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損害賠償等請求控訴事件
事件番号平成19(ネ)499
事件名損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日平成20年9月18日
裁判所名・部名古屋高等裁判所  民事第1部
結果棄却
原審裁判所名名古屋地方裁判所
原審事件番号平成17(ワ)2441
原審結果棄却
判示事項の要旨被控訴人自由民主党名古屋市会議員団(被控訴人団)の団長を務めていた被控訴人Aが,同団長として,愛知県警察本部に対し,控訴人が被控訴人団管理の金員を横領したとして被害届を提出し,これを報道機関に明らかにしたことにより,控訴人の名誉が毀損されたとして,控訴人が損害賠償金の支払を求めるとともに,謝罪文の掲載を求めたところ,これらをいずれも棄却した原判決が維持された事例
裁判日:西暦2008-09-18
情報公開日2017-10-17 20:40:27
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主文1
本件控訴をいずれも棄却する

2
控訴費用は,控訴人の負担とする。

第1
1実及び理由
当事者の求めた裁判
控訴の趣旨
(1)

原判決を取り消す。

(2)

被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,2000万円及びこれに対す
る平成17年7月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)

被控訴人自由民主党名古屋市会議員団は,別紙記載1の謝罪文を同記載
2及び3の要領で同記載4の各新聞に掲載せよ。
(4)
2
訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨

第2

事案の概要(以下,特に指摘しない限り,略語については原判決のそれによる。


1
本件は,平成17年6月当時,被控訴人自由民主党名古屋市会議員団(被控訴人団)の団長を務めていた被控訴人Aが,同団長として,愛知県警察本部に対し,控訴人が被控訴人団が管理する金員を横領したとして被害届(本件被害届)を提出し,これを報道機関に明らかにしたことにより,控訴人の名誉が毀損されたとして,控訴人が,被控訴人らに対し,民法709条に基づき,損害賠償金2000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成17年7月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,同法723条に基づき,被控訴人団に対し,別紙記載の謝罪文の掲載を求めたところ,被控訴人らは,本件被害届の提出及びその公表は専
ら公益を図る目的でなされたものであり,かつ,被控訴人らにはその内容が真実であると信じたことについて相当の理由があったから,名誉毀損の不法行為は成立しないとして,これを争った事案である。
原審は,被控訴人らの上記主張を認めて控訴人の本件請求をいずれも棄却したため,控訴人がこれを不服として控訴した。
2
争いのない事実等,争点及び争点に関する当事者の主張は,以下の3のとおり原判決を補正し,以下の4,5のとおり当事者双方の当審における主張を付加するほかは,原判決事実及び理由欄の第2事案の概要1ないし3
に記載のとおりであるから,これを引用する。
3
原判決の補正
(1)

原判決2頁15行目の団体の次に

権利能力なき社団)を加える。(


(2)

同3頁1行目から2行目にかけての被告団の郵便貯金口座(以下「被告団口座という。」を被控訴人団の共通経費専用の郵便貯金口座(以)下「被控訴人団口座又は団口座という。」と改める。)
(3)

同7頁1行目の利息を含むを

37円の利息を含む。

と改める。
(4)

同7頁18行目の上記余剰金を上記ア(イ)の取り決めによって生じた平成16年度の余剰金と改める。(5)

同7頁24行目の平成15年度につき,から同25行目の出金,

までを削除する。
(6)

同8頁24行目の(オ)の次にその後,平成15年度についても調査したところ,合計410万円の同一の旅行社(I)から発行された不自然な領収書が発見されたことから,を加える。(7)

同9頁24行目から25行目にかけてのB氏(平成15年10月に辞職した元市議会議員)を平成15年10月に辞職したB市議会議員(以下「B元議員という。」と改める。)
(8)

同11頁16行目の支出が,を支出,と改める。

(9)

同12頁8行目及び同13頁15行目の各B氏をいずれもB元議員と改める。4
控訴人の当審における主張
(1)ア

B元議員は,平成3年度から平成15年10月に辞職するまでの間,
被控訴人団の団長又は常任顧問の地位にあり,被控訴人団の預り金を専権的に管理していた。

平成9年度から平成14年度までの共通経費の出納関係を記載した帳簿(以下共通経費に関する帳簿という。
)によれば,毎年度300万円
ないし600万円の預り金が生じているが,この預り金は翌年度に繰り越されることはない。被控訴人団口座の出入金も上記帳簿の記載と合致しており,預り金は年度末に数回にわたって引き出され,翌年度はゼロ円から開始される。


上記の年度末に引き出された預り金は,被控訴人団の金庫に保管されていたことはないし,別口の預金口座に入金されることもなく,B元議員の自宅等に現金で保管されていた。


控訴人は,
平成15年度に被控訴人団の幹事長に就任し,
B元議員から,
被控訴人団の共通経費及び預り金の処理を任されるようになった。そして,幹事長であった平成15年度は,団長のC議員(原判決6頁19行目)の指示により合計410万円の預り金を年度末に,また,控訴人自身が団長であった平成16年度は,合計570万円の預り金を年度途中で,それぞれ被控訴人団口座から引き出し,これらをB元議員と同様の方法により自宅に現金で保管していたにすぎない。


被控訴人A,C議員及びD議員(原判決13頁2行目)は,預り金が存在することや,これが被控訴人団の金庫に保管されていないことは知っていたが,現金でB元議員の自宅等に保管されていたことまでは知らなかった。


上記410万円と570万円は預り金であり,控訴人は,預り金の保管方法に関する過去の慣例を引き継いで自宅に保管したにすぎないし,これまで預り金の保管方法が問題とされたことはなかった。被控訴人らは,上記慣例を公に認めたくない一方で,たまたま病気療養中のE議員(原判決11頁23行目)への政務調査費の支給問題で控訴人とF議員(原判決12頁25行目)との間で対立が生じ,控訴人が共通政務調査費として支出した250万0200円についてつじつま合わせの7枚の旅行会社の領収書(日付け,項目の記載がないもの)を提出していたことが問題(以下250万円の問題という。)として公表されるに至ったことから,上記2
50万円の問題のみならず,410万円と570万円の預り金問題についても,控訴人の失脚を狙って,控訴人にその責任を押しつけた。


原判決は,控訴人が平成15年度の410万円の本件引き出し(原判決3頁3行目)に符合させるために250万0200円の領収書と同じ旅行会社の410万円の領収書を提出した旨を認定しているが,預り金の引き出しのためには領収書は必要がないのであり,上記認定は誤りである。410万円の領収書は,控訴人の個人分の政務調査費の支出のためでないと根拠なしに判断することはできない。

(2)ア

平成17年2月から4月にかけては,E議員への政務調査費の支給に
反対する控訴人を牽制するために,F議員が控訴人に対し,政務調査費に関して不手際がある旨の指摘をしていたことはあったが,410万円や570万円の横領問題は出ていなかった。そして,この間,被控訴人団が共通経費の出金状況を調査したとか,控訴人に対して410万円や570万円の問題について事実関係を確認したり,その説明を求めたことはなかった。

被控訴人団の規約によれば,被控訴人団の名誉を著しく傷つけた者等については,総会で団員の3分の2以上の議決を経て除名するとされている
ところ,現職の団員である市議会議員が業務上横領をした旨の被害届を提出することは,除名以上に慎重な手続が要請されるというべきである。しかるに,被控訴人団は,本件被害届の提出を総会はもとより執行部会にも諮っておらず,控訴人に対する釈明の機会も与えていない。
(3)

上記(1),(2)のとおり,控訴人は過去の慣例に従って410万円と57
0万円の預り金を自宅で保管していたにすぎないところ,被控訴人らは,過去の慣例(預り金の保管方法の実態)を調査することなく,また,控訴人に事実関係の説明や釈明の機会を与えることもなく,さらに,被控訴人団の総会や執行部会に諮るといった適法な手順を踏むこともなく,極めて安易かつ作為的に本件被害届を提出したのであるから,被控訴人らがその内容を真実であると信じたことについて相当の理由があったとは到底いえない。(4)

なお,全議員が政務調査活動に使用した共通経費に関し,250万円分
の領収書がなかったため,控訴人は,自身が個人として政治活動に使用した旅行会社の領収書でつじつまを合わせようとした。これが,250万円の問題といわれるものである。ちなみに,この250万円は,2回にわたる市議補選立候補者の支援活動費として,控訴人から,平成16年10月にD議員に合計100万円,同月と平成17年4月にG議員に合計150万円手渡した。これについては,当然のことながら領収書はない。
5
被控訴人らの当審における主張
原判決は,控訴人が平成15年度の410万円と平成16年度の570万円を横領した事実は認められないと判示しているが,被控訴人団で保管している資金を現金化して自宅に持ち帰るのは,不法領得の意思を示す外形的客観的な事実であり,横領行為があったと認めるべきである。

第3

当裁判所の判断
当裁判所も,本件被害届の提出及びその公表は専ら公益を図る目的でなされた
ものであり,かつ,被控訴人らにはその内容が真実であると信じたことについて
相当の理由があったから,名誉毀損の不法行為は成立せず,したがって,控訴人の被控訴人らに対する本件請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,次のとおりである。
1
争点(1)(本件被害届を提出した行為の違法性及び報道機関に対し本件被害届の提出を認めた行為の違法性)について
被控訴人らが本件被害届を提出すれば,仮に自ら積極的に提出の事実を公表せずとも,いずれ提出の事実が不特定多数の人の知るところとなるというべきであり,かつ,そのことにつき,被控訴人らは十分に予見可能であったから,本件被害届の提出は控訴人の社会的評価を低下させる行為であると認められる。
また,被控訴人らにおいて,本件被害届を提出した事実を報道機関に認めることは,控訴人の社会的評価を低下させることは明らかである。それが報道機関の取材攻勢によりやむなく行われたものであったとしても,違法性を否定する事情とはならない。
したがって,これらの点に関する被控訴人らの主張は採用できない。
2
事実の経緯について(争点(2)以下の前提問題)

(1)被控訴人団における政務調査費の取扱い
甲3,4,15ないし23号証,乙4ないし6号証,証人Dの証言,当審証人Bの証言,控訴人及び被控訴人Aの各本人尋問の結果(ただし,控訴人本人尋問の結果については後記採用しない部分を除く。,弁論の全趣旨並)
びに当該箇所に掲記の証拠から,以下の事実が認められる。

被控訴人団は,名古屋市から政務調査費として,毎月議員数(平成15年当時24名前後)に55万円を乗じた金額(1320万円前後)の交付を受け,これを,内部的な取決めに従い,55分の50(1200万円前後)と55分の5(120万円前後)とに二分し,前者は被控訴人団の金庫(以下団金庫ともいう。
)に50万円単位で封筒に入れて保管し,

後者は被控訴人団口座(団口座)に預け入れて保管していた。
団金庫に保管した金員は,被控訴人団に所属する各議員個人の政務調査費の支払に充てられる予定の資金(以下個人政務調査費分ということがある。
)とされ,団口座に保管した金員は,被控訴人団としての政務調
査費(以下共通経費という。
)等の支払に充てられる予定の資金(以
下共通経費等分という。
団費といわれることもある。
)とされた。
個人政務調査費については,被控訴人団が,団金庫に保管した個人政務調査費分のうちから,
各議員が1か月の間に政務調査に要した費用につき,
50万円を限度として議員に交付し,これを超える同費用については,翌月に翌月分とまとめて同様に同額を限度に交付することとしていた。これを1年間続け,各議員に被控訴人団から支払われる額は年間600万円を上限とした。各議員が年間600万円を超える政務調査費用を支出した場合でも,被控訴人団は,その超過額を各議員に支払わない上,議員個人の年間600万円を超える政務調査費の支出に対応する領収書の提供を議員から受け,被控訴人団口座に保管中の金員のうち,上記の超過領収書額を上限として,被控訴人団の預り金あるいは余剰金(原判決は留保金という名称でも使用しているが,当審では,上記の意味では,預り金あるいは余剰金の語を使用する。
)として,別に使用・保管等することとしていた。
また,被控訴人団口座の金員は,その他に被控訴人団の共通の政務調査費用(共通経費)の支払のために支出されることとされ,被控訴人団としての政務調査費用の支出があったときに支出額が団口座から支払われた。団金庫に保管の個人政務調査費分も団口座に保管の共通経費等分のいずれも,年度末に余りが出れば,市に返還しなければならないことになっている。通帳と印鑑の管理は,団長又はその指示を受けた財務担当者が行っていた。

各議員は,健康を害して政務調査活動ができないというような特別の事
情がない限り,年間600万円の限度まで政務調査費用を支出し,その領収書を被控訴人団に提出し,その引換えに同額の政務調査費の支払を受けていた。そのため,団金庫に保管の個人政務調査費分が年度末に余ることはまずなかった。月々のその支払については,被控訴人団の財務委員長が管理していた。
これに対し,共通経費については,団口座に保管の共通経費等分のうちの概ね半額程度(年間では約700万円)が支出され,残金は,前記の議員の領収書金額を限度として,被控訴人団の余剰金(預り金)となる仕組みであった。そのため,余剰金は,その額が確定するのは年度末というべきであった。共通経費の支出は,基本的に団長の判断で行い,団長以外の者が支出した場合には,当該議員が提出した領収書を団長がチェックするものとされていたが,平成15年度は,団長のC議員の依頼により,幹事長であった控訴人が共通経費を管理していた。財務委員長は必要に応じて年度途中又は年度末に領収書の内容をチェックすることになっていた。(2)余剰金(預り金)の引き出し等の処理

余剰金(預り金)引き出しの時期,回数等についての慣行
甲18から23(帳簿)によれば,平成9年度から平成14年度までの共通経費に関する帳簿(団口座に関する帳簿。なお,当初は,議員個人分の月初めの入金総額と出金総額もまとめて月ごとに同帳簿に記載されていた。
)によれば,団口座には各年度末に約300万円ないし約600万円の残額が生じ,その残額が帳簿に記載されていること,そして,次年度の開始時期に団口座についての帳簿には,
前年度からの繰越金が記載されず,
ゼロ円から経理が開始される記載とされていることが認められる。

したがって,余剰金(預り金)は年度末にまとめて,何らかの方法でどこかに保管・費消等されるといわざるを得ない。
この点に関し,控訴人は,余剰金(預り金)は年度末に数回にわたって
引き出される取扱いであった旨主張し,これに沿う供述をしている。しかしながら,前記ア認定のとおり,少なくとも平成14年度までは,数回にわたって引き出される取扱いはされていなかったことが認められるのであるから,控訴人の上記供述は信用できず,主張は採用できない。
そうすると,平成15年度において控訴人が4回にわたって行った合計410万円の引出行為は,
これまで行われてきた年度末における余剰金預

り金)の引出行為としては説明のつかない不自然なものというほかない。(3)余剰金(預り金)の保管方法
控訴人は,余剰金(預り金)を団長等が自宅において現金で保管する方法は,代々引き継がれてきたことであり,被控訴人団の団員は皆承知している旨,かつての団長であったB元議員の自宅等にも現金で保管されていた旨主張し,これに沿う陳述書(甲3号証の控訴人作成のもの)も存在する。しかし,控訴人は別件訴訟における証言では,従前の団長らが余剰金(預り金)
をどのように保管していたかについて把握していないと述べている甲(
4号証16頁)
。そして,当審において,B元議員は余剰金を自宅に保管す
ることはしていなかった旨の証言をしている。
さらに,
乙4ないし6によれば,
D議員及びC議員は,
いずれも余剰金(預
り金)を団長が自宅において現金で保管するということは聞いたことがないこと,被控訴人Aも余剰金(預り金)がどこで保管されていたか知らないことが認められる。
そうすると,結局のところ,余剰金(預り金)が平成15年以前においてどのように管理,保管されていたかは不明であるといわざるを得ず,少なくとも団長が余剰金(預り金)を自宅において現金で保管するという取扱いは被控訴人団団員間の共通認識ではなかったというべきである。
(4)余剰金(預り金)の使途
標記については,具体的に明らかにする証拠はないが,証拠(証人Dの調
書16頁,控訴人の別件証人尋問調書(甲4)の8頁)によれば,後記のとおり,平成15年4月の市議会議員選挙前に,何十万円単位の金員が被控訴人団から各団員に配られたことがあり,この金員交付は,その時点の余剰金(預り金)を清算した結果であると窺われる。
(5)本件引出行為に対する被控訴人団による調査の経緯
前記(1)冒頭記載の証拠によれば,以下のアからクの事実が認められる。なお,イ及びオのかっこ内に,改行して証拠判断等の説示を適宜記載した。ア
平成17年2月,控訴人が当時病気療養中だったE議員に高額の見舞金を渡したことをきっかけに,F議員から,共通経費に関する控訴人の経理処理について疑義が出された。また,同年2月下旬,被控訴人Aが,被控訴人団ホームページ作成のため,
被控訴人団口座の残高を確認したところ,
80万円程度しかなく,
残高として少なすぎるとの指摘をしたこと等から,
被控訴人団による団口座に対する調査が開始された。


平成17年3月2日,被控訴人団控室において,F議員,H(原判決13頁17行目では略称することとされているが,B元議員との混乱を避ける意味から,フルネームで記載する。
)及びD議員が,控訴人と面談する
機会が持たれ,控訴人による団口座の金員の保管方法が問題とされた。この時点では,平成15年度はもとより,平成16年度の本件引き出しの件も具体的に特定した態様では問題とされてはいなかったが,控訴人は,上記の面談後に,平成16年度の本件引出行為に係る500万円前後の金員を団金庫に返還した。

(控訴人が,この平成17年3月2日の面談時に,金員の引き出しを認め,返還を約束した旨,さらに同月10日,上記3議員は再び被控訴人団控室において控訴人と面談したところ,その場において,控訴人は,謝罪し,上記金員を被控訴人団の金庫に返還した旨並びに改選時期までの平成17年度及び平成18年度について要職に就くことを辞退する旨を述べた旨の
記載のあるD議員の陳述書(乙6の3頁)がある。ただし,どの引き出しについてのいくらの返還であるかまでの明確な記載はなく,同議員が,証人として述べるところ(調書4頁)も,この点に関しては同様である。そうすると,平成17年3月2日及び同月10日ころの時点では,平成15年度及び16年度の本件引き出しの件は具体的に金額を特定して問題とはされてはいなかったと認めるべきである。他方,控訴人は,同月2日から10日までの間に,自宅に保管していた500万円前後の本件引出金を団の金庫に返還した旨を自認している(本人調書11頁,32頁,33頁。原審平成18年10月12日付け控訴人準備書面6頁及び当審平成19年7月12日付け控訴人準備書面8頁)
。したがって,控訴人は,面談時に
近い時期の500万円前後の引出金については,被控訴人団からの問題提起が具体化する前にこれを返還したと認められる。


平成17年4月15日,控訴人は,被控訴人団執行部会を招集し,平成16年度決算報告を行った。その内容は,総収入1億5345万円,支出総額1億4988万4520円,残余金356万5480円であり,一旦了承された。ところで,同支出総額には,控訴人が共通経費として250万0200円を支出したとの内容が含まれていたところ,決算書類を受領したD議員が添付の領収書を調査したところ,250万0200円の支出について,日付け及び項目についての記載のない旅行会社名義の領収書7枚が添付されていることが判明した。


そして,
上記決算報告について疑問が提起され,
平成17年4月20日,
同27日に被控訴人団の執行部会が開催され,共通経費の出金が精査された。上記執行部会直後,D議員は,控訴人が提出した7枚の領収書の番号及び金額が,以下のようになっていることを確認した。


AB-No071399

50万円



AB-No071452

30万円



AB-No071453

30万円



AB-No071454

30万円



AE-No020514

36万9000円



AE-No020515

35万9000円



AE-No020517

37万2200円

合計
250万0200円

上記領収書についての説明を求められた控訴人は,政経セミナーの会費などとして,共通経費から支出されるべきもので,セミナーに参加した議員の旅費についての領収書が貰えないので,それら本来の領収書の代わりに上記の領収書をつじつま合わせに使ったと述べたが,H議員らを納得させることができなかったことから,上記領収書を撤回し,250万0200円を被控訴人団に返却することとした。
これにより決算内容が修正されたが,平成16年度の余剰金(預り金)とされた165万9781円は当初どおりであり,控訴人は,被控訴人団の金庫に入れておき,これを平成17年度の団長である被控訴人Aに引き継いだ。

その後,遡って平成15年度分の団口座の金員の出入りについて,G議員が調査し,11枚合計410万円の被控訴人団宛の前同一旅行会社名義の領収書を控訴人が提出しており,その番号及び金額が以下のとおりであることが確認された。


AB-No071395

50万円



AB-No071396

50万円


AB-No071397

50万円


AB-No071398

50万円


AB-No071455

30万円


AB-No071456

30万円


AB-No071457

30万円


AB-No071458

30万円


AB-No071459

30万円


AB-No071460

30万円


AB-No071461

30万円

前記エに記載のものと上記のものとの合計18枚の領収書は,いずれもI発行名義のものであり,日付及び使途などのただし書がない,という共通点があり,発行番号①から④のものが,発行番号からすると,同⑪と⑫の間にあるものであり,発行時期が逆転していること,発行番号が連番となっていること等の疑念があり,それら事実と前記エのとおりの250万0200円の撤回とにより,上記11通の領収書の記載金額につき,控訴人が不正な引き出しをしたのではないかとの疑問が被控訴人団において平成17年5月の連休明けころに提起された。
(なお,控訴人は,上記エの①ないし⑦の各領収書について,自分が提出したものかどうかわからないと主張し,上記⑧ないし⑱の各領収書について,自分は提出していないと主張している。しかし,控訴人は,平成16年度の共通経費に関して日付や使途の記載がない旅行会社発行の領収書7枚合計金額250万0200円の不自然な領収書を提出したこと自体は認め,それが上記①から⑦のものかどうかは分からないというが,この領収書の提出を撤回して250万0200円を被控訴人団に返還したこと,上記①ないし⑦は,控訴人が認めている領収書とその特徴が全て一致していること,このように特徴の一致する領収書が①ないし⑦のほかに7枚存在するとは考え難いから,①ないし⑦は控訴人が提出した領収書であると認められる。さらに,⑧ないし⑱についても,上記のとおり控訴人が提出した①ないし⑦と共通点があり,領収書の番号も⑪と①,④と⑫が連続していることから,①ないし⑦を提出した者と同一人物,すなわち控訴人が提
出したものと認められる。

また,被控訴人Aらは,郵便局から平成15年度分の被控訴人団口座の出金記録を取り寄せるなどの調査をして,控訴人が平成16年2月9日から同年4月12日までの間に4回にわたって合計410万円を被控訴人団口座から引き出していることを確認した。

控訴人は,平成17年5月の連休明けに離団し,同月12日,名古屋市内のホテルにおいて,被控訴人A,G議員ほか数名に対し,疑義の生じた引き出しについて説明をした。この席において,控訴人は,引き出した金員を使用したのかという趣旨の質問に対し,うなずいた。
(被控訴人A調書2頁。控訴人は,この時点では,既に570万円は返還しているので,控訴人の上記の態度は,引き出したが未返還の平成15年度の410万円について,使用を認めたということと理解される。)
控訴人は,同月中旬,同年度の被控訴人団団長に就任した被控訴人Aに対し,預り金であるとして,現金410万円を渡そうと申し出たが,被控訴人Aは,上記現金の受取りを拒否した。410万円は,当審口頭弁論終結時において,控訴人の占有下(控訴人訴訟代理人の保管)にある。

警察が,内偵捜査を開始し,被控訴人Aは,5ないし6回にわたり,控訴人の本件引出行為について,警察から事情聴取を受け,警察から,事実を明らかにするには被害届を出したほうがよい旨の示唆を受けた。そこで,被控訴人Aは,
被控訴人団総会において,
被控訴人団団員から,
控訴人の本件引出行為について,警察の捜査協力要請に積極的に対応することについて同意を得た。


本件被害届は,平成17年6月27日,警察官が被控訴人Aの話を聴取する形で作成された。
被控訴人団は,
本件被害届提出を極秘扱いとしたが,
同月29日早朝にNHKが本件被害届提出を報道した。同報道を受けて,新聞各社が被控訴人Aに取材を行い,被控訴人Aは当初ノーコメントで対
応したが,同日午後6時ころ,本件被害届提出を認めた。平成16年度の570万円の本件引き出しについては,被控訴人団は,本件被害届で初めて具体的な金額を出して,問題とした。
3
争点(2)(被控訴人らが,本件被害届の内容が真実であると信じたことについて相当の理由があったか否か)について

(1)被控訴人団口座の金員の性質
前記のとおり,被控訴人団口座は,市から被控訴人団に毎月交付される政務調査費(この当時は月額55万円の24名で合計1320万円程度)のうちの55分の5(月額120万円程度)の金員を被控訴人団の共通経費(例えば,新聞購入費,コピー代,委員会昼食代。甲23)等の支払のために保管したものであり,その管理権は被控訴人団にあり,通帳や印鑑等は団長又は団長の指示を受けた被控訴人団の財務担当者が保管し,その口座における金員の引き下ろしは,団長等の責任者の了承の下に行われ,引き下ろした金銭は,被控訴人団の共通経費のために支出されることとなっていた。また,
前記のとおり,
団口座には毎月120万円程度が入金されるところ,
支出がそこまでに満たないことが通例で,残金が出るところ,被控訴人団ではこれを全額は市に返還しないで,保管することとし,そのために,議員各人が支出した政務調査費のうち月額50万円を超える金額についての領収書を被控訴人団で預かり,その領収書に見合う金額を市に対しては返還の不要な金員として被控訴人団で預かることとしていた。これが余剰金又は預り金と呼ばれる金員である。余剰金は,議員の任期が終了し,選挙が行われる時期に,精算して議員に配分することがあった。この余剰金(預り金)も被控訴人団に帰属するもので,被控訴人団が管理する金員であるというべきである。
(2)本件引出行為の性質(被控訴人団管理からの移転の有無)

本件引き出しは,被控訴人団の幹事長(平成15年度)又は団長(平成
16年度)であった控訴人が,被控訴人団口座から引き出したというものである。平成15年度は,C議員が団長で,同議員は幹事長の控訴人に被控訴人団口座の通帳と印鑑を預けていたし(争いがない。,控訴人は平)
成16年度は自身が団長であったから,被控訴人団口座の金員の引き出しを事実上支障なしに行うことができたと認められる。
上記(1)のとおり余剰金は,被控訴人団に帰属し被控訴人団が管理する金員で,被控訴人団口座という被控訴人団のための具体的な保管手段が既に存在しているから,控訴人のした本件引出行為は,控訴人においてその目的,理由,引き出し後の金員の使途等の管理態様が必要に応じて明らかにできるのが通常のことと考えられ,それができないのであれば,疑念を持たれても仕方のない引出行為というべきである。

この点につき,控訴人は,引き出した金員を自宅で管理したというが,被控訴人団という公的な団体の金員をそのための口座から引き出して自宅で管理するということは通常のことではないし,前記のとおり,そのような慣例があったとは認められないから,その説明は疑いを払拭できていない。余剰金(預り金)だけをさらに団口座とは別の被控訴人団の口座等で保管するということであれば,理解しやすいところであるが,そのような主張立証もないので,被控訴人団の管理から専ら控訴人の管理下に移転したといわざるを得ないことになる。
なお,控訴人は,平成15年度の本件引き出しである410万円については,C議員の指示により引き出し,自宅に保管していた旨を供述するところ,それ以上の事情についての説明がないことに加え,C議員は,控訴人に引き出しの指示はしていないと述べている乙5号証)

ことに照らし,
C議員の指示があったとの事実は認められないといわざるを得ない。

したがって,本件引出行為に係る金員は,被控訴人団の管理を離れ,控訴人の個人的な管理下に移転したと認めざるを得ない。

(3)被控訴人団の被害の有無

前記(2)のとおりの事実があるので,被控訴人団は,控訴人が,被控訴人団で保管している資金を現金化して自宅に持ち帰るのは,不法領得の意思を示す外形的客観的な事実であり,主観面でも不法領得の意思があり,横領があったというべき旨を主張している。


ところで,団口座の通帳を見ると,証拠の提出がある平成9年から平成14年までの間,前年度末に残金があるのに,翌年度は繰越金なしのゼロ円から帳簿の記載が始まっている(甲18から23)
。団口座からの主な
支払は共通経費の支出であるから,共通経費支払後の上記の帳簿上の残金は,議員個人の政務調査費の支出の裏付けのある金員を上限とする余剰金であり,団口座にさらに余りがあるときは,これが市への返還金となる。そして,実際の状況を見ると,団口座には共通経費支出後の年度末時点で概ね300万円から600万円程度の残金が生じていると認められ,その多くが余剰金となったと推認される。余剰金は,その使途を十分に明らかにする証拠はないが,平成15年4月の市議会選挙前に1人約50万円程度の資金(人によって額が異なったようであるが,仮に一律とすると,合計1200万円)
が被控訴人団から所属議員に配付された事実があり証

人D調書16頁,甲4の8頁)
,その支払原資として考えられるのは,余
剰金しかない。また,団口座の通帳によれば,平成11年8月から10月の3か月間は,団口座には毎月の120万円以外に各月240万円の特別収入(1議員当たり月10万円の加算)があり,それが政務調査費として議員に支払われた旨の記載があり,その加算された支払の原資が何かというと,過去に蓄積した余剰金しか考えられない。
(なお,余剰金は,議員個人の政務調査費の支払の裏付けがあるが,このことをもって市との関係で余剰金をなお政務調査費といえるかについては別個の問題がある。ただし,その点はここでは触れないこととする。)

そうすると,余剰金は,これまでは,年度末に確定して団長等の財務担当者が,繰越しをせずに何らかの方法で保管・費消等していた金員で,使途としては,任期終了時に配分するのが通例であったといえる。

この点につき,控訴人は,自宅で保管しているだけであると主張する。従前の通帳の記載方式からすると,前年度の残高を団長等の財務の責任者が預かっていることが判明するので,自宅を保管場所としていても実際上の支障はなかったかもしれない。
しかし,他人からの預り金の保管場所を自宅とする点は一般には相当の方法ではない。そして,平成15年度及び16年度は,団口座の通帳が証拠に出されていないところ,年度途中で本件引き出しがされているというのであるから,通帳の記載上は共通経費が支出されているかのように記載され,誰が支出したか不明確となっているはずである。
しかも,控訴人は,
次のとおり,平成15年度の410万円の引出行為に関してであるが,架空の領収書を被控訴人団に提出して,本件引き出しをあたかも単純な共通経費の支出に見せようとした気配がある。すなわち,前記に認定したとおり,控訴人は,前記2(5)オの⑧ないし⑱の410万円分の領収書を提出している。同領収書は,前記に認定したとおり,同一の旅行会社発行に係るものであり,日付や使途の記載がなく,金額は30万円又は50万円という切りのよい数字であり,⑧ないし⑪及び⑫ないし⑱は番号が連続している。実際に支出された政務調査費に対応する領収書がこのような特徴を持つことは考え難く,これらの領収書は,実体の伴わない,いわば空の領収書であると認められる。
そして,控訴人は上記⑧ないし⑱の領収書の合計金額410万円と同額の金員を被控訴人団口座から平成15年度に引き出したことを認めているのであるから,上記領収書は,410万円の引き出しを説明するために提出されたとみるのが自然である。

上記410万円を,控訴人の主張するとおりC議員の指示により余剰金(預り金)を預かる趣旨で引き出したのであれば,各団員から対応する領収書が提出されているはずであるから,控訴人が改めてつじつま合わせのための空の領収書を出す必要はない。これらのことから,控訴人は,余剰金(預り金)を預かる趣旨とは別の目的で,被控訴人団口座から410万円を引き出したのではないかと推認される。

他方で,控訴人は,平成16年度の引き出し額の570万円あるいはそれに近い金額(控訴人は500万円前後とも供述する(調書32頁))。
は,これを団金庫に平成17年3月ころ戻したという事実がある(控訴人本人調書11頁,32頁,33頁)
。また,平成15年度分の410万円
については,平成17年5月ころ被控訴人団へ返還を申し出たという事実がある。これについては,申出を拒否されて(甲15の6頁)
,返還が実
現していない。
このような返還行為又は返還の申出は,横領行為をした控訴人が,横領行為後にした返還行為又は返還の申出で,事後的に横領を否定するための工作であると捉える考え方もあろう。しかし,被控訴人団口座における保管金が共通経費及び被控訴人団のその他の使途目的(議員の任期終了時の精算金として,選挙に役立つことが窺われる。
)のための資金である可能
性が高いこと,被控訴人団が当初余剰金の存在を説明することに積極的ではなかったこと,証人として供述したB元議員の説明が明確ではないこと等からすると,本件引出金員の使途が控訴人の個人的なものではなく,表に出しにくいが被控訴人団のためのものという可能性も完全には否定しきれず,そのような観点から上記の返還又はその申出行為を見ると,控訴人が個人として実行した横領を否定するための事後的な工作と断定するにはいささか躊躇が感じられる。むしろ,横領ではなく,何らかの隠れた使途のために控訴人が引き出したとの可能性も残っていると認められる。

前記エのような点からすると,控訴人は,本件引出金を,自己の個人的な用途に費消するつもりまでがあったのかどうか,なお定かではない点があり,不法領得の意思があったとの点はいまだ確定的には認定し難い。
(4)そこで,この点はひとまず措き,被控訴人団が,被害があったと信じたことに相当の理由があるかどうかを検討する。

被控訴人団が調査を開始した後に,上記410万円や前記のとおりの250万円の引き出しのように,控訴人のした本件引き出しの裏付けに実態と異なることが明らかな領収書が用いられている支出があることが判明した。


また,平成16年度の570万円については,同種の領収書が裏付けに用いられてはいないものの,引き出しが9か月間にわたり14回に分けてなされており,引出回数も月によって0回から5回までまちまちであり,1回当たりの引出金額も10万円から80万円までばらついており,保管が目的で引き出したとしては不自然である。
控訴人は,年度末まで共通経費と余剰金(預り金)が混在することには問題があるため,毎月発生する余剰金(預り金)相当金額(おおよそ年額600万円として1か月50万円)を引き出したと説明する。
しかし,余剰金(預り金)は,年度末にまとめて引き出す従来の管理方法に格別の問題はなかったはずである。また,余剰金(預り金)が毎月発生すると説明しながら,実際の引き出しは毎月行っておらず,その金額も異なっており,そのようになった理由も不明であるうえ,前記認定のとおり,余剰金(預り金)は年度末に初めてその正確な金額が判明するのであるから,見込額をあらかじめ引き出すという控訴人主張の方法のほうが実体と乖離する可能性が高い。


さらに,余剰金(預り金)を保管する目的であったなら,引き出した金員を被控訴人団の金庫に入庫して,あるいは,別に預金口座を開設して保
管することもできたのに,控訴人はこれをしなかった。控訴人は,B元議員のしていた慣行にならって自宅において現金で保管していたと主張するが,前記のとおり,そのような慣行があったとは認められない。

まとめ
以上に検討したとおり,平成15年度の410万円については,その裏付けとなる領収書が不自然なものであったこと,上記410万円が控訴人の主張するような預り金であれば,570万円を被控訴人団の金庫に返還した平成17年3月に同金庫に410万円も併せて返還するのが普通であり,遅くとも平成17年度の団長である被控訴人Aに410万円を引き渡すべきであるが,控訴人はそうしていないこと,控訴人は,被控訴人Aらから横領したのではないかと質問された際に,
明確に反論しなかったこと,
また,平成16年度の570万円については,その引き出しの態様が,年度途中において五月雨式になされており不自然であること,また,いずれの金員についても,控訴人は幹事長又は団長の地位を利用してその引出行為を1人で行い,F議員らから質問されるまで誰にも話したことがなかったこと,また,控訴人はこれらの金員を自宅において現金で保管していた旨述べるが,合計980万円もの現金を自宅で保管していたとは容易に信じ難いこと,さらには,控訴人は不自然な領収書を使用して250万0200円を不正に受領していたこと等を考慮すると,被控訴人らにおいて,本件被害届の内容が真実であると信じたことについては相当の理由があると認めるのが相当である。

(5)控訴人の反論について

控訴人は,被控訴人らが,共通経費の帳簿のうち控訴人が保管しているものについて調査しないまま本件被害届を提出したことを理由として,調査が不十分である旨主張している。
しかし,そのように主張するのであれば,本件引出行為が問題とされた
時に上記帳簿を提出すべきであり,それをしないでおいて,そのことを理由に調査が不十分と主張するのは理由がないというべきである。

また,控訴人は,被控訴人らが,余剰金(預り金)の存在自体を否定していたことを理由に,
本件被害届の提出が違法であると主張する。
確かに,
被控訴人団は,報道機関に対し,余剰金(預り金)自体が存在しない旨の説明をしていた時期があり(甲8及び9号証)
,前記事実認定によれば,
これは故意に虚偽の説明を行ったものと認められる。
しかし,本件訴訟においては,被控訴人らは余剰金(預り金)の存在を認めており,被控訴人団関係者の証言にも不自然な点は格別認められない上,被控訴人団保管の余剰金(預り金)が存在することを前提とした上で,控訴人にこれを横領した疑いがあることに相当の理由があることは既に認定判断したとおりであるから,このことも,上記認定判断を覆す事情とはならない。そもそも団口座には余剰金の資金だけではなく,共通経費のための資金が保管されているから,疑いのある引き出しがあれば,被害届を提出することは,何ら不当なことではない。


また,控訴人は,被控訴人団の規約によれば,被控訴人団の名誉を著しく傷つけた者等については,総会で団員の3分の2以上の議決を経て除名するとされているところ,現職の団員である市議会議員が業務上横領をした旨の被害届を提出することは,除名以上に慎重な手続が要請されるというべきである旨主張する。
しかしながら,上記は控訴人の独自の見解であり,本件被害届を提出するについて,除名以上に慎重な手続が当然に取られるべきであるとはいえない。


さらに,控訴人は,自身は過去の慣例に従って410万円と570万円の預り金を自宅で保管していたにすぎない旨,被控訴人らは,過去の慣例(預り金の保管方法の実態)を調査することなく,また,控訴人に事実関
係の説明や釈明の機会を与えることもなく,さらに,被控訴人団の総会や執行部会に諮るといった適法な手順を踏むこともなく,極めて安易かつ作為的に本件被害届を提出した旨,したがって,被控訴人らが,その内容が真実であると信じたことについて相当の理由があったとは到底いえない旨を主張する。
しかしながら,控訴人が主張する過去の慣例が認められないことは前記のとおりである。また,被控訴人らが過去の慣例を調査しても,当審におけるB元議員の証言内容に照らせば,預り金の保管方法の実態は分からなかったものと推測されるから,被控訴人らが過去の慣例を調査しなかったことは,調査時点では必ずしも相当とはいえなかったが,結果的には,そのことは上記判断を左右することに結びつかなかったというべきである。また,前記認定(2(5)イ,カ)のとおり,被控訴人らは控訴人に対し,570万円と410万円の問題について,それぞれ説明や釈明の機会を与えているのであるから,これを与えていない旨の控訴人の主張は失当である。また,前記認定(2(5)キ)のとおり,被控訴人Aは,警察から,事実を明らかにするためには被害届を出したほうがよい旨の示唆を受けて,被控訴人団の総会において,本件引出行為につき警察の捜査協力要請に積極的に対応することについて団員の同意を得ているのであるから,本件被害届の提出について総会や執行部会に諮るといった適法な手順を踏まなかった旨の控訴人の主張も失当である。
4
争点(3)本件被害届の提出及び公表が専ら公益を図る目的であったか否か)(
について

(1)控訴人は,本件被害届提出が,被控訴人団内部の派閥争いの結果,控訴人を排除する目的で行われたとか,被控訴人らは預り金の存在を公にしたくないため,410万円と570万円の預り金問題の責任を控訴人に押しつけたものである旨主張する。

しかしながら,本件被害届の提出及び公表が上記目的でなされたことを認めるに足りる証拠は存在しない(控訴人の供述のみではこれを認めるに足りないというべきである。。特に控訴人主張の上記の後段部分についていえ)
ば,被害届の提出は,警察に情報を知らせて行うのであるから,仮に,預り金の存在を公にしたくないなら,警察に相談できないこととなるから,控訴人の上記の主張部分は合理性を欠き採用できない。被控訴人団では,余剰金(預り金)は,各議員が現実に政務調査した際に支出した費用で1人年間600万円を超える部分の金額に見合うものであるから,市との関係でも返還を要しない金額と考えていたと窺われ,被控訴人団が余剰金を公にしたくないとの意向を有していたとまではいえない。
(2)かえって,前記認定のとおり,本件被害届の提出は,控訴人が政務調査費の一部を横領したとの疑いが生じ,警察の内偵調査が進行し,警察からの捜査協力要請を受けてなされたものであり,また,本件被害届の公表は,当初その意思はなかったものの,報道機関の強い要請により,公表せざるを得なくなったものであることからすると,いずれも専ら公益を図る目的でなされたものと認められる。
5
以上より,被控訴人らが本件被害届を提出し,これに引き続いてそれを報道機関に発表したことについて,違法性は認められない。
したがって,その余の点につき判断するまでもなく,控訴人の損害賠償及び謝罪文掲載の請求はいずれも認められない。

第4

結論
以上によれば,控訴人の被控訴人らに対する本件請求はいずれも理由がなく,
これと結論を同じくする原判決は相当であり,本件控訴はいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第1部
裁判長裁判官

岡光民雄
裁判官


裁判官

山道下美春和子
(別紙)
1
謝罪文

謝罪文

平成16年度自由民主党名古屋市会議員団、団長(控訴人)名古屋市会議が団長就任期間において取り扱った政務調査費に関連して、当議員団が、同氏が平成15年度及び16年度の政務調査費を私的に流用したとして報道各社に流布し、かつ、平成17年6月下旬愛知県警察に対し、同氏が金980万円の政務調査費を業務上横領したとして被害の届出を行ったことは、真実に反し、これにより同氏の社会的信用・名誉を著しく毀損する結果となったことについて、謹んで謝罪致します。平成○○年○○月○○日自由民主党名古屋市会議員団平成19年度団長2掲載要領見出し14ポイント本文10ポイント体裁32段組10センチメートル掲載場所各紙社会面4(被控訴人代表者)
広告欄

掲載紙
名古屋市内に配布される中日、朝日、読売、毎日、日本経済新聞

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