判例検索β > 平成19年(わ)第3706号
詐欺、暴行、強盗傷人(変更後の訴因 強盗致死)被告事件
事件番号平成19(わ)3706
事件名詐欺,暴行,強盗傷人(変更後の訴因 強盗致死)被告事件
裁判年月日平成20年8月8日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第11刑事部
判示事項の要旨被告人が,飲酒の上,共犯者らと共謀して行った,タクシーの無賃乗車及び無銭飲食の事案,被告人が単独で暴行した事案及び被告人が無賃乗車に引き続いて料金の支払いを免れるために行ったタクシー運転手に対する強盗致死の各事案において,被告人の犯行時及び犯行前後の言動等を踏まえて,本件各犯行時,被告人は,完全責任能力を有していたとされ,また,無賃乗車による詐欺罪と強盗致死罪とが包括して(2項)強盗致死1罪となるとされた事例
裁判日:西暦2008-08-08
情報公開日2017-10-13 01:37:23
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主文
被告人を懲役28年に処する
未決勾留日数中310日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
(各事実の末尾に対応する起訴状及びその公訴事実の番号又は訴因変更請求書を示した。

被告人は,
第1

平成19年6月17日午後6時20分ころ,大阪市西淀川区(以下略)所在のマンション(名称略。以下本件マンションという。
)出入口前路上
において,A(当時57歳)に対し,その腹部を右足で膝蹴りし,同人をその場に転倒させた上,その胸部付近を多数回足蹴りするなどの暴行を加えた(平成19年7月25日付け起訴状記載の公訴事実第1)

第2

B及びCと共謀の上,平成19年6月17日午後6時35分ころ,大阪市西淀川区以下略)

先路上において,
株式会社Dタクシーの運転手Eに対し,
目的地到着後タクシー料金を支払う意思がないのに,あるように装い,

ミナミに行け。

などと申し向けて同人の運転するタクシーに乗り込み,同人をして,目的地到着後直ちに料金の支払が受けられるものと誤信させ,よって,同所から同市中央区宗右衛門町(以下略)路上まで上記タクシーを運転走行させながら,この間の料金2690円を支払わず,もって,人を欺いて同金額相当の財産上不法の利益を得た(平成19年7月4日付け起訴状記載の公訴事実第1)

第3

前記B及び前記Cと共謀の上,平成19年6月17日午後7時ころ,大阪市中央区(以下略)所在の焼肉F店において,同店店長Gらに対し,飲食後その代金を支払う意思もないのに,あるように装って飲食物を注文し,同人らをして,飲食後直ちにその代金の支払が受けられるものと誤信させ,よっ
て,そのころから同日午後7時30分ころまでの間,同人らから,順次ビール等20点(代金合計1万1210円)の提供を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた(平成19年7月4日付け起訴状記載の公訴事実第2)第4
1
前記B及び前記Cと共謀の上,
平成19年6月17日午後10時過ぎころ,
大阪市中央区(以下略)路上において,H株式会社のタクシー運転手Iに対し,目的地到着後タクシー料金を支払う意思がないのに,あるように装い,

○○駅の近くに行って。

などと申し向けて同人の運転するタクシーに乗り込み,同人をして,目的地到着後直ちに料金の支払が受けられるものと誤信させ,よって,同所から本件マンション前路上まで前記タクシーを運転走行させながら,この間の料金2910円を支払わず,もって,人を欺いて同金額相当の財産上不法の利益を得た(平成19年7月25日付け起訴状記載の公訴事実第2)

2
前記I(当時65歳)から第4の1記載のタクシー料金の支払を請求されるや,同人に暴行を加えてその債務の支払を免れようと企て,平成19年6月17日午後10時50分ころ,本件マンション3階通路において,同人に対し,その顔面等を手拳で多数回殴打するなどの暴行を加えて,びまん性軸索損傷等の傷害を負わせて意識を喪失させ,よって,同年9月10日午後4時56分ころ,大阪市中央区(以下略)所在のJ病院において,上記びまん性軸索損傷に基づく遷延性意識障害下での真菌性敗血症による多臓器不全により同人を死亡するに至らしめるとともに,
上記債務の請求を不能ならしめ,
もって,同債務の支払を免れて財産上不法の利益を得た(平成19年7月25日付け起訴状記載の公訴事実第3,平成19年12月26日付け訴因等変更請求書)

ものである。
(証拠の標目)


(弁護人の主張に対する判断)
第1

争点
公判前整理手続の結果,本件各公訴事実についてはいずれも争いがなく,争点は,①被告人が本件各犯行時,飲酒酩酊により心神喪失ないし心神耗弱の状態にあったか否か,②平成19年7月25日付け起訴状記載の公訴事実第2と第3(判示第4の1と2)が,併合罪か,包括して(2項)強盗致死1罪か,の2点であるとされた。

第2
1
争点に対する判断
争点①について
(1)

本件の前提となる事実
犯行前の飲酒状況
被告人は,平成19年6月17日午前10時ころ,大阪市東住吉区(以下略)の知人宅を出て,本件マンションの3階にあるBの居住する部屋に向かった。その途中,被告人は,自動販売機で缶ビール4本とワンカップの酒を4本買って飲んだ。
同日午後1時ころ,被告人は,同市西淀川区(以下略)所在のお好み焼き店に立ち寄り,生ビール4杯を飲むなどし,午後2時ころ同店を出て,B方に行った。被告人は,B方で500ミリリットルの缶ビールを4本飲んだ。その後,被告人は,Bに買ってこさせた350ミリリットルの缶ビールを3∼4本飲んだ。


判示第1の犯行状況等
被告人は,
同日午後6時20分ころ,
本件マンションの出入口前路上に,
Cの知人であるAがCとカラオケに行くためにやってきて,初対面の被告人と互いに挨拶をした直後,Aの帽子をつかみ取った上,さらに被告人を無視するような態度をとるAの胸ぐらをつかみ,腹部を右足で膝蹴りし,
Aをその場に転倒させて,その胸部付近を足蹴にする判示第1の暴行を加えた。この出来事の直前に,被告人は,Cに対し,飲みに行こうと誘ったが,Cは,Aとカラオケに行く約束があると言って,これを断っていた。ウ
判示第2の犯行に至る経緯及び犯行状況
同日午後6時35分ころ,被告人,B及びCは,判示第2のとおり,大阪市西淀川区(以下略)の路上において,E運転のタクシーに乗り込み,被告人は,

ミナミに行け。

と告げた。
被告人は,道中,

四つ橋へ行け。「御堂筋へ行け。「宗右衛門町に行


け。
」などと順次指示し,タクシーを判示第2のとおり同市中央区内の路上で停めさせると,

こいつ(Bを指す。)に金持ってこさせる。店見てくるからちょっとまっとけ。

などと言って,B及びCとともにタクシー料金を支払わずに逃走した。
被告人は,不安そうにしていたCに対し,

放っといたらええ。

など
と言った。
このとき,
被告人の足元はふらつくことはなく,
被告人は,
はっ
きりと呂律が回った口調で話をしていた。


判示第3の犯行に至る経緯及び犯行状況
(ア)

被告人は,Cに対し,焼肉店に行こうと誘い,同日午後7時ころ,
判示第3の焼肉店に入った。
被告人は,同店に入ると,BやCに何が食べたいかを尋ね,それをとりまとめて同店店長であるGや店員に注文したりし,被告人は,生ビールの中ジョッキ1杯と酒(大)2本を飲んだ。また,被告人は,窓から見える観覧車を見ながら,

観覧車がピンク色になるとカップルが盛り上がる。「ピンクが一番長いやろ。

」などと言い,さらに,Cに対し,

ダイエットせなあかんで。知り合ったときはもっとほっそりしとったやろ。

などと言った。このとき,被告人の様子はそれほど変わらず,呂律は回り,
Bから見て,
被告人が酔っぱらっていたということはなかっ

た。
同日午後7時50分ころ,被告人は,BとCに対し,帰る旨告げて,先に店の外に出るよう指示した。
(イ)

被告人は,代金を請求したGに対し,

つけといてくれ。

と言っ

たが,
Gがこれを断ると,この電話番号に電話をかければ代金を支払っ
てくれる。」と言って,携帯電話の電話番号2つをGに伝えた。Gは,上記電話番号に電話をかけたが,2つとも呼出音はするが誰も出ず,後日判明したところによると,1つは使用されておらず,もう一方は被告人とは関係のない人物の電話番号であった。
Gが電話をしている間に,被告人が店の外に出ていったため,Gは,被告人を追いかけて代金を支払ってもらうように言ったところ,被告人は,平然として

今日は金持ってないねん。

と言った。さらに,Gが警察を呼ぶことになると告げると,
被告人が警察でもなんでも呼べや。

と言ったので,Gは,店員に110番通報するよう指示し,駆け付けた警察官とともに近くの交番に行った。
被告人は,Gから代金支払を約束する一筆を書くよう求められ,上記交番内で,日付の外,判読不能な文字を記載した紙片を交付した。さらに,被告人は,Gの要望を受けて住所を尋ねた警察官に,自己の住所を答えたが,当時被告人はその住所地に居住していなかった。
店を出るころ,被告人の足元はふらついていたが,Gとの会話も意味不明なものはなく,Gから見て,被告人の意識ははっきりしていた。オ
判示第4の1の犯行に至る経緯及び犯行状況
その後,被告人は,B及びCと合流し,Bに小銭を渡してたばこを買いに行かせたり,ワンコインタクシーを拾うよう指示したりした。
同日午後10時過ぎころ,被告人は,判示第4の1のとおり,大阪市中央区内の路上において,I運転のタクシーを停車させ,B及びCとともに
これに乗った。
Bが○○駅の近くに行くようにIに行き先を伝えたところ,
被告人は,

○○でわかるんか。

などと尋ねた。Bが本件マンションの前辺りにタクシーを停めさせると,被告人は,BとCに指示して先に降車させた。しばらくして,被告人は,Iに対してタクシー料金を支払わないまま,B方に戻った。

判示第4の2の犯行に至る経緯
被告人は,B方に戻ると,しばらくして,Bにお茶を買ってくるように言った。Bが部屋を出ると,被告人らを探していたIが隣のマンションの3階から「金払え。」と言ったため,Bは,被告人に対し,そのことを伝えた。やがて,B方のインターホンが鳴り,玄関の外から,Iが

料金まだなんですか。

と言った。これを聞いた被告人は,

めっちゃ腹が立つ。話つけてくる。

と言うと,勢いよく立ち上がって部屋から出ていった。

判示第4の2の犯行状況等
同日午後10時50分ころ,本件マンションの3階に居住するKは,助けを求める声とそれに対する

じゃかましいわ。

などという怒鳴り声を聞いた後,3階通路で,仰向けに倒れたIの上に被告人が中腰で跨り,Iの顔面を手拳で殴打しているのを見た。Kは,このままではIが死んでしまうと思い,被告人に対し,

もうやめたれや。そのへんで許したれや。

と言うと,被告人は,一旦殴るのを止め,Kに対し,

あんたには関係ない。部屋に帰っとけ。警察に言ったらお前も半殺しにするぞ。などと言っ

た。


判示第4の2の犯行後の状況
(ア)

Bは,買い物から戻ると,B方の玄関前に,Iが仰向けとなり,動
かない状態で倒れていたので,被告人に対し,

倒れてるで。

と言っ
た。すると,被告人は,

タクシーの運転手や。俺が殴ったんや。ええからはよ中に入ってこい。

と言った。
しばらくして,警察官がB方の前まで来ると,被告人は,ビールを飲みながら,

うるさい。「俺は関係ない。「帰れ。


」などと怒鳴り,部
屋の中から玄関のドアを何度も蹴った。
さらに,
被告人は,
Bらに対し,

夜8時からずっと部屋の中で飲んでいたことにしろ。俺の△△という名前は絶対に出すな。山下だということにしておけ。

などと口裏合わせを命じた。そのうち,翌18日午前2時ころ,被告人は,寝てしまった。
(イ)

同日朝,Cは,被告人に対し早く帰りたいと言ったが,被告人は,
外にまだ警察官の姿があったことからこれを許さなかった。B方に泊まっていたLに対しては,仕事を休むように言った。また,携帯電話で誰かと話し,

2,3人若いのよこして連れ出してください。

などと言った。さらに,被告人は,

髭を剃ったら人相が変わり,騙せるんちゃうか。

などと言って,髭を剃り落とした。(ウ)

同日午後6時前ころ,被告人は,Lに対し,たばこを買いに行かせ
たが,このときも

警察に聞かれても,俺のことは絶対に山下と言え。聞かれても余分なことは言わずにすぐに戻ってこい。

と言った。被告人は,Lが出ていった後,Bらに対して,しきりに,

あいつ大丈夫やろな。何も言わんやろな。口堅いんやろな。

などと言った。被告人は,Lが戻らないことから,同日午後8時ころ,隣室のKに対し,たばこを持ってこさせたが,その際,Kに対し,

昨日のことをしゃべったら,本当に半殺しにするぞ。

などと言った。(エ)

なお,被告人は,判示第4の2の犯行後,B方で少なくとも缶ビー
ルを合計7本飲んだ。
また,Cは,

私は,事件のとき,ずっと被告人と行動をしており,被告人が記憶をなくすほど酔っぱらっていなかったのもこの目で見ている。

旨供述している。
(2)

被告人の責任能力の有無・程度について


前記前提となる事実によると,被告人は,平成19年6月17日午前10時ころから同日午後10時50分ころ(判示第4の2の犯行時刻)までに,生ビール中ジョッキ5杯,缶ビール11∼12本,日本酒のワンカップ4本と大2本程度を飲酒しており,長時間にわたり,相当量のアルコールを摂取していたことが認められる。
しかし,前記前提となる事実のとおり,判示第2,第3及び第4の1の共犯者ら並びに判示第3の被害者は,それぞれ,被告人の様子について,呂律が回っていたとか,意味不明な会話もなかったとか,意識ははっきりしており,酔っぱらったような様子はなかったなどと受け取っており,本件各犯行の当時,被告人に飲酒酩酊による目立った言語障害や行動障害があった形跡はみられない。
また,被告人は,判示第1の犯行については,Cと先約をしていたAが被告人を無視するような態度をとったことなどに立腹して犯行に至ったこと,判示第2,第3及び第4の1の犯行は,いずれも無賃乗車あるいは無銭飲食という利欲目的の犯行であったこと,判示第4の2の犯行については,被告人は,Iがタクシー料金の請求をしに来たことを認識した上で,

話つけてくる。と言って飛び出し,同人に暴行を加えたことからみて,

タクシー料金の請求を免れようという意図を有していたことが認められる。そうすると,各犯行に至る経緯,動機には,被告人の平素の人格に起因する極めて短絡的な点はあっても飛躍はなく,十分了解可能なものである。
さらに,被告人は,判示第2の犯行では,Eに対し,詐言を用いてタクシー料金を支払わずに逃走していること,
判示第3の犯行では,
被告人は,
代金の支払を求められた際,Gに対して虚偽の電話番号を伝えるなどして支払を免れようとし,同行した先の交番でも,虚偽の住所を告げてその場
を逃れ,結局飲食代金の支払を免れたこと,判示第4の犯行に際しては,Bらを先に降車させて料金の請求を免れていることからすると,
被告人は,
種々の手段を弄してタクシー料金及び飲食代金の各支払を免れるという目的に合致した,合理的な行動をとっていると認められる。
加えて,被告人が判示第4の2の犯行に及んでいる最中,目撃者であるKからとがめられるや,Kに対して脅迫を加えていること,犯行直後,Bに対して,被告人がタクシーの運転手に暴行を加えた旨述べていること,Bらに対して口裏合わせを図ったこと,さらに,犯行の翌日にも,被告人は,LやCに対してB方から出ないように指示したり,人相を変えようと髭を剃り落としていること,その日の午後8時ころにも,Kに対して再度口止めをしていること,携帯電話で,人を呼び寄せてB方から逃走しようと画策していたことなどからすれば,被告人には,判示第4の2の犯行当時,見当識障害はなく,少なくとも翌日午後8時ころまで犯行の記憶が保たれていたこと,また,そのような四囲の状況の認識や記憶に従って,罪証隠滅に向けた合目的的,合理的な行動をとる能力が存したことが明らかに認められる。
以上の事実に照らすと,被告人が捜査段階及び公判廷において犯行の記憶がないと述べていることを考慮しても,
被告人は,
本件各犯行の時点で,
飲酒酩酊により,事理弁識能力または行動制御能力に欠け,あるいはそれらが著しく低下した状態にはなかったものと認められる。

これに対して弁護人は,判示第4の2の犯行後,B方の玄関前に警察官が来た際,静かに黙っているのではなく,部屋の中からドアを蹴り飛ばしたりして警察官に悪態を付いたこと,Cらに外に出ないように指示しながら,被告人自身はさっさと寝てしまったこと,髭を剃って人相を変えようとするなど子供だましの行動に出ていることなどを指摘して,被告人はこの当時合理的な判断ができる状態ではなく,複雑酩酊に近い状態であった
と主張する。
しかし,被告人がとった粗暴な言動は,飲酒に伴い他人に危害を加える犯罪を犯しては4回も服役したことやBの供述などから明らかな被告人の平素の粗暴な人格が,飲酒の影響もあって表面化したに過ぎないものとみることができ,判示第1及び第4の2の各犯行と同様に,被告人の平素の人格から飛躍した情動行動であるとはいえないし,髭を剃ったり,共犯者らに対して口封じをするなどの言動は,罪証隠滅行為として合目的的なものであるから,上記認定を何ら揺るがすものではない。
よって,弁護人の主張は採用できない。
(3)

結論
以上より,被告人は,本件各犯行の当時,完全責任能力を有していたもの
と認められる。
2
争点②について
検察官は,判示第4の1の詐欺罪と判示第4の2の強盗致死罪について併合罪の関係に立つと主張するのに対し,弁護人は包括一罪と評価すべきであると主張する。
そこで検討すると,本件は,被告人らが判示第4の1の詐欺により,タクシー料金の支払をせずに降車して目的地までのタクシー乗車という財産上不法の利益を得た直後,被害者であるIが上記タクシー料金の支払を請求しようとしてタクシーのエンジンをかけたまま,被告人がいるB方の前まで来たため,被告人において,タクシー料金の支払請求を免れようとして暴行に及んだことが認められる。
そうすると,
判示第4の1の詐欺罪と判示第4の2の強盗致死罪については,
無賃乗車とその料金債務を免れることの法益面での密接な関連性,及び,2つの行為の時間的場所的近接性が存し,同一機会に継続して行われたものと認められる。

このような事実関係に照らせば,判示第4の1の行為と判示第4の2の行為について,いわゆる包括一罪が成立するというべきであるから(最高裁判所第1小法廷昭和61年11月18日決定・刑集40巻7号523頁参照),検察
官の主張は採用できないが,弁護人の主張には理由がある。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,共犯者らと共謀の上,タクシーの無賃乗車2件及び無銭飲食1件を行った詐欺の事案3件(判示第2,第3及び第4の1)
,被告人が単独で暴
行した事案(判示第1)及び被告人が判示第4の1の無賃乗車に引き続いて行ったタクシー運転手に対する強盗致死の事案(判示第4の2)である。まず,
判示第4の2の事案についてみると,
被告人は,
一旦は支払を免れたと思っ
たタクシー料金を請求してきた運転手である被害者に対して立腹し,支払を免れるべく暴行を加えたというものであり,その理不尽極まりなくかつ利欲的な犯行動機に酌量の余地は皆無である。もとより,タクシー料金の請求をするため被告人らを追いかけた被害者に落ち度があろうはずはない。被害者が被告人から受けた暴行は一方的かつ熾烈なものであり,凶器こそ用いていないとはいえ,生命を害する危険性の高いものであった上,被害者が繰り返し必死で助けを求めたにもかかわらず,被告人はこれを全く意に介さずに意識不明になるまでに暴行を加えており,その態様は執拗かつ残忍である。このような暴行を受けた際の被害者の肉体的苦痛や恐怖感は察するに余りある。そして,被害者は,3か月近く後に,一度も意識を回復することなく死亡するに至っており,取り返しのつかない重大な結果が生じている。三女の結婚式を目前に控え,その花嫁姿を見ることもできずに生命を奪われた被害者の無念さは想像に難くない。被害者の元妻は,主人が帰ってこないのであれば,

被告人にも同じ道を歩いてほしい。

と証言し,被害者の次女は

身長も154センチメートルで小さなやせた父をまるでボロギレの様に,どれほどの暴力を振るったのかと思うとはらわたが煮えくり返るほどの怒りがこみ上げます。「私たち家

族は犯人の死刑を望んでいます。
」などと心情を述べ,三女も

私の夢とお父さんのこれからの楽しみ,お父さんを帰して。

などと悲痛な胸の内を明らかにし,いずれも厳しい処罰感情を吐露している。これに対して,被告人は,法廷において謝罪の言葉を述べ,また,公判段階に至って謝罪文を送付したにとどまり,それ以外に何ら慰謝の措置をとっていないのであって,遺族らの心情には誠に無理からぬところがある。被告人は,被害者が倒れていることを認識しながら,救護措置を何らとっておらず,それどころか,そのまま翌日まで寝入ってしまうなど,被害者の生命を慮ろうとする姿勢は全くみられない。かえって,人相を変えようとして髭を剃り落としたり,関係者に口裏合わせを命じたり,目撃者を脅迫して口止めを図るなどし,自己保身ばかりを考えており,犯行後の情状も悪い。
被告人には,平成14年12月宣告の強制わいせつ致傷による服役前科があるほか,粗暴犯等の服役前科3個があるところ,各前科はいずれも飲酒の上で及んだ犯行である。被告人は,これらの各前科に関する裁判の際,飲酒を慎むことを再三にわたり誓約したにもかかわらず,前刑出所後わずか1年3か月余り後にまたもや飲酒の上で本件各犯行に及んだものである。このような経緯に照らすと,飲酒の上での犯行であることは,何ら有利な情状とはいえず,むしろ被告人の規範意識の希薄さが顕著に現れたものとみるべきであり,さらに,被告人の再犯の危険性も指摘することができるものである。
次に,判示第1の犯行についてみると,被告人は,同事件の被害者が被告人を無視するような態度をとったことなどに立腹して一方的に暴行を振るっており,短絡的な犯行動機に酌量の余地はない。犯行態様も,無抵抗の被害者の胸部付近を何回も蹴りつけるなどしたもので,執拗かつ悪質である。
さらに,判示第2,第3及び第4の1の各犯行についてみると,被告人は,各犯行に及ぶ際にはわずかばかりの小銭しか有しておらず,タクシーに乗車してミナミに向かい,飲食して,再びタクシーに乗車して戻ってくるまでのわずか4時間足らずの間に,次々と詐欺行為を繰り返したもので,その利欲的な犯行に酌量の余地は全くない。
犯行態様も,
判示第2の犯行では詐言を用いて料金の請求を免れ,
また,

判示第3の犯行では虚偽の電話番号や住所を伝えてその場を取り繕おうとしており,巧妙で手慣れた犯行である。被告人は,これらの各犯行の被害者に対して一切被害弁償をしておらず,被害者らが厳重処罰を望むのも当然である。したがって,被告人の刑事責任は相当重い。
しかし,他方で,判示第4の2の犯行については,無賃乗車時点での計画性は認められず,被告人は,タクシー料金の請求のため被告人らを追ってきた被害者に対し,その支払を免れようという意図のほか,理不尽極まりないものであるとはいえ自己の思惑に反する成り行きとなったことによる怒りを感じ,衝動的に暴行に及んだという色彩も強く認められる。そうすると,当初から金品などの金銭的利得をもくろんで暴行脅迫に及び,被害者を死に至らしめる典型的な強盗致死事案に比すれば,多少なりとも犯情を軽くみる余地がある。
また,被告人は,捜査段階及び公判段階において,各犯行の状況についてほとんど記憶が欠落している旨述べているところ,被告人の飲酒量は相当多量に及んでいる上,被告人は,判示第4の2の犯行後にも飲酒を重ねていること,被告人は,多量な飲酒を裏付けるお好み焼き店における飲酒自体も記憶していない旨述べていること,本件各犯行を犯したことは全て認めており,記憶がないと述べることが被告人に必ずしも有利になるわけではないことなどに照らせば,判示第4の2の犯行について,被告人が翌日の午後8時ころにも目撃者に対し口止めをしたことなどを考慮しても,検察官が主張するように,被告人があえて各犯行状況について記憶がないと虚偽を述べていると断ずることはできない。そうすると,被告人が,判示第4の2の犯行の遺族や判示第1,第2の各犯行の被害者に対する謝罪文や反省文を書き,公判廷でも謝罪の意思を表し,今回の事件を悔い改めて生きていくことが償いだと考えている旨述べるのは,反省の情の表れとして有利に評価すべきである。その他,判示第1の犯行の被害者は被告人を宥恕していること,生い立ちが不遇であること,交通事故の後遺症も窺われることなど,被告人のために有利なあるいは酌むべき事情がある。

そこで,これらの事情を総合考慮して,被告人に対しては,酌量減軽の上,主文の刑に処するのが相当と判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑

無期懲役)

平成20年8月8日
大阪地方裁判所第11刑事部

裁判長裁判官

西田眞基
裁判官

新崎長俊
裁判官

馬場崇
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