していることを認めるに足りる証拠はない。

死体検案書
死体の検案を行ったK医師は,検案の結果を記載したX及びYの各死体検案書(以下,これらを併せて本件各死体検案書という。)を作成し,X及びYの各遺族に交付した。本件各死体検案書の写し(別紙文書目録3及び4の文書。以下これらを併せて本件各死体検案書写しという。)は,後日,X及びYの各遺族からL警察署に提出されたものである。


供述録取書
L警察署警部補M(以下Mという。)は,平成元年9月11日,

Iの従業員に本件事故の内容を簡単に話すとともに,Iの従業員から本件湯沸器について事情聴取を行い,供述録取書(別紙文書目録記載1の文書)を作成した(乙ロ2の①)。
Mは,同月16日,死亡したXの父である申立人A(以下申立人Aという。)から事情を聴取し,供述録取書(別紙文書目録記載2の各文書。以下,I従業員の供述録取書と併せて本件各供述録取書という。)を作成した。

写真撮影報告書
L警察署巡査部長Nは,本件事故発見直後に本件事故現場の状況などを撮影した写真について,平成元年9月26日,事件名を変死被疑事件とし,L警察署長宛にその結果を報告した写真撮影報告書(別紙文書目録記載5の文書。以下本件写真撮影報告書という。)を作成した。

(3)Iによる調査及び書類(基本事件に提出済みの証拠)の作成ア
Iは,平成元年9月10日,本件事故直後の午前8時45分ころ,消防本部から電話連絡を受け,午前8時50分ころ,I従業員であるO,Pの2名が現場に出動し,午前9時01分ころ,本件湯沸器のゲージテストを行ったが,異常なしという結果であった(乙ロ2の①)。I従業員であるQ課長,R副長が,同日午前9時30分ころ,現場に到着した。I従業員は,同日午後12時55分,中部通商産業局(現在の中部経済産業局)ガス保安課S課長補佐宅へ本件事故について電話で連絡を行った。(乙ロ2の①)


Iは,同月12日,本件事故の経緯,I従業員が警察から聞いた本件事故の内容,事故原因及び本件湯沸器の毎月の使用量などまとめたメモ(乙ロ2の①)を作成した(乙ロ2の①)。Iは,同年10月6日,ガス事業法(平成11年法律第160号によ
る改正前のもの。以下同じ。)46条1項及びガス事業法施行規則(平成2年通商産業省令第46号による改正前のもの。以下同じ。)88条に基づいて,中部通商産業局長Tに対し,本件事故について同条4項所定の様式(様式第64(88条関係))でガス事故詳報(乙ロ1。以下本件ガス事故詳報という。)を提出した(乙ロ1,甲28)。
本件ガス事故詳報には,本件事故発生の日時,本件事故現場,事故発生のガス工作物(本件湯沸器),本件事故の内容及び被害状況,本件事故の原因などが記載されている。また,本件ガス事故詳報の添付資料には,平成元年4月27日の法定調査(ガス事業法40条の2第2項に関する調査)に関する事項について記載があり,調査の結果として排気筒口径縮小(130㎜のところ100㎜)があること,前回調査時よりガス需要家に改善するよう交渉していること,ガス漏れ警報器が未設置であることなどが記載されている(乙ロ1)。さらに,本件ガス事故詳報には,本件湯沸器の設置状況などを記載した本件事故現場の平面図・立面図なども添付されていた(乙ロ1)。
通商産業省資源エネルギー庁(現在の経済産業省原子力安全・保安院)ガス保安課は,ガス事故詳報をもとにガス事故統計及び都市ガス事故情報データベースを作成した(甲28)。
(4)本件事故に関する報道
大手新聞各紙は,平成元年9月11日,本件事故の発生を報道するとともに,①本件事故現場が,鉄筋4階建のマンションの一室で,間取りは6畳,4・5畳に台所の2Kであること,②本件事故現場は,風呂場と流し台に湯を供給する本件湯沸器が点火されており,両方の蛇口から湯が出っぱなしの状態であったこと,③窓や戸は全て閉められ,施錠されていたこと,④X及びYは,ふとんの両側に仰向けになって倒れており,両名に外傷はなく,死亡推定時間は同月8日の昼ころから夜であることがL警察署
の調べで判明していること,⑤L警察署は,閉め切った室内で湯沸器を使ったための,一酸化炭素中毒による事故死とみていることなどを報道した(乙ロ2の②)。
第3
1
当裁判所の判断
法220条4号ホについて
(1)刑事事件に係る訴訟に関する書類とは,被疑事件又は被告事件に関して作成された書類をいう。そして,当該文書に該当するかは,文書の表示及び文書の趣旨など文書の存在形態から外形的・形式的基準によって類型的に判断すべきである。
(2)変死者又は変死の疑いがある死体(以下変死体という。)が発見された場合には,警察署長は,検察官にその旨を通知し(検視規則(昭和33年国家公安委員会規則第3号。以下同じ。)3条),検察官は,その死亡が犯罪に該当するかどうかを判断するため検視をしなければならない(刑事訴訟法229条1項)が,検察官は,この処分を司法警察員にさせることができる(同条2項。いわゆる代行検視)。代行検視を行う場合には,警察官は,医師の立会いを求めてこれを行い,すみやかに検察官に,その結果を報告するとともに,検視調書を作成して,撮影した写真等とともに送付しなければならない(検視規則5条)。検視に当つては,①変死体の氏名,年齢,住居及び性別,②変死体の位置,姿勢並びに創傷その他の変異及び特徴,③着衣,携帯品及び遺留品,④周辺の地形及び事物の状況,⑤死亡の推定年月日時及び場所,⑥死因(特に犯罪行為に基因するか否か。),⑦凶器その他犯罪行為に供した疑のある物件,⑧自殺の疑がある死体については,自殺の原因及び方法,教唆者,ほう助者等の有無並びに遺書があるときはその真偽,⑨中毒死の疑があるときは,症状,毒物の種類及び中毒するに至った経緯を綿密に調査しなければならない(検視規則6条1項)。この調査に当つて必要がある場合には,立会医師の意見を
徴し,家人,親族,隣人,発見者その他の関係者について必要な事項を聴取し,かつ,人相,全身の形状,特徴ある身体の部位,着衣その他特徴のある所持品の撮影及び記録並びに指紋の採取等を行わなければならない(検視規則6条2項)。検視の結果,犯罪の嫌疑が生ずれば,直ちに捜査手続に移行することになるが,犯罪の嫌疑がなければ,捜査手続には移行しない。
(3)ア

前記前提事実によると,本件事故について,L警察署が,検視調書を
作成したか否かは明らかでないが,本件写真撮影報告書について被疑事件の罪名は変死被疑事件とされていることなどからすると,L警察署において本件事故について,本件事故によるX及びYの死亡が犯罪に基因するものかどうかを判断するために,変死体として,代行検視の手続が行われたものと認められる(相手方及び県警本部長も,検視を行ったことを前提として,本件申立てについての意見を述べている)。そして,前記前提事実によると,本件事故直後にL警察署が本件事故について閉め切った室内で湯沸器を使ったための,一酸化炭素中毒による事故死とみているとの新聞報道がされていること,L警察署において犯罪の捜査をしたとして書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致したことはうかがわれないことからすると,上記検視を捜査の端緒として,本件事故について捜査手続は開始されていないと認められる。
以上によると,L警察署において,本件事故について,犯罪の有無を発見するために行われる捜査そのものに属さない捜査前の処分として代行検視が行われたにすぎず,これを捜査の端緒として本件事故について捜査手続が開始されたことはないものと認められる。

そうすると,L警察署所属の警察官が作成した本件各供述録取書は,検視規則6条2項の調査に当たって,親族である申立人A及びガス事業者であるIの従業員から必要な事項を聴取した結果であり,また,本件
写真撮影報告書も,同調査に当たって,変死体の人相,全身の形状,特徴ある身体の部位,着衣その他特徴のある所持品などの撮影を行った結果を報告したものであると認められる。
したがって,本件各供述録取書及び本件写真撮影報告書は,捜査そのものに属さない捜査前の処分としての検視に伴って作成された文書であり,何らかの被疑事実の捜査に関して作成された書類ではないから,いずれも刑事事件に係る訴訟に関する書類に当たらないものである。ウ
また,本件各死体検案書写しは,本件事故現場に立ち会い,死体の検案を行ったK医師の検案の結果を記した本件各死体検案書の写しであり,後日,L警察署が検視活動における医師の立会いの有無を明らかにするために,X及びYの各遺族である申立人らからL警察署に提出されたものと認められる。
したがって,本件各死体検案書写しは,捜査そのものに属さない捜査前の処分としての検視における医師の立会いの有無を明らかにするために作成された文書であり,何らかの被疑事件の捜査に関して作成された書類ではないから,刑事事件に係る訴訟に関する書類には当たらないものである。

(4)以上によれば,本件各文書は,何らかの被疑事実の捜査のために作成されたものではないから,法220条4号ホには該当しないものというべきである。
2
法220条4号ロについて
(1)法220条4号ロにいう公務員の職務上の秘密とは,公務員が職務上知り得た非公知の事項であって,実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいうと解すべきである(最高裁昭和52年12月19日第二小法廷決定・刑集31巻7号1053頁,最高裁昭和53年5月31日第一小法廷決定・刑集32巻3号457頁参照)。そして,
上記公務員の職務上の秘密には,公務員の所掌事務に属する秘密だけでなく,公務員が職務を遂行する上で知ることができた私人の秘密であって,それが基本事件において公にされることにより,私人との信頼関係が損なわれ,公務の公正かつ円滑な運営に支障を来すこととなるものも含まれると解すべきである。そして,法220条4号ロのその提出により公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生じるおそれがあるというのは,単に文書の性格から公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずる抽象的なおそれがあることが認められるだけでは足りず,その文書の記載内容からみてそのおそれの存在することが具体的に認められることが必要であると解すべきである。(最高裁平成17年10月14日第三小法廷決定・民集59巻8号2265頁)
また,監督官庁が,当該文書の提出により,法223条4項各号に掲げるおそれがあることを理由として法220条4号ロに掲げる文書に該当する旨の意見を述べたときは,その意見について相当な理由があると認めるに足りない場合に限り,当該文書の提出を命ずることができるものとしている(法223条4項)が,監督官庁は,上記意見を述べるに当たっては,単にその可能性があることを抽象的に述べるにとどまらず,その文書の内容に即して具体的に公共の利益を害したり公務の遂行に著しい支障が生ずるおそれのあることについてその理由を述べることが求められているものと解すべきである(最高裁平成17年7月22日第二小法廷決定・民集59巻6号1888頁裁判官滝井繁男,今井功の補足意見参照)。
以上を前提に,以下,本件各文書について,それぞれ検討する。
(2)本件各死体検案書写しについて
ア一件記録によると,以下の事実が認められる。
(ア)死体検案書は,検案をした医師が,死亡診断書と同一の所定の様式に従って死亡者の氏名,生年月日及び性別,死亡の年月日時分,死亡
の場所及びその種別,死亡の種類,死亡の原因などを記載して作成し(医師法施行規則(平成2年厚生省令第49号による改正前のもの)20条),交付の求めがあった遺族に対し交付するものであり(医師法19条2項),警察が行う検視のために医師が作成するものではない。
(イ)本件各死体検案書は,本件事故現場に立ち会い,死体の検案を行ったK医師が作成し,X及びYの各遺族に交付されたものである。本件各死体検案書写しは,本件各死体検案書の写しであり,L警察署が検視活動における医師の立会いの有無を明らかにするために,後日,X及びYの各遺族である申立人からL警察署が提出を受けた文書である。(ウ)X及びYの各遺族である申立人らは,本件申立てにより本件各死体検案書写しの基本事件への提出を求めている。

上記認定事実によると,本件各死体検案書写しは,L警察署が検視活動における医師の立会いの有無を明らかにするために,申立人らから提出を受けたものであるから,公務員が職務を遂行する上で知ることができた申立人らにとって私的な情報が記載されたものであり,かつ,警察官ないし検察官(以下警察官等という。)において組織的に利用する文書であって,その後捜査が行われ刑事事件となった場合以外の公表は予定されていない。このような文書は,その性質上,当初予定されていなかった民事訴訟に提出されることにより,調査に協力した関係者との信頼関係が損なわれ,公務の公正かつ円滑な運営に支障を来すこととなるものにあたる。
したがって,本件各死体検案書写しは,公務員の職務上の秘密に関する文書に当たる。そこで,本件各死体検案書写しの提出により公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生じるおそれがあるかが問題となる。


県警本部長は,本件各死体検案書写しが,検視活動における医師の立会いの有無を明らかにするために,遺族から警察に提出を求める文書であるところ,死体検案書を作成する医師が,検視報告の限度で利用されることを前提に作成されたものが,後日自己又は第三者の民事裁判に流用されるとしたら,検視に立ち会うこと自体を拒むようになるおそれが存するとして,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるとの意見を述べる。
しかし,県警本部長の意見は,本件各死体検案書写しの性格から生じる支障の可能性を一般的・抽象的に述べるにとどまり,本件各死体検案書写しの記載内容に即して具体的な支障を及ぼす可能性があることを述べるものではない。
そして,上記認定事実によると,L警察署に本件各死体検案書写しを提出した申立人ら自身が,本件申立てによりそれの基本事件への提出を求めているのであり,本件各死体検案書写しが,基本事件に提出されても,それは申立人らの意思に沿うものであるから,申立人らの信頼を著しく損なうという具体的な支障が生ずるおそれは全くありえない。また,上記認定事実によると,死体検案書は,検案をした医師が,死亡診断書と同一の所定の様式に従って死亡者の氏名,生年月日及び性別,死亡の年月日時分,死亡の場所及びその種別,死亡の種類,死亡の原因などを記載して作成し,交付の求めのあった遺族に交付するものであるから,死体検案を行った医師において,遺族がこれを利用することは当然予想されるものであり,また,死体検案書の一般的な書式からいっても,実際に当裁判所が法223条6項に基づき相手方に対して本件各文書の提示を求めた結果,判明した本件各死体検案書写しの記載内容に照らしても,本件各死体検案書写しが基本事件において提出された場合に,
以後警察官等が,検視を行うに際し,医師がその立会いを拒むなどその協力を得ることが著しく困難になるという具体的な支障が生ずるおそれがあるとはいえない。
したがって,本件各死体検案書写しが,基本事件に提出されることによって国の安全が脅かされ,かつ,犯罪の予防,鎮圧又は捜査などの公共の安全と秩序の維持に重大な支障を及ぼすおそれが具体的に存在するとは認められない。そうすると,上記県警本部長の意見について相当な理由があるとは認めるに足りないというべきである。

相手方は,本件各死体検案書写しには,捜査手法や着眼点など,多岐に亘る捜査情報が記録されており,これらが公になった場合,今後の捜査活動に支障を来たし,犯罪を誘発し,犯罪を企図する者による犯罪の実行を容易にするおそれがあり,犯罪の予防等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるなどと主張する。
しかし,上記認定事実によると,死体検案書は,検案をした医師が,死亡診断書と同一の所定の様式に従って死亡者の氏名,生年月日及び性別,死亡の年月日時分,死亡の場所及びその種別,死亡の種類,死亡の原因などを記載して作成されるものであり,犯罪に該当するか否かの判断をするための検視の方法や着眼点などは記載されるものではないし,実際に当裁判所が法223条6項に基づき相手方に対して本件各文書の提示を求めた結果,判明した本件各死体検案書写しの記載内容に照らしても,本件各死体検案書写しが民事訴訟に提出されて公になることによって,今後の検視活動や捜査手続に移行した場合の捜査活動に支障を来たし,犯罪を誘発し,犯罪を企図する者によって犯罪の実行を容易にするという具体的な支障が生ずるおそれがあるとは認められない。そうすると,上記相手方の主張は,理由がない。


以上によれば,本件各死体検案書写しは,法220条4号ロには該当
しないものと認められる。
(3)本件写真撮影報告書

一件記録によると,以下の事実が認められる。
(ア)検視に際しての写真撮影は,検視規則6条2項に従って,検視規則6条1項に定める変死体の位置,姿勢並びに創傷その他の変異及び特徴,着衣,携帯品及び遺留品,周辺の地形及び事物の状況,死因(特に犯罪行為に基因するか否か。)などを綿密に調査するため,死体の人相,全身の形状,特徴ある身体の部位,着衣などの撮影を行うものである。外表の検査として認められる範囲で,死体の写真を撮影する場合には令状なくして行うことができると解されているが,それを超えた住居等の内部の様子などの撮影は,令状なくして行うことはできないと解されており,関係者の任意の協力を得て行うものである。このような目的で写真撮影を行った結果を,撮影日時・場所などを記載して写真撮影報告書として,当該写真を添付して所属警察署長宛に報告を行うものであり,報告者や撮影者の評価,分析,意見などは記載されるものではない。
警察官等において,写真撮影報告書などを資料として犯罪の嫌疑について検討し,検視の結果,犯罪の嫌疑が生じたときには,捜査手続に移行し,刑事事件に係る訴訟に関する書類として写真撮影報告書は利用され,公判が開廷されるまでは,原則としてこれを公にしてはならない(刑事訴訟法47条本文)が,公益上の必要その他の事由があって,相当と認められる場合には,この限りではない(同条ただし書)。
公判が開廷された場合には,訴訟に関する書類として写真撮影報告書は公にすることは許される(同条本文の反対解釈)。ただし,公にするとは,傍聴人など一般第三者が在廷する公判廷において,記録の
存在及び内容を裁判所に示すことができることを意味するにとどまり,検察官や弁護人など訴訟関係人を除いて(刑事訴訟法40条,270条),特定の者が記録の閲覧や謄写をする機会を保証するものではない。被告事件の終結後は,何人も,原則として訴訟記録を閲覧することができる(刑事訴訟法53条1項本文)。
検視の結果,犯罪の嫌疑が生じず,捜査手続に移行しない場合は,公開することは予定されていない。
(イ)本件写真撮影報告書は,L警察署所属の警察官が,上記(ア)の目的で,L警察署長宛に作成した報告書である
(ウ)本件事故で死亡したX(本件事故現場の賃借人でもある。)やYの各遺族である申立人らは,本件申立てにより本件写真撮影報告書の基本事件への提出を求めている。本件事故現場の賃貸人で,所有者であったU(以下Uという。)は,本件各申立文書が,基本事件にお
いて提出されることについて明示的に反対する意思は示していない。イ
上記認定事実によると,本件写真撮影報告書は,警察官が職務上知ることのできた本件事故現場の状況などX及びYの各遺族やUにとって私的な情報が記載されているものであり,かつ,警察官等において組織的に利用する文書であって,その後捜査が行われ刑事事件になった場合以外の公表は予定されていない。このような文書は,その性質上,当初予定されていなかった民事訴訟において提出されることにより,調査に協力した関係者との信頼関係が損なわれ,公務の公正かつ円滑な運営に支障を来すこととなるものにあたる。
したがって,本件写真撮影報告書は,公務員の職務上の秘密に関する文書に当たる。そこで,本件写真撮影報告書の提出により公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生じるおそれがあるかが問題となる。


県警本部長は,本件写真撮影報告書が,犯罪捜査の目的のために撮影対象物の所有者の許可を得て写真を撮影して作成されたものであるところ,撮影対象物の所有者も犯罪捜査という公共の利益のためにやむなくその撮影を許可したものであるのに,後日予想もしなかった民事裁判に流用されるおそれがあるとしたら,写真撮影を拒むことになるおそれが存し,写真撮影を行おうとする都度,検証の申立を必要とするのでは捜査に重大な支障が生じ,国の安全が脅かされ,かつ,犯罪の予防,鎮圧又は捜査などの公共の安全と秩序の維持に重大な支障を及ぼすとの意見を述べている。
しかし,県警本部長の意見は,本件写真撮影報告書の性格から生じる支障の可能性を一般的・抽象的に述べるにとどまり,本件写真撮影報告書の記載内容に即して具体的な支障を及ぼす可能性があることを述べるものではない。
そして,上記認定事実によると,本件事故で死亡したX(本件事故現場の賃借人でもある。)やYの各遺族である申立人らは,本件申立てにより本件写真撮影報告書の基本事件への提出を求めているのであり,本件事故現場の賃貸人で,所有者であったUは,本件写真撮影報告書が,基本事件において提出されることには明示的に反対する意思は示していないし,実際に当裁判所が法223条6項に基づき相手方に対して本件各文書の提示を求めた結果,判明した本件写真撮影報告書の記載内容に照らしても,本件写真撮影報告書を基本事件において提出された場合に,調査に協力した関係者の信頼を著しく損なうという具体的な支障が生ずるおそれがあるとはいえない。
また,上記認定事実によると,検視の結果,犯罪の嫌疑が生じ,捜査手続に移行し,公判が開廷されたときには,刑事事件において公にされる可能性があることが制度的に予定されているから,検視に当たって警
察官の行う調査に応じ,任意に写真撮影に応じた者は,写真撮影の内容が,将来にわたっても,決して他に開示されることはないとの信頼を前提に写真撮影に応じたものとは解されないし,実際に当裁判所が法223条6項に基づき相手方に対して本件各文書の提示を求めた結果,判明した本件写真撮影報告書の記載内容に照らしても,本件写真撮影報告書が基本事件において提出されたとしても,以後警察官等が検視にあたり写真撮影を行うに際し関係者の協力を得ることが著しく困難となるという具体的な支障が生ずるおそれがあるとはいえない。
したがって,本件写真撮影報告書が基本事件で提出されることによって国の安全が脅かされ,かつ,犯罪の予防,鎮圧又は捜査などの公共の安全と秩序の維持に重大な支障を及ぼすおそれが具体的に存在するとは認められない。そうすると,上記県警本部長の意見について相当な理由があるとは認めるに足りないというべきである。

相手方は,本件写真撮影報告書には,捜査手法や着眼点など,多岐に亘る捜査情報が記録されており,これらが公になった場合,今後の捜査活動に支障を来たし,犯罪を誘発し,犯罪を企図する者による犯罪の実行を容易にするおそれがあり,犯罪の予防等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるなどと主張する。
しかし,本件事故は,既に約19年前の事故であり,公訴時効が完成している可能性が高く,今後刑事事件として立件させる可能性は著しく低いことから,本件写真撮影報告書が民事訴訟に提出されても,本件事故についての調査の進捗状況などが明らかになり,関係証拠の隠滅や犯人の逃走が図られるなど,本件事故に関する今後の検視活動や捜査手続に移行した場合の捜査活動に支障を来すという具体的な支障が生ずるおそれがあるとはいえない。
また,写真撮影報告書は,撮影日時・場所などが記載され,事故現場
の状況などが撮影された写真が添付されるにすぎず,報告者や撮影者の評価,分析,意見などは記載されるものではない。そうすると,本件写真撮影報告書の記載内容や添付の写真から,犯罪に該当するか否かの判断をするための検視の方法や着眼点などが推知される一般的・抽象的な可能性があるにとどまるのであって,実際に当裁判所が法223条6項に基づき相手方に対して本件各文書の提示を求めた結果,判明した本件写真撮影報告書の記載内容に照らしても,警察官等が本件事故のような事案で犯罪に基因するものかどうかを検討し判断する際の着眼点や検討,判断の過程が具体的に明らかになるものではない。そうすると,本件写真撮影報告書の記載内容が民事訴訟に提出されて公になることによって,犯罪を誘発し,犯罪を企図する者によって犯罪の実行を容易にするという具体的な支障が生ずるおそれがあるとは認められない。そうすると,上記相手方の主張は,理由がない。

以上によれば,本件写真撮影報告書は,法220条4号ロには該当しないものと認められる。

(4)本件各供述録取書

一件記録によると,以下の事実が認められる。
(ア)検視に際して警察官は,検視規則6条2項に従って,関係者について必要な事項を聴取し,検視規則6条1項に定める事項を綿密に調査を行う。変死体の親族に対しては,変死体の身上関係や生活状況について聴取して,変死体の氏名,年齢,住所及び性別など身元の確認や自殺の疑いの有無など検視規則6条1項に定める事項を調査する。また,室内において変死体の死因が一酸化炭素中毒死の疑いがある場合には,室内に設置されたガス器具を管理するガス事業者から,ガス器具の使用状況や事故の原因などを聴取し,症状,毒物の種類及び中毒するに至った経緯など検視規則6条1項に定める事項を調査する。
供述録取書は,このような聴取の結果を警察官において調書に録取し,供述者にその内容を確認して,署名押印を求めて作成するものであり,作成者である警察官の評価,分析,意見などは記載されない。そして,検視に際し作成される供述録取書も,写真撮影報告書と同様に,警察官等において,犯罪の嫌疑について検討する際の資料とされ,検視の結果,犯罪の嫌疑が生じ,捜査手続に移行した場合には,刑事事件に係る訴訟の資料として利用され,公判が開廷されるまでは,原則としてこれを公にしないものであり,捜査手続に移行しなかった場合にも,公開することは予定されていない文書である。
(イ)本件各供述録取書は,L警察署において,上記(ア)の目的で,Xの親族である申立人A及びガス事業者であるIの従業員から必要な事項を聴取した結果である。
(ウ)また,申立人Aを含むX及びYの各遺族である申立人らは,本件申立てにより本件各供述録取書の基本事件への提出を求めている。
Iの事業を承継した被告Gは,本件各申立文書の提出について然るべくとするだけでなく,本件各申立文書が基本事件における事実の認定に有用な資料であると思料するとの意見を述べている。)Iが当時把握したとする内容は,被告GよりIのガス事故詳報(乙ロ1)及び内部のメモ(乙ロ1,2の①)として基本事件に提出されている。イ
I従業員の供述録取書について
(ア)上記認定事実によると,I従業員の供述録取書は,警察官が職務上知ることのできたI(現在の被告G)ないしI従業員にとっての私的な情報が記載されているものであり,かつ,警察官等において組織的に利用する文書であって,その後捜査が行われ刑事事件となった場合以外の公表は予定されていない。
そして,このような文書は,その性質上,当初予定されていなかっ
た民事訴訟において提出されることにより,調査に協力した関係者の信頼関係が損なわれ,公務の公正かつ円滑な運営に支障を来すこととなるものにあたる。
したがって,I従業員の供述録取書は,公務員の職務上の秘密に関する文書に当たる。そこで,I従業員の供述録取書の提出により公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生じるおそれがあるかが問題となる。
(イ)県警本部長は,I従業員の供述録取書が犯罪捜査の目的で,格別の協力を求めて,特に社会的及び人間的配慮を考慮せず供述者の体験及び経験のまま供述したものを録取して作成されたものであるところ,後日,民事裁判に利用されることになると,供述者に不利になったり,供述者が第三者から苦情や訴訟提起を受けるなどして負担を受けるおそれが存することにより,今後の捜査活動において供述者が協力を拒んだり,真の記憶及び体験に基づく供述をしなくなるおそれが強く存する。特に,基本事件は社会的な耳目を集めている企業が被告であることなどに鑑みれば,その訴訟経過や結果が報道されることにより,多くの国民が犯罪捜査に協力した結果が後日民事訴訟の証拠として用いられる可能性があることを知ることとなるので,多くの国民が協力を拒むなどのおそれが現実に大きく,また,I従業員の供述録取書の供述者も,供述当時は刑事事件に限り事故の供述を証拠とすることを承諾して供述したにもかかわらず,後日民事訴訟に利用されることは精神的抵抗感が強いというべきである。このような事態は,犯罪者の適正な検挙・摘発が阻害され,あるいは犯罪捜査が滞ることで,国の安全が脅かされ,かつ,犯罪の予防,鎮圧又は捜査などの公共の安全と秩序の維持に重大な支障を及ぼすことになるとの意見を述べている。しかし,県警本部長の意見は,供述録取書の性格から生じる支障の
可能性を一般的・抽象的に述べるにとどまり,I従業員の供述録取書の記載内容に即して具体的な支障を及ぼす可能性があることを述べるものではない。
そして,上記認定事実によると,Iの事業を承継した被告Gは,本件各申立文書の提出について然るべくとするだけでなく,本件各
申立文書が基本事件における事実の認定に有用な資料であると思料するとしていること,既にIが当時把握したとする内容は,被告GよりIのガス事故詳報(乙ロ1)及び内部のメモ(乙ロ1,2の①)として基本事件に提出されていること,さらに,実際に当裁判所が法223条6項に基づき相手方に対して本件各文書の提示を求めた結果,判明したI従業員の供述録取書の記載内容に照らしても,I従業員の供述録取書が基本事件において提出された場合に,供述者であるI従業員の信頼を著しく損なうことになるという具体的な支障が生ずるおそれがあるとはいえなし,I(現在の被告G)など関係者の信頼を著しく損なうこととなるという具体的な支障が生ずるおそれがあるとはいえない。
また,上記認定事実によると,検視の結果,犯罪の嫌疑が生じ,捜査手続に移行し,公判が開廷されたときには,刑事事件において公にされる可能性があることが制度的に予定されているから,検視に当たって警察官の行う調査に応じ,任意に自己の知り得た事実等を供述する者は,当該事件において任意に供述した事実及びその内容が,将来にわたっても,決して他に開示されることはないとの信頼を前提に供述を行っているものとは解されないし,実際に当裁判所が法223条6項に基づき相手方に対して本件各文書の提示を求めた結果,判明したI従業員の供述録取書の記載内容に照らしても,I従業員の供述録取書が基本事件において提出された場合に,以後警察官等が検視にあ
たり関係者から事情聴取を行う際に関係者の協力を得ることが著しく困難となるという具体的な支障が生ずるおそれがあるとはいえない。したがって,I従業員の供述録取書が基本事件に提出されたとしても,国の安全が脅かされる,あるいは犯罪の予防,鎮圧又は捜査などの公共の安全と秩序の維持に重大な支障を及ぼすことになるとは認められない。そうすると,上記県警本部長の意見について相当な理由があるとは認めるに足りないというべきである。
(ウ)相手方は,I従業員の供述録取書には,捜査手法や着眼点など,多岐に亘る捜査情報が記録されており,これらが公になった場合,今後の捜査活動に支障を来たし,犯罪を誘発し,犯罪を企図する者による犯罪の実行を容易にするおそれがあり,犯罪の予防等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるなどと主張する。
しかし,前記のとおり,本件事故は,今後刑事事件として立件させる可能性が著しく低いことから,I従業員の供述録取書が基本事件に提出されても,本件事故に関する今後の検視活動や捜査手続に移行した場合の捜査活動に支障を来すという具体的な支障が生ずるおそれがあるとはいえない。
また,上記認定事実によると,ガス事業者であるIの従業員の供述録取書は,検視規則6条1項に定める事項について調査するために,ガス事業者が認識している事項についてガス事業者から聴取した結果を警察官においてまとめた書類であり,作成者である警察官の評価,分析,意見などは記載されるものではない。そうすると,I従業員の供述録取書の記載内容から犯罪に該当するか否かの判断をするための検視の方法や着眼点などが推知される一般的・抽象的な可能性があるにとどまるのであって,実際に当裁判所が法223条6項に基づき相手方に対して本件各文書の提示を求めた結果,判明したI従業員の供
述録取書の記載内容に照らしても,警察官等が本件事故のような事案で犯罪に基因するものかどうかを検討し判断する際の着眼点や検討,判断の過程が具体的に明らかになるとはいえないので,犯罪を誘発し,犯罪を企図する者による犯罪の実行を容易にするおそれという具体的な支障が生ずるおそれがあるとはいえないと認められる。そうすると,上記相手方の主張は,理由がない。
(エ)以上によると,I従業員の供述録取書は,法220条4号ロの文書の文書には該当しない。

申立人Aの供述録取書
(ア)上記認定事実によると,申立人Aの供述録取書は,警察官が職務上知ることができた申立人Aにとって私的な情報が記載されているものであり,かつ,刑事事件として公判が開廷されない限りは,警察官等において組織的に利用する文書であって,その後捜査が行われ刑事事件となった場合以外の公表は予定されていないものである。このような文書は,その性質上,当初予定されていなかった民事訴訟において提出されることにより,調査に協力した関係者との信頼関係が損なわれ,公務の公正かつ円滑な運営に支障を来すこととなるものにあたる。したがって,申立人Aの供述録取書は,公務員の職務上の秘密に関する文書に当たる。そこで,申立人Aの供述録取書の提出により公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生じるおそれがあるかが問題となる。
(イ)県警本部長は,上記のI従業員の供述録取書と同様に,申立人Aの供述録取書が民事訴訟に提出されると,供述者の協力が得られなくなるなど,犯罪者の適正な検挙・摘発が阻害され,犯罪捜査が滞るとの意見を述べるが,これは供述録取書の性格から生じる支障の可能性を一般的・抽象的に述べるにとどまり,申立人Aの供述録取書の記載内
容に即して具体的な支障を及ぼす可能性があることを述べるものではない。
そして,上記認定事実によると,申立人Aは,本件申立てにより申立人Aの供述録取書の基本事件への提出を求めているのであり,申立人Aの供述録取書が基本事件に提出されても,それは供述者の意思に沿うものであるから,申立人Aの信頼を著しく損なうという具体的な支障が生ずるおそれがあるとはいえない。
また,上記のように,そもそも検視の結果,犯罪の嫌疑が生じ,捜査手続に移行し,公判が開廷されたときには,刑事事件において公にされる可能性があるものであるから,申立人Aの供述録取書が基本事件において提出されたとしても,以後警察官等が検視にあたり関係者から事情聴取を行う際に関係者の協力を得ることが著しく困難になるという具体的な支障が生ずるおそれがあるとはいえない。
さらに,上記認定事実によると,本件のような申立人A自身の申立てによって,申立人Aの供述録取書が基本事件に提出されたとしても,それは供述者の意思に沿うものであるから,検視に当たって死因などの調査のために死者の親族が一般にこのような事態をおそれて,警察官に対し,必要な事項の聴取に応じなくなるという具体的な支障が生ずるおそれがあるとはいえない。
したがって,申立人Aの供述録取書が民事訴訟に提出されたとしても,国の安全が脅かされる,あるいは犯罪の予防,鎮圧又は捜査などの公共の安全と秩序の維持に重大な支障を及ぼすおそれが具体的に存在するとは認められない。そうすると,上記県警本部長の意見について相当な理由があるとは認めるに足りないというべきである。
(ウ)相手方は,申立人Aの供述録取書には,捜査手法や着眼点など,多岐に亘る捜査情報が記録されており,これらが公になった場合,今後
の捜査活動に支障を来たし,犯罪を誘発し,犯罪を企図する者による犯罪の実行を容易にするおそれがあり,犯罪の予防等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるなどと主張する。
しかし,前記のとおり,本件事故は,今後刑事事件として立件させる可能性が著しく低いことから,本件事故に関する今後の検視活動や捜査手続に移行した場合の捜査活動に支障を来すという具体的な支障が生ずるおそれがあるとはいえない。
また,申立人Aの供述録取書は,検視規則6条1項に定める事項を調査するため,申立人Aが認識している事項についてXの親族である申立人Aから聴取した結果を警察官においてまとめた書類であり,作成者である警察官の評価,分析,意見などは記載されるものではない。そうすると,申立人Aの供述録取書の記載内容から,犯罪に該当するか否かの判断をするための検視の方法や着眼点などが推知される一般的・抽象的な可能性があるにとどまるのであって,実際に当裁判所が法223条6項に基づき相手方に対して本件各文書の提示を求めた結果,判明した申立人Aの供述録取書の記載内容に照らしても,警察官等が本件事故のような事案で犯罪に基因するものかどうかを検討し判断する際の着眼点や検討,判断の過程が具体的に明らかになるとはいえないので,犯罪を誘発し,犯罪を企図する者による犯罪の実行を容易にするおそれという具体的な支障が生ずるおそれがあるとはいえないと認められる。そうすると,上記相手方の主張は,理由がない。(エ)

以上によれば,申立人Aの供述録取書は,法220条4号ロの文

書の文書には該当しないものと認められる。
(5)以上のとおり,本件各供述録取書は,いずれも法220条4号ロの文書の文書には該当しない。
3
よって,相手方の所持する本件各文書は,法220条3号前段の文書に該
当するかについて判断するまでもなく,同条4号の文書として相手方は提出義務を負うものであるが,その余の本件各申立文書については,相手方が所持していることを認めるに足りる証拠がなく,本件申立ては,相手方に対し,本件各文書の提出を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,主文のとおり決定する。
平成20年11月17日
名古屋地方裁判所民事第8部

裁判長裁判官


裁判官

裁判官

谷川恭弘濱本章子鈴木喬
(別

紙)
文1書目録
下記記載の事故(以下本件事故という。)に関するI従業員の供述録取書2
本件事故に関する申立人Aの供述録取書

3
亡Yの死体検案書の写し

4
亡Xの死体検案書の写し

5
本件事故現場に関する写真撮影報告書


(1)日


平成元年9月8日午後10時ころ(推定)
(2)場


a市bc番地d

eビルf階g号(以下本件事故現場という。)

(3)事故の態様及び結果
亡X(昭和h年i月j日生。)と友人の亡Y(昭和k年l月m日生。)は,浴室及び台所で湯を使うために,本件事故現場内に設置された基本事件被告H株式会社製造で基本事件被告G株式会社販売にかかる湯沸器(商品名PICM-230)を使用したところ,一酸化炭素が発生して室内に充満し,上記日時ころ,一酸化炭素中毒により死亡した。

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