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地位確認請求事件(通称 東京海上日動火災保険職種変更)
事件番号平成18(ワ)2001等
事件名地位確認請求事件(通称 東京海上日動火災保険職種変更)
裁判年月日平成19年3月26日
裁判所名東京地方裁判所
分野労働
裁判日:西暦2007-03-26
情報公開日2017-10-19 19:22:33
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主1文
原告らと被告との間で,原告らが,平成19年7月1日以降,被告において契約係社員の地位にあることを確認する。

2
訴訟費用は被告の負担とする。

第1

実及び理由
請求
主文と同旨

第2

事案の概要
本件事案の概要は,次のとおりである。被告は,損害保険業等を目的とする株式会社であり,原告らは,いずれも被告において損害保険の契約募集等に従事する外勤の正規従業員である契約係社員の地位にある者である(被告においては,契約係社員をリスクアドバイザーあるいはRAと呼称しているので,以下,契約係社員をRA,契約係社員の制度をRA制度という。)。被告は,平成17年10月7日,原告らに対し,リスクアドバイザー制度の発展的解消について(大綱)(提案・通知)と題する文書によって,①RA制度を平成19年7月までに廃止し,②RAの処遇については,代理店開業を前提に退職の募集を行う一方,継続雇用を希望する者に対しては,職種を変更した上で継続雇用するという方針について提案・通知した(以下本件大綱提案という。)。本件は,原告らが,RAである原告らと被告との間の労働契約は従事すべき職種がRAとしての業務に限定された契約であるところ,RA制度の廃止は,原告らと被告との間の労働契約に違反し,かつ,RAの労働条件を合理性・必要性がないのに不利益に変更する無効なものであると主張して,被告に対し,本件大綱提案でRA制度を廃止するとされている平成19年7月以降も,原告らがRAの地位にあることの確認を求めている事案である。

1
争いのない事実等(証拠により認定した事実は,当該証拠を括弧内に記載す
る。)
(1)

当事者等
被告
(ア)

被告は,東京海上火災保険株式会社(以下東京海上という。)

と日動火災海上保険株式会社(以下日動火災という。)とが,平成16年10月1日に合併して発足した,損害保険業等を目的とする株式会社である。被告には,本店のほか,全国に約70か所の支店があり,さらに本店及び支店の傘下には支社がある。また,被告は,海外各地にも事業所を有している。被告の従業員は,全体で約1万7000名である。
(イ)

被告の平成17年度の総資産は,損害保険業界(以下業界と略

称することもある。)第1位の10兆8147億9600万円であり,第2位の三井住友海上火災保険株式会社(以下三井住友海上とい
う。)より3兆円以上,第3位の株式会社損害保険ジャパン(以下損保ジャパンという。)より5兆円近く,それぞれ上回っている(甲57,58,乙5)。
被告の平成17年度の経常利益は,業界第1位の1660億8000万円であり,第2位の三井住友海上及び第3位の損保ジャパンをそれぞれ500億円以上上回っている(甲57,58,乙5)。
被告の平成17年度の正味収入保険料は,業界第1位の1兆8927億円である。平成13年度以降,被告の正味収入保険料の損害保険全社に対する割合は,毎年25%を超えており,毎年17%から18%台で推移している業界第2位の三井住友海上とは7%から8%ほどの差がある。(甲14,57,58,乙5)
被告の平成17年度のソルベンシー・マージン比率(巨大災害等,通常の予測を超えて発生し得る危険に対する保険会社の資本・準備金等の
支払余力の割合を示す指標で,行政当局が保険会社を監督する際に活用する客観的な指標のひとつであり,その数値が200%以上であれば保険金等の支払能力の充実の状況が適当であるとされている。)は,1076.6%という健全な数値である(甲57,58,乙5)。

原告ら
原告らは,いずれも別紙2原告一覧表中の入社年月欄記載の日
までに,日動火災との間で期間の定めのない労働契約(ただし,原告P1を除く。同人は,外務参与(下記(2)ア参照)であり,70歳に達する平成20年4月25日に雇止めとなる。甲15の3,乙15)を締結し,同日,日動火災に入社した。原告らの労働契約は,日動火災が平成16年10月1日に東京海上と合併した際,そのまま合併後の被告に承継された。原告らは,いずれも,被告において,RAとして損害保険の契約募集等の業務に従事しており,損害保険事業とそれに関連する事業に従事する労働者で構成する全日本損害保険労働組合(以下全損保という。)の日動火災外勤支部(以下全損保日動外勤支部という。)に所属している。

被告における労働組合
被告においては,全損保日動外勤支部の他に,内勤社員で組織する全損保東京海上支部と,全損保から脱退した者が東京海上火災保険労働組合らとの間で統合・結成した東京海上日動火災保険労働組合(以下東海日動労組という。)がある。現在,一部管理職扱社員を除き,外勤社員は全損保日動外勤支部か東海日動労組のいずれかの労働組合に所属している。平成18年10月現在,原告らの所属する全損保日動外勤支部の組合員数は51名であるのに対し,東海日動労組の組合員数は約1万2700名,全損保東京海上支部の組合員数は4名である。(乙6,43)

(2)

RA制度
RA制度は,被告が雇用する従業員であるRAが,直接,顧客との間で,
保険契約の締結,保険料の領収等の保険募集を行う制度である。これは,日動火災において戸別訪問により拡販していくための制度として存在した契約係従業員制度を,東京海上との合併により成立した被告が継承しているものである。RAの種類としては,契約係正社員,契約係嘱託,外務参与,契約係特別社員がある。(乙1,証人P2【3ないし4頁】)イ
RAは,保険契約の募集を主な業務とする社員であるが,採用手続は次のとおりである。すなわち,最初は契約係特別社員として3か月の期間を定めて採用され,原則として18か月の育成期間を経て,一定の実績を満たし,資質を認められた者が,契約係正社員として期間の定めなく雇用されてきた。(甲31,37ないし39,乙15,証人P2【8頁】,弁論の全趣旨)


日動火災は,昭和26年10月1日の就業規則施行以来,契約係従業員と内勤従業員とで区別することなく,同一の就業規則である日動火災海上保険株式会社就業規則(乙3)を適用してきたが,平成15年1月1日付けで,契約係従業員と内勤従業員の就業規則を分離し,改定した(乙2)。その後,日動火災が東京海上と合併した平成16年10月1日に,内勤従業員のための就業規則及び給与規則として東京海上日動火災保険株式会社従業員就業規則(甲79)及び従業員給与規則(甲8
0)を設ける一方,RAのためには別途の就業規則及び給与規則として東京海上日動火災保険株式会社契約係従業員就業規則(甲1,以下
RA就業規則という。)及び契約係従業員(契約係正社員・外務参与)給与規則(甲2,以下RA給与規則という。)を設けてこれらを施行した。(乙4)

RA就業規則43条1項は,

会社は業務の都合により,従業員(裁判所注・RAを指す。)に配置転換,勤務の異動または出向を命ずることができる。異動または出向を命ぜられた従業員は正当な理由がないときはこれを拒むことができない。

と規定し,また,同45条1項は,RAの定年を60歳と定めている(甲1)。

RAの賃金体系は,RA給与規則の定めに従い,月例給与と臨時給与
(賞与)で構成され,月例給与は,固定的給与と比例給に大別される(乙2,15)。

外勤社員の労働時間については,RA就業規則8条3項で,始業時刻は午前9時,終業時刻は午後5時,労働時間は1日7時間と定められているが,同8条5項で,業務上の都合により勤務時間のうち全部または一部について社外勤務に服し,かつ労働時間を算定し難い時は,1日7時間労働したものとみなす旨規定されている。このみなし労働時間制は,RAが他の内勤社員と異なり,労働時間のほとんどを事業場外での業務に従事していることが多いという特殊性を考慮して,合併前の日動火災時代から採用されていたものである。(甲1,乙4)。


被告におけるRAの総数は,平成18年2月時点で約900名であったが,下記(3)イのとおり,被告が3次にわたって代理店開業を前提に退職者を募集した結果,同年9月28日までに合計853名のRAが退職し,同年10月1日現在,被告に残って継続雇用の道を選択しているRAの総数は,原告ら46名を含む68名となっている(乙4,43,56)。
(3)

本件大綱提案(甲3)
被告は,平成17年10月7日,リスクアドバイザー制度の発展的解消について(大綱)(提案・通知)と題する文書をもって,外勤制度の廃止について,東海日動労組,全損保東京海上支部及び全損保日動外勤支部に提案・通知した(本件大綱提案)。


本件大綱提案の内容は,概ね以下のとおりである。
(ア)
a
RA制度の廃止
RA制度を平成19年7月を目処に廃止する。

b
RA制度の廃止後,RAであった従業員は,被告を退職して代理店を開業する(被告はこれを転進と表現しているので,便宜上,以
下同じ表現を用いる。)か,職種変更して引き続き被告会社に継続雇用されるか,被告を退職して新しい仕事を自己開拓するか,いずれかの道を選択する。

c
被告は,被告を退職して代理店を開業する者及び新しい仕事を自己開拓する者に対しては転進支援金を支払う。

d
転進希望者の募集開始は,平成18年1月を予定し,転進時期は平成19年7月を目処とする(なお,被告は,その後の平成18年2月に,転進時期を平成19年7月と同年10月の2回にすることとした。)。

(イ)
a
RA制度の廃止の理由
被告において,損害保険販売のチャネル(チャネルとは,損害保険を販売する各種代理店を主たる事業内容毎にまとめたものであり,RAも被告の管理会計上は一つのチャネルとして扱われる。乙55)ごとの経済合理性を分析するため,平成16年度のチャネル別損益管理指標(管理会計データ)に基づき,チャネル別の費差損益および費差指数を調査した。なお,費差損益とは,付加保険料から事業費(手数料や,人件費,物件費等の経費の合計)を差し引いて算出される損益のことを指し,ここにいう付加保険料とは,保険会社が顧客から領収する保険料のうち,会社の手数料・経費及び利潤部分に充てるものである。また,費差指数は,手数料・集金費および経費の付加保険料に占める割合であり,効率性を示す指標となる。(乙26,27)
上記調査の結果,平成16年度の国内計の費差損益が,約500億円の費差益を確保する中で,RAチャネルは78億円という大きな費差損を生じ,費差指数が141%に達することが判明した。

b
旧日動火災の創業以来,会社に貢献してきたRA制度を存続させる道はないか,さまざまな角度から検討を進めてきた。しかし,RA一人当たりの生産性が飛躍的に改善し,RAの給与等のコストを維持したまま付加保険料率が費差指数相応に拡大すれば,理論的には収支が均衡することとなるが,仮に規模が拡大しても,それに応じて処遇が引き上がる制度となっていることから,RAの経済的な既得権を維持しつつ収支を均衡させることは非現実的である。また,経済合理性の問題を解決するためには,RAの処遇水準を大幅な既得権の変更を伴う水準まで引き下げる必要があるが,このような選択肢も非現実的であり,会社として採り得ない。

(ウ)
a
継続雇用者に対する処遇
継続雇用者の身分については,平成19年7月1日から全て特命社員とし,主な担当業務は,①代理店やグループ会社等へ出向しての保険募集業務,②代理店の新設,指導,育成,督励,監査およびこれに関連する職務,③各種事故相談ならびに査定業務およびこれに関連する業務であり,被告は,継続雇用者の職務能力,経験,適性と会社のポスト戦略を踏まえて配置する。

b
継続雇用者には,他の従業員と同様に人事考課を実施する。この人事考課は業績評価(絶対評価・11ランク)とコンピテンシー評価(絶対評価・5段階)があり,その評価基準は別紙3記載のとおりである。

c
継続雇用者は,最長5年間の経過措置期間を経た後に,被告の従業員等に格付ける。具体的には,継続雇用者の働き,処遇,能力,適性を評価し,全員を従業員,特定社員等のいずれかの社員区分に格付ける。

d
給与については,月例給与が固定的給与と比例的給与に大別される
現行のRAの給与制度を廃止し,月給与(基準賃金)として,基本給,業績給,家族手当,住宅費補助,月給与(基準外賃金)として時間外勤務給,休日勤務給,別居手当,雑給与として通勤用交通費,賞与として基本賞与,業績賞与を支給する。基本給は375万円とし,これを超える部分を業績給として人事考課により変動させる。その変動の基準は,別紙4記載のとおりである。
賞与は,基本賞与と業績賞与で構成し,業績賞与部分については,従業員・特定社員に適用される会社業績連動型賞与制度を導入し,それをもとに毎年労使による協議により決定する。
e
移行から5年間は,継続雇用者の給与につき経過措置を講じる。
移行初年度(平成19年度)は,現行(平成18年度)の賞与を含む年間の総収入を最低限保障し,さらにRAが他の生命保険会社から委託されて契約した生命保険につき受け取っていた生保手数料についても調整給(甲)として支給する。
移行2年目から5年目までは,その年度に支給された月例給及び賞与の合計額が平成18年度の月例給の年間合計額を下回る場合,その差額を調整給(乙)として支給する。

(4)

本件大綱提案以降の状況
被告と労働組合との間では,RA制度の廃止をめぐって団体交渉が繰り返し行われた。原告らの所属する全損保日動外勤支部は,制度廃止自体についての協議を求めたが,被告は,継続雇用者の処遇についての協議,制度廃止に到った理由の一通りの説明はしながらも,RA制度の廃止は会社の揺るぎない決断であり,組合との合意は必要ではなく,スケジュールどおりに進めていくという姿勢を堅持した。(甲4ないし13,28の1,29,乙38,39)


被告と東海日動労組は,RA制度の廃止をめぐる団体交渉を重ねた末,
平成17年12月20日,リスクアドバイザー制度の発展的解消に係る転進協定を締結した。これを受けて,被告は,平成18年2月1日から同年3月31日までの間,東海日動労組組合員及び非組合員のRAに対する第1期の転進募集を行い,これに応じた者のうち,被告が承認した253名が,同年6月29日付けで被告を退職した。さらに,被告は,同年4月21日から同年5月31日までの間,東海日動労組組合員及び非組合員のRAに対する第2期の転進募集を行い,これに応じた538名が,同年9月28日付けで被告を退職した。被告は,同年6月20日,東海日動労組及び全損保日動外勤支部との間でリスクアドバイザー制度の発展的解消に係る転進協定(第三期募集)を締結し,同月21日から同年7月21日までの間,全損保日動外勤支部組合員を含むRAに対する第3期の転進募集を行い,これに応じた62名が,同年9月28日付けで被告を退職した。(乙4,33,34,36ないし38,43,56)
2
争点
(1)

平成19年7月1日以降の原告らのRAとしての地位についての確
認の利益の有無(本案前の争点)
【原告らの主張】

一般に,確認訴訟は,原告らの権利又は法的地位に危険,不安が現存する場合に,それを除去する方法として,原告ら,被告間で訴訟物である権利又は法律関係の存否について司法的な判断を行うものであり,予防的救済機能があるとされている。そして,確認の対象となるのは,現在の権利又は法律関係には限られない。

被告は,RA制度を平成19年7月までに廃止することを既に決定して,その方針を変更する姿勢を全く見せていない。このため,原告らは,転進か,職種変更を前提とした継続雇用かという理不尽な選択を強要されると
いう極めて危険かつ不安定な立場に既に置かれている。

RA制度の廃止は,それ自体,職種をRAに限定している原告らの労働契約上の地位を失わせるものであり,かつ,いったんRA制度が廃止されてしまうと,原告らは,これまでRAとして築き上げてきた顧客との信頼関係を失うなど,重大な不利益を強いられ,RA制度が廃止された後に被告の人事権行使の効力を争うのでは,原告らの被る損害を回復することはできない。したがって,原告の法的地位に関する上記のような危険及び不安を除去するためには,現時点で,RA制度の廃止の法的効力の確認,すなわち,原告らが平成19年7月以降もRAとしての地位を有することの確認を求めることが,紛争の直接かつ抜本的な解決のために必要不可欠である。
なお,本件訴えは,平成19年7月という猶予期限付きのRA制度の廃止の効力という,現在の法律関係について確認を求めるものということもできるから,紛争の成熟性ないし即時確定の利益の要件は充たしている。
【被告の主張】

原告らは,平成19年7月1日以降も,被告との労働契約に基づきRAの地位にあることの確認を求めている。しかし,確認訴訟は,現在の権利又は法律関係の存否を対象とするものであって,本件のような将来における法律関係の確認を求める訴えは不適法である。


しかも,本件においては,RAが継続雇用される場合の処遇や具体的な諸条件は未だ確定している状況にはなく,将来原告ら各人と被告との間で,それぞれいかなる形態の争訟に発展するのか否か全く明らかでない状況にある。今後の協議の進展により全損保日動外勤支部との交渉が合意に至り,その合意条件に基づいて継続雇用者の配置や担当業務等の労働条件が決まれば,原告らとの争訟は何も生じないまま解決することになるし,仮に,同支部との合意が成立せず将来において原告らの配転,出向を巡る紛議や
解雇問題が生じ得るとしても,その態様は,配転,出向等の異動の問題なのか,あるいは業務命令違反等を理由とする解雇処分に係る問題なのか,または賃金,労働時間等の労働条件の変更に係る内容なのかは全く不明の状況にある。原告らのうち誰について上記のような事態が生じるかについても,被告と各原告らとの個々の処遇に係わる事柄であって,原告らについて同じ内容の紛議が一律に発生するというものではない。
以上のように,本件においては,将来紛争が生じる可能性があるとしても,現時点では未だ抽象的なものであり,これに備えて現時点で原告らの地位を一律に確認するというような即時確定の利益を肯定すべき理由は全くない。むしろ,将来,原告らに対して配転,解雇その他の人事権の行使がされた後にその効力を争えば足り,被告による人事権の行使に先立ってRAの地位の確認を求めても何の紛争解決にもならず,そのような地位を確定する利益も必要性も存在しない。
(2)

原告らと被告との間の労働契約は,原告らがRAとしての職務に従事す
ることを内容とする職種限定契約であると認められるか否か
【原告らの主張】

労働契約において,労働者が従事すべき職種が限定されている場合には,当該職種を使用者の一方的命令によって変更することは許されない。

原告らと被告との間の労働契約においては,原告らが従事すべき職種がRAとしての職務,すなわち外勤業務(保険の募集業務)に限定されている。このことは,以下の各点に照らして明らかである。
(ア)

募集手続及び入社試験の相違
RAの採用に当たっては,内勤社員とは全く別のRAとしての募集手
続や試験が行われている。
(イ)

採用手続の相違
RAとなる者が,契約係特別社員として新規に採用される時に被告と
交わす雇用契約書には,明確に乙は,甲に被用されて甲の販売する各種保険の募集業務に従事すると記載されており,正社員登用後にRAが被告から交付される辞令にも,契約係と明記されている。
(ウ)

募集資料の記載内容
被告は,RAの採用募集広告において,RAは,地域外へ転勤するこ
となく,地域に密着して,被告の正社員として損害保険の販売に長く従事することを業務とする旨一貫して記載している。
(エ)

特別研修の実施
RAは,採用後,被告から,特別社員として特別の研修を受け,1年
から2年の期間,保険募集の業務指導を受けて,基準に合致した者のみが正社員に登用されている。内勤社員にはこのような試用期間制度はない。
(オ)

業務の専門性
RAは,保険商品についての深い理解を必要とするのみならず,自分
の足と費用で地域の家庭や企業を回って顧客に商品を提供し,顧客の拡大に努め,各顧客との間に独特の信頼関係を築き,顧客の個別事情にも踏み込んで保険ニーズを把握して,適時,適切に商品を提供し,さらにアフターケアへの習熟も必要とする。このように,RAは,全人的な素養を必要とする専門職である。
(カ)

専門業務以外の担当度の低さ
RAは,入社してから一貫して保険の募集業務に従事する。保険の募
集以外の仕事は,行うとしても業務量としてはわずかなもので,補完的な業務に過ぎない。
(キ)

就業規則・賃金体系の相違
RAに対しては,RA専用の就業規則が適用され,みなし労働時間制
のもとで労働している。賃金や退職金体系についても,他の内勤社員と
はまったく異なる専用の規定が適用されており,内勤社員とRAとの間に賃金上の互換性は全くない。
(ク)

地域限定の合意
RAの業務は,地域に密着して築く顧客との濃密な信頼関係を基盤と
するものであるため,RAの雇用契約は,他の従業員のそれとは異なり,転居を伴う異動は行わないという地域限定の合意を伴っている。なお,RA専用の就業規則には転勤等の規定があるが,これは,RAとしての機構改革等に伴う転勤についての規定に過ぎない。
(ケ)

本人の意思に基づかない職種変更の実例の不存在
RAについて,職種変更に関する規定や労働協約はない。過去におい
て,RAが職種変更した例としては,個別的・例外的事情により本人の意思に基づき内勤職員となった3例があるのみで,RAとして採用された者が,本人の意思に反して,他の職種に配転された例は全く存在しない。
【被告の主張】

職種限定の労働契約とは,使用者が労働者を特定の職種以外の仕事には一切就かせないことを約する契約であり,もし使用者が業務上の都合により労働者を就労させるべき当該職種の仕事がなくなれば雇用関係を終了させる意思をもって締結したものである。
しかし,我が国の雇用は,定年まで期間の定めなく長期間に雇用する形態が一般的であり,他方,我が国の判例・法制度は,労働者の雇用を強く保障し,使用者に対して解雇回避の努力を課して雇用確保を求めており,解雇は,解雇権濫用の法理により厳しく制約されている。こうした制度下においては,使用者に広範な配転権を認めることが必要になる。
また,我が国の経済の進展及び産業構造の変化等に伴い,多くの分野で職種変更を含めた配転を必要とする機会が増加しており,配転の対象及び
範囲等も拡張するのが時代の趨勢である。
こうした状況を勘案すれば,業務運営上必要がある場合には,その必要に応じ,労働者の個別の同意がなくても職種の変更等を命令する権限が使用者に留保されているとみるのが,労働契約における当事者の合理的意思に合致する。

本件においては,以下の諸事情を勘案すれば,被告と原告らとの間で,原告らの職務内容が損害保険の募集業務に限定されてRA以外の職種には一切就かせず,RA制度が廃止になれば定年を待たずに当然に雇用が終了するというような職種限定の労働契約が成立していたとはいえない。むしろ,採用後当面は,損害保険の募集業務に従事するが,長期にわたる雇用の過程で業務上の必要に応じて損害保険募集業務以外の職種への配転を命じうる権限が被告に留保されていたとみるのが,本件労働契約の当事者の合理的意思に合致する。
(ア)

就業規則における職種・勤務地限定条項の不存在と配転条項の存在RA就業規則によれば,RAの職種や勤務地を限定した規定はなく,
逆に,配転条項が定められている。なお,被告は,原告らRAの給与体系や勤務制度が内勤社員とは異なるため,管理の必要上,RAのみに適用される就業規則を別途作成していたに過ぎず,RAの職種を限定する趣旨でRA就業規則を設けたものではない。
(イ)

雇用契約書における職種・勤務地限定条項の不存在
RAを正社員として採用する際には,契約係特別社員として新規採用
する際とは異なり,雇用契約書は作成せず,代わりに辞令を発している。同辞令には,当初の勤務場所と資格を記載しているだけであり,職種や勤務地を限定する記載はない。
なお,RAの募集広告等には,転勤がなく,地域において一生涯損害保険の募集業務に従事するかのような記載もあるが,これは労働契約の
内容ではないし,通常の場合を想定した記載であって,採用後は定年まで保険募集以外の職種に一切就かせないという趣旨ではなく,当面RAとして保険募集の業務に就かせる趣旨の記載にすぎない。
(ウ)

損害保険業界を含む我が国における配転の対象と範囲の拡大の趨勢我が国の経済の進展及び産業構造の変化等に伴い,多くの分野で職種
変更を含めた配転を必要とする機会が増加しており,配転の対象及び範囲等も拡張するのが時代の一般的趨勢であって,この点は損害保険業界も同じである。そのため,これまで多くの損害保険会社の合併,再編等による組織や事業構造等の変化に伴い,職種の変更を含む多くの配転が実施されてきたところである。
(エ)

定年までの長期雇用の前提
RAは,定年の60歳に達するまでの長期雇用を予定して採用されて
いるが,RAが定年に至るまでの過程で,被告の事業の統廃合,運営体制の変更等により,被告がRAを他の業務に配転する経営上の必要は不可避的に生じ得る。このような場合にも,RAは定年まで雇用されることを期待して,職種の変更が必要となれば他職種への配転命令に従うとの前提で正社員に採用されたはずである。
(オ)

採用条件,研修内容,業務内容における専門性の欠如
RAの採用条件は,職歴不問,学歴は高卒以上とされており,応募者
に対して特段の資格や知識,経験を要求していない。RAに対する採用時の研修も,商品知識や事務処理を教示する程度であり,専門性の高いものではない。RAは,被告の保険商品に関する知識を備えておく必要があるが,それ以上の専門的な知識や経験は必要ではない。RAが担当する業務は,一般の営業担当者と大差はなく,職種限定の合意を基礎付けるような高度の専門的な知識,経験を要する職務内容ではない。(カ)

RAから内勤社員への配転の事例の存在

原告らも認めるとおり,RAから内勤社員への配転の例は少ないが存在する。配転の例が少なかったのは,過去に配転すべき経営上,業務上の必要性がなかったというだけのことである。配転例が少ないことから,いかなる場合も一切配転をしないという労使間の規範意識が確立し,就業規則の配転条項を改定して職種限定の合意が成立したと認めることはできない。また,上記規範意識の確立を裏付ける証拠も存在しない。(3)

RA制度を廃止し,原告らをRAから他職種へ職種変更することについ
ての正当性の有無
【被告の主張】

企業における事業組織の再編成は,限られた人的・物的資源を経営戦略上重要な事業に集中させ,不採算部門を縮小,廃止し,もって資本効率の向上や,対外的競争力の強化を図ることを目的とするものである。こうした事業戦略に係る経営上の判断は,それ自体高度に専門的なものであるから,事業組織の再編成は,株主から経営を負託され,企業運営の責任を負うべき経営陣の専決事項である。この過程で,縮小,廃止される組織との関係で余剰人員の発生は避けられないが,企業において余剰人員の削減が俎上に上ることは,経営が危機に陥っているかどうかにかかわらず,必然といえる。


こうした観点から,被告は,平成17年2月ころから,管理会計の手法に基づきRA制度の採算性につき検討をした結果,同年10月には,同制度の不採算性が明らかになり,その存続は不可能であるとの結論に達した。すなわち,平成16年度の被告の国内計の費差損益が約500億円の費差益を確保する中,RAチャネルは78億円という大きな費差損を生じ,効率性を示す費差指数は141%に達している。これは,被告の経営上,到底無視し得ないレベルである。被告が損害保険業界でトップの地位にあり,黒字経営を続けている優良企業であるとしても,こうした不採算部分
を手をこまねいて放置することは許されない。なお,既にRAの大半が退職し,RAの専任支社も廃止したため,RAチャネルの費差損は10億円以下に減少したと思われるが,それでも費差損は依然として生じている。損失額が少ないからそのまま残すという選択は企業経営上あり得ず,RA制度を廃止し,その物的,人的資源を他の部門に配分して有益に活用することこそ被告が実行すべきことである。
そして,具体的な対策として費差損を解消して収支均衡を回復し,採算性を確保するためには,RAの賃金を約3割切り下げることが必要であるが,このような賃金引下げは非現実的である。また,これを克服する新たなRAの在り方を見出すことも困難であり,単純な希望退職の募集も問題の解決につながらない。こうした諸事項を総合勘案して,RA制度の廃止を決断した今回の被告の経営判断は,企業経営上の本質的要素である経済合理性の確保の観点から,RA制度の実態を多角的かつ具体的に検討を加えた結果決定されたものであり,同制度の廃止については,経営上高度の必要性が認められる。

RA制度の廃止に伴って継続雇用される予定者に対する処遇の具体的な内容は,未だ確定していない状況にあるが,被告が提案している内容は,概略,次のとおりである。
(ア)

継続雇用後の業務内容は,①代理店やグループ会社等へ出向しての
業務,②代理店の新設,指導,育成,督励,監査及びこれに関連する職務,③各種事故相談並びに査定業務及びこれに関連する業務であり,被告は,継続雇用者の職務能力,経験,適性と会社のポスト戦略を踏まえて配置する方針である。
前記①の業務は,既存の保険契約はパートナーズ代理店に移管され,RAは当該保険契約を引き続き担当するほか,従前どおりの保険の募集活動に従事するので,業務の内容にはほとんど変更がない。前記②の業
務は,従前からRAの業務の一部であり,かつ,従前のRAの業務と密接な関係を有する。前記③の業務は,従前のRAの業務とは異なる。これらの担当業務がこれまでのRAの業務と異なることについての不利益感は多分に主観的なものであり,雇用が保障される以上甘受すべきものである。
(イ)

継続雇用者の給与について,以下のとおり経過措置をとる。まず,
移行初年度(平成19年度)は,平成18年度の年間の総収入を保障する。移行2年目から5年目までは,平成18年度の1年間の月例給の合計額を最低限保障する。なお,RAの賞与は,毎年ほぼ一定の月数での支給実績があるが,就業規則等による支給基準や決定方法の規定がなく,毎年の労使交渉で協議し決定してきたため,RAの既得の権利とはいえないので,これを保障しない。
(ウ)

継続雇用者には,業績評価とコンピテンシー評価による人事考課を
実施し,業績給に反映させる。
継続雇用者がパートナーズ代理店に出向して保険募集の業務に従事する場合,コンピテンシー評価が5段階中3番目のBランクとすると,業績評価6ランク,すなわち年収の1.4倍程度の手数料収入がある場合に,従前の収入を維持することができる。年収1000万円,保険料収入3500万円のRAが代理店に出向する場合,1400万円の代理店手数料収入を得るためには,7000万円の収入保険料を得る必要がある。つまり,従前の保険料収入3500万円の2倍に当たる7000万円の保険料収入があった場合に,従前の収入1000万円が維持されることになる。これは必ずしも困難なことではない。
(エ)

仮に,原告らのうち44名について,継続雇用後5年間を業績評価
が最低ランクの11,コンピテンシー評価がBで推移した場合の給与収入の推移は,別紙5記載のとおりである。ここから明らかなとおり,上
記原告らの給与減少額は5年目で平均100万円強であり,必ずしも多額とはいえない。これらは,RA制度下の賞与に相当する部分を保障しないことによるものであるが,この賞与は,前記(イ)のとおり,RAの既得の権利として保障される性格のものではないから,これらの減収は,労働契約上,甘受すべき不利益というべきである。
(オ)

継続雇用者は,5年間の経過措置期間終了までに従業員等に格付け
る。その際,被告は継続雇用者各人の人事考課をもとに,能力・適性を見極め,全員を従業員・特定社員のいずれかの社員区分に格付ける。担当業務は,その時点で決定して配置するが,本人の希望も斟酌する方針であり,例えば代理店での保険募集に引き続き従事することを希望する場合には,そのまま出向先で保険募集に従事させることもあり得る。このように,原告らRAには,経過期間終了に伴う移行格付けについて,格別の不利益は存しない。
(カ)

以上のとおり,原告らRAには,継続雇用に伴う経済的不利益(給
与の減少)の可能性はあるが,絶対額において多額とはいえず,かつ法的に甘受すべき筋合いのものであり,その他の事項についての不利益性は存在しないか,あったとしても低いものである。
【原告らの主張】

以下の各点に照らし,被告がRA制度を廃止する高度の必要性はおよそ認められない。
(ア)

被告は,総資産,利益,ソルベンジー・マージン比率等,あらゆる
面で業界1位という盤石の経営基盤を有しており,単に経済合理性にかなうというだけで,RA制度を廃止する高度の必要性があるとは認められない。
(イ)

被告がRA制度廃止の論拠とする管理会計とは,企業の内部におけ
る収益性を分析するための会計手法であり,労働者に労働条件の不利益
変更を求めることが必要な経営状態にあるかどうかを示すものではない。また,管理会計データの分析結果は経営判断の一材料にすぎず,そこから直ちにRA制度廃止の結論を導くのは暴論である。
(ウ)

RAチャネルのみの費差損を算出して,それをRA制度廃止の論拠
とすることに合理性はない。損害保険の保険料率は,チャネル別ではなく全社的な損益計算に基づいて定められている。付加保険料率は,RAチャネルのコスト構造も織り込み,販売にかかるトータルの費用を見越して計算されており,その結果,529億円もの費差益を得ている。このことは,被告にはRAチャネルを抱えてもこれだけの利益を得る企業体力があることを示している。
(エ)

被告は,正社員であるRAと,代理店との効率を比較する。しかし,
被告と雇用関係のない代理店と従業員であるRAとは,そもそも身分がまったく異なるのであるから,それを比較しても意味はない。代理店と従業員とでは,コスト効率に違いがあるのは当たり前である。
(オ)

現在は,平成16年度当時とは異なり,RAの人数は68名まで減
少し,RAの専任支社も廃止されており,費差損の額は大幅に減少し,費差指数も改善したものと思われ,さらに一層,RA制度を廃止する必要性は低下している。
(カ)

そもそも,RA制度のあり方について討議が始められた当初は,R
Aによる不祥事対策が議論の中心で,あくまでRA制度の存続を前提にしており,この点はRAチャネルの費差損のデータが開示された当初においても変わらなかった。ところが,その後被告は急にRA制度の存廃を含めた検討を要するとして協議を中止し,費差損等のデータに基づき,RA制度廃止の方針を打ち出した。こうした経緯からすると,被告が主張する費差損の数値を前提にしても,RA制度の存続は可能であることが明らかである。

(キ)

被告が提示する平成16年度管理会計データを前提に考えるとして
も,内勤社員の人件費を77億円から45億円まで削減すれば,RAの人件費を削減することなく,費差損は47億円,費差指数は124.7%にまで改善することができ,RA制度を廃止する必要性はない。しかも,現在は,RAの人員は68名まで減少しており,RA制度を廃止する必要性はさらに低下している。

また,被告の提案する継続雇用の際の労働条件によれば,原告らRAは過大な不利益を被ることを強いられる。
すなわち,被告が提案する継続雇用の場合の賃金制度が適用されると,原告らの賃金額は確実に減少する。業績給部分は,コンピテンシー評価及び業績評価による人事考課を反映させることとされているが,原告らがパートナーズ代理店に保険募集人として出向した場合,現在の収入保険料と同額の収入保険料を前提にすると,制度移行時には,継続雇用者は全員が業績評価で最低の11ランクとなる。被告の試算によれば,原告らが現在の賃金額を維持するには,現在の2倍の保険料収入を得なければならないとされているが,これはおよそ不可能なことである。同時に,保険料収入を基礎とした計算方法では,歩合率を一気にそれまでの2分の1に切り下げるというものであり,現在のRAの歩合給と比べて,急激かつ大幅な労働条件の低下であって,従業員に不測の損害を被らせるものにほかならない。さらに,このような大幅な制度改変について,被告と原告らが所属する労働組合との間で十分な協議が尽くされたとは到底言えない。
以上の点から見ても,RA制度廃止は無効である。

第3
1
当裁判所の判断
争点(1)(確認の利益)について
(1)

被告は,原告らが平成19年7月1日以降の原告らのRAとしての地位の確認を求めている点について,確認の利益がないとして却下を求めて
いるので,まず,この点について判断する。
(2)

一般に,確認の利益は,原告らの権利又は法律的地位に危険又は不安が
現存し,それを除去する方法として,原告らと被告との間で訴訟物である権利又は法律関係の存否について判決をすることが有効適切な手段である場合に認められている。そして,確認の利益の有無の判断にあたっては,①確認対象の選択の適否,②即時確定の利益の有無,③確認訴訟によることの適否という観点から行うことが相当である。
(3)

被告は,確認対象の選択の適否という観点から,本件訴えが現在の
権利関係の確認を求めるのではなく,将来における法律関係の確認を求めている点において,確認訴訟の対象としての適格性を欠いていると主張する。また,被告は,即時確定の利益の有無という観点から,RA制度廃止後の継続雇用者の労働条件は未確定であり,協議の進展次第で原告らとの争訟が生じないまま解決する可能性もあり,現時点で即時確定の利益を肯定すべき理由がないと主張する。
(4)

そこでまず,確認対象の選択の適否に関する被告の主張について検
討する。確かに,将来の法律関係の確認を求めることは,通常は,発生するか否かが不確定な法律関係の確認を求めることにほかならず,現在における紛争解決の方法として適切ではない場合が多いといえよう。その意味で,確認の訴えにおける確認対象は,原則として,現在の権利又は法律関係であるのが通常である。しかし,将来の法律関係であっても,発生することが確実視できるような場合にまで,確認の訴えを否定するのは相当ではない。すなわち,権利又は法律的地位の侵害が発生する前であっても,侵害の発生する危険が確実視できる程度に現実化しており,かつ,侵害の具体的発生を待っていたのでは回復困難な不利益をもたらすような場合には,将来の権利又は法律関係も,現在の権利又は法律関係の延長線上にあるものということができ,かつ,当該権利又は法律的地位の確認を求めることが,原告の権利又は
法律的地位に対する現実の不安・危険を除去し,現に存する紛争を直接かつ抜本的に解決するため必要かつ最も適切であると考えることができる。そのような場合には,確認訴訟が有する紛争の予防的救済機能を有効かつ適切に果たすことができるといえるので,将来の権利又は法律関係であっても,確認の対象として許容する余地があるというべきである。
(5)

一方,即時確定の利益は,被告が原告らの権利を否定したり,権利
関係について原告らの主張と相容れない主張をし,そのために原告らの権利者としての地位に危険や不安が生じている場合などのように,一定の権利又は法律関係の存否を原告らと被告との間で判決により早急に確認する必要があり,かつ,当該確認判決を得ることによって,原告らの権利又は法的地位につき存する危険や不安が除去されることが期待し得る場合には,これを認めるのが相当である。
確かに,一般的には,将来の権利又は法律関係の確認を求める場合には,仮に,現時点で被告が原告らの将来の権利又は法律関係を否定する言動をしているとしても,それによる危険が現実化,具体化するのは将来であり,現時点で当該権利又は法律関係の確認を求める必要性を欠くことが多いといえよう。しかしながら,現時点における被告の言動や態度から,原告らの権利者としての地位に対する危険が現実化することが確実であると認められる場合には,当該権利又は法律関係の存否につき判決により早急に確認する必要性があり,即時確定の利益を肯定するのが相当である。
(6)

以上を前提に,本件訴えについての確認の利益の有無を検討する。

本件訴えは,被告が平成19年6月30日限りでRA制度を廃止することを前提に,危殆に瀕している同年7月1日以降の原告らのRAとしての地位の確認を求める訴えであり,かかる法律関係をめぐって,現時点で原告らと被告との間に紛争を生じているということができる。


ところで,前記争いのない事実等(4)ア及び弁論の全趣旨によれば,①
被告は,平成17年10月7日の本件大綱提案以降,RA制度廃止後のRAの処遇等については交渉に応じているものの,同19年6月30日限りでRA制度を廃止するという方針については,組合との合意は不要であり,会社の揺るぎない決断であるとして再検討する姿勢を示した形跡はないこと,②被告は,本訴提起後も,現在に至るまで一貫して,RA制度廃止は経営判断の結果であり変更の余地はないとの姿勢を堅持していることが認められる。

上記イでみてきたような現時点における被告のRA制度廃止に対する揺るぎない姿勢を前提にする限り,原告らが本訴提起のような対抗措置をとらなければ,被告が計画どおりに平成19年6月30日限りでRA制度を廃止し,同年7月1日以降,原告らがRAとしての地位を失うことは確実であると認めることができる。そして,RAとしての地位を原告らが失うことにより,原告らは,それまで積み上げてきた顧客との契約関係あるいは人的つながりを失い,事後に廃止の無効による地位確認等が認められても回復の困難な事態を招来することも十分に考えられるところである。以上からすると,被告がRA制度廃止を言明している時期まであと5か月ほどを残すのみである現時点(口頭弁論終結時)において,原告らには,平成19年7月1日以降のRAとしての地位について危険及び不安が存在・切迫し,それをめぐって被告との間に生じている紛争の解決のため,判決により当該法律関係の存否を早急に確認する必要性が高く,そのことが当該紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切な方法であると認めることができる。また,仮に,原告らの確認請求を認容する判決がされた場合には,被告においてもRA制度廃止の方針・内容につき再考する余地も期待することができ,RAの廃止をめぐる現在の紛争の解決のほか,廃止後の条件等をめぐる将来の紛争の予防にもつながる可能性が十分に認められる。そうだとすると,本件訴えは,確認対象の選択の点で不適切であると
はいえず,即時確定の利益についても欠けるところはないものというべきである。

なお,被告は,RA制度廃止後の継続雇用者の労働条件は未確定であると主張するが,現時点で被告が原告らに対して主張し,提出している証拠書類等を前提に考えざるを得ず,それで足りるというべきである。
(7)

小括
以上の検討結果によれば,本件訴えについて,確認の利益を認めることが
でき,当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。
2
争点(2)(職種限定契約性)について
(1)

はじめに
原告らは,使用者である被告との間で,採用時の労働契約,労働協約,就
業規則,あるいは労働契約の展開過程において,職種を限定する合意が認められる場合には,使用者は労働者の同意がない限り,異職種への配転を命ずることはできないことを前提に,被告との間で職種をRAに限定する合意が成立していたと主張し,平成19年7月1日以降の原告らのRAとしての労働契約上の地位の確認を求めている。そこで,以下,原告らと被告との間に,職種をRAに限定する合意が成立していたか否かについて判断する。(2)

認定事実
前記争いのない事実等,証拠(文章中,文末に掲記したもの)及び弁論の
全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

RA制度の沿革
(ア)

日動火災は,明治31年3月創業の東京物品火災保険株式会社を継
承して,大正3年1月25日に創設された損害保険会社である。日動火災の創業当時は,一般市民との間の家財什器等を対象とする動産保険が会社の主力商品であった。このため,日動火災をはじめ損害保険各社は,契約獲得のため,従業員を一般家庭に訪問させ,保険商品を直接売り込
み,販売する必要があった。そこで,契約獲得のための専門的職業としていわゆる外勤社員の制度が設けられ,戦後の損害保険業界の発展とともに,我が国の損害保険会社に定着していった。現在では,被告以外にも,富士火災海上保険株式会社,あいおい損害保険株式会社,共栄火災海上保険株式会社,日本興亜損害保険株式会社が外勤社員制度を採用している。(甲44,55,56,乙4,5,証人P3【6頁】)
(イ)

日動火災は,その草創期から,現在のRAに相当する契約係社員制
度があり,大正4年8月時点で,東京支店における契約係社員は40名以上を数えた。日動火災海上保険株式會社四十年史には,昭和28年9月現在の日動火災の従業員構成を示す職種別所属別従業員構成の図表の職種欄に,内勤,契約係,集金係の区分が設
けられ,内勤の全社合計は1434名,契約係の全社合計は7
34名と記されている。(甲52,53)
日動火災は,大衆分野の簡易火災保険を中心に発展したが,その契約募集を担ったのが外勤社員であり,昭和37年に誕生し,後に日動火災の主力商品となる月掛総合保険(月掛火災保険)の販売にも外勤社員が従事した。日動火災は,自社の強みとして,業界最大の個人顧客数,強い中小企業開拓力/顧客対応力,リテールマーケットへの豊富な販売ノウハウ,リテールマーケットへの独自の商品政策を挙げ,専属・専業の強い販売力を有する契約係社員を,グループ全体のリテール戦略を担う存在として位置づけていた。(甲37ないし39,44,45)
(ウ)

日動火災における契約係従業員の人数は,東京海上と合併した平成
16年10月1日時点では1093名であった。合併により成立した被告は,同日付けでRA就業規則及びRA給与規則を施行し,日動火災における契約係従業員制度を継承した(前記争いのない事実等(2)ア,乙
12)。
東京海上の合併に先立ち,平成15年10月16日に日動火災が労働組合に提案した新会社人事制度の概要には,

従業員については,人事異動に伴いあらゆる職種に従事する社員と定義し,勤務地と役割等級により区分いたします。

契約係従業員については,現行同様,契約の直接募集ならびに代理店の新設・育成を行うことを職務とする社員。

契約係社員制度は,新会社において,リテールに特化した地域密着型の販売基盤として維持する。

新会社における契約係社員の処遇については,現行の制度をベースとし,内勤社員とは別個の制度として検討を行なう。

との記載が存在する(甲71)。イ
RAと内勤社員の賃金体系の差異
(ア)

RAの月例給与は,固定的給与と比例給に大別される。固定的給与
には,固定給,年度評価給,諸手当,付加給とがある。このうち,固定給については,毎年の責任達成率に応じて昇給額が決定され,年度評価給については,前年度換算契約成績,資格,増収率を基準額テーブル,増収加算額テーブルにあてはめて支給額が決定される。一方,比例給は,保険種目ごとの手当で構成され,一定のルールで,毎月の収入保険料が計算され手当化される。主要なものとして,募集手当(火災保険・傷害保険),自動車手当,新種手当があり,これら各手当ごとに,収入保険料の規模,損害率,増収率などがポイント化され,その合計点数により支給率適用ランクが設けられ,各ランクごとに適用支給率が定められている。このほかに,保有手当(換算契約成績の増収額に対応),維持手当(換算契約成績の責任額に対する超過額に対応),自賠手当(1件ごとの定額で支給),地震手当(年間の収入保険料の10%)などがある。なお,RAの全給与のうち,年度評価給と比例給が7割から8割を占めている。(前記争いのない事実等(2)オ,甲2,乙4,15,証人P2
【9頁】)
(イ)

これに対し,被告の内勤社員の賃金体系は,従業員給与規則の定め
に従い,月給与(基準賃金),月給与(基準外賃金),雑給与,賞与で構成され,月給与(基準賃金)として役割給,付加給,基本年俸月額,家族手当,住宅費補助が,月給与(基準外賃金)として時間外勤務給,休日勤務給,別居手当が,雑給与として通勤用交通費がある。このうち役割給は,従業員担当者クラスの役割等級及び給与ランクに従って,一定の方式で定められた額を支給される。(甲80)

RAの募集,採用
(ア)

日動火災は,従前は関係者の紹介ないし口コミで契約係従業員の募
集を行っていたが,平成元年ころからは,新聞や雑誌に広告を掲載して公募するようになり,応募者に対する説明用のパンフレットも作成するようになった(証人P2【11頁】)。
(イ)

日動火災が作成した契約係社員入社案内と題するパンフレット

には,地域に密着し,お客様の生活の安全を支えるために,保険アドバイザーであり,信頼できる相談相手である契約係社員と記載されているほか,契約係社員制度の説明部分には,A地区…東京・埼玉・千葉・神奈川,B地区…大阪・京都・神戸・名古屋,C地区…A・B地区以外,

いずれも転勤はありません。

と記載されている(甲31)。
また,日動火災が平成2年及び3年に,読売新聞(東京・神奈川・千葉版)及び信濃毎日新聞に掲載した契約係社員募集の広告では,いずれも応募資格は年齢35歳位まで,職種については

損害保険の営業(代理店研修生ではありません)。

,火災・傷害・自動車・積立保険などの販売と記載され,勤務地に関しては,読売新聞では

東京,埼玉,千葉,神奈川,群馬,茨城,栃木の当社営業店。その他の勤務地は希望を尊重します。(転勤はありません)

と,信濃毎日新聞では長野,松本,上田,諏訪,中野,佐久,飯田,伊那(転勤はありません)と,それぞれ記載されている(甲32,33)。日動火災が就職情報誌デューダ(長野版)に掲載した求人広告に
も,募集情報として,仕事内容?火災,傷害,積立保険,自動車等損害保険の営業,資格?高卒以上25∼39歳までの方,

求めるキャリア・スキル?地銀,第二地銀,信金,信組等で営業経験のある方歓迎。業界,職業未経験者の方も可

,勤務地?長野県内当社事業所,

履歴書に勤務希望地をご記入ください。希望を優先します。地域外への転勤はありません

と記載されているほか,

安定志向の方,朗報です。日動火災の未来を背負って立つ,営業社員の募集です。

と題して説明を加え,

最初は初めてのお客様,いわゆる新規の訪問が多いのでなかなか大変ですが,そこで頂いた契約はずっとあなたの財産になります。

担当地域での経験を重ねたほど収入は多くなる傾向にあります。地域に密着しながら,お客様と永きにわたる信頼関係を築いていく仕事。日々の積み重ねが,確実に収入に跳ね返ってくる仕事。

と記載されている(甲34)。
同じく就職情報誌B-ingに掲載した求人広告にも,仕事内容
として

損害保険の営業。コンサルタント的要素を含む仕事です

,資格として

25∼39歳迄の方※未経験者も歓迎致します。※信用金庫・信用組合・地銀等の営業経験ある方大歓迎致します。

と記載されているほか,勤務地として,大阪・神戸周辺の複数の支社が列挙され,

末長い信頼関係を築くために,関西圏外への転勤なし。

,お客様とのふれあいを何より第一に考える日動火災。地域に密着した活動が,お客様との強い信頼関係を生んでいます。このため,関西以外の土地に転勤することはありません。関西でじっくり腰を据え,お客様との信頼関係を築いてください。と記載している(甲70)。(ウ)

採用時の面接の際の説明資料である契約係特別社員採用に関する説明用資料(特例措置適用者用)においても,火災保険,自動車保険,積立保険など損害保険のセールスを専門職種とし,一生涯セールスの仕事をします,

セールス経験の有無は問いません。

商品知識,販売技術等は,入社後,研修で習得できますので心配ありません。

と記載されている。また,原告らの中にも,採用あるいは内勤から外勤への職種変更に際しての面接で,日動火災の採用担当者等から,外勤には転勤がない,あるいは転居を伴う転勤がない旨の説明を受けた者がいる。(甲36,46ないし48)。
(エ)

RAとなる者は,まず契約期間3か月の契約係特別社員として新規
に採用されるが,日動火災は,平成5年ころから,契約係特別社員との間で雇用契約書を作成するようになり,同契約書第1条として

甲(日動火災)は乙(契約係特別社員)を雇用し,乙は甲に被用されて甲の販売する各種保険の募集業務に従事する。

と定めている(甲36,証人P2【12頁】)。
契約係特別社員に対しては,採用後,RA制度の概要や,販売する保険に関する一般的知識等に関する研修を実施し,採用後通常1年ないし1年6か月を経て,収入保険料の実績等が一定水準に達すると,契約係従業員として採用される。特別社員に対する研修資料では,RA制度の魅力として転勤がなく,生涯,希望地で勤務することができると記載されている。(甲37ないし39,証人P2【8頁】,原告P4本人【19ないし20頁】,原告P5本人【8ないし9頁】,原告P6本人【8頁】)
(オ)

被告は,契約係特別社員からRAに登用される者に対しては,雇用
契約書は作成せず,勤務場所と契約係従業員の資格を表示した辞令を出
していた(証人P2【13頁】)。

RAとなった者の志望動機
(ア)

原告らがRAを志望した動機は,親族からの継承,縁故,経済的事
情,やればやるだけ高収入に結びつく賃金体系の魅力等,千差万別であるが,転勤がないことや地域との結びつきを志望動機の一つとして挙げる者が多い(甲15の1ないし35,同45ないし49,50の1ないし13)。
(イ)

原告P7は,大学卒業後,昭和48年4月に内勤社員として日動火
災に入社し,名古屋支店の内勤社員として約7年間勤務し,同49年11月に結婚した妻と共働きを続けた。原告P7は,昭和54年ころ,同人の長女(当時2歳)が聴力障害であることを知り,また,日動火災α支部で外勤社員をしていた同人の父が心筋梗塞で倒れて入院するという事態に直面した。このような中,原告P7は,当時の日動火災α支部長から,外勤社員には転勤がなく,東京で生活すれば,専門病院や幼児難聴訓練施設もあるので,長女をはじめ家族のために外勤社員に転換してはどうかとの説得を受けた。この説得に対し,原告P7は,外勤社員が内勤社員とは異なり,出世・昇進とは無縁の職種であること,歩合給であり所得の安定性に欠けること,一度外勤社員になると内勤社員への道はないこと等に大きな不安を抱いたが,約半年間悩んだ末,昭和55年4月1日に外勤社員に職種変更し,直ちに正社員として外勤の仕事を始めた。(甲15の12,49,74,75,原告P7本人【1ないし7頁】)

RAの業務内容
(ア)

RAは,損害保険の直接販売を主に行う社員として,戸別訪問によ
り,損害保険のほとんど全ての種目について募集を行っているほか,平成8年以降は,生命保険の募集業務も行っている。また,RAは,代理
店の新設・育成・指導・管理業務等を行う担当代理店という業務も担当していたが,各RAにとって,これらの業務による業務量や賃金の全体に占める割合は数%程度であった。なお,担当代理店の制度は既に廃止された。(甲54,乙4,証人P2【47頁】,証人P3(第6回)【31,47頁】,原告P5本人【10頁】)
(イ)

RAは,一定地域を対象として,多数の一般家庭や商店,工場等を
片端から訪問する,いわゆる飛び込みを精力的に行うなどしつつ,保険契約の新規開拓を図った(甲15の1ないし35,甲45ないし50の13,原告P4本人【8頁】,原告P5本人【2ないし3頁】,原告P6本人【1ないし7頁】)。
原告P6は,契約係特別社員として入社後,毎日飛び込み募集をしていた際,顧客からどうせ,何年かしたら担当が替わるんでしょと言われることがしばしばあったが,大丈夫です,私は一生お宅とお付き合いさせていただきますのでご安心ください,出世も転勤もないんですよと話して信用を得ることができた。しかし,飛び込み営業の成果はなかなか上がらなかったので,これを効率よく行うための営業政策として,原告P6は,火災保険の必要性が高いにもかかわらずその意識が必ずしも高くなかった零細工場の多い地域に狙いを絞り,徹底した営業活動を行うローラー作戦を展開して,多くの契約を獲得し,顧客からの紹介などでさらに顧客の範囲を拡大することができた。原告P6は,こうした営業活動を通じて顧客らとの間で築かれた個人的信頼を基礎にして,今日まで営業活動を行っている。(甲48,76,77,原告P6本人【1ないし7頁】)

外勤社員から内勤社員への転換
(ア)

日動火災では,昭和50年ころから同55年ころにかけて,外勤社
員と内勤社員の職種変更に関する内外交流と称する取組みが労使で
行われた。組合側は,取扱高が振るわず解雇の対象になったり,罹病などにより外勤業務ができなくなるなどした外勤社員の救済を目的に,外勤社員から内勤社員に職種変更することが必要であると考えていた。他方,会社側は,効率化・業容拡大の側面から,内勤社員から外勤社員への転換を図ろうと考えていた。しかし,上記取組みの結果,内勤社員から外勤社員への転換についての取扱が規定化され,実施されたのみで,外勤社員から内勤社員へ転換する制度は実現しなかった。(甲73,弁論の全趣旨)
(イ)

上記取組みの時期以降,現在までの外勤社員から内勤社員への転換
者は,病気により外勤業務が不可能となったP8(昭和54年10月1日付け転換),昭和57年7月に日動火災の取締役に選任されたP9(昭和57年6月1日付け転換),日動火災人事部厚生課長に就任したP10(昭和61年4月1日付け転換)の3名の例を数えるのみであり,これらの職種変更は,いずれも本人の意向に基づき実施された。過去において,上記3名以外に,外勤社員から内勤社員に転換した者の例はない。(証人P2【46頁】,弁論の全趣旨)
(3)

判断
以上の認定事実を前提に,原告らと被告との間の職種限定の合意の有無に
つき検討する。

まず,上記(2)ウ,オによれば,RAの仕事は,地域に密着して長期間
にわたって保険契約の募集等の営業活動に専念する業務であるため,転勤がないものとして募集・応募していること,このためRAの採用にあたっては,縁故や口コミなどによる採用のほか,内勤社員とは別に契約係従業員としての募集広告を行うなど,内勤社員とは別個の採用手続をとっていたことが認められる。

上記(2)アないしオによるRAの制度及び業務の実際の在り方をみても,
被告ないし日動火災は,地域に根ざし,顧客との永続的な人的信頼関係を基盤とする職種として,定期的な人事異動を前提とする内勤社員の人事体系とは区別された存在としてRA制度を位置付け,顧客との関係を断絶するような配転を行わないことに積極的な意義を見出していたと考えられる。また,前記争いのない事実等(2)ウ,カ及び上記(2)ア(ウ)によれば,①日動火災は,長らく内勤社員にも外勤社員にも同一の就業規則を適用していたものの,労働条件については,職場外での業務が多いというRAの特殊性から,内勤社員とは異なるみなし労働時間制を採用してきたこと,②東京海上との合併に際しても,リテールに特化した地域密着型の販売基盤として,RAの存在意義を評価し,これを内勤社員とは別個の制度として維持する方針が確認されていたことが認められる。

さらに,上記(2)イによれば,RAの賃金体系は,RA個人の収入保険
料等の業績が直接に支給額に反映される比例給に加え,固定的給与のうち固定給,年度評価給についても一定の仕組みで個人の業績が反映されるなど,全給与のうち相当な部分につき個々のRAの業績が反映される構造になっていることから,固定的な給与も含まれているとはいえ,実質的には歩合給と言い得るものであり,個々の業績が直接には給与に反映される仕組みにはなっていない内勤社員の賃金体系とは異なる内容であることが認められる。

以上みてきたとおり,RAの業務内容,勤務形態及び給与体系には,他の内勤職員とは異なる職種としての特殊性及び独自性が存在し,そのため被告は,RAという職種及び勤務地を限定して労働者を募集し,それに応じた者と契約係特別社員としての労働契約を締結し,正社員への登用にあたっても,職種及び勤務地の限定の合意は,正社員としての労働契約に黙示的に引き継がれたものと見ることができる。それゆえ,被告と原告らRAとの間の労働契約は,原告らの職務をRAとしての職務に限定する合意
を伴うものと認めるのが相当である。
(4)

被告の主張について
被告は,職種限定の労働契約とは,もし使用者が業務上の都合により労働者を就労させるべき当該職種の仕事がなくなれば雇用関係を終了させる意思をもって締結したものでなければならないとの前提に立つようである。しかし,職種を限定して労働契約を結ぶにあたって,当該職種の仕事がなくなるという自体を具体的に想定していることは,必ずしも多いとはいえず,労働者を就労させるべき当該職種の仕事がなくなれば雇用関係を終了させる意思の存在が,職種限定の合意を認める上での必要条件であるとは考え難い。したがって,被告の上記主張は理由がなく,採用することができない。


被告は,RA就業規則に配転条項が存在しており,逆にRAの職種や勤務地を限定する規定がないことを挙げて,職種限定の合意を否定する。しかし,配転条項の存在は,後記(争点(3))のように経営上の必要性との関係で配転がありうることを明示しているに過ぎないものと考えられるし,RA就業規則が独自に規定されていることからすると,職種を限定する規定のないことが職種限定の不存在に直結するものと評価することは困難である。
また,被告及び日動火災は,上記(2)ウのようにRAを独自に募集・採用し,同(2)カのとおり,配置転換権の行使としての異動,職種変更を行ったことは1例も見当たらず,RAに対して顧客との関係を断絶するような配転を行わないことに積極的な意義を見出していたものと考えられることからすると(上記(3)イ),勤務地を限定する規定がないのは,むしろそれを当然のこととしていたからであると考えるのが相当である。以上によれば,被告の上記主張は理由がなく,採用することができない。

被告は,契約係特別社員については,雇用契約書の記載を根拠に,職種
限定の従業員であることは認めつつも,契約係特別社員から正社員に登用するにあたっては,雇用契約書を作成せず,勤務場所と資格を記載しただけの辞令を交付するのみであることをもって,RAが労働契約上職種を限定されているものではないと主張する。
しかし,上記(3)エで判断したとおり,正社員登用に際して,職種及び勤務地の合意が黙示に引き継がれていると認めることができる本件にあっては,被告の上記主張は理由がなく,採用することができない。

被告は,RAが定年の60歳までの長期雇用を予定して採用されている以上,経営上の理由で職種の変更が必要となれば,RAは定年までの雇用を期待して,他職種への配転命令に従う前提で採用されたはずだと主張する。
しかし,上記被告の主張は,採用時に職種を限定して労働契約を締結したかどうかという問題と,職種限定で採用した労働者を入社後に職種変更することができるかという問題を混同するものということができ,失当というべきである。のみならず,RA制度の100年近い歴史の中で,被告又は日動火災の配置転換権の行使としての異動,職種変更が行われたことは1例も見当たらないのであって(上記(2)カ),60歳までの長期雇用であっても,定年まで同一の地域で保険募集の業務を行うことを期待する素地が存在し,現にそのような期待に基づき多くの者がRAを志望したこと(上記(2)エ)に照らすと,被告の上記主張は理由がないことが明らかである。


被告は,RAの業務内容自体に専門性が欠如していることも指摘する。しかし,一般に,業務の専門性が高い場合に職種限定の合意が結ばれることが多いということはできても,業務の専門性以外の見地から職種限定の合意をすることもあり得るところである。のみならず,上記(2)イ,ウ,オによれば,被告ないし日動火災は,RAについては,業務内容,勤務形
態及び給与体系に特殊性あるいは独自性が存在するため,内勤社員とは区別して募集・採用していたことが認められる。そうだとすると,被告ないし日動火災は,原告らとの間で,業務の専門性とは異なる見地から原告らと職種限定の合意を結んでいたと解することができる。したがって,被告の上記主張も理由がなく,採用することができない。

以上のとおり,職種限定の合意を否定する旨の被告の各主張はいずれも理由がなく,採用することができない。

3
争点(3)(RA制度を廃止して原告らを他職種へ配転することの正当性の有無)について
(1)

はじめに
労働契約において職種を限定する合意が認められる場合には,使用者は,
原則として,労働者の同意がない限り,他職種への配転を命ずることはできないというべきである。問題は,労働者の個別の同意がない以上,使用者はいかなる場合も,他職種への配転を命ずることができないかという点である。労働者と使用者との間の労働契約関係が継続的に展開される過程をみてみると,社会情勢の変動に伴う経営事情により当該職種を廃止せざるを得なくなるなど,当該職種に就いている労働者をやむなく他職種に配転する必要性が生じるような事態が起こることも否定し難い現実である。このような場合に,労働者の個別の同意がない以上,使用者が他職種への配転を命ずることができないとすることは,あまりにも非現実的であり,労働契約を締結した当事者の合理的意思に合致するものとはいえない。そのような場合には,職種限定の合意を伴う労働契約関係にある場合でも,採用経緯と当該職種の内容,使用者における職種変更の必要性の有無及びその程度,変更後の業務内容の相当性,他職種への配転による労働者の不利益の有無及び程度,それを補うだけの代替措置又は労働条件の改善の有無等を考慮し,他職種への配転を命ずるについて正当な理由があるとの特段の事情が認められる場合には,当該
他職種への配転を有効と認めるのが相当である。そして,当該正当な理由(以下正当性という。)の存否を巡って,使用者である被告は,①職種変更の必要性及びその程度が高度であること,②変更後の業務内容の相当性,③他職種への配転による不利益に対する代償措置又は労働条件の改善等正当性を根拠付ける事実を主張立証し,他方,労働者である原告らは,①採用の経緯と当該職種の特殊性,専門性,②他職種への配転による不利益及びその程度の大きさ等正当性を障害する事実を主張立証することになる。以下,本件を上記のような観点からみてみることにする。
(2)

認定事実
前記争いのない事実等,証拠(文章中,文末に掲記したもの)及び弁論の
全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

RA制度を廃止する必要性の有無及び程度
(ア)
a
損害保険業界の状況(乙18の1ないし3,同19)
平成8年4月,金融分野における国の規制緩和政策(金融ビッグバン)の一環として,保険業法が改正され,生命保険と損害保険の兼営が認められた。平成10年7月には,損害保険の分野で保険料率が自由化され,業界一律に適用されていた算定会料率の使用義務が廃止され,各社独自の料率設定が可能になった。さらに,平成12年以降,銀行・証券・保険の各金融業態間の相互参入の規制や保険商品の規制が緩和された。

b
こうした規制緩和の中で,損保各社間の競争は激化し,合併,経営統合が進んだ。平成13年3月以前に16社存在した主要損保各社は,平成15年8月の時点で8社にまで整理,統合された。平成16年10月に,東京海上と日動火災が合併して被告が成立したことをもって,損害保険業界の合従連衡は一段落したと見られていたが,外資の台頭と競争の激化の中で,さらなる再編を予測する見方も有力である。
c
損保各社は,経営統合に伴い,営業拠点やシステムの統合などによる物件費の削減,人事体系の変更・早期退職制度の導入などによる人件費の圧縮等により,事業費の削減という効果を得たが,平成15年度にはそれが一段落して,削減の速度に陰りが見え始めるようになった。

d
損保各社の主力商品である自動車保険については,保険料単価が下落し,契約件数の伸びが低迷するなど,国内市場の成長鈍化が鮮明になっており,これまでの高付加価値化の方向から一転して,低廉な保険料を指向する新たな価格競争が発生する危険が出てきており,業界を取り巻く環境は一層厳しくなるおそれがあると指摘されている。
(イ)
a
RA制度廃止の方針決定に至る被告の検討内容
被告は,平成17年2月ころから,管理会計の手法に基づき,RAチャネルの損益構造について分析を開始した。これは,日動火災時代には行われなかった分析方法であった。その結果,平成16年度(平成16年4月から同17年3月までの間)において,被告は会社全体で529億円の費差益が出ており,専業代理店,兼業代理店等の他のチャネルがいずれも費差益を計上する中,唯一RAチャネルのみが78億円の費差損を発生させたことが判明した。RAチャネルの費差損の内訳を見ると,付加保険料が総計191億円であるのに対し,手数料・経費の総計が270億円もかかっており,その差額78億円が費差損となっている。(乙23,27,30,証人P2【18ないし20頁】)
また,手数料・経費を既経過付加保険料で除した結果である費差指数は,全チャネル計で93.2%であるのに対し,RAチャネルの費差指数は141.0%であった。RAチャネルの手数料・経費の内訳を見ると,RA人件費が132億円(付加保険料に占める割合は69.
0%)と経費全体のほぼ半分を占めていることが判明した。(乙23,証人P2【19頁】)
手数料・経費の内訳を見ると,RA人件費に次いで内勤社員の人件費(77億円・40.2%),その他物件費(36億円・18.8%),不動産経費(17億円・8.7%)と続いている(乙23)。b
被告は,RAチャネルにおいて収支均衡を実現するために,RA人件費をどの程度削減する必要があるかを試算してみた。
まず,RA人件費以外の経費のうち,上記内勤社員人件費77億円を専業代理店チャネルと同水準の45億円まで引き下げ,他は現状と同水準とした場合,経費及び人件費の合計を付加保険料191億円の枠内に納めるためには,RA人件費を平成16年度の132億円より約35.5%低い85億円に抑える必要があることが判明した。また,人件費以外の経費についても見直す場合,機構・要員の面や不動産経費その他物件費について最大限の効率化を図り,RAと専業代理店の中間水準まで引き下げたとしても,RA人件費を平成16年度の132億円より約28.5%低い94億円に抑制する必要があることが判明した。(乙24)
結局,RAチャネルを収支均衡させるためには,RAの人件費を約3割削減する必要があるところ,RAの人件費は,年収1000万円の者で月例給が約84%,賞与が約16%の割合であるため,仮に約3割の人件費削減を達成するためには,賞与だけでなく,月例給の大幅削減まで踏み込むことが必要になることが判明した。(乙24,証人P2【20,21頁】)

c
被告は,RAチャネルの単年度の費差損益を分析したほか,平成17年度以降5年間のシミュレーションを行った。
まず,シミュレーションの前提となる,RAチャネルにおける付加
保険料の成長性については,RAチャネルの付加保険料の対前年比について,①年2%の成長,②年0%の成長,③年2%の低下の3パターンを設定した。RAチャネルにおける経費削減については,①内勤社員人件費を専業代理店チャネル並みに効率化し,不動産経費とその他物件費を専業代理店チャネルとRAチャネルの平均値まで効率化した場合,②契約係従業員の人件費以外の経費を平成16年度の現状のままとした場合,③上記①・②の中点まで効率化した場合の3パターンを設定した。
その結果,いずれのケースにおいても平成21年度に費差益が出ることはなく,最も楽観的なシミュレーションでも,RAの人件費を最低でも3割近く削減しなければ収支均衡水準に達しないことが判明した。(乙28,証人P2【22,23頁】)
d
被告は,RAの保険料収入拡大の方策についても検討した。しかし,RAの業務は,一人で自立完結させることを前提としているため,収入保険料の拡大に伴い成長が頭打ちとならざるを得ず,収支を均衡させるほど飛躍的に生産性を改善させることは困難である。実際にも,RAの収入保険料の総額及び会社全体に占める割合は,過去5年間は減少傾向が続いている。また,たとえRAの収入保険料の規模を拡大し得たとしても,比例給を中心とする現在のRAの給与体系においては,収入保険料の規模の拡大に応じて人件費も上がっていく仕組みになっており,RAの既得権を維持しながら収支を均衡させるのは非現実的で,将来に向かって経済合理性を解決するものとはならないと考えた。(乙11,証人P2【24ないし27頁】)

e
さらに,被告は,RAの希望退職者の募集についても検討したが,RA制度が維持されたままでは,退職者に見合った分だけ費差損の金額が減少するのみで,事業効率の改善が図られるわけではなく,抜本
的な対策とはなり得ないと考えられた(証人P2【24頁】)。
(ウ)
a
RA制度の見直しをめぐる被告と労働組合との交渉経過
日動火災は,平成16年3月3日,全損保日動外勤支部(当時)に対し,新会社における契約係社員制度の提案を行った。その後,同年5月12日に全損保を脱退した組合員らは,日動火災契約係従業員組合を結成した。日動火災は,同年7月23日,日動火災契約係従業員組合に対して,東京海上日動火災保険の契約係社員制度に係る再提案をした。この時の日動火災の提案は,契約係社員による不祥事が指摘されたことを受け,契約係社員に対するマネジメントルールやガバナンス態勢につき踏み込んだ改革を行うという方針に基づくものであった。(甲54,乙6)
また,日動火災は,平成16年7月,金融庁に対して,今後は現場に任せず会社として契約係社員制度の改善,是正にあたっていくことを内容とする業務改善計画を提出した(甲54,証人P2【72
頁】)。
なお,日動火災は,平成16年5月13日,原告らが所属する全損保日動外勤支部(一部組合員の上記脱退後のもの)から団体交渉の申入れがされた際,既に組合員が全損保を脱退したことにより外勤支部という労働組合は存在しないものと認識していたため,従前の全損保日動外勤支部との同一性を明確にするよう求め,団体交渉には応じなかった。そして,東京海上との合併後の平成16年10月27日に,初めて,原告らが所属する全損保日動外勤支部(一部組合員の上記脱退後のもの)と団体交渉を行った。(弁論の全趣旨)

b
日動火災と東京海上の合併後,被告は,平成17年1月14日の中央労使協議会において,新会社におけるRAのあり方についての論議の場として,RA制度専門部会を設置し,東海日動労組との間で,
同年1月20日,3月29日及び5月9日の3回にわたり同部会を開催した(乙20,21の1ないし3)。
第1回のRA制度専門部会(平成17年1月20日開催)では,論議・検討の視点として,RAの社員としての役割を明らかにした上で,RAの生産性の向上と,働きがい・生きがいの両立を可能とするRA制度,人事運営のあり方に焦点を当て,積極的な論議・検討を行うこととした。そして,同部会は,RAの役割,評価・処遇体系,選択型人事制度,退職金・年金制度,能力開発体系,直販制度のあり方等をテーマとして設定した。その他,RA制度の在り方を検討する上で,収益性,成長性等を分析,検証することを業務改善計画の中で約していることから,今後の検討に際して,管理会計データに基づく詳細な検証とこれを踏まえた論議が必要であり,平成17年2月末に用意できる新会社での管理会計データの内容についてRA制度専門部会で評価したいとの意見が出された。(乙21の1)
第2回のRA制度専門部会(平成17年3月29日開催)では,平成16年12月末時点でのチャネル別損益管理データが資料として配付され,RAチャネルに対する管理会計データに基づく初めての分析が行われた。ここでは,RAチャネルの費差指数が127.6%を示していることが指摘された。この日の議論では,RAには会社施策を着実に実行する高い専門性を持つプロフェッショナルとして会社に大いに貢献してもらうことが期待されており,チャネル全体として経済的損失を与えていることについては,RAに期待される役割と処遇制度のミスマッチを改善すること等の対応が必要であること,RA制度の検討における最重要課題は倫理性,コンプライアンスの観点であるという点が確認された。その上で,RAに対する評価・処遇体系について,特に固定的給与,比例的給与のあり方を中心に検討が行われた。
(乙21の2)
第3回のRA制度専門部会(平成17年5月9日開催)では,第2回の専門部会に引き続き,RAに対する評価・処遇体系,特に人事考課及び資格制度のあり方について検討が行われた(乙21の3)。c
被告は,平成17年6月28日,第1回縮小労使協議会を開催し,東海日動労組に対し,契約係従業員の不祥事が後を絶たないこと,費差損益などの事業効率を評価する指標の全てにおいてRAチャネルが専業代理店に比較して劣後していること,平成16年度末時点のRAチャネルの経済合理性について,費差指数が約140%,費差損が約80億円を計上していること等を説明した。その上で,被告は,東海日動労組に対し,RA制度のあり方について,制度の存廃も含め抜本的に見直し,今後の方向性についての判断を固める期間を設けたいので,RA制度専門部会を一時中断したいと申し入れた。(乙22の1)
被告と東海日動労組は,第2回縮小労使協議会(平成17年7月14日開催),第3回縮小労使協議会(同年8月12日開催)及び第4回縮小労使協議会(同年9月22日開催)で,RAチャネルの収益性や,RA制度の抜本的見直しについて論議した(乙22の2ないし4)。
第2回から第4回までの縮小労使協議会の中で,東海日動労組は,これまで被告が指摘する経済合理性等の問題も認識しつつRA制度の存続を前提にした改善策を論議していたのに,その前提を覆すような話を持ち出すことについて反発を示した。被告は,これまでRA制度存続を前提に論議していたが,コンプライアンス,収益性,チャネル戦略の面で当初の想定を超える大きな課題が顕在化したことから,RA制度存続の前提が崩れた等の説明をした。しかし,東海日動労組は
被告の説明に納得しなかった。(乙22の1,2)
d
被告は,同年10月7日の第5回縮小労使協議会において,東海日動労組に対し,RA制度の廃止,代理店等への転進募集等を内容とする本件大綱提案を通知した。これに対し,東海日動労組は,RA制度廃止の前提に承服しかねるので本件大綱提案の具体的な内容を聞くつもりはないとして,縮小労使協議会の場を退席した。その後,被告と東海日動労組は,5回にわたる縮小労使協議会と,RA制度に関わる中央労使協議会において協議したが,東海日動労組は被告の提案に納得できないとして,団体交渉への移行を通告した。被告と東海日動労組は,平成17年11月28日以降,5回にわたる団体交渉を実施した結果,東海日動労組は団体交渉をいったん収束し,継続雇用時の労働条件の詳細について,専門部会,労使協議の場で協議し検討を進めるとの方針を示し,同年12月20日,リスクアドバイザー制度の発展的解消に係る転進協定を締結した。その後,被告と東海日動労組は,継続雇用制度の基本的枠組等に関して専門部会を設け論議を続けた結果,平成18年5月30日に中間答申をまとめ,被告が同年6月8日にRAからの継続雇用者に関わる人事制度(大綱提案)を
提案し,東海日動労組が同年9月26日に同提案につき了承して合意に至った。(乙22の5,同38,40,44ないし47)

(エ)

RA制度の現状
前記争いのない事実等(4)イのとおり,既にRAの大半が転進に応じ
被告を退職し,また,被告がRAの専任支社を廃止した影響などから,現時点におけるRAチャネルの費差損は10億円以下に減少したものと予想されている(証人P2【77頁】)。

他職種に変更された場合の原告らの業務内容
前記争いのない事実等(3)イ(ウ)a及び弁論の全趣旨によれば,次の事実
が認められる。
(ア)

原告らは,平成19年7月1日以降,被告においてRA制度が廃止
された場合,被告において引き続き継続雇用を希望している。
(イ)

被告が,RA制度廃止後に,継続雇用を希望する現在RAの者に提
示している業務内容は,①代理店やグループ会社等へ出向しての保険募集業務,②代理店の新設,指導,育成,督励,監査及びこれに関連する職務,③各種事故相談並びに査定業務及びこれに関連する業務である。そして,被告は,継続雇用者の職務能力,経験,適性と会社のポスト戦略を踏まえて配置する方針である。
(ウ)

前記①の業務は,既存の保険契約はパートナーズ代理店に移管され,
RAは当該保険契約を引き続き担当するほか,従前どおりの保険の募集活動に従事するので,業務の内容にはほとんど変更がない。前記②の業務は,従前からRAの業務の一部であり,かつ,従前のRAの業務と密接な関係を有する。前記③の業務は,従前のRAの業務とは異なる。ウ
RA制度を廃止した場合の原告らの不利益の有無及びその程度等
被告が平成19年7月1日以降RA制度を廃止した場合に,RAからの職種変更に伴う継続雇用後の原告らの労働条件として示しているところは,前記争いのない事実等(3)イ(ウ),前記2(3)エ及び弁論の全趣旨によれば,次のとおりであることが認められる。
(ア)

継続雇用後の人事考課と賃金について(前記争いのない事実等(3)イ
(ウ)bないしe及び弁論の全趣旨)
RA制度廃止初年度は,継続雇用者に対して,平成18年度の年間総収入を保障し,翌年度以降は,平成18年度の月例給の合計額を最低保障する。コンピテンシー評価が中等のBランクであれば,従前の2倍の保険料収入を得ることで,従前の収入を維持することができる。
被告は,原告らのうち44名について,コンピテンシー評価Bランク,
業績評価11ランク(

手数料収入が年収以下であった。もしくはそれに準ずる収益面等での組織への貢献に留まった。

)と仮定した上での継続雇用後5年間の収入推移のシミュレーションを別紙5で示しているところ,制度廃止初年度で定年退職する原告P11を除き,原告らの収入は約9%から17%程度の減額となる。
原告らRAがパートナーズ代理店に出向した場合,現在の原告らの保険料収入を前提にすると,全員が業績評価で最低の11ランクとなる。(イ)

継続雇用後の勤務地について
原告らのRAとしての雇用契約は,前記2(3)エのとおり,RAとい
う職種とともに勤務地についても限定された契約であるところ,原告らの継続雇用後の勤務地について,被告からは特に主張立証がない状況にある(弁論の全趣旨)。
しかし,前記争いのない事実等(3)イ(ウ)dのとおり,継続雇用後の賃金体系には別居手当が含まれていることからすると,転居を伴う異動もあり得ることが当然の前提であると認めることができる。

採用の経緯とRAの職種の特殊性等
被告のRA賃金体系,募集,採用の態様,業務内容,原告らがRAとなった志望動機等は前記2(2)イないしエで認定したとおりである。前記認定事実に照らすと,原告らと被告との間の労働契約は,RAという職種に限定した契約であると認定することができるが,限定の根拠は,RAに高い専門的知識,能力等が要求されていることではなく,RAは顧客との永続的な信頼関係を基盤とするため転勤がなく,職場外での業務が多いためみなし労働時間制を採る必要があること,個々のRAの業績が給与支給額に反映される歩合給に近い給与体系であること等RAの特殊性・独自性にある。そして,原告らは,このようなRAの特色が好きで被告のRAとして入社し,仕事を継続している。


その他の代償措置等
弁論の全趣旨によれば,被告が原告らRAに対し提示しているRA制度廃止に伴い継続勤務を希望する従業員に対し提示している代償措置は前記ウだけであり,原告らの収入減を補うような労務の軽減等の代償措置を提示している等の主張立証はなされていない状況にあることが認められる。
(3)

判断


前記争いのない事実等,前記(2)の認定事実を踏まえて,職種変更につ
いて正当性が認められるか否かについて判断することにする。被告は,RA制度を廃止しそれに伴い原告らRAの職種を変更する高度の必要性があり,また,変更後の職種の内容も相当であるとして,職種変更について正当な理由があると主張しているので,まず,最初にこれら被告の正当性を根拠付ける事実の存否等について検討することにする。

RA制度廃止の必要性について
(ア)

今日の損害保険業界の状況を見ると,平成13年以降,一気に進ん
だ経営統合に伴う経費削減効果は一段落した一方,飽和状態ともいえる国内市場において大幅な成長を期待することは難しく,さらなる経営統合や外資の進出の動きもある中で,企業間競争の激化という厳しい情勢にある(前記(2)ア(ア))。そのような損害保険業界において,被告は,2位以下に圧倒的な格差を付けるリーディングカンパニーとしての地位を誇ってはいるものの,上記のような損保業界の情勢に照らしてみると,外資の進出も含めて被告の優位が絶対的で安泰なものであるとまではいえず,業務の効率性を高め,収益を拡大し,経営体力を一層高めるための企業努力をしていくことが求められているのは理解できるところである(前記争いのない事実等(1)ア,前記(2)ア(ア),弁論の全趣旨)。(イ)

被告は,管理会計の手法に基づき,RAチャネルの収益性につき分
析した結果,費差損が78億円を計上し,費差指数が141%を記録し
ており,RAの人件費の高さがその主たる要因となっている等の事実を認識し,これを契機として,それまで専門部会等で展開されていたRA制度の存続を前提とする検討を中止し,その存廃も含めた検討に入った。管理会計の手法に基づいてRAチャネルの損益の実態を把握することは,RA制度のあり方を含めた被告の経営計画の策定のために有用な方法であると考えられ,その上で,被告は,楽観的なものから悲観的なものまで,現実的に想定される場合をシミュレートし,それらの分析に加え,過去のRAの収入保険料の実績をも考慮した上で,RA制度を維持したままその収益性を高めることは困難であり,廃止やむなしとの結論に至っている(前記(2)ア(イ),(ウ),弁論の全趣旨)。
(ウ)

被告においては,収益の源泉を危険差損益・費差損益・利差損益の
三利源の概念で区分して管理しており,費差益は被告にとっての収益の源泉として重要な位置を占めているものと考えられる。また,今日の我が国における損保業界においては,国内市場の成長性に陰りが見られる一方で,経営統合の効果としての経費削減も一段落している中,被告を含む損保各社が収益の拡大を図ろうと競争をしている状況にある。このような状況下で,平成16年度における他のチャネルが費差益を計上する中,RAチャネルのみが費差損を生じており,しかもその額が78億円に上っていることを認識した被告が,早急に費差損の解消を図るべく,RA制度の存廃を含めて抜本的な見直しに着手したことには合理的な理由があり,RAの大量退職によりRAチャネルの費差損が10億円以下に減少したと予想される現在においても,変わるところはないというべきである。(前記(2)ア(ア),(イ),(エ),乙26,弁論の全趣旨)(エ)

以上の諸点を考慮すると,被告のRA制度廃止の決断は,RAチャ
ネルの管理会計に基づく分析等の客観的情報を踏まえつつ,RA制度の存続の可能性も探った末の結論であり,その判断過程や判断内容に特段
不合理な点は見当たらない。そうだとすると,被告がRA制度を平成19年6月30日限りで廃止し,原告らの職種変更を行うことには,経営政策上,首肯し得る高度の合理的な必要性があるものと認めるのが相当である。

RA制度廃止の必要性に関する原告らの反論について
(ア)

原告らは,被告が盤石の経営基盤を有しており,単に経済合理性に
かなうというだけで,RA制度を廃止する高度の必要性があるとは認められないと反論する。しかし,今日の我が国の損保業界の情勢からして,RA制度の廃止には,単に経済合理性にかなうことにとどまらない,経営政策上首肯しうる高度の合理的な必要性が存在することは上記イで判示したとおりであり,この点の原告らの上記反論は採用することができない。確かに,RA制度を廃止しなければ,被告が直ちに経営危機に陥るような事情はおよそ認められないが,そのような状況に陥るまでは,いかに経済的に損失を生じさせる制度であっても被告においてこれを維持しなければならない義務はない。
(イ)

原告らは,管理会計上のデータをRAの労働条件の不利益変更の論
拠とすること自体が誤りであるとか,そのようなデータのみから制度廃止の結論を導くのは誤りであるなどと反論する。しかし,管理会計の手法に基づく分析の結果として,労働者の労働条件変更の必要性を導くことが,経営計画の策定の参考に資するものという管理会計の本来の趣旨に反するとは考え難いし,被告はシミュレーションを行うなどしてRA制度の存続の可能性も検討していることからすると,管理会計に基づく分析の結果のみから直ちにRA制度廃止の結論を導いたわけではないことは明らかである。よって,原告らの上記反論は理由がなく,採用することができない。
(ウ)

その他,原告らは,被告はRAチャネルのコストも織り込んだ全社
の経費を前提に付加保険料率を定めており,RAチャネルのみの費差損を制度廃止の論拠とするのは不合理であること,被告にはRAチャネルを抱えても巨額の費差益を得るだけの体力があるから制度廃止の必要はないこと,従業員であるRAと代理店とで効率に差があるのは当然で,比較すること自体無意味であるし,平成16年度管理会計データを前提に独自の試算をし,RAの人件費を削減することなくRA制度を存続させることが可能であること,原告らは,既にRAの数の減少によってRAチャネルの費差損は改善しており,RA制度廃止の必要性は低くなっているなどをもって,RA制度を廃止する高度の必要性はないと反論する。
しかし,これらの原告らの反論は,被告の経営政策上の判断にかかる事項を主として原告らの利益擁護の面から議論するものであり,これらの各反論をもってしても,被告がRA制度を廃止する高度の必要性がないことや,廃止の高度の必要性が原告らの既得権益に比較し得べくもないことには必ずしも結びつかないというべきであり,この点の原告らの上記反論は,採用することができない。
(エ)

さらに,原告らは,RA制度に関する交渉の当初は被告もRA制度
の存続を前提にしており,RAチャネルの費差損の数値が開示された当初においても同様であったのが,急に費差損を理由にRA制度を廃止する方向に転換した経緯から,費差損の数値はRA制度廃止の必要性を基礎づけない旨反論する。ここで原告らが指摘する点は,被告がRA制度廃止という結論ありきで検討を進めていたのではないかということにあると思われるところ,確かに,平成17年3月29日の第2回RA制度専門部会で,平成16年12月末までのデータに基づくRAチャネルの費差指数が127.6%であることが判明した時点では,RA制度の存廃を論ずる動きは全く現れなかった(前記(2)ア(ウ)b)。しかし,被告
は,RAチャネルの費差損の数値を得て直ちに制度の廃止を検討したわけではなく,その後もシミュレーション等に基づき制度存続の可能性も視野に入れて検討していたことが認められる(前記(2)ア(イ))。そうだとすると,シミュレーション等に基づきRA制度存続が可能か否かの検討結果が出る前に,被告において,従前の議論の前提を覆して,RA制度の存廃を含めた検討を開始するとの姿勢を示すことはできなかったと考えることもできる。以上によれば,原告らの指摘は当たらないものというべきであり。この点の原告らの上記反論は採用することができない。エ
他職種に変更された場合の原告らの業務の相当性
(ア)

前記2(2)オ(ア)によれば,原告らRAが現在従事している業務内容
は,戸別訪問による損害保険の募集業務がその大半を占めていること,以前は,その他に付随的な業務として,代理店の新設・育成・指導・管理業務等の業務も行っていたことが認められる。そして,上記(2)イによれば,被告が,RA制度廃止後に,継続雇用を希望する現在RAの者に提示している業務内容は,①代理店やグループ会社等へ出向しての保険募集業務,②代理店の新設,指導,育成,督励,監査及びこれに関連する職務,③各種事故相談並びに査定業務及びこれに関連する業務であること,そして,被告は,継続雇用者の職務能力,経験,適性と会社のポスト戦略を踏まえて配置する方針であることが認められる。また,上記(2)イによれば,前記①の業務は,既存の保険契約はパートナーズ代理店に移管され,RAは当該保険契約を引き続き担当するほか,従前どおりの保険の募集活動に従事するので,業務の内容にはほとんど変更がないこと,前記②の業務は,従前からRAの業務の一部であり,かつ,従前のRAの業務と密接な関係を有すること,前記③の業務は,従前のRAの業務とは異なることが認められる。
(イ)

以上によれば,被告が原告らRAに対しRA制度廃止後に継続雇用
を希望している者に提示している業務内容は,前記①及び②の業務は原告らRAのこれまでの知識,経験を活かすことができる業務内容といえ,また,前記③の業務もこれまでのRAの業務とは異なるものとはいえ,損害保険に関連する業務であるということができる。そうだとすると,被告がRA制度廃止後に原告らに担当させることになる業務は,長年RAとしての業務に専念してきた原告らに担当させる業務として,不適当なものであると認めることはできない。

被告の職種変更について正当性についての立証
上記イないしエによれば,被告は,RA制度を廃止しそれに伴い原告らRAの職種を変更することについて,経営政策上首肯し得る高度の合理的な必要があること,被告が原告らRAに対しRA制度廃止後に継続雇用を希望している者に提示している業務内容はこれまでの経験,知識を活かすことのできる業務であって不適当なものとはいえないことを立証することができている。そうだとすると,原告らにおいて,RA制度廃止に伴う不利益が大きい等の正当性を障害する事実を立証することができない限り,被告の職種変更についての正当性を認めることになる。そこで,以下では,RA制度廃止に伴う不利益の大きさ等の正当性を障害する事実の存否等について検討することにする。


RA制度廃止に伴う原告らの不利益及びその程度等
(ア)

収入面の不利益
被告は,RA制度廃止初年度に限っては,平成18年度の年間総収入
を保障する方針であるから(前記(2)ウ(ア)),原告らのうち,RA制度廃止初年度に定年退職する原告P11については,継続雇用後の賃金面での不利益はないことが認められる(なお,RA制度が存続しても,原告P11が60歳定年後に契約係嘱託として再雇用される蓋然性が高いと認めるに足りる証拠は存在しない。)。

しかし,RA制度廃止2年度目以降についてみると,人事考課に基づく業績給の変動の基準(別紙4)によれば,原告らが毎年コンピテンシー評価で毎年中等のBランクの評価を受け,かつ,年収の1.4倍以上の手数料収入(又はそれに準ずる収益面での組織への貢献)を得て業績評価6ランクの評価を受けて,ようやく従前の水準の業績給を受けることができるに過ぎず,業績評価で6ランクに達しない場合には,必ず業績給は従前の水準よりも減額されることが明らかである(前記(2)ウ(ア))。しかも,業績評価6ランクの条件である年収の1.4倍の手数料収入を上げるためには,従前RAとして得ていた保険料収入の2倍の保険料収入を上げなければならない(弁論の全趣旨)。
(イ)

ところで,証人P2は,代理店に出向すると,アプローチすること
のできるマーケットが大幅に広がること,業務プロセス面で大幅な効率化を図ることができることから,2倍の保険料収入を得ることは可能だと証言する(証人P2【37ないし38頁】)。
しかし,上記P2証言は,具体的な裏付けのない個人的憶測にとどまる上,前記(2)ア(ア)のとおり,国内の損保市場の成長が鈍化し,競争が激化している今日の状況下で,単に代理店に出向したのみで原告らRAが従前の2倍の保険料収入を得ることは,常識的に考えても容易なことではないと考えられる。また,自身も損保会社の従業員である証人P3も,2倍の営業収入を上げることなどできるわけがない旨証言していること(第7回証人P3【2頁】)にも照らすと,証人P2の上記証言は採用することができない。
(ウ)

さらに,上記エ及び弁論の全趣旨によれば,原告らがRA制度廃止
後に行う業務は,現在の業務と類似し又は関連性を有するとはいえ,これまでRAは自己完結的に業務を行い,契約募集等の実績に基づいて評価を受けていたのであり,代理店に出向して組織の一員としての役割を
果たしているかという観点から人事考課を受けるのは初めてのことになる。そうすると,原告らがコンピテンシー評価で中等のBランクの評価を受けることが容易であると認めることも困難というべきである。(エ)

その他,本件全証拠を検討するも,原告ら(原告P11を除く。)
がRA制度廃止に伴い他職種に変更された場合,RAとして働いていた当時の収入を維持することが現実的に可能であると認めるに足りる証拠は存在しない。
(オ)

以上から明らかなとおり,実際の原告らの収入額は,RA制度廃止
に伴い,別紙5の試算よりもさらに減額幅が大きい形で推移する可能性が認められる。また,本件全証拠を検討するも,原告ら(原告P11を除く。)がRA制度廃止2年度目以降,従前の水準の収入を維持することが可能であると認めるに足りる証拠はなく,むしろ減額は不可避であると認められ,その減額の程度は,原告らがコンピテンシー評価でBランクの評価を受けるという楽観的な前提に立っても,約9%から17%を下ることはなく,現実的には,さらに大幅な減額の可能性も否定することができないということができる。
(カ)

転勤についての不利益
前記のとおり,原告らRAは転勤のない職種であったところ,前記
(2)ウ(イ)のとおり,原告らの継続雇用後の賃金体系に別居手当が含まれていることからすると,職種変更後の原告らには転居を伴う異動もあり得ることになり,原告らの志望動機やRAとして就職した経緯(前記2(2)エ)に照らして生活上の不利益が大きいものといわざるを得ない。キ
その他の考慮事実
職種変更についての正当性を考慮するその他の要素としては,採用の経緯とRAの職種の特殊性等がある。しかし,本件についてみると,日動火災が原告らを採用する際に,いかなる事態が生じても職種変更はしないと
いうような絶対的な職種限定の合意をしたとまでは認められないし,前記(2)エで認定したとおり,RAの職種限定の根拠は,RAに高い専門性が求められているなどといったことではなく,顧客との永続的信頼関係を基盤としていること等といったRAの特殊性・独自性にあることからすると,RAを他の職種に配置すること自体が不相当であるとまではいえない。これらの事情に照らすと,本件において,採用の経緯とRAの職種の特殊性等を,職種変更についての正当性を障害する事実と評価するのは困難である。
また,被告において,原告らRAの不利益を緩和するための措置としては基本的には前記カ(ア)の収入減を緩和する措置だけであり,労務の軽減等の代償措置についての主張立証がないことは前記(2)オでみてきたとおりである。

まとめ
以上の検討結果によれば,被告がRA制度を廃止して原告らを他職種へ配転することに,経営政策上,首肯しうる高度の合理的な必要性があること及び他職種の業務内容は不適当でないことが認められる。しかし,他方で,RA制度の廃止により原告らの被る不利益は,原告P11を含む原告らの生活面においては職種限定の労働契約を締結した重要な要素である転勤のないことについて保障がなく,原告P11を除く原告らの生活の基礎となる収入の将来的な不安定性が予想され,とりわけ職種変更後2年目以降は,月例給与分が保障されるのみで賞与相当分につき大幅な減収となることが見込まれる。そうだとすると,被告が原告らに提示した新たな労働条件の内容をもってしては,RA制度を廃止して原告らの職種を変更することにつき正当性があるとの立証が未だされているとはいえない現状にある。
以上によれば,原告らと被告との間で職種を限定する合意が認められ,
原告らが他職種に転進することに同意をしていない本件にあっては,現時点で職種変更につき正当性が認められるような特段の事情が立証されていない以上,被告の主張は理由がないということになる。
4
結論
以上の検討から明らかなとおり,平成19年7月1日以降のRAとしての地位の確認を求める原告らの本訴請求はいずれも理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第36部

裁判長裁判官

難波孝一
裁判官

福島政幸
裁判官

別所卓郎
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