判例検索β > 平成16年(行ウ)第470号等
α線鉄道施設変更工事合格処分差止請求事件
事件番号平成16(行ウ)470等
事件名α線鉄道施設変更工事合格処分差止請求事件
裁判年月日平成20年1月29日
法廷名東京地方裁判所
判示事項1 鉄道線路の一定区間を高架複々線化する鉄道施設変更工事について,地方運輸局長が7年の間にした鉄道事業法10条2項に基づく各完成検査合格処分の取消しを求める訴えが,いずれも却下された事例
2 地方運輸局長がした,鉄道事業法17条に基づく運行計画の変更の届出の受理行為が,取消訴訟の対象となる行政処分に当たらないとされた事例
3 鉄道施設変更工事により完成した高架鉄道施設に,鉄道運送事業者が鉄道を複々線で走行させることを許す地方運輸局長が行う一切の処分の差止めを求める訴えが,却下された事例
裁判要旨1 鉄道線路の一定区間を高架複々線化する鉄道施設変更工事について,地方運輸局長が7年の間にした鉄道事業法10条2項に基づく各完成検査合格処分の取消しを求める訴えにつき,鉄道施設変更工事に係る完成検査及びその結果としての合格処分は,鉄道事業者が鉄道事業法12条4項に基づいてした検査の申請ごとに別個にされるものと解すべきであり,1件の工事計画に基づくものであっても,検査及び合格処分が別々に行われている場合,それらを全部まとめて1個の行政処分と解することはできず,また,鉄道事業法の趣旨,目的のほか,鉄道施設変更の認可,工事計画変更の認可及び完成検査に関わる同法及び同施行規則の規定の趣旨,目的並びにこれらの処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮する限り,鉄道施設変更工事の完成検査を定めた鉄道事業法10条2項が,鉄道施設周辺住民の個別具体的な利益を保護すべきものとする趣旨であるとは解しがたいとした上,前記各検査合格処分のうち,一部については,前記訴えの提起までに既に出訴期間が正当な理由もなく経過したとして,また,その余については,前記鉄道施設変更工事の周辺住民は法律上の利益を有さず,原告適格が認められないとして,前記訴えをいずれも却下した事例
2 地方運輸局長がした,鉄道事業法17条に基づく運行計画の変更の届出の受理行為につき,同条は,鉄道運送事業者は,列車の運行計画の設定又は変更をしようとするときは,あらかじめその旨を国土交通大臣から権限の委任を受けた地方運輸局長に届け出なければならないとしているところ,同法及び同法施行規則上は,届出書の記載事項等を定めた同規則35条のほかに,前記運行計画の設定又は変更の届出に関する規定はなく,また,同規則は「受理」という用語を使用しているものの,前記受理行為に一定の法律効果を結びつけることもしていないから,前記届出に対し,地方運輸局長が,行政処分としての受理行為をすることは全く想定されていないとして,前記受理行為は,取消訴訟の対象となる行政処分に当たらないとした事例
3 鉄道施設変更工事により完成した高架鉄道施設に鉄道運送事業者が鉄道を複々線で走行させることを許す地方運輸局長が行う一切の処分の差止めを求める訴えにつき,行政事件訴訟法3条7号にいう「一定の処分又は裁決」とは,処分又は裁決の内容が具体的一義的に特定していることまでは要求していないものの,同法37条の4所定の差止めの訴えの要件について裁判所が判断することができる程度にまでは特定している必要があるとした上,鉄道事業法及び同法施行規則上の地方運輸局長の権限に属する処分は,列車の走行に直接関係すると考えられるものだけでも同規則71条1項各号の各処分があり,裁判所がどの処分を審理の対象として取り上げるべきかを知ることができないから,差止めの訴えの要件について判断することはできず,前記一切の処分は前記「一定の処分」に当たらないとして,前記訴えを却下した事例
裁判日:西暦2008-01-29
情報公開日2017-10-19 19:06:00
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主文1
本件訴えをいずれも却下する。

2
訴訟費用は,原告らの負担とする。

第1
1実及び理由
請求
α線のβ駅とγ駅との間の線増連続立体交差化事業における高架複々線走行のための鉄道施設変更工事について被告がした別紙1α線完成検査一覧表記載の各完成検査合格処分をいずれも取り消す。

2
α線のβ駅とγ駅との間の線増連続立体交差化事業による複々線化を前提としたP1株式会社による平成16年10月5日付け運行計画届出に対して被告がした同日付け受理処分を取り消す。

3
被告は,α線のβ駅とγ駅との間の線増連続立体交差化事業により建設される高架複々線の鉄道線路に,P1株式会社が鉄道を複々線で走行させることを許す一切の処分をしてはならない。

第2

事案の概要
本件は,P1株式会社(以下P1という。α線(以下α線という。)

のβ駅付近からγ駅付近までを高架複々線化する鉄道施設の変更に関し,その周辺に居住する原告らが,建設される高架鉄道施設に隣接して設けられるべき付属街路(関連側道)が完成していないにもかかわらず,高架複々線化を進めるのは違法であると主張して,被告に対し,①当該工事の完成検査の結果被告が行った変更後の当該鉄道施設を合格とする処分の取消し及び②当該鉄道施設の変更を前提としてP1が被告に届け出た運行計画の受理の取消しを求めるとともに,③当該工事により完成した高架鉄道施設にP1が鉄道を複々線で走行させることを許す被告が行う処分一切の差止めを求める事案である。これに対し,被告は,本案前の答弁として,上記①の請求に対しては,取消しを求める合格処分の中には出訴期間を限定する行政事件訴訟法の規定が遵守されていないものがあるほか,そもそも原告らには原告適格がないことを,上記②の請求に対しては,運行計画届出の受理は取消訴訟の対象となる処分ではないことを,上記③の請求に対しては,差止めを求める対象である一定の処分が特定されていないことを主張し,本件訴えをいずれも却下することを求め,本案については,当該鉄道施設を合格とした処分は適法であると主張している。
1
前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)

都市計画事業(甲5,16,18,乙2,6の1・2,7のl・2)建設大臣は,昭和39年12月16日付けで,都市計画法(大正8年法律
第36号。いわゆる旧都市計画法)3条に基づき,世田谷区δ(γ駅付近)を起点とし,葛飾区ε(ζ駅付近)を終点とする東京都市計画高速鉄道第9号線(昭和45年の都市計画の変更以降の名称は東京都市計画都市高速鉄道第9号線である。)に係る都市計画を決定した。
東京都は,上記都市計画について,都市計画法(平成4年法律第82号による改正前のもの)21条2項において準用する同法18条1項に基づく変更を行い,平成5年2月1日付けで告示した(以下,この都市計画の変更を平成5年決定という。。平成5年決定は,α線のγ駅付近からβ駅付)
近までの区間(以下本件区間という。
)について,η駅付近を掘割式と
するほかは高架式を採用し,鉄道と交差する道路とを連続的に立体交差化することを内容とするものであり,後記(2)で述べるα線の複々線化と相まって,鉄道の利便性の向上及び混雑の緩和,踏切における渋滞の解消,一体的な街づくりの実現を図ることを目的とするものである。
建設大臣は,都市計画法(平成11年法律第160号(中央省庁等改革関係法施行法)による改正前のもの)59条2項に基づき,平成6年5月19日付けで,東京都に対し,平成5年決定により変更された上記都市計画を基礎として,本件区間の連続立体交差化を内容とする都市計画事業(以下9号線事業という。)を認可し,平成6年6月3日付けでこれを告示した。
また,建設大臣は,世田谷区が平成5年2月1日付けで告示した東京都市計画道路・区画街路都市高速鉄道第9号線付属街路第3,
第4,
第5,
第6,
第9及び第10号線に係る各都市計画を基礎として,同項に基づき,平成6年5月19日付けで,東京都に対し,本件区間の一部に係る上記付属街路6本の設置を内容とする各都市計画事業(以下,併せて9号線付属街路事業という。
)を認可し,平成6年6月3日付けでこれを告示した。上記各付属街路は,本件区間の連続立体交差化に当たり,環境に配慮して沿線の日照への影響を軽減すること等を目的として設置することとされたものである。(2)

鉄道施設変更工事(甲5,乙1ないし4,6,7,9ないし30,32
ないし42,49(枝番のあるものはすべての枝番を含む。)


P1は,α線につき,本件区間のうちβ駅付近からθ駅付近までを含むι駅付近からθ駅付近までの間については昭和48年11月10日に,本件区間のうちθ駅付近からγ駅付近までを含むθ駅付近からκ駅付近までの間については昭和60年11月19日に,それぞれ,地方鉄道法施行規則17条に基づき,複々線化を内容とする線路及び工事方法書の記載事項の変更の認可を受け,さらに,平成4年3月10日には,鉄道事業法(平成16年法律第124号による改正前のもの)12条4項に基づき,本件区間について鉄道施設変更に係る工事計画の変更の認可を受けた(以下,この変更後のものを本件鉄道施設変更といい,その工事を本件鉄道施設変更工事という。。)
本件鉄道施設変更にかかわる上記の各認可は,地方鉄道法施行規則17条に基づくものは東京陸運局長ないし関東運輸局長(当時)が,鉄道事業法12条4項に基づくものは運輸大臣の権限の委任を受けた関東運輸局長(当時)が,それぞれ行ったものであるが,いずれも,現在においては,国土交通大臣の権限の委任を受けた被告によって行われたものとみなされる(中央省庁等改革関係法施行法1301条1項,同法附則1条,鉄道事業法12条4項,8条2項,9条,64条,同法施行規則(平成17年国土交通省令第12号による改正前のもの)71条1項4号)

本件鉄道施設変更の工事計画の内容は,本件区間約6.4キロメートルについて,η駅付近の一部を除き鉄道を高架化するとともに,それに併設して2線線増をし,高架複々線化をするというものであり,その具体的な工程は,①高架化・複々線化前の既設線(東西方向に延びる複線)の南側に用地を取得し,②既設線の南側に高架鉄道施設(南側半分)を建設し,③完成した高架鉄道施設(南側半分)に既設線を移し(一部仮線となる個所がある。,④地上に残された既設線を撤去し,主に既設線用地上に高)
架鉄道施設(北側半分)を建設し,⑤完成した高架鉄道施設(全体)を複々線として供用する,というものである。

9号線事業と本件鉄道施設変更工事の関係は次のとおりである。
建設省と運輸省との間で昭和44年9月1日に締結され平成4年3月31日に改正された都市における道路と鉄道との連続立体交差化に関する協定(以下建運協定という。
)は,都市における道路と鉄道との連
続立体交差化に関し,事業の施行方法,費用負担方法,その他必要な事項を定めることにより連続立体交差化を促進し,もって都市交通の安全化と円滑化を図り,都市の健全な発展に寄与することを目的として,①建設大臣又は都道府県知事は都市計画法の定めるところにより,連続立体交差化に関する都市計画を定めること,②都市計画決定された連続立体交差化に関する事業は都市計画事業として都道府県又は政令指定都市が施行すること,③連続立体交差化事業費である高架施設費等は鉄道事業者と都市計画事業施行者とがこの協定の定めるところにより負担すること,④運輸省及び建設省は連続立体交差化事業が円滑に実施されるよう鉄道事業者及び都市計画事業施行者を指導すること,⑤この協定を円滑に運用するため,運輸省及び建設省の職員で構成する連続立体交差化協議会を設けることなどを定めている。
建運協定にいう連続立体交差化とは,鉄道と幹線道路とが2カ所以上において交差し,かつ,その交差する両端の幹線道路の中心間距離が350メートル以上ある鉄道区間について,鉄道と道路とを同時に3カ所以上において立体交差させ,かつ,2カ所以上の踏切道を除却することを目的として,施工基面を沿線の地表面から離隔して既設線に相応する鉄道を建設することをいい,既設線の連続立体交差化と同時に鉄道線路を増設すること(線増連続立体交差化)を含むものとされる(同協定2条)
。線増連続
立体交差化の場合,連続立体交差化に関する都市計画には,鉄道施設の増強部分(既設線の鉄道施設の面積が増大する部分及び線増線の部分をいう。
)を原則として含めるものとされ(同協定3条3項)
,都市計画決定
された線増連続立体交差化に関する事業における鉄道施設の増強部分以外の部分に係る事業は,都市計画事業として都市計画事業施行者が施行するものとされる(同協定4条)

9号線事業は,本件区間において建運協定の定める線増連続立体交差化に関する事業を行おうとするものである。したがって,鉄道施設の増強部分に係る事業は,本件鉄道施設変更工事としてP1が実施し,それ以外の部分に係る事業は,9号線事業として東京都が施行することとなる。ウ
P1は,本件鉄道施設変更工事につき,必要となる用地が確保された所から順次工事を開始するとともに,工事完成部分について,順次,鉄道事業法に基づく完成検査を申請した(同法12条4項,10条1項,鉄道施設等検査規則(昭和62年運輸省令第11号)7条1号ロ・ヘ)
。関東運
輸局長(当時)ないし被告は,上記各申請に基づき完成検査を実施し,P1に対し,当該各鉄道施設を合格とする処分をした(同法10条2項)。
P1はこれを受けて当該各鉄道施設の供用を開始した。
その経過は別紙1α線完成検査一覧表
(以下別紙1一覧表とい
う。記載のとおりであり,被告は,同表の番号①から<23>までのとおり,)
平成9年11月19日から平成16年11月17日までの間,23回に分けて,
検査年月日欄記載の日に,同法12条4項に基づき各鉄道施設
を合格とする処分をした(以下,併せて本件各合格処分といい,個別に特定するときは同表の番号に従い本件合格処分①などという。。)
本件各合格処分に係る完成検査の詳細は別紙2-1ないし同2-5の各鉄道施設完成検査実績記載のとおりである。これらは,別紙1一覧表を各鉄道施設(鉄道線路,信号保安設備,電路設備,駅及び変電所等設備)別に整理したものであり,別紙2-2-1の信号保安設備に関する検査対象施設を路線図で示したものが別紙2-2-2であり,別紙2-3-1の電路設備に関する検査対象施設を系統図で示したものが別紙2-3-2である。各検査項目に記載された鉄道施設の詳細は次のとおりであり,鉄道施設ごとの主な具体的な検査事項は,別紙3完成検査における主な検査事項記載のとおりである。〔項

目〕

〔鉄道施設の詳細〕

鉄道線路
軌道(レール,まくら木,路盤等),高架橋等

橋りょう
支間40メートル以上の橋りょう構造物

トンネル
長さ200メートル以上のトンネル構造物


プラットホーム,駅設備等

電車線路(※1)

トロリ線(※1-2),ちょう架線(※1-3),ハンガ(※1-4)等
き電線路(※2)

き電線等

配電線路(※3)

配電線等

閉そく装置(※4)

閉そく機,軌道回路(※4-2),信号機等

連動装置(※5)

連動機,転てつ器(※5-2)等
自動列車停止装置

ATS(AutomaticTrainStop)地上設備


整流器,変圧器等の変電所設備


※1:


電車にパンタグラフを通じて電力を供給するための電線路

※1-2:パンタグラフと直接接触する線
※1-3:ハンガを介してトロリ線をつり下げる線
※1-4:トロリ線をちょう架線につり下げる金具
※2:

変電所より電力を電車線路に供給するための電線路

※3:

駅等鉄道施設や信号機,踏切等の信号保安設備に電力を供
給するための電線路(電柱,ビーム等の支持物は,電車線,
き電線,配電線で共用する場合は,いずれかの早い検査時に
検査を行う。


※4:

列車の追突・衝突を防止するため,線路を一定区間に区切
って1区間を1列車のみの運行に占有させ,完全に通過し終わ
るまでは続行列車又は対向列車をその区間に進入させないよう
にするための装置の総称

※4-2:左右のレールを電気回路の一部として使用して列車検知を行うための回路
※5:

信号機と転てつ器の間に相互関係を持たせて構内の列車の
進路構成を行うための装置

※5-2:分岐器(ポイント部)のレールを移動させるための装置本件各合格処分のうち,平成13年1月6日前に行われたものは運輸大臣の権限の委任を受けた関東運輸局長(当時)が,同日以後に行われたものは国土交通大臣の権限の委任を受けた被告が,それぞれ行ったものであるが,同日前に行われたものは,現在においては,国土交通大臣の権限の委任を受けた被告によって行われたものとみなされる(中央省庁等改革関係法施行法1301条1項,同法附則1条,鉄道事業法12条4項,10条2項,64条,同法施行規則71条1項4号)

(3)

運行計画の届出(乙5)
P1は,平成16年10月5日,鉄道事業法17条に基づき,本件鉄道施
設変更を踏まえた運行計画の変更を被告に届け出て(以下本件届出という。,被告は同日これを受理した。

P1は,平成16年12月11日から,上記運行計画の変更に係る新運行計画(ダイヤ)を実施している。
(4)

原告らの居住地(甲13,乙43)
原告らはいずれも本件区間の周辺地域に当たる本判決原告ら肩書住所地に
居住する者である。
東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。ただし,平成10年東京都条例第107号による改正前のもの。以下東京都条例という。
)は,鉄道の新設又は改良など同条例別表に掲げる事業でその実施が環境に著しい影響を及ぼすおそれのあるものとして東京都規則で定める要件に該当するものを対象事業とした上で(2条3号)東京都知事において,,
事業者が対象事業を実施しようとする地域及びその周辺地域で当該対象事業の実施が環境に著しい影響を及ぼすおそれがある地域として,当該対象事業に係る関係地域を定めなければならないとしている(2条5号,13条1項)
。9号線事業に係る関係地域は,別紙4の図面のとおり定められているところ,原告P2以外の原告らはいずれも上記の関係地域(以下東京都条例関係地域という。)内に居住している。
2
争点
本件の主要な争点及びこれに関する当事者の主張の概要は次のとおりである。
以下においては,原告らの請求のうち,前記第1請求の1に係る請求を本件各合格処分取消請求
,同2に係る請求を本件届出受理取消請求

同3に係る請求を本件差止請求という。なお,判断の便宜上,まず,本案前の判断として,処分性,特定性,出訴期間,原告適格の順に検討するため,争点の記載もこの順序とする。
(1)

本件届出の受理は取消訴訟の対象となる処分か。

(原告らの主張)
鉄道事業法施行規則71条1項8号は,同法17条の規定による届出の受理が国土交通大臣の権限であり,かつ,これを地方運輸局長に委任するとしており,鉄道の運行計画又はその変更の届出に対して行政庁の行為としての受理が想定されている。
行政手続法37条は,届出によって届出義務を負う者の手続上の義務が履行されたものとなることを規定するにすぎず,これに対する行政庁の受理行為があって初めて,当該届出者の期待する一定の法律上の効果が発生する。したがって,鉄道事業法17条の届出が地方運輸局長によって受理されることによって初めて鉄道運行計画の変更が許されると解され,この受理行為は,これにより直接鉄道事業者の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものということができ,取消訴訟の対象となる処分に当たる。
(被告の主張)
行政事件訴訟法(以下行訴法という。
)3条2項にいう行政庁の処分
とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。
届出は,法律上私人が行政庁に対し一定の通知をすることを義務付けられているときのその通知行為であって,形式上の要件に適合している届出がされたときは,当該届出義務者がすべき行為は完了し,これについて行政庁の意思や判断が介在する余地は本来ない。行政手続法37条はこれを明らかにしたものであり,同条にいう届出については,行政庁による届出の受理を法律上観念することができず,受理処分ないし不受理処分の取消訴訟は不適法である。
鉄道事業法17条によって届出が義務付けられる列車の運行計画」とは,列車の運転速度,発着時刻,運行回数等に関する計画のことであり,その届出に当たっては同法施行規則35条1項又は3項に規定する事項を届出書に記載した上,同条2項に規定する関係書類及び図面を添付することとされている。運行計画は,本来,鉄道事業者が決定すべき性質のものであるが,鉄道事業の公共性にかんがみ,運行計画の安全性及び利便性を確保するため,事前届出を定めたものである。そして,同法17条は,運行計画の届出につき,「届け出との文言を用いており,行政手続法の適用を除外する規定はないし,届出の形式上の要件を超えて,行政庁が,届出の内容について審査権限を有することをうかがわせる規定は存在しない。したがって,鉄道事業法17条の届出は,行政手続法37条の届出に該当し,到達したときに届出としての効果を持つことになるのであるから,国土交通大臣ないしその権限の委任を受けた地方運輸局長がこれを受理する行為は,法律上は意味を持たない単なる事実上の行為にすぎないというべきである。
よって,この受理行為は国民の法的地位に直接影響を及ぼすものではないから,行訴法3条2項に規定する処分に当たらないというべきである。(2)

本件差止請求の対象は特定しているか。

(原告らの主張)
本件差止請求の対象は,これ以上の特定ができない。
(被告の主張)
本件差止請求に係る訴えは,行訴法3条7項の規定する差止めの訴えである。同項によれば,差止めの訴えは,
行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合に提起することができるところ,
一定の処分又は裁決とは,差止めの訴えの要件を満たして
いるか否かについて裁判所の判断が可能な程度に特定されるものである必要があると解される。そして,具体的な特定の程度については,問題とされる処分又は裁決の根拠法令の趣旨及び社会通念に従って判断されるべきものであるが,単に差止めの結果としての事実を特定するのみでは足りないと解すべきである。
ところが,本件差止請求は,本件鉄道施設変更工事によって完成した高架鉄道施設にP1が鉄道を複々線で走行させることを許す一切の処分をしてはならないとするもので,まさに差止めの結果としての事実を特定したのみであって,直接間接を問わずP1が鉄道を複々線で走行させることに関連するすべての処分を想定し,その差止めを求めるものである。したがって,裁判所が差止請求の要件該当性を判断することはおよそ不可能であり,差止めの対象とする処分の特定性を欠くことは明らかである。
よって,本件差止請求は,行訴法3条7項の要件である一定の処分の特定を欠き,不適法である。
(3)

本件各合格処分取消請求に係る訴えは出訴期間関連規定を遵守している
か。
(原告らの主張)
ア(ア)

本件鉄道施設変更工事は,9号線事業及び9号線付属街路事業とと
もに,その全部が一体となって線増連続立体交差化事業としての1個の事業を構成する。この1個の事業の目的を達成するためには,あくまでも本件区間全体について本件鉄道施設変更工事全部が完了し,完成した高架鉄道施設の上に複々線走行をさせられる状態に至ることが必要条件である。
したがって,本来は,本件区間全体の本件鉄道施設変更工事が完了した時点で完成検査を実施し,合格判定をすべきである。便宜的に任意の一部分の工事が完了する都度行われてきた本件各合格処分のそれぞれは,それ自体が独立した1個の行政処分としての意義を有していないから,その全部がそろったとき,すなわち最後の処分である本件合格処分<23>が行われたときに,一体としての合格処分が行われたとみなすべきである。
(イ)

鉄道事業法の規定をみても,本件鉄道施設変更工事は,本件区間の
全線を高架複々線化するための工事であるから,同法12条によれば,その全体についての変更に係る工事計画につき被告の認可を受け,その全体についての工事が完了したときに検査を申請しなければならないものである。
実質的に考察しても,本件鉄道施設変更工事は,本件区間の鉄道を連続して高架複々線化するための工事であるから,その全体が鉄道施設として法令に適合しているか否かは,全体の工事が完了するまでは判定することが不可能な性格を有している。
結局,本件鉄道施設変更工事については,たとえ事実上分割して検査が実施されたとしても,もともとの鉄道施設変更の工事計画に定められた工事がすべて完成した時点における検査とこれに対する合格処分をもって全体の工事に対する被告の処分が行われたものと解するのが法令に適合しており,本件各合格処分は全体として1個の処分と解すべきである。
(ウ)

したがって,本件各合格処分取消請求に係る訴えの出訴期間は,一
番最後の合格処分である本件合格処分<23>が行われた平成16年11月17日から起算すべきものであり,それ以前に提起されている本件訴えはいずれも適法である。

仮に,本件各合格処分が別個独立のものであったとしても,原告らは,本件訴訟における被告の答弁書によって初めて,本件各合格処分が行われたとの事実を告知されたのであり,原告らが本件各合格処分があったことを知ったのは平成16年12月20日である。
また,本件各合格処分はそもそも一般に公告されるものではなく,およそ原告らがこれが行われた事実を知り得る状況にはなかったものである。原告らは,鉄道事業や鉄道工事の専門家ではないから,本件区間においていかなる工事が行われ,完成検査や合格処分が行われたのかを直ちに認識することはできない。P1による広報周知の効果は不詳であり,本件各合格処分に係る工事区間・個所の供用開始を知り得る状況にあったとの被告の主張は何ら証明されていない。
よって,本件訴え提起までに既に1年間の出訴経過が経過していたという本件合格処分①から⑯までの処分についても,その処分取消しの訴えを提起するにつき原告らには正当な理由がある。
(被告の主張)

本件各合格処分は,完成検査年月日(合格処分をした日と同日である。)
を異にするばかりか,鉄道施設の種類,区間,個所等の検査対象及び検査の内容が異なっていることからすると,それぞれ別個独立のものというべきであり,合計23個存在する。


本件訴えのうち,原告P3の訴え(第482号事件)は平成16年11月12日に提起され,その余の原告らの訴えはいずれも同月4日に提起された。したがって,本件各合格処分が行われた時点において原告らがその処分があったことを知っていたのであれば,本件各合格処分取消請求に係る原告P3の訴えは,同年8月11日以前に行われた合格処分の取消しを求める部分については,行訴法14条(平成16年法律第84号による改正前のもの。以下旧行訴法14条という。
)1項の規定する出訴期間
(3か月)が経過しており,その余の原告らの訴えは,同年8月3日以前に行われた合格処分の取消しを求める部分については,同様に出訴期間が経過している。すなわち,本件合格処分①から同⑳までの各処分の取消しを求める訴えは,いずれも出訴期間が経過している。

本件各合格処分取消請求に係る訴えのうち,本件合格処分①から同⑯までの各処分の取消しを求める訴えは,いずれも,処分の日から1年を経過した後に提起されているから,
正当な理由がない限り,原告らがそれ
を知ると否とにかかわらず出訴期間が経過しており,不適法である(旧行訴法14条3項)

そして,本件各合格処分に係る工事区間・個所の供用開始はあらかじめP1により広報周知されていたから,α線沿線に居住する原告らがその供用開始を知り得る状況にあったことは明らかである。そうすると,原告らは,本件合格処分①から同⑯までの各処分に係る工事区間・個所の供用開始を知ることによって,当該工事が完成したことを知り,かつ,およそ当該鉄道施設の供用を開始する前提として必要とされる何らかの処分が行われたことを推認することができたはずである。
そうである以上,
原告らは,
供用が開始された工事区間・個所について鉄道事業法12条3項の完成検査が行われ合格処分が行われたことを容易に知り得る状況にあったというべきであり,原告らに旧行訴法14条3項の正当な理由は認められない。

(4)

原告らは本件訴えにつき原告適格を有するか。

(原告らの主張)

原告らは,本件鉄道施設変更後の高架鉄道施設に隣接又は近接した場所に居住し不動産上の権利を有する者である。
9号線事業の事業地の周辺地域に居住する住民が9号線事業認可及び9号線付属街路事業認可の各取消しを求めた訴訟において,最高裁判所は,東京都条例に基づき9号線事業に係る関係地域として東京都知事が定めた地域(東京都条例関係地域)内に居住している者すべてに9号線事業認可取消訴訟の原告適格を認めた(最高裁平成17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁。以下α大法廷判決という。。

原告P2以外の原告らはすべて東京都条例関係地域内に居住しているから,後記イで述べる理由により,α大法廷判決と同様,これらの原告らにはすべて本件訴えの原告適格が認められる。原告P2の居住地は東京都条例関係地域内にはないが,9号線事業地から北方に直線距離で約670メートルの位置にある。東京都条例関係地域内にあっても,9号線事業地からの直線距離が原告P2の居住地までの直線距離よりも遠い場所があり,同原告よりも遠方に居住する住民が多数9号線事業認可取消訴訟の原告適格を認められているから,同原告にも原告適格が認められるべきである。イ
建運協定並びにこれに基づく細目協定,通達及び調査要綱(以下建運協定等という。が定めるとおり,連続立体交差化事業が行われる場合,)
沿線の日照への影響を軽減する等,環境への影響を軽減するために,付属街路(関連側道)を設置することが不可欠である。そこで,建運協定は,鉄道の高架複々線化を単なる鉄道事業とはせず,複々線化(線増)という鉄道事業,鉄道の高架化という都市計画事業及び高架化が不可避的に招来する環境の悪化(騒音,新道,日照阻害等)を防止,緩和するための環境空間としての附属街路の設置という都市計画事業の三者が不可分一体をなすものとしての線増連続立体交差化事業を新たな事業として位置付けたのである。また,その際に生ずる鉄道施設の改良工事費は,連続立体交差化事業費として国費(道路特定財源の資金)で賄われることとされているのである。
このような観点からみると,本件鉄道施設変更工事は,単なる既存鉄道施設の変更にすぎないものではなく,既存鉄道の高架複々線化のための工事そのものであって,本件区間における線増連続立体交差化事業の中核的構成要素であり,当該事業の一部分を構成する9号線事業の中核的構成要素でもあるといえる。また,本件届出の受理は,東京都条例関係地域に居住する住民が被ると予想される騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害の発生原因となる,線増連続立体交差化事業の結果としての高架鉄道施設上の電車の複々線走行を許可する行政処分にほかならないのである。
そして,建運協定等は,直接には道路法31条及び道路整備費の財源等の特例に関する法律(平成15年法律第21号による改正前の道路整備緊急措置法2条3項に基づく建設省と運輸省の協議を前提とする協定,)
通達,要綱の形式で存在するものであり,少なくとも上記2つの法律を補充する法規範としての性質を明確に有する。仮に百歩譲っていわゆる内部規範にとどまるとしても,これを定立した行政が合理的理由もなく踏みにじることは到底許されず,
その意味で裁判規範性すなわち法規範性を持つ。
以上によれば,本件各合格処分及び本件届出の受理は,9号線事業認可とは形式上は別個の行政処分とされているが,本件区間における鉄道事業を遂行するために必要不可欠な行政処分であって,実体的に一体をなす処分であるというべきである。
原告らは,α大法廷判決が判示したとおり,9号線事業が実施されることにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たると認められ,9号線事業認可の取消しを求める訴えの原告適格を有すると解されるのであるから,同様の理由により,本件各合格処分及び本件届出の受理についてもその取消しを求める訴えの原告適格を有すると解すべきである。また,付属街路が未整備の状況において高架鉄道施設の上を鉄道が複々線で走行した場合,原告らは,その走行による騒音等及び日照の阻害等によって,生活妨害並びに肉体的及び精神的苦痛を被ることとなるので,本件差止請求に係る訴えについても原告適格を有する。

本件各合格処分取消請求に係る訴えに関しては,さらに,被告の主張を前提にしても,以下に述べるとおり,原告らには原告適格が認められる。環境影響評価法が平成9年に制定されたことを踏まえて運輸技術審議会諮問第23号答申今後の鉄道技術行政のあり方についてが出され,更にそれを踏まえて鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年国土交通省令第151号。以下技術基準省令という。
)が制定され,
環境への配慮としてその6条が設けられたという経緯にかんがみれば,これによって鉄道事業法10条2項の内容も変更されたと解され,同法1条の趣旨・目的にも環境への配慮すなわち列車の騒音による健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという周辺住民等の個別具体的な利益を保護する趣旨が含まれるものと解すべきであり,むしろこれを排除する理由を見いだすことこそ困難である。これが,環境基本法及び環境影響評価法の趣旨・目的にもかなった解釈である。
そして,技術基準省令6条により,
周辺環境への配慮の一つとして
列車の走行に伴う騒音の発生を抑制するとの趣旨が盛り込まれたことは明らかであるところ,それには不特定多数者の一般的公益としての列車の走行騒音の抑制と併せて,
特定の鉄道の周辺住民個々人の個別的利益」
としての「列車の走行騒音による健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという利益を保護すべきものとする趣旨を含むことは明らかである。特定の事業についての許認可に際して,
列車の走行に伴い発生する著しい騒音の防止に努めているか否かを審査する場合,当該鉄道の周辺住民の個別的利益と無関係に一般的に列車の走行騒音を抑制することのみを求めるなどということは,現実にはあり得ないからである。
(被告の主張)
争点(1)及び同(2)において述べたとおり,原告らの請求のうち本件届出受理取消請求及び本件差止請求に係る訴えは,原告適格について検討するまでもなく既に不適法であるから,ここでは,本件各合格処分取消請求に係る訴えの原告適格についてのみ論じる。

原告適格を基礎付ける法律上の利益の有無は,行政処分ごとに検討,判断されるべきものである。
本件各合格処分は鉄道事業法に基づく行政処分であり,他方,9号線事業認可は,平成5年決定に係る都市計画法に基づく行政処分であるから,両者は別個の法律に基づく目的も趣旨も異なる別個の行政処分であり,これが実体的に一体をなす処分であるとする原告らの主張は失当である。なお,建運協定は,連続立体交差化に関し,都市計画事業施行者(都道府県)と鉄道・軌道事業者との間で費用負担等の調整が必要となることから,これらの問題を解決するために,鉄道事業を所管する運輸省(当時)と都市計画を所管する建設省(当時)との間で締結された行政組織間の協定であり,法律の委任に基づいて定められたものではない上,国民の権利義務にかかわるものでもなく,公布手続もとられておらず,行政組織間の内部規範にとどまるものであるから,それに違反することが違法を招来するような法的拘束力を有するものでもない。


そこで,本件各合格処分取消請求に係る訴え固有の原告適格について検討すると,以下に述べるとおり,根拠法である鉄道事業法のみならず,関係法令を参酌しても,鉄道事業法12条4項,10条2項に基づく合格処分が,原告らの主張する騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという個別具体的利益を法的に保障する趣旨,目的のものと解することはできないから,原告らは本件各合格処分の取消しを求める訴えの原告適格を有しない。
(ア)

鉄道事業法をみると,同法の鉄道施設に関する規制が,同法1条に
定める鉄道事業の健全な発達という公益目的を超えて,騒音,振動等による人の健康又は生活環境に係る被害の防止を法的に保障する趣旨,目的を含むと解する根拠は見当たらない。
(イ)

鉄道営業法1条による規制の目的については,同法には独自の目的
規定がないが,同条に基づき定められた技術基準省令1条や鉄道事業法の規制目的を総合すると,鉄道営業法1条による鉄道施設に関する技術的規制は,安全な輸送及び安定的な輸送の確保を図ることにより,鉄道事業の運営の適正と合理化,利用者の利益保護,鉄道事業の健全な発達という鉄道事業法1条所定の目的を達成するという公益目的に基づくものと解される。
もっとも,鉄道営業法1条に基づき平成13年に設けられた技術基準省令6条は

鉄道事業者は,列車の走行に伴い発生する著しい騒音の防止に努めなければならない。

と規定しているから,国土交通大臣ないしその権限の委任を受けた地方運輸局長は,工事施行認可や鉄道施設の合格処分をするに当たり,鉄道事業者が上記騒音の防止に努めているか否かを審査し,これに努めていると認められないときには,認可や合格処分をしないことがあり得る。その意味で,同条は行政権の行使を制約する効力規定である。
しかし,技術基準省令6条は,これを設けた趣旨や関係法令である環境基本法及び環境影響評価法の趣旨及び目的,委任法である鉄道事業法及び鉄道営業法の趣旨及び目的,条文自体の文言及びその規制の具体的内容に照らして,鉄道事業者自身が,列車の走行に伴い発生する著しい騒音の防止に努め,環境に与える影響を軽減することを通じて,鉄道事業法1条に定める鉄道事業の健全な発達という公益目的を実現する趣旨,目的のものと解するのが相当であり,それを超えて,鉄道事業に伴う騒音,振動等による人の健康又は生活環境に係る被害の防止までを法的に保障する趣旨,
目的を含んでいると解することはできない。
そして,
技術基準省令においても,6条以外に,在来鉄道(新幹線鉄道以外の普通鉄道)の騒音に関する規定は一切設けられていないから,結局,技術基準省令による規制の趣旨及び目的も,鉄道事業法1条に定める鉄道事業の健全な発達という公益目的のものというべきである。
したがって,技術基準省令6条を踏まえても,鉄道事業法及び鉄道営業法は,騒音に関する周辺住民等の利益を個別的利益として保護する趣旨を含んでいると解することはできない。
(ウ)

以上の次第で,本件各合格処分の根拠法令である鉄道事業法のみな
らず,関係法令を参酌しても,鉄道事業法12条4項,10条2項に基づく合格処分が騒音防止に係る周辺住民の個別具体的な利益を保護しようとするものと解することはできないから,原告らには本件各合格処分取消請求に係る訴えの原告適格は認められない。
(5)

原告らには,本件差止請求に係る訴えを提起するために必要とされる重大な損害を生ずるおそれ(行訴法37条の4第1項)があるか。
(原告らの主張)
本件鉄道施設変更後の高架鉄道施設にP1が鉄道を複々線で走行させることとなれば,その沿線住民は電車の走行による騒音,振動及び日照阻害等の重大な損害を被ることは確実である。また,平成16年10月に発生した新潟県中越地震の際,走行中の新幹線が脱線し,危うく転覆しかかったことが示すとおり,脱線・転覆事故等による生命,身体の危険にさらされるのであるから,
重大な損害が発生するおそれは極めて高いといわなければならない。よって,原告らには,行訴法37条の4第1項の重大な損害を生ずるおそれがある。(被告の主張)
争う。
(6)

原告らの主張する取消事由(各処分の違法性)及び差止めの本案勝訴要
件の有無
(原告らの主張)
本件鉄道施設変更後の高架鉄道施設に関しては,そもそも付属街路(関連側道)の設置計画自体が存在しない個所が多数あり,また,平成5年決定により都市計画決定が行われた付属街路は10本あるものの,9号線付属街路事業はそのうちの6本について事業を行うものにすぎない。しかも,この6本の付属街路も,その延長は,平成5年決定において定められたものよりも大幅に削減されている。さらに,東京都が施行者となっている9号線付属街路事業は未完成であり,道路用地の取得さえできていない部分もあるから,完成のめどすら立っていないといえる。
9号線事業も,
本件合格処分<23>本

件各合格処分のうち最後のもの)及び本件届出の受理が行われた時点においては完成していなかった。
このように,
線増連続立体交差化事業が完了していない段階で,本件
合格処分<23>及び本件届出の受理が行われたのであるから,これは文字どおり高架複々線走行を見切り発車させるものである。
以上を前提に,原告らは,本件各合格処分及び本件届出の受理の違法性並びに本件差止請求の本案勝訴要件につき次のとおり主張する。

本件各合格処分について
(ア)

争点(4)のところで述べたとおり,建運協定等は法規範性を有する
ことが明白であり,
仮に百歩譲って行政の内部規範にとどまるとしても,
これを定立した行政が合理的理由もなくこれを踏みにじることは到底許されない。
建運協定等によれば,線増連続立体交差化事業においては,高架鉄道施設と付属街路とは一体として設計・施工をすることが求められている。ところが,本件鉄道施設変更の工事計画は付属街路の設置工事を含まないのであるから,それ自体違法な工事計画にほかならない。したがって,被告は,鉄道事業法10条2項に基づき,法令により規定された工事計画に従った工事でないことを理由に,合格の判定を拒否しなければならない法律上の義務を負っている。
(イ)

また,上記(ア)のとおり,高架鉄道施設は付属街路と一体として整
備しなければならないのであるから,9号線事業が完成しないうちは,また,9号線付属街路事業による付属街路が完成しないうちは,本件鉄道施設変更工事が完成したということはできない。
本件鉄道施設変更工事が完成していない以上,P1は,鉄道事業法12条3項に基づく検査の申請をすることができないのであり,被告がこれにつき合格とする処分をすることもできない。
(ウ)

以上によれば,本件各合格処分はいずれも違法である。

本件届出受理取消請求について
(ア)

本件各合格処分のうち,本件合格処分<22>は平成16年10月20
日に,同<23>は同年11月17日に行われている。P1は,これらの最終的な処分のための完成検査が行われるのを待たずに,したがって当然合格処分も行われていない段階であるにもかかわらず,あえて同年10月5日に本件届出をし,被告はこれを受理した。
適法な鉄道施設変更工事完成検査による合格処分が行われてもいないのに,変更した鉄道施設上に鉄道を複々線で走行させるのが違法であることは論を待たないところであるが,P1は,そのような条理を全く無視し,複々線を前提とした本件届出を,同年11月17日の最後の合格処分を受けるはるか前に行い,被告はこれを直ちに受理したというのであるから,その違法性は火を見るより明らかである。
(イ)

また,上記アにおいて述べたとおり,本件各合格処分は違法である
から,これを前提とした本件届出も違法である。
被告は,鉄道事業者からの運行計画変更の届出が適法な場合のみこれを受理することができるのであるから,本件届出の受理は当然違法である。

本件差止請求について
前記ア及び上記イのとおり,本件各合格処分並びに本件届出及びその受理は違法であるから,これを前提として行われる,本件鉄道施設変更後の高架鉄道施設上に鉄道を複々線で走行させることを許すすべての処分が違法であることはいうまでもない。

(被告の主張)
ここでも,本件各合格処分の違法性についてのみ述べるが,被告は,本件各合格処分につき,別紙1一覧表,別紙2-1から同2-5まで及び別紙3記載のとおりの完成検査を行い,いずれも,工事計画に合致し,かつ,技術基準省令に適合すると認めたことから合格処分をしたのであり,本件各合格処分はいずれも適法である。
第3
1
争点に対する判断
争点(1)(本件届出の受理の処分性)について
(1)

行政庁の処分の取消しを求める訴えの対象として行訴法3条2項の規定
する行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為以下,単に処分(
という。
)とは,
行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく,公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもののことをいう(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)

被告は,本件届出の受理はこの意味での処分ではないから,本件届出受理取消請求に係る訴えは取消訴訟の要件を欠き不適法であると主張するので,検討する。
(2)

届出とは,
行政庁に対し一定の事項の通知をする行為(申請に該当するものを除く。)であって,法令により直接に当該通知が義務付けられているもの(自己の期待する一定の法律上の効果を発生させるためには当該通知をすべきこととされているものを含む。をいい(行政手続法2条7号))

届出が法令に定められた形式上の要件に適合している場合,それが法令により提出先とされている行政機関の事務所に到達したときに,届出をすべき手続上の義務が履行されたものとされる(同法37条)

この行政手続法の定めによれば,届出があったか否かは,形式上の要件に適合する届出が提出先の行政機関の事務所に到達したか否かのみによって決まることとなるから,届出に対する行政機関の側の応答は必要とされない。したがって,この点からみれば,同法の定める届出には処分としての受理の観念をいれる余地がない。
もっとも,行政の仕組みにおいて,届出にどのような法律効果を結び付けるかは,個々の法律の定め方によって決まるものであるから,法律の定め方によっては,届出に対して,行政庁が,形式上の要件にとどまらず実体的な要件の審査も行い,届出をした者に対して届出の要件が満たされていることを表示するということもあり得るところである。そして,このような表示行為が一定の法律上の効果を有するものとされているのであれば,これを処分とみることができると解される。その限りで,届出に対する処分としての受理という行為が全く存在し得ないわけではない。
本件届出は,鉄道事業法17条の規定する運行計画の変更の届出であり,同条によれば,鉄道運送事業者は,列車の運行計画の設定又は変更をしようとするときは,あらかじめ,その旨を国土交通大臣(平成13年1月6日前は運輸大臣。以下同じ。
)に届け出なければならない。この届出の受理に係
る同大臣の権限は地方運輸局長に委任されている(同法64条,同法施行規則71条1項8号)

ここにいう列車の運行計画とは,列車の運転速度(最高許容速度),
発着時刻,運行回数(最高許容運行回数)等に関する計画のことであり,届出書の記載内容並びに添付すべき書類及び図面は,同法施行規則35条が定めている。
鉄道運送事業者が列車の運行計画の設定又は変更の届出をしないで運行をすることは刑罰をもって禁止されており(同法70条5号。なお,平成15年法律第96号による改正前の鉄道事業法においては,72条1号により,届出をせず,又は虚偽の届出をすることが刑罰の対象されていた。,また,)
国土交通大臣ないし地方運輸局長は,公共の利益保護の見地から,事業改善命令として鉄道事業者に対し運行計画の変更を命ずることができるものとされているが(同法23条1項2号,64条,同法施行規則71条2項5号),
それ以外に,同法には,この届出に関する規定は存在しない。同法施行規則においても,届出書の記載事項等を定めた35条のほかに,運行計画の設定又は変更の届出に関する規定は存在しない。すなわち,鉄道事業法も,同法施行規則も,運行計画の設定又は変更の届出に対し,届出の受理の権限を有する地方運輸局長がその実体的な要件の審査を行うことは予定していないし,受理という用語を使用しているものの,その受理に一定の法律効果を結び付けることもしていないのである。罰則に関する同法70条5号も,届出を受理されないで運行をしたことではなく,
届出をしないで運行を
したことを犯罪の構成要件として定めている。以上のような法令の定め方によれば,運行計画の設定又は変更の届出に対し,地方運輸局長が上述したような処分としての受理という行為を行うことは全く想定されていないといわざるを得ない。
原告らは,鉄道事業法施行規則71条1項8号の規定によれば,地方運輸局長は届出の受理の権限を有するのであり,そうである以上,受理は処分に当たると主張するが,受理の権限を有するか否かと,その受理が処分としての効果を持つか否かとは別の問題であり,受理の権限があるからその受理は処分であるというのは論理に飛躍がある。行政手続法の定める届出といえども,その提出先がいかなる行政機関であるのかは法令によって定める必要があり,その提出先である行政機関のことを受理の権限を有する行政機関と表現することに何ら不都合はない。上記の分析によれば,同法施行規則にいう受理とは,まさにそのような意味での受理のことを指し,届出を事実上受け付けることを意味するにすぎないものと解される。原告らの本件届出の受理に関する主張は理由がない。
(3)

以上の検討によれば,本件届出の受理を処分ということはできないから,
取消しの訴えの対象にはならない。
よって,本件届出受理取消請求に係る訴えは,取消訴訟における取消しの対象を欠く不適法な訴えであるから,その余の点について判断するまでもなく却下を免れない。
2
争点(2)(本件差止請求の対象の特定性)について
(1)

本件差止請求に係る訴えは,行訴法3条7項にいう差止めの訴えである。
同項によれば,差止めの訴えとは,
行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において,行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる訴訟をいう。そして,ここにいう一定の処分又は裁決とは,その表現からも分かるとおり,処分又は裁決の内容が具体的一義的に特定していることまでは要求していないものの,行訴法37条の4の定める差止めの訴えの要件について裁判所が判断することができる程度にまでは特定している必要があることはいうまでもない。被告は,本件差止請求の対象はこの一定の処分としての特定性を欠くと主張するので,検討する。
(2)

本件差止請求の対象は,
本件区間の線増連続立体交差化事業により建設される高架複々線の鉄道線路に,P1が鉄道を複々線で走行させることを許す被告の一切の処分であるから,ここにいう被告の一切の処分が行訴法3条7項にいう一定の処分といえるか否かが問題となる。
まず,鉄道事業法及び同法施行規則上の地方運輸局長の権限に属する処分をみると,列車の走行に直接関係すると考えられるものだけでも,次のようなものが挙げられる。

鉄道事業者の事業基本計画のうち一定の事項に係るものの変更の認可
(同法施行規則71条1項1号)

鉄道事業者の工事計画変更の認可(同項2号)


鉄道施設の検査(同項3号,4号)


鉄道施設の変更の認可(同項4号)


鉄道運送事業者の車両の確認(同項5号)
原告らは,本件鉄道施設変更後の高架鉄道施設上にP1が列車を複々線で
走行させることを阻止することを目的として,本件差止請求をするものであるが,
地方運輸局長である被告の権限に属する上記アからオまでの各処分上(
記ウについては,検査後の合格処分)は,そのいずれについても,一定の条件の下においては,P1が上記高架鉄道施設上に列車を複々線で走行させることを許す効果を持つ場合があると考えられる。しかし,逆にP1が上記高架鉄道施設上に列車を複々線で走行させることを許すという結果のみに着目するのであれば,そのような効果をもたらす処分は,上記アからオまでの各処分のいずれでもあり得るのであって,しかもこれらに尽きるとは限らず,そのうちのどの処分なのかを特定することができず,行訴法37条の4の定める差止めの訴えの要件について審理,判断をすることはできないといわざるを得ない。
ところが,原告らは,本件差止請求はこれ以上特定できないものであると主張するのみであるから,裁判所としては,被告の権限に属する上記アからオまでの処分のうちどの処分を審理の対象として取り上げるべきかを知ることさえできないのであり,行訴法37条の4の定める差止めの訴えの要件について判断することは到底できない。したがって,本件差止請求の対象は,行訴法3条7項の定める一定の処分には当たらないというほかない。以上,鉄道事業法及び同法施行規則上被告の権限に属する処分のうち,鉄道の走行に直接関係すると考えられるものに限って検討しただけでも,本件差止請求の対象は特定していないという結論に至った。被告の権限に属する処分はそれ以外にも存在するのであり,その中に,原告らのいう,本件鉄道施設変更後の高架鉄道施設上をP1が鉄道を複々線で走行させることを許すという効果を持つものが全く存在しないとは断言できないのであるから,それらの処分のことをも考慮すれば,本件差止請求の対象が特定していないことは一層明らかである。
(3)

以上の検討によれば,本件差止請求に係る訴えは,差止めの対象が特定
していないものとして不適法であるから,その余の点について判断するまでもなく却下を免れない。
3
争点(3)(出訴期間関連規定の遵守)について
(1)

原告らは,本件各合格処分は全体として1個とみることができ,したが
って,最後のものである本件合格処分<23>が行われた時点から一体として旧行訴法14条所定の出訴期間が進行を始めると主張する。これに対し,被告は,本件各合格処分はそれぞれが別個の処分であり,出訴期間もそれぞれの合格処分が行われた時点から進行すると主張するので,まずこの点について判断する。
鉄道事業者は,認可を受けた鉄道施設の変更のうち鉄道施設等検査規則7条で定めるものに係る工事を完成したときは,遅滞なく,国土交通大臣の検査を申請しなければならず(鉄道事業法12条3項)
,同大臣は,その検査
の結果,当該鉄道施設が,工事計画に合致し,かつ,鉄道営業法1条の国土交通省令(平成13年1月6日前は鉄道営業法1条の命令
。以下同じ。

で定める規程に適合すると認めるときは,これを合格としなければならない(鉄道事業法12条4項,10条2項)
。この国土交通大臣の権限は,地方
運輸局長に委任されている(同法64条,同法施行規則71条1項4号)。
このように,国土交通大臣から権限の委任を受けた地方運輸局長による完成検査は,工事により完成した鉄道施設に対して行われ,かつ,検査に合格することとなるのも鉄道施設である。
そして,鉄道施設等検査規則は,鉄道施設のうち変電所等設備及び電路設備は当該鉄道施設の使用を開始するときまでに,それ以外の鉄道施設は当該鉄道施設を事業の用に供するときまでに,それぞれ検査を受けなければならないと規定しており(3条)
,1件の工事計画に基づく鉄道施設工事の完成
検査がすべてまとめて実施されることを予定してはいないし,検査の申請についても,1件の工事計画に基づく鉄道施設全部をまとめて申請しなければならないとはしておらず,検査を受けようとするものを申請者が選択できることとなっており(4条)
,地方運輸局長も,申請のあった鉄道施設につい
てのみ検査を行うものとされている(6条)

また,鉄道施設変更に係る1件の工事計画についてはすべての鉄道施設について一括して完成検査を行わなければならないものとすれば,全工事が完成するまで長期間にわたって列車の運行の休止を余儀なくされる事態も考えられ,鉄道利用者に不便を強いることになるとともに,社会経済上の損失も無視できないことから,工事が完成した鉄道施設から順次完成検査を行い,合格とされたものを事業の用に供することには合理性が認められる。以上の検討によれば,鉄道施設変更工事に係る完成検査及びその結果としての合格処分は,検査の申請ごとに別個のものと解すべきであり,たとえ1件の工事計画に基づくものであっても,検査及び合格処分が別々に行われている場合,それらを全部まとめて1個のものと解することはできない。したがって,被告の主張するとおり,本件各合格処分はすべて別個の処分と解すべきである。
(2)

以上を前提にして,本件各合格処分につき,旧行訴法14条3項の定める1年の出訴期間が経過しているか否かを検討すると,本件訴えの提起の時期は,原告P3が平成16年11月12日,それ以外の原告らが同月4日であるから(当裁判所に顕著な事実)
,別紙1一覧表にあるとおり,本件合格
処分①から⑯までについては,訴え提起までに既に同項の出訴期間が経過している。
そこで次に,本件合格処分①から⑯までについて,原告らが1年内に訴えを提起しなかったことに同項ただし書の定める正当な理由があったか否かが問題となる。
原告らは,本件各合格処分は公告されるものではなく,原告らがこれが行われた事実を知り得る状況にはなかったから,正当な理由があったと主張する。
しかし,証拠(乙32ないし42(枝番のあるものはすべての枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,本件鉄道施設変更工事はα線の利用者)
が容易に認識できる状況の下に進行していたことが認められるから,本件区間の周辺に居住し,本件訴えを提起するなど本件鉄道施設変更工事について多大な関心を有していたと認められる原告らも,本件鉄道施設変更工事の進行状況を逐次知ることができたということができる。そうであるとすれば,原告らは,本件合格処分①から⑯までの処分が行われたそのすぐ後の時点において,鉄道事業法に基づく合格処分と正確に認識することはできなかったとしても,完成した鉄道施設を運行の用に供するに先立ち何らかの行政処分が行われたであろうと推測することは容易にできる状況にあったということができる。これを前提とすれば,原告らに旧行訴法14条3項ただし書の定める正当な理由があったということはできない。
よって,本件各合格処分取消請求に係る訴えのうち本件合格処分①から⑯までの取消しを求める部分は,出訴期間を徒過した不適法なものである。(3)

次に,本件合格処分⑰から⑳までについては,それぞれの処分が行われてから本件訴えの提起までに3か月を超える期間が経過しているので,それぞれの処分の直後に原告らがそれがあったことを知ったのであれば,旧行訴法14条1項の定める3か月の出訴期間が経過していることになる。同項にいう知った日とは,処分が行われたことを現実に知った日のことをいい,抽象的に知ることができたであろう日のことを意味するのではない。これを本件についてみると,上記(2)において述べたとおり,原告らは,何らかの行政処分が行われたであろうと推測することは容易にできる状況にあったとはいえるものの,本件合格処分⑰から⑳までが行われたことを現実に知っていたことまでを認めるに足りる証拠はない。
したがって,本件合格処分⑰から⑳までについて同項の定める出訴期間が経過しているということはできないから,これらの取消請求に係る訴えを出訴期間徒過を理由に不適法ということはできない。
(4)

以上によれば,本件各合格処分取消請求に係る訴えのうち,本件合格処
分①から⑯までの取消しを求める部分は,その余の点について判断するまでもなく不適法として却下すべきであるが,本件合格処分⑰から<23>までの取消しを求める部分については,更に検討を要する。
4
争点(4)(原告適格)について
(1)

ここまでに検討してきたところによると,本件届出受理取消請求及び本
件差止請求に係る訴えはいずれも不適法であり,
これ以上の検討を要しない。
これに対し,本件各合格処分取消請求に係る訴えの中には出訴期間徒過により不適法なものもあるが,出訴期間を徒過していないものもあるから,本件各合格処分取消請求に係る訴えについては,原告らが原告適格を有するか否かをなお検討する必要がある。
行訴法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,
当該処分を定めた行政法規が,
不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)
(α大法廷判決参照)

上記の見地に立って,原告らが本件各合格処分の取消しを求めるにつき原告適格を有するか否かについて検討する。
(2)

原告適格を検討する前提として,本件鉄道施設変更にかかわる法令の内
容を概観すると,次のとおりである。

鉄道事業者は,検査に合格した鉄道施設を変更しようとするときは,軽微な変更でない限り,当該変更に係る工事計画を定め,国土交通大臣の認可を受けなければならない。認可を受けた工事計画を変更しようとするときも同様である(鉄道事業法12条1項)

ここにいう鉄道施設とは,鉄道事業の用に供する次の(ア)ないし(カ)の施設のことをいう(同法8条1項,同法施行規則9条)

(ア)

鉄道線路

(イ)

停車場

(ウ)

車庫及び車両検査修繕施設

(エ)

運転保安設備

(オ)

変電所等設備

(カ)

電路設備

国土交通大臣は,工事計画が事業基本計画及び鉄道営業法1条の国土交通省令で定める規程に適合すると認めるときは,鉄道施設変更の認可をしなければならない。認可を受けた工事計画の変更の場合も同様である(同法12条4項,8条2項,9条)

ここにいう事業基本計画とは,鉄道の種類,施設の概要(①単線,複線等の別,②動力,③軌間,④設計最高速度,設計通過トン数及び設計けん引重量)
,運送区間,計画供給輸送力,駅の位置及び名称,駅の取扱範囲
といった事業の基本となる事項に関する計画を定めたものである(同法4条1項6号,同法施行規則5条)

なお,昭和62年4月1日の鉄道事業法の施行に伴い廃止された地方鉄道法は,上に述べた鉄道施設の変更につき,工事施行の認可を受けた後の線路又は工事方法書記載事項の変更として規制を加えており,変更の対象となる事項に応じて,運輸大臣又は地方運輸局長(昭和59年法律第25号による同法の改正前は地方陸運局長)の認可を受けるべきものとしていた(同法施行規則17条)


本件鉄道施設変更工事は高架化・複々線化工事であるから,鉄道事業者は,工事を完成したときは,遅滞なく,国土交通大臣の検査を申請しなければならない(鉄道事業法12条3項,鉄道施設等検査規則7条1号ロ・ヘ)

国土交通大臣は,上記申請に基づく検査の結果,当該鉄道施設が,工事計画に合致し,かつ,鉄道営業法1条の国土交通省令で定める規程に適合すると認めるときは,これを合格としなければならない(鉄道事業法12条4項,10条2項)


前記アの認可及び上記イの検査の際の基準となる鉄道営業法1条の国土交通省令とは,技術基準省令(鉄道に関する技術上の基準を定める省令)のことをいい,同省令は,鉄道の輸送の用に供する施設及び車両の構造及び取扱いについて準拠すべき技術上の基準を定めている。
技術基準省令は平成14年3月31日から施行されており,
それ以前は,
α線のような普通鉄道については,普通鉄道構造規則(昭和62年運輸省令第14号)がこれに相当するものであったが,同規則は技術基準省令の施行に伴い廃止された(平成14年国土交通省令第19号1条)



前記アの鉄道施設変更及び工事計画変更の認可並びに前記イの検査に係る国土交通大臣の権限は,地方運輸局長に委任されている(鉄道事業法64条,同法施行規則71条1項4号)


(3)

前記(1)及び上記(2)を前提に判断する。
鉄道事業法は,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,鉄道等の利用者の利益を保護するとともに,鉄道事業等の健全な発達を図り,もって公共の福祉を増進することを目的としている(1条)。
この文言からすれば,同法の究極的な目的は公共の福祉の増進であるが,より直接的な目的は鉄道等の利用者の利益の保護と鉄道事業等の健全な発達とであり,それは,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることによって実現されるものというのであるから,鉄道事業によって生じる騒音,振動や日照阻害等により健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという周辺住民の個別具体的な利益を保護すべきものとする趣旨をそこから読み取ることは難しいといわざるを得ない。
上記(2)においてみたとおり,鉄道施設変更工事の完成検査も,完成した当該鉄道施設について,工事計画に合致しているか否か及び技術基準省令(平成14年3月31日前は普通鉄道構造規則)に適合しているか否かのみを検査するものであり,その結果,合致しかつ適合すると認められるのであれば,合格処分をしなければならないのである。このことからすると,完成検査は,輸送の安全の見地から,鉄道施設の性能及び安全性を確保することを主な目的として行われるものと解されるのであって,完成した鉄道施設の周辺住民の健康又は生活環境に係る個別具体的な利益を保護すべきものとする趣旨,目的があるとは解されない。
鉄道施設変更工事の完成検査の前には,鉄道施設変更の認可が行われるべきものであり,その認可後に工事計画の変更がある場合はその工事計画の変更の認可も行われるべきものであるから,これらの認可に関する規定についてもみると,
鉄道施設変更及び工事計画の変更の認可に当たっては,
その工事計画が事業基本計画及び技術基準省令(平成14年3月31日前は普通鉄道構造規則)に適合しているか否かのみを審査し,適合すると認められるのであれば,認可をしなければならない(同法12条4項,8条2項,9条)
。ここにいう事業基本計画は,上記(2)アのとおり,鉄道事
業の基本となる事項にかかわる計画にすぎないから,結局,工事の完成検査の場合と同様,
鉄道施設変更及び工事計画変更の認可に関する規定にも,
周辺住民の健康又は生活環境に係る個別具体的な利益を保護すべきものとする趣旨,目的があるとは解されない。
さらに,鉄道事業法及び同法施行規則全体をみても,鉄道施設の変更について,その周辺住民の個別具体的な利益を保護することを念頭に置いて設けられたことをうかがわせる規定は存在しないし,その工事の完成検査の過程において周辺住民がそれに参加したり意見を述べたりすることができるような手続も設けられていない。
以上のとおり,鉄道事業法の趣旨,目的のほか,鉄道施設変更の認可,工事計画変更の認可及び完成検査にかかわる同法及び同法施行規則の規定の趣旨,目的並びにこれらの処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮する限り,鉄道施設変更工事の完成検査を定めた規定が,鉄道施設周辺住民の個別具体的な利益を保護すべきものとする趣旨であるとは解し難い。

次に,完成検査の際に基準とすべきものとされている技術基準省令(平成14年3月31日前は普通鉄道構造規則)及びその根拠法規である鉄道営業法の趣旨,目的について検討する。
検討の手順としてまず根拠法規である鉄道営業法についてみるに,鉄道事業法と異なり,目的規定は存在しない。その規定の内容をみると,題名どおり,鉄道による運送の営業について公益的な見地から規制を加えようとする趣旨のものが大半であって,鉄道施設に関するものは,わずかに,鉄道ノ建設,車輛器具ノ構造及運転ハ国土交通省令(注・中央省庁等改革関係法施行法による改正前は「命令)ヲ以テ定ムル規程ニ依ルヘシ。

と規定する1条があるのみである。
そこで,鉄道営業法1条に基づき制定された技術基準省令及びその前身である普通鉄道構造規則の規定を端的に検討することとする。
まず,普通鉄道構造規則をみると,その1条によれば,同規則は,普通鉄道(新幹線鉄道を除く。
)の輸送の用に供する施設及び車両の構造を定
めることにより,輸送の安全を図り,もって公共の福祉を確保することを目的とする。したがって,同規則の究極的な目的は公共の福祉を確保することであるが,より直接的な目的は輸送の安全を図ることであり,それは,普通鉄道の輸送の用に供する施設及び車両の構造を定めることによって実現されるものというのであるから,ここでも,鉄道事業によって生じる騒音や日照阻害等により健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという周辺住民の個別具体的な利益を保護すべきものとする趣旨を読み取ることは難しいといわざるを得ない。
また,同規則の個々の規定も,鉄道施設及び車両の構造について,その性能及び安全性を確保するために技術的な見地から基準を設定したものと認められるのであって,周辺住民に対する配慮をうかがわせる規定は存在しない。
そうすると,同規則の趣旨,目的からも,周辺住民の個別具体的な利益を保護すべきものとする趣旨を読み取ることはできない。
さらに,技術基準省令の目的は,鉄道の輸送の用に供する施設及び車両の構造及び取扱いについて,必要な技術上の基準を定めることにより,安全な輸送及び安定的な輸送の確保を図り,もって公共の福祉の増進に資することである(1条)
。したがって,同省令の究極的な目的は公共の福祉
の増進であるが,より直接的な目的は安全な輸送及び安定的な輸送の確保であり,それは鉄道の輸送の用に供する施設及び車両の構造及び取扱いについて,必要な技術上の基準を定めることによって実現されるものというのであるから,その趣旨,目的は普通鉄道構造規則と共通する。省令の名称の中にも,また,目的の中にも,
技術上の基準が明記されたこ
とにより,安全な輸送及び安定的な輸送の確保のための鉄道技術行政上の要請に基づく省令であるとの位置付けがより一層明確になったということもできる。個々の規定をみても,対象となる事項は普通鉄道構造規則と共通しており,ただ,同規則が仕様や規格を具体的に示したいわゆる仕様規定であるのに対し,備えるべき性能を規定することを原則としたいわゆる性能規定へと変更されたものにすぎない(乙45)そうすると,。
普通鉄道構造規則と同じく,技術基準省令についても,その趣旨,目的から,周辺住民の個別具体的な利益を保護すべきものとする趣旨を読み取ることはできない。
もっとも,技術基準省令6条は,

鉄道事業者は,列車の走行に伴い発生する著しい騒音の防止に努めなければならない。

と規定しており,少なくとも,騒音の防止という観点からは,鉄道事業者に対し周辺の環境への配慮を義務付けているといえるから,同条は,その限りでは,周辺住民の健康又は生活環境に係る利益を保護する趣旨であるといえる。また,技術基準省令に関しては,鉄道局長がその解釈基準を定めており(国鉄技第157号・平成14年3月8日)このうち同省令6条関係で普通鉄道(新,
幹線を除く。
)に関するものは,以下に述べるとおりである(乙47)。
すなわち,
普通鉄道(新幹線を除く。)の新設又は大規模改良に際しては,沿線屋外の地上1.2メートルの高さにおける近接側軌道中心線から水平距離が12.5メートルの地点において,次の騒音レベルとする。(1)新設は,等価騒音レベルとして,昼間(7∼22時)は60デシベル以下,夜間(22∼翌7時)は55デシベル以下とする。(2)大規模改良は,騒音レベルの状況を改良前より改善する。この場合において,新設とは,鉄道事業法第8条の工事の施行認可を受けて工事を施行する区間,また,大規模改良とは,複線化,複々線化,道路との連続立体交差化又はこれに準ずる立体交差化を行うため,鉄道事業法第12条の鉄道施設の変更認可を受けて工事を施行する区間をいう。なお,次の区間及び場合については,(1)及び(2)を適用しないものとする。①住宅を建てることが認められていない地域及び通常住民の生活が考えられない地域②地下区間(半地下,掘り割りを除く。)③踏切等防音壁(高欄を含む。)の設置が困難な区間及び分岐器設置区間,急曲線区間等ロングレール化が困難な区間④事故,自然災害,大みそか等通常と異なる運行をする場合
そこで,技術基準省令6条が保護すべきものとしている周辺住民の具体的利益が,専ら一般的公益の中に吸収解消されるものであるのか,それとも,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとしているのかを検討する必要がある。
文言をみると,同条は,
著しい騒音の防止に努めなければならない
とし,鉄道事業者に努力義務を課しているのみであり,かつ,
著しい騒音に限定しているのであるから,基準としては抽象的,一般的であるといわざるを得ない。この点は,同省令の他の多くの規定がしなければならないなどとして鉄道事業者が必ず従うべき基準を定めているのとは対照的である。また,同じ騒音に関する規定であっても,
新幹線に関しては,
25条で

新幹線の線路には,沿線の状況に応じ,列車の走行に伴い発生する著しい騒音を軽減するための設備を設けなければならない。

とし,71条で

新幹線の車両は,列車の走行に伴い発生する著しい騒音を軽減するための構造としなければならない。ただし,専ら事故の復旧又は施設の試験,検査若しくは保守の用に供する車両については,この限りでない。

としているのであるから,騒音に関する規定だから努力義務にとどめたものであるともいえない。したがって,技術基準省令6条は,新幹線鉄道以外の鉄道における騒音の防止については,同省令の他の多くの規定とは異なり,あえて鉄道事業者の努力義務にとどめる趣旨で設けられたものと解さざるを得ない。そうすると,同条は,環境基本法がその8条において事業者の環境の保全に配慮する責務を定めていることから,鉄道事業者にもこの責務が当然に存在することを前提として定められたものであり,列車の走行に伴い発生する公害のうち代表的なもので,従前から環境庁により対策の指針が定められていて鉄道技術行政にもなじみやすいと考えられる騒音の防止について個別の規定を設けることにより,環境影響評価法の対象事業となるものにとどまらず,鉄道事業一般について,騒音の防止という観点から事前規制を行うことを明らかにしたものであるが,新幹線鉄道以外の鉄道においては,列車の走行状況も,その周辺の環境も,千差万別であることから,具体的な基準を設けることはせず,かつ,著しい騒音に限って,その防止のための鉄道事業者の努力義務を規定するにとどめたものと解される(乙45ないし48参照)
。このような趣旨か
らすると,同条の規定も,健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという周辺住民の個別具体的な利益を保護すべきものとする趣旨とは解されず,むしろ,周辺住民の利益は,一般的公益に吸収されるものとして,鉄道事業者の努力義務の履行を通じて間接的に保護されるものと解すべきである。
なお,技術基準省令6条に関して鉄道局長が定めた上記の解釈基準は,鉄道の新設に関しては具体的な騒音レベルを定めているものの,大規模改良に関しては,騒音レベルの状況を改良前より改善するものとするにとどめているのであるし,また,新設に関しても,大規模改良に関しても,適用除外が広く認められていることからすると,鉄道事業者の努力義務を定めた技術基準省令6条の範囲内でより具体的な指針を定めたものにすぎないと解される。
以上の検討によれば,鉄道事業法の関係法令である鉄道営業法及びこれに基づく技術基準省令(平成14年3月31日前は普通鉄道構造規則)の趣旨,目的を参酌しても,やはり,鉄道施設変更に関する鉄道事業法の規定が,周辺住民の個別具体的な利益を保護すべきものとする趣旨を含むものであるということはできない。

原告らは,環境影響評価法及び東京都条例も関係法令として参酌すべきであると主張する。環境影響評価法は,その33条において,対象事業に係る免許等を行う者は,当該免許等の審査に際し,環境影響評価書の記載事項等に基づいて,当該対象事業につき,環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならないと規定しており(同条1項)
,また,東京都条例は,東京都知事は,事業者から提出さ
れた環境影響評価書及びその概要の写しを対象事業に係る許認可権者に送付して(24条2項)
,許認可等を行う際に評価書の内容に十分配慮する
よう要請しなければならないとしている(25条)

しかし,環境影響評価法及び東京都条例の上記各規定は,あくまでも,免許等を行う者が,当該対象事業につき,環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査すべきこと等を定めるにとどまり,審査の基準を具体的に定めたものではない。したがって,これらの規定から,対象事業について免許等を行うに当たり,周辺住民の個別具体的な利益が常に必ず保護されることになるとの結論を導き出すのは困難である。
そうすると,環境影響評価法及び東京都条例を関係法令として参酌したとしても,鉄道施設変更に係る鉄道事業法の規定が,周辺住民の個別具体的な利益を保護すべきものとする趣旨であるということはできないとの上記の結論は左右されないといわなければならない。

原告らは,また,本件鉄道施設変更工事は,9号線事業及び9号線付属街路事業と一体であり,α大法廷判決は9号線事業の本件区間周辺住民に原告適格を認めたのであるから,原告らにも本件各合格処分取消請求に係る訴えにつき原告適格が認められるべきであると主張する。
しかし,α大法廷判決の法廷意見は,9号線事業と9号線付属街路事業とが一体のものであることを前提とした判示はしておらず,9号線付属街路事業は9号線事業と密接な関連を有するものの,これとは別個のそれぞれ独立した都市計画事業であることは明らかであるから,9号線付属街路事業認可の取消しを求める訴えの原告適格については,個々の事業の認可ごとにその有無を検討すべきであると判示しているのであるし,本件鉄道施設変更工事と9号線事業ないし9号線付属街路事業との一体性については全く論じていない。したがって,α大法廷判決は原告らの主張の根拠とはなり得ない。
本件鉄道施設変更工事は,確かに9号線事業と密接な関連を有するものの,
都市計画事業ではなく,
鉄道事業法に基づき行われる工事であるから,
法令上,9号線事業から独立した別個の工事であるといわなければならない。9号線付属街路事業は,鉄道施設ではなく街路の都市計画事業であるから,本件鉄道施設変更工事が9号線付属街路事業から独立した別個の工事であることは一層明らかである。したがって,本件各合格処分取消請求に係る訴えの原告適格は,9号線事業及び9号線付属街路事業からは全く独立して,鉄道事業法に基づき判断すべきものであることは当然であり,すべてが一体であるとする原告らの主張には理由がない。
(4)

以上によれば,本件区間の周辺住民である原告らは,いずれも,本件各
合格処分取消請求に係る訴えにつき原告適格を有しないといわざるを得ず,その余の点について判断するまでもなく,これらの訴えもまた却下を免れない。
5
結論
本件訴えのうち,
(1)

本件届出受理取消請求に係る訴えは,取消しの対象となる処分がなく(争
点(1))

(2)

本件差止請求に係る訴えは,差止めの対象が特定しておらず(争点(2)),

(3)

本件各合格処分取消請求に係る訴えは,原告らに原告適格がなく(争点
(4))
,かつ,そのうち本件合格処分①から⑯までの取消しを求める部分は出訴期間も徒過しており(争点(3))

いずれも訴訟要件が満たされていないから,
その余の争点争点(5)及び同(6))

について判断するまでもなく,本件訴えはいずれも不適法であって却下を免れない。よって主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官

大門
裁判官

倉地康弘
裁判官

小島清二匡
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