判例検索β > 平成17年(ワ)第1967号
賃料減額確認請求事件
事件番号平成17(ワ)1967
事件名賃料減額確認請求事件
裁判年月日平成20年5月26日
裁判所名・部千葉地方裁判所  民事第2部
判示事項の要旨千葉県住宅供給公社が入居者への転貸を前提として賃貸人から特定優良賃貸住宅を借り上げ,借上料を入居者に対する家賃(空室分を含む。)総額からその10%の管理経費を控除した額とする旨を合意した借上契約について,借地借家法32条1項の適用を認めた上で,同公社が同項に基づいて行った借上料減額請求を認めなかった事例
裁判日:西暦2008-05-26
情報公開日2017-10-17 20:43:21
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平成20年5月26日判決言渡
平成17年(ワ)第1967号
口頭弁論終結の日

賃料減額確認請求事件

平成20年3月17日

判決主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は,原告の負担とする。

第1

実及び理由
請求
被告が原告に賃貸している別紙物件目録記載の建物の賃料が,平成17年10月1日以降,月額金486万2400円であることを確認する。
第2

事案の概要
本件は,被告の所有する別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という。につき,原告と被告との間で,千葉県地域特別賃貸住宅B型の供)
給に係る協定書に基づく借上契約が締結されたところ,原告が,従前の本件建物に関して原告が被告に支払う借上料(以下借上料という。は)
不相当に高額となったなどと主張して,被告に対し,借地借家法32条1項,特約及び事情変更の原則に基づき,借上料の減額を請求した事案である。

1
前提事実(証拠摘示のない事実は当事者間に争いがない事実である。)
(1)

当事者等
原告は,千葉県が地方住宅供給公社法に基づき出資した特別法人である。原告は,被告から本件建物を借り上げたが,これは,千葉県特
定優良賃貸住宅制度要綱(以下制度要綱という。2条2号の,

賃貸住宅を自ら建設又は土地所有者等が建設する賃貸住宅を借り上げ,若しくは管理を受託して,当該賃貸住宅を入居者に賃貸し又は管理する者(以下管理者という。
)に該当する。

被告は,本件建物を所有し,不動産の賃貸借及び所有管理業等を目的とする会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の適用を受ける特例有限会社である。甲は,平成15年9月12日から現在に至るまで被告の代表取締役を務めている。

(2)

特定優良賃貸住宅制度(以下同制度を特優賃制度といい,特定優

良賃貸住宅を特優賃住宅という。
)の沿革及び概要

特優賃制度の沿革
(ア)

昭和61年から,特優賃制度の前身である予算制度としての地

域特別賃貸住宅制度が実施された。
地域特別賃貸住宅制度は,公営住宅制度を補完しつつ,地域ごと
の多様な賃貸住宅需要に応え,中間所得階層のうち比較的所得の低い階層及び公営住宅対象階層のうち相当の期間にわたり定住を志向する成長階層を対象として,良質で家賃(入居者の賃料,以下家賃という。が適正な賃貸住宅ストックの形成を促進し,地域に)
おける住生活の安定,向上を図ることを目的とする賃貸住宅制度であり,その供給方式としては,地方公共団体供給方式であるA型の他,①民間の土地所有者等が,建設基準に基づき建設した賃貸住宅を住宅供給公社等が借り上げ,管理を行うことにより,公共賃貸住宅とする借上B方式(借上方式,借上公共賃貸住宅)②民間の土,
地所有者等が,建設基準に基づき建設した賃貸住宅を住宅供給公社等が管理業務の一部を行うことにより,公共賃貸住宅とする民間B方式(管理受託方式)③住宅供給公社が,住宅金融公庫の融資に,

より良質な賃貸住宅を自ら建設し,公共賃貸住宅とする公社B方式(公社独自供給方式)があった。
地域特別賃貸住宅制度は,地域特別賃貸住宅制度要綱(昭和61
年4月5日建設省住建発第97号建設事務次官通達)地域特別賃

貸住宅制度実施要領(同日第98号建設省住宅局長通達)及び地域特別賃貸住宅建設基準(同日第100号建設省住宅局長通達)以

下,3者を併せて地域特別賃貸住宅制度要綱等という。に基

づくものであり,これを受けて,千葉県においては,千葉県地域特別賃貸住宅B型制度要領(以下B型制度要領という。,千葉県

地域特別賃貸住宅B型家賃補助金交付要綱及び千葉県地域特別賃貸住宅B型建設費補助金交付要綱に基づき実施された。
(イ)

上記地域特別賃貸住宅制度を受け,予算制度である同制度を見

直し,法律による制度として発展・拡充させるため,平成5年5月21日,特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律(同日法律52号,以下特優賃法という。が制定され,同年7月30日か

ら施行された。
特優賃制度は,同法,同法施行令(同月23日政令第255号)

同法施行規則(同月30日号外建設省令第16号)及び特定優良賃貸住宅供給促進事業等補助要領(同日建設省住建発第116号)他,の
千葉県においては,制度要綱及び千葉県特定優良賃貸住宅制度実施要領(以下制度実施要領という。に基づき実施されている(以

下,特優賃法,制度要綱及び制度実施要領を併せて特優賃法等
という。。


千葉県における特優賃制度の概要
(ア)

特優賃制度の趣旨等
特優賃制度は,中堅所得者等の居住の用に供する居住環境が良好

な賃貸住宅の供給を促進するための措置を講ずることにより,優良な賃貸住宅の供給の拡大を図り,もって国民生活の安定と福祉の増進に寄与することを目的とするものである(特優賃法1条)

その要点は,①良質な民間賃貸住宅の供給促進のための助成の拡充及び公共部門による民間賃貸住宅の積極的活用を基本とすること,②住宅の質,住環境についての一定の基準を満たす良質な賃貸住宅に対して,家賃・入居者選考等についての公的関与を行いつつ,公的援助を講ずる制度とすること,③市場家賃を原則としつつ,助成措置を設け,入居希望者が円滑に入居できるよう初期負担を軽減するとともに,入居者の所得が上昇することを前提に,また,入居者の負担額が市場家賃に円滑に移行するよう段階的に入居者の負担額が上昇する仕組みとなっていること,④国と地方公共団体が適切に費用負担を行いつつ,公的助成を拡充すること等である。
(イ)

特優賃住宅の供給方式
千葉県における特優賃住宅の供給方式としては,以下の方式がB

型制度要領定められている(制度要綱3条)


施行型
管理者(以下,同7条の規定により指定された法人を含む。

が,良質な賃貸住宅を建設し管理する方式。


借上型
土地所有者等(土地の所有権又は建物の所有を目的とする地上
権,賃借権若しくは使用貸借による権利を有する者)が建設する
良質な賃貸住宅を,管理者が借り上げて管理する方式。
借上型にあっては,認定事業者と管理者は,賃貸借契約を締結
するものとされている(同14条)



管理受託型

土地所有者等が建設する良質な賃貸住宅の管理を,管理者が受
託する方式
管理受託型にあっては,認定事業者と管理者は,管理委託契約
を締結するものとされている(同15条)

(ウ)

特優賃法等に基づく助成措置
特優賃法等に基づく認定事業者(知事による当該賃貸住宅の建設

及び管理に関する計画(以下供給計画という。の認定を受け

た者)に対する助成措置としては,地方公共団体による特優賃住宅の建設に要する費用の一部の補助(特優賃法12条,制度要綱16条)
,農地所有者等賃貸住宅建設融資利子補給臨時措置法の特例(特
優賃法14条)地方公共団体による家賃の減額に要する費用の一

部の補助(同法15条,制度要綱17条)独立行政法人住宅金融

支援機構等による資金の貸付けについての配慮(同法16条)国

又は地方公共団体による特優賃住宅の建設のために必要な資金の確保又はその融通のあっせん(同法17条)等がある。
(エ)

特優賃法等に基づく規制措置
特優賃法等に基づく認定事業者に対する規制措置としては,賃貸

住宅の建設及び管理をしようとする者が供給計画を作成し(特優賃法2条,制度要綱9条1項,制度実施要領3条1項)これを知事

が認定すること(同法3条,制度要綱9条2項)認定を受けた供

給計画を変更する場合の知事の認定が必要なこと(同法5条,制度要綱11条,制度実施要領5条1項)特優賃住宅に関し知事が定

める建築基準に適合することが必要なこと(制度要綱6条)国土

交通大臣は認定事業者が特優賃住宅の管理を行うに当たって配慮すべき事項を策定及び公表すること(同法6条)地方公共団体は特

優賃住宅の管理に関する必要な助言及び指導に努めること(同法7
条,制度要綱40条)知事は認定事業者に対し,特優賃住宅の建

設又は管理の状況についての報告を求めることができること(同法8条,制度要綱38条,制度実施要領25条2項)知事は認定事

業者に対し改善を命令することができること(同法10条,制度要綱12条)知事による供給計画の認定の取り消すことができるこ

と(同法11条,制度要綱13条)罰則(同法20条ないし23

条)等がある。
(オ)

制度要綱に基づく管理者の業務
管理者は,入居者の募集及び選定に関すること,各入居者との間

の賃貸借契約の締結及び更新に関すること,家賃,敷金及び共益費の受領及び精算に関すること,入居及び退居手続きに関すること,住宅の維持・修繕に関すること(入居者負担(共益費を含む。に

より行うべきものに限る。,その他特優賃住宅の管理に関すること)
の各事項に係る業務(以下管理業務といい,管理業務に要する
費用を管理経費という。を,適正かつ合理的に行うよう努め

なければならないとされている(制度要綱30条)

(カ)

家賃の設定及び変更
特優賃住宅の家賃の設定及び変更については,特優賃法,同法施

行令及び同法施行規則に定める限度額家賃の範囲内で,近傍同種の市場家賃を勘案し,認定事業者及び管理者が知事の承認を受けて決定することとされ(制度要綱24条)家賃の変更に際しては,あ

らかじめ知事と協議して上記承認を受けなければならないとされている(制度実施要領16条2項)

認定事業者及び管理者は2年に1度を原則として特優賃住宅の家
賃を変更することができるが,①物価の変動に伴い家賃を変更する必要があるとき,②近隣の住宅相互間の家賃の均衡上必要があると
き,③住宅に改良を施したときには,2年を経ずに家賃を変更することができる(同条1項)

(キ)

特優賃住宅の維持及び修繕
認定事業者は,特優賃住宅の安全性,居住性及び耐久性に関する

適切な性能を維持するため,計画的に修繕を行うものとし,あらかじめ長期的な修繕計画を作成しなければならないとされ(制度要綱31条1項)維持及び修繕に必要な費用は,入居者の責に帰すべ

き事由による修繕を除き,認定事業者がこれを負担することとされている(同条2項)

(ク)

特優賃住宅の管理期間
特優賃住宅の管理期間は,特別な事情がある場合を除き,原則と

して20年とされている(制度要綱5条)

(3)

本件建物は,当初は地域特別賃貸住宅制度要綱等に基づく千葉県地域
特別賃貸住宅であったが,その後特優賃法等が制定,施行され,特優賃法等に基づく千葉県特定優良賃貸住宅・公社借上型として運用されている。
(4)

原告,被告及び千葉県間における協定の締結
原告,被告及び千葉県は,千葉県を制度実施主体,原告を管理者とし,平成3年4月11日,千葉県地域特別賃貸住宅B型(借上B型)の供給に係る協定を締結した(以下本件協定といい,本件協定に
係る協定書を本件協定書という。。



本件協定においては,上記の特優賃法等における各規定と同旨の条項等が合意されたほか,賃貸借契約の締結,家賃,管理経費及び借上料に関し,次のとおり合意された。
(ア)

賃貸借契約の締結
被告及び原告は,本件建物の竣工後速やかに,20年を期間とす

る本件建物の賃貸借契約を締結しなければならない(本件協定書9条1項)

(イ)

家賃
被告及び原告は,近隣の賃貸住宅の家賃水準等を考慮して,協議

の上入居者の家賃を決定又は変更する。この場合,原告は,あらかじめ千葉県と協議しなければならない(同14条)

千葉県は,本件建物の入居者に対し,その申請を受けて,必要と
認めるときは,千葉県地域特別賃貸住宅B型家賃補助金交付要綱に基づき,家賃補助を行う(本件協定書15条)

(ウ)

管理経費
管理経費は,B型制度要領13条1項(管理経費は家賃の10

%以下で,原告が定める率とする。)に基づき決定又は変更する。

この場合,原告は,あらかじめ千葉県と協議しなければならない。(本件協定書18条)
(エ)

借上料
原告が被告に対して支払う借上料は,本件協定書14条1項の規

定に基づき決定された家賃から,同18条の規定に基づき決定された管理経費を控除した額とする(同19条1項)
。借上料の変更は,
家賃及び管理経費の変更に応じて行い,
前項を準用する同条2項)


(5)

原被告間における借上契約の締結
本件建物は,平成4年3月18日に竣工され,同年5月18日,被告の保存登記がなされた。


原告と被告は,同年3月29日,被告を賃貸人,原告を賃借人とし,本件協定書に基づき,原告が本件建物を第三者に転貸することを前提として,本件建物の一括借上契約を締結した(以下本件借上契約
といい,本件借上契約に係る契約書を本件契約書という。。



本件借上契約においては,家賃,管理経費及び借上料に関し,次のとおり合意された。
(ア)

家賃
家賃は,各住宅82戸毎に,月額12万2000円ないし14万

1000円の金額を定める(本件契約書9条1項)なお,その総

額は1066万円であった。
原告及び被告は,①物価その他経済事情の変動に伴い,必要があると原告が認めるとき,②賃貸住宅相互の間における家賃の均衡上必要があると原告が認めるとき,③本件建物に改良を施したときのいずれかに該当するときは,原告と被告は協議の上,2年毎に家賃の額を変更することができる。この場合,原告は,あらかじめ千葉県と協議するものとする(同条2項)

(イ)

管理経費
管理経費は,原告が負担するものとし,その額は本件契約書9条

に規定する家賃(家賃を変更した場合は,変更後の家賃)の10%とする(円未満四捨五入)また,物価その他経済事情の変動に伴

い必要があると原告が認めるときは,原告と被告は協議の上,管理経費を変更することができる。同5条)

(ウ)

借上料
原告が被告に対して支払う借上料は,同9条1項の規定に基づき

決定された家賃から,同5条の規定に基づき決定された管理経費を控除した額とし,借上料額は月額959万4000円とする(同6条1項)
。借上料の変更は,家賃及び管理経費の変更に応じて行い,
前項を準用する(同条2項)

被告は,原告が借上B型として,転貸することを承諾の上,本件
建物を原告に賃貸し,原告は,入居者の有無にかかわらず,被告に
対して,同6条1項に規定する借上料を保証する(同1条)


本件借上契約においては,家賃,管理経費及び借上料に関する上記規定の他,契約期間,管理業務その他本件借上契約に必要な事項が定められた。
契約期間は,本件借上契約締結日から平成24年3月末日までの20年間であり,契約期間満了時は,原告は,現状有姿により本件建物を被告に返還するものとし,住宅に継続して入居者がいる場合は,被告に対し,原告と入居者間の賃貸借契約に基づく賃貸人たる地位を承継させるものとされた(本件契約書2条1項,同12条)また,契。
約期間満了後,被告は原告に本件建物の管理業務を委託することができるものとされた(同19条1項)

原告の管理業務については,特優賃法等における規定と同旨の条項が合意され,具体的な管理業務の内容が定められた(同4条,同別表1)

被告の維持・修繕義務については,特優賃法等における規定と同旨の条項が合意された(同8条)


(6)

本件借上契約の変更
原告と被告は,平成13年10月1日,本件契約書9条1項に定める
各住宅毎の家賃を,それぞれ月額9万9000円ないし11万7000円に引き下げ,併せて,借上料を月額959万4000円から,上記変更後の家賃総額(877万4000円)から10%の管理経費を控除した額である月額789万6600円に変更することを合意した(以下本件変更契約といい,変更後の借上料を本件借上料という。。)
(7)

調停手続の経緯
原告は,平成16年10月15日,被告に対し,本件借上契約の解消
に伴う円滑な手続の履行を求め,千葉簡易裁判所に調停を申し立てた(以下本件調停という。。

本件調停手続の際,原告は,被告に対し,同年12月21日の調停期日において,同日付け第1主張書面により,本件借上契約の解消を求めつつ,2次的に,本件借上契約の継続を前提として,家賃の変更,控除されるべき管理経費の率を80%に変更すること及び本件借上契約の一部解除を主張した。
また,原告は,平成17年3月16日付け第2主張書面において,具体的な変更後の家賃額を主張するとともに,上記本件借上契約の一部解除の主張を撤回し,代替案として,本件建物の住宅の50%に相当する41戸については特優賃住宅としての用途を廃止し,原告において一般賃貸住宅として管理する旨の提案をした。
しかしながら,原告の上記主張及び提案は被告には受け入れられず,調停は不成立となった。
2
争点
(1)
(2)

借地借家法32条1項の適用の有無

(3)

借地借家法32条1項ただし書に該当する特約の有無

(4)

特約に基づく賃料減額請求の可否

(5)

借地借家法32条1項を適用した場合の減額の当否及びその額

(6)
3
借地借家法の適用の有無

事情変更の原則の適用の有無

争点に関する当事者の主張
(1)

争点(1)(借地借家法の適用の有無)について

(原告の主張)

本件借上契約は,①契約期間が長期であること,②物件が第三者に転貸されることが使用目的となっていること,③借上料額が定められていることから,サブリース契約である。
仮に,本件借上契約に係るサブリース契約が混合契約であるとしても,建物の賃貸借」に該当する性質を有している限り,借地借家法の適用はあると解すべきである。そして,本件借上契約は建物賃貸借であることが明らかであるから,借地借家法が適用される。イまた,特優賃法等は,公物管理として特優賃住宅を設置・管理するための管理法であるのに対し,その設置・管理の前提となる借上の権原である本件借上契約については借地借家法の適用がある。(被告の主張)ア本件借上契約は,家賃の設定及び変更につき,知事の認定等,通常の賃貸借契約とは異なる種々の規制が存在する契約関係であるから,借地借家法の適用はない。イまず,本件における特優賃制度の公的側面として,①本件借上契約は借上料が高額であり,契約期間が20年,空室保証付きという大型なものである,②原告は公社という公的機関であり超経済的強者であるが,被告は原告とは比較にならない弱者である,③法による制度の下に,本件借上契約において,借上料については入居者の有無にかかわらず満室時の家賃総額を基礎として固定的に規律されるとの合意がなされているなどの特徴が挙げられる。また,特優賃法等は家賃の取決めに関して特別の規定をしている。すなわち,本件借上契約の締結には知事の承認が必要であり,かつ,家賃,入居者負担額及びその差額である家賃補助金のそれぞれにつき,その設定及び変更に知事の承認が必要であるという構造であり,これは家賃補助のための法律による本制度上の骨格である。そして,このような取決めは,本件における借上料の算出に当たってその基礎となるのであるから,これらの規定は借地借家法の特別法としての性格を有するものであり,その仕組み上,明らかに私的自治が排除されているのである。したがって,本件借上契約には借地借家法の適用はない。ウサブリース契約と本件借上契約は,①借上事業の主体は住宅の提供を受けている千葉県であり,原告は本来管理者であること,②原告は自らの採算で転貸しているのではなく,制度要綱,制度実施要領に基づく転貸条件に従っているに過ぎないこと,③本件契約書において,原告は,被告に対し,入居者家賃の総額から10%の管理経費を差し引いた90%の金額を借上料として支払うと定められていること,④空室があっても,その分については県から助成措置があり,原告がその分の赤字を最終的に負担するものではないという点で異なっており,民間事業者の独自の採算を中心とした関係にはなく,本件借上契約はサブリース契約ということはできない。仮に本件借上契約がサブリース契約であったとしても,上記のとおり私的自治の原則は排除されているので,借地借家法の適用の余地はない。(2)争点(2)(借地借家法32条1項の適用の有無)について(原告の主張)ア本件借上契約はサブリース契約であると解されるところ,サブリース契約も,賃貸借契約がその構成要素の一つになっている以上,借地借家法が適用対象と定めている「建物の賃貸借借地借家法1条)(
に該当するものと考えられる。


被告は,本件借上契約の内容からは,借地借家法32条1項が適用される余地はない旨を主張するが,本件借上契約においては,そもそも原告の管理経費を家賃総額の10%に固定する旨の合意はないことなどからすれば,借上料は家賃に連動して自動的に定まるものではない。

したがって,借上料については,家賃の定めにかかわらず,同条項の適用がある。


原告は,被告に対し,平成16年12月21日に行われた本件調停期日において,本件借上料を減額する旨の意思表示(以下本件意思表示という。)をした。

(被告の主張)

仮に,本件契約に借地借家法の適用があるとしても,本件契約の内容からは,借地借家法32条1項が適用される余地はない。


すなわち,本件契約書6条においては,借上料は,家賃に連動して自動的に定まるものとされている。すなわち,本件借上契約において変更が予定されているのは,原告と入居者間の家賃のみであり,借上料は,家賃の変更に伴って反射的に変更されるに過ぎない。したがって,借上料の変更につき,賃貸借契約の当事者間における賃料の変更を規定した借地借家法32条の適用がないことは自明である。


ところで,家賃の変更による影響を直接に受ける者は入居者に他ならない。しかるに,特優賃制度は,特優賃法に基づき,千葉県の行政目的を果たすために施行された制度であるため,制度要綱及び制度実施要領によれば,家賃は,入居者の意向を全く考慮することなく認定事業者と管理者が知事の許可を受けて決定することになっている。また,千葉県から補助金が出るため,物件の家賃がそのまま入居者負担額に反映されるわけではない。
このことは,本件のような制度における家賃については,一般の賃貸借契約とは異なり,入居者に対する同条の適用が排除されているものと位置付けられているからに他ならない。


仮に,同条の適用が観念し得るとしても,入居者との関係では行政目的に基づき行政行為的な対応をし,他方,物件所有者である被告との関係では借地借家法の適用を求めるという原告の態度は,著しく信義に反する。

原告は,本件調停において,本件借上契約は,組合契約であるとして,その解消を求め,解消に応じない場合の条件付第2義案として,家賃の変更,借上料率の変更を求めているものである。借地借家法32条1項は,形成権行使の時点から賃料増減額の効果が生じると解されている以上,その意思表示の内容は少なくとも賃貸借契約の継続を基礎とすべきであり,本件意思表示は,同項に基づく意思表示がなされたものということはできない。

(3)

争点(3)(借地借家法32条1項ただし書に該当する特約の有無)について

(被告の主張)

仮に借地借家法32条1項の適用があるとしても,原被告間には,入居者家賃の総額が変更されるまでは借上料を変更しない旨の合意特(
約)が成立しており,これは同法32条1項ただし書に該当するものである。


本件借上契約が賃貸借契約であるとした場合,原告が入居者から収受する満室時の家賃総額が,本来使用収益に対する対価としてのいわゆる賃料の本質を有するものであり,原告が被告に支払うべき借
上料とは,満室時家賃総額から被告の原告に対する管理経費相当額を相殺したものと考えられ,満室時の家賃総額が変更になったときは,これに応じて本件借上契約における賃料も変更されることになる。他方,本件借上契約における賃料が変更になったからといって,
満室時の家賃総額も当然に変更となるものではない。仮に,本件借上契約における賃料が満室時家賃に先立って変更されることが想定
されていたとすれば,満室時家賃の総額,ひいては各居室毎の家賃額をどのように定めるかにつき,その基準や手続の定めが存在するはずである。しかし,この点について特優賃法等は一切規定しておらず,また本件契約書にもその旨の規定はない。
これらの事情からすると,原被告間においては,本件借上契約における賃料は,満室時の家賃総額と一体のものであり,同契約の賃料の変更は,それに先立つ各居室の家賃の変更,結果としての満室時の家賃総額が変更されるまでは本件借上契約における賃料は変
更しないとする合意が成立しているものというべきである。そしてこの特約は,借地借家法32条1項ただし書に該当する結果,同条項に基づく賃料減額請求権は発生しないものである。
(原告の主張)
被告は,満室時家賃総額が変更されるまでは本件借上料の変更は行わないという特約が存在し,これは借地借家法32条1項ただし書に該当する特約である旨を主張するが,かかる特約は存在しない。
本件契約書及び本件協定書には,借上料の変更は,入居者家賃及び管理経費の変更に応じて行う旨の定めがあるが,これらはあくまでも本件借上料の定め方ないし方法についての規定に過ぎず,借上料の変更の前提条件として入居者家賃の変更額の決定を予定しているものではない。したがって,入居者家賃の総額の変更が借上料の変更に先行しなければならないという論理必然性はなく,両者は密接不可分で一体性を持って連動する関係にはないと考えられる。
(4)

争点(4)(特約に基づく賃料減額請求の可否)について

(原告の主張)

借上料の変更に関して
(ア)

仮に本件借上契約に借地借家法32条1項の適用がないとの被
告主張が認められるとしても,本件契約書6条2項(借上料の変

更は,家賃及び管理経費の変更に応じて行い,前項を準用する。)

及び9条2項(次の各号の一に該当するときは,被告び原告は協
議のうえ2年毎に家賃の額を変更することができるものとする。この場合,原告はあらかじめ千葉県と協議するものとする。(1)物価その他経済事情の変動に伴い必要があると原告が認めるとき。(2)賃貸住宅相互の間における家賃の均衡上必要があると原告が認めるとき。(3)物件に改良を施したとき。)に定める特約に基づき,借上料減額請求をすることが可能である。
(イ)

上記特約は,借地借家法32条1項の趣旨に反するものではな

く,同条項と同趣旨の要件が掲げられていることからすれば,上記特約は同条項の適用を排除するものではない。
(ウ)

平成13年の本件変更契約時から平成16年12月21日まで

約3年以上が経過していること及び争点(5)において後述する諸事情から,上記特約に基づく減額請求も当然に肯定される。
(エ)

家賃の変更に際する知事とのあらかじめの協議は,原告のみが

負う義務に過ぎず,原告が知事との協議をしなくとも,少なくとも私法上の問題が生じることはない。そもそも借地借家法32条1項においては,当事者間の事前の協議は要求されていないのであるから,本件協定書14条1項前段の原被告間の協議に関しても手続上の問題は生じないと考えられる。

借上料率の変更に関して
(ア)

本件において,借上料率は高くとも80%が相当であり,現在

の90%から少なくとも10%を引き下げるべきである。
(イ)

本件協定書18条及びB型制度要領13条においては,管理経

費は家賃の10%以下とする旨の規定があるが,実際には,空室率減少のため,原告の負担において家賃の特別減額措置が行われるなど,管理経費の上限を超える負担が原告に課せられたものである。そして,被告も特別減額措置を是認したことにより,上記管理経費の上限に関する拘束は解かれ,借上料率の変更も当然に行い得るようになったと解すべきである。
(ウ)

本件協定書及び制度要領の上記規定は,一般的・抽象的な規定

に過ぎず,個別具体的な内容は本件契約書において定められるものであるから,原被告間においては本件契約書の定めが優先し,また本件協定書と本件契約書の先後関係からして,本件契約書5条2項(物価その他経済事情の変動に伴い必要があると原告が認めると

きは,被告,原告協議のうえ,管理経費を変更することができる。)

のみに基づき,借上料率の変更及びその結果としての本件借上料の変更を行い得るというべきである。
特別減額措置に関する原告の負担を原告と被告とで等しく負担す
るという観点からも,80%という借上料率は妥当である。
(被告の主張)

借上料の変更に関して
(ア)

家賃の変更に関する本件契約書6条2項及び9条2項の定め方

は,当事者双方の協議を経た上で,双方の合意に基づき賃料を変更することを想定していると解するのが自然であり,一方的な意思表示により増減額の効果が生じる形成権を定めた規定と解することは文理上無理がある。当該条項に借地借家法32条1項の適用があることを当事者が前提としていたとは到底考えられないことからすれば,むしろ被告からの同条項に基づく賃料増額請求を妨げるための規定と解釈する方が自然である。
(イ)

入居者に対する家賃が変更され,その満室時の総額が決定され
た事実はないこと,かつ,それが所定の手続のもとで,知事の承認がなされた旨の事実も全く認められないのであるから,満室時家賃総額の変更が先行していない本件においては,特約に基づく賃料減額請求権も発生しない。

借上料率の変更に関して
(ア)

原告は,本件契約書5条2項を根拠に,借上料率の変更は当然

に認められるべきと主張するが,同条項は,あくまでも当事者双方の意向を反映した解決を図ることを定めた協議条項に過ぎず,形成権のように当然に変更が認められる根拠とはならない。
(イ)

本件協定書18条及びB型制度要領13条により,本件におけ

る特優賃事業の基本的な協定事項として,原告の取得し得る管理経費は入居者の支払う賃料の10%と合意されているところであり,また,その変更に当たっても,原告はあらかじめ千葉県と協議しなければならないところ,その協議も認められない以上,借上料率の変更を求めるべき根拠はない。
(5)

争点(5)(借地借家法32条1項を適用した場合の減額の当否及びそ
の額)について
(原告の主張)

減額請求の根拠となる諸事情について
以下に述べるような各事情からすれば,本件において借地借家法32条1項に基づく賃料減額請求権の行使が認められる。
(ア)

公示価格の下落
本件建物の所在する土地と価格形成要因の共通性が認められる公

示地については,平成14年1月時点と平成18年1月時点の地価を比較すると,約22.4%の下落率を示している。
また,同じく価格形成要因の共通性が認められる基準地について
は,平成13年7月時点と平成17年7月時点の地価を比較すると,約30.5%の下落率を示している。
(イ)

近隣家賃相場との比較
本件建物周辺の同種マンションにおける新規賃料に対して要因比

較などを行い,比準賃料を査定すると,1㎡当たり1020円となり,正常実質賃料相当額は6万6100円と算定される。これと本件建物の実際実質賃料10万3000円とを比較すると,3万6900円もの格差が存在する。
(ウ)

租税その他の負担の減少
本件借上契約成立後,借入金利及び固定資産税評価額は減少の一

途をたどっており,本件建物に関する被告の負担は減少していることが推認される。
(エ)

特定調停の経緯に見る市場相場からの乖離
原告は,平成13年の家賃引下げを受け,原告負担による公社特

別減額措置を導入し,空室率の改善を図ってきたが,一部の特優賃住宅を除いて改善が見られず,平成15年度決算額では約4億9000万円の赤字が生じ,累積赤字は35億円にも及んだ。
そこで,原告は,平成16年2月4日,東京地方裁判所に特定調
停の申立てを行い,同年10月25日,金融機関等への借入金債務の返済を内容とする調停に代わる決定がなされたが,これは,本件建物の現在賃料と近傍同種の建物に係る市場相場との乖離が著しく,公社特別減額措置によっても賃借希望者が確保できなかったからに他ならない。
(オ)

特優賃制度の趣旨
そもそも特優賃制度は,主に中堅所得者等の世帯向けに優良な賃

貸住宅を供給し,もって国民生活の安定と福祉の増進に寄与しようとするものであり,その制度目的を受け,制度要綱24条においては,法令等に定める限度額家賃の範囲内で,近傍同種の市場家賃を勘案して決定されるべきものと規定されているのであるから,家賃は市場家賃を前提とすべきである。
しかるに,本件における家賃は,近傍同種の建物の賃料相場と比
較して著しく不相当になったのであるから,賃料減額請求権の行使が認められるべきである。
(カ)

賃料不増額特約の不存在
本件においては,借地借家法32条1項ただし書に該当する,賃

料を増額しない旨の特約は存在しない。

本件における適正な借上料の額について
(ア)

特優賃制度は第三者への転貸が前提となっているのであるから,

本件賃貸借契約の賃料の算定に当たっては,まず入居者と原告との間における適正賃料を算定し,その合計額をもって本件借上契約の賃料(借上料)とすべきである。
また,同制度はバブル経済のもとにできた制度であるから,空室
の発生がほとんど想定されていないか又は空室率が極めて低いことを前提としていること,管理会社である原告が,本来建物所有者が負担すべき管理業務に係る経費を負担していることなどの特殊性を考慮した上で,借上料を算定しなければならない。
これらの事情を考慮した上で本件における妥当な月額借上額は4
86万2400円となる。
(イ)

原告の提出した鑑定書(以下原告鑑定書という。の評価


手法は以下のとおり適切であり,信用できるものである。
原告鑑定書は,一括借上に伴う経費率を考慮する前の家賃につい
て,鑑定評価額を月額7万2000円(合計賃料614万4000円)としている。これは,より精度の高い差額配分法による試算賃料を根拠として,スライド法による試算賃料を参考に算定されており,適切である。
また,本件においては,一括借上に伴う経費率を考慮する必要が
あるところ,原告鑑定書は,平成8年10月から平成13年9月まで(契約締結の数年後から特別減額措置の直前まで)の期間の空室率を算定し,この空室率に対し,一定の危険負担を原告に負わせた上で,経費として計上する空室損失相当額を算定し,最終的に月額借上料を333万6000円としており,適切である。

被告の主張に対する反論
(ア)

賃料保証特約
本件契約書において,原告が被告に対して賃料保証を規定した条

項はなく,賃料保証特約は存在しない。原告が被告に対し賃料保証を明確に約束したり,賃料増額を約束したりした事実はない。
仮に被告が主張する特約が認められるとしても,それは,若干の
空室や入居者からの本件家賃の不払があった場合でも,原告は被告に対して一定額の本件賃料を支払うとの意味でしかなく,決して最低保証としての合意ではない。本件はサブリース契約であり,賃借人が存在しないという事態は生じないので,単に空室部分の賃料がゼロとはならないという趣旨に過ぎない。
(イ)

賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情等
当該約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との乖離に
ついて,家賃に関しては近傍同種の市場家賃を勘案して決定する
とされているが,本件において,借上料を家賃総額の90%相当
額とすべき規定はなく,しかも,90%という借上料率は,空室
引当分を全く考慮していないものである。平成13年の本件変更
契約の際,当時の空室率は89%であったにもかかわらず,借上
料率は90%を維持した。かかる事実は,本件の借上料が本件変
更契約当時の近傍同種のサブリース物件の賃料相場と乖離し,そ
の程度も著しかったことを表している。
なお,原告は,経済改善計画において,賃貸住宅事業を強化し,
もって収益向上を図らんとしており,本件借上契約は営利を目的
とするものであることは明らかである。

収支予測にかかわる当事者の認識等の事情については,本件借
上契約当時,原告が不動産価格の下落等を具体的に予想すること
は困難であった。原告が行った収支予測はあくまで予測に過ぎず,その後の経済状況等の変化による賃料減額請求権の行使を妨げる
要因とはならない。
むしろ,原告が作成した特優賃制度を説明した千葉県特定優良賃貸住宅制度のご案内と題する書面(以下案内書という。)
には,家賃等の額の決定にあたり,供給計画認定申請時の家賃

等の額を下回る場合がありますので予めご承知おきください。

との記載があるように,もともと借上料の減額も予定していると
ころである。


被告の銀行借入返済の予定等にかかわる事情については,否認
ないし不知である。原告は経営改善の努力を行ってきたが,上記
特定調停においては,被告以外の各債権者は大幅な債権カットを
余儀なくされているところ,決して被告のみが一方的に不利益を
被るわけではない。


さらに,家賃及び借上料の改定は,これまで平成13年に本件
変更契約として1回行われたのみである。本件変更契約について
は,被告も納得して記名押印している以上,今回の減額請求の妨
げとはならない。

本件訴訟に至るまでの原告の態度につき,原告においても,財
政状況を改善すべく,自助努力を十分に行ってきているものであ
る。平成13年度には第1次公社経営改善計画を策定し,分
譲資産の処分促進,特優賃住宅の入居促進,経費の削減等に取り
組み,千葉県行政改革推進本部において決定された方針を受け,
平成16年5月11日,経営改革計画」を策定し,賃貸住宅事
業を中心とした事業展開を図るとともに,保有土地の処分促進や合理化を進めていくこととなった。また,原告内部においても,人件費の削減等自助努力を図ってきた。(ウ)被告の収支シュミレーション本件変更契約時点である平成13年以降の収支シュミレーションを具体的に示しながら,被告の収支予測にかかわる事情を明らかにしつつ借地借家法32条1項との関係で具体的な主張を行うのであれば格別,平成18年度以降の単年度の収支,キャッシュフローのみを前提とした収支シュミレーションでは本件減額請求の当否及び相当借上料額の判断のための法的主張とはならない。(被告の主張)ア権利濫用原告は,破綻することが予見可能であった無理な資金計画を示し,借上料が減額される可能性も説明せず,被告に特優賃事業を勧誘したものであり,本件賃料減額請求は信義則に違反し権利濫用である。イ減額請求の当否及び相当借上料額の判断基準について仮に,本件借上契約に借地借家法32条1項の適用があるとしても,賃貸借契約における賃料減額請求の当否及び相当賃料額については,次のような基準で判断すべきであり,本件にもこれが適用されるというべきである。(ア)まず,総論として,賃料額,賃料自動増額特約等の約定もしくは賃料保証の存在は,賃貸人が賃借人のために多額の資本を投入するに当たって欠くことのできない前提となったものであるから,これらの事情は,賃料減額請求の当否及び相当賃料額を判断する場合に重要な事情として考慮されるべきである。(イ)次に,各論として,賃貸人と賃借人の利益衡量するための事情につき,以下のようなものがある。すなわち,賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情(契約締結時の事情)として,賃料額が決定されるに至った経緯及び賃料自動増額特約ないし賃料保証が付されるに至った事情,とりわけ,当該約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との関係,転貸事業における収支予測にかかわる事情,銀行借入金の返済の予定にかかわる事情が考慮される。また,その他諸般の事情(契約締結後の事情)として,増減額請求の頻度,賃貸人の義務である維持・修繕の怠慢の有無,紛争時における実際の賃料と相当賃料の差額の大小,契約締結後の賃貸人・賃借人の改善努力の有無及び程度,現在の経済状況等の事情が考慮される。ウ本件における上記基準への当てはめについて(ア)賃料保証特約の存在本件においては,賃料保証特約が存在する。一般に,賃料保証契約は,賃貸人において,転貸料が値下がりした場合等の差損を負担するリスクを回避し,賃借人からの安定した賃料収入があることを考慮して締結するものであり,その存在自体,賃貸人側に有利に働く事情,すなわち減額請求の否定要素となる。本件借上契約においては,本件契約書1条,原告作成の案内書の説明によれば,借上料は,空室の有無にかかわらず将来にわたり保証されたものであったことは明らかである。さらに,原告は,賃料保証にとどまらず,2年毎に借上料を増額する旨の説明も行っている。(イ)a賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情当該約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との乖離の有無につき,制度要綱24条によれば,特定優良賃貸住宅の家「賃は,法令等に定める限度額家賃の範囲内で,近傍同種の市場家賃を勘案し決定するとされており,制度要綱上,家賃総額の90%相当額である借上料が,当時の近傍同種の建物の賃料相場と
の乖離を生じることがないよう設定されるものとなっている。
また,本件借上契約は,民間企業が営利を追求することを目的
とすることと比較して,公共性が強く,営利性が極めて低い事業
であるから,営利目的から近傍同種の建物の家賃より高い家賃が
設定されることはあり得ないものである。


賃借人の転貸事業における収支予測にかかわる当事者の認識等
について,原告は,国及び地方公共団体の住宅政策の一翼を担う
公的住宅供給主体であり,その性格上,不動産賃貸に関する専門
的知識や収集し得る情報を十分に有する立場にあったところ,本
件借上契約締結時(平成4年3月)は,いわゆるバブル経済崩壊
が進行し始めた時期であり,上記の立場にあった原告は,将来,
不動産価格及び賃料相場が下落することも十分予測し得たにもか
かわらず,本件建物について十分採算が取れる事業と判断し,か
つ,被告との間で賃料保証特約を締結した以上,これに反して賃
料減額を認めるべきではない。
被告は,不動産賃貸の経験がなく,本件借上契約締結当時,収
支予測にかかわる事情については,原告の説明を信じる他,これ
を認識する方法がなかったものである。

賃貸人の銀行借入返済の予定等にかかわる事情として,被告は,
本件建物の借上料収入以外に返済原資はなく,僅かな減額でも破
産の危機に陥る可能性がある。そして,銀行に対する返済の他,
固定資産税や個人事業税等の公租公課の支払及び長期修繕積立金
の積立が必要であり,これらの支出も考慮する必要がある。なお,長期修繕積立金は今後も増額していくことは明白である。
現在の収支については,現状の借上料においても1655万6
974円の赤字であり,原告が主張する減額された借上料で試算
すると5296万7374円の赤字となる。


この点につき,原告は,本件借上契約締結当時,空室を想定し
ていなかった,あるいは空室率引当分を全く考慮していなかった
旨主張する。
しかしながら,制度上,空室リスクに対する保証が明らかにさ
れていることに加え,原告の損益計算書によれば,被告から毎月
支払われる管理経費額の中から,貸倒引当金として空室等を生じ
た場合のリスク分の引当金を計上していたことからすれば,原告
の上記主張は事実に反する。

(ウ)

その他諸般の事情(契約締結後の事情)
被告は,既に家賃及び借上料を減額する旨の本件変更契約に応
じており,その後,平成16年12月21日まで約3年しか経過
していないのであって,その間,これ以上に借上料を減額しなけ
ればならない程の大きな経済変動はない。
本件変更契約につき,原告は,減額した家賃額をあらかじめ記
載した変更契約書を被告方に持参し,同契約書に署名捺印するよ
う強く要求したため,被告はやむなくこれに応じたものである。

契約当事者の関係及び各当事者の契約における役割について,
本件借上契約は,対等な民間企業が当事者である典型的なサブリ
ース契約とは異なり,準行政機関的な組織である原告が,一般市
民たる被告代表者と契約をしたものであり,立場,情報量等にお
いて,非対等的な契約であるから,より一層,被告の不利益を重
視すべきである。
また,特優賃法等による規制の結果,本件事業全般は原告の主
導により行われ,対等な協議がなされる余地はなく,被告は形式
的な関与しかしていない。


本件訴訟に至るまでの原告の不誠実な態度及び被告の真摯な対
応につき,原告は,本件訴訟に至るまでの間,自らの杜撰な計画
により招いた巨額の赤字であるのに,本件借上契約の全面解除を
一方的に申し入れるなど,自らは何の改善努力を行わず,被告の
負担のみにて赤字を解消しようとする不誠実な態度に終始してい
る。
これに対し,被告は,今後の長期修繕計画について見直しを行
うべく,専門家に依頼し,独自の建物調査を行うなど真摯な対応
をしている。


被告の収支計算の実情と今後の見通しについて
原告の主張する減額後の借上料に基づく被告の収支計算及び今後の見通しとしては,シュミレーションの結果,平成18年から平成25年に至るまで,ほとんどマイナスとなり,平成25年に至っては,4411万2760円のマイナスとなる。新規借入れも含む資金の投入を行わない限り,キャッシュフロー上は黒字とならない。被告は,千葉県及び原告の協力要請に応じた個人同様の法人に過ぎず,その財政的基盤は不動産業を専業とする業者と比べ脆弱であるため,多額の支出超過により破産に至る危険性が高い。
また,修繕費は必要経費であるが,本件建物の現状に鑑み,今後も相当の支出を必要とする状況にある。長期修繕計画の積立金については,現在,本件建物の収益のみでは積み立てる余裕がなく,原状回復工事等は,他の所有物件の収益で賄っている状況にある。
現在,借入金返済金利は借換えにより1.3%に抑えられているが,これは平成21年4月から見直されることになり,現在の金利より低くなることはなく,近時の日銀の追加利上げに伴い,高くなることが予想される。
さらに,被告は借換えに伴う追加担保の提供を行っているところ,赤字が増大した場合,提供した不動産の処分はもちろん,被告の経営に携わっている個人らが連帯保証人となっている結果,当該個人らも破産に至ることは明らかである。

特優賃制度の問題点について
特優賃制度は,段階的に入居者の負担が上昇する傾斜家賃方式が採られたこと,入居者の審査等の制約があったため,入居者が敬遠するということの問題点がある。また,運用における問題点として,事業計画に対する,公共団体の許認可における計画性がないこと,原告に入居者促進のための自助努力がなかったことなどが挙げられる。よって,これらにより生じた損害をオーナーである被告に転嫁させてはならない。
平成8年ころより激増してきた空室に対し,千葉県は,平成12年11月8日,ようやく特別減額措置を実施する制度を設けた。しかしながら,原告は,当該措置が採られたと同時期に,被告にも一斉に借上料の減額を求めており,結果的には被告に対して特別減額による赤字分を負担させたことにもなるものである。しかも原告は,この特別減額分についてさらに千葉県に補助を求めていたのであるから,むしろ利益の二重取りである。
(6)

争点(6)(事情変更の原則の適用の有無)について

(原告の主張)

仮に,借地借家法32条1項による減額請求が認められないとしても,本件においては,事情変更の一般原則により,借上料率の変更及び借上料減額請求が認められると解される。
事情変更の原則の適用がある場合とは,①契約締結後に生じた諸事情の変更が,②当事者の責に帰するものではなく,③当事者が予見せず,また予見不可能であった故に,④当事者に契約通りの履行を強制することが著しく公平に反すると認められる場合であり,本件はこれに該当する。


事情変更の原則の適用に当たり考慮されるべき具体的事実としては,以下の各事実である。これらの事情が,極めて重大な事情変更に当たることは明らかである。
(ア)

特定調停に関する事情
原告の特別減額措置等の改善策にもかかわらず,改善が見られず,
累積赤字は35億円にも及んだ。特定調停においては,債権者は既存の債権を大幅に放棄し,債権者平等の原則に鑑みれば,再建手続の一環として本件減額請求はやむを得ず,被告もこれを受忍すべきである。
仮に,特定調停ではなく民事再生等の手段を選択した場合,被告
は,更に低額の再生計画案を受諾せざるを得ない可能性もあった。特定調停における再建計画により,原告は大口債権者等から協力を得たものであり,再建計画に基づく借上料の引下げは,原告にとって権利の行使というよりは義務の履行という側面が強い。
(イ)

特優賃住宅に関する事情
特優賃住宅は,空室が発生しないことを前提とし,空室ゼロの状

態で初めて原告の収支が均衡するという制度設計であったが,本件借上契約成立後の経済的事情の変化は,本件建物を初めとして,多くの特優賃住宅に空室を生じさせた。
(被告の主張)

①特優賃制度における,千葉県及び原告による逓減的な家賃補助軽減という方策が誤りであること,②原告による多くの特優賃マンションの建設,③原告の管理能力の欠如,④千葉県及び原告の対応策の懈怠,⑤市原市米沢団地の用地取得のため130億もの赤字を作ったことが原告の財政支障の原因であること等の事情は,全て原告に責任があり,事情変更の要件である当事者の責めに帰すべからざる事情
とはなり得ない。
かえって,被告は平成13年に家賃及び借上料の減額を余儀なくされており,負担を生じている。特優賃制度が公的助成のための制度であることに照らせば,事業収支において赤字が生じたとしてもそれは公的助成の然らしめるところである。


本件変更契約時を基準とした場合,事情変更の原則の適用はない。すなわち,被告は原告の要請に応じ,既に平成13年10月1日,原告の賃料減額請求に応じており,バブル経済が崩壊して久しい現段階においては,更なる減額に応じなければならないような基礎事情の変更は全く存在しない。


また,本件借上契約締結時の事情を基準としても,なお事情変更は認められない。本件借上契約の成立の経緯,借上料額決定の要素となった事実,契約時における原告の認識及び本件借上契約時の経済状況,本件建物に空室が生じた原因等に鑑み,過去における事業赤字の負担を全て被告が負う理由は認められず,如何なる時点においても,借上料を改訂し,減額を求める相当性は全く認められない。
第3
1
当裁判所の判断
認定事実
前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
(1)

本件借上契約締結に至るまでの経緯
甲の義母である乙は,税金対策のため,駐車場経営や2階建てアパート建設等を考え,平成元年12月22日,被告を設立した。


平成2年の初めころ,原告の元理事が顧問をしている建設会社を通じ,原告から被告に対し,千葉県地域特別賃貸住宅B型(借上B型)の供給制度を利用したマンション建設の話が持ちかけられた。


被告は,平成2年4月1日,原告と協議の上,東急工建株式会社との間で,同会社に対し,本件建物の建設を請負代金13億5000万円で請け負わせること,本件建物の完成引渡は平成3年7月,使用開始は同年9月1日の予定とすることなどを内容とする覚書を作成した。

平成2年の半ばころ,原告から被告に対し,本件建物の着工を遅らせてほしい旨の要望があった。これに対し,被告は,予定より半年以上計画の開始が遅れること,建設費用が予定よりも多額となっていたこと,原告に対する不信感等から,3000万円の設計料を被告が負担してもよいので計画を中止したい旨を原告に申し出たが,原告の強い説得により,最終的には計画の続行に同意した。


本件建物の請負代金は,自走式駐車場の追加等により,最終的には15億7000万円となった。また,被告は,本件建物の着工が遅れたことにより,その間の借入金の利息が増加し,消費税法の改正に伴い,建設費からの消費税6000万円の還付を受けることができなくなった。
(2)

原告の特優賃制度及び本件借上契約についての説明
本件借上契約の締結に先立ち,原告は,被告に対し,千葉県地域特別賃貸住宅B型の概要と題する書面,千葉県地域特別賃貸住宅B型に係る留意事項と題する書面,地域特別賃貸住宅制度の概要」と題する書面,借り上げ方式による公共賃貸住宅の供給について(平成3「年度建設省予算要求)と題する書面,借上方式等による公共賃貸住宅の供給の推進と題する書面,平成4年3月12日付けマルチ長期事業収支計算システムと題する書面(以下事業収支計算システムという。をそれぞれ交付するとともに,その内容を説明した。なお,マ)

ルチ長期事業収支計算システムと題する書面の記載内容については,後述する。


原告が作成した千葉県地域特別賃貸住宅B型の概要と題する書
面においては,家賃については2年毎に5%アップすること,入居者負担額については毎年5%アップすることが記載され,また,供給戸数につき,平成3年度は300戸の供給を,千葉県第六期住宅建設五箇年計画(平成3年度から平成7年度)では1600戸の供給を予定している旨が記載されていた。


原告が作成した千葉県地域特別賃貸住宅B型に係る留意事項と
題する書面においては,建設基準等に関する留意事項の記載の他,地域特別賃貸住宅B型の管理につき,借上B型の借上料(保証額)は,

契約家賃の90%です。公社は管理経費として契約家賃の10%をいただきます。と記載されていた。



原告が作成した地域特別賃貸住宅制度の概要と題する書面にお
いては,オーナー側から見たメリットとして,①住宅金融公庫からの融資に当たり,貸付限度額表の適用がないこと,②入居者に対する家賃助成があるため,市場家賃と比較して入居者負担額が少なく,結果的に空室が生じないこと,③入居者募集等の管理を公社が行うため,オーナーの手数がかからないことが述べられ,また,家賃については2年毎,入居者負担額については毎年,概ね5%以内でアップする旨記載されていた。

建設省が作成した借り上げ方式による公共賃貸住宅の供給について(平成3年度建設省予算要求)と題する書面においては,助成措置として,①長期間にわたる家賃収入の保証,②共同施設整備費等補助,③家賃対策補助が挙げられていた。


建設省が作成した借上方式等による公共賃貸住宅の供給の促進
と題する書面においては,借上方式のメリットとして,①地主にとって信頼できる公共主体に経営の一部を安心して任せられ,かつ,空室リスクが生じないことから,地主の土地活用の隘路が解消され,供給増が期待できること,②公共主体が長期に借り上げて供給する住宅となることから,公共賃貸住宅として直接供給と同程度の質・環境への誘導がしやすく,また,安定した供給が可能となること,③近年の地価上昇による地価と市場地代との乖離状況を利用することにより,少額の財政負担で一定水準以上の住宅の供給が可能になることが挙げられていた。

(3)

本件協定の締結
原告,被告及び千葉県は,千葉県を制度実施主体,原告を管理者とし,
平成3年4月11日,本件協定を締結した。
(4)

本件借上契約の締結
原告と被告は,平成4年3月29日,被告を賃貸人,原告を賃借人とし,本件協定書に基づき,本件借上契約を締結した。
本件借上契約において定められた家賃及び借上料は,それぞれ原告が提示した金額であり,被告が家賃及び借上料の決定に関して意見ないし要望を述べたことはなかった。
(5)

本件変更契約の締結
原告と被告は,平成13年10月1日,本件契約書9条1項に定める
各住宅毎の家賃を,それぞれ月額9万9000円ないし11万7000円に引き下げ,併せて,借上料を月額959万4000円から,上記変更後の家賃総額(877万4000円)から10%の管理経費を控除した額である月額789万6600円に変更する旨の本件変更契約を締結した。
(6)

原告による特別減額措置の実施
本件変更契約後,原告は,原告が平成12年11月8日に定めた特定
優良賃貸住宅入居者負担額特別減額措置実施要領(以下特別減額措置実施要領という。に基づき,入居者負担額を軽減するため,本件建)
物の家賃に対する特別減額措置(以下特別減額措置という。を実

施した。
特別減額措置実施要領に基づく特別減額措置は,当該住宅の入居促進を図ることを目的として,原告が借り上げた特優賃住宅のうち,空室の発生率が高く,原告理事長が特に必要と認める住宅を対象に,原告の負担において行われる措置である。特別減額措置額は,各住宅毎の家賃額及び各収入区分の負担率等に応じ,年度毎に決定された。
(7)

本件建物の入居者負担額等の推移及び空室戸数等の推移について
本件建物に関する平成4年度以降の入居者負担額,家賃減額補助額,特別減額措置額の推移は,別紙入居者負担額等の推移並びに別紙
年度末の空家及び各実績額(年額)の「入居者負担額(特減後)

欄,家賃減額補助」欄及び特別減額欄にそれぞれ記載のとおり
である。入居者負担額は,平成13年10月の本件変更契約時までの間,毎年度の家賃減額補助額の漸減に伴って漸増し,本件変更契約及び特別減額措置の実施により大幅に減額されたが,その後も家賃減額補助額の漸減に伴い,特別減額措置額と共に漸増している。イ本件建物の空室戸数及び全体戸数82戸に対する空室率は,別紙「年度末の空家及び各実績額(年額)の「空家欄にそれぞれ記載のと」
おりである。
本件建物においては,平成7年度から空室が生じ始め(空室率19.5%)空室率は毎年漸増し,平成12年度にピークを迎えた(空室,
率87.8%)その後,平成13年10月に家賃が改定され,原告。
が特別減額措置を実施したことにより,平成13年度から空室率は減少傾向に転じ,平成16年度の空室率は51.2%となった。

(8)

家賃額の推移
家賃額は,本件変更契約による変更の他,原告と入居者間における賃
貸借契約の更新の際に増額されたことはなかった。
(9)

本件建物の収益等に関する原告の被告に対する説明
原告は,本件借上契約に先立ち,被告に対し,平成4年3月12日付け事業収支計算システムを交付し,事業開始から10年度までの損益計算書,資金繰表,資産債務比較表を示しつつ,今後の収支予測にかかわる参考数値として,主に以下の内容を説明した。
(ア)

経常収入
家賃収入として月1066万円,駐車場収入として月63万80

00円,合計年収が1億3557万6000円となること。
(イ)

経常支出
年間の経常支出としては,土地及び建物の固定資産税が合計11
73万7000円,土地及び建物の都市計画税が合計271万2000円,火災保険金が187万8000円(5年毎)修繕費が5

44万4000円,原告の取得する管理経費が1355万8000円,償還事務費が109万1000円の合計3641万9000円となること。
また,経常支出の以後の増加率は,土地評価価格が毎年3%,修
繕費が毎年3%,管理経費が賃料の増加率に比例して増加し,その余の支出項目はいずれも0%の見込みであること。
(ウ)

更新及び稼働率
家賃及び駐車場収入は,2年間の更新毎に5%ずつ増額すること。稼働率については,住宅及び駐車場のいずれも開業時から100

%を維持する見込みであること。
(エ)

その他収支に関する見通し
投下資本回収が可能となるのは事業開始から31年度,当期利益

計上が可能となるのは事業開始から9年度,累積赤字解消が可能となるのは事業開始から27年度,不足金が解消となるのは事業開始から2年度の各時点であること。
10年度借入金残は13億2012万3000円であり,20年
度借入金残は9億4381万4000円であること。

原告は,平成5年12月21日ころ,被告に対し,同日付け事業収支計算システムを交付し,事業開始から40年度までの損益計算書,資金繰表,資産債務比較表を示しつつ,今後の収支予測にかかわる参考数値として,主に以下の内容を説明した。
(ア)

経常収入
家賃収入として月1066万円,駐車場収入として月77万40
00円,合計年収が1億3720万8000円となること。
(イ)

経常支出
年間の経常支出としては,土地及び建物の固定資産税が合計11

68万7000円,土地及び建物の都市計画税が合計265万円,火災保険金が188万3000円(5年毎)修繕費が1023万

3000円,原告の取得する管理経費が1279万2000円,償還事務費が109万2000円の合計4033万5000円となること。
また,経常支出の以後の増加率は,土地評価価格が毎年3%,修
繕費が毎年3%,管理費(駐車場)が2年毎5%,管理経費が賃料の増加率に比例して増加し,その余の支出項目はいずれも0%の見込みであること。
(ウ)

更新及び稼働率
家賃及び駐車場収入は,2年間の更新毎に5%ずつ増額すること。稼働率については,住宅及び駐車場のいずれも開業時から100

%を維持する見込みであること。
(エ)

その他収支に関する見通し
投下資本回収が可能となるのは事業開始から33年度,当期利益

計上が可能となるのは事業開始から13年度,累積赤字解消が可能となるのは事業開始から25年度,不足金が解消となるのは事業開始から5年度の各時点であること。
借入金残につき,10年度借入金残は13億2111万1000
円であり,20年度借入金残は9億3888万5000円であること。

原告は,平成8年4月3日ころ,被告に対し,同日付け事業収支計算システムを交付し,事業開始から40年度までの損益計算書,資金繰表,資産債務比較表を示しつつ,今後の収支予測にかかわる参考数値として,主に以下の内容を説明した。
(ア)

経常収入
家賃収入として月1066万円,駐車場収入として月77万40

00円,合計年収が1億3720万8000円となること。
(イ)

経常支出
年間の経常支出としては,土地及び建物の固定資産税が合計11

68万7000円,土地及び建物の都市計画税が合計265万円,火災保険金が188万3000円(5年毎)修繕費が1023万

3000円,原告の取得する管理経費が1279万2000円,償還事務費が109万2000円の合計4033万5000円となること。
また,経常支出の以後の増加率は,土地評価価格が毎年3%,修
繕費が毎年3%,管理経費が賃料の増加率に比例して増加し,その余の支出項目はいずれも0%の見込みであること。
(ウ)

更新及び稼働率
家賃及び駐車場収入は,事業開始から6年度までは2年間の更新

毎に増額せず,7年度以後2年間の更新毎に3%増額すること。
稼働率については,住宅は開業時から5年度以後も100%を維
持し,車庫は3年度までは100%,4年度以後は70%となる見込みであること。
(エ)

その他収支に関する見通し
投下資本回収が可能となるのは事業開始から36年度,当期利益

計上が可能となるのは事業開始から14年度,累積赤字解消が可能となるのは事業開始から26年度,不足金が解消となるのは事業開始から36年度の各時点であること。
借入金残につき,10年度借入金残は12億6070万8000
円であり,20年度借入金残は8億7780万9000円であること。
(10)

本件建物の修繕に関する事情
平成18年以前の修繕工事
平成9年ころ,被告代表者を委託者,原告を受託者,業務委託料を178万5000円として,長期修繕計画に基づく鉄部塗装工事が行われた。
平成12年ころ,受水槽ボールタップ交換,ポンプ室インバーター交換が行われた。
平成13年ころ,駐輪場外灯安定器交換が行われた。
平成14年ころ,被告代表者を発注者,株式会社伊勢崎組を請負者,請負金額を2440万円として,長期修繕計画に基づく外壁塗装,鉄部塗装,屋根防水,駐輪場屋根補修・塗装,PC目地防水工事が行われた。
平成15年ころ,受水槽漏水補修が行われた。
平成16ないし年ころ,受水槽ポンプ修繕と,被告代表者を発注者,株式会社千葉住宅サービス社を請負者,請負金額を約650万円として,屋上防水工事が行われた。


平成19年以降の修繕費用
平成19年以降,本件建物の建築・外構関係,給排水設備,電気設備の交換及び修繕等にかかる費用の見込みは,平成19年に7250万円,平成20年に1340万円,平成21年に390万円,平成22年に530万円,平成23年に5834万円,平成24年に540万円,平成25年に7580万円,平成26年に550万円,平成27年に640万円,平成28年に690万円,平成29年に2680万円,平成30年に400万円,平成31年に6420万円,平成32年に2910万円,平成33年に1億0975万円,平成34年に2960万円,平成35年に2920万円,平成36年に390万円,平成37年に7440万円,平成38年に470万円であり,年次費用の合計額は6億2909万円と予測される。
(11)

平成18年度以降の被告の収支シュミレーション予測
借上料が1か月当たり486万2400円となった場合,借上料収入,
駐車場収入を営業収益項目とし,修繕費,減価償却費,固定資産税,消費税,損害保険料,電波障害対策費,保守点検費用,地代,借入金利息,税理士手数料,諸雑費を営業費用項目として,平成18年度以降10年間の被告の収支につきシュミレーションを行うと,平成27年度までの全期間当期純損失の計上となり,最も当期純損失が大きいのは,平成19年度の4554万7513円である。資金収支尻は,平成18年ないし平成20年,平成22年,平成23年,平成25年の各年度において,新規借入れを行わない限りマイナスとなることが予測される。
(12)

特優賃住宅における家賃変更手続の実際の運用状況
千葉県知事は,平成18年7月18日,原告からの同月12日付け特
優賃家賃変更手続に関する照会に対し,概要以下のとおり回答した。ア
特優賃住宅における家賃変更の承認申請(以下承認申請という。

につき,実際の運用状況としては,認定事業者と管理者が同意した上で,県知事に対して承認申請が行われている。承認申請に先立ち,県知事に対するあらかじめの協議は行われていない。


認定事業者及び管理者からの承認申請に対し,上記回答時までの運用において,県知事が承認しなかったことあるいは申請内容に変更を求めたことはない。


家賃を変更する場合には,供給計画の変更の手続は必要ではない。(13)

固定資産税等の負担
本件建物及びその敷地についての固定資産税は,事業開始から平成1
3年まで,約50%の減免措置があったが,平成14年以降は上記減免措置がなくなり,平成16年現在の固定資産税及び都市計画税の合計は,755万7062円となっている。
(14)

借入金の返済状況
被告は,住宅金融公庫からの借入金に対し,平成7年に約2000万
円を,平成8年に約3000万円を,それまでの修繕積立金及び収益から繰り上げ返済した。
また,被告は,同年,住宅金融公庫からより金利の低い京葉銀行への借換えを行うこととし,京葉銀行から約3億円を借り入れて住宅金融公庫への返済に充てた。平成13年にも,同様に京葉銀行から約1億円を借り入れて住宅金融公庫への返済に充て,住宅金融公庫からの借入金は全て返済した。
平成17年12月末における被告の借入金残高合計は,8億5194万4011円である。
京葉銀行からの借入金に対する金利は1.3%であるが,平成21年4月に金利の見直しが予定されており,1.3%を上回る金利が設定される見込みである。
(15)

原告の赤字額
原告においては,本件建物に関する特優賃事業につき,平成8年度か
ら赤字(3846万4378円)が発生し始め,平成16年度までの累積赤字額は合計6億9740万2448円となっている。
また,原告の特定優良賃貸住宅部門においては,平成15年度決算額で約4億9000万円の赤字を計上し,同決算時点において累積赤字額は約35億円であった。
2
争点(1)(借地借家法の適用の有無)について
(1)

前記前提事実及び上記認定事実によれば,本件協定においては,原告
と被告は本件建物に関する賃貸借契約を締結するものとされていること,本件借上契約においては,原告が賃借人被告が賃貸人とされ

ていること,原告が本件建物を第三者に転貸し使用させることを目的とされていること,原告は被告に対し,その対価として一定の金額を支払うこと,契約期間が20年間と定められていることが認められ,本件契約書上も,千葉県地域特別賃貸住宅B型(借上B型)賃貸借契約書」と題されていること,第1条において「被告,原告が借上B型として,転貸することを承諾のうえ,物件を原告に賃貸する旨,第3条において被告は,本契約の締結と同時に原告から物件を賃借する旨定められていることが認められる。
これらの事実からすれば,本件借上契約における合意の内容は,被告が原告に対して本件建物を使用収益させ,原告が被告に対してその対価として借上料を支払うというものであるから,本件借上契約は建物の賃貸借であるというべきであり,特段の事由がない限り,借地借家法が適用されるというべきである。
(2)ア

ところで,被告は,特優賃制度の公的側面及び家賃等の設定・変更
に関する特別の定めがあることなどから,特優賃制度においては私的自治が排除されており,本件借上契約には借地借家法の適用はない旨を主張する。

確かに,地域特別賃貸住宅制度及びこれを受けた特優賃制度においては,中堅所得者等の居住の用に供する優良な賃貸住宅の供給の拡大という目的を達するため,公的な助成措置に伴う公的規制措置が存在し,その公共的な性格は否定できない。
しかしながら,地域特別賃貸住宅制度及び特優賃制度の公共的性格から直ちに私的自治の原則が排除されるというべきではなく,私的自治の原則の修正は,地域特別賃貸住宅制度及び特優賃制度の趣旨を維持するために必要な限度で考慮すべきものであると解される。
そして,地域特別賃貸住宅制度及び特優賃制度の趣旨は,上記のとおり中堅所得者等の居住の用に供する優良な賃貸住宅の供給の拡大という点にあるところ,本件借上契約に借地借家法を適用することによって上記制度趣旨が阻害されるということは考え難い。

また,特優賃法は,家賃及びその他賃貸条件に関する事項を,供給計画の必要的な記載事項とし,供給計画及びその変更は,知事の認定を要件としており(同法2条,5条)本件協定書,本件契約書の文,
言上においては,借上料は,家賃総額から管理経費を控除した額とされている。このことからすると,借上料の算定は,知事の認定に係る家賃が基礎となっているものと解されないではなく,借地借家法32条1項の賃料増減額請求が行使された場合,借上料と家賃との関係に齟齬が生じないか問題がないではない(この点については,3(2)で検討する。。しかしながら,特優賃法は,賃貸住宅の管理の方法につい)
ては,国土交通省令に適合することを供給計画の認定の要件とし(同法3条7号)同法施行規則(平成5年7月30日号外建設省令第1,
6号)15条は,管理の方法の基準として,賃貸人は,賃貸住宅の管理を行うために必要な資力及び信用並びにこれを的確に行うために必要な経験及び能力を有する者で都道府県知事が定める基準に該当する者に当該賃貸住宅の管理を委託し,又は当該賃貸住宅を賃貸すると規定しているのであって,管理の方法として,建物所有者と管理者による賃貸借契約が予定され,制度要綱は,これを受けて,公社借上契約型を千葉県における特定優良賃貸住宅の供給方式の一つとしているものである。これらの管理方法の規定の趣旨は特優賃制度の安定した運用を目的としていると解されるところ,特優賃制度が安定して運用されるためには,居住者に提供される建物の利用関係の安定が要請されるのであるから,建物賃借人を保護し,建物利用関係の安定を図るため,建物の賃貸借契約に関し,更新,解約の申入れによる賃貸借契約の終了,更新拒絶,対抗力,借賃増減額請求権,造作買取請求権,建物賃貸借終了における転借人の保護等について,民法の特則規定を設けている借地借家法の適用を排除することは予定されていないというべきであり,本件借上契約について,借地借家法の適用が排除されるとの被告の主張を採用することはできない。
3
争点(2)(借地借家法32条1項の適用の有無)について
(1)

上記のとおり,本件借上契約には借地借家法の適用がある以上,特段
の事由がない限り,強行法規である同法32条1項も本件借上契約に適用があると解するのが相当である。
(2)

上記特段の事由につき,被告は,本件借上契約においては,借上料は
家賃に連動して自動的に定まるとされており,変更が予定されているのは家賃のみであるから,借上料の変更について同条項が適用されることはない旨を主張する。

そこで,検討するに,前記前提事実及び上記認定事実によると,本件借上契約においては,次のような事実を認めることができる。
(ア)

本件契約書は,原告が被告に支払う借上料は,9条1項によ
って決定した家賃から,5条によって決定した管理経費(10%)を控除した額とする同6条1項)旨を,借上料の変更は,家賃(

及び管理経費の変更に応じて行い,前項を準用する。(同2項)旨

を定めている。また,本件協定書においても,借上料は,家賃から管理経費を控除した額とする(同19条1項)借上料の変更は,

家賃及び管理経費の変更に応じて行い前項を準用する(同2項)とされている。
(イ)

特優賃制度における家賃の設定,変更については,特優賃法,

同法施行令及び同法施行規則に定める限度額家賃の範囲内で,近傍同種の市場家賃を勘案し,認定事業者及び管理者が知事の承認を受けて決定することとされ(制度要綱24条)家賃の変更に際して

は,あらかじめ知事と協議して上記承認を受けなければならないとされており(制度実施要領16条2項)認定事業者及び管理者は

2年に1度を原則として特優賃住宅の家賃を変更することができるが,①物価の変動に伴い家賃を変更する必要があるとき,②近隣の住宅相互間の家賃の均衡上必要があるとき,③住宅に改良を施したときには,2年を経ずに家賃を変更することができる(同条1項)とされている。
(ウ)

特優賃制度における管理経費については,本件協定書は,管理

経費は家賃(この家賃は家賃総額を意味するものと解される。の

10%以下とする旨を規定していたB型制度要領第13条1項に基づき決定する(同18条)とされ,本件契約書では,原告が負担するものとし,その額は本件契約書9条に規定する家賃(家賃を変更した場合は,変更後の家賃であり,家賃総額の意味と解される。

の10%とし(円未満四捨五入)同法5条1項)物価その他経済


事情の変動に伴い必要があると原告が認めるときは,原告と被告が協議の上,管理経費を変更することができる(同条2項)と定められていた。特優賃法,制度要綱,制度要領に格別の規定はないが,案内書において,借上型の場合は,管理経費は家賃総額の12%とされている。

ところで,本件契約書6条2項及び本件協定書19条2項において,

借上料の変更は,家賃及び管理経費の変更に応じて行い,前項を準用する。とされているのは,本件契約書6条1項及び本件協定書1

9条1項で,借上料は,家賃から管理経費を控除した額とする」旨規定していることに鑑みると,変更後の家賃総額から変更後
の管理経費を控除するという意味で準用されているのであって,本件契約書及び本件協定書の文言上においては,借上料の変更は,家賃又は管理経費の変更を前提としていると認めるのが相当である(本件契約書6条2項,本件協定書19条2項の「及びは,家賃又は管理経費が変更となれば,借上料は変更されるのであり,家賃及び管理経費を同時に変更する旨の規定は存しないから,又は」と読むべきである。。)このように,本件契約書及び本件協定書の文言上は,借上料の変更は,家賃又は管理経費の変更を前提としていると認められるが,家賃及び管理経費は,本件借上契約における賃料とはいえず,原告が被告に対し,家賃及び管理経費を対象として,借地借家法32条1項に基づき,賃料減額請求をする余地はないものと解される。しかしながら,家賃については,制度要綱,制度実施要領において,管理経費については,本件契約書において,原告と被告の協議が前提ではあるものの,同条項が変更請求の要件としている「経済事情の変更を掲げており,家賃総額から管理経費を控除したものが借上料であること,この借上料が原告と被告との賃料の実質を有するものであることからすると,借上料の変更について,本件契約書及び本件協定書の文言上において,家賃総額又は管理経費の変更が前提となっているとしても,継続的契約関係にある建物賃貸借契約を締結している原告と被告との間において,借上料の減額請求をおよそ許容せず,同条項の適用を全面的に排斥することは,不動産利用関係を合理的に調整する見地から,契約後に生じた経済事情の変動に応じて既定の賃料を改定するために,公平の理念に基づいて設けられた同条項の立法趣旨に反することになると解され,相当ではないと解される。

もっとも,本件借上契約においては,借上料変更の前提として家賃の変更が予定されていると考えられるから,家賃の変更手続を経ることなく借上料が変更された場合,借上料から逆算して各戸別の家賃が定まる旨の規定は存在しないことから,借上料と家賃の関連性は切断されることとなるので,このことが地域特別賃貸住宅制度及び特優賃制度の趣旨にそぐわない結果とならないかについて検討する。
しかして,上記認定事実のとおり,入居者負担額は,家賃額から家賃減額補助額及び特別減額措置額を控除して定められ,家賃額から一義的に入居者負担額が決定されるものでないという意味では,家賃額と入居者負担額の関連性は必ずしも強いものではないということができる。そして,適正な入居者負担額が維持されているのであれば,仮に家賃額が近傍同種の家賃相場に比して不相当なものであったとしても,中堅所得者等の居住の用に供する優良な賃貸住宅の供給の拡大という地域特別賃貸住宅制度及び特優賃制度の趣旨は害されないと考えられる。また,仮に上記制度趣旨を害する事態が生じたとしても,県知事による家賃及び管理経費について,改善命令等の是正措置により,改善が可能である。
そうだとすると,借地借家法32条1項の適用により,家賃の変更を経ずに借上料が家賃と切り離されて決定されることとなったとしても,適正な入居者負担額が維持されている限りにおいて上記制度趣旨を害するとはいえないから,この点が減額請求権の行使を妨げる事情ということはできない。
なお,制度要綱24条においては,家賃の設定及び変更には県知事の承認が必要である旨規定されているところ,家賃の設定及び変更を行う主体は本件借上契約の当事者であって,県知事の承認があって初めて家賃の設定及び変更ひいては借上料の設定及び変更がなされ得るという関係にはなく,借地借家法32条1項の賃料減額請求の相当賃料の決定には,近傍同種の建物の賃料が参酌され,家賃にも反映されることとなると解されるから,県知事が承認しない事態は通常は考えられず,この点も減額請求権の行使を妨げる事情ということはできない。
そして,千葉県知事は,家賃の変更に関し,認定事業者及び管理者からの承認申請に対し,上記回答時までの運用において,県知事が承認しなかったことあるいは申請内容に変更を求めたことはないこと,家賃を変更する場合には,供給計画の変更の手続は必要ではないと回答しているところである。
(3)

また,被告は,入居者との関係では借地借家法32条1項の適用を前
提としない行政行為的な対応をし,他方被告との関係では同条項の適用を求めるという原告の態度は,著しく信義に反する旨を主張するが,原告が入居者等からの賃料減額請求を積極的に否定したような事情も見あたらない本件においては,原告の減額請求自体が著しく信義に反するものと認めることはできない。
(4)

さらに,被告は,本件調停は,原被告間の信頼関係及び信義則を完全
に否定するものであり,調停前置の要件を満たさない旨を主張するが,前記前提事実によって認められる本件訴訟に先立つ調停手続の経緯に照らし,また,原告は,本件調停申立後も,本件変更契約に基づく借上料を支払っていることに鑑みると,本件調停が信義則に反するものであり,当該調停手続が民事調停法24条の2第1項に定める調停前置の要件を満たさないものであると認めることはできない。
(5)

以上によれば,本件借上契約において借地借家法32条1項の適用を排すべき特段の事情は認められず,同条項が適用されるというべきである。
(6)

なお,前記前提事実のとおり,原告は,平成16年10月15日,被
告に対し,本件借上契約の解消に伴う円滑な手続の履行を求め,本件調停を申し立て,同年12月21日の調停期日で,同付け第1主張書面において,本件借上契約の解消を求めつつ,2次的に,本件借上契約の継続を前提として,家賃の変更,控除されるべき管理経費の率を80%に変更すること及び本件借上契約の一部解除を主張し,平成17年3月16日付け第2主張書面において,具体的な変更後の家賃額を主張するとともに,上記本件借上契約の一部解除の主張を撤回し,代替案として,本件建物の住宅の50%に相当する41戸については特優賃住宅としての用途を廃止し,原告において一般賃貸住宅として管理する旨の提案をしていたものであるが,平成16年12月21日の本件借上契約を前提とした予備的な家賃変更の申立て(本件意思表示)は,賃貸借契約関係の継続を全く断念したものであるとまでは認められず,借地借家法32条1項の意思表示としては有効であるというべきである。
4
争点(3)(借地借家法32条1項ただし書に該当する特約の有無)について
(1)

被告は,仮に借地借家法32条1項の適用があるとしても,本件借上
契約には借上料の変更は家賃及び管理経費の変更に応じて行う旨の規定があることから,原被告間には,入居者家賃の総額が変更されるまでは借上料を変更しない旨の合意(特約)が成立しており,これは同条項ただし書に該当する旨を主張する。
(2)

しかしながら,本件契約書6条2項の解釈は,前記のとおり,変更後の家賃総額から変更後の管理経費を控除するという意味で同条
1項が準用されていると解されるが,借上料の変更は,家賃の変更か,管理経費の変更が前提であることとなるから,家賃の変更がない場合も借上料の変更はあり得ることであること,また,家賃の変更を借上料変更の絶対条件とすることに実質的な意義を見出し難いことにも鑑みれば,本件契約書の上記規定をもって被告が主張するような合意が成立していたとまでいうことはできない。
(3)

そして,仮に,被告の主張するような合意が認められるとしても,借
地借家法32条1項ただし書の趣旨は,専ら賃借人保護のため,賃料増額請求権の行使を妨げる性質の不増額特約を尊重するというものであり,入居者家賃の総額が変更されるまでは借上料を変更しない旨の合意は専ら賃借人保護を目的とするものとは解されないから,上記合意をもって同ただし書の借賃を増額しない旨の特約に該当するということはできない。
(4)

以上から,本件借上契約において,借地借家法32条1項ただし書に
該当する合意の存在はこれを認めることができない。
5
争点(4)(特約に基づく賃料減額請求の可否)について
(1)

原告は,本件契約書6条2項及び9条2項の規定から,本件借上契約
に基づく借上料減額請求権が存在する旨,並びに同5条2項の規定から,本件借上契約に基づく借上料率の変更請求権が存在する旨を主張する。(2)

しかしながら,本件契約書9条2項においては,次の各号の一に該

当するときは,原告及び被告は協議のうえ2年毎に家賃の額を変更することができるものとする。旨が定められているに過ぎず,その文理上,

原告又は被告の一方的な家賃変更請求権を規定したものと解することはできない。本件借上契約においては,協議が整わなかった場合あるいは協議を経ていない場合の家賃及び借上料の変更については合意されていないといわざるを得ない。
したがって,本件借上契約上,一方的な家賃変更請求権を認めた規定は存在しないというべきであるから,特約に基づく借上料減額請求権は認めることができない。
(3)

また,本件契約書5条2項の規定(物価その他経済事情の変動に伴い必要があると原告が認めるときは,被告,原告協議のうえ,管理経費を変更することができる。)についても,同様に文理上原告又は被告の

一方的な管理経費の変更請求権を規定したものと解することはできないから,特約に基づく借上料率の変更請求権は認めることができない。(4)

よって,本件借上契約において,特約に基づく賃料減額請求を認める
ことはできない。
6
争点(5)借地借家法32条1項を適用した場合の減額の当否及びその額)(
について
(1)

上記検討したところによれば,本件借上契約には借地借家法32条1
項の適用が認められるところ,原告の借上料減額請求権の行使が,同条項の要件を具備しているか否か及び相当借上料額につき,以下検討する。しかして,同条項は,継続的法律関係である建物賃貸借契約における当事者間の利害を調節し,不動産利用関係を合理的に調整する見地から,契約後に生じた経済事情の変動に応じて既定の賃料を改定するために,公平の理念に基づいて設けられたものであるから,当事者が当初賃料額を決定する際の重要な要素となった事情その他契約締結後の事情等を総合的に考慮して,賃料増減額請求の当否及び相当賃料額を判断するのが相当であり,本件における借上料減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては,本件借上契約の借上料額が決定されるに至った経緯,原告の本件借上契約における収支予測にかかわる事情,被告の銀行借入金の返済の予定にかかわる事情,相当借上料額等を十分に考慮して判断すべきであると解される(最高裁平成12年(受)第537号,同574号同15年10月21日第三小法廷判決参照)

(2)

そこで,前記前提事実及び上記認定事実により,本件借上契約につき
検討する。

空室保証特約について
(ア)

本件借上契約において,原告は,入居者の有無にかかわらず,

被告に対して借上料を保証するとされており,本件借上契約締結前の原告の説明においては,借上料を保証額とし,借上方式のメ
リットとして,長期間にわたる家賃収入が保証され,空室リスクが生じない旨説明されていた。また,平成5年に原告が作成した案内書において,空室貸し倒れ保証について」は,借上型の場合,公

「社が全て保証します。と記載されていた。

これらの事実に照らせば,本件借上契約においては,仮に空室が
生じたとしても,原告は被告に対して満室時家賃を前提とした借上料を支払う旨の空室保証特約(以下空室保証特約という。が

存在し,被告はこの空室保証特約を前提に本件借上契約を締結したものと認められる。
(イ)

そうすると,本件建物に関して空室が生じた場合のリスクは全

て原告が負担するということが本件借上契約締結当時の原告及び被告の共通認識となっていたということができるから,その後の経済事情の変動によって空室が生じたとしても,安易にその負担を被告に転嫁させることはできないというべきである。
また,本件協定及び本件借上契約においては,入居者の募集及び
選定業務を原告が行うとされているところ,仮に空室の発生による損失を被告も負担せざるを得ないとなると,入居者の募集業務が適切に行われずに空室が発生した場合でも,被告がその責任を負担しなければならないという事態を容認することとなり,契約上の公平を失する結果となる。

本件借上契約において借上料額が決定された経緯について
(ア)

本件協定及び本件借上契約において,家賃は近隣の賃貸住宅の

家賃水準等を考慮して,原告及び被告が協議の上決定すること,借上料は家賃額の合計から管理経費を控除した額とすることとされており,本件借上契約において定められた家賃及び借上料は,それぞれ原告が提示した金額であり,被告が家賃及び借上料の決定に関して意見ないし要望を述べたことはなかった。
そして,原告は,特優賃住宅事業の管理者として,本件建物以外
にも特優賃住宅事業にかかわっており,本件借上契約の事業収支に関する長期予測も行っていることに照らせば,本件借上契約締結時,原告はその専門的立場において自ら収集した情報に基づき,収支予測及び空室リスクも考慮した上で,原告が適正妥当と判断した家賃及び借上料を被告に提示したものと認めるのが相当である。
(イ)

このような経緯に照らせば,原告は,空室保証特約の存在を前

提に,少なくとも損失を出さない程度の家賃額及び借上料額を提示し得る立場にあったのであるから,原告が本件借上契約締結当時に予測し得なかったような経済事情の変動が生じたのであれば格別,そうでなければ,原告が提示した金額に基づいて決定された家賃額及び借上料額は,安易に変更を認めるべきではない。

原告の本件借上契約における収支予測にかかわる事情について
(ア)

原告は,本件借上契約締結前,被告に対し,住宅の稼働率が少

なくとも5年度までは100%である(空室が生じない)ことを前提に,家賃は2年毎の更新の際に5%ずつ増額する見込みであるとの説明をしており,原告はその旨認識していたものである。
このことからすれば,原告は本件借上契約に基づく事業収支とし
て安定した収入が得られ,家賃総額も増額していくものと予測していたと考えられる。そして,本件建物において平成7年度以降空室が生じ,実際の家賃収入が被告に支払う借上料を下回る事態が生じたこと,原告の負担において特別減額措置を実施せざるを得なくなったことは,この予測に反した事態が生じたということができる。この点につき,原告も,空室ゼロの状態で初めて収支が均衡するという制度設計であった旨主張している。
(イ)

しかしながら,原告は,特優賃住宅事業の管理者として,本件

建物以外にも特優賃住宅事業にかかわっており,専門的見地から十分に収支予測を検討し得る立場にあったところ,本件借上契約が締結された平成4年3月29日当時はいわゆるバブル崩壊期であり,地価の下落が始まりつつあったこと,本件借上契約は少なくとも20年間という長期の契約期間が定められていたことなどに照らせば,長期的には賃料相場も下落傾向となり,逓減的な助成措置に伴い入居者負担額が漸増する特優賃制度の需要が減少するというリスクを原告において予測し得なかったと認めることはできないのであるから,そのリスクの可能性を全く考慮せず,空室が生じると収支が均衡しないという制度設計をしたことが合理的であるということはできない。
(ウ)

したがって,本件建物において平成7年度以降空室が生じ,実

際の家賃収入が被告に支払う借上料を下回る事態が生じたこと,原告の負担において特別減額措置を実施せざるを得なくなったことは,合理的な予測に反した事態であるということはできず,この点についての事情変更を過大視することは妥当でない。

被告の銀行借入金の返済の予定等にかかわる事情について
(ア)

原告は,本件借上契約締結前,被告に対し,投下資本回収が可

能となるのは事業開始から31年度,当期利益計上が可能となるのは事業開始から9年度,累積赤字解消が可能となるのは事業開始から27年度,不足金が解消となるのは事業開始から2年度の各時点であること,事業開始から20年度の借入金残は9億4381万4000円であることを説明し,被告は上記説明を前提に本件借上契約を締結したことが認められる。
これらの事実からすれば,本件借上契約締結当時の原告及び被告
の認識として,家賃が2年毎に増額され続けたとしても,本件借上契約締結から20年を経過した時点で借入金残が存在し,その後も相当期間にわたって返済する必要があると考えられていたものと認めることができる。
(イ)

他方,現在の被告の借入金の状況は,平成17年12月末時点

で残高合計8億5194万4011円であり,本件借上契約締結当時の借入金残予測よりは残高が少ない傾向にあるものの,今後も返済に相当期間必要であると考えられることに加え,当該金額については,修繕積立費及び収益から繰上げ返済されていること,平成7年及び平成13年に金利の低い京葉銀行への借換えが行われていることの影響も考慮すべきであることからすれば,この点に関して大きな事情変更があったということはできない。

相当借上料額について
(ア)

原告は,本件建物に関する現在の相当借上料額を,月額486

万2400円であると主張し,原告が提出した調査報告書(以下原告報告書という。においては,平成15年10月1日時点の本)
件建物の209号室の適正賃料は月額7万9000円(1219円/㎡)である旨,原告鑑定書においては,平成17年10月1日時点の本件建物の適正借上料額は月額333万6000円である旨評価されている。
(イ)

しかしながら,原告報告書及び原告鑑定書は,以下のような理

由で採用することができない。

原告報告書及び原告鑑定書においては,適正賃料の一つの試算
方法として差額配分法を採用している。差額配分法とは,対象不
動産の経済価値に即応した適正な実質賃料と実際実質賃料との間
に発生している差額について,契約の内容,契約締結の経緯等を
総合的に勘案して,当該差額のうち貸主に帰属する部分を適正に
判定して得た額を実際実質賃料に加減して試算賃料を求める手法
である。
しかるに,原告報告書及び原告鑑定書は,適正実質賃料と実際
実質賃料との差額について,契約の内容,契約締結の経緯等を総
合的に勘案して貸主帰属部分を求めずに,費用の面から借家人が
移転を決意する家賃額を別途求めており,差額配分法として適切
であるかにつき疑問がある。


また,原告報告書及び原告鑑定書は,スライド法によっても適
正賃料を試算しているが,原告報告書においては,建築費指数及
び新規の正常賃料の変動率を基準にスライド率をマイナス20%
としているのに対し,原告鑑定書においては,建築費指数及び地
価の下落率を基準にスライド率をマイナス10.6%としており,その参考割合は低いものの原告報告書で採用しなかった地価の下
落率を加味して算定している結果,スライド率の数値が原告報告
書と原告鑑定書で大きく異なっている。
原告報告書におけるスライド率が平成13年10月から平成1
5年10月までの2年間であり,原告鑑定書におけるスライド率
が平成13年10月1日から平成17年10月1日までの4年間
とされていることを考慮しても,上記スライド率の差異が合理的
に説明されているとは認め難い。

さらに,原告鑑定書においては,適正家賃の総額を614万4
000円とした上で,一括借上に伴う経費率(45.7%)を考
慮して本件における適正借上料額を333万6000円とされて
いる。
経費率の内訳としては,入居者募集業務に伴う費用として月額
支払賃料(上記適正家賃の総額)の1.7%相当額,入居者管理
業務相当額として月額支払賃料の5%相当額,建物等の維持管理
費として月額支払賃料の5%相当額,空室損失相当額として,月
額支払賃料の34%相当額(予測される空室率の半分程度)とさ
れている。
このように,原告鑑定書においては,経費率のうち空室損失相
当額が大きな比重を占めているが,本件における空室保証特約の
趣旨及び契約上の公平の観点に照らし,その後の経済事情の変動
によって空室が生じたとしても,安易にその負担を被告に転嫁さ
せるべきではないことは既に述べたとおりである。
したがって,空室損失の半分程度が経費であることを前提に算
定された原告鑑定書の適正借上料が合理的であるとはいえない。

(ウ)

他方,被告が提出した鑑定書(以下被告鑑定書という。


によれば,平成18年10月1日時点における適正借上料額は793万円である旨評価されている。被告鑑定書においては,比準賃料を定めるに当たり,原告報告書及び原告鑑定書が採用している賃貸事例よりも比較的高額な事例が挙げられており,この点は双方の鑑定書がそれぞれに有利な事例を援用しているものと理解されるが,その他の点に関しては,その評価過程に特段不合理な点はなく,基礎資料として客観的な統計資料を多用しており,比較的信用性が高いものと認められる。
(エ)

以上によると,原告が本件意思表示をした平成16年12月2

1日の時点の適正借上料額は,土地公示価格は減少傾向にあったことを勘案すると,平成18年10月1日時点よりも低い価格となることはないと解され,現行の借上料額である789万6600円と同程度か,仮にこれより低いとしても,大幅に乖離しているものではないと認めるのが相当である。

本件変更契約の締結について
原告及び被告は,平成13年10月1日,家賃及び借上料の金額を変更する旨の本件変更契約を締結し,これにより借上料額が従前より1か月当たり169万7400円減額された。本件変更契約の前である平成12年当時の本件建物の空室率は87.8%であったところ,原告としては,本件変更契約の際に,上記空室率を前提として適正な家賃額及び借上料額を提示し得たものである。したがって,本件変更契約後に生じた経済事情の変動が十分に考慮されるべきであるが,本件においては,本件変更契約後に新たな経済事情の変動が生じた旨の主張立証はなされていない。


小括
以上検討したところによれば,原告は,被告に対し,本件借上契約において,空室保証をしており,本件建物に関して空室が生じた場合のリスクは全て原告が負担するということが本件借上契約締結当時の原告及び被告の共通認識となっていたということができるから,その後の経済事情の変動によって空室が生じたとしても,安易にその負担を被告に転嫁させることはできない。そして,原告は,本件借上契約締結当時の経済状況に鑑み,バブル経済の崩壊による不動産価格の下落ひいては空室の発生を予測することが不可能ではなかったにもかかわらず,また,空室保証のリスクを前提とした家賃額,借上料額を提示できる立場にあったのに,これらのリスクを全く考慮しないか又は重大視せずに収支予測をし,これに基づいて家賃額及び借上料額を決定したものである。また,原告は,本件変更契約の際,当時の空室率を前提として適正な家賃額及び借上料額を提示し得た筈であるが,本件変更契約後に新たな経済事情の変動が生じたとの主張立証はない。他方,被告は,原被告間の空室保証特約を前提に,原告が提示した収支予測に基づいて借入金の返済を予定しており,かつ,一度家賃額及び借上料額の変更に応じているものである。そして,本件意思表示がなされた平成16年12月21日時点での相当借上料額は,上記のとおり,現行の借上料額と同程度か,これより低いとしても,大幅に乖離しているものではないと認められる。
このような事情に照らせば,本件においては,バブル経済の崩壊により不動産価格が下落したこと,本件建物において平成7年度以降空室が生じ,実際の家賃収入が被告に支払う借上料を下回る事態が生じたこと,原告の負担において特別減額措置を実施せざるを得なくなったことなどの経済事情の変動及び本件建物につき原告の負担において特別減額措置を行ったという原告に有利な事情を考慮しても,公平の観点から,借地借家法32条1項の不相当になったときには該当
しないというべきである。
したがって,本件においては,相当借上料額を検討するまでもなく,借地借家法32条1項に基づく原告の借上料減額請求を認めることはできない。

権利の濫用について
なお,被告は,本件借上料減額請求は,原告が破綻することが予見可能であった無理な資金計画を示し,借上料が減額される可能性も説明せず,被告に特優賃事業を勧誘したものであり,権利濫用である旨主張する。確かに,本件借上契約の締結の際し,特優賃制度を前提としてキで指摘したような事情を認めることができるが,このような事情をもって,本件借上料減額請求が,権利の社会性に反し,およそその行使を是認できず,権利の濫用とまでいうことはできない。
7
争点(6)(事情変更の原則の適用の有無)について
(1)

原告は,特定調停に関する事情及び特優賃住宅に関する事情その他本
件借上契約締結後の経済事情の変化に照らして,事情変更の原則により,借上料減額請求が認められる旨主張する。
確かに,本件においては,本件借上契約締結当時原告が予測していなかった空室が生じ,原告の特定優良賃貸住宅部門における累積赤字額も平成15年度決算額で約35億円に上ったという事情変更があったことは認められる。
(2)

しかしながら,事情変更の原則を適用するためには,契約締結後の事
情の変更が,当事者にとって予見することができず,かつ,当事者の責めに帰することのできない事由によって生じたものであることが必要であるところ(最高裁平成8年(オ)第255号同9年7月1日第三小法廷判決参照)上記のとおり,本件契約締結当時,いわゆるバブル経済の,
崩壊による不動産価格の下落及び本件建物における空室の発生は,原告において十分に予見することが可能であったと解される。また,原告に生じた累積赤字については,これが原告の責めに帰することのできない事由によって生じたものであると認めるに足りる的確な証拠はない。そして,本件においては,平成13年10月1日に家賃及び借上料について本件変更契約が締結されていることなどにも鑑みれば,原告が主張するその他一切の事情をもってしても,当初の本件借上契約の内容及び本件変更契約の内容に契約当事者を拘束することが信義則上著しく不当と評価するに足りない。
したがって,本件において,事情変更の原則に基づく原告の借上料減額請求は認められない。
第4

結論
以上のとおりであって,原告の本訴請求は,理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

千葉地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官
菅原城内崇
裁判官
和昭
裁判官内藤和道は,転補のため,署名押印することができない。

裁判長裁判官

菅原崇物所在件目録
千葉市a区bc丁目d番地e

家屋番号

2番6

種類
共同住宅

構造
鉄筋コンクリート造陸屋根8階建

床面積

1階

781.72㎡

2階

730.43㎡

3階

730.43㎡

4階

730.43㎡

5階

730.43㎡

6階

730.43㎡

7階

599.97㎡

8階

534.74㎡
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