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勧告取消請求事件
事件番号平成17(行ウ)17
事件名勧告取消請求事件
裁判年月日平成19年10月24日
法廷名水戸地方裁判所
判示事項医療法(平成12年法律第141号による改正前)30条の7の規定に基づき県知事が病院を開設しようとする者に対してした病床数削減の勧告が違法であるとして,県知事に対してした同勧告の取消請求が,棄却された事例
裁判要旨医療法(平成12年法律第141号による改正前)30条の7の規定に基づき県知事が病院の開設をしようとする者に対してした病床数削減の勧告が違法であるとして,県知事に対してした同勧告の取消請求につき,行政手続法7条は,各種の申請に関する行政庁による処理につき,透明性,迅速性及び公正性を確保するために,申請の到着後における迅速な審査義務等を規定したものであるが,県知事は,病院開設の許可申請に先立って,事前協議等の方法により病床配分の調整等を実施する必要性が相応に認められる性質の事項について事前協議を行ったのであるから,前記事前協議を行ったことが同条の規定ないし趣旨に違反するということはできないし,行政指導に従わなかったことを理由として,不利益な取扱いをしてはならない旨を定める茨城県行政手続条例(平成7年茨城県条例第5号)30条2項にいう「不利益な取扱い」とは,行政指導を行う者が差別的な意図をもって,行政指導に従わなかった者に対し,行政指導を受ける以前には得られていた利益を損なわしめ,又は,それまで被っていなかった不利益を与えることをいうものと解されるところ,県知事は,当時の病床の配分方針に沿って平等に配分を行ったのであるから,同項に違反する事実は認められないし,医療法(平成12年法律第141号による改正前)30条の7に規定する勧告の要件については,医療計画において設定された病床の配分等に当たっては高度に政策的,専門的な見地から判断することが不可欠であるから,いかなる内容の勧告を行うかについては広範な裁量が認められているというべきであり,当該勧告が,その基礎とされた重要な事実に誤認等があるため重要な前提事実を欠くこととなる場合,若しくは,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,又は,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものと認められる場合などに該当しない限り,当該勧告は,裁量権の範囲内にあると解するのが相当であるところ,県知事がした前記勧告は,前記裁量権の範囲内にあるものであって違法,不当とされることはないし,また,医療法7条の2は,医療施設の計画的な整備を実現をするために,公的医療機関による病院の開設等について規制を強化したものにすぎず,病院の開設等につき民間医療機関が公的医療機関よりも優先されることを規定したものではないから,県知事が,民間医療機関に対する病床配分に先立って公的医療機関に病床配分したことをもって,直ちに同条に違反したものということはできないし,その配分の経緯を見ても,同条の規定ないし趣旨に照らして違法,不当とされる点はないとして,前記請求を棄却した事例
裁判日:西暦2007-10-24
情報公開日2017-10-19 19:11:33
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主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は,差戻し前の第一審,二審及び上告審並びに差戻し後の当審とも原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
被告が平成11年12月9日付けで原告に対してした病床数308床のうち248床を削減し,申請に係る病床数を60床とすることとする勧告を取り消す。

第2

事案の概要
本件は,茨城県土浦市(以下土浦市という。)内において病院を開設することを計画し,被告に対して病床数を308床とする病院の開設に係る医療法(平成11年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。)7条1項の許可申請(以下本件申請という。)をしたが,同年12月9日付けで,被告から,医療法30条の7の規定に基づき,病床数を308床から60床に削減するよう勧告された(以下本件勧告という。)原告が,本件勧告は行政手続法,医療法及び茨城県行政手続条例(平成7年茨城県条例第5号。以下行政手続条例という。)に違反した違法なものであると主張して,被告に対し,その取消しを求める事案である。
本件は,平成12年6月2日に当庁同年(行ウ)第7号として提起されたものであり,当庁において,同15年4月8日,本件勧告が行政事件訴訟法3条2項に規定する行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当しないという理由により訴えが却下され,その控訴審である東京高等裁判所(同裁判所平成15年(行コ)第132号)においても,同年9月11日に同旨の理由によって控訴が棄却されたが,最高裁判所(同裁判所同年(行ヒ)第320号)が,同17年10月25日,本件勧告が上記行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当すると判断して,控訴審判決を破棄し,第一審判決を取り消して当庁に差し戻したものである。
1
前提事実(当事者間に争いがない事実等)
(1)

当事者
原告
原告は,被告に対して本件申請をしたところ,本件勧告を受けた医療法人である。


被告
被告は,原告による本件申請に係る病院の開設に関して本件勧告を行った行政庁である。
被告は,本件勧告当時,地方自治法(平成11年法律第87号による改正前のもの。)148条2項(別表第三

一(三十一))の規定により,

病院の開設の許可に関する事務を管理・執行する機関であり,また,医療法30条の7に基づき病院の開設などに関して勧告を行う権限を有していた。
(2)

事実経過
土浦保健医療圏における病床の整備状況
茨城県は,平成10年10月5日付けで第3次茨城県保健医療計画(以下本件保健医療計画という。)を策定したが,同保健医療計画においては,土浦市が属する土浦保健医療圏(医療法30条の3第2項1号に規定する主として病院の病床の整備を図るべき地域的単位として区分する区域(以下二次医療圏という。)の1つとして設定された。)における必要病床数は4584床と算定された(乙8)。
土浦保健医療圏における既存病床数は4020床であったため,564床の病床が不足することとなった(乙9。以下,既存病床数が必要病床数に満たない場合における不足している病床数のことを不足病床数という。)。

事前協議
(ア)

被告は,本件保健医療計画に基づく病院の開設,病床数の増加,病
床の種別の変更又は診療所の療養型病床群の設置若しくは診療所の療養型病床群に係る病床数の増加(以下病院の開設等という。また,病院の開設等を行おうとする者を開設者等という。)に関して,茨城県保健医療計画に基づく病院の開設等に関する指導要綱(茨城県告示第1243号。以下指導要綱という。)3条に基づく事前協議の受付期間を平成10年10月5日から同年12月4日までと定めて,同年10月5日付けの茨城県報に告示した(乙9)。
また,被告は,指導要綱5条3号の規定により事前協議を要しない病院の開設等について,A病院の病床数20床を定め,同日付けの茨城県報に告示した(乙10)。この結果,土浦保健医療圏における不足病床数は544床となった。
(イ)

被告が定めた平成10年10月5日から同年12月4日までの事前
協議の受付期間の間に,別紙土浦保健医療圏における事前協議,開設許可等一覧の事前協議等の状況欄記載のとおり,17の開設者等から合計1591床(療養型病床群(病院の病床又は診療所の病床のうち一群のものであって,主として長期にわたり療養を必要とする患者を収容するためのもの(医療法1条の5第3項))が979床,その他の病床が612床)の病院の開設等に係る事前協議書が提出された(乙1)。
原告は,病床数507床(療養型病床群に係る病床が100床,その他の病床が407床)とする病院の開設に係る事前協議書を提出した。ウ
病床配分の決定
被告は,平成11年3月,別紙の事前協議に基づく病床の配分結果等欄記載のとおり(なお,原告のその他の病床欄に248と記載されているが,原告にその他の病床は配分されていない。),事前協議書を提出した17の開設者等のうち,13の開設者等に対して,合計544床の病床(療養型病床群に係る病床が509床,その他の病床が35床)を配分することを決定した(乙1)。
原告に対しては,療養型病床群に係る病床60床が配分された。

本件申請
原告は,被告に対し,平成11年10月4日付けで,病床数を308床とする病院の開設に係る医療法7条1項の許可申請(本件申請)をした。

本件勧告
被告は,原告に対し,平成11年12月9日付けで,医療法30条の7の規定に基づき,本件申請に係る病院の開設に関し,病床数を308床から60床に削減するよう勧告した(本件勧告)。
本件勧告は,本件申請に係る病床数によって病院が開設された場合,本件保健医療計画が設定している土浦保健医療圏の区域における病床数が,同計画が定める同区域における必要病床数を超えることになるという理由によるものであった。


本件申請に対する許可
被告は,原告に対し,平成12年1月28日付けで,本件申請を許可する旨の処分をした。


本件勧告に対する不服申立て
原告は,平成12年2月4日付けで,被告に対し,本件勧告の取消しを求めて異議を申し立てたが,被告は,本件勧告が異議申立ての対象となる処分に該当しないことを理由として,同年3月6日付けでこれを却下した(甲7,8)。
原告は,平成12年6月2日,本件勧告の取消しを求めて,本件訴えを提起した。
(3)

関係法令等(いずれも本件勧告当時のものである。)
医療法
第7条
第1項

病院を開設しようとするとき,医師及び歯科医師でない者が診

療所を開設しようとするとき,又は助産婦でない者が助産所を開設しようとするときは,開設地の都道県知事(中略)の許可を受けなければならない。
第2項及び第3項
第4項

(省略)

都道府県知事又は保健所を設置する市の市長若しくは特別区の

区長は,前3項の許可の申請があった場合において,その申請に係る施設の構造設備及びその有する人員が第21条及び第23条の規定に基づく厚生省令の定める要件に適合するときは,前3項の許可を与えなければならない。
第5項

(省略)

第7条の2
第1項

都道府県知事は,次に掲げる者が病院の開設の許可又は病院の

病床数の増加若しくは病床の種別の変更の許可の申請をした場合において,当該申請に係る病床の種別に応じ,当該申請に係る病院の所在地を含む地域(中略)における病院の病床(中略)の数が,第30条の3第4項の厚生省令で定める標準に従い医療計画において定めるその地域の必要病床数に既に達しているか,又は当該申請に係る病院の開設若しくは病床数の増加若しくは病床の種別の変更によってこれを超えることになると認めるときは,前条第4項の規定にかかわらず,同条第1項又は第2項の許可を与えないことができる。

第31条に規定する者
二ないし九

(省略)

第2項ないし第6項

(省略)

第30条の7
都道府県知事は,医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合には,病院若しくは診療所を開設しようとする者又は病院若しくは診療所の開設者若しくは管理者に対し,都道府県医療審議会の意見を聴いて,病院の開設若しくは病院の病床数の増加若しくは病床の種別の変更又は診療所の療養型病床群の設置若しくは診療所の療養型病床群に係る病床数の増加に関して勧告することができる。
第31条
この章において,公的医療機関とは,都道府県,市町村その他厚
生大臣の定める者の開設する病院又は診療所をいう。

行政手続条例
第30条
第1項

(省略)

第2項

行政指導に携わる者は,その相手方が行政指導に従わなかったこ

とを理由として,不利益な取扱いをしてはならない。

医療計画について(平成10年6月1日付け各都道府県知事宛厚生省健康政策局長通知(甲15の7,以下平成10年6月通知という。))5
都道府県知事の勧告について
(1)

法第30条の7の医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合とは,原則として法第7条の2第1項に掲げる者以外の者が,病院の開設又は病院の病床数の増加若しくは病床の種別の変更の許可の申請をした場合,又は診療所の療養型病床群の設置若しくは診療所の療養型病床群に係る病床の増加の許可の申請をした場合において,その病床の種別に応じ,その病院又は診療所の所在地を含む法第30条の3第2項第1号の区域(以下二次医療圏という。)又は都道府県の区域における既存の病床数が,医療計画に定める当該区域の必要病床数に既に達している場合又はその病院又は診療所の開設等によって当該必要病床数を超えることとなる場合をいうものであること。
また,病院の開設若しくは病院の病床数の増加若しくは病床の種別の変更又は診療所の療養型病床群の設置若しくは診療所の療養型病床群に係る病床数の増加に関して勧告するとは,それぞれの行為の中止又はそれぞれの行為に係る申請病床数の削減を勧告することをいうものであること。
(2)ないし(8)

(以下省略)
(省略)

指導要綱(乙7)

(事前協議)
第3条
開設者等は,知事が指定する期間内に,病院の開設等の計画について,知事に協議しなければならない。
(事前協議に関する特例)
第5条
次の各号の一に該当する場合には,第3条の規定にかかわらず,事前協議を要しないものとする。
(1)及び(2)
(3)

(省略)

知事が別に定める病床に係る病院の開設等である場合

(改善指導等)
第6条
知事は,必要と認める時は,開設者等に対し事前協議に係る計画の改善又は中止を指導(以下改善指導等という。)することができるものとする。
(事前協議結果の通知)
第7条
知事は,第3条の規定による事前協議の審査を終了した時は,速やかに開設者等に対しその結果を通知するものとする。
(勧告)
第8条
知事は,開設者等が,第3条の規定に基づく事前協議を経ずに病院の開設等の申請を行った場合及び第6条の規定に基づく改善指導等に従わない場合において,必要と認めるときは,法第30条の7の規定に基づき,茨城県医療審議会の意見を聴いて,開設者等に対し必要な勧告を行うものとする。
2
争点
本件勧告の適法性
(1)
(2)

本件勧告が行政手続条例30条2項に違反したものであるか否か。
(3)

本件勧告が医療法30条の7が規定する勧告要件を欠くものであるか否か。
(4)
3
本件勧告が行政手続法7条に違反したものであるか否か。

本件勧告が医療法7条の2に違反したものであるか否か。

争点に関する当事者の主張

(被告の主張)
茨城県においては医療法及び関連法令に基づいて本件保健医療計画を策定し,その中において土浦保健医療圏及びその必要病床数を定めていたところ,被告は,本件申請のとおりの病床数による病院の開設を許可した場合には土浦保健医療圏における必要病床数を超えることとなるため,医療法及び関係法令等に従って,原告に対して本件申請に係る病床数を308床から60床に削減するよう求める本件勧告を行ったのであるから,本件勧告が適法に行われたものであることは明らかである。
(原告の主張)
原告は,救急救命病院の不足を充足する目的で,土浦市内に病院を開設することを計画し,指導要綱の規定に従って事前協議書を提出したが,被告は,原告に対し,療養型病床群に係る病床60床を配分した。
この病床配分では,原告が目的とする病院(救急医療を中心とする24時間態勢の病院)を経営することが不可能であり,また,被告が実施した事前協議が原告の病院開設許可申請権の行使を妨げるものであったため,原告は,平成11年10月4日付けで,病床数を308床(療養型病床60床,その他の病床数248床)とする病院の開設の許可を求める本件申請を行った。これに対し,被告は,病床数を60床に削減することを求める本件勧告を行った上で,本件申請を許可した。しかし,本件勧告には,以下のような明白な取消事由が存在する。
(1)

行政手続法7条違反(争点(1))
被告は,開設者等に事前協議を義務付けた指導要綱3条を根拠として,原告を含む開設者等に対して,病院の開設等許可の申請書を提出させないまま事前協議を強要したものであるが,指導要綱は法規命令ではなく,書面化された行政指導にすぎないのであるから,私人に対して何らの法的効果・拘束力を有するものではなく,ましてや裁判所の判断基準となるようなものではない。
許認可等の申請に際して事前協議を求めることはかつては当然のように行われていたが,許認可等の処分要件が法令に規定され,あるいはその解釈により定まるものであるのに,許認可等の申請書を提出させる前の段階で事前協議を強要することは,多分に恣意的で,極めて不透明・不公正な手法であって,法律による行政の原理に反するばかりか,行政庁の恣意・独断によって許認可等に関する申請の内容を規制するものであった。そこで,行政庁の恣意・独断を排し,透明・公正な方法による手続によって,法律による行政の原理を手続的にも確保するために行政手続法が制定・施行され,同法7条において,申請に対する応答義務が明記されたのである。

病院の開設等の許可申請については,医療法7条がその許可要件を規定しているが,同条による許可はいわゆる警察許可であるから,要件が充足される限り,許可されなければならない性質のものである。
ところが,被告は,指導要綱に基づき,医療法7条に定める要件とは別個に事前協議を義務付け,この事前協議に基づいて病床配分を行っているのであり,事前協議によって,病院の開設等の許可申請がなされる前の段階で,申請内容を規制しているのであるから,このような手法が行政手続法7条に違反することは明らかである。


被告は,厚生省健康政策局指導課長から各都道府県衛生主管部(局)長宛てに発せられた保健医療機関の病床の指定に係る国民健康法等の一部を改正する法律の施行に伴う医療法30条の7の規定に基づく勧告等の取扱いについてと題する平成10年7月27日付けの通知(甲15の10,以下平成10年7月通知という。)を引き合いに出して,指導要綱に基づく事前協議によって病床配分を決定することが,同通知の趣旨を先取りしたものである旨主張するが,同通知は,近接した期間に複数の申請がなされた場合に,協議・調整を行うべきことを通知したものであり,病院の開設等の許可申請がなされた後のことを対象としているのであるから,申請前の希望者について事前協議を通じて病床配分を行うことは全く想定されておらず,被告の主張は誤っている。
そして,茨城県においては,事前協議に参加しない者や事前協議後の改善指導等に従わない者に対して,指導要綱8条により,医療法30条の7に基づく中止勧告や病床数の削減勧告が行われるというのであるから,病院の開設等の希望者の申請権を故なく剥脱する違法なシステムが確立されているのである。

以上のように,被告は指導要綱に基づいて事前協議を強要し,病院の開設等の許可申請がなされる前の段階において申請内容を規制してしまっているのであり,このような手法が行政手続法7条に違反することは明らかである。

(2)

行政手続条例30条2項違反(争点(2))
茨城県においては,指導要綱8条によって,事前協議に参加せずに病院の開設等の申請を行った者に対しては,医療法30条の7に基づく中止勧告や病床削減勧告を行うこととされているが,勧告があった場合には,事実上病院の開設ができないことになるのであるから,茨城県は事前協議に参加しない者に対して病院の開設等ができないという重大な不利益を科すことを明示しているのである。
また,被告は,原告が事前協議によって配分された病床数を超えて,病院開設許可の申請をしてきたため,茨城県医療審議会に対して,本件勧告を行うことの適否につき諮問し,同審議会の意見がこれを適当と認めるものであったことから,本件勧告に及んだというのであるが,そうすると,被告は,事前協議に基づいて病床配分を行い,原告にもこれを通知したが,原告が事前協議に従わなかったため,本件勧告を行ったということが明らかである。


以上のような措置は,被告の行政指導に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いに他ならず,本件勧告が行政手続条例30条2項に違反するものであることは明らかである。

(3)

医療法30条の7が規定する勧告要件の欠缺(争点(3))
本件勧告は,本件申請のとおりの病床数によって病院が開設された場合,土浦保健医療圏の区域における病床数が必要病床数を超えることになることを理由とするものであるが,この点に関し,医療法30条の7は,医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合に勧告することができると規定していた。
そして,この医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合について,厚生省健康政策局長による昭和61年8月30日付けの通知(甲15の2,以下昭和61年8月通知という。)は,病院の開設等により,都道府県の区域における病院の病床数が,医療計画に定める当該区域の必要病床数に既に達している場合又はその病院の開設等によって当該必要病床数を超えることとなる場合をいうものであるとしている(この通知は当時病院の開設等の許可が機関委任事務であり,地域医療計画の策定が団体委任事務であったことに伴って,上級庁から下級庁に対して示された解釈基準・裁量基準であったから,被告はこれに従う義務があった。)。イ
原告が本件申請を行った平成11年10月4日の時点においては,原告を除くと,12の開設者等から合計484床の許可申請がなされており,不足病床数は60床であった。また,同年11月30日にB病院C分院が60床の許可申請を取り下げたため,不足病床数は60床増加し,本件勧告時における不足病床数は120床となっていた。
そうすると,本件申請に係る308床から不足病床数である120床を控除した病床数は188床であったから,被告が病床数の削減を求めるのであれば,188床が対象とされるはずであった。
ところが,被告は,本件勧告によって248床の削減を求めたのであり,188床を超える60床分については必要病床数を超えていないのに削減を勧告したことになる。昭和61年8月通知にあるとおり,必要病床数を超えない部分について医療法30条の7に基づく勧告を行うことはできないのであるから,本件勧告が勧告要件を充たさない違法なものであることは明らかである。


なお,被告は,勧告要件の判断基準時を病院の開設等の許可の申請時と捉えることによって本件勧告に上記のような違法はないと主張するようであるが,このような考え方によると不足病床数に余裕があるうちに申請した者が優先されることとなるから,これは平成10年7月通知とは全く相容れない考え方である。
また,仮に本件申請時を勧告要件判断の基準時とした場合であっても,本件申請時点における不足病床数は,544床から既に病院の開設等が許可されていた病床に係る計119床を控除した425床であり,本件申請に係る病床数308床を充足しうるだけの余剰があったのであるから,本件勧告には勧告要件を欠いた違法があることになる。
(4)

医療法7条の2違反(争点(4))
医療法7条4項は,私人による病院の開設・増床の許可申請に対しては,施設の構造設備及びその人員が要件に適合する限り許可しなければならないと規定しているが,同法7条の2第1項は,公的医療機関の申請については,医療計画において定めるその地域の必要病床数に既に達している場合,又は,申請によってこれを超えることとなる場合には,許可しないことができると規定している。医療法は,私人については,病院の開設等の許可申請があれば,一定の要件を充たしている限り許可することとする一方で,公的医療機関については,申請に対する許可自体を制限することとしており,私人の開業の自由を認めて,これを公的医療機関よりも優先することとしているのであるから,民間医療機関に対する病床配分の結果,既に必要病床数に達する場合や,公的医療機関の申請により必要病床数を超えることとなる場合には,都道府県知事は,公的医療機関の申請を許可してはならないことになるはずである。
また,医療法上,公的医療機関を民間の医療機関よりも優先させる根拠は存在しないのであるから,公的医療機関に対して優先的に病床を配分することは,それ自体が申請者を公平に扱っていないという点において許されないのである。

ところが,被告は,まず公立病院であるA病院に対して事前協議を経ることなく20床の病床を配分した後,これを控除した544床について,事前協議を行った上で民間の医療機関に病床を配分したのであるから,公的医療機関を優先していたことが明らかである。
被告は,公的医療機関を優先的に扱った上で本件勧告を行ったのであるから,本件勧告が,病床配分を公平・公正に行わなければならないという手続的正義ないし医療法7条の2に反し違法であることは明らかである。
(原告の主張に対する被告の反論)
原告は,本件勧告について,①行政手続法7条違反,②行政手続条例30条2項違反,③医療法30条の7が規定する勧告要件の欠缺,④医療法7条の2違反が存在するので取り消されるべきであると主張するが,本件勧告に原告が主張するような違法はない。
(1)

争点(1)(行政手続法7条違反)について
行政手続法7条は,申請が事務所に到達した場合における行政庁の義務を
規定したものにすぎず,これが許可申請前の事前協議に関して適用されることはない。
仮に,本件における事前協議について行政手続法7条が適用される場合であっても,この事前協議には拘束力・強制力がなく病院の開設等の許可申請が規制されている事実はないし,以下のとおり,医療法により許容された都道府県知事の裁量の範囲内で行われているから,何ら違法なものではない。ア
指導要綱が制定された経緯
医療法は,7条4項において病院の開設許可申請が一定の要件を備えている場合には開設の許可を与えなければならないとする一方で,30条の7において医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合には病院の開設等に関して必要な勧告をすることができる旨定めている。そして,この医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合の意味について,昭和61年8月通知は,申請に係る病院の所在地を含む二次医療圏における病床数が医療計画に定める当該区域の必要病床数に達している場合又は当該病院の開設等によって当該必要病床数を超えることになる場合を挙げている。
しかし,二次医療圏における必要病床数が既存病床数を上回る状態で,複数の病院の開設又は病床数の増加等が申請され,申請に係る病床数の総数が不足病床数を超えることとなる場合の対応・処理方法については医療法に特段の規定がなく,医療法7条と30条の7との整合性を図る必要が生じるが,医療法は国民に対して良質かつ適切な医療が効率的に提供される体制を確保するために都道府県に医療計画の作成を義務付け(同法30条の3),病院の開設等が申請された際に,申請に係る病院の病床数等を医療計画に適合する方向に誘導するために同法30条の7による勧告の制度を設けているのであるから,複数の申請に関して何らかの調整を行うことが許容されているといえる。
茨城県においては,平成5年11月1日付けで公示された第2次茨城県保健医療計画において定められた必要病床数が既存病床数を上回り,不足病床数が存在する二次医療圏が発生したため,上記調整が必要とされる事態も想定されることとなり,調整のための方策として,同日付けで指導要綱が定められ,受付期間や事前協議書の様式等につき予め茨城県報に告示するなどして指導内容の明確化が図られてきたのである。

指導要綱に定められた手続
指導要綱が定める具体的な手続は,病院の開設者等は知事が規定する期間内にその計画について知事と協議しなければならないものとし,その際に,病院・施設の概要等を記載した事前協議書を提出させ,開設予定地の市町村を管轄する保健所長が開設者等に対して聴聞を行い,さらに地域保健医療推進会議の意見を聴いた上で,医療計画と適合し,良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を図るという観点から病床の配分を決定するというものであって,その手続は医療法の趣旨に適うものであり,何ら違法・不合理なものではない。
平成10年7月通知は,近接した期間に開設許可の申請等が複数なされた場合に,全ての申請者等の参加による病床数等の調整を行うべきこととしているが,指導要綱はその趣旨を先取りした内容となっている。医療法は申請者等の意見調整の方法につき具体的な規定を置いていないが,これは,医療資源の効率的活用を図りつつ,人口の高齢化,医学・医術の進歩及び疾病構造の変化に対応して,国民に対し適正な医療をあまねく確保するという医療計画の達成のためには,地域の医療提供の実情を踏まえ,かつ,公平・公正に病床配分を行うという政策的,専門的ないし技術的な判断が要求されることから,その調整方法を法律に具体的に規定することは困難であり,その調整を行う都道府県知事に対して裁量を認めたからに他ならない。同通知は調整方法の1つを例示しているが,その他の調整方法を否定するものではなく,指導要綱に基づく事前協議は,上記のとおりの内容からして,医療法の趣旨に適った適正なものである。

病床配分の決定
被告は,事前協議の受付期間並びに事前協議書の提出場所及び様式等を告示した上で,土浦保健医療圏につき17の病院の開設等の希望者(最終的な病院の開設等希望者の全員が参加した。)から事前協議書の提出を受けて聴聞を行い,土浦地域保健医療推進協議会の意見を聴き,さらに,本件保健医療計画を踏まえて病床配分を決定したのである。
被告は,本件保健医療計画において,土浦保健医療圏の医療供給体制の状況等につき,救急救命センター,地域がんセンターなどの中核的病院や診療科別の病床などの医療機能が他の二次医療圏よりも整備されている一方,療養型病床群の既存病床が少なく(整備目標は732床と定められていたが既存病床は77床にすぎなかった。),介護保険の円滑な導入に向けて,早急に療養型病床群の整備を図る必要があるとされていた点を考慮し,また,療養型病床群が大規模なものよりは住民に身近なところにあることが望ましいという観点や公平性の観点も踏まえて,療養型病床群の整備を希望する開設者等に対して,特に不足している療養型病床群につき60床を限度に優先的に配分したのであるから,その決定手続に何ら裁量の逸脱・濫用はない。

以上のとおり,指導要綱に基づく事前協議及び病床配分は適正なものであったから,本件勧告が違法とされる余地はない。

(2)

争点(2)(行政手続条例30条2項違反)について
原告は,原告が事前協議に従わなかったことを理由として本件勧告が行わ
れたものであるとして,本件勧告が行政手続条例30条2項に違反すると主張するが,被告はそのような理由により本件勧告を行ったのではない。被告は,原告によって本件申請のとおりの病院が開設された場合には,病床の種別に応じて本件保健医療計画に定められている土浦保健医療圏における必要病床数を超えることとなるため本件勧告を行ったのであるから,原告の主張は失当である。
(3)

争点(3)(医療法30条の7が規定する勧告要件の欠缺)について本件勧告の要件充足性
都道府県知事は,医療計画を達成するために,医療供給体制の現状,今後の医療需要の推移等地域の実情を十分に勘案して二次医療圏を設定し,病床不足医療地域については病床の整備を図る一方,病床過剰医療地域については医療提供体制の適正化・効率化を図るものとされているところ,医療法30条の7は,病院の開設等の申請がなされた際に,当該申請に係る病院の病床数等を医療計画に適合する方向に誘導し,良質かつ適切な医療を提供する体制を確保できるようにするために,勧告の制度を規定している。医療法30条の7に基づく勧告がこのようなものであることに加え,勧告に際して,都道府県医療審議会という専門家の意見を聴くことが要件とされていることも考え合わせれば,都道府県知事による勧告は,政策的,専門的ないし技術的判断に基づくものであって,広範な裁量にゆだねられているものといえる。
したがって,勧告の違法性判断については,専門的・技術的な審議の過程に看過し難い過誤・欠落があり,都道府県知事の判断がこれに依拠していると認められるような不合理な点があるため,都道府県知事の判断が社会通念上著しく不相当であると認められる場合にのみ裁量の逸脱・濫用が認められ,違法性が肯定されるにすぎない(最高裁平成4年10月29日第一小法廷判決昭和60年(行ツ)第133号・民集46巻7号1174頁参照)。
このような観点から本件勧告に至る経緯をみると,前記(1)のとおり,その判断過程に看過し難い過誤や欠落は存在せず,また,社会通念上著しく不相当とされるような点も存在しないから,本件勧告に違法はない。イ
原告の主張について
(ア)

原告は,B病院C分院が60床の許可申請を事後的に取り下げたた
め,本件勧告当時における不足病床数が120床となっていたから,本件勧告のうち60床を超えて病床数の削減を求める部分については勧告要件を欠いていると主張する。
しかし,仮に原告が主張するとおり,原告に対して120床を超える部分について削減を求める勧告を行ったとすると,既に実施された公平かつ公正な配分のための調整を踏まえて先に病院の開設等の許可申請を行って許可を受けた者と比較して,後で病院の開設等の許可申請をし,加えて調整の結果を踏まえずにより多くの病床数による申請をした原告が優先されることとなり,不公平・不公正が生じることとなる。そのような結果は,平成10年7月通知の趣旨を潜脱するものであり,ひいては,適切な医療資源の配置や医療施設間の機能連係の確保を目指した医療計画の達成が困難となることも考えられるから,原告の主張は失当である。
(イ)

また,原告は,本件申請の時点を基準として勧告要件を検討すると,
不足病床数は544床から既に病院の開設等が許可されていた病床に係る計119床を控除した425床であったから,病床の削減を求めた本件勧告は勧告要件を欠いていると主張する。
しかし,本件申請があった平成11年10月4日の時点における不足病床数は425床であったところ,同日までに原告以外の者に関して,病院の開設等の許可が申請されたが未だ許可が出されていない病床数が365床あったのであるから,本件申請に係る308床を加えれば,必要病床数を超える状態にあり,勧告要件が充たされていたことは明らかである。
(4)

争点(4)(医療法7条の2違反)について
原告は,被告がA病院に対して優先的に20床を配分したことが医療法7
条の2に違反すると主張する。
医療法上,民間病院について30条の7により勧告ができると規定されている一方,公的性格を有する病院の開設等については7条の2第1項が許可を与えないことができると規定して,より強い規制が加えられているが,これは,医療機関の適正な配置を進めるに当たり,民間の病院に対して強力な配置規制を行うことが困難であることを踏まえて,公的性格を有する病院の配置を規制して,病床過剰地域における医療機関の配置の適正化を進めようとしたためである。すなわち,医療法は,公的性格を有する病院よりも優先して,民間の病院に病床を配分しなければならないとするものではなく,むしろ,医療機関の適正な配置という観点から,公的性格を有する病院の開設等につき都道府県知事に裁量権を付与したものである。そして,複数の病院の開設等の申請がなされた場合における調整の方法及び公的性格を有する病院の開設等に関する都道府県知事の裁量については,その判断の内容及び性質からすれば,前記(3)アの場合と同様に,専門的・技術的な審議の過程に看過し難い過誤・欠落があり,都道府県知事の判断がこれに依拠していると認められるような不合理な点があるため,都道府県知事の判断が社会通念上著しく不相当であると認められる場合にのみ裁量の逸脱・濫用が認められ,違法とされるにすぎないというべきである。
A病院は,リハビリテーションについての専門的な医療を行う専門病院であり,入院患者については平均3か月の治療プログラムを作成して治療に当たっているが,染色体異常,奇形症候群及びてんかんなど特殊・専門的な管理が必要な小児に対応する小児病棟も有している。しかし,その病床数が10床と少なかったため,待機患者数が増加しており,その増床が必要となっていた。そこで,被告は,平成10年10月5日付けで同病院に20床の病床配分を行い,土浦保健医療圏におけるリハビリテーション医療の体制整備を図ったのである。
このように,被告は,医療機関の適正な配置などの専門的・技術的な観点から,A病院に対して20床を配分したのであり,その判断に裁量権の逸脱・濫用がないことは明らかであり,本件勧告が違法とされる余地はない。第3
1
当裁判所の判断
認定事実
(1)

本件保健医療計画の策定
前提事実,証拠(乙4,6,8ないし12,27,証人D)及び弁論の全
趣旨によれば,本件保健医療計画の策定について,以下の事実が認められる。ア
茨城県においては,医療法30条の3に規定する医療計画として,平成5年に第2次茨城県保健医療計画を策定し(計画期間は同6年度から同10年度まで),同8年度ころから,計画期間を同11年度から同15年度までとする新たな医療計画を策定する準備を進めていたところ,同9年12月17日,医療計画に掲げる事項として,地域医療支援病院(同法4条1項に規定する病院)の整備の目標及び療養型病床群に係る病床の整備の目標等を規定する医療法の一部を改正する法律(平成9年法律第125号)が施行された。
そこで,茨城県においても,平成12年度から介護保険制度が開始されることを踏まえて,新しい医療計画のもとで,施設において介護サービスを提供する施設等(特別養護老人ホーム,老人保健施設又は療養型病床群など)全体の整備目標を考慮した上で,療養型病床群に係る病床の整備の目標を定めることとなったが,茨城県においては療養型病床群が不足していたためその早急な整備が必要であり,また,国からも早急に療養型病床群の整備目標を医療計画に定めるよう求められたため,医療法30条の3第2項に規定する医療計画に定めるべき事項のうち,二次医療圏,必要病床数及び療養型病床群に係る病床の整備の目標を,他の事項に先行して策定することとした。

茨城県は,①地理的条件等の自然条件並びに日常生活の需要の充足状況及び交通事情等の社会的条件等を考慮して設定された二次医療圏,②医療法施行規則に規定する基準により算定された必要病床数,③医療法及び同法施行規則の規定に基づいて算出された療養型病床群に係る病床の整備の目標等を規定した本件保健医療計画を策定し,平成10年10月5日付けの茨城県報において告示した(本件保健医療計画全体については同11年4月8日付けで茨城県報に告示された。)。
本件保健医療計画においては,茨城県における一般病床に係る必要病床数は合計2万6221床と規定され,そのうち土浦保健医療圏における必要病床数は4584床と規定された。また,土浦保健医療圏における療養型病床群の整備目標数は732床と規定された。

被告は,小児に対するリハビリテーション医療への需要が高いにもかかわらず,土浦保健医療圏において小児に対するリハビリテーション医療を提供する専門病院が病床数10床の小児病棟を有するA病院しか存在せず,入院の順番を待つ待機患者が多数発生しており,しかもリハビリテーション医療が不採算医療であり民間医療機関による病院の開設等が見込まれない状況であったため,A病院の小児病床数を増床する必要があると判断し,指導要綱5条3号の規定により事前協議を要しない病院の開設等として,A病院の病床数20床を定め,平成10年10月5日付けの茨城県報に告示した。
土浦保健医療圏における既存病床数は4020床であったが,被告が上記のとおり,A病院に20床を配分したため,土浦保健医療圏における不足病床数は,必要病床数4584床から4040床を控除した544床となった。

(2)

事前協議の実施及び病床配分の決定
前提事実,証拠(乙1,9,14,15,27,証人D)及び弁論の全趣
旨によれば,事前協議及び病床配分について,以下の事実が認められる。ア
茨城県は,本件医療計画の告示に先立ち,病院の開設等に係る病床配分につき事前協議及び審査に関する方針等を決定し,平成10年9月8日,事前協議の受付を担当することになる茨城県内の保健所の担当者と打合せを行った。
上記打合せにおいては,①本件保健医療計画に基づく病院の開設等に関する事前協議の受付期間を平成10年10月5日から同年12月4日までとして茨城県報等において告示すること,②病床の配分に当たっては,療養型病床群及び地域医療支援病院に係る病床を最優先すること,③事前協議及び病床配分等に関する日程などが説明された。

被告は,本件保健医療計画に基づく病院の開設等に関して,指導要綱3条に基づく事前協議の受付期間を平成10年10月5日から同年12月4日までと定めて,同年10月5日付けの茨城県報に告示した。
上記事前協議の受付期間の間に,別紙土浦保健医療圏における事前協議,開設許可等一覧の事前協議等の状況欄記載のとおり,17の開設者等から合計1591床(療養型病床群に係る病床が979床,その他の病床が612床)の病院の開設等に係る事前協議書が,土浦保健医療圏に所在する市町村を管轄する茨城県土浦保健所又は茨城県竜ヶ崎保健所に提出された。原告は,病床数507床(療養型病床群に係る病床が100床,その他の病床が407床)とする病院の開設に係る事前協議書を提出した。


茨城県は,前記(1)の本件保健医療計画の内容及び作成経緯等を踏まえて,県内における病床配分の優先順位については,①療養型病床群に係る病床及び地域医療支援病院となるために必要な病床を第1順位,②専ら高度・特殊な医療及び不採算部門の医療を担う病床並びに地域医療に必要と認められる病床を第2順位,③当該保健医療圏に適当と認められる病床を第3順位とする方針を決定した(土浦保健医療圏における病院開設等に係る病床配分の考え方について(乙15の23丁目及び24丁目)参照)。そして,土浦保健医療圏における病床配分については,さらに,現実に提出された事前協議書の内容等をも考慮して,①土浦保健医療圏においては,救命救急センター及びがんセンターなどの中核的病院並びに診療科別の病床などの医療機能が他の保健医療圏と比べて整備されているため,特に不足している療養型病床群の整備に対して優先的に配分すること,②療養型病床群の整備目標732床に対する不足数を509床(病床整備目標数(732床)から,既存の介護力強化病院病床数(合計182床)のうち療養型病床群病床への転換見込数146床及び既存の療養型病床群に係る病床数77床の合計223床を控除して算出された。)とすること,③療養型病床群は,大規模なものより住民に身近なところにあることが望ましいため,事前協議の際の希望病床数にかかわらず60床を上限(1看護単位の上限)として配分すること,④不足病床数544床から療養型病床群に係る病床509床を控除した残りの35床については,療養型病床群に係る病床を希望していない開設者等に対して概ね申請数の4割を配分することなどが決定された(上記考え方添付の別紙土浦保健医療圏における病床配分の考え方(案)(乙15の29丁目)参照)。エ
被告は,上記方針につき平成11年2月19日に開催された土浦地域保健医療推進協議会による審議・承認を経た上で,同年3月12日,別紙の事前協議に基づく病床の配分結果等欄記載のとおり(なお,原告にその他の病床は配分されていない。),事前協議書を提出した17の開設者等のうち,13の開設者等に対し,合計544床の病床(療養型病床群に係る病床が509床,その他の病床が35床)を配分することを決定した。原告に対しては,療養型病床群に係る病床60床が配分された。茨城県は,同日,上記病床配分の結果を事前協議書を提出した開設者等に通知し,また,同年10月4日までに事前協議に係る病院の開設等の許可を申請するよう指示した。

(3)

本件勧告及び本件申請に対する許可
前提事実,証拠(甲4ないし6,乙1,13,28,29,証人E,同
F)及び弁論の全趣旨によれば,本件勧告及び本件申請について,以下の事実が認められる。

病院の開設等の許可申請の期限である平成11年10月4日までに,被告に対し,別紙の事前協議に基づく病床の配分結果等欄記載のとおり,事前協議書を提出した17の開設者等のうち13の開設者等から,合計792床の病床(療養型病床群に係る病床が509床,その他の病床が283床)の病院の開設等に係る医療法7条1項の許可申請がなされた(そのうち,原告は,同日付けで,病床数を308床(療養型病床群に係る病床が60床,その他の病床が248床)とする病院の開設に係る許可申請(本件申請)をした。)。

被告は,本件申請に係る病床数によって病院が開設されると,土浦保健医療圏における病床数が本件保健医療計画において定めた同保健医療圏における必要病床数を超えることになるため,原告に対して医療法30条の7に基づいて,本件申請に係る病院の開設に関して病床数を308床から60床に削減するよう求める勧告を行う必要があると判断し,平成11年10月28日,茨城県医療審議会に対して,原告に対する病床数の削減勧告につき諮問した。
茨城県医療審議会は,同年11月22日,上記勧告を行うことの適否について審議した結果,勧告を行うのが相当であると判断し,その旨被告に答申した。


被告は,上記茨城県医療審議会の答申を踏まえて,平成11年12月9日付けで,原告に対し,本件申請に係る病床数によって病院が開設された場合,本件保健医療計画が設定している土浦保健医療圏における病床数が,同計画が定める同保健医療圏における必要病床数を超えることになるという理由により,本件申請に係る病院の開設に関し,病床数を308床から60床に削減するよう求める勧告をした(本件勧告)。
本件勧告においては,勧告に基づき講じた措置につき同月27日までに報告することが求められていたが,原告は,平成12年1月21日,本件勧告に従わない意向を示した。


被告は,本件申請については,これが医療法7条4項に規定する要件に適合するものであったことから,同月28日付けでこれを許可する旨の処分をした。
2
争点(1)(行政手続法7条違反)について
原告は,病院の開設等の許可申請に先立って,被告が指導要綱に基づく事前協議を行ったことが行政手続法7条に違反する旨主張するが,以下のとおり,これは失当である。
(1)

行政手続法7条は,各種の申請が行政と国民との日常的な接点であり,そ
の処理につき透明性の向上及び迅速で公正な対応を図ることが行政に対する国民の信頼を確保する上で重要であることにかんがみ,国民の申請権の具体的行使である個々の申請について,当該申請が権限ある機関の事務所に到達したにもかかわらず,申請を受付・受理しない等の扱いがなされ,その間に申請の取下げや内容の変更を求める行政指導が行われたり,あるいは,処理が遅延させられたりする事態を排除するために,①申請が事務所に到達したときには行政庁に遅滞なくその審査を開始する義務が生ずることを規定するとともに,②特に,当該申請が法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない場合について,行政庁に対し,当該申請の補正を求めて審査を継続するのか,当該申請により求められた許認可等を拒否して審査を打ち切るのかを速やかに明らかにすべきことを規定したものである。
このように,行政手続法7条は,各種の申請に関する行政庁による処理につき,透明性,迅速性及び公正性を確保するために,申請の到着後における迅速な審査義務等を規定したものであるが,前記1(2)のとおり,本件においては,被告は,病院の開設等の許可申請が未だなされていない段階で指導要綱に基づいて事前協議を行ったにすぎないのであるから,事前協議が行われたこと自体をもって,直ちに同条に違反したものということはできない。(2)

また,本件において被告が現実に行った事前協議の手続・内容についてみ
ても,行政手続法7条の規定ないしその趣旨に照らして,違法・不当とされるべき点は見出せない。

すなわち,医療法は,良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を確保して,国民の健康保持に寄与すること等の基本理念(同法1条ないし1条の3)のもと,都道府県は,医療計画に,①二次医療圏の設定に関する事項,②特殊な医療を提供する病院の当該医療に係る病床の整備を図るべき地域的単位としての区域の設定に関する事項,③必要病床数に関する事項,④地域医療支援病院及び療養型病床群の整備の目標に関する事項,⑤医療に関する施設相互の機能の分担及び業務の連係に関する事項,⑥休日診療及び夜間診療等の救急医療の確保に関する事項,⑦へき地の医療の確保に関する事項,⑧医師等の医療従事者の確保に関する事項,⑨その他医療を提供する体制の確保に関し必要な事項などを定めるものとし(同法30条の3第1項,2項),また,医療計画の作成にあたっては,他の法律の規定によって医療の確保に関する事項を定めた計画と調和が保たれるようにしつつ,公衆衛生,薬事及び社会福祉等医療と密接な関連を有する施策との連係を図るよう努める(同法30条の3第6項)とともに,当該都道府県の境界周辺の地域における医療の需給の実情に照らして必要があるときには,関係都道府県と連絡調整を行うこととしている(同法30条の3第7項)ところ,このような内容を備えた医療計画を策定するに当たっては,医療に関する専門的な知見に加え,①医療供給体制の現状及び今後の医療需要の推移等地域の実情,②地理的条件等の自然条件,③日常生活の需要の充足状況,交通事情,地域における受療動向及び中核病院の存否等の社会的条件等の医療に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で,高度に政策的・専門的な見地から検討・判断することが不可欠であるというべきである。
そして,医療計画において設定される二次医療圏内における病床の配分は,こうした良質かつ適切な医療の効率的な提供を確保するという医療法及び医療計画の基本理念を,国民に最も密接な形で現実化する過程の一つであるといえるから,都道府県知事が具体的な病床の配分を決定するに際しても,医療計画の策定と同様に,高度に政策的・専門的な見地から判断することが不可欠であるというべきであるが,その内容の政策的・専門的性質に照らせば,その判断の前提として,都道府県知事が,病院の開設等の申請予定者による病院の開設等に係る病床配分の希望状況について予め情報を収集し,あるいは,配分の調整を行うことには,相応の必要性・合理性が認められるといえる。
したがって,都道府県知事が,病院の開設等の許可申請に先立って,事前協議等の方法により病床配分の希望状況に関する情報収集ないし配分の調整を実施することも,その内容が,各種申請に関する行政庁による処理について透明性,迅速性及び公正性を確保しようとした行政手続法7条の趣旨に反するような不当・不合理なものでない限り,許されるというべきである。

そこで,本件において,被告が事前協議の根拠とした指導要綱の具体的な手続につき検討すると,前提事実(3)エのとおり,指導要綱は,例外的に事前協議を要しない場合を明記しつつ(指導要綱5条),開設者等に予め被告が指定する期間内に病院の開設等の計画につき協議するよう求め(指導要綱3条),事前協議の審査が終了した時には,速やかにその結果を通知するものとする(指導要綱7条)とともに,必要と認めるときは開設者等に対して計画の改善又は中止を指導することができ(指導要綱6条),また,開設者等が指導要綱に規定する事前協議を経ずに病院の開設等を申請した場合や事前協議において指導要綱6条に基づく改善指導等に従わない場合において必要と認めるときには,茨城県医療審議会の意見を聴いて医療法30条の7による勧告を行うものとすること(指導要綱8条)としているのであり,その内容に不明瞭・不合理な点はなく,病院の開設等の許可申請に関する処理についての透明性,迅速性及び公正性の確保につき相応に配慮されたものとなっていたということができる。
なお,原告は,指導要綱8条が,事前協議に参加しない者又は事前協議後の改善指導等に従わない者に対しては,医療法30条の7に基づく中止勧告又は削減勧告を行うものと規定していることから,指導要綱に基づいて事前協議を実施すること自体が違法である旨主張するが,医療法30条の7に基づく勧告は医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合に限って行うことができるのであり,その要件の存否は,行政指導である事前協議への参加・不参加ないし改善指導等の遵守・不遵守に左右されるものでなく,被告が指導要綱8条の規定のみを根拠として勧告を行うことが許されるわけではない(指導要綱8条は

必要と認めるときは,(中略)開設者等に対し必要な勧告を行うものとする。

と規定して,その趣旨を明らかにしている。)。結局,指導要綱は,予め医療法30条の7に基づく勧告が行われる見込みの有無を審査し,勧告の実施が確実となる前に自主的な改善を促すために行政指導を行うことを規定したものにすぎないのであるから,上記のとおりの必要性・合理性が認められる指導要綱に基づく事前協議を行うこと自体が違法であると認めることはできない。ウ
以上のように,被告は,事前協議等の方法により病床配分の希望状況に関する情報収集ないし配分の調整を実施する必要性が相応に認められる性質の事項について,行政手続法7条の趣旨にも相応に配慮した手続による事前協議を行ったのであるから,これが行政手続法7条の規定ないし趣旨に違反する違法・不当なものであったということはできない。

3
争点(2)(行政手続条例30条2項違反)について
原告は,本件勧告が指導要綱に基づく事前協議に従わなかったことを理由として行われたものであるとして,その措置が行政手続条例30条2項に違反する旨主張するが,以下のとおり,これは失当である。
(1)

本件勧告は,前記1(3)のとおり,被告において,本件申請に係る病床数によって病院が開設されると,土浦保健医療圏における病床数が本件保健医療計画において定めた同保健医療圏における必要病床数を超えることになると判断し,本件保健医療計画の達成の推進のため特に必要があると認めた上で実施されたものであるから,原告が指導要綱に基づく事前協議という行政指導に従わなかったことを理由として行われたものでないことは明らかである。
(2)

本件勧告において削減が求められている病床数(248床)が,事前協議
による病床配分の結果(60床)を超える部分と同数であることから,本件勧告が事前協議の結果を踏まえたものであったと認めることができるが,この事前協議による病床配分の過程・結果を合わせて検討してみても,行政指導に従わなかったことを理由として原告に対して不利益が科されたような事実を見出すことはできない。
すなわち,行政手続条例30条2項にいう不利益な取扱いとは,行政指導を行う者が,差別的な意図をもって,行政指導に従わなかった者に対し,行政指導を受ける以前には得られていた利益を損なわしめ,又は,それまで被っていなかった不利益を与えることをいうものと解されるところ,前記1(1)及び(2)のとおり,被告は,介護保険制度の開始を控えて,土浦保健医療圏において特に不足していた療養型病床群を早急に整備するという意図のもと,同保健医療圏における療養型病床群の整備目標を732床と定めた上で,療養型病床群に係る病床への配分を最優先とし,さらに,主として長期にわたり療養を必要とする患者を収容するためのものであるという療養型病床群の性質上,大規模なものよりも住民に身近なところにあることが望ましいとして,一律に療養型病床群に係る病床60床を上限として配分することとする方針を立て,現実に,別紙の事前協議に基づく病床の配分結果等欄記載のとおり(なお,原告にその他の病床は配分されていない。),その方針に沿って平等に配分を行ったのであるから,原告について差別的に利益が剥脱され,あるいは,不利益が与えられた事実は格別認められない。(3)

以上のとおり,本件勧告に関して行政手続条例30条2項に違反する事実
は認められない。
4
争点(3)(医療法30条の7が規定する勧告要件の欠缺)について原告は,事前協議に係る病院の開設等の申請が締め切られた後,B病院C分院が60床の病床に係る病院の開設の申請を取り下げたことなどから,本件勧告には,医療法30条の7に規定する勧告要件を欠く違法が存在する旨主張するが,以下のとおり,これは失当である。
(1)

医療法30条の7に規定する勧告の要件については,前提事実(3)ウのと
おり,平成10年6月通知において,同条にいう医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合とは,原則として,病院の開設等の許可の申請がなされた場合において,その病床の種別に応じ,その病院又は診療所の所在地を含む二次医療圏における既存の病床数が,医療計画に定める当該二次医療圏の必要病床数に既に達している場合又はその病院又は診療所の開設等によって当該必要病床数を超えることとなる場合をいうものとされているところ,本件における開設者等による病院の開設等の許可申請の状況は,別紙の事前協議に基づく病床の配分結果等欄記載のとおりであり,平成11年10月4日の申請締切時点において,13の開設者等から合計792床の病床(療養型病床群に係る病床が509床,その他の病床が283床)の病院の開設等に係る許可申請がなされており,そのうち,5の開設者等による計119床の病床に係る病院の開設等が既に許可されていた(不足病床数は425床となっていた。)のであるから,残りの8の開設者等による計673床の病床に係る病院の開設等の申請を全て許可した場合には,病床数が本件保健医療計画に定める土浦保健医療圏における必要病床数を超えることは明らかであり,その時点において,同条の勧告要件が充たされていたものと認められる。
その後,平成11年11月30日にB病院C分院が60床の病床に係る病院の開設の申請を取り下げているが,別紙の事前協議に基づく病床の配分結果等欄記載のとおり,その時点における土浦保健医療圏における不足病床数は,本件申請の後,さらに6の開設者等による計305床の病床に係る病院の開設等が許可されたため120床に減少していたのであるから,病床数を308床とする本件申請をそのまま許可した場合には,同保健医療圏における病床数が本件保健医療計画に定める必要病床数を超えることは明らかであり,同条の勧告要件が依然として充たされていたものと認められる。なお,原告は,病院の開設等の申請が複数なされた場合においては,申請全体に係る病床数と不足病床数とを比較するのではなく,個々の申請に係る病床数と不足病床数とを比較して,個々の申請ごとに勧告要件の存否を判断するべきであると主張するようであるが,そのような考え方によると,複数の申請につき個別的にみればいずれも単独では不足病床数を超えることはないものの,申請全体に係る病床数が不足病床数を超えているような場合には,全ての申請をそのまま許可すれば必要病床数を超えることが確実であるにもかかわらず,いずれの開設者等に対しても勧告を行えないという不都合が生じることとなるから,これを採用することはできない(平成10年7月通知も近接した期間に開設許可の申請等が複数なされた場合は,地域の医療提供の実情を踏まえ,かつ,手続の透明化を期する観点から,(中略)全ての申請者等の参加による病床数等の調整を行うなど,今後とも公平性・公正性の確保に努め,医療計画の達成の推進を図るものとすること。とし(甲15の10),複数の申請がなされた場合には申請全体に係る病床数を検討すべきことを明らかにしている。)。
(2)

ところで,被告は,B病院C分院が60床の病床に係る病院の開設の申請
を取り下げたにもかかわらず,120床を超えて60床まで病床数を削減するよう求める本件勧告を行ったのであり,また,病院の開設等を申請した開設者等のうち原告に対してのみ勧告を行ったのであるから,その適否が問題となるが,この点についても,被告の措置が違法・不当であったと認めることはできない。

すなわち,医療法30条の7は,都道府県知事は,医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合に病院の開設等について勧告することができるものとしているが,勧告要件が充たされる場合に行うことが許される勧告の内容については,開設者等又は病院若しくは診療所の開設者・管理者に対し,病院の開設等に関して勧告することができると規定するのみで,どの開設者等に対し,いかなる基準により,いかなる勧告が行われるべきであるのか何ら明らかにしていない。また,平成10年6月通知も,同条にいう病院の開設等に関して勧告することとは,それぞれの行為の中止又はそれぞれの行為に係る申請病床数の削減を勧告することをいうものであるとするのみで,どの開設者等に対し,いかなる場合に中止を勧告し,いかなる場合に削減を勧告するべきであるのか,また,削減を勧告する場合にどの程度の削減を勧告するべきなのかについては,何ら述べていない。そこで,医療法30条の7の勧告の要件が充たされている場合に,都道府県知事が,いかなる勧告を行うことができるのかが問題となるが,同条が,医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合に病院の開設等について勧告することができるものと規定した趣旨は,病院の開設等が申請された際,当該申請に係る病院の病床数等を医療計画に適合する方向に誘導することにより,良質かつ適正な医療を効率的に提供する体制を確保するところにあると解される(最高裁平成14年(行ヒ)第39号,同年(行ツ)第36号同17年9月8日第一小法廷判決・集民217号709頁参照)ところ,前記2(2)アのとおり,医療計画の策定及び医療計画において設定された二次医療圏内における病床の配分に当たっては,医療に関する専門的な知見に加え,各地域における医療の実情,地理的条件等の自然条件並びに日常生活の需要の充足状況及び交通事情等の社会的条件等の医療に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で,高度に政策的・専門的な見地から判断することが不可欠であるから,病院の開設等の申請が複数なされて同条の勧告要件が充たされることとなった場合に,都道府県知事が,医療計画の達成の推進のために特に必要があるとして勧告を行うに際しては,どの開設者等に対し,いかなる内容の勧告を行うかについて裁量が認められているというべきであり,さらに,良質かつ適正な医療を効率的に提供する体制を確保するという目的の重要性及び判断内容の高度な政策的・専門的性質に照らせば,その裁量は広範なものであるというべきある。したがって,当該勧告内容の適否の審査に当たっては,当該勧告が裁量権の行使としてなされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認等があるため重要な前提事実を欠くこととなる場合,若しくは,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,又は,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものと認められる場合などに該当しない限り,当該勧告は裁量権の範囲内にあるものというべきであり,これが違法・不当とされることはないものと解するのが相当である。

これを本件についてみると,被告は,医療法及び本件保健医療計画を前提としつつ,事前協議を通じて,療養型病床群に係る病床への配分を最優先とし,また,一律に療養型病床群に係る病床60床を上限として配分する方針を立てて病床配分を行い,この方針ないし病床配分と合致しない申請をした原告に対して本件勧告を行ったものであるが,この一連の判断・措置は,医療法の改正により,医療計画に掲げる事項として療養型病床群に係る病床の整備の目標等を規定することとされ,また,介護保険制度の開始を控えて,土浦保健医療圏において特に不足していた療養型病床群を早急に整備する目的で,本件保健医療計画において同保健医療圏における療養型病床群の整備目標が732床と定められたことを受けて,本件保健医療計画の達成を図るために,療養型病床群に係る病床への配分を最優先とすることとし,さらに,主として長期にわたり療養を必要とする患者を収容するためのものであるという療養型病床群の性質上,大規模なものよりも住民に身近なところにあることが望ましいとして,60床という配分の上限を定めることとしたものであり,しかも,本件申請に対する許可以前に既に事前協議による病床配分のとおりの病院の開設等の許可を受けていた他の開設者等との公平性も考慮して,唯一事前協議による病床配分と異なる内容の申請をしていた原告に対し,予め決められた方針や事前協議による調整の結果に沿うように病床の削減を求める本件勧告を行ったものであるから,その判断に関して重要な前提事実の欠如は認められず,また,事実に対する評価は合理的であり,内容も社会通念に照らして妥当なものと認められる。
したがって,本件勧告は被告の裁量権の範囲内にあるものというべきであって,これが違法・不当とされることはない。
(3)

以上のとおり,本件勧告に関して医療法30条の7に違反する事実を認め
ることはできない。
5
争点(4)(医療法7条の2違反)について
原告は,被告が,事前協議に先立ち,A病院に対して20床を配分したことが,民間医療機関を公的医療機関よりも優先することを定めた医療法7条の2等に違反するため,本件勧告が違法である旨主張するが,以下のとおり,これは失当である。
(1)

医療法7条の2は,公的医療機関による病院の開設等の申請については,
申請に係る病床の種別に応じて当該申請に係る病院の所在地を含む二次医療圏における病院の病床数が,医療計画において定める当該二次医療圏における必要病床数に既に達している場合又は当該申請に係る病院の開設等によりこれを超えることになると認めるときは,その許可を与えないことができると規定しているところ,これは,医療施設の整備に当たっては,量的な拡大を図るだけでなく,その地域的偏在を防止して計画的な整備を図ることが必要であるが,民間医療機関については自由開業が原則とされており(同法7条4項参照),強力な配置規制を行うことが困難であることを踏まえ,公的医療機関について強力な配置規制を行うことによって,医療施設の計画的な整備を確保しようとしたものである。
このように,医療法7条の2は,医療施設の計画的な整備を実現するために,公的医療機関による病院の開設等について規制を強化したものにすぎず,病院の開設等について民間医療機関が公的医療機関よりも優先されることを規定したものではないから,被告が,民間医療機関に対する病床配分に先立って,A病院に20床の病床を配分したこと自体をもって,直ちに同条に違反したものということはできない。
(2)

そして,被告がA病院に20床の病床を配分することとした経緯をみても,
医療法7条の2の規定ないしその趣旨等に照らして違法・不当とされるべき点は存在しない。
すなわち,前記2(2)アのとおり,医療計画の策定及び医療計画において設定された二次医療圏内における病床の配分は,良質かつ適切な医療の効率的な提供を確保して国民の健康保持に寄与するという基本理念のもと,医療に関する専門的な知見に加え,各地域における医療の実情,地理的条件等の自然条件並びに日常生活の需要の充足状況及び交通事情等の社会的条件等の医療に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で,高度に政策的・専門的な見地から判断・決定されるものであるが,その実現すべき理念の重要性及び判断内容の高度な政策的・専門的性質に照らせば,その策定ないし配分に関する決定については,行政庁の広範な裁量にゆだねられているというべきある。したがって,当該決定の適否の審査に当たっては,当該決定が裁量権の行使としてなされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認等があるため重要な前提事実を欠くこととなる場合,若しくは,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,又は,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものと認められる場合などに該当しない限り,当該決定は裁量権の範囲内にあるものというべきであり,これが違法・不当とされることはないものと解するのが相当である。
これを本件についてみると,前記1(1)ウのとおり,被告は,土浦保健医療圏においては,小児に対するリハビリテーション医療への需要が高いのに,小児に対するリハビリテーション医療を提供する専門病院がA病院しか存在せず,しかも同病院の小児病床数が10床と少なく,入院の順番を待つ待機患者が多数発生しているという実態を前提として,リハビリテーション医療が不採算医療であり民間医療機関による病院の開設等が見込まれないという認識の下,A病院の小児病床数を増床する必要が高いと判断して,事前協議に先立って,同病院に20床を配分したものであり,その判断に関して重要な前提事実の欠如は認められず,また,事実に対する評価も十分に合理的であり,内容も社会通念に照らして妥当なものと認められるから,被告がA病院に20床を配分することとした決定は裁量権の範囲内にあるものというべきであり,これが違法・不当とされることはない。
したがって,被告がA病院に20床を配分したことが,上記(1)のとおり,医療施設の計画的な整備を実現するために公的医療機関による病院の開設等について規制を強化した医療法7条の2の規定ないし趣旨等に照らして,違法・不当とされる余地はない。
6
被告は,茨城県医療審議会の意見を聴くなど適正な手続に則って本件勧告を行ったものであり,また,以上のとおり,本件勧告に原告が主張するような違法事由は何ら認められないから,原告の請求には理由がない。
第4

結論
以上の次第で,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,67条2項後段を適用して,主文のとおり判決する。

水戸地方裁判所民事第1部

裁判長裁判官

志田博文
裁判官

中川正充
裁判官

佐藤康

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