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住基ネット受信義務確認等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成16年(行ウ)第372号)
事件番号平成18(行コ)119
事件名住基ネット受信義務確認等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成16年(行ウ)第372号)
裁判年月日平成19年11月29日
法廷名東京高等裁判所
判示事項1 都の特別区が,都に対し,住民基本台帳ネットワークシステムの導入に当たり住民基本台帳法30条の5第1項所定の本人確認情報(以下「本人確認情報」という。)を都へ通知することを受諾した者のみに係る本人確認情報を都に送信する場合に,都に同情報を受信する義務があることの確認を求めた訴えが,法律上の争訟に当たらず,不適法であるとされた事例
2 都の特別区が住民基本台帳ネットワークシステムの導入に当たり住民基本台帳法30条の5第1項所定の本人確認情報(以下「本人確認情報」という。)を都へ通知することを受諾した者のみに係る本人確認情報を都に送信する場合に,都が同情報の受信義務を怠り,国が前記受信義務を履行しない都に対して適切な指導,監督等を行わなかったことが違法であるなどとして国家賠償を請求する訴えが,法律上の争訟に当たるとされた事例
3 都の特別区が住民台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)の導入に当たり住民基本台帳法30条の5第1項所定の本人確認情報(以下「本人確認情報」という。)を都へ通知することを受諾した者(以下「通知希望者」という。)のみに係る本人確認情報を都に送信する場合に,都は同情報の受信義務を負っているにもかかわらずこれに応ぜず,国は前記受信義務を履行しない都に対して住民台帳基本法31条1項及び2項に基づき必要な協力をするよう適切な指導,監督等を行うべき立場にあったにもかかわらずこれを履行しなかったほか,通知希望者のみに係る本人確認情報の送信を前提とする他市の住基ネットの参加方式は違法である旨の誤った法解釈を都に対して示した行為はそれぞれ違法であるとして,都の特別区が都及び国に対して提起した各国家賠償請求が,それぞれ棄却された事例
裁判要旨1 都の特別区が,都に対し,住民基本台帳ネットワークシステムの導入に当たり住民基本台帳法30条の5第1項所定の本人確認情報(以下「本人確認情報」という。)を都へ通知することを受諾した者のみに係る本人確認情報を都に送信する場合に,都に同情報を受信する義務があることの確認を求めた訴えにつき,前記訴えは,市町村が都道府県知事の行為が帰属する都道府県に対して住民基本台帳法に基づく市町村長の本人確認情報の送信に対応する都道府県知事の受信義務の確認を求めているものということができ,その実質において市町村長及び都道府県知事の住民基本台帳法に基づくそれぞれの権限の存否又は行使をめぐる訴訟であり,行政事件訴訟法6条にいう機関訴訟であるというべきであるから,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらず,また,このような紛争の審判を裁判所の権限とする特別の定めも存しないとして,前記訴えを不適法とした事例
2 都の特別区が住民基本台帳ネットワークシステムの導入に当たり住民基本台帳法30条の5第1項所定の本人確認情報(以下「本人確認情報」という。)を都へ通知することを受諾した者のみに係る本人確認情報を都に送信する場合に,都が同情報の受信義務を怠り,国が前記受信義務を履行しない都に対して適切な指導,監督等を行わなかったことが違法であるなどとして国家賠償を請求する訴えにつき,前記訴えは,損害賠償請求権の存否をめぐる紛争であって,原告が財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるものであり,自己の権利利益の保護救済を目的とするものであるから,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たるとした事例
3 都の特別区がいわゆる住民台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)の導入に当たり住民基本台帳法30条の5第1項所定の本人確認情報(以下「本人確認情報」という。)を都へ通知することを受諾した者(以下「通知希望者」といい,これを受諾しなかった者を「非通知希望者」という。)に係る本人確認情報を都に送信する場合に,都は同情報の受信義務を負っているにもかかわらずこれに応ぜず,国は前記受信義務を履行しない都に対して住民台帳基本法31条1項及び2項に基づき必要な協力をするよう適切な指導,監督等を行うべき立場にあったにもかかわらずこれを履行しなかったほか,通知希望者のみに係る本人確認情報の送信を前提とする他市によって採られている住基ネットの参加方式は違法である旨の誤った法解釈を都に対して示した行為はそれぞれ違法であるとして,都の特別区が都及び国に対して提起した各国家賠償請求につき,都の特別区が都に対し通知希望者のみに係る本人確認情報の送信を行い,非通知希望者に係る本人確認情報の送信を行わないとする扱いは,住民基本台帳法30条の5第1項及び第2項に違反し許容されない以上,都には都の特別区が送信する通知希望者のみに係る本人確認情報を受信すべき義務は存せず,通知希望者のみに係る本人確認情報の送信を前提とする他市の住基ネットの参加方式は違法というべきであるから,都及び国の前記各行為には何ら違法性はないとして,前記国家賠償請求をそれぞれ棄却した事例
裁判日:西暦2007-11-29
情報公開日2017-10-19 19:09:04
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主1文
本件控訴及び控訴人の当審における追加請求をいずれも棄却す
る。

2
控訴費用は控訴人の負担とする。

第1

実及び理由
控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人東京都は,当該情報を被控訴人東京都へ通知することを受諾した杉並区の住民に係る住民基本台帳法(平成11年法律第133号による改正後のもの。以下住基法という。
)30条の5第1項所定の本人確認情報(以下
本人確認情報という。
)を,控訴人が被控訴人東京都に対して住民基本台
帳ネットワークシステム(以下住基ネットという。
)を通じて送信する場
合,これを受信する義務を有することを確認する。

3
被控訴人らは,控訴人に対し,各自1億0106万9421円並びに内金4476万9677円に対する平成16年9月17日から,内金5629万9744円に対する,被控訴人国につき平成18年6月3日から,被控訴人東京都につき同月6日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4
訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

5
仮執行宣言

第2

事案の概要

1
本件の事案の概要は,原判決の事実及び理由第二の一記載のとおりであり,住基ネットの導入に当たり,控訴人(住基法上の送信主体である杉並区長を含む。以下同じ。
)が,住基ネットには個人情報の流出等の危険が存在する
として,被控訴人東京都(住基法上の受信主体である東京都知事を含む。以下同じ。
)に対し,住基ネットの安全性が確認されるまでの間,本人確認情報を被控訴人東京都へ通知することを受諾した者市町村長特別区の区長も含む。(


以下同じ。
)から都道府県知事へ本人確認情報を通知することを受諾した者を通知希望者といい,これを希望しない者を非通知希望者という。
)に
係る本人確認情報のみを通知し,非通知希望者に係る本人確認情報を通知しない方式によって住基ネットへ参加することを申し入れたところ,被控訴人東京都がこれを拒否したため,杉並区民のうちの通知希望者に係る本人確認情報を住基ネットを通じて送信する場合に被控訴人東京都はこれを受信する義務があると主張して,被控訴人東京都に対しその受信義務の確認を求め(以下本件確認の訴えという。,また,被控訴人東京都は上記受信義務を怠り,被控)
訴人国は被控訴人東京都に対して適切な指導を行わないばかりか控訴人に対し横浜市に対する対応と異なった対応をしたため,それぞれ控訴人に損害を与えたなどと主張して,被控訴人らに対し,国家賠償法1条に基づき各自4476万9677円の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成16年9月17日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(以下本件国賠請求という。
)ものである。
原審は,本件確認の訴えは裁判所法3条の法律上の争訟に当たらないから不適法であるとして却下し,本件国賠請求については,控訴人が通知希望者に係る本人確認情報のみを送信すること自体が住基法に反するものであり,被控訴人東京都には通知希望者に係る本人確認情報の受信義務はないから,被控訴人東京都が受信を拒否したことに違法性はなく,また,被控訴人国も,被控訴人東京都に対し適切な指導を行わなかったということはできず,いわゆる横浜方式と異なる対応をしたことにも違法性はないとしていずれも棄却したため,控訴人がこれを不服として控訴した。そして,控訴人は,当審において,本件国賠請求に係る請求を追加的に変更し,
被控訴人らに対し,
従前の請求に加えて,
各自連帯して5629万9744円の損害賠償及びこれに対する訴えの変更申立書送達の日の翌日(被控訴人国については平成18年6月3日,被控訴人東京都については同月6日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金の支払を求めた。
2
本件における関係法令の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり訂正するほか,原判決の事実及び理由第二の二ないし五に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決14頁8行目末尾の次に改行して次のとおり加える。

(3)横浜市本人確認情報等保護審議会は,平成18年3月10日以降,横浜市長の諮問を受けて3回にわたり住基ネットの総合的な安全性について審議を行った結果,同年4月25日,同審議会会長から同市長に答申が提出された。横浜市は,同年5月10日,「住基ネットの総合的な安全性について,「横浜市本人確認情報等保護審議会からの答申や市会からの意見なども踏まえ,庁内で慎重に検討した結果,住基ネットは総合的に見て安全であると判断し,住基ネットに全員参加する」旨を表明し,全面的に住基ネットに参加することとなった。
(乙20,21,
弁論の全趣旨)

(2)

原判決16頁15行目末尾の次に改行して次のとおり加える。

(10)杉並区長は,平成18年9月15日,杉並区調査会議に対し,現時点において,住基ネットについて制度面,技術面及び運用面などあらゆる面で総合的な安全性を確認することができるかどうかを諮問したところ,杉並区調査会議は,同年11月15日,住基ネットの総合的な安全性を確認するには至らなかったとの結論に達した旨を報告した甲70,(71)。
3
控訴人の当審における追加主張
(1)

本件確認の訴えの法律上の争訟性(争点1)について
平成14年最高裁判決の射程距離
昭和56年最高裁判決ほかがいう法律上の争訟の定式は,①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,②法令の
適用により終局的に解決できるものに限られるから,本件のような行政主体相互間の訴訟については,その財産権の主体性の有無及び法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするか否かにかかわらず,上記定式①及び②の要件に該当する限り,
法律上の争訟に該当するというべきである。
平成14年最高裁判決は,
地方公共団体対国民間の訴訟事案であったから,
その射程距離を限定的に理解することも可能であったが,原判決は,その射程距離を拡張し,本件のような地方公共団体相互間の訴訟にまで,財産権の主体性及び訴訟の目的が法規の適用の適正を目的とするか否かを法律上の争訟の要件とした点において誤りがある。最高裁平成14年判決の射程距離は,専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟に限定すべきであるから,本件確認の訴えのような行政主体相互間の訴訟は,その財産権主体性の有無,訴訟目的いかんにかかわらず,上記①及び②の定式に該当する限り,法律上の争訟に該当する。イ
財産権主体性
(ア)

データ送信事務
平成14年最高裁判決は,行政権主体としての地方公共団体と財産権
主体としてのそれを概念的に区別しているものの,その趣旨ないし両者の範囲・限界は必ずしも明瞭ではなく,実態からしても,地方公共団体が権利行使するに当たって,両者のいずれかに截然と区分し難い中間領域があり得るはずであり,これをすき間なく理解しようとすれば,平成14年最高裁判決にならって,行政権主体性を厳格に,他方,財産権主体性をより広く解し,地方公共団体が提起する訴訟であって公権力的な行政権主体性を脱する非権力的な事業行政に関するものは,広義の財産権主体として法律上の争訟に当たると解すべきであり,また,行政権主体としての行為が同時に財産権主体としての行為である場合には,財産権主体としての行為と見るべきである。

住基法に基づいて控訴人が被控訴人東京都に区民の本人確認情報を通知することは,確かに住民票管理行政における法定権限の行使ではあるが,その法定手段は,住民票の記載,消除や第三者閲覧等の許可が市町村長の行政処分であるのとは異なり,専ら行政の事実行為である。しかも,それはコンピュータネットワークシステムを通じたデータ送信という電気通信事業活動にほかならず,住基ネットの場合,区,市等における既存の住基マスターシステムとは別に新規のコミュニケーション・サーバをセットし,被控訴人東京都の同種サーバとの間で専用回線による送受信をするという仕組みであるから,それ自体住民票管理行政事務からは相対的に独立したIT処理の事務事業にほかならない。それゆえ,その実態は,
電気通信事業活動として民間私企業におけるデータ・
ネットワーキングと同様であり,住基ネットのデータ送受信は,非権力的な事業行政の中でも,公の施設の管理の場合以上に,私企業の事業活動に類似しており,財産権主体としての行為に当たるといえるから,本件確認の訴えにつき法律上の争訟性を認めるべきである。
(イ)

代替サービスの費用負担
控訴人は,通知希望者である区民が住基ネットサービスを受けられな
いために,代替サービスの費用を予算執行せざるを得ない立場にあるから,その支出額などは明らかに法人自治体にとって損害に当たる。控訴人が,当該損害発生の継続を防止するため,原因たる住基ネット送信の権利を被控訴人東京都に主張することは,控訴人の自己法益と解され,被控訴人東京都に対し受信義務の存在確認を求めること自体が上記損害発生の継続を防止するという自己法益実現の側面を有するというべきであるから,本件確認の訴えは法律上の争訟に当たる。
(ウ)

区民の権利代位
控訴人による住基ネットへのデータ送信は,住基ネットサービスを希
望する区民の権利に代位して,基礎自治体(地方自治法2条3項,281条の2第2項)がその関係予算執行を有効ならしめるために行う権利行使であり,これに対し,被控訴人東京都には,広域自治体(同法2条5項,281条の2第1項)として広域の電気通信事業を全うすべく受信する義務が存する。
すなわち,地方自治法10条2項は,
住民は,法律の定めるところにより,その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有しと規定しており,住基法が住民の利便増進をも目的としていることからすると,住基ネットを通じて遠隔地での住民票を取得するなどの住基法上規定されている行政上の役務提供を受けることのできる権利(住基ネットサービス享有権)は,同項及び住基法において保障されているというべきである。また,控訴人が本来住基ネットによる行政サービスを受け得べき立場にある区民の住基ネットサービス享有権の実現に配慮し,住基ネットへの参加を希望する区民に対し無料で住民票を交付するなどの措置を取ることは,基礎自治体として区民からの付託を受けて行政サービスを提供すべき立場にある控訴人自身の責務といえる。したがって,地方公共団体は,
その事務処理に当っては,住民の福祉の増進に努めるべきことを定めた地方自治法2条14項等の規定,ひいては,地方自治を保障した憲法92条以下の規定を根拠に,住民のかかる権利を実質的に代位し得る立場にあるというべきであるから,控訴人が杉並区民の権利を代位して住基法上の役務の提供を受けるべく,被控訴人東京都に受信義務の確認を求める訴えは適法である。
(2)

被控訴人東京都の受信義務(争点4)について
住基法の合憲的限定解釈又は適用違憲
住基法30条の5第1項を次のとおり国民のプライバシー権を保障した憲法13条に適合するよう合憲的限定解釈をするならば,控訴人は,非通
知希望者に係る本人確認情報について被控訴人東京都に対し通知義務を負わず,他方,被控訴人東京都は,控訴人から送信された通知希望者に係る本人確認情報の受信義務があると解すべきである。
また,控訴人は,住基ネットへの参加及び不参加を希望する住民の要望を踏まえて,通知希望者に係る本人確認情報だけを被控訴人東京都に送信しようとしたもので,このような措置は,本人確認情報の収集・利用についての住民の同意を尊重する点において憲法上のプライバシー権保障を意図したものといえるが,被控訴人東京都は,住基法の定めに反することを理由に今日まで受信を拒否している。仮に被控訴人東京都が控訴人の選択的送信を受信するならば住基ネットの運用は合憲といえるが,被控訴人東京都が住基法の適用を理由に受信を拒否するのであれば,上記憲法上の権利の保障を実現しようとする地方公共団体の活動を阻む点において,住基法の適用は違憲といわざるを得ない。
(ア)

憲法13条によるプライバシー権(自己情報コントロール権)の保

個人のプライバシー権は,憲法13条の生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利に含まれる新しい人権として保障されており,広義のプライバシー権には,その重要な柱の一つとして,自己に関する情報の流れをコントロールする利益が含まれており,これを自己情報コントロール権ということもできる。
(イ)

本人確認情報の要保護性
住基ネットにおいて送信される本人確認情報は,他者にみだりに開示
されるべきではなく,みだりに開示されないことに対する期待は保護されるべきである。特に,秘匿の必要性は個々人によって様々であり,ストーカー被害に遭っている人にとっては住所を秘匿されるべき必要性は高いし,性同一性障害により生物学的な性と異なる性で社会生活を送っ
ている人には性別について秘匿されるべき必要性が高く,通名で社会生活を送っている人のうちにはそれが戸籍上の氏名でないことを知られたくない人がいるであろうし,生年月日をむやみに人に知られたくないと思う人も少なくない。また,住民票コードは,住民票コードが記載されたデータベースが作られた場合には,検索,名寄せのマスターキーになるものであるから,これを秘匿する必要性は高度である。さらに,上記変更情報は,婚姻,離婚,養子縁組,離縁,氏名の変更,戸籍訂正等の身分上の重要な変動があったことを推知させるものであるから,秘匿する必要性も軽視できない。したがって,本人確認情報は,プライバシーに係る情報として法的保護の対象になるというべきである。
(ウ)

非通知希望者のプライバシー権の侵害
行政との関係での利便性よりも,住基ネットからの個人情報の流出等
の危険を重視しようと考える住民にとっては,住基ネットにおいて本人確認情報が送信されることはプライバシー権の侵害に当たる。
すなわち,
住基ネットと個人情報の扱いについては,住基ネットからの個人情報の流出等の危険は心配する必要はないと考えるか,その危険があるとしても行政との関係での利便性を重視しようと考える住民(A群)と,行政との関係での利便性より住基ネットからの個人情報の流出等の危険を重視しようと考える住民(B群)とがいるが,プライバシー権が個人の権利である以上,その行使は各個人の自由であるから,A群がその考え方をプライバシー権を放棄しないB群に対して強制することはできないし,その逆もできないはずである。
(エ)

住基ネットの目的及び必要性
住基ネットの目的及び必要性は,以下のとおり住民のプライバシー権
を犠牲にしてもなお達成すべきものとは評価できない。

本人確認情報の一部は,秘匿を必要とする程度が相当高く,住基ネ
ットのセキュリティは,不正アクセスや情報漏洩の危険を否定できないものであり,住基ネットの運用によって個人の人格的自律を脅かす具体的危険があるから,それによるプライバシー権の侵害は相当に深刻である。そのような住基ネットからの情報流出の危険性は,北海道斜里町における職員の業務用パソコンからのバックアップデータの持ち出しに伴う情報漏洩事件(甲58の1,2)
,福島県塙町において
配布した招待者名簿に住民票コードが付されていた事件甲59の1,(
2)
,北海道帯広市における職員の不正閲覧事件(甲60の1,2)
の発生からも裏付けられる。
したがって,住基ネットによる個人情報の流通・利用につき,B群との間では,住基ネットの運用によって達成しようとしている行政目的が正当であること,住基ネットを運用することについて住民のプライバシー権を犠牲にしてもなお達成すべき高度の必要性があることを必要とすべきである。

住基ネットの目的の正当性として,地方自治情報センターから行政機関に本人確認情報が提供されることによる住民負担の軽減と行政事務の効率化については,住民1人1人の立場から見た場合,負担解消の程度はささやかである。住民基本台帳事務の簡素化,広域化による住民負担の軽減と行政事務の効率化については,住民が住所地市町村(特別区も含む。以下同じ。
)以外の市町村で住民票の交付を受ける
ことができるメリットを享受する機会がどの程度あるか疑問であるし,転入届出の際に転出証明書の添付を要しないとしても,付記転出届をすることが必要であること,従前から転出届の郵送送付,転出証明書の郵送送付を利用して転出市町村に出頭しない方法もあり,住民が転居する場合には,国民健康保険,介護手当等の様々な手続のために転出地の市町村役場に出向く場合が多いことなどにかんがみると,
そのメリットはさしたるものではない。また,電子政府,電子自治体の基盤として,公的個人認証サービスにおいて住基ネットが重要な役割を担うものとされているところ,電子署名の格納媒体は住基カードである必要はないから,公的個人認証サービスに住基ネットが不可欠とはいい難いし,オンライン申請,届出の必要性が高いと思われる企業や外国人は住基ネットを使えないから,これらについては別なシステムを使う必要がある。さらに,オンライン申請,届出に民間事業者が発行する電子証明書を使うことが可能であることからすると,公的個人認証サービスが必要不可欠ともいい難いし,住基カードによる住民の便益についても,必要があれば各地方公共団体でカードを作ればよいのであって,全国共通規格のICカードでなければならないとする必然的理由はない。

以上によれば,住基ネットの目的は,詰まるところ住民の便益
と行政事務の効率化であるが,住民の便益とプライバシー権はい
ずれも個人的利益であり,そのどちらの利益を優先させて選択するかは各個人が自らの意思で決定すべきものであり,行政において住民の便益を理由にこれを押しつけることはできない。また,行政事務の効率化というのは,突き詰めれば経費削減であり,その点について試算がされているが,それは住民の半数が住基カードを所持することを前提とするものであり,住基カードの現実の普及率にかんがみると参考に値しないというべきであるから,住基ネットの経費削減効果は未知のものであり,それがなければ達成できないというものでもなく,電子政府,電子自治体の実現のために必要不可欠なものとまではいえない。それゆえ,住基ネットの住民の便益及び行政事務の効率化
という行政目的に一定の正当性が認められるとしても,上記B群の自己情報コントロール権を犠牲にしてまで達成すべき必要性があるとはいえない。

加えて,
さいたま地裁における調査嘱託の結果甲61ないし65)

によれば,各地方公共団体のセキュリティ対策は極めて不十分である上,行政の効率化という観点からすると,住基ネットの導入は,地方公共団体において経費の削減に結びつかず,かえって経費の負担の増大をもたらすものであることが明らかとなった。すなわち,各地方公共団体は,住基ネットの導入に伴う莫大な初期投資費用の支出を必要としたのみならず,その運用によって,各地方公共団体は毎年膨大なリース料,レベルアップ・システム改修費用,保守運用支援費用等の支出を余儀なくされたのに対し,削減された経費は転入通知に係る郵便料及び印刷費程度であり,経費削減効果はほとんどない。しかも,大半の地方公共団体において住基カードの独自利用の計画もないということである。このように住基ネットによる行政の効率化効果は存しないのであるから,非通知希望者の意思を排し,そのプライバシー権を危険にさらしてまで,実現していかなければならない行政目的は存しないというべきである。

(オ)

まとめ
以上の諸点からすると,住基ネットによる本人確認情報の流通利用に
ついては,B群との関係ではそれら住民のプライバシー権を侵害するものであり,それら住民の本人確認情報を住基ネットにより流通利用することは違憲とならざるを得ないから,控訴人が被控訴人東京都に対し,住基ネットを通じて非通知希望者に係る本人確認情報を通知することは,非通知希望者との関係で憲法13条に違反する。そこで,住基法30条の5第1項を憲法13条に適合するように合憲的限定解釈をすれば,控訴人が被控訴人東京都に対し住基ネットを通じて送信することが許されるのは,通知希望者に係る本人確認情報のみであり,非通知希望者の本人確認情報については被控訴人東京都に対し通知義務を負わないことになるから,その結果,被控訴人東京都は,控訴人が送信した通知希望者に係る本人確認情報の受信義務を負うと解すべきである。

住基ネットの違憲性又は違法性に関するその他の主張
(ア)

選択式又は離脱の自由を認めないこと
個人情報保護法制上の不備
行政機関個人情報保護法は,
相当の関連性があれば個人情報の
利用目的の変更を広く認めており(3条3項)相当な理由があ

れば目的外の利用と提供も広範に許容し(8条2項)
,個人情報ファ
イル簿の作成・公表に数多くの例外を認めており(11条2項)
,不
開示情報の類型を設定し,本人情報の開示・訂正等の権利が及ばない例外を広範囲に列挙している(14条)
。さらに,民間にさえ課して
いる適正取得のルールが定められておらず,当初の法案への修正で加えられた規律違反への罰則も,コンピュータ処理された個人情報ファイルの提供,不正目的での個人情報の提供・盗用,職権濫用による個人の秘密情報の収集など最小限にとどまるし53条ないし55条)(

センシティブ情報の収集禁止規定も設けられていない。


名寄せの危険性
住基ネットの導入によって,データベース内における検索が極めて容易になり,行政機関が収集保存している膨大な個人情報をデータマッチングし,住民票コードをいわばマスターキーのように使って名寄せすることにより,個人情報を共同利用することが可能になった。このように住基ネットは,名寄せの危険性のある制度であり,様々な行政機関がそれを行う主体となり得ることが問題であり,特に監視社会においては,名寄せによる過剰な住民管理によるプライバシーと人間の尊厳の深刻な侵害をもたらす危険性が高い。

プライバシー権の制度的保障の本質的欠如
全国民の個人情報をコンピュータで中央集権的一元的に管理する住基ネットのシステムは,大量の個人情報が漏洩され,不正使用される危険を格段に高めるだけではなく,
個人の情報が過度に官に管理され,
乱用される危険も大きい。
しかるに,
住基ネットについては,
制度上,
行政事務の処理に際し個人情報を広く共同利用されることにつき国民に同意を求めたり国民が選択権を行使できるなどの仕組みを欠くなど,プライバシー権の制度的保障が本質的に欠如している。それでもなお住基ネットへの参加を個人に無理やり強制することは,プライバシー権を侵害し,個人の尊重と基本的人権の精神に根本的に背馳することといわなければならない。住基ネットは飽くまでも地方公共団体共同のネットワークであるとすれば,住民の個人情報の保護に責任を負う地方公共団体は,自らの主体的判断で住基ネット参加の是非を判断できる機会を保障されるべきであり,この結果として地方公共団体が不参加を決断したり,個々の住民の選択にゆだねる方式を採用したとしても,それは憲法が保障する地方自治権の正当な行使といえる。
(イ)

独立かつ公平な第三者機関が設置されていないこと
住基ネットによるプライバシー権侵害の具体的危険の発生を回避する
ためには,各行政機関における個人情報の取扱いをチェックする独立かつ公平な第三者機関,すなわち,住基法上の業務と全く無関係のネットワーク全体について公平かつ独立で実効的な監視権限をもつ第三者機関の設置が要請されるが,そうした制度が存在しない現状では,住民は,自分の情報を守るための最終手段として,住基ネットからの離脱を選択する自由が保障されるべきことが,憲法上のプライバシー権保障の帰結である。そうすると,控訴人が被控訴人東京都に対し,住基ネットを通じて本人確認情報を送信するに当たって,非通知希望者に係る本人確認情報を送信せず通知希望者に係るそれのみを送信することは憲法に適合することであるから,住基法30条の5はこのような取扱いを許容していると解される。よって,被控訴人東京都は,通知希望者に係る本人確認情報の受信義務を負っており,受信しないことは住基法30条の5に違反する。
(3)

損害額(争点7)について
住基ネット設備関連費用
控訴人は,平成14年8月5日の住基ネット第1次稼働に向けた準備として,平成13年度中の平成14年2月1日,P1株式会社との間でCSを始めとする住基ネット関連機器等の賃貸借契約を締結し,平成14年度においても継続して上記機器を賃借した。控訴人は,同年8月1日,確固とした個人情報保護のための法制度が整備されるまで住基ネット第1次稼働日に参加しない旨を表明したが,参加のための条件が整備された場合には直ちに住基ネットに参加できるようにするため,平成15年度においても上記機器の賃貸借契約を継続した結果,P1株式会社に対し,同年度及び平成16年度は毎月84万2940円,平成17年度及び平成18年度は毎月8万4294円を支払った。よって,控訴人は,横浜方式による住基ネットへの参加を認めない被控訴人らの違法行為により,上記の不要な賃借料の負担を余儀なくされたものであり,平成15年6月4日から平成18年3月31日までの期間に対応する賃借料相当額1947万1914円の損害を被った。


転入転出手続上の郵便費用
控訴人が横浜方式での住基ネットへの参加が可能であれば,通知希望者のうちの住基カード交付者について,市町村間の住基ネットを通じたデータ送信により転入地市町村から転出地市町村への転入通知の処理が可能になる。ところが,控訴人は,被控訴人らによって横浜方式での住基ネットへの参加を妨害されているため,控訴人に転入する住民については控訴人の費用で転入通知を転出地市町村役場へ郵送せざるを得ず,逆に,転入地市町村は,控訴人から移住してきた住民について控訴人への転入通知の郵送を強制されるため,控訴人において,区外へ移住する住民に対し転出証明書と併せて受取人払用封筒を交付せざるを得ない。したがって,平成15年8月から平成18年3月までの間における上記転入通知郵送費用及び受取人払郵便費用の合計921万5440円が,被控訴人らの違法行為により控訴人が被った損害ということになる。

住民票無料交付費用
控訴人は,被控訴人らから住基ネットへの参加を妨害されているため,住基ネットを通じた本人確認手続ができず,杉並区民によるパスポート申請や所定の資格試験に際しては必ず住民票が必要となり,区民は住民票手数料を強制的に負担させられることになるので,
控訴人がこれを負担した。
よって,その手数料総合計額から非通知希望者割合(16.86パーセント)を減額した金額,すなわち,平成15年6月4日からの上記用途による住民票交付数6万8024通×単価300円×(1-0.1686)=1696万6545円が,被控訴人らの違法行為により控訴人が受けた損害である。


人件費
控訴人は,横浜方式による住基ネットの参加により,住基ネットを利用した転入通知の事務処理が可能になり,これに要する時間を短縮することができ,また,住民票の写しの提出も不要になるから,それに伴う住民票交付事務処理時間が短縮されるが,被控訴人らの違法行為により上記参加を妨害されている。よって,控訴人は,平成15年6月4日から平成18年4月5日までの1037日の削減可能であった人件費相当額5447万7922円の損害を,また,区民の転入転出が多い3月ないし4月の繁忙期に人員不足に陥り,転入転出手続事務補助としてアルバイトを採用せざるを得なくなったため,平成16年から平成18年まで各3月分のアルバイト報酬相当額93万7600円の損害をそれぞれ被った。

損害額合計
以上のとおり,被控訴人らの違法行為により控訴人が被った損害は合計1億0106万9421円である。

第3

判断
当裁判所も,控訴人の被控訴人東京都に対する本件確認の訴えは法律上の争訟に当たらないから不適法であり却下を免れず,控訴人の被控訴人らに対する本件国賠請求は当審における追加請求を含めいずれも理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり,原判決を訂正し,及び控訴人の当審における追加主張に対する判断を付加するほか,原判決の理由説示(事実及び理由第三)のとおりであるから,これを引用する。

1
本件確認の訴えの法律上の争訟性(争点1)について
争点1に関する控訴人の当審における追加主張に対する判断は,次のとおりである。
(1)

平成14年最高裁判決の射程距離
控訴人は,平成14年最高裁判決の射程距離は,専ら行政権の主体として
国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟に限定すべきであるから,本件確認の訴えのような行政主体相互間の訴訟は,その財産権主体性の有無,訴訟目的いかんにかかわらず,①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,②法令の適用により終局的に解決できるものという定式に沿うものであれば,法律上の争訟に該当すると主張する。しかしながら,平成14年最高裁判決は,
行政事件を含む民事事件において裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟,すなわち当事者間の具体的な権利義
務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,かつ,それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる」
との判示に続けて,国
又は地方公共団体が提起した訴訟であって,財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には,法律上の争訟に当たるというべきであるが,国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は,法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって,自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから,法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではないと判示している。そうすると,平成14年最高裁判決は,控訴人が主張する上記①及び②の定式を踏まえ,国又は地方公共団体が原告又は申立人となる争訟において,自己の財産上の権利利益の保護救済を求める場合は法律上の争訟に当たるが,法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とする場合は法律上の争訟に当たらないことを明らかにしたものと解されるから,争訟の相手方が個々の国民であるか,国又は地方公共団体という行政主体であるかを問わず,一般的に,行政主体が,法規の適用の適正ないし一般公益の保護のためではなく,自己の主観的な権利利益に基づき保護救済を求める場合に限り,
法律上の争訟性を認めたものと解される。
したがって,行政主体相互間の争訟は平成14年最高裁判決の射程外であるとする控訴人の上記主張は採用することができない。
(2)

財産権主体性
データ送信事務
控訴人は,住基法に基づいて被控訴人東京都に区民の本人確認情報を通知することは専ら行政の事実行為であるところ,住基ネットの場合,区,市等における既存の住基マスターシステムとは別に新規のコミュニケーション・サーバをセットし,被控訴人東京都の同種サーバとの間で専用回線による送受信をするという仕組みであり,それ自体住民票管理の行政事務から相対的に独立したIT処理の事務事業にほかならず,
その実態は,電
気通信事業活動として民間私企業におけるデータ・ネットワーキングと同様であり,財産権主体としての行為に当たるといえるから,本件確認の訴えにつき法律上の争訟性を認めるべきであると主張する。
しかしながら,民間私企業におけるデータ・ネットワーキングは,利益の追求のために行う経済活動の一環であって,財産権主体としての行為に当たることは明らかであるが,本件の住基ネットを使用したデータの送受信は,住基法に基づく住民基本台帳事務の適正な実施及び住民に関する記録の適正な管理等のために行う行政事務である。したがって,住基ネットによるデータの送受信は,住民票管理行政から相対的に独立したIT処理の事業事務であるとか,民間私企業におけるデータ・ネットワーキングと同様であるなどということはできず,その送受信に関し市町村が都道府県を訴訟の相手方として本人確認情報の受信義務の確認を求めることは,住基法の適用の適正ないし住民基本台帳事務の適正な実施を求めるものにほかならないから,地方公共団体の主観的な権利利益の保護救済を目的とするものということはできない。
控訴人の提出に係るP2作成の鑑定意見書(甲55)には,上記事業主体である地方公共団体は,その公費投入を住民の権利を全うせしめるように有効ならしめていくことを国や他の地方公共団体に対して自己の権利利益として主張する立場にあるとの記載がある(8頁)
。しかし,住基ネッ
トによるデータの送受信に伴う公費投入の適否は,地方公共団体の事務の実施に伴う予算執行の適否の問題であるから,このような公費投入を有効なものとするため,被控訴人東京都に対し,送信した通知希望者に係る本人確認情報の受信義務があることの確認を求めることは,正に住基法の適用の適正ないし住民基本台帳事務の適正な実施を求めるものといわざるを得ない。
以上の次第であるから,住基ネットと民間私企業におけるデータ・ネットワーキングを同視して本件確認の訴えは法律上の争訟に当たるとする控訴人の上記主張は採用することができない。なお,控訴人は,行政権の主体と財産権の主体の中間領域が存在する場合があることを挙げ,このような場合は広く財産権の主体として訴訟を提起しているものと解すべきである旨主張するが,上記のとおり,本件確認の訴えは専ら行政権の主体として訴訟を提起しているものと認められる。

代替サービスの費用負担
控訴人は,通知希望者である区民が住基ネットサービスを受けられないために代替サービスの費用を予算執行せざるを得ない立場にあるから,その支出額は法人自治体にとって損害に当たり,それゆえ,被控訴人東京都に対し受信義務の確認を求めること自体が,上記損害発生の継続を防止するという控訴人の自己法益実現の側面を有するから,本件確認の訴えは法律上の争訟に当たると主張する。
しかしながら,控訴人が住基法の規定に従って住民基本台帳事務を執行していれば,控訴人が主張する代替サービスの費用を支出せざるを得ない事態を招くことはなく,また,その支払を損害として被控訴人東京都に転嫁しようとすることもないのであるから,同費用は,控訴人が住民基本台帳事務を実施するため自らの判断と責任において支出しているものというべきである。したがって,そもそも上記のような控訴人が自ら招いた費用の負担があることをもってして本件確認の訴えを理由付けること自体が不合理であり,失当であるといわざるを得ない。加えて,上記のような費用の負担を未然に防止するため,被控訴人東京都に対し,送信した通知希望者に係る本人確認情報の受信義務の確認を求めることは,前記アでも述べたとおり,住基法の適用の適正ないし住民基本台帳事務の適正な実施を求めることにほかならないから,控訴人の財産上の権利利益の行使に当たるということはできない。
よって,上記代替サービス費用の負担防止を理由に,本件確認の訴えは控訴人の財産上の権利利益の保護救済を目的とするものとする控訴人の上記主張は採用することができない。

区民の権利代位
控訴人は,控訴人による住基ネットへのデータ送信は,住基ネットサービスを希望する区民の権利に代位して基礎自治体(地方自治法2条3項,281条の2第2項)がその関係予算執行を有効ならしめるために行う権利行使であり,これに対し,被控訴人東京都には,広域自治体(同法2条5項,281条の2第1項)として広域の電気通信事業を全うすべく受信する義務が存するから,控訴人が杉並区民の権利を代位して住基法上の役務の提供を受けるべく,被控訴人東京都に受信義務の確認を求める訴えは適法であると主張する。すなわち,区民には同法10条2項及び住基法により住基ネットサービス享有権が保障されており,控訴人が,本来住基ネットによる行政サービスを受け得べき立場にある区民の住基ネットサービス享有権の実現に配慮し,通知希望者に対し無料で住民票を交付するなどの措置をとることは,基礎自治体として区民からの付託を受けて行政サービスを提供すべき立場にある控訴人自身の責務であるから,地方自治法2条14項等の規定,ひいては,地方自治を保障した憲法92条以下の規定により,住民のかかる権利を代位し得ると主張するものである。
しかしながら,住基ネットを通じて遠隔地での住民票を取得するなど住基法上の役務提供を受けることが住民にとって利益に当たることは明らかであるが,そのような利益を受けている事実をもって,住民が住基ネットサービス享有権という権利を有すると認めることはできず,これを法律上の権利と認めることもできない。すなわち,地方自治法10条2項は,一般的に,住民が自己の属する地方公共団体から平等に役務の提供を受ける権利を有することを規定しているにすぎないのであって,個々の住民に対し,属する地方公共団体に役務の提供を求める具体的な請求権を付与したものと解することはできないから,この規定をもって,住民が住基ネットサービス享有権という法律上の権利を有していると認めることはできない。また,住基法上も,個々の住民が住基ネットサービス享有権という法律上の権利を有していることをうかがわせる規定は存しない。
したがって,
住基ネットへのデータ送信は住基ネットサービスを希望する区民に代位して基礎自治体がその関係予算執行を有効ならしめるために行う権利行使であるとの控訴人の主張は,基礎自治体が代位行使する住民の住基ネットサービス享有権という法律上の権利の存在を認めることができない以上,その前提を欠くといわなければならない。
また,控訴人は,通知希望者に無料で住民票を交付するなどの措置をとることは,区民の住基ネットサービス享有権の実現に配慮し,基礎自治体として区民からの付託を受けて行政サービスを提供すべき立場にある控訴人自身の責務であると主張するが,本来控訴人が住基法の規定に従って住民基本台帳事務を執行していれば,上記措置をとる必要はなかったのであり,したがって,同措置は,非通知希望者に係る本人確認情報を送信せず通知希望者に係るそれのみを送信するという控訴人の違法行為によってもたらされた状況に対応すべく,控訴人の判断と責任において行われたものというべきであり,少なくとも,控訴人の主張する住民の住基ネットサービス享有権の実現に配慮した措置ということはできない。
さらに,控訴人は,地方自治法2条14項等の規定,地方自治を保障した憲法92条以下の規定を根拠に,住民の権利を実質的に代位し得る立場にあるとも主張するが,地方自治法2条14項は地方公共団体の一般的な責務を規定したものにすぎず,憲法92条以下の規定も地方公共団体が住民の権利を代位行使することの根拠となるものではなく,他に地方公共団体が住民の権利を代位行使することを許容する規定は存しない。
したがって,控訴人の上記主張はいずれも採用することができない。(3)

まとめ
以上によれば,本件確認の訴えは,裁判所法3条1項の法律上の争訟に当
たらないから,不適法であり,却下を免れない。
2
本件国賠請求に係る訴えが法律上の争訟に当たるか(争点2)について争点2に関する原判決の理由説示中,同46頁8行目末尾の次に改行して次のとおり加える。
なお,付言するに,控訴人から送信された本人確認情報について被控訴人東京都の受信義務の有無及び被控訴人国の住基法に従った指導権限の不行使の適否を判断するためには,住基法上の権限の存否又はその行使の適否について判断することになるから,そのことが主要な争点になるが,それは飽くまでも本件国賠請求の当否の判断の前提となる発生原因事実の判断にすぎない。控訴人が本件国賠請求において求めているのは,控訴人の被控訴人らに対する損害賠償請求権という財産上の権利の有無に関する判断であるから,その前提問題として住基法上の権限の存否又はその行使の適否に対する判断を行うことによって,損害賠償請求権という財産上の権利に関する訴えの法律上の争訟性が失われるということはできないのである。
3
被控訴人東京都の受信義務(争点4)について
(1)

争点4に関する原判決の理由説示中,同91頁3行目冒頭から7行目の
現にまでをその後,横浜市は,横浜市本人確認情報等保護審議会会長の答申を受け,平成18年5月10日,住基ネットは総合的に見て安全であると判断し住基ネットに全員参加する旨を表明し,全面的に住基ネットに参加することとなったものであるが,それまで横浜市が神奈川県に対し,非通知希望者に係る本人確認情報を除いた本人確認情報のみを送信していた取扱いは,住基法30条の5第1項及び第2項に違反する違法なものといわざるを得ない。したがってと改め,92頁11行目末尾の次に

そして,横浜市においても住基ネットに全面的に参加することになったことは前記認定のとおりである。

を加え,12行目の現在採用している方式を以前採用していた方式と改める。(2)

争点4に関する控訴人の当審における追加主張に対する判断は,次のと
おりである。

本人確認情報の通知(住基法30条の5第1項)に係る地方公共団体の裁量権
(ア)

住基法30条の5は,住民の利便を増進するとともに,行政サービ
スの向上と行政事務の効率化のために全国的な本人確認システムである住基ネットを導入するという改正法の趣旨及び目的を達成するために新設された規定であり,その第1項は,
市町村長は,住民票の記載,消除又は第7条第1号から第3号まで,第7号及び第13号に掲げる事項(…略…)の全部若しくは一部についての記載の修正を行つた場合には,当該住民票の記載等に係る本人確認情報(…略…)を都道府県知事に通知するものとする。と,第2項は,

前項の規定による通知は,総務省令で定めるところにより,市町村長の使用に係る電子計算機から電気通信回線を通じて都道府県知事の使用に係る電子計算機に送信することによつて行うものとする。

とそれぞれ規定しているのであって,市町村長が住民票の記載,消除等を行った場合に,都道府県知事に対し当該住民票の記載等に係る本人確認情報を送信しないという事態は全く想定されていない。加えて,住基法30条の7第3項から第6項まで及び30条の10第1項は,市町村長から都道府県知事に対し,住民に係る本人確認情報の通知があることを前提として,都道府県知事又は指定情報処理機関は,国の機関等からその事務に関し求めがあったときは,保存期間に係る本人確認情報を提供することを規定しているから,仮に市町村長が住民票の記載,消除等を行った場合であっても,都道府県知事に対し当該住民票の記載等に係る本人確認情報を送信しなくてもよいということになれば,一部の住民について正確な本人確認情報が保存されないという事態が発生し,国の機関等からその事務に関し求めがあったときに正確な本人確認情報を提供することができなくなることは明らかである。さらに,都道府県知事は,市町村長から通知された本人確認情報を保存すること(住基法30条の5第3項)
,本人確認情報の適切な管
理のために必要な措置を講じること(同法30条の29第1項)
,区域
内の市町村の住民基本台帳に脱漏若しくは誤載があり,又は住民票に誤記若しくは記載漏れがあることを知ったときは当該市町村長に通報すること同法12条の3)

などの責務を負っているから,
都道府県知事が,
本人確認情報の正確性を担保し,その保存・提供等の事務を適切に実施するためには,住基法30条の5第1項に基づき,区域内のすべての市町村長から,すべての住民に係る本人確認情報の通知を受けることが必要不可欠である。
(イ)

このように,住基ネットは,地方公共団体の不参加はもとより,住
民の一部に不参加があると,国の機関等を始めとする本人確認情報の利用者において,従来のシステムや事務処理を残さざるを得ないことになり,また,本人確認情報の提供・利用が必要な業務が行われる都度,不参加者については,ネットワーク以外の手段により,当該事務に必要な氏名,住所等の情報を収集するか提出させることになるから,そのような場合,本人確認情報を国の機関等,都道府県及び市町村で共有することにより行政コストの削減を図るという住基ネットの目的は達せられないことになる。さらに,住基ネットは,市町村間をネットワーク化し,住民基本台帳事務の広域化,効率化を図ることを重要な行政目的としているから,市町村においてネットワークによらない住民基本台帳事務の処理方法を残すことになると,住基法が目的とする市町村における住民基本台帳事務の効率化は著しく阻害されることにもなる。したがって,住基法30条の5第1項及び第2項が,都道府県知事に対して本人確認情報を送信するか否かについて,市町村長に裁量権を付与しているとは到底考えられない。
以上検討したところによれば,市町村長は,住民が通知を希望しているか否かを問わず,都道府県知事に対し,漏れなく当該住民に係る本人確認情報を送信する義務があるといわなければならず,通知するかしないかにつき裁量の余地は全くないから,これを怠った市町村長の行為は違法といわざるを得ない。そして,控訴人が求めているのは,杉並区民のうちの通知希望者に係る本人確認情報のみの通知(送信)という住基法30条の5第1項及び第2項の定める要件に適合しない違法な通知(送信)の受信であるから,被控訴人東京都は,同条第3項の規定に従い,
送信された本人確認情報を磁気ディスクに記録する義務受信義務)(
を負わないと解すべきである。また,仮に被控訴人東京都が控訴人から送信された通知希望者に係る本人確認情報を受信したとすれば,結果として,控訴人の住基法30条の5第1項に違反する取扱いを容認する事態となるし,被控訴人東京都は,国の機関等からの求めに応じて本人確認情報を提供する立場にあるところ,通知希望者に係る本人確認情報を受信するのみでは,住基法に基づく本人確認情報の提供を行うことができなくなる。これらの点を考慮しても,控訴人が通知希望者に係る本人確認情報のみを通知することは違法といわざるを得ず,被控訴人東京都は,このような違法な通知の受信義務を負わないというべきである。イ
住基法30条の5第1項について違憲又は違憲の疑いがあると判断した場合の地方公共団体の対応
(ア)

控訴人は,現行の住基ネットは住民のプライバシー権を侵害するものであることを前提に,住基法30条の5第1項の合憲的限定解釈又は適用違憲を主張し,さらに,住基ネットによるプライバシー権の制度的保障の欠如を理由に選択式又は離脱を認めない,あるいは独立かつ公平な第三者機関が設置されていない住基ネットの違憲性又は違法性を主張するが,これらは,要するに,控訴人の固有の権利利益の侵害を主張するものではなく,非通知希望者に係る本人確認情報を被控訴人東京都に送信することは憲法13条により保障された住民のプライバシー権を侵害し,又はそのおそれがあること,したがって,控訴人が非通知希望者のプライバシー権を守るためその本人確認情報を被控訴人東京都に送信しないことは憲法に適合することであり,このような取扱いは住基法30条の5第1項に違反しないことを主張するものと解される。
(イ)

しかしながら,市町村のみならず,都道府県や国の行政機関は,当
該法律が違憲又は違憲の疑いがあると考えたとしても,それが改廃されるか,又は裁判所が法令審査権(憲法81条)に基づいて違憲であるとした判決が確定した場合でない限り,唯一の立法機関である国会が制定した法律を誠実に執行しなければならないのであって,このような法執行者としての立場を逸脱した事務処理を行えば法秩序が混乱を来すことは明らかである。このことは,住基法に基づく住民基本台帳事務の実施についても全く同様である。
前記アで述べたとおり,住基法は,住民の利便の増進並びに国及び地方公共団体の行政事務の効率化を目的として,住民票コードとともに,市町村の区域を越えた住民基本台帳に関する事務の処理及び国の機関等に対する本人確認情報の提供を行う住基ネットを導入するための体制を整備するため,全国的に正確かつ統一的な住民基本台帳事務を実施するについて市町村,都道府県,国等各行政機関の役割分担を規定したものであるから,ある地方公共団体がそこから離脱することはもちろん,一部の本人確認情報のみを送信することを容認するならば,住民の利便の増進及び行政事務の効率化という住基法の目的を達することはできない。そして,上記のように各行政機関の役割分担が法により明確に規定され,本人確認情報の提供につき各行政機関の裁量を認める余地がないものとされている以上,ある市町村が,非通知希望者に係る本人確認情報の送受信により当該個人の憲法上保障された権利が侵害され,又は侵害されるおそれがあると判断したとしても,通知希望者のみの本人確認情報を都道府県知事に送信し非通知希望者のそれを送信しないという事務処理を行うことは許されないというべきである。
本件において,控訴人が,非通知希望者に係る本人確認情報を送信することはそのプライバシー権を侵害し,又はそのおそれがあると判断して被控訴人東京都にこれを送信しなかったことは,一部の住民の権利を守ろうという動機によるものと考えられ,その限りでは理解できないことではないが,これまで述べてきたとおり,通知希望者に係る本人確認情報のみを被控訴人東京都に送信するということは,住基法30条の5第1項に反し,法執行者としての立場を逸脱するものである。住基法において,市町村の区域を越えた住民基本台帳に関する事務の処理及び国の機関等に対する本人確認情報の提供を行う住基ネットを導入するための体制を整備し,全国的に正確かつ統一的な住民基本台帳事務を実施するについて市町村としての役割分担が明確に定められている以上,地方公共団体である控訴人が,独自に違憲性を判断し,住基法に定められた事務処理を行わないことは許されないことといわなければならない。(ウ)

以上のように,控訴人が,非通知希望者に係る本人確認情報を被控
訴人東京都に送信することは当該住民のプライバシー権を侵害するものであり違憲又は違憲の疑いがあると判断したとしても,そのような個人の権利を侵害するか否かの判断の前提となる違憲性は,それにより自己のプライバシー権を侵害されたと主張する国民が法的救済を求めた場合に判断されるべきことであり,地方公共団体である控訴人が独自にそのような判断をして非通知希望者に係る本人確認情報の送信をしないという取扱いをすることは許されない。
この点につき,控訴人は,控訴人が非通知希望者に係る本人確認情報を被控訴人東京都に送信することは,憲法13条により保障された非通知希望者のプライバシー権を侵害すると主張するが,前記のとおり,市町村のみならず,
都道府県や国の行政機関は,
当該法律が改廃されるか,
これを違憲であるとする判決が確定した場合でない限り,唯一の立法機関である国会が制定した法律を誠実に執行する義務を負うから,この義務に基づき法律を誠実に執行していれば,それを違法とされるいわれはないのである。
加えて,個人のプライバシーに係る利益が法的保護に値する人格的利益であり,憲法13条により尊重されるべきものであること,高度情報化社会の今日において個人情報保護の見地からプライバシーに係る利益を発展させた形での自己情報コントロール権が主張されていることが認められるが,プライバシーの法的保護は,みだりに私生活に侵入されたり他人に知られたくない私生活上の事実又は情報を公開されない利益であるということはできるものの,控訴人が主張するプライバシー権という権利は,いまだこれが認められる外延も内包も不明確であり,不確定な要素が多く,その内容としての個人情報の保有及びその収集,処理を制限するよう求める権利を憲法13条から直ちに認めることはできない。
そうすると,控訴人が非通知希望者に係る本人確認情報を被控訴人東京都に送信したとしても,これをもって違法であり,憲法13条に違反するということはできないから,控訴人は,住基法30条の5第1項に従い,すべての杉並区民に係る本人確認情報を被控訴人東京都に送信する義務があるというべきである。そうすると,控訴人が通知希望者に係る本人確認情報のみを送信したことは住基法30条の5第1項に違反するものであり,他方,被控訴人東京都が全住民の本人確認情報の送信を求め一部の住民の本人確認情報の受信を拒否したことは適法であり,被控訴人東京都には通知希望者に係る本人確認情報の受信義務はない。ウ
住基ネットの違憲性又は違法性に関する控訴人の主張
控訴人は,
以下のとおり住基ネットの違憲性又は違法性を主張するので,
必要な限度において上記主張に対する判断を示すこととする。
(ア)

合憲的限定解釈又は適用違憲の主張
控訴人は,住基法30条の5第1項を国民のプライバシー権を保障し
た憲法13条に適合するよう合憲的限定解釈をするならば,控訴人は,非通知希望者に係る本人確認情報について被控訴人東京都に対し通知義務を負わず,他方,被控訴人東京都は,控訴人から送信された通知希望者に係る本人確認情報の受信義務があると主張し,また,通知希望者に係る本人確認情報だけを被控訴人東京都に送信しようとした措置は,本人確認情報の収集・利用についての住民の同意を尊重する点において憲法上のプライバシー権保障を意図したものであり,被控訴人東京都が住基法の適用を理由に受信を拒否するのであれば,上記憲法上の権利の保障を実現しようとする地方公共団体の活動を阻む点において,その適用は違憲であると主張する。
上記主張の前提は,個人のプライバシー権は憲法13条によって保障されており,控訴人が住基法30条の5第1項に基づいて非通知希望者に係る本人確認情報を被控訴人東京都に送信することは非通知希望者のプライバシー権を侵害するということであるが,
前記イ,
(ウ)のとおり,
プライバシー権が憲法13条によって保障されていると認めることはできないから,住基法30条の5第1項の合憲的限定解釈又は適用違憲の上記主張は採用することができない。
なお,本件において控訴人が保護されるべきものとして主張する本人確認情報は,個人の氏名,出生の年月日,男女の別,住所の4情報と住民票コード及びこれらの変更情報であるところ,これらが第三者に開示されるときは,個人が特定され,その結果,個人の私生活上の平穏が害されるおそれが生ずるから,
個人のプライバシーに関する情報に当たり,
法的保護に値するものということができる。したがって,住基ネットの稼働によってこのような利益が侵害され,又は侵害される可能性がある場合,これによって生じた損害の賠償又は住基ネットの運用の差止めの可否等が問題となるが,これらは,侵害されたと主張する当該個人が地方公共団体等を相手に法的救済を求めた場合に判断されるべき事柄であり,被控訴人東京都が控訴人に対し,送信された通知希望者に係る本人確認情報の受信義務を負うか否かの判断に影響を及ぼすことではない。その他,控訴人は,住基ネットの目的及び必要性は住民のプライバシー権を犠牲にしてもなお達成すべきものではないなどと主張するが,それらも,上記法的保護に値する利益の侵害との関係で住基ネットの運用が違法か否かを判断する上で問題となるものであるから,住基ネットの稼働によって上記利益が侵害されたと主張する個人が地方公共団体等を相手に法的救済を求めた場合に判断されるべき事柄であり,被控訴人東京都が控訴人に対し,送信された通知希望者に係る本人確認情報の受信義務を負うか否かの判断に影響を及ぼすことではない。
(イ)

その他の主張
控訴人は,住基ネットにおいて選択式又は離脱を認めないことは個人
の権利を侵害するとして,個人情報保護法制上の不備,名寄せの危険性等を主張し,また,独立かつ公平な第三者機関が設置されていない現状における住基ネットの違法性を主張するが,これらの点も,現行法制下において住基ネットを稼働させることは本人確認情報の漏洩のおそれとの関係で個人の法的保護に値する利益を侵害するか否かを判断する上で問題となるものであるから,住基ネットの稼働によって上記利益を侵害されたと主張する個人が地方公共団体等を相手に法的救済を求めた場合に判断されるべき事柄であり,被控訴人東京都が控訴人に対し,送信された通知希望者に係る本人確認情報の受信義務を負うか否かの判断に影響を及ぼすことではない。
なお,控訴人は,住基ネットは飽くまでも地方公共団体共同のネットワークであるとすれば,住民の個人情報の保護に責任を負う地方公共団体は,自らの主体的判断で住基ネット参加の是非を判断できる機会を保障されるべきであり,この結果として地方公共団体が不参加を決断したり,個々の住民の選択にゆだねる方式を採用したとしても,これは憲法が保障する地方自治権の正当な行使ということができると主張する。しかしながら,住基ネットは,これまで述べたとおり,住民の利便を増進するとともに行政サービスの向上と行政事務の効率化のために全国的な本人確認システムとして構築されたものであるから,地方公共団体共同のネットワークであるとしても,一部の地方公共団体が自らの判断で住基ネット参加の是非を判断することを容認することはできず,本人確認情報の送信の可否を個々の住民の選択にゆだねることもできない。したがって,地方自治権の行使を理由に,個々の地方公共団体が住基ネットへの不参加あるいは送信について個々の住民の選択を許すことはできないというべきである。

まとめ
以上によれば,被控訴人東京都は,控訴人が送信する杉並区民のうちの通知希望者のみに係る本人確認情報の受信義務を負わないというべきである。
4
被控訴人国の行為の違法性の有無(争点6)について
これまで述べたとおり,杉並区民のうちの通知希望者のみに係る本人確認情報の送信を前提とする横浜方式による住基ネットへの参加は違法というべきであるから,被控訴人国が被控訴人東京都に対し,横浜方式による住基ネットの参加について必要な協力をするよう適切な指導助言をしなかったことは何ら違法ではなく,また,被控訴人国が控訴人に対し,横浜市に対する対応と異なった対応をしたことも違法ではない。

5
結論
よって,本件確認の訴えは不適法であって却下を免れず,本件国賠請求はいずれも理由がないから,原判決は相当であり,本件控訴及び控訴人の当審における追加請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第10民事部

裁判長裁判官

吉戒修一
裁判官

萩原秀紀
裁判官

野口忠

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