判例検索β > 平成14年(ワ)第669号
差額賃金支払等請求事件(通称 東部スポーツ解雇)
事件番号平成14(ワ)669
事件名差額賃金支払等請求事件(通称 東部スポーツ解雇)
裁判年月日平成19年2月1日
裁判所名・部宇都宮地方裁判所  第一民事部
結果その他
判示事項の要旨労働条件変更の同意について,契約書を提出しなければ働くことができないと誤信した点に動機の錯誤があり,動機は黙示に表示されていたとして,錯誤無効を認めた例,退職届を提出していない労働者に対する「職を解く」旨の辞令の交付が解雇に該当するとした例,退職に至る過程に使用者の債務不履行を認めた例
裁判日:西暦2007-02-01
情報公開日2017-10-18 04:09:00
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主1文
別紙1当事者目録原告番号1ないし17及び20記載の原告らが,被告に対し,期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2
被告は,別紙1当事者目録原告番号1ないし22記載の原告らに対し,別紙2認容額一覧表原告
欄記載にそれぞれ対応する同表認容額欄記載の各金員を支払え。

3
別紙1当事者目録原告番号23ないし25記載の原告らの主位的請求をいずれも棄却する。

4
被告は,別紙1当事者目録原告番号23ないし25記載の原告らに対し,別紙2認容額一覧表原告欄記載にそれぞれ対応する同表認容額欄記載の各金員を支払え。

5
別紙1当事者目録原告番号1ないし17及び20ないし22記載の原告らのその余の請求,同目録原告番号23ないし25記載の原告らのその余の予備的請求をいずれも棄却する。

6
訴訟費用は,原告1ないし20に生じた費用,原告21及び22に生じた費用の3分の1,原告23ないし25に生じた費用の3分の1並びに被告に生じた費用のうち15分の13を被告の負担とし,原告21及び22に生じたその余の費用並びに被告に生じた費用のうち75分の4を同原告らの負担とし,原告23ないし25に生じたその余の費用及び被告に生じた費用のうち25分の2を同原告らの負担とする。
7
この判決の第2項及び第4項は,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1

請求

1
主文1に同じ。

2
別紙1当事者目録原告番号18及び19記載の原告ら(以下原告18及び19などという。
)については主文2に同じ。

3
被告は,原告1ないし17及び20に対し,それぞれ,別紙3賃金目録⑦欄記載の金員及び平成18年10月1日から本判決確定の日まで,毎月24日限り,同目録⑧欄記載の金員を支払え。

4
被告は,原告21に対し,282万4882円,原告22に対し,291万9796円及びこれらに対する,それぞれ平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5(主位的請求)
(1)

原告23ないし25が,被告に対し,期間の定めのない労働契約上の権利を
有する地位にあることを確認する。
(2)

被告は,原告23ないし25に対し,別紙3賃金目録⑦欄記載の金員及び平
成18年10月1日から本判決確定の日まで,毎月24日限り,同目録⑧欄記載の金員を支払え。
(予備的請求)
被告は,原告23に対し,425万9957円,原告24に対し,414万3933円,原告25に対し,420万1932円を支払え。
第2

事案の概要
本件は,被告が運営するEカントリー倶楽部(以下本件倶楽部という。)でキャ

ディ職あるいは保育士職として勤務していた原告らが,被告に対し,①原告1ないし19について,被告による労働条件の不利益変更は原告らの承諾(以下同意という。)
を欠き無効であるとして,原告ら(原告17及び18を除く)と被告との間に期間の定めのない雇用契約が存在していることの確認及び変更前の賃金と変更後の賃金との差額分の支払を,
②原告20について,
解雇は無効であり退職の意思表示もないと主張して,
原告20と被告との間に期間の定めのない雇用契約が存在していることの確認及び雇用契約に基づく賃金の支払を,③原告21及び22について,退職について違法行為があったと主張して,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求として,逸失利益,慰謝料及び遅延損害金の支払を,④原告23ないし25について,主位的に,解雇は無効であり退職の意思表示もないと主張して,原告らと被告との間に期間の定めのない雇用契約が存在していることの確認及び雇用契約に基づく賃金の支払を,予備的に,退職について違法行為があったと主張して債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求として,逸失利益,慰謝料等の支払を,それぞれ請求した事案である。1
前提となる事実(証拠を摘示しない事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により認めることができる。

(1)

当事者
被告は,東京都墨田区に本社をおき,栃木県内で本件倶楽部,Fカントリー倶
楽部(以下F倶楽部という。,Gカントリー倶楽部(以下G倶楽部とい)
う。,Hカントリー倶楽部(以下H倶楽部という。

)の4か所のゴルフ場を
運営し,関東近県で十数か所のスポーツクラブの経営等を行う株式会社である。被告の資本金は6000万円であり,B株式会社(以下Bという。)がそ
の資本金全額を出資して全株式を所有している。
平成13年4月の時点の被告の人員は,本社について役員3名を含む15名,ゴルフ事業について役員3名,パート及びアルバイト35名を含む211名,スポーツクラブ事業についてアルバイト63名を含む122名であった。キャディ職従業員は合計88名であり,うち41名が主として本件倶楽部で勤務をしていた。保育士職の従業員は4名であり,いずれも本件倶楽部で勤務をしていた。乙(
33)

原告らは,いずれも女性であり,被告の従業員として主として本件倶楽部で勤務をしていた者であり,平成14年1月30日(以下,年月日について,特に年を示さない場合は,すべて平成14年である。
)当時,原告1ないし19(以下
在職キャディ原告らという。,原告20(以下原告20という。,原告)

21及び22(以下退職キャディ原告らという。
)はキャディ職に就いてお
り以下,キャディ職に就いていた原告らを併せてキャディ原告らという。,(

原告23ないし25(以下保育士原告らという。は保育士職に就いていた。)

(2)

3月31日までの労働条件
キャディ職従業員の労働条件(以下旧条件という。甲1ないし5)所属は各倶楽部であり,
雇用期間の定めはなく,
退職金規程が設けられていた。
賃金は,キャディ職用の給与規程等に基づき,基本給約9万円,役職手当,家
族手当,皆勤手当,荒天手当,住宅手当,調整手当,研修手当,正月手当等の各種手当が支払われるほかに,ラウンドに出る場合のラウンド給(客の人数によって異なり,4人の場合のラウンド給を4バックなどという。,ラウンドに出)
ない場合(以下,ラウンドに出ないことをアフレという。
)のラウンド外給
(以下アフレ手当という。,売店勤務給が支払われており,賞与は一般職従)
業員の給与規程を準用して,年2回,夏と冬に支払われてきた。基本給は,平成10年以降毎年4月に昇給が認められてきた。
所属以外の倶楽部で勤務する際には,旅費規程に基づき,助勤手当が支払われてきた。また,生理休暇等の休暇について,手当が払われてきた。賃金の計算期間は,前月11日から当月10日までであり,当月24日に当月分として支払うこととなっていた。

保育士職従業員の労働条件
所属は本件倶楽部であり,雇用期間の定めはなく,退職金規程が設けられていた。賃金は,一般職従業員の給与規程に基づき,基本給約21万円に加えて,住宅手当,資格現場手当等が支払われるほか,賞与は年2回,夏と冬に支払われてきた。
賃金の計算期間は,前月11日から当月10日までであり,当月24日に当月分として支払うこととなっていた。

(3)

1月30日及び2月1日の被告による説明
在職キャディ原告ら,退職キャディ原告ら及び保育士原告らは,1月30日の
時点で勤務を行っており,原告20は,同日時点で,8月8日までの予定で育児休職中であった。
1月30日の時点における,本件倶楽部所属のキャディ職従業員は,原告20を含めて38名であり,保育士職従業員は4名であった。

1月30日,当時の被告代表取締役社長I(以下I社長という。
)は,当
日出勤したキャディ職従業員34名及び保育士職従業員4名全員に対して,4月1日以降の労働条件の変更等について説明をした(以下全体説明という。。)


被告の取締役総務部長J(以下J部長という。,総務部副部長K(以下K)副部長という。,取締役本件倶楽部支配人L(以下L支配人という。は,)

同日の全体説明後に,キャディ職及び保育士職従業員一人一人と面談を行い,従業員からの質問に回答するなどし(以下個別面談という。,その後,キャデ)
ィ職従業員に対して,別紙4のキャディ契約書と題する書面(以下キャディ契約書という。甲6)の用紙を配付した。キャディ契約書用紙には,雇用期間として平成14年4月1日より平成15年3月31日までの1年間,賃金として

会社との契約金額とする。,賞与と

して

会社の定めにより支給する。

と記載されていたほか,職務,勤務時間,休日,休暇及び服務遵守事項について記載され,その他就労条件として

会社の定めによる。(就業規則・給与規程)

と記載されていた。エ
L支配人は,
2月1日,
1月30日に欠勤したキャディ職従業員4名に対して,
全体説明及び個別面談と同様の事項を説明し,その後,キャディ契約書用紙を配付した。
(4)

被告による説明後の原告らの対応,原告らの勤務状況
在職キャディ原告らは,2月5日から13日までの間に,被告に対して,それ
ぞれ,署名押印の上,キャディ契約書(乙17の1ないし17の10,17の12ないし17の20)を提出し,
被告から,3月末ころ,
退職金の支払を受けた。
在職キャディ原告らは,4月1日以降も勤務を継続し,原告18は平成17年7月10日に,原告19は平成18年3月10日にそれぞれ退職して勤務を終了したほかは,平成18年10月16日時点において,被告に雇用され,本件倶楽部において勤務をしている。

原告20はキャディ契約書を提出せず,被告から,3月29日に退職金の支払を受け,同月31日に職を解く旨記載された辞令(甲19)を交付された。原告20は,4月1日以降育児休職予定期間満了後も,被告において勤務を行っていない。


退職キャディ原告らは,それぞれ,原告22は2月6日に,原告21は同月10日に,被告に対して,署名押印の上,キャディ契約書(乙17の22,17の23)を提出し,被告から,3月末ころ,退職金の支払を受けた。退職キャディ原告らは,4月1日以降も勤務を継続し,原告22は4月30日付けで,5月31日で退職する旨の退職届を,原告21は9月21日付けで,10月15日で退職する旨の退職届をそれぞれ提出し,退職届に記載した退職日において,勤務を終了した。


保育士原告らは,3月3日付けで,被告に対し,同月31日で退職する旨の退職届(乙18の3ないし18の5)を提出し,同月末ころ,退職金の支払を受けた。
保育士原告らは,4月1日以降は,被告において勤務を行っていない。
(5)

4月1日以降のキャディ職従業員の労働条件等

被告は,4月1日以降,キャディ職従業員に対して,同日付けの就業規則(以下新就業規則という。甲9)及び給与規程(以下新給与規程という。甲8)に基づく賃金その他の労働条件(以下新条件という。
)の適用を開始し(以下
本件労働条件変更という。,同月3日ころ,キャディ職従業員に対して新就業)
規則及び新給与規程を明示した。
本件労働条件変更によって,キャディ職従業員の雇用期間は1年間となり,退職金制度は廃止された。
賃金は,上記(2)ア記載の項目のうち,基本給,役職手当,家族手当,皆勤手当,荒天手当,住宅手当,調整手当,研修手当が廃止され,ラウンド給,アフレ手当,正月手当が支給されるのみとなったほか,年休以外の休暇が無給とされた。被告は,3月31日時点におけるキャディ職従業員及び保育士原告らに対して,3月末ころ,退職金を支払った。
(6)

4月以降の原告らの対応
原告らは,4月8日,栃木県一般労働組合C支部(以下本件組合という。)

を結成し,同月10日に,被告に対して,組合結成通知,団体交渉申入書及び要求書を交付し,5月10日に,第1回団体交渉を行った。
(甲36ないし38)

被告は,9月2日,本件組合との間で,1年契約の契約社員について,就業規則上の重大な違反がなければその雇用契約を更新するものとすること等を内容とする労働協約を締結したが(以下本件労働協約という。乙16の1),
11月18日,本件労働協約を解約した(甲42,乙16の2)


原告らは,11月26日,本件訴訟を提起した。


在職キャディ原告らは,被告に対して,平成15年2月7日までの間に,平成14年4月1日締結の労働契約の内容を認め,平成15年4月1日から1年間の契約の更新を希望する旨の契約更新願書(以下本件更新願書という。乙51の1ないし51の7,51の9ないし51の15,51の17ないし51の21)を提出した。
在職キャディ原告らは,被告に対して,同月28日までの間に,新就業規則,新給与規程等を承諾して,同年4月1日から1年間の雇用契約を締結する旨の,キャディ労働契約書(以下新キャディ契約書という。乙27の1ないし27の7,27の9ないし27の15,27の17ないし27の21)を提出した。
2
争点
本件の争点は以下のとおりである。なお,被告は,平成15年11月27日の第7回口頭弁論期日において,
就業規則の一方的不利益変更が有効であるとの主張はしないとしており,本件では,上記事項は争点となっていない。(1)

在職キャディ原告らと被告は本件労働条件変更について合意したか(2)

在職キャディ原告らの本件労働条件変更同意における意思表示の瑕疵
(3)

在職キャディ原告らによる追認の有無

(4)

原告20は労働契約上の地位を有し,被告に対して賃金を請求することがで
きるか
(5)

退職キャディ原告らの退職について被告に違法行為があったか

(6)

保育士原告らは労働契約上の地位を有し,被告に対して賃金を請求すること
ができるか(主位的請求)
(7)

保育士原告らの退職について被告に違法行為があったか(予備的請求)
(8)

在職キャディ原告らに対する未払賃金額

(9)

原告20に対する未払賃金額

(10)
(11)

保育士原告らに対する未払賃金額(主位的請求)

(12)

保育士原告らの損害(予備的請求)

3
退職キャディ原告らの損害

争点に対する当事者の主張
(1)

在職キャディ原告らと被告は本件労働条件変更について合意したか
(被告の主張)

被告が本件労働条件変更の申込みをしたこと
(ア)

I社長は,全体説明において,キャディ職及び保育士職の従業員全員に
対し,メモ(以下Iメモという。乙9)を見ながら,被告のおかれた経営環境,現状等を説明した上で,労働条件を変更して雇用を継続することを提示し,変更の概要を説明し,これに対する従業員の考え方を決めて,2月15日までに上司に連絡するように伝えた。
I社長は,その際,本件労働条件変更の重要部分として,①4月からキャディ職の雇用期間を1年毎とすること,②退職金を3月31日限りで清算すること,③現在の在籍者はそのまま継続して契約する予定であること,④固定給をなくすためラウンド給を現行より増額し,4バックを1万円,アフレ手当を7330円とすること,⑤その他各種手当は廃止すること,⑥各倶楽部ではなく被告に所属することとなるので,その都度指示された倶楽部で勤務することとなること,⑦休暇や賞与ほか詳細については個別面談の際に説明することを説明した。
(イ)a

J部長,K副部長,L支配人は,これを受けて,個別面談において,
キャディ職従業員とひとり約7分ずつ面接し,
キャディ職雇用制度の改定についてと題する書面(以下Jメモという。乙10の1)に基づき,変更する労働条件の内容を具体的に説明し,その場で個々の質問を受け付けた上で,2月15日までにさらに疑義,質問等があればL支配人に申し出るように伝えて,キャディ契約書の用紙を配付した。

J部長らは,キャディ職従業員からの質問のうち,3バック,2バックの給料がいくらになるかという点に対しては,後日L支配人に質問するように回答したが,キャディ職従業員は,4バック1万円,アフレ手当7330円との説明を受ければ,3バック,2バックの時の賃金が1万円と7330円の間の金額であることは容易にわかったはずであるし,在職キャディ原告らは,それぞれ勤続1年から14年の者であるから,1か月平均何ラウンド回っているかは経験的に知っており,おおよその1か月の給与がいくらになるかについて,まったく予想できないということはなかった。
また,被告は,キャディ職従業員に対して,原則的に手当が廃止されるこ
とを伝えたのであるから,
キャディ職従業員において,
どの手当が廃止され,
どの手当が存続するかわからないから給与の見通しがつかないなどということもなかった。

勤務継続期間については,
真面目に働けば毎年契約を更新し,最終的には61歳まで働けるという趣旨の説明をした。被告が,雇用期間を1年間としたのは,キャディ職の特殊性から,絶えず一定の要員を確保しておかなければならない状況にあり,定期的に,継続して働く意向があるかどうかを確認する必要があること,また,キャディ職の特殊性と勤務の実態を考えて,労働条件に関する合意の有効期間を1年とすることを理由とするものであって,期間の定めのある労働契約に変更する趣旨ではなかったし,いわゆる雇い止めを行うためでもなかった。
被告は,平成15年4月以降の1年間についても,キャディ職従業員全員と面接し,継続して働く意向があるか否かを確認し,異議なく本件更新願書及び新キャディ契約書の提出を受けているし,本件組合に対しても,就業規則上問題がなく真面目に働けば毎年契約を更新する旨説明している。(ウ)

被告は,上記(ア)及び(イ)記載の説明のとおり,在職キャディ原告
らに対して,本件労働条件変更の基本的部分について具体的な説明をして,本件労働条件変更の申込みをした。

在職キャディ原告らが本件労働条件変更に同意したこと
(ア)

キャディ職従業員は,労働条件の変更内容を十分認識しており,個別面
談以降,質問等を寄せることなく,2月5日から15日までの間に,在職キャディ原告ら及び退職キャディ原告らを含む36名のキャディ職従業員が,被告に対してキャディ契約書を提出した。
(イ)a

在職キャディ原告らは,1月24日の社報の回覧,同月30日あるい
は2月1日の説明により,被告が説明した労働条件変更の大要及び下記bで述べる被告の経営状況の概要について理解を示したというべきである。b
被告は,従来,B等からその所有するゴルフ場,スポーツクラブの運営を委託され,運営に必要な経費を委託料として受け取ってきたが,Bが,被告を含むすべてのグループ企業の独立採算制への移行等を内容とする中期経営計画を1月23日に決定したことにより,赤字体質の経営を維持すれば倒産を免れないこととなった。
一方,ゴルフ場の多くが,客数の低下やプレー単価の切り下げにより経営に深刻な打撃を受け,預託金の返還もできずに倒産しているのは公知の事実であり,被告においても,平成9年から同13年についてみると,ゴルフ事業の悪化が全体の収入の落ち込みに影響を与える一方で,スポーツクラブ事業に比べてゴルフ事業の人件費の削減率が劣り,営業損益についてみても,減価償却前ではスポーツクラブ事業の利益により全体として利益を挙げていたものの,減価償却後は,ゴルフ事業の損失により全体としても損失となっており,一刻も早くゴルフ事業の収支を改善することが求められていた。中でも,本件倶楽部については,来場者数,収入とも大きく減少する中,人件費以外の費用をいずれも削減するとともに,事務職について人数を削減して人件費を削減したにもかかわらず,キャディ職の人件費はわずかながらも増加しており,キャディ職の人件費についても大幅な削減をしない限り,倶楽部を存続させることができない状況となっていた。


このような状況下で,被告は,業務運営のために従業員の労働条件を変更することが不可欠となり,本件労働条件変更を行うこととしたのであって,変更には合理的理由があった。
在職キャディ原告らの賃金は,従来よりも平均して約28パーセント減少しているとはいっても,なお同種労働者の賃金水準と同等であって,本件労働条件変更の必要性は,在職キャディ原告らの受ける不利益を上回っていた。
(ウ)

本件労働協約の締結,本件更新願書及び新キャディ契約書の提出の事実
は,いずれも,在職キャディ原告らが労働契約の変更に同意したことの証左である。
(エ)

在職キャディ原告らの同意の有無は,キャディ契約書の記載事項だけで
判断するべきではなく,その前後に行われた被告の説明の態様,内容,在職キャディ原告らが全員異議を唱えずに退職金を受領していること等在職キャディ原告らの対応,本件労働条件変更を受け入れたキャディ従業員が全体の63.1パーセント存在したこと,本件労働協約の存在等を総合して判断すると,在職キャディ原告らの同意があったというべきである。
したがって,在職キャディ原告らと被告との間には,本件労働条件変更について合意が成立している。
そして,被告は,3月末をもって原告らを解雇したものではないから,本件労働条件変更の合意は,新たな労働契約の締結ではなく,従前の労働条件の変更に関する合意である。

労働条件の明示について
在職キャディ原告らは,労働条件変更の申込みに当たり書面による労働条件の明示が必要である旨主張するが,労働関係継続中に就業規則の変更等により労働条件を変更する場合には,労働条件の明示義務はないし,仮に義務があるとしても,口頭による明示が無効となるものではない。


被告による解雇の事実がないこと
(ア)

被告は,キャディ職従業員に対して,本件労働条件変更に同意しない場
合に解雇する旨の意思表示をしたことはなく,キャディ職従業員において,同意しない場合には解雇されると考える状況にはなかったというべきである。(イ)全体説明については,L支配人がメモ(以下Lメモという。乙73)をとっていたところ,原告4,同16,同20及び同22が,いずれも,全体説明における労働条件の説明内容は,同メモの記載とほぼ同様のものであったと供述していること,Lメモの内容はIメモの内容と一致するばかりでなく,I社長がIメモに付け加えて説明したと供述した部分,さらに,付け加えて説明したと自覚していない部分についても,正確に記載されていることからすれば,Lメモの内容は信用性が高く,I社長は,Lメモの内容に沿った説明をしたといえる。
そして,Lメモには,解雇の記載はないから,I社長は解雇するとの発言をしていないというべきである。
(ウ)

個別面談において,解雇するとはどういう意味かとの質問は,数名のキ
ャディ職従業員からしか寄せられていないことからも,I社長による解雇発言はなかったといえる。
(エ)

本件組合との団体交渉においても,J部長は,
本件労働条件変更については,従業員各自から直接契約書を提出してもらって雇用契約を変更することにより対処した退職金は,雇用契約の変更に伴う清算のために支払った」旨を終始一貫して説明している。J部長の発言には,一部,契約が継続しないという趣旨の発言と読み取れる部分があるが,それは,J部長が,原告らの質問の趣旨を十分に理解していなかったために,言葉足らずで回答したからにすぎない。J部長が,「変更に応じなければ退職と述べた点についても,本件組合とJ部長とで,一般論か,あるいは,特定の従業員についての趣旨か,議論がかみ合っていない質疑の中で行われた回答であって,この点をとらえて,被告が,契約変更に同意しなかった者に対して,解雇を行ったと推認することはできない。
また,団体交渉では,I社長の解雇発言の有無についてまったく議論がされていないことからも,在職キャディ原告らは,当時,解雇発言の有無を問題にしておらず,したがって,解雇発言はなかったというべきである。(オ)

被告は,本件倶楽部を廃業しようとしていたわけではないから,キャデ
ィ職従業員らを解雇しなければならない理由はなかったし,そもそも,被告が従業員の同意を得て行う本件労働条件変更のために,従業員を解雇をする必要などなく,被告には解雇を行う動機もなかった。
(カ)

I社長は,
原告ら以外の本件倶楽部のキャディ職及び保育士職従業員,

F倶楽部及びG倶楽部の従業員に対しても,在職キャディ原告らに対する説明時と同じIメモを見ながら説明をしたが,上記従業員らからは,解雇されたという主張はされていない。

被告が,キャディ職従業員について,社会保険等を継続しているほか,4月以降の夏期及び冬期の賞与を,それ以前の勤続年数に応じて支払っていることをみても,被告がキャディ職従業員をいったん解雇して再雇用したものではないことは明らかである。


被告は,解雇の意思表示をするのであれば,口頭で通知するのではなく,文書を交付する方法を採るはずであるが,そのような文書を作成してはいない。


また,在職キャディ原告らの主張には,全体説明において解雇表明があったとすると全体説明に出席しなかった従業員の解雇については説明がつかない,また,キャディ職従業員に対して解雇の辞令が交付されていない,退職金が自己都合退職の支給率で支払われているなど,説明がつかない点が数多く存在するというべきである。


被告が,
4月の時点で,
キャディ職従業員に対して退職金を支払ったのは,
被告の経営状態及び資産状態では,
退職金制度を維持することが困難であり,
同制度の廃止を決めたこと,また,退職金原資を将来まで維持することができるか否かわからず,キャディ職従業員が退職する時に退職金を支払えない可能性があることを理由とするものであった。
なお,退職金の支給率を自己都合退職の場合によることとしたのは,被告は,自己都合退職の支給率で支払うのさえ精一杯であり,また,キャディ職従業員を解雇する意向はなかったからである。

(在職キャディ原告らの主張)

在職キャディ原告らによる有効な同意がないこと
(ア)

労働条件の引き下げについては,労働条件が労働者の生活に関わるもの
であり,労働者が使用者に対して従属的な立場にあることに鑑みると,単なる同意ではなく,自由意思に基づく明確な同意が必要というべきである。すなわち,労働者に,同意するか否かを決するまでに十分な検討の機会(時間的余裕)が与えられることは当然として,同意しない場合の不利益が明らかになっているなど,労働者が同意をする方向で考えざるをえない状況が作られていないことに加え,労働者が,引き下げられる労働条件の具体的内容を適切に理解した上でされることが必要である。
これに対応して,労働基準法15条,89条にあらわれるように,労働条件を引き下げようとする使用者は,労働者に対して,引き下げられる労働条件の具体的内容を明らかにしなければならないのであり,明確な同意の前提としては,明確な説明が必要というべきである。
(イ)

しかし,在職キャディ原告らは,I社長から解雇を告げられ,就業規則
への変更の同意を問う書面ではなくキャディ契約書という表題の書面の提出を迫られたことにより,キャディ契約書を提出しなければ,4月以降被告において勤務することができないと考えざるをえない状況におかれた。

I社長は,全体説明において,

キャディ職,保育士職全員を3月31日付けでいったん解雇して,退職金を清算し,4月から契約社員として再雇用する。

と説明し,J部長も,個別面談において在職キャディ原告らからの質問に答える形で,契約書を提出しなければ解雇となる旨を説明しており,被告は,在職キャディ原告らに対して,キャディ契約書を提出するか退職するかの二者択一を迫っていた。
被告は,
契約書提出後の団体交渉においても,
継続して勤務してほしいからキャディ契約書の提出を求めたとして,契約書の提出があって初めて継続的に勤務できることを前提とする説明をした。被告が退職金清算の趣旨について説明しなかったことも,在職キャディ原告らの誤信を強めるものであった。


また,被告が説明したとするメモ(乙9)記載の会社の経営内容は,キャディ職,
保育士職の人件費のみを削減する必要性としては根拠が希薄であり,雇用期間の変更等の重要な不利益変更を含むキャディ契約書の内容を在職キャディ原告らが受け入れる動機づけをするだけの根拠に乏しいものであったにもかかわらず,在職キャディ原告ら全員が,I社長による説明から1週間から2週間で合意書を提出している。


さらに,在職キャディ原告らを含めて,4月1日以降旧条件で引き続き就労しているキャディはひとりもいないこと,在職キャディ原告らが賃金切り下げの必要性についてほとんど質問していないことも,在職キャディ原告らが旧条件存続の余地がないと誤信していたことを示している。
そして,在職キャディ原告らは皆,陳述書あるいは尋問において,契約書を提出しないと解雇になると思って提出した旨述べている。
(ウ)

また,在職キャディ原告らに対して示されていた労働条件は,1年契約
への変更,基本給廃止,アフレ手当見直し,1ラウンド4バック1万円,アフレ手当7330円,一部諸手当の廃止であり,その他はまだ決まっていないというものだった。
被告は同時に,個別面談の席上で,一部の原告に対して,1年契約ではあるが,働く意思があり就業規則に違反さえしなければ定年まで働けること,給料はほとんど変わらないことを説明した。他方で,被告は,1年契約への変更の目的が,要員確保の状況の把握と労働条件の1年毎の見直しを可能にすることにあり,キャディ人件費の賃金カットの目標値をあらかじめ24パーセントと定め,計画的に労働条件を設定していたにもかかわらず,これらについて原告らに説明しなかった。
上記のとおり,被告による労働条件変更内容の説明は,重要部分についての説明を意図的に回避した,ごく簡単なものにすぎなかったし,
定年まで働ける給与はさほど変わらない等の発言ともあいまって,在職キャディ原告,
らにとって,
そもそも引き下げ」
かどうかの判断すらつきかねるものだった。キャディ契約書用紙の記載についても,雇用期間,勤務時間,休日数については記載があるものの,賃金については具体的内容は一切明示されていないほか,諸手当の廃止,生理休暇の無給化,昇級の廃止などの変更点についても,一切記載がなかった。このような状況下において,在職キャディ原告らは,雇用期間及び4バックとアフレの金額を除き,労働条件引き下げの具体的内容を理解できていなかった。(エ)以上のとおり,原告らは,意思が制約された状況において,自らの不利益性を十分認識しない上でキャディ契約書を提出したものであり,労働条件引き下げに対して有効な同意をしていない。イ被告と在職キャディ原告らとの内心の意思が合致していないこと(ア)契約の成立に内心の意思の合致が必要であることは,民法上の大原則であるところ,原告らと被告との間では,内心の意志が合致しておらず,合意内容も確定していないから,法的拘束力をもつ合意は成立していない。(イ)在職キャディ原告らは,キャディ契約書提出に当たって,給与額はさほど変わらないと認識しており,24パーセントあるいは30パーセント程度まで大幅に下がることを認識していなかった。他方,被告は,給与の具体的内容としては,4バックとアフレの金額が内定していたにすぎず,具体的金額の認識がないまま,本件労働条件変更の申込みをした。したがって,在職キャディ原告らと被告とは,給与額について,意思が合致していない。(ウ)被告の主張によれば,被告は,労働契約の継続を前提として,労働条件変更の申込みをする内心の意思であったが,在職キャディ原告らは,新たに契約を締結する意思でキャディ契約書を提出しており,両者が考える法的効果が大きく異なり,内心の意思が合致していない。ウ被告の主張への反論(ア)被告は,有期雇用契約への変更の理由として,勤務継続の意思を定期的に確認しておく必要がある,一定の要員を確保する必要があると主張するが,毎年継続反復する事業において,従業員の雇用意思確認をことさらに必要とする事情は認め難く,理由とはなり得ない。(イ)また,被告は,個別面談において,Jメモを見ながら変更する労働条件の内容を逐一説明したと主張するが,個別面談の際,机上にはJメモのような書類は存在せず,そこに記載されているような詳細な説明はされていない。そもそも,Jメモの記載内容を真に逐一説明したのであれば,口頭での説明に加えて,Jメモ自体を交付すればよいのであって,これをしていないことをみても,Jメモの内容を説明したという被告の主張は不自然である。(ウ)被告は,同意の有無を,キャディ契約書用紙の記載事項だけでなく,提出の前後に行われた被告の説明の態様,内容,在職キャディ原告らの対応,就業規則の変更に同意し,キャディ職として勤務している従業員が63.1パーセント存在していること等を総合して判断されるべきであると主張する。しかし,被告の説明の態様及び内容は,不十分かつ不適切なものであったし,退職金は被告が一方的に振り込んできたものであって,同意の根拠とはなり得ない。また,在職キャディ原告らは,4月3日に就業規則が掲示されたわずか5日後に本件組合を結成し,本件労働条件変更の有効性を争ってきたのであり,在職キャディ原告らの対応からみても,本件において,合意が存在していないのは明らかである。(2)在職キャディ原告らの本件労働条件変更同意における意思表示の瑕疵(在職キャディ原告らの主張)ア契約内容に関する錯誤(ア)在職キャディ原告らは,旧条件で受け取っていた賃金とほとんど変わらない賃金を受け取れること,諸手当のすべてが廃止されるものではないこと,退職金規程がなくならないこと,慶慰金が廃止されないこと,正月手当が減額されないこと,生理休暇が無給とならないこと,60歳定年まで働けること等を誤信してキャディ契約書を提出したのであるから,契約内容の要素に関する錯誤があり,本件労働条件変更についての同意は無効である。(イ)在職キャディ原告らに対して示されていた労働条件の内容,個別面談における説明内容は,上記(1)ア(ウ)で主張したとおりである。このような状況下において,在職キャディ原告らは,給料の低下や1年契約に対する不安を抱く者もいたものの,何らかの手当等によって給料はさほど変わらないだろう,1年契約になってもその後は定年まで継続して働ける地位にあるのだろうと誤信して,キャディ契約書を提出した。在職キャディ原告らが,個別面談においてほとんど賃金切り下げの質問をしていないのは,賃金切り下げの認識に誤信があったことの現れである。(ウ)在職キャディ原告らの上記(ア)(イ)記載の誤信は,①実際には,労働条件の変更につき原則として個別の合意が必要であって解雇要件も厳しい期限の定めのない労働契約から,労働者の合意なく1年毎に労働条件の見直しが可能な期間の定めのある契約への変更であるにもかかわらず,働く意思があり就業規則の違反がなければ労働契約が終了することはない契約への変更であると誤信するとともに,②実際には,計画上給料を24パーセント下げる契約であるにもかかわらず,さほど給料が変わることはないと誤信したものであり,労働契約の重要な要素に錯誤があることは明らかである。イキャディ契約書を提出しない限り労働契約が終了するという点の錯誤(ア)在職キャディ原告は,キャディ契約書を提出しなければ従前どおり勤務することができず,解雇されてしまうと誤信してキャディ契約書を提出しており,この点に錯誤が存在する。本件では,キャディ契約書を提出することが継続勤務の条件となっていたから,この点の錯誤は契約内容自体の要素の錯誤に該当し,本件労働条件変更についての同意は無効である。在職キャディ原告らに上記錯誤があったことは,上記(1)在職キャディ原告らの主張欄ア(イ)aないしcで述べた事実から明らかである。(イ)仮にこれが動機の錯誤であったとしても,被告は,在職キャディ原告らに対して,契約書提出あるいは退職以外の選択肢を与えていないのであるから,在職キャディ原告らが解雇を避けるためにキャディ契約書を提出したことを認識しており,動機が少なくとも黙示に表示されていたといえる。ウ上記ア及びイの錯誤が被告の欺罔行為によるものであること被告は,平均24パーセントの給与削減を計画して労働条件の変更を持ち出したにもかかわらず,在職キャディ原告らにキャディ契約書を提出させるに当たって,給与がさほど変わらないと虚偽の説明をした。また,被告は,キャディ契約書を提出しなければ解雇され,継続して勤務できないという虚偽の説明をした。在職キャディ原告らは,上記被告の説明によって,上記アないしイ記載の錯誤に陥り,キャディ契約書を提出したのであり,本件労働条件変更の同意について,平成16年1月22日の第8回口頭弁論期日において,被告の詐欺に基づく意思表示として取消の意思表示をした。(被告の主張)ア契約内容に関する錯誤について(ア)在職キャディ原告らは,J部長が,賃金はさほど変わらないと説明したと主張するが,本件労働条件変更の最大の目的は,人件費の削減であったから,J部長がそのような説明をするはずはない。3バック,2バックを含めたラウンド給,アフレ手当,年休保障手当,正月手当,通勤手当等が記載された,キャディラウンド給・手当について甲7)(という書面は,遅くとも3月20日ころまでにはキャディ控室に掲示されており,同書面を見れば,実際の給料がどの程度になるかを確認することができるから,J部長から上記説明があったとすれば,同日の時点で,キャディ従業員から質問が寄せられるはずであるが,何ら質問はされていない。また,在職キャディ原告らが給与の見通しがつかないなどということはなかった点は,上記(1)において述べたとおりである。(イ)本件労働条件変更中主要なものは賃金の項目であり,助勤手当,育児休業の手当等の,賃金以外の給与に関する細かい変更点については,仮に,原告らにこれらの点について錯誤があったとしても,要素の錯誤とはいえない。イキャディ契約書を提出しない限り労働契約が終了するという点の錯誤について(ア)被告は,在職キャディ原告らに対して,執拗にキャディ契約書の提出を求めたり,提出しなければ退職とみなすなどと言ったことはないし,キャディ契約書の提出期間も,17日間という,被告の提案について検討するのに十分な期間であった。現に,在職キャディ原告らは,いずれも,期限前にキャディ契約書を提出しており,当時,在職キャディ原告らが労働条件の変更に応じなければ退職せざるをえないと誤信していたことを窺わせるような事情は何ら認められない。(イ)在職キャディ原告らは,上記(1)被告の主張欄イ(イ)で述べたとおり,被告が説明した労働条件変更の大要及び被告の経営状況の概要について理解を示して,被告の申入れを同意したものである。そして,被告は,本件労働条件変更の申入れに対して同意できない旨の意見を述べた従業員がいなかったので,上記のとおり,在職キャディ原告らが被告の実情を理解したものと考えて対応した。ウ詐欺について上記ア及びイのとおり,被告が,在職キャディ原告らに対して,給料はさほど変わらないと説明した事実はなく,本件労働条件変更に応じなければ退職となるとの説明をした事実もない。(3)在職キャディ原告らによる追認の有無(被告の主張)ア本件労働協約は,在職キャディ原告らが被告から労働条件の変更内容について十分説明を受けた上で締結したものであるから,仮に原告らの本件労働条件変更に関する意思表示に瑕疵があったとしても,本件労働協約の締結により,その瑕疵は治癒されている。本件労働条件変更の主要な点は,雇用期間を定めることと給与体系を大きく見直すことであったところ,本件労働協約は,労働条件が変更されたことを前提に定められたものであるから,本件組合が本件労働協約を調印したことにより,原告らの意思表示の瑕疵は治癒されたことは明らかである。また,本件労働協約締結に至る過程の被告の対応について,在職キャディ原告らにおいて,雇い止めを懸念するような点はなかった。イまた,在職キャディ原告らは,本件更新願書及び新キャディ契約書提出に当たり,被告から,疑義があればその旨記載するように説明を受けたにもかかわらず,何ら記載をとどめることなくこれらを提出しており,在職キャディ原告らは,上記契約書の提出によって,本件労働条件変更について追認したというべきである。(在職キャディ原告らの主張)ア本件労働協約書に本件労働条件変更の効力を認める旨の記載はないし,本件労働協約は,1年契約であることを理由に在職キャディ原告らを雇い止めにするような事態を懸念して締結したものにすぎず,在職キャディ原告らが本件労働条件変更の効力を認めていないことは,その後の団体交渉の経緯から明らかである。イ本件更新願書の提出についても,被告は,団体交渉において,勤務継続の意思確認のためであって裁判に影響を与える趣旨ではないことを繰り返し述べていたし,在職キャディ原告らも,本件組合として,本件労働条件変更の効力を認めるものではないことを申し入れた上でこれを提出したのであって,追認の意思表示に当たらないことは明白である。新キャディ契約書の提出についても,追認の意思表示に当たらないことは同様である。(4)原告20は労働契約上の地位を有し,被告に対して賃金を請求することができるか(原告20の主張)ア被告に解雇されたこと原告20は,キャディ契約書を提出しなかったたため,以下の経緯により,被告から3月31日付けで解雇を表明された。(ア)原告20は,1月30日,育児休業中であったが被告の要請を受けて出社し,在職キャディ原告らと同様に,全体説明と個別面談を受けた。原告20は,個別面談で,解雇されることを確認する趣旨の質問をしたところ,J部長から,I社長は解雇と言ったが契約社員として全員に働いてもらいたいと考えているので契約してほしいと説明があり,その後,キャディ契約書を渡され,2月15日までに提出するように指示された。原告20は,同月9日に,本件倶楽部のキャディマスター室課長のM(以下「M課長という。)からキャディ契約書の提出を督促する電話を受け,
辞めるのかと尋ねられたが,

まだわからない。託児所の閉鎖はかなり厳しいです

とのみ答えた。(イ)

原告20は,その後すぐに,被告への対処方法について栃木労働基準監
督署に相談したところ,
会社と話し合いの場を持つように
退職願等は出さないようにとの指導を受け,同月14日に,本件倶楽部総務部副部長N(以下N副部長という。
)に対して,解雇と労働条件の切り下げを二者択一に
した一方的な通告に不満があり,託児所が閉鎖された場合に子供の預入先がなくなるとの事情もあるため,キャディ契約書は提出しない旨を伝えた。原告20は,同月16日に,N副部長から,キャディ契約書を提出する意思がないか電話で確認され,その意思のないことを再度伝えたところ,キャディ契約書を提出しないのであれば退職届を出すようにと求められたが,原告20は納得がいかず,退職届は提出しなかった。
また,3月初旬あるいは中旬ころ,L支配人,N副部長と原告20とで話し合いが行われたが,原告20は,この場でも,1年契約を結べないのなら退職願を出すように求められた。原告20は,その場ではもう少し考えさせてほしいと伝え,その数日後に,退職届は提出できない旨を被告に伝えた。(ウ)

その後,被告から原告20に対しては何の連絡もなく,3月末の数日前
に,原告20から,4月以降の処遇について尋ねるために被告に連絡を入れた際,
辞令を出すので会社に来てほしいと指示され,原告20は,3月31日に,
職を解くとの辞令を交付されて,解雇を表明された。

退職の意思表示をしていないこと
(ア)

被告は,2月9日に,原告20から口頭で退職の意思表示を受けたとし
て,原告20が自主退職をしたと主張する。
しかし,原告20が退職の意思表示をした事実は一切なく,託児所の廃止で子供が預けられなくなるのは困るとの同人の発言を,M課長が,退職の意思表示と誤解したにすぎない。
原告20が,同月9日に被告に対して退職の意思表示をしたのであれば,退職願を出せばよいだけであって,その後に労働基準監督署に電話したり,4月以降どうなるかを被告に聞く必要もなく,原告20の言動は,いずれも自ら辞める意思を有している者が取る行動ではない。
(イ)

また,被告は,同月13日に,原告20に対して,退職願を書くように
伝えたと述べるが,被告においては退職の際には退職願の提出が不可欠であるから,同月9日に原告20が口頭で退職の意思表示をしたならば,その段階で退職願の提出を求めるのが自然であって,その4日後になって初めてこれを指示したとするのは不自然である。
同月9日の原告20とM課長とのやり取りをまとめたとされる報告書乙2)(
についても,作成時期や,同日のやり取りについてのみ報告書が作成された点など,不自然な点が多くあり,信用性に疑問がある。
(ウ)

また,就業規則では退職に際して退職願の提出が必要とされており,原
告20は退職願を提出していない以上,そもそも退職の要件を満たさないというべきである。
(エ)

辞令の記載も,自主退職の場合の願いによって職を解くとの文言と
は明らかに異なり,原告20が自主退職をしたのではなく被告によって解雇されたことは明白というべきである。
(オ)

退職金の受領についても,原告20は,一貫して,契約内容の不利益変
更も,被告が一方的に行った退職金清算行為も容認しておらず,退職金を受領する権利は発生していないから返還する用意があることは,団体交渉の場などで,繰り返し被告に伝えてきたところである。

解雇が無効であること
そして,解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当として是認することができない場合には,権利の濫用として無効とされるところ,被告は,具体的説明もなく,一方的に労働条件を切り下げたキャディ契約書の提出を迫り,これを提出しないということのみから原告20を解雇したものであり,客観的に合理的な理由などなく,社会通念上到底是認し得ない不当な解雇であることは明白であり,原告20の解雇は無効である。

したがって,原告20の雇用契約は終了しておらず,原告20による労務の履行不能は,被告による無効な解雇表明を理由とするものであって,被告の帰責事由に基づくというべきである。

(被告の主張)

原告20による退職の意思表示があったこと
(ア)

N副部長は,原告20が,個別面談の際に,託児所がなくなってしまう
ので厳しいと述べ,他のキャディや保育士に対して,託児所がなくなってしまうのでは勤めることができないので退職すると話していたことを聞き,また,2月5日に配付したキャディ契約書の提出がないため,同月9日,M課長に対して,4月以降の契約についての原告20の意向を電話で聞いてみるように指示をした。
そこで,M課長は,同日,原告20に電話をかけ,4月以降の勤務の意向を確認したところ,
原告20は,
託児所に子供を預けることができなくなるため,
勤務することは無理であり退職するとして,退職の意思表示をした。(イ)

その後,N副部長が,2月13日に原告20に電話をかけ,4月以降の
勤務の意思がないことを再確認した上,
退職願を提出するように求めたところ,
原告20は,
全体説明では解雇と説明されたのに退職願が必要なのはおかしい,労働基準局からは退職理由を会社都合としてもらうように言われた旨を述べ,N副部長が,解雇ではなく労働条件の変更である旨説明をしても,解雇であったとして譲らず,労働基準局に相談するので退職願の提出を少し待ってほしいとした。
仮に,原告20に勤務を継続する意思があったのであれば,被告が解雇を否定しているにもかかわらず解雇の説明があったとして争う必要はなく,むしろ,
旧条件でなければ働きたくない,あるいは,キャディ契約書は提出しないなどの協議があってしかるべきであり,原告20には,4月以降勤務を継続する意思はなかった。
原告20は,雇用保険の受給を有利に進めるために,退職理由について,会社都合か自己都合かを争っていたにすぎず,退職届を自ら提出しなかった理由も,この点にあったにすぎない。
(ウ)

被告は,原告20に対して,3月29日に退職金を支払い,同月31日
には辞令及び雇用保険被保険者離職票(以下離職票という。
)を交付し,
自分のロッカーを整理させた上で,キャディの制服を返還させたにもかかわらず,原告20からは,何ら異議等は寄せられていないし,5月21日には,原告20自ら退職証明書の発行を求めている。
これらの事実は,2月9日に原告20から退職の意思表示があったことの証左である。
(エ)

被告は,当時,本件倶楽部を廃業する意図はなく,キャディ職従業員を
雇用する必要があったのであり,原告20に対して,本件労働条件変更に同意しないことを理由として退職をするように勧めたことはなかった。このことは,本件倶楽部で勤務していたキャディ職従業員の中で,労働条件の変更を理由に退職した者はいないことからも明らかである。

原告20の主張への反論
(ア)

原告20は,乙2の作成日が4月以降であることについて不自然である
と主張するが,被告は,組合結成通知を受けて,原告20の件についても問題とされることがあるかもしれないと考え,
報告書の作成を指示したものであり,
不自然な点はない。
(イ)

原告20は,自己都合退職であれば,辞令に願いにより職を解くと
記載されるはずなのに,原告20へ交付された辞令には職を解くとしか記載されていないことが,被告による解雇の事実を示すと主張するが,願いによりとの記載がなかったのは,原告20から口頭による退職の意思表示を受けたものの,退職願が提出されていなかったためにすぎない。
(5)

退職キャディ原告らの退職について被告に違法行為があったか

(退職キャディ原告らの主張)

本件労働条件変更について,被告と退職キャディ原告らとの間の合意が存在せず,あるいは,退職キャディ原告らの同意に錯誤,詐欺という意思表示の瑕疵がある点について,上記(1)及び(2)における在職キャディ原告らの主張欄の主張を援用する。
イ(ア)

被告は,従業員に対して,正当な理由なく契約を遂行し難い職場の状況
を作出するような行為をあえて行ってはならないという不作為の配慮義務を雇用契約上の義務として負っている。
(イ)

被告は,本件労働条件変更実施により賃金が約3割という大幅な減額と
なること,かかる事態に至れば,キャディ職従業員の中には,家計を維持していくことが困難となり,副業をしたり転職を余儀なくされる者も相当数存在することを認識し得る立場にあったにもかかわらず,本来退職キャディ原告らを拘束する余地がない本件労働条件変更を強行して,退職キャディ原告らに対して減額した賃金のみを支給し,期間の満了による雇い止めを行い得る条件を作り出した。
これにより,
退職キャディ原告らは退職を余儀なくされたのであり,
このような被告の行為は,上記配慮義務に違反し,退職キャディ原告らの就労の権利,利益を侵害する違法なものであり,債務不履行ないし不法行為に当たる。
(ウ)

また,被告は,退職キャディ原告らに対して,退職と契約社員としての
再雇用とに任意に協力してもらおうというのであれば,契約変更を行わなければならない必要性,変更後の労働条件を詳しく説明し,その提案に応じるかどうかは労働者の自由な意思によって決定するものであることを尊重した対応をすべきだった。
しかし,被告はこれらの義務を果たさず,退職キャディ原告らにキャディ契約書を提出しなければ解雇となると誤信させてその提出に応じさせ,新契約の下での低賃金から退職に追い込んだものであり,被告の行為は上記配慮義務に違反し,債務不履行ないし不法行為に当たる。
(被告の主張)

上記退職キャディ原告らは,本件労働条件変更に同意した上で,その後,退職願を提出して,自己の意思で退職した。
原告21は,収入が下がったことの影響がなかったとまではいえないが,4月以降半年間も新条件で勤務した後10月という時期に退職した主な理由は,従前から有していた保育士の資格を生かした,病院の託児施設での正社員勤務の内定通知があったことが主な原因と考えられる。
原告22は,夫が交通事故で負傷したために,4月,5月はほとんど勤務を行っていないのであり,夫の交通事故が退職の主な原因である。

新条件の内容,特に賃金額は,同業他社の賃金と比べても決して遜色ないところであるし,被告が本件労働条件変更を行うについて,合理的な理由があったことは,上記(1)被告の主張欄イで述べたとおりである。

(6)

保育士原告らは労働契約上の地位を有し,被告に対して賃金を請求すること
ができるか(主位的請求)
(保育士原告らの主張)

退職の意思がなかったこと
(ア)

保育士原告らは,長年にわたり本件託児所で勤務をしてきたところ,全
体説明において,突然託児所の閉鎖を通告され,個別面談において,仕事内容がまったく異なる事務職への配転を打診された。
個別面談では,K副部長から,事務職への配転に応じるかどうかは保育士原告らの意向を尊重するという趣旨の発言がされたが,数日後,L支配人,N副部長らは,保育士原告らに対して,暗に自主退職をすることを勧めるかのような態度をとるようになった。
さらに,N副部長は,2月9日,保育士原告らに対して,

事務職は人が足りている。キャディをしてもらうしかない。

などと,従前の事務職への配転提案を一方的に撤回し,突然,キャディ職への配転を命じ,これに応じられなければ他の仕事はないという趣旨の説明をした。
保育士原告らは,同月25日,L支配人に対して,事務職への配転の提案を一方的に撤回したことについて抗議をし,再考を求めたが,L支配人はこれを拒絶した。
このため,保育士原告らは,事務職として職場に残ることができないのであれば解雇扱いとしてほしいと求めたが,L支配人は,キャディへの異動の余地があるのだから解雇扱いとすることはできないとして,この要求も拒絶した。さらに,L支配人は,3月3日には,退職届のひな形を用意して,保育士原告らに対して,退職届をその場で作成するよう迫り,保育士原告らは,L支配人の指示を承服していなかったが,抗しきれず,
一身上の都合によりとあ
った部分を今般,託児所の閉鎖にともないキャディ職への移動提示を受けましたがと書き改め,自ら進んで退職するものではないことを記載上明らかにして退職届を作成し,提出した。
(イ)

保育士原告らは,被告が事務職への配置換えを撤回してキャディ職への
配置換えか仕事を辞めるか迫ってきたのに対し,当初の提案どおり事務職への配置換えを再検討してもらいたく,それが適わないのであれば解雇としてほしいという趣旨で退職届を作成しているのであり,保育士原告らが提出した退職届には退職届という表題が付されてはいるものの,保育士原告らは,真に自ら退職する意思を有してはいなかった。
このことは,保育士原告らが,専ら被告側の都合により仕事を失う状況に立ち至っていることを表す退職届を作成している経緯から,十分窺えるところである。

被告に解雇されたこと,解雇が無効であること
被告は,上記のとおり,保育士原告らには自ら退職する意思のないことを十分に承知しながら,3月31日に,一方的に退職金を支払い雇用関係を打ち切っているのであり,これは即時解雇にほかならないものである。
そして,
被告は保育士原告らの解雇について何ら理由を示しておらず,
客観的,
合理的理由を欠いた社会通念上到底是認し得ない不当な解雇であることは明白であり,解雇は無効である。

(被告の主張)

本件託児所の閉鎖を説明したこと

(ア)本件託児所は,
平成10年ころから託児数が減少してきたため,被告は,
平成13年4月以降,開設時期を休日や夏休みに限定した。しかし,休日についても本件託児所の託児数はほとんどいなかったため,被告は,4月以降本件託児所を閉鎖することとした。
他方,被告は,保育士原告らを含む合計4名の保育士職従業員に対して,平成13年4月以降の平日は,事務所において,フロント,プロショップ,コース売店勤務,電話応対,予約受付等の事務的作業を行わせたが,同人らは,接客業務や電話応対不得手である,OA機器の取扱いに馴染めない,業務に対する積極性が見受けられないといった問題点があり,4月以降,継続して事務職に従事させるのは困難であった。
(イ)

そこで,I社長は,1月30日の全体説明において,被告のおかれた経
営環境,現状を説明した上で,本件託児所を3月末をもって閉鎖することを説明した。
続いて,J部長,N副部長,L支配人は,個別面談において,保育士原告らに対して,保育士職の仕事はなくなり,本件倶楽部における職種はキャディ職か事務職に限定されること,事務職には人員を受け入れる余裕はないことを説明した上で,キャディ職と事務職いずれの職種を希望するか検討するように求めた。
さらに,L支配人は,2月9日に,保育士原告らを含む保育士職従業員に対して,事務職の人数は不足しているどころか余力が生じることが予測され,事務職への異動は考えにくいこと,キャディ職は不足気味であることを伝えて,キャディ職として仕事を続けてもらいたいと説明した。
被告が,保育士原告らに対して,事務職への配置換えに応じるか否かを検討するように回答を求めてこれを撤回したことはないし,保育士職従業員から,事務職に配置してもらいたいとの要望を受けたことはない。

退職の意思表示があったこと
被告が上記ア(イ)記載の説明をしたところ,原告23及び同24からは2月9日,同25からは同月11日,それぞれ口頭で退職の意思表示があり,3月3日には,退職届が提出された。
被告は,保育士職従業員全員に対して,同月31日,自己都合退職による辞令を交付しており,保育士原告らは,雇用保険受給手続に際して,
事業主からの働きかけによるものの項目に印をつけることなく離職票を提出しており,公共職業安定所からの雇用保険に関する通知書にも,雇用保険被保険者資格喪失原因について,事業主の都合による離職以外の離職と表示されている。

保育士原告らの主張への反論
保育士原告らは,N副部長が3月3日に退職届の作成を迫ったと主張するが,同日は,原告24を含む保育士職従業員2名が出勤していなかったのであり,N副部長がこれらの者を除外して他の者のみに対応することはない。保育士原告らは,退職届の文言を自ら変更して提出しており,本当に退職届の提出を強要されたのであれば,このようなことをすることはない。また,保育士原告らは,退職の辞令交付を拒否したり,雇用保険受給手続の際,退職を強要されたと述べて,離職票の事業主からの働きかけによるものの項に印をつけることも可能であったのに,このような対応すらとっていない。
(7)

保育士原告らの退職について被告に違法行為があったか(予備的請求)
(保育士原告らの主張)
ア(ア)

使用者は,労働者から退職の同意を得るために一定の説得を試みること
は許されるが,労働者の自由な意思決定が妨げられる状況を作出すれば,その状況下における退職勧奨は,社会的相当性を逸脱した態様による干渉行為として,違法な権利侵害行為となる。
そして,多数回あるいは長期にわたり勧奨が繰り返されたり,退職を求める理由を詳しく説明しないまま執拗に退職を求めるなどした場合には,被勧奨者の不安感を増し,不当に退職を強要する結果となる可能性が強いことから,これらの事情は,違法性の判断を行う上で重要な要素となる。
また,退職勧奨を受けた労働者がこれを拒絶する意思を明らかにしている場合には,さらに退職勧奨を続けることは許されないというべきである。(イ)

使用者は,労働契約の付随義務として,労働者がその意に反して退職す
ることがないように職場環境を整備して,労働者の人格権を侵害する等違法,不当な目的,態様で人事権の行使を行わない義務を負い,使用者が,労働者に退職届を提出させるという不当な意図のもとに,労働条件変更の内容や必要性等について具体的説明をせず,退職を拒んだ者について経験のない職種に配置換えするなど人事権を恣意的に行使しようとすることは,上記義務に違反する違法な退職強要行為になるというべきである。
イ(ア)

保育士原告らは,被告から当初提案されていた事務職への配置換えを強
く希望していたのであり,被告に対して,キャディ職への配置換えしかないのであれば解雇扱いとしてほしいと要請し,自ら退職する意思のないことを伝えており,上記(6)保育士原告らの主張欄ア(ア)記載の経緯からも認められるとおり,被告も保育士原告らのこうした意向を承知していた。
被告は,それにもかかわらず,何としても退職届を提出させようとの不当な意図のもとに,事務職への配置換えが不可能となり,キャディ職への配転しかあり得なくなったという口実を設けて人事権を恣意的に行使しようとして,保育士原告らに対して自己都合退職を強要した。
保育士原告らは,本来であれば,事務職への配置換えを被告が拒む場合にはあえて整理解雇も甘受するという選択もあり得たのに,被告は,かかる退職勧奨により,
保育士原告らの退職に関する意思決定の自由を侵害したのであって,被告の退職勧奨が違法であることは明らかである。
(イ)

被告は,保育士原告らに対して,配置換え可能な職種,配置換えの基準
等を正確に説明した上でその意向を確認すべきであり,仮に,個別面談から2月9日までの間に事務職への配置換えが不可能となった事情があったのならば,提案を変更せざるをえなくなった経緯を説明すべきであった。しかし,被告は,保育士原告らに対して,当初は個別面談において事務職への配置換えを打診していながら,保育士原告らが退職を選択せずに事務職への配置換えに応じかねないと知ると,2月9日に至り突如として,事務職は足りておりキャディ職への配置換えしか対応できないとして従前の提案を覆し,さらに,配置換えに応じない場合には退職しか選択肢がないと通告するという,恣意的,場当たり的な配置換えの提案をしたものであり,被告の行為は,上記ア(イ)の職場環境配慮義務に違反する違法なものである。
(被告の主張)

上記(6)アないしウで主張したとおり,被告は,保育士原告らに対して,事務職への配置換えを提案したことはなく,保育士職従業員から,事務職に配置してもらいたいとの要望を受けたこともない。また,被告は,保育士原告らに対して,退職届の提出を強要したこともない。


被告は,ゴルフ事業の存続自体が困難な状況に陥っている中で,預かる児童数が激減したために,本件託児所を閉鎖したものであり,本件託児所の閉鎖はやむを得ないことであった。
そして,被告が運営していたゴルフ倶楽部には,保育士職以外の職種としては事務職とキャディ職しかなかったが,本件倶楽部では事務職の人員の削減,抑制を進めており,保育士原告らを事務職に配転することはできなかった。したがって,被告による職種変更に関する提案の手続に違法性はない。
(8)

在職キャディ原告らに対する未払賃金額

(在職キャディ原告らの主張)
在職キャディ原告らは,本来,4月以降も,3月31日までの賃金体系に基づいて,別紙3賃金目録③欄記載のとおりの賃金の支払を受ける権利を有していたところ,実際には,平成14年度については同目録①欄記載の賃金の支払を受けたのみであるから,被告に対して,その差額をもとに計算した平成18年9月分までの差額の合計額である同目録⑦欄記載の金員について,また,同年10月分以降,毎月24日限り同目録⑧欄記載の金員について,雇用契約における賃金請求権に基づき支払を請求する。
(9)

原告20に対する未払賃金額

(原告20の主張)
原告20は,本来,4月以降も,3月31日までの賃金体系に基づいて,別紙3賃金目録⑦欄記載のとおりの賃金の支給を受ける権利を有していたところ,実際には賃金の支給を受けていないから,上記金員について,雇用契約における賃金請求権に基づき,支払を請求する。
(10)

退職キャディ原告らの損害

(退職キャディ原告らの主張)

逸失利益(月額給与分)
退職キャディ原告らは,被告の不法行為,債務不履行により,被告から受けられたはずの賃金請求権を喪失させられたものであり,これに伴う損害は,月額給与(平成13年4月分から平成14年3月分の平均額)6か月分に相当する金額を下回ることはないというべきである。
(ア)

30万4147円×6=182万4882円

(イ)

原告22

31万9966円×6=191万9796円


原告21

慰謝料
退職キャディ原告らは,再就職先を確保するために奔走せざるをえず,被告から得ていたのと同じ水準の給与が得られる正社員の仕事を探すのは容易なことではなかった。こうした精神的苦痛を慰謝するには,少なくとも100万円が相当である。


まとめ

上記ア及びイ記載の合計額

(ア)

原告21

282万4882円

(イ)

原告22

291万9796円
(ウ)

上記(ア)及び(イ)記載の金員について,訴状送達の日の翌日である
平成14年12月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
(11)

保育士原告らに対する未払賃金額(主位的請求)

(保育士原告らの主張)
保育士原告らは,本来,4月以降も,3月31日までの賃金体系に基づいて,別紙3賃金目録⑦欄記載のとおりの賃金の支給を受ける権利を有していたところ,実際には賃金の支給を受けていないから,上記金員について,雇用契約における賃金請求権に基づき,支払を請求する。
(12)

保育士原告らの損害(予備的請求)

(保育士原告らの主張)

逸失利益(月額給与分)
保育士原告らは,被告の不法行為,債務不履行により,被告から受けられたはずの賃金請求権を喪失させられたものであり,これに伴う損害は,月額給与(平成13年4月分から平成14年3月分の平均額)6か月分に相当する金額を下回ることはないというべきである。
(ア)

原告23

32万2910×6=193万7460円

(イ)

原告24

31万4087×6=188万4522円

(ウ)

原告25

32万4125×6=194万4750円


逸失利益(退職金差額相当分)
保育士原告らは,3月末までに,一方的に改定された退職金規程における自己都合退職の退職金支給率により算定した退職金を支払われているが,本来,従前の退職金規程における会社都合退職の支給率により算定した退職金が支払われるべきであり,本来支給されるべき退職金の額と現実に支給された額との差額相当分の損害を被った。
(ア)

原告23

219万6229-127万=92万6229円

(イ)

原告24

209万2992-121万0302=88万2690円

(ウ)

原告25

160万7755-73万2566=87万5189円


慰謝料
保育士原告らは,再就職先を確保するために奔走せざるをえず,被告から得ていたのと同じ水準の給与が得られる正社員の仕事を探すのは容易なことではなかった。
こうした精神的苦痛を慰謝するには,
少なくとも100万円が相当である。

弁護士費用

上記アないしウ記載の合計額の1割

(ア)

原告23

38万6368円

(イ)

原告24

37万6721円

(ウ)

原告25

38万1993円


まとめ

上記アないしエ記載の合計額

(ア)
(イ)

原告24

414万3933円

(ウ)
第3

原告23

425万9957円(ただし,違算あり)

原告25

420万1932円

1
争点に対する判断
上記前提となる事実に証拠(以下に記載するほか,各認定事実の項目毎に主な証拠を記載する。甲1ないし9,13,15ないし17,19,20,23ないし28の2,30ないし32,35の1ないし38,42ないし44の2,63ないし65,67,71ないし74,77ないし103の12,乙1ないし10の2,12,14ないし53,63ないし78,80ないし83の1,84の1ないし3,85の1,2,86ないし91の2,証人J,同L,同N,同M,同O,原告4,同16,同20,同22,同23,同6,被告代表者I)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
(1)

本件倶楽部の軌跡(甲23ないし28の2)
本件倶楽部は,Bが所有する約25万坪の敷地に18ホールのコース,クラブ
ハウス等を擁する法人会員専用のゴルフ場として,平成3年9月26日にオープンした。
本件倶楽部の設置に当たり,コース造成費用,クラブハウス建設費用等の費用はいずれもBが負担し,クラブハウスはBの所有とされた。また,本件倶楽部の会員募集もBが行い,預託金の管理,運用もBが行うこととされた。本件倶楽部の管理,運営は,Bの委託を受けて被告が行い,売上金はすべてBへ帰属する代わりに,Bから被告へ本件倶楽部の業務にかかわる実費等の運営管理委託料が支払われることとされた。

本件倶楽部では,キャディ付きプレーのみを行うことが予定されていたため,被告は,本件倶楽部のコースが完成する前の平成3年1月ころから順次,キャディ正社員募集,研修制度あり,託児所完備などと記載した広告をし,キャディ職従業員の募集を行った。
これに応じて,原告1,原告2,原告3,原告4,原告5,原告6,原告7,原告18,原告19,原告9,原告11,原告12,原告13,原告15,原告22は同年4月に,原告10は同年5月に,原告8は同年7月に,原告14及び原告20は平成4年9月に,原告16及び原告21は平成10年1月に,原告17は平成13年4月に,それぞれ,本件倶楽部勤務のキャディ職従業員として被告に採用された。

被告は,幼い子供を持つ女性にも子供の世話を心配することなくキャディ職従業員に応募してもらうために,本件倶楽部に託児所を備えつけることとし,託児所の開設のため,保育士の資格を有する従業員を募集し,原告23は平成3年6月に,原告24は同年7月に,原告25は平成6年1月に,それぞれ,本件倶楽部勤務の保育士職従業員として採用された。


キャディ職の具体的な職務内容は,
客のゴルフクラブの受け渡し,
コース案内,
バンカー整備等,客のゴルフプレーを補助する業務であり,本件倶楽部では,オープン前採用のキャディ職については約半年間,オープン後採用のキャディ職についても少なくとも約3か月間の間,接客,ゴルフの知識,キャディとしての行動準則等を始めとして,プロゴルファーの指導による実施研修,Bグループの社風に至るまで,数多くの研修を行い,採用時の研修終了後も,キャディ職従業員用研修資料,詳細な作業マニュアル等(甲23ないし27)を配付するほか,平成13年までの間は,年に2回,1日がかりの実務研修や筆記試験を行うなど,他のゴルフ場のキャディに対して行われるものに比べて,期間,内容共に非常に充実した研修を行ってきた。


本件倶楽部のプレー料金は,
他の近隣ゴルフ場に比べて高額に設定されており,
コースの質も高く,本件倶楽部の管理職らにおいても,日頃から,関東一のゴルフ場にする高級接待ゴルフとしてお客様に満足していただけるよう,プレ,ーに専念していただけるように仕事をするようにと述べるなどしてキャディ職従業員らを指導しており,キャディ原告らは,これらの言葉や,研修が充実していること,訪れる客層及びプレー料金の高さ,客からの,
Eのキャディは素晴らしいといった発言等から,本件倶楽部が高級なゴルフ場であるとの意識を抱いていた。

Bは,平成9年3月24日,F倶楽部の営業譲渡を受け,その営業を開始するとともに,同年9月12日,G倶楽部をオープンしし,いずれについても,本件倶楽部と同様に,被告へ管理,運営を委託した。

(2)

平成13年ころの被告を取り巻く状況等
ゴルフ場業界の動向(乙7の1ないし7の3,12,41,42の1ないし4
2の3)
ゴルフ場経営事業の特徴としては,①売上高に対する販売管理費の割合,中でも人件費の割合(以下人件費率という。
)が高いこと,②販売管理費に占め
る固定費(コースメンテナンス費用,借地賃料,固定資産税等)の割合が他業種に比べて特に高いこと,③預託金の預かりによる無利息の固定負債が大きいことが挙げられ,平成4年度以降,ゴルフ場の来場者数,売上高は毎年減少し,平成8年度には全国平均で収支が赤字となり,ゴルフ場経営会社が預託金返還義務を履行することができずに倒産する件数が増加する中で,収支を黒字化するためには,①人件費率を40%未満とすること,②低料金化を鮮明に打ち出し客単価を下げてでも来場者を増やすことが重要と指摘されていた。
被告が,栃木県内の20か所以上のゴルフ場におけるキャディ職従業員の賃金等の労働条件について調査したところ,①基本給は設けられていないゴルフ場もあり,その場合の4バックの手当は8000円から1万1000円程度であり,②アフレ手当は設けられていないゴルフ場もあり,設けられていても1日当たり2000円から5000円程度がほとんどであり,③賞与は半数以上のゴルフ場で支給されておらず,支給されているゴルフ場でも年間20万円台のゴルフ場が3か所であり,その他は年間2万円から3万円であり,④年間200日以上稼働した場合の年間平均賃金は,約250万円から300万円であった。イ
Aグループ(B及びその子会社等)の状況等(乙24の1ないし24の3,67の1ないし67の3)

(ア)Aグループでは,
平成9年度及び同10年度に連結決算が赤字となる中,
平成11年度にBの保有する土地の含み益の一部を活用してグループ内の不良資産を償却したほか,連結対象会社の見直しや,グループ各社における経営改善策を進めており,こうした状況を踏まえて,各グループ会社については,偶発的損失を除いて赤字は絶対に出さないという決意を持つこと,グループ内の業種統合へ協力すること,レジャー部門については収支の見込みが立たない事業の撤退を継続して進める方針であること等が要請,説明されていた。(イ)

Aグループの一企業であるD株式会社(以下Dという。
)が群馬及

び栃木県内で運営している4か所のゴルフ場のうち,2か所は平成3年時点で既に退職金制度が廃止されており,他の2か所では,平成13年1月及び4月に,①キャディ職従業員の雇用期間を1年間とする,②キャディ職従業員の退職金制度を廃止し,いったん自己都合退職の支給率により算定した退職金を支払う,③キャディ職従業員の賃金制度を変更し,客付きがない場合に最低賃金を保障する制度とする,④コース管理業務等の第三者への委託,⑤セルフプレーの導入によるキャディ職従業員の削減を行っていた。

被告の状況(乙5,8,12,19,20の2ないし22の3,24の1ないし24の3,25,33,36の1,37の1ないし37の10,37の12ないし37の20,
37の22ないし37の27,
67の1ないし67の3,
80)
(ア)

収支状況の概略(各数値はいずれも概数)
被告の主な収入は,Bからの運営受託料であり,人件費とコース管理費等
の委託料が主な支出であり,
全体としての人件費率は約45%だった。
一方,
被告は,
Bに対する敷地等の賃料支払の負担はなく,
預託金返還義務の負担,
固定資産税支払の負担もなかった。

被告の売上は平成8年度の29億6200万円から平成13年度には28億5000万円に減少したが,経費は平成8年度の27億7700万円から28億5200万円に増加し,平成13年度について,営業損益としては251万円の損失を出していたものの,経常利益及び税引後当期利益は,それぞれ,2300万円,1600万円であった。
Bから支払われる運営受託費は,平成12年度以降,退職給付引当金等の各種引当金相当分について減額されるなどし,平成10年度の29億5800万円から平成13年度には26億7100万円に減少した。


本件倶楽部の年間利用者数及び収入は,平成8年度の2万6000人,7億2800万円から,平成13年度には2万1000人,6億0200万円に減少し,本件倶楽部,F倶楽部,G倶楽部合計についても,平成10年度の9万6000人,19億9300万円から平成13年度には9万4000人,17億4000万円に減少した。
本件倶楽部の総経費及び人件費は,平成8年度の9億3300万円,3億4600万円から,平成13年度は5億7700万円,2億7500万円に減少し,
上記3倶楽部合計についても,
平成10年度の21億3500万円,
8億6400万円から,平成13年度には19億1500万円,7億5600万円に減少した。
本件倶楽部の人件費率は,平成8年度の約47.5%から約45.7%に減少したが,上記3倶楽部合計については,平成10年度の約20.5%から約43.4%へ増加した。
また,ゴルフ事業の会員数も減少し,Bにおいて管理していた預託金の額も減少を続けていた。

他方,スポーツクラブ事業については,売上は平成10年度の22億1500万円から平成13年度には22億0200万円にやや減少する中,総経費及び人件費は平成10年度の19億0600万円,4億円から18億5600万円,3億1800万円に減少した。


このように,平成13年ころの被告の収支状況は,ゴルフ事業について,利用者数の減少に伴う売上の低下により,営業損益としては損失を出していたものの,なお,経常利益,税引後当期利益のいずれにおいても利益を挙げており,また,人件費率は40%を上回っているものの,一般的なゴルフ場事業会社と異なり,借地賃料及び固定資産税の支払義務も,預託金返還義務も負担しておらず,経営危機に陥ったり,被告の存続が危ぶまれるという事態にはなかった。
また,本件倶楽部のプレー料金は他のゴルフ場に比べて高額に設定されていたが,平成13年までの間に料金を引き下げることはなかった。キャディ原告らは,事務職従業員等から,本件倶楽部単体でみた収支状況は赤字であることを聞いていたものの,被告がAグループの一員であることに信頼を寄せており,また,本件倶楽部について高級ゴルフ場であるという意識を持つとともに,事務職従業員等からも,
接待用ゴルフ場だから収支は問題ない本件倶楽部の収支は赤字でも,Bから運営費が入るので問題,ないなどの話を聞いていたため,本件倶楽部の事業の継続や,自身らの雇用について,不安に思うことはなかった。
また,キャディ職従業員に対して,1月30日より前に,人件費の削減に協力してほしいという話がされることもなかった。
(イ)

人員の推移

被告は,平成10年以降,スポーツクラブ及びゴルフ倶楽部いずれについても,順次,事務職に従事する従業員の数を削減し,平成10年4月から同13年4月の間に,
本社は13名から12名に,
本件倶楽部は19名から15名に,
G倶楽部は16名から15名に,F倶楽部は38名から20名に,スポーツクラブは104名から59名に,それぞれ削減し(ただし,H倶楽部は26名から27名に増加している)
,合計で,215名から148名へ削減した。
本件倶楽部の事務職の人数の減少は,結婚等の自己都合退職やBへの帰社により減った人数分を補充しない自然減によるものであり,人数の減少に伴い,事務職の業務は,効率化が進められるとともに,売店業務を担当しないなど,その業務も削減されるなどした。
他方,同期間中,キャディ職の人数はほぼ変わっておらず,本件倶楽部は41名のまま,G倶楽部は13名から16名へ増加,F倶楽部は30名から31名へ増加し,H倶楽部は平成13年以降キャディ制を廃止したために,6名から0名へ減少した。
アルバイトキャディの人数は,
G倶楽部は0名から3名へ,
F倶楽部は3名から4名へ増加した。
(ウ)

原告らへの賃金支払状況

キャディ原告らは,1か月当たり,基本給約9万円のほかに,調整手当として,
入社時期に応じて約4500円から2万3000円程度,
該当者について,
家族手当として,扶養家族である配偶者につき8000円,18歳未満の子1人につき4000円,住宅手当として,扶養家族がいる場合には1万3000円,
いない場合には1万円,
皆勤手当5000円のほか,
ラウンド手当として,
4バックについて8400円,3バックについて7600円,2バックについて6400円,荒天手当としてハーフラウンド当たり400円,アフレ手当5000円,売店勤務給として8400円あるいは6700円がそれぞれの回数等に応じて支払われていた。
また,
本件倶楽部以外の倶楽部で勤務する際には,
旅費規程により,日当として500円が支払われていた。
保育士原告らは,事務職と同様の賃金体系により,1か月当たり,約30万円の賃金を支払われていた。
また,原告らは,被告から,年に2回,7月5日及び12月5日に賞与を支給されていた。
(エ)

本件託児所の託児数の推移等

託児数は,平成6年の24名をピークとして減少を続けており,被告は,平成11年ころから,売店業務が忙しいときなどに,保育士従業員に手伝いをさせ始めた。また,平成13年4月以降は,一定の託児数がみられる,土日祝日や学校の長期休暇の期間のみ本件託児所を開設し,平日等は閉鎖して,閉鎖期間は,保育士従業員に,事務職従業員と同じ制服を支給した上,事務所において,フロント,プロショップ,売店の接客,パンフレット作り,電話応対等の事務職の業務を行わせることとした。
被告は,託児所の一部閉鎖に当たり,保育士従業員に対して,本件託児所を将来完全に閉鎖する可能性があることの説明は行わなかった。
平成13年4月以降の本件託児所開設日における託児数は,多い時で11名であった。
(オ)

被告の態勢等
I社長は,平成4年10月から被告の取締役副社長を務め,平成8年4月
に取締役社長に就任した。
J部長は,平成7年4月からB人事部研修所の課長を務め,同10年1月に被告の総務部長に,同11年5月に取締役総務部長に就任し,以後,総務及び人事関係の総括的な職務を行うようになった。
L支配人は,平成3年4月にB総務部課長に就任後,他部署を経て,同12年4月,被告において,取締役本件倶楽部支配人に就任し,同15年4月までの間,同支配人の職務を行っていた。
N副部長は,平成11年4月から本件倶楽部総務部副部長を務め,総務を担当していた。
M課長は,
平成8年4月から本件倶楽部課長を務め,
同11年4月からは,
キャディ職の教育指導と管理,客付業務等を扱う,キャディマスター室の業務を担当していた。
O(以下O副主任という。
)は,平成7年3月に本件倶楽部事務員と
して被告に採用され,同10年4月以降,キャディマスター室の副主任を務めていた。

I社長及びJ部長は,通常,東京都墨田区内の本社で勤務をしており,年に数回程度,本件倶楽部等の各事業所を訪れていた。
本件倶楽部には,コンペルーム,食堂,売店,浴室等のほか,支配人室,キャディマスター室,キャディ控室,事務所等が設けられたクラブハウスの建物のほかに,
本件託児所の建物が設けられており,
L支配人は支配人室で,
N副部長は事務所で,M課長及びO副主任はキャディマスター室で,保育士
職従業員は主に本件託児所や事務所で勤務をしており,
キャディ職従業員は,
出勤時,休憩時等に事務所,キャディマスター室,キャディ控室等に立ち寄るほかは,コース内,バッグ置き場や売店等,本件倶楽部内の様々な場所で勤務をしていた。
(3)

本件労働条件変更及び本件託児所閉鎖の決定の経緯(甲6,乙6,9,10
の1,15,46の1ないし46の3)

本件労働条件変更の内容及び変更の必要性,本件託児所閉鎖の必要性について(ア)

I社長は,Aグループにおけるグループ再編等の動きや,Dの施策を目
にする中,Bから,各ゴルフ倶楽部の建物等を被告が買い取って,被告がゴルフ倶楽部を経営するよう要望されたことなどを契機として,ゴルフ事業の人件費の削減について検討を進め,平成13年11月中旬から同14年1月中旬までの間に,ゴルフ事業の人件費削減のため,I社長,J部長,K副部長並びに本件倶楽部,F倶楽部及びG倶楽部の各支配人の6名を構成員として,雇用制度の変更を表題とした会議(以下本件会議という。を計5回開催し,)
本件労働条件変更及び本件託児所閉鎖について決定をした。
I社長は,本件会議の開催に先立ち,上記のDの状況や栃木県内のゴルフ場におけるキャディの労働条件について従業員に調査を行わせ,本件会議において,
これらの調査結果を参考としつつ,
4月以降,
キャディ職従業員について,
①雇用期間を1年間とする,②退職金制度を廃止し,自己都合退職の支給率により算定した退職金をいったん支払って清算する,③賃金制度を,基本給を中心としたものからラウンド給とアフレ手当を中心としたものとする,という労働条件の変更を行うこと,④ビジターの受け入れ,⑤乗用カートによるセルフプレーの積極的導入を進めること,⑥本件託児所を閉鎖し,保育士従業員について,事務職かキャディ職に配置替えをすることを決定した。
被告は,旧条件に比べて不利益な新条件を適用することとなる本件労働条件変更の実施に当たって,調整金や慰労金の支払,退職金の増額など,何らかの見返りないし代償措置をとることは予定しなかった。
(イ)

本件会議では,上記方針の決定過程において,以下のとおりの検討が行
われた。

上記(ア)①の雇用契約を1年間とする点については,被告の運営する各倶楽部において,キャディ付きプレーを完全に廃止するなど,抜本的な変更を行う事態にならない限りは,1年毎に労働条件を見直して適宜変更した上で,従業員が定年に達するまで更新を続けることを予定した。


上記(ア)②の退職金制度については,Bからの運営受託料から退職金給付引当金が削減されたこと等に伴い,その継続が困難であると判断した。また,退職金の支払時期については,従業員が被告における勤務を終了する時点とするかどうかについて検討した上で,ゴルフ場事業が衰退傾向にあり,被告において退職金原資を維持できる確実な見込みはないこと,同じ額であれば早期に支払ったほうが従業員にとっても利益となることを考慮して,3月末とした。
さらに,退職金の支給率は,在籍者全員を継続して雇用することを前提としていたこと,会社都合の支給率により支給すると負担が大きいことを考慮して,自己都合の支給率によることとした。


上記(ア)③の賃金制度の変更については,上記(2)アの近隣ゴルフ場のキャディの賃金状況に照らして,キャディ職の賃金を平均約24%削減する目標を設定した上で,具体的な減額方法について,キャディ職の業務内容が,客付きの有無や人数によって異なる性質を持つ点をとらえて,基本給の一部を減額する方法ではなく,全部を廃止し,ラウンド給及びアフレ手当を支給する方法によることとし,4バックのラウンド給を1万円,アフレ手当を7330円と決めた。
I社長らは,その際,賃金が平均24%減額されることで,キャディ職従業員らが具体的にどのような打撃を被るかにつき検討することはなかったものの,キャディ職従業員のうち10人未満程度は辞めるだろうと予測し,その場合の各ゴルフ倶楽部におけるキャディ業務の応援態勢についても検討し,キャディ職従業員の所属を,各ゴルフ倶楽部から被告所属へと変更すること,キャディ職従業員の新規採用は行わないがアルバイトまたはパートのキャディ職を適宜雇用することを決定した。

上記(ア)⑤の本件託児所の廃止については,上記(2)ウ(エ)記載のとおり,託児数が大きく減少し,収支状況も思わしくない中で,補助金の支給を考慮しても,
保育士職の人件費の負担が重いことを考慮して,
決定した。
保育士職従業員の異動先については,本件倶楽部の事務職に数名程度の人員受け入れの余裕があることを前提とし,
保育士従業員4名のうち何名かは,
本人の希望があれば事務職へ異動してもらうこととし,事務職あるいはキャディ職とした。


I社長らは,同時に,キャディ職以外の従業員の人件費の削減についても検討したが,
①事務職の人数削減により1人当たりの負担が増加している中,労働条件の大幅な引き下げ,退職金制度の廃止を実行した場合には退職者が出るおそれがあり,事務職が欠けるとゴルフ場の運営が成り立たなくなる,②事務職従業員の賃金は近隣ゴルフ場と比べて比較的低額である,との判断のもと,キャディ職と同様の労働条件の引き下げは行わないこととし,①事務職がキャディの業務を行った場合のラウンド給を従前の4200円から1000円に減額し,課長職以上への支給は廃止する,②事務職従業員についても食事補助等を廃止するなどという,若干の変更を行うことにとどめた。また,役員手当については,役員の多くがBからの出向者であり,そもそも出向前の賃金に比べて大幅に減額されていることを考慮して,I社長の賃金を6%程度減額し,他の役員の賞与を10%減額するのみとした。

人件費の削減額としては,上記aないしe記載の4月以降の各種労働条件の変更を総合して,3ゴルフ倶楽部で合計1億円削減されると試算した。併せて,今後の各ゴルフ倶楽部の特色づけについても検討し,基本方針として,F倶楽部とG倶楽部では上記(ア)⑤記載の施策のもとセルフを強化すること,本件倶楽部については,上記(ア)④記載のとおりビジターの受け入れを開始するものの,法人会員制は維持することを確認した。g
被告は,これらの検討の基礎として,上記(2)ウ(ア)の被告全体及び被告ゴルフ事業における各収支状況のほかに,Bにおける,ゴルフ事業に従事している従業員の人件費,本件倶楽部等のクラブハウス建物等についての減価償却費をも勘案した収支状況を考慮した。


本件労働条件変更及び本件託児所閉鎖実施の方法について
(ア)

被告は,旧条件に比べて不利益な新条件を適用することとなる本件労働
条件変更の実施に当たって,就業規則を一方的に変更する方法ではなく,従業員に説明の上,個別に同意を得る方法をとることとした。
被告は,本件労働条件変更に6割程度の従業員が反対した場合には,新条件の内容の見直しや,ゴルフ事業の継続の是非を検討することも考えていたが,他方,6割程度の従業員が同意し,少数の従業員が同意しない場合には,同意しない従業員について,旧条件を継続する意向はなかった。
(イ)

本件会議では,上記方針の詳細について,以下のとおり検討の上,決定
した。

キャディ職従業員に対する説明については,I社長が,各倶楽部毎に,直接キャディ職従業員に対して本件労働条件変更の概要と理由の要旨を説明し,その後,J部長,K副部長及び各倶楽部の支配人が従業員と個別に面談し,新条件の具体的内容等について話をすることとした。
他方,キャディ職従業員らの全員あるいは代表者数名との間で,本件労働条件変更の内容や実施の是非について協議を行うことは予定しなかった。

本件労働条件変更内容の説明の程度
全体説明における労働条件変更内容の説明としては,上記ア(ア)①ないし③記載の事項に加え,当時決定していた4バッグのラウンド給とアフレ手当の具体的金額,各ゴルフ倶楽部から被告所属へと変更することの説明にとどめることとした。
他方,3バックと2バックのラウンド給については,説明を行う1月末の時点では決定する見込みはなかったものの,ラウンドの大半は4バックであり,4バックとアフレの金額を説明するだけで,1か月間の稼働日数とアフレの日数の予測から,各従業員において,おおよその月額賃金の見込みをつけることはでき,本件労働条件変更に同意するか否かの判断に大きな影響を与えることはないだろうと判断した。
また,賃金が平均24%減額となる見込みであることについては,季節変動や来場者数の変動といった不確定要素を含む数値であり,また,これを説明しなくとも,上記のとおり,各従業員において,おおよその月額賃金を算定することができるとの判断のもと,説明しないこととした。

本件労働条件変更の必要性の説明
Aグループの取組状況と被告の収支状況に加え,上記ア(ア)記載の,被告がゴルフ倶楽部の資産等を買い取ることになったことを,全体説明において説明することとした。
他方,1年契約とすること,退職金をいったん支払って清算すること,基本給を廃止してラウンド給とアフレ手当の支給形態とすること,労働条件の大きな変更は,キャディ職従業員のみを対象とすることについては,いずれも,その必要性を説明しないこととした。


説明の方法
新規採用の従業員ではなく,既に相当期間被告において業務に従事している従業員に対して説明を行うものであることや,本件労働条件変更の内容等を考慮すると,口頭で説明を行っても従業員にとって十分理解できるものと判断して,従業員に対して,説明内容を記載した書面は配付しないこととした。


同意の確認方法
各キャディ職従業員に対して書面を配付して,署名捺印の上提出してもらうこととし,本社において,1月中旬にキャディ契約書の用紙を作成した。被告は,キャディ契約書の用紙作成時点では,3バック,2バックのラウンド給の金額が決まっていなかったこともあり,賃金の項目には,具体的なラウンド給やアフレ手当の金額を記載せず,

会社との契約金額とする。


のみ記載し,賞与の支給基準も決まっていなかったため,賞与の項目には,

会社の定めにより支給する。

とのみ記載した。また,雇用期間の項目に,
平成14年4月1日より1日まで平成15年3月3の1年間
と記載し,
それぞれの日付の記載に下線を付したほか,

1年間の記載を大きな文字で記載した上で,末尾に,

私は,株式会社Cの1年契約として上記事項を承諾し,誠実に業務を履行いたします。

と記載し,表題を,
キャディ契約書と記載した。
キャディ契約書の提出期限については,キャディ職従業員において,2週間程度あれば,疑問点について質問を寄せた上で同意するか否かを決断する期間として十分であろうと判断し,
2月15日を提出期限とすることとした。

保育士職従業員について
本件倶楽部でキャディ職従業員に対して全体説明及び個別面談を行う際に,併せて,保育士職従業員に対しても,本件託児所の廃止を説明し,本件倶楽部内の他職種であるキャディ職と事務職のいずれかへの配置転換を望むか等についての意向聴取を行うこととした。


L支配人は,1月中旬ころ,N副部長,M課長等に対して,上記ア(ア)の本件労働条件変更方針を口頭で説明した。その際,N副部長は,キャディ職の賃金が減額されるものと認識して,事務職も対象とするべきではないか,と意見を述べたが,L支配人は,事務職は人員を削減して仕事がきつくなっているためにキャディ職のみを対象としたことを説明した。


被告は,従前は社報をクラブハウス内等に掲示をするのみであったが,1月24日付けの当社受託事業所の運営形態の変更についてと題する社報については,全従業員に回覧させ,押印させた。
同社報には,①Bにおいて中期経営計画Aグループ再構築プランが決定,発表されたこと,②被告が受託運営しているゴルフ場,スポーツクラブの土地以外の建物等を全部当社(被告)が買い取り,今後は独立採算性をもって,当社(被告)が経営していく事になること,すなわち,被告が施設の運営だけでなく,経営も行うことになり,③したがって,損益が黒字になるも,赤字になるもすべて,当社(被告)の責任において処理をしなければならない重大な責任を持つ事になること,④Bは,過去の損失を整理すべく多額の犠牲を払い,同時に平成13年以降,株主配当の無配が決定しておりこの様な厳しい状況,の中で,今回の大きな計画を無にする事のない様,従業員各位におかれましては,これまで以上の増収,費用の削減に努力していただきたいと強く要望することが記載されていた。
(4)全体説明の状況(乙6,9,10の1,10の2,73の1ないし73の6,74の1ないし74の3,75の1ないし75の5)

I社長は,平成13年までは,各倶楽部で年頭の挨拶を行っていたが,平成14年については,キャディ職従業員及び保育士職従業員に対して労働条件変更等の説明を行うことを予定していたため,年頭の挨拶のために各倶楽部を訪れることはせず,1月28日にF倶楽部のキャディ職従業員に対して,同月30日に本件倶楽部のキャディ職及び保育士職従業員に対して,同月31日にG倶楽部のキャディ職従業員に対して,それぞれ,全体説明を行い,本件労働条件変更等について説明をした。
L支配人は,本件倶楽部のキャディ職従業員及び保育士職従業員に対して,事前に,1月30日はI社長から話があるためなるべく出社するよう要請をし,キャディ職従業員のP,Q,原告18,Rの4名(以下欠席者4名という。)
を除いて,全員から出社する旨の回答を得た。被告は,当時育児休業中であった原告20に対しても出社を要請し,原告20から出勤の了承を得た。被告は,全体説明を,同日午前のラウンド開始前に,本件倶楽部クラブハウス2階のコンペルームの1室で行うこととし,部屋の前方中央へI社長の席として机と椅子を設置し,前方片隅へJ部長,L支配人,K副部長が座る椅子を,中央から後方へ,キャディ職,保育士職従業員らが座る椅子を並べ,座席図を作成して,そのとおり従業員を座らせた。
一方,キャディ職従業員らは,I社長からどのような話がされるのか事前に説明を受けていなかったため,例年の年頭挨拶を予想するなどしてコンペルームへ向かい,部屋に入り事務職従業員らが呼ばれていないことに疑問を持ちながら全体説明の開始を待つなどしていた。


I社長は,
全体説明において,
数分間にわたり,
Iメモの記載内容に従いつつ,
本件労働条件変更の理由として,上記(3)イ(イ)b記載の事項を説明した上で,①3月末で今までの分の退職金を清算し,4月1日以降は1年毎の契約として,現在の在籍者は継続して雇用する予定でいること,②基本給,諸手当を廃止してラウンド給を増額し,アフレ手当を変更した形で継続すること,③キャディ職の所属を各倶楽部ではなく被告の所属とし,便宜上,現在の倶楽部を勤務地とすること,④休暇や賞与ほか詳細については個別面談の際に説明すること,⑤従業員各自の考え方については2月15日までに決めてほしいことを説明した。I社長は,上記(3)イ(イ)b記載の方針に沿って,賃金が相当程度減額となる見込みであることは説明せず,かえって,
固定給はなくすためラウンド給は現行よりも増額する今後は,従来よりもアフレる事は少なくなると想定さ,れるなどと,賃金が減額するとは限らないことを示唆する説明をした。また,1年契約とすることの理由,退職金を清算することの理由,賃金形態を変更することの具体的理由は,いずれも説明せず,有期契約化,基本給廃止といった労働条件の変更はキャディ職だけを対象とするものであり,事務職は対象としていないことについても,説明しなかった。

キャディ職従業員らは,上記説明内容を予想していなかったため,突然上記イの説明事項を口頭で立て続けに説明されて驚き,その内容の詳細を理解する余裕はないまま,それぞれ,何らかの不安や疑問を抱き,上記イ①の点については,解雇されるかどうかについて不安をもつ者,社会保険や厚生年金の点について不安をもつ者,いつまで雇用してもらえるかについて不安をもつ者などがおり,上記イ②の点については,賃金が減額すると理解して他でのアルバイトを行いたいと思う者がいる一方で,賃金が減額するとは限らないことを示唆するIの説明とあいまって,大きな減額はないと理解した者もいた。

(5)

個別面談の状況(乙10の1及び2)
個別面談は,J部長,K副部長及びL支配人によって,キャディ職及び保育士
職従業員1人ずつに対して行われ,最初にJ部長が口頭で賃金や休暇の点について説明をした上て,従業員から寄せられた質問に回答した。K副部長は,個別面談中,各従業員の発言や質問内容についてメモをとり,2月1日以降,メモを清書して,報告書(乙10の2)を作成した。

キャディ職従業員について
(ア)

個別面談では,キャディ職従業員から,①3バック,2バックのラウン
ド給はいくらになるのか,②月々の給与がいくらになるかわからず不安であること,③給料が減った場合に他でアルバイトをすることはできないか,④アフレの日に半日で帰らされて手当も半額になることがあるのか,⑤賞与はどうなるのか,⑥1年契約になると1年後はどうなるのか,⑦キャディ契約書を出さないで辞める場合は解雇となるのか自己都合退職になるのか等の質問が寄せられた。
(イ)

J部長は,それぞれについて,①まだ決まっていないこと,②アフレの
日数等は予測がつくと思うので各自計算してみてほしいこと,③アルバイトは禁止すること,④原則として半日で帰すことはないこと,⑤業績に応じて支給すること,⑥就業規則上問題がなければ毎年契約を更新して61歳の定年まで働けること,⑦自己都合退職となること等を説明し,後日でも疑問点があればN副部長等に質問をした上で,2月15日までにキャディ契約書を提出するよう指示をした。
J部長は,I社長と同様に,賃金が減額となること,1年契約とすることの理由,退職金制度を廃止することの理由,賃金形態を変更することの具体的理由や,有期契約化,基本給廃止といった労働条件の変更はキャディ職だけを対象とするものであることについては,説明しなかった。
(ウ)

また,J部長は上記説明に付随する形で,
定年退職まで安心して働けます給料も契約状態もさほど変わらないから安心して下さいあなたに,,は是非残ってほしいなどの話をした上で,

ですから,安心して,2月15日までに是非契約書を提出して下さい。

などと述べて,契約書を提出するよう説明することもあった。
(この点,被告は,J部長が,給料はさほど変わらないと説明した事実はないと主張し,証人J及び同Lも,人件費の削減を主眼として本件労働条件変更を計画し,賃金が減額することをわかっていたのであるから,これに反する趣旨の説明をするはずがないなどとして,これに沿う証言をする(証人J〔第13回,20以下〕
,証人L〔72以下〕。

しかし,被告は,賃金が平均24%と大幅に減額となる見込みであることを説明しない方針とし,全体説明でも,賃金が減額するとは限らないことを示唆する説明をしているのであって,
個別面談において給料はさほど変わらない」
と説明することは,上記方針及び全体説明の流れに合致するものであるし,J部長において,キャディ契約書の滞りない提出を望む中で,提出に当たり従業員らが不安に感じる事項を取り除く趣旨の説明をして,「安心して契約書を提出するように促すことは,自然な言動というべきである。
また,
J部長から,
上記説明を受けたことについては,多くの原告が供述するところであって(原告4〔228以下,454〕原告16〔43,325〕原告22〔10以下〕,


原告6〔26〕,その内容に不自然,不合理な点も見当たらない。)
証人L及び証人Jが,説明を否定する根拠として述べるところについても,後に詳述するとおり,①賃金の支給基準が完全に決まらないまま賃金形態の変更を従業員に提案してその同意を求め,賃金の減額程度という労働者にとって重要な関心事についての説明を意図的に避けるとともに,②各変更についての具体的理由も説明せず,③説明方法としても,簡素な契約書を交付する以外は口頭の説明にとどめるという,変更内容及び変更理由について正確な理解及び記憶が困難となる方法を選択するという被告の対応をみると,本件会議を構成した被告役員においても,全体として,本件労働条件変更の実施に当たって障害となり得る事項はできるだけ回避ないし排除する方向で行動していることが窺われるから,J部長においても,その認識と異なる説明をあえて行う可能性もあるといえ,上記認定を覆すものではない。


保育士職従業員について
J部長は,上記(3)ア(イ)d記載の方針どおり,保育士職従業員が事務職への異動を希望するかどうかを確認することとし,個別面談において,保育士職従業員に対して,本件託児所が廃止されることをあらためて説明した上で,4月以降は事務職への異動の可能性があることを示唆しつつ,職種について話し合いをしていくことを提案し,
保母さん達の意向は尊重しますなどと説明した。
その際,J部長は,平成13年4月以降の平日等に行ってきた事務職の業務の感想を尋ねたところ,保育士職従業員らは,保育士職の業務に比べて事務職の業務は大変である,保育士以外の仕事は難しいといった感想を述べた。これに対して,J部長らは,事務職の人が減ってくるので,事務の仕事も自立して1人でできるようにならなくては困るなどと話した。
また,原告25は,事務職として働きたいと希望を伝えたが,原告24及び原告23は,なお考えてみる旨を伝えた。
その際,J部長らが,保育士職従業員らに対して,キャディ職への異動を提案することはなかった。
(6)

欠席者に対する説明(乙10の2)

L支配人は,1月30日に出勤しなかった欠席者4名について,2月1日,全員に対してI社長が行った全体説明と同内容を説明した上で,個別に,個別面談と同様の説明をした。
欠席者4名からは,①給料が減った場合に,他でアルバイトをすることはできないか,②プレー料金を変更しないのか,③アフレの日は半日で帰らされて手当も半額になることがあるのか,④退職金はいくらもらえるのか,⑤3月末で解雇になるのか,⑥契約書を提出せずに3月末日で退職する場合,解雇と自己都合退職のどちらになるのか等の質問があり,これに対して,L支配人は,①アルバイトは禁止すること,②変更する予定であること,③原則として半日で帰すことはないこと,④自己都合退職の支給率によること,⑤解雇ではないこと,⑥退職する場合には自己都合退職となること等を説明した。
(7)

3月末までのキャディ職従業員の状況(甲7,乙6,81の1,81の3な
いし81の5,82の1ないし82の4)

被告は,2月3日までの間に,本件倶楽部のキャディ職従業員に対してキャディ契約書用紙を配付し,同月15日までにN副部長かM課長へ提出するように指示した。また,同月1日に,本社において,2バック,3バックのラウンド給の金額をそれぞれ7500円,9000円と決定し,同日夕方にL支配人に対して連絡したが,L支配人は,これを,N副部長やM課長に対して伝えないままでいた。


N副部長,M課長は,キャディ契約書用紙配付後,キャディ職従業員から,2バック,3バックの金額について質問を受けたが,3月5日になってL支配人から新就業規則等を渡されるまでは金額がわからなかったため,現時点ではわからないなどと説明して,具体的金額は説明しなかった。
また,N副部長は,何人かのキャディ職従業員から,全体説明でI社長が解雇すると述べたという話を聞いていたため,I社長の解雇発言の有無をL支配人に確認したところ,L支配人はこれを否定した。


N副部長は,L支配人から,各従業員のキャディ契約書提出状況を確認の上,未提出者に対しては提出意思を確認するように指示を受け,随時,提出者と未提出者を確認し,原告16のほか,すぐに契約書を提出しない従業員に対して提出を催促したほか,M課長に対しても,未提出者について提出意思があるのか確認するように指示をし,状況をL支配人に報告していた。
M課長は,L支配人からも,N副部長と同様の指示を受け,Wなど,未提出者に対して,契約書を出すように促すなどした。
N副部長とM課長は,L支配人らから,キャディ契約書を提出しないキャディ職従業員の4月以降の雇用や労働条件がどうなるかについて明確な説明はされていなかったものの,各々の理解のもと,キャディ契約書の提出を催促する際などに,N副部長は,
提出しないと働けなくなるなどと言ったり,M課長は,
何人辞めるかだろうなどと言うことがあった。

本件倶楽部のキャディ職従業員のうち,S(以下Sという。
)及び原告2
0以外の36名は,それぞれ,2月5日から15日までの間に,キャディ契約書を提出した。
被告は,
大多数のキャディ職従業員からキャディ契約書の提出を受けたことで,本件労働条件変更について同意が得られたものと判断して,本社において新就業規則及び新給与規定の作成作業に入り,2月下旬に完成の上,3月5日に,本件倶楽部へ送付した。L支配人は,送付を受けた新就業規則等を,N副部長に渡して,キャディ職従業員から見えるように,事務所内の机の上に置いておくことを指示した。
また,M課長は,キャディ職従業員の多くから,2バック,3バックのラウンド給がいくらになるかについて質問が寄せられていたため,キャディ控室のホワイトボードに,各ラウンド給とアフレ手当の金額を記載したほか,3月20日ころには,O副主任が,キャディ職従業員に賃金を確認してもらうために,キャディラウンド給・手当についてと題する書面(甲7)を掲示した。上記書面には,
1キャディラウンド給の項目として,4バック,3バッ

ク,2バックそれぞれの金額が記載されていたほか,2
年休保障手当4,正月手当5,アフレ保障手当3,通勤手当の項目のもと,具体的金額
が記載されていたが,キャディ職従業員から管理職等に対して,記載内容に関して質問が寄せられることはなかった。

F倶楽部,G倶楽部からは,被告本社に対して,キャディ職従業員から,なぜ解雇されるのか,賃金はどうなるのか等の質問があった旨の報告は行われなかった。

本件倶楽部勤務のキャディ職従業員のうち,Sからは2月10日付けで,3月10日で退職する旨の退職届が,Tからは3月10日付けで,4月10日で退職する旨の退職届が,Uからは3月30日付けで,4月30日で退職する旨の退職届が,Qからは3月31日付けで,4月30日で退職する旨の退職届が,それぞれ提出された。
また,G倶楽部のキャディ職従業員からは,3月8日及び13日付けで各1名から,同月28日付けで2名から,いずれも同月31日で退職する旨の退職届が提出された。

(8)

原告20の状況(甲19,乙2ないし4)
原告20は,平成13年8月9日に出産し,産後休暇を経て8月8日までの予
定で育児休暇を取得していたが,全体説明を受けるまでは,4月以降,平日は保育園へ,保育園が休園の土日祝日には本件託児所へ子供を預けて,キャディ職として勤務を再開することを考えていた。
そのため,原告20は,全体説明で本件託児所が廃止されると聞いて落胆し,勤務の再開が難しいかもしれないと考えるとともに,全体説明における雇用期間の変更に関する説明を,解雇して契約社員として再雇用するという内容と理解して,被告の対応を不満に思ったことなどから,2月9日までの間,キャディ契約書を提出しないでいた。
イ(ア)

N副部長は,2月9日の時点で,原告20からキャディ契約書が提出さ
れていなかったため,L支配人の指示を受けて,M課長に対し,原告20に契約書を提出する意思があるか確認するよう指示し,M課長は,これを受け,原告20に電話をかけて,キャディ契約書を提出しないのか尋ねた。原告20は,これに対して,4月以降本件託児所に子供を預けることができなくなるので勤務を続けることは難しいことなどを述べたところ,M課長は,原告20の話を,子供を預けることができなくなるので辞めるという趣旨と理解して,これを口頭でN副部長に報告し,N副部長はさらに,L支配人へ報告した。
L支配人は,N副部長の報告を受けて,原告20が自己都合による退職の意思表示をした旨を本社に連絡するとともに,N副部長に対して,時期を見計らって,原告20から退職願を提出してもらうように指示をした。
(イ)

一方,原告20は,2月10日に栃木労働基準監督署に電話をかけ,被
告から解雇して契約社員にすると言われたこと等を告げ,被告に対する対処の仕方を相談したところ,同署職員からは,被告と話し合いの場をもつこと,勤務を続けられないと思っても退職願は提出しないこと等を助言された。ウ(ア)

N副部長は,同月13日に,原告20に対して自己都合による退職願の
提出等を電話で要請したが,原告20は,キャディ契約書の提出を拒み,契約書を提出しない場合には解雇されるはずであるなどとして退職届の提出についても拒んだ。N副部長は,直接話をするため原告20に出社を要請し,同日中に,L支配人を交えて,本件倶楽部のクラブハウス内で面談した。原告20は,解雇なのに退職願を出さなければならないのはおかしい」退,「職願を出すと自己都合退職になってしまうが,解雇と自己都合退職では雇用保険の取扱いも違うという趣旨の話をしたため,L支配人とN副部長は,年休や社会保険も継続するのであって解雇するのではないと説明をしたが,原告20は納得せず,
解雇されないのであれば働きたいという話もしなかった。
L支配人は,原告20が,解雇ではないと説明を受けても,なお,勤務の継続を希望する話をしなかったことなどから,
原告20に対して,
2月9日に辞
めると発言したかどうかの確認はしなかった。
(イ)

L支配人は,原告20は退職届の提出を拒んでいるものの,2月15日
までの間にキャディ契約書も提出されなかったことから,3月末で原告20の職を解く旨の辞令を作成するように,本社へ要請した。
被告は,
従業員から退職願が出され,
被告において退職を承認する場合には,
願いにより職を解くと記載した辞令を作成していたが,退職願を提出しない原告20については,
職を解くとのみ記載した辞令を作成した。

原告20は,2月13日以降も労働基準監督署に相談をするなどしていたが,被告から連絡がなかったため,3月30日ころ,4月以降の自身の進退について確認するべく本件倶楽部へ電話をかけた。
被告は,これに対して,辞令を交付するので,同月31日に出社し,キャディ職の制服の返却,個人ロッカーの整理等を行うよう要請し,原告20は出社を了承した。
L支配人は,同日,原告20に対して職を解くと記載した辞令(甲19)を交付した。

本件倶楽部の事務職従業員は,原告20の離職票について,離職理由欄を,労働者の判断によるもの-労働者の個人的な事情による離職と記載し,具体的事情として,
4月1日より,1年間の契約社員とし,賃金形態の変更となることを提示したが,契約せず離職と記載して,原告20に交付したところ,原告20は,被告が記載した離職理由に異議があることを記載するとともに,離職理由欄を,
労働者の判断によるもの-職場における事情による離職-労働条件に係る重大な問題があったと労働者が判断したためと訂正した。離職票の離職理由欄には,
事業主からの働きかけによるもの-解雇という欄も設けられていたが,原告20は,これを選択しなかった。
原告20は,
3月29日に被告から退職金の支給を受けたところ,
その金額が,
自己都合退職の支給率によって算定された金額と思われたため,支給率について被告に問い合わせたが,その際,退職金の支給を受けたこと自体については不満を述べず,本件組合と被告との団体交渉において初めて,被告に対し,退職金を返還することを申し入れた。
原告20は,本件組合から,被告と団体交渉をするので,雇用保険の申請を待ってほしいと依頼されたが,経済的に困っていたこともあり,被告に対して,退職証明書(乙4)の発行を要請してその交付を受け,雇用保険を申請した。同証明書には,退職の事由について,自己都合と記載されていた。


M課長は,4月10日の本件組合の結成通知を受けて,同月12日,L支配人から,
2月9日の原告20とのやり取りを文書にするよう指示され,
4月13日,
原告20が2月9日に電話で4月以降は託児所に子供を預けることができなくなるのでは,勤務することは無理なので退職するとの意思表示をした旨の報告書(乙2)を作成した。

(9)

保育士原告らの状況(乙18の3ないし18の5,68の1,69の1,7
0の1)

保育士職従業員らは,個別面談の2日後の2月1日に,L支配人から個別に支配人室に呼ばれ,4月以降についての意向を問われた。その際,原告25と原告24は,できれば事務職として働きたいと答えたが,原告23は,考慮中であると伝えた。

その後,L支配人は,保育士職従業員らが個別面談で事務職の業務について難しいという感想を述べていたことや,F倶楽部やG倶楽部の事務職の人数と本件倶楽部の事務職の人数とのバランスを考慮すると,保育士職従業員らを本件倶楽部の事務職に異動させることは適当ではないと考えるに至り,J部長に対して,保育士職従業員らは事務職の業務を行うのに適していない,本件倶楽部の事務職には人員受け入れの余裕はないなどと説明した。L支配人は,保育士職従業員にキャディ職が務まるかどうかについて,疑問に思うことはなかった。

被告は,2月9日に,保育士職全員につき,事務職への異動は認めず,キャディ職への異動を提案することを決め,L支配人は,同日,支配人室で保育士職従業員らに対して個別に話をし,事務職への人員受け入れの余裕はないのに対し,キャディ職では人数が不足気味であることを伝え,キャディ職への異動を要請した。
保育士原告らは,同日までの間,事務職に残れるかもしれないから頑張ろう」などと互いに話をしていたところに,突然キャディ職への異動を要請され,被告に対して不信感を覚えつつ,原告23及び原告24は,キャディ職を務めるのは無理なので会社を辞めるしかない旨を伝え,原告25は,特に意見を述べることなく支配人室を後にした。保育士原告らは,その後,被告の突然の方針転換は不満であること,キャディ職の仕事をするのは無理と思われること,平日事務職を手伝ってきた印象では,仕事は忙しく,人員受け入れの余裕がないというL支配人の説明には納得できないこと等をそれぞれ口にする中で,このまま辞めてしまうのは悔しいとして,全員でL支配人に話をすることを決めた。エ保育士原告らは,2月25日に,L支配人に対して,事務職への異動を再度検討してほしいと要望するとともに,原告23及び原告24は,事務職として残れないのであれば解雇扱いとするように要望した。また,原告25は,事務職として残れず,キャディ職に異動する場合には,研修等を行ってもらえるのか尋ねた。これに対して,L支配人は,本社にもう一度聞いてみると答えたが,数日後には,本社の考えは変わらないとして,保育士原告らに対して,キャディ職へ異動するかどうか考えること,退職の場合には自己都合退職となることを伝えた。(証人Lは,2月25日の保育士原告らからの要望は,雇用保険の支給上,会社都合解雇としてほしいというものにすぎず,事務職への異動の要望はなかったと証言する(証人L〔171以下〕。しかし,同証人は,原告25が個人面談で)事務職を希望する旨述べたことについて,積極的な意思表示の話ではないなどとしてこれを否定する趣旨の証言をするほか(証人L〔111〕,保育士原告らか)ら事務職への異動の具体的あるいは強い要望はなかったなどとして,事務職への異動の要望があったことを一律に否定する証言をしており(証人L〔155,167,441〕,保育士原告らからどのような要望があったかについて正確な証)言をする姿勢が窺われず,原告23及び原告25が明確に反対趣旨の供述をしていること(原告23〔97以下〕,原告25〔90以下〕)に照らしても,上記証言を採用することはできない。)オその後,N副部長は,保育士原告らに対して,「本件託児所閉鎖まで1か月をきっている託児所はなくなるんだからしょうがないななどとして,何度か
退職届の提出を催促した。
N副部長は,さらに,
一身上の都合によりとの記載のある退職願の雛形を
示して,退職願を提出するよう指示したが,保育士従業員らは,自分達から辞めるわけではないと考えたため,退職理由について,
今般託児所の閉鎖にともないキャディ職への異動提示を受けましたが,と各々書き直し,3月3日付けで,同月31日をもって退職する旨の退職届乙18の3ないし18の5,(
81の2)
を提出した。


L支配人は,3月31日,保育士従業員らに対して,
願いにより職を解く

と記載した辞令を交付した。
本件倶楽部の事務職従業員は,保育士従業員らの離職票について,離職理由欄を,
労働者の判断によるもの-労働者の個人的な事情による離職と記載し,具体的事情として,
4月1日より,1年間の契約社員とし,業務及び賃金形態の変更となることを提示したが,本人申し出により離職と記載して,保育士従業員らに交付したが,公共職業安定所において,
労働者の判断によるもの-職場における事情による離職-労働条件に係る重大な問題があったと労働者が判断したためと訂正された。(乙68の1,69の1,70の1)
被告は,3月末ころ,保育士原告らに対して退職金を支払った。
(10)

本件労働条件変更の実施及び本件組合の結成(甲8,9,32)

被告は,4月1日から本件労働条件変更を実施し,同月3日ころに,新就業規則及び新給与規定を,本件倶楽部のクラブハウス内キャディ控室に掲示した。本件労働条件変更実施により,賃金のうち,基本給,役職手当,家族手当,皆勤手当,荒天手当,住宅手当,調整手当,研修手当は廃止され,ラウンド給として,4バックについて1万円,3バックについて9000円,2バックについて7500円,アフレ手当として7330円,正月手当,年休保障手当,通勤手当が支払われるのみとされた。また,キャディ職従業員の所属が被告とされ,他の倶楽部において勤務する際に日当は支払われないこととなった。
キャディ職従業員らは,新就業規則及び新給与規定を見て,賃金が大幅に減額されることとなり,全体説明及び個別面談の説明と異なるのではないかなどと疑問に思い,栃木県労働組合総連合へ相談をした上,4月8日,原告4を支部長,V,P及び原告8を副支部長,
原告16を書記長,
原告22及び原告2を書記次長として,
原告らを含め,37名の本件倶楽部従業員が集まり,本件組合を結成した。(11)

退職キャディ原告らの状況(乙18の1及び2,44,45,87)
原告22は,4月22日,同月24日の4月分の賃金支払日を前にして,同月
10日までの稼働状況をもとに,
新条件における賃金の見込額を計算したところ,
想像以上の減額であったことに落胆し,同日夜には,整体治療院を営んでいた夫が高速道路で交通事故を起こして病院に運ばれた旨の連絡を受けた。原告22は,翌23日は,F倶楽部で勤務を行う予定であったが,当日朝に,O副主任に対して電話をかけ,前日の夜に夫が交通事故を起こして病院に入院したため休暇をとりたいと話し,O副主任はこれを了承した。
原告22は,夫の病状について,現時点では頭部の傷だけで内部に異常はないものの,今後介護を要する事態になる可能性もあり,整体治療院の継続も難しくなるのではないかと動揺する中で,原告22自身,本件組合の発起人としての責務を全うしていくことができるかどうかについても不安を感じ,考慮の末,従前から取得していた整体師の資格を生かした職に就くべく,約15年間勤務してきた本件倶楽部でのキャディ職を辞めることを決めた。原告22は,被告を退職することについて,本件組合には相談をしなかった。
原告22は,翌24日に,本件倶楽部を訪れ,O副主任に対して,事故の詳細と怪我の状態について話をし,事故を起こした車は原告22が通勤に使用していた車であり通勤の手段がなくなったこと,夫が今後働けない状態になった場合に原告22のキャディ職としての収入では生活できない可能性が高いこと等を話した上で,キャディ職は嫌いではないが,退職して,整体治療関係の仕事に就きたいと述べた。
O副主任は,
これに対して,
個人の判断として,
事故を起こして間もないため,
今後のことを検討してから答えを出したほうがよいのではないか等と述べ,当面の間休暇をとるように伝え,原告22を慰留した。
また,O副主任は,車の破損によって通勤に支障があるのであれば便宜を図るようにL支配人から話があったことを,原告22に伝えたが,原告22は,考えを変えることはなかった。
そこで,O副主任が退職届の例文を交付したところ,原告22は,同月30日付けで,5月31日をもって退職する旨の退職届を提出し,退職の意思を表明した。
原告22に支払われた4月分及び5月分の賃金は,平成13年度の同期間の賃金に比べて,24.98%減少した。

原告21は,9月21日,O副主任に対して,4月以降収入が下がって生活が苦しいこと,キャディ職は引き続きやりたいが将来を考えると不安があること,病院の託児施設の正社員募集に応募したところ内定通知をもらい,いろいろ検討したが退職する決心をしたことを話して,10月10日で退職するとの退職届を提出しようとした。
O副主任は,これに対して,同月19日までキャディが不足する日が生じる可能性があったため,退職日を先に延ばしてもらうように頼んだところ,原告21は,同月15日までの勤務継続を了承し,10月15日をもって退職する旨の退職届を提出し,退職の意思を表明した。
原告21に支払われた4月分から10月分についての賃金は,平成13年度の同期間の賃金に比べて,20.14%減少した。

(12)4月以降の状況(甲13,16,17,20ないし22,36ないし38,42,65,乙28の2,29の1ないし29の3,51の1ないし51の7,51の9ないし51の15,51の17ないし51の21,56の1及び2,83の1,84の1ないし84の3,85の1)

本件組合は,5月10日に,被告との間で第1回団体交渉を行い,被告に対して,解雇の撤回,退職届の撤回を認めること,本件労働条件変更に至る経緯とその必要性,会社組織の変更など今後の会社の経営方針等について説明すること,双方が合意に至るまでの間,本件労働条件変更については実施せず,留保すること等を要求した。
J部長は,本件組合に対する回答の中で,被告において,①キャディ契約書が提出された場合には,自発的な退職の意思表示と新契約締結の意思表示があったものとみて,従来の雇用関係を終了させて自己都合の支給率により退職金を支払うと同時に,新条件のもとでの雇用関係を開始する,②キャディ契約書が提出されなかった場合には,自発的な退職の意思表示があったものとみて,従来の雇用関係を終了させて自己都合の支給率により退職金を支払う,という扱いをした旨を説明した。


被告と本件組合とは,5月10日の第1回団体交渉以来,団体交渉を重ね,9月2日の第4回団体交渉において,それまでの合意事項を確認するために,本件労働協約を締結した。
しかし,被告が10月29日に本件労働条件変更が有効である旨の覚書の締結を提案したのに対し(乙56の1及び2)11月1日に本件組合が疑義を唱え,,
同月18日の第6回団体交渉において,本件労働条件変更が有効であることは認めていないから覚書は締結できない旨述べたところ,被告は本件労働協約を解約した。
原告らは,11月26日,本件訴訟を提起した。

ウ(ア)

被告は,平成15年1月22日から同月26日までの間に,キャディ職
従業員全員に対し,個別に,同年3月31日をもって現行契約期間が満了になるため,現行契約内容を検討の上,2月7日までに,
平成14年4月1日締結の労働契約の内容を認め,平成15年3月1日から1年間の契約の更新を,1希望する,2希望しないとの様式の契約更新願書を提出すること,締切日までに提出されない場合は契約更新の意思表示がなかったものとみなすことを記載した契約期間の満了についてと題する書面(甲65)を配付し,在職キャディ原告らに対しては,併せて面談をする旨を伝えた。
(イ)

これに対して,本件組合は,同年1月31日付け申入書をもって,平成14年4月1日締結の労働契約の内容を認めなければ契約の更新を希望することができないとなれば,裁判権の侵害であり,司法の冒涜になりかねないとして,会社の考えを示すこと等について団体交渉を開催することを申し入れ,同年2月5日に第8回団体交渉が開催されることとなった。(ウ)

被告は,上記団体交渉において,契約更新願書の提出を求める趣旨につ
いて,

現在裁判になっているが,今回の契約更新に際して,働く意思があるかどうか,契約更新を希望するかどうかを確認したものであり,裁判とは別のものである。

と説明したほか,働く意思があるかどうかを確認するために契約更新願書の提出を求めること,提出しない場合には働く意思がないと判断することを説明した。
(乙28の2〔3頁,6頁,7頁〕
,甲20〔12頁,13
頁,81頁,83頁〕

また,本件組合が,本件労働条件変更の有効性を争っていることを終始一貫して伝えたのに対して,被告は,団体交渉の終盤において,契約更新願書の記載のうち,
労働契約の内容を認めという点について疑義があれば意見を記
載して提出することを要望したが(乙28の2〔7頁,8頁〕
,甲20〔80
頁〕,これに対して,本件組合は,

書いたり,書かなかったりすると,そのことで問題が発生すると思われるので,希望する人は希望するに○をするということで,事務的に進めて下さいと述べて(乙28の2〔8頁〕甲20〔8,
1頁〕,被告の要望に対し,明確に異を唱えた。

(エ)

在職キャディ原告らは,同月7日までの間に,被告に対して,意見や疑
義等を記載することなく,
1希望する欄に○を付して,契約更新願書(乙
51の1ないし51の7,51の9ないし51の15,51の17ないし51の21)を提出した。
(オ)

被告は,その後,同月18日及び19日に,キャディ職従業員全員と個
別に面談を行い,新キャディ契約書用紙を配付し,同月28日までの間に提出するよう指示したところ,在職キャディ原告らは,意見,疑義等を記載することなく,新キャディ契約書を提出した。
(カ)

本件組合は,同月20日付けの申入書をもって,被告に対し,上記団体
交渉における説明内容についての文書を交付すること等を申し入れたが,被告は,これに対して,同月26日付けの回答書をもって,上記(エ)の事実を挙げて,
平成14年4月1日締結の労働契約の内容を認めて更新を希望するとの回答があったものと考えていること等を回答した(乙29の1及び2)。
本件組合は,3月12日付けの申入書をもって,これに抗議した(乙29の3)


被告は,本件組合との団体交渉において,当初は,1年契約に変更した理由について,従業員に継続して働く意思があるかどうかの意思確認のためと説明していたが,平成16年2月から,1年毎に労働条件を見直すためという理由を付加して説明するようになった。


4月以降12月までの間に,
退職キャディ原告らを除き,
本件倶楽部では1名,
F倶楽部では1名,G倶楽部では3名,キャディ職従業員が,退職届を提出して退職した。

2
争点(1)
(在職キャディ原告らと被告は本件労働条件変更について合意したか)について
(1)

上記1(4)ないし(7)に認定した事実に基づいて検討すると,被告は,
在職キャディ原告らに対して,全体説明において,本件労働条件変更の概要について説明した上で,雇用期間,賃金,賞与等に項目分けされ,各項目について,被告による一応の提案内容を記載したキャディ契約書用紙を配付し,在職キャディ原告らは,全体説明の内容を正確に理解しない者もいたものの,キャディ契約書用紙の記載を見て,その記載内容を認識した上,各自署名押印し,被告の提示した期間内にキャディ契約書を提出したのであるから,
在職キャディ原告らと被告との間には,
キャディ契約書記載の事項についての申込み及び承諾があったといえ,本件労働条件変更について合意したものというべきである。
(2)

在職キャディ原告らは,本件労働条件変更内容の不利益性を十分に認識せず
にキャディ契約書を提出したため有効な同意はしていないなどと主張するが,キャディ契約書の文面の,職務,賃金,賞与,休暇,服務遵守事項及びその他就労条件の項目の記載自体からその具体的内容は不明ながらも,被告が後に新就業規則及び新給与規定において定める新条件に従うことが記載されていると読み取れること,全体説明では,被告の収支状況が厳しいことに触れながら,新条件の概要の説明がされていたことからすると,不利益な方向へ変更されること自体については,在職キャディ原告らも認識していたというべきである。そして,他に上記認定を覆すに足りる証拠はなく,上記在職キャディ原告らの主張は採用できない。3
争点(2)在職キャディ原告らの本件労働条件変更同意における意思表示の瑕疵)(
について
(1)

在職キャディ原告らは,キャディ契約書を提出しない限り労働契約が終了す
ると誤信して契約書を提出したものであり,本件労働条件変更の同意には錯誤があり,無効であると主張する。
そこで,
以下,
在職キャディ原告らに上記誤信があったか,
誤信があったとして,
これが要素の錯誤に当たるかについて検討する。
(2)ア

上記1(1)ないし(7)で認定した事実に基づいて検討すると,在職キ
ャディ原告らのキャディ契約書提出に至る事実経過は以下のとおりであったことが認められる。
(ア)

キャディ職従業員らは,従来より,本件倶楽部における収支状況が良い
とはいえないことは一応認識しており,1月24日付けの社報の回覧を受けたものの,同社報は,具体的数値などの記載もないうえ,本件倶楽部等の運営形態の変更等に伴いこれまで以上の増収及び費用の削減に努力していただきたい旨の抽象的かつ簡潔な内容に過ぎなかったため,キャディ職従業員らが,特段その内容を記憶にとどめたり,近い将来人件費の削減に協力を求められることになるとの予測を抱くことはなかった。
(イ)

キャディ職従業員らは,全体説明において,I社長から,本件倶楽部の
収支状況が厳しいことに加え,
Aグループのグループ会社である被告において,
Bが策定した計画のもとさらなる収支改善に努める必要があるとの抽象的な説明を受けても,上記社報の記載内容を思い出すこともなく,人件費を大幅に削減しなければならないほどの状況にあると理解するまでには至らなかった。ただし,一方では,キャディ職従業員らは,本件労働条件変更の概要について,3月末で退職金が支払われていったん雇用契約が終了し,いわゆる期間契約の契約社員として再雇用され,結局賃金及び雇用期間が現時点に比べて不利益なものとなるにもかかわらず,キャディ職従業員らにとって利益となる点はおよそ含まれていないことは理解した。
I社長においても,

現在の在籍者は継続して雇用する予定でいる。「従業

員各自の考え方については2月15日までに決めてほしい。
」と述べて,2月
15日までに新条件のもとで働く意思を表明しない場合には,4月以降継続して勤務できない旨を示唆しつつ,上記表明をした場合には4月以降も勤務できることを説明した。
(ウ)

個別面談においては,キャディ職従業員の中から,
キャディ契約書を出さないで辞める場合は解雇となるのか自己都合退職になるのかといった,契約書を提出しない場合には勤務ができなくなるとの理解に基づく質問が出された一方で,契約書を提出しないでも勤務ができる旨の理解を前提とした質問は出されなかった。また,J部長らも,キャディ契約書を提出することが,残るすなわち,勤務を継続する前提である旨説明をした。
(エ)

キャディ契約書用紙は,被告との間で,同書面に記載された労働条件の
もとで,労働契約を締結するという内容を読み取らせるような体裁であった。(オ)

キャディ原告らは,本件倶楽部での勤務中,一同に会して話をする機会
はなかったものの,それぞれ,親しい者同士の間で話をするなどして,約2週間の提出期間内に原告20以外全員がキャディ契約書を提出したが,提出が比較的遅い者に対しては,L支配人の指示を受けたN副部長らが,提出しないと勤務を継続し得なくなることを示唆するなどして,提出を催告した。イ
上記経過によれば,
在職キャディ原告らは,
本件労働条件変更の必要性の内容,
程度に理解を示して,これに協力するべく不利益変更を受け入れたとは到底考えられない。むしろ,キャディ契約書の提出により労働条件が不利益なものに変わると認識しながら,契約書を提出すれば4月以降も残って働くことができるけれども,契約書を提出しなければ4月以降は働くことができないと考えて,契約書を提出し,本件労働条件変更を同意するに至ったと認めるのが相当である。しかし,キャディ契約書を提出しなければ働くことができなくなる合理的理由はまったくなく,
それを提出しなければ働くことができなくなると理解した点に,
在職キャディらには誤信がある(以下,便宜本件誤信という。。

そして,
上記のとおりの被告の説明経過及びキャディ契約書の記載に照らせば,I社長,J部長,L支配人においてもまた,在職キャディ原告らが本件誤信のもとにキャディ契約書を提出したことを認識していたと認めるのが相当である。

全体説明におけるI社長の説明について
(ア)

全体説明におけるI社長の説明に,3月末で退職金が清算され,4月1
日以降は1年毎の契約となるという事項が含まれていたことは,上記認定のとおりである。そして,原告4,同20,同22,同25,同23,同6は,いずれも,本人尋問において,I社長は,上記事項の説明の際,併せて,

3月末でいったん解雇する。

との発言(以下解雇発言という。)をしたと供述
し,全体説明に欠席した原告18を除くその余の原告らの陳述書にも同旨の記載がある。しかし,他方において,Iメモ及びLメモに解雇の文字の記載はなく,被告代表者I,証人J,証人Lは,いずれも,全体説明において,I社長が解雇発言をしたことはない旨供述していることを考慮すると,全対説明において,I社長が明確な形で解雇発言をしたか否かは不明といわざるを得ない。
(イ)

しかしながら,①被告が,本件労働条件変更に際して,賃金減額のみな
らず,賃金形態及び雇用形態の大幅な変更をも併せて行うこととしたこと,②全体説明において,わざわざ,現在の在籍者は継続して雇用する予定でいる」と述べ,労働契約が一度終了することを前提とした説明をしていること,③個別面談でも,キャディ契約書を提出することと,継続して働くことを同視する説明をしていることに加え,上記1(12)アに認定の団体交渉時のJ部長の説明事項を考慮すると,被告は,①3月末の時点で,従業員から契約の終了に同意する旨記載した書面を提出させることなく従前の労働契約を終了させ,4月以降は旧条件を適用しない,②キャディ契約書を提出した従業員は新条件のもとで勤務させ,キャディ契約書を提出しない従業員は勤務を行わせないという方針のもとで,本件労働条件変更を実施したものと認められる。そうすると,被告は,少なくともキャディ契約書を提出しない従業員については,一方的な労働契約終了事由としての解雇の意思表示というべき行動をとることを前提としていたということができ,本件会議の構成員たる各役員においても,上記方針に基づいた言動を行っていたことが窺われるから,I社長が,原告らにおいて解雇と理解するような発言をしたとしても不自然な状況にはなかったというべきである。そして,このことも,キャディ職従業員らの本件誤信を強める要因の1つとなったというべきである。(なお,上記団体交渉でのJ部長の発言について,証人Jは,「大人数での集団的な交渉は初めての経験であったため,支離滅裂で矛盾した発言をした点が多くあったなどと供述するが(証人J〔第14回,123以下〕,当日の)
団体交渉におけ質疑の流れや,J部長の従前の経歴に照らして,上記説明が真意と異なる発言によるものであったとは到底認められないから,証人Jの上記供述は採用することができない。


また,被告は,解雇を行う方針がなかった旨主張するが,同主張は,畢竟,キャディ契約書を提出しないことを黙示による退職の意思表示とみなすことで,3月末での契約の終了事由を,被告による一方的意思表示に基づく解雇ではなく,合意に基づく解約と判断することとしたという,被告における法律的解釈を主張するものにすぎず,上記認定に影響するものではなく,理由がない。

以上によれば,在職キャディ原告らの本件労働条件変更同意の意思表示には,本件誤信をしたという動機の錯誤があり,その動機は黙示に表示され,被告もこれを知っていたといえる。
そして,本件労働条件変更の内容が,在職キャディ原告らの認識においても,
期間の定めのない契約から有期契約への変更等という,
極めて不利な内容であり,
これに対する何らかの見返りあるいは代償措置を伴わないものであったことに照らすと,在職キャディ原告らは,上記錯誤がなければ本件労働条件変更の同意に応じることはなかったといえるから,上記錯誤は,要素の錯誤に当たるということができる。
4
争点(3)
(在職キャディ原告らによる追認の有無)について
(1)

被告は,在職キャディ原告らは,本件労働協約の締結,本件更新願書及び新
キャディ契約書の提出によって,本件労働条件変更について追認したと主張する。(2)

本件労働協約の締結について

前提となる事実(6)イ記載のとおり,そもそも本件労働協約には,本件労働条件変更の効力を認めることを前提とする記載はない。しかも,上記1(12)ア及びイで認定した事実に基づいて検討すると,本件労働協約締結は,それまでの合意事項を確認する趣旨で行われたものであり,本件組合が第1回団体交渉当初から本件労働条件変更の実施の留保を要求し,本件労働協約締結後も,被告による,本件労働条件変更を有効と認める旨の覚書の締結の提案を拒否し,その後ほどなくして本件訴訟を提起したという経緯に照らせば,本件組合が,本件労働協約締結に当たって,本件労働条件変更の効力を追認することを前提としていたなどと解する余地はない。
(3)

本件更新願書及び新キャディ契約書の提出について

次に,上記1(12)ウで認定した事実に基づいて検討すると,在職キャディ原告らは,本件更新願書の提出前から,書面上本件労働条件変更の効力を認めるかのような記載があることについて,本件訴訟提起後であることなどを挙げつつ異議を唱え,働く意思の確認のためにすぎないとの被告の説明を受けてこれを提出し,提出後も,提出によって本件労働条件変更の効力の追認があったものと考えるなどとする被告の回答に対して異議を唱えているのであるから,在職キャディ原告らによる本件更新願書及びこれと同趣旨の新キャディ契約書の提出について,本件労働条件変更の効力を追認する意思表示が含まれていないことは明らかというべきである。
被告は,在職キャディ原告らにおいて,被告から,本件更新願書及び新キャディ契約書の記載内容に疑義があればその旨記載して提出するように説明を受けながら,
何ら付記せず提出したことが,
追認の意思表示の現れであるなどと主張するが,
本件組合は,上記被告の説明に対して,そのような方法では問題が発生する可能性があるため,疑義等の記載を要求するのではなく,働く意思の表明があったことの判断のみを事務的に行ってほしいという趣旨の返答をしているのであるから,疑義等を記載しなかったことに特段の意味があったものとは認められず,上記被告の主張を採用する余地はない。
5
小括
以上によれば,在職キャディ原告らによる本件労働条件変更の同意は,錯誤により無効であり,
在職キャディ原告らは,
被告に対して,
旧条件による労働契約に基づき,
期間の定めのない労働契約上の権利を有するとともに,下記10で認定する,旧条件
を基準とする賃金額と4月以降実際に支給された賃金額との差額相当分の金員について,賃金請求権を有するものと認められる。
6
争点(4)
(原告20は労働契約上の地位を有し,被告に対して賃金を請求することができるか)について
(1)

原告20の労働契約の終了の有無
原告20は,2月9日にM課長から電話を受けた際,勤務を続けることは難しい旨述べたこと,しかし,N副部長,L支配人の両人から重ねて退職届の提出を求められてもこれを拒否し,結局,退職届を提出しないままに,被告から,職を解く旨の辞令を交付されたことは上記18)

認定のとおりである。
そうすると,
原告20は,被告から,上記辞令の交付により,一方的に労働契約を終了する,すなわち,解雇するとの意思表示を受けたというべきである。

被告は,上記辞令の交付は,2月9日に原告20がM課長に対して口頭で退職の意思表示をしたことを受けて行ったものにすぎず,解雇の意思表示には当たらない旨主張する。
しかし,証人M自身,2月9日の原告20の発言について,勤務を辞める,退職する,といった具体的な発言があったわけではなく,子供を預けられなくなるので困るとの勤務を続けることに消極的な発言を,勤務を辞めるという趣旨の発言と受け取った旨証言している(証人M〔21以下,107以下〕。また,上記)
1(8)イ,ウ認定のとおり,原告20が翌10日には労働基準監督署に被告への対応の仕方について相談をし,4日後の13日には,退職届の提出を明確に拒否していたことに照らせば,そもそも,9日の時点で,原告20が自主的に退職しようとする意思を有していたということはできない。
したがって,原告20が,口頭で,退職する旨の明示の意思表示をしたものとは認められず,被告の主張はその前提を欠くもので採用できない。なお,原告20は,離職票の離職理由欄の記載を訂正する際に,
事業主からの働きかけによるものという理由ではなく,
労働者の判断によるもの-職場における事情による離職-労働条件に係る重大な問題があったと労働者が判断したためという理由を選択している。しかし,上記訂正の経緯の詳細は明らかでなく,訂正の際に,原告20において,
事業主からの働きかけによるものと
いう欄が存在することを認識した上であえてこれを選択せず,
労働者の判断によるものという欄を選択したものとまでは認められないから,上記訂正の事実は,原告20に自ら退職する意思があったことを窺わせるものではない。また,原告20において,辞令交付や退職金交付に直ちに異議を唱えず,ロッカーの片づけや制服の返還を行ったことについても,全体説明で被告から3月末で解雇されるかのような説明を受け,解雇されることを半ば予想していたところに,現に辞令の交付を告げられ,いわば予想どおりの状況となる中で,自ら退職する意思はないものの,その場においては,粛々と従ったとしても不自然な点はない。したがって,これらの点も,自ら退職の意思があったことを窺わせるものとはいえない。

そして,L支配人自身,2月13日に直接原告20から退職届の提出を拒否する旨を聞いていたのであるから,遅くとも同日の時点では,原告20に退職する意思がないことは認識していたといえるところ,上記3(2)ウ(イ)認定のとおり,被告において,キャディ契約書を提出しない従業員については,解雇の意思表示というべき行動をとることを前提としていたことをも考慮すると,被告は,
原告20が退職の意思を有していると窺われたことを捉えたのではなく,キャディ契約書を提出しないことを主たる理由として,原告20に勤務意思がないと判断し,原告20を解雇したものと認められる。
しかし,キャディ契約書を提出しないこと自体が,解雇についての合理的理由に該当しないことは明らかである。
そして,原告20に他に何らかの解雇事由があったことは窺われないから,原告20に対する解雇は,合理的理由を欠き,社会通念上相当として是認することができないものであることは明らかであり,解雇権の濫用に当たるというべきである。
したがって,上記解雇は無効であり,原告20と被告との間の労働契約は継続しているものと認められる。よって,原告20は,被告に対して,期間の定めのない労働契約上の権利を有するものと認められる。

(2)

賃金請求の可否

原告20は,全体説明を受けるまでの間,育児休業期間満了前の4月には勤務を再開しようと考えていたものの,実際には,同月1日以降被告において勤務を行っていないが,これは,3月末の時点で,被告が,原告20に職を解く辞令を交付して解雇の意思表示をし,勤務に就くことを拒否したことによるものというべきであるから,被告には,原告20が4月以降勤務を行わなかったことについて責めに帰すべき事由があり,原告20は,4月1日以降の勤務について,賃金請求権を失わないものと認められる(民法536条2項)

(3)

小括

以上によれば,原告20は,被告に対して,旧条件による労働契約に基づき,期間の定めのない労働契約上の権利を有するとともに,民法536条2項に基づき,下記11で認定する,4月1日以降勤務した場合の旧条件を基準とする平均賃金額に相当する金員について,賃金請求権を有するものと認められる。7
争点(5)
(退職キャディ原告らの退職について被告に違法行為があったか)について
(1)

上記1(2)(3)ア(ア)認定のとおり,被告は,①全国的なゴルフ人口,

の減少傾向に伴い,被告の運営する各ゴルフ倶楽部においても利用者数及び売上の低下が続いていたこと,②そのような状況の中で,BからAグループ内のレジャー業界について業種統合や事業撤退を進めることを示唆され,かつ,同グループ内ではゴルフ場事業を行うDが平成13年4月までの間にキャディ職従業員の労働条件を変更する方法により人件費を削減した状況を目の当たりにしたこと,③Bから,被告において各ゴルフ倶楽部の建物等の資産の買取と各ゴルフ倶楽部の経営を要請されたことから,被告において経費削減による収支改善を行うため,近隣ゴルフ場のキャディ職の賃金及び賞与の状況を調査した上で,本件労働条件変更を行うと決めたものと認められるから,本件労働条件変更については,一応の経営上の必要性があったといい得る。
しかし,Bからの資産の買取及び経営移管の要請については,要請の時期や具体性が明らかでないうえ,その後実現もしていない(被告代表者I,弁論の全趣旨)ため,真に現実的な要請があったと解するには疑問が残るといわざるを得ない。また,被告の収支状況にしても,経常損益段階では利益を出している一方,賃金切り下げ等の差し迫った必要性があるのなら,他の従業員にも応分の負担を負わせるのが通常であるところ,そのような事情も見出せない。そうすると,本件労働条件変更を実施するだけの高度の経営上の必要性があったということはできない。むしろ,上記経緯及び本件労働条件変更の内容が上記Dの施策と酷似していることに照らせば,4月から本件労働条件変更を実施することを決定した背景には,被告において,早急にDと同様の施策をとろうという意識があったことが窺われ,被告の収支状況が,本件労働条件変更を実施しなければならないほとの切迫した状況にあったとまでは認められないというべきである。
なお,被告は,事務職の労働条件を変更しない理由について,事務職従業員の事務量の負担が大きいこと等を主張するが,キャディ職従業員に課される不利益性の大きさに照らせば,応分の負担を免れさせたことについての合理的理由とはいえない。
(2)

また,上記3(2)認定のとおり,本件労働条件変更について同意を得るた
めの説明についても,被告は,変更内容の詳細や,変更を必要とする具体的理由を説明せず,説明方法も抽象的内容の社報の回覧と口頭による説明にとどめ,従業員に課す負担の大きさに応じた十分な説明を行うことがなかった。そして,その結果として,退職キャディ原告らについても在職キャディ原告らと同様に,本件労働条件変更に同意しなければ勤務を行うことができないと誤信させてキャディ契約書を提出させ,その誤信を認識しながら本件労働条件変更を実施し,賃金を20%以上も減額した。確かに,退職キャディ原告らは,上記1(11)認定のとおり,それぞれ,退職の直接の契機としては,夫の交通事故,他の勤務先の内定という事情があったものである。しかし,本件労働条件変更により被る不利益の程度に加えて,本件労働条件変更の説明以降2月から12月までの間に,他に合計13名ものキャディ職従業員が退職しており,本件労働条件変更が上記多数の従業員の退職の原因となっていたと窺われることを考慮すると,退職キャディ原告らは,支給された賃金が低額であったことなど新条件に不満を覚え,新条件のもとでは勤務を継続していくことはできないと考えて退職することを余儀なくされたというべきである。(3)

以上によれば,被告は,賃金,雇用期間など,従業員にとって重要な権利,
労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす本件労働条件変更について,そのような不利益を従業員に受忍させることを許容し得る高度の必要性に基づいた合理的な理由なくして,本来効力を有しない本件労働条件変更を実施したものといえ,本件労働条件変更の実施は,雇用契約上の義務に違反し,退職キャディ原告らに対する債務不履行に該当するものと認められる。
8
争点(6)
(保育士原告らは労働契約上の地位を有し,被告に対して賃金を請求することができるか-主位的請求)について
上記1(5)ウ,
(9)で認定の事実によれば,①保育士原告らは,個別面談で,J部長らから事務職への異動の可能性があることを示唆され,これについて前向きに考えている中,突然L支配人から事務職への異動はできないとしてキャディ職への異動を要請されたこと,②保育士原告らは,これに抗議しながらも,N副部長から提示された退職届の文言を自ら書き直した上で提出をしていることが認められる。そうすると,
今般,託児所の閉鎖にともないキャディ職への移動提示を受けましたが,平成14年3月31日をもって退職致しますとの上記退職届の文言の記載どおり,キャディ職への移動に応じられないことを動機として,退職の意思表示をしたというべきである。
そして,被告においても,上記退職届を受理した上,3月31日には,願いにより職を解く旨の辞令を交付しているのであるから,保育士原告らと被告との間の労働契約は,合意解約により終了したというべきである。
よって,その余の点を検討するまでもなく,労働契約上の地位を有することの確認,賃金支払を求める保育士原告らの主位的請求は理由がないことに帰する。9
争点(7)保育士原告らの退職について被告に違法行為があったか-予備的請求)(
について
(1)

上記1(1)及び(2)で認定した事実によれば,①保育士原告らは,保育
士の資格を有し,有資格者を条件とする募集に応じて被告に採用され,原告24及び原告23は平成3年から10年間にわたり,原告25は平成6年から8年間にわたり,それぞれ,本件倶楽部で保育士従業員として勤務を続けてきたこと,②平成13年4月からは事務職の業務も行ってきた反面,キャディ職の業務は行ったことがなく,キャディ職の業務を行うことを希望することもなかったこと,③本件倶楽部内の従業員の職種のうち,保育士職及び事務職は,基本給の支給を中心とする同一の賃金体系がとられ,月々ほぼ同額の賃金の支払を受けることができるほか,勤務場所も屋内であったのに対して,キャディ職は,賃金体系に一部歩合給を含み,賃金が月によって変動する上,その平均額も事務職及び保育士職従業員に比べて少額に止まり,勤務場所も主に屋外のゴルフコース上であり,保育士職及び事務職に比べて厳しい労働条件にあったこと,④キャディ職を務めるにはゴルフに関する一定の知識等の修得が必要であり,研修を受ける必要があることが認められる。そうすると,保育士職原告らがキャディ職に移動した場合には,保育士としての専門知識や能力を生かした業務を行うことができなくなるだけでなく,賃金面で大きな不利益を被るなど,労働条件が実質的に大きく後退することとなるのであるから,本人の希望なしに,保育士原告らをキャディ職に移動させることは,保育士原告らに対して,通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものというべきである。
そして,上記7(1)で説示した被告の収支状況や,事務職従業員に応分の負担を負わせていないことに照らせば,被告において,保育士原告らに対して上記不利益を負わせるだけの高度の経営上の必要性があったということはできない。(2)

また,上記1(3)ア(イ)dで認定したとおり,被告は,本件会議におい
て保育士従業員らのうち少なくとも数名について希望があれば本件倶楽部の事務職で勤務してもらうことを予定していたのであるから,被告にとって,保育士原告らのうち少なくとも数名について,4月から事務職として勤務させることに特段の支障はなかったというべきであり,上記(1)のとおり,保育士原告らに対してキャディ職として勤務させることを正当化するだけの経営上の必要性があったとはいえないことを考慮すると,被告が,保育士従業員らに対して,事務職ではなくキャディ職への移動を促すことについて,合理的な理由はなかったというべきである。被告は,
事務職の人数は余力が生じることが予想されていたと主張し,
証人Lも,
事務職では人員受け入れの余裕はなかったと証言する証人L167〕。(

)しかし,
上記1(2)ウ(イ)認定の事実及び証拠(乙33)によれば,事務職従業員の人数は,平成12年4月から平成14年4月までの間に,本件倶楽部では6名,F倶楽部では5名,G倶楽部では2名が減少し,それぞれ,13名,19名,12名となっており,人員の削減傾向が続いていたことが認められるが,平成12年4月から同13年4月の本件倶楽部の事務職従業員の人員の推移をみると,人数自体は19名から15名へ4名減少したものの,同月からは保育士職従業員ら4名が平日事務職の業務を手伝い始めており,
実質的な人員削減はほぼなかったと認められるし,
平成14年4月には人数が2名減少したことが認められるから,同月から保育士従業員らを事務職に移動させたとしても,本件倶楽部の事務職従業員の人員を増加させるという上記傾向に反する事態が生じることはなかったというべきであるし,同月における本件倶楽部事務職従業員の人数が,他の倶楽部と比較して,若干名の加算が許されないほどの数値であったともいえない。よって,上記Lの証言は採用することができず,他に上記被告主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。(3)以上によれば,被告は,保育士原告らに対して,従業員にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼすこととなるキャディ職への移動について,そのような不利益を従業員に受忍させることを許容し得る高度の必要性に基づいた合理的な理由なくして,上記移動を促し,結果として,キャディ職への移動に応じられないことを動機として退職の意思表示をすることを余儀なくさせたというべきであるから,上記被告の行為は,雇用契約上の義務に違反し,保育士原告らに対する債務不履行に該当するものと認められる。
(在職キャディ原告らに対する未払賃金額)について
10争点(8)
(1)

上記前提となる事実(2)及び(4)記載の事実に,証拠(乙37の1ない
し37の10,
37の12ないし37の20,
37の22ないし37の27,
39)
及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実を認めることができる。ア
在職キャディ原告らは4月以降被告において勤務し,うち,原告1ないし17は本件口頭弁論終結時も,原告18は平成17年7月10日までの間,原告19は平成18年3月10日までの間,勤務を継続している。


原告1ないし19は,
それぞれ,
平成14年4月から平成15年3月以下平

成14年度という。
)の間に,別紙3賃金目録①実際に支給された平成14年度の賃金額欄記載のとおり賃金の支払を受け,これらについての1か月当たりの平均賃金額は,同目録②実際に支給された平成14年度の賃金の1か月当たりの平均額欄記載のとおりとなる。

同年度の在職キャディ原告らの勤務について,旧条件に基づいて支給されるべき賃金額は,同目録③旧条件による平成14年度の賃金額欄記載のとおりである。

(2)

そして,上記前提となる事実(2)記載の事実,上記1(2)ウ(ウ)で認
定した旧条件下での在職キャディ原告らに対する賃金支払状況によれば,上記③欄記載の金額には,基本給,一種の歩合給に相当するラウンド給,アフレ手当,売店勤務給のほかに,労働の対償としての賃金の性質を有する各種手当が含まれると認められるところ,これを基礎として算出した1か月当たりの平均賃金額は,同目録④旧条件による平成14年度の賃金の1か月当たりの平均額欄記載の金額となる。
(3)

小括

以上によれば,上記③欄及び上記④欄記載の金額を基礎とすると,在職キャディ原告らは,4月以降,1か月当たり,同目録⑤1か月当たりの未払賃金額欄記載の金額について,いまだ賃金の支払を受けていないこととなる。したがって,原告1ないし17は,平成18年9月分までの賃金として同表⑥未払賃金合計額欄記載の金員について,同年10月1日以降本件判決確定に至るまで毎月24日限り,上記⑤記載の金員について,原告18は平成17年7月分までの賃金として上記⑥欄記載の金員について,原告19は平成18年3月分までの賃金として上記⑥欄記載の金員について,それぞれ,被告に対して賃金請求権を有するものと認められる。
(原告20に対する未払賃金額)について
11争点(9)
(1)

証拠(原告20,甲77)によれば,原告20は,平成12年12月に妊娠
が判明した後,同13年1月及び2月に病気休暇を取得し,同年3月から5月まで事務職として勤務したが,再び6月及び7月に病気休暇を取得し,その後産前産後休暇,育児休暇を取得しており,平成13年度はキャディ職としての勤務をほとんど行っていなかったことが認められるから,原告20に対し,旧条件に基づいて支給されるべき賃金額の算定に当たって,平成13年度に支給された賃金の合計額を基礎とするのは相当ではない。
そして,証拠(乙4,37の1ないし37の27)及び弁論の全趣旨によれば,原告20は,同年度までに勤務していた期間においては,1か月当たり,基本給9万1210円,調整手当1万9150円,家族手当8000円,住宅手当1万3000円の合計13万1360円を含む13万5840円に加えて,それぞれの回数に応じたラウンド給,荒天手当,皆勤手当,アフレ手当を賃金として支給されていたこと,各月における個々のキャディ職従業員に支給されるラウンド給やアフレ手当の支給額には,季節や各人の勤務状況によってばらつきはあるものの,変動の大きな要因は季節変動によるものであり,各人の月額賃金額の相違も,主として基本給,調整手当,家族手当及び住宅手当の金額(以下固定支給額という。)の違
いによるものであることが認められるところ,平成13年1月に在籍していた原告1ないし16,18及び19に対して支給された固定支給額(乙37の1ないし37の10,37の12ないし37の19)は,10万5080円(甲37の19)から12万9070円(甲37の13)と,いずれも原告20の固定支給額13万1360円を下回るものの,別紙3賃金目録④欄記載の各数値に基づいて算定すると,原告1ないし19について4月以降の勤務につき,旧条件に基づいて支給されるべき1か月当たりの賃金額の平均は,
31万9454円であると認められるから,
原告20において,
4月1日以降キャディ職として勤務した場合には,
少なくとも,
同月11日以降の勤務に関する5月分の賃金以降,1か月当たり約31万円の賃金の支払を受けることができたというべきである。
(2)

よって,原告20は,5月分以降本件訴訟判決確定の日までの間の賃金とし
て,別紙2認容額欄記載の金員について,被告に対し,賃金請求権を取得したといえ,これが消滅等したとの主張立証はない。
(退職キャディ原告らの損害)について
12争点(10)
上記7で判示したところによれば,退職キャディ原告らは被告の債務不履行により精神的苦痛を被ったものと認められ,これを慰謝するべく,各自につき,100万円の慰謝料を認めるのが相当である。
他方,証拠(甲78,83)によれば,退職キャディ原告らは,被告退職後ほどなくして他の勤務先等で稼働していたことが認められ,その労務により相当の収入を得ているものと窺われるところであり,本件全証拠によっても,退職キャディ原告らの主張する逸失利益の損害が生じたものとは認められない。
したがって,退職キャディ原告らは,各自,100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金について,被告に対し,債務不履行に基づく損害賠償請求権を有するものと認められる。
争点(12)
(保育士原告らの損害-予備的請求)について
(1)

上記8に判示したところによれば,保育士原告らは被告の債務不履行により
精神的苦痛を被ったものと認められ,これを慰謝するべく,各自につき,100万円の慰謝料を認めるのが相当である。
また,
各損害の合計額の1割相当額について,
弁護士費用の損害を被ったものと認めるのが相当である。
(2)

上記1(9)カ,8で認定した事実に証拠(乙64)及び弁論の全趣旨を総
合すると,被告は,退職金規程の自己都合退職の支給率により,原告23に対して127万円(支給率8.46%)
,原告24に対して121万0030円(支給率
8.46%)
,原告25に対して73万2566円(支給率4.52%)の退職金をそれぞれ支払ったこと,保育士原告らは本件託児所廃止に伴いキャディ職への移動を促されて,これに応じることができず退職したものであり,退職金規程中会社都合により退職したときに該当することが認められる。そうすると,本来,被告は会社都合退職の支給率11.93%,8.34%により,原告23に対して179万0910円(127万円÷8.46×11.93),
原告24に対して170万6343円(121万0030円÷8.46×11.93)
,原告25に対して135万1682円(73万2566円÷4.52×8.34)の退職金を支払う義務があったというべきであるから,実際に払われた金額とこれらの金額との差額として,それぞれ,原告23は52万0910円,原告24は49万6313円,原告25は61万9116円の損害を被ったものと認められ,これも,被告の債務不履行と相当因果関係を有する損害と認められるる。(3)

他方,証拠(甲81,82,84)によれば,保育士原告らは,被告退職後
ほどなくして他の勤務先等で稼働していたことが認められ,その労務により相当の収入を得ているものと窺われるところであり,本件全証拠によっても,上記原告らの主張する月額給与相当分の逸失利益の損害が生じたものとは認められない。(4)したがって,保育士原告らは,それぞれ,以下の金員について,被告に対し,債務不履行に基づく損害賠償請求権を有するものと認められる。

原告23

167万3001円

(100万円+52万0910円+15万2091円)

原告24

164万5944円

(100万円+49万6313円+14万9631円)

原告25

178万1028円

(100万円+61万9116円+16万1912円)
第4

以上によれば,原告らの請求は,主文の限度で理由があるから認容することとし,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。宇都宮地方裁判所第1民事部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官

松島男道井節子理恵子
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