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検証物提示命令申立て一部提示決定に対する許可抗告事件
事件番号平成20(行フ)5
事件名検証物提示命令申立て一部提示決定に対する許可抗告事件
裁判年月日平成21年1月15日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別決定
結果破棄自判
判例集等巻・号・頁民集 第63巻1号46頁
原審裁判所名福岡高等裁判所
原審事件番号平成20(行タ)3
原審裁判年月日平成20年5月12日
判示事項情報公開法に基づく行政文書の開示請求に対する不開示決定の取消訴訟において,不開示とされた文書を検証の目的として被告にその提示を命ずることの許否
裁判要旨情報公開法に基づく行政文書の開示請求に対する不開示決定の取消訴訟において,不開示とされた文書を目的とする検証を被告に受忍義務を負わせて行うことは,原告が検証への立会権を放棄するなどしたとしても許されず,上記文書を検証の目的として被告にその提示を命ずることも許されない。
(補足意見がある。)
参照法条民訴法223条1項,民訴法232条1項,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)5条,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)9条2項
裁判日:西暦2009-01-15
情報公開日2017-10-18 06:34:56
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主文
原決定のうち主文第1項を破棄する。
前項の部分につき,相手方の検証物提示命令の申立てを
却下する。
抗告費用は相手方の負担とする。
理由
抗告代理人齋藤繁道ほかの抗告理由について
1
(1)

記録によれば,本件の経緯等は次のとおりである。
本件の本案訴訟は,相手方が,行政機関の保有する情報の公開に関する法
律(以下情報公開法という。)に基づき,外務省の保有する行政文書の開示を請求したところ,外務大臣から,原決定別紙1の不開示文書目録記載の各文書及び同別紙2の部分開示文書目録記載の各文書のうち不開示部分欄記載の各部分(以下,これらを総称して本件不開示文書という。)につき,情報公開法5条1号,3号又は5号に該当するとして不開示とする決定を受けたため,抗告人を被告として,その取消しを求める事案である。
(2)

相手方は,本件不開示文書の検証の申出をするとともに,これを目的物と
して,抗告人に対する検証物提示命令の申立て(以下本件検証物提示命令の申立てといい,上記検証の申出と併せて本件検証の申出等という。)をした。なお,相手方は,本件検証の申出等をするに当たり,検証への立会権を放棄し,検証調書の作成についても,本件不開示文書の記載内容の詳細が明らかになる方法での検証調書の作成を求めない旨陳述している。
2
原審は,次のとおり判断して,本件検証物提示命令の申立てのうち情報公開法5条3号又は5号に該当することを理由に不開示とされた文書に係る部分を認容した。
(1)

本件検証の申出等は,立会権の放棄等を前提としたものであって,実質的
にはいわゆるインカメラ審理(裁判所だけが文書等を直接見分する方法により行われる非公開の審理)を意図したものにほかならない。情報公開法は,明文の規定を設けていないが,インカメラ審理を全く許容しない趣旨ではなく,行政文書の開示,不開示に関する最終的な判断権者である裁判所が,その職責を全うするために当該文書を直接見分することが不可欠であると考えた場合にまで,インカメラ審理を否定するいわれはない。
そして,本件不開示文書のうち情報公開法5条3号又は5号に該当することを理由に不開示とされた文書については,上記各号該当性の判断を適正に行うためには,当該文書の微妙なニュアンスまで酌み取れるように,細部にまでわたってその内容を正確に把握する必要性が極めて高いといわなければならず,裁判所が直接これを見分する必要がある。
(2)

外務大臣において,本件不開示文書が民訴法220条4号ロに該当する旨
の意見を有していることは明らかであり,また,本件不開示文書のうち情報公開法5条3号に該当することを理由に不開示とされた文書については,民訴法223条4項1号に該当するとの意見を有しているものと解されるが,本件では,相手方が立会権を放棄する形式で検証を行い,検証調書の作成においても十分な配慮をすることが可能であって,このような方法によれば,同号所定の危険性が顕在化することは考えられないのであるから,外務大臣の上記意見につき同項所定の相当の理由があると認めるには足りない。3
しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)

情報公開法に基づく行政文書の開示請求に対する不開示決定の取消しを求
める訴訟(以下情報公開訴訟という。)において,不開示とされた文書を対象とする検証を被告に受忍させることは,それにより当該文書の不開示決定を取り消して当該文書が開示されたのと実質的に同じ事態を生じさせ,訴訟の目的を達成させてしまうこととなるところ,このような結果は,情報公開法による情報公開制度の趣旨に照らして不合理といわざるを得ない。したがって,被告に当該文書の検証を受忍すべき義務を負わせて検証を行うことは許されず,上記のような検証を行うために被告に当該文書の提示を命ずることも許されないものというべきである。立会権の放棄等を前提とした本件検証の申出等は,上記のような結果が生ずることを回避するため,事実上のインカメラ審理を行うことを求めるものにほかならない。
(2)

しかしながら,訴訟で用いられる証拠は当事者の吟味,弾劾の機会を経た
ものに限られるということは,民事訴訟の基本原則であるところ,情報公開訴訟において裁判所が不開示事由該当性を判断するために証拠調べとしてのインカメラ審理を行った場合,裁判所は不開示とされた文書を直接見分して本案の判断をするにもかかわらず,原告は,当該文書の内容を確認した上で弁論を行うことができず,被告も,当該文書の具体的内容を援用しながら弁論を行うことができない。また,裁判所がインカメラ審理の結果に基づき判決をした場合,当事者が上訴理由を的確に主張することが困難となる上,上級審も原審の判断の根拠を直接確認することができないまま原判決の審査をしなければならないことになる。このように,情報公開訴訟において証拠調べとしてのインカメラ審理を行うことは,民事訴訟の基本原則に反するから,明文の規定がない限り,許されないものといわざるを得ない。
(3)

この点,原審は,情報公開法にはインカメラ審理に関する明文の規定は設
けられていないものの,裁判所が情報公開訴訟において不開示事由該当性の判断を適正に行うために不開示とされた文書を直接見分することが必要不可欠であると考えた場合には,インカメラ審理をすることができるとする。
しかしながら,平成8年に制定された民訴法には,証拠調べとしてのインカメラ審理を行い得る旨の明文の規定は設けられなかった。なお,同法には,文書提出義務又は検証物提示義務の存否を判断するためのインカメラ手続に関する規定が設けられ(平成13年法律第96号による改正前の民訴法223条3項,232条1項),その後,特許法,著作権法等にも同様の規定が設けられたが(特許法105条2項,著作権法114条の3第2項等),これらの規定は,いずれも証拠申出の採否を判断するためのインカメラ手続を認めたものにすぎず,証拠調べそのものを非公開で行い得る旨を定めたものではない。
そして,平成11年に制定された情報公開法には,情報公開審査会が不開示とされた文書を直接見分して調査審議をすることができる旨の規定が設けられたが(平成13年法律第140号による改正前の情報公開法27条1項),裁判所がインカメラ審理を行い得る旨の明文の規定は設けられなかった。これは,インカメラ審理については,裁判の公開の原則との関係をめぐって様々な考え方が存する上,相手方当事者に吟味,弾劾の機会を与えない証拠により裁判をする手続を認めることは,訴訟制度の基本にかかわるところでもあることから,その採用が見送られたものである。その後,同13年に民訴法が改正され,公務員がその職務に関し保管し又は所持する文書についても文書提出義務又は検証物提示義務の存否を判断するためのインカメラ手続を行うことができることとされたが(民訴法223条6項,232条1項),上記改正の際にも,情報公開法にインカメラ審理に関する規定は設けられなかった。
以上に述べたことからすると,現行法は,民訴法の証拠調べ等に関する一般的な規定の下ではインカメラ審理を行うことができないという前提に立った上で,書証及び検証に係る証拠申出の採否を判断するためのインカメラ手続に限って個別に明文の規定を設けて特にこれを認める一方,情報公開訴訟において裁判所が不開示事由該当性を判断するために証拠調べとして行うインカメラ審理については,あえてこれを採用していないものと解される。
(4)

以上によれば,本件不開示文書について裁判所がインカメラ審理を行うこ
とは許されず,相手方が立会権の放棄等をしたとしても,抗告人に本件不開示文書の検証を受忍すべき義務を負わせてその検証を行うことは許されないものというべきであるから,そのために抗告人に本件不開示文書の提示を命ずることも許されないと解するのが相当である。
4
以上と異なる原審の前記判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令
の違反がある。上記の趣旨をいう論旨は理由があり,その余の抗告理由につき判断するまでもなく,原決定のうち主文第1項は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,同項に関する相手方の検証物提示命令の申立ては不適法であるから,これを却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官泉徳治,同宮川光治の各補足意見がある。裁判官泉徳治の補足意見は,次のとおりである。
1
原決定は,インカメラ審理によって,裁判所のみが本件不開示文書を見分
し,本件不開示文書に情報公開法5条各号に掲げる情報(以下不開示情報という。)が記録されているか否かを判断しようとするものである。
民事(行政)訴訟においては,当事者は,証拠調べに立ち会って,自ら取調べに当たり,証拠に関する見解を述べ,更には証拠に基づいた主張を展開する権利を有する。当事者に弁論の機会を与えなかった証拠調べの結果は,判決における証拠資料とすることができない。インカメラ審理においては,行政文書の開示請求者は,当該行政文書を見分することができず,その具体的内容について弁論を行うことができないのであるから,裁判所がそのような行政文書を判決の証拠資料とすることは,上記のような民事訴訟の基本原則に抵触するといわざるを得ない。開示請求者が証拠調べにおいて当該行政文書を見分する権利を放棄した場合であっても,インカメラ審理が民事訴訟の基本原則に抵触することに変わりはない。不開示決定をした行政機関の長の側においても,裁判所がインカメラ審理による証拠調べの結果に基づき本案の判断をするにもかかわらず,自らは,当該行政文書の具体的内容を援用しながら当該証拠調べの結果につき弁論を行ったり,あるいは訴訟上の主張を展開することができない。そして,インカメラ審理により裁判所が見分した行政文書の具体的内容は調書に記録されないから,上級審裁判所も,当該行政文書を見分しないまま原審判決の審査をしなければならないことになる。このようなことは,民事訴訟の基本原則に抵触するから,独り開示請求者が見分の権利を放棄すれば済むということにはならない。したがって,上記のような民事訴訟の基本原則に例外を設ける明文の規定を欠いたままで,インカメラ審理を行うことは許されないと考える。
2
ところで,新たな立法によって情報公開訴訟にインカメラ審理を導入するこ
とは,以下に述べるように,裁判の公開を保障する憲法82条に違反するものではなく,訴訟制度構築に係る立法裁量の範囲に属すると考える。
情報公開訴訟は,開示請求に係る行政文書を開示しない旨の行政機関の長の決定が違法であるか否かを判断するためのものであって,その訴訟手続の途中で当該行政文書の内容を法廷で公開するということは,もともと予定されていないことである。ただ,現在の情報公開訴訟においては,裁判所は,当該行政文書を見分することなく,周辺資料から当該行政文書に不開示情報が記録されているか否かを間接的に推認するほかないため,裁判所が請求を棄却した場合に,開示請求者の納得を得にくい面があることは否定できない。
インカメラ審理は,裁判所が当該行政文書を直接見分し,自ら内容を確認して実体判断をするための手続であるから,国民の知る権利の具体化として認められた行政文書開示請求権の司法上の保護を強化し,裁判の信頼性を高め,憲法32条の裁判を受ける権利をより充実させるものということができる。
裁判を受ける権利をより充実させるものである以上,情報公開訴訟におけるインカメラ審理は,憲法82条に違反するものではないと解すべきである。裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである。
1
本件は,平成16年8月,沖縄県宜野湾市において米軍海兵隊のヘリコプタ
ーが墜落した事故をめぐる日米両政府の協議等の関連文書の開示請求に対し,外務大臣がした不開示決定等の取消しを求める訴訟である。原決定によると,本件は,①原々審では,相手方は当初ヴォーン・インデックスの方法による審理を提唱したが採用されなかった,②原審では,本件不開示文書のうち,文書の体裁及び文書の中身を推測させる文言のみを明らかにした書類を抗告人において作成し,これを裁判所にのみ開示することが検討されたが,抗告人は受け入れなかった,③これとは別に,相手方から行政事件訴訟法23条の2第1項に基づく釈明処分としてインカメラ審理を経ている情報公開・個人情報保護審査会の当該審理に関する調書資料を入手することの申し出がなされたが,そうした文書は存在しない旨抗告人から報告がなされて見送られたという経緯をたどっている。原決定は,情報公開法5条3号又は5号に該当するかどうかを判断するには,本件ではインカメラ審理に代わり得る有効適切な手段は見当たらないものというほかないとしている。原決定は,法解釈の枠を超えた判断を行ったものであり,破棄を免れないが,原決定が当該文書を所持する国又は公共団体等の任意の協力が得られない以上,およそ裁判所がこれを直接見分する術はないというのでは,裁判所は,事実上,一方当事者である国又は公共団体,あるいはその諮問機関である情報公開・個人情報審査会等の意見のみに依拠してその是非を判断せざるを得ないということにもなりかねず,これでは,行政文書の開示・不開示に関する最終的な判断権を裁判所に委ねた制度趣旨にもとること甚だしいものがある。と述べているところは理解できる。本件は,情報公開訴訟にインカメラ審理を導入することを考えさせる事例とみることができる。
2
情報公開訴訟においては,裁判所が当該文書を見ないで不開示事由の該当性
について適正な判断をすることができるかについては著しく困難な場合があり,また,周辺資料から判断するという迂遠な方途によらざるを得ないため,審理は迅速には行われ難い場合がある。こうしたことから,情報開示の申立てを行う当事者の側には,インカメラ審理を導入して少なくとも裁判所には当該文書を直接見分して適正に判断してもらいたいという要望がある。また,インカメラ審理の存在は,行政機関の適切な対応を担保する機能を果たすとも考えられる。
情報公開訴訟にインカメラ審理を導入することが憲法82条(裁判の公開)に違反しないことは泉裁判官の補足意見のとおりであるが,適正な裁判を実施するために対審を公開しないで行うということは,既に人事訴訟法22条,不正競争防止法13条,特許法105条の7等にある。開示を求める当事者がインカメラ審理を求めるのは,それが知る権利を実現するためにより実効的であるという判断があるのであり,行政機関の側には審理に先立って不開示とした理由等について説明する機会が与えられるのであれば手続保障の上でも問題はない。そして,情報公開・個人情報保護審査会設置法9条1項,2項で同審査会の手続にインカメラ審理を導入する一方で情報公開訴訟においてこれを欠いていることは,最終的には司法判断によることとした情報公開制度の趣旨にそぐわないとも考えられる。情報公開訴訟へのインカメラ審理の導入に関しては,ヴォーン・インデックス手続(情報公開・個人情報保護審査会設置法9条3項参照)と組み合わせ,その上でインカメラ審理を行うことの相当性・必要性の要件について慎重に配慮すべきであるが,情報公開制度を実効的に機能させるために検討されることが望まれる。
(裁判長裁判官
宮川光治

甲斐中辰夫

裁判官

裁判官


櫻井龍子)
徳治

裁判官

涌井紀夫

裁判官

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