判例検索β > 平成17年(ワ)第1243号
損害賠償請求事件
事件番号平成17(ワ)1243
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成20年3月28日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  民事第8部
判示事項の要旨Y社の提供するインターネットオークションサービスを利用して詐欺の被害にあったXら784名が,Y社に対し,詐欺の被害を生じさせないインターネットオークションシステムを構築すべき注意義務を怠ったとして,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において,Y社には上記サービスの利用者に対し詐欺等の被害防止に向けた注意喚起を時宜に沿って行う利用契約における信義則上の義務があるがその違反を認めることはできないと判断してXらの請求を棄却した事例
裁判日:西暦2008-03-28
情報公開日2017-10-17 20:43:56
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。

第1

実及び理由
請求
被告は,原告らに対し,各原告に対応する別紙請求一覧表請求額欄記載の金員及びこれらに対する,第1事件原告らの各請求につき平成17年4月21日から,第2事件原告らの各請求につき平成17年8月10日から,第3事件原告らの各請求につき平成19年3月15日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要
本件は,被告の提供するインターネットオークションサイトを利用して,商品を落札し,その代金を支払ったにもかかわらず,商品の提供を受けられないという詐欺被害にあった原告らが,被告の提供するシステムには,契約及び不法行為上の一般的な義務である詐欺被害の生じないシステム構築義務に反する瑕疵があり,それによって原告らは,上記詐欺被害にあったとして,被告に対し,債務不履行並びに不法行為及び使用者責任に基づき,損害賠償金(別紙請求一覧表記載のとおりの各原告の損害額及びそれらの15パーセントに相当する弁護士費用)並びにこれらに対する,いずれも請求及び不法行為の後(訴状送達の日の翌日)である,第1事件原告らの各請求につき平成17年4月21日から,第2事件原告らの各請求につき平成17年8月10日から,第3事件原告らの各請求につき平成19年3月15日から,それぞれ支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。なお,原告らの平成19年11月29日付け請求の減縮申立書面による第1ないし第3事件の各請求額合計は,別紙請求一覧表記載の各請求額合計と相違するが,その原因は,第1ないし第3事件について,弁護士費用を原告各
人の損害額ではなく原告らの損害額合計に対する15パーセントの割合で算定していること,第3事件について,原告番号78(A780)の損害額(19万7940円)を計上していないことによるものであり,第1ないし第3事件各訴状に記載の請求の趣旨からすると,原告らは別紙請求一覧表記載の各請求額のとおり請求するものと理解する。
1
前提事実(当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨によれば容易に認められる。

(1)当事者

被告は,情報処理サービス業及び情報提供サービス業等を目的とする株式会社である。
被告は,インターネット上において広告事業やブロードバンド関連事業等を行い,その運営するウェブサイトを通じて,平成11年9月からCオークションと称するサービス(以下本件サービスという。)の提
供を行っている。


原告らは,いずれも本件サービスを利用して,目的商品を落札し,落札金額を出品者指定の口座に振込支払したが,
目的商品の提供を受けられず,
支払金額相当の詐欺被害を受けたと主張している者である。

(2)本件サービスの概要

本件サービスは,被告の運営するウェブサイト上において,出品者が目的商品の情報を掲載して入札を募り,入札者が目的商品に対して自己の買取価格をもって入札し,出品者の定めた入札期間終了時において最高買取価格で入札した者を原則として落札者とし,出品者と落札者との間に当該買取価格落札額)

での売買契約が成立するという仕組みとなっているた

だし,売買契約の成立時期については,争いがある。。



本件サービスを利用しようとする者は,
出品者側,
入札者側のいずれも,
CJAPANID
(以下IDという。
)の登録をして,IDを

取得する必要がある(乙5の2ないし5・19)
。IDの登録や保持につ
き,氏名や住所等を登録する必要があるが,登録者に登録料や会費等の負担は生じない。

本件サービスの利用には,IDの保持に加え,
Cプレミアム
(以下

プレミアムという。
)の会員登録をする必要がある。プレミアム登録
をすると,月額294円(税込み)の会員費が生じ,本件サービスの利用ができるようになるほか,会員用動画の閲覧など,プレミアム会員向けのサービスを受けることができるようになる(乙3の1・2,5の11ないし17・19)


出品者は,本件サービス利用に際して,以下の利用料(以下本件利用料という。)が別途必要となる(乙1,5の13)



出品システム利用料
出品時に1商品につき10.50円(税込み・自動車等の一部商品は別途定める金額)



出品取消システム利用料
出品後入札者のいるオークションを取り消した場合に,1オークション〔1オークションで同一商品を複数出品することができる。
〕に
つき525円(税込み)



落札システム利用料
出品した商品が落札された場合に,落札額に0.03を乗じた金額(税抜き・自動車等の一部商品は別途定める金額)

落札者には,出品者について生じる上記のような利用料の負担は生じない。

入札者は,自己の入札額を決めて,オークションに入札する。
ただし,出品者による開始価格や希望落札価格の設定により,入札額の選択範囲が限定されるなど,選択の余地がない場合もある。また,出品者
が最低落札価格を設定している場合,その価格に満たない金額での入札では,落札することができない。

落札が決まると,被告が出品者及び落札者に対して落札の通知をする。代金の支払,商品の送付・受領の手配等は,出品者と落札者の間で行われる。


被告は,出品者及び落札者の間で行われる代金の支払,商品の送付・受領につき,エスクローサービス(出品者と落札者との間に専門業者が入って代金や商品を現実に取り次ぐサービス)を,出品者が利用を認め,落札者もそれに応じる場合にのみ利用できる任意のサービスとして推奨している。

2
争点
(1)被告の注意義務の有無及びその内容
(2)被告の義務違反の有無
(3)原告らの損害の有無及びその額
(4)被告の免責

3
争点に関する当事者の主張
(1)被告の注意義務の有無及びその内容〔争点(1)〕について(原告らの主張)

被告は,本件サービスの利用者に対し,仲立契約に準じた内容の契約責任を負う。
(ア)被告と原告らを含む本件サービスの利用者との間には,仲立契約に類似する契約が成立している(以下,被告と利用者との間で成立する契約を本件利用契約という。。

本件利用契約は,
出品者と落札者との間の売買契約の成立を目的とし,
利用料を徴収している以上,被告は,利用者に対して,本件サービスを瑕疵のないかたちで提供する義務がある。


仲立営業の目的は,契約締結の機会を促進することにあるところ,①

落札通知メールにより使者として出品者・落札者の売買の意思表
示を伝達していること



経済産業省作成の電子商取引等に関する準則
(甲3,乙4)
によると,出品者及び落札者が落札時の取引条件に拘束されることを前提に取引をしている場合,落札時に契約が成立するとされているところ,本件サービスでは,入札取消しができず,出品取消しに出品取消システム利用料がかかることからすれば,出品者及び落札者が,落札によって商品を落札価額で売買するという取引条件に拘束されることを前提に取引をしていること



商品入札方法として,自動入札システム(最高金額として予算を
入力すると,予算内でできるだけ安く落札するように,自動的に入札し続けるシステム)を利用者に提供し,入札者に代わって入札を行うことで,媒介行為(出品者と入札者の間の売買契約成立に尽力する事実行為)を行っていること



落札により出品者が被告に対し,落札システム利用料を支払うこ



売買の重要な要素である目的物と代金額の提示が,被告の提供す
る本件サービスのシステムの利用なくしてはありえないこと

からすれば,被告の落札通知で利用者間に売買契約が成立するのであって,被告は,本件サービスを提供することで,この利用者が,容易に売買契約を締結できるよう,利用者間の売買契約締結の機会を促進し,他人間の法律行為の媒介を行っている。

仲立契約は,事実行為の委託として準委任であるから,被告は,善管注意義務を負う。


原告らと被告との間の仲立契約である本件利用契約は,一方的仲立
契約にあたり,請負に類似した特殊な契約なので,被告は,仕事完成義務ないし瑕疵担保責任から導かれる,
請負人類似の注意義務を負う。
(イ)a

本件利用契約が仲立,
準委任,
請負等に当たらなかったとしても,

被告は,取引の場を提供して個々の取引に直接に関与している以上,法的性格はともかく,一定の注意義務を負う。

インターネットオークションにおいて,入札者が取得できる出品商品についての情報は,主として,出品者がデジタルカメラで撮影した商品写真と出品者による文章の商品説明に限られるため,商品が間違いなく入金済みの落札者に届くか否かは不確定で,
常にリスクを伴う。


一般的に,このような不確定かつリスクのある取引の場合,売り手の信用なくして売買取引は成立しえない。
しかるに,
インターネットオークションが機能するのは,
主として,
利用者が相手方を信用するためではなく,運営会社を信用するためである。


したがって,このようなインターネットオークション利用者の信用を保護するために,運営会社は,利用者に対して,瑕疵のないオークションシステムを提供する法的責任を負うのである。

(ウ)インターネット上では匿名性が高く,インターネットオークション利用者は,電子メールを利用して,代金支払方法・商品受渡方法を決めるため,取引終了に至るまで,取引相手方の存在や実態を十分に知りうる機会が存在しない。
また,会員登録が不要で利用者個人の追跡が困難な無料プロバイダや無料メールアドレス等の利用によって,匿名性はさらに高まる。
ここに,インターネットオークションを利用して詐欺行為が発生する契機があり,現に,インターネットオークションを利用した詐欺事件が多発,増加傾向にある。

このような状況下では,運営会社は,自己の提供するシステムが詐欺に利用されている現況を漫然と放置することなく,詐欺利用を防止する義務を負うというべきである。
(エ)被告のC
オークションガイドライン以下本件ガイドライン」

という。)は,利用者と被告との間で契約内容とはなっておらず,被告が「場の提供者

に過ぎないなどということはない。a
本件サービス利用者は,本件サービスの利用に先立ち,ウェブページ上のボタンをクリックして本件ガイドラインに同意する仕組みになっている。
本件ガイドラインは,ページ最下部に本件ガイドラインのページへのリンクが設定されている部分があるに過ぎず,ページ上にガイドラインに同意するというボタンはない。利用者は,本件ガイドラインの内容を読まなくとも,本件サービスの利用を開始することができる。
したがって,本件ガイドラインの規定は,利用者と被告との間で,契約内容とはならず,法的拘束力を持たない。


また,仮に本件ガイドラインが本件利用契約の内容となっていたとしても,原告らが同意した時期と現在の規定内容が同じであると
は限らない。


電子商取引等に関する準則も,オークション事業者が個々の取引に直接関与しない場合については,原則として利用者間の
取引に起因するトラブルについて責任を負わないとしているに過ぎない。
かえって,同準則では,オークション事業者が個々の取引に直接関与しない場合であっても,例外的に損害賠償義務を負う可能性について例示記載しており,同準則は,オークション事業者の責任を否
定する被告の主張に沿うものではない。

被告は,
詐欺被害が多発するようなシステムを社会に提供し続けており,
不法行為責任も負う。
(ア)インターネットオークションシステムは,その匿名性に由来する内在的かつ構造的な瑕疵があるから,原則として,社会に提供されるべきではない。
インターネットオークションサービスを提供する以上,
その提供者は,
不断にサービス提供内容から瑕疵を除去し,サービスの提供により損害が発生しないようにすべきである。
(イ)被告には,本件サービスの利用により被害者が発生した場合には,二度と同種被害が生じないように,サービスの提供内容を改善する義務がある。
特に,本件サービスが広範囲に提供されており,詐欺被害について,被害者多数,被害額多額,刑事事件の多発といったように社会問題化している現状では,被告の負う注意義務の程度は高い。
(ウ)これらの注意義務に反して,本件サービスを漫然と提供し続けた被告は,不法行為責任又は使用者責任を負う。


被告が負う具体的注意義務の内容は,以下のとおりである。
(ア)注意喚起
被告は,
原告らと同様の詐欺被害を防止するために,
本件サービス上,
詐欺被害防止に向けた注意喚起を十分に行わなければならない。
(イ)信頼性評価システム
被告は,第三者機関による信頼性評価システムを導入して,詐欺被害を防止しなければならない。
第三者機関の審査を通過した者について,特別のアイコンを表示させるなどすれば,
オークション利用者は,
第三者機関の信頼性に依拠して,

取引をすることができる。
第三者機関による信頼性評価システムはアメリカ・D社でも導入済みである。
(ウ)出品者情報の提供・開示
被告は,利用者に出品者情報を提供・開示し,匿名性を排除することで,詐欺被害を防止しなければならない。

インターネット取引の特徴である匿名性(取引の相手方に対する信頼や取引の安全性を判断するための情報の欠如)は,詐欺被害を助長する側面も有する。
そこで,オークション事業者は出品者の素性が特定できる情報を収集し,詐欺被害が生じた場合に,被害者に対して出品者情報を速やかに開示するようにすべきである。
これによれば,被害発生時の加害者追及を容易にし,その後の被害発生防止にも役立つ。


被告は,本件サービスを利用して詐欺被害に遭った利用者に対し,その保有する出品者情報を開示し,さらに詐欺被害の有無等を調査して,その結果を当該利用者に報告すべきである。
被告は,出品者の郵送住所確認を行っているが,本人確認・出品者情報収集の手段としては不十分であるし,詐欺被害に遭った落札者に対して,出品者情報を開示することもなく,詐欺被害の有無についての調査を行っているかどうかも不明である。


入札者が詐欺被害に遭わないためには,出品者が出品時に当該出品商品を所持しているか,落札後に当該出品商品を取得するのかという情報が必要であるが,このような情報を被告は利用者に提供していない。
このような情報について,虚偽の情報を設定した者につき,当該I
Dの取消し,ID再取得の禁止などの方策をとれば,少なくとも詐欺被害防止・現象に一定の効果があるはずである。
(エ)エスクローサービス
被告は,比較的容易かつ確実に詐欺被害を防止することができるエスクローサービスの利用を義務付けなければならない。

被告が詐欺被害の発生を未然に防止すべく注意義務を尽くしたといえるとすれば,それは,エスクローサービスの原則的義務付けをした場合である。


エスクローサービスを利用した場合の落札後の経過は,以下のようになる。


落札者は,エスクローサービス提供会社に代金を入金する。



エスクローサービス提供会社は,出品者に入金があったことを通
知する。



出品者が商品を発送する(エスクローサービスを利用せずに,宅
配便を使用する場合もある。。




商品到着の確認後,落札者はエスクローサービス提供会社に商品
到着を連絡する。



エスクローサービス提供会社は,出品者に代金を送金する。
このように,
エスクローサービスを利用すれば詐欺被害は発生せず,

事実,エスクローサービスを利用した場合のトラブル遭遇率は,銀行振込等を利用した場合に比べ,圧倒的に低くなっている。

なお,エスクローサービスの利用料も,利用しない場合の運送料や銀行振込等手数料を計算すれば,結果的には低額で済む。

(オ)補償制度
補償制度は,必然的に生じる被害を想定し,これを補完するものである。

アメリカでは,上記第三者機関の審査を経た出品者によって被害を受けた場合には,別の補償制度を提供するといった二重の補償制度が実施されている。
これは,第三者機関の評価を信頼した利用者に対して,信頼性付加の責任として補償制度を用意したものである。

本件サービスの仕組みは,社会に提供されると,必然的にこの仕組みを悪用しようとする者が生じるのであって,必ず大量の被害者が発生する。本件サービスは,出品,入札及び落札が簡易にできることに存在意義があると考えられ,原告らも,インターネットオークションに存在する取引の危険性やそこから損害が生じうることは十分に承知しており,これを回避する責任が原告ら利用者側にも存在することを否定するものではない。しかし,インターネットを利用してのオークションシステムを提供している被告にしかできず,しかも実現可能な詐欺被害発生防止のための措置が存在すると主張するに過ぎないのである。


被告が負う契約上及び不法行為上の義務は,原告ら全員について同一であり,同義務は本件サービスの提供を開始したときから遅くとも原告らに最初の被害が生じたときまでの間に発生した。
原告らの被害に関する落札日の幅は,以下のとおりである。
(ア)第1事件(平成17年3月31日受付)
最初

平成12年4月2日(原告A281・番号282)

最後

平成17年2月22日(原告A548・番号549)

(イ)第2事件(平成17年6月15日受付)
最初

平成13年1月21日(原告A612・番号41)

最後

平成17年4月12日(原告A644・番号73)

(ウ)第3事件(平成19年2月26日受付)
最初

平成15年6月18日(原告A779・番号77)

最後

平成17年11月8日(原告A717・番号12)

(被告の主張)
被告が提供する本件サービスは,利用者に自己の判断によって自由に商品売買を行う機会を提供することを中核としており,
被告は取引のきっかけ」
を提供する「場の提供者であって,本件サービスをきっかけとして行われる売買は,売主(出品者)と買主(落札者)の自己責任で行われるものである。取引の場の提供者に過ぎない被告は,利用者間の個別の取引の成立や履行に関与することはなく,対価を支払ったにもかかわらず商品が届けられなかった詐欺被害も含め,
個別の取引に起因する利用者間のトラブルについて,
契約上及び不法行為上の責任を負うことはない。

本件サービスの利用者と被告との間には,利用規約(乙2)
,本件ガイ
ドライン(乙1)及びプレミアム会員規約(乙3の1)に基づいて,本件利用契約が成立している。利用者は,本件サービス利用前に必ず本件ガイドラインに同意しており,本件ガイドラインの内容は本件利用契約の内容となっている。
(ア)本件ガイドラインには,①本件サービスが利用者に取引のきっかけを提供するものであること,②実際に売買を行うかどうかは,利用者の責任で行われること,③被告が利用者から提供される個々の商品や情報を選別,調査,管理しないこと,④本件サービスの利用は,利用者各自の自主性,
自立性に委ねられており,
一般の取引と変わらないこと,
⑤成約,商品の送付,受領の手配等の協議は利用者間で行い,利用者が責任をもって履行するもので,被告が本件サービスの利用をきっかけにして成立した売買の解除・解約や返品・返金等には一切関与しないこと,⑥利用者間でトラブルが生じても,被告が解決に当たることはないことといった内容が盛り込まれている。
この本件ガイドラインの内容によれば,被告は,利用者に取引のきっかけを提供する場の提供者であって,本件サービスをきっかけとして行われる取引は,売主(出品者)と買主(落札者)の自己責任によって行われることとなる。
(イ)被告は利用者に対し,本件サービスのシステムを提供し,利用者は被告に対し,場の提供の対価としてシステム利用料等の支払を約しているのである。
これは,落札後は,出品者と落札者との間でのメール等のやりとりにより,具体的な商品の送付方法や代金の入金方法等が決められ,被告はそれに関与しないという取引実態及び利用料負担がシステム利用の対価であることと合致する。
(ウ)原告らは本件ガイドラインに直接同意するボタンがないなどと主張するが,
これは明確な事実誤認であり,
ID登録に際しては利用規約に,
オークション参加に際しては本件ガイドラインに,それぞれ同意していなければ本件サービスを利用できないのであって(乙18)
,本件サー
ビス利用者は当然に同意している。
(エ)被告は,約款としての性質を有する本件ガイドラインの内容をサイト上の分かりやすい位置に置いて,極めて明確に,繰り返し表示しており,利用希望者がその内容を知ろうとすれば極めて容易に知りうる状態にしている。

本件利用契約は,仲立契約やそれに類する契約類型には当たらない。(ア)仲立ちとは,他人間の法律行為の媒介を引き受ける行為を指し,媒介とは,他人の間に立って,両者を当事者とする法律行為の成立に尽力する事実行為を指すところ,被告は,利用者間の個別の取引に関与することも,その成立に尽力することもない。被告は,取引の場を提供するに過ぎず,媒介も行わないから,仲立人ではない。
(イ)a

利用者間の売買契約は被告の落札通知によって成立しない。

本件ガイドラインによっても,
落札に基づいて売買契約が成立した場合落札後は契約締結に向かう当事者として信義誠実の原則に,従って行動する責務はありますなどとしており,落札後も出品者が落札者の意思にかかわらず落札を取り消せることからも,落札通知だけでは利用者間に売買契約が成立しないことは明らかである。

落札通知は本件サービスのシステムの一機能として自動的に行われるもので,被告は積極的に利用者間の売買契約の成立に向けて尽力していない。


自動入力システムも,本件サービスのシステムの一機能として提供しているに過ぎず,被告が入札者に代わって入札するものではない。
(ウ)本件サービスの利用者は,運営者である被告を信用して取引を行っているのではない。
そもそも被告は場の提供者にすぎないし,被告自身,本件サービ
スの利用者がすべて信用できる者とは限らないことを前提に,利用者評価システムの設置,エスクローサービスの利用推奨,注意喚起のためのウェブページの設置などを行っていることに鑑みても,本件サービスの利用者は,被告が利用者間の売買の安全性を保証するわけではないこと及び本件サービスには詐欺被害等のリスクが存在することを十分に認識した上で,本件サービスを利用しているのである。
(エ)電子商取引等に関する準則
(乙4)では,インターネット上のオ
ークション関連サービスについて,商品の売買は利用者間の自己責任によって行われ,サービス提供者は,利用者間の取引トラブルについて責任を負わない旨示している。
同準則の事業者が例外的に損害賠償を負うとする範囲は,極めて例外的な事由による場合である。一般論としては,事業者が個人間の売買仲介システムを提供するだけで個々の取引に直接関与しない場合は,売買
は出品者と落札者の自己責任で行われ,事業者は責任を負わないとしており,被告の主張と共通の理解に立っている。

被告は,利用者に対して取引のきっかけを提供する場の提供者に過ぎず,実際の取引の成立及び遂行には一切関与しないから,利用者間の実際の取引の有効な成立に向けた注意義務はない。
(ア)信頼性評価システムについて
原告らの主張するような信頼性評価を行う第三者機関は,将来的に導入される又は導入が検討される可能性は否定しないものの,現在まで日本には存在しない。
(イ)出品者情報の提供・開示について

取引相手の情報が限られるのは,インターネットオークションだけではなく,通信販売等の一般の非対面隔地者間取引においても同様である。


原告らは詐欺被害にあった落札者に対して出品者情報を開示すべきなどと主張するが,これら事後的な対応を行うことで,詐欺被害の発生を未然に防止できるものではない。


被告自身の判断で詐欺と認定し,被害者である落札者に対して出品者情報の開示を行うことは,個人情報保護の点(個人情報保護法23条)並びに憲法及び電気通信事業法上の通信の秘密の点から,困
難である。


本件サービスでは,落札後に,出品者と落札者の間で協議して,相手方を確認した上で,実際の取引を行うことが予定されているのであって,落札者も,相手方である出品者について疑念があれば,取引を中断することができる。被告も本件サービスの利用者に対して,相手方の信頼性を確認すべきであると注意喚起を行っているところである。

(ウ)エスクローサービスについて

本件サービスでは,エスクローサービスは任意の制度となっているが,利用者間の売買は利用者間の責任で行われるという本件利用契約のもとでは,エスクローサービスの利用を個々の利用者に委ねることは当然の帰結である。


また,入札画面には出品者がエスクローサービスを利用する意思があるかどうかがアイコン表示されており,入札者はエスクローサービスを利用しない出品者には入札しないという判断ができる。
原告らはエスクローサービスのメリットを強調するが,商品の品質や内容の適切性までは確認されないし,手数料等の負担,申込手続,決済までの日数,対象外商品の存在など,デメリットも存在する。これらによれば,エスクローサービスの利用の有無を利用者に委ねることも,何ら不合理ではない。


原告らは,エスクローサービスを利用しても低額であると主張するが,売買当事者の居住地その他との関係で,配送料や振込手数料が,エスクローサービスを利用した方が安い場合があるに過ぎない。


なお,現在までに,国内外を問わず,インターネットオークションサービスにおいて,エスクローサービスの利用を義務付けたものは,見当たらない。


被告においてエスクローサービスを導入したのは,平成12年9月である。

(エ)補償制度について
補償制度は,事後的な救済手段であって,これによって詐欺被害が未然に防止されるという関係にはない。原告らの主張は,
被告が補償制度によって原告らに賠償すべきであったのに,これを怠ったから,賠償をすべきという一種のトートロジーに陥っている。
被告の提供する補償制度は,被告が利用者救済のために設けたサービス上の制度に過ぎない。
(2)被告の義務違反の有無〔争点(2)〕について
(原告らの主張)

被告は,詐欺被害が多発して社会問題化していたにもかかわらず,詐欺被害を防止しえない内在的かつ構造的瑕疵のあるシステムを社会に提供し続けた。
(ア)不十分な注意喚起
被告は,
サイト上に注意喚起のためのページを設けるなどしているが,
他のお知らせと混在し,あるいは,リンクの設定された部分がわかりにくいなど,注意喚起として不十分である。
また,それらの注意喚起のためのページが原告らの本件サービス利用時に設けられていたかは,不知である。
(イ)不十分な信頼性評価システム
本件サービスでは利用者評価システム(取引完了後,取引相手に対する満足度について,落札者と出品者が互いにコメント付きで採点するシステム)
が設けられているが,
一人で複数のIDを取得しての自作自演,
仲間内での架空取引により,良い評価を作出することが可能であり,上記利用者評価システムを詐欺を行うために利用しているというのが現状である。
このような利用者評価システムでは,詐欺被害を防止するに十分な機能はない。
(ウ)不十分な出品者情報の開示
本件サービスでは,入札者側は,出品者に関する適切かつ十分な情報を取得することができない。

本件サービス上,入札の際に入札者が知りうる情報は,主に出品者
情報(利用者評価システム上の評価,ID名,自己紹介等)
,商品情
報(価格等)
,商品写真や商品の説明,入札履歴である。
しかし,出品者情報のうち自己紹介は,省略することもできるし,虚偽の内容を書き込むことが可能である。商品情報や入札履歴も出品者に関する情報ではないし,商品写真や商品の詳しい説明は容易に偽装できる。

本件サービスでは,出品者は,実際に商品を提供することが不可能であっても,本件サービスのサイト上に,出品をして,商品を提供しているように見せかけることができ,入札者も,現実に出品者が商品を保有しているかどうかを調査することができない。
にもかかわらず,被告は,商品が実際に出品者から提供又は提供しうる状態にあるかについて,何らのチェックもしない。


Q&A機能(入札しようとする者から出品者に対しての問い合わせ機能)も,出品者は自由に回答できる以上,容易に偽装できる。
Q&A機能は,商品に関する詳細な情報の獲得等を目的とする機能であって,詐欺被害防止のために導入されているわけではないし,出品者に回答が義務付けられているわけでもなく,回答があるまで質問内容も公開されないため,他者は質問があったことも知ることができない。


出品者の郵送住所確認は,平成16年7月1日から実施されているもので,それ以前はなされていなかった。
被告と警察との連携は知らない。

(エ)エスクローサービスが利用しがたい状況にあること
本件サービスでは,出品者が利用を認めていないと,落札者はエスクローサービスを利用することができず,被告も,エスクローサービスの利用でトラブルを回避できるメリットを十分に説明すらしていない。
このような問題ある提供方法のため,利用者がエスクローサービスを利用しがたい状況にある。
(オ)不十分な補償制度
被告の提供する補償制度も,
金額が最高50万円で一人につき年1回,
8割しか補償されない合理的理由はないし,手続が煩雑で利便性が高くなく,補償基準が不明確である。
また,補償金の支払請求が認められなかった場合に被告から明確な説明がないなど,現実に損害を補償するという制度になっていない。イ
平成14年にはインターネットオークションの詐欺被害の存在とその増加が指摘されていたから,被告は,遅くとも,そのころまでには本件サービスのシステムに存在する瑕疵を認識することができた。
したがって,被告は,遅くとも平成14年ころには,上記被害防止措置をとることは十分可能であったのである。

(被告の主張)

利用者は,本件サービス利用者間の商品売買が本件サービスの利用にはリスクが存在することを十分に認識した上で,本件サービスを利用しているが,被告においては,本件サービスの利用者に詐欺等の被害が発生することを可及的に防止するために,格別の注意喚起や被害発生防止策を実施している。
(ア)注意喚起

ID取得時及びプレミアム登録時の注意喚起
ID取得時の利用規約では,インターネット利用に関する一般的リスクを,プレミアム登録時の本件ガイドラインでは,個別の取引は自己責任で行われることを明記している。


詐欺被害防止のためのコンテンツ
Cオークションをより楽しむために報告されているトラブ,ルの例ネット取引事件簿確認しよう!7つのポイントなど,

のページを設け,トラブル回避策,エスクローサービスの利用推奨,インターネットオークションを利用した犯罪の紹介などを行うとともに,トラブルが報告されている振込口座を公開し,注意喚起を行っている。
(イ)利用者評価の公表
利用者評価システムを設けて,本件サービスの利用者の評価を公表している。
(ウ)入札の際の判断資料の提供
利用者評価システムや出品者のその他のオークションを参照することで,入札の際の判断材料が得られる。
Q&A機能を利用すれば,入札前に出品者に質問したり,現物確認させてもらうなどの手段をとることができる。
(エ)エスクローサービスの提供
被告は,利用者に対し,エスクローサービスの利用を推奨している。エスクローサービスを利用すれば,詐欺被害に遭うことはない。
(オ)その他
詐欺被害者に対する補償制度,出品者に対する郵送住所確認,捜査協力など警察との連携などを実施している。
なお,被告の行う出品者の郵送住所確認は,被告が同業他社に先駆けて導入したもので,国内の他のオークション事業者は導入していない。イ
被告は,詐欺を含めた不正取引の発生を憂慮し,企業努力として,同業他社に先駆けて絶えず不正取引対策を検討・導入してきたのであり,今後とも,継続して対策を講じていく姿勢に変わりはない。
被告において詐欺被害を漫然と放置したことはなく,被告は,利用者に対する積極的な注意喚起と可及的な詐欺被害防止対策をとってきたのであ
って,このような被告の対応が,利用者に対する注意義務違反を構成することはない。
(3)原告らの損害の有無及びその額〔争点(3)〕について
(原告らの主張)
原告らは,別紙請求一覧表記載のとおり,いずれも本件サービスを利用して,目的商品を落札の後,落札金額を出品者指定の口座に振り込んだが,その後,原告らは当該商品の送付を受けず,出品者に落札金額を詐取されたことに気付いた。
原告らは,被告の債務不履行・不法行為により,上記詐欺被害に遭い,別紙請求一覧表記載のとおり,詐取金額相当の損害を被った。また,本訴提起のために生じた詐取金額の15パーセントに相当する弁護士費用は,被告の債務不履行・不法行為と因果関係のある損害である。
(被告の主張)
否認ないし不知。
(4)被告の免責〔争点(4)〕について
(被告の主張)
被告は,本件ガイドラインにより,免責される。

本件ガイドラインには,①出品される商品の品質,安全性又は適法性,商品説明の掲載内容の信頼性・精度,出品者が提示する商品を実際に販売することができるかどうか,落札者が商品を買うための支払能力があるかに関しては,被告は一切保証しないこと,②利用者は,被告の故意又は重過失に起因する場合を除き,被告側が,出品,入札及び取引・商品に関するクレーム,請求,損害賠償からも免責されること,といった内容も盛り込まれている。
本件サービスの利用者は,被告が個別の取引に起因する利用者間のトラブルについて法的責任を負わないことを前提に,本件サービスを利用して
いるのであるから,被告が契約上の義務違反や不法行為によって責任を負うことはない。

原告らの本件ガイドラインは消費者契約法や信義則に反して無効であるとの主張は,争う。
(ア)本件ガイドラインの定める免責事項は,消費者契約法8条1項1号ないし4号に定める事業者の債務不履行や債務履行に際してされた不法行為に関する免責を規定したものではない。
(イ)同法10条は消費者の利益を一方的に害するものは無効であると定めるが,
本件ガイドラインや利用規約は,
被告があくまで場の提供者」
に過ぎないことを確認しているに過ぎず,利用者の利益を一方的に害するものではない。(原告らの主張)本件ガイドラインの被告の免責を定める部分は,契約として成立していないし,無効である。ア本件ガイドラインは,実際に読まなくとも本件サービスを利用することができるものであるから,本件ガイドラインの規定は,利用者と被告との間で契約内容とはならず,法的拘束力を持たない。イ仮に契約内容になっているとしても,被告の免責を定める本件ガイドラインの規定は,被告が責任を負わない旨が記載されており,消費者契約法8条1項1号ないし4号及び同法10条又は信義則に反し,無効である。第31当裁判所の判断前提事実に加え,証拠(甲44,47,第1・第3事件原告A166,第2事件原告A578,後掲証拠)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり認められる。(1)本件利用契約の内容(乙1,2,5の13・19,18)ア本件サービス利用者は,本件サービスの利用に先立ち,被告との間で本件ガイドラインが適用されることに同意する。イ上記同意は,利用申込者が,特定のウェブページ上で,①「同意するの項目を選択して次へのボタンをクリックする(乙5の13・19),

利用規約とガイドラインに同意して、入札する

のボタンをクリックする(乙18)などの方法による。
同各ページの最下段には,利用規約や本件ガイドラインが掲載されたページへのリンクが設定された利用規約ガイドラインといった文字

部分があり,本件サービスのサイト上では,上記各ボタンをクリックする前も含め,容易に上記利用規約や本件ガイドラインの内容を参照できる状態となっている。


本件ガイドライン(乙1)では,本件サービスの概要や利用上の注意点のほか,


本件サービスは,利用者に,交流の場と品物の売買の機会を提供するものであること



実際に売買を行うかどうかは,利用者の責任で行われること



被告は,利用者から提供される個々の商品や情報を選別,調査,管理しないこと



被告は,本件サービス利用に際して,被告の定める本人確認基準を満たすこと以外は,利用者の選別,調査,管理をしていないこと



被告は,
本件サービスの利用をきっかけにして成立した売買の取消し,
解除・解約や返品・返金,保証等の取引の遂行には一切関与しないこと


利用者は,契約の成立,販売及び商品の送付,代金の支払・回収に関し,全て責任を負い,成約,商品の送付,受領の手配等の協議は利用者間で行い,利用者自身が責任を持って履行すること



利用者間でトラブルが生じても,被告が解決に当たることはないこと
などがその内容となっている。

(2)本件サービスによる取引の実態(甲5,8,10ないし15,乙8の1・4・5,9)

本件サービスを利用しようとする者は,まずID登録をして,IDを取得し,さらにプレミアム登録をする。
被告の提供するシステム上では,一人について複数のID登録をすることができる。


出品者は,目的商品の情報(文字情報・画像データ)
,入札開始価格,
希望落札価格,入札期間等を設定して,被告のサイト上にオークションを掲載する(乙8の1)
。このとき,出品者は,落札者との売買の条件(代
金先払い,配送方法・業者の指定など)を,目的商品の情報等と一緒に文字情報として設定することができる。
本件サービスの利用者は,
被告のサイト上に,
自己紹介情報(文字情報)
を設定・掲載することができる(乙8の4〔自己紹介」タブ〕。
)ウ入札者は,被告のサイト上に掲載されたオークションに対し,希望買取価格で入札する。このときに入札者が参照できる当該オークション及び当該出品者に関する情報は,出品者が設定した自己紹介及び当該オークションの内容(乙8の1),出品者のその他の出品オークション(乙8の4)並びに利用者による出品者の評価(乙8の5)等である。利用者による出品者の評価は,被告の提供する利用者評価システムによるものである。同システムは,本件サービスによって成立した利用者間の取引について,出品者及び落札者が相互に相手方を「非常に良い良い」「どちらでもない
悪い
非常に悪いの5段階で評価し,具体的なコ
メントも設定できるもので,IDごとに評価ポイント(非常に良い」「良いの場合はプラス1ポイント,
悪い
非常に悪いの場合はマイナス
1ポイント。
)が累積する。


原則として,入札期間終了時において最高買取価格であった入札者が当該オークションの落札者となる。
被告は,本件サービス上,他の入札者の入札価格に対応して,入札者が設定した最高入札価格まで自動的に入札する自動入札の機能を提供している。
落札が決定すると,被告から出品者及び落札者に対して落札を通知する電子メールが自動的に送信される(乙9)



その後,出品者に対して落札者の連絡先が知らされ(乙9〔落札者への落札通知〕
・2枚目

支払い方法や商品の受取方法については,出品者からの連絡をお待ちください。)

,出品者及び落札者の間で具体的な取引に関する協議が行われ,売買契約が成立する。
代金支払方法及び目的物引渡方法等は,出品者が目的商品の情報等と一緒にオークションに設定した条件を基礎として,出品者及び落札者の協議により,定められる。


被告は,本件サービス上,エスクローサービスを任意のサービスとして推奨している。本件サービス上,エスクローサービスは,出品者が利用を認め,落札者もそれに応じる場合にのみ利用できるところ,出品者が出品当初,エスクローサービスを利用しないとの設定をしていた場合でも,落札後に落札者が出品者に連絡して,エスクローサービスを利用可能にしてもらうことは,本件サービス上,可能である(甲8,10ないし15)。
出品者がエスクローサービスの利用を認める設定をしているオークションには,その旨が分かるマークが付されたり,エスクローサービスが利用できる旨の表示がなされる(甲10ないし15)


(3)本件サービスを用いた詐欺被害と社会情勢(甲5,6,17,19ないし21,乙7の1ないし6・8ないし10,13ないし16)

警察庁によると,平成14年ころからインターネットオークションに関
する犯罪被害に関する相談受理件数が増加し(甲17)
,遅くとも平成1
7年ころには,ネットオークションにおいて落札者が代金を支払ったにもかかわらず商品が届かないなどのトラブルが生じている旨の報道がされるようになっていた(甲6)


平成14年ころから,被告は,詐欺被害等,本件サービスを用いた利用者間のトラブルが生じていることから,トラブル事例等の紹介,トラブルを発生させた利用者の預貯金口座の情報,本件サービスを利用する際に注意すべきポイント等を掲載したページ(乙7の1・3・5・6・8ないし10)を設け,それらのページへのリンクを本件サービスのトップページ(甲4)に設定するなど,詐欺被害を含むトラブルの防止に向けた注意喚起を実施・拡充してきている(乙13)



被告は,
平成16年7月1日から出品者の郵送住所確認を実施するなど,
詐欺被害を含むトラブルの防止に向け,本件サービスの提供内容の見直しを行ってきている(甲5,19ないし21,乙14ないし16)



現在まで,インターネットオークションユーザーの信頼性を評価して公表する第三者機関は,日本には存在しない。

2
被告の注意義務の有無及びその内容〔争点(1)〕について
(1)本件ガイドラインによる本件利用契約の成立

本件ガイドラインは,本件利用契約においていわゆる約款と位置付けられるところ,上記認定によれば,本件サービスの利用者は,本件サービスの利用につき,約款である本件ガイドラインによることに同意しており,これが利用者と被告の間で本件利用契約の内容として成立しているというべきである。


原告らは本件ガイドラインが法的拘束力を有しない旨主張するが,本件ガイドラインには本件サービスの概要や利用上の注意点に関する記述がなされていることから,原告らの上記主張が本件ガイドライン全体の契約と
しての成立を争う趣旨の主張であるとすれば,本件ガイドラインを内容としない本件利用契約は極めて不明確な内容となってしまい,原告らの主張する被告の負担すべき義務すらも不明確なものとなってしまうことになる。

また,原告らは本件ガイドラインに同意するボタンがないなどと主張するが,本件サービスの利用者は本件ガイドラインに同意するボタンをクリックするなどして同意しない限り,本件サービスを利用しえない仕組みとなっていることや,上記認定及び弁論の全趣旨によれば,本件サービスを利用しようとする場合の入口画面は,利用しようとする者の便宜を図る観点から複数用意されていると認められることから,原告らの上記主張は,本件サービス利用開始時の仕組みに関する誤解であり,採用することができない。


このほか,本件ガイドラインの内容は容易に知りうる状態にあったという上記認定によれば,本件ガイドラインが本件利用契約の内容として成立していないとの原告らの主張は,採用することができない。


なお,原告らの本件ガイドラインの無効の主張は,免責条項の有効性を争うものとして位置付けられるため,本件ガイドラインの成立に関するものとしては判断しない。

(2)本件利用契約の内容
上記判断を踏まえ,本件利用契約の内容を検討する。

前提事実のとおり,被告は,本件サービスの利用に際して,出品者から本件利用料を徴収している。
そして,本件利用料のうち,出品システム利用料及び出品取消システム利用料については,出品に伴うデータ領域の確保などが,落札システム利用料については,電子メールによる落札通知自動の送付などが,具体的な対価関係にあるものと捉えることが相当であるから,本件利用料は本件サ
ービスのシステム利用の対価に過ぎないと認められる。
自動入札機能も,他の利用者による入札に対抗するにはオークションを常時確認する必要があるところ,それは事実上困難なことであるから,確実に落札したい利用者(入札者)のニーズに応えた機能にとどまる。そのほか,被告が利用者間の取引に積極的に介入してその取引成立に尽力するとまで認めるに足りる証拠はなく,本件利用契約が仲立ちとしての性質を有するとはいえない。
また,本件利用契約は,上記認定によっても,事実行為を委任したり,目的物の完成を請け負わせたりするものとか,あるいはこれに類似するものともいえない。

他方,本件利用契約の内容となっている本件ガイドラインにおいては,被告は利用者間の取引のきっかけを提供するに過ぎない旨が定められており,被告は,これを指摘して,被告には利用者間の取引について一切責任を負わない旨主張する。
しかし,本件利用契約は本件サービスのシステム利用を当然の前提としていることから,本件利用契約における信義則上,被告は原告らを含む利用者に対して,欠陥のないシステムを構築して本件サービスを提供すべき義務を負っているというべきである。
本件ガイドラインには被告の免責についても定められているが,同免責条項の適用の有無については,被告の義務違反が認められた後に検討されるべきであり,被告の上記主張が,免責条項以前に被告には全く義務が生じないというものであれば,そのような主張は採用することができない。
(3)被告に求められる具体的義務の内容
被告が負う欠陥のないシステムを構築して本件サービスを提供すべき義務の具体的内容は,そのサービス提供当時におけるインターネットオークションを巡る社会情勢,関連法規,システムの技術水準,システムの構築及び維
持管理に要する費用,システム導入による効果,システム利用者の利便性等を総合考慮して判断されるべきである。

注意喚起について
被告には,上記認定のとおり,本件サービスを用いた詐欺等犯罪的行為が発生していた状況の下では,利用者が詐欺等の被害に遭わないように,犯罪的行為の内容・手口や件数等を踏まえ,利用者に対して,時宜に即して,相応の注意喚起の措置をとるべき義務があったというべきである。

信頼性評価システムについて
(ア)上記認定のとおり,現在まで日本にオークション利用者の信頼性を評価する第三者機関は存在していないのであるから,原告らの主張するような第三者機関による信頼性評価システムの導入は被告にとって相当な困難を強いることとなる。
したがって,原告らの主張は,最初の被害が発生したとする平成12年から現在まで,いずれの時点においても,採用することはできない。(イ)なお,原告A578は,本件サービスの利用者評価システムのポイントだけで出品者の信頼性を図ることはせず,同システムで設定されたコメントの内容までも確認して,出品者の信頼性を検討すること,本件サービスでは同一人物によるIDの複数所持により評価の自作自演が可能であることなどを供述し,本件サービスの利用者評価システムには,限界があるものの,
一定の信頼性評価の機能があることを是認している。
また,原告A166は,本件サービスの利用者評価システムがあっても詐欺被害は防げないと考えている旨供述するが,他方,利用者評価システムを参考にして,出品者に気になる評価があれば入札はしない,同一人物又は仲間内での評価の付け合いによる利用者評価システムの悪用の効果は薄いなどとも供述し,同利用者評価システムに一定の利用者評価機能があることを是認している。

原告A578及び原告A166の上記各供述に鑑みても,被告において,直ちに,現状の利用者評価システムに代えて,第三者機関による信頼性評価システムを導入すべきであるとまでいうことは困難であるといわざるをえない。

出品者情報の提供・開示について
(ア)原告らは,詐欺行為を行った出品者に関する情報を,その相手方落札者に対し開示すべきであると主張する。
しかし,本件サービスを利用して詐欺を行おうとする者は,被告との本件利用契約においても,虚偽の情報を申告したりするなどして,当初から追及されにくいように行動するものと考えられるのであって,出品者情報を開示したからといって,その一般予防的効果を期待することはできない。
また,被告が詐欺被害にあったと主張する落札者の求めに応じて出品者情報の開示をすることは,関係法令の規定上,被告に相当の困難を強いることになる(個人情報保護法23条等参照)

さらに,出品者が出品時に当該商品を所持しているか否かは,本件サービス上においても,落札後入金前に,落札者から出品者に問い合わせることができるのであるし,そもそも,そのような情報を被告が収集して本件サービス上提供していたとしても,本件サービスを利用して詐欺を行おうとする者は,虚偽情報を申告するなどして,そのような被告の情報収集に対抗するものと考えられるから,詐欺被害の事前防止策としてその実効性には疑問があるし,被告が出品しようとする者の商品所持情報の真偽を確認するということまで要求しては,本件サービスが営利事業として成り立たない可能性が高い。
これらの諸点に鑑みれば,原告らの上記主張は,平成12年から現在まで,いずれの時点においても,採用することができない。

(イ)原告A166は,被告の発行するIDを信頼しており,ID所持者について被告が人物保証していたように思っていたなどと供述する。しかし,
前提事実のとおり,
IDは無料で取得・保持できるのであり,
ID登録の際に氏名,住所等を被告に登録することをもって,被告が他の利用者に対して当該ID取得者の身元を保証するなどといった法律関係を生じさせることになると認めることはできない。

エスクローサービスについて
原告らは,エスクローサービスを原則として義務付けるべきであると主張する。
(ア)確かに,エスクローサービスを利用すれば,業者が介在することから,本件サービスを利用した詐欺被害に遭うことはない。
しかし,そもそも本件サービスは,インターネットオークションという仕組み上,一般消費者が買い手売り手になりうるシステムであり,販売店等を介さずに安価で目的商品を取得したいと考えて参加する利用者が大半であることからすると,出品・入札に際して,利用者にはなるべく代金その他手数料を抑えたいという心理が働いている(本件サービスの有料化に際して,利用者に反発が起こったのもその一つの現れ[原告A166]
)といえる。
エスクローサービスを利用すると,利用しない場合に比べて費用がかかるから,利用者には使いづらいサービスであるとの原告A166の供述,エスクローサービスをこれまで利用したこともないとの原告A578の供述によっても,余分に費用がかかるエスクローサービスを利用することは避けたいという利用者心理が容易にうかがわれる。
(イ)原告らは,エスクローサービスを利用しても,利用しない場合と比べて,低額に済むこともあると主張するが,証拠(甲12ないし15)及び弁論の全趣旨によっても,出品者の発送地及び落札者の受領地等の
関係で低額となる場合があるに過ぎず,全体の傾向としては,利用した場合のほうが手数料総額としては高くなることが認められる。
そして,利用者間の取引にエスクローサービスを義務付けるには,被告は,エスクローサービスの利用手数料を本件手数料に上乗せするなどして,その費用を回収する必要があるが,これは,利用者の代金その他手数料に関する心理を無視する結果となりかねない。
(ウ)以上のように,利用者の代金その他手数料に関する心理を考慮することなく,エスクローサービスを利用者間の全ての取引に義務付けることは,被告の営利事業としての本件サービスの運営に困難を強いることになるといわざるをえない。
したがって,原告らの上記主張は,平成12年から現在まで,いずれの時点においても,採用することができない。

補償制度について
(ア)原告らは,補償制度を充実させるべきであると主張するが,補償制度は事後的に被害を補償するものであって,これを充実させることが,詐欺被害の事前防止に結びつくといった関係にあるとは認めがたい。したがって,原告らの上記主張は,被告が負う具体的義務の内容として,そもそも採用することはできない。
(イ)なお,補償制度に関連し,原告A166は,被告はその提供する補償制度の適用外の出品を事前に削除すべきであり,本件サービスのシステムは一つなのだから,出品数がいくらであってもコストは問題とならないなどと供述する。
確かに,本件サービスのシステムは大きく見れば一つではあるが,本件サービスにおける出品数は平成16年ころには月平均約880万件であり(甲19)
,被告は,システム領域とは別に,各出品(オークショ
ン)ごとにデータ領域を確保して,本件サービスを提供しているのであ
って,出品数によって確認作業の手間が変わらないなどということはない。原告A166の上記供述を採用することはできない。
3
被告の義務違反の有無〔争点(2)〕について
(1)上記判断によれば,被告には,時宜に即して,相応の注意喚起措置をとるべき義務があったというべきところ,上記認定によれば,平成12年から現在まで,
被告は,
利用者間のトラブル事例等を紹介するページを設けるなど,
詐欺被害防止に向けた注意喚起を実施・拡充してきており,時宜に即して,相応の注意喚起措置をとっていたものと認めるのが相当である。
なお,原告らが本件サービスを利用した当時,インターネットオークションを利用した詐欺について,新聞報道等,社会的にどの程度問題とされていたかを認定するに足りる的確な証拠はない。
(2)原告らは,被告の注意喚起がわかりにくいと主張し,原告A166も被告は本件サービス上で強い注意喚起をしなかった,原告A578も本件サービスでは利用者に対してエスクローサービスの利用を十分に告知していなかったなどと,それぞれ上記主張に沿った供述をする。
しかし,原告A166は,エスクローサービスの名前は知っているが,その内容は詳しく知らないとも供述し,原告A578も,詐欺被害にあったと主張する入札・落札をした当時,エスクローサービスがあること自体知らなかった,詐欺被害に遭うことを防止する機能があるかも探すことはしなかったなどと供述する。
原告A166及び原告A578は,落札・代金支払後に商品が届かない危険性を十分に認識していたとも供述しており,それにもかかわらず,被告の設けた詐欺被害防止のためのコンテンツや各種機能を確認することもなかったという原告A166及び原告A578の各供述をもって,被告の注意喚起が不十分であったと断ずることはできず,原告らの上記主張を採用することはできない。

(3)以上によれば,被告に上記義務違反を認めることはできない。4
結論
以上の次第で,原告らの請求は,その余について判断するまでもなく理由がないから,いずれもこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。名古屋地方裁判所民事第8部

裁判長裁判官

黒岩巳敏
裁判官

浜本章子
裁判官川崎学は転補のため署名押印することができない。

裁判長裁判官

黒岩巳敏
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